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○社会福祉法に基づく市町村における包括的な支援体制の整備に関する指針

(平成二十九年十二月十二日)

(厚生労働省告示第三百五十五号)

社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)第百六条の三第二項の規定に基づき、社会福祉法に基づく市町村における包括的な支援体制の整備に関する指針を次のように定め、平成三十年四月一日から適用することとしたので、同項の規定により、公表する。

社会福祉法に基づく市町村における包括的な支援体制の整備に関する指針

地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律(平成二十九年法律第五十二号)により、社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号。以下「法」という。)の一部が改正され、市町村(特別区を含む。以下同じ。)は、地域住民、社会福祉を目的とする事業を経営する者及び社会福祉に関する活動を行う者(以下「地域住民等」という。)並びに地域生活課題の解決に資する支援を行う関係機関(以下「支援関係機関」という。)による地域福祉の推進のための相互の協力が円滑に行われ、地域生活課題の解決に資する支援が包括的に提供される体制を整備するよう努めるものとされた。具体的には、市町村は、法第百六条の三第一項各号に掲げる施策の実施を通じ、包括的な支援体制の整備を推進することとなる。また、地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律(令和二年法律第五十二号)により、法の一部が改正され、地域福祉の推進に係る理念の明記(法第四条第一項)並びに国及び地方公共団体の責務の明確化(法第六条第二項及び第三項)に加えて、地域生活課題の解決に資する包括的な支援体制を整備するための重層的支援体制整備事業(法第百六条の四第二項に規定する重層的支援体制整備事業をいう。以下同じ。)が創設された。この重層的支援体制整備事業は、法第百六条の三第一項各号に掲げる施策の具体化を図る一事業として位置付けられている。本指針は、当該施策及び重層的支援体制整備事業の適切かつ有効な実施を図るため、その施策及び事業内容、留意点等を示すものである。

なお、法第百六条の三第一項各号に掲げる施策、とりわけ同項第一号に掲げる施策についてはこれまでも様々な取組が実施されてきたと考えられるが、当該既存の取組も含めたそれぞれの取組について、いわば「点」として個々に実施するのではなく、いわば「面」としてそれぞれを連携させて実施していく必要があることに留意されたい。また、第二から第四までの内容については、地域において必要となる機能・取組を示すものであり、それらを同一の機関が担うこともあれば、別々の機関が担うこともあるなど、地域の実情に応じて様々な方法が考えられる。市町村における包括的な支援体制の整備については、地域の関係者が話し合い、共通認識を持ちながら計画的に推進していくことが求められるが、その際、市町村地域福祉計画の策定過程を活用することも有効な方策の一つである。市町村地域福祉計画を策定する際には、「地域共生社会の実現に向けた地域福祉の推進について」(平成二十九年十二月十二日付け子発一二一二第一号・社援発一二一二第二号・老発一二一二第一号厚生労働省子ども家庭局長、社会・援護局長及び老健局長通知。第五の三において「策定ガイドライン」という。)の内容を十分踏まえることが必要であることに留意されたい。

第一 地域福祉の推進の理念

地域福祉の推進は、地域住民が相互に人格と個性を尊重し合いながら、参加し、共生する地域社会の実現を目指して行われなければならない。この「地域共生社会」の理念は、高齢者介護、障害福祉、児童福祉、生活困窮者自立支援等の制度・分野の枠や、「支える側」と「支えられる側」という従来の関係を超えて、人と人、人と社会がつながり、そのつながりの中で相互に人格と個性を尊重し合い、共に暮らしていくことのできる包摂的な社会を目指すものである。このような社会の実現を通じて、一人ひとりが尊厳を保持し、社会との関わり方について自ら選択することのできる自律的な生が達成されることとなる。

各市町村は、包括的な支援体制の整備を図るに当たり、対人支援を担う社会福祉分野等の専門職が、特定の課題の解決に向けた支援にとどまらず、本人やその世帯とつながり続ける支援を意識することを後押しすることや、地域住民の関係性を育んでいく取組において、地域活動や居場所その他の地域のつながる場が創出されやすくなることを意識した環境整備に取り組むことにより、重層的なセーフティネットを構築することが重要である。また、都道府県による各市町村の取組への支援においても、同様の観点に立って支援を行うことが求められる。

第二 地域福祉に関する活動への地域住民の参加を促す活動を行う者に対する支援、地域住民等が相互に交流を図ることができる拠点の整備、地域住民等に対する研修の実施その他の地域住民等が地域福祉を推進するために必要な環境の整備に関する施策

