市町村社会福祉行政と地域福祉
−福祉事務所の位置−

日本社会事業大学
学長  大橋  謙策


【  市町村社会福祉行政と地域福祉  −福祉事務所の位置−  】

日本社会事業大学
学長  大橋  謙策

(はじめに)

T.  次の事例A  事例Bに福祉事務所はどう対応するか

事例Aと事例Bの図


II. 地域福祉の考え方とシステムのあり方
 
(地域福祉の考え方)
地域での自立生活を支援する新しい社会福祉の考え方であり、新しいサービスシステムである。
自立生活の“自立”のとらえ方を多角的にし、生活者としての主体性を確立し、多様な社会資源を有効に活用して、社会生活を営めるよう支援することを中軸としつつ、それを可能ならしめる地域(重層的)の環境を醸成することを統合的に展開する考え方であり、実践システムである。
生活支援においては行政による制度的サービス(フォーマルサービス)と近隣住民・ボランティアによるインフォイーマルサービスとを有機的に提供できるシステムづくりが重要になる。
実践としては、ICFの視点を踏まえたケアマネジメントを手段として活用したコミュニティソーシャルワークの視点と機能が必要となる。
(『新版 地域福祉事典』編集代表  大橋  謙策  中央法規  2006年参照)

(地域福祉推進のシステムづくり)
基礎自治体を基盤としつつも、人口分布、生活圏域、地形、交通網等により、基礎自治体を複数の「在宅福祉サービス地区」に分け、住民の空間的、距離的福祉アクセシビリティを考え、「第三の分権化」を図るシステムを作る。

自立生活支援に求められる総合性(“生活便利屋”的機能も重要)を考えると住民の多様な福祉アクセシビリティ(相談のしやすさ。内容の多様性と総合性等)に配慮する必要があり、そのために出来る限りの縦割り行政を廃し、「在宅福祉サービス地区」毎に「保健福祉サービスセンター」を設置し、小地域単位で社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、保健師等がチームアプローチできるシステムを作ることが必要。(目黒区、豊島区、長野県茅野市の例。介護保険制度の日常生活圏域と地域包括支援センターの考え方参照)

基礎自治体毎の地域福祉計画の策定(「在宅福祉サービス地区」毎の地区計画も包含)を推進すると同時に、その策定及び進行管理をオーソライズするためにも、条例による「地域福祉審議会」を設置させることが重要。住民参加による審議会運営とする。
(平成六年東京都狛江市市民福祉条例制定)
(拙稿「地域福祉計画とコミュニティソーシャルワーク」
『ソーシャルワーク研究』第28巻1号  2002年  相川書房  参照)
基礎自治体毎に「保健・医療・福祉の関係者の協議会」を設置し、事例に基づくトータルケアのあり方、基礎自治体における関係職員の合同研修(公私を問わず)の実施等についての協議の場を作る。
(香川県琴平町、長野県茅野市)
市町村社協に「地域福祉プラットホーム」を設置し、NPO法人等のアソシエーション型組織と町内会等の地域コミュニティ型組織とが交流できる協議の場を提供する。
地域自立生活を支援するためには、“生活便利屋”機能が重要であり、生活衛生同業組合法や生協法、農協法等の改正も視野に入れた「福祉コミュニティビジネス」の起業化を促進させる。
(埼玉県地域福祉推進委員会・地域密着型コミュニティビジネスに関する報告書、平成一七年三月参照)

