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○良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針

(平成二十六年三月七日)

(厚生労働省告示第六十五号)

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律(平成二十五年法律第四十七号)の施行に伴い、及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)第四十一条第一項の規定に基づき、良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針を次のように定めたので、同条第三項の規定に基づき公表し、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律の施行の日(平成二十六年四月一日)から適用する。

良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針

目次

前文

第一 精神病床の機能分化に関する事項

一 基本的な方向性

二 入院医療から地域生活への移行の推進

三 急性期の精神障害者に対して医療を提供するための体制の確保等

四 入院期間が一年未満の精神障害者に対する医療を提供するための体制の確保

五 重度かつ慢性の症状を有する精神障害者に対して医療を提供するための体制の確保

六 重度かつ慢性の症状を有する精神障害者以外の、入院期間が一年以上の長期入院精神障害者に対する医療を提供するための体制の確保等

七 身体疾患を合併する精神障害者に対する医療を提供するための体制の確保

第二 精神障害者の居宅等における保健医療サービス及び福祉サービスの提供に関する事項

一 基本的な方向性

二 外来・デイケア等を利用する精神障害者に対する医療の在り方

三 居宅等における医療サービスの在り方

1 アウトリーチ

2 訪問診療・訪問看護

四 精神科救急医療体制の整備

1 二十四時間三百六十五日対応できる医療体制の確保

2 身体疾患を合併する精神障害者の受入体制の確保

3 評価指標の導入

五 他の診療科の医療機関との連携

六 保健サービスの提供

七 福祉サービスの提供等

第三 精神障害者に対する医療の提供に当たっての医師、看護師その他の医療従事者と精神保健福祉士その他の精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識を有する者との連携に関する事項

一 基本的な方向性

二 精神障害者に対する入院医療における医師、看護職員、精神保健福祉士、作業療法士等の多職種の連携の在り方

三 地域で生活する精神障害者に対する医療における医師、看護職員、精神保健福祉士、作業療法士等の多職種の連携の在り方

四 人材の養成と確保

第四 その他良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供の確保に関する重要事項

一 関係行政機関等の役割

1 都道府県

2 市町村

3 保健所

4 精神保健福祉センター

5 精神医療審査会

二 人権に配慮した精神医療の提供

三 多様な精神疾患・患者像への医療の提供

1 児童・思春期精神疾患

2 老年期精神障害等

3 自殺対策

4 依存症

5 てんかん

6 高次脳機能障害

7 摂食障害

8 その他必要な医療

ア 災害医療

イ 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対する医療

四 精神医療の診療方法の標準化

五 心の健康づくりの推進及び知識の普及啓発

六 精神医療に関する研究の推進

七 他の指針等との関係の整理

八 推進体制

前文

精神疾患を発症して精神障害者となると、通院、入院又は退院後に地域生活を行う場面等様々な状況に応じて、精神障害者本人の精神疾患の状態や本人の置かれている状況が変化することとなるが、どのような場面においても、精神障害者が精神疾患の悪化や再発を予防しながら、地域社会の一員として安心して生活することができるようにすることが重要である。

そのような重要性に鑑み、精神障害者の社会復帰及び自立並びに社会経済活動への参加を促進し、精神障害者が社会貢献できるよう、精神障害者の障害の特性その他の心身の状態に応じた良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保することが必要である。

これを踏まえ、本指針においては、入院医療中心の精神医療から精神障害者の地域生活を支えるための精神医療への改革の実現に向け、精神障害者に対する保健・医療・福祉に携わる全ての関係者(国、地方公共団体、精神障害者本人及びその家族、医療機関、保健医療サービス及び福祉サービスの従事者その他の精神障害者を支援する者をいう。)が目指すべき方向性を定める。

本指針は、次に掲げる事項を基本的な考え方とする。

① 精神医療においても、インフォームドコンセント(医師等が医療を提供するに当たり適切な説明を行い、患者が理解し同意することをいう。以下同じ。)の理念に基づき、精神障害者本位の医療を実現していくことが重要であり、精神障害者に対する適切な医療及び保護の確保の観点から、精神障害者本人の同意なく入院が行われる場合においても、精神障害者の人権に最大限配慮した医療を提供すること。

