妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項の見直しについて
(Q&A)(平成17年11月2日)

厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課

<参考>
 妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項の見直しについて(平成17年11月2日)

<目次>

【語句説明】
1. EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)
2. 耐容量(耐容摂取量)
3. 暴露量
4. 一日摂取量調査(マーケットバスケット方式)

【文章中の記載について】
水銀
魚介類

【注意事項の見直し】
問1  なぜ、今回、妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項の見直しを行ったのですか。

【注意事項の対象者】
問2  今回の注意事項の対象となるのはどのような人ですか。それ以外の人は問題がないのですか。
問3  授乳中の母親も、魚介類の摂食に注意すべきですか。
問4  小児も、魚介類の摂食に注意すべきですか。

【注意事項の概要】
問5  妊婦への注意事項の内容とはどのようなものですか。
問6  エビ、サケ、タラなどは米国の注意事項では摂食量の目安が示されていますが、なぜ、我が国では注意事項の対象とならなかったのでしょうか。
問7  水銀による影響を考えると、妊婦は魚介類を食べない方がよいのですか。
問8  妊婦は注意事項に記載されてある種類以外の魚介類について、安心して食べることができるのでしょうか。
問9  もし、妊婦が注意事項にある魚介類を食べ過ぎてしまった場合はどうすればよいのですか。また、食べ過ぎないようにするためにはどのようにすればよいのですか。
問10  今回の妊婦への注意事項はどのようにして作成されたのですか。
問11  なぜ今回マグロが注意事項にある魚介類に入ったのですか。
問12  マグロについては、どのような注意をしたらよいのですか。
問13  クジラは一般的に水銀濃度が高いのですか。
問14  加工食品で妊婦が気をつけるものはありませんか。

【水銀の健康影響等】
問15  魚介類中になぜ水銀が含まれているのですか。
問16  なぜ、一部の魚介類は水銀の含有量が高いのですか。
問17  現在議論されている水銀の健康影響とはどのようなものですか。
問18  現在の水銀の規制はどのようになっているのですか。
問19  日本人の水銀摂取量はどの程度ですか。
問20  日本人が現在摂取している程度の水銀量は健康に影響があるのですか。
問21  妊娠に気づくのが遅れたのですがどうすればよいですか。また、妊婦は髪の水銀濃度を測定したほうが良いですか。

【今後の予定など】
問22  今回、注意事項の発表に当たり、魚介類の摂食の減少や風評被害につながらないよう、どのような施策を講ずる予定ですか。
別添
 参考 水産物の栄養面での特徴(平成11年度及び14年度漁業白書より抜粋)



【語句説明】
1.  EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)
 魚類、特にいわし、まぐろなど海産魚の脂質に多く含まれる脂肪酸の一種。
 血管障害を予防するほか、アレルギー反応を抑制する作用などがあるとされています。
(平成11年度漁業白書より抜粋 別添参照)

2.  耐容量(耐容摂取量)
 耐容摂取量は、意図的に使用されていないにもかかわらず、食品中に存在したり、食品を汚染する物質(重金属、カビ毒など)に設定されるものです。耐容週間摂取量は、食品の消費に伴い摂取される汚染物質に対して人が許容できる一週間当たりの摂取量となります。
(食品安全委員会「食品の安全性に関する用語集」より引用)

3.  暴露量
 食品を通じたハザード(危害要因)の摂取量。ハザードとは、健康に悪影響をもたらす原因となる可能性のある食品中の物質又は食品の状態。
(食品安全委員会「食品の安全性に関する用語集」を参考)

4.  一日摂取量調査(マーケットバスケット方式)
 国民栄養調査による食品摂取量を参考に市場で流通している農産物等を購入し、通常行われている調理方法に準じて調理を行った後、化学分析を実施し、対象となる農薬の摂取量を調べることを言います。

【文章中の記載について】
水銀
 胎児の健康への影響が懸念されているのは「メチル水銀」ですが、消費者等に分かりやすく伝えるため、特段の必要がない場合には「メチル水銀」とせず、単に「水銀」と記載しています。

