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室内空気中化学物質についての相談マニュアル作成の手引き(案)
に対する意見の募集について

平成13年5月11日
厚生労働省医薬局審査管理課化学物質安全対策室
(シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会事務局)

1.趣旨

 今般、シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会では、室内空気中化学物質についての相談マニュアル作成の手引き(案)を取りまとめましたので、下記の通りご意見を募集致します。
 厚生労働省では、本案に対して提出されたご意見については検討会において紹介させていただき、今後の検討の参考とさせていただきます。

○室内空気中化学物質についての相談マニュアル作成の手引き(案)(資料)

2.意見の提出期限、提出方法及び宛先

 平成13年 6月11日(月)までに、下記様式に準じて、電子メール、郵便又はファックスにて、下記あてお寄せ下さい。

(電子メールの場合)
 airq@mhlw.go.jp (テキスト)

(郵送又はファックスの場合)
 厚生労働省医薬局審査管理課化学物質安全対策室
 〒100−8916 東京都千代田区霞ヶ関1−2−2
 tel 03-3595-2298、fax 03-3593-8913

(提出様式)
[宛先] シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会事務局
 (厚生労働省医薬局審査管理課化学物質安全対策室)
[氏名] (可能であれば、所属(会社名/部署名等)を併記して下さい)
[住所]
[電話番号]
[Fax番号]
[意見]
 該当箇所(資料のどの部分についての意見か明記して下さい)
 意見内容
 理由(可能であれば、根拠となる出典等を添付又は併記してください)

 なお、寄せられた御意見については、住所、電話番号、Fax番号を除き、すべて公開される可能性があることを、あらかじめ御承知おきください。

3.資料の入手方法

シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会事務局(厚生労働省医薬局審査管理課化学物質安全対策室)において資料配付
 厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/ 今御覧になっているこのお知らせ。)
郵送による送付
 郵送を希望される方は、160円切手を添付した返信用封筒(A4版の冊子が折らずに入るもの。郵便番号・住所・氏名を必ず明記。)を同封の上、上記2.の宛先まで送付して下さい。


(照会先)
厚生労働省医薬局審査管理課化学物質安全対策室
吉田、剣持、平野(内線2423,2424)



(資料)
室内空気中化学物質についての相談マニュアル作成の手引き(案)

1. 目的

 各行政機関や、(財)住宅部品PLセンター(現在は(財)住宅紛争処理支援センターで当該業務受付)、国民生活センター、化学製品PL相談センター等の機関に寄せられる室内空気汚染に関する相談は、この問題に関する関心が高まっていることもあり、近年明らかに増加の傾向にある。
 本資料は、これらの報告された事例や、学術論文等の科学的情報、また最新の調査研究報告等を基に、室内空気汚染問題に関する知見や情報、とりうる対策の指針を示したものである。居住環境の指針や対策書をまとめるための手引き書として、また参考資料集として利用されることを想定している。

2. 範囲

 本資料は一般家庭の、主に揮発性有機化合物による室内空気汚染について記したものである。快適な居住環境を確保するためにはこれに加えて、ダニ、カビ、衛生害虫、ネズミ等の生物に対する対策や、給排水、採光・照明、騒音・振動、ゴミ処理、臭気等にも考慮し、対策や指針を示す必要がある。(これらについては先に「快適で健康的な住宅に関するガイドライン」が作成されており、これに詳しい)

*「快適で健康的な住宅に関するガイドライン」(株)ぎょうせい 平成11年2月1日発行。一般書店にて購入可能。

3. 相談対応の基本的流れ

 一言に室内空気汚染に関する相談と言っても、相談者の要求は、疑問点を明確にして尋ねてくるもの、何かありそうだがそれが解らないので教えて欲しいというもの、どこに相談を持っていけばよいのかが解らなくて困っているというもの等様々である。しかし、大きくは体調不良や被害を訴えるもの、情報不足や断片的な情報から不安を抱き「○○は大丈夫なのか」「△△はどんなものか」、「どんな影響があるのか」、「これから家を建てたいのだが」等の情報を求めるものに区分けされるものと思われる。
 情報を求める相談に対しては、本資料に記した情報を適宜利用していただきたい。新築を考えているという相談については健康住宅研究会の「ユーザーズ・マニュアル」や「設計施工ガイドライン」**を紹介し、これらをもとに契約先や施工者と事前に十分話し合い、お互いに施工について了解をとっておくことを勧めるとよい。また、建築等に関連する情報が入手できる機関や、相談にも対応してくれる機関もあるので紹介してもよい。(7.参照)

「室内空気汚染の低減のためのユーザーズ・マニュアル」平成10年3月健康住宅研究会
** 「室内空気汚染の低減のための設計・施工ガイドライン」平成10年3月健康住宅研究会
 問い合わせはいずれも(財)住宅・建築省エネルギー機構まで

 体調不良や被害の訴えの場合には、その状況を聞き取り、対策のアドバイスを行う。要望があれば現場調査等が必要になることもあるであろう。これについては大まかな流れを次頁以降に記してあるので参考としていただきたい。
 しばしば問題となりそうなのが、相談者が、自分の状況を伝えれば自分に成り代わって交渉等をしてくれることを期待もしくは要求していることがままあるということであるが、このような斡旋や調停は基本的に本マニュアルの対象外である。交渉等は相談者本人が行うものであり、助言者はその際に必要な情報等の収集を手助けする立場である事は理解していただかねばならない。ただし、その際に参考となるであろう事項についてはアドバイスするべきであろう。これについても後述する。
 依頼者が室内空気の測定を求めている場合は、どんな物質をどういう目的で測定したいのかを聞き取ったうえで、

・実費等必要な条件を伝え対応可能な範囲で対応する
・ホルムアルデヒド測定器の貸し出し事業を紹介する
・他の相談機関を介して測定機関の紹介をしてもらう(但しこの場合有料)
のいずれかで対応する。この際、標準的測定は非常に高価(少なくとも10万単位)であることは伝えておいた方がよい。

*(財)住宅保証機構が各地の建築住宅センター等と協力して簡易測定器の無償貸し出しを行っている。(URL:http://ohw.or.jp/formu.html参照)

○アドバイスの基本的スキーム

1)症状緩和のための治療を勧める

 まず、どこに症状があるのかを認識する・してもらう必要がある。“「シックハウス」なのですが”という主張を聞くことがままあるが、現状では、家に居住することが原因で起こると思われる体調不良をすべからく「シックハウス症候群」と呼んでいるにすぎない。体調不良を改善するために必要なのはどの疾患でもほぼ同じで、原因の除去、症状緩和のための措置、自己治癒能力による快復である。

*シックハウス症候群
 住宅の高気密化や化学物質を放散する建材・内装材の使用等により、新築・改築後の住宅やビルにおいて、化学物質による室内空気汚染等により、居住者の様々な体調不良が生じている状態が、数多く報告されている。症状が多様で、症状発生の仕組みをはじめ、未解明な部分が多く、また様々な複合要因が考えられることから、シックハウス症候群と呼ばれる。(シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会中間報告書 第1回〜3回のまとめによる)

 従って、目に異常を感じる人は眼科、皮膚に異常を感じる人は皮膚科、消化器系に異常を感じる人は内科等、それぞれが異常を感じている部分の専門医の診療を受け、症状緩和の措置をとってもらう必要がある。さらに複雑な症状を訴えており、簡単に判断できない場合には、まずかかりつけの医師とじっくり相談してもらい、必要に応じて内科、診療内科、婦人科等で総合的な診療、相談を受けてもらうことを勧めたほうがよいであろう。いずれにせよ、現状の症状に対し緩和策をとり、その間に原因を取り除いて再発を防ぐのが基本的対応である。
 「シックハウス」と呼ばれるものは、結局は体のどこかが不調を起こしているわけであるから、それぞれの症状についてはその部分の専門家に見てもらう必要があることを、アドバイスし、認識してもらうことが必要である。そして、その間にこの場合の原因と考えられている住環境の改善を行うよう勧めることになる。

