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○社会福祉事業に従事する者の確保を図るための措置に関する基本的な指針
(平成十九年八月二十八日)
(厚生労働省告示第二百八十九号)
社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)第八十九条第一項の規定に基づき、社会福祉事業に従事する者の確保を図るための措置に関する基本的な指針を次のように定めたので、同条第四項の規定により告示する。なお、社会福祉事業に従事する者の確保を図るための措置に関する基本的な指針(平成五年厚生省告示第百十六号)は廃止する。
社会福祉事業に従事する者の確保を図るための措置に関する基本的な指針
近年、我が国においては、少子高齢化の進行や世帯構成の変化、国民のライフスタイルの多様化等により、国民の福祉・介護サービスへのニーズ(以下「福祉・介護ニーズ」という。)がさらに増大するとともに、認知症等のより複雑で専門的な対応を必要とするニーズの顕在化等を背景として、質的にもより多様化、高度化している状況にある。
福祉・介護サービスを供給する各種の制度(以下「福祉・介護制度」という。)は、この間様々な見直しが行われ、着実に充実してきている。しかしながら、福祉・介護制度が国民の福祉・介護ニーズに応えるよう十分機能していくためには、福祉・介護サービスを担う人材の安定的な確保が前提となる。
他方、少子高齢化の進行等の下で、15歳から64歳までの者(以下「生産年齢人口」という。)の減少に伴い、労働力人口も減少が見込まれる一方、近年の景気回復に伴い、他の分野における採用意欲も増大している。また、福祉・介護サービス分野においては、高い離職率と相まって、常態的に求人募集が行われ、一部の地域や事業所では人手不足が生じているとの指摘もある。このような状況を考慮すると、福祉・介護サービス分野は最も人材の確保に真剣に取り組んでいかなければならない分野の一つであり、福祉・介護サービスの仕事がこうした少子高齢社会を支える働きがいのある、魅力ある職業として社会的に認知され、今後さらに拡大する福祉・介護ニーズに対応できる質の高い人材を安定的に確保していくことが、今や国民生活に関わる喫緊の課題である。
平成27年には、いわゆる団塊の世代の全員が高齢者(65歳以上の者をいう。以下同じ。)となり、これらの者が後期高齢者(75歳以上の者をいう。以下同じ。)となる平成37年には、全人口に占める高齢者人口の割合が3割を超えると見込まれることを見据え、社会福祉法人に限らず、営利法人や特定非営利活動法人等を含めた経営者(福祉・介護サービスに係る事業を経営する者をいい、この指針中、処遇の改善に係る部分を除き、福祉・介護サービスに係る事業を経営する場合の国及び地方公共団体を含む。以下同じ。)、福祉・介護サービスの増進に寄与する取組を行う法人又は団体(以下「関係団体等」という。)並びに国及び地方公共団体が、十分な連携の下、この指針に基づき、それぞれ必要な措置を講じ、福祉・介護サービス分野において質の高い人材の確保に努めることが重要である。
この指針は、社会福祉法(昭和26年法律第45号)第89条第1項の規定に基づき、同法第2条に規定する社会福祉事業における人材確保を図るために定めるものである。一方、介護保険制度における居宅介護支援や訪問リハビリテーション、特定施設入居者生活介護等社会福祉事業には該当しないが社会福祉事業と密接に関連するサービスが拡大している。これらのサービスは社会福祉事業と不可分に運営される場合もあり、同様に国民の福祉・介護ニーズに対応していることから、社会福祉事業とこれらのサービスを合わせ、一体的な人材の確保に努めることが必要となってきている。このため、社会福祉事業には該当しないが社会福祉事業と密接に関連するサービスについても、この指針が人材確保のための取組の参考となるものとの認識の下、この指針では、これらのサービスを合わせて、「福祉・介護サービス」と総称し、人材確保のための取組を共通の枠組みで整理することとする。
第1 就業の動向
1 労働市場全体における就業の現況と今後の見通し
