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(8) これからの高齢者介護における在宅介護支援センターの在り方について
−中間報告−

平成15年5月26日
 全国在宅介護支援センター協議会
  これからの高齢者介護における在宅介護
  支援センターの在り方に関する検討委員会

1.はじめに

 平成12年度から介護保険制度が施行され、在宅介護支援センターを取り巻く環境は大きく変化した。
 主なものを挙げれば、まず、「要介護認定」と「介護支援専門員による介護サービス計画の作成」が導入され、介護を必要とする在宅の高齢者のケアマネジメントは「指定居宅介護支援事業者」が行うこととなった。
 また、ホームヘルパーの派遣や特別養護老人ホームへの入所などの老人福祉サービスが、市町村による「措置」から、サービス事業者と利用者の「契約」に移行した。
 さらに、介護保険制度と相俟って車の両輪を成すものとして、「介護予防」の取組みが強力に進められることとなった。

 平成2年度からスタートした在宅介護支援センターについても、こうした大きな変化の中で、その多くが居宅介護支援事業所を併設して自ら介護保険サービスのケアマネジメントを行うとともに、それまでの10年間に果たしてきた役割とは異なる役割が求められるところとなった。

  (参考)  平成13年度の全国在宅介護支援センター協議会による調査では、地域型在宅介護支援センターの90.7%が居宅介護支援事業所との併設である。

 一方、介護保険制度の施行状況を見ると、制度そのものは順調に推移していると言われているが、解決すべき課題も多い。
 例えば、在宅サービスの利用は倍増したが、ケアマネジメントは十分でないと指摘されているほか、とりわけ地域の支援を必要とする高齢者については、介護保険のサービスで全てがカバーされるわけではなく、必要とされる地域での支え合い機能の弱体化していることが指摘されている。

 こうした中で在宅介護支援センターは、介護保険制度施行後の状況も踏まえて、新しい在り方を確立しなければならない段階にきている。

 そこで、本委員会は、この3年間の状況に照らして在宅介護支援センターをめぐる課題を整理するとともに、その解決に向けて提言を行うことを目的として、本年3月に発足した。
 以下に、今日まで5回にわたる議論の成果をとりまとめる。


2.在宅介護支援センターの特色

 在宅介護支援センターは、老人福祉法において、市町村が行うべき老人福祉に関する情報の提供並びに相談及び指導等の実施機関として明記されており、市町村行政の代替機能を担っている。

 また、地域住民に最も身近な場所で、地域の全ての高齢者に対し、保健、医療、福祉の総合相談窓口としての役割を担っているなど、高い公益性を有しており、その特色からも、運営費には公費が投入されているところである。


3.在宅介護支援センターをめぐる主な課題

(1)居宅介護支援事業者への指導・支援

 ○  在宅介護支援センターは、我が国におけるケアマネジメントの先駆的役割を果たし、また、その実績も重ねてきた。
 法律上も、上記のとおり、老人福祉に関する指導等の実施機関として位置付けられている。

 ○  したがって、在宅介護支援センターには、居宅介護支援事業者に対して必要な指導・支援を行うことが求められるが、これまでの取組は十分でない。
 また、居宅介護支援事業所を併設している在宅介護支援センターにおいては、他の居宅介護支援事業者の模範となるよう、ケアマネジメントの向上に努めなければならない。

 ○  居宅介護支援事業者が適切にその役割を果たしていくことは、介護保険制度の健全な運営を図る上で極めて重要であることから、在宅介護支援センターは居宅介護支援事業者の水準を率先して引き上げる役割を果たすとともに、居宅介護支援事業者への指導・支援に力を注いでいかなければならない。

(2)介護予防サービスのコーディネーション

 ○  高齢者ができる限り要介護状態にならないように、また、要介護となった高齢者の心身の状態ができる限りそれ以上悪くならないように、市町村による介護予防事業の取組が進められている。

 ○  しかしながら、要介護となるリスクの高い高齢者を効率的に把握し、それぞれの高齢者の状態を踏まえて効果的な介護予防サービスに的確につなげていく活動は十分でない。

 ○  介護保険サービスに適切なマネジメントが必要であるように、介護予防サービスには適切なコーディネーションが必要であり、在宅介護支援センターはこれを担っていかなければならない。

