食調第 84号
平成12年12月25日
食品衛生調査会
バイオテクノロジー特別部会
部会長 首藤 紘一
平成12年7月4日付厚生省発生衛第199号及び平成12年11月29日付厚生省発生衛第326号をもって諮問された食品及び添加物の安全性については、「組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会」において、「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」(平成12年5月1日 生衛発第825号―1 厚生省生活衛生局長通知。以下「審査基準」という。)に基づき審議してきたところである。
今般、同分科会の検討結果を踏まえ、当部会において審議した結果を別記のとおり取りまとめたので報告する。
1. 審議経過
食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会(以下「部会」という。)においては、詳細な検討を行うため、専門家で構成された「組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会」(以下「分科会」という。)を設置し、分科会における検討をもとに、さらに部会において審議を行うこととした。分科会は平成12年1月22日から同年12月25日の間に計8回開催され、諮問された食品及び添加物の安全性について、審査基準に基づき審議を行った。
分科会報告を受け、平成12年12月25日に開催された部会において、次の(1)及び(2)に該当する食品・添加物の安全性について、審査基準に基づき審議された。
(1) 平成12年7月4日付厚生省発生衛第199号をもって諮問された、
既に「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(平成3年12月26日衛食第153号厚生省生活衛生局長通知。以下「評価指針」という。)で確認済の食品29品種及び添加物6品目のうち、申請が取り下げられた食品5品種(うち、3品種に関しては、その一部の系統)及び添加物1品目を除く食品27品種及び添加物5品目について
(2) 平成12年7月4日付厚生省発生衛第199号をもって諮問された新規申請の食品9品種及び添加物1品目並びに平成12年11月29日付厚生省発生衛第326号をもって諮問された新規申請の添加物2品目について
2.審議結果
(1) 平成12年7月4日付厚生省発生衛第199号をもって諮問された、
既に「評価指針」で確認済の食品27品種及び添加物5品目についての審議結果は次のとおりである(別紙1参照)。
(1) 平成12年7月4日付厚生省発生衛第199号をもって諮問された新規申請の食品9品種及び添加物1品目並びに平成12年11月29日付厚生省発生衛第326号をもって諮問された新規申請の添加物2品目のうち、食品2品種及び添加物2品目については、審査基準に基づき、人の健康を損なうおそれがあると認められないと判断された。
なお、食品7品種及び添加物1品目については、分科会において、審議が継続されることとなった。(別紙2参照)
別紙1
1.ラウンドアップ・レディ大豆、インガード・ワタ531系統及び757系統、とうもろこしT14を除く25品種の食品については、種子の保存に関する追加資料及び挿入遺伝子の近傍配列に関する追加資料に問題は認められず、また、他に問題となる新たな知見も認められなかった。
2.ラウンドアップ・レディ大豆については、種子の保存に関する追加資料には問題はなかったが、周辺配列に関する追加資料において挿入DNA断片の存在が明らかとなったので、さらなる審議を行った(別添2-1)。インガード・ワタ531系統についても、挿入DNA断片の存在が明らかとなったので、さらなる審議を行った(別添2-2)。この結果、上記2品種についても、人の健康を損なうおそれがあると認められないと判断される(別添3)。
3.また、インガード・ワタ757系統については、種子の保存に関する追加資料には問題はなかったが、周辺配列に関する追加資料において新たな知見が認められたことから継続して検討されることとなった。また、とうもろこしT14、わたBXNcotton10215系統及びキモシン2品目については、追加資料の不足等により、継続して検討されることとなった(別添4)。
※食品5品種(うち3品種に関しては一部の系統に限る。)及び添加物1品目については、今後、流通・販売される可能性がないこと等の理由から、申請者の申し出により、申請が取り下げられた(別添5)。
別添1
● 安全性審査基準において、人の健康を損なうおそれがあると認められないと判断された食品25品種及び添加物3品目について
既に「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」で
これまで、厚生省は「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に基づき、安全性の確認を行ってきたところであるが、既に安全性の確認が終了している29品種の食品及び6品目の添加物についても、再度、「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」(以下「審査基準」という。)に基づく審査を行うこととされていることから、今般、申請者から提出のあった追加資料に基づき審査を行ったところ、その結果は次のとおりとなった。
確認済の食品29品種及び添加物6品目に係る報告書
キモシン2品目を除く3品目の添加物については、問題となる新たな知見は認められなかった。
従って、別添1の食品及び添加物については、人の健康を損なうおそれがあると認められないと判断される。
対象品種 / 品目 | 商品名 | 性質 | 申請者 | 開発者 | |
1 | なたね | ラウンドアップ・レディー・カノーラ RRC73系統 |
除草剤耐性 | 日本モンサント株式会社 | Monsanto Company(米国) |
2 | じゃがいも | ニュー・リーフ・ジャガイモ BT6系統 |
害虫抵抗性 | 日本モンサント株式会社 | Monsanto Company (米国) |
3 | とうもろこし | BT11 | 害虫抵抗性 | ノバルティス シード株式会社 | Northrup King Company(米国) |