国立社会保障・人口問題研究所による「日本の将来推計人口」(以下「将来推計人口」という。)(平成18年12月推計)の中位推計(以下「平成18年12月推計」という。)によれば、少子化の進行等により、生産年齢人口は平成17年の約8,442万人から、いわゆる団塊の世代の全員が65歳以上となる平成27年には約7,681万人にまで減少するものと見込まれており、これに伴い、労働力人口も減少することが見込まれている。
2 福祉・介護サービスにおける就業の現況
現に福祉・介護サービスに従事する者(以下「従事者」という。)は、平成17年現在で約328万人であるが、介護保険制度の創設や障害者福祉制度の見直し等による福祉・介護サービスの質の充実、量の拡大に伴い、その数は急速に増加しており、平成5年と比べて約4.6倍となっている。とりわけ高齢者に関連するサービスに従事する者の伸びは著しく、平成5年の約17万人と比べて、平成17年には約197万人と、約12倍に達しており、従事者の多数を占めている。
さらに、従事者の特徴として、
① 女性の占める割合が高く、介護保険サービスにおいては、平成16年の実績で約8割を占めていること
② 非常勤職員の占める割合が近年増加してきており、介護保険サービスにおいては、平成17年の実績で約4割、このうち、訪問介護サービスについては非常勤職員が約8割を占めていること
③ 入職率及び離職率が高く、平成16年における介護保険サービスに従事する介護職員の数に対するその後1年間の採用者数の割合は約28%、離職者数の割合は約20%であること
④ 給与の水準は、業務内容や勤続年数等を勘案して、経営者と従事者との間の契約で決められるものであり、その高低について一律に比較を行うことは困難であるが、例えば平成17年においては、従事者の給与の平均を他の分野を含む全労働者の給与の平均と単純に比較すると、低い水準にあること
等が挙げられる。
このように、従事者が着実に増加しているにもかかわらず、離職率が高く、労働移動が激しい状況にあることから、常態的に求人募集が行われることもあり、介護関連職種の平成18年度における有効求人倍率は、パートタイムを除く常用で1.22倍、常用的パートタイムで3.08倍と、全職種(パートタイムを除く常用で0.92倍、常用的パートタイムで1.35倍)と比較して高い水準にあり、特にパートタイムにおける労働需要は大きなものとなっている。
介護の専門職である介護福祉士についてみると、介護保険サービスに従事する介護職員のうち、その占める割合が介護保険施設においては約4割、居宅サービスにおいては約2割に達している中、介護の現場では介護職員の量的確保にとどまらず、専門性の高い人材が求められている。一方で、平成17年までに介護福祉士の国家資格を取得している者約47万人のうち、実際に福祉・介護サービスに従事しているものは約27万人に留まっており、いわゆる「潜在的介護福祉士」が多数存在している。
また、相談援助の専門職である社会福祉士についてみると、従来の福祉・介護サービス分野における相談援助にとどまらず、保健医療、司法、教育など多様な分野との連携のほか、地域包括支援センターの職員の任用資格として位置付けられるなど、地域における福祉・介護サービス資源の開発又は活用についての幅広い活動が期待されている。その一方で、社会福祉士の社会的な認知度が必ずしも高くないこともあり、その任用が進んでいないなど、社会福祉士の有する専門性が有効に活用されているとはいえない状況にある。
さらに、保育士については、保育所の入所児童に対する保育業務以外にも、地域住民の子育てに関する相談業務を始めとする地域の子育て支援など、その活躍の領域が拡大しており、多様化する業務内容に対応できる資質の高い保育士の確保が求められている。
3 福祉・介護サービスにおける今後の就業の見通し
今後の後期高齢者人口は、将来推計人口(平成14年1月推計)の中位推計によれば、平成16年の約1,110万人から平成26年には約1,530万人(平成18年12月推計によれば、約1,600万人)に達すると見込まれるとともに、介護保険制度における要介護認定者及び要支援認定者は、平成16年の約410万人から平成26年には約600万人から約640万人に達すると見込まれ、今後、高齢者に対する介護保険サービスの需要がますます拡大していくこととなる。
