3. 食品の安全確保対策の推進

(1) 牛海綿状脳症(BSE)対策について
[1]  国内対策
   BSE検査
   平成16年9月、食品安全委員会において、BSE国内対策に関する科学的な評価・検証結果が「中間とりまめ」として公表され、これを踏まえて、厚生労働省は、農林水産省と連名で、BSE検査対象の見直し、特定危険部位(SRM)の除去の徹底等を柱とする国内対策の見直しについて諮問を行った。
   特に、BSE検査については、平成13年10月当時、牛の月齢が必ずしも確認できなかったこと、国内でBSE感染牛が初めて発見され国民の間に強い不安があったこと等の状況を踏まえて全頭検査を開始したものであるが、平成16年9月の食品安全委員会の「中間とりまとめ」において、「検出限界以下の牛を検査対象から除外するとしても、vCJDリスクが増加することはないこと」等の結論が示されたことを踏まえて、食品安全委員会に諮問したものである。
   平成17年5月の食品安全委員会の答申をにおいては「食肉の汚染度は全頭検査した場合と21ヶ月齢以上を検査した場合、いずれにおいても「無視できる」〜「非常に低い」と推定された」と結論されており、これを踏まえて、厚生労働省関係牛海綿状脳症対策特別措置法施行規則を改正し、同年8月1日から21ヶ月齢以上のすべての牛を対象としてBSE検査を実施することとした。
   なお、BSE検査対象月齢の変更に伴い生じかねない消費者の不安な心理を払拭し、混乱を回避する観点から、20ヶ月齢以下の牛について都道府県等が自主検査を行う場合は、経過措置(最長3年:平成20年7月まで)として来年度も引き続き国庫補助を予定している。

   SRMの管理
   SRM除去・焼却については、牛海綿状脳症対策特別措置法第7条第2項及び第3項、と畜場法施行規則第3条及び第7条並びに「食肉処理における特定部位管理要領(平成13年10月17日付け食発第308号)」等に基づき、確実に行われるよう、農林水産部局との連携を図りつつ、指導方お願いする。特にと畜解体工程におけるSRMによる枝肉及び食用に供する内臓の汚染防止の徹底について、と畜場の設置者、管理者、と畜業者又は従事者等に対して、引き続き指導方お願いする。

   ピッシングの中止
   ピッシングについては、これにより破壊された脳及びせき髄組織が血液循環を介して枝肉を汚染する可能性が指摘されており、また、「我が国における牛海綿状脳症(BSE)対策に係る食品健康影響評価」(平成17年5月6日内閣府食品安全委員会)において、「食肉のBSEリスクをさらに低減させるため、ピッシングの中止に向けて、具体的な目標を設定し、できる限り速やかに進める必要がある。」とされている。
   厚生労働省としては、平成13年10月より食肉の安全性の確保と従事者の安全確保の両立に配慮しつつ、ピッシングの廃止に向けて取り組んでいるところであり、平成17年4月には、ピッシング中止への取り組みの更なる推進を図るため、ピッシングを実施していない施設の事例集を作成、配布するとともに、各都道府県等を通じて今後3年間のと畜場毎の対応方針の作成を依頼した。
   各都道府県等からの報告では、平成18年10月末までに95施設(60%)がピッシングを中止しているが、64施設(40%)が未だ中止しておらず、牛の処理頭数ベースに換算すると、53%がピッシングを行っていることになる。本年度中に中止を予定している9施設を除く55施設の対応方針については、平成19年度中に50施設、20年度中に5施設が中止を計画しているが、各都道府県等においては各と畜場に対し、より具体的なピッシング中止計画の策定を求めるとともに、計画の適切な実施及び前倒しの検討等の指導を行うことにより早期の中止推進に特段のご配慮をお願いする。
   なお、と畜場の設備改善などへの財政支援については、ピッシングを中止するために必要なピッシングに代わる同等の効果を有する不動化設備の設置に必要な経費について、公営と畜場等に対する国庫補助(補助率1/2)を行うほか、民営と畜場に設置される当該設備に対しては、固定資産税の課税標準の特例措置が3年(平成21年度まで)延長される予定である。
   また、農林水産省においても、食肉等流通合理化総合対策事業により産地食肉センター等におけるピッシングの中止等に対応した設備を整備するために国庫補助を行っている。

