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○結核に関する特定感染症予防指針

(平成十九年三月三十日)

(厚生労働省告示第七十二号)

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)第十一条第一項及び予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)第二十条第一項の規定に基づき、結核に関する特定感染症予防指針を次のように策定したので、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第十一条第一項及び予防接種法第二十条第四項の規定により告示し、平成十九年四月一日から適用する。

なお、結核の予防の総合的な推進を図るための基本的な指針(平成十六年厚生労働省告示第三百七十五号)は、平成十九年三月三十一日限り廃止する。

結核に関する特定感染症予防指針

第一次の本指針は、結核予防法(昭和二十六年法律第九十六号)に基づき、平成十六年に策定された。結核予防法が平成十九年に感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号。以下「法」という。)に統合され、平成二十三年に本指針が改正されて以来、五年余りが経過した。

我が国における結核患者数は減少傾向にあり、人口十万人対り患率(以下「り患率」という。)は、平成二十七年には十四.四となり、世界保健機関の定義するり患率十以下の低まん延国となることも視野に入ってきた。特に小児結核対策においては、BCG接種の実施が著しい効果をもたらしている。しかしながら、平成二十七年の結核患者数は約一万八千人となっており、依然として結核が我が国における最大の慢性感染症であることに変わりはない。

また、り患の中心は高齢者であること、結核患者が都市部で多く生じていること、結核発症の危険性が高いとされる幾つかの特定の集団(以下「ハイリスクグループ」という。)が存在すること等が明らかとなっている。

こうした状況を踏まえ、結核の予防及びまん延の防止、健康診断及び患者に対する良質かつ適切な医療の提供、結核に関する研究の推進、人材の育成並びに知識の普及啓発を総合的に推進し、国と地方公共団体及び地方公共団体相互の連携を図り、結核対策の再構築を図る必要がある。また、平成二十六年に世界保健機関は結核終息戦略を発表し、低まん延国はもとより、日本を含めた低まん延国に近づく国に対しても、根絶を目指した対策を進めるよう求めている。

本指針はこのような認識の下に、予防のための総合的な施策を推進する必要がある結核について、国、地方公共団体、関係団体等が連携して取り組むべき課題に対し、取組の方向性を示すことを目的とする。低まん延国化に向けては、従前行ってきた総合的な取組を徹底していくことが極めて重要であり、その取組の中で、病原体サーベイランス体制の構築、患者中心の直接服薬確認療法(以下「DOTS」という。)の推進及び無症状病原体保有者のうち治療を要する者(以下「潜在性結核感染症の者」という。)に対する確実な治療等の取組を更に進めていく必要がある。

本指針に示す取組を具体化するため、国及び地方公共団体は相互に連携して取り組むとともに、必要な財源を確保するよう努めるものとする。

本指針については、本指針において掲げられた施策及びその目標値の達成状況、結核発生動向等状況の定期的な検証及び評価等を踏まえ、少なくとも五年ごとに再検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更するものとする。

第一 原因の究明

一 基本的考え方

国並びに都道府県、保健所を設置する市及び特別区(以下「都道府県等」という。)においては、結核に関する情報の収集及び分析並びに公表を進めるとともに、海外の結核発生情報の収集については、関係機関との連携の下に進めていくことが重要である。

二 結核発生動向調査の体制等の充実強化

結核の発生状況は、法に基づく届出や入退院報告、医療費公費負担申請等の結核登録者情報を基にした発生動向調査(以下「患者発生サーベイランス」という。)等により把握されている。とりわけ患者発生サーベイランスは、結核のまん延状況の情報のほか、発見方法、発見の遅れ、診断の質、治療の内容や成功率、入院期間等の結核対策の評価に関する重要な情報を含むものであるため、都道府県等は、地方結核・感染症サーベイランス委員会の定期的な開催や患者発生サーベイランスのデータ処理に従事する職員の研修等を通じて、情報の確実な把握及び処理その他精度の向上に更に努める必要がある。

