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第1回身体拘束ゼロ作戦推進会議議事要旨

1 日時及び場所

平成12年6月9日(金)14時00分〜16時00分
厚生省特別第1会議室

2 出席委員

青柳、井形、市原、加藤、金内、北、見坊、齋藤、笹森、高崎、田中、鳥海、外山、中村、橋本、福島、毛利、山口、山崎、吉岡各委員

3 発言概要

(丹羽厚生大臣)

 介護保険法が施行され2ヶ月が経過したが、社会保障の歴史においても極めて大きな事業であるこの制度を国民の間に定着させていくためにも質の高い介護が何よりも求められている。
 身体拘束の問題は、介護の質の向上という意味で最も重要な問題であるが、身体拘束の解消を図るためには現場や関係者の支援と協力を得ることが不可欠と考え、さまざまな課題について有識者の方々に意見を交換していただく場としてこの会議を設置したところであり、委員の皆さま方におかれては、現場における取り組みを支援していただくようご協力のほどお願いしたい。

・会議開催の趣旨等についての事務局の説明後、井形委員を座長に選任

(井形座長)

 身体拘束禁止は、介護保険制度に魂を入れるほどの意味があるもの。現実には難しい問題もあると思うが、外国にも誇れるような制度をつくったのだと胸をはって言うことができるよう、委員の皆さまの協力をお願いしたい。

・身体拘束ゼロ作戦の趣旨や身体拘束をめぐる動き等について配布資料に基づいて事務局より説明、その後日本看護協会の資料について山崎委員より説明。

(山崎委員)

 介護保険制度の理念として、利用者の権利性の発揮や、ケアの質の向上のための情報開示や質の評価といった新しい点があるが、身体拘束禁止もこうした規定が盛り込まれたことで現場が勇気づけられた。日本看護協会では、本年4月20日に「身体拘束をしないために」という見解を発表し、その中で基本的事項として、十分なマンパワーの確保、責任者の決意、日々のケア全体を振り返るという3項目を挙げている。日本看護協会としても、今年度の介護保険への取り組みの重点課題のひとつに身体拘束ゼロ作戦の推進を掲げており、厚生省の取り組みにも感謝しているが、身体拘束廃止の実効性を挙げるには精神主義だけでは進まないことから、マンパワーの面も含め、財政的な支援も検討していただきたい。また、利用者や家族、国民一般に対する普及啓発、意識改革を進めていくことも急務と考える。

(毛利委員)

 北海道では、昨年6月のシンポジウムで抑制の問題が取り上げられ、7月には札幌市内の病院が「抑制廃止宣言」を出した。さらに、昨年10月には「北海道抑制廃止研究会」が発足し、本年4月には、関係団体が集まり、抑制廃止に向けた相談ネットワーク事業を立ち上げることを決定したところ。6月7日現在では、相談件数は2件と少ないが、こうした事業を始めたことにより、医療機関、老人保健施設、特別養護老人ホーム等でこの問題に対する関心が高まり、様々な取り組みも広がってきている。

(金内委員)

 東京都では、措置から契約への移行に伴い、利用者保護に関する様々な検討を進めてきたが、その一環として、モデル契約書を作成した。この中で、身体拘束禁止の具体的な事例等を盛り込んところ。また、今年度からは特別養護老人ホーム等への指導検査を通じて、各施設における身体拘束をなくすための取り組み状況等について把握し、指導していくこととしている。

(笹森委員)

 呆け老人を抱える家族の会では、会員を対象としたアンケート調査を実施しているが、病院や施設での拘束については、「条件つきで認める」という人を含めると6割の人が拘束を認めるという結果が出る一方、厚生省が示した身体拘束禁止という方針については、7割が賛成と回答している。また、『家庭で見られない老人を入所させた家族は負い目があるので、施設への苦情や注文を言いにくい。内情を見ている利用者や家族が発言し、訴えやすい機関を設け社会的に抗議し改善していくべき』といった回答もあったが、これが本音ではないか。私は、拘束は仕方がないということは絶対ないと考える。

(吉岡委員)

 97年に「抑制廃止福岡宣言」が出された福岡の介護療養型医療施設の研究会で抑制をやめるために手伝ってもらえないかという相談があったとき、最初は看護婦の中にも本当に抑制はなくせるのかという冷たい視線が多かった。しかし、患者の抑制をなくすことで患者も変わり、家族も喜ぶ、そういう状況を見て、看護婦も変わる。こうして、安全のため、念のためということで抑制していたケースが、やめようと思えばかなりやめることができることに気づくことになり、家族とスタッフの信頼関係もできてくる。
 こうした段階を経て、翌年開催された介護療養型医療施設の全国大会で、抑制廃止福岡宣言が出され、大変だが、ケアそのものを見直し、みんなで抑制廃止に取り組んでみようということになった。
 私は、身体拘束を廃止する理念は、痴呆のお年寄りなどの自由を奪ってはならないというヒューマニズム、拘束の弊害やその最たるものである「抑制死」に対する認識や抑制をしなくても済む工夫など看護婦や介護職員の専門性、そして、指定基準を含めた倫理的な対応の3つだと考えている。
 また、福岡に続き、北海道でも抑制廃止運動が起き、こうした動きを受けて本年全国抑制廃止研究会が立ち上げられた。ここでは困難事例を集め、ファックスによる相談にも応じている。

