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レジオネラ症の知識と浴場の衛生管理

はじめに

 入浴施設では、充分に原湯又は循環ろ過水を供給することにより溢水させ、塩素消毒等で浴槽水を清浄に保つことが必要ですが、それだけで十分なレジオネラ症の防止対策とはなりません。
 入浴施設では、常に入浴者の体表等に由来する有機物質が補給されているので、これらを栄養源として増殖する微生物が侵入すると、浄化装置のろ材表面と浄化漕の壁面はもちろん、浴槽や循環配管の内壁、配管の継ぎ手などに定着して増殖し、生物膜を形成します。レジオネラ属菌などの病原微生物も生物膜の内部で増殖し、しかも外界からの不利な条件(塩素剤等の殺菌剤)から保護されています。また、レジオネラ属菌が宿主とするアメーバには、殺菌剤の負荷をかけると栄養体形からシストを形成し、抵抗性を示すようになるものもあるので、レジオネラ属菌の駆除には浴槽水を単に塩素剤等で消毒すれば良いというものではなく、常にその支持体となっている生物膜の発生を防止するための措置を行うこと、さらに生物膜を監視し、生物膜が形成されれば、その除去を行うことが必要です。 生物膜は、必ずしも循環系だけに発生する訳ではありません。温泉や井水等を利用する場合には、湯水の供給系の衛生管理を怠ると貯湯タンクがレジオネラ属菌に汚染されることもあります。
 毎日、浴槽を洗浄・換水し、浴槽水を循環させない浴槽では、生物膜は形成されにくいと考えられますが、浴場の稼働と同時に循環ろ過装置を稼働している入浴施設では、たとえ、毎日完全に換水していても循環系の内壁やろ材に生物膜が形成されレジオネラ属菌を定着させる環境にあることに留意して下さい。
 特に、循環ろ過器に微生物を繁殖させて湯水を浄化する方式(生物浄化方式)の循環式浴槽は、ろ過装置がレジオネラ属菌の供給源となるため、使用者はその危険性をよく認識しなければなりません。また、感染に対する抵抗力が高くない高齢者を対象とする施設に設置している場合には、十分な管理が必要です。


I レジオネラ症の基礎知識

1 レジオネラ肺炎は、病勢の進行が早く、致死率の高い感染症

2 汚染された人工環境水のエアロゾルが感染の主な原因


II 入浴施設におけるレジオネラ防止対策の基本的考え方

 入浴施設におけるレジオネラ症の発生防止対策としては、これまでのレジオネラ症の発生事例を踏まえると、
 (1)レジオネラ属菌の浴槽水への侵入を抑制するための衛生管理及び構造設備上の措置
 (2)浴槽、配管、循環ろ過装置等における生物膜の発生防止及び除去を行うための洗浄、消毒等の衛生管理上の措置
 (3)循環水の微粒子(エアロゾル)が空気中に分散することを防止するための構造設備上の措置
を併せて、総合的な対策を講じることが重要です。
 大型入浴施設になればなるほど湯水の節約を行うため構造が複雑になり、レジオネラ属菌の供給源となる配管等にある湯水の滞留箇所や様々な目的に使用される漕(タンク)が増える傾向にあります。また、温泉水を利用するような設備にあっては、特別な配慮が必要な場合もあります。
 浴場等の構造設備は施設ごとに異なる中で、各営業者等が講ずるべきレジオネラ属菌による汚染の防止措置は異なってきます。以下の留意すべきポイントをよく理解していただき、最も適切な措置が講じられるよう各々がよく検討する必要があります。
 特に大型入浴施設の管理者には、浴槽・循環経路毎に、どのような管理ポイントがあるのか検討し、その管理ポイント毎の管理表を作成して、科学的に衛生管理を行うことをお勧めします。


III レジオネラ属菌の浴槽水への侵入を抑制するための衛生管理 及び構造設備上の措置

 気泡発生装置等の空気取入口
 気泡発生装置等の空気の取入口には、砂塵の侵入を防止するため目の細かい防虫網を設けることが必要です。

 浴場排水熱回収用温水器(熱交換器)の給水管
 現在、多くの公衆浴場などで使われている熱回収用温水器は、汚れた浴場排水と給水が管壁だけで接しているため、腐食などで管にピンホールができた場合には、給水を汚染するおそれがあります。浴場排水は非常に汚れており、給水系統が汚染された場合の被害は甚大なものとなります。従って、給水管は常に正圧(排水管より圧力が高い状態)にするとともに、ピンホールができていないか定期的に検査を行い、汚染防止に努めるなど温水器の維持管理には十分な注意が必要です。