魚介類
 「魚介類」には、クジラ類(クジラ、イルカ)を含みます。

【注意事項の見直し】
問1  なぜ、今回、妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項の見直しを行ったのですか。
 1  平成15年6月、メチル水銀の毒性に関する資料、魚介類中の水銀濃度に関するデータ等に基づき、審議会において審議を行い、妊婦を対象に魚介類の摂食と水銀に関する注意事項を公表しました。

 2  その後、国際専門会議(JECFA)において、発育途上の胎児を十分保護するため、暫定的耐容量(PTWI)3.3μg/kgから1.6μg/kgに引き下げられ、また、諸外国において、妊婦等への注意事項の発出あるいは改正が行われました。このようなことにかんがみ、今回、注意事項の見直しに当たって、食品安全委員会に食品健康影響評価を依頼しました。

 3  厚生労働省としては、この食品健康影響評価結果に基づき、審議会における議論を踏まえ、今回、注意事項の見直しを行いました。
 (参考)
  1μgは1/100万グラム(1μg=1/1,000,000g)


【注意事項の対象者】
問2  今回の注意事項の対象となるのはどのような人ですか。それ以外の人は問題がないのですか。
 1  食品安全委員会における食品健康影響評価において、特に水銀の悪影響を受けやすいと考えられる対象者(ハイリスクグループ)は胎児とされました。このため、今回の「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」(以下「注意事項」という。)は妊娠している方または妊娠している可能性のある方(以下「妊婦」という。)を対象としています。
 なお、「妊娠している可能性のある方」とは、食品安全委員会のホームページでは次のとおり説明されています。
  「妊娠可能な女性すべて」という意味ではなく、「妊娠したかな、と思われる女性」という意味と考えてください。妊娠がわかるのはふつう妊娠2ヶ月以降です。胎児に多くの栄養分を運ぶために胎盤組織に大量の血液が流れるようになるのは、胎盤が完成する妊娠4ヶ月以降ですから、妊娠に気がついてから食生活に気をつければ、メチル水銀は体外に排泄されていくので、心配する必要はありません。

 2  食品健康影響評価では、「乳児及び小児については、現時点で得られている知見によれば、乳児では暴露量が低下し、小児は成人と同様にメチル水銀が排泄され、脳への作用も成人の場合と類似している。したがって、ハイリスクグループは胎児と考えることが妥当と判断された。」とされています。このため、乳児、小児や妊婦以外の成人は、注意事項の対象とする必要はないと判断しています。

 3  魚介類は良質なたんぱく質を多く含み、EPA、DHA等の高度不飽和脂肪酸がその他の食品に比べ一般に多く含まれ、また、微量栄養素の摂取源である等重要な食材です。今回の注意事項の見直しが、魚介類の摂食の減少につながらないよう正確な御理解をお願いします。

問3  授乳中の母親も、魚介類の摂食に注意すべきですか。
 1  食品健康影響評価では、母乳を介して乳児が摂取する水銀量は低いことが示されています。このため、授乳中の母親は今回の注意事項の見直しにおいても対象としていません。

 2  魚介類は良質なたんぱく質を多く含み、EPA、DHA等の高度不飽和脂肪酸がその他の食品に比べ一般に多く含まれ、また、微量栄養素の摂取源である等重要な食材です。今回の注意事項の見直しが、魚介類の摂食の減少につながらないよう正確な御理解をお願いします。

問4  小児も、魚介類の摂食に注意すべきですか。
 1  食品健康影響評価では、小児は成人と同様の水銀の排泄機能を有しており、脳への作用も成人と類似していること、「セイシェル小児発達研究」において、子供の神経系の発達にメチル水銀に関連する有害影響が証明されなかったこと等が示されています。これらから、小児は今回の注意事項の見直しにおいても対象としていません。
 
 2  魚介類は良質なたんぱく質を多く含み、EPA、DHA等の高度不飽和脂肪酸がその他の食品に比べ一般に多く含まれ、また、カルシウム等の微量栄養素の摂取源である等重要な食材です。今回の注意事項の見直しが、魚介類の摂食の減少につながらないよう正確な御理解をお願いします。

