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健衛発第95号
平成13年9月11日
   都道府県
各 政令市  衛生主管部(局)長 殿
   特別区
厚生労働省健康局生活衛生課長

循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアルについて

 公衆浴場業、旅館業等における循環式浴槽のレジオネラ症防止対策については、「公衆浴場における衛生等管理要領等について」(平成12年12月15日付け生衛発第1811号同局長通知)等に基づき、関係者に対し御指導をお願いしているところですが、今般、循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策について、営業者による適切な管理が行われるよう、平成12年度厚生科学研究に基づき、上記通知の趣旨を踏まえた具体的な管理方法等をマニュアルとして作成しましたので、関係者への周知方お願いいたします。
 なお、「遊泳用プールの衛生基準について」(平成13年7月24日付け健発第774号厚生労働省健康局長通知)に基づく遊泳用プールの付帯設備として、循環式浴槽と同様の設備が設けられている場合にも、当該設備の管理が上記マニュアルに準じて行われるよう、関係者への周知方併せてお願いいたします。


循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル

目 次
はじめに

I.レジオネラ症とは

II.感染源および感染経路

III.循環式浴槽の管理方法

 1.関連法規等に規定されている管理概要

 2.設備の概要

(1)循環式浴槽とは、どのようなシステムの浴槽をいいますか。
(2)湯の循環方式には、どのような方法がありますか。
(3)ろ過器の機能について教えて下さい。
(4)ろ過器にはどのような種類のものが使われていますか。
 3.構造上の問題点と対策
(1)循環式浴槽の構造上の問題点とチェックポイントを教えて下さい。
 4.浴槽の水質管理

 1)水質基準・検査方法・検査頻度

(1)浴槽水の水質に関する基準はありますか。
 2)消毒方法
(1)浴槽水などの消毒方法に関する規定はありますか。
(2)塩素系薬剤にはどのようなものがありますか。
(3)塩素系薬剤の注入(投入)にはどのような方法がありますか。
(4)塩素系薬剤による消毒方法で注意すべきことは何ですか。
(5)塩素系薬剤を使用するにあたっての一般的な注意事項は何ですか。
(6)有効塩素と残留塩素の違いは何ですか。
(7)塩素系薬剤で浴槽水を消毒する場合の注入(投入)量はどのくらいですか。
(8)残留塩素濃度の測定にはどのような方法がありますか。
(9)アルカリ性の温泉水では、塩素系薬剤の消毒効果が低下する理由は何ですか。
(10)塩素系薬剤の他にどのような消毒方法がありますか。
 また、使用上の注意点は何ですか。
 5.浴室の管理方法
(1)浴槽の清掃・消毒に関する規定はがありますか。
(2)循環式浴槽の維持管理上の注意点について教えて下さい。
(3)その他の浴槽設備の管理で注意することは何ですか。
 6.その他
(1)感染の危険因子について教えて下さい。
(2)レジオネラ症に罹らないようにするには、どうしたらよいのでしょうか。
(3)レジオネラ症が疑われる患者が発生した場合の対応を教えてください。
(4)浴槽水のレジオネラ属菌の検査はどこに依頼すればよいのでしょうか。
(5)検査を行うにあたり、検体の採取・輸送などで注意しなければならないことは何ですか。

はじめに

 この防止対策マニュアルは、「I.レジオネラ症とは」、「II.感染源および感染経路」、「III.循環式浴槽の管理方法」の3つからなっています。I及びIIは、レジオネラ症の紹介と発生機構についての解説、IIIにおいては、循環式浴槽を中心とした設備概要と衛生上の問題点、管理上の安全対策について、「公衆浴場における衛生等管理要領」、「旅館業における衛生等管理要領」及び「新版レジオネラ症防止指針」などの最新の知見をもとに、現時点における望ましい対応方法を記述しました。
 なお、本防止対策マニュアルは、循環式浴槽の利用・使用者から設備維持管理者、設計者、製造・販売者並びに行政関係者などの多くの方に利用してして頂きたく、参考となるべきことを、Q&A方式を用いて項目別に分かり易いかたちでまとめました。

I.レジオネラ症とは

 レジオネラ症が独立疾患として最初に認識されたのは、1976年夏のことでした。米国フィラデルフィアのベルビュー・ホテルで、在郷軍人会ペンシルバニア州支部総会が開催された時、同州各地から参加した会員の221名が、帰郷後に原因不明の重症肺炎を発病し、そのうち34名が死亡しました。この重症肺炎は、米国疾病予防センター(CDC)の精力的な調査により独立疾患と認められ、在郷軍人会(The Legion)にちなんで、在郷軍人病(Legionnaires’disease)と呼ばれました。半年に及ぶ研究の結果、新しい病原菌が発見され、Legionella pneumophilaと命名されました。その後、レジオネラ症には、肺炎型だけでなくインフルエンザのような熱性疾患型があることが、1965年のミシガン州ポンティアック衛生局庁舎内の集団発生にまでさかのぼって判明し、この病型をポンティアック熱と呼ぶようになりました。レジオネラ肺炎にかかると、悪寒、高熱、全身倦怠感、頭痛、筋肉痛などが起こり、呼吸器症状として痰の少ない咳、少量の粘性痰、胸痛・呼吸困難などが現れ、症状は日を追って重くなっていきます。 腹痛、水溶性下痢、意識障害、歩行障害を伴う場合もあります。潜伏期間は、通常1週間前後です。
 1999年4月に施行された、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(いわゆる感染症法)においては、レジオネラ症は全数把握の4類感染症に分類され、診断した医師は1週間以内にその情報を最寄りの保健所に届けることが義務づけられました。
 現在欧米では、レジオネラ肺炎は市中肺炎の2〜8%を占め、レジオネラ属菌は、肺炎球菌に次いで重要な肺炎の原因菌にあげられています。これまで、わが国のレジオネラ肺炎症例の実態は把握されていませんでしたが、感染症法の施行に伴い、今後は患者の実態がより正確に把握されると期待されます。ちなみに、感染症法の施行後2000年11月までに報告された患者数は178例となっています。

