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ボスカリド試験法(畜産物)


1. 分析対象化合物
ボスカリド

2. 装置
ガスクロマトグラフ・質量分析計(GC/MS)

3. 試薬、試液
次に示すもの以外は、総則の3に示すものを用いる。
ボスカリド標準品 本品はボスカリド98%以上を含み、融点は143〜150℃である。

4. 試験溶液の調製
1)抽出
(1) 筋肉、脂肪、肝臓、腎臓及びその他の食用部分の場合
 筋肉、肝臓、腎臓及びその他の食用部分の場合は、細切均一化した後、その20.0 gを量り採る。
 脂肪の場合は、細切均一化した後、その5.0 gを量り採る。
 これに水20 mLを加え、ホモジナイズしたのち、アセトン・−ヘキサン混液(1:2)100 mLを加え、さらにホモジナイズし、2,500回転/分で5分間遠心分離する。上澄液を200 mLの三角フラスコに分取する。遠心管内の残留物にヘキサン50 mLを加えホモジナイズしたのち、2,500回転/分で5分間遠心分離し、上澄液を上記の三角フラスコに合わせる。これに適量の無水硫酸ナトリウムを加え、時々振り混ぜながら15分間放置したのち、あらかじめ重量を測定したすり合わせ減圧濃縮器中にろ過する。次いで、アセトン・−ヘキサン混液(1:2)20 mLを用いて三角フラスコを洗い、その洗液でろ紙上の残留物を洗う操作を2回繰り返す。洗液をその減圧濃縮器中に合わせ、40 ℃以下で溶媒を除去したのち、残留物の重量を測定し、これを脂肪重量とする。この残留物の全量または一定量を採り、アセトン・シクロヘキサン混液(1:4)で、抽出脂肪0.50 g/5 mLまたは試料5.0 g/5 mLになるように溶解し、これを抽出溶液とする。
(2) 乳、卵の場合
 試料20.0 gを量り採り、アセトニトリル100 mLを加えてホモジナイズしたのち、2,500回転/分で5分間遠心分離する。上澄液を300 mLの分液漏斗に分取する。遠心管内の残留物にアセトニトリル 50 mLを加えホモジナイズしたのち、2,500回転/分で5分間遠心分離し、上澄液を上記の分液漏斗に合わせる。これに塩化ナトリウム 10 gを加え、振とう機を用いて3分間激しく振り混ぜたのち、静置し、分離した水層を除く。アセトニトリル層をすり合わせ減圧濃縮器に移し、40 ℃以下で溶媒を除去する。この時水が残らなかった場合には、残留物に少量のアセトン・シクロヘキサン混液(1:4)を加えて超音波抽出する操作を3回繰り返し、抽出液を合わせて試料 5 g/5 mLになるようにしてこれを抽出溶液とする。また、水が残った場合には、酢酸エチル20 mLを加えて残留物を溶解したのち、無水硫酸ナトリウムを加えて超音波抽出する。抽出液をすり合わせ減圧濃縮器中にろ過し、酢酸エチル10 mLを用いて先の減圧濃縮器を洗い、その洗液でろ紙上の残留物を洗う操作を2回繰り返す。洗液をその減圧濃縮器中に合わせ、40 ℃以下で溶媒を除去する。この残留物をアセトン・シクロヘキサン混液(1:4)で試料 5 g/5 mLになるように溶解し、これを抽出溶液とする。
2)精製
(1) 筋肉、脂肪、乳及び卵の場合
 1)抽出で得られた抽出溶液を3,000回転/分で5分間遠心分離し、その上澄液5 mLをゲル浸透クロマトグラフィー用カラム(ポリスチレンジビニルベンゼン共重合体カラム)に注入し、アセトン・シクロヘキサン混液(1:4)で溶出する。58〜165 mLに溶出する画分をすり合わせ減圧濃縮器中に採り、40 ℃以下で溶媒を除去する。この残留物にアセトン・n−ヘキサン混液(1:1) 2 mLを加えて溶かす。この溶液をあらかじめアセトン・n−ヘキサン混液(1:1) 10 mLで洗浄したエチレンジアミン−N−プロピルシリル化シリカゲルミニカラム(500 mg)に注入したのち、減圧濃縮器をアセトン・n−ヘキサン混液(1:1) 1 mLで洗い、洗液を先のカラムに注入する操作を3回繰り返す。カラムにアセトン・n−ヘキサン混液(1:1) 15 mLを注入し、全溶出液をすり合わせ減圧濃縮器中に採り、40 ℃以下で溶媒を除去する。この残留物をアセトン・n−ヘキサン混液(1:1) 1 mL[脂肪の場合は0.5 mL]に溶解し、これを試験溶液とする。
(2) 肝臓、腎臓及びその他の食用部分の場合
 1)抽出で得られた抽出溶液を3,000回転/分で5分間遠心分離し、その上澄液5 mLをゲル浸透クロマトグラフィー用カラム(ポリスチレンジビニルベンゼン共重合体カラム)に注入し、アセトン・シクロヘキサン混液(1:4)で溶出する。58〜65 mLに溶出する画分(画分I)を採り、この溶液をあらかじめアセトン・シクロヘキサン混液(1:4) 10 mLで洗浄したエチレンジアミン−N−プロピルシリル化シリカゲルミニカラム(500 mg)に注入したのち、容器をアセトン・シクロヘキサン混液(1:4) 1 mLで洗い、洗液を先のカラムに注入する操作を3回繰り返す。カラムにアセトン・シクロヘキサン混液(1:4) 2 mLを注入し、全溶出液を合わせてすり合わせ減圧濃縮器中に採り、40 ℃以下で溶媒を除去する。この残留物をn−ヘキサン 1 mLで溶解し、この溶液をあらかじめn−ヘキサン 10 mLで洗浄したシリカゲルミニカラムに注入したのち、減圧濃縮器をn−ヘキサン 1 mLで洗い、洗液を先のカラムに注入する操作を3回繰り返す。カラムにn−ヘキサン 7 mLを注入し、この溶出液は捨てる。次いで、カラムにエーテル・n−ヘキサン混液(1:19) 15 mLを注入し、溶出液をすり合わせ減圧濃縮器中に採る。また、別に65〜165 mLに溶出する画分(画分II)をその減圧濃縮器中に合わせ、40 ℃以下で溶媒を除去する。この残留物をアセトン・n−ヘキサン混液(1:1) 1 mLに溶解し、これを試験溶液とする。