また、障害福祉サービスを利用する障害者についても、平成17年の約40万人から平成23年には約60万人に達すると見込まれ、高齢者と同様、障害者に対する障害福祉サービスの需要もますます拡大していくこととなる。
さらに、保育分野については、女性の就業継続の希望を実現する観点から、特に3歳未満の児童の保育サービスの拡充が求められており、「子ども・子育て応援プラン」(平成16年少子化社会対策会議決定)において、保育所の受入れ児童数を平成21年度までに約215万人に拡大することとされるなど、保育サービスの需要も今後さらに拡大していくことが見込まれる。
このように、今後、これら以外の分野も含め、少子高齢化の進行や世帯構成の変化、国民のライフスタイルの多様化等に対応して、多様な福祉・介護サービスの需要の拡大が見込まれている。
こうした状況の中で、例えば将来必要となる介護保険サービスに従事する介護職員については、平成16年の約100万人から、平成26年には、
① 仮に後期高齢者人口の伸びに比例して職員数が増加することとした場合、約140万人に、
② 仮に要介護認定者数の伸びに比例して職員数が増加することとした場合、約150万人から約160万人に、
増加するものと見込まれ、少なくとも今後10年間に、約40万人から約60万人の介護職員の確保が必要となる。また、この介護職員数を労働力人口に占める割合として示せば、平成16年の約1.5%から、平成26年には、約2.1%から約2.4%にまで増加するものと見込まれる。これに加えて、福祉・介護サービス分野においては、従事者に占める離職者の割合が全労働者に占める離職者の割合と比較して高いことや平成27年までに福祉・介護サービス分野においても団塊の世代が退職していくことから、これらの離職者を補充する人材等の確保が相当数必要となる。
第2 人材確保の基本的考え方
第1で述べた状況を踏まえれば、今後ますます拡大していく国民の福祉・介護ニーズに対応していくためには、福祉・介護サービス分野において、他の分野と比較しても特に、人材を安定的に確保していくことが求められている。福祉・介護サービス分野において、将来にわたって安定的に人材を確保していくためには、例えば、主に若年期に入職して正規雇用で長期間にわたり就労する者、ライフスタイルに対応した多様な雇用形態で就労を希望する者など、様々な就労形態の従事者がいることを念頭に置きつつ、人材を確保していくために必要な対策を重層的に講じていくことが必要である。このため、就職期の若年層を中心とした国民各層から選択される職業となるよう、他の分野とも比較して適切な給与水準が確保されるなど、労働環境を整備する必要がある。また、従事者のキャリアアップの仕組みを構築するとともに、国家資格等を取得するなど、高い専門性を有する従事者については、その社会的な評価に見合う処遇が確保され、従事者の努力が報われる仕組みを構築する必要がある。
さらに、今後の少子高齢社会を支える働きがいのある仕事であることを積極的に周知・広報することを通じて、福祉・介護サービスの仕事が魅力ある職業として社会的に認知されていくことが重要である。
こうした取組と併せて、介護福祉士や社会福祉士、ホームヘルパー等の資格を有していながら実際に福祉・介護サービス分野に就業していない者(以下「潜在的有資格者」という。)が多数存在すること等を踏まえ、こうした潜在的有資格者等の掘り起こし等を通じて、これらの者の活用を促進するとともに、多様な人材を確保する観点から、福祉・介護サービス以外の他の分野に従事する者や高齢者等の参入・参画の促進を図ることも重要である。
こうした観点に立って、福祉・介護サービス分野における人材の確保のための視点を整理すれば、
① 就職期の若年層から魅力ある仕事として評価・選択されるようにし、さらには従事者の定着の促進を図るため、「労働環境の整備の推進」を図ること
② 今後、ますます増大する福祉・介護ニーズに的確に対応し、質の高いサービスを確保する観点から、従事者の資質の向上が図られるよう、「キャリアアップの仕組みの構築」を図ること
③ 国民が、福祉・介護サービスの仕事が今後の少子高齢社会を支える働きがいのある仕事であること等について理解し、福祉・介護サービス分野への国民の積極的な参入・参画が促進されるよう、「福祉・介護サービスの周知・理解」を図ること