また、国及び都道府県等は、薬剤感受性検査及び分子疫学的手法からなる病原体サーベイランスの構築に努める必要がある。

都道府県等は、結核菌が分離された全ての結核患者について、その検体又は病原体を確保し、結核菌を収集するよう努め、その検査結果を法第十五条の規定に基づく積極的疫学調査に活用するほか、発生動向の把握及び分析並びに対策の評価に用いるよう努めるものとする。

国は、分子疫学的手法の研究を進めるとともに、その研究成果を踏まえつつ、検査及び疫学調査の手法の平準化並びに検査結果の集約及び結核菌の収集のあり方について検討を進めるものとする。国が行う結核菌の収集については、特に重要な多剤耐性結核患者の結核菌を収集するための体制整備を当面の目標とする。

なお、患者発生サーベイランス及び病原体サーベイランスを実施するに当たっては、個人情報の取扱いに十分な配慮が必要である。

第二 発生の予防及びまん延の防止

一 基本的考え方

1 結核予防対策においては、感染症の予防の総合的な推進を図るための基本的な指針(平成十一年厚生省告示第百十五号。以下「基本指針」という。)第一の一に定める事前対応型行政の体制の下、国及び地方公共団体が具体的な結核対策を企画、立案、実施及び評価していくことが重要である。

2 結核の発生の予防、早期発見及びまん延の防止の観点から、せき喀痰かくたん、微熱等の有症状時の早期受診を国民に対して勧奨すること及び結核以外の疾患で受診している高齢者やハイリスクグループの患者については、結核に感染している可能性があることについて、医療従事者に対して周知することが重要である。

二 法第五十三条の二の規定に基づく定期の健康診断

1 結核を取り巻く状況の変化により、現在、定期の健康診断によって結核患者が発見される割合は大幅に低下しており、定期の健康診断については、特定の集団に限定して効率的に実施することが重要である。このため、高齢者、ハイリスクグループ、発症すると二次感染を生じやすい職業(デインジャーグループ)等の定期の健康診断の実施が有効かつ合理的であると認められる者については、その受診率の向上を図ることとする。

2 高齢者については、結核発症のハイリスク因子を念頭に置いて胸部エックス線の比較読影を行う等により健康診断を効果的に実施できるよう、必要に応じて、主治医等に健康診断を委託する等の工夫が重要である。また、法第五十三条の二第一項及び第三項の規定に基づく結核に係る定期の健康診断において、六十五歳以上の患者発見率、既感染率及びり患率は近年低下傾向にあることを踏まえ、国は、必要に応じて定期の健康診断のあり方を検討するものとする。

3 学校、社会福祉施設等の従事者に対する健康診断が義務付けられている施設のみならず、学習塾等の集団感染を防止する要請の高い事業所の従事者に対しても、有症状時の早期受診の勧奨及び必要に応じた定期の健康診断の実施等の施設内感染対策を講ずるよう地方公共団体が周知等を行うこととする。また、精神科病院を始めとする病院、老人保健施設等(以下「病院等」という。)の医学的管理下にある施設に収容されている者に対しても、施設の管理者は必要に応じた健康診断を実施することが適当である。

4 基本指針に則して都道府県が策定する予防計画の中に、市町村の意見を踏まえ、り患率等の地域の実情に応じ、定期の健康診断の対象者について定めることが重要である。

5 市町村は、医療を受けていないじん肺患者等に対しては、結核発症のリスクに関する普及啓発とともに、健康診断の受診や有症状時の早期受診の勧奨に努めるべきである。

6 結核の高まん延地域を管轄する市町村は、その実情に即して当該地域において結核の発症率が高い住民層(例えば、住所不定者、職場での健康管理が十分とはいえない労働者、結核がまん延している国若しくは地域の出身者又はその国若しくは地域に居住したことがある者(以下「高まん延国出身者等」という。)等が想定される。)に対する定期の健康診断その他の結核対策を総合的に講ずる必要がある。結核に係る健康診断の目的は結核患者を発見することであり、実施状況を踏まえ、結核患者が発見されない等の場合は、対象者の設定の適否、受診勧奨の方法等を地域ごとに十分に検証することが重要である。

