平成13年10月2日付けの局長通知に基づき、ウシ等由来物を原料とする医薬品、医療用具、医薬部外品及び化粧品の品質、安全性確保の強化に関する措置として、企業から報告のあった製品に係る予防的な措置(平成12年12月の措置に対応していない製品の切替えの確実な実施)を効果的・効率的に実施するため、以下のとおり、報告があった製品のリスクについて現時点での科学的知見に基づき評価してはどうか。
1.より詳細なリスクの評価
現在切り替えを行っている製品のウシ等由来原料のリスクを評価するために、次の(1)〜(4)を考慮して作成したBSEに関するリスクのクラス分類総括表は別表1のとおり。
(1)原料にBSE感染牛由来の臓器等が用いられるリスクの確率
次のように、原産国のBSE発生率(頭数)を基本に推定する。
(2)BSEの部位別リスクを踏まえた汚染の確率
(3)ヒトに対する安全性(曝露)
万が一汚染された原料を使用していた場合、最終製品中での理論的な残存量、希釈の程度、投与経路、不活化処理が、曝露の程度を決定する要因として考慮される。
次の(1)から(3)を総合的に勘案し、その曝露の程度から、比較的低曝露のものと、高曝露のものに区分することが可能と考えられる。比較的低曝露とみなされるものは、(2)の(2)と同様に、理論的な汚染リスクを考慮する((D)参照)。
また、ドイツ医薬品庁のガイドライン(参考3)では、実験的な根拠は示されていないものの、健康皮膚での経皮使用では7log10のリスクの減少を推定したリスクの評価を行っていることも参考とし、経口、経皮については、注射と比較して曝露リスクは低いと考慮される。(2)
さらに、人の体内に比較的長時間滞留する製品については、特に、リスクの高い部位を使用する場合には一層の注意が必要である。
脳内 | 静脈内 | 皮下注射 | 経口(消化管) | ||||
リスク推計(1) | 1 | 1/9 | 1/24,500 | 1/ 10万 | |||
リスク推計(2) | 1 | 1/10 | 1/100 | 1/10,000 | 1/ 10万 | 1/ 100万 | 1/1000万 |
脳内 | 血管内 | その他 注射 |
粘膜 | 経口(消化管) | 経皮 | 健康皮膚 |
(4)外国での規制状況
2.より詳細なリスク評価に基づく分類
報告のあった製品については、1.の考え方に基づくより詳細なリスク評価に基づき、別表2のように、区分(イ)、(ロ)及び(ハ)に分類される。なお、これらは、いずれも、理論的に存在するリスクを科学的に評価したものであり、また、現時点で、製品の使用に伴う人への感染について、科学的知見が示されているものではないことに留意すべきである。
別表1
区分 | 類型 | 原料 | リスクの目安 | ||
地域 | 部位 | ||||
あり ↑ │ │ │ │ リ ス ク │ │ │ │ ↓ なし |
リスクの起点 | (1)BSE感染牛の危険部位 1 × 1 |
● | ● | 1 |
(2)BSE感染牛+危険部位以外 1 × 1/1万 |
● | − | 1/1万 (a) | ||
区分(イ) | (3)発生国等+危険部位(高曝露) 1/1万 × 1 |
○ | ○ | 1/1万(注) (b) | |
(4)発生国等以外+危険部位(高曝露) 1/100万 × 1 |
− | ○ | 1/100万(注) (c) | ||
区分(ロ) | (5)発生国等+危険部位(低曝露) 1/1万 × 1/1万 |
○ | △ | 1/1億 (d) | |
(6)発生国等+危険部位以外 1/1万 × 1/1万 |
○ | − | 1/1億 (d) | ||
区分(ハ) | (7)発生国等以外+危険部位(低曝露) 1/100万 × 1/1万 |
− | △ | 1/100億 (e) | |
区分(ニ) | (8)発生国等以外+危険部位以外 1/100万 × 1/1万 (未満) |
− | − | 1/∞ |
(a) 感染牛の危険部位が、万が一、他の部位を汚染する最大リスクの確率は、米国FDA のリスクの低い部位での感染の確率を用いて、