2)換気を励行する

 1)により症状の緩和を行っても、原因を低減・除去しなければ再発することとなる。
 外気が汚染されているといった特殊な場合を除き、最も有効で基本的な汚染物質の低減策は換気である。ほとんど全ての家屋に対して、まずこのアドバイスを行うべきである。特に高気密・高断熱住宅は閉め切って換気システムを運転しなければ室内の空気がほとんど換気されないので、付属の換気システムの運転、ガラリや小窓の利用、さらには窓開けなどによる換気を積極的に行う必要がある。基本的なことであるがこれが徹底できていなかったことが、この問題を大きくしたといっても過言ではない。この際、効率的換気のやり方はアドバイスした方がよい(6.参照)。この処置で問題が解消した例も多い。
 室内空気中の化学物質濃度は、その発生量と漏気を含めた換気量の比で決まる。換気を十分に行い、空気の入れ替わりが十分確保されれば、基本的に外気と大差ない状態になるはずである。しかしながら、換気量を過大に増やさねばならないとなると、快適な室温等を維持するために冷暖房エネルギーが浪費されることになり、省エネルギーの観点からも問題である。また、機械換気では騒音等の問題も出てくる。通常の換気を行っても臭いが気になる、刺激があるなどという場合には、汚染濃度がかなり高いと推定されるので、さらに以下について検討してみる必要がある。

3)発生源を推定する

 1),2)の状況が処置で改善されれば問題はないが、それでもなお臭いが気になったり、目に刺激を感じたり、体調不良があったりした場合には、原因物質の発生量を減少させるか、発生した物質を取り除くかする必要がある。それには物質や発生源の把握が重要である。
 まずは体調不良を感じるようになったきっかけを確認する。改修を行った、新たな家具等を購入した、壁紙を張り替えた、防蟻処理を行った等、特定の変化後に起こったということであればそこに注目することになる。また、家の中の特定部分でより強い臭いや刺激を感じる等の事があればその部分に注目することになる。臭いや刺激に何らかの特徴があれば原因物質を推定し、さらにはその発生源を推定できる可能性もある。

*特徴的臭い
 工場・事業所から発生する悪臭について、「悪臭防止法」が制定されている。現在22物質が制定されているが、この中には現在、室内空気汚染物質として取り上げられているものが含まれている。これによるとそれぞれの物質の臭いは以下のように表現できる。

アンモニア : し尿のような臭い
メチルメルカプタン : 腐ったタマネギのような臭い
硫化水素 : 腐った卵のような臭い
硫化メチル : 腐ったキャベツのような臭い
二硫化メチル : 腐ったキャベツのような臭い
トリメチルアミン : 腐った魚のような臭い
アセトアルデヒド : 刺激的な青臭い臭い
プロピオンアルデヒド : 刺激的な甘酸っぱい焦げた臭い
ノルマルブチルアルデヒド: 刺激的な甘酸っぱい焦げた臭い
イソブチルアルデヒド : 刺激的な甘酸っぱい焦げた臭い
ノルマルバレルアルデヒド: むせるような甘酸っぱい焦げた臭い
イソバレルアルデヒド : むせるような甘酸っぱい焦げた臭い
イソブタノール : 刺激的な発酵した臭い
酢酸エチル : 刺激的なシンナーのような臭い
メチルイソブチルケトン : 刺激的なシンナーのような臭い
トルエン : ガソリンのような臭い
スチレン : 都市ガスのような臭い ※
キシレン : ガソリンのような臭い
プロピオン酸 : 刺激的な酸っぱい臭い
ノルマル酢酸 : 汗くさい臭い
ノルマル吉草酸 : むれた靴下のような臭い
イソ吉草酸 : むれた靴下のような臭い

濃度が薄いと必ずしもこのようには感じられないと思われるが、主要汚染化学物質の推定に役立つ可能性はある。
※H13.3現在指針値があるもの。

 家具等、原因が容易に移動できるものであればこれをその室内より除去してしまうのが有効である。もしくは化学物質の吸着剤等を使用してもよい。壁紙等が疑われるなら、張り替えが有効であろう。この際には化学物質の放散量基準(5.参照)が壁装材料協会、壁紙製品規格協議会等から提案されているので、必要ならそれら機関にも相談して要望にあったものを入手するよう勧めるとよい。なお、この場合適切な施工にも注意が必要である。
 建材や防蟻剤等が原因と推定された場合は、上記のような発生源の移動等による除去は困難なので、各種吸着剤、分解剤、封じ込め剤や空気清浄機等の利用、さらにはベークアウトやリフォーム等の処置が必要かも知れない。

*ベークアウト
 一定時間室内温度を高め、揮発性の有機化合物の放散を促進させ、それらを換気により除去することで、建材等から排除することをベークアウトと呼んでいる。建材等にホルムアルデヒドの未反応物や、トルエン等の溶剤が残留している場合には、これを除去する効果があるとおもわれる。しかしながら、建材の加工状態等により最適な条件は異なると思われ、加熱しすぎると建築物にダメージを与える可能性もあるといわれ、検討課題として残されている面は多い。

 吸着剤の利用や空気清浄機(脱臭機)の使用は比較的簡便であるが、その効果は製品によってばらつきがあると思われる。対象とする物質や原理等について、確認してから使用するように勧めた方がよい。特に空気清浄機の場合は、粉塵等を除去するタイプなのか、気体の化学物質を吸着できるタイプなのか、対象を確認するように勧める必要がある。最も相談が多いホルムアルデヒドであれば、茶殻や水程度でも多少の吸着効果はある。

*ホルムアルデヒドは水溶性が高く、容易に空気中から水中に移行する。従って物理的に、湿った茶殻等や水そのものが存在すれば、これにある程度吸着されることになるだろう。また、トルエンやキシレン等の溶剤については活性炭等の有機溶剤を吸着する性質のあるものにはやはりある程度吸着されるはずである。しかしながら、これらの効果はポンプで吸引するのでない限り、空気中の拡散と吸着剤の量に依存することになり、持続期間も限定的であろう。また湿気やカビなど別の問題を生じる可能性があるので、注意が必要である。ある程度狭く、限定的な空間に対しては、こまめに用いれば有効かも知れない。いずれにせよ、希望者には製品の特性と原理はよく確認してから使用するよう助言する必要がある。

○業者との交渉が必要な場合のスキーム

 相談の中には、これらの措置の負担等を施工契約先等に要求したいとすることもあるかも知れない。これらの相談に対しては、基本的に業者と本人の当事者間で交渉してもらうことなることを伝える。この際、第三者介在の希望が強ければ必要に応じて他の相談機関を紹介してもよい(7.参照)。同時に、交渉の前に以後の交渉をスムーズに進めるため、以下の情報を入手しておいた方がよいことを助言する。

・住まいのしおり
・設計図面
・部材仕上げ表
・契約書

 「住まいのしおり」には入居に際して注意すべき事柄が記されているはずである。適切な注意書きがあるか、十分説明が行われていたか、そしてその説明に基づく生活行動をとっていたかは、交渉の際重要となるだろう。設計図面は家屋の状況の把握に必要であり、部材仕上げ表からはどのような建材が使用されていたのかを知ることが出来る。設計や入居の際に特別な要望をして合意していたり、建材について条件を定めていたりした場合は、契約書等、それらの資料も重要である。
 リフォームの場合にはその部位と箇所、工事内容についての相談・説明状況、工事の際の仕切状況、工事終了後に注意があったか、業者に何か申し出をしていたか等の資料があれば用意しておいた方がよい。
 この他に、自らの状況として、体調不良を感じたのはいつからか、またはどんなときか、他の家族の状況はどうか、臭気はあったか等はまとめておいた方がよいだろう。室内空気質の測定結果を既に有しているのであれば、具体的な測定法、測定条件、そして測定結果をそろえておく。

 また、交渉するとすれば、その際には

・工事を請け負った契約先、貸し主もしくは管理会社
を交渉相手とする必要があること、また、何を求めて交渉するのかをはっきりさせ、具体的要求を示すように助言する。例えば、
・汚染物質を特定したい場合は使用した化学製品に対する情報の提供
・汚染物質を低減したい場合には、「換気扇の設置」、「ベークアウト処理」、「空気清浄機の購入」、「工事のやり直し」等の要求
・具体に補償を求めるというので有れば、治療費、通院交通費、見舞金等 の請求

等、である。とにかく交渉は具体的に事項を示して始めるよう、アドバイスする。闇雲に被害を訴えるだけではまず交渉が暗礁に乗り上げることになるであろうから、交渉のポイントは明確にしておかなければならない。
 従前の相談事例、その交渉経過、解決案等については「化学物質PL相談センター」の発行している「アクティビティニュース」や「(社)住宅生産団体連合会」が発行している「住宅関連紛争事例集」**に詳しいので、必要に応じて入手し、参考にするとよいだろう。