④ 介護福祉士や社会福祉士等の有資格者等を有効に活用するため、潜在的有資格者等の掘り起こし等を行うなど、「潜在的有資格者等の参入の促進」を図ること
⑤ 福祉・介護サービス分野において、新たな人材として期待されるのは、他分野で活躍している人材、高齢者等が挙げられ、今後、こうした「多様な人材の参入・参画の促進」を図ること
などが挙げられる。
これらの視点に立った具体的対策を着実に講ずることにより、必要な人材を確保することが可能と考えられ、まずは、こうした視点に立って、関係者が第3に掲げる事項に総力を挙げて取り組み、国内における労働力を確保していくことが重要であり、当面、福祉・介護ニーズの一層の拡大が見込まれる、いわゆる団塊の世代の全員が高齢者となる平成27年を見据えて、重点的に取り組む必要がある。
なお、今後、国内の労働力のみでこうしたニーズに対応する人材を広く確保していくことは困難であり、外国人労働者の受入れは不可避ではないかとの問題提起もある。これについては、労働市場への影響、滞在の長期化や定住化に伴う社会的コストの発生等の懸念等があることから、慎重に対応していくことが必要である。
第3 人材確保の方策
第2で述べた視点を踏まえて、福祉・介護サービス分野における必要な人材を確保するには、関係者は特に以下に掲げる5項目に総力を挙げて取り組むことが重要である。なお、括弧内は、各事項において取り組むべき主体を示している。
1 労働環境の整備の推進等
(1) 労働環境の改善
① 給与等
ア キャリアと能力に見合う給与体系の構築等を図るとともに、他の分野における労働者の給与水準、地域の給与水準等も踏まえ、適切な給与水準を確保すること。なお、給与体系の検討に当たっては、国家公務員の福祉職俸給表等も参考とすること。(経営者、関係団体等)
イ 質の高い福祉・介護サービスを提供するためには、質の高い人材を確保する必要があることを踏まえ、従事者に対する事業収入の適切な配分に努めること。(経営者、関係団体等)
ウ 従事者の定着の状況等を勘案し、必要に応じ、従事者に対する事業収入の配分の状況についての実態を把握し、福祉・介護サービス分野における経営者の全般的な状況や個別の優良事例等を公表すること。(国、地方公共団体)
② 介護報酬等の設定
ア 給与、物価等の経済動向や地域間の給与の格差等を勘案しつつ、従事者の給与等の水準や事業収入の従事者の給与等への分配状況を含め、経営実態や従事者の労働実態を把握すること等を通じて、国民の負担している保険料等の水準にも留意しながら、適切な水準の介護報酬等を設定すること。(国、地方公共団体)
イ キャリアと能力に見合う給与体系の構築等の観点から、介護福祉士や社会福祉士等の専門性の高い人材を配置した場合の介護報酬等による評価の在り方について検討を行うこと。(国、地方公共団体)
③ 労働時間等
ア 週40時間労働制の適用されていない小規模の事業所における週40時間労働制の導入、完全週休2日制の普及など、労働時間の短縮の推進に努めること。また、仕事と家庭の両立が図られるよう、計画的付与等による有給休暇の完全取得を目指した取組や育児休業・介護休業の取得、職場内保育の充実等を推進すること。(経営者、関係団体等、国、地方公共団体)
イ 従事者に過重な業務の負担を強いることのないよう、適切な勤務体制を確保すること。(経営者、関係団体等)
④ 労働関係法規の遵守等
ア 労働基準法(昭和22年法律第49号)や労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)等の労働関係法規を遵守すること。(経営者、関係団体等)
イ 短時間労働者については、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76号)に基づき、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、短時間労働者の職務の内容や職務の成果、経験等を勘案し、その賃金や教育訓練の実施その他の待遇を決定するなど、多様な人材がそれぞれの希望に応じ、その有する能力を一層発揮できる雇用環境を整備すること。(経営者、関係団体等)
