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○肝炎対策の推進に関する基本的な指針

(平成二十八年六月三十日)

(厚生労働省告示第二百七十八号)

肝炎対策基本法(平成二十一年法律第九十七号)第九条第五項の規定に基づき、肝炎対策の推進に関する基本的な指針(平成二十三年厚生労働省告示第百六十号)の全部を次のように改正したので、同条第六項において準用する同条第四項の規定により告示する。

肝炎対策の推進に関する基本的な指針

肝炎とは、肝臓の細胞が破壊されている状態であり、その原因は、ウイルス性、アルコール性、脂肪性、自己免疫性等に分類され、多様である。我が国では、B型肝炎ウイルス又はC型肝炎ウイルス(以下「肝炎ウイルス」という。)感染に起因する肝炎患者が肝炎にり患した者の多くを占めてきた。近年では、若年層のB型肝炎患者数はB型肝炎母子感染予防対策等により、C型肝炎患者数は治療薬の進歩等により減少傾向にあるものの、全体のB型肝炎患者数は足元では増加傾向にある。また依然として、ウイルス性肝炎は肝炎患者の半数にのぼり、重症化しやすいため、B型肝炎及びC型肝炎に係る対策が喫緊の課題であることに変わりはなく、対策の継続が必要である。

近年の国におけるB型肝炎及びC型肝炎に係る対策については、平成十四年度からのC型肝炎等緊急総合対策の開始、平成十九年度からの都道府県の選定による肝疾患診療連携拠点病院(以下「拠点病院」という。)の整備等の取組を進めてきた。

また、平成二十年度以降、肝炎の治療促進のための環境整備、肝炎ウイルス検査の促進、肝炎に係る診療及び相談体制の整備、国民に対する肝炎に係る正しい知識の普及啓発並びに肝炎に係る研究の推進の五本の柱からなる肝炎総合対策を進めてきた。

さらに、研究分野に関しては、平成二十三年十二月に、肝炎の専門家からなる肝炎治療戦略会議が「肝炎研究十カ年戦略」を取りまとめ、これに基づき肝炎研究に取り組んできたところである。C型肝炎はインターフェロンフリー治療薬の開発により、高い確率でウイルスの排除が可能になった一方で、C型肝炎ウイルス排除後の発がん等への対応は引き続き必要である。また、B型肝炎はいまだにウイルスを排除できる根治薬がなく、その研究開発の継続が必要である。

最近では肝炎ウイルスに持続感染している者(ウイルス性肝炎から進行した肝硬変又は肝がんの患者を含む。以下「肝炎患者等」という。)への支援が充実されるとともに、地方公共団体等による受検、受診及び受療の促進に向けた取組が行われ、一定の効果を上げているが、依然として、肝炎ウイルスに感染しているものの自覚のない者が多数存在すると推定されることや、職域での検診等利便性に配慮した検査体制を整備すること、肝炎ウイルスに起因する肝炎、肝硬変又は肝がんに係る医療(以下「肝炎医療」という。)の体制が十分整備されていない地域があること、精密検査や肝炎医療を適切に受診していない肝炎ウイルス検査結果が陽性である者が多数に上ること等、肝炎医療を必要とする者に適切に肝炎医療を提供していくためには、いまだ解決すべき課題が多い。特に、我が国における肝炎患者等が高齢化していることを踏まえ、高齢者にも分かりやすい、より丁寧な普及啓発を行う必要がある。

また、肝炎ウイルスの感染経路等についての国民の理解が十分でないことや、肝炎ウイルス検査を受検する必要性に関する認識が十分でないことに加え、一部では、肝炎患者等に対する不当な差別が存在することが指摘されている。さらに、地域の実情に応じた肝炎対策を策定及び実施する地方公共団体における取組の継続は重要である。このような状況を改善し、肝炎対策のより一層の推進を図るためには、引き続き、国や地方公共団体のみならず、あらゆる関係者が一体となって、より一層の連携を図ることが必要である。

加えて、世界保健機関(WHO)が、公衆衛生上の脅威としての肝炎ウイルスの排除達成を令和十二年までに目指すことを持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも貢献する目標として掲げている。公衆衛生上は、現在、C型肝炎はウイルス排除薬の開発により、その撲滅が視野に入る状況となってきたが、B型肝炎に対する根治薬の開発及び既に実用化されているC型肝炎の抗ウイルス療法の活用により、肝炎ウイルスを高い確率で体外に排除することを可能にし、「肝炎の完全な克服」を目指すことが必要である。

本指針は、このような現状の下に、肝炎患者等を早期に発見し、また、肝炎患者等が安心して治療を受けられる社会を構築するため、国、地方公共団体等が取り組むべき方向性を示すことにより、肝炎対策のより一層の推進を図ることを目的とするものである。

なお、我が国では、現在、肝炎にり患した者に占める患者数の多さから、B型肝炎及びC型肝炎に係る対策が依然として重要な課題となっている。このため、本指針においては、B型肝炎及びC型肝炎に係る対策に関する事項を定めるものとする。

第一 肝炎の予防及び肝炎医療の推進の基本的な方向

(1) 基本的な考え方

ア 肝炎(B型肝炎及びC型肝炎をいう。以下同じ。)は、適切な治療を行わないまま放置すると慢性化し、肝硬変や肝がんといったより重篤な病態に進行するおそれがある。このため、肝炎患者等が生活する中で関わる全ての者が肝炎に対する理解を深め、これらの者の協力の下、肝炎患者等が安心して生活できる環境づくりに取り組むことが必要である。したがって、国は、地方公共団体、医療関係者等と連携し、肝炎ウイルス検査の受検促進、検査結果が陽性である者のフォローアップや肝炎患者等の早期かつ適切な肝炎医療の受診の促進、B型肝炎に対する根治薬の開発等の肝炎総合対策を推進することにより、「肝炎の完全な克服」を達成することで、肝硬変又は肝がんへの移行者を減らすことを目標とし、肝がんのり患率をできるだけ減少させることを具体的な指標として設定する。