② 精神疾患の発生を予防し、発症した場合であっても早期に適切な医療を受けられるよう、精神疾患に関する知識の普及啓発や精神医療の体制の整備を図るとともに、精神障害者が地域の一員として安心して生活できるよう精神疾患に対する理解の促進を図ること。

③ 精神障害者同士の支え合い等を行うピアサポートを促進するとともに、精神障害者を身近で支える家族を支援することにより、精神障害者及びその家族が、それぞれ自立した関係を構築することを促し、社会からの孤立を防止するための取組を推進すること。

国及び地方公共団体は、相互に連携を図りながら、必要な人材の確保と質の向上を推進するとともに、本指針の方向性を実現するため、必要な財源の確保を図る等の環境整備に努め、医療機関、保健医療サービス及び福祉サービスの従事者その他の精神障害者を支援する者は、本指針に沿った精神医療の提供を目指す。

第一 精神病床の機能分化に関する事項

一 基本的な方向性

1 精神医療のニーズの高まりに対応し、入院医療の質の向上を図るため、世界的な潮流も踏まえつつ、我が国の状況に応じて、精神障害者の精神疾患の状態や特性に応じた精神病床(病院の病床のうち、精神疾患を有する者を入院させるためのものをいう。以下同じ。)の機能分化を進める。

2 精神病床の機能分化に当たっては、精神障害者の退院後の地域生活支援を強化するため、外来医療等の入院外医療や、医師、看護職員、精神保健福祉士、作業療法士等の多職種による訪問支援その他の保健医療サービス及び福祉サービスの充実を推進する。

3 精神病床の機能分化は段階的に行い、精神医療に係る人材及び財源を効率的に配分するとともに、精神障害者の地域移行を更に進める。その結果として、精神病床は減少する。また、こうした方向性を更に進めるため、地域の受け皿づくりの在り方や病床を転換することの可否を含む具体的な方策の在り方について、精神障害者の意向を踏まえつつ、保健・医療・福祉に携わる様々な関係者で検討する。

二 入院医療から地域生活への移行の推進

1 精神病床の機能分化に当たっては、それぞれの病床の機能に応じて、精神障害者が早期に退院するための体制を確保し、精神障害者の状況に応じた医師、看護職員、精神保健福祉士、作業療法士等の多職種のチームによる質の高い医療を提供すること等により精神障害者の退院の促進に取り組む。

2 病院内で精神障害者の退院支援に関わる者は、精神障害者に必要な情報を提供した上で、精神障害者本人の希望等も踏まえながら、できる限り早い段階から地域の相談支援専門員(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定地域相談支援の事業の人員及び運営に関する基準(平成二十四年厚生労働省令第二十七号)第三条第二項に規定する相談支援専門員及び障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定計画相談支援の事業の人員及び運営に関する基準(平成二十四年厚生労働省令第二十八号)第三条第一項に規定する相談支援専門員をいう。以下同じ。)や介護支援専門員(介護保険法(平成九年法律第百二十三号)第七条第五項に規定する介護支援専門員をいう。)等と連携しつつ、精神障害者に対する働きかけを行うとともに、精神障害者が地域で生活するための必要な環境整備を推進する。

3 退院後の生活環境の整備状況等を踏まえつつ、入院前に診療を行っていた地域の医療機関等とも連携し、精神障害者に対する入院医療の継続の必要性について、随時検討する体制を整備する。

三 急性期の精神障害者に対して医療を提供するための体制の確保等

1 新たに入院する急性期の精神障害者が早期に退院できるよう、手厚く密度の高い医療を提供するための体制を確保する。

2 当該体制の確保のため、急性期の精神障害者を対象とする精神病床においては、医師及び看護職員の配置を一般病床と同等とすることを目指し、精神障害者の状況に応じた医師、看護職員、精神保健福祉士、作業療法士等の多職種のチームによる質の高い医療を提供し、退院支援等の取組を推進する。

