戻る 

 公共職業安定所の紹介する職業に就くこと、公共職業安定所長の指示した公共職業訓練等を受けること及び公共職業安定所が行う職業指導を受けることを拒むことが正当な理由があると認められる場合の基準

52152(2) 安定所の紹介する職業に就くことを拒むことが正当な理由があると認められる場合の認定基準

 イ  雇用保険法(以下「法」という。)第32条第1項第1号の「紹介された職業が、受給資格者の能力から見て不適当な場合」の認定基準
  (イ)  一定の身体的能力を要する業務に、その者の身体的能力から見て不適当な者が紹介された場合
 身体障害者、身体虚弱者、高齢者、年少者若しくは女子がその身体的能力を超えた能力を必要とする業務に紹介された場合、又は特殊な体質の者が体質上不向きな業務に紹介された場合をいうのである。
 ここにいう身体障害者とは、障害者の雇用の促進等に関する法律第2条第2号に規定する身体障害者及び令第3条第1項第2号に規定する身体障害者に準ずる者を指す。
 「身体虚弱」の程度は、医学的に精密な認定を必要とするものではなく常識で判断され得る程度の「虚弱」をいう。もちろん内科的疾患に基づく虚弱は容易に判断し得ない場合が多く、かかる場合には安定所の指定する医師の診断を待って、その認定を行わなければならない。
 「高齢」、「年少」の年齢的限界は、一律に定め得ないものであって、個々の事例ごとに判断することになる。ただし、労働基準法によって就業を制限されている業務に該当する場合は、もちろんこの基準に該当する。
 特殊な体質の者が体質上不向きな業務に紹介された場合とは、例えばガソリンの臭いをかぐことによって気分が悪くなる者が、ガソリンスタンドに紹介された場合であって、その気分の悪くなる程度及び当該勤務場所におけるガソリンの臭いの程度等からみて勤務が困難であると医学上認められる場合をいう。
  (ロ)  一定の知的・精神的能力を要する業務に、その者の知的・精神的能力から見て不適当な者が紹介された場合
 知的障害者等が、その知的・精神的能力を超えた能力を必要とする業務に紹介された場合をいうのである。
  (ハ)  その者の知識及び技能から見て不適当な業務に紹介された場合
 この基準は、次の場合に適用する。
   a  専門の知識、技能を有しない者がそれらを必要とする業務に紹介された場合
 例えば、建築、配線、潜水作業等の技能、熟練を必要とする業務に、それらの能力のない者が紹介された場合等を指すのである。
   b  専門の知識、技能を有し、それらを生かした業務に就こうとする者がそれらを必要としない業務に紹介された場合
 本人の希望する業務が明確であり、その内容が、本人の有する専門の知識、技能及び労働市場の状況から見て妥当なものである場合以外はこの基準を適用しない。
 この場合、求職票等により受給資格者の希望する業務が明確に把握できる場合であって、学歴、職歴等から見て、その者が当該業務を遂行するのに必要な専門の知識、技能を十分身に付けており、さらに該当する求人が現実に労働市場に存在し、就職が可能であると認められる場合に限り正当な理由ありとするものである。
 なお、この認定は、業務の実施に必要となる能力を有していれば、本人の希望如何にかかわらず、その業務に紹介してよいという最低の線と、本人の知識、技能を生かすことができる業務に紹介しなければならないという最上の線との間で、労働市場の状況等を踏まえた正常な常識による判断で行わなければならない。
 ロ  法第32条第1項第2号の「就職するため、現在の住所又は居所を変更することを要する場合において、その変更が困難であると認められる場合」の認定基準
  (イ)  就職先の事業所に寄宿舎、社宅等の施設がなく、かつ、その地域に住宅を得ることが困難な場合
 その事業所の所在地域において住宅を得ることが困難であるかどうかということは、その判定に困難を伴う問題であるが、結局その事業所に対する通勤可能の圏内において、通常の人が住宅を得ることについて社会通念上十分に手段を尽くしたと認められる程度の努力をしても、なお住宅が得られないとういことが客観的に是認されるかどうかによって決定されなければならないのであって、いやしくも一般の人であれば住宅を得ることが困難であろうというその地域についての客観的な格付けによって判断されなければならない。
  (ロ)  扶養すべき家族と別居することが困難な場合
 この基準は、受給資格者の個人的、家庭的な事情から、その住所又は居所を変更することが困難である場合であり、就業先の事業所に寄宿舎、社宅等の設備があると否とを問わず、扶養家族と別居生活をしなければならないことが条件である。
  (ハ)  現在の居住地において特別の収入があるときにおいて、住居を移転することによってその収入が途絶し、又は減少し、生計を維持することが困難となるとき
 住所又は居所を移転することによって、経済的な不利益を受ける場合であって、現在地においてのみ可能な内職を行っている場合又は農地を所有し、あるいは農耕に従事して収入を得ている場合において、住所を移転することによって、それらの収入が途絶し、就職先から賃金を得ても生計を維持することが困難となる場合をいうのである。