一 施策内容

市町村は、「住民に身近な圏域」において、地域住民等が主体的に地域生活課題を把握して解決を試みることができる環境を整備するため、次の取組等を実施する。

1 地域福祉に関する活動への地域住民の参加を促す活動を行う者に対する支援

地域住民が地域生活課題を自らの課題として主体的に捉え、解決を試みることができるよう、地域住民、地縁組織その他地域づくりに取り組む組織等の地域の関係者に対して、必要な働きかけや支援を行う者の活動の支援を行う。

2 地域住民等が相互に交流を図ることができる拠点の整備

地域生活課題を早期に発見し、適切な対応を行うため、地域住民等が気軽に交流を図ることができる場や、地域住民と社会福祉分野等の専門職が話し合う場ともなる地域住民の活動拠点の整備を支援する。

3 地域住民等に対する研修の実施

地域生活課題に関する学習会の実施等を通じ、地域住民等の地域福祉に関する活動に対する関心の向上及び当該活動への参加を促すとともに、当該活動を更に活性化させる。

二 留意点

一の「住民に身近な圏域」とは、地域の実情に応じて異なると考えられ、地域で協議して決めていく過程が必要である。例えば、小学校区域、合併や統廃合で小学校区域が大きくなっている地域では自治会単位など、地域によって異なってくるものと考えられる。

また、地域の課題を地域で解決していくためには、そのための財源についても考える必要があり、地域づくりに資する事業を一体的に実施するなど各分野の補助金等を柔軟に活用していくことや、共同募金によるテーマ型募金、クラウドファンディング、ソーシャル・インパクト・ボンド等を取り入れていくことも考えられる。

第三 地域住民等が自ら他の地域住民が抱える地域生活課題に関する相談に応じ、必要な情報の提供及び助言を行い、必要に応じて、支援関係機関に対し、協力を求めることができる体制の整備に関する施策

一 施策内容

市町村は、地域活動を通して把握された地域住民が抱える地域生活課題に関する相談について、包括的に受け止め、情報提供や助言を行うとともに、必要に応じて支援関係機関につなぐことのできる体制を整備するため、次の取組を実施する。

1 地域住民の相談を包括的に受け止める場の整備

「住民に身近な圏域」において、地域住民の相談を包括的に受け止める場を整備する。地域住民の相談を包括的に受け止める場については、地域住民のボランティア、市町村社会福祉協議会の地区担当、地域包括支援センター、障害者の相談支援事業所、地域子育て支援拠点、利用者支援事業(子ども・子育て支援法(平成二十四年法律第六十五号)第五十九条第一号に規定する事業をいう。第五の一の2において同じ。)の実施事業所等の福祉各制度に基づく相談支援機関、社会福祉法人、NPO等が担うことが考えられるが、地域の実情に応じて協議し、適切に設置する必要がある。

2 地域住民の相談を包括的に受け止める場の周知

「住民に身近な圏域」において地域住民の相談を包括的に受け止める場の名称、所在地、担い手、役割等を明確にするとともに、地域住民等に広く周知する。

3 地域の関係者等との連携による地域生活課題の早期把握

民生委員・児童委員、保護司等の地域の関係者、関係機関等と連携し、地域生活課題を抱えながらも相談に来られない者や自ら支援を求めることができない者について、地域住民の相談を包括的に受け止める場が把握できる体制を整備する。

4 地域住民の相談を包括的に受け止める場のバックアップ体制の構築

「住民に身近な圏域」において地域住民の相談を包括的に受け止める場のみでは解決が難しい地域生活課題については、法第百六条の三第一項第三号の支援体制と連携・協働し、適切な支援関係機関につなぐことにより、課題解決を行うことができる体制を整備する。

二 留意点

一の「住民に身近な圏域」については、第二の二で述べたとおりである。

また、「住民に身近な圏域」において地域住民の相談を包括的に受け止める場の運営を地域住民が担う場合には、ソーシャルワーカーによる支援が受けられる体制を整備する必要があり、地域包括支援センター等の支援関係機関が対象者を限定せず、地域住民の相談を包括的に受け止める場を担う場合には、自らの専門分野に偏ることなく横断的に相談を受け止めることや、相談者が抱える課題だけでなく、その者の属する世帯全体の抱える課題や近隣住民との関係等その世帯全体を取り巻く環境も含めて課題を捉えること等に留意する必要がある。