4 | なたね | HCN92 | 除草剤耐性 | アベンティス クロップサイエンス ジャパン株式会社 | AgrEvo Canada Incorporated(カナダ) |
5 | なたね | PGS1 | 除草剤耐性 | アベンティス クロップサイエンス ジャパン株式会社 | Plant Genetic Systems(ベルギー) |
6 | とうもろこし | Event 176 | 害虫抵抗性 | ノバルティス シード株式会社 | Ciba-Geigy Corporation(米国) |
7 | とうもろこし | イールドガード・トウモロコシMon810 | 害虫抵抗性 | 日本モンサント株式会社 | Monsanto Company(米国) |
8 | じゃがいも | ニューリーフ・ジャガイモ[スーペリア品種]SPBT02-05系統 | 害虫抵抗性 | 日本モンサント株式会社 | Monsanto Company (米国) |
9 | とうもろこし | T25 | 除草剤耐性 | アベンティス クロップサイエンス ジャパン株式会社 | Hoechst Schering AgrEvo GmbH(ドイツ) |
10 | なたね | PHY14、 PHY35 |
除草剤耐性 | アベンティス クロップサイエンス ジャパン株式会社 | Plant Genetic Systems(ベルギー) |
11 | なたね | PGS2 | 除草剤耐性 | アベンティス クロップサイエンス ジャパン株式会社 | Plant Genetic Systems(ベルギー) |
12 | なたね | PHY36 | 除草剤耐性 | アベンティス クロップサイエンス ジャパン株式会社 | Plant Genetic Systems(ベルギー) |
13 | なたね | T45 | 除草剤耐性 | アベンティス クロップサイエンス ジャパン株式会社 | Hoechst Schering AgrEvo GmbH(ドイツ) |
14 | わた | ラウンドアップ・レディー・ワタ 1445系統 | 除草剤耐性 | 日本モンサント株式会社 | Monsanto Company(米国) |
15 | わた | BXN cotton 10211、10222系統 |
除草剤耐性 | アベンティス クロップサイエンス ジャパン株式会社 | Calgene Incorporated(米国) |
16 | なたね | MS8RF3 | 除草剤耐性 | アベンティス クロップサイエンス ジャパン株式会社 | Plant Genetic Systems(ベルギー) |
17 | なたね | HCN10 | 除草剤耐性 | アベンティス クロップサイエンス ジャパン株式会社 | Hoechst Schering AgrEvo GmbH(ドイツ) |
18 | なたね | MS8 | 除草剤耐性 雄性不稔性 |
アベンティス クロップサイエンス ジャパン株式会社 | Plant Genetic Systems(ベルギー) |
19 | なたね | RF3 | 除草剤耐性 稔性回復性 |
アベンティス クロップサイエンス ジャパン株式会社 | Plant Genetic Systems(ベルギー) |
20 | なたね | WESTAR- Oxy-235 |
除草剤耐性 | アベンティス クロップサイエンス ジャパン株式会社 | Rhone-Poulenc Agrochimie(カナダ) |
21 | てんさい | T120-7 | 除草剤耐性 | アベンティス クロップサイエンス ジャパン株式会社 | Hoechst Schering AgrEvo GmbH(ドイツ) |
22 | とうもろこし | DLL25 | 除草剤耐性 | 日本モンサント株式会社 | Dekalb Genetics Corporation(米国) |
23 | とうもろこし | DBT418 | 害虫抵抗性 除草剤耐性 |
日本モンサント株式会社 | Dekalb Genetics Corporation(米国) |
24 | なたね | PHY23 | 除草剤耐性 | アベンティス クロップサイエンス ジャパン株式会社 | Plant Genetic Systems(ベルギー) |
25 | とうもろこし | ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ GA21系統 |
除草剤耐性 | 日本モンサント株式会社 | Monsanto Company(米国) |
1 | α-アミラーゼ | TS-25 | 生産性向上 | ノボザイムズ ジャパン株式会社 | ノボザイムズA/S(デンマーク) |
2 | リボフラビン | リボフラビン(ビタミンB2) | 生産性向上 | 日本ロシュ株式会社 | F.Hoffmann-LaRoche(スイス) |
3 | α-アミラーゼ | BSG-アミラーゼ | 生産性向上 | ノボザイムズ ジャパン株式会社 | ノボザイムズA/S(デンマーク) |
品種: | 大豆(商品名:「ラウンドアップ・レディー大豆」) |
性質: | 除草剤(グリホサート)耐性 |
申請者: | 日本モンサント株式会社 |
開発者: | Monsanto Company |
ラウンドアップ・レディー大豆(40-3-2系統)については、平成12年5月に、その分子特性に関する追加資料が申請者より提出されたことから、その内容について審査したところ、結果は次のとおりである。
当初、ラウンドアップ・レディー大豆には、E35Sプロモーターの一部、CTP、CP4EPSPS及びNOS3末端を含む挿入DNA断片が挿入されているとされていたが、その後の詳細な調査により、CP4EPSPS遺伝子発現カセットのNOS3'末端に隣接して250bpのCP4EPSPS遺伝子断片が存在していること、また、72bpのCP4EPSPS遺伝子断片を含むもう一つの挿入遺伝子断片が存在していることが新たな知見として確認された。
このことに関し、CP4EPSPS遺伝子断片を含む新たな転写産物が生じないことをノーザンブロット分析及び更に感度の高いRT-PCR分析により検討したところ、増幅産物は検出されなかった。
また、挿入遺伝子の近傍ゲノム配列について、推定されるポリペプチドの相同性検索を行った結果、転写が起こる可能性は低く、推定ポリペプチドに既知の毒素蛋白質等との相同性はなかった。
さらに、ウエスタンブロット分析の結果、新しいタンパク質は出来ていないことが確認されている。