ウ 労働関係法規や福祉・介護制度関連法規等の法令を遵守した適切な運営が確保されるよう、経営者の指導監督等を行うこと。(国、地方公共団体)
⑤ 健康管理対策等
ア 従事者が心身ともに充実して仕事ができるよう、より充実した健康診断を実施することはもとより、腰痛対策等の健康管理対策の推進を図ること。(経営者、関係団体等、国、地方公共団体)
イ 従事者のストレスを緩和し、心の健康の保持増進を図る観点から、相談体制を整備するなど、メンタルヘルス対策等の推進を図ること。(経営者、関係団体等、国、地方公共団体)
ウ 利用者の安全を確保し、従事者が安心して仕事ができるよう、日頃より医療機関や保健所等との連携に努めるとともに、手洗いや消毒の励行等の感染症対策の推進を図ること。(経営者、関係団体等、国、地方公共団体)
⑥ 職員配置
従事者の労働の負担を考慮し、また、一定の質のサービスを確保する観点から、職員配置の在り方に係る基準等について検討を行うこと。(国)
⑦ 福利厚生
従事者の余暇活動や日常生活に対する支援を行うなど、従事者のニーズに的確に対応した福利厚生事業の推進を図ること。(経営者、福利厚生センターその他の関係団体等)
⑧ 適正な雇用管理の推進
経営者に対する雇用管理に関する相談事業、介護労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成4年法律第63号)に基づく助成金の活用の促進、福祉・介護サービスの実態に応じた雇用管理の好事例の情報提供等に取り組むこと。(経営者、介護労働安定センターその他の関係団体等)
⑨ 業務の省力化等
ア IT技術や自助具を含む福祉用具の積極的な活用等を通じて、業務の省力化に努めること。(経営者、関係団体等、国、地方公共団体)
イ サービスの提供に関する記録等の各種書類の作成に係る事務の効率化・簡素化に努めること。(経営者、関係団体等、国、地方公共団体)
⑩ その他
従事者の育児休業や研修受講等の事情により、欠員が生じる場合に、円滑に代替職員が確保できるよう、支援すること。(福祉人材センター、福祉人材バンクその他の関係団体等)
(2) 新たな経営モデルの構築
① 福祉・介護サービスが人によって支えられる事業であることを踏まえ、福祉・介護サービスを行うのにふさわしい経営理念を確立するとともに、質の高いサービスを確保する観点から、サービスの内容に応じた採用方針や育成方針の確立など、明確な人事戦略を確立すること。(経営者、関係団体等)
② 現状において多数を占める小規模かつ脆弱な経営基盤からの脱却を図るため、複数の福祉・介護サービスの実施又は従事者の共同採用や人事交流、資材の共同購入、設備の共同利用など経営者間のネットワークの構築を進めること等により、経営基盤を強化すること。(経営者、関係団体等)
③ 管理者等が労働環境の改善やキャリアアップの仕組みの構築等の取組の重要性を十分認識すること等を通じて、質の高い人材を確保し、質の高いサービスを提供するための組織体制を確立すること。(経営者、関係団体等)
④ 福祉・介護制度の下で、柔軟かつ創意工夫を活かした経営を行うことができるよう、社会福祉法人制度改革等の規制改革を推進すること。(国、地方公共団体)
⑤ 経営主体や事業の規模・種類、地域特性に応じた経営の実態を把握するとともに、これらを踏まえた福祉・介護サービスを行うのにふさわしい経営理念や経営の在り方を研究し、先進的な取組についての周知を図るなど、その成果について普及を図ること。(関係団体等、国、地方公共団体)
⑥ 福祉・介護サービスに係る事業の施設・設備の整備や事業の運営に係る融資を行うほか、経営の安定化に資するため、経営診断事業等を推進すること。(独立行政法人福祉医療機構その他の関係団体等)
(3) 介護技術等に関する研究及び普及
① 利用者の自立を支援し、より質の高い福祉・介護サービスを提供する観点から、自助具を含む福祉用具や住環境の整備等の研究を行うとともに、その成果について普及を図ること。(経営者、関係団体等、国、地方公共団体)
② 従事者の負担を軽減する観点から、腰痛対策等に関する介護技術について、これまでの研究成果の評価・分析を行いつつ、より適正かつ実践的な技術の研究及び普及を図ること。(経営者、職能団体、養成機関の団体その他の関係団体等、国、地方公共団体)
