平成12年12月20日
雪印食中毒事件厚生省・大阪市
原因究明合同専門家会議
I 経緯
本年6月末に発生した雪印乳業(株)大阪工場(以下「大阪工場」)製造の低脂肪乳等を原因とする食中毒事件の有症者数は14,780名に達し、近年例をみない大規模食中毒事件となった。7月2日、低脂肪乳から黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンA型が検出されたことから、大阪市は、これを病因物質とする食中毒と断定して、大阪工場を営業禁止とした。
また、8月18日に低脂肪乳等の原料に使用されたと思われる大樹工場製造の脱脂粉乳からエンテロトキシンA型の検出が確認され、同23日、北海道は当該脱脂粉乳の製造に関連した停電の発生、生菌数に係る基準に違反する脱脂粉乳の使用、4月1日及び4月10日製造の脱脂粉乳の保存サンプルからエンテロトキシンA型の検出等の調査結果について公表した。
また、大樹工場に対して食品衛生法第4条違反として、乳製品製造の営業禁止、4月1日及び10日製造の脱脂粉乳の回収を命じた。
II 大阪工場関係調査
1 発症状況及び喫食状況調査結果
大阪市在住有症者のうち3,488名の喫食した主な製品は、「低脂肪乳」2,763名(78.7%)、「毎日骨太」639名(18.2%)であり、品質保持期限が6月28日以降の低脂肪乳を喫食した、黄色ブドウ球菌による食中毒症状を示したと考えられる1,402名の品質保持期限別喫食状況をみると、6月30日が666名(47.5%)、7月2日が444名(31.7%)であった。
2 検査結果
製品の検査では、品質保持期限が6月28日から7月4日までの間の「低脂肪乳」からエンテロトキシンA型が検出され、このうち6月30日分及び7月2日分は陽性率が高く、0.4ng/ml以上検出した。発酵乳では、品質保持期限が7月13日及び14日の「のむヨーグルト毎日骨太」及び品質保持期限が7月12日、13日、14日の「のむヨーグルトナチュレ」からエンテロトキシンA型が検出された。また、6月に大阪工場で使用された脱脂粉乳のうち、4月10日大樹工場製のみからエンテロトキシンA型が検出された。
3 施設調査結果
「低脂肪乳」、「のむヨーグルト毎日骨太」、「のむヨーグルトナチュレ」及び「コープのむヨーグルト」について、エンテロトキシンA型が検出された製品の原料として4月10日大樹工場製脱脂粉乳が使用されたことが確認又は推定された。
4 大阪工場関係調査結果に基づく、報告された有症者の類別
(1)有症者のうち、大阪工場の製品(明らかに汚染がない製品を除く。)を喫食した者は、14,780名
(2)製品喫食と発症に関係があると推定される(汚染脱脂粉乳使用期間中に脱脂粉乳使用製品を喫食し、特定症状を有した)者は、13,420名
(3)製品の喫食と発症の関係がほぼ確実である(エンテロトキシンA型検出製品と同一の品質保持期限の製品を喫食して発症)者は、4,852名
III 大樹工場関係調査
1 施設調査結果
大阪工場で6月下旬に使用された脱脂粉乳は、4月10日に製造されたことが確認され、4月10日においては、4月1日製造の脱脂粉乳939袋のうち、生菌数の高い449袋を水に溶解し、生乳から処理された脱脂乳と混合して、再び脱脂粉乳を製造したことが確認された。
4月1日製造脱脂粉乳の製造過程では、3月31日、工場内電気室へ氷柱が落下し、工場構内全体が11時から約3時間停電し、さらに同日18時51分から19時44分までの間、復旧作業のため、工場構内全体の通電が止められた。
また、濃縮工程中のライン乳タンク冷却器の冷凍機及び粉乳の送排風機は、最初の停電から復旧作業の停電が終了するまで停止していた。
停電当日、黄色ブドウ球菌の増殖至適温度帯にあった工程は、クリーム分離工程中の分離器及びその前後の工程、並びに濃縮工程のライン乳タンクのみであった。
クリーム分離工程は、停電当時、生乳の加温からクリーム分離、冷却の過程で、通常は数分間で冷却工程に送られるべきものが、20〜50℃に加温された状態で滞留し、最初の停電復旧後、廃棄されずに停電前後の脱脂乳とともに貯乳タンクに貯乳され、そのまま脱脂粉乳の製造に使用された可能性があることが立ち入り検査の再現作業において示唆された(雪印乳業(株)の報告では、廃棄。)。この乳が低温の貯乳タンク内に投入されるまで、20〜30℃に保持された時間は停電発生からクリーム分離工程の遠心器の作動が確認されたことが記録された15時10分までの4時間程度(雪印乳業(株)からの報告によると、当該装置のCIPの開始時間である14時40分頃までの約3時間40分)である。