(北委員)

 私が町長になる15年ほど前、当時母親が事故で頭を打ち、病院に入院することになったが、その病院で母親が手足をベッドに縛られており、私に「なんでこんなところに入れたのか、何か悪いことをしたか」と言われ、全身が震え上がった経験がある。
 その時に縛られる者の気持ちを痛感したが、その後町長に就任してからは、フィンランドのある町との交流を重ねるなどして、「人間性を大切にする」という考え方が私だけでなく、町全体にも広がり、新しく建った特別養護老人ホームにおいても抑制はしないという方針が、とりたてて宣言することもなく、当然のこととして受け入れられた。
 この会議の開催はタイムリーであり、サービスの質の一層の向上に向け、我々の町でも自信を持って進めていこうと考えている。

(見坊委員)

 私自信も身内の者が病院で点滴を受ける際に拘束されていた場面を見ているが、職員の体制も十分でないこともあり、ジレンマに感じている面もある。しかし、そういう状況になれば、患者は気力を失い、体力は低下することは確実である。
 私自身を含め、一般の方々がこの問題を理解することが必要であり、そのための意識啓発もかかせないと考える。
 また、現在指定基準で身体拘束が禁止されているのは施設であるが、在宅の問題も考える必要がある。

(井形委員)

 本人の意思を尊重することが基本であるから、家族は自分たちでは介護は難しいと考えても、本人が施設入所を拒めば家族が面倒を見ることになる。こういうケースについて、在宅での問題は確かにあると思う。

(山崎計画課長)

 日本看護協会では、在宅も含めた高齢者虐待の問題を研究していると聞いている。また、在宅の場合、介護保険サービス事業者としてのあり方以上に、家族のかかわりとしての問題も含め本質的な問題ではないかと感じている。

(高崎委員)

 数年前に行った在宅での高齢者虐待の調査結果によると、状況はとても深刻である。調査した保健婦の10人に1人が虐待のケースに関わりを持っているという結果がでており、介護者である後期高齢者の女性による虐待が圧倒的に多かった。
 今回は施設が中心だが、施設や病院と在宅を等分に視野に入れて検討していくことが必要ではないか考える。
 身体拘束廃止に向けて必要なことは、基本的に縛らないということを前提に職員の意識改革を行うこと、具体的にどのような方法で拘束を廃止するのかについてのマニュアルを作成すること、そして、条件整備として人的な整備、環境的な整備を並行してやっていくことではないかと考える。

(井形委員)

 痴呆性高齢者の要介護度の判定が低くなりやすいという指摘があるが、その理由のひとつは、痴呆性高齢者にどの程度の介護が必要かということについて学問的な根拠が乏しいということがあると思う。
 この会議は、指定基準で身体拘束が禁止された対象の施設において身体拘束廃止を実現するにはどうすればいいかを検討することが大きな目的なのであるが、間接的には社会の流れを変え、在宅での身体拘束もなくし、尊厳ある高齢者、自立した高齢者という流れを引き出したい、そういうことではないかと考える。

(笹森委員)

 在宅での高齢者に対する虐待については、徘徊や弄便、失禁といった問題行動をやめさせようとして起こっている例が多い。身体的な虐待もあるが、どなったり、悪口をいったりする心理的な虐待、無視などによる介護拒否、さらに、介護者の思いこみによる虐待も見られる。こうした行動は、介護者のストレスや体調によるほか、近所に対する気兼ねや経済的な問題、将来に対する不安など様々な要因がある。在宅での虐待・身体拘束を考える場合には、介護者の身体的・心理的負担をいかにフォローしていくか、介護者の立場からの視点も大切だと考える。

(毛利委員)

 施設や医療機関で身体拘束をなくすには、安全性をいかに確保するかが重要になる。そのためには、ハード面でいかにけがを予防するか、マンパワーが十分にあるか、さらには医療関係者と介護職員がいかに綿密に連携を取るかが重要と考える。

(井形委員)

 介護・看護職員に対するセミナーや研修会の開催により、徐々に全体の意識のレベルを高めていくことが必要ではないか。

(田中委員)

 北委員の話を聞き、介護の現場で働く者として心強く感じた。現場だけの思いとか個々の努力だけでは、ほんとうの意味の身体拘束の廃止にはつながらないと考えており、責任者を含め施設全体で取り組むことが本当に必要である。
 また、具体的に「縛る」行為だけでなく、言葉による抑制や無視など、精神的・心理的な部分も含んだ形での見解を示してもいいのではないかと考える。

(鳥海委員)