なお、地域住民の相談を包括的に受け止める場の整備を進めるに当たっては、分野を超えた課題に対応するため、地域づくりに資する事業を一体的に実施するなど各分野の補助金等の柔軟な活用も有効であると考えられる。

第四 生活困窮者自立支援法(平成二十五年法律第百五号)第三条第二項に規定する生活困窮者自立相談支援事業を行う者その他の支援関係機関が、地域生活課題を解決するために、相互の有機的な連携の下、その解決に資する支援を一体的かつ計画的に行う体制の整備に関する施策

一 施策内容

市町村は、「住民に身近な圏域」において地域住民の相談を包括的に受け止める場等では対応が難しい複合的で複雑な課題、制度の狭間にある課題等を受け止める相談体制を整備するため、次の取組を実施する。

1 支援関係機関によるチーム支援

複合的で複雑な課題の解決のためには、専門的・包括的な支援が必要であり、市町村域における支援関係機関等で支援チームを編成し、協働して支援する。その際、協働の中核を担う機能が必要であり、例えば、生活困窮者自立支援制度における自立相談支援機関や地域包括支援センター、基幹相談支援センター、社会福祉協議会、社会福祉法人、医療法人、NPO、行政等の様々な機関が担うことがあり得るが、地域の実情に応じて協議し、適切な機関が担うことが求められる。

2 支援に関する協議及び検討の場

支援関係機関で構成される支援チームによる個別事案の検討の場等については、既存の場の機能の拡充や、協働の中核を担う機関の職員が既存の場に出向いて参加する方法のほか、新たな場を設ける方法も考えられる。

3 支援を必要とする者の早期把握

「住民に身近な圏域」において地域住民の相談を包括的に受け止める場や、民生委員・児童委員、保護司等の地域の関係者、関係機関等と連携し、複合的で複雑な課題を抱え、必要な支援につながっていない者を早期に把握できる体制を構築することが必要である。

4 地域住民等との連携

複合的で複雑な課題を抱えた者への支援に当たっては、公的制度による専門的な支援のみならず、地域住民相互の支え合いも重要であり、地域住民、ボランティア等との連携・協働も求められる。

二 留意点

誰もが役割を持ち、活躍できる地域共生社会の実現に向けては、これまで「支えられる側」であった人が、「支える側」にも変化し、年齢や属性、状態像にかかわらず、その人らしく生活できる地域をつくっていく視点が重要であり、そのためには、福祉分野と福祉以外の分野との協働を通じた、働く場や参加する場の創造に向けた取組が求められる。

また、支援関係機関等の協働による支援体制の整備を進めるに当たっては、分野を超えた課題に対応するため、地域づくりに資する事業を一体的に実施するなど各分野の補助金等の柔軟な活用も有効であると考えられる。

第五 重層的支援体制整備事業の実施に関する事項

一 重層的支援体制整備事業

1 重層的支援体制整備事業の目的

市町村は、地域住民やその世帯の複雑化・複合化した地域生活課題や支援ニーズに対応する包括的な支援体制を構築するため、法第百六条の三第一項の規定に基づく市町村の努力義務の達成手段の一つとして、重層的支援体制整備事業を実施することができる。

重層的支援体制整備事業は、市町村において属性を問わない相談支援、参加支援及び地域づくりに向けた支援を一体的に実施する包括的な支援体制を整備することで、重層的なセーフティネットの構築を目指すものである。当該事業による支援対象者は、地域住民やその世帯の属性を問わず、福祉、介護、保健医療、住まい、就労、教育等に関する課題や地域社会からの孤立等の地域生活課題を抱える全ての地域住民である。

重層的支援体制整備事業による多様な取組を促進するため、当該事業を実施する市町村(以下「実施市町村」という。)に対しては、重層的支援体制整備事業交付金(以下「交付金」という。)として、法に基づき国及び都道府県の財政支援を一体的に実施することとしている。

なお、この交付金は、当該事業の趣旨に鑑み、地域生活課題を抱える全ての地域住民を対象として交付されるものであることから、実施市町村においては、2のイ及びハに記載した各法に基づく事業を行う支援関係機関が、各法の定める対象者以外の者を支援した場合でも、交付金の目的外使用とはならない。このため、世帯の状況に応じて、実施市町村内の各支援関係機関の緊密な連携によるチーム支援をより円滑に実施できるようになることが期待される。

2 各事業の内容

実施市町村においては、1の目的を達成するために、次のイからホまでに掲げる事業を一体のものとして実施することとする。その際、イからハまでの事業は相互に関連して地域住民やその世帯を支える機能として一体的に実施し、重層的なセーフティネットを構築した上で、当該セーフティネットを更に強化するものとして、ニ及びホの事業を実施することとする。

