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第6例目の脳死下での臓器提供事例に係る
検証結果に関する報告書

脳死下での臓器提供事例に係る検証会議

平成12年12月28日

目次

はじめに

第1章 救命治療、法的脳死判定等の状況の検証結果
 1.初期診断と治療に関する評価
 2.臨床的な脳死の診断及び法に基づく脳死判定に関する評価

第2章 ネットワークによる臓器あっせん業務の状況の検証結果
 あっせんの経過の概要とその評価

(参考資料1)
 診断・治療概要(臓器提供施設提出資料)

(参考資料2)
 臓器提供の経緯((社)日本臓器移植ネットワーク提出資料)

(参考資料3)
 脳死下での臓器提供事例に係る検証会議名簿

(参考資料4)
 医学的検証作業グループ名簿

(参考資料5)
 脳死下での臓器提供事例に係る検証会議における第6例目に関する検討経過



はじめに


 本報告書は、平成12年4月中旬に行われた第6例目の脳死下での臓器提供事例に係る検証結果を取りまとめたものである。
 ドナーに対する救命治療、脳死判定等の状況については、まず医療分野の専門家からなる「医学的検証作業グループ」において評価を行い、その結果を基に検証を行った。その際には、臓器提供施設から救命治療、脳死判定の担当医から事情を聴取するとともに、当該施設から提出された診療録(カルテ)、CT写真等の各種検査結果などの関係資料を参考に検証している。また、社団法人日本臓器移植ネットワーク(以下「ネットワーク」という。)の臓器のあっせん業務の状況については、ネットワークから提出されたコーディネート記録、レシピエント選択に係る記録その他関係資料を用いつつ、ネットワークのコーディネーターから一連の経過を聴取し、検証を行った。
 本報告書は、第6例目に係る検証結果について、ドナーに対する救命治療、脳死判定等の状況に係る検証結果を第1章として、ネットワークによる臓器のあっせん業務の状況に係る検証結果を第2章としてとりまとめたものである。


第1章 救命治療、法的脳死判定等の状況の検証結果



1.初期診断と治療に関する評価

 (平成12年4月13日11:40来院から4月14日16:15臨床的脳死の診断まで)
 当該患者は4月13日11:00頃、意識不明で倒れているところを自宅で発見され、嘔吐の痕跡があり、自発呼吸は非常に微弱であった。発見後40分後の11:40に来院した時の意識レベルはJCS:300、GCS:3で、両側瞳孔散大、対光反射消失が認められ、自発呼吸は極めて微弱であった。直ちに気管内挿管を行って人工呼吸器を装着し、静脈を確保した後、頭部CTを施行した。11:49に施行された頭部CTでは、左側頭葉から大脳基底核に存在する脳内血腫とび慢性のくも膜下出血を認め、Grade Vの重症くも膜下出血であり、予後の悪さを予測させるものであった。入院後、主としてドパミン持続投与で血圧を維持せざる得ない循環不全状態が持続し、治療は保存的な対症療法を主とせざるを得ず、来院より約30時間で臨床的脳死に到った。

(1)呼吸器系の検査治療について
 来院時に意識障害と自発呼吸微弱があり、直ちに気管内挿管により気道確保され、人工呼吸器が装着されている。人工呼吸の条件(FiO2 0.5、TV500ml、f 15 b/min)は、成人女性として妥当な値である。入院2日目の4月14日15:40に動脈血ガス分析が施行され、PaCO2 27mmHg、PaO2 110mmHgと過換気状態を呈していた。これは結果的には頭蓋内圧亢進を抑制する効果があったと考えられる。

(2)循環器系の検査治療について
 循環動態は、来院時収縮期200mmHgを超える異常高血圧に対してジルチアゼムが投与され、その後の血圧低下に対してドパミン投与で血圧が維持されており、適切な治療であった。

(3)水電解質の管理について
 来院時の生化学検査所見でBUN 42.5mg/dl、CRE 2.75mg/dlと腎機能障害があったが、尿量は十分得られており、腎機能障害を悪化させることもなく、適切な輸液がなされたと考えられる。