[2]    輸入対策
   BSE発生国等から輸入される牛肉(牛由来原料を使用した食品等を含む。)については、国産牛肉と同等の安全性が確認された場合(米国及びカナダ)を除き、輸入禁止等の措置を講じているところである。また、従来BSE発生リスクが低いとされていた国々においても、BSEが発生する最近の状況等を踏まえ、BSEが発生した際の混乱を未然に防止する観点から、全ての国からのSRMの輸入を控えるように輸入業者への指導を行っている。
   米国産の対日輸出牛肉の輸入再開については、平成17年5月、一定の条件を満たす米国産の牛肉に関し国産牛肉と同等の安全性が確保されているかについて、食品安全委員会へ諮問し、同委員会においては、同年12月8日、答申がとりまとめられ、「輸出プログラム( 全頭からのSRM除去、20ヶ月齢以下の牛等)が遵守されるものと仮定した上で、米国の牛に由来する牛肉等と我が国の全年齢の牛に由来する牛肉等のリスクレベルについて、そのリスクの差は非常に小さいと考えられる」と結論付けられた。
   この結論を踏まえ、米国産対日輸出牛肉(内臓を含む。)については、同年12月12日、農林水産省と連名で輸入再開を決定した旨米国政府に対し通知するとともに、食品安全委員会の評価過程で議論となった事項である
   ・    せき髄除去の監視強化を図ることが必要であること
   米国におけるBSEの汚染状況を正確に把握し、適切な管理対応を行うため、十分なサーベイランスの継続が必要であること
   米国におけるBSEの増幅を止めるためには、SRMの利用の禁止が必須であり、牛飼料への禁止のみならず、交差汚染の可能性のある他の動物の飼料への利用も禁止する必要があること
について要請した。
   しかしながら、昨年1月20日、輸入時検査において、せき柱が含まれる米国産子牛肉を確認したことから、米国政府から本件の原因究明及び再発防止策について報告があるまでの間、全ての米国産牛肉の輸入手続を停止することとした。また、その際には、関係都道府県等の協力を得て、既に輸入された米国産牛肉についてせき柱が含まれていないこと等について調査協力をいただいた。
   その後、本件に関する日米協議(3月及び5月)の開催、及び各協議を受けた全国10ヶ所での消費者等との意見交換会(4月及び6月)を開催を経て、昨年6月20日及び21日、局長級テレビ会合を実施し、対日輸出適格品リストの提供等の米国側の措置及び対日輸出再開前の現地調査の実施等の日本側の措置の実施について認識を共有した。
   これを受け、同年6月23日から7月24日にかけて対日輸出認定35施設の現地調査を実施し、同年7月27日、34施設について輸入手続を再開した(8月15日に1施設追加)。
   現在は、米国側の輸出プログラムの検証のため、日本側では定期的な現地調査の実施、米国側の抜き打ち査察への同行及び検疫所における輸入時検査の強化を実施している。また、輸入業者の協力を得て、全箱開梱し、SRMが含まれていないこと等を確認している。
   今後とも、米国産牛肉については、米国において対日輸出プログラムが遵守されるよう適切に対処するとともに消費者等に対して適切な情報提供に取り組むこととしている。

(2) 食肉、食鳥肉の安全確保について
[1]    食肉対策
   食肉処理の高度衛生管理に資するため、食肉処理時における微生物学的危害について国内外の文献調査を行い、HACCP構築のために必要な基礎データを収集、整理し、データベース化を進めているところである。今後、と畜場における食肉処理時の病原微生物の危害コントロール方法を確立するとともに、標準的なHACCPモデルを作成する予定であるので、都道府県等においては御協力をお願いする。