「化学製品PL相談センターアクティビティーノート」
「化学製品PL相談センター」のインターネットホームページ上に公開されている。ほぼ毎月発行。
URL: http://www.nikkakyo.org/
** 「住宅関連紛争事例集」
(社)住宅生産団体連合会より購入可能。基本的に年1回発行されている。

4.室内空気を汚染する可能性のある揮発性有機化合物について

1)優先して取組まれている物質について

 関係各省や住宅関連団体が参加して設立された「健康住宅研究会」(1996〜1997)において、対策優先取組物質として3物質3薬剤(ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、木材保存剤(現場施工用)、可塑剤、防蟻剤)がとりあげられている。
 また、さらに具体的には、平成12年4月より開催されている、厚生省の「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」において、実態調査結果やこれら検討結果、その後の知見等をもとに、室内濃度指針値の策定が進められている。現在(平成13年4月)までに、

1.ホルムアルデヒド
2.トルエン
3.キシレン
4.パラジクロロベンゼン
5.エチルベンゼン
6.スチレン
7.フタル酸ジ-n-ブチル
8.クロルピリホス

1は平成9年6月13日「快適で健康的な住宅に関する検討会議 健康住宅関連基準策定専門部会化学物質小委員会報告書」
2〜4は平成12年6月29日「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会中間報告書−第1回〜3回のまとめ−」
5〜8は平成12年12月22日「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会中間報告書−第4回〜5回のまとめ−」による

 の計8物質について室内濃度指針値が定められている。同検討会は現在も継続中であり、順次指針値が設定されていく予定である。設定された指針値については随時厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/)の報道発表資料で公開していくこととしているので、参照されたい。
 国際的には世界保健機構(WHO)から約50物質についてガイドラインが定められている。(http://www.who.int/peh/air/Airqualitygd.htm より入手可能)
 以下に国内で指針値が定められた物質について特性を記す。

1.ホルムアルデヒド

<一般的性質>

 ホルムアルデヒドは無色で刺激臭を有し、常温ではガス体である。水によく溶け、35〜37%の水溶液はホルマリンとして知られている。分子量は30.03であり、常温での蒸気密度は約1.07である。これは、空気と比較してほぼ同じ重さである。空気との混合気体も同様である。

*空気(主に窒素、酸素等の混合物である)と比較したときに、同体積の気体がどれだけ重いかの指標になる。この値が大きいほど空気に比べて重くなる。

<主な家庭内における用途と推定される発生源>

 合板、パーティクルボード、壁紙用接着剤等に用いられる尿素(ユリア)系、メラミン系、フェノール系等の合成樹脂や接着剤の原料となるほか、一部ののり等の防腐剤や繊維の縮み防止加工剤等、さまざまな用途の材料として用いられている。

*多くの合板ではこれら樹脂とホルムアルデヒドが熱圧着により反応・硬化することで接着されている。一般的には ユリア樹脂>メラミンユリア共重合樹脂>フェノール樹脂 の順に放散量が低下するといわれている。最近では、これとは別の系列の接着剤を用いた、ホルムアルデヒドを基本的に放散しない合板も開発されている。

 室内空気汚染の主な原因として推定されるのは、合板や内装材等の接着剤として使用されているユリア系、メラミン系、フェノール系等の接着剤からの放散(未反応物もしくは分解物)である。建材だけでなく、これらを使用した家具類も同様である(木製家具、壁紙、カーペット等)。また、喫煙や石油やガスを用いた暖房器具の使用によっても発生する可能性がある。

図略

<健康影響>

 短期暴露では0.08ppmあたりに臭いの検知閾値があるとされ、これが最も低い濃度での影響である。0.4ppmあたりに目の刺激閾値、0.5ppmあたりに喉の炎症閾値があるとされ、3ppmでは目や鼻に刺激が起こり、4〜5ppmでは流涙し呼吸器に不快感が生じる。31ppmあたりで重篤な症状が起こり、104ppmあたりでは死亡する。IARCで「ヒトに対し恐らく発がん性がある(2A)」と分類されているが、その作用機序からある一定以上の暴露がなければ発がんは起こらない(閾値がある)ものとされている。
 現在の指針値は、100μg/m3で、臭いの検知閾値周辺の0.08ppmであるが、これはその他の健康影響が観察された濃度に安全率を加味したものよりも低い値である。

*IARC(International Agency for Research on Cancer)はWHOに所属する国際的ながんの研究機関で、物質の発がん性
について1,2A,2B,3,4のクラス分けを行っている。

1: ヒトに対して発がん性を示す
2A: ヒトに対して恐らく発がん性を示す
2B: ヒトに対して発がん性を示す可能性がある
3: ヒトに対する発がん性について分類できない
4: ヒトに対して恐らく発がん性を示さない

※海外におけるホルムアルデヒドの指針値
 ホルムアルデヒドについては、それぞれの国や機関において基準値の設定や勧告がなされている。概要は以下の通りである。

世界保健機構(WHO) 0.08ppm
米国
 カリフォルニア州
 ウィスコンシン州
 空調冷凍衛生協会

0.05ppm
0.2ppm
0.1ppm
カナダ 0.05ppm(目標値)
0.1ppm (行動値)
オーストリア 0.08ppm
オーストラリア 0.1ppm
オランダ 0.1ppm
スウェーデン 0.1ppm
デンマーク 0.12ppm
ドイツ 0.1ppm
フィンランド 0.13ppm

2.トルエン

<一般的性質>

 トルエンはは無色でベンゼン様の芳香をもつ、常温では可燃性の液体。分子量は92.13で、常温での蒸気圧は約2.9kPa、蒸気密度は約3.1である。従って揮発性は高いが、空気より重く、高濃度の蒸気は低部に滞留する性質があると考えられる。しかしながら、通常は対流によって拡散し、空気との混合気体は相対的に空気と同じ密度になると思われる**

* 一般的に化学物質の揮散のしやすさは、沸点と蒸気圧を指標に判断されるが、建材等からの物質の揮散は蒸発によるものであるので、この値を指標とする方が適していると考えられる。一般的には値が大きいほど揮散しやすいと見なされる。

** 空気の動きの少ない場所では、一般に蒸気密度の大きい重い気体の濃厚な蒸気はいったん低部に滞留する。時間がたつとこの蒸気は拡散により上昇し、空気と混合する。いったん数百ppm程度まで希釈された蒸気の比重は空気とほとんど違わない。
こうした状態の蒸気は二度と床に沈むことはない。

<主な家庭内における用途と推定される発生源>

 接着剤や塗料の溶剤及び希釈剤等として、通常は他の溶剤と混合して用いられる。アンチノッキング剤として、ガソリン中に添加されることがある。
 室内空気汚染の主な原因として推定されるのは、内装材等の施工用接着剤、塗料等からの放散である。建材だけでなく、これらを使用した家具類も同様である。

<健康影響>

 労働環境における許容濃度として100ppmが勧告されている。480ppbあたりに臭いの検知閾値があるとされる。高濃度の短期暴露で目や気道に刺激があり、精神錯乱、疲労、吐き気等、中枢神経系に影響を与えることがある。また意識低下や不整脈を起こすことがある。生物学的半減期は約6時間前後と推定されている。
 また、比較的高濃度の長期暴露により、頭痛、疲労、脱力感等の神経症状へ影響を与えることがあり、心臓に影響を与え不整脈を起こすことがある。発がん性の指摘はない。
 現在の指針値は、260μg/m3(0.07ppm)で、安全性の観点から影響が認められた濃度のうち最も低くなる、ヒトの神経行動機能及び自然流産率に影響が認められた濃度を採用し、これに安全率を加味して設定している。

3.キシレン

<一般的性質>

 キシレンは無色でベンゼン様の芳香を持つ。市販品はo-,m-,p-の混合物である。常温では可燃性の液体。分子量は106.16で、常温での蒸気圧は約1.3kPa(0.8〜2.2kPaの混合)、蒸気密度は約3.7である。従って揮発性は高いが、空気より重く、高濃度の蒸気は低部に滞留する性質があると考えられる。しかしながら、通常は対流により拡散し、空気との混合気体は相対的に空気と同じ密度になると思われる。