(4)脳神経系の管理について
(1)診断の妥当性
 嘔吐を伴う意識障害で発見され、深昏睡、両側瞳孔散大、対光反射消失、自発呼吸微弱が認められることから、頭蓋内出血を疑い、救急処置を施行した後直ちに頭部CTを施行するとした判断は妥当である。
 CT所見は脳動脈瘤、特に中大脳動脈瘤の破裂時に認められる所見と一致しており、脳動脈瘤破裂による脳内血腫を伴ったくも膜下出血を生じたとする判断も妥当である。
 頭部CTに続いて行った3D-CTAでは、脳内血腫存在側の動脈が造影されなかったので、脳動脈瘤の存在は確認されていない。しかし上述の臨床経過及び頭部CT所見から他疾患の可能性は低く、また脳動脈瘤を確認することにより治療方針、治療法の変更が必要な状況ではないため、この時期に他の追加検査により脳動脈瘤の存在を確認する必要はなかったと考えられる。

(2)頭部CT所見
 4月13日の来院直後に施行された頭部CTでは、左側頭葉から大脳基底核部に存在し、内側は視床、中脳、上方は前頭葉皮質下に及ぶ最大径3×4.5cm×8スライス(約4.5cm)の脳内血腫とび慢性くも膜下出血が認められ、第4脳室に血液の流入が認められる。
 脳幹部及び大脳半球白質全体の著しい低吸収域化と全ての脳溝及び脳底槽の消失、側脳室の著明な狭小化が認められ、正中構造が左から右へ約15mm偏位している。
 この所見より、左中大脳動脈瘤破裂により生じた脳内血腫とくも膜下出血が存在し、これら出血の影響に呼吸不全に伴う脳低酸素状態による影響が加わって生じたと思われる脳幹部を含む脳全体の強いび慢性腫脹が存在すると判断できる。
 頭部CTに引き続いて施行された3D-CTAでは、右側中大脳動脈、前大脳動脈、後大脳動脈は造影されているが、左側では造影されず、左側大脳半球での高度血流遅延の存在が示されている。
 発見より32時間後に施行された4月14日の頭部CTでは前日とほぼ同様の所見が認められる。

(3)保存的治療を行ったことの評価
 患者は来院時JCS:300、GCS:3の深昏睡で、両側瞳孔は散大し、対光反射は消失しており、自発呼吸も非常に微弱であった。
 更に頭部CTでは大きな脳内血腫と脳幹を含む脳全体の強いび慢性腫脹が認められた。また、3D-CTAで脳内血腫存在側の高度血流遅延の存在も示されている。
 以上の臨床症状及びCT所見から本症例では来院時にすでに広汎な大脳半球の損傷と、急激な頭蓋内圧亢進により生じた下行性テント切痕ヘルニヤによる脳幹損傷が存在していたと思われる。
 したがって、本症例において脳内血腫除去と再出血予防を目的とした手術及び二次的脳損傷の予防を目的とした治療法による臨床症状改善の効果は全く期待できず、循環・呼吸管理を治療の中心とした判断は妥当であり、その後も症状の改善が認められなかったため、保存的治療を継続したことに関しても理解できる。

2.臨床的な脳死の診断及び法に基づく脳死判定に関する評価

(1)脳死判定を行なうための前提条件について
 本症例は平成12年4月13日、意識障害をきたし救急車で当該医療機関に搬送された。来院時、意識障害(JCS300、両側瞳孔5mm)、対光反射消失、気管内挿管し人工呼吸器を装着している。頭部CT検査ではクモ膜下出血、脳内血腫を認め、高度の脳低酸素による影響も加わって脳幹部を含む脳全体の強いび漫性腫脹が存在している。13:00から血圧維持のためドパミンを必要とするようになり、17;00自発呼吸なく、咳反射消失と判断されたが、血圧は安定化の傾向を示している。14日に再度ドパミンを必要とする状態になった。発症以来意識状態はJCS300のままで、人工呼吸を必要とする状態が持続している。

 本症例は神経所見、頭部CT検査、循環動態からみても保存的療法以外になく、医療機関では、4月14日16:15臨床的に脳死と診断し、ついで法に基づく脳死判定を行っている。