7 高まん延国出身者等の結核患者の発生が多い地域においては、保健所等の窓口に我が国の結核対策をその国の言語で説明したパンフレットを備えておく等の取組を行うことが重要である。また、地域における高まん延国出身者等の結核の発生動向に照らし、市町村が特に必要と認める場合には、高まん延国出身者等に対する定期の健康診断を実施する等、特別の配慮が必要である。その際、人権の保護には十分に配慮すべきである。

三 法第十七条の規定に基づく結核に係る健康診断

1 結核患者の発生に際しては、都道府県知事、保健所を設置する市の長及び特別区の長(以下「都道府県知事等」という。)は、法第十七条第一項及び第二項の規定に基づく健康診断の対象者を適切に選定し、必要かつ合理的な範囲で積極的かつ的確に実施することが望ましい。

2 都道府県知事等が法第十七条第一項及び第二項の規定に基づく結核に係る健康診断を行う場合にあっては、健康診断を実施することとなる保健所等の機関において、法第十五条第一項の規定に基づく積極的疫学調査として、関係者の理解と協力を得つつ、関係機関と密接な連携を図ることにより、感染源及び感染経路の究明を迅速に進めていくことが重要である。この際、特に集団感染につながる可能性のある初発患者の発生に際しては、綿密で積極的な対応が必要である。また、感染の場が複数の都道府県等にわたる場合は、関係する都道府県等間又は保健所間の密接な連携の下、健康診断の対象者を適切に選定する必要がある。

3 都道府県知事等は、集団感染が判明した場合には、国への報告とともに、法第十六条の規定に基づき、住民及び医療従事者に対する注意喚起を目的として、まん延を防止するために必要な範囲で積極的に情報を公表するものとする。その際には、個人情報の取扱いに十分配慮をしつつ、個々の事例ごとに具体的な公表範囲を検討すべきである。また、結核患者等への誤解や偏見の防止のため、結核に関する正確な情報についても併せて提供することが必要である。

4 法第十七条第一項及び第二項の規定に基づく健康診断に当たっては、必要かつ合理的な範囲において対象を広げるほか、結核菌特異的インターフェロン―γ産生能検査(IGRA)及び分子疫学的手法を積極的に活用することが重要である。特に、分子疫学的手法が対象者の正確な捕捉に資すること及びその広域的な実施により集団感染を早期に把握できることから、分子疫学的手法の活用を積極的に図ることとする。

四 BCG接種

1 予防接種は、感染源対策、感染経路対策及び感受性対策からなる感染症予防対策の中で、主として感受性対策を受け持つ重要なものである。我が国の乳児期における高いBCG接種率は、小児結核の減少に大きく寄与していると考えられるため、結核対策においても、BCG接種に関する正しい知識の普及を進め、接種の意義について国民の理解を得るとともに、予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)に基づき、市町村においては、引き続き、適切に実施することが重要である。

2 市町村は、定期のBCG接種を行うに当たっては、地域の医師会や近隣の市町村等と十分な連携の下、乳児健康診断との同時実施、個別接種の推進、近隣の市町村の住民への接種の場所の提供その他対象者が接種を円滑に受けられるような環境の確保を地域の実情に即して行い、もってBCGの接種対象年齢における接種率の目標値を九十五パーセント以上とする。

3 BCGを接種して数日後、被接種者が結核に感染している場合には、一過性の局所反応であるコッホ現象を来すことがある。コッホ現象が出現した際には、市町村にその旨を報告するように市町村等が周知するとともに、市町村から保健所に必要な情報提供をすることが望ましい。また、医療機関の受診を勧奨する等当該被接種者が必要な検査等を受けられるようにすることが適当である。被接種者が適切な対応を受けられるよう、コッホ現象が発現した際の適切な対応方法を医療従事者に周知するとともに、住民に対してもコッホ現象に関する正確な情報を提供する必要がある。