<主な家庭内における用途と推定される発生源>

 接着剤や塗料の溶剤及び希釈剤等として、通常は他の溶剤と混合して用いられる。キシレンの市販品は通常エチルベンゼンも含んでいる。トルエンと同様、ガソリンのアンチノッキング剤として添加されることがある。
 室内空気汚染の主な原因として推定されるのは、内装材等の施工用接着剤、塗料等からの放散である。建材だけでなく、これらを使用した家具類も同様である。

<健康影響>

 トルエンと同様、労働環境における許容濃度として100ppmが勧告されている。また高濃度の短期暴露の影響はトルエンと類似している。蒸気はのどや目を刺激し、頭痛、疲労、精神錯乱を起こすことがあるという。200ppm程度の濃度で明らかに目、鼻、喉が刺激され、労働者の中に作業反応時間の延長するものが出るといわれている。生物学的半減期は4〜7時間と推定されている。
 また、比較的高濃度の長期暴露により頭痛、不眠症、興奮等の神経症状へ影響を与えることがあるといわれている。発がん性の指摘はない。
 現在の指針値は、870μg/m3(0.20ppm)で、安全性の観点から影響が認められた濃度のうち最も低くなる、ラットの中枢神経系への影響が認められた濃度を採用し、これに安全率を加味して設定している。

4.パラジクロロベンゼン

<一般的性質>

 パラジクロルベンゼンは通常、無色又は白色の結晶で特有の刺激臭を有し、常温で昇華する。分子量は147.01で、常温での蒸気圧は約0.17kPa、蒸気密度は約5.1であり、空気より重く、蒸気は低部に滞留する性質があると考えられる。しかしながら、通常は対流により拡散し、空気との混合気体は相対的に空気と同じ密度になると思われる。

<主な家庭内における用途と推定される発生源>

 家庭内では衣類の防虫剤やトイレの芳香剤等として使用されている。

<健康影響>

 15〜30ppmで臭気を感じ、80〜160ppmでは大部分のヒトが目や鼻に痛みを感じる。このように高濃度の短期暴露で目、皮膚、気道が刺激される。また、肝臓及び腎臓に影響を与え、機能低下及び損傷を生じることがある。
 また、比較的高濃度の長期暴露により、肝臓、腎臓、肺、メトヘモグロビン形成に影響を与えることがある。平成8年11月にマウスに対するがん原生があるという結果が報告されたが、「種特異的な高感受性の結果によるものであり、人へのリスク評価に反映させることは困難である」とされている。
 現在の指針値は、240μg/m3(0.04ppm)で、安全性の観点から影響が認められた濃度のうち最も低くなる、ビーグル犬における肝臓や腎臓への影響が認められた濃度を採用し、これに安全率を加味して設定している。

5.エチルベンゼン

<一般的性質>

 エチルベンゼンは無色で特有の芳香を持つ、常温では可燃性の液体。分子量は106.16で、常温での蒸気圧は約0.9kPa、蒸気密度は約3.7である。従って揮発性は高いが、空気より重く、低部に滞留する性質があると考えられる。しかしながら、通常は対流により拡散し、空気との混合気体は相対的に空気と同じ密度になると思われる。

<主な家庭内における用途と推定される発生源>

 接着剤や塗料の溶剤及び希釈剤等として、また燃料油に混和して、通常は他の溶剤と混合して用いられる。キシレンの市販品は通常エチルベンゼンも含んでいる。
 室内空気汚染の主な原因として推定されるのは、合板や内装材等の接着剤、塗料等からの放散である。建材だけでなく、これらを使用した家具類も同様である。

<健康影響>

 臭い自体は10ppm以下でも感知できるといわれている。短期暴露では、蒸気がのどや目に刺激がある。数千ppmといったかなりの高濃度になると、目眩や意識低下等の中枢神経系に影響がある。
 また、長期間皮膚に接触すると皮膚炎を起こすことがある。発がん性の指摘はない。
 現在の指針値は、3,800μg/m3(0.88ppm)で、安全性の観点から影響が認められる可能性がある濃度のうち最も低くなる、マウス及びラットの肝臓及び腎臓への無作用量を基に、安全率を加味して設定している。

6.スチレン(モノマー)

<一般的性質>

 スチレンは無色ないし黄色を帯びた特徴的な臭気のある、常温では油状の液体。分子量は104.14であり、常温での蒸気圧は約0.7kPa、蒸気密度は約3.6である。従って揮発性は高いが、空気より重く、高濃度の蒸気は低部に滞留する性質があると考えられる。しかしながら、通常は対流により拡散し、空気との混合気体は相対的に空気と同じ密度になると思われる。

<主な家庭内における用途と推定される発生源>

 ポリスチレン樹脂、合成ゴム、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、イオン交換樹脂、合成樹脂塗料等に含まれる高分子化合物の原料として用いられている。これらの樹脂を使用しているものに未反応のモノマーが残留していた場合、室内空気中に揮散する可能性がある。

<健康影響>

 労働環境における許容濃度として20ppmが勧告されている。
 60ppm程度で臭気を感じはじめ、200ppmを超えると強く不快な臭いに感じるという。
 600ppm程度で目や鼻に刺激、800ppm程度になると目や喉に強い刺激を感じ、眠気や脱力感を感じるようになる。
 比較的高濃度の長期暴露により、肺や中枢神経系に影響を与え、眠気や目眩を生じることがある。ヒトにおける発がん性や遺伝子傷害性を示唆する証拠は得られていない。
 現在の指針値は、220μg/m3(0.05ppm)で、安全性の観点から影響が認められる可能性がある濃度のうち最も低くなる、ラットの吸入毒性試験において脳や肝臓に影響が認められる最小毒性量を採用し、安全率を加味して設定している。

7.フタル酸ジ-n-ブチル

<一般的性質>

 フタル酸ジ-n-ブチルは無色〜微黄色の特徴的な臭気がある、常温では粘ちょう性の液体である。分子量は278.3であり、常温における蒸気密度は約9.6、蒸気圧は0.01kPa未満である。従って揮発性は高くないが、空気より重く、高濃度の蒸気は低部に滞留する性質があると考えられる。しかしながら、対流等により拡散した空気との混合気体は相対的に空気と同じ密度になる。

<主な家庭内における用途と推定される発生源>

 フタル酸ジ-n-ブチルは主に塗料、顔料や接着剤に、加工性や可塑化効率の向上のために使用されている。

<ヒトへの健康影響>

 高濃度の短期暴露で、目、皮膚、気道に刺激を与えることがある。誤飲により吐き気、目眩、目の痛み、流涙、結膜炎が見られたという報告がある。長期暴露の影響ははっきりしていない。
 現在の指針値は、220μg/m3(0.02ppm)で、安全性の観点から影響が認められる可能性がある濃度のうち最も低くなる、ラットにおける生殖発生への影響を採用し、安全率を加味して設定している。

8.クロルピリホス

<一般的性質>

 純品は無色の結晶。分子量は350.6で、常温における蒸気密度は約12、蒸気圧は約2.5×10-6kPaである。前出の化合物と比べると揮発性はかなり低く、空気より重い。残効性がある有機リン系の殺虫剤である。

<主な家庭内における用途と推定される発生源>

 家庭内では防蟻剤として使用されている。

<健康影響>

 有機リン系の殺虫剤であり、アセチルコリンエステラーゼを阻害する。急性中毒では重症の場合、縮瞳、意識混濁、けいれん等の神経障害を起こす。

 また、平成13年4月10日の第6回検討会において以下の4物質について指針値案が提案されている。

1.テトラデカン

<一般的性質>

 テトラデカンは石油臭のある、常温では基本的に無色透明な液体である。凝固点が6℃弱であるため、冬季には固化する可能性がある。分子量は198.39であり、常温における蒸気密度は約6.8、蒸気圧は約0.18kPaである。従って揮発性は他の溶剤に比べると低い。蒸気は空気より重く、高密度の場合は低部に滞留する性質があると考えられる。しかしながら、対流等により拡散した空気との混合気体は相対的に空気と同じ密度になる。

<主な家庭内における用途と推定される発生源>

 テトラデカンは工業的に灯油留分をさらに精製して生産されている。従って灯油は主要な発生源になり得る。また、塗料等の溶剤に使用されることがある。

<ヒトへの健康影響>

 中毒の情報はあまりないが、高濃度では刺激性で麻酔作用があるとされる。皮膚に直接ついた場合、皮膚の乾燥、角化、亀裂を生じることがある。衣服についてそれが長時間皮膚に接触したような場合には接触性皮膚炎を起こすことがある。