3 救急の外来で受診し、入院した急性期の精神障害者に対して適切な医療を提供できる体制の確保を推進する。

四 入院期間が一年未満の精神障害者に対する医療を提供するための体制の確保

1 入院期間が長期化した場合、精神障害者の社会復帰が難しくなる傾向があることを踏まえ、入院期間が一年未満で退院できるよう、精神障害者の退院に向けた取組を行いつつ、必要な医療を提供するための体制を確保する。

2 当該体制の確保のため、入院期間が一年未満の精神障害者に対して医療を提供する場合においては、当該精神障害者の状況に応じた医師、看護職員、精神保健福祉士、作業療法士等の多職種のチームによる質の高い医療を提供し、退院支援等の取組を推進する。

五 重度かつ慢性の症状を有する精神障害者に対して医療を提供するための体制の確保

重度かつ慢性の症状を有する精神障害者について、その症状に関する十分な調査研究を行い、当該調査研究の結果を踏まえて、当該精神障害者の特性に応じた医療を提供するための機能を確保する。

六 重度かつ慢性の症状を有する精神障害者以外の、入院期間が一年以上の長期入院精神障害者に対する医療を提供するための体制の確保等

1 重度かつ慢性の症状を有する精神障害者以外の精神障害者であって、本指針の適用日時点で一年以上の長期入院をしているものについては、退院支援や生活支援等を通じて地域移行を推進し、併せて、当該長期入院精神障害者の状態に合わせた医療を提供するための体制を確保する。

2 当該体制の確保のため、重度かつ慢性の症状を有する精神障害者以外の精神障害者であって、本指針の適用日時点で一年以上の長期入院をしているものに対して医療を提供する場合においては、医師、看護職員、精神保健福祉士、作業療法士等の多職種による退院支援等の退院の促進に向けた取組を推進する。

3 当該長期入院をしている者に対しては、原則として行動の制限は行わないこととし、精神科病院内での面会や外出支援等の支援を通じて、障害福祉サービスを行う事業者等の外部の支援者との関係を作りやすい環境や、社会とのつながりを深められるような開放的な環境を整備すること等により、地域生活に近い療養環境の整備を推進する。

七 身体疾患を合併する精神障害者に対する医療を提供するための体制の確保

1 身体疾患を合併する精神障害者については、身体疾患を優先して治療すべき場合や一般病床に入院しているときに精神症状を呈した場合等において、精神科以外の診療科と精神科リエゾンチーム(精神科医、専門性の高い看護師、薬剤師、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理技術者等の多職種からなるチームをいう。)等との連携を図りつつ、身体疾患を一般病床で治療することのできる体制を確保する。

2 総合病院における精神科の機能の確保及び充実を図りつつ、精神病床においても身体合併症に適切に対応できる体制を確保する。

第二 精神障害者の居宅等における保健医療サービス及び福祉サービスの提供に関する事項

一 基本的な方向性

精神障害者の地域生活への移行を促進するとともに、精神障害者が地域で安心して生活し続けることができるよう、地域における居住環境及び生活環境の一層の整備や精神障害者の主体性に応じた社会参加を促進するための支援を行い、入院医療のみに頼らず精神障害者が地域で生活しながら医療を受けられるよう、精神障害者の急性増悪等への対応や外来医療の充実等を推進することにより、精神障害者の精神疾患の状態やその家族の状況に応じていつでも必要な保健医療サービス及び福祉サービスを提供できる体制を確保する。

二 外来・デイケア等を利用する精神障害者に対する医療の在り方

1 精神障害者が、外来・デイケア等で適切な医療を受けながら地域で生活できるよう、病院及び診療所における外来医療の提供体制の整備・充実及び地域における医療機関間の連携を推進する。

2 精神障害者が地域で安心して生活し続けることができるよう、生活能力等の向上に向けた専門的かつ効果的なリハビリテーションを外来・デイケア等で行うことができる体制の確保を推進する。