4 国においては、予防接種に用いるBCGについて、円滑な供給が確保されるよう努めることが重要である。

第三 医療の提供

一 基本的考え方

1 結核患者に対して、早期に適切な医療を提供し、疾患を治癒させ、周囲への結核のまん延を防止する。また、り患率が順調に低下している中で、低まん延国化に向けて、潜在性結核感染症の者に対して確実に治療を行っていくことが、将来の結核患者を減らすために重要である。

2 結核患者の多くは高齢者であり、高齢者は身体合併症及び精神疾患を有する者が多いことから、結核に係る治療に加えて合併症に係る治療も含めた複合的な治療を必要とする場合があるため、治療形態が多様化している。また、結核患者数の減少により、結核病床の病床利用率が低下し、結核病棟の維持が困難となり、医療アクセスの悪化している地域がある。そのため、患者を中心とした医療提供に向けて、病床単位で必要な結核病床を確保すること、結核病床及びその他の病床を一つの看護単位として治療を行うこと等により医療提供体制の確保に努める必要がある。

3 医療提供体制の確保に当たっては、都道府県域では、標準治療のほか、多剤耐性結核や管理が複雑な結核の治療を担う中核的な病院を確保すること、地域ごとに合併症治療を主に担う基幹病院を実情に応じて確保すること並びにそれらの中核的な病院及び基幹病院並びに結核病床を有する一般の医療機関が連携し、結核患者が身近な地域において個別の病態に応じた治療を受けられる地域医療連携体制を整備することが重要である。また、中核的な病院での対応が困難な結核患者を受け入れ、地域医療連携体制を支援する高度専門施設を国内に確保することが重要である。

国は、低まん延国化を達成した後の結核の医療提供体制のあり方について、検討するものとする。

4 重篤な合併症患者等については、結核病床を有する第二種感染症指定医療機関など、中核的な病院や基幹病院の一般病床等において結核治療が行われることがあることから、国の定める施設基準・診療機能の基準等に基づき、適切な医療提供体制を構築することとする。

5 結核の治療に当たっては、適切な医療が提供されない場合、疾患の治癒が阻害されるのみならず、治療が困難な多剤耐性結核の発生に至る可能性がある。このため、適切な医療が提供されることは、公衆衛生上も極めて重要であり、結核に係る適切な医療について医療機関への周知を行う必要がある。

6 医療現場においては、結核に係る医療は特殊なものではなく、まん延の防止を担保しながら一般の医療の延長線上で行われるべきであるとの認識の下、良質かつ適切な医療の提供が行われるべきである。このため、結核患者を診療する第二種感染症指定医療機関においては、結核患者に対して、特に法第十九条第一項及び第三項並びに第二十条第一項及び第二項の規定による入院の措置等(以下「入院措置等」という。)の必要な期間は、結核のまん延の防止のための院内感染予防措置を徹底した上で、患者の心理的負担にも配慮しつつ、中長期にわたる療養のために必要な環境の整備に努めるとともに、入院措置等の不要な結核患者に対しては、結核患者以外の患者と同様の療養環境において医療を提供するものとする。また、患者に対し確実な服薬を含めた療養方法及び他の患者等への感染防止の重要性について十分に説明し、理解及び同意を得て治療を行うことが重要である。

7 医療機関においては、結核の合併率が高い疾患を有する患者等(後天性免疫不全症候群、じん肺及び糖尿病の患者、人工透析を受けている患者、免疫抑制剤使用下の患者等)の管理に際し、必要に応じて結核感染の有無を調べ、結核に感染している場合には、積極的な潜在性結核感染症の治療に努めることとし、結核を発症している場合には、結核に関する院内感染防止対策を講ずるよう努めなければならない。