また、肝炎対策は、肝炎患者等を含めた国民の視点に立ち、国民の理解及び協力を得て、肝炎患者等を含む関係者が一体となって、連携して対策を進めることが重要である。

なお、国及び地方公共団体が肝炎対策を実施するに当たっては、その目標、具体的な指標等を設定し、定期的にその達成状況を把握し、必要に応じて施策の見直しを検討することが重要である。

イ 肝炎総合対策を推進するに当たっては、肝炎ウイルス検査及び肝炎医療の均てん化を図ることが重要であるものの、依然として、各地域の取組状況に差がある。そのため、関係者が地域の実情や特性を把握しつつ、それらに応じた取組を推進することが必要である。

(2) 肝炎ウイルス検査の更なる促進

肝炎ウイルスの感染経路は様々であり、個々人が肝炎ウイルスに感染した可能性があるか否かを一概に判断することは困難であることから、全ての国民が、少なくとも一回は肝炎ウイルス検査を受検する必要があると考えられる。特に、肝炎ウイルス検査の未受検者が、自らの健康や生命に関わる問題であることを認識し、できる限り早期に受検するとともに、その結果を認識し、検査結果に応じた受診等の行動につながるようにすることが重要である。その実現に向けては、肝炎ウイルス検査の受検の必要性について、広く国民に普及啓発を行うと同時に、年齢等に焦点を絞って普及啓発を行うことも重要である。

このため、肝炎ウイルス検査の受検体制を整備し、特に肝炎ウイルス検査の未受検者に対して受検の勧奨及び普及啓発を行うことが必要であるが、引き続き、地方公共団体等による検査以外に職域において検査を受けられる機会を確保する等の取組を進めるとともに、検査結果が陽性である者に対して、C型肝炎は高い確率でウイルス排除が可能であること、B型肝炎もウイルス抑制が可能であることの理解を促進しつつ、早期受診のメリット等の説明をする等、適切な受診を促進するためのフォローアップ体制の整備に重点的に取り組んでいくことが必要である。

また、従来は、肝炎患者等は治療と就労の両立が困難であったが、医療の進歩により心身などへの負担がより少ない治療が可能となったため、治療と就労の両立に向けたより一層の普及啓発を行うことが重要である。

(3) 適切な肝炎医療の推進

肝炎患者等の健康保持のためには、個々の状況に応じた適切な治療を受けることが重要である。そのため、医療機関においては、肝炎は症状が進行しなければ自覚症状が乏しいことが多いこと、肝炎患者等に対する偏見や差別が存在すること等の事情を認識して肝炎患者等に接することが必要である。

肝炎患者等に対し、病態に応じた適切な肝炎医療を提供するためには、専門的な知識や経験が必要であるため、個々の肝炎患者等は、肝炎医療を専門とする医療機関(以下「専門医療機関」という。)において治療方針の決定を受けることが望ましい。

また、専門医療機関において治療方針の決定を受けた肝炎患者等は、継続して適切な治療を受けることが必要である。

このため、肝炎患者等が、居住地域にかかわらず適切な肝炎医療を受けられるよう、地域の特性に応じた肝疾患診療体制を構築するため、拠点病院が中心となって、専門医療機関等の治療水準の向上、かかりつけ医を含む地域の医療機関との連携の強化等を図るとともに、ICTの活用等による地域連携の強化に向けた研究を推進する必要がある。

また、肝炎ウイルスを排除し又はその増殖を抑制する抗ウイルス療法(肝炎の根治目的で行うインターフェロン治療及びインターフェロンフリー治療又はB型肝炎の核酸アナログ製剤治療をいう。以下同じ。)については、肝硬変や肝がんといった、より重篤な病態への進行を予防し、又は遅らせることが可能である。また、抗ウイルス療法は、結果的にウイルス量が低減することにより二次感染の予防につながるという側面もある。このため、引き続き、抗ウイルス療法に対する経済的支援に取り組み、その効果を検証していく必要がある。

(4) 肝炎医療をはじめとする研究の総合的な推進

肝炎は国内最大級の感染症であり、感染を放置すると肝硬変や肝がんといった重篤な病態に進行する。このため、肝炎医療の水準の向上等に向けて、肝炎に関する基礎、臨床及び疫学研究等を総合的に推進する必要がある。

また、肝炎患者等の負担軽減に資するよう、肝炎対策を総合的に推進するための基盤となる行政的な課題を解決するために必要な研究についても、各地域により異なる肝炎医療等の現状と課題を踏まえて進める必要がある。

(5) 肝炎に関する正しい知識の更なる普及啓発及び肝炎患者等の人権の尊重

肝炎ウイルスは、感染しても自覚症状に乏しいことから、感染に気付きにくく、また、感染を認識していても、感染者が早急な治療の必要性を認識しにくい。このため、国民一人一人が感染によるリスクを自覚した対応を図るよう、肝炎についての正しい知識の普及啓発について、幅広い世代に対応し、各世代に応じて分かりやすいものとなるよう、その効果を見つつ取り組む必要がある。

また、肝炎患者等に対する不当な差別を解消し、感染経路についての知識不足による新たな感染を予防するためにも、肝炎についての正しい知識を普及し、これにより肝炎患者等に関わる者が適切な対応を行うことができるようにすることが必要である。