[2]    食鳥肉対策
   食鳥肉の衛生確保に関しては、「食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律」に基づき食鳥検査を実施するとともに、食鳥処理場の施設設備及び衛生管理基準の遵守について食鳥処理業者等に対する厳正な監視指導等に一層の御努力をお願いする。特に、認定小規模食鳥処理場には食鳥検査員が常駐しておらず、過去において処理羽数について虚偽報告の事例があったことも踏まえ、処理羽数、処理形態、食鳥処理衛生管理者の配置状況等について、厳正な監視指導の実施をお願いする。
   また、昨年3月には、カンピロバクター等の微生物による汚染を防止する観点から、更なる衛生水準の向上のため、食鳥処理場における標準的なHACCPモデルを作成し、通知したところであるので、食鳥処理業者に対する周知及び指導をお願いする。
   なお、食鳥検査については、関係都道府県等の御努力により、早朝、時間外等の検査実施の弾力化をいただいているところであるが、引き続き民間獣医師の活用を含め特段の御配慮をお願いする。
   鳥インフルエンザ問題への対応については、食品安全面の対策として、昨年同様、食鳥処理場において、都道府県等が行う食鳥検査の際、異状のない養鶏場から出荷された鶏である旨の確認を行うほか、食鳥検査において高率の死亡や呼吸器症状などを呈する鳥インフルエンザに感染している疑いがある鶏に対し、スクリーニング検査を行うこととしており、関係都道府県等に簡易検査キットを配布したところである。また、引き続き厚生労働省ホームページ等により国民に対し正確な情報の提供に努めることとしており、都道府県等においても食鳥処理場の設置者、管理者、養鶏業者又は従事者等関係者に対する情報提供をお願いする。

(3) 食中毒対策について
[1]    ノロウイルス等の食中毒について
   例年12月から3月を中心としてノロウイルスを原因とする食中毒が多数発生しているが、今年度は、特に11月以降、ノロウイルスによる食中毒が、昨年の同時期と比較して件数、患者数ともに大幅に増加している。こうした発生状況に鑑み、昨年12月8日、その予防の観点から「ノロウイルスに関するQ&A」を最新の知見に基づき改定し、手洗いの励行、食品取扱時の汚染防止、糞便や吐物の適切な処理、食品の十分な加熱等の感染予防対策について重点的に記載し、関係機関等への周知を行ったところである。このQ&Aを活用されるとともに、ノロウイルス食中毒について事業者への監視指導、住民への啓発等をよろしくお願いする。また、昨年12月19日、各都道府県等衛生部局長あて通知に基づき、事業者等に対して予防法の周知及び発生防止対策の指導を徹底するとともに、ノロウイルスによる胃腸炎については、食品を介さずに感染するものと食品を介する食中毒があるため、集団感染事例の発生に際しては、感染症部局と食品衛生部局が連携をとり原因究明等の調査を徹底し、食中毒か否かについて適切な判断をお願いする。また、昨年11月以降12月18日までにノロウイルス食中毒と確定した事例の発生状況について、緊急に調査を実施した結果、事件数213件、患者数9,650名であり、これらは飲食店等で提供された食事や事業所等への仕出しなどでの発生が多くみられ、原因食品がカキと特定された事例はなく、食品の取扱い時の汚染が疑われる事例が大半を占めていた(昨年12月22日公表)。昨年11月以降カキに対する風評被害についても報じられたことから、公表にあたっては、当該事例で推定される感染経路等、原因究明状況などを明らかにし、風評被害の防止に努めるようお願いする。
   また、近年、カンピロバクターを原因とする食中毒が、発生件数で最も多い食中毒となっている。感染原因については、鶏肉や牛レバーなどの食肉の生食や加熱不足、食肉からの二次汚染が主な原因となっており、こうしたカンピロバクター食中毒に係る知見やその予防方法等について、引き続き事業者への監視指導及び住民への啓発等をお願いする。なお、厚生労働省では従来より「牛レバーによるカンピロバクター食中毒予防について(Q&A)」をホームページ等で周知しているが、当該Q&Aをカンピロバクター食中毒全般の知見や予防対策に係るものに改定することについて、昨年12月5日に開催した薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会において議論したところであり、今後改定を行うこととしている。
   食中毒情報等(食中毒発生速報、食中毒事件票等)の情報については、散発的集団発生事例(diffuse outbreak)の早期探知や食中毒の発生の未然防止、発生後の被害拡大防止に資するため、食品保健総合情報処理システムを通じて報告され、相互利用が図られている。よって、貴管下で食中毒事例を探知した際は、速やかに本システムに入力し、他都道府県等への情報提供に努められるようお願いする。また、本システムを利用して、各都道府県等食品衛生監視指導計画に基づく食品、添加物等の収去検査、違反品の措置等のデータベース化を行い、各地方公共団体間で情報共有できるようにした「広域流通食品データネットワークシステム」を整備しているので、積極的に入力、活用いただき監視指導、収去計画等に役立てていただくようお願いする。

