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○インフルエンザに関する特定感染症予防指針

(平成十一年十二月二十一日)

(厚生省告示第二百四十七号)

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)第十一条第一項の規定に基づき、インフルエンザに関する特定感染症予防指針を次のように作成したので、同項の規定に基づき、公表する。

インフルエンザに関する特定感染症予防指針

インフルエンザは、人類が数千年前から経験してきた感染症であり、人類にとって最も身近な感染症の一つである。また、風邪症候群を構成する感染症の一つであることから、特に、我が国において、普通の風邪と混同されることが多い。しかしながら、り患した場合の症状の重篤性や肺炎等の合併症の問題を考えた場合には、普通の風邪とは全く異なる転帰を迎えることがあるといった特性に加えて、A型インフルエンザについては、汎流行が数十年に一度発生し、我が国を含めた世界各国で甚大な健康被害と社会活動への影響を引き起こすという特徴を有している。このようなインフルエンザが与える個人及び社会全体への影響に鑑みると、行政関係者や医療関係者はもちろんのこと、個々の国民においてもその予防に取り組んでいくことが極めて重要である。

また、平成六年に、予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)の対象からインフルエンザが除外されたことに伴い、国民の間でインフルエンザの危険性とインフルエンザワクチンの有効性を軽視する風潮が生まれ、インフルエンザワクチンの必要性を含めたインフルエンザの脅威と予防の重要性が、必ずしも国民の間で十分に認識されなくなった。このような状況の下、近年、特別養護老人ホーム等の高齢者が入所する施設においてインフルエンザの集団感染が発生し、入所者が死亡する事例が複数発生し、社会問題化した。これを契機に、高齢者のインフルエンザの発病や重症化を防止するため、平成十三年に、予防接種法の一部が改正され、高齢者に係るインフルエンザを予防接種の対象疾病に加えるとともに、予防接種の対象疾病を類型化する等の措置が講じられた。これにより、インフルエンザの予防接種を希望する高齢者は、予防接種法に基づき、市町村が行う予防接種を自らの判断により受けることが可能になった。

さらに、近年においては、乳幼児のインフルエンザのり患中に発生する脳炎や脳症の問題等も指摘されている。

本指針は、このような認識及び状況の下に、我が国最大の感染症であるインフルエンザについて、国、地方公共団体、医療関係者等が連携して取り組んでいくべき対策について、予防接種の推進等による発生の予防及びまん延の防止、良質かつ適切な医療の提供、正しい知識の普及等の観点から新たな取組の方向性を示すことを目的とする。また、本指針に基づいて、具体的かつ技術的なインフルエンザ対策要綱を作成し、それに基づいた総合的な対策を進めていくこととする。なお、新型インフルエンザについては、新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成二十四年法律第三十一号)及び新型インフルエンザ等対策政府行動計画(平成二十五年六月七日閣議決定)に基づき、総合的な対策が進められている。

本指針については、少なくとも五年ごとに再検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更していくものである。

第一 原因の究明

一 基本的考え方

冬季に爆発的に患者が発生し、患者発生数が頂点を迎えた後は急速に終息に向かうといったインフルエンザの流行の特性を考えた場合、適切な予防の実施及び良質かつ適切な医療の提供を支援していくためには、インフルエンザの発生動向の調査は、極めて重要である。

国及び都道府県等(都道府県、保健所を設置する市及び特別区をいう。以下同じ。)がインフルエンザに関する情報の収集及び分析を行い、国民や医師等の医療関係者に対して情報を公開していくことが、インフルエンザ対策を進めていく上で、最も基本的な事項である。

二 発生動向の調査の強化

国及び都道府県等は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号。以下「感染症法」という。)に基づくインフルエンザの発生動向の調査を強化すべきである。特に、感染症の情報収集における迅速性と正確性という本来相反する二つの側面の均衡に配慮しつつ、感染力が極めて強く、かつ、極めて短期間の間に流行が拡大するというインフルエンザの特性に応じた効果的かつ効率的な情報収集体制を整備すべきである。また、感染症法第十四条の二第二項において、都道府県知事の指定を受けた病院若しくは診療所又は衛生検査所(以下「指定提出機関」という。)の管理者は、当該指定提出機関(病院又は診療所に限る。)の医師がインフルエンザの患者を診断したとき、又は当該指定提出機関(衛生検査所に限る。)の職員がインフルエンザの患者の検体若しくはインフルエンザの病原体について検査を実施したときは、当該患者の検体又は当該病原体の一部を都道府県知事等に提出することが義務づけられており、感染症の発生動向の調査に当たっては、患者に関する情報のみならず、病原体に関する情報も含めて、総合的な調査を行うことが重要である。