以上のことから、新たな知見であるこれら2つの遺伝子断片の存在は、これまでのラウンドアップ・レディー大豆の安全性評価に特に影響するものではなく、人の健康を損なうおそれがあると認められないと判断される。
品種: | わた(商品名:「インガード・ワタ(531系統)」) |
性質: | 除草剤(グリホサート)耐性 |
申請者: | 日本モンサント株式会社 |
開発者: | Monsanto Company |
インガード・ワタ(531系統)については、平成12年12月に、その分子特性に関する追加資料が申請者より提出されたことから、その内容について審査したところ、結果は次のとおりである。
当初、インガード・ワタ(531系統)には、ワタゲノムをはさんで2つの挿入遺伝子(Cry1Ac遺伝子カセット及び7S 3'転写ターミネーターに結合したCry1Ac遺伝子の3'末端断片)が挿入されているとしていたが、その後、PCR, DNAシークエンス、サザンブロット分析等を用いた詳細な解析により、離れて存在していると考えられた上記2つの挿入遺伝子は隣接しており、Cry1Ac遺伝子の3'末端断片の挿入遺伝子が当初の分析結果とは逆向きに存在しているということ、また、245bpの7S 3'転写ターミネーター断片が存在していることが新たな知見として確認された。
この知見をうけて遺伝子の発現機序を解析したところ、当初の結論と違わず、Cry1Ac遺伝子カセットから完全長のCry1Ac蛋白質が発現されることにより、植物体に鱗翅目昆虫に対する抵抗性が付与されることを確認した。また、この遺伝子断片が新たなmRNA及び蛋白質を発現する可能性について検討したところ、この245bpの7S 3'断片は、DNA断片の非翻訳領域であること、さらに、その断片の5'末端及び3'末端の近傍配列を決定した結果、mRNAの転写開始に必要な5'プロモーターが存在しないこと、翻訳に必要なDNA配列を欠いていること等から、この遺伝子断片からは転写、翻訳が起こる可能性はなく、新たな蛋白質は発現しないと結論された。
以上のことから、新たな知見である遺伝子断片の存在は、これまでのインガード・ワタ(531系統)の安全性評価において、特に影響するものではなく、人の健康を損なうおそれがあると認められないと判断される。
別添3
● 追加資料により新たな知見が得られたため、さらなる審議を行った結果、人の健康を損なうおそれがあると認められないと判断される食品2品種(うち1品種は、その一部の系統)について
対象品種 / 品目 | 商品名 | 性質 | 申請者 | 開発者 | |
1 | 大豆 | ラウンドアップ・レディー・大豆40-3-2 | 除草剤耐性 | 日本モンサント株式会社 | Monsanto Company(米国) |
2 | わた | インガード・ワタ 531系統 |
害虫抵抗性 | 日本モンサント株式会社 | Monsanto Company(米国) |
別添4
対象品種 / 品目 | 商品名 | 性質 | 申請者 | 開発者 | |
1 | わた | インガード・ワタ757系統 | 害虫抵抗性 | 日本モンサント株式会社 | Monsanto Company(米国) |
2 | とうもろこし | T14 | 除草剤耐性 | アベンティス クロップ サイエンス ジャパン株式会社 | Hoechst Schering AgrEvo GmbH(ドイツ) |
3 | わた | BXNcotton 10215系統 |
除草剤耐性 | アベンティス クロップ サイエンス ジャパン株式会社 | CaigeneIncorporated(米国) |
1 | キモシン | マキシレン | 生産性向上 | 株式会社ロビン | ギスト・ブロカーデス(オランダ) |
2 | キモシン | カイモゲン | 生産性向上 | 株式会社野澤組 | クリスチャンハンセン社(デンマーク) |
別添5
対象品種 / 品目 | 商品名 | 性質 | 申請者 | 開発者 | |
1 | じゃがいも | ニューリーフ・ジャガイモ BT10、12、16、17、18、23系統 |
害虫抵抗性 | 日本モンサント株式会社 | Monsanto Company.(米国) |
2 | じゃがいも | ニューリーフ・ポテト[スーペリア品種]SPBT02-07、[アトランティック品種]ATBT04-06,04-30,04-31、04-36系統 | 害虫抵抗性 | 日本モンサント株式会社 | Monsanto Company.(米国) |
3 | わた | BXN cotton 10224系統 |
除草剤耐性 | アベンティス クロップ サイエンス ジャパン株式会社 | Calgene Incorporated(米国) |
4 | トマト | フレーバーセーバートマト | 日持ち性の向上 | 麒麟麦酒株式会社 | Calgene Incorporated(米国) |
5 | わた | Bollgard with BXN Cotton 31807系統 |
害虫抵抗性 除草剤耐性 |
日本モンサント株式会社 | Calgene Incorporated(米国) |
1 | キモシン | カイマックス | 生産性向上 | 株式会社野澤組 (ファイザー株式会社) |
ファイザーインク(米国) |
対象品種/品目 | 商品名 | 性質 | 申請者 | 開発者 | |
1 | 大豆 | 260-05系統 | 高オレイン酸形質 | デュポン株式会社 | Optimum Quality Grains L.L.C.(米国) |
2 | とうもろこし | ラウンドアップ・レディー・トウモロコシNK603系統 | 除草剤耐性 | 日本モンサント株式会社 | Monsanto Company(米国) |
1 | リパーゼ | SP388 | 生産性向上 | ノボザイムズ ジャパン株式会社 | ノボザイムズA/S(デンマーク) |
2 | α-アミラーゼ | TMG-アミラーゼ | 生産性向上 | ノボザイムズ ジャパン株式会社 | ノボザイムズA/S(デンマーク) |
※ 上記の食品2品種及び添加物2品目についての各報告書は別添1〜4を参照。
(1) 次に示す食品7品種及び添加物1品目については、分科会において審議が継続されることとなった。
対象品種/品目 | 商品名 | 性質 | 申請者 | 開発者 | |
1 | じゃがいも | ニューリーフ・プラス・ジャガイモ | 害虫抵抗性 ウイルス抵抗性 |
