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(2)老人保健福祉計画の見直しについて

ア 基本的な考え方

1.老人保健福祉計画は、長寿社会にふさわしい高齢者保健福祉をいかに構築するかという極めて重要な課題に対して、それぞれの市町村及び都道府県が、目指すべき基本的な政策目標を定め、その実現に向かって取り組むべき施策を明らかにすることを主な趣旨とする計画である。
 したがって、すべての高齢者を視野に入れ、介護保険の給付対象とならない高齢者保健福祉サービスはもとより、その他の関連施策も計画の対象としていることに、特にご留意願いたい。

2.老人保健福祉計画と介護保険事業計画(市町村介護保険事業計画及び都道府県介護保険事業支援計画をいう。以下同じ。)は、整合性をもって作成されることが必要であることから、計画期間は同一とし、作成・見直し作業も同時に行うことが適当である。既に、平成15年度からの第2期介護保険事業計画の作成に併せて見直し作業を進めていただいているところであるが、今回の老人保健福祉計画の見直しに当たっては、前回の見直しの際にお示しした基本的考え方等を大きく変更する予定はなく、基本方針及び介護保険対象外サービスの参酌標準の現時点における検討案は、後述のとおりである。
 なお、両計画の関係については別紙3及び別紙4を参照されたい。
 また、地域福祉計画を策定する自治体にあっては、老人保健福祉計画との整合性及び連携を図る必要があることに留意されたい。

3.今回の老人保健福祉計画の見直しに際して参考にしていただく事項については、平成14年4月頃に、まとめてお示ししたいと考えている。

イ 計画作成における基本方針

 計画作成における基本方針の現時点における検討案は、以下のとおりである。

 なお、この検討案は、現時点でのものであり、今後の検討により変更もあり得る。

1 介護サービス基盤の整備

(1)市町村及び都道府県は、老人保健福祉計画とともに一体的に作成される介護保険事業計画において、地域の需要に応じ介護サービスの整備目標を定め、計画的な整備のための方策を明確にする必要がある。その場合には、高齢者が介護を要する状態になってもできる限り住み慣れた地域や家庭で自立した生活が継続できるように、居宅サービスの整備に重点を置くべきである。

(2)また、介護保険施設の整備とあわせて、一人暮らしに不安を感じている高齢者や、介護保険施設からの退所者など、生活支援を要する高齢者が居住できる施設として、介護利用型軽費老人ホーム(ケアハウス)、生活支援ハウス(高齢者生活福祉センター)及び痴呆性高齢者グループホームの整備を推進することが必要である。

2 介護サービスの質的向上

(1)介護サービスについては、量的な整備とともに、その質の向上を図る必要がある。サービスの質という面では、介護サービスに携わる人材の養成や就業後の資質向上のための研修体制の整備が重要な課題となる。
 居宅サービスについては、その担い手である訪問介護員(ホームヘルパー)や訪問看護事業に携わる看護婦等の資質の向上に取り組む必要がある。このため、都道府県は、訪問介護員については、予防の視点を含めた身体介護サービスの充実やサービス提供責任者の養成、より上級に向けた研修(ステップアップ研修、テーマ別技術研修)などの面から専門的な資質の向上を図るとともに、訪問看護婦についても、緊急時の対応などサービスの専門性を踏まえた資質の向上のための研修の一層の推進に取り組むことが重要である。
 さらに、養成研修においては、居宅サービスにおいて保健・福祉の職種間で十分な役割分担と連携を踏まえた共働関係が確立されるような配慮が求められる。また、高い倫理性と個人のプライバシーの尊重をより一層徹底していく必要がある。

(2)介護保険制度の円滑な運営のためには、制度の要である介護支援専門員(ケアマネジャー)の資質の向上に取り組むことが必要である。
 そのため、都道府県は、養成課程において、必要に応じて時間枠の拡大や新規のカリキュラムの導入等を行って資質の向上を図るとともに、現任の介護支援専門員についても、業務への習熟度に応じた研修等を実施し、専門性を深めるための支援が必要である。
 また、市町村においては、基幹型在宅介護支援センターを中心に、関係機関との連絡調整や指導助言等の援助を行う「ケアマネジメントリーダー」を配置してその介護支援専門員の活動を支援するなどの支援策を、都道府県においては、介護支援専門員の資質向上の観点から専門研修を実施するなどの支援策を、それぞれ講じる必要がある。

(3)施設サービスについては、これまでの集団処遇的なサービス提供のあり方を見直し、入所者の意思及び人格を尊重しながらその自立を支援するように改めていく必要がある。そのため、全室個室・ユニットケアを特徴とする「居住福祉型」の特別養護老人ホームの整備や、「身体拘束ゼロ作戦」の推進などが大きな課題となる。
 さらに、理美容や教養娯楽など高齢者が尊厳を保って心豊かな暮らしができるような生活環境の整備を図ること、また、世代間交流や地域行事への参加など地域に開かれた施設とすることが求められている点も考慮する必要がある。