(地域福祉推進の方法-コミュニティソーシャルワーク機能)
以下に記すコミュニティソーシャルワークの機能を全て一人の職員が行うということではなく、地域において組織としてこれらの機能を発揮できるシステムが重要になる。ただし、事例によっては一人のワーカーがかなりの機能を担うことが求められることがあり、そのためにも福祉アクセシビリティを考える必要がある。
コミュニティソーシャルワークとして求められる機能を列挙するとすれば、以下の項目が考えられる。
[1] ニーズキャッチ機能−アウトリーチ型ニーズキャッチ方法やブラッドショウのいうフェルト・ニーズやノーマティブ・ニーズの重要性に留意すること。
[2] 個別相談・家族全体への相談機能−エコロジカル・アプローチの考え方を踏まえて、かつ多問題家族にもチームケアマネジメントを前提として一人のソーシャルワーカーがジェネラルソーシャルワークの視点で援助することに留意すること。
[3] ICFの視点及び自己実現アセスメントシート及び健康生活支援ノート式アセスメントの視点を踏まえたケアマネジメントを基に、“求めと必要と合意”に基づく援助方針の立案及びケアプランの遂行。
[4] ストレングス・アプローチ、エンパワーメント・アプローチによる継続的対人援助を行なうソーシャルワーク実践の機能
[5] インフォーマルケアの開発とその組織化機能―個別ニーズに即するボランティア活動の開発と組織化機能及びそれらボランティア活動のNPO法人化支援機能に留意すること。
―福祉教育及びボランティア活動の推進
[6] 個別援助に必要なソーシャルサポートネットワークの組織化と個別事例毎に必要なフォーマルサービスの担当者とインフォーマルケアサービスの担当者との合同のネットワーク会議の開催・運営機能
―市町村内の機関レベルの関係者のネットワーク会議とは別に地域自立生活支援のためのフォーマルサービスの担当者とインフォーマルケアサービスの担当者との事例毎の個別会議を作ること。またその機能の違いに留意すること。
[7] サービスを利用している人々の組織化とピアカウンセリング活動促進機能―専門職のパターナリズムに気をつけること。専門職と福祉サービス利用者とのパートナーシップ及び専門職のノーマティブニーズキャッチ機能は専門職のパターナリズムとは違うことに留意すること。
[8] 個別問題に代表される地域問題の再発予防及び解決策のシステムづくり機能
地域に存在する個別問題ととらえられがちな問題も実は他の生活問題と共通性を有していることがあるので、問題の普遍化、一般化を地域住民に提起する機能の重要性に留意すること。また、それらの問題解決に必要なシステムづくりも展望しつつ、個別解決に終わらせないようにすることに留意すること。
福祉教育、ソーシャルサポートネットワークづくり
[9] 市町村の地域福祉実践に関するアドミニストレーション機能
従来の社会福祉行政は機関委任事務であったこと、措置行政であったことから、行政から委託を受けるか、補助金を支出されれば事業を実施するという社会福祉関係者の意識がある。しかしながら、ソーシャルワークは先に問題を発見し、解決するプログラムを考え、その実践に必要な財源も創意工夫することが求められる。助成団体への申請の仕方等も含めて財源確保に関する機能も重要であることに留意すること。(英国のCAF等が参考イメージ)また、市町村における分権化が推進される状況の中で、市町村の保健、医療、福祉に関する財源が有効、かつ合理的に活用され、なおかつ住民にとってそれがトータルケアになっているという視点から、市町村の地域福祉行政に関するアドミニストレーション機能が今後重要になることに留意すること。
[10] 市町村における地域福祉計画づくり機能
市町村の地域福祉計画はコミュニティソーシャルワークの機能を展開する上で明らかになったこと、解決すべきことを盛り込むことが基本になる。在宅福祉サービスのサービス整備量にしてもサービスメニューにしても、コミュニティソーシャルワークとしてのアセスメントの中で明らかになってくる。

III. 市町村社会福祉行政の運営管理と福祉事務所
 
[1] 介護保険制度の保険者の役割及び課題と福祉事務所
[2] 指定管理者制度の導入、アウトソーシングの時代における社会福祉行政の運営管理と福祉事務所
[3] 市町村における福祉サービスの向上と「公私」福祉人材の研修に関わる運営管理と福祉事務所
[4] 地域トータルケアシステムと福祉事務所
[5] 住民参加による運営管理と福祉事務所

IV. 地域自立生活支援と福祉事務所
 
[1] 地域包括支援センターと福祉事務所
[2] コミュニティソーシャルワークの機能と福祉事務所
[3] 子ども家庭支援センターの機能と福祉事務所(家庭相談室)

V. 市町村社会福祉行政の企画計画化と福祉事務所
 
[1] 住民参加による地域福祉計画づくりと福祉事務所
[2] ニーズキャッチのシステム機能と福祉事務所
[3] 新しいサービス開発機能と福祉事務所

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