日本モンサント株式会社 | Monsanto Company(米国) |
2 | とうもろこし | CBH351 | 害虫抵抗性 除草剤耐性 |
アベンティス クロップサイエンス ジャパン株式会社 | Plant Genetic Systems(ベルギー) |
3 | 大豆 | A2704-12、 A5547-127 |
除草剤耐性 | アベンティス クロップサイエンス ジャパン株式会社 | Hoechst Schering AgrEvo GmbH(ドイツ) |
4 | パパイヤ | 55-1 | ウイルス抵抗性 | 有限会社マック(パパイヤ管理委員会) | Cornell University,University of Hawaii,The Upjohn Company (米国) |
5 | てんさい | ラウンドアップ・レディー・テンサイ77系統 | 除草剤耐性 | 日本モンサント株式会社 | Monsanto Company.(米国) |
6 | てんさい | ラウンドアップ・レディー・テンサイH7-1系統 | 除草剤耐性 | 日本モンサント株式会社 | Monsanto Company.(米国) |
7 | とうもろこし | Bt スイートコーン | 害虫抵抗性及び 除草剤耐性 |
ノバルティスシード株式会社 | Monsanto Company.(米国) |
1 | プルラナーゼ | Optimax | 生産性向上 | ジェネンコア・インターナショナル・インク及び ジェネンコア・インターナショナル・ジャパン・リミティッド日本支店 |
Genencor International,Inc.(米国) |
品種: | 大豆(商品名:「高オレイン酸大豆260-05系統」) |
性質: | 高オレイン酸形質 |
申請者: | デュポン株式会社 |
開発者: | Optimum Quality Grains, L.L.C. 社 |
高オレイン酸大豆260-05系統(以下「高オレイン酸大豆」という。)について開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」(以下「審査基準」という。)に適合しているか否かについて審査した。その結果は次の1から3のとおりである。
また、当該大豆が高オレイン酸形質であることについて、食品として留意すべき事項は次の4のとおりである。
1 申請された食品の概要
大豆油は食用油として最もよく利用されているが、多価不飽和脂肪酸が多く含まれるため、安定性が低い。そこで一般に、揚げ物など高い熱安定性が要求される場合には、水素を添加することにより油の安定性の向上を図っている。
今回申請された高オレイン酸大豆は、大豆の脂肪酸組成について、リノール酸やリノレン酸といった多価不飽和脂肪酸の含有量を減らし、代わりにモノ不飽和脂肪酸であるオレイン酸を増やしている。したがって、この高オレイン酸大豆から得られた油は、多価不飽和脂肪酸が少ないことから、水素を添加しなくても、油の安定性を保つことができる。
また、オレイン酸はLDLコレステロールを下げ、HDLコレステロールを低下させない作用があることが報告されるなどの有用性が示されている。
当該高オレイン酸大豆には、GmFad2-1遺伝子、GUS遺伝子、ampr遺伝子及びdapA遺伝子が挿入されている。
それぞれの挿入遺伝子の機能は後述の3の(4)の2)のbのとおりである。
2 審査結果
審査基準の第2章第1の各項に規定される資料(1.遺伝的素材に関する資料 2.広範囲な人の安全な食経験に関する資料 3.食品の構成成分等に関する資料及び4.既存種と新品種との使用方法の相違に関する資料)から判断した結果、当該高オレイン酸大豆は、
(2) 当該高オレイン酸大豆の成分は、大豆由来の遺伝子を導入することによりオレイン酸の含有量が多くなっている点、リノール酸、リノレン酸が少なくなっている点及びパルミチン酸の含有量も若干低下している点が異なっている以外は、主要構成成分内の脂肪酸としての組成比及び構成脂肪酸は既存の大豆とほぼ同じである、
(1) 組換え体の利用目的及び利用方法に関する事項
高オレイン酸大豆の食品としての使用方法は、既存の大豆を油の原料として用いるのと相違ないが、唯一、当該高オレイン酸大豆から作られた油は多価不飽和脂肪酸が少ないため、高温下で安定であることから、通常の大豆油のように水素添加をする必要がない点が異なる。
なお、脱脂大豆については、通常の大豆の場合と相違ない。
(2) 宿主に関する事項
高オレイン酸大豆の宿主は、大豆(Glycine max L. Merr.の早生グループIIに由来する大豆品種A2396)である。
大豆は、主に食用油の原料として利用され、脱脂大豆は高蛋白食品や飼料として利用される。
食品として、油以外に、豆腐・味噌など様々な加工食品の原料として幅広く利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。大豆はアレルゲンを含むことが報告されており、また、トリプシンインヒビター、フィチン酸、ラフィノース、スタキオース等の抗栄養素とイソフラボンの存在が知られている。
(3) ベクターに関する事項
高オレイン酸大豆の作出にはプラスミドpBS43及びプラスミドpML102が用いられた。
pBS43は、pBR322由来のpGB-9zf(-)に由来し、pML102はpBR322由来のpTZ18Rに由来する。
pBS43及びpML102に存在する全ての遺伝子は、その特性が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。また、これらはアンピシリン耐性プラスミドであり、ampr遺伝子を含むが、このampr遺伝子は、大腸菌本来のプロモーターの制御下にあり、植物内では発現しない。また、これらのプラスミドは宿主依存性が高いプラスミドに由来する複製開始領域をもつため、他の微生物への伝達を可能とするいかなる配列も持たず、伝達性はない。
pBS34には、GmFad2-1遺伝子発現カセット(GmFad2-1遺伝子及びその発現を調節する遺伝子領域)と、GUS遺伝子発現カセット(GUS遺伝子及びその発現を調節する遺伝子領域)が連結したものが含まれており、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。
pML102には、dapA遺伝子発現カセット(dapA遺伝子及びその発現を調節する遺伝子領域)が含まれており、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。