 なお、法第32条第1項第2号における「就職するため現在の住所又は居所を変更することを要する場合」には、通勤手段がバスのみである事業所に紹介された者が、バスに酔う体質であり、そのバスに酔う程度及び当該通勤に要するバスの乗車時間等からみて通勤が困難であることが医学的に認められる場合が含まれる。
 ハ  法第32条第1項第3号の「一般の賃金水準と比べて不当に低い場合」の認定基準
 次の(イ)又は(ロ)のいずれかに該当する場合は、正当な理由があると認められる。
  (イ)  就職先の賃金が、その地域の同種の産業の同職種の職業に同程度の年齢の者が就いた場合に受ける平均的な賃金のおおむね100分の80よりも低い場合
 ここにいう「就職先の賃金」には、当該受給資格者が拒否した就職先の求人票の「毎月の賃金」欄に記載された賃金のうち、時間外手当を除いた残余の部分の合計を用いる。
  (ロ)  就職先の賃金の手取額がその者の受けることができる基本手当の額のおおむね100分の100よりも低い場合
 ただし、本人が自己の意思により住所又は居所を変更した場合において、変更後の住所又は居所の労働市場における同種の産業の同職種の職業に同程度の年齢の者が就いた場合に受ける平均的な賃金が、変更前の住所又は居所の労働市場における同一条件の者の受ける平均的な賃金に比較して低い場合にはこの基準を適用しない。
 これは就職先の手取額がその者の受けることのできる基本手当の額以下の場合にあっては、雇用保険法に規定する最低生活の保障も困難となって、法の趣旨に反することとなるからである。なお、「手取額」とは、この場合総賃金から税金、社会保険料、労働組合費を控除したものとする。
 ただし書は、受給資格者が、自己の意思によって住所又は居所を変更した場合その変更後の住所又は居所の労働市場において、その受給資格者と同じ条件の者が受ける賃金がその受給資格者の変更前の住所又は居所の労働市場において、受給資格者と同じ条件の者が受ける賃金に比較して低いときは、本基準を適用しないということであって、例えば賃金水準の高い地域において受給資格を取得し又は基本手当の支給を受けていた者が、その後比較的賃金水準の低い地域に転居した場合等においては、本文の規定を適用せず、もっぱら、上記(イ)の基準によることとなる。すなわち、たとえ就職先の賃金が(上記(イ)の基準に定める率以下でない限り)基本手当の額以下の場合においても、就職を拒否するときは給付制限を受けることとなるのである。
 なお、就職先の賃金が、その地域の平均的な賃金の100分の80又は就職先の賃金の手取額が基本手当の額の100分の100よりも低いかどうかの認定に当たっては、「おおむね」とあるとおり、厳格に100分の80又は100分の100に限定せず、本人の失業していた期間及び将来本人が就職することのできる見込みを考慮してその基準額を多少上下させることは認められるのである。例えば、既に長期間失業しており、かつ近い将来においてより有利な職業に就くことが困難と認められる者については、就職の促進を図るため、この基準を多少低下させて、厳格な取扱いをする等の考慮を払う必要がある。
 ニ  法第32条第1項第4号「職業安定法第20条(第2項ただし書を除く。)の規定に該当する事業所に紹介された場合」の認定基準
  (イ)  同盟罷業又は作業所閉鎖の行われている事業所に紹介された場合(職業安定法第20条第1項)
 労働争議は、同盟罷業、怠業、作業所閉鎖等争議行為の多種多様性により、その判定が困難であるが、この基準は争議行為の中でも何人もこの存在を客観的に認めることのできる同盟罷業と作業所閉鎖の場合を取り上げているのである。
  (ロ)  労働委員会から安定所に対し、事業所において同盟罷業又は作業所閉鎖に至るおそれの多い争議が発生していること及び求職者を無制限に紹介することによって当該争議の解決が妨げられることについて通報のあった事業所に紹介された場合
 ただし、当該争議の発生前通常使用されていた労働者の員数を維持するために必要な限度までの人員を補充するため紹介された場合は、この限りではない(職業安定法第20条第2項)。
 安定所が労働委員会から、ある事業所において争議が怠業その他の形ですでに発生しているが、それが同盟罷業又は作業所閉鎖まで発展するおそれがあり、かつ求職者を無制限に紹介することによって、その争議の解決が妨げられる旨の通報を受けた場合は、その争議は、同盟罷業、作業所閉鎖と同様客観的にその存在が証明されたことになるのであるから、上記と同様の取扱いを行うものである。
 ホ  法第32条第1項第5号の「その他正当な理由があるとき」の認定基準
  (イ)  労働条件が法令に違反することの明らかな事業所に紹介された場合