三 発生動向の調査の結果の公開及び提供の強化

国及び都道府県等がインフルエンザの発生動向の調査の結果の公開及び提供を行うに当たり、様々な立場の者が情報の受け手として想定される。したがって、医療関係者等の感染症の専門家のみならず、感染症についての専門的な知識を有していない国民が、必要な情報を短時間で、正確かつ理解しやすい形で入手できるよう調査の結果の公開及び提供を強化していくことが重要である。

四 国際的な発生動向の把握

インフルエンザは、我が国のみならず世界中で発生する地球規模の感染症であることから、我が国のインフルエンザ対策をより一層的確なものとするため、国際的なインフルエンザの発生及び流行の状況を把握すべきである。

第二 発生の予防及びまん延の防止

一 基本的考え方

インフルエンザの発生の予防及びまん延の防止においては、個々の国民が自ら予防に取り組むことが基本であり、個人の予防の積み重ねが、社会全体のまん延の防止に結びつく。特に高齢者については、重症化防止に予防接種が有効であることが明らかになっていることから、平成十三年の予防接種法の一部改正の趣旨に沿って積極的に予防接種を受けることが望ましい。また、国及び都道府県等においては、医師会等の関係団体とともに、個々の国民が自ら予防に取り組むことを積極的に支援していくことが重要である。

二 予防接種の推進

インフルエンザについては、予防接種が最も基本となる予防方法であり、個人の発病や重症化の防止の観点から、予防接種を推進していくべきである。このため、予防接種の実施者である市町村は、六十五歳以上の者をはじめとする予防接種法に基づく予防接種の対象者に対し、同法に基づく接種対象者である旨を周知するよう努めるとともに、接種対象者がかかりつけ医と相談しながら自らの判断で予防接種を受けるか否かを決定することができるよう、インフルエンザワクチンの効果、副反応等について正しい知識の普及に努めることが必要である。なお、接種を希望しない者が接種を受けることがないよう、市町村は徹底しなければならない。

また、国及び都道府県等は、予防接種法に基づく予防接種の対象者以外の一般国民に対しても、自らの判断で予防接種を受けるか否かを決定することができるよう、インフルエンザワクチンの効果、副反応等について正しい知識の普及に努めていくことが重要である。

三 予防接種以外の一般的な予防方法の普及

国及び都道府県等は、予防接種以外の一般的な予防方法について、科学的根拠に基づき、かつ、インフルエンザ以外の普通の風邪の予防も併せて想定した上で、国民に対する周知徹底を図っていくことが重要である。

四 施設内感染の防止

インフルエンザウイルスは感染力が非常に強いことから、集団生活の場に侵入することにより、大規模な集団感染を起こすことがある。特に、高齢者等の高危険群に属する者が多く入所している施設においては、日常の健康管理や居住環境の向上に努めるとともに、施設内にインフルエンザウイルスが持ち込まれないようにすることが重要である。

国は、インフルエンザウイルスの施設への侵入の阻止と侵入した場合のまん延の防止を目的とした標準的な施設内感染防止の手引きを策定し、都道府県等とともに各施設に普及していくべきである。その上で、各施設においては、施設内感染対策の委員会等を設置し、当該手引きを参考に、各施設の特性に応じた独自の施設内感染対策の指針を事前に策定しておくべきである。なお、高齢者等の高危険群が多く入所している施設において、入所している者に対して予防接種法に基づく予防接種を行う場合には、個々の者に対して接種の希望を確認した上で、接種を行わなければならず、一律に接種が行われることはあってはならないことである。

五 一般向け情報提供体制及び相談機能の強化

国は、予防接種の意義、有効性、副反応等やインフルエンザの一般的な予防方法、流行状況等に関する国民の疑問に的確に答えていくため、関係団体と連携を図り、情報提供体制及び相談機能を強化していくべきである。