(3)要援護高齢者の発見と支援・保護

 ○  介護保険制度の導入によって、介護サービスの利用は市町村を介さない申請主義となった。

 ○  その結果、
(1)  市町村には「居宅介護支援事業者任せ」という風潮が出てきた。
(2)  ニーズを抱えているにも関わらず、相談窓口に出向いたり、サービスの利用を申請したりすることができない高齢者が存在している。
といった指摘がなされているところである。

 ○  一人暮らしでの孤独死、いわゆる老老介護での介護疲れによる殺人、家族からの虐待や介護放棄など、痛ましいケースの発生を防ぐためにも、在宅介護支援センターは、広く援護を要する高齢者を発見し、見守りを含めた適切なサービスにつなげていかなければならない。

 ○  特に痴呆性高齢者については、今後増加することが予想されており、早期発見・早期対応によって、地域社会での生活を支援することは、重要な課題である。

 ○  また、不適切な介護サービス事業者から要介護高齢者を守ることをはじめ、広く消費者たる高齢者を保護する観点からの取組にも力を入れていかなければならない。


4.提言

 上記の課題の解決を図るとともに、今後、在宅介護支援センターがその役割を一層的確に果たしていくことができるよう、次のような具体的な取組を進めるべきである。

(1)基幹型在宅介護支援センター

 (1)  配置職員について

 居宅介護支援事業者に対して適切な指導・支援を行うためには、配置する職員の資質と実践経験が重要となる。
このため、

 (a)  「社会福祉士等のソーシャルワーカーと看護師」又は「保健師と介護福祉士」という福祉関係職種と保健医療関係職種の組合せによる配置を徹底する。

 (b)  配置職員の要件に、一定の相談経験歴を加えることを検討する。

 (2) 地域ケア会議について

 (a)  地域の高齢者やサービス提供の全体像を把握できるようにするとともに、居宅介護支援事業者への指導・支援を行う観点から、会議の構成員を拡大して、居宅介護支援事業者の介護支援専門員を加える。

 (b)  地域で不足しているサービスを創り出すなど幅広い活動をしていく観点から、「現 場職員」による会議に加えて、地域の機関・団体の「代表者」による会議を行い、それぞれの市町村で必要な社会資源の開発に関わっていく。

 (c)  在宅介護支援センター運営事業の実施主体は市町村であることから、社会福祉協議会等への委託という形をとっている場合にあっても、必ず市町村の職員を、会議の構成員とする。

 (d)  地域ケア会議には多様な職員が集まるという強みを活かして、チームでの指導を行うなど、介護支援専門員協議会等で行われている「ケアマネジメントリーダー事業」と併せて、居宅介護支援事業者の介護支援専門員の指導・支援を行う。

(2)地域型在宅介護支援センター

 (1)  担当地域ケア会議について

 担当区域全体の高齢者を対象として自らの業務を行うとともに、居宅介護支援事業者に対して指導・支援を行っていくために、広く関係者が集まって事例検討等を通じて情報を共有し合い、課題を解決していく「担当地域ケア会議」を新設する。

 (2)  介護予防サービスのコーディネーションについて

 (a)  介護予防サービスのコーディネーションに関しては、昨年4月に全国在宅介護支援センター協議会で「介護予防プラン・実態把握マニュアル」をまとめており、これも活用しながら、リスクの高い高齢者を効率的に把握して効果的なサービスにつなげていく手法を開発していく。

 なお、厚生労働省からは、15年度に「介護予防・地域支え合い事業」の総点検を行うこと、そのため、補助金協議に併せて、事業の評価方法を提示するとともに個別事業の実態調査を行う予定であることが発表されていることから、こうした動きとも連携を図る。

 (b)  介護予防サービスのコーディネーションを行ったり、介護予防教室の開催など自ら介護予防サービスを提供したりする際には、保健師活動との連携を図る。

 (3)  要援護高齢者の発見と支援・保護について

 (a)  一人暮らしや高齢者のみの世帯の不安を解消し、安心して地域での暮らしを続けることができるよう、担当区域の高齢者のきめ細かな実態把握を行うほか、相談協力員や地域のボランティア等との連携による見守り活動、電話等を活用した安否確認活動を行う。

 (b)  このほか、何らかの援護を要する高齢者には次のようにさまざまなものがあり、これらの高齢者についても、早期に発見し、関係機関への連絡など所要の対応を行う。
 家族から虐待や介護放棄を受けている高齢者
 介護サービスの利用や消費生活の上で保護が必要な高齢者
 介護を要する状態にあるにも関わらず、要介護認定を受けていない高齢者
 介護を要する状態にはないが、生活上の問題を抱えている高齢者
 アルコール中毒等の精神疾患を有している高齢者