【注意事項の概要】
問5  妊婦への注意事項の内容とはどのようなものですか。
 1  魚介類は、健康な食生活を営む上で重要な食材です。多くの魚介類は、特定の地域に関わりなく、微量の水銀を含有していますが、一般に含有量が低く、健康に害を及ぼすものではありません(問10参照)。
 しかし、一部の魚介類については、自然界の食物連鎖を通じて、他の魚介類と比較して、水銀濃度が高くなるものも見受けられます。
 近年、魚介類を通じた水銀摂取が胎児に影響を与える可能性を懸念する報告がなされています。この胎児への影響は、例えば音を聴いた場合の反応が1/1,000秒以下のレベルで遅れるようになるようなもので、あるとしても将来の社会生活に支障があるような重篤なものではありません。妊婦は、注意事項を正しく理解するように努めて下さい。
 魚介類は健やかな妊娠と出産に重要である栄養等のバランスの良い食事に欠かせないものです。本注意事項は、妊婦に水銀濃度が高い魚介類を食べないように要請するものではありません。また、本注意事項は、胎児の保護を第一に食品安全委員会の評価を踏まえ、魚介類の調査結果等からの試算を基に作成しました。注意事項の対象となった魚介類を偏って多量に食べることを避け、水銀摂取量を減らすことによって魚食のメリットを活かすこととの両立を期待します。
 妊婦が、注意していただきたい魚介類と摂食量の目安については、次の頁の表をご覧下さい。

<妊婦が注意すべき魚介類の種類とその摂取量(筋肉)の目安>
摂食量(筋肉)の目安 魚介類
 1回約80gとして妊婦は2ヶ月に1回まで
 (1週間当たり10g程度)
 バンドウイルカ
 1回約80gとして妊婦は2週間に1回まで
 (1週間当たり40g程度)
 コビレゴンドウ
 1回約80gとして妊婦は週に1回まで
 (1週間当たり80g程度)
 キンメダイ
 メカジキ
 クロマグロ
 メバチ(メバチマグロ)
 エッチュウバイガイ
 ツチクジラ
 マッコウクジラ
 1回約80gとして妊婦は週に2回まで
 (1週間当たり160g程度)
 キダイ
 マカジキ
 ユメカサゴ
 ミナミマグロ
 ヨシキリザメ
 イシイルカ
参考1)  マグロの中でも、キハダ、ビンナガ、メジマグロ(クロマグロの幼魚)、ツナ缶は通常の摂食で差し支えありませんので、バランス良く摂食してください。
参考2)  魚介類の消費形態ごとの一般的な重量は以下のとおりです。
寿司、刺身  一貫または一切れ当たり  15g程度
刺身  一人前当たり  80g程度
切り身  一切れ当たり  80g程度

 2  例えば、週に1回と注意事項に記載されている魚介類のうち、2種類または3種類を同じ週に食べる際には食べる量をそれぞれ2分の1または3分の1に、また、注意事項に週に1回と記載されている魚介類及び週に2回と記載されている魚介類を同じ週に食べる際には、食べる量をそれぞれ2分の1にするといった工夫をしましょう。また、ある週に食べ過ぎた場合は次の週に量を減らしましょう(具体的な食べ方については、問9を御覧ください。)。

問6  エビ、サケ、タラなどは、米国の注意事項では、摂食量の目安が示されていますが、なぜ、我が国では注意事項の対象とならなかったのでしょうか。
答 
 1  我が国における注意事項の見直しの検討に当たっては、米国等諸外国の注意事項や調査結果も参考にしましたが、国内にお住まいの方々への注意事項のため、国内において流通している魚介類の調査結果(約400種、約9,700検体)を基礎としました。この検査結果によると、エビ、サケ、タラ等の水銀濃度は低く、特に注意を促す必要があるものではないと考えています。

 2  エビ、サケ、タラを含め、今回の注意事項の対象としなかった水銀含有量が低い魚介類からの水銀摂取量は、一日摂取量調査結果における魚介類からの水銀摂取量のほぼ半量です。今回の注意事項の検討においては、これらの水銀含有量の低い魚介類からの水銀摂取量も考慮していますので、魚介類をバランス良く摂食されるようお願いします。

問7  水銀による影響を考えると、妊婦は魚介類を食べない方がよいのですか。
 1  魚介類は一般にヒトの健康に有益です。例えば、平成11年度漁業白書(※)にも、「魚介類の脂質には、生活習慣病の予防や脳の発育等に効果がある高度不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)が多く含まれることが知られるようになってきています。また、魚介類や海草類が、カルシウムをはじめとする各種の微量栄養素の重要な摂取源になっていることがあらためて見直されている。」と記載されています。

