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○循環器病対策推進基本計画の策定について

(令和2年10月27日)

(健発1027第1号)

(各都道府県知事あて厚生労働省健康局長通知)

(公印省略)

政府においては、健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法(平成30年法律第105号)第9条第1項に基づき、令和2年10月27日、別添のとおり「循環器病対策推進基本計画」(以下「基本計画」という。)を閣議決定したところである。

基本計画は、循環器病対策の総合的かつ計画的な推進を図るため、循環器病対策の基本的方向について定めるとともに、都道府県循環器病対策推進計画(以下「都道府県計画」という。)の基本となるものである。

各都道府県におかれては、医療法(昭和23年法律第205号)第30条の4第1項に規定する「医療計画」、健康増進法(平成14年法律第103号)第8条第1項に規定する「都道府県健康増進計画」、介護保険法(平成9年法律第123号)第118条第1項に規定する「都道府県介護保険事業支援計画」及び消防法(昭和23年法律第186号)第35条の5第1項に規定する「実施基準」等との調和を図るとともに、循環器病患者及び循環器病患者であった者並びにこれらの者の家族又は遺族の視点も踏まえ、都道府県計画を策定し、循環器病対策の推進を図られるようお願いする。

また、管内市町村、関係団体、関係機関等に対する周知をお願いする。

○循環器病対策推進基本計画の策定について

(令和2年10月27日)

(健発1027第2号)

((別記)あて厚生労働省健康局長通知)

(公印省略)

健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法(平成30年法律第105号)第9条第1項に基づき、令和2年10月27日、「循環器病対策推進基本計画」(以下「基本計画」という。)が閣議決定されたことに伴い、別添のとおり、その内容を十分了知の上都道府県循環器病対策推進計画を策定し、循環器病対策の推進を図っていただきたい旨、令和2年10月27日付けをもって各都道府県知事あて通知いたしました。

つきましては、本件についてその趣旨を御了知いただくとともに、貴管下の関係団体及び関係者に対する周知、協力方よろしくお願いいたします。

(別記)

全国健康保険協会理事長

健康保険組合連合会会長

一般社団法人全国国民健康保険組合協会会長

財務省主計局長

総務省自治行政局長

文部科学省高等教育局私学部長

健康保険組合理事長

都道府県後期高齢者医療広域連合事務局長

一般社団法人日本病院会会長

公益社団法人全日本病院協会会長

一般社団法人日本医療法人協会会長

公益社団法人日本精神科病院協会会長

国立研究開発法人国立循環器病研究センター理事長

公益社団法人日本医師会会長

公益社団法人日本歯科医師会会長

公益社団法人日本薬剤師会会長

公益社団法人日本看護協会会長

公益社団法人日本理学療法士協会会長

一般社団法人日本作業療法士協会会長

一般社団法人日本言語聴覚士協会会長

公益社団法人日本医療社会福祉協会会長

一般社団法人日本介護支援専門員協会会長

公益社団法人日本栄養士会会長

一般社団法人日本脳卒中学会理事長

一般社団法人日本循環器学会代表理事

特定非営利活動法人日本心臓血管外科学会理事長

一般社団法人日本救急医学会代表理事

公益社団法人日本リハビリテーション医学会理事長

公益社団法人日本脳卒中協会理事長

特定非営利活動法人日本失語症協議会理事長

特定非営利活動法人日本脳卒中者友の会理事長

日本心臓ペースメーカー友の会会長

一般社団法人全国心臓病の子どもを守る会会長

一般社団法人日本医療機器産業連合会会長

日本製薬工業協会会長

一般社団法人日本リハビリテーション病院・施設協会会長

一般社団法人日本救急救命士協会会長

一般社団法人日本神経学会代表理事

一般社団法人日本脳神経外科学会理事長

一般社団法人日本脳ドック学会理事長

一般社団法人日本循環器看護学会理事長

特定非営利活動法人日本小児循環器学会理事長

子どもに無煙環境を推進協議会

一般社団法人日本禁煙学会理事長

一般社団法人日本痛風・尿酸核酸学会理事長

脳卒中等の患者家族を元気にする会

一般社団法人日本胸部外科学会理事長

一般社団法人心臓弁膜症ネットワーク代表理事

一般社団法人回復期リハビリテーション病棟協会会長

特定非営利活動法人日本血管外科学会理事長

一般社団法人米国医療機器・IVD工業会会長

特定非営利活動法人ジャパンハートクラブ理事長

特定非営利活動法人日本遠隔医療協会理事長

特定非営利活動法人日本マルファン協会代表理事

一般社団法人協創リハビリテーションを考える会共同代表理事

(別添)

○循環器病対策推進基本計画の策定について

(令和2年10月27日)

(健発1027第1号)

(各都道府県知事あて厚生労働省健康局長通知)

(公印省略)

政府においては、健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法(平成30年法律第105号)第9条第1項に基づき、令和2年10月27日、別添のとおり「循環器病対策推進基本計画」(以下「基本計画」という。)を閣議決定したところである。

基本計画は、循環器病対策の総合的かつ計画的な推進を図るため、循環器病対策の基本的方向について定めるとともに、都道府県循環器病対策推進計画(以下「都道府県計画」という。)の基本となるものである。

各都道府県におかれては、医療法(昭和23年法律第205号)第30条の4第1項に規定する「医療計画」、健康増進法(平成14年法律第103号)第8条第1項に規定する「都道府県健康増進計画」、介護保険法(平成9年法律第123号)第118条第1項に規定する「都道府県介護保険事業支援計画」及び消防法(昭和23年法律第186号)第35条の5第1項に規定する「実施基準」等との調和を図るとともに、循環器病患者及び循環器病患者であった者並びにこれらの者の家族又は遺族の視点も踏まえ、都道府県計画を策定し、循環器病対策の推進を図られるようお願いする。

また、管内市町村、関係団体、関係機関等に対する周知をお願いする。

別添

循環器病対策推進基本計画

令和2年10月

目次

1.はじめに

2.循環器病の特徴並びに循環器病対策に係るこれまでの取組及び課題

3.全体目標

(1) 循環器病の予防や正しい知識の普及啓発

(2) 保健、医療及び福祉に係るサービスの提供体制の充実

(3) 循環器病の研究推進

4.個別施策

【循環器病の診療情報の収集・提供体制の整備】

(1) 循環器病の予防や正しい知識の普及啓発

(2) 保健、医療及び福祉に係るサービスの提供体制の充実

①循環器病を予防する健診の普及や取組の推進

②救急搬送体制の整備

③救急医療の確保をはじめとした循環器病に係る医療提供体制の構築

④社会連携に基づく循環器病対策・循環器病患者支援

⑤リハビリテーション等の取組

⑥循環器病に関する適切な情報提供・相談支援

⑦循環器病の緩和ケア

⑧循環器病の後遺症を有する者に対する支援

⑨治療と仕事の両立支援・就労支援

⑩小児期・若年期から配慮が必要な循環器病への対策

(3) 循環器病の研究推進

5.循環器病対策の総合的かつ計画的な推進の確保のために必要な事項

(1) 関係者等の有機的連携・協力の更なる強化

(2) 都道府県による計画の策定

(3) 必要な財政措置の実施及び予算の効率化・重点化

(4) 新型コロナウイルス感染症を踏まえた対策

(5) 基本計画の評価・見直し

1.はじめに

脳卒中、心臓病その他の循環器病(以下「循環器病」という。)1は、我が国の主要な死亡原因である。循環器病には、虚血性脳卒中(脳梗塞)、出血性脳卒中(脳内出血、くも膜下出血など)、一過性脳虚血発作、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)、心不全、不整脈、弁膜症(大動脈弁狭さく症、僧帽弁逆流症など)、大動脈疾患(大動脈解離、大動脈りゅうなど)、末しょう血管疾患、肺血栓塞栓症、肺高血圧症、心筋症、先天性心・脳血管疾患、遺伝性疾患等、多くの疾患が含まれる。