 (c)  また、広く高齢者が介護サービスを利用したり、商品を購入したりする際の苦情を受け付け、その解決機関に結びつける。

 (4)  痴呆性高齢者の早期発見と早期対応について

 (a)  痴呆性高齢者については、早期に発見し、早期に適切な対応をすれば、痴呆に起因して生じる周辺症状(徘徊など)が緩和され、在宅での生活を長く続けることが可能である。

 しかしながら、痴呆に対する家族の無理解、周りの住民の偏見・無理解により、痴呆性高齢者やその家族が地域社会から孤立し、在宅での生活の破綻を来す事例も多く見られる。

 こうしたことを防ぐために、地域の中で痴呆性高齢者を早期に発見し、居宅介護支援事業者につなぐとともに、家族への専門的な助言や精神的な支援にもつなげていく。

 (b)  更に、地域住民が痴呆性高齢者を正しく理解できるように日頃からさまざまな情報を伝えるなど、地域全体で痴呆性高齢者やその家族を支えていく拠点としての活動を行う。

 (5)  インフォーマルサポートの育成と活用について

 (a)  要援護高齢者やその家族を支える上では、制度的なサービスにとどまらず、ボランティアや近隣住民などのインフォーマルなサポートを活用することが重要であることから、社会福祉協議会等と連携して、担当区域のボランティア活動や地域活動を開発・育成する。

 (b) また、居宅介護支援事業者に、担当区域におけるこうした活動に関する情報を提供する。

(3)基幹型と地域型の連携など

 (1)  基幹型と地域型の関係は図1(PDF:36KB)のとおりであるが、特に、基幹型在宅介護支援センターは、地域型在宅介護支援センターが複雑で援助困難な事例について相談支援を実施している場合には、これを支援する。

 (2)  第三者評価による介護サービス事業者の情報を集約して提供していくほか、同一市町村内のすべての在宅介護支援センターが集まった協議会の自主的な活動として、例えば第三者評価機関となるなどの取組を検討する。


5.在宅介護支援センターの指導的役割

(1)  市町村から委託を受け、高い公益性を有している地域型在宅介護支援センターの多くが居宅介護支援事業所を併設していることは、他の居宅介護支援事業者や介護支援専門員の活動の模範となることを意味している。

 また、地域型在宅介護支援センターには、担当地域ケア会議の開催や個別の指導などの活動を通じて、高齢者の要介護状態を悪化させたり権利侵害を行ったりしている悪質な事業者を是正することが求められている。

 市町村は、在宅介護支援センターとの連携のもとに、これらの悪質な事業者に対して適切な処分を行うことができる体制を整備すべきである。

(2)  市町村が在宅介護支援センターの運営を委託するのは、社会福祉法人等の専門性に着目してのことであり、市町村が行うべき相談や指導が、自ら実施するよりも効果的・効率的に行われることを狙いとしている。

 市町村は、こうした観点から、委託先による在宅介護支援センターの運営が適切に行われていることを常に確認すべき行政責任を有している。

 このため、市町村は、在宅介護支援センターによるさまざまな活動を客観的に評価する基準を作成し、これに基づいて、委託先が行政事務の代行という重要な使命を適切に果たしているかどうかを評価することとすべきである。

 この評価の結果、委託先の活動が不十分なものである場合には、委託を打ち切ることが当然であり、こうした市町村と在宅介護支援センターの関係があってこそ、在宅介護支援センターがサービス事業者や居宅介護支援事業者に対して指導的な役割を果たすことが可能となる。

 同様に、市町村は基幹型在宅介護支援センターと地域型在宅介護支援センターの関係についても、活動状況の評価結果をもとに、その担当を入れ替えることも検討すべきである。


6.地域ケアシステムとの関係

 以上、介護保険制度の導入に伴う変化や、施行後の状況を踏まえて、在宅介護支援センターの新しい在り方について述べてきた。
 ここで、高齢者を地域の中で総合的に支える地域ケアシステムの仕組みについて図示すると図2(PDF:36KB)のとおりであり、介護保険制度は、このうちケアニーズをもつ高齢者への「総合相談システム」と「サービス提供システム」に関わるものである。
 そして、在宅介護支援センターは、これらを含めた8つのシステムのいずれにおいても担うべき役割を有しており、4.で述べた具体的な取組を再整理すると、次のとおりである。