 本症例は、前章の経過にあるように、脳死判定の対象例としての前提条件を満たしている。すなわち、

1)深昏睡及び無呼吸で人工呼吸を行なっている状態が継続している。

 13日来院時に気管内挿管が行われ人工呼吸が開始された。以降の全経過を通じて、意識レベルはJCS300のままで人工呼吸が行なわれている。17:00までには咳反射、自発呼吸消失が明らかとなっている。臨床的脳死診断を行うまでには来院後、約28時間30分、自発呼吸消失後、約23時間経過している。

2)原因、臨床経過、症状、CT所見から、原疾患が確定されている脳の一次性、器質性病変であることは確実である。

 本症例は原因の明らかな重症脳障害で、CT検査により脳の器質性病変が確認されている。
 
3)また、診断・治療を含む臨床経過から、現在行ないうる全ての適切な治療手段をもってしても、回復の可能性が全くないと判断される(2章参照)。

 なお、本症例は、4月14日16:15臨床的に脳死と診断され、15日、法に規定する第一回目の脳死判定(6:07終了)、第2回目の判定を(15:03終了)を行ない、脳死と判定されたものである。


(2)臨床的な脳死の診断及び法に規定する脳死判定について
1)臨床的な脳死の診断
<検査所見及び診断内容>
検査所見(4月14日 15:20から16:15まで)
体温:38.2℃ 血圧:106/55mmHg 心拍数:102分
JCS:300
自発運動:なし 除脳硬直・除皮質硬直:なし けいれん:なし
瞳孔:固定し瞳孔径 左 5.0mm   右5.5mm
脳幹反射:対光、角膜、毛様体脊髄、眼球頭、前庭、咽頭、咳反射すべてなし
脳波:平坦脳波に該当する(感度10μV/mm,感度2μV/mm)
診断内容
以上の結果から臨床的脳死と診断して差し支えない。

本症例の脳波は神経検査の前、4月14日15:20から16:00に行われている。すなわち、国際電極配置によりFp1,Fp2,C3,C4,O1,O2,T3,T4,Cz,Pz,A1,A2に電極を装着、14素子脳波計を使用し、基準電極導出6素子と双極導出(長距離双極導出を含む)6素子を同時に記録するモンタージュにより、心電図、手背の筋電図も同時記録している。心電図(特にQRS波)、多少の交流アーチファクトが重畳しているが、アーチファクトの判別は容易であり、平坦脳波と判定できる。


2)法に基づく脳死判定
<検査所見及び判定内容>
検査所見 (第1回) (4月15日02:31から06:07まで)
体温:36.1℃ 血圧:106/67mmHg 心拍数:79/分
JCS:300
自発運動:なし 除脳硬直・除皮質硬直:なし けいれん:なし
瞳孔:固定し瞳孔径 左 5.5mm 右5.5mm
脳幹反射:対光、角膜、眼球頭、前庭、毛様脊髄、咽頭、咳反射すべてなし
脳波:平坦脳波に該当する(感度10μV/mm,感度2μV/mm)
聴性脳幹反応:I波を含むすべての波を識別できない
無呼吸テスト:陽性
  (開始前) (2分後) (6分後) (8分後) (10分後)
PaCO2 41 50 59 62

(mmHg)

66

PaO2 472 460 396 356 376
血圧 124/73 148/82 131/76 126/72 118/69
検査所見 (第2回) (4月15日12:30から15:03まで)
体温:36.4℃ 血圧:121/68mmHg 心拍数:76/分
JCS:300
自発運動:なし 除脳硬直・除皮質硬直:なし けいれん:なし
瞳孔:固定し瞳孔径 左 6.0mm 右6.0mm
脳幹反射:対光、角膜、眼球頭、前庭、毛様脊髄、咽頭、咳反射すべてなし
脳波:平坦脳波に該当する(感度10μV/mm,感度2μV/mm)
聴性脳幹反応:I波を含むすべての波を識別できない
無呼吸テスト:陽性
  (開始時) (2分後) (6分後) (8分後) (10分後)
PaCO2 40 52 62 66