II.感染源および感染経路

 通常、レジオネラ肺炎は、レジオネラ属菌を包んだ直径5μm以下のエアロゾルを吸入することにより起こる気道感染症です。レジオネラ属菌は本来、環境細菌であり、土壌、河川、湖沼などの自然環境に生息していますが、一般にその菌数は少ないと考えられます。冷却塔水、循環式浴槽水など水温20℃以上の人工環境水では、アメーバ、繊毛虫など細菌を餌とする原生動物が生息しています。これらの細胞に取り込まれたレジオネラ属菌は、死滅することなく細胞内で増殖することができます。その菌数は、通常、水100mLあたり10〜10個、多い時は10個に達します。
 レジオネラ肺炎は健常者もかかりますが、糖尿病患者、慢性呼吸器疾患者、免疫不全者、高齢者、幼弱者、大酒家や多量喫煙者は罹りやすい傾向があります。土木・粉塵作業、園芸作業、旅行との関連も指摘されています。海外におけるレジオネラ集団感染の事例としては、この菌に汚染された冷却塔水から発生したエアロゾルが感染源であったケースが最も多く報告されています。レジオネラ属菌に汚染された循環式浴槽水、シャワー、ホテルのロビーの噴水、洗車、野菜への噴霧水のエアロゾル吸入、浴槽内で溺れて汚染水を呼吸器に吸い込んだ時などに感染・発病した事例が報告されています。レジオネラ感染症は基本的に肺炎ですが、汚染水の直接接触で外傷が化膿し、皮膚膿瘍になったり、温泉の水を毎日飲んで発症した事例もあります。
 ただし、患者との接触によって感染したという報告はありませんので、患者を隔離する必要はありません。

III.循環式浴槽の管理方法

1.関連法規等に規定されている管理概要

 (旧)厚生省は、平成12年12月15日に「公衆浴場における衛生等管理要領等について」(生衛発第1811号生活衛生局長通知)(以下「管理要領等」と言います。)により、「公衆浴場における衛生等管理要領」および「旅館業における衛生等管理要領」を全面改正し、公衆浴場等の衛生管理の強化を図りました。この管理要領等において、循環式浴槽は「連日使用型」と「毎日完全換水型」に区分されました。なお、浴槽水の水質については、「公衆浴場における水質基準等に関する指針」(以下「指針」と言います。)の中では、レジオネラ属菌に関する水質基準を設け、10CFU/100mL未満、すなわち現行の検査方法で不検出という基準が設定されました。また、レジオネラ属菌の増殖を防ぐために、管理要領等で以下のような管理要点が示されました。

(1)循環ろ過装置は、1時間当たりで、浴槽の容量以上のろ過能力を有すること。
(2)循環ろ過装置を使用する場合は、ろ材の種類を問わず、ろ過装置自体がレジオネラ属菌の供給源とならないよう、消毒を1週間に1回以上実施すること。
(3)浴槽水の消毒に用いる塩素系薬剤は、浴槽水中の遊離残留塩素濃度を1日2時間以上0.2〜0.4mg/Lに保つことが望ましいこと。
(4)温泉の泉質等のため塩素消毒ができない場合は、オゾン殺菌または紫外線殺菌により消毒を行うこと。この場合、温泉の泉質等に影響を与えない範囲で、塩素消毒を併用することが望ましいこと。
(5)連日使用型循環式浴槽では、1週間に1回以上定期的に完全換水し、浴槽を消毒・清掃すること。
(6)管理記録を3年以上保存すること。
などです。
 公衆浴場では、毎日完全換水することが前提となっています。営業中は、充分に原湯又は循環ろ過水を供給することにより溢水させ、浴槽水を清浄に保ちます。一日の営業終了後に完全に水を落とし(貯め湯をせずに)、浴槽、ろ過装置、循環系を消毒・清掃します。浴槽の清掃管理を適切に実施していても、ろ過装置や配管系の消毒・清掃を怠るとレジオネラ属菌の繁殖を許すことになります。
 温泉などで、砂ろ過等の循環ろ過装置を設置して継続的に営業する場合には、塩素消毒を併用することが前提となります。塩素を添加せずに連続運転をすると、ろ材にたまった有機物を栄養源として微生物が繁殖し、バイオフィルム(生物膜、ぬめり)を形成します。バイオフィルムの中では、レジオネラ属菌などの微生物は、消毒剤などの殺菌作用から守られて生息し続けます。これを除去せずに浴槽水だけを消毒しても、十分な効果が期待できないことは明瞭です。
 ろ過器内に微生物を繁殖させて湯を浄化する循環式浴槽(いわゆる24時間風呂)は、ろ過装置がレジオネラ属菌の供給源になるため、使用者はその危険性をよく認識しなければなりません。特に、業務用24時間風呂を、感染に対する抵抗力が高くない高齢者を対象とする施設に設置する場合には、特に十分な管理が必要です。

