FAO/WHO合同食品規格計画
コーデックス委員会
第25回総会
イタリア、ローマ 2003年6月30日〜7月5日


第3回
コーデックス・バイオテクノロジー応用食品
特別部会報告書


横浜 2002年3月4〜8日



注:この文書には回付状CL2002/9-FBTを含む


CL2002/9-FBT
2002年4月

回付先:コーデックス担当窓口
関連国際機関

回付元:コーデックス委員会事務局長、FAO(Viale delle Terme di Caracalla、00100ローマ、イタリア)

件名:第3回コーデックス・バイオテクノロジー応用食品特別部会報告書(ALINORM03/34)の配布について


A. 第25回コーデックス総会における採択事項

規格作成手続き上のステップ8としての原則案および植物ガイドライン案

1.「モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則案」(パラグラフ34、付属資料II)
2.組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案の本体文書(パラグラフ61、付属資料III)

規格作成手続き上のステップ5/8としてのアレルギー誘発性の評価に関する添付資料案

3.「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案に対するアレルギー誘発性の評価に関する添付資料案」(パラグラフ74、付属資料IV)

上記文書に対する各国政府および関係国際機関の意見は歓迎するが、コーデックス規格および関連文書作成手続き上のステップ8(コーデックス手続きマニュアル、第12版、21ページ)に従うべきである。意見は2002年12月31日までにFAOコーデックス委員会事務局長(Viale delle Terme di Caracalla、00100イタリア、ローマ、fax+39 06 57054593, e-mail codex@fao.org)宛に提出すること。


B. 第50回コーデックス執行委員会における採択事項

規格作成手続き上のステップ5としての微生物に関するガイドライン案

1.組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案(パラグラフ88、添付資料V)

上記文書に対する各国政府および関係国際機関の意見は歓迎するが、コーデックス規格および関連文書作成手続き上のステップ5(コーデックス手続きマニュアル、第12版、20ページ)に従うべきである。意見は2002年5月20日までにFAOコーデックス委員会事務局長(Viale delle Terme di Caracalla、00100イタリア、ローマ、fax+39 06 57054593, e-mail codex@fao.org)宛に提出すること。


概要と結論

第3回コーデックス・バイオテクノロジー応用食品特別部会は、以下の結論に達した。

コーデックス総会における検討事項

同特別部会は、
(a)第25回コーデックス総会の検討を仰ぐため、「モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則案」を手続きステップ8に進めることで合意した(パラグラフ34、付属資料II)。
(b)第25回コーデックス総会の検討を仰ぐため、「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」をステップ8に進めることで合意した(パラグラフ61、付属資料III)。
(c)「アレルギー誘発性の評価に関する付属資料案」をステップ5に進めることで合意し、総会において同資料をステップ6および7を省略してステップ8で採択するよう勧告した(パラグラフ74、付属資料IV)。

コーデックス執行委員会における検討事項

同特別部会は、
(a)「組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」を手続きステップ5に進めることで合意した(パラグラフ88、付属資料V)。

コーデックス総会に関わるその他の事項同

特別部会は、
(a)原則案についての最終的結論を得るために、製品追跡(product tracing)について折衷案で合意した(パラグラフ27)。
(b)次回総会において、一般原則案で既に得られている合意事項を覆したり、特定の勧告またはガイドラインをもたらさないという合意を条件に、トレーサビリティに関して議論を尽くすことで合意した(パラグラフ90)。
(c)バイオテクノロジー応用食品・食品成分の検出または同定のための検証済み方法のリストをコーデックス分析・サンプリング部会に提出して検討を求めることで合意した(パラグラフ94~95)。
(d)FAO及びWHOは遺伝子組換え動物に関する合同専門家会議を開き、その結果を特別部会に報告すると述べた(パラグラフ96)。


第3回コーデックス・バイオテクノロジー応用食品特別部会報告書
横浜、2002年3月4〜8日

はじめに

1.2002年3月4〜8日、第3回コーデックス・バイオテクノロジー応用食品特別部会 (CX/FBT) が日本国政府の主催により横浜市で開催された。議長は厚生労働省医薬局食品保健部の吉倉廣教授が務めた。参加者一覧は本報告書の付属資料Iに掲載されている。

開会

2.はじめに、近藤純五郎厚生労働事務次官が開会の挨拶に立ち、神奈川県横浜市への参集を歓迎した。近藤事務次官は挨拶の中で、食品の安全性と消費者の健康に対する関心が非常に高まっており、モダンバイオテクノロジー応用食品の安全性が輸入国・輸出国の双方にとって重大な関心事となっていることを強調し、できる限り早急にこの分野で世界的合意が得られることを期待すると述べた。

3.FAO食品品質基準課室長のEzzeddine Boutrif氏はFAOの事務総長に代わって参加者に歓迎の意を示した。Boutrif氏はFAOの現行プログラムにおける食品安全の重要性を強調し、特に最近のFAO/WHO合同世界食品安全規制担当者会議(マラケシュ、2002年1月)、FAO/WHO食品の安全性と品質に関する合同汎欧州会議(ブダペスト、2002年2月)および今後開催される世界食品サミット-「5年後会合」(ローマ、2002年6月)-に触れた。Boutrif氏は特別部会に対し、発展途上国において遺伝子組換え(GM)穀物の生産量に明らかな増加をもたらしたバイオテクノロジーの農業への応用とそれに由来する製品についての、世界的備蓄記録の予備調査結果を報告し、GM穀物が確実に世界の食糧確保・食品の安全性・栄養的価値・持続可能性に大きく貢献するための適切な指針を策定するに当たって、特別部会の役割が重要であると強調した。Boutrif氏はさらに、特別部会に対し、「食品・農業を対象とするバイオテクノロジーに関する政策・規制の枠組みの策定における能力強化」のための世界的プロジェクトに着手し、また「バイオセキュリティー部門」を設立して規制担当者に食品の安全性・バイオセーフティー、動物・植物の健康の分野での決定に役立つインターネットに基づくツールを提供するために、FAOが他機関と共同で現在実施中の作業につき報告した。同氏は、FAOはWHOと協力し、必要に応じ、特定問題について利用できる資源の範囲で、必要な科学的助言を通して特別部会を支援し続ける用意があると述べた。

4.WHOのJorgen Schlundt博士は、WHO事務総長に代わって挨拶した。Schlundt博士は、WHOはFAOやその他の機関から情報を得て、「バイオテック・メガスタディ」というプロジェクトを実施し、モダンバイオテクノロジー応用食品のより広範な評価に関わる領域の検討、費用効果及び社会経済に関する検討を試みている、と述べた。WHO及びFAOは、議題となっている文書を切望する声に応えるために完成に向けて作業を進めるよう、特別部会に強く要請した。

議題の採択(議題1)1

5.特別部会は、この会議の仮議題を正式議題として採択した。その他の議題の提案はなかった。

他のコーデックス部会より特別部会に付託された事項(議題2)2

6.特別部会は、当部会が第1回・2回会議で作成した2つの主要文書「モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する一般原則案」及び「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」が第24回コーデックス総会で承認されたと述べた。この文書は、ステップ6に進められた。総会ではまた、組換えDNA微生物の安全性評価に関するガイドラインの作成に関する新たな作業が承認された。

7.特別部会は、「包装済み食品の表示に関する一般規格の修正案」中のコーデックス・食品表示部会から提示された定義が総会でステップ6に差し戻されたとの報告を受けた。

8.特別部会は、トレーサビリティーに関する執行委員会の議論をコーデックスが直面する全般的問題であるとした。総会のために事務局が用意した資料3では、トレーサビリティーはコーデックスにとって新しい問題ではないが、体系的手法で扱われて来なかったと指摘している。この資料ではまた、トレーサビリティーを求めるいかなる措置も、(SPS協定措置として)食品の安全確保という目的、またはTBT協定措置として妥当な目的を有するといった正当性がなければならないとしている。執行委員会は、事務局の資料に概説された分析及び手法を全体として支持した。執行委員会は、上記のトレーサビリティーに関する2つの側面を検討するよう一般原則部会に勧告したが、当理事会は「リスク分析に関する作業原則」中でリスク管理の1つの選択枝として、先ずトレーサビリティーの利用を検討すべきであるという意見を示した。執行委員会はまた、食品の輸出入検査・証明システムにおけるトレーサビリティーの適用に関する手続きの策定に関連して、特に食品輸出入検査・証明システム部会の役割を強調した。執行委員会の中には引き続き他の文書の策定を進めるべきであると考える委員もいたが、同理事会は関連委員会(一般原則部会、食品輸出入検査・証明システム部会、食品衛生部会、食品表示部会など)がそれぞれの任務の範囲で適切と考えられる作業を行うべきであるとの意見で一致した4

バイオテクノロジー応用食品の安全性及び栄養学的局面についての評価に関する他の国際機関に関わる事項(議題3)5

9.特別部会は、委任事項との整合性を図るため、バイオテクノロジー応用食品に関する規格、ガイドライン、また必要に応じその他の原則を作成する際は、各国政府、FAO、WHO、他の国際機関及び関連国際会議が実施する既存の作業を全面的に考慮すべきであると述べた。特別部会に対し以下の情報が文書で提供された。
FAO/WHOの合同活動
生物多様性に関する条約(CBD)
国連工業開発機関(UNIDO)
経済協力開発機構(OECD)
G8首脳会議

10.FAO及びWHOは、両機関が合同専門家会議を3度開催した旨、食品安全規制担当官世界会議が2002年1月28〜30日にモロッコのマラケシュで開催された旨を述べた。この世界会議は、2000年に沖縄で採択されたG8首脳コミュニケにおいてバイオテクノロジーと食品安全性のその他の局面に関する「科学に基づく公的議論を進めるための食品安全規制担当官の定期国際会議」を求める声に応え開催された。資金状況により、同じ趣旨の会議を2年ごとに開催することが勧告された。

ステップ8におけるモダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則案の検討(議題4)6

背景

11.特別部会は、第2回会議でモダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則案をステップ6に進めることで合意が得られた旨、報告を受けた。

タイトル

12.特別部会は文書のタイトル変更に関する提案を検討し、元のままとすることで合意した。「モダンバイオテクノロジー」を「遺伝子組換え食品およびそれに由来する製品」に置き換える案については、特別部会はコーデックス文書と国際的に合意の得られている定義に基づくカルタヘナプロトコールとの整合性を徹底するために「モダンバイオテクノロジー」という表現を選んだことを再確認した。従って、特別部会はこの問題は議題として取り上げないことを決定した。「遺伝子組換え」という表現が望ましいとする委員もいたが、特別部会全体としては、用語の統一を図るために文書全体で「モダンバイオテクノロジー」という表現を用いることを決定した。

セクションII-適用範囲および定義

13.特別部会はパラグラフ7において、元の陳述において生じた可能性のある誤解を回避するため、「倫理的」(ethical) の前の「その他の」(other) という単語を削除する案を承認した。さらに特別部会は、動物飼料および当該飼料が投与された動物を扱う同パラグラフの脚注を単純化し、標準用語を用いることで合意した。

14.特別部会は、「既存の対応物」(conventional counterpart)を「非遺伝子組換え生物」に限るとする「既存の対応物」の定義に対する変更案は採択に至らなかった。前回の会議7でこの問題に関する議論が紛糾し、当該パラグラフに現在の脚注をつけ、当分の間はモダンバイオテクノロジー応用食品は既存の対応物として用いないとの記述を盛り込むことで決着したことを確認したためである。

セクションIII-原則

リスク評価

15.特別部会は、異なる文脈において「危害」(hazard)と「安全性に関する懸念」(safety concern)を明確に使い分け、安全性評価はリスク評価の欠くことの出来ない一環であることを明記するというパラグラフ10の変更案について検討した。特別部会はこの問題を議論し、多くの代表者が安全性評価はリスク評価の一環であるべきであると述べ、現行のパラグラフ10は変更しないことで決着した。

16.特別部会は、データの量そのものは科学的価値の決定要因ではないことを明らかにするために、パラグラフ12においてデータ量の前に「必要に応じ」(as appropriate) と言う表現を挿入することで合意した。

17.特別部会はパラグラフ13において、脚注に「組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」についての記述を新たに加えることで合意した。

18.特別部会は、パラグラフ15を修正して利用できる全ての科学的データを考慮する必要性を強調することで合意した。しかし、パラグラフ12で述べているピアレビューの原則に検証が含まれていることを確認し、「科学的に信頼できる」(scientifically sound)の後に「科学的に検証された」(scientifically validated) という表現を加える案は否決した。

リスク管理

19.特別部会は、SPS協定との明確な関連性を維持するために、パラグラフ17を修正して「同じ目的を満たす」(meeting the same objective)という表現を「同一の保護水準を達成する」(achieving the same level of protection) に変えることで合意した。

20.特別部会はパラグラフ19において、リスク管理措置についての記述(表示など)とリスク管理措置の実施と施行の手段についての記述(分析法の開発など)を区別することを決定した。従って、(パラグラフ20の後に)新たなパラグラフを設けてこうした手段を包含することを決定し、分析方法の開発及び試験物質(reference material)の提供に関する特定の記述を加えた。

21.特別部会はインドは質問に応えて、食品成分は食品と同様に扱うというコーデックスの「食品」の定義に従い、モダンバイオテクノロジー応用食品成分は同原則の対象となると述べた。

トレーサビリティー

22.特別部会は、「トレーサビリティー」問題は第49回執行委員会(上記パラグラフ8参照)で議論されたが、その結果一般原則部会及び食品輸出入検査・証明システム部会で現在検討中であり、更に他の部会においても取り上げられることになろうと述べた。

23.スペインがEU加盟国を代表して、第2回特別部会会議で角括弧にいれたパラグラフ21の文章の修正案8を提示した。この案は、トレーサビリティーがリスク管理の一環として考えられる状況をまとめたものである。スペインは、トレーサビリティーに関する議論は一般原則部会だけに限定する必要はないと述べた。数カ国がこの見解を支持した。

24.米国は、トレーサビリティー問題はモダンバイオテクノロジー応用食品に固有の問題ではなく、一般原則部会およびその他の部会でコーデックスの全般的問題として議論すべきであり、パラグラフ21を削除することも可能であると述べた。数カ国がこの意見を支持した。

25.ブラジル・タイ・インドネシアは、トレーサビリティーは主に取引相手に情報を提供することを目的としているので強制システムの一環として考えるべきではなく、パラグラフ21は削除することもできるとの意見を述べた。しかし、トレーサビリティーがリスク管理において有効であることを示すことができた場合、発展途上国における適用の実現可能性とコストを考慮する必要がある、とも述べた。

26.消費者団体及び環境団体を代表するいくつかのNGOオブザーバーは、トレーサビリティーは重要なリスク管理の手段であり、特に非意図的影響の上市後モニタリングや表示管理において有効であると強調した。業界団体を代表するその他のNGOには、トレースバックは業界では一般的な慣行であるが、バイオテクノロジー応用食品に固有のものではないという意見もあった。あるNGO代表は、カルタヘナ議定書の18条の同定条件はトレーサビリティーの利用に関連すると述べた。

27.特別部会は、原則案本文を最終結論とするためにこの問題を解決することが重要であるとし、パラグラフ20の後に新たなパラグラフを加えることによって(上記パラグラフ20参照)、他の目的のための利用を侵害することなく、トレーサビリティーの問題をリスク管理措置の実施・施行手段の1つと位置づけることが可能となると述べた。これに基づき、以下の折衷案9を合意した。

 「リスク管理措置の実施・施行を円滑化すためには特定の手段が必要となる可能性がある。これらには適切な分析方法及び試験物質(reference material)、更にはヒトの健康に対するリスクが特定された場合に市場からの回収を促すため、またはパラグラフ20に示したような状況における上市後モニタリングを支持するための製品の追跡(the tracing of products)が含まれる」

28.韓国は、新パラグラフの採択に関係して、その適用をSPS協定対策に限るという立場を変えなかった。

29.49パラレルは、製品追跡の発効後はその適用はカルタヘナプロトコールの規定を遵守する必要があると述べた。事務局は、カルタヘナプロトコールの18条には製品追跡についての直接的記載はないとし、多くの国が委員会の議論はまだ発効していない条約に拘束されるべきではないと述べた。委員会は他の適用できる国際協定のすべてを考慮すべきであるとの意見を述べた国もあった。特別部会は、コーデックス委員会で今後、製品追跡をめぐるいくつかのより広範な問題の議論を続けると述べた。

リスクコミュニケーション

30.特別部会は、文章が冗長になるのを避けるため協議過程に関するパラグラフの「既存の組織との協議」についての記述を削除することで合意した。

整合性

31.特別部会は、バイオテクノロジー応用食品であるか既存の対応物であるかに関わらず、食品に関わるリスクに対する消費者の保護水準の整合性を保つ必要性を明示する方法について意見を交換した。特別部会は、第2文を書き換えてモダンバイオテクノロジー応用食品と類似食品におけるリスクレベルの不当な差は避けるべきであると明記することで合意した。特別部会は同じ文章で、「類似」(similar)の後に「既存の」(conventional) を加える案も採択した。