(mmHg)

70

PaO2 469 401 296 304 266
血圧 125/70 125/70 118/68 113/66 133/74
        
判定内容
以上の結果より、第1回目の結果は脳死判定基準を満たすと判定(4月15日06:07)
以上の結果より、第2回目の結果は脳死判定基準を満たすと判定(4月15日15:03)

脳死判定承諾書を得たうえで、指針に定める資格を持った専門医が行なっている。
判定者は、本症例が脳死判定の対象となる前提条件を満たし、かつ、除外例でないことを確認しており、脳死判定に至る手順、方法、結果の記載と解釈にも問題はない。法的脳死判定における脳死判定記録、脳死判定の的確実施の証明書の記載は適切で、結果も明確に記載されている。第1回目の終了から6時間23分を経過して、第2回目が開始されており、その時間間隔も基準を満たしている。
 第一回目の無呼吸テスト終了直後にラザロ徴候と思われる右肩の挙上が認められたが、
この種の動きは脳死を否定するものではない。
 法的脳死判定時の脳波は、第1回目、2回目ともに心電図、少量の交流アーチファクトが重畳しているが、アーチファクトの判別が容易であり、平坦脳波と判定できる。また、聴性脳幹反応は無反応と判定できる。脳波、聴性脳幹反応ともにアーチファクトの少ない記録で判読しやすく、雑音の多い環境下としては優れた記録である。
 無呼吸テストは2回とも適切に行われており、必要なPaCO2レベルを得て無呼吸テスト陽性を確認している。血圧はドパミンによって適切に維持されている。

3)まとめ
 本症例の脳死判定は、脳死判定承諾書を得たうえで、指針に定める資格を持った専門医が行なっている。法に基づく脳死判定の手順、方法、結果の解釈に問題はなく、結果の記載も適切である。
 以上から本症例を法的に脳死と判定したのは妥当である。


第2章 ネットワークによる臓器あっせん業務の状況の検証結果

(注)枠内は、ネットワークから聴取した事項及びネットワークから提出された資料等により、本検証会議として認識している事実経過の概要である。

1.初動体制
平成12年4月13日11:00頃に患者が自宅で倒れているところを家族が発見。救急隊が患者を搬送し、11:40に病院に到着。その際には自発呼吸はほとんどなく両側とも瞳孔は散大・固定しており、人工呼吸器の装着等がなされた。4月14日15:55に家族から臓器提供意思表示カードが提示され、16:15に臨床的に脳死と診断された。その後、16:20に都道府県コーディネーターが病院より連絡を受け、16:40に当該都道府県コーディネーターより東北ブロックセンターに連絡がなされた。22:45にネットワークのコーディネーター1名及び都道府県コーディネーター1名が臓器提供施設に到着し、院長、副院長、総婦長等と面談し、院内体制等を確認。また、医学的情報を収集し、一次評価を行った。
【評価】
○ネットワークは、都道府県コーディネーターからブロックセンターに連絡があった後、迅速に対応を開始しコーディネーターを同施設に派遣している。
○また、コーディネーターは、病院に到着後、院内体制等の確認や第1次評価等を適切に行っている。


2.家族への脳死判定等の説明及び承諾

 4月15日0:20にネットワークのコーディネーター1名及び都道府県コーディネーター1名が家族(父、母、兄、姉)と面談。脳死判定・臓器提供の内容、手続等を記載した文書を用いてこれらを説明。1:15に父親が脳死判定承諾書、臓器摘出承諾書に署名、捺印し、コーディネーターが受領。意思表示カードにおいて脳死下での提供臓器として眼球の記載はなかったが心停止下での提供臓器として眼球の記載があったため、コーディネーターの「眼球提供は難しいが一応確認する。提供できない場合、承諾書は訂正していただく。」旨の説明を聞いた上で、家族は眼球提供が可能なときのために承諾書の摘出臓器として眼球を記載している。
 また、承諾を得るべき家族の範囲に関して不明瞭な点を確認するため、ネットワーク本部の指示等に基づきコーディネーターが家族から直接事情を聞き家族構成を確認した。その際、眼球提供ができない旨の説明も行い、家族による承諾書の訂正を得ている。
【評価】
○コーディネーターは、臓器提供意思表示カードの記載内容を確認した後、脳死判定・臓器提供等の内容・手続を記載した文書を手渡しその内容を説明するとともに、眼球提供が難しい旨を説明した上で、家族から摘出臓器として眼球をも記載した承諾書を受理している。その後も適切に承諾書を訂正しており、インフォームド・コンセントの手続に特段の問題はない。なお、事務局からは、第2例目で同様の事例が生じたため、本年1月より様式を改訂し脳死下での提供臓器として眼球を明示した臓器提供意思表示カードの配布を開始している旨の説明があった。
○これらのことから、コーディネーターの家族への脳死判定の説明等は適正に行われたものと評価できる。


