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1 生活保護制度の運営について(保護課・監査指導課)

(1) 生活保護の動向
 最近の保護動向としては、平成7年度の被保護人員約88万2,000人、保護率7.0‰を底として、増加傾向に転じ、平成14年9月現在、被保護人員約123万5,000人及び保護率9.7‰となっており、特に、平成10年度以降の被保護人員、保護率及び被保護世帯数の伸びは、急激な増加傾向で推移している。
 被保護人員の状況
 被保護人員は、平成7年度から13年度までの間全国で約27万人増加しており、これを市部・郡部でみると、郡部の被保護人員は約1万人に対し、市部の被保護人員は約26万人と市部の増加が著しく、特に、埼玉県(169.0%)、千葉市(167.5%)、川崎市(165.3%)及び広島市(161.7%)が増加している。
 年齢階層別では、60歳以上の年齢階層が大幅に増加し、その構成割合をみると、増加人員全体の63.2%を占めている。
 保護率は、平成7年度以降北九州市を除くすべての都道府県・指定都市で増加し ているが、特に大阪市、神戸市、札幌市、川崎市、東京都及び大阪府が高い伸びを 示し大都市部により集中した傾向となっている。
 被保護世帯の状況
 被保護世帯数は、世帯数が過去最低となった平成4年度から13年度までの間全国で22万世帯増加し、これを世帯類型別にみると、高齢者世帯、障害者世帯、傷病者世帯の増加は約19万世帯となっており、特に、高齢者世帯の増加が著しい。
 世帯人員別の構成割合では2人以上世帯がすべて減少し、単身世帯のみ増加しており、平成13年度は単身世帯が被保護世帯の73.6%を占めている。
 生活保護の開始及び廃止状況
 平成4年度から13年度までにおける被保護世帯の開始・廃止の増減では、廃止世帯は大きな変化はみられないが、開始世帯は増加しており、保護開始の主な理由を構成割合でみると、「定年・失業」、「事業不振・倒産」、「その他の働きによる収入の減少」、「仕送りの減少・喪失」、「貯金等の減少・喪失」などの景気による影響と考えられるものが、平成4年度の10.9%が平成13年度28.1%と増加しており、不況等による影響が現れてきていると思われる。
 保護の動向
 保護の動向は、以上のとおり景気動向等の経済的要因、高齢化の進展、核家族化の進行等の社会的要因や他法他施策の整備状況、実施機関の取組等複雑な要因の影響を受けるものと考えられ、最近の社会経済状況をみると、景気の停滞が長く続いていること、完全失業率が依然として高い水準で推移していること、なお厳しい状況が続いていることから、被保護人員、被保護世帯数とも増加傾向で推移していくものと考えられる。

(2) 平成15年度生活保護基準の改定
 生活扶助基準については、国民の消費動向と均衡が図られるよう、当該年度の政府経済見通しの民間最終消費支出の伸びを基礎とし、国民の消費動向や社会経済情勢を総合的に勘案して改定している。
 平成15年度においては、国民の消費支出や物価が下落する中で、国民全体の消費水準との均衡を図るため、0.9%引き下げることとした。そのため、1級地の1の標準3人世帯の生活扶助基準は、16万2,490円となる。
標準3人世帯(33歳男・29歳女・4歳子)
  平成14年度 平成15年度
1級地−1 163,970円 162,490円
1級地−2 156,590  155,190 
2級地−1 149,200  147,870 
2級地−2 141,830  140,550 
3級地−1 134,460  133,240 
3級地−2 127,080  125,940 
 その他、出産扶助及び生業扶助の技能修得費については、それぞれの扶助の性格を踏まえ、費用の実態を勘案し、所要の改善を図ることとしている。

(3) 生活保護の適切な運営
 生活保護は、国民生活の最後の拠り所となる制度であり、国民の理解と信頼を得られるよう、引き続き次の点に留意し、管内実施機関に対し必要な助言や指導を行うとともに、研修等を通じて職員の資質の向上や適切な保護の決定実施を行う体制の整備が講じられるようお願いしたい。
 保護の相談における窓口対応等について
 生活困窮者の発見及び適切な保護については、これまで、生活困窮者に関する情報が福祉事務所の窓口につながるよう、住民に対して生活保護制度を周知するとともに関係機関との連絡体制を整備するようお願いしてきたところであるが、引き続き、保健福祉関係部局や社会保険・水道・住宅担当部局、その他関係機関との連絡・連携を図るとともに、要保護者に対するきめ細かな面接相談、申請の意思のある方への申請手続の援助指導をお願いしたい。
 ホームレスに対する保護の適用
 保護の要件を満たしているホームレスに対しては、生活保護の適用を行うものであり、単にホームレスであることをもって当然に保護の対象となるものではなく、また、居住地がないことや稼動能力があることのみをもって保護の要件に欠けるものではない。
 また、保護の方法としては、要保護者の生活状況等の十分な把握や自立に向けての指導援助が必要であることから、基本的には、保護施設、自立支援センター等において、健康管理、金銭管理能力や生活習慣の回復のための指導及び就労の支援等を図りながら、自立した生活が営めるように支援し、施設入所等の目的が達せられた場合には、必要に応じて居宅での保護の適用を行うことが適切なものである。
 これらの点については、昨年8月に「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」が施行されたことを踏まえ、既に通知しているところであるが、引き続き地域の実情に応じたホームレスに対する適切な保護の実施を是非お願いしたい。