(4) 挿入遺伝子及び遺伝子産物に関する事項
(5) 組換え体
3 基準適合性に関する結論
以上のことから、デュポン株式会社から申請された高オレイン酸大豆については、申請に際して提出された資料を審査基準に基づき審査した結果、人の健康を損なうおそれがあるとは認められないと判断される。
4 留意事項
当該大豆は、一価の不飽和脂肪酸であるオレイン酸含有量が高まっていることにより、相対的に多価不飽和脂肪酸であるリノール酸やリノレン酸の量が低くなっている。現在の日本人の食生活から考えて、本大豆及び大豆油等の加工品を摂食することにより、食品全体からのリノール酸やリノレン酸摂取量が急激に低くなるわけではなく、また、既存の大豆が全て高オレイン酸大豆に置き換わったとしても、総脂肪酸摂取量を増加させない限り、特に問題にはならないと推測される。しかしながら、大豆が一般に、我が国の食生活において大量に消費されていることを鑑みれば、将来的に健康影響の可能性も考慮する必要があるかもしれない。
従って、審査基準には適合しているものの、当該大豆及びこの加工品が一般の大豆/大豆加工品に比べて脂肪酸成分含量が異なっていることを示す情報が自主的に消費者に提供されるよう、何らかの形で考慮されることが望ましい。
品種: | とうもろこし (商品名:「ラウンドアップ・レディー・トウモロコシNK603系統」) |
性質: | 除草剤(グリホサート)耐性 |
申請者: | 日本モンサント株式会社 |
開発者: | Monsanto Company |
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ NK603系統(以下「NK603」という。)について開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」(以下「審査基準」という。)に適合しているか否かについて審査した。その結果は次のとおりである。
1 申請された食品の概要
NK603は、除草剤「グリホサート(商品名:ラウンドアップ、一般名:N-ホスホノメチルグリシン、農林水産省:農薬登録番号14360号、米国ChBical Abstract Service(CAS) 登録番号:1071-83-6、38641-94-0)」の影響を受けずに生育できる性質が付与されている。
グリホサートは、植物や微生物に特有の芳香族アミノ酸合成経路(シキミ酸経路)中の酵素の一つである5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(以下「EPSPS」という。)と特異的に結合し、その活性を阻害する。その結果、ほとんどの植物は生育に必要なアミノ酸を合成できずに枯死する。しかし、NK603は、グリホサート存在下でも機能するCP4EPSPS蛋白質を発現する遺伝子(以下「CP4EPSPS遺伝子」という。)を導入したので、グリホサートが散布されても枯死せずに生育することができる。
2 審査結果
審査基準の第2章第1の各項に規定される資料(1.遺伝的素材に関する資料 2.広範囲な人の安全な食経験に関する資料 3.食品の構成成分等に関する資料及び4.既存種と新品種との使用方法の相違に関する資料)から判断した結果、当該食品と既存のものが全体として食品としての同等性を失っていないと客観的に判断し、当該NK603の食品としての安全性を評価するために、既存の食品を比較対象として用いる方法が適用できると判断した。そこで、既存の食品との比較において、審査基準の第2章第2以下の各事項に掲げられた審査基準に沿って審査を行った。
(1)組換え体の利用目的及び利用方法に関する事項
NK603には、グリホサート存在下でも機能するCP4EPSPS蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、栽培期間中にグリホサートが使用できる。この点以外、その栽培方法、利用目的、利用方法は従来のとうもろこしと変わらない。
(2)宿主に関する事項
とうもろこし(デント種)は、主に飼料用として利用されるが、食品としてもコーン油や澱粉等の製造に幅広く利用されており、広範囲なヒトにおいて安全な食経験がある。とうもろこしのアレルギーは比較的希であり、有害生理活性物質の産生は知られていない。
(3)ベクターに関する事項
NK603の作出には、プラスミドPV-ZMGT32を制限酵素MluIで切断・精製後、CP4EPSPS遺伝子発現カセットのみを含むDNA断片(以下、PV-ZMGT32Lという。)が用いられ、nptII遺伝子が導入されないよう工夫されている。プラスミドPV-ZMGT32は、それぞれが1コピーのCP4EPSPS遺伝子を含む2つの植物遺伝子発現カセットを含み、そのサイズは9,307bpである。
PV-ZMGT32に存在する全ての遺伝子は、その特性が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。また、伝達を可能とする配列を含まないので、伝達性はない。
(4)挿入遺伝子及びその遺伝子産物に関する事項
(5)組換え体に関する事項
以上のことから、日本モンサント株式会社から申請されたNK603については、申請に際して提出された資料を審査基準に基づき審査した結果、人の健康を損なうおそれがあるとは認められないと判断される。
添加物名: | リパーゼ(SP388) |
性質: | 生産性向上 |
申請者: | ノボザイムズ ジャパン株式会社 |
開発者: | ノボザイムズA/S |
ノボザイムズ ジャパン株式会社から申請されたリパーゼ(商品名「SP388」、以下「SP388」という。)について、「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」(以下、「基準」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討し、以下のような結果を得た。
申請された食品添加物の概要
SP388は食品添加物の酵素の一つとして、グリセリンのエステル合成やトリグリセリドのエステル交換を触媒するため、油脂食品工業において使用される。
Aspergillus oryzaeを宿主とし、プラスミドpUC19をもとにして作成されたプラスミドpRML787を発現ベクターとして、Rhizomucor mieheiのリパーゼ合成遺伝子を染色体上に導入した組換え体を培養し、効率的にリパーゼを生産するものである。