2.設備の概要

(1)循環式浴槽とは、どのようなシステムの浴槽をいいますか。

 循環式浴槽とは、温泉水や水道水の使用量を少なくする目的で、浴槽の湯をろ過器を通して循環させることにより、浴槽内の湯を清浄に保つ構造の浴槽を言います。この中で「連日使用型循環浴槽」は、浴槽水を24時間以上完全換水を行わないで循環ろ過する浴槽、いわゆる24時間風呂です。構造は、図-1に示すように集毛器(ヘアーキャッチャー)、循環ポンプ、消毒装置、ろ過器、加熱器(熱交換器)、循環配管によって構成され、浴槽内の湯を浄化し適温に保つものです。
 浴槽の湯は、髪の毛などの混入物が集毛器で除去され、消毒剤などを用いて消毒します。消毒剤には塩素系薬剤が推奨されていますが、温泉の中には塩素消毒の効果が十分に発揮されない泉質があります。その場合は、オゾン殺菌や紫外線殺菌により消毒が行われています。その後、ろ過器で更に微細な汚濁物質がろ過され、加熱器で適温に温めて浴槽に戻されます。
 この他に「毎日完全換水型循環浴槽」があり、その構造は主に循環ポンプとろ過器で構成され、浴槽水は毎日完全換水を行います。

(2)湯の循環方式には、どのような方法がありますか。

 浴槽の湯の循環方式には、一般に、(1)側壁吐出・底面還水方式(図-2)、(2)側壁吐出・オーバフロー還水方式(図-3)が使われています。

(1)側壁吐出・底面還水方式
 浴槽の側壁からろ過・消毒された湯を浴槽内に吐出させて、浴槽の底から吸い込んでろ過器に戻す方法で、一般にはこの方式が多く使われています。
(2)側壁吐出・オーバフロー還水方式
 浴槽内に浴槽の側壁や底面から湯を吐出させて、浴槽の縁からオーバフローさせた湯を集めてろ過器に戻す方法で、湯が豊富に溢れ出ているように見せる視覚的な効果と、浴槽表面の浮遊物の除去が可能です。節水の目的でも用いられる循環方式です。
 この方式は、最近、旅館の大風呂や大型の浴場(いわゆるスーパー銭湯等)で使われるようになっていますが、オーバフローした浴槽水に洗い場の排水を混入させない集水方法としなければなりません。

図1 循環式浴槽の構造

図2 側壁吐出・底面還水方式

図3 側壁吐出・オーバーフロー還水方式

(3)ろ過器の機能について教えて下さい。

 機能的には、物理ろ過と生物浄化に分けられます。
 物理的ろ過装置は、規模の比較的大きな浴槽に使用されています。この装置の機能は、微細な粒子や繊維あるいは髪の毛などを除去するものですが、水に溶け込んだ物質を分解・除去する能力はありません。
 生物浄化装置は、ろ材に多孔質の自然石、人造石(セラミックボール等)あるいは活性炭などを用い、これらを支持体として微生物を繁殖させたものです。ろ材自体のろ過能力は期待できませんが、ろ過装置内の微生物によって浴槽水の汚濁物質を分解させる仕組みです。この装置の大掛かりなものは、下水処理などで用いられています。しかしながら、循環式浴槽では水温が高く、レジオネラ属菌などの病原微生物もろ材で繁殖しやすいため、ろ過装置が浴槽水へのレジオネラ属菌の供給源となるおそれがあります。

(4)ろ過器にはどのような種類のものが使われていますか。

 ろ過器には大きく分けて、(1)砂式、(2)けいそう(珪藻)土式、(3)カートリッジ式の3つの方式があります。公衆浴場における衛生等管理要領では、循環式浴槽のろ過能力は、1時間に浴槽の湯が1回以上ろ過されることとされていますが、一般には1.5〜3回程度の能力としている例が多いようです。

(1)砂式
 砂式は、水質の変動に強く操作が容易で比較的安定した水質が得られるため、一般に多く使われています。ろ過タンク内に、粒子径や比重の異なる天然砂やアンスラサイトなどを積層して湯をろ過するもので、20〜50μm程度までの汚濁物質をろ過します。ろ過能力はろ過速度によって左右され、一般に25〜50m/hのものが使われていますが、ろ過精度を考えれば40m/h以下の速度を維持することを推奨します。
 ろ材が目詰まりしたら、湯を逆に流して(逆洗)汚濁物質を清掃・排除しますが、その回数は週1回以上定期的に行い、同時にろ材の消毒をする必要があります。ろ材に多孔性ろ材が使われている生物浄化方式のろ過器は、消毒により浄化機能が抑制されるため効果は期待できません。
(2)けいそう土式
 合成繊維膜に微細なけいそう土粉末を2〜6mm程度付着させて、ろ過膜を作りろ過するもので、5μm程度までの汚濁物質をろ過できるなど、ここに示した3方式のうちで最も優れています。ろ材が詰まったらけいそう土を洗い落として、新しいけいそう土を付着させてろ過膜を作り直します。このろ過器は、公衆浴場などで使われている例が多いようです。
(3)カートリッジ式
 合成繊維の糸を筒形に巻いたカートリッジと、ポリエステル不織布のプリーツ形カートリッジをろ材にしたものがあり、ろ過水量に応じた本数をタンク内に納めたもので、10〜15μm程度までの汚濁物質を捕捉できます。糸巻き式のカートリッジは、逆洗してろ剤を洗浄することができず、一般には消耗品として破棄し、プリーツ形はタンクから取り出して洗浄できますが、操作が容易ではありません。現在では、比較的入浴者が少なく小規模な浴槽に使われていますが、一般に逆洗機能が付いていないので、捕捉した汚濁物質を定期的に除去できないため、浴槽用のろ過器としては好ましくありません。

