ジノカップ試験法(農産物)
1.分析対象化合物
ジノカップ、ジノカップ分解物(2,4-ジニトロ-6-オクチルフェノール(以下、「2,4-DNOP」という。)及び2,6-ジニトロ-4-オクチルフェノール(以下、「2,6-DNOP」という。))
2.装置
液体クロマトグラフ・質量分析計(LC /MS)
3.試薬・試液
次に示すもの以外は、総則の3に示すものを用いる。
1 | mol/Lリン酸緩衝液(pH6.9) リン酸一カリウム68.0g及びリン酸二ナトリウム71.0gに水を加えて溶かし、1,000 mLとする。 |
ジ | ノカップ標準品 本品はジノカップ92%以上を含み、融点は138〜140℃である。 |
4.試験溶液の調製
1)抽出
穀類の場合は、試料10.0gに水20 mLを加え、2時間放置する。果実及び野菜の場合は、試料10.0gを量り採る。
これにアセトニトリル50 mLを加え、ホモジナイズした後、吸引ろ過する。ろ紙上の残留物をアセトニトリル20 mLで洗浄、ろ過し、ろ液を合わせ、アセトニトリルを加えて正確に100 mLとする。この20 mLを採り、塩化ナトリウム10g及び1mol/Lリン酸緩衝液(pH6.9)20 mLを加え、10分間振とうする。静置した後、分離した水層を捨てる。
2)精製
オクタデシルシリル化シリカゲルミニカラム(500 mg)にアセトニトリル10 mLを注入し、流出液は捨てる。これに1)で得られたアセトニトリル溶液を注入し、さらに、アセトニトリル4mLを注入して、全溶出液を採り、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、無水硫酸ナトリウムをろ別した後、ろ液を40℃以下で濃縮し、溶媒を除去する。
3)加水分解
2)で得られた残留物をメタノール2mLに溶解し、1mol/L水酸化ナトリウム溶液10 mLを加え、1分間振とうし、30分間放置する。反応液に1.2 mol/L塩酸10 mLを加え、n-ヘキサン20 mLずつで2回振とう抽出する。この抽出液に、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、無水硫酸ナトリウムをろ別した後、ろ液を40℃以下で濃縮し、溶媒を除去する。この残留物をメタノールに溶解し、正確に10 mLとしたものを試験溶液とする。
5.検量線の作成
ジノカップ標準品の100 mg/Lメタノール溶液を調製し、この2mLを採り、4.3)と同様の操作を行い、その残留物にメタノールを加えて溶かし、10 mLとし、ジノカップ分解物(2,4-DNOP及び2,6-DNOP)のメタノール溶液とする。これをメタノールで希釈し、ジノカップとして0.002〜0.2 mg/L の標準溶液を数点調製し、それぞれ10μLをLC/MSに注入する。各異性体の濃度(ジノカップとしての値)を横軸にとり、ピーク高法又はピーク面積法で各異性体毎に検量線を作成する。
各異性体の濃度は、フラグメントイオンが生じないm/z 295の条件で測定して得られた4本の異性体ピークの高さ比又は面積比を各異性体の存在比として算出する。
6.定量
試験溶液10μLをLC/MSに注入し、各異性体ピークの高さ又は面積を用いて、5の検量線でジノカップ分解物の各異性体の含量を求め、合算してジノカップの含量を求める。
7.確認試験
LC/MSにより確認する。
8.測定条件
LC/MS
カ | ラム:オクタデシルシリル化シリカゲル(粒径5μm)、内径2mm、長さ150 mm |
カ | ラム温度:40℃ |
移 | 動相:0.1%ギ酸及びメタノール混液(2:8)を1分間送液した後、(2:8)から(1:9)までの濃度勾配を2分間で行い、(1:9)で17分間送液する。次いで、(1:9)から(2:8)までの濃度勾配を2分間で行い、(2:8)で13分間送液する。 |
イ | オン化モード:ESI(−) |
主 | なイオン(m/z):209、295 |
保 | 持時間の目安:4本の異性体ピーク9〜11分 |
9.定量限界
0.01 mg/kg
10.留意事項
1)試験法の概要
ジノカップ及びジノカップ分解物(2,4-DNOP及び2,6-DNOP)を試料からアセトニトリルで抽出し、塩析で水を除いた後、オクタデシルシリル化シリカゲルミニカラムで精製後、アルカリで加水分解し、ジノカップをジノカップ分解物に変換する。酸性下でジノカップ分解物をn-ヘキサンで抽出し、LC/MSで測定及び確認する方法である。
2)注意点
(1 | ) 通常、室温30分間放置の条件で、アルカリ加水分解の反応が完結するが、標準溶液等は、HPLC-UV又はGC/MSを用いて、ジノカップの未反応物が存在していないことを確認する。ジノカップはHPLC-UVで測定可能であり、ジノカップ及びジノカップ分解物はGC/MSでも測定可能であるが、いずれも感度が低いため、残留分析には使用できない。 |
(2 | ) ジノカップ分解物のm/z 295での測定は、農産物の種類によっては夾雑物ピークのために定量が困難であることから、夾雑物ピークが少ないm/z 209(フラグメントイオン)で測定及び定量を行う。 |
(3 | ) ジノカップは異性体(6種)の混合物である。本測定条件でジノカップ分解物として4本のピークが検出される。ジノカップ分解物の分子量は296.3であり、LC/MS(m/z 295)による測定時の異性体ピークの面積比はHPLC-UV(260 nm)による測定時とほぼ等しいが、フラグメントイオンであるm/z 209で測定した場合は、HPLC-UV(260 nm)測定による面積比とは異なる。そこで、LC/MS(m/z 209)で測定し、異性体ピーク高さ又は面積の総和で定量すると、標準品と残留物の異性体組成比が異なる場合、誤差を生じるおそれがあるため、各異性体毎に定量した値を合計して分析値とする。 |
(4 | ) 夾雑物ピークによる妨害が認められた場合は、試験溶液を適宜希釈して測定を行う。 |
11.参考文献
1 | )環境省告示第20号「ジノカップ試験法」(平成9年4月30日) |
2 | )農薬残留分析法研究班編「最新農薬の残留分析法」p.228-229、中央法規出版(1995) |
12.類型
C