能力強化

32.特別部会は、特に発展途上国における規制当局の能力強化を所轄する組織に関して特定の記述を加えるべきであるとする数カ国からの提案について議論を深めた。特別部会は、現行の文章は既に広範な組織を指すとして特別な言及を否決した。しかし、発展途上国の能力強化の重要性と、この目的を達成するための二国間・多国間資金調達機関と国際技術機関の役割を認識し、この原則の適応における発展途上国への援助の重要性を示す新たな文章を加え、SPS協定とTBT協定の該当規定(SPSの9条、TBTの11条)についての脚注をつけることで合意した。

見直しの過程

33.特別部会は、原則の最終パラグラフに若干の編集上の変更を加えることで合意した。

モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則案の位置付け

34.特別部会は、「バイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則案」をコーデックス手続きステップ8に進め、第25回コーデックス総会での検討を求めることで合意した。原則案は本報告書の付属資料IIに記載されている。

組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案(議題5)10

背景

35.特別部会は、第2回会議で「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」をステップ5に進め、ステップ3にあるアレルギー誘発性に関する添付資料を回付してカナダが議長国を務める作業部会の意見と修正を求めることで合意に達したとの報告を受けた。第24回総会は、同ガイドラインの本文をステップ6に進めた。

36.特別部会は、ステップ6で提示された意見に鑑み、ステップ7ではパラグラフ毎にガイドライン案を議論した。またステップ7では、第2回会議11で合意の得られた毒性評価に関するセクションの再起草と再構成について議論した。アレルギー誘発性に関する添付資料はステップ4での議論となった。本文を大幅に修正したため、以下の議論で示すパラグラフ番号は本報告書の付属資料IIIとして添付した修正版ガイドライン案中のパラグラフ番号である。以下の報告書は、特別部会による主な変更事項を扱っている。微修正や編集上の変更は直接付属資料IIIに示した。

タイトル

37.特別部会はタイトル変更提案を検討し、タイトルはそのままとすることで合意した。「組換えDNA植物」を「DNA技術で組換えた植物」に変更する提案については、タイトルをこのように変更すると本文全体を大幅に修正することになるかもしれないが、効果はそれほどないとした。

セクション1-適用範囲

38.特別部会は、組換えDNA植物「由来」という表現に植物そのものも含まれるのか、または加工品に制限されるのかという問題を長時間議論した。特別部会は、未加工植物を丸ごと消費することはめったにないが、これも対象とすることで合意した。特別部会はまた、変性した形質や新たな形質についての記述も含め、原則に従い「モダンバイオテクノロジー」の利用についての記述も加えることで合意した。特別部会はまた、ガイドラインは食品の原料としてこれまで安全に用いられてきた植物由来の食品だけに適用し、その他の植物を原料とする食品はガイドラインに示した手続き以外の手続きに従って評価する必要があるとの記述はそのままにした(パラグラフ1)。

39.特別部会は、「アレルギー誘発性に関する添付資料」(案)中のパラグラフを本ガイドラインに新たに挿入して、「リスク分析に関する原則」に概説する管理措置と同ガイドラインに概説する安全性評価手続きを1つに統合することで合意した(パラグラフ6)。

セクション2-定義

40.特別部会は、モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則案との整合性を保つため定義をそのまま用いることで合意した。

セクション3-食品安全性評価の手引き

41.特別部会は、丸ごとの食品を使用して実施する動物試験(給餌試験)の必要性について熱心に議論した。ドイツは、こうした試験は食品原料の安全性確認のために必要であろうと述べ、数カ国はこの案を支持した。給餌試験は消費者保護に必要な安全性を保証するに当たって適用と解釈の点で問題があるとする国もあった。特別部会は、食品の特性評価の結果、十分な安全評価を実施するにはデータが不十分であることが明らかとなった場合は、こうした試験を考慮してもよいと規定することで合意した(パラグラフ11)。

42.米国は、安全性評価の目標を記したパラグラフにおいて、評価指標は新しい食品が既存の対応物と同等の「栄養的価値を有する」かどうかの判断であるとする条件を削除し同パラグラフを修正する旨提案した。修正の目的は、栄養価が高い新しい食品も考慮の対象とするためであった。特別部会は、この文章の「栄養的価値がある」という記述を削除して、栄養成分の量または栄養価の変化が食事に及ぼす影響を考慮することを求める表現を加えることで合意した(パラグラフ21)。

セクション4-一般的検討事項

新種の説明

43.特別部会は、植物の品種改良と遺伝学において「品種」(variety)という用語の使用が特定的であることを考慮して、この見出しとセクション全体で「新種」(new variety)ということばを「組換えDNA植物」(recombinant-DNA plant) に置き換えることで合意した(パラグラフ22)。特別部会は組換えDNA植物を明確に同定する必要性を議論したが、これはリスク評価というよりリスク管理の問題に関わるとの指摘があった。

供与体の説明

44.パラグラフ26の「当該属」(member of the corresponding genus)という言葉を「関連種」(related species)に置き換える。

遺伝子組換えの特徴付け

45.特別部会は、挿入部分の周辺領域の配列について必要な情報量、および遺伝子組換えの特性評価に配列データは不可欠であるかどうかについて熱心に議論した。数カ国、特にベルギー、フランス、ノルウエー、日本は、全配列データの重要性を強調した。転写製品の分析などその他のデータが組換えの性質をより明確に示す場合もあるとの意見を述べた国もあった。グリーンピースインターナショナルは組換え植物の全ゲノムの配列を求めた。特別部会は、まず最初に配列データを検討すべきだが、転写データの方が有効で配列データに関する情報は必要ない場合もあることで合意した。これに従い、当該パラグラフを修正した(パラグラフ31.C)。

発現物質の安全性評価(非核酸物質)

46.このサブセクションの構成を、ガイドライン案のパラグラフ18に記した安全性評価に倣って修正した。

潜在的毒性の評価

47.特別部会は、第2回会議においてカナダ政府を議長とする期限を定めない公開のアレルギー誘発性に関する作業部会を設立することで合意に達したとの報告を受けた。同作業部会はまた、毒性に関する部会の再構築に係わる準備も依頼された12

48.特別部会は、科学的正確性を期して、最後の文章を修正して「新物質には導入DNAの発現によって生成した酵素の活性に由来する新代謝産物が含まれる可能性がある」との記述にすることで合意した(パラグラフ34)。

49.特別部会は、パラグラフ35をより正確にするために、新たな発現物質の化学的特性に関する記述を加えることで合意した。

50.特別部会はパラグラフ36について、冗長で不明瞭であるとして、作業部会が勧告した最初の文章を削除することに合意した。特別部会は、食品加工によって抗栄養素を変性し、排除しまたは不活化することが可能である旨同意し、これに従いこのパラグラフを修正した。

51.特別部会はパラグラフ37について、従来の毒性学試験の条件から判断し食品において長らく安全に消費されてきた食品中の物質と密接に関係する物を除外することが適切であるかどうかを議論した。「密接に関係する」(closely related)という表現は非常に曖昧であるので削除すべきだと主張した政府およびNGOもいたが、この表現はこのパラグラフの他の条件を考慮すると不可欠であるとする意見もあったため、特別部会はこの記述を残すことにした。ただし、従来の毒性学試験以外の試験の方が適切な場合もある旨合意し、このパラグラフを修正した。

52.特別部会は、食品に含まれるタンパク質が現在まで食品において安全に消費されてきたタンパク質と異なる場合は、タンパク質の生物学的機能を(分かっている範囲で)考慮するという条件で、経口毒性試験が必要な場合もあることで合意した(パラグラフ38)。

53.特別部会は、食品において安全に消費されたことがない非タンパク質導入物質に適用する条件について長時間議論し、パラグラフに定めたその他の条件を考慮して全ての事例で個別に評価すべきであることで合意した(パラグラフ39)。

アレルギー誘発性(タンパク質)の評価

54.特別部会は、このパラグラフはアレルギー誘発性の評価に用いる基本的手法を提示し、添付資料との関連付けを図ることを目的としたものであると述べた。特別部会は、総合的で段階的な個別の手法を用いることで合意したが、ディシジョンツリー(判断樹系図)としてこれを示すかどうかについては意見が分かれた。オランダは、他の数か国とオブザーバーの賛同を得て、2001年FAO/WHO合同専門家会議が策定したディシジョンツリーに言及した。彼らの意見は、このディシジョンツリーを使用すると、現在策定中の決定を理解する際の透明度が高まるというものであった。一方、他の参加国は、ディシジョンツリーを使用しても各段階で必要な判断に十分参考となる訳ではないとする考えを持ち、作業部会が「データの優勢」の概念に基づき、いくつかの種類の情報・データに起因する根拠を考慮した、より総合的アプローチを勧告したと述べた。特別部会はいずれについても、タンパク質がアレルギー誘発性か否かを判断するには単一の基準では不十分であるという点で一致した。

55.特別部会は、FAO/WHO合同専門家会議の成果についてこのパラグラフの脚注で言及することを決定したが、ディシジョンツリーの作成については決定に至らなかった(パラグラフ41)。

56.スペインは、情報提供のためにグルテン過敏性腸疾患を扱うパラグラフは栄養・特殊用途食品部会に回付することを求め、特別部会はこれを承認した(パラグラフ42、43)。

栄養学的修飾

57.特別部会は、食品の組換えに関するパラグラフを修正して、食品の組成が大きく変わったり個々の食品成分を扱う場合には適切な比較対象物の同定のための指針を示すようにした(パラグラフ51)。

セクション5-その他の検討事項

58.特別部会は、ベルギーおよびカナダが提示した代謝産物の変化または外因性物質の蓄積の可能性に関する新パラグラフ追加案を承認した(パラグラフ54)。

抗生物質耐性マーカー遺伝子の使用

59.特別部会は長時間にわたる議論の後に、「一般的に」(in general)という表現の使用が、臨床的に使用された抗生物質に対する耐性をコード化(暗号化)する抗生物質遺伝子が食品に含まれる場合があるかもしれないという、意図しない解釈の余地を残すことを認め、これを削除することとした。また、これは全ての食品に適用されるもので、前版(CTFBT第二回報告書)のように「広く流通している」食品だけに適用されるのではないことでも合意した(パラグラフ58)。

安全性評価の検討

60.特別部会は、このパラグラフの栄養に関する記述を修正して、パラグラフ20との整合性を保つことで合意した(パラグラフ59)。

組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案の位置付け

61.特別部会は、「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」の本文をステップ8で採択することを総会に求めることで合意した。ガイドラインの全文は本報告書の付属資料IIIに示した。

アレルギー誘発性の評価に関する添付資料案:ステップ4における検討(議題5B)13

62.特別部会は、アレルギー誘発性に関する添付資料案14を修正するためにカナダ政府が議長を務める期限を定めない公開のアレルギー誘発性作業部会を設立することを第2回会議で合意したとの報告を受けた。カナダ(同作業部会の議長)が、同作業部会が作成した改正添付資料を紹介した。議長は、2001年1月のFAO/WHO合同専門家会議で同作業部会の添付資料案策定のための有意義な専門的な情報が提供され、同専門家会議は、同作業部会に対して、協議内容や実現可能性・検証等に関して公表の後得られる関連情報を考慮に入れることを奨励したと述べた。同作業部会は、FAO/WHO専門家会議の結果を議論したが、意志決定過程の各段階で白黒明確な決定に至ることは科学的に不可能であるとの結論に達した。従って、同作業部会は、段階毎の組織的方法において検討されるべき広範な情報を考慮に入れ、より包括的な手法を勧告した。このアプローチは、前案で用いたディシジョンツリーアプローチとは異なる。


セクション1-はじめに

63.特別部会は、パラグラフ2を修正して上記議論を考慮に入れることで合意した。特に、「根拠の重要度」(preponderance of evidence)についての記述を削除した。

64.特別部会は、作業部会案のパラグラフ17中のアレルギー誘発性の評価指標を明示する旨の内容を新パラグラフとして加えることで合意した(パラグラフ3)。

セクション2-評価方法

65.特別部会はパラグラフ4をより明確にするために、パラグラフ末尾に「熱安定性および酸・酵素処理」(heat stability and/or acid and enzyme treatment)という一文を加えることで合意した。特別部会はまた、発現宿主の選択に際しての注意に関するイタリアの文案を加えることで合意した。

セクション3.1-タンパク質源

66.特別部会はパラグラフ7をより明確にするために、パラグラフ末尾に「物理化学的・免疫学的特性」(physiochemical and immunological properties)についての記述を加えることで合意した。

セクション3.2-アミノ酸配列相同性

67.特別部会はパラグラフ9を修正して、配列相同性の比較結果を示す必要性を明示することで合意した。パラグラフ10(14も)については、IgE抗体と結合できるエピトープ(抗原決定基)に係わる文言に関するアルゼンチン提案を承認した。

セクション4-特定血清スクリーニング

68.特別部会は、起源がアレルギー性であることが明らかなタンパク質については免疫学的試験を実施するのが望ましいが、こうした試験の実施能力は適切な血清が入手できるかどうかによることを認識し、パラグラフ14を修正した。特別部会は、アレルギー性が未知な起源からのタンパク質については標的血清スクリーニングを考慮するとの内容を加えることで合意した(パラグラフ14)。

69.特別部会は、生体外試験 (ex vivo testing)についての異例の言及について指摘し、脚注で2001年FAO/WHO合同専門家委員会報告書にある、この手続きの詳細な記述に触れることで合意した(パラグラフ15)。

70.特別部会は、同定されたアレルゲンを含む製品の商品化に関し、作業部会から提案のあったパラグラフについて、リスク管理に関わる問題であってリスク評価もしくは安全性評価に関わる問題ではないためリスク分析に関する原則の中で扱った方が良いとして、これを削除した。

セクション5-その他の検討事項

71.特別部会は、この項のタイトルを変えて、これまで「今後の開発が必要な領域」(Areas requiring Further Development)としていた以下のセクションをこれに加えることで合意した。

72.前述の通り(パラグラフ64)、特別部会は、作業部会から提示された勧告の文頭を評価過程の全体的枠組みを規定することを目的とする添付資料の序文に移動することで合意した。パラグラフ17の残りの文章は、日進月歩の新たな知識や技術を添付書類に記されたその他の技術と共に検討すべきである旨を記載するため、修正された。

73.特別部会は、安全性評価の過程を知らしめるに当たって、上市後のモニタリングとモニタリングの有用性に関する作業部会勧告は潜在的アレルゲンの評価よりも広い意味を持つことを認め、このパラグラフを修正してガイドライン本文に加えることで合意した(上記パラグラフ39参照)。

アレルギー誘発性の評価に関する添付資料案の現状

74.特別部会は、「アレルギー誘発性の評価に関する添付書類案」をステップ5に進めることに合意し、総会が同添付書類をステップ6・7を省略してステップ8で採択するよう勧告した。修正添付資料の本文は本報告書の付属資料IVに記載されている。

食品に含まれる組換えDNA微生物の安全性評価の実施に関するガイドライン案(議題6)15

背景

75.特別部会は、第2回会議において組換え微生物の安全性評価の実施に関するガイドラインの作成に関わる新たな作業の開始に同意し、ガイドライン案作成のために米国を議長国とする期限を定めない公開の作業部会を設立したことを確認した。第24回コーデックス総会においてこの新たな作業が承認された後、作業部会は2001年11月にカリフォルニア州オークランドで会合を開いた。

76.米国は同文書の紹介の際、作業部会は「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」を参考にしたと述べた。特別部会は、会議の主催について米国政府に対し、作業の遂行について作業部会に対しそれぞれ謝意を述べた。

77.特別部会は、組換えDNA植物と組換えDNA微生物の両方に適用されるべき安全性評価過程があると述べた。従って、特別部会は2つの文書の整合性を保つという見地から、組換えDNA植物のガイドラインの文面をできる限り用いることで合意した。一方、特別部会は、消化管における微生物の生存能力及びコロニー形成、プラスミドやその他の遺伝物質の転移といった本文書で扱われる必要があるであろう微生物固有の問題があることも指摘した。

78.特別部会は、時間的制約のため、明確性を期して多くの編集上の変更・修正を行い、文書を引き続き推敲するための指針を示すという参加国から提案を承認した。適切と思われる多くの修正案を加えることを決定したが、当面はこれらを角括弧付きとして、加盟国やオブザーバー組織が次回特別部会に先立ちこれについて意見を述べることができるようにした。以下の議論は、特別部会の主な決定を示す。

タイトル

79.特別部会は、食品安全性評価の対象は組換え微生物そのものではなく食品であるため、文書タイトルを「組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」に変更するという作業部会の提案を承認した。