(4)介護サービスの質の確保のためには、介護サービスに関する情報の提供や評価事業の普及、利用者からの苦情への対応、ボランティアを活用した施設等への相談員の派遣、適切な契約締結の推進などに積極的に取り組むことが重要であり、さらには事業者自身による、介護保険制度の趣旨に沿った適正で節度のある事業運営への取組みを促すことも望まれる。

3 介護予防及び疾病予防の推進

(1)高齢者が健康で生き生きした生活を送ることができるよう支援していくことは極めて重要である。そのため、市町村においては、高齢者が要介護状態になったり要介護状態が悪化したりしないようにする「介護予防」の取組みを強力に推進する必要がある。
 介護予防の取組みには、老人保健事業として実施されているもの、介護予防・生活支援事業として実施されているもの、医療保険者による保健事業として実施されているもの、地域リハビリテーション対策として実施されているもの、地域住民等の自主的な活動として実施されているものなどがあることから、保健・福祉・医療の各種サービスを提供する機関や担当部局が連携し、利用者の立場に立ったサービス提供体制を確保することが重要であり、さらにはその他の部局や機関も視野に入れ、就業支援やまちづくりなども含めた総合的な介護予防施策として積極的に推進していくことが求められる。
 また、具体的事業の実施に当たっては、その事業が介護予防に真に効果的であるかどうかを常に確認しながら展開することが必要であり、今後、事業評価に積極的に取り組んでいくことが求められる。
 さらに、地域リハビリテーションの推進に当たっては、都道府県において、リハビリテーション推進協議会の設置、リハビリテーション支援センターの指定等の体制づくりに取り組むことが重要である。

(2)介護予防に資する保健福祉サービスが利用者一人一人に有効に提供されるためには、十分に情報を把握し課題分析(アセスメント)を行った上で、適切なサービス提供計画を策定する必要がある。
 そのため市町村においては、保健部局と福祉部局、市町村保健センターと在宅介護支援センターといった関係部局・関係機関の連携体制や、保健婦と社会福祉専門職などの協力体制の整備を、地域の実情に応じて行うことが重要である。
 また、都道府県においては、保健部局と福祉部局との連携体制や関係団体との協調体制を確立し、市町村における高齢者保健福祉サービスに関する調整への取組みを支援することが重要である。

(3)疾病予防対策として、高齢者が疾病や要介護状態に陥る危険要因(疾病などの医学的要因とともに、閉じこもりなどの社会的要因も含む)について情報の把握や評価(ヘルスアセスメント)を行った上で、個々の高齢者に対する個別健康教育の計画的な拡大を図ることが重要である。
 また、基本健康診査については、受診率の向上を目指すほか、事後指導の充実を図り、健診データの時系列的把握、検査方法の標準化その他の精度管理の確保に努めるとともに、職域保健との連携を図るなど生涯を通じた健康づくりや健康管理体制づくりに取り組むことが重要である。その際には、健康日本21地方計画による健康目標などを視野に入れ、整合性を図りながら体制づくりを行っていく必要がある。併せて、がん検診についても引き続き充実を図ることが望まれる。
 こうした疾病予防対策についても、事業効果を評価しつつ効果的な事業展開を図るなど、サービスの質の向上に努めることが必要である。

(4)老人保健福祉計画には、介護保険の給付対象サービスのほか、養護老人ホーム、ケアハウス等の軽費老人ホーム、老人福祉センター、在宅介護支援センター、機能訓練及び訪問指導について、別に定める標準を参考に、事業量の目標を盛り込む必要がある。その他必要に応じ、介護予防サービス等についても事業量及び事業成果の目標を盛り込むことが望まれる。
 なお、訪問指導に関しては、複数の健康問題等により対応困難な事例に対し、行政からのアプローチが必要な場合には、地域の実情を踏まえて積極的に活用することが望ましい。

4 痴呆性高齢者支援対策の推進

(1)痴呆性高齢者が尊厳を保ちながら穏やかな生活を送ることができ、家族も安心して社会生活を営むことができるような状態を実現することが求められている。保健・医療・福祉等の関係機関や担当部局が連携し、それぞれの地域の実情に応じて、介護保険サービスのみならず、介護保険対象外のサービスや近隣者・ボランティアによるインフォーマルなサービスも含めた総合的なサービス提供体制を整備することが必要である。