さらに、肝炎患者等に対する偏見や差別を解消するためには、肝炎についての正しい知識の普及を前提に、感染症患者に対する偏見や差別の歴史も踏まえ、肝炎患者等の人権を尊重するためにはどのようにふるまうべきかを考え、学ぶことが重要である。肝炎患者等の人権尊重について取組を推進することは、感染症患者全体の偏見や差別の解消に資するものであり、国は、このような観点から、地方公共団体、学校教育関係者及び患者団体等の様々な関係者と連携し、その方策の検討を進める必要がある。

(6) 肝炎患者等及びその家族等に対する相談支援や情報提供の充実

肝炎患者等及びその家族等の多くは、肝炎が肝硬変や肝がんといった、より重篤な病態へ進行することに対する将来的な不安を抱えている。また、治療における副作用等、治療開始前及び治療中において、精神的な負担に直面することも多い。このため、こうした肝炎患者等及びその家族等の不安や精神的負担の軽減に資するため、肝炎患者等及びその家族等への相談支援を行う必要がある。

また、肝炎患者等及びその家族等を含む国民の視点に立った分かりやすい情報提供について、引き続き取組を推進する必要がある。

第二 肝炎の予防のための施策に関する事項

(1) 今後の取組の方針について

感染経路についての知識不足による新たな感染を予防するため、全ての国民に対して肝炎についての正しい知識を普及することが必要である。

また、国は、地方公共団体に対して、妊婦に対するB型肝炎抗原検査を妊婦健康診査の標準的な検査項目として示すほか、各医療機関において、当該検査の結果が陽性であった妊婦から出生した乳児に対するB型肝炎ワクチンの接種等の適切な対応が行われるよう指導を求める等のB型肝炎母子感染予防対策を講じており、これらの対策の効果検証を行うとともに、引き続きこの取組を進める。

さらに、B型肝炎ウイルスの感染はワクチンによって予防可能であることから、水平感染防止の手段の一つとして、引き続きB型肝炎ワクチンの定期接種を推進していく。C型肝炎については、ウイルス排除が可能となったことから、二次感染予防の観点からもインターフェロンフリー治療等の推進に取り組む。

(2) 今後取組が必要な事項について

ア 国は、肝炎ウイルスへの新たな感染の発生を防止するために作成された日常生活上の感染予防の留意点を取りまとめた啓発用の資材や、高齢者施設及び保育施設における感染予防ガイドラインについて、地方公共団体等と連携を図りながら、普及啓発を進めるとともに、これらがより一層活用されるような方策を検討する。また、医療機関に対して、標準的な感染予防策の重要性について改めて周知を行う。

イ 国は、ピアスの穴あけ及びいわゆるアートメイク等血液の付着する器具の共有を伴う行為や性行為等の肝炎ウイルスの感染の危険性のある行為についての正しい知識と理解を深めるための普及啓発を幅広く進めるとともに、その推進方策について、地方公共団体、学校教育関係者、患者団体等の様々な関係者と連携し検討を進める。

ウ 国及び地方公共団体は、医療従事者等の感染のリスクの高い集団を中心として、B型肝炎ワクチンの有効性、安全性等に関する情報提供を行う。

エ 国は、地方公共団体と協力して、B型肝炎ワクチンの定期接種の実施を図る。

オ 国は、地方公共団体と協力して、C型肝炎患者のインターフェロンフリー治療等を引き続き推進する。

第三 肝炎検査の実施体制及び検査能力の向上に関する事項

(1) 今後の取組の方針について

肝炎ウイルスの感染状況を本人が把握するための肝炎ウイルス検査については、医療保険者や事業主等の多様な実施主体において実施されていることや、検査結果の取扱いに留意する必要があるため、プライバシーに配慮して匿名で実施されている場合があること等から、実態を把握することは困難な状況にある。

しかしながら、肝炎ウイルス検査体制の整備、肝炎ウイルス検査後のフォローアップ及び肝炎ウイルス検査に係る普及啓発を効果的に実施するためには、施策を行う上での指標が必要であることから、地方公共団体での肝炎ウイルス検査の受検者数等の肝炎ウイルス検査等の実施状況を把握するための調査及び研究が引き続き必要である。

また、肝炎ウイルス検査の未受検者や、受検しているが検査結果を正しく認識していない者等、感染の事実を認識していない肝炎患者等が多数存在することが推定される。このため、感染経路は様々であり、本人の自覚なしに感染している可能性があることを含めて、肝炎に関する正しい知識の普及啓発を行い、全ての国民が少なくとも一回は肝炎ウイルス検査を受検することが必要であることを周知する。

また、研究の成果も踏まえ、受検者の利便性及び職域等におけるプライバシーに配慮して肝炎ウイルス検査を受検できる体制の整備等を引き続き進めるとともに、施策の効果を検証するための研究を推進する必要がある。

また、受検率の向上に当たっては、肝炎ウイルス検査等を勧める肝炎医療コーディネーターやICTの活用、各都道府県の肝疾患センターや地方公共団体からの肝炎ウイルス検査の未受検者に対する肝炎に関する正しい知識の普及啓発や受検勧奨等、現場の状況に応じた対応を図っていくことが重要である。

さらに、肝炎ウイルス検査の結果について、受検者各自が正しく認識できるよう、肝炎の病態等に係る情報提供を行うとともに、肝炎医療に携わる者に対し、肝炎ウイルス検査に関する最新の知見についての研修や情報提供を適切に行う必要がある。

(2) 今後取組が必要な事項について

ア 国は、国民の肝炎ウイルス検査に係る受検率や検査後の受診状況等について把握するための調査及び研究を引き続き行う。

イ 国は、現在、地方公共団体が実施主体となって行っている肝炎ウイルス検査について、地方公共団体に対し、引き続き、検査の実施とその体制の整備を要請する。地方公共団体は、例えば肝炎医療コーディネーター等を活用した普及啓発等の個別の受検勧奨等を進めるとともに、医療機関への委託検査や出張型検診等、利便性に配慮した体制の整備を図る。国は、これらの地方公共団体の取組に対して、研究班での成果等を踏まえ必要な支援を行う。