2 キャリアアップの仕組みの構築
① 質の高い介護福祉士や社会福祉士、保育士等を確保する観点から、資格制度の充実を図り、その周知を行うこと。また、有資格者等のキャリアを考慮した施設長や生活相談員等の資格要件の見直しや社会福祉主事から社会福祉士へのキャリアアップの仕組みなど、福祉・介護サービス分野における従事者のキャリアパスを構築すること。(経営者、関係団体等、国、地方公共団体)
② 福祉・介護サービス分野におけるキャリアパスに対応した生涯を通じた研修体系の構築を図るとともに、施設長や従事者に対する研修等の充実を図ること。(経営者、職能団体その他の関係団体等、国、地方公共団体)
③ 従事者のキャリアアップを支援する観点から、働きながら介護福祉士、社会福祉士等の国家資格等を取得できるよう配慮するとともに、従事者の自己研鑽が図られるよう、業務の中で必要な知識・技術を習得できる体制(OJT)や、職場内や外部の研修の受講機会等(OFF―JT)の確保に努めること。(経営者、関係団体等)
④ 従事者のキャリアアップを支援する観点から、労働者の主体的な能力開発の取組を支援する教育訓練給付制度を適切に運営すること。(国)
⑤ 従事者の多様な業務を経験する機会を確保する観点から、経営者間のネットワークを活かした人事交流等を通じて、人材の育成を図ること。(経営者、関係団体等)
⑥ 国家資格等の有資格者について、さらに高い専門性を認証する仕組みの構築を図るなど、従事者の資質向上に取り組むこと。(職能団体、養成機関の団体その他の関係団体等)
3 福祉・介護サービスの周知・理解
① 教育機関等が生徒等に対して、ボランティア体験の機会を提供するなど、成長段階に応じて福祉・介護サービスの意義や重要性についての理解と体験ができるよう、働きかけを行うこと。(経営者、関係団体等、国、地方公共団体)
② 福祉・介護サービスの職場体験の実施、マスメディアを通じた広報活動、これらを重点的に実施する期間の設定等、関係各機関の連携の下、若年層を始めとする幅広い層に対し、認知症等の福祉・介護サービスの利用者やこうした利用者を支える福祉・介護サービスについての理解を求めること。(経営者、職能団体、養成機関の団体その他の関係団体等、国、地方公共団体)
③ 施設の地域開放やボランティアの受入れ、地域活動への積極的な参加など、地域との交流を図ること。(経営者、関係団体等)
④ 将来を担う人材を育てていくことが、福祉・介護サービスや経営者の社会的な評価を高めていくことにつながるという観点に立って、福祉・介護サービス分野への就業を目指す実習生を積極的に受け入れるとともに、実習を受け入れる施設における適切な受入体制を確保すること。(経営者、関係団体等、国、地方公共団体)
4 潜在的有資格者等の参入の促進等
(1) 介護福祉士や社会福祉士等の有資格者の活用等の促進
介護福祉士や社会福祉士等の資格制度の普及を図るとともに、これらの有資格者の活用等の促進を図ること。(経営者、関係団体等、国、地方公共団体)
(2) 潜在的有資格者等の参入の促進
① 潜在的有資格者等について、就業の現状や離職の理由、福祉・介護サービス分野への再就業の意向等の実態を把握すること。(関係団体等)
② 潜在的有資格者等に対して、就職説明会の実施等を通じて、関心を喚起し、福祉・介護サービス分野への再就業を働きかけること。(福祉人材センター、福祉人材バンクその他の関係団体等)
③ 潜在的有資格者等のうち、再就業を希望するものに対して、再就業が円滑に進むよう、関係団体等や公共職業安定所等との十分な連携による無料職業紹介等の実施や再教育等を通じて、就業の支援に取り組むこと。(福祉人材センター、福祉人材バンクその他の関係団体等、国)
④ 福祉・介護サービス分野へ就業した潜在的有資格者等について、将来にわたって安定的に仕事ができるよう、相談体制を整備するなど、その定着の支援に取り組むこと。(福祉人材センター、福祉人材バンクその他の関係団体等)
5 多様な人材の参入・参画の促進
(1) 福祉・介護サービス以外の他の分野に従事する人材の参入の促進