(2)市町村においては、老人保健事業や介護予防・生活支援事業等の実施により、高齢者の閉じこもりの防止や知的な活動等を促進し、脳血管性痴呆の原因となる動脈硬化や脳卒中を予防することが重要である。
 また、(1)在宅介護支援センターに痴呆相談窓口を設置する、(2)痴呆性高齢者グループホームで痴呆介護教室を開催する、(3)家族会やボランティアグループが行う痴呆相談活動を支援する等の取組みを推進することによって、痴呆症を早期に発見し、周囲の関係者に適切な対応を促すとともに、痴呆性高齢者の介護に関する正しい知識や技術について、介護者を含め地域住民に幅広く普及させることも重要である。
 さらに、痴呆性高齢者については、保健・医療・福祉の専門的観点から適切な評価(アセスメント)を行い、高齢者と家族に対して状態に応じて必要とされるサービスを継続的に提供するとともに、高齢者の生活環境をできる限り維持していく配慮が必要である。このため、痴呆性高齢者に対する在宅及び施設サービスの整備に当たっては、生涯にわたる介護等のサービスを確保する観点から、通所介護、通所リハビリテーション、短期入所生活介護、痴呆性高齢者グループホーム、ケアハウス、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設及び医療機関等が十分な連携を持った体制を確立する必要がある。 このほか、成年後見制度や地域福祉権利擁護事業など、痴呆性高齢者の権利擁護のための取組みを進める必要がある。

(3)都道府県においては、痴呆介護の質的な向上を図るために、痴呆性高齢者の介護に従事する者に専門的な知識と技術を修得させる痴呆介護実務者研修を計画的に実施するとともに、痴呆介護の研修拠点を整備していくことが必要である。
 また、高齢者痴呆介護研究センターで実施される痴呆介護指導者養成研修に継続的に受講者を派遣するとともに、その修了者を中心とした痴呆介護の指導者グループを形成し、これら専門家の意見も交えながら痴呆介護の質的向上について検討していくことが求められる。
 さらに、精神保健福祉センターや保健所の相談機能、老人性痴呆疾患センター等の相談・鑑別診断機能を充実させ、市町村の取組みを広域的・専門的に支援する体制を整備することが必要である。

5 地域生活支援(地域ケア)体制の整備

(1)高齢者の多くが、長年生活してきた地域で暮らし続けることを望んでいる。このためには、高齢者が介護や支援が必要な状態になっても、安心して生活を送ることができるよう、高齢者を地域全体が支える体制を構築する必要がある。
 そうした観点から、高齢者が生活を送る居住環境を重視し、日常生活圏域を基本に、地域ケアを支える各種サービス提供機関や居住空間、公共施設、移動手段などの社会資本の集積的な整備を進め、高齢者が必要なサービスを円滑に利用できる環境を整備することが求められる。
 また、地域生活支援(地域ケア)体制の整備に関しては、専門職だけでなく、地域住民を主体とした自主的な取り組みやボランティア活動、特定非営利活動法人(NPO法人)をはじめとする民間非営利活動も重要な役割を有していることに留意する必要がある。
 このため、地域全体で支える社会福祉の仕組を構築する地域福祉計画との連携が重要である。

(2)一方、高齢者に対して総合的・継続的な介護等のサービスを提供するためには、介護を要する高齢者等の需要に対応して、基幹型在宅介護支援センターを中心に、多様な地域ケアに関する機関を通信網(ネットワーク)を通じるなどして有機的に結び、必要な情報の共有を進めていく体制を構築することが重要である。この場合、健康相談等の保健サービス推進の中心的な場である市町村保健センターとも密接な連携を確保するとともに、福祉用具や住宅改修の普及を図るための広域的な情報の拠点として、介護実習・普及センターを積極的に活用していくことが求められる。
 こうした拠点整備及びそれに伴う専門職の配置等や保健医療福祉における関係組織等の幅広い関係者の連携を確保することにより、各地域において、介護支援専門員や居宅サービス事業者の支援、さらには、利用者保護の観点からサービス市場の環境整備や全体調整を行うことが可能になるものと考えられる。

6 高齢者の積極的な社会参加

 明るく活力に満ちた高齢社会を確立するためには、高齢者自身が地域社会の中で自らの経験と知識を活かして積極的な役割を果たしていくような社会づくりが重要である。高齢者、特に前期高齢者が就労や様々な社会活動へ参加するとともに、健康な高齢者については、介護の担い手としても活躍していくことが期待される。行政においても、高齢者の多様性・自発性を十分に尊重しながら、都道府県に設置されている「明るい長寿社会づくり推進機構」の活用をはじめ、老人クラブや様々な自主的な団体の活動の立ち上げと発展に各種の支援を行っていくことが重要である。

ウ 介護保険対象外サービスの参酌標準

 介護保険対象外のサービスに係る目標を定めるに当たって参酌すべき標準(老人福祉法第20条の8第4項及び老人保健法第46条の18第3項の規定に基づく参酌すべき標準)の現時点における検討案は、以下のとおりである。