イ 包括的相談支援事業(法第百六条の四第二項第一号)

包括的相談支援事業は、本人やその世帯の属性・世代・相談内容に関わらず包括的に相談を受け止め、本人やその世帯の地域生活課題を整理し、利用可能な福祉サービスに関する情報提供及び助言、支援関係機関との連絡調整並びに高齢者、障害者等に対する虐待の防止及びその早期発見のための援助等の支援を行うために次に掲げる事業を一体的に実施する事業である。

(1) 介護保険法(平成九年法律第百二十三号)第百十五条の四十五第二項第一号から第三号までに掲げる事業

(2) 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号。以下「障害者総合支援法」という。)第七十七条第一項第三号に掲げる事業

(3) 利用者支援事業

(4) 生活困窮者自立支援法第三条第二項各号に掲げる事業(同法第四条に規定する福祉事務所を設置していない町村においては、同法第十一条第一項に規定する事業)

包括的相談支援事業において受け止めた地域生活課題のうち、(1)から(4)までの事業のうち一の事業のみでは対応が難しいものについては、他の支援関係機関と連携を図りながら、課題解決に向けた支援を行う。また、受け止めた地域生活課題のうち、複雑化・複合化しており、支援を進めるに当たって、支援関係機関間の役割分担が必要と判断したものについては、ホに掲げる多機関協働事業につなぎ、当該事業の調整によって、支援関係機関の連携による適切な支援体制の構築を図る。

なお、多機関協働事業による調整の結果、包括的相談支援事業が主たる支援者とされなかった場合であっても、多機関協働事業その他支援関係機関からの要請があった場合には、本人やその世帯に係る情報の収集や地域生活課題の解決のための具体的な支援等を行うこともあるため、柔軟に支援が可能となるよう体制整備を図っていくことも重要である。

ロ 参加支援事業(法第百六条の四第二項第二号)

参加支援事業は、既存の制度に基づく社会参加に向けた支援では対応できない個別性の高い地域生活課題や支援ニーズを有する本人やその世帯に対し、支援関係機関と民間団体との連携による支援体制の下、地域活動の機会の提供、訪問による必要な情報提供及び助言その他の社会参加のために必要な支援を行う事業である。当該事業を適切かつ効果的に実施するためには、まず、本人やその世帯が抱える地域生活課題や支援ニーズを丁寧に把握することが必要である。それらを踏まえて、本人やその世帯と地域の福祉サービスその他社会参加に向けた取組との間の連絡調整等を行い、本人やその世帯が望む形での社会参加を実現する。また、必要に応じて、地域の福祉サービスその他社会参加に向けた取組のための環境整備を行うことや、本人やその世帯が抱える地域生活課題や支援ニーズに合致する支援を図ることも重要である。さらに、本人とその世帯が福祉サービスその他社会参加に向けた取組につながった後も、当該取組において、本人やその世帯の状態や希望に添った支援が実施されているかに関する継続的な把握と定着に向けた支援が求められる。

参加支援の充実のためには福祉サービスその他社会参加に向けた取組の持続可能性の向上が重要であり、当該取組が抱える課題にも寄り添い、支援関係機関間の連携により、当該取組に対し必要な支援の提供を図ることが期待される。

なお、参加支援事業その他の社会参加に向けた支援を実施するに際して、福祉サービスその他社会参加に向けた取組の効果的な活用を促進するために、既存制度に設けられている福祉サービスの人員配置基準や設備基準等の整理を行うとともに、財産処分に係る整理等を行う通知の内容を十分了知すること。

ハ 地域づくりに向けた事業(法第百六条の四第二項第三号)

地域づくりに向けた事業は、地域住民が地域において自立した日常生活を営み、地域社会に参加する機会を確保するための支援並びに地域生活課題の発生の防止又は解決に係る体制の整備及び地域住民相互の交流を行う拠点の開設、創作的活動又は生産活動の機会の提供、社会との交流の促進等を行うために、次に掲げる全ての事業を一体的に行う事業である。