平成30(2018)年の人口動態統計によると、心疾患は死亡原因の第2位、脳血管疾患は第4位であり、両者を合わせると、悪性新生物(がん)に次ぐ死亡原因2となっており、年間31万人以上の国民が亡くなっている。

令和元(2019)年版「救急・救助の現況」(総務省消防庁)によると、平成30(2018)年中の救急自動車による救急出動件数のうち、最も多い事故種別は急病(全体の65.0%)である。急病の疾病分類では、脳疾患及び心疾患等を含む循環器系が多く、全体の15.7%を占め、特に高齢者ではその割合が高い。さらに、急病の傷病程度別の搬送人数について、その疾病分類を分析すると、死亡及び重症(長期入院)において、脳疾患や心疾患等が占める割合が高い。また、循環器系の疾患は加齢とともに患者数が増加する傾向にある3ことに鑑みれば、高齢者人口がピークを迎える2040年頃の我が国を展望すると、より一層の対策が必要である。

さらに、令和元(2019)年「国民生活基礎調査」(厚生労働省)によると、介護が必要となった主な原因に占める割合は、脳血管疾患が16.1%、心疾患が4.5%であり、両者を合わせると20.6%と最多である。

また、平成29(2017)年度版「国民医療費」(厚生労働省)の概況によると、平成29(2017)年度の傷病分類別医科診療医療費30兆8,335億円のうち、循環器系の疾患が占める割合は、6兆782億円(19.7%)と最多である4

このように、循環器病は国民の生命や健康に重大な影響を及ぼす疾患であるとともに、社会全体に大きな影響を与える疾患である。

こうした現状に鑑み、誰もがより長く元気に活躍できるよう、健康寿命5の延伸等を図り、あわせて医療及び介護に係る負担の軽減に資するため、予防や医療及び福祉に係るサービスの在り方を含めた幅広い循環器病対策を総合的かつ計画的に推進することを目的として、健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法(平成30年法律第105号。以下「法」という。)が平成30(2018)年12月に成立し、令和元(2019)年12月に施行された。

本循環器病対策推進基本計画(以下「基本計画」という。)は、法第9条第1項の規定に基づき策定されるものであり、国の循環器病対策の基本的な方向について明らかにするものである。

同条第7項において、政府は、循環器病の予防並びに循環器病患者等に対する保健、医療及び福祉に係るサービスの提供に関する状況の変化、循環器病に関する研究の進展等を勘案し、並びに循環器病対策の効果に関する評価を踏まえ、少なくとも6年ごとに、基本計画に検討を加え、必要があると認めるときには、これを変更しなければならないこととされている。他方で、基本計画を基本として作成される都道府県循環器病対策推進計画(以下「都道府県計画」という。)は、法第11条第3項の規定に基づき、医療法(昭和23年法律第205号)第30条の4第1項に規定する医療計画(以下「医療計画」という。)や介護保険法(平成9年法律第123号)第118条第1項に規定する都道府県介護保険事業支援計画(以下「都道府県介護保険事業支援計画」という。)等の関係する諸計画との調和が保たれたものとする必要がある。

これらを踏まえ、今回策定する計画の実行期間については、令和2(2020)年度から令和4(2022)年度までの3年程度を1つの目安として定める。なお、関係する諸計画との調和が保たれたものとするという趣旨に鑑みれば、今般策定する基本計画の実行期間後である令和5年度以降の基本計画の実行期間は現時点においては6年程度を1つの目安として定めることが望ましいと考える。

今後は、基本計画に基づき、国・地方公共団体・医療保険者が連携して、保健、医療又は福祉の業務に従事する者の意見を踏まえつつ、国民と一体となって取組を進める必要がある。

――――――――――

1 健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法(平成30年法律第105号)では、脳卒中、心臓病その他の循環器病を「循環器病」としているところ、同法に基づき策定する本基本計画についても同様とする。

2 第1位は悪性新生物(がん)、第2位は心疾患、第3位は老衰、第4位は脳血管疾患、第5位は肺炎。

3 平成29(2017)年「患者調査」(厚生労働省)上巻第61表より、心疾患では年齢階級75~79歳まで、脳血管疾患では年齢階級80~84歳まで患者数の増加傾向がみられる。

4 平成29(2017)年度「国民医療費」(厚生労働省)

5 健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間である。本文中の数値は、「日常生活に制限のない期間の平均」を用いている。

2.循環器病の特徴並びに循環器病対策に係るこれまでの取組及び課題

(循環器病の特徴)

循環器病は、1で述べたとおり加齢とともに患者数が増加する傾向にあり、悪性新生物(がん)と比べても循環器病の患者の年齢層は高い6が、他方で、乳幼児期、青壮年期、高齢期のいずれの世代でも発症するものでもあり、就労世代の患者数も一定程度存在することにも留意が必要である。このように幅広い年代に患者が存在することから、ライフステージ7にあった対策を考えていくことも求められる。

循環器病対策を総合的かつ計画的に進めるに当たっては、循環器病の特徴を踏まえた取組を進めることが重要であり、まずは、この特徴を関係者等が適切に理解することが肝要である。

循環器病の多くは、運動不足、不適切な食生活、喫煙等の生活習慣や肥満等の健康状態に端を発して発症する。その経過は、生活習慣病(高血圧症、脂質異常症、糖尿病、高尿酸血症、慢性腎臓病等)の予備群、循環器病をはじめとする生活習慣病の発症、重症化・合併症の発症、生活機能の低下・要介護状態へと進行するが、患者自身が気付かない間に病気が進行することも多い。ただし、これらの経過のうち、いずれの段階においても、生活習慣の改善や適切な治療によって予防・進行抑制が可能であるという側面もある。

また、循環器病には、生活習慣にかかわらず、先天性疾患、遺伝性疾患、感染性疾患、加齢などを原因とする疾患等、様々な病態が存在する。

循環器病は、急激に発症し、数分から数時間の単位で生命に関わる重大な事態に陥り、突然死に至ることがある。たとえ死に至らなくとも、特に脳卒中においては重度の後遺症を残すことも多い。しかし、発症後早急に適切な治療が行われれば、後遺症を含めた予後が改善される可能性がある。

回復期及び慢性期には、急性期に生じた障害が後遺症として残る可能性があるとともに、症状の重篤化や急激な悪化が複数回生じる危険性を常に抱えているなど再発や増悪を来しやすいといった特徴がある。また、脳血管疾患と心疾患の両方に罹患することもある等、発症から数十年間の経過の中で病状が多様に変化することも特徴の一つといえる。

(これまでの取組)

このように、循環器病は、患者ごとの特徴に応じて多様な対策を講じる必要性が高い疾患だが、これまでも我が国は、循環器病に係る予防から医療及び福祉に係るサービスまで幅広い対策を進めてきた。

例えば、「二十一世紀における第二次国民健康づくり運動(健康日本21(第二次)」(以下「健康日本21(第二次)」という。)を推進するものとして策定された健康増進法に基づく基本方針等に基づき、生活習慣病予防などライフステージに応じた健康づくりを、地域や職場と連携して推進するとともに、循環器病の予防や循環器病に関する知識の普及啓発を行ってきたところである。

保健、医療及び福祉に係るサービスについては、重症や重篤な救急患者を24時間受け入れる体制の確保や救急搬送の円滑な受入の推進等、救急医療体制の整備を総合的に進めてきた。また、高齢者が可能な限り、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に提供される体制(地域包括ケアシステム)の構築を進めるとともに、これを深化させ、全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り高め合う地域共生社会の実現に向けた取組を進めている。また、循環器病患者が地域で安心して暮らせるよう就労支援等に取り組んでいるところである。

循環器病の研究については、厚生労働省、文部科学省及び経済産業省が連携して、循環器病の病態解明や個人の発症リスク評価、新たな予防法、診断技術、治療法の開発等の研究に取り組んできた。

このような取組を進める中で、健康寿命は、着実に延伸しており、平成28(2016)年においては、男性72.14年、女性74.79年となっている。これは平成22(2010)年と比較して、男性で1.72年、女性で1.17年増加しており、同期間の平均寿命の増加分を上回る健康寿命の延伸を達成しているほか、健康寿命の地域間格差も縮小している8