セクション1-適用範囲

80.特別部会は文書の適用範囲について、パラグラフ2に挙げた除外項目と、農業生産における利用または環境への排出のいずれかを通して生じる組換えDNA微生物の「間接的曝露」を対象とすべきかどうかについて長時間議論した。コンシューマーインターナショナルは、2001年9月のFAO/WHO合同専門家会議で、遺伝子組換え微生物を利用して製造した食品の安全性評価が検討されたが、その報告書でこの問題が取り上げられていると指摘した。同組織のは、ガイドライン案は適用範囲が限られ、ガイドラインの適用範囲外の組換え微生物の利用に当たってはガイドラインで示したもの以外の別の種類の安全性評価が必要であると述べた。これを受け特別部会は、例えば遺伝子組換え微生物を利用して製造した食品添加物として使用されている酵素はこのガイドラインの対象外であるが、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)及びコーデックス食品添加物・汚染物質部会(CCFAC)の対象であると述べた。特別部会は、パラグラフ2の冒頭で現行ガイドラインで扱っていない問題は適宜別の組織で扱うことになる旨明記していると強調した。

81.多くの参加国やオブザーバーが、パラグラフ7の内容、特に、食品がヒトの健康に有害である「可能性が低い」であろうとする評価指標に疑問を呈した。発言した多くの参加国とオブザーバーは、これは求められている消費者保護水準の表現としては不十分であるとした。パラグラフ7に記載されたリスク評価は消費者保護を保証するには十分なものではないとするオブザーバー団体もあった。

82.特別部会は、比較基盤としての「親またはレシピエント(受容)株」に対する好選性についての記述は定義としては非常に曖昧であるため、これを削除して「既存の対応物」(conventional counterpart)の定義を修正することで合意した。この文書の後半の実質的規定では理想的な比較対象は近い同系親株であるとしていることを指摘し、これがこの点で必要な指針を示していることを認めた。また、これがパラグラフ8の「既存の対応物」のタイトル全体に係るように脚注を移動して、「組換えDNA微生物を利用して製造した食品の既存の対応物は、モダンバイオテクノロジー応用食品であるべきではない」と定めることで合意した。

83.グリーンピースは、パラグラフ14に含まれる実質的同等性の概念の扱いに深刻な懸念を表明した。このパラグラフでは実質的同等性の判断は安全性評価そのものではなく、安全性評価の構築のために使用される起点であるという考えを明示すべきである、との意見であった。コンシューマーインターナショナルも、このパラグラフを修正して、安全性評価における既存の対応物との比較は微生物間だけでなく、組換え微生物由来食品と非組換え微生物由来食品との間でも行なうべきであるとすることを求めた。参加国は、パラグラフ14でこれらの問題が取り上げられていると指摘した。

84.数か国が、「全ての組換えDNA微生物は近代の分子法を用いて適切な同定を行っている国際培養コレクションで保管すべきである」とのイタリアの提案を支持した。この問題は、作業部会において以前に議論されたが、安全性評価の条件ではないとして加えられなかった旨、言及された。特別部会は、この文章を角括弧付きで加え、今後の検討を求めることで合意した(パラグラフ24)。

85.特別部会はまた、次世代の微生物の安定性に関するアルゼンチンの提案に注目し、角括弧付きでパラグラフ35Cの脚注に加えた。

86.特別部会は、ヒト消化管における微生物の生存可能性とコロニー形成能力に関する代替文を加えて、次期総会での検討を求めることで合意した。

87.特別部会は、パラグラフ36の内容、特に遺伝子組換えによって生じる変化の精度(または精度の欠如)に関して若干の意見を述べた。本文の一部を修正して組換えDNA植物に関するガイドラインの表現との整合性を図ったが、特別部会はパラグラフ全体を角括弧付きとしてさらに検討を求めることで合意した。

組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案の位置付け

88.特別部会は、個々のパラグラフの変更については多くの提案があったが、全体的な扱い方や概要は承認されたと述べた。また、作業部会の提案内容のほとんどは特別部会で承認できることが判明したとも述べた。これに基づき、ガイドライン案をステップ5に進め、次期執行委員会で検討することを決定した。修正文は本報告書の付属資料Vに記載した。

トレーサビリティーに関するディスカッションペーパー(議題7)16

89.特別部会は、「バイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する一般原則案」に適切な表現を加えるため、背景情報を提供することを目的とし、第1回会議においてトレーサビリティーに関する一般的議論を行なったと述べた。この点を支援するため、フランス及び米国が作成した資料を回付し意見を求めた。

90.一般原則案のこの問題に関する妥協策を考慮し(上記パラグラフ22・27参照)、特別部会は現時点ではトレーサビリティーについては議論を深めないことを決定した。しかし、ディスカッションペーパーに対して得られた情報は他の関連コーデックス部会に伝え、問題の検討を支援すべきであることで合意した。また、次回会合で十分に議論することで合意したが、こうした議論は既に一般原則案で得られた合意を覆したり、特別勧告またはガイドラインの提示に至るべきではないことで合意した。

分析方法の検討(議題8)17

91.特別部会は、前回の会合において加盟国から報告のあった方法の検証につき現状を記すことで合意したことを確認した。特別部会はまた、バイオテクノロジー応用食品・食品成分の検出や同定(ならびに試験物質 (reference material) の利用可能性)の方法に関する情報の記録簿または保管場所を確立することを勧告した。さらに、収集した情報リストを分析・サンプリング部会(CCMAS)に回付して検討を求めることも決定した。

92.この決定に基づき、以下を目的として加盟国に対し回付書を配布した:既存リストに詳細に検証された検知方法・抽出方法に関する文書情報を補足する、検証基準、実施基準及び方法の特定性に関する情報を提供する、検証済み方法の公表状況に関する意見を述べる、方法に関する関連情報についての記録簿の目的・適切な保管場所に関する意見を提供する、試験物質 (reference material) の入手をどのように保証するかに関し意見を提供する。

93.分析法作業部会の議長は、同作業部会の第2回会議が2001年3月1日に開催され、回付書に対して加盟国から報告された情報と記録に関する各国の意見を考慮して作成された方法に関するリストを検討したことを特別部会に対して報告した。最終的に、CX/FBT02/9の添付資料Iを含む検証済みの分析法リスト及び日本および米国から後に報告された方法について合意した。

94.作業部会は特別部会に以下を勧告することを決定した。

CRD12の付属資料1・2・3として特別部会に提出し合意の得られたリストをCCMASに提出して検討を求める。
加盟国の提案に基づいてバイオテクノロジー応用食品に関する分析方法をさらに検討するようCCMASに提案する。
FAO、WHO及び食品・農業における核技術に関するFAO/IAEA合同部門は、国・地域の機関と協力して、現在開発中の方法や未検証の方法に関する情報の整備や管理を促進することをコーデックス総会(CAC)を通じて提案する。

95.特別部会は、ドイツの功績に謝意を示し、作業部会の勧告を承認した。コーデックス事務局は情報記録について、WHOやその他の機関と協力してFAOバイオセキュリティーポータルを開発中であることを特別部会に伝えた。これにより、将来的に食品の品質と安全性、動植物の生命と健康に関する正式な国家的・国際的情報に関する単一の入手窓口を提供する電子情報交換メカニズムが生まれることとなる。分析方法など公的情報の記録はこのポータルを通じて利用できることが明らかにされた。

他の事業、今後の作業、ならびに次回の会議の日付と場所(議題9)

他の事業

96.FAO及びWHOは、遺伝子組換え動物に関するFAO/WHO合同専門家委員会を開催し、その検討結果を特別部会に報告する予定であると発表した。

今後の作業

97.特別部会は、以下の問題を第4回会議の議題とすると述べた。
他のコーデックス部会から特別部会に回付された事項
バイオテクノロジー応用食品の安全性・栄養面の評価に関する他の国際機関の関心事項
組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案
トレーサビリティーに関する自由な議論

次回会議の日付と場所

98.特別部会は、第4回会議は2003年3月10〜14日に横浜で開催することを予定しており、コーデックス事務局と開催国政府事務局の確認が必要であると述べた。


作業状況一覧

項目 ステップ 実施主体 ALINORM03/34における参考箇所
モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則案 8 各国政府
第25回総会
パラグラフ34
付属資料II
組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案 8 各国政府
第25回総会
パラグラフ61
付属資料III
アレルギー誘発性の評価に関する添付資料案 5/8 各国政府
第25回総会
パラグラフ74
付属資料IV
組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案 5 各国政府
第50回執行委員会
パラグラフ88
付属資料V
遺伝子組換え動物に関するFAO/WHO合同専門家委員会 - FAO/WHO パラグラフ96


1 CX/FBT02/1
2 CX/FBT02/2
3 ALINORM01/21、パートIV-Add. 1
4 ALINORM03/3 パラグラフ31
5 CX/FBT02/3
6 ALINORM01/34A付属資料II CL2001/28-FBT、CX/FBT02/4(アルゼンチン・オーストラリア・カナダ・キューバ・日本・メキシコ・ポルトガル・シンガポール・スエーデン・アメリカ合衆国・IACFOの意見)、CRD1(ドイツ・タイの意見)、CRD9(メキシコの意見)、CRD10(チリの意見)、CRD13(キューバの意見)、CRD14(インターナショナルコーオペラティブアライアンスの意見)、CRD15(49パラレルバイオテクノロジーコンソーティアムの意見)、CRD16(コンシューマーインターナショナルの意見)、CRD17(トレーサビリティーに関するEUの提案)、CRD18(パラグラフ19・20に関するオーストラリアとベルギーの提案)、CRD21(カナダ・EC・英国・タイ他数か国からの非公式提案)、CRD22(フィリピンの意見)、CRD26(3月5日の昼食時会議で検討された非公式提案)
7 ALINORM01/34A、パラグラフ24〜25
8 CRD17
9 CRD26
10 ALINORM01/34A 付属資料III
11 ALINORM01/34A パラグラフ77
12 ALINORM01/34A パラグラフ70
13 ALINORM01/34A付属資料III、CL2001/38-FBT、CX/FBT02/6(アルゼンチン・オーストラリア・カナダ・日本・スエーデン・アメリカ合衆国・コンシューマーインターナショナルの意見)、CRD3(ブラジル・イタリア、タイの意見)、CRD13(キューバの意見)、CRD16(コンシューマーインターナショナルの意見)、CRD22(フィリピンの意見)、CRD27(ベルギー・カナダの非公式提案)、CRD28(コンシューマーインターナショナルの非公式提案)、CRD29(オーストラリアとカナダの非公式提案)
14 ALINORM01/34パラグラフ69、70
15 CX/FBT02/7、CX/FBT02/7追加1(IACFOの意見)、CRD5(ブラジル・カナダ・ドイツ・イタリア・タイ・コンシューマーインターナショナルの意見)、CRD6(米国の意見)、CRD7(アルゼンチンの意見)、CRD13(キューバの意見)、CRD14(国際協同組合連合の意見)、CRD23(コンシューマーインターナショナルの意見)
16 CX/FBT01/6(トレーサビリティーに関するディスカッションペーパー)、CRD3(第2回会議の米国の意見)、CX/FBT02/8(アルゼンチン・ブラジル・カナダ・コートジボアール・日本・メキシコ・ニュージーランド・シンガポール・南アフリカ・スエーデン・スイス・英国・米国・ウルグアイ・EC・49回パラレルバイオテクノロジーコンソーティアム・Association des Amidonneries de cereales de l'UEの意見、CRD8(ブラジル・イタリア・タイの意見)、CRD13(キューバの意見)、CRD14(国際協同組合連合の意見)、CRD17(EUの非公式提案)、CRD25(ECの意見)
17 CX/FBT02/9、CRD12(ドイツの作成した作業部会報告書)


付属資料II

モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則案

(規格作成手続きステップ8)

セクション1-はじめに

1.多くの食品について社会的に認知されている安全性のレベルは、ヒトが安全に消費してきた歴史をそのまま反映する。多くの場合、食品に関わるリスク管理に必要な知識は、食用として用いてきた長い歴史の中で得られたものである。一般に食品は、開発・一次生産・加工・貯蔵・取り扱い・調理の段階で注意を払えば安全なものと考えられる。

2.食品に関わる危害は、コーデックス委員会におけるリスク分析過程の対象となり、リスク評価、及び必要に応じ当該リスクを管理するための手法の開発が行われる。リスク分析は、コーデックス総会(CAC)の一般決定1ならびに「リスク分析に関するコーデックス作業原則2」に添って実施される。

3.リスク分析は長い間、化学物質(残留農薬、汚染物質、食品添加物、加工助剤など)による危害に対処するために用いられ、また微生物による危害や栄養学的な要因への対処法として用いる機会も増加しているが、同原則は特に丸ごとの食品を対象と想定して作成されたものではない。

4.リスク分析手法は総じて、モダンバイオテクノロジー応用食品を含む各種食品に適用することができる。この手法はしかし、食品中に存在する可能性がある個々の危害ではなく、丸ごとの食品を使用する場合は、修正が必要であることが認識されている。

5.本文書に示した原則はリスク分析に関するコーデックス作業原則を補足するものであり、この作業原則と関連づけて読まれるべきである。

6.リスク分析を補助し、作業の重複を避けるために、適宜他の規制当局が実施したリスク評価の結果を用いてもよい。

セクション2-適用範囲と定義

7.これらの原則の目的は、モダンバイオテクノロジー応用食品の安全性および栄養学的局面に関してリスク分析を実施するための枠組みを提示することにある。本文書は、これらの食品の研究開発・製造及び上市における環境・倫理・道徳・社会経済的局面は取り扱わない3

8.本原則には以下の定義を適用する。
「モダンバイオテクノロジー」とは、
自然の生理学的生殖または組換えの障壁を克服し、従来の育種および選抜では使用されていない4以下の適用をいう:
(i) 組換えデオキシリボ核酸(DNA)および細胞または細胞内小器官への核酸の直挿入を含むインビトロ核酸技術、または
(ii) 分類学上の科を越えた細胞融合
「既存の対応物(conventional counterpart)」とは、食品としての一般的な利用に基づき、安全性の実証がなさたことがある関連生物・品種、構成成分・製品をいう5

セクション3-原則

9.モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析過程は、「リスク分析に関するコーデックス作業原則」と一致すべきである。

リスク評価

10.リスク評価には安全性評価が含まれるが、安全性評価は、危害・栄養またはその他の安全性に関する懸念が存在するか否かを明らかにし、懸念が存在する場合にはその特性と程度に関する情報を収集することを意図したものである。安全性評価には、類似性・相違性を重視した、既存の対応物とモダンバイオテクノロジー応用食品の比較が含まれるべきである。新たなまたは改変された危害、栄養学的なまたはその他の安全性に関する懸念が安全性評価によって同定された場合には、ヒトの健康との関連性を明らかにするために、それに関わるリスクの特徴付けがなされるべきである。

11.安全性評価は、該当する既存の対応物との比較に基づいてある食品の全体またはその食品成分を評価するもので、以下のことを特徴としている:

a)意図的影響と非意図的影響の両方を考慮する、
b)新たなまたは改変された危害を特定する、
c)主要栄養素のヒトの健康に関わる変化を特定する。

12.上市前の安全性評価は、体系だった包括的な手法により個別に実施されるべきである。科学的裏付けがあり、適切な方法によって入手され、適切な統計技術を用いて解析されたデータおよび情報は、科学的ピアレビューに耐えうる質及び必要量を備えているべきである。

13.リスク評価は、モダンバイオテクノロジー応用食品に関わる全ての側面に適用すべきである。これらの食品に対するリスク評価手法は、添付のガイドライン6に示す要因を考慮した、科学に基づいた学際的データおよび情報の検討に基づくものである。

14.リスク評価に使用する科学的データは一般的に、製品の開発者、科学文献・一般技術情報、第三者的科学者、規制機関・国際機関、その他関連組織など多様な情報源から入手される。データは、科学に基づいた適切なリスク評価法を用いて評価すべきである。

15.異なる試験過程から得られたデータおよび情報であっても、それらの過程が科学的に信頼でき、測定するパラメータが比較可能なものであれば、リスク評価においてはそうした情報やデータを考慮に入れるべきである。

リスク管理

16.モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク管理措置は、リスク評価の結果に基づき、また必要に応じコーデックス総会(CAC)7の総括的決定ならびに「リスク分析に関するコーデックス作業原則」に準拠してその他の要因を考慮し、そのリスクに見合ったものであるべきである。

17.異なるリスク管理の手段であっても、ヒトの健康に対する安全性および栄養面に係わる影響に関連するリスクの管理において同一の保護水準を達成できる可能性があり、それらは同等であると考えるべきである。

18.リスク管理者はリスク評価において同定された不確実性を考慮し、これらを管理するために適切な措置を講じるべきである。

19.リスク管理手段には、食品表示8・流通承認条件・上市後モニタリングなどを適宜盛り込んでも良い。

20.上市後モニタリングは、特定条件下ではリスク管理手段として適切な場合もある。その必要性と有用性をリスク管理のみならず、リスク評価ならびに実行可能性についても個々の場合に応じて考慮すべきである。以下の目的で、上市後モニタリングが行われる場合がある。
A)消費者の健康に及ぼす潜在的影響の有無やその影響力・重要性に関する結論の検証。
B)栄養状態を著しく変化させる可能性のある食品の導入に伴う、栄養摂取量の変化をモニタリングし、ヒトの健康に及ぼす影響を判定する。

21.リスク管理の実施・施行を円滑化するために特定の手段が必要な場合もある。これには適切な分析方法、試験物質(reference material)及びヒトの健康に対するリスクが同定された場合に、市場からの製品回収を促すため、またはパラグラフ20に示すような状況における上市後モニタリングを支援するための製品追跡(the tracing of products)9などが含まれる。