(1) 介護保険法第百十五条の四十五第一項第二号に掲げる事業のうち一般介護予防事業

(2) 介護保険法第百十五条の四十五第二項第五号に掲げる事業

(3) 障害者総合支援法第七十七条第一項第九号に掲げる事業

(4) 子ども・子育て支援法第五十九条第九号に掲げる事業

(5) 生活困窮者のための共助の基盤づくり事業

具体的には、多様な地域活動が生まれやすい環境整備を行うことを目的として、地域活動を幅広くアセスメントした上で、既存の地域づくりに向けた事業による取組を活かしつつ、世代や属性を超えて地域住民同士が交流できる場や社会参加のための多様な居場所の整備を促進するとともに、地域で実施されている個別の地域活動や居場所の取組、それらに取り組む者を把握し、「人と人」「人と地域活動や居場所」をつなぎ合わせるコーディネートの役割が求められる。また、各地の事例では、福祉分野を超えた幅広い関係者が出会い、学び合う協議体が形成されることで、地域活動の新たな活用方法や地域課題の解決策が生まれる場ができ、地域活動の発展や地域社会の持続につながっている様子が見られている。地域づくりに向けた事業を効果的に実施するためには、地域の関係者とともに、当該協議体の構築とその活動の活性化を図ることが有用である。

ニ アウトリーチ等を通じた継続的支援事業(法第百六条の四第二項第四号)

アウトリーチ等を通じた継続的支援事業は、地域社会からの孤立が長期にわたる者、複数分野にまたがる複雑化・複合化した課題を抱えているために、必要な支援につながりにくい者その他の継続的な支援を必要とする地域住民及びその世帯に対し、訪問等により状況を把握した上で相談に応じ、利用可能な福祉サービスに関する情報提供及び助言その他継続的な支援を必要とする地域住民及びその世帯を包括的かつ継続的に支援するために必要な支援である。支援を進めるに当たっては、アウトリーチ等を通じた継続的支援事業の対象者は、その抱える地域生活課題が深刻化するまで潜在的な支援ニーズに留まり続けることが多いと想定されることに十分留意し、地域の各種会議体や支援関係機関間の連携体制等の地域のネットワークを通じて地域の状況に係る情報を幅広く収集するとともに、地域住民とのつながりを構築し、潜在的な支援ニーズを有する者の存在を早期に把握することが重要である。

さらに、当該事業を適切かつ効果的に実施するためには、本人とその世帯との信頼関係が存在していることが重要であり、その構築のために、本人やその世帯、そしてそれらを取り巻く環境に対して、本人やその世帯の希望も踏まえた上で、丁寧かつ確実な働きかけを行うことが求められる。また、当該事業の実施を通じて、緊急性のある事例を把握した場合には、速やかに警察や医療機関等と連携する必要がある。

ホ 多機関協働事業及び支援プランの策定事業(法第百六条の四第二項第五号及び第六号)

多機関協働事業は、複数の支援関係機関の相互の連携による支援を必要とする地域住民及びその世帯に対し、複数の支援関係機関が、当該地域住民及びその世帯が抱える地域生活課題を解決するために、相互の有機的な連携の下、その解決に資する支援を一体的かつ計画的に行う体制を整備する事業である。

まず、個別の支援においては、一の支援関係機関では対応が困難な複雑化・複合化した地域生活課題の整理を行い、支援関係機関との議論を踏まえて、支援関係機関間の役割分担や支援の方向性を定めることとなる。この役割分担の結果や支援の方向性を表した支援プラン(法第百六条の四第二項第六号)を策定し、支援関係機関間の意識の共有を図ることが求められる。

また、多機関協働事業は、当該役割分担による支援の進捗状況等を把握し、適切な助言や必要がある場合には当該役割分担の見直し等、実施市町村全体の支援関係機関のチームによる継続的な伴走型支援の実施を実現する。さらに、多機関協働事業は、支援関係機関間の有機的な連携体制を構築し、当該連携体制の中で地域における地域生活課題等の共有を図ること等を通じて、新たな福祉サービスその他社会参加に資する取組や支援手法の創出を図っていくことも重要である。

3 重層的支援体制整備事業全体の効果

重層的支援体制整備事業の下、属性を問わない相談支援、参加支援及び地域づくりに向けた支援の三つの支援を一体的に実施し、包括的な支援体制を整備することの主たる効果として、次に掲げるものが考えられる。市町村において、重層的支援体制整備事業による支援体制を整備する際には、これらの効果が適切に現れるよう、当該三つの支援の緊密な連携を確保する必要がある。

イ 属性を問わない相談支援において、本人やその世帯が抱える地域生活課題を断らず包括的に受け止めることで、参加支援や地域づくりに向けた支援について、地域の支援ニーズに合わせた、より効果的な実施が可能となること。