 温泉水等の貯湯タンク
1) 温泉等で貯湯タンクを設けている場合には、レジオネラ属菌の繁殖あるいは混入を防ぐために、湯温は60℃以上に設定し、タンクが外気と遮断されているか、破損箇所はないかを定期的に調べます。
2) 湯温が60℃以上に設定出来ない場合には、元湯がレジオネラ属菌に汚染されている可能性があるので、貯湯温度を高められる装置に取り替えることを検討する必要があります。
3) 貯湯タンクなどは定期的に清掃を行い、常に清浄な状態を保つことが大切です。清掃を行う場合には、作業従事者はエアロゾルを吸引しないようにマスク等を付けるなどの安全対策を講じることが必要です。
4) 貯湯タンク底部は、上部に比べ低温になりやすく、汚れも堆積しやすいのでレジオネラ属菌が高濃度で検出する可能性があります。そのため、貯湯漕のドレン管から定期的に底部の滞留水を排水するようにします。
5) 貯湯タンクの保有水量が使用量に比べて過大になると、滞流水となって水質悪化を招くおそれがあるので、原湯を貯湯タンク内に滞留させないように適切な湯量で貯湯することが必要です。
6) 源泉が離れている場合には、施設への配湯管は、高温水でも劣化せず、温度が低下しにくい材質のものを使用します。

 露天風呂
 露天風呂は、常時、レジオネラ属菌の汚染の機会にさらされているため、浴槽の湯は常に満杯状態とし、溢水を図り、浮遊物の除去に努める必要があります。循環ろ過装置を使用していない浴槽水や毎日完全換水型浴槽水は、毎日完全に換水し、連日使用型循環浴槽水は、1週間に1回以上定期的に完全換水し、浴槽の消毒・清掃を行います。
 内湯と露天風呂の間は、配管を通じて、あるいは入浴客によって、露天風呂の湯が内湯に混じることのないように注意する必要があります。

 ろ過装置の性能
 ろ過装置は、1時間あたりで、浴槽の容量以上のろ過能力を有することが必要です。
 ろ過器には大きく分けて、(1)砂式、(2)けいそう(珪藻)土式、(3)カートリッジ式の3つの方式があります。公衆浴場における衛生等管理要領等では、循環式浴槽のろ過能力は、1時間に浴槽の湯が1回以上ろ過されることとされていますが、一般には1.5〜3回程度の能力としている例が多いようです。
(1)砂式
砂式は、水質の変動に強く操作が容易で比較的安定した水質が得られるため、一般に大型の入浴施設に多く使われています。ろ過タンク内に、粒子径や比重の異なる天然砂やアンスラサイトなどを積層して湯をろ過するもので、20〜50μm程度まで の汚濁物質をろ過します。ろ過能力はろ過速度によって左右され、一般に25〜50m/hのものが使われていますが、ろ過精度を考えれば40m/h以下の速度を維持することを推奨します。
(2)けいそう土式
合成繊維膜に微細なけいそう土粉末を2〜6mm程度付着させて、ろ過膜を作りろ過 するもので、5μm程度までの汚濁物質のろ過も可能です。ろ材が詰まったらけいそう土を洗い落として、新しいけいそう土を付着させてろ過膜を作り直します。このろ過器は、公衆浴場などで使われている例が多いようです。
(3)カートリッジ式
合成繊維の糸を筒形に巻いたカートリッジと、ポリエステル不織布のプリーツ形カートリッジをろ材にしたものがあり、ろ過水量に応じた本数をタンク内に納めたもので、10〜15μm程度までの汚濁物質を捕捉できます。糸巻き式のカートリッジは、逆洗してろ剤を洗浄することができず、一般には消耗品として破棄し、プリーツ形はタンクから取り出して洗浄できますが、操作が容易ではありません。現在では、比較的入浴者が少なく小規模な浴槽に使われていますが、逆洗浄の配慮のないものが多いので、機種の選択にあっては注意を要します。