1 生産物の既存のものとの同等性に関する事項
SP388については、リパーゼとしての特性(分子量、酵素活性、等電点、抗原抗体反応、N−末端アミノ酸配列)に関する資料の検討を行い、既存の食品添加物であるリパーゼと同等であると考えられた。また、SP388については、製造方法、製品の規格及び使用方法についても既存のリパーゼと同一である。さらに、SP388については、組換え体自身を食さないものであり、食品中に含有されない使用方法が想定されている。以上の点から、SP388については、既存のリパーゼと同等とみなし得ると考えられ、したがって基準に沿って以下の審査が可能であると判断できる。
2 組換え体等に関する事項
(1)GILSP(Good Industrial Large-Scale Practice)又はカテゴリー1による製造に用い得る非病原性の組換え体であることに関する事項
宿主(Aspergillus oryzae)は非病原性の微生物であり、挿入遺伝子及びベクターについても機能や構造が明らかにされており、既知の有害物質を発現することはなく、生産菌はカテゴリー1組換え体であると考えられる。
(2)組換え体の利用目的及び利用方法に関する事項
Rhizomucor miehei由来のリパーゼ遺伝子をAspergillus oryzaeに導入することにより、リパーゼの生産性が高い組換え体を得た。得られたリパーゼは、油脂のエステル合成やエステル交換の過程で使用される。
(3)宿主
宿主は分類学上、Blastodeteromycetes Phialidales Aspergillus oryzaeに属し、自然界に広く分布し、食品中にも通常的に存在する微生物であり、古くから発酵食品の製造に使用されてきたものである。また、宿主は、国立感染症研究所の「病原体等安全管理規程」(平成11年)のバイオセーフティレベル1(ヒトに疾病を起こし、或は動物に獣医学的に重要な疾患を起こす可能性のないもの。)に該当する微生物である。さらに、米国国立衛生研究所「NIH GUIDELINES FOR RESEARCH INVOLVING RECOMBINANT DNA MOLECULES」(以下、「米国NIHガイドライン」という。)においてもRisk Group 1に該当する微生物とされている。JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)や米国環境庁においてもAspergillus oryzaeは、安全な微生物であると評価されている。申請資料からも寄生性、定着性等において問題は認められていない。我が国においてAspergillus oryzaeは酒や味噌の製造において数百年以上にわたり用いられており、安全性上問題はないものと考えられる。
(4)ベクターに関する事項
リパーゼ合成遺伝子は、pRML787を発現ベクターとして宿主に導入されている。
pRML787は、Escherichia coli K-12株に由来するpUC19にAspergillus oryzaeに由来するTAKA−アミラーゼプロモーター配列、Rhizomucor mieheiに由来するリパーゼ遺伝子(1.2kb)、Aspergillus niger由来のグルコアミラーゼターミネーター配列を組込んで構築されたものであり、制限酵素による切断地図は明らかにされている。また、pRML787の構築過程は明らかにされており安全性上問題はないものと考えられる。
アセトアミダーゼ遺伝子(amdS)はプラスミドp3SR2をベクターとして組換え体の選択のために宿主へ導入されている。p3SR2は、Escherichia coli K-12株に由来するプラスミドpBR322にAspergillus nidulans由来のアセトアミダーゼ遺伝子を組込んで構築されたものであり、制限酵素による切断地図は明らかにされている。
pUC19及びpBR322の由来であるEscherichia coli K-12株は、国立感染症研究所の「病原体等安全管理規程」(平成11年)においてバイオセーフティレベル1に該当する微生物である。また、米国NIHガイドラインにおいてもRisk Group 1に該当する微生物とされている。
なお、pRML787及びp3SR2は、ともにアンピシリン耐性マーカー遺伝子を含んでいる。
(5)挿入遺伝子に関する事項
リパーゼ合成遺伝子を発現するために挿入される遺伝子は、Aspergillus oryzaeに由来するTAKA−アミラーゼプロモーター配列、Rhizomucor mieheiに由来するリパーゼ遺伝子(1.2kb)、Aspergillus niger由来のグルコアミラーゼターミネーター配列であり、これらを含むpRML787として宿主の染色体上に導入されている。選択マーカーとして挿入される遺伝子は、Aspergillus nidulansに由来するアセトアミダーゼ遺伝子(amdS)であり、これを含むp3SR2として宿主の染色体上に導入されている。
挿入される遺伝子の構造、塩基配列、性質は明らかにされており、有害塩基配列は含まれておらず、安全性上問題はないものと考えられる。
また、選択マーカーとして用いられているアセトアミダーゼは、食経験のあるAspergillus oryzaeのアセトアミダーゼと相同性が高く、既知の有害物質または既知のアレルゲン物質との相同性は認められない。
さらに、生産菌の染色体上には、Escherichia coli(原核生物)に由来するアンピシリン耐性マーカー遺伝子が導入されているが、生産菌においては発現しないと考えられ、最終製品には混入しない。アンピシリン耐性マーカー遺伝子産物(β−ラクタマーゼ)については、既知の有害物質または既知のアレルゲン物質との相同性は認められない。
(6)組換え体に関する事項
組換え体は、リパーゼ産生性以外にアセトアミダーゼ発現性を獲得している。これら挿入遺伝子の導入方法、性質、機能等は前項で記載したように明らかであり、宿主が非病原性であることから、組換え体が病原性を獲得することはないものと考えられる。
組換え体は、宿主との比較で生存・増殖性等において問題は認められない。また、組換え体は4%硝酸と4%水酸化ナトリウムで処理することにより死滅することが示されている。
3 組換え体以外の製造原料及び製造器材
