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健発第1029004号
平成14年10月29日




都道府県知事
政令市長
特別区長



殿

厚生労働省健康局長


公衆浴場法第3条第2項並びに旅館業法第4条第2項及び同法施行令第1条に基づく条例等にレジオネラ症発生防止対策を追加する際の指針について


 近年、公衆浴場を発生源とするレジオネラ症の事故が度々起きており、公衆浴場等の安全性に対する社会的な関心が高まりつつあることを背景に、一部の自治体では、標記条例及びこれに基づく規則(以下「条例等」という。)にレジオネラ症発生防止対策を盛り込むことを検討していると承知している。
 当職としては、これまでの集団発生事例に鑑み、条例等へのレジオネラ症発生防止対策の追加は、営業許可に際してレジオネラ症発生防止の観点から十分に審査し得ること、さらに、営業の停止及び許可の取消といった行政処分及び行政指導を行う際にも、明確な根拠をもって対応できることから、有用と判断している。
 そこで、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項に基づく技術的助言として、別紙のとおり、公衆浴場法(昭和23年法律第139号)第3条第2項に基づく入浴者の衛生に必要な措置の基準並びに旅館業法(昭和23年法律第138号)第4条第2項に基づく宿泊者の衛生に必要な措置の基準及び同法施行令(昭和32年政令第152号)第1条に基づく構造設備の基準に係る条例等に、レジオネラ症発生防止対策を盛り込むに当たっての指針を作成したので参考にされたい。
 なお、公衆浴場業及び旅館業以外の施設を含めた包括的なレジオネラ症発生防止対策に関する条例等を制定することについて、妨げるものではないことを念のため申し添える。


(別紙)

公衆浴場法3条第2項並びに旅館業法第4条第2項及び同法施行令第1条に基づく条例等にレジオネラ症発生防止対策を追加する際の指針

 本指針の性格
 本指針は、公衆浴場法(昭和23年法律第139号)第3条第2項に基づく入浴者の衛生に必要な措置の基準並びに旅館業法(昭和23年法律第138号)第4条第2項に基づく宿泊者の衛生に必要な措置の基準及び同法施行令(昭和32年政令第152号)第1条に基づく構造設備の基準に係る条例及びこれに基づく規則(以下「条例等」という。)に、レジオネラ症発生防止対策を盛り込むことを想定して、考え方及び条例等の例文を示したものであり、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項に基づく技術的助言である。
 また、この指針は、指針に記載した措置以外に独自の事項を条例等に追加することについて妨げるものではない(例えば、条例においてレジオネラ属菌の自主検査結果の公表を営業者に義務付ける措置等)。
 なお、条例等の制定後、当該条例等の条項に違反し、入浴者や宿泊者の衛生等に必要な措置を講じず、かつ、レジオネラ症発生の危険性のある営業者に対しては、営業の停止等の措置を講じることができ、このような行政上の命令に違反したり、必要な報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は行政庁の検査を拒み、妨害等の行為を行った営業者には、公衆浴場法及び旅館業法に基づく罰則の対象ともなり得ることを念のため申し添える。