IV 浴槽、配管、循環ろ過装置等における生物膜の発生防止及び 除去を行うための洗浄、消毒等の衛生管理上の措置

1 日常の管理方法
1)浴槽、配管、循環ろ過装置の維持管理
 浴槽水は毎日完全に換水をすることが原則ですが、それによりがたい場合でも、1週間に1回以上、定期的に完全に湯水を落とし、その際に塩素剤等で浴槽、配管、ろ過装置等を消毒・清掃します。ろ過装置は、ろ材に有機物がたまり、多数の微生物が繁殖し生物膜が発生しやすい場所です。消毒の前に必ずろ過装置の逆洗を行い、汚れを排出します。なお、可能ならば頻繁に逆洗してろ材を十分洗い、汚れを排出することが奨められます。特に直径10〜20mm以上の大きな石を使用している場合は、逆洗が不十分となり隙間に生物膜を形成し易いので、徹底した洗浄と消毒が必要です。
 具体的に塩素剤等で消毒する方法は以下の方法があります。
高濃度塩素消毒
 高濃度の有効塩素を含んだ浴槽水を、配管の中に循環させることで殺菌する方法です。残留塩素濃度は高い程(10〜50mg/Lが一般的)良いのですが、循環系内の配管などの材質の腐食が憂慮される場合には、5〜10mg/L程度に抑えておく方が無難です。この状態で、浴槽水を数時間循環させます。バイオフィルムが存在している循環系に塩素を入れると、塩素は微生物の細胞膜を破壊してタンパクや多糖類を溶出させるので、浴槽水が濁ったり発泡したりすることがあります。
 特にろ過装置のろ材に、多孔質の自然石、人造石(セラミック製のボール、砂等)などを用いたものは、十分な消毒が必要です。
その他
 最近では、次亜塩素酸ナトリウムと併用して、水中で二酸化塩素を発生させる薬剤もみられ、スライムの除去・消毒を行う方法も用いられています。
2)消毒装置の維持管理
 薬液タンクの塩素系薬剤の量を確認し、補給を怠らないようにしなければなりません。送液ポンプが正常に作動し、薬液の注入が行われていることを毎日確認します。注入弁のノズルが詰まったり、空気をかんだりして送液が停止している例がよく見受けられます。
 一般によく使われている市販品の次亜塩素酸ナトリウム溶液は、有効塩素濃度が12%ですが、そのまま使うとノズルが詰まり易いので、5〜10倍に薄めて使用している例が多いようです。また、不純物の多い工業用のものは使用を避け、日本水道協会規格品、食品添加物認定品あるいは医薬品などとして市販されている薬剤を使用することにより、目詰まりはある程度防ぐことができます。いずれにしても、薬剤注入弁は定期的に清掃を行い、目詰まりを起こさないように管理する必要があります。
3)集毛器の維持管理
 集毛器の清掃洗浄は、毎日行います。理由はろ過器と同様に、集毛器自体がレジオネラ属菌の供給源とならないようにするためです。こまめに清掃洗浄を行い、その際に、塩素系薬剤等で集毛部や内部を消毒すると良いでしょう。
4)浴槽オーバフロー回収槽の維持管理
 オーバフロー回収槽の水を再利用することは衛生管理上、決して好ましいものではありません。浴槽水が塩素剤を補給されない状態で滞留するので、回収漕内で微生物が繁殖して生物膜を形成し、レジオネラ属菌が繁殖し易い状態にあります。
 やむを得ず使用する場合には、回収槽内部は常に清浄な状態を保つために、徹底した清掃と消毒を行って下さい。また、塩素剤を循環系とは別途に添加して下さい。
 回収漕は、清掃が容易に行える位置・状態に設置し、地下埋設タイプの回収槽は、十分な清掃ができないなど維持管理の支障となります。周囲に十分な点検スペースをとった床上設置槽をお奨めします。
5)調節箱
 公衆浴場では、洗い場の湯栓(カラン)やシャワーへ送る湯の温度を調節するために「調節箱」を設置している場合があります。この調節箱内部の湯温は、レジオネラ属菌の繁殖に適した温度となるため注意が必要です。従って、定期的に調整箱の清掃を行い、常に清浄な状態を保つことが大切です。