① 多様な人材を確保する観点から、福祉・介護サービス以外の他の分野に従事する者等に対して、就職説明会の実施等を通じて、福祉・介護サービス分野への関心を喚起し、就業を働きかけること。(福祉人材センター、福祉人材バンクその他の関係団体等)
② 福祉・介護サービス以外の他の分野に従事する者等のうち、福祉・介護サービス分野への就業を希望するものに対して、関係団体等と公共職業安定所等との十分な連携による無料職業紹介等の実施を通じて、就業の支援に取り組むこと。(福祉人材センター、福祉人材バンクその他の関係団体等、国)
③ 福祉・介護サービス以外の他の分野に従事していた者等で、福祉・介護サービス分野へ就業したものについて、将来にわたって安定的に仕事ができるよう、相談体制を整備するなど、その定着の支援に取り組むこと。(福祉人材センター、福祉人材バンクその他の関係団体等)
④ 利用者のサービスの選択に資することを目的とした第三者評価結果の公表や情報開示等は、福祉・介護サービス分野への就業を希望する者にとっても就業先の選択に資するものであることを踏まえ、これらの推進を図ること。(経営者、関係団体等、国、地方公共団体)
(2) 高齢者等の参入・参画の促進等
① 高齢者に対する研修等を通じて、高齢者が福祉・介護サービス分野へ就業しやすい、又は、ボランティアとして参画しやすい環境を整えるほか、これまでの就業経験の中で培ってきた経理や労務管理等の専門的知識・技能の活用を図ること。(経営者、関係団体等、国、地方公共団体)
② 障害者に対し、就労支援を含む様々な支援を通じて、障害者が自らの能力を十分に発揮できる社会参加の活動の一つとして、福祉・介護サービス分野への参入・参画を促進すること。(経営者、関係団体等、国、地方公共団体)
③ 日比経済連携協定等に基づく外国からの介護福祉士等の受入れに当たっては、国内における従事者との均衡待遇を確保するなど、外国人介護福祉士等の受入れが適切に行われ、現場に混乱が生ずることのないよう、十分な研修体制や指導体制等を構築すること。(経営者、関係団体等、国)
第4 経営者、関係団体等並びに国及び地方公共団体の役割と国民の役割
福祉・介護サービスの最大の基盤は人材であり、質の高い人材が集まらなければ、質の高いサービスの提供は困難となるという考え方の下に、経営者、関係団体等並びに国及び地方公共団体がそれぞれの役割を果たし、処遇の改善等に取り組むことが重要である。
これらの関係者が十分な連携を図りつつ、さらには国民の参加も得ながら、国民的な課題として、21世紀を担う福祉・介護サービス分野の人材の量と質を高めていくため、誰もが生き生きと働ける魅力ある福祉・介護サービス分野の職場を確立するとともに、その社会的な評価の向上を図ることに取り組んでいく必要がある。
それぞれの役割については、以下のとおりとする。
1 経営者及び関係団体等の役割
経営者は、健全な経営を維持し、従事者を雇用する立場から、適正な給与水準の確保を始めとする労働環境の改善や従事者のキャリアアップの支援等を行っていくことにより、一人一人の従事者がその能力を最大限に発揮することができる働きやすい環境の整備を行う役割を担っている。
特に、福祉・介護サービスに係る事業の経営においては、人材の質がサービスの質に大きな影響を与えることから、福祉・介護サービスの利用者に対して、人材というサービスの提供基盤を最大限に活かして、質の高いサービスを提供していくことが重要である。
また、経営者は、経営理念に裏打ちされた人事制度の改革や経営者間のネットワークの構築、関係団体等による活動への協力を最大限行う必要がある。
さらに、現在、国民は、経営状況やサービスの提供体制等の施設運営の状況についての実態を必ずしも十分に把握できる状況にはないことから、経営者は、積極的にこれらの情報を開示していくことも必要である。
他方、関係団体等は、個々の経営者や従事者のレベルでは対応することが難しい課題について、経営者や従事者の取組を支援するなど、それぞれが果たすべき役割を着実に推進する必要がある。
2 地方公共団体の役割
地方公共団体は、事業者の指定や指導監督を行い、地域の実情に応じて、住民に対し必要な福祉・介護サービスを確保するための計画を策定するほか、事業に係る費用の一部を負担する等の役割を担っている。