3.ドナーの医学的検査及びレシピエントの選択等
 4月15日2:24にレシピエント候補者の選定を開始。また、16:40に心臓、肺、肝臓、腎臓の各臓器別にレシピエント候補者の意思確認が開始された。
 心臓及び肺は、最終的に移植実施施設が現地で移植可能かどうかを評価することとなった。現地での評価の結果、心臓については心肥大等により、肺については感染により、移植実施施設側は移植に適さないと判断し移植を辞退した。腎臓については第1候補者から第4候補者まで意思確認が行われたが、すべて移植実施施設側は移植を辞退。最終的にネットワークのメディカルコンサルタントが腎機能等を勘案しあっせんを中止した。なお、肝臓については第2候補者が移植を受諾し、ネットワーク本部において18:10にその確認を得ている。
 また、感染症やHLAの検査等については、ネットワーク本部において適宜検査を検査施設に依頼し、特に問題はないことが確認されている。
【評価】
○今回の事例においては、適正にレシピエントの選択手続が行われたものと評価できる。
○また、ドナーの医学的検査等は適正に行われている。


4.法的脳死判定終了後の家族への説明、摘出手術の支援等

 第2回法的脳死判定終了後、15:20に副院長が脳死判定の結果を説明。引き続きネットワークのコーディネーター2名が、2で述べた確認等を行うとともに情報公開の内容等について家族の意向を確認。さらに、15:40にネットワークのコーディネーター2名及び都道府県コーディネーター1名でその後の手続の説明等が行われた。また、21:00にコーディネーターと病院側で摘出手術、情報公開等の打合せが行われている。
 なお、21:45にコーディネーターから家族に医学的理由により腎臓提供はできないことを連絡している。さらに、4月16日9:53に、肝臓は提供可能であるが、医学的理由により心臓、肺の提供はできないことを伝えている。
【評価】
○法的脳死判定終了後の家族への説明、摘出手術の支援等に特に問題はなかった。


5.臓器の搬送
 4月16日にコーディネーターによる臓器搬送の準備が開始され、参考資料2のとおり搬送が行われた。
【評価】
○臓器の搬送は適正に行われた。


6.臓器摘出後の家族への支援

 4月16日15:00にコーディネーターは肝臓の摘出と搬送について報告し、御遺体をお見送り。
 4月24日にネットワークのコーディネーター2名及び都道府県コーディネーターで御霊前にお参りしている。その際、移植後の経過を報告し、厚生大臣感謝状を手渡している。なお、家族からドナーの生前の様子や「やはり寂しい。でも臓器提供の意思をかなえることができてよかった。また、病院の先生方にはよくしてもらい感謝している。」旨の感想を聞いている。また、何か問題となっていることがないかどうかを確認したところ、特に問題はないとのことであった。
 その後、5月20日に都道府県コーディネーターが家族を訪ね、特に問題はないこと等を聞いている。
【評価】
○コーディネーターにより、遺体のお見送り等が行われており、また、その後もレシピエントの経過報告など適切な対応が採られている。