 なお、この検討案は、現時点でのものであり、今後の検討により変更もあり得る。

(1)養護老人ホーム

 各地域において身体上若しくは精神上又は環境上の理由及び経済的理由により居宅において養護を受けることが困難な者を把握し、適当な量を見込む。

(2)軽費老人ホーム(A型、B型、ケアハウス)、生活支援ハウス(高齢者生活福祉センター)

 軽費老人ホームA型、B型については、現状程度の設置数とすることを標準とする。
 ケアハウス、生活支援ハウス(高齢者生活福祉センター)については、特別養護老人ホームの経過措置対象者や介護老人保健施設からの退所者、その他生活支援の必要な者を把握し、適当な量を見込む。

(3)老人福祉センター

 現状程度の設置数とすることを標準とする。

(4)在宅介護支援センター

 現状程度の設置数とすることを標準とする。ただし、地域における保健福祉の総合的な相談・支援体制の整備が未了の市町村にあっては、相談・支援体制を確保するために必要な量を見込む。

(5)健康教育

(1) 個別健康教育
 概ね5年間で、老人保健事業第4次計画に掲げている4つの領域の個別健康教育を実施することを標準とする。
 地域の実情を勘案し年間被指導者数を目標とした事業量を設定する。

(2) 集団健康教育及び家族介護健康教育
 それぞれ地域の実情を勘案し年間開催回数を目標とした事業量を設定する。

(6)健康相談

 重点健康相談、介護家族健康相談及び総合健康相談について、それぞれ、地域の実情を勘案し年間開催回数及び年間相談実施延人員を目標とした事業量を設定する。

(7)健康診査

(1) 基本健康診査
 当該市町村の健康診査を必要とする者が健康診査を受けられるようにすることを標準とする。
 地域の実情を勘案し受診率を目標とした事業量を設定する。

(2) 健康度評価事業
 地域の実情を勘案し年間評価延人員を目標とした事業量を設定する。

(8)機能訓練

(1) 機能訓練A型
 訓練の実施回数はおおむね週2回、実施期間をおおむね6ヶ月とすることを標準とする。
 地域の実情を勘案し実施か所数、年間参加延人員を目標とした事業量を設定する。

(2) 機能訓練B型
 訓練の実施回数はおおむね週1回、実施期間をおおむね一年とすることを標準とする。
 地域の実情を勘案し実施か所数、年間参加延人員を目標とした事業量を設定する。

(9)訪問指導

 市町村の訪問指導を必要とする検診の要指導者、介護を要する状態を予防する観点から支援が必要な者及び介護に携わる家族等を把握し、年間被訪問指導実人員、対象者の状態に応じた年間訪問指導回数を目標とした事業量を設定する。

エ その他の留意点

 老人保健福祉計画の見直しに当たっては、次の点に留意されたい。

(1) 都道府県の助言・指導

 市町村が、老人保健福祉行政の主役として、その地域の実情に応じた老人保健福祉行政を推進していくための計画が、市町村老人保健福祉計画である。
 都道府県は、広域的な見地から都道府県老人保健福祉計画を作成する立場にあり、適切な高齢者保健福祉事業の実施を確保するために市町村老人保健福祉計画の作成に関して必要な技術的助言を行う役割を担っている。したがって、市町村においては、計画見直し過程においても都道府県と十分な調整を行い、その原案がまとまった段階で都道府県の意見を聴き、その助言を十分踏まえることが求められる。なお、都道府県老人保健福祉計画において、支援が必要な小規模町村などの援助の方針を盛り込むことが望ましい。
 また、老人福祉法及び老人保健法上、都道府県老人保健福祉計画における圏域(老人保健福祉圏域)は、介護保険法第118条第2項第1号の規定に基づいて当該都道府県が定める区域と同じものとすることとされているが、この区域については、これまでどおり、保健・医療・福祉の連携を図る観点から、基本的には、当該都道府県で設定している二次医療圏と合致させることが望ましい。

(2) 老人保健福祉計画見直し後の留意事項

1 提出
 見直し後の老人保健福祉計画は、速やかに、市町村は都道府県知事に、都道府県は厚生労働大臣に、それぞれ提出しなければならない。

2 公表
 見直し後の老人保健福祉計画は、速やかに公表することとする。

3 実施状況の点検と見直し
 老人保健福祉計画は、その実施状況を毎年点検することが望ましい。また、介護保険事業計画の見直しとあわせ、3年ごとに見直しを行うこと


別紙 3

市町村老人保健福祉計画と市町村介護保険事業計画の関係
(両計画を一体的に作成する場合)

図

※ 老人保健福祉計画においては不要。


別紙 4

都道府県老人保健福祉計画と都道府県介護保険事業支援計画の関係
(両計画を一体的に作成する場合)

図


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