 入浴施設におけるレジオネラ症発生防止対策の基本的考え方
 近年、入浴施設では、湯水の節約を行うため、レジオネラ属菌の供給源となりやすいろ過装置を中心とする設備、湯水を再利用するため一時的に貯留する槽(タンク)及びそれらの設備をつなぐ配管を伴い、複雑な循環系を構成することが多くなっている。また、昨今の温泉による健康づくりを背景として、温泉水を利用する設備もますます増加し、浴室内では湯を豊富に見せるための演出や露天風呂、ジャグジーや打たせ湯の設置など様々な工夫により、入浴者を楽しませる設備が附帯されるようになってきた。
 これらの入浴施設は、衛生管理及び構造設備上の配慮が欠けていると、レジオネラ属菌の繁殖の原因になりやすく、また、循環水の微粒子(エアロゾル)を通じてレジオネラ属菌感染の原因ともなりやすい。これまでのレジオネラ症の発生事例を踏まえると、
 (1) レジオネラ属菌による浴槽水への汚染を防止するための衛生管理及び構造設備上の措置
 (2) 浴槽、配管、循環ろ過装置等における生物膜の発生防止及び除去を行うための洗浄、消毒等の衛生管理上の措置
 (3) エアロゾルが空気中に分散することを防止するための構造設備上の措置
を併用する総合的な対策を講じることが重要である。
 レジオネラ属菌は、自然環境中に生息する細菌であるため、入浴者の体表に付着したり、土ぼこり及び露天風呂等から浴槽水を汚染しやすいと考えられる。また、温泉水等を利用する施設で一時的に湯を貯留する設備を設けると、それが微生物に汚染されやすい。これらの設備は土ぼこりが入りにくくし、清掃や消毒を十分行われなければならない。
 循環系では、入浴者の体表から各種の有機質が常に浴槽水に補給され、これらを栄養源として、ろ過器のろ材表面(ろ材が多孔性の場合にはその内部を貫通するトンネル内)とろ過器の内壁面はもちろん、浴槽や循環配管の内壁、配管の継ぎ手等に定着して微生物が定着・増殖する。その菌体表面に生産された大量の多糖類は膜(生物膜)を作り、微生物はその中に埋もれて増殖する。レジオネラ属菌などの病原微生物はこの生物膜の内部で増殖し、しかも外界からの不利な条件(塩素剤等の殺菌剤)から保護されている。また、遊離残留塩素は、人間のあか等の汚染物、ろ過器や循環配管に定着する生物膜と接触することにより消費されるため、ろ過器や配管内の壁面が汚れている場合は、塩素剤による衛生管理が困難となる。そのため、レジオネラ属菌を制御するには単に浴槽水に塩素剤等を加えれば良いというものではなく、常にその支持体となっている生物膜の発生を防止するための措置を行うこと、さらに生物膜を念頭に置き、生物膜の形成を認めたならば直ちにそれを除去することが必須である。この点から、ろ過器の前に消毒剤を入れなかったり、多孔質のろ材(多孔質のろ材砕石を「砂」と称して使用することも含む。)でろ過器に微生物を繁殖させて湯水を浄化する方式(いわゆる生物浄化方式)の循環式浴槽は、好ましくない。
 浴室においては、エアロゾルの発生をできるだけ抑え、汚染された湯水による感染の機会を減らすことも重要である。