第三 医療の提供

一 基本的考え方

インフルエンザは、健康な人がり患した場合には、重症化することは少ないが、初期症状は普通の風邪と共通する点が多いことから、その鑑別診断は容易ではない。よって、インフルエンザ様の症状を呈する患者の診療に当たっては、的確な鑑別診断が重要である。また、乳幼児がり患した場合には、脳炎や脳症を引き起こすことも問題として指摘されており、高齢者を中心として慢性疾患を有する者等がり患した場合には、合併症を併発することにより重症化する場合が多く、これらの高危険群に属する者に対しては、呼吸器症状の治療のみならず、十分な全身の管理が求められる。したがって、国及び都道府県等は、医療関係者を支援していくため、医療機関向け学術情報の発信強化等を図ることが重要である。

二 医療機関向け学術情報の発信強化

国及び都道府県等は、日進月歩で進んでいるインフルエンザに関する診断方法、治療方法等の研究成果について、医療機関に迅速に提供していくため、医師会等の関係団体との連携を図りながら、各種学術情報の発信強化を行うことが重要である。また、国は、関係団体と連携を図り、医療関係者からの相談にも応じられるよう相談機能の強化を図るべきである。

三 流行が拡大した場合の対応の強化

インフルエンザの流行に伴い、患者が大量に発生した場合においても、良質かつ適切な医療を提供するためには、国、都道府県等、医師会等の関係団体等の相互の連携が重要であり、流行していない時期から継続的に連携を図ることが重要である。国及び都道府県等は、実際にインフルエンザが大流行して多数の患者が発生した場合を想定して、消防機関と医療機関との一層の連携強化を図るとともに、必要な病床や機材の確保、診療に必要な医薬品の確保、医師、看護婦等の医療従事者の確保等の緊急時の医療提供体制をあらかじめ検討しておくことが重要である。

四 施設における発生事例への対応の強化

高齢者等の高危険群に属する者が多く入所している施設において、インフルエンザの流行が発生した場合には、都道府県等は、当該施設等の協力を得ながら積極的疫学調査(感染症法第十五条に規定する感染症の発生の状況、動向及び原因の調査をいう。以下同じ。)を実施し、感染拡大の経路及び感染拡大に寄与した因子の特定等を行うことにより、施設内感染の再発防止に役立てることが望ましい。また、国及び都道府県等は、積極的疫学調査のほか、施設からの求めに応じて適切な支援及び助言を行うことが求められる。

五 インフルエンザワクチン等の供給

国は、インフルエンザワクチン並びに必要な診断薬及び治療薬について、円滑な生産及び流通が図られるよう努めることが重要である。このため、特に、インフルエンザワクチンについて、毎年度の需要を検討するとともに、インフルエンザワクチンの製造販売業者等と連携しつつ、必要量が円滑に供給できるように努めることが重要である。また、予期せぬ需要の増大が生じた場合には、高危険群に属する者への円滑な接種に配慮しつつ、供給面についての対策を検討することが重要である。

第四 研究開発の推進

一 基本的考え方

インフルエンザの特性に応じた発生の予防及びまん延の防止や良質かつ適切な医療の提供を推進していくためには、研究結果が感染の拡大抑制、また、良質かつ適切な医療の提供につながるような研究を行っていくべきである。特に、インフルエンザは、いまだ解明されていない点が多く、基礎、疫学、臨床等の各分野における知見の集積は不可欠であるが、これらの自然科学的側面のみならず、社会的側面や政策的側面にも配慮した研究を行っていくことが重要である。このため、国及び都道府県等は、このような観点から、インフルエンザ研究の基盤整備を推進することが重要である。

二 インフルエンザワクチン等の研究開発

国は、より有効かつ安全なインフルエンザワクチン及び治療薬の開発に向けた研究、より迅速かつ確実な診断方法及び検査方法の開発に向けた研究、現行のインフルエンザワクチン及び治療薬等の使用に関する研究等を強化するとともに、戦略的な研究目標を設定することが重要である。