(b) BSE発生国で万が一感染牛の危険部位を使用した場合のリスクの確率は、欧州でのBSEウシの最大限の発生率(発生頭数/総ウシ頭数)を用いて、
(c) BSEが発生していない国で万が一BSEが起こり、感染牛の危険部位を使用した場合のリスクの確率は、OIEの基準に基づく最低限の発生率(発生頭数/総ウシ頭数)を用いて、
(d) BSE発生国で万が一感染牛の臓器を使用(確率は1/10,000)したとしても、使用部位が他の部位である場合又は危険部位であっても希釈されている場合(リスクの確率は1/10,000)、原料が汚染される確率は、
(e) BSEが発生していない国で万が一BSEが起こり、感染牛の危険部位を使用したとしても(確率は1/1,000,000)、希釈されている場合(リスクの確率は1/10,000)、原料が汚染される確率は、
別表2
区分 | 類型 | 成分 | 医薬品 | 医療用具 | 医薬部外品 化粧品 |
||||
種別 | 成分/組成 | 部位 | 経路 | ||||||
リスク 高い ↑ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ ↓ リスク なし |
イ | (3)発生国等 +危険部位(高曝露) |
具 | 腸線縫合糸 | 腸 | 植 | 0 | 10 | 0 |
(4)発生国等以外 +危険部位(高曝露) |
具 | 腸線縫合糸 | 腸 | 植 | 5 | 29 | 0 | ||
薬 | トロンボプラスチン (トロンビンの製造工程) |
脳 | 外傷 | ||||||
具 | ヘパリン | 腸 | 植込 | ||||||
ロ | (5)発生国等 +危険部位(低曝露) |
化 | 胎盤エキス | 胎盤 | 皮 | 1 | 0 | 427 | |
化 | 糖タンパク質 | 脳 | 皮 | ||||||
化 | 脳脂質、スフィンゴ脂質 | 脳 | 皮 | ||||||
化 | 脾臓エキス | 脾臓 | 皮 | ||||||
化 | ヘパリン類似物質 | 腸 | 皮 | ||||||
化 | トリサッカライド | 腸 | 皮 | ||||||
化 | ペンタグリカン | 眼・軟骨 | 皮 | ||||||
(6)発生国等 +危険部位以外 |
薬 | 子羊胃粘膜抽出物 | 胃 | 口 | 61 | 2 | 336 | ||
具 | コラーゲン | 皮 | 植 | ||||||
化 | コラーゲン | 皮 | 皮 | ||||||
化 | 牛脂 | 牛脂 | 皮 | ||||||
化 | アルブミン | 血液 | 皮 | ||||||
化 | 血液 | 血液 | 皮 | ||||||
化 | 血液除タンパク | 血液 | 皮 | ||||||
薬 | 幼牛血(ソルコセリル) | 血液 | 外、注 | ||||||
薬 | トロンビン(配合剤) | 血液 | 創傷 | ||||||
化 | エラスチン | 腱 | 皮 | ||||||
薬 | 心臓 | 心臓 | 口 | ||||||
薬 | チトクロームC | 心臓 | 口、注 | ||||||
薬 | ヘルツゲン | 心臓 | 口 | ||||||
薬 | インスリン | 膵臓 | 注 | ||||||
薬 | 酢酸ブセレリン | 膵臓 | 粘膜 | ||||||
薬 | コール酸 | 胆汁 | 口 | ||||||
薬 | 胆汁エキス | 胆汁 | 口 | ||||||
化 | 骨髄脂、骨脂質 | 骨 | 皮 | ||||||
薬 | ゼラチン(ソフトカプセル) | 骨等 | 口 | ||||||
ハ | (7)発生国等以外 +危険部位(低曝露) |
化 | 胸腺エキス | 胸腺 | 皮 | 27 | 0 | 3037 | |
化 | 胎盤エキス | 胎盤 | 皮 | ||||||
薬 | 胎盤エキス | 胎盤 | 口 | ||||||
薬 | ヘパリン類似物質 | 腸 | 皮 | ||||||