三 居宅等における医療サービスの在り方

1 アウトリーチ

ア 病院及び診療所において、アウトリーチ(医師、看護職員、精神保健福祉士、作業療法士等の多職種のチームによる訪問支援をいう。以下同じ。)を行うことのできる体制を整備し、受療が必要であるにもかかわらず治療を中断している者(以下「受療中断者」という。)、長期間入院した後に退院したが、病状が不安定である者等が地域で生活するために必要な医療へのアクセスを確保する。

2 訪問診療・訪問看護

ア 精神障害者の地域生活を支えるため、通院が困難な精神障害者等に対する往診や訪問診療の充実を推進する。

イ 精神科訪問看護による地域生活支援を強化するため、病院、診療所及び訪問看護ステーションにおいては、看護職員、精神保健福祉士等の多職種による連携を図るとともに、その他の保健医療サービス及び福祉サービスを担う職種の者との連携を図る。

四 精神科救急医療体制の整備

1 二十四時間三百六十五日対応できる医療体制の確保

ア 都道府県は、在宅の精神障害者の急性増悪等に対応できるよう、精神科病院と地域の精神科診療所との役割分担の下、地域の特性を活かしつつ、患者に二十四時間三百六十五日対応できる精神科救急医療のシステムの整備や精神医療に関する相談窓口の設置等の医療へアクセスするための体制の整備を推進する。

イ 地域の特性を活かしつつ、精神科診療所間又は精神科救急医療を行う病院間の輪番等に協力することにより夜間・休日における救急診療を行う等、精神科診療所の医師が救急医療に参画できる体制の整備を推進する。

2 身体疾患を合併する精神障害者の受入体制の確保

ア 身体疾患を合併する精神障害者に係る救急の対応については、当該精神障害者の身体疾患及び精神疾患の状態を評価した上で、両疾患のうち優先して治療すべき疾患に対応できる救急医療機関が患者を受け入れるとともに、身体疾患の治療を優先した場合には、精神科の医療機関が当該患者に係る精神疾患の治療の後方支援を行い、精神疾患の治療を優先した場合は、身体疾患の治療を行うことができる医療機関が当該患者に係る精神疾患の治療の後方支援を行う体制を構築する。

イ 都道府県は、精神科救急医療機関と他の医療機関の連携が円滑に行われるよう、両機関の関係者が参加する協議会の開催等の取組を推進する。

ウ 都道府県は、身体疾患を合併する精神障害者に対応するため、精神医療に関する相談窓口や精神科救急医療に関する情報センターの整備等に加え、医療機関が当該患者を速やかに受け入れられるよう、身体疾患を合併する精神障害者の受入体制を確保する。

エ 精神科及び身体疾患に対応する内科等の診療科の両方を有する医療機関においても、身体疾患を合併する精神障害者に対応できる体制の充実を図る。

3 評価指標の導入

精神科救急医療機関は、他の医療機関との相互評価等を行い、提供する医療の質の向上を推進する。

五 他の診療科の医療機関との連携

1 精神科外来等において身体疾患に対する医療提供の必要性が認められた場合は、精神科の医療機関と他の診療科の医療機関の連携が円滑に行われるよう、両機関の関係者が参加する協議会の開催等の取組を推進する。

2 鬱病等の気分障害の患者、認知症の患者等は、内科医等のかかりつけ医が最初に診療する場合もあることから、鬱病等の気分障害の患者、認知症の患者等の早期発見・治療のため、かかりつけ医の診療技術等の向上に努め、また、かかりつけ医と精神科の医療機関の連携を強化する。

六 保健サービスの提供

保健所や精神保健福祉センター等における相談支援及び訪問支援を通して、地域の病院及び診療所が連携・協力しつつ、精神障害者が早期に必要な医療に適切にアクセスできる体制の整備を推進するとともに、関係機関の連携を進める。

七 福祉サービスの提供等

1 精神障害者が地域で福祉サービスを受けながら適切な医療を受けることができるよう、医療機関及び障害福祉サービス事業を行う者、介護サービス事業を行う者等の連携を進める。