 例えば、労働時間が休憩時間を除き1日について8時間、1週間について40時間を超えるものである場合(労働基準法第32条)、休憩時間が、労働時間が6時間を超える場合に45分未満、労働時間が8時間を超える場合に1時間未満である場合(労働基準法第34条第1項)、休日が毎週1回以上又は4週間で4日以上ない場合(労働基準法第35条)、6か月間継続勤務した出勤率8割以上の労働者に有給休暇を10日(その後勤務1年ごとに1〜10日を加算)以上与えない場合。ただし、出勤率8割以上の週所定労働時間30時間未満の短時間労働者については、週(又は年)所定労働日数と勤続年数に応じて労働基準法施行規則第24条の3第3項に定められた日数(1〜15日)以上与えない場合(労働基準法第39条)、最低賃金の適用を受ける労働者に対して支払われる賃金額がその最低賃金額未満である場合(最低賃金法第5条)などであって適用除外等に該当しない場合である。
 ここに「違反することの明らかな」というのは、客観的に明らかでなければならないのであって、受給資格者の主観的判断によって決定されるものではない。したがって、実際問題としては、受給資格者の申立てによって、安定所がその事実の有無を調査し、その結果違反することが明らかな場合にはじめてその拒否が正当となるのである。
  (ロ)  労働時間その他の労働条件がその地域の同種の業務について行われるものに比べて、不当である事業所に紹介された場合
 労働条件が法令には違反しないが、その地域の同種の業務について行われる一般水準に比べて不当に悪いことを指す。なお、この場合の労働条件は、賃金以外の労働条件を指している。賃金については前述のとおりである。
 「不当」かどうかの判定は、安定所が行うのであって、受給資格者の判断には拘束されない。
  (ハ)  2箇月以上賃金不払(賃金の3分の1を上回る額が支払われなかった場合を含む。)の事業所(将来正当な時期に賃金が支払われるものと認められるものを除く。)に紹介された場合
 「2箇月以上賃金不払」というのは、最近の、又は紹介を受けた当時における事実を指す。しかしながら、その事実が一時的なものであって、近い将来正当な時期に賃金が支払われることが確実な場合は、その就職を拒む正当な理由とはならない。
  (ニ)  公共の福祉に反する業務を行う事業所に紹介された場合
 「公共の福祉に反する業務」というのは、その業務が法令に違反しないまでもその業務を行うことが社会公共に不利益をもたらし、あるいは害毒を流すおそれのあるようなものをいい、個々の事例について公共の福祉に反するか否かを決定する。
  (ホ)  法令に違反する業務を行う事業所に紹介された場合
 事業所が法令違反の製品を製造し、あるいは販売している等の場合である。
  (ヘ)  7日以内に自己の希望する職業に就くことができると認められる場合
 例えば、予定就職先の事業主の証明書の提出を受けた場合等をいう。
  (ト)  本人の意思に反して、特定の労働組合への加入又は不加入を採用条件としている事業所に紹介された場合
 安定所の職業紹介はあくまでも求職者の自由な意思及びその基本的人権を尊重して行うのを原則とするのであるから、ある事業所の労働組合がクローズドショップ制をとっている場合であって受給資格者がその特定の労働組合と主義主張を異にし、それに加入することを好まないときは、受給資格者をその事業所に紹介することは避けるべきであるので、この基準は、その場合における受給資格者の拒否権を認めているのである。また、ある事業所が、特定の労働組合に加入しないことを採用条件としている場合も同様である。
  (チ)  離職前から引き続いて夜間通学している労働者が、学校所在地から著しく遠隔の地にある事業所で、その者の通学が不可能となるような事業所に紹介された場合又はその労働時間が異常であって夜間通学を不可能ならしむるような事業所に紹介された場合
 この基準の適用を受けることのできる者は、離職前から夜間通学をしていた者に限られるのであって、紹介先の事業所が学校所在地から著しく遠隔の地にあり、交通事情その他により、客観的に通学不可能と認められる場合、あるいは紹介先の事業所における勤務時間が異常であって夜間勤務を要すること又は相当遅くまで勤務を要することが常である等、客観的条件が通学を不可能ならしめると認められる場合である。
 なお、ここにいう学校には、学校教育法第1条にいう学校ばかりでなく、そこでの修学が真にその者の職業能力の向上に資し、もって再就職の促進に役立つと認められる場合は、同法第82条の2、第83条及び第84条の専修学校、各種学校及びこれに準ずるものも含む。また、ここにいう不可能とは、全く通学できない場合のほか、社会通念上通学を継続することが無意味となる場合をも含む。また、離職後夜間通学を始めた者は、この基準の適用を受けないことはいうまでもない。
  (リ)  就職後間もなく、その者の勤務地の変更があることが明らかな場合であって、これに伴い必要とされる住所又は居所の変更が困難であると認められる場合
 住所又は居所の変更が困難であるか否かの認定は、52152のロの(イ)、(ロ)及び(ハ)に準じて行う。