化 | スフィンゴ脂質 | 脳 | 皮 | ||||||
薬・化 | ヒアルロン酸 | 脳 | 皮 | ||||||
薬 | ヒアルロン酸 | 脳 | 注・手術 | ||||||
薬 | 副腎エキス | 副腎 | 皮 | ||||||
化 | 骨髄 | 骨髄 | 皮 | ||||||
ニ | (8) 発生国等以外+危険部位以外 | 報告の対象ではない。(H12.12の措置の適合範囲) |
別表3
1. コラーゲン
コラーゲンは、BSEのリスクの低い(カテゴリーIV)ウシの皮に由来し、皮を分解して生成すること、皮膚に使用することから、コラーゲンによるBSEの人への感染のリスクは低いと考えられる。
2. ウシ胎盤エキス
胎盤は、リスクの高い部位(カテゴリーII)とされているが、発生国等以外の国に由来する原料を使用し、製品化されるときに希釈され、健康な皮膚に塗布される場合には、胎盤エキスによるBSEの人への感染のリスクは低いと考えられる。
3. ウシ胸腺エキス、脾臓エキス
胸腺※又は脾臓は、リスクの高い部位(カテゴリーII相当)とされているが、発生国等以外の国に由来する原料を使用し、製品化されるときに希釈され、健康な皮膚に塗布される場合には、胸腺又は脾臓のエキスによるBSEの人への感染のリスクは低いと考えられる。
※ 胸腺は、「臓器別リスク分類(BEAガイドライン)及びリスク評価」(参考1)では、カテゴリーIIIであるが、食品において国際的に採用されている国際獣疫事務局(OIE)の評価では、高発生国から輸入する場合に除去すべき部位とされていることを踏まえ、平成12年12月の局長通知において、医薬品等の原料としての使用を禁止する「14部位」に含めることとしたもの。
4.加水分解エラスチン液
エラスチンは、BSEのリスクの低い(カテゴリーIV)ウシの靱帯に由来し、靱帯を分解して生成すること、皮膚に使用することから、エラスチンによるBSEの人への感染のリスクは低いと考えられる。
5.ヒアルロン酸(培養)
菌の培養で生成するヒアルロン酸の製造工程中の種培養の培地に使用されるウシ脳抽出物は、発生国等以外の国を原産国とするものが使用され、製造工程中で十分に希釈されていることから、皮膚に使用する場合には、ヒアルロン酸によるBSEの人への感染のリスクは低いと考えられる。
6.ゼラチン
ゼラチンは、リスクの低い(カテゴリーIV)皮又は骨に由来し、BSE不活化に関して、国際的にも評価されているアルカリ処理、高温加熱工程を経て製造されるため、BSEの人への感染のリスクは低いと考えられる。
カテゴリー | 感染伝播リスク | 臓器等 | 脳内投与時のID50/g | リスク |
I | 高リスク | 脳、脊髄、眼 | 107 | 1 |
II | 中リスク | 回腸、リンパ節、近位結腸、脾臓、扁桃、(硬膜、松果体、胎盤)、脳脊髄液、下垂体、副腎 | <2.5×104 | 400分の以下 |
III | 低リスク | 末梢結腸、鼻粘膜、末梢神経、骨髄、肝臓、肺、膵臓、胸腺 | <100 | 10万分の1 |
IV | リスクなし | 血液凝固物、便、心臓、腎臓、乳腺、乳、卵巣、唾液、唾液腺、精嚢、血清、骨格筋、精巣、甲状腺、子宮、胎児組織、(胆汁、骨、軟骨、結合組織、髪の毛、皮、尿) | <0.1 | 1億分の1 |
注: スクレイピー感染ヒツジ及びヤギの組織等の感染実験に基づく分類。( )内の臓器は、この感染実験には含まれていないが、他の研究報告により感染性の程度が示唆されたもの
(参考2)
1.BSE高発生国・地域
(1)過去12ヶ月のBSE発生率(24月齢以上の動物)が、100/1,000,000頭を超える国又は地域。
(2)肉骨粉の食餌、輸入等に関する要因、教育プログラム、BSE兆候のウシの調査、サーベイランス体制、ウシの脳等の検査体制を満たさない国で、1〜100/1,000,000頭の発生率の国又は地域。
2.BSE低発生国・地域
(1)過去12ヶ月のBSE発生率(24月齢以上の動物)が、1〜100/1,000,000を超えることのない国又は地域。