3.構造上の問題点と対策

(1)循環式浴槽の構造上の問題点とチェックポイントを教えて下さい。

 循環式浴槽は、ろ過器や消毒装置が、常にその能力を発揮できる状態に維持されていることが必要で、以下に構造上の問題点とチェックポイントを示します。

(1)循環湯の吐出口は浴槽の水面下に設ける。
 循環湯の吐出口の位置は、必ず浴槽の水面より下に設け、浴槽内の湯が部分的に滞留しないように配置しなければなりません。循環湯の一部を、浴槽水面より上部に設けた湯口から浴槽内に落とし込む構造のものがよく見受けられます。これは旅館や娯楽施設の浴場で、湯を豊富に見せるための演出として行われているようですが、新しい湯と誤解して口に含んだりする入浴客もあり、また、レジオネラ症感染の原因であるエアロゾルが発生するなど衛生的に危険なものです。浴槽の湯口からは、新しい温泉水や湯、水以外は流さないようにする必要があります。
(2)浴槽循環湯を打たせ湯に使用しない。
 湯を上部から落として、マッサージ効果を期待した「打たせ湯」が流行していますが、多量な湯を必要とするため、湯の豊富な温泉地以外では、ほとんどが浴槽循環湯を落としています。打たせ湯は口や目にも入り込むことがあるため、循環浴槽水やオーバーフロー水等を再利用した水をそれに使用することは衛生的に問題があり、また、エアロゾルが発生するのでレジオネラ感染の危険もあるため好ましくありません。
(3)気泡発生装置の使用は、更に管理面を強化する必要がある。
 現在、気泡風呂、超音波あるいはジェット風呂などと称する、浴槽内で気泡を発生させて入浴を楽しむ浴槽が多く設置されています。しかし、水面上で気泡がやぶれてエアロゾルが発生するため、レジオネラ属菌が飛散するおそれがあります。従って気泡発生装置を使用する場合はこれによる感染の危険が高くなります。浴槽水の水質基準を厳守するとともに、気泡発生装置の責任者を定めて、責任の所在を明確にしておくなど、更に管理面を強化する必要があります。
(4)浴槽への補給水や補給湯の配管を浴槽循環配管に直接接続しない。
 浴槽の湯は、入浴者によるかけ湯や溢水などによって減っていくため、新しい湯や水を補給する必要があります。浴槽に補給する湯や水は、必ず浴槽水面上部から浴槽に落としこむ方法をとり、浴槽の湯が給湯・給水配管に逆流しないようにしなければなりません。浴槽循環配管に、給湯配管あるいは給水配管を直接接続することは、逆流防止のため禁止されています。逆止弁を付けても、細菌等の汚濁物質の逆流を防ぐことはできません。
(5)浴場排水熱回収用温水器(熱交換器)の給水管にピンホールがないことを確認する。
 現在、多くの公衆浴場などで使われている熱回収用温水器は、汚れた浴場排水と給水が管壁だけで接しているため、腐食などで管にピンホールができた場合には、給水を汚染するおそれがあります。浴場排水は非常に汚れており、給水系統が汚染された場合の被害は甚大なものとなります。従って、給水管は常に正圧(排水管より圧力が高い状態)にするとともに、ピンホールができていないか定期的に検査を行い、汚染防止に努めるなど温水器の維持管理には十分な注意が必要です。
(6)浴槽オーバフロー回収槽は定期的に清掃を行う。
 オーバフロー還水方式の浴槽循環設備の場合、オーバフロー回収槽は、清掃が容易に行える位置・状態に設置します。地下埋設タイプの回収槽は、十分な清掃ができないなど維持管理の支障となるため、周囲に十分な点検スペースをとった床上設置槽を推奨します
 オーバフロー回収槽内部は常に清浄な状態を保つために、定期的に清掃を行う必要があります。
(7)調節箱は定期的に清掃を行う。
 公衆浴場では、洗い場の湯栓(カラン)やシャワーへ送る湯の温度を調節するために「調節箱」を設置している場合があります。この調節箱内部の湯温は、レジオネラ属菌の繁殖に適した温度となるため注意が必要です。従って、定期的に調整箱の清掃を行い、常に清浄な状態を保つことが大切です。
(8)温泉水の貯湯タンクの維持管理を適切に行う。
 温泉等で貯湯タンクを設けている場合には、レジオネラ属菌の繁殖あるいは混入を防ぐために、湯温は60℃以上に設定し、タンクが外気と遮断されているか、破損箇所はないかを定期的に調べます。また、貯湯タンクなどは定期的に清掃を行い、常に清浄な状態を保つことが大切です。
 他に、源泉水を一定の区域で集中管理している場合の貯湯タンクにおいて、タンクから各施設への配湯管は、高温水でも劣化せず、温度が低下しにくい材質のものを使用します。
 また、自家泉源の湯を貯湯タンクに貯めている施設で、湯温が60℃以上に設定出来ない場合には、元湯がレジオネラ属菌に汚染されている可能性があるので、元湯の貯湯温度を高められる装置に取り替えることを検討する必要があります。

4.浴槽の水質管理

1)水質基準・検査方法・検査頻度

(1)浴槽水の水質に関する基準はありますか。

 浴槽水の水質に関する基準などは、「公衆浴場における水質基準等に関する指針」で以下のように定められています。

(1)水質基準
 浴槽水の水質基準は、濁度、過マンガン酸カリウム消費量、大腸菌群およびレジオネラ属菌の4項目が規定されています。「旅館業における衛生等管理要領」では、これらの項目に加えアンモニア性窒素を加えることが望ましいと規定されています。なお、各項目の基準値は以下のとおりです。
・濁度は、5度以下であること。
・過マンガン酸カリウム消費量は、25mg/L以下であること。
・大腸菌群は、1個/mL以下であること。
・レジオネラ属菌は、10CFU/100mL未満であること。
・アンモニア性窒素は、1mg/L以下であること。
(2)検査方法
 水質基準項目の検査は以下の方法で行います。
・濁度、過マンガン酸カリウム消費量は、「水質基準に関する省令」(平成4年厚生省令第69号)で定める検査方法によること。
・大腸菌群は、「下水の水質の検定方法等に関する省令」(昭和37年厚生省令・建設省令第1号)別表第1(第6条)の大腸菌群数の検定方法によること。
・レジオネラ属菌は、冷却遠心濃縮法またはろ過濃縮法のいずれかによること。
(3)検査頻度
 浴槽水等の水質検査は、循環式浴槽の形態によって以下のとおり、定期的に行うこととされています。なお、この検査に関する書類は、3年以上保存しなければなりません。