2.ノナナール

<一般的性質>

 ノナナールはバラ、ミツ、フローラル、グリーン様と評される強い香気を有する、常温では無色の液体である。分子量は142であり、常温における蒸気密度は約4.8、蒸気圧は93℃で約3kPaであり、拡散性がある。蒸気は空気より重く、高密度の場合は低部に滞留する性質があると考えられる。しかしながら、対流等により拡散した空気との混合気体は相対的に空気と同じ密度になる。空気中ではやや不安定といわれる。

<主な家庭内における用途と発生源>

 ノナナールは特有の甘い香気を有することからバラ、ユリ、ゼラニウム等のフローラル系の調合香料に配合される。また、シトラス系のフレーバーにも少量用いられる。元来レモン、ライム、オレンジ等の柑橘系の精油に天然成分として含まれる。

<ヒトへの健康影響>

 中毒の情報はほとんどない。1%ワセリン液を用いた皮膚感作試験では感作能なしとされている。適量では抗炎症・鎮痛・鎮静作用があるともいわれる。

3.フタル酸ジ-2-エチルヘキシル

<一般的性質>

 フタル酸ジ-2-エチルヘキシルは無色〜淡色の特徴的な臭気がある、常温では粘ちょう性の液体である。分子量は390.5であり、常温における蒸気密度は約13.45、蒸気圧は約0.001kPaである。従って揮発性はかなり低いが、空気より重く、高濃度の蒸気は低部に滞留する性質があると考えられる。しかしながら、対流等により拡散した空気との混合気体は相対的に空気と同じ密度になる。

<主な家庭内における用途と推定される発生源>

 フタル酸ジ-2-エチルヘキシルは代表的な可塑剤として、壁紙、床材、各種フィルム、電線被覆等様々な形で汎用されている。

<ヒトへの健康影響>

 高濃度の短期暴露で、目、皮膚、気道に刺激を与えることがある。消化管に影響を与えることがある。反復または長期間の接触により皮膚炎を起こすことがある。

4.ダイアジノン

<一般的性質>

 ダイアジノンは純品では弱いエステル臭を持つ、無色の常温ではやや粘ちょう性の液体である。分子量は304.35であり、常温における蒸気密度は約10.5、蒸気圧は約1.2×10-6kPaである。従って揮発性は低い。蒸気は空気より重く、高濃度では低部に滞留する性質があると考えられる。しかしながら、対流等により拡散した空気との混合気体は相対的に空気と同じ密度になる。

<主な家庭内における用途と推定される発生源>

 ダイアジノンは主に殺虫剤の有効成分として用いられる。

<ヒトへの健康影響>

 有機リン系の殺虫剤であり、アセチルコリンエステラーゼを阻害する。急性中毒では重症の場合、縮瞳、意識混濁、けいれん等の神経障害を起こす。

2)その他の物質

 室内に存在している、存在する可能性のある化学物質は上記の物質だけではむろん無い。化学物質というと、何か特殊なものであるというように膾炙される場合があるが、基本的に全ての物質は化学物質であり、我々の生活はこれら化学物質のおかげで成り立っていると言っても過言ではない。これらの極めて多種多様にわたる化学物質を網羅するのは不可能ではあるが、室内に存在する可能性のある物質については以下の情報があるので参考にされたい。
 厚生省(当時)では、代表的物質群別に揮発性の有機化合物約40種について平成9年及び10年に実態調査を行い「居住環境中における揮発性有機化合物の全国実態調査」として、平成11年12月に結果を公表した。当該調査は、実態の把握を第一義として行っており、その対象は脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素等の化学的特徴を有する物質群から、それぞれ代表的と思われる物質をなるべく網羅的にとりあげている。そのため、一般に建材そのものや施工等に人為的に使用されているとされる物質だけではなく、α−ピネンやリモネンの様に木材や果物からの放散が主であろうと考えられる物質や、パラジクロロベンゼンのように生活行為により発生すると考えられる物質、さらには、通常建材や日用品等には使用されていないと考えられる(室内が発生源ではないと考えられる)物質も含まれている。これらは、ヒトに対する毒性を考慮して選定されたものではないので、存在していることが即問題であるというわけではなく、その点については注意が必要である。具体的な調査対象物質は次項の表の通りである。

表略

 また、欧州委員会共同研究センター環境研究所による「室内空気質とヒトへの影響−報告書No.19:室内空気質の検討における総揮発性有機化合物(TVOC)(1997年)」("Indoor Air Quality & Its Impact on Man−Report No.19:Total Volatile Organic Compounds (TVOC) in Indoor Air Quality Investigations, European Commission Joint Research Center Environment Institute 1997")では、TVOCの決定方法を検討する中で、室内空気中に現れる可能性のある各種VOCのうち、同定すべき物質として、各化学分類を代表する化合物のリストを提示している。

○芳香族炭化水素

 ベンゼン、トルエン,エチルベンゼン、キシレン、n-プロピルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン、2-エチルトルエン、スチレン、ナフタレン、4-フェニルシクロヘキセン

 芳香族化合物の内の幾つかは優先物質にも入っているが、塗料や接着剤の溶剤等に広く使用されている。また、トリメチルベンゼンの一部は、染料、油性ニス、印刷インキ原料等に使用されている可能性がある。ナフタレンは衣類の防虫剤として用いられることがある。

○脂肪族炭化水素(n-C6〜C16)

 n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、n-トリデカン、n-テトラデカン、n-ペンタデカン、n-ヘキサデカン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、1-オクテン、1-デセン

 溶剤等に用いられる。ベンジンや石油類を持ち込めば当然発生する。また、ドライクリーニングの溶剤として使われているものもある。

○環状アルカン

 メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン

 脂肪族と同様、溶剤等に用いられる。

○テルペン

 3-カレン、α-ピネン、β-ピネン、リモネン

 代表的天然成分で木質建材には必ず含まれ、柑橘類などにも多量に含まれている。香料や天然系溶剤、接着剤等としても用いられている。

○アルコール

 2-プロパノール、1-ブタノール、2-エチル-1-ヘキサノール

 塗料やラッカーの溶剤として用いられることが多い。この他に、メタノール(ラッカー溶剤等)、エタノール(溶剤、除菌スプレー、消臭剤、酒等多岐)等が存在している可能性が高い。特に一般家庭におけるエタノールの存在量は他と比較しても圧倒的に高い。

○グリコール/グリコールエーテル

 2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエトキシエタノール

 一般にはグリコール系の物質は水性ペイントやエマルジョン系の接着剤に含まれている可能性がある。一部殺菌剤や防腐剤の溶剤に使われることもある。自動車の不凍液にも添加されている。(ジエチレングリコール等)

○アルデヒド

 ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ノナナール、ベンズアルデヒド

 一部香料や防腐剤に用いられているものがある。アルコールの酸化で生じるので二次的発生もあり得る。ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等、炭素鎖の短いものは一般にVOCに分類されないのでリストにない。ホルムアルデヒドは前記の通りであり、アセトアルデヒドは防カビ剤や香料にも用いられる。エタノールは体内でアセトアルデヒドになるので、これらは人体等からもかなり発生する。臭いがきついものが多い。

*WHOでは化学物質を沸点を基準にして4つに分類している

分類名称 略記 沸点範囲
高揮発性有機化合物
Very Volatile Organic Compounds
VVOC < 0℃ 〜 50-100℃
揮発性有機化合物
Volatile Organic Compounds
VOC 50-100℃ 〜 240-260℃
準揮発性有機化合物
Semi Volatile Organic Compounds
SVOC 240-260℃ 〜 380-400℃
粒子状物質
Particulate Organic Matter
POM > 380℃

○ケトン

 メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン

 油性ラッカーや印刷インキなどの溶剤等に使用されている可能性がある。上記にはないがアセトンはマニキュア除光液などの化粧品に含まれている可能性がある。

○ハロゲン化炭化水素

 トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、1,4-ジクロロベンゼン

 脱脂能力が高く、溶剤として用いられるが、基本的に工業用である。一部クリーニング溶剤として用いられる可能性がある。(1,4-ジクロロベンゼンは指針値が既設のパラジクロロベンゼンのことである。これは前述のように常温で固体である。)