このため、地方公共団体は、福祉・介護制度関連法規等の法令を遵守した適切な運営が確保されるよう、経営者に対する指導監督を行うとともに、福祉・介護サービスに関わる法人、施設、関係団体等の取組を把握しながら、個々の経営者では対応が難しい人材確保の取組や研修の実施など人材の質的向上を支援していく必要がある。
特に、都道府県においては、雇用情勢を踏まえ、従事者の需給状況や就業状況を把握するとともに従事者に対する研修体制の整備、経営者や関係団体等のネットワークの構築など、広域的な視点に立って、市区町村単位では行うことが難しい人材確保の取組を進めていくことが重要である。
また、市区町村においては、介護保険制度の保険者として位置付けられているなど、福祉・介護制度の実施主体としての立場から、必要なサービス提供体制を確保するため、都道府県の取組と連携し、ボランティア活動の振興や広報活動等を通じて、福祉・介護サービスの意義や重要性についての啓発に努めるとともに、従事者に対する研修の実施や相談体制の整備、経営者や関係団体等のネットワークの構築など、地域の特色を踏まえたきめ細やかな人材確保の取組を進めていくことが重要である。
3 国の役割
国は、事業に係る費用の一部を負担するとともに、福祉・介護制度等の制度を企画立案し、基準・報酬等を策定するという役割を担っている。
このため、人材を確保し、必要なサービスが国民に提供されるよう、国は、必要に応じて、法人や施設の規模、種類等に応じた経営の状況、従事者の労働環境、定着状況等の実態を把握する必要がある。
その結果を踏まえ、人材の確保のためにどのような政策が必要かを定期的に検討し、適切に福祉・介護制度等の制度の設計・見直しや介護報酬等の設定を行う必要がある。
また、福祉・介護政策と教育政策とが連携を図りつつ、ボランティア体験等を通じて、生徒等の成長段階に応じて福祉・介護サービスに接する機会を積極的に設けることにより、国民一人一人が身近な問題として福祉・介護サービスに対する理解を深めていけるような環境を整備していく必要がある。
これに加え、福祉・介護政策と労働政策とがそれぞれの役割を果たしつつ、連携して効果的な人材確保の取組を推進していく必要がある。
さらに、経営者の指導監督、人材の質の向上等に向けた関係者の取組への支援、福祉・介護サービスのイメージアップなどの対策を迅速かつ適切に行っていく必要がある。
4 国民の役割
国民は、福祉・介護サービスの利用者であるとともに、福祉・介護サービスを支える税や保険料の負担者としての役割を担っている。
これからの福祉・介護サービスは、利用者自らのニーズに基づき、サービスを選択することを基本としており、質の高いサービスの担い手の育成は、賢明な利用者の存在なくして成り立たないものである。この意味で、国民は消費者として質の高いサービスを選り分けるとともに、こうしたサービスを伸ばしていくことに努めなければならず、そのためには必要な情報開示や相談体制の整備を経営者や行政等に求めていくべきである。
また、我が国の福祉・介護制度は、国民が拠出する公的な財源により運営されており、国民一人一人がこれを大切に利用するという節度ある利用者でなければならず、このような認識なしにサービスが利用されれば、真に福祉・介護サービスが必要な利用者にサービスが行き届かないおそれもある。このような意味で、国民は福祉・介護サービスを上手く利用しながら、自立した日常生活を営むことを目指していくことが求められる。
さらに、福祉・介護サービスを支える税や保険料の負担者としての立場から、国民は、必要な福祉・介護サービスの量や質の水準と併せて、これを確保するために必要となる負担の水準も考えていくことが求められる。
このほか、国民の生活を支えていくためには、公的な福祉・介護制度に基づく福祉・介護サービスのみならず、地域社会等における支え合いを併せた重層的な支援体制を整備していくことも重要であり、国民は、ボランティア等への参画を通じて、こうした地域社会等における支え合いを充実させていくことも重要である。
第5 指針の実施状況の評価・検証
国は、この指針が示す人材確保のために講ずべき措置について、福祉・介護制度の見直しの状況を踏まえ、定期的にその実施状況を評価・検証し、必要に応じこの指針の見直しを行いつつ、人材確保対策を着実に推進するものとする。