ロ 属性を問わない相談支援において浮かび上がった複雑化・複合化した支援ニーズに対し、制度の狭間にも対応した就労に向けた支援や一時的な住まいの提供等柔軟な参加支援を推進することで、本人やその世帯の状況等に応じたオーダーメイドの支援が実現し、属性を問わない相談支援が一層効果的に機能すること。

ハ 地域づくりに向けた支援を通じて、地域で人と人とのつながりが強化され、本人やその世帯が抱える地域生活課題に対する他の地域住民の気づきが生まれやすくなり、早期に相談支援につながるようになること。

ニ 地域づくりに向けた支援を通じて、新たな地域活動が開拓・開発されることにより、参加支援において本人やその世帯が有する地域生活課題や希望に応じた多様かつ柔軟な支援を実施しやすくなること。

ホ 災害や感染症の流行等の緊急事態の発生時における支援体制の充実を図ることができるとともに、地域から孤立する傾向にある被災者の地域とのつながりを取り戻し、生活を再建すること。

ヘ 包括的な支援体制が構築されることによって、「支える」「支えられる」といった関係性を超えて、多様な役割と参加の機会や地域での助け合いの関係性が生まれること。

ト 世代や属性、国籍を超えた多様な関わりを通じて、地域への意識と、暮らしや文化、価値観の多様性を受け入れる意識を育むことにつながること。

二 包括的な支援体制の整備に向けた検討プロセス

重層的支援体制整備事業を実施する際には、市町村は、当該事業の下での体制整備の方針や、体制整備を進める際の具体的な工程等について、地域住民や支援関係機関と議論を行い、意識の共有を図ることが重要である。このため、庁内の関係部局と一層の連携を図るとともに、支援関係機関をはじめとする庁外の幅広い関係者とも議論を積み重ねること等が求められる。また、重層的支援体制整備事業開始後も支援体制全体の状況の把握や地域分析を随時実施し、それらをもとに支援関係機関等での議論や意見交換を継続し、より適切な支援体制の整備を目指して見直しを行っていくことも必要である。当該支援体制の見直しに当たっては、第五の三の重層的支援体制整備事業実施計画の見直しと併せて実施し、計画上で「見える化」を図ることも効果的である。

三 重層的支援体制整備事業実施計画

実施市町村は、法第百六条の五の規定に基づき、本指針に則して、重層的支援体制整備事業を適切かつ効果的に実施するため、当該事業の提供体制に関する事項を定める重層的支援体制整備事業実施計画(法第百六条の五第一項に規定する重層的支援体制整備事業実施計画をいう。以下同じ。)を策定するよう努めることとされている。

重層的支援体制整備事業の実施に当たっては、包括的な支援体制の整備に向けた各実施市町村の方針について、地域住民や支援関係機関と議論を行うプロセスに意義があることから、重層的支援体制整備事業実施計画の策定過程を通じ、地域住民が抱える課題を踏まえ、地域住民や支援関係機関と議論を行い、事業実施の理念や目指すべき方向性についての認識の共有を図ることが重要である。

また、重層的支援体制整備事業に対する補助は、既存事業に係る国及び都道府県の補助を交付金として一体で交付することとしているが、当該交付金を適切に執行するためにも、各分野の支援関係機関が事業実施に関して共通の認識を持った上で重層的支援体制整備事業実施計画を策定し、当該計画に基づく事業実施を行い、評価・検証を行い、その結果を踏まえ必要な見直しを行うといったPDCAを実施することが重要である。

このように、重層的支援体制整備事業実施計画は、法律上は実施市町村の努力義務とされているが、本指針の内容及び策定ガイドラインの内容を十分踏まえ、策定を進めることが望ましい。

四 支援会議

重層的支援体制整備事業を効果的に実施するためには、多職種による連携や多機関の協働が重要な基盤となるが、事案によっては本人の同意が得られないために支援関係機関間等での適切な情報共有が進まず、役割分担が進まない場合がある。また、予防的・早期の支援体制の検討を進めることが求められるにもかかわらず、本人同意が得られないために体制整備が進まない場合もある。

このため、法第百六条の六の規定に基づき、実施市町村は、地域住民が地域において日常生活や社会生活を営むのに必要な支援体制に関する検討を行うため、支援関係機関等により構成され、会議の構成員に対し守秘義務が課される支援会議を設置することができることとしている。

支援会議は、その目的や内容に応じて、実施市町村が開催頻度や開催方法を決定することとなるが、具体的な開催の場面においては、地域における既存の会議体(介護保険法に基づく地域ケア会議、障害者総合支援法に基づく協議会等)と組み合わせて開催することが可能な場合には、既存の会議体と時間を切り分ける等の工夫をした上で、効果的・効率的な開催に努めていただきたい。