○酸

 ヘキサン酸

○エステル

 酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸2-エトキシエチル、テキサノールイソブチレート

 樹脂、ラッカー、インキ等の溶剤として幅広く用いられる可能性があるほか、一部香料としても用いられる。酢酸エチルはメロン臭として有名であり、実際メロンに含まれている。

○その他

 2-ペンチルフラン、テトラヒドロフラン

 水性塗料などの溶剤に含まれている可能性がある。

 上記VOCリストにはあげられていないが、「健康住宅研究会」において優先取組物質にあげられた可塑剤や、防蟻剤なども多種存在している可能性がある。

○可塑剤

 可塑剤は材料に柔軟性を与えたり、加工を容易にしたりするために添加される物質のことである。主に塩化ビニルを中心としたプラスチックに柔軟性を与えるために用いられている。一般的に分子量が大きく揮発性は高くないものが多い。
 可塑剤には多くの種類があるが代表的なものはフタル酸エステル類とアジピン酸エステル類である。具体的には以下のようなものがある。

 フタル酸エステル類(ジメチル、ジエチル、ジブチル、ジ-2-エチルヘキシル、ジノルマルオクチル、ジイソノニル、ジイソデシル、ブチルベンジル等)、アジピン酸エステル類(ジオクチル、ジイソノニル、ジノルマルアルキル、ジアルキル等)、アゼライン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジオクチル、リン酸トリクレシル、アセチルクエン酸トリブチル、エポキシ化大豆油、トリメット酸トリオクチル、ポリエステル系、塩素化パラフィン等

 それぞれ特性を有しており、その特性に適した用途に用いられている。家庭内では、塗料、接着剤、クロス、壁紙、合成皮革、ホース、電線、ラップ等様々な用途に使用されている。

○防蟻剤

 防蟻剤は木材を食い荒らす害虫であるシロアリを駆除・防除するために主に床下に施工されている。(関西以西では屋根裏にも施工される場合がある。)
 (社)日本しろあり対策協会が駆除剤、予防剤、予防駆除剤、土壌処理剤等について優良薬剤の認定を行っている。これらは原体そのものを認定しているものではないが、平成 12年4月現在認定商品に含まれている可能性がある薬剤には以下のようなものがある。

 クロルピリホス、ジクロロフェレチオン、ダイアジノン、テトラクロルビンホス、ピリダフェンチオン、フェニトロチオン、プロペンタホス、プロポキスル、ホキシム、アクリナトリン、アルファシペルメトリン、エトフェンプロックス、シフェノトリン、シフルトリン、トラロメトリン、ビフェントリン、フルメシクロックス、ペルメトリン、フェノブカルブ、ケルセン、アザコナゾール、シプロコナゾール、テブコナゾール、アセタミプリド、イミダクロプリド、シラフルオフェン等

 以上には有機リン系殺虫剤、ピレスロイド系殺虫剤、カーバメート系殺虫剤、その他の殺虫剤、殺菌剤等を取り上げた。認定商品ついては随時追加登録や抹消が行われている。
 製剤にはこれらの他に溶剤、強力剤、展着剤、界面活性剤、乳化剤、安定化剤等が必要に応じて添加されていることが多い。クロルピリホスについては平成12年11月に同協会より使用自粛要請が出されている。
 防蟻剤はそもそも薬効を期待するものであるので、その使用法には注意が必要である。
 そのあたりについては「防除処理標準仕様書」等が同協会より示されているので参考となるものと思われる。

*防蟻剤の施工等については(社)日本しろあり対策協会で「防除処理標準仕様書」、「安全管理基準」の設定、「防除薬剤等」の認定、「しろあり防除施工士」資格制度、「建築物防蟻防腐処理業登録」制度の設定等を行っている。しろあり防除に際してはこれらの基準が遵守されることが重要であろう。同協会の登録業者についてはホームページで確認できる。(URL:http://www.hakutaikyo.or.jp/)

 以上には、代表例を取り上げてきたが、これらの物質は健康影響を指標にして選択されたものではないので、中には適量であればむしろ好影響を与えるものもあるであろう。また、空気中に存在する物質は当然これだけではない。建材、家具、日用品から放散される他、様々な生活行為によっても空気質は大きく変化することは念頭に置いておく必要があるだろう。

5.建材の規格等について

 建材は家屋中で最も使用量が多いことから、化学物質の放散量についての関心が高いと思われる部分である。現在、一部建材のホルムアルデヒドの放散量について、日本農林規格(JAS)、日本工業規格(JIS)の規格が存在する。

1)日本農林規格(JAS)

 JASでは建材のうち、普通合板、構造用合板、コンクリート型枠用合板、難燃合板、防炎合板、構造用パネル、フローリング、集成材、構造用集成材、単板積層材及び構造用単板積層材についてホルムアルデヒド放散量に応じた等級を定めており、これらにはJASマークが添付されている。

*URL:http://www.jasnet.or.jp/rule/mark2.html

 現在の表示区分及び規格概要は以下の通りである。

表示の区分 ホルムアルデヒド放散量※1
平均値 最大値
C0 0.5mg/リットル以下 0.7mg/リットル以下
C1 1.5mg/リットル以下 2.1mg/リットル以下
C2
(FC2-S※2
5.0mg/リットル以下
(3.0mg/リットル以下※2)
7.0mg/リットル以下
(4.2mg/リットル以下※2)

※1 一定量の蒸留水を入れた20℃のデシケーター内に、一定量の試料を蒸留水に接触しない形で24時間放置し、蒸留水に吸収されたホルムアルデヒド濃度を測ったもの。
※2 集成材及び構造用集成材については( )内に掲げる表示の区分及び数値

2)日本工業規格(JIS)

 JISでは木質系建材のうち、MDF(Medium Density Fiberboard,中密度繊維板)、パーティクルボードについて、ホルムアルデヒド放出量に応じた等級を定めており、これらにはJISマークが添付されている。
 現在の表示区分及び規格概要は以下の通りである。

表示の区分 ホルムアルデヒド放散量
0 0.5mg/リットル以下
1 1.5mg/リットル以下
2 5.0mg/リットル以下

※ 一定量の蒸留水を入れた20±1℃のデシケーター内に、一定量の試料を蒸留水に接触しない形で24時間放置し、蒸留水に吸収されたホルムアルデヒド濃度を測ったもの。

 (社)住宅生産団体連合会においては、「住宅内の化学物質による室内空気質に関する指針」を平成11年3月2日に発表し、建材について使用を推奨する等級について言及している。
 当指針はその後平成13年3月2日に改訂され、JIS、JASの改正に合わせて記述が見直されたほか、平成11年の指針公表以降に厚生省(当時)から新たに示された物質についての指針や、換気等についての記述が追加された。また、平成12年4月1日に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」の住宅性能表示制度においては、これらの等級を表示する他、あわせてホルムアルデヒド放散等級(4〜1)を表示することとなっている。
 輸入建材については、JASでは認定を受けている工場で生産されたものの他、持ち込み検査によってもJASマークの表示が可能となっている。JIS関係では、JISマークを取得していないJIS規格外品について、これと同等のものとして(社)日本建材産業協会が「建材表示制度・空気環境性能表示」を創設し、繊維板とパーティクルボードを対象として、申請品についてホルムアルデヒドの放出量を「FECマーク」により表示している。

 現在、ホルムアルデヒド放散量についての関心が高まっていることもあり、FC1以下のレベルの合板、E2以下のレベルのMDF、パーティクルボードの入手が困難なほどになっているということである。

<参考>

 JAS、JIS規格においては、様々な名前の付いた建材が登場してきているが、これらは張り合わせる木材の形状によって大きく分類できる。

1)集成材

 基本的に挽板(ラミナ)を繊維方向をほぼ平行にして長さ、幅及び厚さの方向に集成・接着したもの。造作用と構造用に大きく分けられる。さらに大きさの違い、化粧ばりのあるなし等でさらに細かい分類がある。
 一般住宅内では主に柱、階段、長押、手すり、敷居、鴨居等に使用されている。

2)合板

 基本的に単板を3枚以上、繊維方向を直角にして張り合わせたもの。このうち表面にオーバーレイ、プリント、塗装等の加工が行われていないものが普通合板である。このうち建築物の構造耐力上主要な部分への使用を目的とするものについては構造用合板としての規格がある。コンクリート型枠用合板は、建築や土木等で用いられているコンクリート型枠への使用を目的とするものである。防炎合板、難燃合板はいずれも難燃性の材料を積層したりして、耐火性を付与したものである。