 2  妊婦にあっては、水銀濃度が高い魚介類を偏って多量に食べることを避け、水銀摂取量を減らすことによって、魚食のメリットを活かすこととの両立を期待します。

  ※ 漁業白書については、別添を参照願います

問8  妊婦は注意事項に記載されている種類以外の魚介類について、安心して食べることができるのでしょうか。
答 
 1  約400種、約9,700検体の魚介類についての調査結果が報告されていますが、魚介類が含む水銀の量は低く、妊婦が食べても健康に影響を及ぼすようなレベルではありません。魚介類の調査結果は厚生労働省ホームページで御参照いただけます(問10参照)。

 2  魚介類は良質なたんぱく質を多く含み、EPA、DHA等の高度不飽和脂肪酸がその他の食品に比べ一般に多く含まれ、また、微量栄養素の摂取源である等重要な食材です。

 3  妊婦は、注意事項にあるような魚介類の摂食について注意をする必要がありますが、魚介類の摂食の減少につながらないよう正確な御理解をお願いします。

問9  もし、妊婦が注意事項にある魚介類を食べ過ぎてしまった場合はどうすればよいのですか。また、食べ過ぎないようにするためにはどのようにすればよいのですか。
 1  1回または1週間当たりの魚介類の摂食が、体内の水銀の濃度を大きく変えるものではありませんが、1回または1週間の食事で、注意事項にある魚介類を食べ過ぎた場合、次回または次週の食事でその量を減らすなどの工夫をしましょう。
 例えば、1回80gとして週に2回までの場合
  例1) 1回40gであれば週に4回まで
  例2) 1回160gであれば週に1回まで

 2  注意事項にある魚介類について、食べ過ぎないようにするため、一週間に2種類または3種類を食べる場合には、食べる量をそれぞれ2分の1または3分の1にしましょう。
 例えば、同じ週にクロマグロとメカジキを食べる場合
  例1) クロマグロ40gとメカジキ40gをそれぞれ週に1回ずつ
  例2) クロマグロ20gとメカジキ60gをそれぞれ週に1回ずつ

 3  また、注意事項に週1回と記載されている魚介類及び週に2回と記載されている魚介類を同じ週に食べる場合には、食べる量をそれぞれ2分の1にしましょう。
 例えば、同じ週にメカジキとミナミマグロを食べる場合
  例) メカジキ40gとミナミマグロ 80gを週に1回ずつ

1週間の献立例

問10  今回の妊婦への注意事項はどのようにして作成されたのですか。

 今回の妊婦への注意事項は、食品安全委員会における耐容量の評価結果を踏まえ、審議会において、魚介類の水銀含有量等に基づき検討が行われたものです。その審議の主な概要については以下のとおりです。
 1  水銀含有量が高い魚介類
 厚生労働省、水産庁、地方自治体等において実施された約400種、約9,700検体の国内で流通する魚介類に含まれる水銀含有量の調査結果を解析した結果、総水銀の平均値が 0.4ppmまたはメチル水銀の平均値が 0.3ppmを超える魚介類とその水銀濃度の平均は次のとおりです。ただし、検体数が少ないもの、我が国と諸外国で水銀濃度の差が大きいものなどは除外しています。

魚介類 我が国のデータ 諸外国のデータ
総水銀濃度
(ppm)
メチル水銀濃度
(ppm)
総水銀濃度
(ppm)
検体数 平均値 検体数 平均値 検体数 平均値
魚類 キダイ 39 0.329 32 0.329 - -
キンメダイ 111 0.684 82 0.532 - -
クロマグロ 127 0.723 120 0.542 - -
クロムツ 92 0.355 90 0.309 - -
マカジキ 28 0.460 25 0.343 20 0.61
ミナミマグロ 93 0.498 90 0.386 - -
メカジキ 44 0.969 42 0.674 625 0.941
メバチ 90 0.733 84 0.549 - -
ユメカサゴ 96 0.413 96 0.321 - -
ヨシキリザメ 30 0.544 30 0.350 - -
クジラ イシイルカ 4 1.035 4 0.370 - -
コビレゴンドウ 4 7.100 4 1.488 - -
ツチクジラ 5 1.168 5 0.698 - -
バンドウイルカ 5 20.840 5 6.622 - -
マッコウクジラ 13 2.100 5 0.700 - -
貝類 エッチュウバイガイ 17 0.464 10 0.485 - -
魚介類については、各種類毎に50音順で記載