五 人材及び資質の確保について

実施市町村や重層的支援体制整備事業の委託を受ける事業者をはじめとして、包括的な支援に携わる者は、第一の地域共生社会の理念に対する理解や意識を高め、日々の実践を展開していくための倫理観を持つことが重要である。特に、第一の地域共生社会の理念にあるように、一人ひとりが尊重され、社会との関わりを基礎として自律的な生を継続していくことができるように支援するという視点が重要である。

この視点を踏まえて、社会福祉分野等の専門職による対人支援は、本人やその世帯の意向やそれらを取り巻く状況に合わせて、具体的な地域生活課題の解決を目指す支援と、本人やその世帯と専門職とがつながり続けること自体に価値を置く伴走型支援とを組み合わせて進めることが求められる。

また、属性を問わない相談支援については、本人やその世帯が抱える地域生活課題を解きほぐすアセスメント、さらに市町村全体の支援関係機関の連携体制による支援を行うための調整等に関するノウハウが求められる。また、自ら相談することができない者も想定したアウトリーチの手法や、配偶者等からの暴力や性暴力、児童虐待の被害者、大規模災害に見舞われ心に大きな傷を受けた被災者等回復に時間がかかる状態も想定し、継続的に関わり、つながり続ける支援を行う力も求められる。

参加支援については、本人やその世帯が抱える狭間の支援ニーズに対応するため、福祉分野のみならず多様な分野とつながりながら、既存の地域の福祉サービスその他社会参加に資する取組を活用して支援を行ったり、適切な取組が存在しない場合には、支援関係機関間の連携を通じて、新たに福祉サービスその他社会参加に資する取組を創出する力が求められる。

地域づくりに向けた支援については、地域の人と人とのつながりや既存の活動を把握した上で、それらを活性化すること、包摂的な地域社会を目指して、子どもから大人まで全世代にわたる福祉教育等地域共生社会の実現に向けて意識啓発を進めること等創造的な力が求められる。

実施市町村においては、国や都道府県と連携しながら、このような資質を確保するために、研修の実施や支援者間のネットワークづくり等の人材育成のための取組が求められる。

六 留意点

イ 重層的支援体制整備事業の適切な委託先の選定

実施市町村は、法第百六条の四第四項の規定に基づき、第五の一の2の事業の一体的な実施が確保されるよう必要な措置を講じた上で、重層的支援体制整備事業の事務の全部又は一部を当該実施市町村以外の社会福祉法人、一般社団法人等の団体に委託することができる。

実施市町村において委託を行おうとする際には、質の高い支援が提供され、また、本人やその世帯と支援者との間において築かれる信頼関係を維持するとともに、地域の支援関係機関による継続的な相談支援体制が確保されるよう十分留意する必要がある。したがって、重層的支援体制整備事業の委託先の選定に当たっては、当該委託を受けようとする団体が提案する支援の質や具体的な内容、当該団体の事業や経営の継続性、実施市町村内での事業実績等を踏まえ、地域の関係者の意見も聞きながら、総合的に評価することが重要である。

また、委託先を選定した後も、実施市町村は重層的支援体制整備事業の実施主体として、委託先の事業者に対し、当該事業の理念や当該実施市町村における包括的な支援体制の整備方針、重層的支援体制整備事業実施計画の策定過程その他の体制整備に向けた支援関係機関間の議論等を十分共有するとともに、委託先の事業者による事業実施や支援の状況についても適時把握を行い、それらを踏まえて委託先の事業者とともに事業改善に向けた議論と具体的な取組を進めることが重要である。

なお、委託先の事業者に対しては、法第百六条の四第五項に基づき、守秘義務が課せられていることに留意する必要がある。

ロ 重層的支援体制整備事業における社会福祉分野等の専門職の役割

重層的支援体制整備事業の実施においては、複雑化・複合化した地域生活課題の整理を行い、市町村の支援関係機関の連携体制による伴走型支援が求められることから、社会福祉分野等の専門職の役割が重要であり、当該事業の中核を担うことが期待される。

また、地域住民やその世帯が抱える地域生活課題に対応していくためには、社会福祉分野等の専門職が中心となって、保健医療、福祉、子ども・子育て支援、労働、教育、司法、消費者相談、若者支援、年金制度、自殺対策、権利擁護、再犯防止等の多職種や多機関が必要に応じて柔軟に連携する体制を整備することが求められる。