8 国民は、結核に関する正しい知識を持ち、その予防に必要な注意を払うとともに、特に有症状時には、適切な治療を受ける機会を逃すことがないように早期に医療機関を受診し、結核と診断された場合には治療を完遂するよう努めなければならない。また、結核の患者について、偏見や差別をもって患者の人権を損なわないようにしなければならない。

二 結核の治療を行う上での服薬確認の位置付け

1 世界保健機関は、平成二十六年に新たに採択した結核終息戦略においても、「統合された患者中心のケアと予防」の項に、DOTSを基本とした包括的な治療戦略(DOTS戦略)を引き継いでおり、我が国においても、日本版DOTS戦略として、確実な治療のため、潜在性結核感染症の者も含め結核患者を中心として、その生活環境に合わせて、服薬確認を軸とした患者支援、治療成績の評価等を含む包括的な結核対策を構築し、人権を尊重しながら、これを推進することとする。また、国は必要な抗結核薬を確保するよう努めていくものとする。

2 国及び地方公共団体が服薬確認を軸とした患者中心の支援を全国的に普及・推進していくに当たって、先進的な地域における取組も参考にしつつ、DOTSの実施状況等について検討するDOTSカンファレンスや患者が治療を完遂したかどうか等について評価するコホート検討会の充実、地域連携パスの導入など、保健所、医療機関、社会福祉施設、薬局等の関係機関との連携及び保健師、看護師、薬剤師等の複数職種の連携により、積極的な活動が実施されるよう、適切に評価及び技術的助言を行い、地域連携体制の強化を図ることとする。

3 保健所を拠点とし、地域の実情に応じて、地域の医療機関、薬局等との連携の下に服薬確認を軸とした患者中心の支援(以下「地域DOTS」という。)を実施するため、保健所は積極的に調整を行い、必要に応じて地域の関係機関へ積極的に地域DOTSの実施を依頼するとともに、保健所自らもDOTSの場の提供を行い、地域の結核対策の拠点としての役割を引き続き果たすこととする。

4 医師等及び保健所長は、結核の治療の基本は薬物治療の完遂であることを理解し、結核患者に対し服薬確認についての説明を行い、患者の十分な同意を得た上で、入院中はもとより、退院後も治療が確実に継続されるよう、医療機関等と保健所等が連携して、人権を尊重しながら、服薬確認を軸とした患者中心の支援を実施できる体制を更に推進していくことが重要である。患者教育の観点から、医療機関における入院中からのDOTSの十分な実施や、慢性的に排菌し、長期間にわたって入院を余儀なくされる結核患者に対しても、退院を見据えて、保健所が入院中から継続的に関与することが重要である。また、医療機関に入院しない結核患者に対しても、治療初期の患者支援が重要である。

三 その他結核に係る医療の提供のための体制

1 結核患者に係る医療は、結核病床を有する第二種感染症指定医療機関及び結核指定医療機関のみで提供されるものではない。結核患者が、最初に診察を受ける医療機関は、多くの場合一般の医療機関であるため、一般の医療機関においても、国及び都道府県等から公表された結核に関する情報について積極的に把握し、結核の診断の遅れの防止に努め、同時に医療機関内において結核のまん延の防止のために必要な措置を講ずることが重要である。また、結核の診断の遅れに対する対策として、保健所等においては、医療機関への啓発とともに、結核の早期診断に資する地域連携の取組を継続して行うことが望ましい。

2 医療機関及び民間の検査機関においては、結核患者の診断のための結核菌検査の精度を適正に保つため、外部機関によって行われる系統的な結核菌検査の精度管理を定期的に受けるべきである。そのためには、公益財団法人結核予防会結核研究所(以下「結核研究所」という。)、地方衛生研究所等(地域保健法(昭和二十二年法律第百一号)第二十六条第二項に規定する地方衛生研究所等をいう。第四の三において同じ。)、医療機関及び民間の検査機関などの関係機関が相互に協力し、精度管理を連携して行う必要がある。