三 疫学研究の推進

国は、インフルエンザの発生及びまん延の状況の早期把握、流行予測の手法に関する研究を推進するとともに、高齢者に対するインフルエンザワクチンの接種の効果の検証、インフルエンザにり患した場合における脳炎や脳症の発症の可能性があるためにインフルエンザの高危険群に属する可能性がある乳幼児に関する疫学研究等を推進することが重要である。

四 研究機関の連携体制の整備

国及び都道府県等は、研究の充実を図るため、国立感染症研究所、地方衛生研究所、大学、国立病院、国立療養所等から成る研究機関の連携体制を整備するとともに、研究成果が相互に活用できる体制を整備することが重要である。

五 研究評価の充実

国は、研究の充実を図るため、研究の成果を的確に評価するとともに、国民や医療関係者等に対する公開及び提供を積極的に行うことが重要である。

第五 国際的な連携

一 基本的考え方

インフルエンザは、我が国のみならず世界中で発生する地球規模の感染症であり、我が国のインフルエンザ対策の充実と世界全体への貢献の観点から、国際機関、先進国等との連携を図りつつ、対策を進めていくことが極めて重要である。

二 国際機関との連携強化

国は、世界保健機関その他の国際機関への支援を通じて、国際的なインフルエンザの発生動向の調査の体制を構築するとともに、世界各地でインフルエンザが流行した場合には、その情報を迅速に収集できる体制を構築することが必要である。

三 先進国相互間の協力体制の整備

国は、インフルエンザの予防方法、診断方法及び検査方法の標準化、治療方法の開発等について、先進国相互間で情報交換を行うとともに、共同でこれらを行う等の政府間や研究者間の協力体制の整備を進めていくことが重要である。

四 開発途上国への協力

インフルエンザ対策が公衆衛生上の優先課題となっていない国々に対する発生動向の調査体制の整備に関する技術支援を通じて、これらの国々におけるインフルエンザの発生動向等の情報を収集するとともに、感染の拡大の抑制等に向けた支援を行っていくことが重要である。このため、二国間保健医療協力分野においても、外務省等とも連携を図りながら、積極的に協力を推進することが望ましい。

第六 関係機関との連携の強化等

一 基本的考え方

関係するすべての機関が、役割を分担し、協力しつつ、それぞれの立場からの取組を推進することが必要である。このため、厚生労働省、外務省、文部科学省、農林水産省等における普及啓発の推進、研究成果の情報交換、官民連携による施策の推進を図るほか、国及び都道府県等と医師会等の関係団体との連携を強化することによって、インフルエンザの発生動向の調査体制の充実、報道機関等を通じた積極的な広報活動の推進等を図ることが重要である。

二 保健所及び地方衛生研究所の機能強化

地域における感染症対策の中核としての保健所の役割を強化するとともに、感染予防対策を推進する上での所管地域の特性等の留意点を分析できるよう保健所の機能強化を図ることが重要である。また、都道府県等における病原体検査の中心的な役割を果たす地方衛生研究所の機能強化を図ることが重要である。

三 専門家会合の開催

予防接種に代表される発生の予防及びまん延の防止の方法は、科学的根拠に基づいたものであることが不可欠である。国は、インフルエンザの専門家から成る委員会を設置することにより、科学的知見を定期的に蓄積し、その結果をインフルエンザ対策に反映することが重要である。

四 本指針の進捗状況の評価及び展開

本指針を有効に機能させるためには、関係者が協力して本指針に掲げた施策に取り組むことが極めて重要である。このため、国は、流行期におけるインフルエンザの発生状況及び本指針に基づく取組の進捗状況を取りまとめ、次の流行期に備えておくべきである。

改正文 (平成一二年一二月二八日厚生省告示第六二四号) 抄

平成十三年一月六日から適用する。

改正文 (平成一七年三月三一日厚生労働省告示第一五九号) 抄

平成十七年四月一日から適用する。

改正文 (平成二二年三月三一日厚生労働省告示第一三九号) 抄

平成二十二年四月一日から適用する。

改正文 (平成二六年一一月二一日厚生労働省告示第四三九号) 抄

薬事法等の一部を改正する法律の施行の日(平成二十六年十一月二十五日)から適用する。

改正文 (平成二七年三月三一日厚生労働省告示第一九三号) 抄

平成二十七年四月一日から適用する。