SP388は、通常の非組換え微生物から酵素を製造する場合に用いられる製造原料及び製造器材と同様のものを使用しGMPに基づき製造される。発酵原料についても全て食品グレードのものが用いられていることが示されている。従ってSP388の製造において安全性上問題はないものと考えられる。
また、SP388の製造に用いるマスターセルバンクは、グリセロール培地にて−80℃に保存され、培養にあたり、微生物汚染の無いこと、生菌数が適切であること、酵素生産性が適切であることの確認を行っていることが示されている。
4 生産物に関する事項
(1)組換え体の混入を否定する事項
製品の規格項目として「生産菌の混入のないこと」を定め、製品中に生産菌の混入がないことを確認している。また、SP388に組換え体DNAの混入がないことをドットブロットハイブリダイゼーション法により確認している(検出限界1ng DNA/g)。
(2)製造に由来する不純物の安全性に関する事項
SP388は、精製される酵素タンパク質であり、培養等に用いられるものも食品グレードであることから、生産物に有害物質が混入する可能性はないものと考えられる。
(3)生産物の精製方法及びその効果に関する事項
SP388は、適正な条件下で組換え体を培養後、pH、温度調整等の前処理に始まり、限外濾過、除菌濾過等により精製した後、安息香酸ナトリウムとソルビン酸カリウムを加えることにより安定化する。通常は担体に固定され製剤化される。製造過程は明らかにされており、最終製品であるSP388は、JECFAやFCC(米国食品添加物規格)の酵素規格に適合していることが示されている。
(4)含有量の変動により有害性が示唆される常成分の変動に関する事項
生産物はJECFA及びFCCの食品用酵素剤の純度規格を満たしており、生産物の含有量は既存のものと同等であると判断できる。
(5)組換え体によって製造された生産物の諸外国における認可及び使用等の状況に関する事項
生産物SP388は、通常固定化したもので使用され、固定化されたものは、デンマークにおいて食品に使用することが許可されている。また、米国においてもGRASとして取り扱われている。我が国においても固定化して用いられることが示されている。
5 安全性試験に関する事項
SP388については、in vitroでの変異原性試験及びラットを用いた13週間の反復投与試験が行われている。ラットを用いた混餌投与試験(0.16、0.8、4%)においては、0.8%以上の用量において、胃の角質層の肥厚等が認められた。病理組織学的検査においては、毒性学的に意義のある所見は認められていない。無作用量は0.16%(一日あたり115mg/kg体重)であると報告されている。また、復帰突然変異試験並びにマウスリンパ腫細胞及びヒト培養リンパ球での染色体異常試験の結果は陰性であることが示されている。
6 基準適合性に関する結論
ノボザイムズ ジャパン株式会社から申請されたリパーゼ(SP388)について、申請に際して提出された資料を、組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準(平成12年5月1日付生衛発第825号―1)に基づき審査した結果、人の健康を損なうおそれがあると認められない。
添加物名: | α−アミラーゼ(TMG−アミラーゼ) |
性質: | 生産性向上 |
申請者: | ノボザイムズ ジャパン株式会社 |
開発者: | ノボザイムズA/S |
ノボザイムズ ジャパン株式会社から申請されたα−アミラーゼ(商品名「TMG−アミラーゼ」、以下「TMG−アミラーゼ」という。)について、「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」(以下、「基準」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討し、以下のような結果を得た。
申請された食品添加物の概要
TMG−アミラーゼは食品添加物の酵素の一つであり、アミロースやアミロペクチンのα-1,4グルコシド結合を任意の位置で加水分解し、デキストリンやオリゴ糖を生成する反応を触媒するため、澱粉糖工業において液化澱粉の製造に使用される。
Bacillus licheniformis ATCC 9789系統株DN2461を宿主とし、プラスミドpUB110をもとにして作成されたプラスミドpDN1981を発現ベクターとして、Bacillus licheniformis ATCC 9789系統株DN52のα−アミラーゼ合成遺伝子を宿主の染色体上に導入した。この操作により得られた組換え体は、染色体上のα−アミラーゼ合成遺伝子のコピー数が増加しており、これを培養することにより、効率的にα−アミラーゼを生産するものである。
1 生産物の既存のものとの同等性に関する事項
TMG−アミラーゼについては、α−アミラーゼとしての特性(分子量、酵素活性、等電点、抗原抗体反応)に関する資料の検討を行い、既存の食品添加物であるα−アミラーゼと同等であると考えられた。また、TMG−アミラーゼについては、製造方法、製品の規格及び使用方法についても既存のα−アミラーゼと同一である。さらに、TMG−アミラーゼについては、組換え体自身を食さないものである。以上の点から、TMG−アミラーゼについては、既存のα−アミラーゼと同等とみなし得ると考えられ、したがって基準に沿って以下の審査が可能であると判断できる。
2 組換え体等に関する事項
(1)GILSP(Good Industrial Large-Scale Practice)又はカテゴリー1による製造に用い得る非病原性の組換え体であることに関する事項
宿主(Bacillus licheniformis)は非病原性の微生物であり、挿入遺伝子及びベクターについても機能や構造が明らかにされており、既知の有害物質を発現することはなく、生産菌はGILSP組換え体であると考えられる。
(2)組換え体の利用目的及び利用方法に関する事項
宿主(Bacillus licheniformis)由来のα−アミラーゼ遺伝子をBacillus licheniformisに導入することにより、α−アミラーゼの生産性が高い組換え体を得た。得られたα−アミラーゼは、液化澱粉の製造過程において使用される。
(3)宿主