 2  注意事項の検討に当たり、対象となる魚介類以外の食品からの水銀摂取量について検討しました。厚生労働省が実施している一日摂取量調査の平均値(平成7年〜16年)によると、水銀の摂取量(総水銀換算)は 8.42μg/ヒト/日であり、このうち魚介類から 6.72μg/ヒト/日、その他の食品から 1.70μg/ヒト/日となっています。これら魚介類を、妊婦が摂食の際に注意を必要とするものとそうでないものに分ける必要がありますが、これらの関係を考慮し3つの仮定を設定しました。

仮定1
 : 検討対象以外の魚介類からの水銀摂取はなしと仮定
 検討対象以外の魚介類からの水銀摂取はないと仮定する。この場合の検討対象魚介類以外の食品からの水銀摂取量は、
1.70μg/ヒト/日= (平均水銀摂取量(8.42μg)-魚介類からの摂取量(6.72μg)と仮定する。

仮定2
 :  検討対象以外の魚介類からの水銀摂取量を一日摂取量調査における魚介類からの水銀摂取量の半量と仮定
 種々の魚介類を摂食することから、一日摂取量調査における魚介類からの水銀摂取量の半量を検討対象以外の魚介類からの摂取と仮定する。従って、その他の食品からの水銀の摂取量は、
5.06μg/ヒト/日= 1.70μg+6.72μg÷2と仮定する。

仮定3
 :  検討対象以外の魚介類からの水銀摂取を一日摂取量調査における魚介類からの摂取量と仮定
 検討対象以外の魚介類から、一日摂取量調査における魚介類からの摂取量の全量を摂取するものと仮定する。したがって、その他の食品からの水銀の摂取量は、
8.42μg/ヒト/日と仮定する。

図

 3  食品安全委員会の食品健康影響評価結果の耐容量(2.0μg/kg体重/週)と、国民栄養調査結果に基づく妊婦の体重(55.5kg)から妊婦の1週間当たりの耐容量を求め、2で求めた対象となる魚介類以外の食品からの水銀の摂取量を差し引いた範囲内で、1の魚介類を1週間当たりに摂食できる量を試算しました。

図

 上記の摂取量の試算結果のうち、右欄のメチル水銀の仮定2を一つの目安とし、1回に摂食する量が一般に80g程度(切身一切れ、刺身一人前にほぼ相当)であることを踏まえ、試算結果に基づく試算の数値を超えることのないよう、妊婦の体重やその変動、魚介類ごとの水銀摂取量のばらつき等の不確実性に配慮して、1週間に3回程度食べた場合に耐容量を超えてしまう魚介類について、1週間当たりの魚介類ごとの摂食量の目安を注意事項として示しました(問5参照)。

問11  なぜ、今回マグロが注意事項にある魚介類に入ったのですか。
 1  今回、マグロが対象となった理由としては、2つの要因があります。1つは、食品安全委員会の食品健康影響評価において、従来の耐容量 3.4μg/kg体重/週が、2.0μg/kg体重/週に引き下げられたことです。

 2  もう1つは、国民栄養調査の詳しい解析から、マグロを使った料理としては、寿司、鉄火丼等があり、一般の魚に比べ、一回に食べる量が平均値と比較してたくさん食べている人が多いことが明らかになったことや、マグロの刺身、寿司の1人前や鉄火丼の摂食量を見ると、60gから100g程度であることから、この2つを合わせ、今回注意事項の対象となったものです。

問12  マグロについては、どのような注意をしたらよいのですか。
 1  妊婦の方々には、マグロのうち、クロマグロ、ミナミマグロ、メバチについて、注意事項に示された摂食量を超えないよう注意をしていただきたいと考えています。