・毎日完全換水型: 1年に1回以上
・連日使用型 : 1年に2回以上(浴槽水の消毒が塩素消毒でない場合、1年に4回以上)

2)消毒方法

(1)浴槽水などの消毒方法に関する規定はありますか。

 浴槽水などの消毒方法は、「公衆浴場における衛生等管理要領」で以下のように定められています。

・浴槽水の消毒に用いる塩素系薬剤の注入(投入)口は、浴槽水が循環ろ過装置内に入る直前に設置することが望ましいこと。
・浴槽水の消毒に用いる塩素系薬剤は、浴槽水中の遊離残留塩素濃度を、1日2時間以上0.2〜0.4mg/Lに保つことが望ましいこと。
・浴槽水の遊離残留塩素濃度を、適宜測定し、その記録を3年以上保存すること。
・温泉の泉質等のため、塩素消毒ができない場合には、オゾン殺菌または紫外線殺菌により消毒を行うこと。この場合、温泉の泉質等に影響を与えない範囲で、塩素消毒を併用することが望ましいこと。

(2)塩素系薬剤にはどのようなものがありますか。

 塩素系薬剤には、表に示すように、次亜塩素酸ナトリウム(液剤)、次亜塩素酸カルシウム(散剤、顆粒、錠剤)、塩素化イソシアヌル酸(顆粒、錠剤)などがあり、その使用方法は種類によってそれぞれ異なります。しかし、どの塩素系薬剤を使用しても、水中で次亜塩素酸が生じ、その殺菌効果によって消毒が行われます。

種類 有効塩素(%) 性状
次亜塩素酸ナトリウム 5〜10 液体(アルカリ性)
次亜塩素酸カルシウム    
 さらし粉 30 固体(アルカリ性)
 高度さらし粉 70 固体(中性)
塩素化イソシアヌル酸    
 トリクロロイソシアヌル酸ナトリウム 85〜90 固体(酸性)
 トリクロロイソシアヌル酸カリウム    
 ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム 60 固体(酸性)
 ジクロロイソシアヌル酸カリウム    

(3)塩素系薬剤の注入(投入)にはどのような方法がありますか。

 塩素系薬剤の注入方法には、自動注入方式による方法と投げ込みによる方法があります。
 自動注入方式による方法には、塩素系薬剤をタイマーで制御し間欠的に注入するものと、循環水量に比例して連続的に注入するものがあります。なお、自動注入方式は、薬液タンクと薬液注入ポンプから構成されています。
 投げ込みによる方法は、塩素系薬剤を管理者が浴槽などに直接投入する方法です。
 いずれの方法においても、浴槽水の遊離残留塩素濃度を測定し、薬剤濃度が高くならないよう(1.0mg/L程度までが望ましい。)注意する必要があります。

(4)塩素系薬剤による消毒方法で注意すべきことは何ですか。

 塩素系薬剤を注入(投入)するにあたり、ろ過装置のろ材などに微生物が繁殖している場合などには、発泡したり、塩素系薬剤の消費が激しくて必要な塩素濃度を確保できなかったりすることが想定されます。このため、消毒の前には逆洗などの徹底した前処理が必要です。
 なお、ろ過装置に塩素消費量以上の過剰な塩素系薬剤を注入すると、浴槽水中の塩素濃度が高くなり、トリハロメタンや塩素臭が発生しやすくなったり、資機材が腐食するなどのおそれがあります。
 また、温泉を使用している場合には、温泉成分と塩素系薬剤との相互作用の有無などについて、事前に十分な調査を行う必要があります。ただし、単純温泉であっても、規模や様式により結果が異なる場合もありますので、事前調査を行い、各施設が自前のデータを持つことが重要です。なお、温泉成分と塩素系薬剤との反応で、有害あるいは不快な状態に変化する泉質としては、低pH(塩素ガスの発生)、鉄やマンガン(酸化物の生成による着色)が考えられます。

(5)塩素系薬剤を使用するにあたっての一般的な注意事項は何ですか。

 塩素系薬剤を使用するにあたっては、消毒効果の減少と事故の発生を防ぐため、取り扱いと保管に注意する必要があります。
 塩素系薬剤は、他の薬品などとの接触や高温多湿を避け、光を遮った場所に保管します。
 各メーカーから販売されている錠剤、ペレット、粒径の大きい顆粒のものは、消防法上の危険物には該当しませんが、固形の塩素系薬剤は強力な酸化性物質であるため、取り扱いを誤ると発火、爆発の危険があります。
 特に、塩素化イソシアヌル酸と次亜塩素酸カルシウムを混合して使用・保管すると、発熱・発火する恐れがあります。
 また、次亜塩素酸ナトリウムは強アルカリ性のため、直接皮膚に接触しないようにします。なお、衣服や機械器具に付着すると腐食・損傷する恐れがあります。
 保護具としては、保護マスク、保護眼鏡、保護手袋などがあり、必要に応じて使用します。

<塩素系薬剤の取り扱い時の救急措置>
・皮膚に付着した場合は、流水で十分に洗い流します。
・眼に入った場合は、流水で15分間以上洗眼します。
・吸入した場合は、新鮮な空気の所へ運び、仰向けか横向きに寝かせ、身体を暖めて血液の循環を良くし、酸素補給を十分にします。
・いずれの場合も、医師に事故者を診察してもらうことが必要です。