リスクコミュニケーション(リスク伝達)

22.効果的なリスクコミュニケーションは、リスク評価およびリスク管理のすべての段階で不可欠なものである。これは、政府・業界・学術機関・メディア・消費者などあらゆる関係者の関わる相互的過程である。

23.リスクコミュニケーションには、透明性のある安全性評価・リスク管理の意思決定過程が含まれるべきである。これらの過程は、全ての段階で完全に文書化し、一般の調査に供するために公開する一方で、商業的・工業的情報の機密保持に対する正当な懸念は尊重すべきである。特に、安全性評価ならびに意思決定過程における他の側面についての報告書は、全関係者が利用可能であるべきである。

24.効果的なリスクコミュニケーションには、応答型の協議過程が含まれるべきである。協議過程は相互的なものであるべきである。全関係者の見解を求め、協議中に提起された関連する食品の安全性および栄養面に係わる問題は、リスク分析過程において扱うべきである。

整合性

25.モダンバイオテクノロジー応用食品に関わる安全性および栄養学的リスクの特徴を明らかにし管理するためには、整合性のあるアプローチを採るべきである。こうした食品と類似の通常食品との間で、消費者に対して生じたリスクレベルが不当に異なることがないようにすべきである。

26.モダンバイオテクノロジー応用食品に関わるリスクの特徴を明らかにし管理するに当たり、透明で明確な規制の枠組みが提示されるべきである。これには、データ条件の整合性、評価の枠組み、許容されるリスクレベル、伝達・協議メカニズム、時宜を得た決定過程などが含まれるべきである。

能力強化(capacity building)と情報交換

27.モダンバイオテクノロジー応用食品に関して、規制当局、中でも発展途上国の規制当局が法施行も含めてリスクの評価・管理・伝達を実施し、分析技術の獲得を含めて他の当局または認定された専門家機関の実施した評価を解釈する能力を高める努力をすべきである。さらに、二国間協定または国際機関の援助を通じた発展途上国のための能力強化は、こうした原則の有効的な適用のために実施されるべきである10

28.規制当局・国際機関・専門家団体・業界は、コーデックス担当窓口やその他の適切な窓口を通じて、分析法に関する情報などの交換を促進するべきである。

検討過程

29.リスク分析の方法論およびその適用は、リスク分析に関連する新たな科学的知識およびその他の情報に矛盾すべきではない。

30.バイオテクノロジー分野における急速な発展に鑑み、湧出する科学的情報をリスク分析に確実に取り込むためにモダンバイオテクノロジー応用食品の安全性評価アプローチを必要に応じて検討すべきである。リスク評価に関わる新しい科学的情報を入手した場合は、その情報を取り込むためにこれまでの評価を再検討して、必要に応じてリスク管理措置を修正すべきである。


1 これらの決定には、コーデックス委員会の決定過程における科学の役割ならびにその他の要因を考慮する程度に関する記述及び食品安全性リスク評価の役割に関する原則についての記述などが含まれる(コーデックス委員会手続きマニュアル第12版)
2 現在、CCGPのステップ3で検討中(ALINORM01/33付属資料III、第15回一般原則部会報告書)
3 モダンバイオテクノロジーを用いて開発した動物を除いては、本文書は動物飼料および当該飼料が投与された動物は対象としない。
4 この定義は、生物多様性条約「バイオセイフティに関するカルタヘナ議定書」に由来する。
5 当分の間、モダンバイオテクノロジー応用食品は既存の対応物として用いられないであろうと認識されている。
6 組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案、組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案が引用されている。
7 脚注1参照。
8 規格作成手続きステップ3にある「遺伝子組換え/遺伝子工学技術によって得られた食品・食品成分の表示に関する勧告案(包装済み食品の表示に関する一般規格の修正案)に関連して、CCFLに言及。
9 その他にも製品追跡を適用する場合があることは認められている。これを適用する際は、SPS協定・TBT協定の条項を遵守すべきである。両協定の対象範囲に対する製品追跡の適用は、第49回コーデックス執行委員会の決定に基づきコーデックスの範囲内で検討中である
10 SPS協定第9条、TBT協定第11条の技術援助を参照


付属資料III

組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案

(規格作成手続きステップ8)

セクション1-適用範囲

1.このガイドラインは、「モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則」を支持するものである。食品として安全に使用されてきた歴史があり、かつ新規のまたは改変された形質の発現のためにモダンバイオテクノロジーを用いて組換えられた植物で構成されるか、またはそれに由来する食品の安全性と栄養的局面を扱っている。

2.本文書は、動物飼料または当該飼料を投与した動物は対象としない。また、環境上のリスクについても扱わない。

3.リスク分析に関するコーデックスの原則、特にリスク評価に関する原則は主として、食品添加物や残留農薬等の化学物質、または特定の化学・微生物汚染物質等の同定可能な危害やリスクを有する物質の識別のために用いることを目的としており、丸ごとの食品に適用するものではない。実際に、食品に関わるリスクの全てを完全に明らかにする方法で科学的に評価された食品はほとんどない。さらに、多くの食品には従来の安全性検試験手法を用いた場合有害と見なされるであろう物質が含まれている。従って、食品そのものの安全性を検討する場合は、焦点を絞ったアプローチが必要となる。

4.このアプローチは、意図的・非意図的な影響の両方を考慮して、今まで安全に食品として使用されてきた既存の対応物と関連づけて組換えDNA植物を含む新しい植物品種由来の食品の安全性を評価するという原則に基づいている。特定食品に関わる全ての危害を同定するのではなく、既存の対応物との比較に基づいて新しいまたは改変された危害を特定することを目的としている。

5.この安全性評価手法は、「モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則」のセクション3で述べられたリスク評価の枠組みにはいる。安全性評価によって、新たなまたは改変された危害や、栄養学的なまたはその他の食品安全性の問題が明らかになった場合には、それに関わるリスクをまず評価してヒトの健康との関連を調べる。安全性評価、また必要に応じ追加リスク評価を行った後、食品または製造過程で用いた微生物などの食品成分は市販を検討する前に「モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則」に沿って、リスク管理に関する検討が行なわれる。

6.消費者の健康に対する影響の上市後モニタリングといったリスク管理手段が、リスク評価過程に役立つ場合がある。このことは「モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則案」のパラグラフ20に述べられている。

7.このガイドラインでは、既存の対応物が存在する場合は組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関して勧告されたアプローチについて述べ、こうした評価を行なうために汎用できるデータと情報を明らかにしている。このガイドラインは組換えDNA植物由来食品を意図したもであるが、記述されているアプローチは一般的に、他の技術によって改変された植物由来食品にも適用可能である。

セクション2-定義

8.このガイドラインでは以下の定義を適用する。

「組換えDNA植物」-組換えデオキシリボ核酸(DNA)及び細胞または細胞小器官への核酸の直接挿入などを含む、インビトロ核酸技術を利用して遺伝物質を変化させた植物を指す。

「既存の対応物」- 食品としての一般使用に基づき安全性が実証されている関連植物種およびその構成成分・製品を指す1

セクション3-食品の安全性評価の説明

9.これまでは、ある食品が食事の大部分を占める可能性がある乳児などの特定集団向けの食品を除いて、新種の食用植物について詳細な化学的・毒性学的・栄養学的評価が体系的に行なわれることはなかった。従って、新種のトウモロコシ・大豆・ジャガイモその他の一般的な食用植物は、育種家たちによって作物学的なまたは表現型に係わる特徴に関し評価が行われているが、このような新種の植物由来食品は、動物試験を含め、食品添加物や残留農薬など通常の食品に含まれる可能性のある化学物質に対して一般的に行われる厳密かつ詳細な食品安全性試験を課せられてはいない。

10.毒性学的な指標の評価において動物モデルを用いることは、農薬など多くの化合物のリスク評価において主要要素である。しかしほとんどの場合、被試験物質の特徴は十分に明らかにされており、純度が既知で、特別な栄養的価値がなくそれに対するヒトの曝露は一般的に低い。従って、ヒトに対して重大な有害な健康影響を明らかにするために、こうした化合物をヒトの予想曝露量より数段階多い一定範囲内の用量で動物に投与することは比較的簡単である。この方法ではほとんどの場合、有害影響が認められない曝露量を概算し、適切な安全性係数の適用によって安全な摂取量を設定することは可能である。

11.丸ごとの食品に関するリスク試験については、それが化合物の複雑な混合物であり、しばしば組成や栄養価において多様であるため、動物試験を容易に適用できない。量が多く満腹になるため、動物に与えることのできる量は通常はヒトの食事に含まれると考えられる量の数倍でしかない。さらに、食品に関する動物試験の実施に当たり、物質そのものには直接関係しない有害影響の誘発を避けるため、使用される食餌の栄養価とバランスを考慮することが重要である。従って、潜在的な有害影響を判定し、食品の個々の特性との関係を確実に示すことは非常に困難であろう。食品の特徴から徹底した安全性評価を実施するためにはデータが不十分であることが分かった場合は、丸ごとの食品を使用して、適切に計画された動物試験が必要とされる場合もある。動物試験の必要性を判断する際に考慮すべきもう1つの事項は、有意義な情報を生み出す可能性が低い場合に、動物をこうした試験に使用することが妥当であるかどうかということである。

12.丸ごとの食品に従来の毒性学試験およびリスク評価過程を適用することは困難であるため、組換えDNA植物を含む食用植物由来の食品の安全性評価には的を絞ったアプローチが必要である。この問題については、実質的同等性の概念を使用して、植物あるいは植物由来食品中に生じうる意図的または非意図的変化の両方を考慮した安全性評価のための学際的アプローチを開発して対応してきた。

13.実質的同等性の概念は、安全性評価過程の重要な段階である。しかしこれは安全性評価自体ではなく、むしろ既存の対応物との比較に基づいて新しい食品の安全性評価を構築するために用いる出発点である。この概念は、新しい食品と既存の対応物との類似性及び相違性の同定に用いる2。これは安全性や栄養学的な問題点の特定に役立ち、現時点では組換えDNA植物由来食品の安全性評価に最適な方法と考えられている。このようにして実施される安全性評価は新製品の絶対的安全性を示すものではなく、同定された相違の安全性を評価することに焦点を当てて新製品の安全性を既存の対応物との比較の上で検討できるようにするものである。

非意図的な影響

14.確認済みのDNA配列の挿入により植物に特定の形質(意図的な影響)を与えるという目的を達成するに当たって、余分な形質が得られたり、既存の形質が失われたり修飾される場合がある(非意図的な影響)。非意図的影響が発生する可能性は、インビトロ核酸技術の使用に限ったことではなく、従来の育種においても発生し得る一般的現象である。非意図的な影響は、植物の健全性または植物由来食品の安全性について有害であったり、有益であったり、またはどちらでもない可能性がある。組換えDNA植物における非意図的な影響は、DNA配列の挿入によって起きることもあれば、組換え後の従来の育種を通じて起きることもある。安全性評価には、組換えDNA植物由来食品がヒトの健康に対し予期せぬ有害影響を与える可能性を最低限に抑えるためのデータ及び情報が含れるべきである。

15.植物ゲノムへDNA配列を無作為に挿入することによって非意図的な影響が生じ、既存の遺伝子の攪乱またはサイレント化(沈黙化)、サイレント遺伝子の活性化、既存の遺伝子の発現の変化などを引き起こす場合もある。非意図的な影響によって、代謝産物の構成パターンが新しく形成されたり変化したりする可能性もある。例えば、高濃度の酵素が発現すると二次的な生化学的影響が現れたり、代謝経路の調節機能が変化したり、代謝産物量が変化する可能性がある。

16.遺伝子組換えによる非意図的な影響は、次の2種類に分けることができる。「予測可能な」影響と「予期せぬ」影響である。多くの非意図的な影響は、挿入された形質およびその代謝的な関連、または挿入部位が分かれば大部分が予測可能である。植物ゲノムに関する知識が増大しており、また他の植物育種形態と比較して組換えDNA技術によって導入された遺伝物質に関する特異性が高まっていることにより、特定の修飾による非意図的な影響の予測が容易になる可能性がある。分子生物学および生化学技術を利用して、非意図的な影響を生じる可能性のある、遺伝子転写およびメッセージ翻訳における変化を解析することができる。

17.組換えDNA植物由来食品の安全性評価には、このような非意図的な影響を同定・検出する方法と、それらの生物学的関連ならびに食品の安全性に対する影響を評価する手法が含まれる。個別の試験で、起こりうる非意図的な影響を全て検出しまたはヒトの健康に対するそれらの関性を確実に同定することはできないので、非意図的な影響の評価には多様なデータと情報が必要である。こうしたデータや情報は、総合的な検討を行うことにより、当該食品がヒトの健康に有害な影響を与える可能性が低いことを保証するものであるべきである。非意図的な影響の評価に際しては、商品化に向けての新種の選択にあたり育種家が一般的に注目している植物の作物学的・表現型特性を考慮する。育種家によるこのような注目は、非意図的な形質を示す植物に対する予備的なスクリーニングとなる。このようなスクリーニングを通過した新種には、セクション4および5に記述した安全性評価が課せられる。

食品安全性評価の枠組み

18.組換えDNA植物由来食品の安全性評価は、以下を含む関連要因に対応する段階的過程に従って実施する。
A)組換えDNA植物の概要
B)宿主植物とその食品としての使用についての概要
C)(遺伝子)供与体の概要
D)遺伝子組換えの概要
E)遺伝子組換えの特徴の明示
F)安全性評価
a)発現物質(非核酸物質)
b)主要成分の組成分析
c)代謝産物の評価
d)食品加工
e)栄養的修飾
G)その他の検討事項

19.特定の場合には、製品の特徴によっては、検討中の製品に固有の問題点に対処するために、データ・情報を更に整備することが必要となる場合がある。

20.安全性評価のためのデータの整備を目的とする試験は、科学的に信頼できる概念と原則に従うと共に、必要に応じGLPに従って計画・実施すべきである。一次データは、要求があれば規制当局が利用できるようにすべきである。データは科学的に信頼できる方法を用いて入手し、適切な統計学的技術を用いて解析すべきである。分析方法には全て感度が示されるべきである。

21.安全性評価の最終目標は、利用できる最善の科学的知識に照らして、その食品が意図する用途に従って調理・使用・摂取された場合は有害とならないことを保証することである。こうした評価において期待される指標は、栄養成分含量や栄養価の変化が食事に及ぼす影響を考慮し、新規食品が既存の対応物と同様に安全であるかどうかに関する判定である。従って本質的には、安全性評価過程の結果は、リスク管理者が何らかの措置が必要かどうかを判断することができ、必要な場合には十分な情報を与えられた上で適切な決定を下すことができる方法で、検討中の製品を定義することである。

セクション4-一般的検討事項

組換えDNA植物の概要

22.安全性評価の対象となる組換えDNA植物に関する概要説明が必要である。この説明では、作物、対象となる形質転換、組換えの種類と目的を明らかにすべきである。また、安全性評価の対象となる食品の特質を理解する上で役立つものあるべきである。

宿主植物とその食品としての利用に関する概要

23.宿主植物に関する包括的概要説明が必要である。以下のデータ・情報が必要とされるが、これに限定されない。
A)一般名または通称、学名、分類学上の分類
B)育種を通じた栽培・開発の経緯
特に、ヒトの健康に有害影響を及ぼす可能性のある形質の特定
C)既知の毒性またはアレルギー誘発性を含む安全性に関わる宿主植物の遺伝子型と表現型に関する情報
D)食品として安全に消費されてきた履歴

24.宿主植物だけでなく関連種や、宿主植物の遺伝的背景に大きく寄与した、またはその可能性のある植物に関しても表現型情報を示すべきである。

25.使用歴には、その植物が一般的にどのように栽培・輸送・保管されるのか、その植物を食料として安全なものとするために特殊な加工が必要か否か、その植物の食事における通常的な役割(例えば、植物のどの部分を食品原料として使用するか、その摂取が人口の内の特定の集団にとって重要なものか、それが食事に対してどのような重要な主要・微量栄養素を供給するか)に関する情報が含まれる場合がある。

(遺伝子)供与体についての概要

26.供与体に関する情報及び、必要に応じてその他の関連する種についての情報も示すべきである。供与体または同一科の中の密接に関係する他の生物が、自然の状態で病原性や毒産生といった特徴を示すかどうか、ヒトの健康に影響を与える何らかの形質を有するかどうか(抗栄養素の存在など)を判断することが特に重要である。供与体についての概要には以下の事項が含まれるべきである。
A)通称または一般名
B)学名
C)分類学上の分類
D)食品の安全性に関わる自然な状態でのその植物の歴史についての情報
E)自然に存在する毒素、抗栄養素およびアレルゲンに関する情報
微生物については、病原性に関する追加情報および既知の病原体との関係
F)過去および現在の食品としての使用に関する情報、食用以外の曝露経路(たとえば汚染物質として存在する可能性)