3)単板積層材(Laminated Veneer Lumber,LVL)

 合板が単板を繊維方向を直角にして張り合わせるのに対し、平行にして張り合わせたもの。合板が面材料であるのに対し、積層材は柱や梁等の軸材料に使用される。合板と同じく、構造的な用途に用いることを目的とするものに対しては、構造用積層材としての規格がある。
 一般住宅内では主に、ドア枠、窓枠等の内装部材や土台、たるき、棟木等の構造部材に用いられる他、タンスなど箱型の家具にも使われている。

4)パーティクルボード、OSB

 木材の小片(パーティクル)を接着剤を用いて成型熱圧して板状にしたもの。解体材や未利用廃材も使用でき、均質で、厚く、大面積の板が得られるのが特徴である。これに化粧板を施して使用されることもある。一般住宅内では家具に利用される他、下地や内壁にも用いられる。
 また、主に北米で生産されるボードに、主にはアスペンと呼ばれる小径の広葉樹を小片に加工し、接着剤を加えて成型したもので、ウェハーボード(Wafer Board)や配向性ストランドボード(Oriented Strand Board)と呼ばれるものがある。

*構造用パネル

 パーティクルボードはその強度面から構造用の建材にはあまり用いられていなかったが、一定の強度を持つもの等は構造パネル(壁下地や床下材)に使用できるようになっている。OSBについては「構造用パネル」としてJASが設けられている。

5)ファイバーボード

 木材繊維(ファイバー)を主な原料として成型した板状製品の総称。ファイバーは木片(チップ)を高温高圧下で蒸煮し、さらに機械的に解繊して作られる。密度により3種に区分されている。

・0.35g/cm3未満 インシュレーションボード(軟質繊維板)
・0.35g/cm3以上0.80g/cm3未満 MDF(中密度繊維板)
・0.80g/cm3以上 ハードボード(硬質繊維板)

 MDF以外は元々ホルムアルデヒドを放散する可能性のある接着剤が用いられていないので、JISに放散量基準はない。
 MDFは家具、床、屋根、内外壁の下地等に広く用いられている。

*フローリング

 フローリングは「主として板その他の木質系材料からなる床板であって、表面加工その他所要の加工を施したもの」であり、様々なものがある。大きく分けると主にムクの木で作られた単層フローリングと、合板に表面材を張った複合フローリングである。
 その内容は多岐にわたるが、複合フローリングの多くは先出した合板、LVL、パーティクルボード、ファイバーボード等の台板に化粧板が施されたものである。

3.壁紙等の規格

1)ISM規格

 壁装材料協会ではインテリア材料(壁紙)について「ISMガイドライン」を定め、これを満たす商品についてISMマークの表示を行っている。
 概要は以下の通りであるが、詳しくはパンフレットを入手して確認していただきたい。

*URL: http://wacoa.topica.ne.jp/ism/

安全規定
物質名 商品の判定基準
ホルムアルデヒド 0.01ppm 以下
残留VOC 300μg/m3以下
塩化ビニルモノマー 0.1ppm 以下
重金属**  
1バリウム 300mg/kg 以下
2鉛 5mg/kg 以下
3クロム 5mg/kg 以下
4アンチモン 1mg/kg 以下
5ひ素 0.5mg/kg 以下
6カドミウム 1mg/kg 以下
7水銀 0.1mg/kg 以下
8セレン 5mg/kg 以下

* 検出されないこと
**試験機関の検出限界値以下であること。特に2〜8は原材料の不純物レベルまで管理して検出限界以下を保つこと。

原材料・製造工程における規則

1)沸点400℃/760mmHg以上の可塑剤を使用する。
2)印刷インキは有機溶剤5%以下の水性インキを使用すること。
3)ハロゲン系及び芳香族系の溶剤を使用しない。
4)発泡剤にクロロフルオロカーボン類を使用しない。
5)有機リン系及びハロゲン系の難燃薬剤を使用しない。

 ISMと類似の海外での規格として、ドイツのRAL、欧州のIGIによるEマーク、フランスのNFマークなどがある。この中ではRALが最も厳しいとされる。ISMではこれらと同等かそれ以上に厳しい規格が設定されている。

2)SV規格

 壁紙製品規格協議会では、壁紙製品に対して「壁紙製品標準規格(SV規格:Standard Value)を定め、これに適合する製品についてSVマークの表示を認めている。概要は以下の通りであるが、詳しくはホームページ等を利用して入手し、確認していただきたい。

*http://www.svkikaku.gr.jp/first.html

規格値概要(化学物質関係のみ)
試験項目 紙系壁紙 ビニル壁紙 オレフィン系等壁紙
ホルムアルデヒド(ppm) 0.05以下 同左 同左
重金属(mg/kg)   同左 同左
1ヒ素 5以下
2鉛 30以下
3カドミウム 5以下
4クロム(VI) 20以下
5水銀 2以下
6セレン 10以下
塩化ビニルモノマー(mg/kg) 0.1以下 同左 同左
TVOC(μg/g) 100以下 同左 同左
TEX芳香族(μg/g) 10以下 同左 同左
安定剤 原材料には鉛、カドミウムを含有する安定剤は使用しない。
可塑剤 原材料には沸点300℃以上の難揮発性可塑剤を使用する。
発泡剤 原材料にはフルオロカーボン類は使用しない。

 この他に退色性、耐摩擦、隠蔽性、施工性、湿潤強度等の性能についても規格を定めている。

4.その他の規格や指針等

 これらの他にも室内空気環境に関連があると思われる指針等が幾つかまとめられている。

○「住宅内の化学物質による室内空気質に関する指針」

 (社)住宅生産団体連合会が平成11年3月にとりまとめ、平成13年3月に改訂された。
 ホルムアルデヒド放散量低減のための対策、優先取組物質に関する注意事項、換気対策、顧客への説明指針等をまとめたもの。当連合会ホームページより入手可。

例)内装仕上げ材に用いる合板類はホルムアルデヒドの放散量が日本農林規格(JAS)で定めるFc0等級レベルのものとし、MDF及びパーティクルボードはホルムアルデヒドの放出量が日本工業規格(JIS)で定めるE0等級レベルのものとする。ただし、通気性がある畳、・カーペットなどの下地板も同様とする。

○「住宅用接着剤に含まれる揮発性有機化合物の指針」

 日本接着剤工業会が主な住宅用接着剤について、それぞれ含有量制限や方針を示したもの。当工業会が作成予定の「住宅用接着剤と室内環境」に収録予定。

例) ユリア樹脂系接着剤 ホルムアルデヒド含有量 1%以下
フェノール樹脂系接着剤 0.5%以下 等

○「室内における健康安全環境を考えた塗装設計施工マニュアル」

 (社)日本塗料工業会が塗装業者や工務店塗装設計担当者に対する簡単なマニュアル。

*当マニュアルは工業会より購入可能。

6.換気について

1)換気と室内空気中化学物質濃度

 一部前述したように、室内空気中の汚染物質濃度はその発生量と排出量で決まる。単純に一定時間における増加量を式にすれば

室内空気中の汚染物質増加量(C)=汚染物質の発生量(M)−汚染物質の排出量(Q)
である。汚染濃度が高くなると排出される量も多くなるので、いずれこの式は0になり、室内空気中濃度は一定になる。式の上からは、Qが大きいほど平衡濃度は低い事が想定できる。
  実際の住宅においてはMもQも絶えず変動するので簡単ではないが、Qの重要度は明らかである。発生量Mは建材、家具、日用品、食品等からの放散や生活行為等による発生できまり、汚染物質の排出量Qは基本的に換気できまるといってよいだろう(分解や吸着等特段の手段もこの頁を増加させるが、流入空気が汚染されていた場合は逆になる)。
 「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(ビル管理衛生法、ビル管法と略されることが多い)では、特定の建築物における室内環境基準値としてCO21000ppm以下等を定めている。これに基づきオフィスビル等では機械換気システムが整備が進んでいる。米国では「シックビル症候群」という言葉が著名であるのに対し、日本では「シックハウス」という言葉が市民権を得たのもこのことと関連があるものと思われる。
 Mが極端に大きい場合は、通常の生活で獲得しているQでは不十分であろうから、このような住宅については外科手術的な工事が必要となるかも知れない。こうした住宅を現存のものは改善し、新規には作らないようにしていくことが問題解決の上で重要なポイントとなるだろう。