2 地域移行・地域定着支援サービス(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号。以下「障害者総合支援法」という。)第五条第二十項に規定する地域移行支援及び同条第二十一項に規定する地域定着支援をいう。)の充実を図るため、市町村が単独又は共同して設置する協議会(障害者総合支援法第八十九条の三第一項の協議会をいう。)における地域の関係機関等の連携及び支援体制の整備に関する機能を強化するとともに、市町村における基幹相談支援センター(障害者総合支援法第七十七条の二第一項の基幹相談支援センターをいう。)の整備を目指す。

3 精神障害者が地域で生活するために必要なグループホーム(障害者総合支援法第五条第十七項に規定する共同生活援助を行う住居をいう。)や賃貸住宅等の居住の場の確保・充実、家賃債務等保証(家賃や原状回復等に係る債務保証の仕組みをいう。)の活用等の居住支援に関する施策を推進する。

4 精神障害者の精神疾患の状態やその家族の状況等に応じ、短期入所(障害者総合支援法第五条第七項に規定する短期入所をいう。)による宿泊等の支援が受けられる体制の整備を推進する。

5 その他地域での相談支援、就労支援を含む日中活動支援、居住支援、ホームヘルパーの派遣等による訪問支援等の様々なサービスを地域において提供できる支援体制の整備を推進する。

第三 精神障害者に対する医療の提供に当たっての医師、看護師その他の医療従事者と精神保健福祉士その他の精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識を有する者との連携に関する事項

一 基本的な方向性

1 精神障害者に対する医療の提供、地域移行のための退院支援及び地域で生活するための生活支援においては、医師、看護職員、精神保健福祉士、作業療法士等の多職種のチームにより行うことが重要であり、当該多職種のチームで連携して医療を提供できる体制を確保する。

2 精神障害者本人のための支援を行えるよう、医師、看護職員、精神保健福祉士、作業療法士等の多職種間の連携や関係機関の連携に当たっては、個人情報の保護に十分に配慮しつつ、本人の意向を踏まえた支援を行う。

二 精神障害者に対する入院医療における医師、看護職員、精神保健福祉士、作業療法士等の多職種の連携の在り方

1 精神障害者に対する入院医療においては、精神障害者に対する医療の質の向上のため、医師、看護職員、精神保健福祉士、作業療法士等の多職種の適切な連携を確保し、当該多職種のチームによる医療を提供する。

2 精神障害者の退院支援等における医師、看護職員、精神保健福祉士、作業療法士等の多職種の連携に当たっては、精神障害者及びその家族の支援や医療機関及び関係機関の連携を推進する。

3 入院早期から退院に向けた取組が行えるよう、早期退院を目指した取組を推進する。

三 地域で生活する精神障害者に対する医療における医師、看護職員、精神保健福祉士、作業療法士等の多職種の連携の在り方

1 精神科の医療機関での外来・デイケア等においては、医師、看護職員、精神保健福祉士、作業療法士、薬剤師、臨床心理技術者等の多職種が連携し、精神障害者の精神疾患の状態に応じた医療を提供するとともに、必要な支援を行えるような体制の整備を推進する。

2 アウトリーチにおいては、受療中断者等に対し、医師、看護職員、作業療法士、精神保健福祉士、薬剤師、臨床心理技術者等の医療従事者を中心としつつ、必要に応じて、保健所及び市町村保健センターの保健師及び精神保健福祉相談員(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号。以下「法」という。)第四十八条に規定する精神保健福祉相談員をいう。)並びに相談支援専門員等の多職種が連携し、必要な医療を確保する。

四 人材の養成と確保

1 精神障害者に対する質の高い医療の提供、精神障害者の退院の促進及び地域生活支援のため、精神障害者に対して保健医療サービス及び福祉サービスを提供するチームを構成する専門職種その他の精神障害者を支援する人材の育成と質の向上を推進する。