また、循環器病の年齢調整死亡率は、年々減少傾向にある(平成30(2018)年においては、脳血管疾患の年齢調整死亡率(人口10万人対)は男性34.2/女性18.8、心疾患の年齢調整死亡率は男性63.0/女性32.3)。脳血管疾患の年齢調整死亡率は、1970年代前半まで高かったものの、現在は改善されつつある。心疾患についても、年齢調整死亡率は、1970年代以降、次第に低くなってきている9

このように、我が国では、循環器病対策に資する取組を着実に推進してきたことが国民の健康寿命の延伸や年齢調整死亡率の減少に貢献してきたと考えられる。

(今後の課題)

これまで実施してきた循環器病対策の各種施策を体系的に整理する必要性が指摘されているほか、今後のより一層の対策強化を目指すに当たって取り組むべき内容について、様々な指摘がなされている。

例えば、循環器病の予防や急性期の対応については、前述の循環器病の特徴を踏まえ、救急現場から医療機関へ迅速かつ適切に搬送できる体制の構築が求められている。また、予防から発症後の急性期、回復期、慢性期、それぞれへの対策を進めるだけではなく、発症後においても再発予防や重症化予防を繰り返し行う対策が必要であることが指摘されている。

あわせて、国民一人ひとりが、循環器病の発症を促進する危険因子をよく理解し、生活習慣の改善と基礎疾患の重症化予防に努めることが重要であり、これを支援するために、国、地方公共団体等が医療従事者等と連携して啓発活動を進める必要性についても指摘がある。

今後、高齢化の進む我が国において、誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現のためには、健康寿命を延伸し平均寿命との差、すなわち疾病等の健康上の理由により日常生活に制限のある期間を短縮していくことが重要な課題の1つとされている。この差は平成22(2010)年から平成28(2016)年までの間に男女共に共に約0.3年短縮されたものの、依然として10年近くあり10、更なる短縮に向けた取組が望まれる。この差を短縮するには、循環器病対策においても、発症予防を一層推進する必要がある。また、これと同時に、罹患しても日常生活にできるだけ制限を受けずに生活していく、すなわち、疾病と共生するための幅広い社会連携に基づく取組も併せて進めることが望まれている。

循環器病の治療については、症状を和らげる対症療法が発達してきたのに対して、疾病の原因に基づいた治療は発展途上である。循環器病研究においては、今後、対症療法にとどまらず、疾病の原因に基づく治療法やより低侵襲で有効な診断法・治療法を開発し、活用していくことが求められる。

そして、これらの循環器病対策を推進する基盤として、循環器病の実態を把握し、それを可視化することの重要性も指摘されている。生活習慣病予備群を含めた患者数は多いと考えられ、また、それぞれの治療法や病状は多様であるため、その把握は容易ではないが、循環器病の現状を可視化し、循環器病対策の評価及び検証並びに新たな課題の抽出につなげる必要性について指摘がある。

こうした課題を踏まえ、基本計画では、循環器病対策を総合的かつ計画的に推進することを目的として、国の循環器病対策の基本的な方向性について明らかにする。

――――――――――

6 平成29(2017)年「患者調査」(厚生労働省)

7 健康増進法(平成14年法律第103号)に基づき策定された国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針(平成24年厚生労働省告示第430号。以下「健康増進法に基づく基本方針」という。)では、「ライフステージ」は「乳幼児期、青壮年期、高齢期等の人の生涯における各段階をいう」としている。

8 平成30(2018)年3月「健康寿命及び地域格差の要因分析と健康増進対策の効果検証に関する研究」(厚生労働科学研究費補助金循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)

9 人口動態統計(厚生労働省)

10 平成28(2016)年の健康寿命と平均寿命の差は男性8.84年、女性12.35年。なお、平成28(2016)年の健康寿命は、男性72.14年、女性74.79年である。

3.全体目標

法の基本理念に照らし、次に掲げる「循環器病の予防や正しい知識の普及啓発」、「保健、医療及び福祉に係るサービスの提供体制の充実」及び「循環器病の研究推進」の3つの目標を達成することにより、「2040年までに3年以上の健康寿命の延伸11及び循環器病の年齢調整死亡率12の減少」を目指す。

(1) 循環器病の予防や正しい知識の普及啓発

回復期及び慢性期にも再発や増悪を来しやすいといった循環器病の疾患上の特徴に鑑み、循環器病の発症予防及び合併症の発症や症状の進展等の重症化予防に重点を置いた対策を推進する。循環器病の予防には、生活習慣等に対する国民の意識と行動の変容が必要であることから、国民に対し、循環器病とその多様な後遺症に関する十分かつ的確な情報提供を行うとともに、発症後早期の対応やその必要性に関する知識の普及啓発も行うことで、効果的な循環器病対策を進める。

(2) 保健、医療及び福祉に係るサービスの提供体制の充実

急性期には発症後早急に適切な診療を開始する必要があるという循環器病の特徴に鑑み、地域医療構想の実現に向け、高度急性期及び急性期から回復期及び慢性期までの病床の機能分化、連携等に取り組み、都道府県が地域の実情に応じた医療提供体制の構築を進める。循環器病の患者については、それぞれの関係機関が相互に連携しながら、継続して必要な医療、介護及び福祉に係るサービスを提供することが必要である。患者が可能な限り住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、地域包括ケアシステムの構築を推進することで、効果的かつ持続可能な保健、医療及び福祉に係るサービスの提供体制の充実を図る。

(3) 循環器病の研究推進

患者が安心して治療に向きあえるよう、患者のニーズを踏まえつつ、産学連携や医工連携も図りながら、循環器病の病態解明、新たな治療法や診断技術の開発、リハビリテーション等の予後改善、QOL向上等に資する方法の開発、個人の発症リスク評価や予防法の開発等に関する研究を推進する。また、科学的根拠に基づいた政策を立案し循環器病対策を効果的に進めるための研究を推進する。

――――――――――

11 令和元(2019)年5月29日に厚生労働省2040年を展望した社会保障・働き方改革本部において取りまとめられた「健康寿命延伸プラン」において、「2040年までに健康寿命を男女共に3年以上延伸し(2016年比)、75歳以上とすることを目指す」こととされている。なお、平成28(2016)年の健康寿命は、男性72.14年、女性74.79年である。

12 年齢調整死亡率について、脳血管疾患は、男性34.2、女性18.8(平成30(2018)年)、心疾患は、男性63.0、女性32.3(平成30(2018)年)であり、これを基準とする。

4.個別施策

3で定めた全体目標を達成するため、以下の(1)から(3)までに掲げる個別施策を実施する。

この実施に当たり、循環器病対策全体の基盤の整備として、診療情報の収集・提供体制を整備し、循環器病の実態解明を目指す。

【循環器病の診療情報の収集・提供体制の整備】

(現状・課題)

循環器病は、患者数が膨大な数に及ぶことや、発症から数十年間の経過の中で病状が多様に変化すること等から、実態を正確かつ詳細に把握することが難しい。また、予防のための対策や様々な治療法の有効性を評価するために十分なデータを収集することも難しい。

他方で、循環器病の罹患状況や診療内容について、データを収集し、データに基づく評価を実施することは、科学的根拠に基づいた政策を立案し循環器病対策を効果的に推進する点からも重要である。

循環器病の発症や重症化には多くの因子が関わっていることから、循環器病の予防や治療の効果も個人差が大きい。また、がん等の合併症として、血栓症や心不全を合併する場合もあり、幅広い診療情報の収集などが求められる。個々の患者にとって最適な予防や治療を行うため、既存のデータを含め、診療情報をはじめとしたビッグデータを活用した研究も求められる。

現在、循環器病の診療実態を把握している調査及び取組については、厚生労働省が行う患者調査や研究者・学会の取組等が挙げられる。

既存の調査及び取組から診療情報を利活用することについては、入力に係る負担の軽減が可能となること等の強みがあるが、参加医療機関や収集される情報が当該調査及び取組の目的に応じたものになり、急性期医療の現場での活用や診療提供体制の構築等の公衆衛生政策等への活用には課題もあるため、公的な情報収集の枠組みの構築が必要である。