(6)有効塩素と残留塩素の違いは何ですか。

 殺菌効力のある塩素系薬剤を有効塩素といいます。
 塩素系薬剤が水に溶解した時にできる次亜塩素酸(HOCl)や次亜塩素酸イオン(OCl)も有効塩素です。性質は異なりますが、クロラミンも有効塩素です。
 一方、水に溶解した場合に塩化物イオン(Cl)となる塩化ナトリウムなどの無機塩化物や有機化合物と結合した有機の塩素化合物の大半は反応性がないため、有効塩素ではありません。
 有効塩素が、水中で殺菌作用を起こしたり、汚染物と反応したり、紫外線の作用で分解した後に、なお残留している有効塩素を残留塩素といいます。
 残留塩素には、遊離塩素と結合塩素があります。次亜塩素酸(HOCl)や次亜塩素酸イオン(OCl)を遊離塩素と呼び、クロラミンを結合塩素と呼びます。
 遊離(あるいは結合)塩素、遊離型塩素、遊離有効塩素、遊離残留塩素などの用語はすべて同じ意味で使われています。
 残留塩素を測定する場合、遊離塩素のみを測定する他、遊離塩素と結合塩素との合計量を測定することができますが、これを総塩素あるいは総残留塩素と呼びます。総塩素から遊離塩素を差し引いたものが結合塩素となります。
 また、測定した塩素量を表す時は、遊離(あるいは結合・総)塩素濃度(mg/L)と呼びます。
 なお、浴槽水の塩素を測定する場合は、遊離残留塩素を対象とします。

(7)塩素系薬剤で浴槽水を消毒する場合の注入(投入)量はどのくらいですか。

 塩素系薬剤の添加量は、入浴者数、循環式浴槽の形態・仕様、ろ材などの汚れの状況、水質などにより、遊離残留塩素の消費量が異なるため、湯量(浴槽内+ろ過装置+配管内の合計)からだけでは一概に決定することはできません。浴槽水の遊離残留塩素濃度を測定しながら、その量を決める必要があります。
 下記に参考として、遊離残留塩素の消費が全く無いことを条件に、湯量から求めた塩素系薬剤の添加量の算出例を示します(有効塩素濃度は各塩素系薬剤に記載されています)。

例(1)
 湯量が10mの浴槽に、塩素系薬剤として有効塩素濃度12%の次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いて、浴槽水の遊離残留塩素濃度を0.4mg/Lにするには、
0.4mg/L×10m=0.4g/m×10m=4.0g(≒4mL)
4ml×100/12=33.3mL
 したがって、塩素系薬剤を33.3?添加することになります。
例(2)
 湯量が10mの浴槽に、塩素系薬剤として有効塩素濃度55%のクロロイソシアヌル酸ナトリウムを1錠(1錠あたり10gとする)添加すると、
10g×55%=5.5g
 1錠に含まれている有効塩素量は5.5gとなり、
5.5g÷10m=0.55mg/L
 したがって、塩素系薬剤1錠添加することにより、浴槽水の遊離残留塩素濃度は、
0.55mg/Lとなります。

(8) 残留塩素濃度の測定にはどのような方法がありますか。

 残留塩素の測定方法には、比色法(DPD法)や吸光光度法、電流法などがあります。一般には、DPD法を用いた携帯型の簡易測定器が使用されています。
 DPD法(N,N-Diethyl-p-phenylene-diamine 法)
 比色管にリン酸緩衝液、DPD試薬を添加後、検水をとり発色させます。検水中の残留塩素濃度に応じて桃〜桃赤色へと瞬時に呈色しますので、測定器の標準比色列と比色し遊離残留塩素濃度を求めます。

(9)アルカリ性の温泉水では、塩素系薬剤の消毒効果が低下する理由は何ですか。

 pHによる塩素系薬剤の消毒効果は、殺菌力の強い次亜塩素酸(HClO)と、殺菌力がその1/100程度に過ぎない次亜塩素酸イオン(CIO)の比率により異なります。以下に示す表のように、pH6.0では、約97%がHClOで占められていますが、pH7.5では50%、pH9.0では3.1%と激減しています。このため、アルカリ性の温泉水では、塩素系薬剤の効果が低下します。

表 pHとHClOとの関係
pH HClO(%)
6.00 96.9
6.25 94.7
6.50 90.9
6.75 84.9
7.00 76.0
7.25 64.0
7.50 50.0
7.75 36.0
8.00 24.0
8.25 15.1
8.50 9.1
8.75 5.3
9.00 3.1
9.25 1.7
9.50 1.0
9.75 0.6
10.00 0.3

(10)塩素系薬剤の他にどのような消毒方法がありますか。また、使用上の注意点は何ですか。

 消毒には塩素系薬剤が主として使われていますが、その他にオゾン、紫外線、銀イオン、銀・銅イオン、光触媒などの消毒方法があります。しかし、これらの消毒方法はいずれも消毒効果に残留性がないため、必ず、塩素系薬剤と併用して使用する必要があります。
 高濃度のオゾンは人体に有害であるため、活性炭などによる廃オゾンの処理が欠かせません。また、紫外線はランプのガラス管が汚れると効力が落ちるため、常時ガラス面の清浄度を保つ必要があり、適切な維持管理が必要です。
 なお、銅イオンはレジオネラ属菌の消毒効果は低く、一般には露天風呂の殺藻を目的として使われています。ただし、浴槽水の水素イオン濃度(pH)が8.0以上の場合には、殺藻効果が著しく落ちるので注意が必要です。

5.浴槽の管理方法

(1)浴槽の清掃・消毒に関する規定はありますか。

 浴槽の清掃・消毒については、「公衆浴場における衛生等管理要領」で以下のように定められています。

・浴槽は、清掃および消毒を定期的に行い、清潔で衛生的に保つこと。
・清掃および消毒の頻度は、循環式浴槽の形態が、
 毎日完全換水型のものは、毎日清掃し、1月に1回以上消毒する。
 連日使用型のものは、1週間に1回以上完全換水を行い、消毒、清掃すること。