2 ピアサポーターは、精神障害者やその家族の気持ちを理解し支える支援者であることを踏まえ、ピアサポーターが適切に支援を行えるよう、必要な研修等の取組を推進する。

3 医療従事者が多様な精神疾患に関する一定の知識及び技術を持つことができるよう、医療機関において各専門職が精神科での研修を受けることを推進する等、精神疾患に関する正しい知識及び技術の普及啓発を推進する。

4 精神保健指定医(法第十八条第一項に規定する精神保健指定医をいう。以下同じ。)が行う業務に関するニーズの増大や多様化等を踏まえ、精神保健指定医の人材の確保及び効率的な活用並びに質の向上を推進する。

第四 その他良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供の確保に関する重要事項

一 関係行政機関等の役割

1 都道府県

ア 都道府県は、医療計画(医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第三十条の四第一項に規定する医療計画をいう。七において同じ。)、障害福祉計画(障害者総合支援法第八十八条第一項に規定する市町村福祉計画及び同法第八十九条第一項に規定する都道府県障害福祉計画をいう。七において同じ。)、介護保険事業計画(介護保険法(平成九年法律第百二十三号)第百十七条第一項に規定する市町村介護保険事業計画及び同法第百十八条第一項に規定する都道府県介護保険事業支援計画をいう。七において同じ。)等を踏まえながら、必要な医療を提供できる体制を確保する。

イ 都道府県は、市町村と協力しつつ一次予防の観点から心の健康づくりを推進し、精神疾患の予防に努める。

ウ 都道府県は、特に重い精神疾患を有する精神障害者については、必要に応じて法第三十四条第一項の規定による移送を行い、法第三十三条第一項に基づき医療保護入院を行うことを検討し、当該入院のための調整を行う等、関係機関と連携して、精神障害者に対して適切な医療を提供する。

エ 都道府県は、措置入院者(法第二十九条第一項の規定により入院した者をいう。)の入院初期から積極的に支援に関与し、医療機関や障害福祉サービスの事業者等と協力して、措置入院者の退院に向けた支援の調整を行う。

2 市町村

市町村は、その実情に応じて、都道府県及び保健所と協力しながら、心の健康づくりや精神保健に関する相談への対応に努める。また、障害福祉サービスや介護サービスの必要な提供体制を確保するとともに、地域包括支援センターで高齢者の相談に対応すること等によりこれらのサービスの利用に関する相談に対応する。

3 保健所

ア 保健所は、市町村と協力しつつ一次予防の観点から心の健康づくりを推進し、精神疾患の予防に努める。

イ 保健所は、保健師や精神保健福祉相談員等の職員等による相談支援や訪問支援等を通じ、精神障害者(その疑いのある未診断の者を含む。)やその家族等に対して治療の必要性を説明し、精神疾患に関する知識の普及を図ることにより、早期に適切な治療につなげることを目指す。

ウ 保健所は、精神障害者が適切な医療を受け、安心して地域生活を送ることができるよう、医療機関等と連携して、精神障害者の急性増悪や精神疾患の再発に迅速かつ適切に対応するための体制の整備に努める。

エ 保健所は、特に重い精神疾患を有する精神障害者については、必要に応じて法第三十四条第一項の規定による移送を行い、法第三十三条第一項に基づき医療保護入院を行うことを検討し、当該入院のための調整を行う等、関係機関と連携して、精神障害者に対して適切な医療を提供する。

オ 措置入院者(法第二十九条第一項の規定により入院した者をいう。)の入院初期から積極的に支援に関与し、医療機関や障害福祉サービスの事業者等と協力して、措置入院者の退院に向けた支援の調整を行う。

カ 精神障害者が適切な医療を継続的に受けることができるよう、精神障害者及びその家族に対する相談支援、精神障害者に対する訪問支援並びに関係機関との調整等、保健所の有する機能を最大限有効に活用するための方策を、市町村等の他の関係機関の在り方も含めて様々な関係者で検討し、当該検討に基づく方策を推進する。