ウ 国及び地方公共団体は、相互に協力して、特に肝炎ウイルス検査の未受検者に対して肝炎ウイルス検査に関する効果的な広報に取り組む。あわせて、肝炎ウイルス検査の受検について、職域において健康管理に携わる者や、医療保険者、事業主等の関係者を通じ、職域において受検勧奨が行われるような取組を図る。

エ 国は、多様な検査機会の確保の観点から、健康保険法(大正十一年法律第七十号)に基づき行われる健康診査等及び労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)に基づき行われる健康診断時に併せて肝炎ウイルス検査が実施されるよう、地方公共団体や拠点病院等と連携し、研究班の成果等も踏まえ、医療保険者や事業主等の関係者の理解を得て、その促進に取り組む。

また、医療保険者や事業主が肝炎ウイルス検査を実施する場合の検査結果について、プライバシーに配慮した適正な通知と取扱いがなされるよう、医療保険者及び事業主に対して引き続き周知を行う。

オ 国、国立研究開発法人国立国際医療研究センター肝炎・免疫研究センター肝炎情報センター(以下「肝炎情報センター」という。)、地方公共団体、拠点病院等は、相互に連携を図りながら、肝炎ウイルス検査の受検前及び結果通知時において、受検者各自が、病態、治療及び予防について正しく認識できるよう、肝炎の病態、治療及び予防に関する情報について、受検者等への普及啓発を行う。

カ 国及び地方公共団体は、肝炎情報センター及び拠点病院の協力を得ながら、医療機関に対し、その規模を問わず、手術前等に行われる肝炎ウイルス検査の結果について、例えば電子カルテによるシステムを利用する等により、受検者に適切に説明を行うよう依頼する。医療機関は、肝炎ウイルス検査の結果について確実に説明を行い、受診につなげるよう取り組む。

キ 国、肝炎情報センター、地方公共団体及び拠点病院は、肝炎ウイルス検査実施機関において適切な検査が実施されるよう、保健所や医療機関の従事者に対して、最新の知見を踏まえた肝炎検査及び肝炎医療に関する研修の機会を提供する。また、研修の実施機関は、研修の実施状況について、適宜、国や都道府県に報告する。

第四 肝炎医療を提供する体制の確保に関する事項

(1) 今後の取組の方針について

肝炎ウイルス検査の結果、診療が必要と判断された者が医療機関で受診しない、また、たとえ医療機関で受診しても、必ずしも適切な肝炎医療が提供されていないという問題点が指摘されている。肝炎ウイルス検査の陽性者や肝炎患者等が適切な医療を受けるためには、陽性者及び肝炎患者等自身が診療についての一般的な知識を持つことが必要である。

このため、全ての肝炎患者等が継続的かつ適切な肝炎医療を受けられるよう、国が示す地域の肝疾患連携体制のあり方に基づき、拠点病院は、専門医療機関及びかかりつけ医との協働による地域での肝炎診療ネットワークの構築をさらに進める必要がある。また、拠点病院等の支援を行うため、肝炎情報センターは、肝炎医療に携わる者に対する研修の実施や情報提供、相談支援等を行うとともに、必要な調査や提言等を行う。

また、都道府県は、その区域内の市区町村と適切な情報交換を行うとともに、医療機関及び保険者等の地域や職域において健康管理に携わる者を含めた関係者の協力を得ながら、肝炎患者等に対する受診勧奨及び肝炎ウイルス検査後のフォローアップに関する取組を推進することにより、肝炎患者等の適切な医療機関への受診につなげる必要がある。

あわせて、国は、都道府県と市区町村間のフォローアップ事業における情報共有の実態を調査しつつ、その好事例を展開する等の施策を検討するとともに、精密検査の受診率の把握にも取り組む必要がある。受検、受診、受療及びフォローアップの全体的な状況について、網羅的なデータを把握することは困難ではあるものの、都道府県や市区町村との連携を深め、引き続き把握に取り組む。

さらに、これらの取組については、居住する地域にかかわらず適切な肝炎医療を等しく受けることができる肝疾患診療体制の確保を目指し、都道府県の実情に応じて推進する必要がある。また、その実施状況を把握し、効果的であるか適宜検証するとともに、必要に応じて情報交換を行いながら実施する必要がある。

また、心身等への負担がより少ない治療が可能となったことや、「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」等を踏まえ、肝炎患者等が、働きながら継続的に治療を受けることができるよう、事業主、職域において健康管理に携わる者及び労働組合をはじめとした幅広い関係者の理解及び協力を得られるように啓発を行う必要がある。また、就労支援に関する取組について、肝炎患者の就労に関する総合支援モデル事業の成果も活かしつつ、その推進を図る必要がある。

また、肝炎患者等の経済的負担軽減のための抗ウイルス療法に係る肝炎医療費助成の実施、重症化予防のための定期検査費用助成の実施、肝がん・重度肝硬変治療研究促進事業の実施、肝炎医療に係る諸制度の周知及び新たな抗ウイルス療法に関する情報を全国に適切に提供することにより、肝炎の早期かつ適切な治療を推進する。

(2) 今後取組が必要な事項について

ア 国、肝炎情報センター、地方公共団体、医療機関等は、肝炎患者等が個々の病態に応じた適切な肝炎医療を受けられるよう、肝炎患者等自身が診療についての正しい知識を得られるよう取り組む。また、肝炎ウイルス検査後のフォローアップや受診勧奨等に取り組む。さらに、地域や職域において中心となって活動できる肝炎医療コーディネーターの育成と活躍を推進する。