2)換気の実際

 換気には大きく分けると自然力を利用する自然換気と機械力を利用する機械換気とがある。また、給気と排気のコントロール状況によっても第1種〜4種に分けられる。

1.自然換気

 特段の機械換気システムが備え付けられていない建物では、換気をしようといった場合、このやり方に頼ることになる。自然換気は自然力に依存しているので、この自然力を上手に利用することで換気効率を上げられる。自然力は主には風力や温度差によって作られる気圧の勾配である。
 例えば、建物に向かって風が吹き付けられると、風上側では気圧が上昇し、風下側では気圧が低下する。よって、建物に隙間があれば風上側から風下側に向かって気流が発生し、自然換気が行われる。この隙間を広げれば換気量は増え、狭めれば減ることになる。また、暖房や日光の入射などによって室内の空気が暖められると、暖められた空気が上昇することによって天井側の気圧が上昇し、部屋の内部に気圧の勾配が生じる。建物に隙間があれば、暖められた空気は部屋の上部の隙間から逃げ、逆に床面近くの隙間からは外気が進入する。夏季に冷房をすると、今度は冷気が部屋の下部の隙間から逃げる。これによっても自然換気が行われる。このような自然換気は日常生活において特にそれとは意識しないうちに経験していることを利用しているものである。

2.機械換気

 機械換気は機械力を使って強制的に圧力差を作り出し、気流を発生させるものである。
 機械力を使用するため、計画的に換気量を設定することも可能である。機械換気には給気・排気とも機械力を使用するものと、そのどちらかのみに機械力を使用するもがあり、給排気とも機械力を使用されるものが第1種、給気のみ機械力が使用されるものが第2種、排気のみに機械力が使用されるものが第3種換気と呼ばれている。給気・排気とも自然力を利用する自然換気はこの分類では第4種換気である。
 昨今の高気密住宅では、必要換気量をまかなえるように機械換気システムを備え付けているものがあるが、このような場合にはシステムを止めるのは望ましくない。これらについては「住まいのしおり」等の記載事項を守ることが必要であろう。

換気方式の分類図略

3)換気量のコントロール

 機械換気の場合、換気量は機械的にコントロール可能であることが期待される。一方、自然換気の場合は周辺環境の影響を大きく受けるので、望みとする換気量を得るのは困難かも知れないが、その条件下で最大の効率を得るための工夫は可能である。基本的に昨今の住宅では、何もしなければ換気量が不足がちになると思われるので、換気量を増やす方の工夫が必要であろう。
 計画換気システムが備えられていない家屋において、換気量を増やすための基本的考え方は以下のようなものであろう。

・窓開けに際しては開口部(主に窓)を2ヶ所以上つくる。
 空気の通り道を作るのが重要である。風上と風下の両方を開放するのがもっとも有効で、難しい場合は風上と側面を開放する。風下のみの開放ではあまり効果は期待できない。また、風上のみの開放では部屋全体の換気効果は低い。
 空気の流入が明らかに感じられるときなど、風が強いときには5分程度の窓開けでもほとんど空気は入れ替わると思われる。外出するなどして部屋が長時間締め切られていた時などには、窓を全開してまず空気を十分入れ換えるべきであろう。
・換気用小窓、ガラリ、換気口を利用する
 昨今の住宅ではサッシやドアに換気用小窓やがらりが、壁には換気口が備え付けられていることが多い。これらはなるべく自然換気を利用しようとするものであるから、小窓やガラリはなるべく開放しておくようにし、換気口を気付かないうちに家具等で塞いでしまっていないか気を付ける必要がある。これらの換気口は上下に設けられていることが多く、風力のみならず温度差による自然換気にも有効であると考えられる。
・補助的に局所換気を利用する
 大規模な計画換気システムが備わっていなくても、キッチンのレンジフード、浴室やトイレの換気扇等の局所換気はほとんど全ての家屋に備わっていると思われる。無風で自然換気があまり期待できそうにない時や、集合住宅で窓が一面にしか存在しない時など、これらを補助的に活用するのは有効であろう。この際に注意することは、これらの局所排気口と、給気口となるであろう隙間が離れているようにすることである。居間の小窓が開いており、キッチンの換気扇が作動しているときには、居間〜キッチンに気流が生じ、屋内が換気されることが期待できるが、換気扇の近傍に給気口が存在すると空気はその範囲でのみ循環し、室内の換気には有効とならない。(局所排気はこれが本来の役割であるので、逆に給気口を閉鎖しておく必要が生じるかも知れない)

 これらは特段の準備無しに活用できると思われるものであるが、適切な換気量が得にくいのであれば、換気扇や換気システムの導入が必要かも知れない。

7.関連機関等

 室内空気環境の改善については、現在様々な方面から取組が行われている。相談者もそれぞれ必要としている情報が異なると思われる。ここではこれまでに紹介してきた関連情報等について、さらに詳しい情報等が入手できる機関や、特定の案件について相談出来る機関を参考として記載したので必要に応じて活用していただきたい。

機関名 連絡先 概要
(財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター 03-3556-5147 平日10:00〜17:00
http://www.chord.or.jp/
住宅に関する相談全般
日本健康住宅協会 06-6390-8277 月/水/金10:00〜17:00
http://www.kjknpo.com/
健康住宅についての相談全般
健康住宅普及協会 06-6441-0181 平日9:00〜17:00
(12:00〜13:00除く)
http://www.kenkoujyuutaku.or.jp/
健康住宅についての相談全般
消費生活センター,
国民生活センター(全国)
http://www.kokusenn.go.jp/soudan/map/info/html  
(財)住宅保証機構 http://ohw.or.jp/formu.html ホルムアルデヒド簡易測定器の貸し出しサービス等について
住宅金融公庫 http://www.jyukou.go.jp/ 住宅金融公庫の割増融資等について
(社)住宅生産団体連合会 03-3592-6441
http://www.judanren.or.jp/
「住宅内の化学物質による室内空気質に関する指針」,住宅関連紛争処理事例集の購入等
化学製品PL相談センター
((社)日本化学工業協会)
03-3580-1951 平日9:30〜16:00
http://www.nikkakyo.org/
化学品全般についての相談、情報提供等
インテリアPLセンター
(壁装材料協会)
03-3403-7897
http://wacoa.topica.ne.jp/plcenter
壁装材料及び関連製品についてのPL相談
塗料PL相談室
((社)日本塗料工業会)
03-3443-2074
http://www.toryo.or.jp
塗料についてのPL相談等
日本接着剤工業会 03-3434-3303
http://www.jaia.gr.jp/
接着剤の施工基準やVOCについての指針等
日本しろあり対策協会 03-3354-9891
http://www.hakutaikyo.or.jp/
防蟻剤や防蟻処理についての情報等
(社)日本建材産業協会 03-5640-0901
http://www.jkiss.or.jp
建材についての情報等
日本建築仕上材工業会 03-3861-3844
http://www.uni-net.ne.jp/nsk/
仕上塗材、左官材、防水剤、床材等関連資機材の情報等
集成材相談室
(日本集成材工業協同組合)
03-3434-6527
http://www.syuseizai.com/
集成材についての情報等
日本合板工業組合連合会 03-3591-9246
http://www.nichigouren.or.jp/
合板についての情報等
日本フローリング工業会,
日本複合床板工業会
03-3643-2948 フローリングについての情報等
(財)日本合板検査会 03-3591-7438
http://www.jpic-ew.or.jp
合板の規格や検査等
(財)日本住宅・木材技術センター 03-3589-1788
http://www.howtec.or.jp
木材と木造住宅に関する情報の収集・提供等
壁装材料協会 03-3403-8760
http://wacoa.topica.ne.jp/
ISM規格等について
壁紙製品規格協議会
(SV協議会)
03-5413-0602
http://www.svkikaku.gr.jp/
SV規格等について
(社)日本インテリアファブリックス協会 03-3433-4521
http://www.nif.or.jp/
カーテン、カーペット等、内装材料についての情報等
東京弁護士会住宅紛争審査会 03-3581-9040 平日10:00〜12:00
13:00〜16:00
「住宅性能表示制度」対象住宅についての紛争処理
(財)建築環境・省エネルギー機構 03-3222-6681
http://www.iijnet.or.jp/ibec/
「設計・施工ガイドライン」,
「ユーザーズマニュアル」について等


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