52153(3) 公共職業訓練等の受講を拒否することが正当な理由があると認められる場合の認定基準

 イ  法第32条第1項第1号の「公共職業訓練等を受けることを指示された職種が、受給資格者の能力からみて不適当であると認められる場合」の認定基準
 指示された職業訓練の訓練科が本人の素質、能力等から見て、適当でないと認められる場合を挙げることができる。
 受給資格者の能力、素質がその訓練科について適当でない場合は、訓練等が行われても、訓練等そのものの効果が挙げ得ないし、また、訓練等の課程を修めて就職しても、有効に能力を発揮し得ないものであるから、訓練等も、職業の紹介の場合と同様、その者の能力に適当な職種について行う必要がある。
 ここに能力、素質というのは、公共職業訓練等の課程を修めた後就職し、自己の労働力を提供し得る精神的、肉体的、技術的な能力、素質である。
 ロ  法第32条第1項第2号の「公共職業訓練等を受けるため、現在の住所又は居所を変更することを要する場合において、その変更が困難であると認められる場合」の認定基準
  (イ)  公共職業訓練施設に寄宿舎、社宅等の設備がなく、かつ、その地域に住宅を得ることが困難な場合
  (ロ)  扶養すべき家族と別居することが困難な場合
  (ハ)  現在の居住地において特別の収入がある場合において、住居を移転することによってその収入が途絶し、又は減少し、生計を維持することが困難となるとき
上記(イ)、(ロ)及び(ハ)については、52152のロの(イ)、(ロ)及び(ハ)に準じて取り扱う。
 ハ  法第32条第1項第5号の「その他正当な理由があるとき」の認定基準
 就職が決まりその準備のために退校(所)する必要がある場合

52154 (4) 職業指導拒否が正当な理由があると認められる場合の認定基準

 イ  次に掲げる理由によって所定の出頭日に出頭できないで、職業指導を受けなかった場合(当該出頭日の次の出頭日の前日までに出頭して職業指導を受けたか否かを問わない。)
  (イ)  疾病又は負傷
  (ロ)  求人者との面接
  (ハ)  公共職業訓練等の受講
  (ニ)  天災その他やむを得ない理由
   a  災害、交通事故等の不可抗力の事故
   b  消防団員として出動義務のある消火活動への従事
   c  予備自衛官の訓練招集
   d  証人、参考人等としての裁判所、議会等への出頭
   e  犯罪容疑等による召喚、勾引、勾留等
   f  本人の看護を要する同居の親族の疾病又は負傷
   g  喪主として行う親族の葬祭
  (ホ)  前各号に準ずる理由であって安定所長が認めるもの
 本人の結婚式、社会通念上妥当と認められる日数の新婚旅行等は、これに該当するものとして取り扱う。
 ロ  次に掲げる理由によって所定の出頭日に出頭できないで職業指導を受けなかった場合において、次回の出頭日の前日までに出頭して、職業指導を受けた場合
  (イ)  就職
  (ロ)  資格試験の受験
  (ハ)  選挙権その他公民としての権利の行使
  (ニ)  親族の葬祭(イの(ニ)のgの場合を除く。)
  (ホ)  選挙の立会
  (ヘ)  前各号に準ずる理由であって安定所長が定めるもの
 ハ  受けることを指示された適性検査又は体力検査が、本人に精神的又は肉体的に著しく過重である場合には、これを受けなくとも給付制限は行わない。


トップへ
戻る