また、地方公共団体及び拠点病院は、医療機関等と連携して、肝炎医療コーディネーターの活動を可能な限り支援することが重要である。この際、国は、肝炎情報センターとともに、研究の成果等を踏まえた必要な技術的支援等を実施する。

また、都道府県等は、肝炎に対する情報提供や、拠点病院、専門医療機関及びかかりつけ医の連携等に資するため、例えば肝炎の病態、治療方法、肝炎医療に関する制度等の情報を取りまとめた手帳等の作成、配布及び活用の促進等を行う。専門医療機関は、提供された情報に基づき、適切な肝炎医療の提供に取り組む。国は、各都道府県等の取組を情報収集し、必要な情報提供を行う等、こうした都道府県等の取組を支援する。

イ 拠点病院は、都道府県での肝疾患の診療ネットワークの中心的な役割を果たす医療機関として、地方公共団体と協力して、他の専門医療機関やかかりつけ医と連携しつつ、肝炎患者等が地域で良質かつ適切な肝炎医療を受けられる環境を整備するよう取り組む。国、都道府県及び肝炎情報センターは、こうした拠点病院の取組に対して必要な支援を行う。

ウ 都道府県は、肝炎対策の推進に係る計画等を通じ、拠点病院等と協力しながら、肝炎医療の推進に取り組む。

エ 都道府県は、地域の肝炎対策を推進するため、行政、医療関係者、肝炎患者等その他の関係者で協議を行う場を設けるとともに、その適切な実施及び運営を図ることが重要である。また、拠点病院は、拠点病院等連絡協議会等で患者の意見を聴取する機会を持つこと等、患者の意見を把握する方策について検討し、必要な対応を行う。

オ 国は、肝炎情報センターと連携して、地域や職域において健康管理に携わる者が肝炎患者等に対して提供するために必要な情報を取りまとめるとともに、地方公共団体、拠点病院等が、こうした情報を医療保険者、事業主等へ提供できるよう、技術的支援等を行う。あわせて、国は、健康管理に携わる者を通して、肝炎患者等に対し適切な情報提供が図られるような取組を推進する。

カ 肝炎情報センターは、拠点病院の医療従事者等を対象にした効果的な研修や情報提供を進める。また、拠点病院は、肝炎医療に携わる者への研修等を行うとともに、地域での肝炎診療ネットワークの構築がさらに進むよう取り組む。国及び都道府県は、肝炎情報センター及び拠点病院のこれらの取組に対して必要な支援を行う。

キ 国は、研究班の成果や各地域での取組を踏まえつつ、地域の特性に応じ、肝炎患者等が適切な医療を受けられる診療連携体制の強化のための取組を支援する。

ク 国は、肝炎への理解を図るための知識や取組事例等を踏まえた肝炎患者等に対する望ましい配慮のあり方について、事業主等に対して分かりやすく啓発するための検討を引き続き行う。国は、その成果を活用し、地方公共団体及び拠点病院とも連携しながら、事業主等へ普及啓発を行う。

ケ 国は、就労を維持しながら適切な肝炎医療を受けることができる環境の整備等について、各事業主団体に対し、協力を要請する。

加えて、国、地方公共団体、拠点病院等は、心身等への負担がより少ない治療が可能となったことを踏まえ、働きながら適切な肝炎医療を受けることができるよう、必要に応じて職域において健康管理に携わる者等の協力を受けながら、事業主等に対して肝炎に関する啓発等を行う。

コ 国は、抗ウイルス療法に対する肝炎医療費助成、肝がん・重度肝硬変治療研究促進事業、初回精密検査・定期検査費用助成、高額療養費制度等の肝炎医療に関する制度をはじめ、傷病手当金、障害年金、身体障害者手帳等の肝炎患者等に関係する制度について、肝炎情報センター、地方公共団体、拠点病院の肝疾患相談センター等を通じて肝炎患者等に対して必要な情報提供を行うこと等により、これらの制度の利用が促進されるよう、より効果的な周知の方策について引き続き検討を行う。

サ 肝炎情報センターは、肝炎医療に係る最新情報、拠点病院、専門医療機関等の情報及び拠点病院等において対応可能である新たな抗ウイルス療法も含めた肝炎医療の内容に関して情報収集を行い、肝炎情報センターのホームページに分かりやすく掲載すること等により、可能な限り迅速に周知を図る。

シ 肝炎患者等への相談対応について、都道府県及び拠点病院は、地域の実情に応じてICTの活用等必要な取組を検討し、適切な相談体制の整備を図る。

第五 肝炎の予防及び肝炎医療に関する人材の育成に関する事項

(1) 今後の取組の方針について

肝炎ウイルスへの新たな感染を防止し、肝炎医療の水準を向上させるためには、肝炎の予防及び医療に携わる人材の育成が重要である。

このため、肝炎ウイルスへの新たな感染の発生の防止に資するよう、肝炎の感染予防について知識を持つ人材を育成するとともに、肝炎ウイルス感染が判明した後に適切な肝炎医療に結びつけるための人材を育成する必要がある。

また、肝炎医療に携わる者が、最新の肝炎検査に関する知見を修得することは、適切な治療方針の決定や患者に対し的確な説明を行う上で非常に重要であるため、肝炎情報センター及び拠点病院が中心となって、肝炎医療に携わる者の資質向上を図る必要がある。

さらに、肝炎医療に限らず肝炎患者等が直面する諸課題に対応できる人材の育成、確保等を図ることが必要である。

(2) 今後取組が必要な事項について

ア 国は、肝炎ウイルスへの新たな感染の発生を防止するために作成された日常生活上の感染予防の留意点を取りまとめた啓発用の資材や、高齢者施設及び保育施設における感染予防ガイドラインについて、地方公共団体等と連携を図りながら、普及啓発を進めるとともに、これらがより一層活用されるような方策を検討する。また、肝炎患者等が適切な環境で適切な医療を受けられるよう、医療機関に対して標準的な感染予防策の重要性について改めて周知を行う。