5. 検量線の作成
 ボスカリド標準品の0.05〜1 mg/L(脂肪の場合は0.01〜0.2 mg/L)アセトン・-ヘキサン(1:1)溶液を数点調製し、それぞれ1 μLをGC/MSに注入し、ピーク高法又はピーク面積法で検量線を作成する。

6. 定量
試験溶液1 μLをGC/MSに注入し、5の検量線でボスカリドの含量を求める。

7. 測定条件
GC/MS
 カラム:5 %フェニル−メチルシリコン、内径0.25 mm、長さ30 m、膜厚0.25 μm
 カラム温度:100 ℃(1分)−30 ℃/分−280 ℃(5分)
 注入口温度:250 ℃
 キャリヤーガス:ヘリウム
 イオン化モード(電圧):EI (70 eV)
 主なイオン(m/z):342、140
 注入量: 1 μL
 保持時間:約10.4 分

8. 定量限界
0.01 mg/kg

9. 留意事項
1)試験法の概要
 ボスカリドを試料からアセトン・−ヘキサン混液(1:2)で抽出(乳、卵の場合はアセトニトリルで抽出)し、ゲル浸透クロマトグラフィーおよびエチレンジアミン-N-プロピルシリル化シリカゲルミニカラムクロマトグラフィーで精製した後、GC/MSで測定、確認する方法である。

2)注意点
(1)  抽出時に上澄液を分取する操作で水を除かない場合は、大量の無水硫酸ナトリウムが必要である。分液漏斗を用いて水層を除去した後に無水硫酸ナトリウムによる脱水を行うとよい。
(2)  ゲル浸透クロマトグラフ条件の例
  カラム ポリスチレンジビニルベンゼン共重合体(内径20 mm、長さ300 mm)にガードカラム ポリスチレンジビニルベンゼン共重合体(内径20 mm、長さ100 mm)を接続したもの、または同等品
  移動相:アセトン・シクロヘキサン混液(1:4)
  流速:5 mL/min
  カラム温度:40 ℃
  注入量:5 mL
  モニター波長:254 nm
  分取範囲 筋肉、脂肪、乳及び卵の場合:58〜165 mL(合計107 mL)
肝臓、腎臓及びその他の食用部分の場合
 画分I:58〜65 mL(合計7 mL)、画分II:65〜165 mL(合計100 mL)

 ゲル浸透クロマトグラフィーは、あらかじめ使用する条件で、指標物質であるアクリナトリンおよびトリシクラゾール、ならびに対象物質ボスカリドの溶出位置を確認し、分取範囲を決定しておく。
分取範囲の確認:アクリナトリン及びトリシクラゾールの5 mg/L混合溶液を移動相で調製し、その5 mLをゲル浸透クロマトグラフに注入して254 nmでモニターし、あらかじめ分取範囲を確認する。溶出液を適当な間隔で分取してGC/MSで測定するなど他の適切な方法を用いてもよい。

   a) 筋肉、脂肪、乳及び卵の場合(図1参照)
     アクリナトリンの保持時間からトリシクラゾールの溶出が終了するまで。
     (例)58〜165 mL(合計107 mL)

図1 筋肉、脂肪、乳及び卵の場合の分取範囲

図1 筋肉、脂肪、乳及び卵の場合の分取範囲

   b) 肝臓、腎臓及びその他の食用部分の場合(図2参照)
      画分I:アクリナトリンの保持時間からアクリナトリンの溶出が終了するまで。
      画分II:画分Iの分取終了からトリシクラゾールの溶出が終了するまで。
      (例)画分I:58〜65 mL(合計7 mL).画分II:65〜165 mL(合計100 mL)

図2 肝臓、腎臓及びその他の食用部分の場合の分取範囲

図2 肝臓、腎臓及びその他の食用部分の場合の分取範囲

(3)  ミニカラムは使用条件で検討対象農薬の溶出調査を事前に行い、溶出位置を確認してから使用する。なお、エチレンジアミン−N−プロピルシリル化シリカゲルミニカラムでは、ボスカリドを保持しないため、注入液から全ての溶出液を捕集する必要がある。
(4)  GC/MS測定において妨害が見られた場合には、シリカゲルミニカラム(690 mg)による 追加精製を行う。[エーテル・−ヘキサン混液(1:49)10 mLで予備洗浄。試料液をエーテル・−ヘキサン混液(1:49)3 mLで負荷、同混液10 mLで洗浄し、次いで、アセトン・−ヘキサン混液(1:1)20 mLで溶出する。]
(5)  GC/MS測定では、ボスカリドの感度が試料の注入の前後で大幅に変動する場合がある。試料を数本注入し、感度を十分に安定させてから標準溶液を注入する等の措置が必要である。
(6)  脂肪含有量が高い試料では、試験溶液の濃縮倍率が低くなる。その際、目標の測定感度が得られない場合には、抽出脂肪を用いてゲル浸透クロマトグラフィー以降の操作を行い、複数の検液を合わせて試験溶液とする。

11  参考文献
なし

12  類型
C


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