 特別養護老人ホームに勤務しているが、施設開設当初からこれまで身体拘束はしない、つなぎ服は着せないという方針でやってこれたのは、身体拘束禁止を施設の目的にしなかったからではないかと考えている。つまり、身体拘束をゼロにするということよりも、入所者ひとりひとりにどういうケアをしていくかということをまず考えた場合、身体拘束という発想は出てこない。出てくることは、食事を人間らしくとか、排せつをきちんとし、おむつをはずす可能性を検討するとか、面会時間の制限を設けないといったことである。
 このように単に身体拘束をなくしましょうということではなく、ケアの本質を考える機会になればいいと考える。

(外山委員)

 身体拘束はぎりぎりに追いつめられた形で出てきているものであり、そこに至る過程が重要ではないかと考える。その意味で、拘束をどう理解するか、問題行動を制止するのではなく、その原因を考えていくことが必要になる。
 現在の施設の環境は、建物が大きすぎたり、同じような部屋が並んでいて自分の居場所が見つからなかったり、痴呆性高齢者にとっては、非常に生活しづらく、どうふるまっていいかわからない状況になっており、こういう環境の中での彼らなりの表現が問題行動に見える例も多い。
 職員の努力も必要であるが、生活環境やハードについて客観的な分析も必要ではないかと考える。例えば、車いすからずり落ちるのを防ぐために身体拘束を行うというケースを見た場合、標準的な車いすの座面が日本の高齢者の平均的な体格から見て高すぎることや、折りたたみ式の車いすのスリングシートがすべりやすいことが原因になっていることも多く、こうしたケースについては、座面を低くするとか、体にフィットする車いすを使用するとかいった対応により、状況はかわっていくのではないか。このように住環境や生活環境という面からも対応できることはいろいろあるのではないかと考える。

(時田委員)

 高齢者の介護は単に身の回りの援助をすればいいという問題ではない。特に施設には在宅での介護が困難な方が集まることを考えれば、施設において単に人手を増やせばよいというものではなく、人格的な専門職がよいお世話をするということが必要になると考える。
 また、施設の中には拘束をせざるを得ない人もいるわけで、一般論では論じられない問題だが、我々も身体拘束ゼロを目指して努力しているところであり、現場の職員は大変な苦労をしていることをご理解いただきたい。

(橋本委員)

 痴呆については、専門職であっても十分理解できていないような状況であり、この作戦を進めていくこととあわせて、痴呆についての理解を深めていくことが重要と考える。
 こうした取り組み計画で身体拘束はかなり解消していくだろうと考えるが、過渡的には事故が少し増えるかもしれない。しかし、それは過渡的なこととして受け止め、乗り越え、そして拘束をゼロにしていくという方向を目指していく、その決意をきちんとしておきたい。

(福島委員)

 施設介護を希望しながら財政的な問題などで仕方なく在宅で家族が介護しているケースを見てきたが、そういう場合には虐待に陥るケースも多いと常々感じていた。
 特に痴呆のお年寄りの介護は非常に難しく、仕事もしなければ生活していけない状況も考えれば、在宅の虐待の問題は難しいだろう。
 現在、グループホームは急激に量的な拡大が図られているが、連絡協議会では、身体拘束の問題も含め、痴呆性高齢者グループホームの質の確保に向けた取り組みを進めている。具体的には、利用者の権利擁護のため、身体拘束の禁止も当然盛り込んだ倫理綱領の作成や、苦情相談、ケアサービスの質の評価の基準づくりといったものにも取り組んでおり、今後も、よりよいグループホームを増やす努力をしていきたい。

(井形会長)

 厚生省が音頭をとってこういう推進会議がスタートしたこと自体は、社会的にもかなり大きなインパクトを与えるのではないかと考えており、今後とも各委員のご協力をお願いしたい。


厚生省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」メンバー

名前 所属
  青柳 俊 日本医師会常任理事
井形 昭弘 愛知県健康科学総合センター長
  市原 俊男 全国有料老人ホーム協会理事長
  加藤 隆正 介護療養型医療施設連絡協議会会長
  金内 善健 東京都保健福祉部長
  北 良治 北海道奈井江町長
  見坊 和雄 全国老人クラブ連合会副会長
  斎藤 正男 東京電機大学工学部教授(テクノエイド協会福祉用具開発研究委員会委員長)
  笹森 貞子 呆け老人をかかえる家族の会理事
  高崎 絹子 東京医科歯科大学医学部教授
  田中 雅子 日本介護福祉士会会長
  鳥海 房枝 特別養護老人ホーム清水坂あじさい荘副施設長
  外山 義 京都大学大学院教授
  中村 博彦 全国老人福祉施設協議会会長
  橋本 泰子 大正大学人間学部教授
  福島 弘毅 全国痴呆性高齢者グループホーム連絡協議会代表理事
  堀田 力 さわやか福祉財団理事長
  毛利 義臣 北海道保健福祉部長
  山口 昇 全国老人保健施設協会会長
  山崎 摩耶 日本看護協会常任理事
  吉岡 充 上川病院理事長・全国抑制廃止研究会会長
※平成12年6月9日時点
(敬称略、五十音順、◎は座長)


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