イ 地方公共団体は、国、拠点病院等と連携して、地域や職域において肝炎の普及啓発、受検勧奨や肝炎ウイルス検査後のフォローアップ等の支援を進める肝炎医療コーディネーター等の人材の育成と活躍の推進に取り組む。この際、肝炎医療コーディネーターの基本的な役割や活動内容等について、国が示す考え方を踏まえ、都道府県等においてこれらを明確にした上で育成を進めることが重要である。また、地方公共団体は、国、拠点病院等と連携して、肝炎医療コーディネーターの育成後もその活動状況の把握に努めるとともに、肝炎医療コーディネーター間の情報共有や連携がしやすい環境の整備に努めることが重要である。

ウ 国、肝炎情報センター、地方公共団体及び拠点病院は、肝炎ウイルス検査実施機関において適切な検査が実施されるよう、保健所や医療機関の従事者に対して、最新の知見を踏まえた肝炎検査及び肝炎医療に関する研修の機会を提供する。また、研修の実施機関は、研修の実施状況について、適宜、国や都道府県に報告する。

エ 肝炎情報センターは、拠点病院の医療従事者等を対象にした効果的な研修や情報提供を進める。また、拠点病院は、肝炎医療に携わる者への研修等を行うとともに、地域での肝炎診療ネットワークの構築がさらに進むよう取り組む。国及び都道府県は、肝炎情報センター及び拠点病院のこれらの取組に対して必要な支援を行う。

第六 肝炎に関する調査及び研究に関する事項

(1) 今後の取組の方針について

肝炎研究については、これまでの成果を肝炎対策に適切に反映するため、研究実績を総合的に評価、検証するとともに、今後、受検、受診及び受療の促進等について、肝炎ウイルス検査及び肝炎医療の均てん化の観点も踏まえた行政的な課題を解決するために必要な研究を実施していく必要がある。

また、「肝炎研究推進戦略」に基づき、特に、B型肝炎や肝硬変に対する医薬品や治療法の開発、C型肝炎のウイルス排除後の病態や診療のあり方等、肝炎医療の進捗を踏まえた研究内容の重点化を図るとともに、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以下「AMED」という。)と協力しながら、研究実績を総合的に評価及び検証する。

また、肝炎対策を総合的に推進するための基盤となる肝炎研究を推進するとともに、将来の肝炎研究を担う若手研究者の育成を行い、肝炎研究の人的基盤の拡大を目指す。

さらに、肝炎研究について、国民の理解を得られるよう、必要に応じてAMEDの協力を得ながら、分かりやすい情報発信を推進する必要がある。なお、研究成果の公表に当たっては偏見や差別を招くことのないよう、十分に配慮するものとする。

(2) 今後取組が必要な事項について

ア 国は、B型肝炎の創薬実用化研究を盛り込んだ「肝炎研究推進戦略」に基づく肝炎研究を一層推進するとともに、その研究成果について評価及び検証を行い、肝炎対策推進協議会に報告する。

イ 国は、肝炎研究分野において、若手研究者の人材育成を積極的に行う。

ウ 国は、肝炎対策の推進に資することを目的に、肝炎ウイルスへの新たな感染の発生防止に資する研究、肝炎ウイルス検査受検促進及び検査結果が陽性である者への効率的なフォローアップに関する研究、医療機関において行われる肝炎ウイルス検査の結果の説明及び情報提供の確実な実施に関する研究、地域における病診連携の推進に資する研究、職域における肝炎患者等に対する望ましい配慮の在り方に関する研究、肝硬変、肝がん等の病態別の実態を把握するための研究、肝炎患者等に対する偏見や差別並びにその被害の防止に資する研究、地域や職域等での肝炎ウイルス検査や検査後の受診状況等の実態把握と今後の在り方に関する研究、肝炎について理解を深めるための普及啓発方法に関する研究及び肝炎対策の効果検証に資する指標に関する研究等の行政的な課題を解決するための研究を「肝炎研究推進戦略」に位置付け、これらの研究を実施する。

エ 国は、肝炎研究について国民の理解を得られるよう、当該研究の成果について分かりやすく公表し、周知を図る。

第七 肝炎医療のための医薬品の研究開発の推進に関する事項

(1) 今後の取組の方針について

肝炎治療に係る最近の動向を踏まえ、特にB型肝炎、肝硬変及び肝がんを含むがんの治療に係る医薬品の開発等に係る研究が促進され、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)の規定に基づく製造販売の承認が早期に行われるよう、治験及び臨床研究を推進する。さらに、肝炎医療のための医薬品を含めた、特に医療上必要性が高い医薬品及び医療機器が速やかに医療現場に導入されるよう、審査の迅速化等の必要な措置を講じる必要がある。

(2) 今後取組が必要な事項について

ア 国は、肝炎医療の医療水準の向上等に資する新医薬品の開発等に係る研究を推進する。

イ 国は、肝炎医療に係る新医薬品を含めた医薬品開発等に係る治験及び臨床研究を推進する。

ウ 国は、肝炎医療に係る新医薬品、新医療機器等について、優れた製品を迅速に医療の現場に提供できるよう、有効性や安全性に関する審査体制の充実強化等を図る等承認審査の迅速化や質の向上に向けた取組を推進する。

エ 国は、肝炎医療に係る新医薬品等のうち、欧米諸国で承認等されているが国内で未承認の医薬品等であって医療上必要性が高いと認められるものについて、関係企業に治験実施等の開発要請の取組を行う。