また、このような枠組みの構築に当たっては、IT技術を活用し、医療機関における診療情報の入力に係る負担を軽減する必要性も指摘されている。

(取り組むべき施策)

循環器病は、我が国における主要な死亡原因であり、介護が必要となる主な原因の一つであることや、医科診療医療費に占める割合が高く社会的な影響が大きい疾患群であること、さらに急性期には発症後早急に適切な診療を開始する必要があると同時に、回復期及び慢性期にも疾患の再発や増悪を来しやすいことといった特徴がある。こうした特徴を踏まえ、急性期医療の現場における診療情報の活用や診療提供体制の構築、予防(一次予防のみならず、二次予防及び三次予防も含む。13)等の公衆衛生政策等への診療情報の活用を目的として、国立研究開発法人国立循環器病研究センター(以下「国立循環器病研究センター」という。)をはじめとした医療機関、関係学会等と連携して、まずは脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、急性冠症候群、急性大動脈解離及び急性心不全(慢性心不全の急性増悪を含む。)に係る診療情報を収集・活用する公的な枠組みを構築する。また、収集された診療情報の二次利用等に関する運用方法や費用負担を含む提供の在り方についても検討を進め、将来的には他の循環器病に広げることも含め検討する。なお、これらの取組は、データヘルス改革に関する議論の動向等も注視しながら行うこととする。

(1) 循環器病の予防や正しい知識の普及啓発

(現状・課題)

循環器病の多くは、運動不足、不適切な食生活、喫煙等の生活習慣や肥満等の健康状態に端を発して発症する。その経過は、生活習慣病の予備群、循環器病をはじめとする生活習慣病の発症、重症化・合併症の発症、生活機能の低下・要介護状態へと進行するが、患者自身が気付かないうちに病気が進行することも多い。

ただし、いずれの段階においても生活習慣を改善することで進行を抑えられる可能性がある。このため、循環器病の発症予防のみならず、再発予防や重症化予防としても生活習慣の改善が重要であるといえる。特に、運動を行うことはロコモティブシンドローム(運動器症候群)やフレイルの予防となるだけでなく、心不全などの治療にもつながる。また、近年、発達しているウェアラブルデバイス等のIT機器を活用することで生活習慣を自己管理し、必要に応じ、早期の医療機関の受診等につなげることや、循環器病の主要な危険因子となる生活習慣病に対する様々な手段による治療等により、循環器病の包括的なリスク管理を行うことも重要である。

このほか、適切な治療を受けられなければ、その予後に悪影響を及ぼす可能性の高い循環器病もある。例えば、心房細動は、脳卒中や心不全の発症及び増悪にも影響を与える。また、下肢末しょう動脈疾患も治療が遅れると下肢の切断に至る場合もあり、予後の悪化につながる。大動脈弁狭さく症や僧帽弁閉鎖不全症などの弁膜症は、早期の症状には気が付かないことも多い一方で、治療が遅れると予後が悪くなる傾向がある。大動脈りゅうは、破裂すると突然死に至ることもあり、破裂する前に治療する必要があるが、症状を認めにくいこともある。その他、心筋症、遺伝性疾患等を含め、循環器病に対して、適切な診断、治療及び重症化予防を行うことが必要である。

国民が適切に循環器病の予防・重症化予防や疾患リスクの管理を行うことができるようにするためには、まずは、循環器病に関する正しい知識の普及啓発が必要である。あわせて、循環器病の後遺症についても国民が正しく理解する必要がある。

加えて、循環器病は、急激に病態が変化する場合があるものの、適切な治療により予後を改善できる可能性があるため、発症後早急に適切な治療を開始する必要がある。そのためには、患者やその家族等が、循環器病の発症を認識し、救急要請等を行うことにより、速やかに適切な治療を提供する医療機関を受診することが重要である。

このためにも、国民に対する、循環器病の前兆及び症状、発症時の対処法並びに早期受診の重要性に関する知識の啓発が重要である。

(取り組むべき施策)

健康日本21(第二次)を推進するものとして策定された健康増進法に基づく基本方針や、令和元(2019)年5月29日に厚生労働省2040年を展望した社会保障・働き方改革本部において取りまとめられた「健康寿命延伸プラン」14等に基づき、子どもから高齢者まで全ての国民が共に支え合いながら希望や生きがいを持ち、ライフステージに応じて、健やかで心豊かに生活できるよう、生活習慣(栄養・食生活、身体活動・運動、喫煙、歯・口腔の健康等)や社会環境の改善を通じて生活習慣病の予防を推進するとともに、その一環として食育の実施や、学校における教育も含めた子どもの頃からの循環器病に関する知識の普及啓発を推進する。また、スマート・ライフ・プロジェクト15の取組を進め、企業・団体・自治体と協力・連携しながら健康に関する知識の普及啓発を図る。

正しい知識の普及啓発を行う際には、SNS(Social Networking Service)等を活用した情報発信やマスメディアとの連携、関係団体による啓発の取組等、多様な手段を用いて、循環器病の予防、重症化予防、発症早期の適切な対応、後遺症等に関する知識等について、科学的知見に基づき、分かりやすく効果的に伝わるような取組を進める。

循環器病の危険因子として喫煙が挙げられるほか、受動喫煙16も危険因子として挙げられる。禁煙及び受動喫煙の防止に関する取組については、健康増進法及び健康増進法に基づく基本方針に基づき、喫煙率の減少と受動喫煙防止を図る施策を着実に進める。

また、働き方の多様化や職場環境の変化が生じていることに鑑み、最新の医学的知見等に基づき、脳・心臓疾患17の労災認定基準の検討を行う。

(2) 保健、医療及び福祉に係るサービスの提供体制の充実

循環器病患者を中心とした包括的な支援体制を構築するため、医師、歯科医師、薬剤師、保健師、助産師、看護師、歯科衛生士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士、管理栄養士、社会福祉士、介護支援専門員、相談支援専門員等の多職種が連携して、循環器病の予防、早期発見、再発予防や重症化予防、相談・生活支援等の総合的な取組を進める。

①循環器病を予防する健診の普及や取組の推進

(現状・課題)

循環器病の多くは、不健康な生活習慣の継続等に端を発して発症するものであり、その経過は、生活習慣病予備群、生活習慣病発症、重症化・合併症発症、生活機能の低下・要介護状態の順に進行していく。そのため、予防の観点からも、循環器病の早期の診断・治療介入の考え方が必要である。心電図検査等で心房細動などの早期診断につながるとする報告があるほか、循環器病の主要な危険因子である生活習慣病の予防及び早期発見のためにも、健康診査等の受診や、行動変容をもたらす保健指導が重要である。

生活習慣病の予防及び早期発見に資する健康診査・保健指導には、40歳以上75歳未満の者が対象となる特定健康診査・特定保健指導等がある。特定健康診査・特定保健指導については、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)第18条第1項の規定に基づき定められている特定健康診査及び特定保健指導の適切かつ有効な実施を図るための基本的な指針(平成20年厚生労働省告示第150号)において、令和5(2023)年度に特定健康診査の実施率を70%以上に、特定保健指導の実施率を45%以上にすることが目標とされているが、平成29(2017)年度においては特定健康診査の実施率が53.1%、特定保健指導の実施率が19.5%と目標値には到達しておらず、更なる実施率の向上に向けた取組をより一層進める必要がある。

(取り組むべき施策)

循環器病をはじめとする生活習慣病の予防及び早期発見に資する健康診査・保健指導である特定健康診査・特定保健指導等の実施率向上に向けた取組を進める。ナッジ理論18等を活用して特定健康診査・特定保健指導の実施率向上を目指す先進・優良事例の横展開等により、実施率の向上につながる効果的な方策等を検討する。

また、国民健康保険の保険者努力支援制度等について、疾病予防・重症化予防の推進に係る先進・優良事例について把握を行うとともに、評価指標の見直しを検討し、予防・健康づくりを推進する。