(2)循環式浴槽の維持管理上の注意点について教えて下さい。

(1)ろ過器の維持管理
 「公衆浴場における衛生等管理要領」では、ろ材の種類を問わず、ろ過装置自体がレジオネラ属菌の供給源とならないよう、消毒を1週間に1回以上実施すること。また、ろ過器は1週間に1回以上逆洗して汚れを排出することと定められています。

(2)循環配管の維持管理
 循環配管の内壁には、ねばねばした生物膜(バイオフィルム)が生成され易く、レジオネラ属菌の温床となります。そのため、年に1回程度は、循環配管内のバイオフィルムを除去し、消毒することが必要です。
 繁殖したバイオフィルムの除去には、以下のような処理が考えられますが、危険が伴うことや、洗浄廃液の処理などに専門的な知識が必要な場合もあります。
 過酸化水素消毒:過酸化水素(2〜3%で使用)は、有機物と反応して発泡し、物理的にバイオフィルムを剥離、除去します。また、同時に強い殺菌作用があります。
 過酸化水素は、毒物及び劇物取締法で指定された劇物であり、取り扱いには危険が伴い、さらに処理薬品が多量に必要であること、洗浄廃液の化学的酸素要求量(COD)が高いことなども含め、専門の業者による洗浄が必要であり、その費用も高価なものとなります。
 塩素消毒:高濃度の有効塩素を含んだ浴槽水を、配管の中に循環させることで殺菌する方法です。残留塩素濃度は、循環系内の配管などの材質の腐食を考慮して、5〜10mg/L程度が妥当です。この状態で、浴槽水を数時間循環させます。バイオフィルムが存在している循環系に塩素を入れると、塩素は微生物の細胞膜を破壊してタンパクや多糖類を溶出させるので、浴槽水が濁ったり発泡したりすることがあります。ただし、普段から浴槽水中の遊離残留塩素濃度が、0.2〜0.4mg/Lとなるように塩素系薬剤を連続注入により添加して、微生物の繁殖を防いでいれば、高濃度の塩素処理を行っても発泡などは起きません。
 ちなみに、米国やオーストラリアでは、浴槽水中に残留塩素を常時保つことが、レジオネラ属菌を含む微生物の繁殖を防ぐキーポイントであることが強調されています。具体的には、使用時に残留塩素濃度を4〜5mg/Lに保つこと、また、営業終了時に毎日10mg/Lの塩素で1〜4時間処理することが管理方法として推奨されています。
 その他:最近では、次亜塩素酸ナトリウムと併用して、水中で二酸化塩素を発生させる薬剤もみられ、スライムの除去・消毒を行う方法も用いられています。
 加温消毒:60℃以上の高温水を、循環させることで殺菌する方法です。但し、循環系の材質によっては、劣化(例えば熱による塩ビ管の軟化劣化)、または腐食を促進することもありますので、事前に設備の確認が必要です。

(3)消毒装置の維持管理
 薬液タンクの塩素系薬剤の量を確認し、補給を怠らないようにしなければなりません。送液ポンプが正常に作動し、薬液の注入が行われていることを毎日確認します。注入弁のノズルが詰まったり、空気をかんだりして送液が停止している例がよく見受けられます。
 一般によく使われている市販品の次亜塩素酸ナトリウム溶液は、有効塩素濃度が12%ですが、そのまま使うとノズルが詰まり易いので、5〜10倍に薄めて使用している例が多いようです。また、不純物の多い工業用のものは使用を避け、日本水道協会規格品、食品添加物認定品あるいは医薬品などとして市販されている薬剤を使用することにより、目詰まりはある程度防ぐことができます。いずれにしても、薬剤注入弁は定期的に清掃を行い、目詰まりを起こさないように管理する必要があります。
(4)集毛器の維持管理
 集毛器の清掃洗浄は、毎日行います。理由はろ過器と同様に、集毛器自体がレジオネラ属菌の供給源とならないようにするためです。こまめに清掃洗浄を行い、その際に、塩素系薬剤や過酸化水素溶液などで集毛部や内部を清掃すると良いでしょう。

(3)その他の浴槽設備の管理で注意することは何ですか。

(1)露天風呂
 露天風呂は、常時、レジオネラ属菌の汚染の機会にさらされているため、浴槽の湯は常に満杯状態とし、溢水を図り、浮遊物の除去に努める必要があります。循環ろ過装置を使用していない浴槽水や毎日完全換水型浴槽水は、毎日完全に換水し、連日使用型循環浴槽水は、1週間に1回以上定期的に完全換水し、浴槽の消毒・清掃を行います。
 内湯と露天風呂の間は、配管を通じて、あるいは入浴客によって、露天風呂の湯が内湯に混じることのないように注意する必要があります。