オ 国は、肝炎医療に係る新医薬品等のうち、医療上の有用性等の要件を満たす医薬品については、優先して承認審査を進める。

第八 肝炎に関する啓発及び知識の普及並びに肝炎患者等の人権の尊重に関する事項

(1) 今後の取組の方針について

肝炎に係る正しい知識については、いまだ国民に十分に浸透したとは言えない状況にある。こうした中において、特定の血液凝固因子製剤や集団予防接種により感染が拡大した経緯も踏まえ、肝炎ウイルス検査の受検を勧奨し、また、肝炎ウイルスの新たな感染を予防するためには、全ての国民に対して、肝炎の予防、病態及び治療に係る正しい理解が進むよう普及啓発及び情報提供を推進する必要がある。

また、早期に適切な治療を促すため、肝炎患者等が肝炎の病態及び治療に係る正しい知識を持つことができるよう、普及啓発及び情報提供を積極的に行うとともに、肝炎患者等の人権を守るため、肝炎患者等が不当な差別を受けることなく、社会において安心して暮らせる環境づくりを目指し、肝炎患者等とその家族等、医療従事者、事業主等の関係者をはじめとした全ての国民が、肝炎について正しい知識を持つための普及啓発を推進する必要がある。

その際、「人権教育・啓発に関する基本計画」(平成二十三年四月一日閣議決定)において、「感染症については、まず、治療及び予防といった医学的な対応が不可欠であることは言うまでもないが、それとともに、患者、元患者や家族に対する偏見や差別意識の解消など、人権に関する配慮も欠かせないところである」とされていることにも十分配慮するものとする。

(2) 今後取組が必要な事項について

ア 国、地方公共団体等は、毎年七月の世界肝炎デー、日本肝炎デー及び肝臓週間において、肝炎に関する集中的な普及啓発を行う等の取組を行う。あわせて、国及び地方公共団体が連携し、医療関係者、関係学会、事業主、肝炎患者等その他の関係者の協力も得ながら、効果的な普及啓発を行う。

イ 国は、地方公共団体と連携しながら、あらゆる世代の国民が肝炎に係る正しい知識を持ち、肝炎患者等及びその患者家族等に対する偏見や差別の解消に資するよう、一層強力に普及啓発を行う。

ウ 近年、我が国における感染事例の報告が増加してきているジェノタイプAのB型肝炎ウイルスによる急性肝炎は、成人期の感染でも肝炎が遷延して慢性化しやすいことに鑑み、国及び地方公共団体は、国民に対し、母子感染や乳幼児期の水平感染に加えて、ピアスの穴開けやタトゥー(刺青)、性行為等により感染する可能性があり、予防策を講じる必要があること等、必要な普及啓発を行う。

エ 国は、ピアスの穴あけ及びいわゆるアートメイク等血液の付着する器具の共有を伴う行為や性行為等の肝炎ウイルスの感染の危険性のある行為についての正しい知識と理解を深めるための普及啓発を幅広く進めるとともに、その推進方策について、地方公共団体、学校教育関係者、患者団体等の様々な関係者と連携し検討を進める。

オ 国及び地方公共団体は、肝炎患者等への受診勧奨を行うため、必要に応じて肝炎情報センター、拠点病院等と連携し、医療保険者、医師その他の医療従事者の団体、職域において健康管理に携わる者の団体、事業主団体等の協力を得て、誰もが肝炎ウイルスに感染する可能性があることや肝炎検査と早期の受診・受療の必要性等、肝炎患者等に対する偏見や差別が存在すること等の観点も含め、肝炎についての基本的な理解を得られるように取組を行う。

カ 国は、就労を維持しながら適切な肝炎医療を受けることができる環境の整備等について、各事業主団体に対し、協力を要請する。

加えて、国、地方公共団体、拠点病院等は、心身等への負担がより少ない治療が可能となったことを踏まえ、働きながら適切な肝炎医療を受けることができるよう、必要に応じて職域において健康管理に携わる者等の協力も受けながら、事業主等に対して肝炎に関する啓発等を行う。

キ 国及び肝炎情報センターは、地域の医療機関が肝炎に係る情報提供を受けられるよう、拠点病院等に対し適切な研修や情報提供等を行うものとする。

ク 肝炎患者等に対する適切な相談支援を図るため、都道府県及び拠点病院は、相互に連携の上、市区町村、医療機関等の関係者の協力を得ながら、拠点病院の肝疾患相談センターも含めた窓口の設置状況等の周知を図る。

ケ 国は、医療保険者や事業主が肝炎ウイルス検査を実施する場合の検査結果について、プライバシーに配慮した適正な通知と取扱いがなされるよう、医療保険者及び事業主に対して引き続き周知を行う。

コ 国は、様々な機会を利用して肝炎患者等及びその患者家族等に対する偏見や差別を解消するために、地方公共団体、学校教育関係者、患者団体等の様々な関係者と連携し、これまでの研究成果を基に、肝炎に関する啓発及び知識の普及並びに肝炎患者等の人権の尊重に係る推進の方策を検討し、これらの取組を進める。

サ 偏見や差別に関する問題事案について、法務局や地方公共団体の人権相談窓口等で相談に応じていることから、国、地方公共団体等において、必要に応じ当該窓口等の情報提供を行う。

第九 その他肝炎対策の推進に関する重要事項

(1) 肝炎患者等及びその家族等に対する支援の強化及び充実

ア 今後の取組の方針について

肝炎患者等及びその家族等が、肝炎医療を受けながら、生活の質の向上を図ることができるよう、肝炎患者等やその経験者との協働を図りながら、引き続き相談及び情報提供等の支援体制の充実を図り、精神面でのサポート体制を強化する。また、肝炎患者等が不当な差別を受けた場合、肝炎患者等一人一人の人権を尊重し、不当な差別を解消するため、適切な対応を講じることができる体制づくりを進める必要がある。