②救急搬送体制の整備

(現状・課題)

循環器病は急激に発症し、数分から数時間の単位で生命に関わる重大な事態に陥ることも多い。循環器病の治療に関しては、近年技術的な進歩が著しく、発症後早急に適切な治療を行うことで、予後の改善につながる可能性があることから、急性期には早急に適切な診療を開始する必要がある。その際には、地域の状況にかかわらず、情報技術の活用などにより医療の質を高めることが求められる。

例えば、脳梗塞に対するt―PA療法19や機械的血栓回収療法を迅速に行うことで、機能予後の改善につながるとの科学的根拠も示されているが、これらの急性期治療を国民があまねく享受できる状況には至っていない。

また、虚血性心疾患だけでなく、不整脈や心筋症なども、心原性ショックの原因となりうることから、迅速な対応が必要である。特に急性大動脈解離や大動脈りゅう破裂については、緊急手術が常時可能な施設は限られているため、地域における現状を踏まえつつ、より広域の連携体制を構築する必要がある。

消防機関による救急業務としての傷病者の搬送及び医療機関による受入れの実施に係る体制の整備については、全ての都道府県において、傷病者の搬送及び受入れの実施に関する基準の分類基準に「脳卒中」・「心臓病」(あるいはこれらを疑う症状)を定め、傷病者の受入れ先となる医療機関リストを作成している。

消防機関における循環器病に関する教育研修の機会の確保としては、全消防職員が人体知識や傷病別応急処置等を初任教育時に習得していることに加え、救急隊員は専科教育を受けている。さらに、メディカルコントロール体制の充実強化により、救急救命士を含む救急隊員の資質向上のため、循環器病対策を含めた研修機会の確保に取り組んでいる。

(取り組むべき施策)

循環器病患者を救急現場から急性期医療を提供できる医療機関に、迅速かつ適切に搬送可能な体制の構築を進めるため、各都道府県において地域の実情に応じた傷病者の搬送及び受入れの実施に関する基準の見直しが継続的に行われるよう促す必要がある。さらに、循環器病に関する救急隊の観察・処置等については、メディカルコントロール体制の充実強化によって、引き続き科学的知見に基づいた知識・技術の向上等を図る。

③救急医療の確保をはじめとした循環器病に係る医療提供体制の構築

(現状・課題)

医療及び介護に係るサービスの需要の増大及び多様化に対応し続けるためには、患者それぞれの状態にふさわしい良質かつ適切な医療を効果的かつ効率的に提供する体制を構築する必要がある。

このため、現在我が国では、地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律(平成26年法律第83号)に基づき、病床の機能の分化及び連携を進めるとともに、地域医療として一体的に地域包括ケアシステムを構成する在宅医療及び介護に係るサービスの充実を図ることとしている。具体的には、都道府県において、地域の医療需要の将来推計や病床機能報告制度により報告された情報等を活用し、病床の機能ごとの将来の必要量等、将来のニーズに合わせ病床の機能・分化連携を進めるため地域医療構想を策定し、医療計画に盛り込むことにより、地域ごとにバランスのとれた医療提供体制を構築することとしている。

循環器病の急性期診療においては、対応疾患に応じて、地域における複数の医療機関が連携して24時間体制での対応を行うことが求められ、その施設間ネットワークを構築するに当たっては、急性期の専門的医療を行う施設が担うべき医療機能を地域のネットワークを構築している医療機関において分担する必要がある。また、高齢化に伴い増大する医療需要や医療現場の働き方改革に対応しつつ、情報技術を用い患者がより受診しやすく、多職種が連携しやすい環境を整え、将来にわたって質の担保された循環器病の診療体制を構築することが求められる。

また、循環器病に対する治療として、外科治療や血管内治療等の先端的かつ高度な医療が必要となり、医療資源や、熟練した医療技術が必要となる場合がある。

循環器病に係る医療従事者の育成については、医学生が卒業時までに身に付けておくべき能力を学修目標として提示した教育内容のガイドラインである医学教育モデル・コア・カリキュラムにおいて、脳血管障害や心不全、虚血性心疾患、不整脈、弁膜症等の病態、診断、治療等を説明できることなどが学修目標として定められている。

また、循環器病に係る各専門医や特定行為研修修了者、専門・認定看護師等を含めた医療従事者については、学会等の関係団体において育成されている。

他方で、かかりつけ医等においても循環器病患者を診察する可能性があることから、これらの医療従事者も循環器病に関する共通認識を持つ必要がある。

(取り組むべき施策)

循環器病に係る医療提供体制について、地域医療構想の実現に向けた取組である高度急性期及び急性期から回復期及び慢性期までの病床の機能分化、連携に取り組み、訪問診療、訪問看護、訪問薬剤管理指導、訪問リハビリテーションなどを含めた在宅医療の推進、学会等の関係団体で育成される各専門医や特定行為研修修了者、専門・認定看護師等を含めた医療従事者の確保等、都道府県が地域の実情に応じた医療提供体制の構築を進める。体制の整備については、国、地方公共団体が医療機関、学術団体等と共働してデータに基づき、人材育成や適正配置を含めた取組を進める。

循環器病に対する医療の質の向上、それぞれの疾患の特性に応じた医療の均てん化及び集約化並びに効率的かつ持続可能な循環器病の医療の実現を目指し、循環器病の急性期診療を提供する体制の実態を把握し、その有効性及び安全性の評価を含めた検証を進める。

また、かかりつけ医等の日常の診療における循環器病診療に関するツールの活用等、かかりつけ医等と専門的医療を行う施設の医療従事者との連携が適切に行われるよう取組を進める。この取組に当たっては、医師会や学会などの関係団体等との連携や、関係者で構成される協議会の場等の活用も検討する。

なお、循環器病に係る医療提供体制を構築するに当たり、国立循環器病研究センター等は、地域の実情に鑑み全国で同様の水準の医療を提供することができるよう、適宜関係機関と知見を共有する等の取組を行う。

④社会連携に基づく循環器病対策・循環器病患者支援

(現状・課題)

循環器病患者は、慢性期に、例えば脳卒中後の後遺症の残存や心血管疾患治療後の身体機能の低下等により、生活の支援や介護が必要な状態に至る場合がある。また、再発や増悪等を繰り返す特徴があることから、その予防のための生活習慣の改善や、服薬の徹底等適切な管理及びケアを行うことも必要である。必要に応じて介護保険制度、障害者総合支援法(平成17年法律第123号)との連携を行うことも重要である。

(取り組むべき施策)

慢性期においても循環器病の再発予防や重症化予防のためにそれぞれの関係機関が相互に連携しながら、継続して必要な医療、介護及び福祉に係るサービスを提供することが必要であるため、患者の意思や希望を尊重するとともに、患者が可能な限り住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、地域包括ケアシステムの構築を推進するとともに、これを深化させ、全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り高め合う地域共生社会の実現に向けた取組を進める。

また、かかりつけ医機能の充実や病診連携の推進、かかりつけ歯科医等による医科歯科連携や歯科口腔保健の充実、かかりつけ薬剤師・薬局による服薬アドヒアランスの向上に資する服薬情報の一元的・継続的把握とそれに基づく薬学的管理・指導、看護師等による予防から治療、再発予防、重症化予防までの切れ目のない看護の提供、理学療法士の理学療法、作業療法士の作業療法、言語聴覚士の言語聴覚療法、管理栄養士や栄養士による栄養管理、社会福祉士、介護支援専門員及び相談支援専門員による相談・生活支援等に取り組む。

⑤リハビリテーション等の取組

(現状・課題)

循環器病患者においては、社会復帰という観点も踏まえつつ、日常生活動作の向上等の生活の質の維持向上を図るため、早期からの継続的なリハビリテーションの実施が必要となる場合もある。