3 一般の医療機関における結核患者への適切な医療の提供が確保されるよう、都道府県等において、地域医療連携体制を構築し、医療関係団体と緊密な連携を図ることが重要である。また、その際には、保健所が中心となり、医師会等の協力を得るよう努めるとともに、介護・福祉分野との連携を図ること等が重要である。

4 結核の治療完遂後に保健所長が行う病状把握については、治療中の服薬状況等から判断した発症のリスクを踏まえて、適切に実施するものとする。

5 障害等により行動制限のある高齢者等の治療について、患者の日常生活に鑑み、接触範囲等が非常に限られる場合において、医療機関は、入院治療以外の医療の提供についても適宜検討すべきである。

第四 研究開発の推進

一 基本的考え方

1 結核対策は、科学的な知見に基づいて推進されるべきであることから、結核に関する調査及び研究は、結核対策の基本となるべきものである。このため、国としても、必要な調査及び研究の方向性の提示、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)や国立健康危機管理研究機構のみならず、民間団体、関連諸学会、海外の研究機関等も含めた関係機関との連携の確保、それぞれの研究成果の相互活用の推進、調査及び研究に携わる人材の育成等の取組を通じて、調査及び研究を積極的に推進することとする。

2 BCGを含む結核に有効なワクチン、抗菌薬等の結核に係る医薬品は、結核の予防や結核患者に対する適切な医療の提供に不可欠なものであり、これらの研究開発は、国と民間が相互に連携を図って進めていくことが重要である。このため、国においては、結核に係る医療のために必要な医薬品に関する研究開発を推進していくとともに、民間においてもこのような医薬品の研究開発が適切に推進されるよう必要な支援を行うこととする。さらに、低まん延化に向けて、ハイリスクグループや感染が生じるリスクのある場を特定するとともに、感染経路の把握や海外からの人の移動が国内感染に与える影響を検証するため、分子疫学的手法等を用いた研究を推進することが必要である。

二 国における研究開発の推進

1 国は、全国規模の調査や高度な検査技術等を必要とする研究、結核菌等を迅速かつ簡便に検出する検査法の開発のための研究、多剤耐性結核の治療法等の開発のための研究等の結核対策に直接結びつく応用研究、新薬等を早期に現場に適用するための臨床研究等を推進し、海外、民間及び関係諸学会との積極的な連携や地方公共団体における調査及び研究の支援を進めることが重要である。

2 国においては、資金力や技術力の面で民間では研究開発が困難な医薬品等について、必要な支援に努めることとする。特に、現状では治療が困難な多剤耐性結核患者の治療法等新たな抗結核薬の開発等についても、引き続き調査研究に取り組んでいくこととする。なお、これらの研究開発に当たっては、抗結核薬等の副作用の減少等、安全性の向上にも配慮することとする。

3 国は、結核の低まん延国化を見据えて、定期のBCG接種の中止又は選択的接種の導入に関する将来の検討に資するため、諸外国の施策等の状況を収集するなど必要な研究を進めることとする。

三 地方公共団体における研究開発の推進

地方公共団体における調査及び研究の推進に当たっては、保健所と都道府県等の関係部局が連携を図りつつ、計画的に取り組むことが重要である。また、保健所においては、地域における結核対策の中核的機関との位置付けから、地方衛生研究所等と連携し、結核対策に必要な疫学的な調査及び研究を進め、地域の結核対策の質の向上に努めるとともに、地域における総合的な結核の情報の発信拠点としての役割を果たしていくことが重要である。

四 民間における研究開発の推進

医薬品の研究開発は、結核の発生の予防及びそのまん延の防止に資するものであるとの観点から、製薬企業等においても、その能力に応じて推進されることが望ましい。

第五 国際的な連携

一 基本的考え方

国等においては、結核対策に関して、海外の政府機関、研究機関、世界保健機関等の国際機関等との情報交換や国際的取組への協力を進めるとともに、結核に関する研究や人材養成においても国際的な協力を行うこととする。