(4) 医療扶助の適正運営
 近年、被保護者数の増加に伴って医療扶助受給者数も増加を続けており、また、医療扶助費が生活保護費全体の約54%を占める状況にあることから、被保護者の適切な処遇の確保を図りつつ保護費を適正に支出するため、医療扶助の適正運営が求められている。
 各都道府県市においては、従前、頻回受診者に対する適正受診指導など医療扶助の適正運営に取り組んでいただいているところであるが、今後とも、地域の実情に応じ、より適切な方法を工夫するなど、なお一層の適正運営をお願いしたい。
 いわゆる社会的入院の解消について
 様々な事情により、いわゆる社会的入院を余儀なくされている被保護者に対しては、患者の適切な処遇の確保及び医療扶助の適正実施の観点から、個々のケースについて退院阻害要因の解消を図りつつ、退院に向けた指導・援助を行うことが必要となっているところである。
 特に、療養病棟等に180日を超えて入院し、入院基本料が特定療養費化の対象となる患者については、通常の保険給付以外に別途患者負担が必要となることから、地域の実情に応じ適切な受入先の確保を図るなど、社会的入院の解消に向けて、更に積極的な取組をお願いしたい。
 診療報酬請求書(レセプト)点検の徹底
 診療報酬請求書(レセプト)の点検は、医療扶助受給者の病状等を把握する上で極めて有効であるほか、医療扶助費の適正な支出を図るために必要不可欠なものであることから、各都道府県市及び福祉事務所においては、医療扶助受給者に係るすべての診療報酬請求書(レセプト)について点検を行うとともに、適宜、点検効果の検証を行うなど、体制の充実強化を図り、なお一層効率的かつ効果的な点検をお願いしたい。

(5) 介護扶助の適正運営
 平成12年度の制度創設から介護扶助受給人員は約1.3倍になるなど、介護保険制度を利用する被保護者が着実に増加していることから、生活保護担当部局と介護保険担当部局及び保険者等との連携体制の充実を図りつつ、介護を担当する指定介護機関に対して生活保護制度の周知を含めて指導を徹底するなど、介護扶助の適正実施に努められたい。

(6) 保護施設の整備と運営
 保護施設の整備
 救護施設については、在宅での生活が困難な精神疾患による入院患者、重複障害者等の受入施設として需要が増大している。
 また、近年の雇用・経済状況を反映し、特に都市部においてホームレスが増加しており、平成14年8月にはホームレスの自立の支援等に関する特別措置法が制定されるなど、要保護者の住まい等の確保の観点から、更生施設を始め、自立に向けた居住場所の確保のための宿所提供施設の拡充等が求められている。
 一方で、平成14年12月、いわゆる社会的入院の解消という観点から、精神保健医療福祉の取組である障害者プランの推進を図るため、厚生労働省内に「精神保健福祉対策本部」が設置され、救護施設等への期待も寄せられているところである。
 このような状況を踏まえ、これらの施設については、今後更に整備が必要であることから、それぞれの地域の実態に応じ、計画的整備に積極的に取り組まれたい。
 保護施設の運営
(ア) 保護施設への適切な入所
 保護施設においては、精神障害や知的障害を始め多種多様な障害のある者や生活障害などの問題を有する者等が混在入所していることから、入所者個々の特性に合った適切なサービスの提供を行うことが求められている。
 一方、保護施設の入所者の中には、高齢者や障害者など本来それぞれの特性に合った専門的な施設に入所し、適切な処遇を図るべき者が見受けられる。その場合には、入所先の変更を行うなど、入所者一人一人について、保護施設への入所措置が適切か否か、常に入所者の状況把握に努めるよう管内福祉事務所に対して指導されたい。
 なお、保護施設においては、真に必要とされる者に対して、より一層の処遇の向上に努めるなど適切な施設運営を図るよう指導されたい。
(イ) 保護施設通所事業
 平成14年度に創設した「保護施設通所事業」については、適切な援助等があれば居宅生活が可能な保護施設退所者に対し、救護施設及び更生施設に通所させて指導訓練等を実施し、又は職員が居宅等へ訪問して生活指導等を実施することで、居宅での継続した自立生活が送れるように支援するものである。
 平成15年度予算(案)においては、事業実施対象施設について、現行の55か所から100か所に拡充を図ることとしているところであり、本事業の必要性及び有効性にかんがみ、積極的な取組について救護施設、更生施設及び実施機関へ働きかけを行われたい。