脳卒中患者では、急性期診療を行った後にも様々な神経症状が残ることが多い。

一般的には、急性期に速やかにリハビリテーションを開始し、円滑に回復期及び維持期のリハビリテーションに移行することが求められ、医療と介護の間で切れ目のない継続的なリハビリテーションの提供体制をより一層構築していく必要がある。リハビリテーションと同時に合併症の治療が必要な場合や合併症の治療が優先される場合もあり、個々の患者に応じた適切な対応が求められる。また、患者がその目的や必要性を十分に理解した上での再発予防、重症化予防、生活再建や就労等を目的とした多職種によるアプローチが重要である。

心血管疾患患者の管理においては、特に、心不全等で入退院を繰り返す患者が増加しており、再発予防及び再入院予防の観点が重要である。運動療法、冠危険因子是正、患者教育、カウンセリング等を含む多職種による疾病管理プログラムとして心血管疾患におけるリハビリテーションを実施することが関連学会より提唱されている。

患者が継続的にリハビリテーションを実施するためには、専門家を育成しつつ、地域の医療資源を含めた社会資源を効率的に用いて、多職種が連携して取り組む体制を構築する必要がある。

(取り組むべき施策)

急性期から回復期及び維持期・生活期までの状態に応じたリハビリテーションの提供等の取組を進める。

脳卒中患者においては、地域の医療機関が連携し、患者の状態を踏まえた適切な医療及び介護サービスを継続して提供できるよう、地域連携クリティカルパス20も活用しつつ、急性期の病態安定後、機能回復や日常生活動作の向上を目的とした集中的なリハビリテーションの実施が有効であると判断される患者には速やかにリハビリテーションを開始し、回復期に切れ目なく移行できる連携体制を構築する。また、合併症の発症等により集中的なリハビリテーションの実施が困難な患者に対しては、どのようなリハビリテーションを含めた医療を提供するか検討する必要がある。維持期・生活期にかけて、患者の状態に応じた、生活機能の維持及び向上を目的とした医療、介護及び福祉に係るサービスを提供するとともに、リハビリテーションを十分に実施できる体制を維持する。

心血管疾患患者においては、疾病管理プログラムとして、リハビリテーションを急性期の入院中から開始し、回復期から維持期・生活期にかけても継続することが重要である。状態が安定した回復期以降には、リハビリテーションを外来や在宅で実施することも見据えつつ、地域の医療資源を含めた社会資源を効率的に用いて多職種が連携する体制について、その有効性も含めて検討する必要がある。

高齢化に伴い、循環器病にえん下機能障害や廃用症候群など、複数の合併症を認めることが増加しており、複数の合併症に対応したリハビリテーション等を推進することについても検討する。

⑥循環器病に関する適切な情報提供・相談支援

(現状・課題)

医療技術や情報技術が進歩し、患者の療養生活が多様化する中で、患者とその家族が抱く、診療及び生活における疑問や、心理社会的・経済的な悩み等に対応することが求められている。

相談支援については、急性期における医療機関受診に関することから、主に慢性期における医療、介護及び福祉に係るサービスに関することまで多岐にわたる。急性期には患者が意識障害を呈していることも多く、時間的制約があることから、患者が情報にアクセスすることが困難な可能性もある。また、生活期に相談できる窓口が少ないという意見もある。そのような中で、患者と家族が、その地域において、医療、介護及び福祉サービスに係る必要な情報にアクセスでき、各ステージに応じた課題の解決につながるよう取組を進めることが求められる。

現在、医療機関等においても、相談支援が実施されているが、十分に普及しているとは言えない現状がある。

(取り組むべき施策)

まずは循環器病に関する科学的根拠に基づいた正しい情報を提供するために、国と国立循環器病研究センター、関係団体等が、協力して循環器病に関する様々な情報を収集し、科学的根拠に基づく情報を国民に提供する。

発信された情報のうち、患者やその家族が、疾患の特性に応じ、個別のニーズに対応した必要な情報に急性期から確実にアクセスし活用しながら問題解決できるよう、前述の循環器病の相談支援に関する現状を踏まえつつ、循環器病における適切な相談支援の内容や体制、必要な情報(例えば、治療を受けられる医療機関、循環器病の症状・治療・費用、生活習慣病に関する知識、患者団体等の活動等)について、地方公共団体は、医療機関や地域における高齢者等の生活を支える地域包括支援センターなど既存の取組との連携・協力も見据えながら、個別支援も含めて検討する必要がある。

⑦循環器病の緩和ケア

(現状・課題)

平成26(2014)年の世界保健機関(WHO)からの報告によると、成人において緩和ケア21を必要とする疾患別割合の第1位は循環器疾患、第2位は悪性新生物(がん)である。循環器疾患と悪性新生物(がん)は、共に生命を脅かす疾患であり、病気の進行とともに全人的な苦痛が増悪することを踏まえて、疾患の初期段階から継続して緩和ケアを必要とする疾患である。加えて、例えば、臨床経過の特徴として増悪を繰り返すことが挙げられる心不全については、治療と連携した緩和ケアも必要とされている。

(取り組むべき施策)

患者の苦痛を身体的・精神心理的・社会側面的等の多面的な観点を有する全人的な苦痛として捉えたうえで、全人的なケアを行うべく、多職種連携や地域連携の下で、循環器病患者の状態に応じた適切な緩和ケアを治療の初期段階から推進する。

専門的な緩和ケアの質を向上させ、患者と家族のQOLの向上を図るため、関係学会等と連携して、医師等に対する循環器病の緩和ケアに関する研修会等を通じて、緩和ケアの提供体制を充実させる。

⑧循環器病の後遺症を有する者に対する支援

(現状・課題)

循環器病は、急性期に救命されたとしても、様々な後遺症を残す可能性がある。後遺症により、日常生活の活動度が低下し、しばしば介護が必要な状態となり得るが、このような場合には必要な福祉サービスを受けることができることとなっている。ただし、その福祉サービスの提供や後遺症に対する支援については、患者が十分に享受できていないとの課題が指摘されている。また、循環器病の発症後には、うつや不安等が認められる場合もあるため、心理的サポートも求められる。

とりわけ脳卒中の発症後には、手足の麻痺だけでなく、外見からは障害がわかりにくい摂食えん下障害、てんかん、失語症、高次脳機能障害等の後遺症が残る場合があり、社会的理解や支援も必要である。

(取り組むべき施策)

てんかん、失語症等の循環器病の後遺症を有する者が、症状や程度に応じて、適切な診断、治療を受けられ、社会生活を円滑に営むために、就労支援や経済的支援を含め、必要な支援体制の整備を行う。循環器病の後遺症を有する者に対する必要な福祉サービスの提供を引き続き推進するとともに、失語症者に対する意思疎通支援、高次脳機能障害者のニーズに応じた相談支援、てんかん患者が地域において適切な支援を受けられるよう、てんかん拠点医療機関間のネットワーク強化等に取り組む。

循環器病の後遺症等に関する知識等について、分かりやすく効果的に伝わるよう必要な取組を進める。

⑨治療と仕事の両立支援・就労支援

(現状・課題)

脳卒中を含む脳血管疾患の治療や経過観察などで通院・入院している患者(約112万人)のうち、約16%(約18万人)が20~64歳である22

一般に、脳卒中というと手足の麻痺、言語障害等の大きな障害が残るというイメージがあるが、65歳未満の患者においては、約7割がほぼ介助を必要としない状態まで回復するとの報告もある。脳卒中の発症直後からのリハビリテーションを含む適切な治療により、職場復帰(復職)することが可能な場合も少なくないが、復職に関して患者の希望がかなえられない事例もあり、障害者就労支援などとの適切な連携が求められる。

また、虚血性心疾患を含む心疾患の患者(約173万人)のうち約16%(約28万人)が20~64歳である22。治療後通常の生活に戻り、適切な支援が行われることで職場復帰できるケースも多く存在するが、治療法や治療後の心機能によっては継続して配慮が必要な場合がある。

「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)では、病気の治療と仕事の両立を社会的にサポートする仕組みを整えることや病を患った方々が生きがいを感じながら働ける社会を目指すこととされているが、社会の受け入れ体制において、就労支援サービスの活用には課題も残る。

(取り組むべき施策)