イ 今後取組が必要な事項について

(ア) 都道府県、拠点病院等は、肝炎患者等及びその家族等の不安を軽減するための情報提供に努めるとともに、肝炎患者等及びその家族等と、医師をはじめとした医療従事者とのコミュニケーションの場を提供することが重要である。国及び肝炎情報センターは、都道府県等のこうした取組に対して、必要な技術的支援を行う。

(イ) 肝炎情報センターは、拠点病院の相談員が必要とする情報について整理し、適切に情報提供を行うようにする。

(ウ) 偏見や差別に関する問題事案について、法務局や地方公共団体の人権相談窓口等で相談に応じていることから、国、地方公共団体等において、必要に応じ当該窓口等の情報提供を行う。

(2) 肝硬変及び肝がん患者に対する更なる支援の在り方

肝炎から進行した肝硬変及び肝がんは、根治的な治療法が少なく、また、患者の高齢化が進んでいる現状がある。このため、肝硬変及び肝がん患者の不安を軽減するために、以下の取組を講じるものとする。

ア 国は、肝硬変及び肝がんを含む肝疾患について、「肝炎研究推進戦略」に基づく研究を推進する。あわせて、肝炎情報センター、拠点病院等は、肝硬変及び肝がんを含む肝疾患に係る肝炎医療の水準の向上等を図るため、医療従事者への研修及び情報提供等を推進する。

イ 都道府県、拠点病院等は、肝炎から進行した肝硬変及び肝がん患者を含む肝炎患者等及びその家族等の不安を軽減するための情報提供に努めるとともに、肝炎患者等及びその家族等と、医師をはじめとした医療従事者とのコミュニケーションの場を提供することが重要である。国及び肝炎情報センターは、都道府県等のこうした取組に対して、必要な技術的支援を行う。

ウ 平成二十二年度から、身体障害者福祉法(昭和二十四年法律第二百八十三号)における身体障害として、障害認定の対象とされている肝臓機能障害については、平成二十八年度に認定基準の見直しが行われ、要件の緩和及び対象の拡大がなされたところであり、引き続きその認定状況の把握を行う。障害認定を受けた者の肝臓移植、肝臓移植後の抗免疫療法とそれらに伴う医療については、自立支援医療(更生医療)の対象となっており、引き続き当該措置を継続する。

エ 国は、平成三十年十二月から開始された肝がん・重度肝硬変治療研究促進事業について、令和三年四月に行われた見直しの内容及びその実施状況を踏まえながら、当該事業のより効果的な活用に向けた周知も含めた方策について、引き続き検討を行う。

(3) 地域の実情に応じた肝炎対策の推進

ア 都道府県においては、肝炎対策基本法(平成二十一年法律第九十七号。(4)及び(5)において「法」という。)の趣旨に基づき、都道府県単位での肝炎対策を推進するための計画を策定する等、地域の実情に応じた肝炎対策を講じるための体制を構築し、管内市区町村、拠点病院をはじめとした医療関係者、肝炎患者等及びその他の関係者と連携して肝炎対策を推進することが望まれる。このため、国は、都道府県に対して、地域の実情に基づき、これらの関係者と協議のうえ、肝炎対策に係る計画及び目標の設定を図るよう促す。また、都道府県は、その実施状況の把握、評価及び見直しを実施することが重要である。

また、地方公共団体は、積極的に、国をはじめとする他の行政機関との連携を図りつつ肝炎対策を講じることが望まれる。この際、地域の実情に応じ、保健所等の活用を図ることも重要である。

なお、国及び肝炎情報センターは、地方公共団体が行うこれらの取組に対し、必要に応じ技術的支援等を行う。

イ 国及び肝炎情報センターは、都道府県間での肝炎医療の均てん化に資するよう、その実施状況に鑑み、適切な情報提供や助言を地方公共団体、拠点病院等に対して行うとともに、更に必要な意見交換を行うものとする。

(4) 国民の責務に基づく取組

法第六条の規定に鑑み、肝炎対策は、肝炎患者等とその家族等を含めた国民が主体的かつ積極的に活動する必要があり、以下の取組を進めることが重要である。

ア 肝炎は放置すると肝硬変や肝がんという重篤な病態へと進展する可能性があり、各人の健康保持及び生命に重大な影響をもたらし得る疾病であることを十分認識して、国民一人一人が、少なくとも一回は肝炎ウイルス検査を受検し、自身の肝炎ウイルス感染の有無を確認するとともに、必要に応じて精密検査の受診等の適切な行動を起こすよう努めること。

イ 国民一人一人が、肝炎ウイルスへの新たな感染の可能性がある行為について正しい知識を持ち、新たな感染が生じないよう適切に行動すること。また、肝炎ウイルスの感染に関する知識が不足していること等により、肝炎患者等に対する不当な差別や、それに伴う肝炎患者等の精神的な負担が生じることのないよう、正しい知識を身に付け、適切な対応に努めること。

(5) 肝炎対策基本指針の見直し及び定期報告

法第九条第五項においては、「厚生労働大臣は、肝炎医療に関する状況の変化を勘案し、及び肝炎対策の効果に関する評価を踏まえ、少なくとも五年ごとに、肝炎対策基本指針に検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更しなければならない。」とされている。

本指針は、肝炎を巡る現状を踏まえ、肝炎対策を総合的に推進するために基本となる事項について定めたものである。本指針に定める取組に関し、国は、国、地方公共団体等における取組の状況について、定期的に調査及び評価を行い、肝炎を巡る状況変化を的確に捉えた上で、必要があるときは、改正から五年を経過する前であっても、本指針について検討を加え、改正するものとする。なお、本指針に定められた取組の状況について、国は肝炎対策推進協議会に定期的に報告するものとする。