遺伝子組換えの概要

27.宿主植物に伝達された可能性のあるすべての遺伝物質の同定を考慮し、植物に挿入されたDNAの特徴付けを裏付けるデータを解析するために必要な情報を示すために、遺伝子組換えに関する十分な情報が提示されるべきである。

28.形質転換過程の概要には、以下の事項が含まれるべきである。
A)形質転換に使用した特定の方法に関する情報(たとえばアグロバクテリウム媒介転換)
B)妥当な場合は、起源(植物、微生物、ウイルス、合成)、本質、その植物において期待される機能を等、植物の組換えに使用したDNA(たとえばヘルパープラスミドなど)に関する情報
C)宿主生物の形質転換のためのDNAの産生または加工に使用した生物(細菌など)など中間宿主生物

29.以下をはじめとする導入DNAに関する情報を提示すべきである。
A)マーカー遺伝子、DNAの機能に影響を及ぼす調整及びその他の要因を含み、すべての遺伝的構成成分の特徴評価
B)サイズと同定
C)最終ベクター・構成体における配列の位置と方向
D)機能

遺伝的組換えの特徴の明示

30.組換えDNA植物に由来する食品の組成と安全性に対する影響に関し、明確な理解に資するため、遺伝的組換えの分子的・生化学的特徴付けを包括的に行なう必要がある。

31.植物ゲノムへのDNA挿入に関する情報を提供すべきであり、これには以下の事項が含まるべきである。
A)挿入遺伝物質の特徴付けと説明
B)挿入部位の数
C)挿入物質および周辺領域のコピー数および配列データを含み、挿入の結果発現した物質を同定するために十分な、各挿入場所での挿入遺伝物質の構成。更に適切な場合は、食品に含まれる可能性のある新物質を同定するために、適宜転写や発現産物の解析などの情報も示す。
D)挿入DNA内にあるか、融合タンパク質を生じる可能性のあるものを含めて隣接する植物ゲノムDNAの挿入によって生成したオープンリーディングフレーム(open reading frame)の同定

32.組換えDNA植物において発現した物質に関する情報は全て示すべきである。これには次の事項が含まれるべきである。
A)遺伝子産物(タンパク質や非翻訳RNAなど)
B)遺伝子産物の機能
C)新しい形質の表現型の説明
D)植物中の発現遺伝子産物の発現量と部位、植物特に食用部位における代謝産物の量
E)発現配列・遺伝子の機能が、特定の内在性のmRNAあるいはタンパク質の蓄積を変化させるものである場合、可能な範囲で標的遺伝子産物の量

33.さらに、以下を目的として情報を提供すべきである。
A)挿入に使用された遺伝物質の配列が保持されているかどうか、あるいは組み込みによって大幅な配列の転換が生じたか否かを示す。
B)発現タンパク質のアミノ酸配列を意図的に修飾することによって、翻訳後の修飾に変化が生じたり、構造・機能に不可欠な部位に影響を与えるかどうかを示す。
C)組換えによって意図された効果が達成されたかどうか、または全ての発現形質が発現され遺伝の法則に従って何世代かに渡って安定した状態で受け継がれていることを示す。表現型の特徴が直接計測できない場合は、挿入DNAそのものの継承あるいは対応するRNA発現について調べる必要がある場合もある。
D)新たに発現した形質が、対応する遺伝子の発現を促進する関連した調節配列に一致した方法および量において、しかるべき組織内で期待通りに発現しているかどうかを示す。
E)宿主植物内の1つまたは複数の遺伝子が、形質転換過程の影響を受けたことを示唆する根拠があるかどうかを示す。
F)新規の融合タンパク質の本質および発現パターンを確認する。

安全性評価

発現物質(非核酸物質)

毒性評価

34.インビトロ核酸技術によってDNAの導入が可能になり、植物内で新規物質を合成することができるようになる。新物質は、組換えDNA植物においては新規物質でも、タンパク質・脂肪・炭水化物・ビタミンなど食用植物の通常成分である場合もある。新物質には、導入DNAの発現により生成した酵素の活性に由来する新代謝産物も含まれる場合がある。

35.安全性評価では、新発現物質の化学的性質や機能を考慮に入れ、組換えDNA植物の可食部分における物質濃度を変動や平均値を含めて特定すべきである。現在の、母集団中の小グループに対する食事由来の曝露とその影響を検討すべきである。

36.供与体に存在する既知の毒素または抗栄養素を合成するコードを指定する遺伝子が、通常はそうした毒性または抗栄養的特性を発現しない組換えDNA植物に伝達されていないことを立証する情報を示すべきである。供与体に関わる従来の食品加工技術は、抗栄養素または毒素を不活性化し、劣化させまたは排除する可能性があるため、組換えDNA植物に供与植物とは異なる加工を施す場合は特に、これを保証することが重要である。

37.セクション3に示した理由により、当該物質または密接に関連する物質が機能と曝露に基づき食品において安全に消費されている場合は、従来の毒性学試験は必要ない場合がある。その他の場合は、新物質について適切な従来の毒性学またはその他の試験が必要な場合もある。

38.タンパク質の場合、潜在的な毒性に関する評価では、当該タンパク質と既知のタンパク質毒素や抗栄養素(プロテアーゼ阻害因子、レクチンなど)におけるアミノ酸配列類似性ならびに熱・加工安定性や適切な代表的な消化系モデルにおける分解に対する安定性に注目すべきである。食品に含まれるタンパク質がこれまで食品において安全に消費されてきたタンパク質と類似ではない場合は、分かっている範囲で植物の生物学的機能を考慮に入れて、適切な経口毒性試験3を実施する必要がある場合もある。

39.これまで食品において安全に消費されたことがない非タンパク物質の毒性は、植物中での当該物質の本質と生物学的機能および食事由来の曝露に基づき個別に評価すべきである。実施すべき試験の種類には、従来の毒性学的手法に従い、代謝物、毒性動態、亜慢性毒性、慢性毒性、発癌性、生殖・発生毒性に関する試験などが含まれる。

40.安全性評価では、組換えDNA植物に由来する新物質の分離または起源が異なる物質の合成や生成が必要な場合もあり、その際は物質が生化学的・構造的・機能的に組換えDNA植物で生成されたものと同じであることを証明すべきである。

アレルギー誘発性の評価(タンパク質)

41.挿入遺伝子に起因するタンパク質が食品に含まれる場合、いかなる場合もアレルギー誘発性を評価すべきである。新規発現タンパク質のアレルギー誘発性評価で用いる総合的かつ段階的な個別手法は、様々な基準を組み合わせて用いるべきである(1つの基準ではアレルギー誘発性の有無を十分に判断できないため)。パラグラフ20に示したように、データは科学的に信頼できる方法を用いて入手すべきである。検討すべき問題の詳細は本文書の添付資料に示した4

42.導入遺伝物質が小麦・ライ麦・大麦・オート麦その他の穀物に由来する場合は、組換えDNA植物に由来する食品中に新たに発現したタンパク質に関して、グルテン過敏症腸疾患の誘出における役割について評価すべきである。

43.一般に、アレルギー誘発性食品または過敏な個人に対してグルテン過敏性腸疾患を誘発することが明らかな食品からの遺伝子の伝達は、伝達された遺伝子がアレルゲンまたはグルテン過敏性腸疾患に関与するタンパク質を合成するコードを指定していないことが明記されていない限り避けるべきである。

主要成分の組成分析

44.組換えDNA植物の主要成分5、特にその食品の代表的成分の濃度分析は、同じ条件下で栽培し収穫した既存の対応物に関する同等の分析と比較すべきである。期待された栽培条件下で成育した組換えDNA植物との更なる比較を検討する必要がある場合もある(除草剤の利用など)。生物学的意義を判定するために、観察されるあらゆる相違点の統計学的有意性をパラメータの自然の変動範囲内で評価すべきである。この評価で使用する比較対象は、理想的には、ほぼ同一遺伝系親種であるべきである。実際には、それが常に実現可能であるわけではない。その場合はできる限り近い系統を選択すべきである。曝露評価も併せてこのような比較を必要に応じて行なう目的は、栄養学的に重要であるか、または食品の安全性に影響を与える可能性がある物質が、ヒトの健康に有害影響を及ぼすような方法で改変されていないことを実証するためである。

45.試験実施施設の立地条件は、多様な植物が生育すると予想されるような環境であるべきである。試験実施施設は、この範囲全体で組成の特徴を正確に評価するのに十分な数が必要である。同様に、自然において様々な条件への曝露が適切に起きるのに十分な世代数にわたって試験を実施すべきである。環境の影響を最小限に抑え、作物の品種内で自然発生的に起こる遺伝子型の変化の影響を抑制するため、各試験施設は同一とすべきある。十分な数の植物をサンプリングし、十分な感度を備え主要成分の変化を特異的に検出する分析方法を用いるべきである。

代謝産物の評価

46.組換えDNA植物の中には、修飾によって食品中に新規のまたは量の変化した様々な代謝産物が生じるものもある。ヒトの健康に有害影響を及ぼす恐れのある食品における代謝産物の蓄積の可能性を考慮すべきである。こうした植物の安全性評価では、食品中の残留物及び代謝産物の量の調査及び栄養学的変化に関する評価が必要となる。食品中で残留物または代謝産物の量の変化が認められた場合、このような代謝産物の安全性の確立のために、従来の手順を用いてヒトの健康に対する潜在的な影響を考慮すべきである(食品に含まれる化学物質のヒトに対する安全性評価手順など)。

食品加工

47.組換えDNA植物由来の食品については、家庭での調理を含め食品加工の潜在的影響も検討すべきである。例えば、加工後に内因性毒素の熱安定性や重要な栄養素の生体利用率に変化が起きる可能性もある。従って、植物に由来する食品成分の製造における加工条件を示す情報を提供する必要がある。植物油であれば、抽出過程やその後の精製段階に関する情報を提供する必要がある。

栄養学的な修飾

48.主要栄養素に起こりうる組成の変化に関する評価は、組換えDNA植物すべてについて実施すべきであり、既に「主要成分の組成分析」の項で取り上げている。しかし、栄養の質や機能の意図的な改変を目的として修飾が行われた組換えDNA植物由来食品については、変化の結果並びにこうした食品を供給することによって栄養素の摂取に変化を来す可能性があるかどうかを評価するために、更なる栄養評価を実施すべきである。

49.食品およびその派生物の使用と消費についての既知のパターンに関する情報は、組換えDNA植物に由来する食品の想定される摂取量を概算するために使用すべきである。こうした食品の予測摂取量を用いて、通常の消費量と最大消費量の両者について改変された栄養特性の栄養学的な意味を評価すべきである。最も消費する可能性の高いものについての概算を基盤とすると、望ましくない栄養学的影響のあらゆる可能性も検出されるという確証が得られる。乳児・小児・妊産婦・授乳婦・高齢者・慢性疾患及び免疫系疾患を有する人など、特定の集団における生理学的特徴や代謝条件に注目すべきである。母集団中の小集団における栄養学的影響及び食事に関する必要性の解析に基づき、栄養学的評価が更に必要となる場合もある。修飾された栄養素がどの程度まで生体利用ができ、時間・加工・保存に対して安定であるかを確認することも重要である。

50.穀物の栄養素量を変えるためにインビトロ核酸技術を含む植物育種技術が利用された場合、栄養上の側面に2通りの広範な変化が生じる可能性がある。植物成分に意図的に修飾を施した場合、植物製品の栄養素上の特性を全体的に変える可能性があり、この変化は食品を消費する個人の栄養状態に影響を与える可能性がある。予期しない栄養上の変化も同じ影響を及ぼす可能性がある。組換えDNA植物成分の安全性が個別に評価された場合であっても、この変化が栄養素の全体的な特性に与える影響を検討すべきである。

51.修飾の結果、植物油などのように、既存の対応物と組成が大幅に異なる食品が生じた場合、その食品の栄養学的影響を評価するための適当な比較対象として、通常食品または食品成分(栄養組成が組換えDNA植物に由来する食品により近い食品または食品成分)追加して用いることが適当な場合もある。

52.食品消費パターンは地理的・文化的要因によって異なるため、特定食品の栄養学的変化がある地域や文化圏において他の場合より重大な影響をもたらす可能性がある。ある集団ではいくつかの食用植物が特定栄養素の主要摂取源となっている。栄養素とその影響を受ける集団を明らかにすべきである。

53.食品によっては追加試験が必要な場合がある。例えば、栄養素の生体利用率の変化が予想される場合や、組成が従来の食品とは異なる場合は、組換えDNA植物由来食品について動物給餌試験が当然必要となるであろう。また、健康増進を目的とする食品では、特定の栄養学的・毒性学的試験またはその他の適切な試験が必要な場合もある。食品の特徴付けの結果、利用できるデータが総合的な安全性評価の実施には不十分であることが分かった場合は、適切に計画され、丸ごとの食品を対象とした動物試験が必要となる場合もある。

セクション5-その他の検討事項

ヒトの健康に重大な意味を持つ物質が蓄積する可能性

54.組換えDNA植物が、残留農薬、改変された当該残留物質の代謝産物、毒性代謝産物、汚染物質、その他ヒトの健康に影響を与える恐れのある物質を間接的に蓄積させる可能性を生じる形質(除草剤耐性など)を示す場合もある。安全性評価ではこの蓄積の可能性を考慮すべきである。こうした化合物の安全性を確立するための従来の手順(化学物質のヒトに対する安全性の評価過程など)を適用すべきである。

抗生物質耐性マーカー遺伝子の使用

55.組換えDNA植物の今後の開発においては、食品に抗生物質耐性マーカー遺伝子を生じることのない別の形質転換技術を利用でき安全であることが分かっていれば、これを用いるべきである。

56.植物やそれに由来する食品から腸内微生物やヒト細胞への遺伝子伝達は、多くの複雑で偶発的な事象が連続的に発生する必要があるため、発生の可能性はごくわずかであると考えられるが、可能性を完全に排除することはできない6

57.抗生物質耐性マーカー遺伝子を含む食品の安全性評価においては、以下の点を検討すべきである。
A)問題の抗生物質の臨床学的および獣医学的利用とその重要性
(抗生物質には、ある種の臨床状態の治療にのみ利用できるものもある(特定のブドウ球菌感染症の治療に使用するバンコマイシンなど)。このような抗生物質に対する耐性をコード化しているマーカー遺伝子を、組換えDNA植物において使用すべきではない。)
B)抗生物質耐性マーカー遺伝子によってコード化されている酵素またはタンパク質が食品中に存在することによって、経口投与された抗生物質の治療効果が低減するか否か
(この評価において、抗生物質の服用量、中性またはアルカリ性の胃の状態などの消化条件に曝された後食品中に残存する可能性のある酵素量、酵素活性に必要な酵素補因子(ATPなど)の必要性、食品中の当該因子の推定濃度などを考慮に入れて、食品中の酵素の存在によって、経口投与された抗生物質量がどの程度減少する可能性があるのかを推定すべきである)
C)他の発現遺伝子産物の場合と同様に、遺伝子産物の安全性

58.データや情報の評価の結果、抗生物質耐性マーカー遺伝子または遺伝子産物の存在がヒトの健康にリスクを呈することが示唆された場合、このマーカー遺伝子または遺伝子産物が食品中に存在すべきではない。臨床的に使用される抗生物質に対する耐性をコード化した抗生物質耐性遺伝子を食品製造で用いる場合も、これが食品中に存在すべきではない。

安全性評価の検討

59.安全性評価の目標は、栄養量や栄養価の変化が食事に及ぼす影響を考慮に入れ、新規食品が既存の対応物と同様に安全であるかどうかを判定することである。しかし、安全性評価は元の安全性評価の判定に疑問を投じるような新たな科学的情報に照らして行なうべきである。


1 モダンバイオテクノロジー応用食品は当分の間は既存の対応物として使用しないことで合意が得られている。
2 2000年FAO/WHO合同専門家会議報告書(WHO/SDE/PHE/FOS/00.6、WHO、ジュネーブ、2000年)に示した実質的な同等性の概念
3 経口毒性試験に関するガイドラインとしては、「化学物質の試験に関するOECDガイドライン」などが国際学会で作成されている。
4 2001年FAO/WHO合同専門家会議報告書には、いくつかの判断樹が引用されており、このガイドラインの添付資料の作成時に使用された。
5 主要栄養素・抗栄養素は、栄養摂取全体にかなりの影響を与えうる特定食品の成分である。これらは主要成分(栄養素としては脂肪・タンパク質・炭水化物、抗栄養素としては酵素阻害因子)である場合も、非主要成分(無機質、ビタミン)である場合もある。主要毒素とは、毒性や濃度が健康に大きな影響を与えうる化合物(量が多い場合のジャガイモのソラニン、小麦のセレニウム)やアレルゲンなど植物に潜在的に含まれることがわかっている毒性学的に重要な化合物である。
6 天然に存在する細菌であって、抗生物質耐性を有するものが高濃度で存在する場合、こうした細菌がこの耐性をその他の細菌に伝達する可能性は、摂取した食品と細菌間での伝達の可能性より高い。


付属資料IV

組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案の
アレルギー誘発性評価に関する添付資料案

(規格作成手続きステップ5/8に進行)