(2)酸性温泉と食塩泉
 レジオネラ属薗の性状とこれまでの試験成績から、酸性(pH5.0以下)の温泉水や食塩泉では、レジオネラ属菌は棲息しないと考えられます。ただし、試験管内の実験では、3%食塩の存在下でレジオネラ属菌は増殖はしませんが、死滅もしないという結果も得られています。食塩泉と表示されている温泉でも、食塩濃度は様々であると考えられます。また、pH値や食塩濃度を含め、温泉の泉質は補給水の注入や循環ろ過の継続、入浴者の増減によって変化し、決して不変ではありません。そのため、湯のpH値が低く、現行の細菌検査方法でレジオネラ属菌が検出されない場合でも、泉質に関係なく定期的に保守・管理を行うことが重要です。
(3)家庭用循環式浴槽の管理
 家庭用循環式浴槽の日々の管理に関しては、特に基準があるわけではありません。しかし、その使用にあたっては、上記の管理方法を参考にして、事故を未然に防ぐことが大切です。
 家庭用循環式浴槽のろ過装置は、ほとんどのものが小型で、その大半はいわゆる生物浄化装置と考えられます。すでに述べたように、生物浄化方式とは、浴槽水中の有機物等を微生物によって分解させるもので、ろ過槽内にアメーバなどの微生物が繁殖することで、初めて浄化能力が得られるようになります。しかし、ろ過槽内に微生物を繁殖させれば、これに寄生するレジオネラ属菌なども同時に繁殖します。病原微生物のみを、選択的に排除することはできませんし、塩素系薬剤等の残効性のある消毒方法は使えません。微生物学的な安全性を優先すれば、ろ過槽を含んだ浴槽システム全体の消毒には、残効性のある塩素系薬剤等の使用を推奨せざるを得ません。矛盾するようですが、生物浄化方式のろ過装置内に微生物を繁殖させないように管理することが重要です。したがって、これらの装置のろ過能力は低下すると考えられますが、レジオネラ属菌の汚染防止のためには、ろ過槽の徹底的な逆洗、浴槽全体の消毒および完全換水を頻繁に行うことが推奨されます。

6.その他

(1)感染の危険因子について教えて下さい。

 感染症の発症には、病原体−宿主(人)−環境の三要素が深く関わっています。
 一般的には、レジオネラ属菌は感染性はさほど強くはないといわれており、本感染症は、宿主の感染防御機能が低下している場合(「II.感染源および感染経路」を参照)に多くみられます。しかし、何ら基礎疾患を有しない宿主(人)であっても、新生児や高齢者など生理的に感染症に対する抵抗が弱い宿主(人)は、レジオネラ属菌によって高度に汚染されたエアロゾル(空中に浮遊している小さい粒子)を一定量以上肺に吸引すれば、感染することがあります。

(2)レジオネラ症に罹らないようにするには、どうしたらよいのでしょうか。

 本感染症は、レジオネラ属菌によって汚染されたエアロゾルを、直接肺に吸い込まないよう心掛けることによって、その感染を回避することができます。従って、超微粒子を形成しやすく、かつ肺に吸引する機会が多い、循環式浴槽、打たせ湯、バブルジェット式浴槽、シャワーの水などのほか、非加熱式加湿器、冷却塔水の飛散水などは、その管理に厳重な注意が必要になります。その他,工事現場の砂塵を吸い込んで感染した事例も報告されていますので、そのような場所では、マスクなどの着用も効果があるでしょう。

(3)レジオネラ症が疑われる患者が発生した場合の対応を教えてください。

 各施設では、普段から、レジオネラ症の発生やその疑いがあった場合の対応についてシミュレーションしておく必要があります。
 患者発生は、医師の診断および保健所への届出で確認されることが多く、届出の時点ではすでに感染の成立から相当時間が経っている場合があります。このため、各施設では日頃から来客者名や住所などを把握しておくとともに、問題が生じた時には設備の使用を中止し、浴槽水等の消毒を行わずそのままの状態で保存し、保健所等の指示を待ちます。

(4) 浴槽水のレジオネラ属菌の検査はどこに依頼すればよいのでしょうか。

 最寄りの保健所や衛生研究所などに相談して下さい。

(5) 検査を行うにあたり、検体の採取・搬送などで注意しなければならないことは何ですか。

 レジオネラ属菌は自然環境菌ですので、数日間の遠距離輸送では死滅することは、まずないと考えてよいでしょう。むしろ、輸送中に増殖して菌数が増える可能性ありますので、菌数測定を目的に検査を行う場合には、4〜10℃に保存した状態で輸送した方がよいでしょう。

<採取容器と採取方法>
(1)検水の場合:ガラス製またはポリエチレン製などの滅菌した専用容器を用います。専用容器がないときには、市販の飲料水(コーヒーなどの清涼飲料水ではありません)用のペットボトル(500〜1000mL)を空にして使用します。直接、容器を検水に浸し、8分目まで満たします。採取後すぐに密栓して、口にビニールテープを巻きます。(水温が高い場合には、漏れを防止するため、採取後軽く栓をして温度が下ってから再度増締めし、漏れがないことを確認します。)
(2)スライムや沈殿物の場合:家庭用循環式浴槽など小型の装置では、吃水線〔湯が入っている状態での水面の線〕が露出するまで排水し、滅菌綿棒で湯に浸っていた部分の一定範囲を拭い取ります。拭い範囲を一定にするには、例えば2×2.5cmの長方形を切り抜いた厚紙を当てて切り抜き内部を拭います。拭った綿棒は乾燥を防ぐため、極く少量の滅菌水または検水を入れたたねじ栓つきの滅菌小型広口容器〔プラスチック製滅菌遠心管〕に入れて密封します。
検水量:検査精度を最低10CFU/100mLにするため、検水は100mLまたはそれ以上を採取します。
採取検体の処置:塩素が添加されている検水には、その場で25%チオ硫酸ナトリウムを1/500量加えて塩素を中和します。これは、採取した検水中の塩素が細菌の状況を変化させていないことを保証するために必要です。
<検体の搬送>
 採取した検体は採取後 1〜2日以内に検査施設へ届けます。採取後 2〜5日以内に検査した方が良いでしょう。
 検体の輸送または保管中に生菌数が変化することが知られているので、保管・搬送温度は 6〜18℃(10℃前後が望ましい。)とし、直射日光と熱を避けねばなりません。
 検査機関に検査を依頼する場合は、所要日数も含めて先方の検査方針や検査方法を事前によく聞いて理解しておく必要があります。


照会先
厚生労働省健康局生活衛生課
03-5253-1111(内線2415,2437)

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