6)浴槽水の管理方法
(1)水質の検査
 浴槽水の水質に関する基準などは、「公衆浴場における水質基準等に関する指針」で以下のように定められています。(温泉等を使用して公衆衛生上問題がない場合には、一部又は全部の基準が適用除外になる。)
  水質基準
  ・濁度は、5度以下であること。
  ・過マンガン酸カリウム消費量は、25mg/L以下であること。
  ・大腸菌群は、50ml中に検出されないこと。
  ・レジオネラ属菌は、10CFU/100mL未満であること。
 浴槽水等の水質検査は、循環式浴槽の形態によって以下のとおり、定期的に行うこととされています。なお、この検査に関する書類は、3年以上保存しなければなりません。
  ・毎日完全換水型1年に1回以上
  ・連日使用型1年に2回以上(浴槽水の消毒が塩素消毒でない場合、1年に4回以上)
(2)塩素系薬剤による消毒方法
 浴槽水の消毒に用いる塩素系薬剤の注入(投入)口は、浴槽水が循環ろ過装置内に入る直前に設置します。ろ過装置のろ材などに微生物が繁殖している場合などには、発泡したり、塩素臭(トリクロラミン等の臭い)がしたり、塩素系薬剤の消費が激しくて必要な塩素濃度を確保できないので、消毒の前にはろ過装置の逆洗、消毒などの徹底した前処理をして下さい。(塩素系薬剤を入れて、湯水が濁るような場合も同様です。)
 循環式浴槽では水温が高く、レジオネラ属菌などの病原微生物もろ材で繁殖しやすいため、ろ過装置が浴槽水へのレジオネラ属菌の供給源となるおそれがあります。特にろ過装置のろ材に、多孔質の自然石、人造石(セラミックボール等)などを用いたものは、十分な消毒が必要です。浴槽等で「炭」を用いている例がありますが、「炭」は多孔質に加えて、塩素を分解する性質があるので、取り出して下さい。
 浴槽水の消毒に用いる塩素系薬剤は、浴槽水中の遊離残留塩素濃度は、少なくとも1日2時間以上、できれば営業時間中0.2〜0.4mg/L(水質が中性付近のもの)に保つことが望ましく、自動注入方式による方法と投げ込みによる方法のいずれの方法においても、浴槽水の遊離残留塩素濃度を測定し、薬剤濃度が高くならないよう(1.0mg/L程度までが望ましい。)に注意する必要があります。
 浴槽水の遊離残留塩素濃度は、1日に2回程度ではなく頻回(1時間、2時間おきなど)に測定し、その記録を3年以上保存して下さい。
 塩素系薬剤の添加量は、入浴者数、循環式浴槽の形態・仕様、ろ材などの汚れの状況、水質などにより、遊離残留塩素の消費量が異なるため、湯量(浴槽内+ろ過装置内+配管内の合計)からだけでは一概に決定することはできません。浴槽水の遊離残留塩素濃度を測定しながら、その量を決める必要があります。
7)温泉水等を利用している場合の注意点
(1) pHによる塩素系薬剤の消毒効果は、殺菌力の強い次亜塩素酸(HClO)と、殺菌力がその1/100程度に過ぎない次亜塩素酸イオン(CIO−)の比率により異なります。以下に示す表のように、アルカリ性に傾くほどCT値(濃度mg/l×時間min 殺菌効果を示す指標で数値が小さい程効果が高い。)が大きくなり、殺菌に要する時間が長くなります。pH9.5でも塩素剤が効かないわけではありませんので、アルカリ性の温泉水等では、遊離残留塩素濃度を維持して接触時間を長くするか又はレジオネラ属菌の検査により殺菌効果を検証し、必要に応じて遊離残留塩素濃度をやや高く設定すること(例えば0.5〜1.0mg/lなど)で対応して下さい。
 地下数百m等から深く掘り下げている温泉等では、地上へ湧出後時間を経ると、温泉に含まれている成分によりアルカリ性に変化するものもあるので、温泉分析表のpHデータを鵜呑みにせず、必ず浴槽水でpHを確認して下さい。