セクション1-はじめに

1.組換えDNA植物で新たに発現したタンパク質1であって最終食品に含まれる可能性があるものはいずれも、アレルギー誘発性について評価すべきである。その際、新たに発現したタンパク質は特定個人が既に感受性を持つ可能性があるかどうか、食品供給において新しいタンパク質がある個人においてアレルギー反応を引き起こす可能性が高いかどうかを考慮すべきである。

2.現在、新たに発現したタンパク質のヒトへのアレルギー反応の予測において信頼できる決定的試験はないため、下記に示すような総合的でかつ段階的な個別の手法を用いて、新たに発現したタンパク質のアレルギー誘発性を評価する様勧告されている。単一の判断基準では十分な予測ができないため、この手法では数種類の情報・データに由来する根拠を考慮している。

3.評価指標は、タンパク質の食品アレルゲンである可能性についての判定である。

セクション2-評価方法

4.新たに発現したタンパク質のアレルギー誘発性評価における第1段階は、導入タンパク質の供給源、当該タンパク質と既知のアレルゲンのアミノ酸配列における有意な類似性、構造的特性を調査することである。これには酵素分解に対する感受性、熱安定性、酸・酵素処理などが含まれるが、これに限定されない。

5.単一の試験だけでは経口曝露に対するヒトIgE反応の可能性を予測できないため、新たに発現したタンパク質の特徴を明らかにするための第1段階は、新たに発現したタンパク質と既に確立されているアレルゲンにおけるアミノ酸配列及び特定の物理化学的性質について、根拠を重視して比較することである。このためには、新たに発現したタンパク質を組換えDNA植物から分離しまたは別の供給源からその物質を合成・製造する必要がある。この際、対象とする物質が組換えDNA植物で生成されるものと構造的・機能的・生化学的に同等であることを示すべきである。宿主が異なることにより起こりうる翻訳後修飾が発生し(真核系と原核系)タンパク質のアレルギー誘発性に影響を与える可能性があるため、発現宿主の選択には特に注意を払うべきである。

6.タンパク質の供給源に関してはアレルギー反応を誘発することが知られているかどうかを明らかにすることが重要である。既知のアレルギー誘発性物質に由来する遺伝子は、科学的根拠によりそうでない旨が実証されない限り、アレルゲンをコード化していると仮定すべきである。

セクション3-最初の評価

セクション3.1-タンパク質の供給源

7.組換えDNA植物由来食品の安全性を裏付けるデータの一部として、供与体に関するアレルギー誘発性に関する情報は全て示すべきである。これにより、遺伝子のアレルギー誘発性供給源は、IgE媒介性経口または呼吸性・接触性アレルギーの合理的根拠が入手できる供与体として定義されるであろう。導入タンパク質の供給源についての情報が得られれば、アレルギー誘発性評価において考慮すべき手段や関連データが明らかになる。これには、スクリーニングを目的とする血清の利用可能性、アレルギー反応の種類・程度・頻度の記載、構造的特徴及びアミノ酸配列、その供給源に由来する既知のアレルギー誘発性タンパク質の物理化学的・免疫学的特性(適宜)が含まれる。

セクション3.2-アミノ酸配列相同

8.配列相同比較の目的は、新たに発現したタンパク質の構造がどの程度既知のアレルゲンと似ているかを評価することである。この情報は、恐らくこのタンパク質がアレルギー誘発性を有するかどうかを示唆することになろう。配列相同の調査は、新たに発現した全てのタンパク質の構造を全ての既知のアレルゲンと比較して行う必要がある。FASTAまたはBLASTPなど様々なアルゴリズム(段階的手法)を用いて検査を行い、包括的な構造的類似性を予測すべきである。直線エピトープを示す可能性のある配列を明らかにするために、段階的な連続する同一のアミノ酸部分の検査などの方法を実施する場合もある。連続アミノ酸検査の規模は、偽陰性または偽陽性結果が生じる可能性を最低限に抑えるために科学的正当性に基づくべきである2。生物学的に意味のある結果を得るため、検証済みの調査・評価手法を用いるべきである。

9.80以上のアミノ酸部分で35%以上の同一性(2001年FAO/WHO)が認められるか、またはその他の科学的に正当な基準がある場合は、新たに発現したタンパク質と既知のアレルゲンの間のIgE交差反応の可能性を考慮すべきである。個別の科学的評価を可能にするため、新たに発現したタンパク質と既知のアレルゲンの間の配列相同比較から得られた情報はすべて報告すべきである。

10.配列相同研究にはある種の限界がある。特に、比較においては一般に利用できるデータベースと科学文献に掲げる既知のアレルゲンの配列に限定される。IgE抗体と特異的に結合可能な非連続エピトープの検出においてもその比較能力に限界がある。

11.配列相同検査でマイナスの結果が出ると、新たに発現したタンパク質は既知のアレルゲンではなく、既知のアレルゲンに対する交差反応性が低いことがわかる。有意な配列相同がないことを示す結果が得られた場合は、新たに発現したタンパク質のアレルギー誘発性評価においてこの方法でまとめたその他のデータと合わせて考慮すべきである。必要に応じ、更なる研究を実施すべきである(セクション4・5参照)。配列相同検査でプラスの結果がでた場合、新たに発現したタンパク質はアレルギー誘発性である可能性が高いことを示す。この製品をさらに検討する必要がある場合は、同定されたアレルギー誘発性供給源に対して感作された個人の血清を用いて評価すべきである。

セクション3.3-ペプシン耐性

12.いくつかの食品アレルゲンにおいて、ペプシン消化に対する耐性が認められており、ペプシン耐性とアレルギー誘発性には相関関係がある3。従って、適切な条件下でペプシンが存在する場合に分解に対するタンパク質の耐性が認められれば、新たに発現したタンパク質がアレルギー誘発性である可能性を調べるためにさらに分析を行うべきである。整合性があり十分に検証されたペプシン分解プロトコールが確立されれば、この方法の有効性が高まる可能性がある。しかし、ペプシン耐性がない場合も新たに発現したタンパク質が関連アレルゲンである可能性を排除することにはならないことを考慮すべきである。

13.ペプシン耐性プロトコールは強く推奨されるが、他の酵素感受性プロトコールがあることも認識されている。正当性が示されれば、別のプロトコールを用いてもよい4

セクション4-特定血清スクリーニング

14.アレルギー誘発性である、または既知のアレルゲンとの配列相同が明らかな供給源に由来するタンパク質については、血清が利用できる場合は免疫学的検査における試験を実施すべきである。当該のタンパク質の供給源に対するアレルギーが臨床的に検証された個人の血清を用いて、インビトロアッセイにおいてタンパク質のIgEクラス抗体との特異的結合を調べることができる。この試験において重要な問題は、十分な数の個人からヒト血清が得られるかどうかである5。さらに、血清の質とアッセイ手順を標準化して有効な試験結果を出す必要がある。供給源のアレルギー誘発性が不明で、既知のアレルゲンに対する配列相同を示さないタンパク質については、パラグラフ17に示したように標的血清スクリーニングが利用できる場合は、これを考慮することができる。

15.既知のアレルギー誘発性供給源に由来する新たに発現したタンパク質の場合、インビトロの免疫学的検査における陰性結果だけでは十分ではないと考えられる場合があり、皮膚テストやエクスビボプロトコールなど補足的試験を促すべきである6。こうした試験における陽性結果はアレルゲンの可能性を示す。

セクション5-その他の検討事項

16.新たに発現したタンパク質に対する絶対的曝露と、関連する食品加工の影響は、ヒトの健康に対するリスクの可能性に関する総合的な結論に影響を与える。このため、適用される加工の種類や最終食品中のタンパク質の存在に対する影響を判断する上で、対象食品の本質を考慮すべきである。

17.科学的知識と技術の進歩に伴い、評価方法の一環としての新たに発現したタンパク質のアレルギー誘発性評価においてその他の方法や手段も考慮することができる。こうした方法は科学的な信頼が得られるものであるべきである。これには、標的血清スクリーニング(広範な関連領域の食品に対するアレルギー反応が臨床的に認証されている患者の血清におけるIgE結合の評価)、国際血清バンクの開発、動物モデルの使用、新たに発現したタンパク質のT細胞エピトープやアレルゲンに関わる構造的モチーフの研究などが含まれる。


1 この評価方法は、新たに発現したタンパク質にグルテン感受性またはその他の腸疾患の誘発能があるかどうかを評価するために適用することはできない。腸疾患の問題は既に、「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案」のパラグラフ42「アレルギー誘発性の評価(タンパク質)」で扱っている。またこの方法は、低アレルギー誘発性を目的とし遺伝子産物が抑制されている場合は食品の評価に適用することはできない。
2 2001年FAO/WHO会議は検査で使用する同一アミノ酸部分を8から6に減らすことを示唆したと受け止められている。段階的比較で用いるペプチド配列が少なければ少ないほど偽陽性となる可能性が高い。逆に、用いるペプチド配列が多ければ多いほど偽陰性の可能性が高くなり、比較の有効性が下がる。
3 相関関係の確立において米薬局方(1995年)に概説する方法を用いた(Astwood他、1996年)。
4 バイオテクノロジー応用食品のアレルギー誘発性に関するFAO/WHO合同専門家会議報告書(2001年):セクション6.4「ペプシン耐性」。
5 バイオテクノロジー応用食品のアレルギー誘発性に関するFAO/WHO合同会議(2001年1月22~25日、イタリア・ローマ)の合同報告書によれば、主要アレルゲンの場合、新たなタンパク質がアレルゲンではないことを99%確実にするためには最低8つの関連血清が必要である。同様に、非主要アレルゲンについて同じ確実性を期すためには最低24の関連血清が必要である。これだけの量の血清は試験のためには利用できないことが認識されている。
6 エクスビボ過程とは、アレルギー患者の細胞・組織培養を用いたアレルギー誘発性試験とされている(バイオテクノロジー応用食品のアレルギー誘発性に関するFAO/WHO合同専門家会議の報告書)。


付属資料V

組換えDNA微生物利用食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案

(規格作成手続きステップ5)

セクション1-適用範囲

1.本ガイドラインは「モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則」を支持し、組換えDNA微生物の作用を利用して製造した食品の安全性を扱う1。こうした食品の製造に用いる組換えDNA微生物は、一般的に食品製造において安全かつ有効に使用されてきた歴史を持つ株からモダンバイオテクノロジー技術を用いて得られる。しかし、安全に使用されてきた歴史がない株を組換えに用いる場合は、その組換え体の安全性が確立されるべきである2。こうした食品・食品成分には生存能力のある組換えDNA微生物またはない組換えDNA微生物が含まれる。またこれらは組換えDNA微生物を利用し発酵により製造される場合があるが、組換えDNA微生物は既に除去されている可能性がある。

2.以下の問題は、他の組織でまたは他の手段によって検討する必要がある場合があることを考慮し、本文書では扱わない。
農業に利用される(植物保護を目的とした利用、バイオ肥料、動物飼料またはその飼料を投与された動物に由来する食品への利用等)微生物の安全性
食品製造に用いられる組換えDNA微生物の環境への放出に関わるリスク
食品製造に用いる酵素を含み添加物や加工補助剤として用いられる微生物によって製造された物質の安全性3
食品への微生物利用に起因するであろう特定の趣旨の保健効果またはプロバイオテック作用
組換えDNA微生物を扱う食品製造作業者の安全性に関わる問題

3.食品製造に用いられている多様な微生物は、科学的な評価が実施される以前から長年に渡って安全に利用されてきた。場合によっては生存可能な微生物の摂食も含め、それらを用いて製造される食品に関連するすべての潜在的リスクを完全に明らかにする方法で科学的に評価されている微生物はほとんどない。微生物は組換えDNA技術を用いた修飾の影響を受けやすく、新株は成長速度が速いために急速に成長する可能性がある。さらに、リスク分析に関するコーデックス原則、特にリスク評価に関する原則は主に、食品添加物や残留農薬等の化学物質、または特定の化学・微生物汚染物質等の同定可能な危害やリスクを有する物質の識別のために用いることを目的としている。則ち、それらは、本来は微生物発酵によって変化した食品や食品加工に微生物を意図的に利用する場合に適用することを目的としていない。実施されている安全性評価は、これまでに規定された試験の結果を評価するよりも、これらの生物の病原性に関連する特性が無いこと、またはこうした生物の摂取による有害作用の報告が無いことに重点を置いている。さらに、多くの食品には、従来の安全性試験手法を用いた場合有害と見なされるであろう物質が含まれている。従って、丸ごとの食品の安全性を検討する場合は、別の方法が必要となる。

4.この手法の策定において検討する情報には以下のものが含まれる。
A)食品製造における生存微生物の利用

B)こうした生物において生じた可能性の高い遺伝子組換えの種類の検討

C)安全性評価の実施に利用できる方法の種類

D)遺伝的安定性、遺伝子伝達、腸管のコロニー形性とその持続性、組換えDNA微生物との相互作用、胃腸内フローラ(細菌叢)と哺乳類宿主、免疫系への影響など食品製造で用いる微生物に固有の問題

5.この手法は、組換えDNA微生物を用いて製造した食品だけでなく、微生物そのものについても、組換えDNA微生物を用いて製造した食品の安全性については、安全使用の歴史を有する既存の対応物との関連で評価するという原則に基づいている。この手法は意図的な影響と非意図的影響の両方を考慮に入れたものである。特定食品や微生物に関わる危害のすべてを明らかにするのではなく、既存の対応物との比較において新規のまたは改変した危害を明らかにすることが目的である。

6.この安全性評価手法は、「モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則」のセクション3で述べられたリスク評価の枠組みにはいる。安全性評価によって、新たなまたは改変された危害や、栄養学的なまたはその他の食品安全性の問題が明らかになった場合には、それに関わるリスクをまず評価してヒトの健康との関連を調べる。安全性評価、また必要に応じ追加リスク評価を行った後、食品または製造過程で用いた微生物などの食品成分は市販を検討する前に「モダンバイオテクノロジー応用食品のリスク分析に関する原則」に沿って、リスク管理に関する検討が行なわれる。

7.本ガイドラインでは、既存の対応物との比較に基づき、組換えDNA微生物を用いて製造した食品の安全性を評価するために推奨された手法を示している。安全性評価は、食品製造に用いる組換えDNA微生物の安全性、[または]更に、必要に応じて、] 食品に対する組換えDNA微生物の作用によって生成された代謝産物に注目することとなる。このガイドラインでは、一般的にこうした評価の際に適用されるデータと情報を明示している。このガイドラインは組換えDNA微生物を用いて製造した食品またはその成分を対象としたものであるが、ここに示した手法は一般的に、その他の技術で改変された微生物を用いて製造された食品にも適用できる[食品基質や腸内フローラとの相互作用を考慮して既存の対応物との比較において微生物が安全と考えられ、組換えDNAによってコード化された新たに発現したタンパク質は安全でありかつ遺伝子組換えの結果として生じた二次的代謝産物も安全と考えられる場合は、微生物によって製造した食品がヒトの健康に対して有害である可能性は低い]。

セクション2-定義

8.このガイドラインでは以下の定義を用いる。
「組換えDNA微生物」とは、細菌、イーストまたは糸状菌であって、その遺伝物質を組換えデオキシリボ核酸(DNA)や核酸の細胞・細胞小器官への直接注入などのインビトロ核酸技術4により変化させたものを指す。

「既存の対応物」5とは、以下のいずれかを指す。
組換えDNA微生物を用いて製造される食品の製造において、安全に使用されてきた歴史を有する組換えDNA株に関わる食品製造または加工に使用される微生物または株である。
微生物は食品中で生存能力を有する場合がある、または加工中に除去されあるいは生存不能になる場合がある。
食品製造における一般的使用に基づき安全性が実証されている従来の食品製造微生物を用いて製造した食品

セクション3-食品安全性評価の導入

9.微生物を意図的に成長させることにより製造された食品のほとんどは古来株に由来し、科学的な安全性評価方法が登場するずっと以前から安全と考えられている。微生物は、従来の技術を用いるかモダンバイオテクノロジーを用いるかに関わらず、成長速度が早いなど短期間で遺伝子組換えを可能にする性質を有する。従来の遺伝子技術による食品製造で用いられる微生物は、一般的に、上市前に広範な化学的、毒性学的、疫学的または医学的な評価が体系的に実施されることはなかった。しかし微生物学者、菌学者及び食品技術者は食品製造において有効な表現型の特徴について細菌、イースト及び糸状菌の新しい菌株を評価してきた。

10.組換えDNA微生物の安全性評価では、食品における関連微生物の使用、組換えDNA微生物または組換えDNA微生物を構築するために用いられる受容体株内に既知の病原体の特徴である特性がない旨、受容体・関連生物に起因する既知の副作用に関して記録すべきである。さらに、組換えDNA微生物が直接食品に影響を及ぼし又は残留する場合は、食品への影響と安全性も調べるべきである。