厚生労働省健康局疾病対策課臓器移植対策室

[担当]岩崎、小森、衣笠、木村
(代表)03-5253-1111
(内線)2361,2362,2364,2366



〈参考資料1〉

臓器提供施設より報告された診断・治療概要

4月13日
11:00頃

意識不明で倒れているのを家族が発見。呼名反応なく嘔吐の痕跡あり、自発呼吸は非常に微弱であった。
11:16 救急隊出動要請。
11:18 救急隊現場到着。
気道確保(経鼻エアウエイ)、酸素吸入(流量6L)
11:31 救急隊現場出発。
11:40 救急隊病院到着。
内科救急当番医、脳神経外科専門医の2名で診察。
意識レベル JCS:300、
GCS:E1+V1+M1=3、
両側瞳孔散大(両側とも径5mm)、対光反射 なし
血圧223/142
自発呼吸ほとんどなく気管内挿管し、人工呼吸器(ベンチパーク)を装着。
静脈確保(足、前腕)、輸液開始(ヴィーンF)。
降圧剤(ヘルベッサー10mg)静注。
11:49 頭部CT施行。所見:くも膜下出血、脳内血腫。
膀胱留置カテーテル挿入。
12:10 3D-CTA施行。所見:左大脳半球non-filling。
12:35 心電図、胸・腹部Xp施行。
12:40 家族にCTを示しながら説明。「非常に強いくも膜下出血と左大脳半球内に脳内血腫が認められます。非常に厳しく手術も適応にならない状態で、呼吸器管理と降圧剤や止血剤の投与など保存的治療を行います」。
12:50 9階病棟に入室。血圧102/62、脈拍54、人工呼吸器(サーボ)装着。条件:ボリュームコントロール、
FiO2 50%、換気回数 15回/分、分時換気量 7.5L
13:00 血圧98/52、ドパミン製剤(プレドパ200)5ml/hで開始。止血剤(トランサミン、アドナ)、H2ブロッカー(ガスター)、脳代謝賦活剤(ニコリン、ルシドリール)を投与開始。
17:00 主治医診察。意識JCS300、瞳孔散大、対光反射なし。
角膜反射なし。挿管チューブから吸引しても咳反射なし。自発呼吸なく人工呼吸器に同調している。
以後、血圧は120-100/70-65と安定。
4月14日
8:30頃
医師団(副院長、脳神経外科科長[2名]、医長の4名)診察。
意識JCS300、両側瞳孔散大、対光反射なし。角膜反射なし。人形の目現象なし。自発呼吸なし。
家族(兄)に病状説明。「自発呼吸は再来せず、依然として人工呼吸器 での呼吸です。瞳孔も散大したままで対光反射もありません。血圧は昇圧剤の投与でなんとか維持されていますが、かなり厳しい状況で脳死に近い状態です」。
10:00 H2ブロッカー、抱水クロラール坐薬(エスクレズポ)投与。
体温39.1゜Cに上昇し、解熱剤(ボルタレン25mg)坐薬投与。
12:00 血圧115/60と安定しており、ドパミン製剤一時投与中止。
13:30 収縮期圧が一時100台となったためドパミン製剤再開(5ml/h)。
家族(父親)から看護婦に「使える臓器があれば提供したいので脳死判定お願いします」と申し出がある。
14:00 体温38.6゜Cのためクーリング開始。
14:20 脳神経外科科長(主治医)が家族からの申し出に対して説明。
「臓器移植法という法律があって患者の意思はドナーカードに表明されなければなりません。ドナーカードが必要ですので自宅にあるかどうか確認して下さい。それを確認ののち、臨床的脳死判定を行って、コーデイネ ーターを呼ぶことになります」。
15:20 脳波検査開始。
15:40 血液ガス分析施行。PO 110.3、PCO 26.3、SO 98.6%。
15:45 血圧78/43下降のためドパミン製剤増量(10ml/h)。
15:49 血圧98/54。ドパミン製剤さらに増量(13ml/hへ)
15:50 脳波検査再度施行。
15:55 家族がドナーカードを持参。記載の正しいことを確認。
16:06 臨床的脳死判定作業開始。脳死判定マニュアルにそって、必須・前提条件を確認、除外例に該当しないことを確認、中枢神経抑制薬・筋弛緩薬を使用してい ないことを確認、血圧106/55でショック状態でないことを確認。意識 JCS300・GCS3、瞳孔散大。脳幹反射なし。
平坦脳波を確認。
16:15 臨床的脳死と診断。
16:20 都道府県コーデイ ネーターに連絡。血圧100/54。ドパミン製剤増量(15mlへ)。
17:00 倫理委員会開催。主治医より臨床的脳死患者の報告とドナーカードの確認後 家族の承諾の下に当該患者に対する法的脳死判定の実施、臓器摘出を承認。
17:10 脳死判定医会議開催。脳死判定医2名を選出。
18:00 家族(両親、兄、姉)に説明。
「仙台の日本臓器移植ネットワーク東北ブロックのコーデイ ネーターにも応援してもらうため、コーデイ ネーターの来院は今夜10時頃になる予定です。そこでコーデイネーターと話し合っていただき意思を再確認し、法的脳死判定を行います。今後の治療継続と法的脳死判定のため患者 さんを集中治療室(ICU)に移送します」。
血圧111/62、脈拍98/分。抗生剤投与。
19:33 ICUへ転室のための移動開始。
19:43 頭部CT施行。
19:50 腹部CT施行。
20:08 ICU入室。動脈ライン確保。
20:25 家族がICUで患者と面会。
20:44 聴性脳幹反応検査(ABR)施行。所見:無反応。
23:35 日本脳神経外科学会脳死・臓器移植検討委員会脳波検査専門委員来棟。
4月15日
0:20