pHとHClOとの関係及び殺菌効果との関係
pH HClO(%) 99.9%殺菌時のCT値
(0.5mg/l時)
6.00 96.9  
6.25 94.7  
6.50 90.9  
6.75 84.9  
7.00 76.0  0.3以下
7.25 64.0  
7.50 50.0  
7.75 36.0  
8.00 24.0  0.3以下
8.25 15.1  
8.50 9.1  0.4
8.75 5.3  
9.00 3.1  1.0
9.25 1.7  
9.50 1.0  2.5
9.75 0.6  
10.00 0.3 23

(2) 酸性(pH5.0以下)の温泉水では、レジオネラ属菌は棲息しないと言われていますが、確実な証拠はありません。また、食塩泉については、試験管内の実験では、3%食塩の存在下でレジオネラ属菌は増殖はしませんが、死滅もしないという結果も得られています。食塩泉と表示されている温泉でも、食塩濃度は様々であるので注意して下さい。
 pH値や食塩濃度を含め、温泉の泉質は補給水の注入や循環ろ過の継続、入浴者の増減によって変化し、決して不変ではありません。そのため、湯のpH値が低く、現行の細菌検査方法でレジオネラ属菌が検出されない場合でも、泉質に関係なく定期的に保守管理を行うことが重要です。
(3) その他、温泉を使用している場合には、温泉成分と塩素系薬剤との相互作用の有無などについて、事前に十分な調査を行う必要があります。単純温泉であっても、規模や様式により結果が異なる場合もありますので、事前調査を行い、各施設が自前のデータを持つことが重要です。なお、温泉成分と塩素系薬剤との反応で、有害あるいは不快な状態に変化する泉質としては、低pH(塩素ガスの発生)、鉄やマンガン(酸化物の生成による着色)が考えられます。
(4) 温泉の泉質等のため、塩素消毒が減弱する場合には、オゾン殺菌、紫外線殺菌、銀イオン、銀・銅イオン、光触媒などの消毒方法を併用することも考えられます。しかし、これらの消毒方法はいずれも消毒効果に残留性がないため、塩素系薬剤と併用することが望ましいと思われます。
 高濃度のオゾンは人体に有害であるため、活性炭などによる廃オゾンの処理が欠かせません。また、紫外線はランプのガラス管が汚れると効力が落ちるため、常時ガラス面の清浄度を保つ必要があり、適切な維持管理が必要です。
 銅イオンはレジオネラ属菌の消毒効果は低く、一般には露天風呂の殺藻を目的として使われています。ただし、浴槽水の水素イオン濃度(pH)が8.0以上の場合には、殺藻効果が著しく落ちるので注意が必要です。
(5) 過マンガン酸カリウム消費量が多い有機質を多く含む泉質では、塩素系薬剤等は無効です。フミン質を多く含むものでは、トリハロメタン等の有害物質も発生す る場合もあります。その他、塩素剤を使用することが不適当な場合で、循環式浴槽を使用するならば、毎日、完全に換水して、浴槽、配管、循環ろ過装置を十分清掃・消毒しないと、レジオネラ属菌が繁殖することとなります。
8)塩素系薬剤と取扱いに当たっての一般的注意事項
 塩素系薬剤には、表に示すように、次亜塩素酸ナトリウム(液剤)、次亜塩素酸カルシウム(散剤、顆粒、錠剤)、塩素化イソシアヌル酸(顆粒、錠剤)などがあり、その使用方法は種類によってそれぞれ異なります。しかし、どの塩素系薬剤を使用しても、水中で次亜塩素酸が生じ、その殺菌効果によって消毒が行われます。
種類 有効塩素(%) 性状
次亜塩素酸ナトリウム 5〜10 液体(アルカリ性)
次亜塩素酸カルシウム    
  さらし粉 30 固体(アルカリ性)
高度さらし粉 70 固体(中性)
塩素化イソシアヌル酸    
  トリクロロイソシアヌル酸ナトリウム 85〜90 固体(酸性)
トリクロロイソシアヌル酸カリウム    
ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム 60 固体(酸性)
ジクロロイソシアヌル酸カリウム    
 塩素系薬剤を使用するにあたっては、消毒効果の減少と事故の発生を防ぐため、取り扱いと保管に注意する必要があります。
 塩素系薬剤は、他の薬品などとの接触や高温多湿を避け、光を遮った場所に保管します。各メーカーから販売されている錠剤、ペレット、粒径の大きい顆粒のものは、消防法上の危険物には該当しませんが、固形の塩素系薬剤は強力な酸化性物質であるため、取扱いを誤ると発火、爆発の危険があります。特に、塩素化イソシアヌル酸と次亜塩素酸カルシウムを混合して使用・保管すると、発熱・発火する恐れがあります。また、次亜塩素酸ナトリウムは強アルカリ性のため、直接皮膚に接触しないようにします。なお、衣服や機械器具に付着すると腐食・損傷する恐れがあります。
 保護具としては、保護マスク、保護眼鏡、保護手袋などがあり、必要に応じて使用します。
 <塩素系薬剤の取り扱い時の救急措置>
  ・皮膚に付着した場合は、流水で十分に洗い流します。
  ・眼に入った場合は、流水で15分間以上洗眼します。
  ・吸入した場合は、新鮮な空気の所へ運び、仰向けか横向きに寝かせ、身体を暖めて血液の循環を良くし、酸素補給を十分にします。
  ・いずれの場合も、医師に事故者を診察してもらうことが必要です。