11.毒性学的な指標の評価において動物モデルを用いることは、農薬など多くの化合物のリスク評価において主要要素である。しかしほとんどの場合、被試験物質の特徴は十分に明らかにされており、純度が既知で、特別な栄養的価値がなくそれに対するヒトの曝露は一般的に低い。従って、ヒトに対して重大な有害な健康影響を明らかにするために、こうした化合物をヒトの予想曝露量より数段階多い一定範囲内の用量で動物に投与することは比較的簡単である。この方法ではほとんどの場合、有害影響が認められない曝露量を概算し、適切な安全性係数の適用によって安全な摂取量を設定するは可能である。

12.丸ごとの食品に関するリスク試験については、それが化合物の複雑な混合物であり、しばしば組成や栄養価において多様であるため、動物試験を容易に適用できない。量が多く満腹になるため、動物に与えることのできる量は通常はヒトの食事に含まれると考えられる量の数倍でしかない。さらに、食品に関する動物試験の実施に当たり、物質そのものには直接関係しない有害影響の誘発を避けるため、使用される食餌の栄養価とバランスを考慮することが重要である。従って、潜在的な有害影響を判定し、食品の個々の特性との関係を確実に示すことは非常に困難であろう。動物試験の必要性を判断する際に考慮すべきもう1つの事項は、有意義な情報を生み出す可能性が低い場合に、動物をこうした試験に使用することが妥当であるかどうかということである。

13.一般的に毒性学的評価で用いる動物試験は、食品製造に用いられる微生物の摂取に係わる潜在的なリスクの判定試験には容易には適用できない。微生物は生命体であり、多くの生化学物質で構成される複雑な構造を持つため、純粋な化合物と比較することはできない。いくつかの加工食品においては、微生物が加工や摂取の後も生き延び、競争し、また腸内環境でかなりの期間生存することが可能である。その供与体または遺伝子・遺伝子産物が食品において安全に使用された歴史がない場合は、組換えDNA微生物の安全性を評価するために、適切な動物試験を使用すべきである。さらに、食品の栄養価や食品中に新たに発現した物質の生体利用率を評価するためには、適切に計画された動物試験であれば使用することができる。

14.微生物を用いて製造した丸ごとの食品について従来の毒性学的試験やリスク評価法を適用することは難しいため、組換えDNA微生物を含み、微生物を用いて製造した食品の安全性評価には別の手法が必要である。これには、実質的同等性の概念を用い、意図した影響、修飾の本質、および微生物におけるまたは食品に及ぼすその作用において生じる可能性のある検出可能な非意図的変化を考慮に入れた、安全性評価のための学際的手法を開発することによって対処してきた5。安全性評価は組換えDNA微生物を対象として行われるが、安全性評価過程の主要段階である実質的同等性の概念を適用する際は食品基質との相互作用に関する補足的情報も考慮すべきである。しかし、実質的同等性の概念は安全性評価そのものではなく、むしろ既存の対応物 [と既存の対応物に関わるRDMを利用して製造した食品] との比較に基づく組換えDNA微生物の安全性評価を構築するための出発点である。この概念は、食品加工において使用される組換えDNA微生物と既存の対応物との類似点及び相違点を明らかにするために用いられる。通常、その比較は、組換えDNA微生物とその開発に使用される受容体株との間で実施される[組換えDNA微生物と既存の対応物との相違に関する評価は、安全性の問題を扱う出発点となる]。しかし、組換えDNAによってコード化したり組換えDNA微生物によって製造された食品や特定遺伝子産物は、適切な既存の対応物と比較されるべきである。この方法で実施した安全性評価は、新製品の絶対的安全性を意味するものではなく、むしろ組換えDNA微生物の安全性を既存の対応物との比較において考慮できるように、同定された相違点の安全性を評価することに重点を置いている。

非意図的的影響

15.受容体生物におけるDNA伝達や維持のために用いるものを含めて同定されたDNA配列の追加・置換・除去・再配列によって微生物に特定の標的形質(意図的影響)を導入する際、余分な形質が得られたり、既存の形質が失われたり修飾される場合がある。こうした予期せぬ変化を非意図的影響と呼ぶ。非意図的影響が発生する可能性は、インビトロの核酸技術の使用に限られるものではない。むしろ、従来の遺伝子技術や手法を用いた菌株の開発において、または微生物が意図的・非意図的な選択的ストレスに曝露されることによって起きる可能性のある本質的で一般的な現象である。非意図的影響は、他の微生物との競争、微生物の生態学的適応性、摂取後の微生物のヒトに対する影響または微生物を用いて製造した食品の安全性の観点で、有害である場合、有益である場合、またはどちらでもない場合がある。組換えDNA微生物における非意図的影響は、DNA配列の意図的組換えによって生じる場合もあり、組換えまたは組換えDNA微生物におけるその他の自然事象によって起きる場合もある[安全性評価には、組換えDNA微生物由来食品がヒトの健康に対して予期せぬ有害影響をもたらす可能性を軽減するためのデータ・情報が含まれるべきである]。

16.非意図的影響は、ある微生物にとって新たなDNA配列を微生物ゲノムに挿入することによって、生じる可能性がある。これらは自然界に存在する転移性遺伝的要素の活性後に認められる影響と比較することができる。DNAの挿入によって、受容体のゲノムの遺伝子発現に変化が起きる可能性がある。非相同供給源のDNAを遺伝子に挿入することにより、融合タンパク質と呼ばれるキメラタンパク質が合成される場合もある。さらに遺伝的不安定性及びその影響も検討すべきである。

17. 非意図的影響から新たなまたは改変された形態の代謝産物が形成されることもある。例えば、高濃度での酵素の発現や当該生物にとって新規の酵素の発現が二次的な生化学的影響を及ぼし、又は代謝経路の調整に変調を来したり、若しくは代謝産物の量が変化したりする。

18.遺伝子組換えによる非意図的影響は、2種類に分類できる。「予測可能」な影響と「予期せぬ」影響である。多くの非意図的な影響は加えられた形質、その代謝的影響、又は挿入部位が分かれば、大部分が予測可能である。微生物ゲノムや生理学に関する知識が増大しており、又遺伝子操作の他の形態と比較して組換えDNA技術によって導入された遺伝物質の機能の特異性が高まっていることにより、特定の修飾による非意図的な影響の予測が容易になる可能性がある。分子生物学および生化学技術を利用して、非意図的影響を招く恐れのある転写や翻訳の段階において起きる変化を解析することもできる。

19.組換えDNA微生物を用いて製造した食品の安全性評価には、こうした非意図的影響を同定し検出する方法や、その生物学的関連や食品の安全性に対する潜在的影響を評価する手法が含まれる。個別の試験で、起こりうる非意図的影響を全て検出しまたはヒトの健康に対するそれらの関連を確実に同定することはできないため、非意図的影響の評価には多様なデータと情報が必要である。総合的な検討により、こうしたデータや情報は当該食品がヒトの健康に対して有害な影響を及ぼす可能性がないことを保証すべきである。非意図的影響の評価においては、市販を意図した食品・飲料向けの菌株の改善のために一般的に選択される微生物の生化学的・生理学的特徴が考慮される。こうした判定は、非意図的形質を発現する微生物についての最初のスクリーニングとなる。このスクリーニングを通過した組換えDNA微生物はセクション4に示す安全性評価が課せられる。

食品安全性評価の枠組み

20.組換えDNA微生物利用食品の安全性評価は、当該微生物の使用における安全性の判断に基づき、以下を含む関連要因を扱う段階的過程に従う。
A)組換えDNA微生物の概要
B)受容体の概要と食品製造におけるその利用
C)供与体の概要
D)ベクターと構成体を含む遺伝子組換えの概要
E)遺伝子組換えの特徴付け
F)安全性評価
a.毒素または病原性に関わるその他の形質を含む発現物質(付着因子、侵襲因子など)
b.主要成分の組成分析
c.代謝産物の評価
d.食品加工の影響
e.免疫学的影響の評価
f.ヒト消化器における微生物の生存可能性、生存可能な数及び残存に関する評価
g.抗生物質耐性と遺伝子導入
h.栄養的修飾

21.特定の場合には、微生物の特徴によっては、検討中の製品に固有の問題を扱うためにデータ・情報を更に整備することが必要となる場合がある。

22.安全性評価のためのデータの整備を目的とする試験は、科学的に信頼できる概念と原則に従うと共に、必要に応じGLPに従って計画・実施されるべきである。一次データは、要求があれば規制当局が利用できるようにすべきである。データは科学的に信頼できる方法を用いて入手し、適切な統計学的技術を用いて解析すべきである。分析方法には全て感度が示されるべきである。

23.安全性評価の最終目標は、利用できる最善の科学的知識に照らして、その食品が意図した使用目的に従って調製または消費された場合に有害とならないこと、生存可能な生物が食品中に残存する際に当該生物そのものが有害とならないことを保証することである。安全性評価では、免疫障害を持つ個人・乳児・高齢者を含めた母集団全体の保健問題が扱われるべきである。こうした評価において期待される指標は、栄養成分含量や栄養価の変化が食事に及ぼす影響を考慮に入れて、新規食品が既存の対応物と同様に安全であるかどうかに関する判定である。微生物が摂取後も生存する可能性がある場合、消化管における組換えDNA微生物の残留を考慮に入れて、微生物の安全性は既存の対応物と同等であるべきである。本質的に、安全性評価過程の結果は、リスク管理者が何らかの措置が必要かどうかを判断することができ、必要な場合には十分な情報を与えられた上で適切な決定を下すことができる方法で、検討中の製品を定義することである。

セクション4-一般的検討事項

組換えDNA微生物の概要

24.安全性評価の対象となる細菌、イーストまたは真菌の菌株と食品の概要が提示されるべきである。この概要は、生物または安全性評価の対象となる当該生物を使用して製造された食品の本質についての意図する相違点を理解する際に役立つものであるべきである。[すべての組換えDNA微生物を、近代的な分子学的方法を用いて適切に同定を行い、国際培養コレクションで保管すべきである。]

受容体微生物の概要及び食品製造におけるその使用

25.受容体微生物または組換え対象となる微生物の包括的概要が提示されるべきである。受容体微生物は、食品製造における安全な使用または食品中での安全な消費の歴史を有するべきである。毒素、抗生物質、またはその他、食品に存在すべきではない物質、遺伝的に不安定となる恐れのある遺伝的要素を持つ物質、または病原性に関わる機能を伝達する遺伝子(病原性島 (pathogenicity island)または病原性因子 (virulence factor)として知られる)を含む可能性がある物質を生成する生物については、受容体として用いることを検討すべきではない。必要なデータと情報には以下のものが含まれるが、それに限定されない。

A)本体確認(同定):学名、一般名、微生物を示すその他の名称、株の名称、株やその起源に関する情報、当該生物やその前身物質の入手が可能な公認培養保管庫の取得番号やその他の情報、必要に応じて分類に役立つ情報。
B)利用・培養歴、菌株の開発に関する既知の情報(突然変異の分離または菌株の構築に用いた先祖株など);特にヒトの健康に有害な影響を及ぼす可能性のある形質の同定に関する情報。
C)既知の毒素、病原性に関する他の要因や免疫学的影響を含み、安全性に関わる受容体微生物の遺伝子型と表現型に関する情報、および微生物の遺伝的安定性に関する情報。
D)食品製造において安全に用いられた歴史。

26.関連する表現型・遺伝子型の情報は、特に関連種が食品に用いられていたり、ヒトや他の動物における病的影響に関わる場合は、受容体微生物だけでなく、関連種についてまた受容体株の機能に影響を及ぼす染色体外の遺伝的要素についても提供すべきである。可能なら挿入配列・トランスポゾン・プラスミド・プロファージなど可動性DNA要素の存在を含め、受容体微生物の遺伝的安定性に関する情報を考慮すべきである。

27.使用歴には、受容体微生物が一般的にどのように増殖・輸送・保管されるのか、菌株の本体や微生物・食品の製造仕様を確認するための方法など一般的に採用されている品質保証法、またこうした生物が加工後も食品中に生存できるかどうか加工の結果除去されたり生存が不可能になるかどうかなどに関する情報が含まれる。

供与体の概要

27.供与体および適用可能なら中間生物、必要に応じ関連生物に関する情報が提示されるべきである。供与体または中間生物、その他密接に関連する種が自然に病原性または毒素生成の特徴を示すか否か、ヒトの健康に影響するその他の形質を有するか否かを決定することは、特に重要である。供与体または中間生物の概要には以下が含まれるべきである。
A)本体確認(同定):学名、一般名、微生物を示すその他の名称、株の名称、株やその起源に関する情報、当該生物やその前身物質の入手が可能な公認培養保管庫の取得番号やその他の情報、必要に応じて分類に役立つ情報。
B)食品の安全性に関わる生物または関連生物に関する情報
C)既知の毒素や病原性に関わる他の要因、または免疫学的影響を含み、安全性に関わる微生物の遺伝子型と表現型に関する情報
D)可能なら食品供給および意図した食品用途以外の曝露経路(汚染物質としての存在の可能性など)における、過去および現在の使用に関する情報
E)日和見感染に関する情報

ベクターおよび構成体を含む遺伝子組換えの概要

29.受容体微生物に伝達されたかまたはその中で組換えらた可能性のある遺伝物質の同定を可能にし、また微生物ゲノムに添加され、挿入され、その中で組換えられまたはそこから除去されたDNAの特徴付けを裏付けるデータの解析のために必要な情報を提供するため遺伝子組換えに関する十分な情報が提供されるべきである。

30.種の構築過程の概要には以下が含まれるべきである。
A)遺伝子組換えに用いる特定の方法に関する情報6
B)供給源(植物、微生物、ウイルス、合成など)、組換えDNA微生物における同定と期待される機能、プラスミドについてのコピー数など微生物組換えに用いるDNAに関する情報
C)最終受容生物への導入前にDNAを製造・加工するために用いる生物(他の細菌や真菌など)を含み中間受容体生物

31.以下を含めて、添加し、挿入し、削除され、または組換えられたDNAに関する情報が提供されるべきである。
A)マーカー遺伝子、ベクター遺伝子、DNAの機能に影響を及ぼす調整及びその他の要素を含み遺伝的構成成分のすべてに関する特徴評価
B)サイズと同定
C)最終ベクター・構成体における配列の位置と方向
D)機能

遺伝子組換えの特徴に明示

32.組換えDNA微生物を利用して製造した食品の組成や安全性に対する遺伝子組換えの影響に関し、明確な理解に資するため、遺伝子組換えについての包括的な分子的・生化学的特徴付けを実施すべきである。安全性評価を促進するために、挿入するDNAは意図した機能を発現するために必要な配列に限定すべきである。

33.組換えDNA微生物におけるDNA組換えに関する情報が提示されるべきである。これには以下が含まれるべきである。
A)プラスミドや意図する遺伝子配列の伝達に用いられるその他のキャリアDNAなど、添加、挿入または削除されたかまたはその他の修飾が行われた遺伝物質の特徴付けと概要。これには使用されたプラスミドまたはその他の遺伝的要素の流動化の可能性に関する解析;添加、挿入または削除されたかまたはその他組換えが行なわれた遺伝物質(染色体または染色体外の部位)の位置;多重コピープラスミドに位置する場合はそのプラスミドのコピー数が含まれるべきである。
B)挿入部位の数。
C)適用可能な場合はコピー数を含み、各挿入部位における組換え遺伝物質の構成。配列データベースを用いる解析を容易にするために、挿入物質や周囲部位の配列データは電子フォーマットで提供すべきである。
D)挿入DNA内のオープンリーディングフレーム、または融合タンパク質を生じる場合を含め染色体またはプラスミド内の連続DNAに対する組換えによって生成されたオープンリーディングフレームの同定及び融合タンパク質の発現。
E)潜在的な有害機能をコード化することが知られている配列に関する特記。

34.組換えDNA微生物中の発現物質に関する情報が提示されるべきである。可能な場合は以下が含まれるべきである。
A)遺伝子産物(タンパク質や非翻訳RNAなど)、または食品に存在する可能性のある新規物質を同定するための転写または発現産物の分析などを含むその他の情報
B)遺伝子産物の機能
C)新形質の表現型に関する概要
D)発現遺伝子産物の微生物における発現の量と部位(細胞内、グラム陰性細菌の場合ペリプラスム間隙、真核微生物内では細胞小器官(organellar)、菌体外へ分泌)及び、可能な場合は微生物内の代謝産物の濃度
E)発現配列や遺伝子の機能が特定の内因性mRNAやタンパク質の濃度を変化させる可能性がある場合、挿入遺伝子産物の量
F)遺伝子組換えの意図する機能に適用可能な場合は、遺伝子産物がない旨、または遺伝子産物に係わる代謝産物の変化

35.さらに、以下を目的とした情報が提供されるべきである。
A)細胞への導入後に組換え遺伝物質の配列が保持されているかどうか7または顕著な配列の転換が起きているかどうか、ならびに食品製造における使用に必要とされる程度までの組換え株の伝播を示す。
B)発現タンパク質のアミノ酸配列を意図的に修飾することによって、翻訳後の修飾に変化が生じたり、構造・機能に不可欠な部位に影響を与えるかどうかを示す。
C)修飾の意図する効果が達成されたかどうか、また発現した形質のすべてが食品製造における使用に必要とされる程度の伝播にとって安定でありかつ遺伝の法則に則った方法で発現され受け継がれていることを提示する。表現型の特徴が直接計測できない場合は、挿入または組換えDNAの遺伝または対応するRNAの発現を調べることが必要となる場合もある8
D)新たに発現した形質が予想された通りに適切な細胞内の位置を標的としてに発現しているかどうか、または対応する遺伝子の発現を促進する関連した調節配列に一致する方法・濃度で分泌されているかどうかを提示する。
E)受容体微生物における1つまたはいくつかの遺伝子が修飾または遺伝的交換過程の影響を受けていることを示す根拠があるかどうかを示す。
F)新規の融合タンパク質の本体と発現パターンを確認する。