(2)過去4年間のBSE発生率(24月齢以上の動物)が、1/1,000,000頭未満の国又は地域。
日本 | 米国 | EU | |
1.ウシの原産国についての規制 | BSEが発生している国及びそのリスクが高い国の原産の反芻動物及びそれらの国で育った反芻動物を原料として医薬品等に使用することを認めていない。 <BSE発生国> イギリス、スイス、フランス、アイルランド、オマーン、ポルトガル、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ <BSE高リスク国> アルバニア、オーストリア、ボスニア・ヘルチェゴビナ、ブルガリア、クロアチア、チェコ、デンマーク、ユーゴスラビア、フィンランド、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、マケドニア、ノルウェー、ポーランド、ルーマニア、リヒテンシュタイン、スロベニア、スロバキア、スペイン、スウェーデン (13年10月リスク不明国へ対象拡大等追加) |
BSEが発生している国及びそのリスクが高い国の原産の反芻動物及びそれらの国で育った反芻動物を原料として医薬品等に使用することを認めていない。 <BSE発生国> イギリス、スイス、フランス、アイルランド、オマーン、ポルトガル、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ <BSE高リスク国> アルバニア、オーストリア、ボスニア・ヘルチェゴビナ、ブルガリア、クロアチア、チェコ、デンマーク、ユーゴスラビア、フィンランド、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、マケドニア、ノルウェー、ポーランド、ルーマニア、リヒテンシュタイン、スロベニア、スロバキア、スペイン、スウェーデン |
BSEのリスクの低い国のウシを用いることが求められている。 |
2.ウシの部位についての規制 | 臓器のリスクによりリスクの高い部位の使用を禁止。ただし、羊毛、ラノリン、ゼラチン、乳は適用除外 使用が適当でない部位 脳、脊髄、眼、腸、リンパ節、脾臓、扁桃、硬膜、松果体、胎盤、脳脊髄液、下垂体、副腎、胸腺 |
使用を禁止する部位の特定は行っていない。 ただし、ゼラチン及び乳は、地域制限の適用除外。 |
臓器をリスクにより4クラスに分類し、ハイクラスの部位の使用を禁止。 クラスI:ハイリスク 脳、脊髄、眼 クラスII:中リスク 回腸、リンパ節、近位結腸、脾臓、扁桃、(硬膜、松果体、胎盤)、脳脊髄液、下垂体、副腎 クラスIII:ローリスク 末梢結腸、鼻粘膜、末梢神経、骨髄、肝臓、肺臓、膵臓、胸腺 クラスIV:リスクなし 凝血、便、心臓、腎臓、乳腺、ミルク、卵巣、唾液唾液腺、精嚢、血清、骨格筋、精巣、甲状腺、子宮、死亡組織(胆汁、骨、軟骨、結合組織、髪、皮膚、尿 |
日本 (反芻動物) | 米国 (牛) | EU(牛、羊、ヤギ) | ||||
規制方式 | A又はBの禁止 | AかつBの禁止 | Bの禁止 | |||
原産国として適当でない国 A |
(12年12月)
(13年10月範囲拡大)
|
|
国の限定なし | |||
リスクの高い部位 B |
以下の部位を原産国にかかわらず使用してはならない。 (BEA Class I, II相当) 脳、脊髄、眼、脳脊髄液、腸(回腸、結腸)、扁桃、リンパ節、脾臓、松果体、硬膜、胎盤、下垂体、副腎、胸腺 |
発生国・リスクの高い国を原産国とする以下の部位を使用してはならない。 (BEA Class I, II相当) 脳(脳抽出物、小脳、視床下部、頭蓋神経)、脊髄、眼、脳脊髄液、結腸、回腸、扁桃、リンパ節、脾臓、松果体、硬膜、胎盤、下垂体、副腎・腎上体、鼻粘膜、嗅覚器・腺 |
以下の部位を原産国にかかわらず使用してはならない(12月齢以上動物) (BEA Class I相当) 脳、脊髄、眼、扁桃、脾臓(羊・ヤギ) 不活化処理された牛脂は除く。 |