二 世界保健機関等への協力

1 アフリカやアジア地域においては、後天性免疫不全症候群の流行の影響や結核対策の失敗からくる多剤耐性結核の増加等により、現在もなお結核対策が政策上重要な位置を占めている国及び地域が多い。世界保健機関等と協力し、これらの国の結核対策を推進することは、国際保健水準の向上に貢献するのみならず、我が国に在住する高まん延国出身者等の結核のり患率の低下にも寄与することから、我が国の結核対策の延長上の問題としてとらえられるものである。したがって、国は世界保健機関等と連携しながら、国際的な取組を積極的に行っていくこととする。

2 国は政府開発援助による二国間協力事業により、途上国の結核対策のための人材の養成や研究の推進を図るとともに、これらの国との研究協力関係の構築や情報の共有に努めることとする。

第六 人材の養成

一 基本的考え方

結核患者の七割以上が医療機関の受診により結核が見つかっている一方で、結核に関する知見を十分に有する医師が少なくなっている現状を踏まえ、結核の早期の確実な診断及び結核治療の成功率の向上のために、国及び都道府県等は、結核に関する幅広い知識や標準治療法を含む研究成果の医療現場への普及等の役割を担う人材の養成を行うこととする。人材の養成に当たっては、国及び都道府県等のほか、大学、関連諸学会、独立行政法人国立病院機構の病院(以下「国立病院機構病院」という。)等の医療機関、結核研究所等の関係機関が有機的に連携し、教育研修を実施することが重要である。また、必要に応じ、重篤な合併症を有する患者を治療できる医療機関を活用しつつ、結核に関する実地医師教育の充実を図ることが望まれる。また、大学医学部を始めとする医師等の医療関係職種の養成課程等においても、結核に関する教育等を通じて、医師等の医療関係職種の間での結核に関する知識の浸透に努めることが重要である。

なお、結核医療に従事する医師や看護師が減少している中で、地域における結核患者の相談体制を確保するためには、国立病院機構病院等の地域の中核的な病院や結核研究所などの関係機関がネットワークを強化するとともに、そのネットワークを有効活用することが必要である。

二 国における人材の養成

1 国は、結核に関する最新の臨床知識及び技能の修得並びに新たな結核対策における医療機関の役割について認識を深めることを目的として、感染症指定医療機関の医師はもとより、一般の医療機関の医師、薬剤師、診療放射線技師、保健師、助産師、看護師、准看護師、臨床検査技師等に対する研修に関しても必要な支援を行っていくこととする。

2 国は、結核行政の第一線に立つ職員の資質を向上させ、結核対策を効果的に進めていくため、保健所及び地方衛生研究所等の職員に対する研修の支援に関して、検討を加えつつ適切に行っていくこととする。

三 都道府県等における結核に関する人材の養成

都道府県等は、結核に関する研修会に保健所及び地方衛生研究所等の職員を積極的に派遣するとともに、都道府県等が結核に関する講習会等を開催すること等により保健所及び地方衛生研究所等の職員に対する研修の充実を図ることが重要である。さらに、これらにより得られた結核に関する知見を保健所及び地方衛生研究所等において活用することが重要である。また、感染症指定医療機関においては、その勤務する医師の能力の向上のための研修等を実施するとともに、医師会等の医療関係団体においては、会員等に対して結核に関する情報提供及び研修を行うことが重要である。

第七 普及啓発及び人権の尊重

一 基本的考え方

1 国及び地方公共団体においては、結核に関する適切な情報の公表、正しい知識の普及等を行うことが重要である。特に、国及び都道府県等並びに医療機関の情報共有に当たっては、都道府県が実施する結核予防技術者地区別講習会等を通じ、連携を図ることが重要である。また、結核のまん延の防止のための措置を講ずるに当たっては、人権の尊重に留意することとする。