安全性評価

[36.インビトロの核酸技術は、細胞への新たなDNAの導入や、細胞内のDNAの明確な変化を可能にし、その結果微生物内にまたは微生物によって新物質が合成されたり、微生物によって生成された物質が変化したり、またはこうした物質が制御されたりする恐れがある。明確な遺伝的変化を起こす方法は微生物について容易に適用でき、DNAは容易に微生物ゲノムに取り込まれる。これらはタンパク質・脂肪・炭水化物などの通常の細胞成分であったり、ビタミンや代謝産物など通常は存在しないかまた受容体生物によって生成されない化合物であったりする。その機能と曝露を考慮して、当該物質または密接に関連する物質が安全に食品中で消費されたり食品加工に用いられたりしている場合は、従来の毒性学試験は必要であるとは考えられることがある。組換えDNA微生物の食品基質に対する影響を考慮すべきである]

毒素や病原性に関連するその他の形質を含む発現物質

37.ある物質が食品にとってまたは食品加工において新規の場合、従来の毒性学的試験やその他新物質に適用可能な試験の実施が必要となる。このためには、新規物質を組換えDNA微生物から、もし物質が分泌される場合は食品から、分離することが必要となる場合もあり、また[物質を別の供給源から合成しもしくは製造することが必要となる場合がある。その場合は、物質が構造的・機能的・生化学的に組換えDNA微生物中で生成されたものと同等であることを証明すべきである]。消費者のこの物質に対する想定される曝露、当該物質の摂取や食事に及ぼす影響に関し情報を提示すべきである。

38.発現物質の安全性評価では、食品における機能と濃度を考慮すべきである。食品に残留する生存微生物数について既存の対応物と比較して測定すべきである。全ての定量試験には、変動と平均値が含まれるべきである。現在の食事由来の曝露及び母集団中の小グループに対する影響の可能性も考慮すべきである。

タンパク質の場合、潜在的な毒性に関する評価では、当該タンパク質と既知のタンパク質毒素や抗栄養素(プロテアーゼ阻害因子、シデロフォアなど)におけるアミノ酸配列類似性ならびに熱・加工安定性やしかるべき代表的な消化器系モデルにおける分解に対する安定性に注目すべきである。当該タンパク質が食品中に存在し、これまで食品において安全に消費されてきたタンパク質と異なり、これまでは食品において安全に消費されたことがない場合は、微生物の生物学的機能を考慮して、適切な経口毒性試験9を実施する場合もある。
これまで食品において安全に消費されたことがない非タンパク物質の潜在的な毒性は、当該物質の本体、濃度、生物学的機能及び食事由来の曝露に基づき個別に評価すべきである。実施する試験の種類には、代謝、毒性動態、慢性毒性、発癌性、生殖機能に対する影響及び催奇形性に関する評価が含まれる。

39.新たに発現したり改変された特性は、ヒトの健康に有害である可能性のある供与体微生物の特性に無関係であることを示すべきである。供与体微生物に存在する既知の毒素や抗栄養素を合成するコードを指定する遺伝子が、通常はこうした毒性や抗栄養素の特徴を発現しない組換えDNA微生物に対し導入されないことを確実なものとするために、情報を提供すべきである。

遺伝子組換えによって生じる恐れのある如何なる物質、毒性代謝産物または抗生物質についても蓄積の可能性を考慮して、発現物質の毒性評価のためにインビボまたはインビトロの補足的試験が個別に必要になる場合もある。

主要要素の組成分析

40.組換えDNA微生物によって製造された食品の主要要素10の濃度分析は、同じ条件下で製造された既存の対応物のための同等の分析と比較すべきである。観察された相違点の統計学的有意性は、生物学的有意性を判断するためにそのパラメータに関する自然の変動の範囲で評価すべきである。理想的には、この評価に用いられる比較対象は、ほぼ同一遺伝系親種を用いて製造された食品であるべきである。この比較の目的は、必要に応じて曝露評価と併せ、食品の安全性に影響を与える可能性のある物質がヒトの健康に有害な影響を与えるであろう方法では変化していないことを明らかにすることである。

代謝産物の評価

41.いくつかの組換えDNA微生物については結果的に、その生物を利用して製造した食品において多様な代謝産物が新たに生じ、またはその量を変化させる恐れがある方法で組換えが起こる可能性がある。残留量や代謝産物の量の変化が食品において明らかになった場合、こうした代謝産物の安全性を確立するための従来の方法を用いてヒトの健康に対する影響を考慮すべきである(食品中の化学物質のヒトに対する安全性の評価手法など)。

42.組換えDNA微生物によって新たな代謝産物が生成されまたは代謝産物量が変化することによって、混合培地に共存する微生物数を変化させ潜在的に有害生物の成長や有害物質の蓄積に関するリスクが高まることが考えられる。ナチュラルチーズ、みそ、しょうゆの製造など、複数微生物の共存する混合培地を食品加工に使用する場合は、ある微生物の遺伝子組換えが他の微生物に及ぼす潜在的影響を評価すべきである。

食品加工の影響

43.組換えDNA微生物を使用して製造された食品については、家庭での調理を含め、食品加工がこれらの食品に及ぼす潜在的な影響も考慮すべきである。例えば、内因性毒素の熱安定性や重要な栄養素の加工後の生体利用率に変化が起きる恐れがある。従って、食品製造に用いられる加工条件を示す情報が必要である。例えば、ヨーグルトの場合、当該生物の成長と培養条件に関する情報が必要である。

免疫学的影響の評価

44.挿入遺伝子に由来するタンパク質が食品中に含まれる場合、アレルギー誘発性を評価すべきである。個人が既にそのタンパク質に感受性がある可能性及び食品供給に新しいタンパク質が加えられた場合、それがアレルギー反応を誘発するかどうかについて検討すべきである。検討すべき問題の詳細は「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案の添付資料11」[このガイドラインの添付資料]に示した。

45.食品として摂取された場合、通常にアレルギーを誘発する種に由来する遺伝子の伝達は、この種に由来するアレルギーに関与するタンパク質が同定されかつそのタンパク質が伝達された遺伝子によってコード化されたタンパク質を含まない場合を除いては避けるべきである。

46. 食品中で生存可能である組換えDNA微生物は、腸管の免疫系と相互作用を持つ場合がある。こうした相互作用に関して必要となる詳細な試験は、組換えDNA微生物と既存の対応物における相違点の種類によって異なる。

ヒトの消化器管における微生物の生存能力と残留に関する評価

47.組換えDNA微生物を利用して製造する食品の中には、こうした微生物の摂取や残留12がヒトの腸管に影響を与えるものもある。こうした微生物をさらに調べる必要があるか否かは、食品中の既存の対応物の存在及び遺伝子組換えの意図的・非意図的影響の本質に基づいて判断する。最終食品の加工によって生存可能な微生物が除去される場合(製パン時の加熱処理など)、または微生物に対して毒性のある最終製品が蓄積(アルコールや酸など)することによって生存能力が排除される場合、消化器系における微生物の生存能力及び残留については調べる必要はない。

48.製造に用いる組換えDNA微生物が最終食品中で生存し続ける場合は(一部の乳製品における生物など)、[動物モデル系の消化器官における微生物の生存能力を提示するか、または消化器官における微生物の定着時間や消化器系における他の微生物に影響を与える用量を設定することが望ましい場合もある]、[消化管における微生物の生存能力及びコロニー形成のみならず消化器系において他の微生物に影響を及ぼす用量を提示することが望ましい]、または[微生物単独の生存能力(または定着時間)と消化管における食品基質内での生存能力、また腸内フローラに対する影響を適切な実験系で調べるべきである][意図的影響の本質及び既存の対応物との相違の程度により、こうした試験の範囲を決定する]。

抗生物質耐性と遺伝子導入

49.一般的に、食品加工のために開発された微生物の従来株は、これまで抗生物質耐性について評価されたことがない。食品製造に用いられる多くの微生物には、特定抗生物質に対する耐性が内在する。こうした特性を有する場合、組換えDNA微生物の構築における受容体としてこうした株を検討の対象から除外する必要はない。しかし、[こうした耐性が遺伝因子に存在する場合は]組換えDNA株の構築のための受容体候補としては伝達可能な抗生物質耐性を有する株は避けるべきである。こうした耐性遺伝子を含むプラスミド・トランスポゾン・インテグロンが存在しないことを[実証]すべきである。

50.安全性が実証されており、食品中に存在する生存可能な微生物の抗生物質耐性マーカー遺伝子に頼らない代替技術は、組換えDNA微生物の選択を目的として使用されるべきである。一般的に、抗生物質耐性マーカーが最終構成体から除外されていれば、中間株の構築のために抗生物質耐性マーカーが使用された場合、食品製造において最終株の使用を排除しうる有意な危害をもたらすことはないであろう。

51.腸内フローラと摂取された組換えDNA微生物の間で、プラスミド及び遺伝子の伝達が起こる可能性がある。組換えDNA微生物及び組換えDNA微生物によって製造された食品から消化管微生物またはヒト細胞への遺伝子の伝達の可能性及びその影響も検討すべきである。伝達されたDNAは選択的ストレスがなければ残留する可能性は低い。しかし、こうした事象の可能性を完全に無視することが出来ない。

52.遺伝子伝達の可能性を最小化するために、以下の段階を検討すべきである。
挿入遺伝物質が染色体に組込まれることがプラスミドに局在するより望ましい場合がある。
[組換え微生物が食品製造に用いられ、消費後にヒト消化管で生存し続ける条件下において]選択的優位を提供する可能性がある遺伝子は、導入遺伝物質の構築においては避けるべきである。
他のゲノムへの融和を媒介する配列は、導入遺伝物質の構築においては避けるべきである。

栄養学的な修飾

53.主要栄養素に起こりうる組成の変化に関する評価は、組換えDNA微生物を利用して製造した食品の全てについて実施すべきであるが、これは既に「主要成分の組成分析」で扱っている。こうした修飾が行なわれた場合は、食品について変化の影響ならびにこうした食品が食品供給に導入された時、栄養摂取に変化をきたす可能性が高いかどうかを評価するために、更に試験を実施すべきである。

54.食品およびその派生物の使用と消費についての既知のパターンに関する情報は、組換えDNA微生物を用いて製造した食品の想定される摂取量を概算するために使用すべきである。こうした食品の予測摂取量を用いて、通常の消費量と最大消費量の両方について改変された栄養特性の栄養学的意味を評価すべきである。最も消費の可能性の高いものに関する概算値を基盤とすると、望ましくない栄養学的影響を判定することが可能である。乳児・小児・妊産婦・授乳婦・高齢者・慢性疾患や免疫系疾患を有する人など特定母集団における特定の生理学的特性及び代謝条件に注目すべきである。母集団中の特定小集団の栄養学的影響や食事に対する必要性の解析に基づき、栄養学的評価が更に必要となる場合もある。修飾された栄養素はどの程度まで生体利用ができ、時間・加工・保存に対し安定であるかを確認することも重要である。

55.微生物を利用して製造した食品の栄養レベルを変えるためにモダンバイオテクノロジーを使用すると、栄養特性に大きな変化が生じる可能性がある。微生物を意図的に修飾することにより、製品の全体的栄養特性が変化し、食品を消費する個人の栄養状態に影響を与えることもあり得る。全体的栄養特性に影響を与える可能性を有する変化によって生じる影響を調べるべきである。

56.修飾によって既存の対応物とは組成が大きく異なる食品が生じた場合、食品の栄養学的影響を評価するための適切な比較対象として、通常の食品または食品成分(栄養学的組成が組換えDNA微生物を利用して製造した食品に近い食品)を追加して用いることは適切であろう。

57.さらに食品によっては追加試験が必要な場合もある。例えば、栄養素の生物学的利用性の変化が予測されたり、組成が通常食品とは異なる場合は、組換えDNA微生物を利用して製造した食品について動物給餌試験が当然必要となるであろう。また健康増進を目的とする食品については、特定の栄養学的・毒性学的試験またはその他適切な試験など、こうしたガイドラインの適用範囲を超えた評価が必要な場合がある。食品の特徴付けの結果、利用可能なデータでは総合的な安全性評価の実施には不十分であることが分かった場合は、適切に計画され、丸ごとの食品を対象とした動物試験が必要となる場合がある。

安全性評価の検討

58.安全性評価の目標は、栄養量や栄養価の変化が食事に及ぼす影響を考慮に入れて、組換えDNA微生物を利用して製造した食品が既存の対応物と同様に安全であるかどうかを判定することである。しかし安全性評価は元の安全性評価の判定に疑問を投じるような新たな科学的情報に照らして行うべきである。


1 こうした場合に含まれる微生物には細菌・イースト・線維状真菌などがある(こうした利用の例としてはヨーグルト・チーズ・発酵ソーセージ・納豆・キムチ・パン・ビール・ワインの製造などが挙げられるがそれに限定されない)。
2 食品に安全に使用されてきた歴史のない場合、食品の製造に用いられる微生物の安全性を立証する基準については、本文書では扱わない
3 作業部会は、食品添加物に関するFAO/WHO合同委員会(JECFA)が食品加工に用いる「酵素製剤のための一般規格と検討事項」に関するガイドラインを改訂中であると述べた。このガイドラインは、遺伝子組換え微生物由来酵素製剤の評価に用いられている。
4 これには、マクロインジェクション・ケモポレーション・エレクトロポレーション・マイクロエンカプシュレーション・リポソーム融合など微生物外で生成した遺伝物質の微生物内への直接導入の関わるベクターシステムや技術を用いる組換えDNA技術が含まれるが、これに限定されない。
5 当面はモダンバイオテクノロジー応用微生物は既存の対応物として用いないということで合意が得られている。実質的同等性の概念については、バイオテクノロジー応用食品に関するFAO/WHO専門家会議-遺伝子組換え植物の安全性(2000年5月29日〜6月2日、スイス・ジュネーブ)と、バイオテクノロジー応用食品に関するFAO/WHO合同専門家会議-遺伝子組換え微生物由来食品の安全性評価(2001年9月24〜28日、スイス・ジュネーブ)のセクション4.3を参照。
5 実質的同等性の概念については、バイオテクノロジー応用食品に関するFAO/WHO専門家会議−遺伝子組換え植物の安全性(2000年5月29日〜6月2日、スイス、ジュネーブ)と、バイオテクノロジー応用食品に関するFAO/WHO合同専門家会議−遺伝子組換え微生物由来食品の安全性評価(2000年9月24〜28日、スイス、ジュネーブ)のセクション4.3を参照。
6 遺伝的交換の一般的メカニズムは脚注4に明記されている。可動性プロモータ因子またはウィルス媒体交換事象・過程はまだ利用できない可能性があるが、列記した一般分類と同様に有効である。
7 微生物ゲノムは真核より流動性が高い。つまり、微生物の成長が早く環境の変化に順応しやすければそれだけ変化に弱い。染色体再配列は一般的である。微生物の一般的遺伝子可塑性が微生物における組換えDNAに影響することもあるので、組換えDNA微生物の安定性評価において考慮しなければならない。
8 [組換え株は、遺伝的安定性を実証するため、製造の継続期間中は間断無く使用できる継続的な二次培養または新培養において維持すべきである]
9 経口毒性試験に関するガイドラインは、国際学会で策定されており、例えば、化学物質の試験に関するOECDガイドラインがある。
10 主要栄養素または主要抗栄養素は、食事全体に大きな影響を与える可能性のある特定食品の成分である。これらは主要栄養素(脂肪・タンパク質・炭水化物)、抗栄養素としての酵素阻害因子、非主要栄養素(無機質、ビタミン)である。主要毒素は毒性と量が健康に重大な影響を与える可能性のある化合物など微生物によって製造されることが分かっている毒性学的に重要な化合物である。食品加工に伝統的に用いられている微生物は通常は、製造条件下でこうした化合物を生成することは知られて
11「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案のアレルギー誘発性の評価に関する添付資料案」(規格作成手続きステップ4)を含むコーデックスの組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン案(規格作成手続きステップ7)。
12摂取した微生物による永久的コロニー形成はまれである。経口摂取微生物の中には投与終了から数週間後に糞や直腸粘膜で回収されるものもある。残留とは、消化管において微生物が腸通過時間の2倍以上生存することを指す(国際生命科学研究所、"食品として用いる生存可能な遺伝子組換え微生物の安全性評価"、1999年、ブリュッセル; バイオテクノロジー応用食品に関するFAO/WHO合同専門家会議-"遺伝子組換え微生物由来食品の安全性評価"、2001年9月24〜28日、スイス・ジュネーブ)。

トップへ