 ろ過装置及び循環配管の定期的な点検と生物膜の除去
 ろ過装置は、毛髪、垢および生物膜の有無を定期的に点検し、これらを除去することが必要です。また、循環配管の内壁には、ねばねばした生物膜が生成され易く、レジオネラ属菌の温床となります。そのため、年に1回程度は、循環配管内のバイオフィルムを点検し、除去することが必要です。
 厚く繁殖したバイオフィルムの除去には、過酸化水素による処理が考えられますが、危険が伴うことや、洗浄廃液の処理などに専門的な知識が必要です。


V 循環水の微粒子(エアロゾル)が空気中に分散することを防止するための構造設備上の措置

 循環湯の吐出口は浴槽の水面下に設ける。
 循環湯の吐出口の位置は、必ず浴槽の水面より下に設け、浴槽内の湯が部分的に滞留しないように配置しなければなりません。循環湯の一部を、浴槽水面より上部に設けた湯口から浴槽内に落とし込む構造のものがよく見受けられます。これは旅館や娯楽施設の浴場で、湯を豊富に見せるための演出として行われているようですが、新しい湯と誤解して口に含んだりする入浴客もあり、また、レジオネラ症感染の原因であるエアロゾルが発生するなど衛生的に危険なものです。浴槽の湯口からは、新しい温泉水や湯、水以外は流さないようにする必要があります。

 浴槽循環湯を打たせ湯に使用しない。
 湯を上部から落として、マッサージ効果を期待した「打たせ湯」が流行していますが、多量な湯を必要とするため、湯の豊富な温泉地以外では、ほとんどが浴槽循環湯を落としています。打たせ湯は口や目にも入り込むことがあるため、循環浴槽水やオーバーフロー水等を再利用した水をそれに使用することは衛生的に問題があり、また、エアロゾルが発生しレジオネラ感染の危険もあるため好ましくありません。打たせ湯には新しい湯を使用して下さい。

 気泡発生装置の使用には十分な衛生管理が必要です。
 現在、気泡風呂、超音波あるいはジェット風呂などと称する、浴槽内で気泡を発生させて入浴を楽しむ浴槽が多く設置されています。しかし、水面上で気泡がやぶれてエアロゾルが発生するため、レジオネラ属菌が飛散するおそれがあります。従って気泡発生装置を使用する場合はこれによる感染の危険が高くなります。連日使用循環水では使用しないで下さい。毎日浴槽水を換える場合でも、十分な衛生対策を講じた上で使用して下さい。圧縮空気を作るコンプレッサー凝縮水のレジオネラ属菌の汚染も考えられます。
 コンプレッサーのドレン抜きを確実に行って下さい。

 浴槽への補給水や補給湯の配管を浴槽循環配管に直接接続しない。
 浴槽の湯は、入浴者によるかけ湯や溢水などによって減っていくため、新しい湯や水を補給する必要があります。浴槽に補給する湯や水は、必ず浴槽水面上部から浴槽に落としこむ方法をとり、浴槽の湯が給湯・給水配管に逆流しないようにしなければなりません。浴槽循環配管に、給湯配管あるいは給水配管を直接接続することは、逆流防止のため禁止されています。逆止弁を付けても、細菌等の汚濁物質の逆流を防ぐことはできません。


VI その他

1)各施設では、普段から、レジオネラ症の発生やその疑いがあった場合の対応についてシミュレーションしておく必要があります。
 患者発生は、医師の診断および保健所への届出で確認されることが多く、届出の時点ではすでに感染の成立から相当時間が経っている場合があります。このため、各施設では日頃から来客者名や住所などを把握しておくとともに、問題が生じた時には設備の使用を中止し、浴槽水等の消毒を行わずそのままの状態で保存し、保健所等の指示を待ちます。
2)入浴施設を新設し、又は改装した場合には、営業開始前に浴槽、ろ過装置及び配管等を高濃度塩素で消毒し、清掃して下さい。さらにレジオネラ属菌の細菌検査等を実施して下さい。


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