コーデイ ネーターより家族に説明。
0:50 家族が脳死判定・臓器提供に承諾し、署名開始。
1:15 署名終了し、脳死判定承諾書、臓器提供承諾書を受領。
1:18 家族(父、姉)が患者と再度面会。「たくさんの人を助けて下さい」。
1:30 倫理委員会・脳死判定医会議を合同で開催。
脳死判定承諾書、臓器提供承諾書を確認。法的脳死判定実施と臓器摘出の承認。
2:19 組織適合検査等のため85ml採血。
2:31 第1回目の法に基づく脳死判定開始。
6:07 第1回目の法に基づく脳死判定終了。
12:30 第2回目の法に基づく脳死判定開始。
15:03 第2回目の法に基づく脳死判定終了。脳死と判定。

経過記録


〈参考資料2〉

臓器提供経緯


〈参考資料3〉

脳死下での臓器提供事例に係る検証会議名簿

氏名 所属
  宇都木 伸
  川口 和子
  嶋  多門
  島崎 修次
  竹内 一夫
  アルフォンス・デーケン
  新美 育文
  貫井 英明
  平山 正実
  藤森 和美
○藤原 研司
  柳田 邦男
東海大学法学部教授
全国心臓病の子供を守る会幹事
福島県医師会会長
杏林大学医学部救急医学教授
杏林大学名誉教授
上智大学文学部人間学教室教授
明治大学法学部教授
山梨医科大学脳神経外科学教授
東洋英和女学院大学人間科学部教授
聖マリアンナ医学研究所カウンセリング部長
埼玉医科大学第3内科教授
作家・評論家
(50音順/敬称略。○:座長)


〈参考資料4〉

医学的検証作業グループ名簿

氏名 所属
  大塚 敏文
  桐野 高明
  島崎 修次
○竹内 一夫
  武下  浩
  貫井 英明
日本医科大学理事長
東京大学医学部長
杏林大学医学部救急医学教授
杏林大学名誉教授
宇部短期大学学長
山梨医科大学脳神経外科学教授
(50音順/敬称略。○:班長)


医学的検証作業グループ参考人名簿
大熊 輝雄 国立精神・神経センター前総長
現大熊クリニック院長
(50音順/敬称略。)


〈参考資料5〉

脳死下での臓器提供事例に係る検証会議における第6例目に関する検討経過

平成12年5月11日 医学的検証作業グループ(第2回)
6月23日 医学的検証作業グループ(第3回)
7月21日 第3回脳死下での臓器提供事例に係る検証会議
・6例目の医学的部分を検証。
9月27日 第4回脳死下での臓器提供事例に係る検証会議
・6例目の臓器あっせん業務を検証。



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