 入浴施設におけるレジオネラ症防止対策にかかる条例等の例文
 条例等の構成は、各自治体により異なるので、何を条例に盛り込むか、何を細則又は通知等に盛り込むかは、各自治体で考慮すべきである。本例文は、用語の定義、衛生に必要な措置及び構造設備上の措置を条例に、水質基準等を規則に盛り込む場合を想定したものである。
 また、本例文は、旅館業法の法体系に配慮し、便宜上、衛生に必要な措置及び構造設備の基準に分けている。公衆浴場法に基づく場合には、特に、構造設備の基準に関し、同法第2条第2項にいう「構造設備が、公衆衛生上不適当である」か否かの判断の基準たる表現ぶりにする必要がある。
(1)用語の定義
  第A条 この条例において「原湯」とは、浴槽の湯を再利用せずに浴槽に直接注入される温水をいう。
  2 この条例において「原水」とは、原湯の原料に用いる水及び浴槽の水の温度を調整する目的で、浴槽の水を再利用せずに浴槽に直接注入される水をいう。
  3 この条例において「上り用湯」とは、洗い場及びシャワーに備え付けられた湯栓から供給される温水をいう。
  4 この条例において「上り用水」とは、洗い場及びシャワーに備え付けられた水栓から供給される水をいう。
  5 この条例において「浴槽水」とは、浴槽内の湯水をいう。
(2)衛生に必要な措置
  第B条 公衆浴場法(昭和二十三年法律第百三十九号)第三条第二項(旅館業法(昭和二十三年法律第百三十八号)第四条第二項)の措置の基準は、次に掲げる とおりとする。
   一 水道法(昭和三十二年法律第百七十七号)第三条第九項に規定する給水装置により供給される水(以下「水道水」という。)以外の水を使用した原水、原湯、上り用水及び上り用湯並びに浴槽水は、別に定める基準に適合するよう水質を管理すること。
   二 原湯を貯留する貯湯槽(以下「貯湯槽」という。)の温度を、通常の使用状態において、湯の補給口、底部等に至るまで六十度以上に保ち、かつ、最大使用時においても五十五度以上に保つこと。ただし、これにより難い場合には、レジオネラ属菌が繁殖しないように貯湯槽内の湯水の消毒を行うこと。
   三 定期的に貯湯槽の生物膜の状況を監視し、生物膜の除去を行うための清掃及び消毒を行うこと。
   四 浴槽水は、常に満杯状態に保ち、かつ、十分にろ過した湯水又は原湯を供給することにより溢水させ、清浄に保つこと。
   五 浴槽水は毎日、完全に換水すること。ただし、これにより難い場合にあっては、一週間に一回以上完全に換水すること。
   六 ろ過器を使用している浴槽は、一週間に一回以上、ろ過器を十分に逆洗浄して汚れを排出するとともに、ろ過器及び湯水を浴槽とろ過器との間で循環させるための配管(以下「循環配管」という。)について適切な消毒方法で生物膜を除去し、浴槽を清掃すること。
   七 浴槽水の消毒に当たっては、塩素系薬剤を使用し、浴槽水中の遊離残留塩素濃度を頻繁に測定して、通常一リットル中〇・二ないし〇・四ミリグラム程度を保ち、かつ、遊離残留塩素濃度は最大一リットル中一・〇ミリグラムを超えないよう努めるとともに、当該測定結果は検査の日から三年間保管すること。ただし、原水若しくは原湯の性質その他の条件により塩素系薬剤が使用できない場合、原水若しくは原湯のpHが高くこの基準を適用することが不適切な場合、又は他の消毒方法を使用する場合であって、他の適切な衛生措置を行うことを条件として知事が認めたものについては、この限りではない。
   八 前号において、循環配管を設置している場合にあっては、塩素系薬剤はろ過器の直前に投入すること。
   九 消毒装置の維持管理を適切に行うこと。
   十 集毛器は、毎日清掃すること。
   十一 洗い場の湯栓やシャワーへ送る調整箱は、定期的に清掃を行うこと。
   十二 原水、原湯、上り用水、上り用湯、ろ過器を使用していない浴槽水及び毎日完全に換水している浴槽水は、一年に一回以上、連日使用している浴槽水は、一年に二回以上(ただし、浴槽水の消毒が塩素消毒でない場合には、一年に四回以上。)、水質検査を行い、その結果は検査の日から三年間保管するとともに、第一号の基準を超えていた場合には、その旨を知事に届け出ること。
   十三 オーバーフロー回収槽(以下「回収槽」という。)の水を浴用に供しないこと。ただし、これにより難い場合にあっては、回収槽の壁面の清掃及び消毒を頻繁に行うとともに、レジオネラ属菌が繁殖しないように、別途、回収槽の水を塩素消毒等で消毒すること。
   十四 浴槽に気泡発生装置、ジェット噴射装置等微小な水粒を発生させる設備(以下「気泡発生装置等」という。)を設置している場合は、連日使用している浴槽水を使用しないこと。
   十五 打たせ湯及びシャワーには、循環している浴槽水を使用しないこと。
   十六 脱衣室等の入浴者の見やすい場所に、浴槽内に入る前には身体を洗うこと等、公衆衛生に害を及ぼすおそれのある行為をさせないよう注意喚起すること。
   十七 浴槽水を河川及び湖沼に排水する場合には、環境保全のための必要な処理を行うこと。