 2  マグロの中でも、キハダ、ビンナガ、メジマグロ、ツナ缶詰については、水銀含有量が低いことから、妊婦であっても通常の摂食で差し支えありませんので、バランス良く摂食してください。

 3  なお、子供や妊婦以外の成人の方々は、いずれのマグロについても通常の摂食で差し支えありませんので、バランス良く摂食してください。

(参考) マグロの名称
標準和名 キハダ ビンナガ ミナミマグロ メバチ クロマグロ
別名 キハダマグロ ビンナガマグロ
(またはビンチョウ)
インドマグロ メバチマグロ
(またはバチマグロ)
本マグロ

問13  クジラは一般的に水銀濃度が高いのですか。

 クジラの中でも一部のハクジラ類(イシイルカ、バンドウイルカ、ツチクジラ、コビレゴンドウ、マッコウクジラ)については、水銀濃度の高いものがあり、今回の注意事項の対象となっています。他方、ヒゲクジラ類(ミンククジラ等)の水銀濃度は高くありません。

問14  加工食品で妊婦が気をつけるものはありませんか。

 加工食品は一般に、いろいろな食材から作られていますので、加工食品中の水銀濃度は、妊婦であっても特に注意するようなものではないと考えます。

【水銀の健康影響等】
問15  魚介類中になぜ水銀が含まれているのですか。
 1  水銀は無機水銀とメチル水銀等の有機水銀の2つに大別されます。無機水銀は、体温計、血圧計等にも、以前は、用いられたもので天然に存在する成分です。無機水銀は、一般にヒトの消化管からは吸収されにくいとされています。他方、有機水銀には種々のものがありますが、川や海の無機水銀が環境中の微生物によりメチル水銀に変化したものは食物連鎖を通じて魚介類に取り込まれます。このため、食品を通じた水銀の影響が懸念されるのはメチル水銀です。

 2  無機水銀は、地殻からのガス噴出によるものが環境中の主要な発生源ですが、その他の人工的な汚染源としては、化石燃料の燃焼、硫化鉱の精錬、セメント製造、ごみ焼却などがあると報告されています。

 3  多くの人が食品等さまざまなものを通じて、メチル水銀を摂取していますが、魚介類からの摂取が最も多いと報告されています。

 4  なお、体内に取り込まれた水銀は代謝、排泄されます。その体内に取り込まれた量が半分にまで減少する期間は約2ヶ月です。

問16  なぜ、一部の魚介類は水銀の含有量が高いのですか。

 川や海の水銀は、環境中の微生物によりメチル水銀に変化し、食物連鎖を通じて魚介類に取り込まれます。このため、多くの魚介類にメチル水銀が含まれています。食物連鎖の上位にある、サメやカジキなどの大型魚や、一部のハクジラのほか、キンメダイのような深海魚等は、比較的多くのメチル水銀を含んでいます。

問17  現在議論されている水銀の健康影響とはどのようなものですか

 現在議論されているような低い水銀レベルで影響が懸念されるのは胎児であって、その影響は例えば音を聴いた場合の反応が1/1,000秒以下のレベルで遅れるようになるようなものです。なお、体内に取り込まれた水銀は代謝、排泄されます。その体内に取り込まれた量が半分にまで減少する期間は約2ヶ月です。

問18  現在の水銀の規制はどのようになっているのですか。

 昭和48年に、魚介類の水銀の暫定的規制値を総水銀 0.4ppm及びメチル水銀 0.3ppmと設定しています。ただし、マグロ類、内水面水域の河川産の魚介類(湖沼産を除く)及び深海性魚介類を除きます。

問19  日本人の水銀摂取量はどの程度ですか。

 毎年、厚生労働省では水銀の一日摂取量調査(マーケットバスケット方式)を実施しています。これは、平均的な食生活によって、国民がどのくらい水銀を摂取しているかを調査したもので、過去10年間の調査結果は以下のとおりです。この結果から、過去10年大きな変化はないものと考えられます。このうち、1995年(平成7年)〜2004年(平成16年)の調査結果を見てみると、魚介類から79.8%(6.72μg/日)、それ以外の食品から20.2%(1.70μg/日)の水銀が摂取されています。

  1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
総水銀 9.1 9.8 9.8 6.7 9.7 6.8 7.0 8.8 8.1 8.5
(μg(ヒト・日)、厚生労働科学研究報告書による)