4 精神保健福祉センター

ア 精神保健福祉センターは、精神保健の向上及び精神障害者の福祉の増進を図るための総合的な対策を行う機関として、自殺対策、災害時のこころのケア活動等メンタルヘルスの課題に対する取組に関して地域における推進役となるとともに、関係機関への技術指導及び援助、研修の実施等による人材育成、専門的な相談支援並びに保健所と協力した訪問支援等を行う。

イ 精神疾患の患者像の多様化に伴い、アルコール・薬物の依存症や発達障害等に関する専門的な相談支援及び精神障害者の家族に対する支援に対応できるよう、相談員の質の向上や体制の整備を推進する。

5 精神医療審査会

精神医療審査会(法第十二条に規定する精神医療審査会をいう。)は、精神障害者の人権に配慮しつつ、その適正な医療及び保護を行うため、専門的かつ独立的な機関として、精神科病院に入院している精神障害者の処遇等について適切な審査を行うことを推進する。

二 人権に配慮した精神医療の提供

1 精神障害者の医療及び保護の観点から、本人の同意なく入院が行われる場合でも、行動の制限は最小限の範囲とし、併せて、インフォームドコンセントに努める等、精神障害者の人権擁護に関する障害者の権利に関する条約(平成二十六年条約第一号)その他の国際的な取決め並びに精神障害者の意思決定及び意思表明の支援に係る検討も踏まえつつ、精神障害者の人権に最大限配慮して、その心身の状態に応じた医療を確保する。

2 精神保健指定医については、医療保護入院に係る診断等において、精神障害者の人権に配慮した判断を行うものであるが、精神医療における急性期医療のニーズの増加に伴い、病院における精神保健指定医の数が不足していること等を踏まえ、診療所の精神保健指定医が積極的に精神保健指定医としての業務を行う体制の整備を推進する。

三 多様な精神疾患・患者像への医療の提供

1 児童・思春期精神疾患

子どもに対する心の診療(発達障害に係る診療を含む。)に対応できる体制を確保する観点から、都道府県の拠点病院を中心とした診療ネットワークの整備等を推進する。また、児童・思春期精神疾患に関する医療を担う人材の確保を図る。

2 老年期精神障害等

ア 認知症(若年性認知症を含む。以下同じ。)をはじめとする老年期精神障害等については、生活能力が低下しやすい、服薬による副作用が生じやすい等の高齢者の特性等を考慮しつつ、介護サービスとも連携しながら、精神障害者本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域で生活し続けられるよう支援を行う。

イ 認知症による行動及び心理症状の治療のために入院が必要な場合でも、できる限り早期に退院できるよう、必要な体制の整備を推進し、適切な療養環境の確保を図る。

ウ 認知症については、まずは、早期診断・早期対応が重要であることから、鑑別診断や専門医療相談等を行うことができる医療機関(認知症疾患医療センター等)を整備する。

3 自殺対策

ア 鬱病等の精神疾患は自殺の主な要因の一つであることから、その多様な類型に留意しつつ、自殺予防の観点からの精神医療の質の向上を図る。

イ 自殺未遂者や自殺者の遺族に対しては十分なケアを行うことが求められることから、保健所、精神保健福祉センター等での相談支援、自助グループによる相互支援等の適切な支援につなげるとともに、自殺予防の観点から、精神科救急医療機関及び他の医療機関間における連携を図る。

ウ 医師、薬剤師等の連携の下、過量服薬の防止を図るとともに、自殺のリスクが疑われる者に対しては、必要な受診勧奨を行う等適切な医療へのアクセスの向上の取組を推進する。

4 依存症

アルコール、薬物等による依存症患者については、自助グループにおける取組の促進や家族への支援等を通して支援を行うとともに、依存症の治療を行う医療機関が少ないことから、依存症の治療拠点となる医療機関の整備、重度依存症入院患者に対する医療提供体制の確保等、適切な依存症の治療を行うことができる体制の整備を推進する。

5 てんかん

ア てんかん患者は、適切な診断、手術や服薬等の治療によって症状を抑えることができる又は治癒する場合もあり、社会で活動しながら生活することができる場合も多いことから、てんかん患者が適切な服薬等を行うことができるよう、てんかんに関する正しい知識や理解の普及啓発を推進する。

