邦夫さんはクルマでの外回りが多い営業マン。きよ美さんを助手席に乗せ、得意先を回った。邦夫さんが商談中には、きよ美さんはクルマの中で好きな音楽を聞いたりして過ごす。一緒にいられる安心さと、きよ美さん自身が外に出て楽しむ環境をつくることが最も良い薬だった…。
施設よりも自宅での介護を選んで
「一緒に過ごしたい」と願う邦夫さんの思いとは裏腹に、大きな環境の変化によって、きよ美さんの病状は進行した。それは震災で被害を受けた自宅の建て替え中だった。世話が困難になり、ついには施設に…。
施設自体の設備は良く、特に問題はないと思われた。しかし、入所者はお年寄りばかりで、きよ美さんの話し相手はいない。きよ美さんは日毎に喜怒哀楽がなくなり、半年で言葉を忘れてしまったという。
邦夫さんは、次第に無気力になっていくきよ美さんを見ながら、新築完成を機に自宅で介護をすることに決めた。
「最初はヘルパーさんが、若年性アルツハイマー病の患者は初めてで、戸惑いも多く大変でしたが、自宅にいるというだけで、どこか安心感がありました」。
介護保険を育てていきたい
介護保険の利用によって在宅介護ができ、きよ美さんと過ごす時間も増えた。きよ美さんの状態はかなり安定している。
邦夫さんは現在、奈良にある「若年性痴呆家族の会」に参加している。奈良から広島まで、若年性アルツハイマー病の患者を抱える家族が、悩みを打ち明け、語り合う。
「若年性アルツハイマー病を隠している家族が多いと思います。私も公表することを迷いましたが、困って、助けてもらった時のことを思い、若年性アルツハイマー病という病気をもっと認知させ、後からくる人のために少しでも役に立ちたい」と邦夫さんは熱く語る。
「若年性アルツハイマー病専用の施設や集まりの場が近くにあればいいし、在宅介護では負担が多いので、少しでも軽減してもらえるようになればいいですね」。
そう語る邦夫さんの瞳は暖かく、優しさにあふれていた。
|