2 保健所においては、地域における結核対策の中核的機関として、結核についての情報提供、相談等を行う必要がある。

3 医師その他の医療関係者においては、結核患者等への十分な説明と同意に基づいた医療を提供することが重要である。

4 国民においては、結核について正しい知識を持ち、自らが感染予防に努めるとともに、結核患者が差別や偏見を受けることがないよう配慮することが重要である。

第八 施設内(院内)感染の防止等

一 施設内(院内)感染の防止

1 病院等の医療機関においては、適切な医学的管理下にあるものの、その性質上、患者及び従事者には結核感染の機会が潜んでおり、かつ実際の感染事例も少なくないという現状にかんがみ、院内感染対策委員会等を中心に院内感染の防止並びに発生時の感染源及び感染経路調査等に取り組むことが重要である。また、実際に行っている対策及び発生時の対応に関する情報について、都道府県等や他の施設に提供することにより、その共有化を図ることが望ましい。

2 学校、社会福祉施設、学習塾等において結核が発生し、及びまん延しないよう、都道府県等にあっては、施設内感染の予防に関する最新の医学的知見等を踏まえた情報をこれらの施設の管理者に適切に提供することが重要である。

3 都道府県等は、結核の発生の予防及びそのまん延の防止を目的に、施設内(院内)感染に関する情報や研究の成果を、医師会等の関係団体等の協力を得つつ、病院等、学校、社会福祉施設、学習塾等の関係者に普及していくことが重要である。また、これらの施設の管理者にあっては、提供された情報に基づき、必要な措置を講ずるとともに、普段からの施設内(院内)の患者、生徒、収容されている者及び職員の健康管理等により、結核患者が早期に発見されるように努めることが重要である。外来患者やデイケア等を利用する通所者に対しても、十分な配慮がなされることが望ましい。

二 小児結核対策

結核感染危険率の減少、定期のBCG接種の徹底及び潜在性結核感染症の治療の推進により、小児の結核患者数は著しく減少しているが、小児結核の診療経験を有する医師及び診療に対応できる医療機関が減少している。そのため、法第十七条第一項及び第二項の規定に基づく健康診断の迅速な実施、潜在性結核感染症の治療の徹底、結核診断能力の向上、小児結核発生動向調査等の充実を図るほか、小児結核を診療できる医師の育成、小児結核に係る相談対応、重症患者への対応等、小児結核に係る診療体制の確保のための新たな取組が必要である。

三 保健所の機能強化

保健所は、結核対策において中心的な役割を担っており、市町村からの求めに応じた技術支援、法第十七条の規定に基づく結核に係る健康診断の実施、感染症の診査に関する協議会の運営等による適切な医療の普及、訪問等による患者の治療支援、地域への結核に関する情報の発信及び技術支援・指導、届出に基づく発生動向の把握及び分析等様々な役割を果たしている。都道府県等は、保健所による公的関与の優先度を考慮して業務の重点化や効率化を行うとともに、保健所が公衆衛生対策上の重要な拠点であることに鑑み、結核対策の技術的拠点としての位置付けを明確にすべきである。

第九 具体的な目標等

一 具体的な目標

結核対策を総合的に推進することにより、我が国が、近い将来、結核を公衆衛生上の課題から解消することを目標とする。具体的には、成果目標として、平成三十二年までに、り患率を十以下とするとともに、事業目標として、全結核患者及び潜在性結核感染症の者に対するDOTS実施率を九十五パーセント以上、肺結核患者の治療失敗・脱落率を五パーセント以下、潜在性結核感染症の治療を開始した者のうち治療を完了した者の割合を八十五パーセント以上とすることを目指すこととする。

二 目標の達成状況の評価及び展開

一に定める目標を達成するためには、本指針に掲げた取組の進ちょく状況について、定期的に把握し、専門家等の意見を聴きながら評価を行うとともに、必要に応じて、取組の見直しを行うことが重要である。

附 則 (令和七年三月七日厚生労働省告示第五二号) 抄

(適用期日)

1 この告示は、令和七年四月一日から適用する。