イ てんかんの診療を行うことができる医療機関間の連携を図るため、専門的な診療を行うことができる体制を整備し、てんかんの診療ネットワークを整備する。

6 高次脳機能障害

高次脳機能障害の患者に対する支援の在り方は様々であることから、支援拠点機関において専門的な相談支援を行うとともに、高次脳機能障害の支援に関する普及啓発を推進する。

7 摂食障害

ア 摂食障害は、適切な治療と支援によって回復が可能な疾患である一方、専門とする医療機関が少ないことから、摂食障害の患者に対する治療や支援方法の確立を行うための体制を整備する。

イ 摂食障害の特性として極度の脱水症状等の身体合併症状があり、生命の危険を伴う場合があることから、摂食障害の患者に対して身体合併症の治療や栄養管理等を行いながら精神医療を提供できる体制の整備を推進する。

8 その他必要な医療

ア 災害医療

(一) 平時から情報連携体制の構築に努め、災害発生時には早期に被災地域で精神医療及び精神保健に関する活動による支援を効率的に行える体制を確保する。

(二) 大規模災害が発生した場合には、被災の状況に応じて中長期的に被災者の精神的な治療や心理的ケアを行うための体制を整備する。

イ 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対する医療

指定医療機関(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(平成十五年法律第百十号)第二条第三項に規定する指定医療機関をいう。)における心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対する医療が、最新の司法精神医学の知見を踏まえた専門的なものとなるよう、個人情報の保護に配慮しつつ、その運用の実態を公開及び検証し、その水準の向上を推進する。また、当該医療を担う人材の育成及び確保を図る。

四 精神医療の診療方法の標準化

1 精神疾患の特性を踏まえ、多様な疾患や患者像に対応するためのガイドラインの整備等を通じて、精神医療の診療方法の標準化を図る。

2 向精神薬は依存症状を生じやすく、過量服薬が行われやすいことを踏まえ、適正な向精神薬の処方の在り方を確立する。

3 認知行動療法等の薬物療法以外の治療法の普及を図る。

4 難治性患者に対して、適切な診断の下、地域の医療機関と連携しつつ、高度な医療を提供する等先進的な医療の普及を進める。

五 心の健康づくりの推進及び知識の普及啓発

1 社会生活環境の変化等に伴う国民の精神的ストレスの増大に鑑み、精神疾患の予防を図るため、国民の健康の保持増進等の健康づくりの一環として、心の健康づくりのための取組を推進する。

2 精神疾患の早期発見・治療を促進し、また、精神障害者が必要な保健医療サービス及び福祉サービスの提供を受け、その疾患について周囲の理解を得ながら地域の一員として安心して生活することができるよう、学校、企業及び地域社会と連携しながら精神保健医療福祉に関する知識の普及啓発を推進する。

六 精神医療に関する研究の推進

1 精神疾患の治療に有効な薬剤の開発の推進を図るとともに、薬物治療以外の治療法の研究を推進する。

2 脳科学、ゲノム科学、情報科学等の進歩を踏まえ、精神疾患の病態の解明、バイオマーカー(生体内の生物学的変化を主に定量的に把握するための指標をいう。)の確立を含む早期診断及び予防の方法並びに革新的な治療法の開発に向けた研究等を推進する。

七 他の指針等との関係の整理

この指針に基づく具体的な施策を実施するに当たっては、医療計画、障害福祉計画、介護保険事業計画その他の分野の計画等に配慮することとする。

八 推進体制

1 本指針で示す方向性に従い、国は、関係者の協力を得ながら、各種施策を講じていくこととする。

2 本指針は、公表後五年を目途として必要な見直しを行うこととする。

改正文 (平成二六年三月一四日厚生労働省告示第七八号) 抄

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律の施行の日(平成二十六年四月一日)から適用する。

改正文 (平成三〇年三月二二日厚生労働省告示第八一号) 抄

平成三十年四月一日から適用する。