[2]    感染症部門との連携について
   近年、腸管出血性大腸菌O157やノロウイルス食中毒、井戸水等を原因とする食中毒など、食品衛生部門と感染症対策部門、水道行政部門等との連携が不可欠である事例が多発している。
   これまでも、「食中毒処理要領」(昭和39年7月13日付け環発第214号)等において、探知した食中毒患者等が「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症法」という。)に規定されている疾病に関係する場合は、感染症対策部門と患者等発生の情報共有及び調査における連携を図り、原因究明等に努めるようお願いしてきたところである。特に感染症法に基づき把握した情報において、食品が推定感染経路になっている事例、一般的に食品が原因として疑われる病原体(赤痢、コレラ、A型肝炎、E型肝炎等)による事例については、感染症対策部局から積極的に情報を入手し、これらの事例についても、食中毒の観点から必要な検討を行われるようお願いする。

(4) その他
[1]    ポジティブリスト制度の施行後の状況及び検査の信頼性の確保について
   ポジティブリスト制度の施行に伴い、都道府県等の食品衛生検査施設での検査項目も拡充され、その円滑な運用にご尽力頂いているところであるが、国産食品、輸入食品いずれにも一律基準違反など残留基準値違反も発見されていることから、このような食品が販売等されることのないよう、関係業者等に対する適切な監視指導をお願いする。また、監視指導にあたっては、引き続き、「食品衛生法第63条に基づく法違反者等の名称等の公表について」(平成18年5月29日付け食安発第0529004号)及び「食品に残留する農薬等の監視指導に係る留意事項について」(平成18年5月29日付け食安監発第0529001号)に留意の上、適切な運用を図られるようお願いする。
   都道府県等の食品衛生検査施設が行う製品検査及び法第28条第1項の規定により収去した食品等の試験については、流通等の可否を判断するものであることから、検査の信頼性を確保する必要がある。しかし、過去において、一部の食品衛生検査施設において、検査データを誤認したことや公定法によらない検査を実施したことに起因する誤った検査成績書を発出したことから、本来問題とならない食品等の回収等を行った事例があった。食品衛生検査における信頼性の確保は重要な事項であることから、引き続き、関係法令及び「食品衛生検査施設における検査等の業務管理について」(平成16年3月23日付け食安監発第0323007号)に定める「食品衛生検査施設における検査等の業務管理要領」に基づき適切に実施されるようお願いする。

[2]    輸出食品に係る衛生要件について
   食品の輸出については、相手国との協議により要請された場合において、施設の認定や衛生証明書の発行等を行っているものであり、衛生証明書の発行や監視指導等について自治体にもご協力をいただいているところ。
   輸出食肉について
   対米、対カナダ輸出食肉については、平成13年9年の我が国でのBSE発生以降、輸出が停止されていたが、平成17年12月、各国との協議の結果、輸出が再開されたところである。認定施設を管轄する各県においては、施設に対する衛生管理指導、輸出証明書の発行等、引き続き、ご協力をお願いするとともに、その他の都道府県等においても認定を希望する施設があった際には、関係者への適切な指導方お願いする。
   また、現在、対香港向け日本産牛肉輸出について香港政府と協議しているところである。
   輸出水産食品に係る衛生要件について
   EU域内及び米国に輸出される水産食品については、その加工施設等がEUや米国の定めた要件に適合しなければならないこととされている。これらの輸出水産食品取扱施設の認定に係る現地調査等については、各都道府県等の指名食品衛生監視員を中心に行われており、現在までに対EU輸出水産食品の認定施設は16加工施設及び2保管施設、対米輸出水産食品の認定施設は87加工施設及び50保管施設等となっている。
   今後とも、これらの施設の所在する都道府県等におかれては、対EU及び対米輸出水産食品に係る施設認定事務等について、各地方厚生局の食品衛生担当部局とも連携の上、実施方よろしくお願いする。
   また、対中国輸出水産食品の取扱いについては、今般、取扱要領の改正を行って生鮮品の検査頻度を緩和し、各都道府県等の食品衛生監視員により実施いただいているところであるが、地域振興の支援の観点からも、引き続き水産食品取扱施設の登録、衛生証明書の発行事務等の実施について御協力をお願いする。



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