脳卒中や虚血性心疾患だけでなく、成人先天性心疾患や心筋症等、幅広い病状を呈する循環器病患者が社会に受け入れられ、自身の病状に応じて治療の継続を含めて自らの疾患と付き合いながら就業できるよう、循環器病患者の状況に応じた治療と仕事の両立支援、障害特性に応じた職業訓練や事業主への各種助成金を活用した就労支援等に取り組む。

特に治療と仕事の両立支援については、循環器病の医療提供を行う医療機関において、担当の両立支援コーディネーター23を配置して、各個人の状況に応じた治療と仕事が両立できるよう取組を進めるなど、かかりつけ医等、会社・産業医及び両立支援コーディネーターによる、患者への「トライアングル型サポート体制24」の構築を推進し、相談支援体制を充実させる。

⑩小児期・若年期から配慮が必要な循環器病への対策

(現状・課題)

循環器病の中には、100人に1人の割合で出生する先天性心疾患や小児不整脈、小児脳卒中、家族性高コレステロール血症等といった小児期・若年期から配慮が必要な疾患がある。学校健診等の機会を通じて、小児の循環器病が見つかることもある。

近年の治療法の開発や治療体制の整備等により、小児期に慢性疾病に罹患した患者全体の死亡率は、大きく減少し、多くの子ども達の命が救われるようになった。

その一方で、小児患者の治療に当たっては保護者の役割が大きいこと、また、原疾患の治療や合併症への対応が長期化し、それらを抱えたまま、思春期、さらには成人期を迎える患者が増えていることなどの現状があり、そのような患者の自立等に関する課題もある。胎児期の段階を含め、小児から成人までの生涯を通じて切れ目のない医療が受けられるよう、他領域の診療科との連携や、移行医療を含めた総合的な医療体制の充実が求められている。

(取り組むべき施策)

成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律(平成30年法律第104号)に基づき、子どもたちの健やかな成育を確保するため、成育過程を通じた切れ目ない支援などを基本理念として、医療、保健、教育、福祉等の関係施策を総合的に推進する。

また、学校健診等の機会における小児の循環器病患者の早期発見を引き続き推進するとともに、循環器病の患者に対して、小児期から成人期にかけて必要な医療を切れ目なく行うことができる移行医療支援の体制整備、療養生活に係る相談支援及び疾病にかかっている児童の自立支援を推進する。

(3) 循環器病の研究推進

(現状・課題)

循環器病に関する研究については、「健康・医療戦略」(令和2年3月27日閣議決定)、「医療分野研究開発推進計画」(令和2年3月27日健康・医療戦略推進本部決定)等を踏まえ、厚生労働省、文部科学省及び経済産業省が連携し、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development。以下「AMED」という。)を通じて、基礎的な研究から実用化のための研究開発までの各研究段階においてその推進が図られている。また、様々な支援に基づき、国立循環器病研究センターをはじめとした医療・研究機関等での研究も進められている。

基礎段階においては、病態の解明やバイオマーカー探索等の研究を推進するとともに、ゲノム情報その他のオミックス情報の解析やiPS細胞などの幹細胞をはじめとする先端的な生命科学における成果も活用しつつ、様々な予防・早期介入法、診断法・治療法等に資するエビデンスを創出する研究開発を推進している。バイオバンク等の形で、詳細な診療情報に裏打ちされた生体試料などの収集なども一部で行われているところ、より一層の充実を図る。

応用段階においては、予防・早期介入法(医療機器等)の開発、治療法(医薬品、医療機器等)の開発・事業化、診断法や標準的治療の確立等の医療水準の向上、そして医療機器・社会システム等の社会実装に向けた取組等、多様な目的の研究について戦略的かつ総合的に推進が行われるよう、取組が行われている。

このほか、厚生労働省においては、科学的根拠に基づいた行政政策を行うため、栄養・身体活動等の生活習慣の改善や社会環境の整備等による健康寿命の延伸に資する施策の根拠となるエビデンスの創出や生活習慣病の治療の均てん化を目指した研究等を推進している。

これまでも、循環器病に対する様々な治療薬や医療機器が開発されてきたが、循環器病の発症や重症化には多くの因子が関わっており、その病態は十分には明らかにはされておらず、治療の多くは対症療法にとどまっている。

今後、対症療法にとどまらず、原因に基づく治療法や、より低侵襲で有効な診断法・治療法を開発し、治療等に係る幅広い選択肢を国民に提供していくためには、コホート研究等によるリスク因子の同定、遺伝子や分子細胞レベルでの研究や臓器の相互作用(臓器連関)をはじめとする病態解明から、病態分子機序を標的とした新規治療法や診断技術の開発に向けた臨床研究をシームレスに進めることが重要である。

歯科疾患が感染性心内膜炎等の発症に影響を及ぼすことや、生活習慣病及び循環器病と関連があることが示されている。心臓と腎臓の機能低下は互いに影響を及ぼすことなど、循環器病の発症や進行においては、他の臓器が関連することも示唆されている。また、循環器病の克服を目指し、大規模データの活用や、目覚ましい発展を遂げているゲノム・オミックス解析やAIによる画像診断などデジタル技術等の活用等による革新的な診断法や治療法の開発が求められている。

さらに、災害時や長時間の旅行時等に発症することが知られている肺血栓塞栓症等、生活習慣に端を発する循環器病の他にも、幅広く循環器病の対策を進めるための研究を推進する必要がある。

(取り組むべき施策)

基礎的な研究から実用化に向けた研究までを一体的に推進するためAMEDにおいて、病態を解明するための研究を含め、有望な基礎研究の成果の厳選及び診断法・治療法等の開発に向けた研究と速やかな企業導出の実施に向けた取組を推進する。

安全性を確保した上で、患者の苦痛軽減といったニーズを踏まえつつ、循環器病の病態解明、新たな診断技術や治療法の開発、リハビリテーション等の予後改善、QOL向上等に資する方法の開発、循環器病の主要な危険因子である生活習慣病の状況に加え、遺伝的素因等を含めた多様な観点から個人の発症リスク評価や個人に最適な予防法・治療法の開発等に関する研究を、既存の取組と連携しつつ、体系的かつ戦略的に推進する。

医療分野以外の研究者や企業も含め適切に研究開発を行うことができるよう、医工連携といった異分野融合も図りながら、研究開発を推進する。アカデミアによる医療への出口を見据えたシーズ研究を行うとともに、こうしたシーズも活かしつつ産学連携による実用化研究・臨床研究を行うほか、臨床上の課題を基礎研究にフィードバックする橋渡し研究を行う。

国は、革新的な診断法・治療法等を創出するための研究開発を推進するとともに、画期的な医薬品、医療機器、体外診断用医薬品及び再生医療等製品について「先駆的医薬品等指定制度」等の仕組みを活用することによって、早期の承認を推進する。

国は、循環器病対策を効果的に推進するため、治療法等の費用対効果も踏まえつつ、循環器病の診療の質の向上や健康寿命の延伸に資する施策の根拠となるエビデンスの創出や循環器病の治療の均てん化を目指した研究等、根拠に基づく政策立案のための研究を推進する。また、歯科疾患等の循環器病以外の疾患が循環器病の発症や進行に影響を与えうることや、循環器病の中には下肢末しょう動脈疾患や肺血栓塞栓症といった多様な病態が含まれることを踏まえ、幅広く循環器病の対策を進めるための研究を推進する。

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13 一次予防:生活習慣を改善して健康を増進し、生活習慣病等を予防すること。二次予防:疾病を早期に発見し、早期に治療すること。三次予防:疾病が発症した後、必要な治療を受け、機能の維持・回復を図るとともに再発・合併症を予防すること。

14 「健康無関心層も含めた予防・健康づくりの推進」や、「地域・保険者間の格差の解消」に向け、「自然に健康になれる環境づくり」や「行動変容を促す仕掛け」など新たな手法も活用し、①次世代を含めたすべての人の健やかな生活習慣形成、②疾病予防・重症化予防、③介護予防・フレイル対策、認知症予防の3分野を中心に取組を推進する旨を定めたもの。