(7) 生活保護及び保護施設の指導監査
 生活保護施行事務監査関係
 現在の保護動向を踏まえると、生活保護の適切な運営を確保する上で、施行事務監査の果たす役割は、極めて重要となっている。
 急激な保護の増加傾向が続く中で、適切な保護の決定実施が的確に行われるためには、各福祉事務所における実施体制の確保は重要である。一部自治体においては厳しい財政状況等から、必要な現業員の確保及び現業経験のある査察指導員の配置が困難な状況となっている。
 その結果、保護の要件の確認、生活実態の把握等適切な保護の決定実施の上で基本的な業務処理が確保されない事態が生じてきている。
 こうした事態の改善のため、都道府県本庁の事務監査においては、形式的な監査にとどまることなく、改めて管内の保護動向分析やその背景となる地域の経済的・社会的要因の分析、あるいは他法他施策の整備状況の把握を的確に行うとともに、運営状況等に関するヒアリングやケース検討を通じて各福祉事務所が抱える運営上の課題を的確に把握し、その課題に即した具体的な助言、指導を行うようお願いしたい。
 特に福祉事務所長等の実施機関の幹部職員に対しては、保護動向の分析や本庁が行った事務監査を通じて明らかになった課題を踏まえ、運営方針の策定や実施体制の確保について意識の醸成を図るとともに、査察指導員に対しては、的確なケース審査と進行管理を厳格に行うことが保護の適切な運営の確保につながることを再確認させるなど査察指導機能の重要性について十分認識させ、福祉事務所におけるそれぞれの者の責任及び役割に応じた具体的取組の指導等により、組織的運営が図られるようお願いしたい。
 また、個別の被保護世帯等に対する指導援助にあっては、複雑多様な問題を有している世帯が増加していることを踏まえ、訪問活動や面接相談を通じて懇切丁寧な対応により、その世帯の抱える生活上の問題について十分明らかにするとともに、改めて各種保健福祉サービス実施機関等との有機的連携体制を構築し、きめの細かい援助が行われるよう指導されたい。
 なお、保護開始時及び継続ケースにおける収入、資産等の関係先調査は、従前重点事項として指導をお願いしてきたところであるが、会計検査院による平成13年度決算検査報告では、年金の未申告、就労の未申告及び過少申告により10都道県市で生活保護費負担金の経理が不当とされ、44ケースで1億3,300万円の不当支出の指摘を受けたところである。
 ついては、保護の開始時においては金融機関等の関係先調査を徹底して行うよう指導するとともに、定期的な収入申告書の徴取、申告内容等の審査及び課税状況調査等の全ケース一斉点検による収入状況等の確認を行うよう指導願いたい。
 保護施設監査関係
 保護施設においても、健全で安定した運営の下に、入所者個々の特性に合った適切な入所者処遇が確保されるためには、施設に対する都道府県、指定都市及び中核市の指導監査の果たす役割が改めて重要となっている。
 平成15年度の監査に当たっては、適切な入所者処遇の確保及び施設の適正な運営管理体制の確立とともに、入所者及び職員の安全対策等にも重点を置き、適切な施設運営が図られるよう、引き続き厳正な指導監査の実施をお願いする。

(8) 生活保護制度の在り方の検討
 生活保護制度については、平成12年の通常国会における社会福祉の増進のための社会福祉事業法等の一部を改正する等の法律の附帯決議において、社会福祉基礎構造改革を踏まえた今後の社会福祉の状況変化等を踏まえつつ、介護保険制度全般の見直しの際(平成12年4月の施行後5年を目途)に、制度の在り方を検討すべきである旨の指摘がなされたところである。
 厚生労働省としては、生活保護制度創設から50年が経過し、経済社会状況など制度を取り巻く環境が大きく変化していることも踏まえ、制度全般について幅広く議論していく必要があると考えており、そのため、現在、被保護者を含む低所得者の生活実態を把握するための調査結果の取りまとめを行うとともに、社会・援護局内において検討を進めているところである。
 今後は、調査の結果も踏まえて、更に議論を深めていくこととしているが、その際には、制度の運用を担っている各都道府県市からも、引き続き率直な意見を伺いたいと考えているので、よろしくお願いしたい。


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