宿主は分類学上、 Firmibacteria Bacillaceae Bacillus licheniformisに属し、自然界に広く分布し、食品中にも通常的に存在する微生物であり、古くから産業用酵素の製造に使用されてきたものである。また、宿主は、国立感染症研究所の「病原体等安全管理規程」(平成11年)のバイオセーフティレベル1(ヒトに疾病を起こし、或は動物に獣医学的に重要な疾患を起こす可能性のないもの。)に該当する微生物である。さらに、米国国立衛生研究所「NIH GUIDELINES FOR RESEARCH INVOLVING RECOMBINANT DNA MOLECULES」(以下、「米国NIHガイドライン」という。)においてもRisk Group 1に該当する微生物とされている。申請資料からも寄生性、定着性等において問題は認められていない。
(4)ベクターに関する事項
α−アミラーゼ合成遺伝子は、pDN1981を発現ベクターとして宿主に導入されている。
pDN1981は、Staphylococcus aureusに由来するpUB110にBacillus licheniformisに由来するプロモーター領域及びターミネーター領域を含むα−アミラーゼ遺伝子を組込んで構築されたものであり、制限酵素による切断地図は明らかにされている。
pUB110の構成及び塩基配列は明らかにされており、既知の有害塩基配列は含まれていない。また、発現ベクターの構築に用いられたプラスミドpBR322の由来であるEscherichia coli K-12株は、国立感染症研究所の「病原体等安全管理規程」(平成11年)のバイオセーフティレベル1に該当する微生物である。また、米国NIHガイドラインにおいてもRisk Group 1に該当する微生物とされている。
なお、pDN1981は、カナマイシン耐性マーカー遺伝子及びフレオマイシン/ブレオマイシン系抗生物質耐性遺伝子を含んでいる。
(5)挿入遺伝子に関する事項
α−アミラーゼ合成遺伝子を発現するために挿入される遺伝子は、Bacillus licheniformis に由来するα−アミラーゼ遺伝子であり、この遺伝子を含むpDN1981として宿主の染色体上に導入されている。また、挿入される遺伝子の構造、塩基配列、性質は明らかにされており、有害塩基配列は含まれておらず、安全性上問題はないものと考えられる。
なお、生産菌の染色体上には、pDN1981に由来するカナマイシン耐性マーカー遺伝子及びフレオマイシン/ブレオマイシン系抗生物質耐性遺伝子が導入されており、カナマイシン耐性の獲得により組換え体を選択している。これらの耐性遺伝子産物について、既知の有害物質または既知のアレルゲン物質との相同性は認められていない。
(6)組換え体に関する事項
組換え体は、α−アミラーゼの生産性が向上した以外の形質として、カナマイシン耐性及びフレオマイシン/ブレオマイシン系抗生物質耐性を獲得している。これら挿入遺伝子の導入方法、性質、機能等は前項で記載したように明らかであり、宿主が非病原性であることから、組換え体が病原性を獲得することはないものと考えられる。
組換え体は、宿主との比較で生存・増殖性等において問題は認められない。また、組換え体は90℃、pH11以上に1時間処理することにより死滅することが示されている。
3 組換え体以外の製造原料及び製造器材
TMG−アミラーゼは、通常の非組換え微生物から酵素を製造する場合に用いられる製造原料及び製造器材と同様のものを使用しGMPに基づき製造される。発酵原料についても全て食品グレードのものが用いられていることが示されている。従ってTMG−アミラーゼの製造において安全性上問題はないものと考えられる。
また、TMG−アミラーゼの製造に用いるマスターセルバンクは、グリセロール培地にて−80℃に保存され、培養にあたり、微生物汚染の無いこと、生菌数が適切であること、酵素生産性が適切であることの確認を行っていることが示されている。
4 生産物に関する事項
(1)組換え体の混入を否定する事項
製品の規格項目として「生産菌の混入のないこと」を定め、製品中に生産菌の混入がないことを確認している。
(2)製造に由来する不純物の安全性に関する事項
TMG−アミラーゼは、精製される酵素タンパク質であり、培養等に用いられるものも食品グレードであることから、生産物に有害物質が混入する可能性はないものと考えられる。
(3)生産物の精製方法及びその効果に関する事項
TMG−アミラーゼは、適正な条件下で組換え体を培養後、pH、温度調整等の前処理に始まり、限外濾過、除菌濾過等により精製した後、塩化ナトリウムとスクロースを加えることにより安定化する。製造過程は明らかにされており、最終製品であるTMG−アミラーゼは、JECFAやFCC(米国食品添加物規格)の酵素規格に適合していることが示されている。
(4)含有量の変動により有害性が示唆される常成分の変動に関する事項
生産物はJECFA及びFCCの食品用酵素剤の純度規格を満たしており、生産物の含有量は既存のものと同等であると判断でき、安全性上問題はないものと考えられる。
(5)組換え体によって製造された生産物の諸外国における認可及び使用等の状況に関する事項
生産物TMG−アミラーゼは、デンマーク、アメリカ、フランス等各国において食品に使用することが許可されている。
5 安全性試験に関する事項
TMG−アミラーゼについては、in vitroでの変異原性試験及びラットを用いた4週間の反復投与試験が行われている。ラットを用いた強制経口投与試験(1、3及び5g/kg/day)による4週間の反復投与では、盲腸の肥大が認められたが、組織の生理的順応によるものであり、毒性学的意義はないと考えられた。また、病理組織学的な検査においても毒性学的に意義のある所見は認められていない。本試験における無作用量は、5g/kg/dayと報告されている。また、復帰突然変異試験並びにヒト培養リンパ球での染色体異常試験の結果は陰性であることが示されている。
6 基準適合性に関する結論
ノボザイムズ ジャパン株式会社から申請されたα−アミラーゼ(TMG−アミラーゼ)について、申請に際して提出された資料を、組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準(平成12年5月1日付生衛発第825号―1)に基づき審査した結果、人の健康を損なうおそれがあると認められない。
照会先:厚生労働省 医薬局食品保健部 監視安全課 高谷 監視安全課長 担当 :三木、齊藤 TEL:03-5253-1111(内線2455) 03-3595-2337(夜間直通)