15 「健康寿命をのばそう!」をスローガンに、国民全体が人生の最後まで元気に健康で楽しく毎日が送れることを目標とした国民運動をいう。

16 平成27(2015)年度「たばこ対策の健康影響および経済影響の包括的評価に関する研究」(厚生労働科学研究費補助金循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)

17 脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)

18 「ナッジ」とは「ひじで軽く突く」という意味。行動経済学上、対象者に選択の余地を残しながらも、より良い方向に誘導する手法。

19 遺伝子組み換え組織プラスミノゲン・アクティベータの静注療法で発症後4.5時間以内に実施可能。

20 急性期病院から回復期病院を経て早期に自宅に帰れるような診療計画を作成し、治療を受ける全ての医療機関で共有して用いるもの。

21 世界保健機関(WHO)によると、緩和ケアとは、「生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである」とされている。

22 平成29(2017)年「患者調査」(厚生労働省)

23 主治医と会社の連携の中核となり、患者に寄り添いながら継続的に相談支援を行いつつ、個々の患者ごとの治療・仕事の両立に向けたプランの作成支援などを担う。

24 主治医、会社・産業医と患者に寄り添う両立支援コーディネーターのトライアングル型のサポート体制のこと。「働き方改革実行計画」において、病気の治療と仕事の両立を社会的にサポートする仕組みを整え、病を患った方々が、生きがいを感じながら働ける社会を目指すため、トライアングル型サポート体制を構築することとされた。

5.循環器病対策の総合的かつ計画的な推進の確保のために必要な事項

(1) 関係者等の有機的連携・協力の更なる強化

循環器病対策を実効的なものとして、総合的に展開するためには、国及び地方公共団体をはじめ、関係者等が、適切な役割分担の下、相互の連携を図りつつ、一体となって取組を進めることが重要である。

この際、国及び地方公共団体は、患者・家族を含む関係者等の意見の把握に努め、循環器病対策に反映させることが重要である。

国及び地方公共団体は、循環器病に関する知識の普及啓発等により、循環器病患者が円滑な社会生活を営むことができる社会環境の整備への理解を図るとともに、相談支援や情報提供を行うことにより、全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り高め合う地域共生社会の実現を目指して、国民と共に取り組んでいくことが重要である。

(2) 都道府県による計画の策定

法第11条第1項において、都道府県は、基本計画を基本とするとともに、当該都道府県における循環器病の予防並びに循環器病患者等に対する保健、医療及び福祉に係るサービスの提供に関する状況、循環器病に関する研究の進展等を踏まえ、当該都道府県における循環器病対策の推進に関する計画(都道府県計画)を策定しなければならないこととされており、都道府県計画の策定等の際には、都道府県の協議会等に患者等が参画するなど、都道府県は関係者等の意見の聴取に努める。なお、法第21条第1項において、都道府県は、都道府県循環器病対策推進計画を策定及び変更するに当たり、都道府県循環器病対策推進協議会を置くよう努めなければならないこととされている。

法第11条第3項において、都道府県計画は、医療計画、健康増進法第8条第1項に規定する都道府県健康増進計画、都道府県介護保険事業支援計画、消防法(昭和23年法律第186号)第35条の5第1項に規定する実施基準その他の法令の規定による計画等であって保健、医療又は福祉に関する事項を定めるものと調和が保たれたものでなければならないこととされている。

これを踏まえ、政府が今般策定する基本計画の実行期間を、令和2(2020)年度から令和4(2022)年度までの3年程度を1つの目安として定めるところ、上記の趣旨に鑑み、令和6(2024)年度からの新たな医療計画等との調和を図ることができるよう、都道府県計画は、その実行期間を計画策定年度から令和5(2023)年度までとすることが望ましい。

国は、都道府県における都道府県計画の作成に当たり、都道府県に対して、都道府県計画の作成手法などについて、必要な助言をし、都道府県はこれを踏まえて作成するよう努める。国は、都道府県の循環器病対策の状況を把握し、積極的に好事例の情報提供を行うなど、都道府県との情報共有に努める。

(3) 必要な財政措置の実施及び予算の効率化・重点化

基本計画による取組を総合的かつ計画的に推進し、全体目標を達成するためには、循環器病対策を推進する体制を適切に評価すること、各取組の着実な実施に向けて必要な財政措置を行うこと等が重要である。

一方、近年の厳しい財政事情の下では、限られた予算を最大限有効に活用することによって、循環器病対策の成果を上げるという視点が必要となる。

このため、より効率的に予算の活用を図る観点から、選択と集中の徹底、各施策の重複排除及び関係省庁間の連携強化を図るとともに、官民の役割及び費用負担の分担を図る。

(4) 新型コロナウイルス感染症を踏まえた対策

新型コロナウイルス感染症の重症化のリスク因子として、高齢者、基礎疾患(心血管疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患、慢性腎臓病等)が指摘されており、さらに、新型コロナウイルス感染症の合併症として、血栓症を合併する可能性が指摘されている25。このため、生活習慣病の早期発見・早期治療は循環器病の予防に資するのみならず、新型コロナウイルス感染症による重症化の防止にもなりうる。

また、新型コロナウイルス感染症による受診控えが指摘されている中、今後、感染が拡大する局面も見据えて、新型コロナウイルス感染症患者に対する医療を都道府県ごとに確実に確保することを中心としつつ、それ以外の疾患の患者に対する医療の確保も適切に図ることができるような医療提供体制の構築が重要である。

このため、新型コロナウイルス感染症に対する医療と、循環器病等のその他の疾患に対する医療を両立して確保することを目指し、適切な医療提供体制の整備を進める。

(5) 基本計画の評価・見直し

法第9条第7項において、政府は、循環器病の予防並びに循環器病患者等に対する保健、医療及び福祉に係るサービスの提供に関する状況の変化、循環器病に関する研究の進展等を勘案し、並びに循環器病対策の効果に関する評価を踏まえ、少なくとも6年ごとに、基本計画に検討を加え、必要があると認めるときには、これを変更しなければならないこととされている。他方、(2)で述べたとおり、法第11条第3項において、都道府県計画は関係する諸計画との調和が保たれたものでなければならないとされているところ、今回策定する計画の実行期間については、令和2(2020)年度から令和4(2022)年度までの3年程度を1つの目安として定めることとする。

なお、法第11条第4項において、都道府県は、当該都道府県における循環器病の予防並びに循環器病患者等に対する保健、医療及び福祉に係るサービスの提供に関する状況の変化、循環器病に関する研究の進展等を勘案し、並びに当該都道府県における循環器病対策の効果に関する評価を踏まえ、少なくとも6年ごとに、都道府県計画に検討を加え、必要があると認めるときには、これを変更するよう努めなければならないこととされているところ、詳細は(2)で述べたとおりであるが、都道府県計画の見直しも、基本計画に合わせて適宜評価及び検討の上行われることが望まれる。

国は、令和4(2022)年度を目処に、基本計画の進捗状況を把握し、評価を行う。その際、個々の取り組むべき施策が個別目標の達成に向けて、どれだけの効果をもたらしているか、施策全体として効果を発揮しているかという観点から、可能な限り科学的・総合的な評価を行い、その評価結果を踏まえ、課題を抽出し、必要に応じて施策に反映するものとする。併せて、本基本計画の実施に当たっては、各施策の具体的な目標の設定に向けた検討を行う。また、協議会は、循環器病対策の進捗状況を踏まえ、施策の推進に資する上で必要な提言を行うとともに、必要に応じて、検討会等を設置し議論を行うことについても検討する。

都道府県は、都道府県計画に基づく循環器病対策の進捗管理について、PDCAサイクル26に基づく改善を図り、施策に反映するよう努める。

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25 令和2(2020)年度「新型コロナウイルス感染症診療の手引き第2.2版」(厚生労働行政推進調査事業費補助金新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)

26 「PDCAサイクル」とは、事業活動における生産管理や品質管理等の管理業務を円滑に進める手法の1つ。Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)の4段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善することをいう。