問20  日本人が現在摂取している程度の水銀は健康に影響があるのですか。

 摂取している水銀を全てメチル水銀と仮定した場合、平成7年〜平成16年の1日摂取量調査における水銀の摂取量は食品安全委員会が設定した妊婦を対象としたメチル水銀の耐容量の59%となります。
 この食品安全委員会によるメチル水銀の耐容量は、懸念される胎児に与える影響を十分保護できる量であることから、平均的な食生活をしている限り、健康への影響について懸念されるようなレベルではないものと考えています。
 食品安全委員会の妊婦の耐容量  2.0μg/kg(体重)/週
→100μg/(ヒト(体重50kg)・週)
 1日当たりに換算すると  100μg÷7日=14.3μg/(ヒト・日)
 平均的な1日水銀摂取量  8.4μg/(ヒト・日)÷14.3μg×100=59%

問21  妊娠に気づくのが遅れたのですがどうすればよいですか。また、妊婦は髪の水銀濃度を測定したほうが良いですか。
答 
 1  メチル水銀は胎盤を経由して胎児に取り込まれますが、胎盤の形成は一般的に妊娠4ヶ月であること、体内に取り込まれた水銀は代謝、排泄され、その体内に取り込まれた量が半分にまで減少する期間は約2ヶ月であることなどから、妊娠に気づいた段階から水銀の摂取量をコントロールすることで一定の効果が期待されると考えています。

 2  一般に体内の水銀濃度は髪の毛で測定しますが、妊婦であっても髪の水銀濃度等を測定することは必要ないと考えています。諸外国においても、妊婦に対して髪の水銀濃度の測定を勧めている国はありません。

 3  なお、食品安全委員会の評価結果では、15歳から49歳の女性の毛髪水銀濃度分布を見た場合、99.9%の人が10ppm以下であり、耐容量の算出の出発点となった11ppmを下回っていることが示されています。

【今後の予定など】
問22  今回、注意事項の発表に当たり、魚介類の摂食の減少や風評被害につながらないよう、どのような施策を講ずる予定ですか。
 1  注意事項の検討に当たり、全ての資料を公開し、検討の過程も公開してきたところです。

 2  また、審議会においては、リスクコミュニケーションの専門家、ジャーナリスト、産婦人科の医師など種々の分野の専門家に参画していただきました。

 3  さらに、注意事項(案)をQ&Aとともに公表し、1ヶ月間の意見募集を行ってきました。

 4  これらに加え、妊婦を対象としたパンフレットを作成することを予定しています。

 5  厚生労働省としては、本注意事項が妊婦はもちろん、全ての方々に正確に理解されるよう今後とも必要な調査研究に努めてまいります。



【別添】
参考 水産物の栄養面での特徴(平成11年度漁業白書より抜粋)
水産物に含まれる成分と機能

エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)
 魚類、特にいわし、まぐろなど海産魚の脂質に多く含まれる脂肪酸の一種です。血栓を防ぐとともに血中のLDL(悪玉)コレステロール値を低下させ、脳梗塞、心筋梗塞などの血管障害を予防するほか、アレルギー反応を抑制する作用などがあります。さらに、DHAは、脳神経系に高濃度で分布し、情報の伝達をスムーズにするほか、脳の発育や視力の向上に関与しています。

タウリン
 たこ、いか、貝、えび、かに類などに多く含まれているアミノ酸の一種です。生活習慣病予防物質として注目されており、動物実験により高血圧の下降、血液中のコレステロールの低下など多くの生理作用が確認されています。

アスタキサンチン
 さけ、いくら、たい、えびなどの赤橙色の色素です。ビタミンEを上回る抗酸化作用を持つことが明らかにされており、活性酸素注)の作用による諸疾患を抑制することなどが期待されています。

注:  活性酸素:呼吸により体内に取り入れられた酸素がエネルギーを生み出す過程でつくられる他の分子と結合しやすい状態の酸素分子。殺菌、解毒等の作用を持つ一方、老化、発がん、腎障害、動脈硬化、白内障などの促進にかかわる。

参考:水産物に含まれる成分と機能(平成14年度漁業白書より抜粋))

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