   十八 営業者は、自主管理を行うため、自主管理手引書及び点検表を作成して、従業者に周知徹底するとともに、営業者又は従業者のうちから日常の衛生管理に係る責任者を定めること。
   (注)第七号に関し、「その他の条件」とは、循環配管を使用しない浴槽において、浴槽の容量に比して、原湯又は原水の流量が多く、遊離残留塩素の維持が困難な場合等を想定している。
(3)構造設備の基準
  第C条 構造設備は、次の各号によらなければならない。
   一 水道水以外の水を原水、原湯、上り用水及び上り用湯として使用する場合は、別に定める基準に適合していることを確認したものであること。
   二 貯湯槽の温度を、通常の使用状態において、湯の補給口、底部等に至るまで六十度以上に保ち、かつ、最大使用時においても五十五度以上に保つ能力を有する加温装置を設置すること。
 それにより難い場合には、レジオネラ属菌が繁殖しないように貯湯槽水の消毒設備が備えられていること。
   三 浴槽における原水又は原湯は、循環配管に接続せず、浴槽水面上部から浴槽に落とし込む構造であること。
   四 ろ過器を設置する場合にあっては、ろ過器は、一時間当たり浴槽の容量以上のろ過能力を有し、そのろ過器のろ材は、十分な逆洗浄が行えるものであるとともに、ろ過器に毛髪等が混入しないようろ過器の前に集毛器を置くこと。
   五 ろ過器等により浴槽水を循環させる構造の浴槽にあっては、浴槽の底部に近い部分で循環している浴槽水が補給される措置が講じられていること。
   六 ろ過器等により浴槽水を循環させる設備にあっては、浴槽水の誤飲を防ぐための措置が講じられていること。
   七 浴槽水の消毒に用いる塩素系薬剤等の注入又は投入口は、浴槽水がろ過器内に入る直前に設置されていること。
   八 回収槽の水を浴用に供する構造になっていないこと。ただし、これにより難い場合、回収槽は、地下埋設を避け、清掃が容易に行える位置又は構造になっているとともに、レジオネラ属菌が繁殖しないように、別途、回収槽の水が消毒できる設備が備えられていること。
   九 気泡発生装置等を設置する場合は、連日使用した浴槽水を使用する構造でないこと。
   十 打たせ湯及びシャワーは、循環している浴槽水を用いる構造でないこと。
   十一 気泡発生装置等の空気取入口から土ぼこりが入らないような構造であること。
   十二 内湯と露天風呂の間は、配管等を通じて、露天風呂の湯が内湯に混じることのない構造であること。
   (注)第一号に関し、公衆浴場法施行規則(昭和23年厚生省令第27号)第1条第5号又は旅館業法施行規則(昭和23年厚生省令第28号)第1条第5号に基づく許可申請書の添付書類として、水道水以外の水を浴用に供する場合は水質検査結果書を加えることを指導すること。
(4)水質基準等(規則に入れ込むことを想定)
  第D条 条例B条第一号及び条例C条第一号に規定する原湯、原水、上り用湯及び上り用水は、上欄に掲げる事項につき同表の下欄に掲げる方法によって行う検査において、同表の中欄に掲げる基準に適合するものとする。ただし、温泉水又は井戸水を使用するものであるため、この基準により難く、かつ、衛生上危害を生じるおそれがないと知事が認めるときは、一から四の基準の一部又は全部を適用しないことができる。
色度 五度以下であること。 比色法又は透過光測定法
濁度 二度以下であること。 比濁法、透過光測定法、積分球式光電光度法、散乱光測定法又は透過散乱法
pH値 五・八以上八・六以下であること。 ガラス電極法又は比色法
有機物等(過マンガン酸カリウム消費量 一リットル中十ミリグラム以下であること。 滴定法
大腸菌群 五十ミリリットル中に検出されないこと。 乳糖ブイヨン−ブリリアントグリーン乳糖胆汁ブイヨン培地法又は特定酵素基質培地法
レジオネラ属菌 検出されないこと(百ミリリットル中に十cfu未満)。 冷却遠心濃縮法又はろ過濃縮法
  2 条例B条第一号に規定する浴槽水は、上欄に掲げる事項につき同表の下欄に 掲げる方法によって行う検査において、同表の中欄に掲げる基準に適合するも のとする。ただし、温泉水又は井戸を使用するものであるため、この基準によ り難く、かつ、衛生上危害を生じるおそれがないと知事が認めるときは、一及 び二の基準のどちらか又は両方を適用しないことができる。
濁度 五度以下であること。 比濁法、透過光測定法、積分球式光 電光度法、散乱光測定法又は透過散 乱法
有機物等(過マンガン酸カリウム消費量 一リットル中二十五ミリグラム以下であること。 滴定法
大腸菌群 一ミリリットル中に一個以下であること。 「下水の水質の検定方法等に関する省令」(昭和三十七年厚生省令・建設省令第一号)第六条に規定する方法
レジオネラ属菌 検出されないこと(百ミリリットル中に十cfu未満)。 冷却遠心濃縮法又はろ過濃縮法


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