(1)ケアニーズをもつ高齢者への総合相談システム

 ○  相談者の範囲を要介護の高齢者に限定することなく、広く生活問題を有している高齢者に対して積極的に相談援助(ソーシャルワーク援助)を行い、サービス利用の調整を実施していく。

 ○  利用者の権利を守る観点から、相談に応じる職員の能力を高めるための研修や指導・支援を実施していく。

(2)ケアニーズをもつ高齢者へのサービス提供システム

 ○  地域内の機関・団体間での日常の連絡調整といった、サービスを円滑に提供できるための連携の仕組みを作り上げていく。

(3)ケア予防システム

 ○  高齢者ができる限りケアを必要とする状態にならないよう予防事業を実施していく。

(4)ケアニーズをもつ高齢者の発見システム

 ○  ケアを必要としている高齢者を地域や病院の中で発見し、適切なサービス利用とつなげていく。そのために、相談協力員を積極的に活用していく。

 ○  痴呆性高齢者を早期に発見し、在宅生活を長期に継続できるよう居宅介護支援事業者や専門的助言に結びつけていく。

(5)ケア施策の開発システム

 ○  関係者が集まるカンファレンスを開催し、地域に必要な社会資源の開発を働きかけていく。

(6)権利擁護のシステム

 ○  虐待や介護放棄など、人権が侵害されていたり、そのおそれがある高齢者を発見し、安心して地域で生活できるよう適切な権利擁護機関と結びつけていく。

(7)苦情解決のシステム

 ○  介護サービスだけでなく各種商品について、消費者として高齢者の苦情を積極的に受け付け、その解決機関と結びつけていく。

(8)評価情報のシステム

 ○  高齢者にサービス評価情報を提供することで、サービスを自己選択できるよう援助していく。

 以上、8つのシステムについて、在宅介護支援センターはそれぞれの市町村の実情に応じて、柔軟かつ適切に対応していく必要がある。


7.おわりに

 この中間報告で採り上げた提言については、在宅介護支援センターが自ら率先して取り組む姿勢をもつべきことは言うまでもないが、その実行に当たっては、本事業の実施主体である市町村の理解が必要不可欠である。
 市町村には、この提言を受けて、積極的に所要の措置を講じていただくことを求めておきたい。

 また、都道府県と国の財政支援も欠かすことができない。
 昨今の報道では、国においては補助金の見直し作業が行われているとのことであり、都道府県においても、厳しい財政事情を理由に、本事業への支援に消極的な声が聞かれるところである。

 しかしながら、在宅介護支援センターには、この中間報告で示したとおり、さまざまな具体的取組が求められており、これらは、在宅介護支援センターが今後の高齢者介護等において有効な役割を果たしていく上で欠かすことができないものである。 よって、国と都道府県には、こうした取組への明確な支援を継続していただくことを求めておきたい。

 在宅重視を掲げる介護保険制度の導入後も、依然として住民の間には施設志向が強い。これを転換していくには、在宅の生活の中に「安心」の拠点を設けることが必要である。この中間報告で採り上げた提言を実行に移すことで、在宅介護支援センターが「安心」の拠点として住民の信頼を得て、「在宅文化」を根付かせていくことを期待している。


これからの高齢者介護における在宅介護支援センターの
在り方に関する検討委員会委員名簿

(委員)
 ◎  白澤 政和  大阪市立大学大学院教授
 浜野 修  全国在宅介護支援センター協議会総務広報委員長授
 西元 幸雄  全国在宅介護支援センター協議会研修委員長授
 岡地 和男  宇都宮市保健福祉総務課長
 平井 俊圭  上野市社会福祉協議会在宅介護支援センター「ふれあい」センター長
 香山 芳子  稲城市福祉部高齢障害介護課支援センター課長補佐
 前薗 智雄  在宅ケアセンターさざんか園

(オブザーバー)
 原田 重樹  四日市市常盤在宅介護支援センターセンター長
 東畠 弘子

 「月刊ケアマネジメント」編集顧問

 黒木 隆之  全国在宅介護支援センター協議会会長
 堀尾 愼彌  全国在宅介護支援センター協議会副会長
 佐藤 和夫  全国在宅介護支援センター協議会副会長
 長戸 金昭  全国在宅介護支援センター協議会副会長
 矢島 祥吉  全国在宅介護支援センター協議会副会長

 厚生労働省老健局計画課
 厚生労働省老健局振興課
◎は座長
(敬称略)


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