ハ 重層的支援体制整備事業の実施状況に関する適切な情報公開

重層的支援体制整備事業を効果的に実施するためには、第五の二のとおり、地域の関係者間で十分な議論を重ね、共通意識を醸成した上で支援体制の整備を行うことが求められる。このため、実施市町村においては、重層的支援体制整備事業の実施状況やその前提となる地域分析の結果等関連情報の公開を適切に行う必要がある。公開に当たっては、ホームページや広報誌への掲載、担当課室への備え付け等、様々な世代や生活環境の地域住民がアクセス可能となるよう、複数の方法を組み合わせて実施されることが望ましい。

第六 市町村における包括的な支援体制の整備に対する都道府県の支援

法第六条第二項に基づき、都道府県は、地域生活課題の解決に資する支援が包括的に提供される体制の整備その他地域福祉の推進のために必要な各般の措置を講ずるよう努めるとともに、保健医療、労働、教育、住まい及び地域再生に関する施策その他の関連施策との連携に配慮することが求められる。

具体的には、都道府県は、地域生活課題の解決に資する支援を実施する直接の主体として、単独の市町村では解決が難しく専門的な支援を必要とする、医療的ケアを要する状態にある児童及び難病・がん患者や、身近な地域では当事者が声を上げにくく、特段の配慮が必要となる配偶者からの暴力を受けた者、刑務所出所者等に対する支援体制を市町村と連携して構築していくことが求められる。

また、都道府県域で推進していく独自施策の企画・立案や、市町村間や支援関係機関間の情報共有の場づくり、市町村への技術的助言等の役割を果たしていくことも期待される。

さらに、市町村において重層的支援体制整備事業その他地域生活課題の解決に資する支援が包括的に提供される体制の整備が適正かつ円滑に行われるよう、管内の市町村の実情に応じて、必要な助言、情報の提供その他の援助を行わなければならない。

具体的には、管内の市町村の実態の把握や地域分析を行った上で、重層的支援体制整備事業その他地域生活課題の解決に資する支援の広域実施や他の事業との一体的な実施等に向けた支援、市町村域を越えた新たな事業の委託先の開拓とその共有等を行うことが求められる。

また、包括的な支援体制の整備に係る人材の育成に向けた研修の開催、管内の市町村における先駆的な取組の収集と共有等の人材養成や情報共有の取組、管内自治体の関係者や地域住民等を広く対象とした勉強会や研修の開催等の地域共生社会の実現に向けた機運の醸成の取組にも積極的に取り組んでいただきたい。

都道府県がこうした役割を果たすに当たっては、各市町村が直面している状況が多様であるとともに、包括的な支援体制の構築に向けた歩みも一様でないことを理解し、管内市町村との議論を踏まえ、重層的支援体制整備事業が未実施の市町村も含め、市町村が必要としている支援を柔軟に構築し展開していくことが重要である。

第七 災害対応や感染症対策等の状況への対応

都道府県や市町村においては、近年の災害の発生状況や感染症の流行等の緊急事態にも対応する支援体制を構築していく必要がある。

重層的支援体制整備事業その他地域生活課題の解決に資する包括的な支援体制は、災害や感染症等の影響によって発生する多様な支援ニーズに対しても有効であり、分野横断の支援関係機関によるネットワークの中で、柔軟な対応が可能となるよう整備が必要である。具体的な取組方策としては、次に掲げるものが考えられる。

一 重層的支援体制整備事業その他地域生活課題に資する包括的な支援体制による都道府県、管内市町村、支援関係機関等が連携した災害や感染症その他緊急事態の発生時の支援体制を予め議論し、構築を進めること。この際、都道府県による広域の支援や近隣市町村の連携による応援体制の構築等自治体間の連携も十分図ること。

二 支援関係機関や関係部局が連携して、災害や感染症その他緊急事態の発生時に必要な物資について、備蓄・調達・輸送体制を予め議論し、その結果を踏まえ当該体制の整備を行うこと。

三 支援関係機関等と連携し、防災や感染症対策等についての周知啓発、研修、訓練を実施すること。なお、平時からICTを活用した会議の実施等による業務のオンライン化の推進も緊急事態発生時の体制構築に資するものであること。

改正文 (平成三〇年九月二八日厚生労働省告示第三四二号) 抄

平成三十年十月一日から適用する。

改正文 (令和三年三月二九日厚生労働省告示第一〇八号) 抄

令和三年四月一日から適用する。