濃縮工程のライン乳タンクには、ライン乳800Lが投入され、付属の冷却器はライン乳タンク投入終了後、30分程度作動したものの、停電により停止し、停電の復旧作業が終了するまで、約9時間以上ライン乳タンク内で放置された。
2 エンテロトキシンA型及び細菌検査結果
大樹工場に残されていた脱脂粉乳の保存サンプルについて、エンテロトキシン、黄色ブドウ球菌等の検査を実施し、4月1日製造の6検体と4月10日製造の9検体から、1g当たり3.3〜20.0ng(ナノグラム)のエンテロトキシンA型が検出された。
3 脱脂粉乳製造工程における黄色ブドウ球菌による汚染、エンテロトキシンA型産生に関する検討
(1) クリーム分離工程
汚染源については、通常の生乳から黄色ブドウ球菌の検出例が報告されていることからその可能性があると考えられる。増殖条件については、4月1日製造の脱脂粉乳の製造過程において、停電事故により加温からクリーム分離、冷却の工程で、650Lの乳が加温されたままの状態で3時間半から4時間程度滞留した。
(2) 濃縮乳の回収工程
汚染源については、調査の過程においては、明らかとなっていないが、昨年12月10日のライン乳タンク冷却器のプレートの組み違いにより生じたデッドスペースにおいて、停電当日の早朝にライン乳が操作ミス等で冷却器内に数時間滞留していたとの情報もあり、当該ラインの開放部分から汚染されたデッドスペース内容物の汚染を受けたおそれもある。しかし、130℃、4秒以上の殺菌が通常どおりが行われていれば黄色ブドウ球菌の汚染源と考えるのは難しく、黄色ブドウ球菌の汚染源と考えるのは問題もある。また、増殖条件については、ライン乳タンクで約800Lのライン乳が9時間以上冷却されずに放置されており、約30分の冷却が停電前に行われているものの、十分な増殖条件があったと考えられる。
4 その他
(1) 4月1日製造の脱脂粉乳の二峰性の濃度分布についての検証
4月1日製造分については、Bサイロに前日の残余の脱脂粉乳の上に3月30日生乳受入を行った約430袋分が投入され、3月31日生乳受入を行った脱脂粉乳が約50袋分が積層され、ついでサイロAに投入されたと考えられる。
北海道が確認した二峰性の濃度分布は、2つのサイロに投入された脱脂粉乳のエンテロトキシンA型濃度が次第に高濃度となる場合、出現すると考えられる。
(2) 4月1日製造脱脂粉乳から検出された細菌
北海道の検査の結果、4月1日製造の脱脂粉乳からはエンテロコッカス属及びスタフィロコッカス属が優勢に検出された。製品からこれらの非芽胞形成性細菌が検出されていることは、4月1日包装の脱脂粉乳製造の際に、(1)殺菌機の異常又は乳質の異常、(2)濃縮乳タンク等殺菌以降の工程における菌の汚染増殖、(3)高濃度汚染による殺菌後の菌の生残等が理由として考えられる。
黄色ブドウ球菌が検出されていないのは、(1)黄色ブドウ球菌の汚染濃度が低く、北海道の検査前に死滅した、(2)黄色ブドウ球菌は殺菌され、その他の細菌は殺菌後増殖したためと考えられる。
IV 関連事例の調査結果
雪印乳業(株)の神戸工場及び福岡工場並びに八ヶ岳雪印乳業(株)においても、大樹工場で製造された黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンA型に汚染されたと考えられる脱脂粉乳が使用されていたが、福岡工場においては苦情はなく、神戸工場の製品に係る苦情は398件、八ヶ岳雪印乳業(株)では7件の苦情があった。苦情のあった2施設については、大阪工場のような確実な有症者が確認されず、神戸工場については、有症者の発生状況、エンテロトキシンの推定濃度、製品の検査結果等から当該脱脂粉乳を使用したことによる食中毒とは判断することは困難であった。また、八ヶ岳雪印乳業(株)でも食中毒と断定するに至らなかったとのことであった。
V まとめ
1 本食中毒事件の病因物質は、多くの有症者の潜伏期間が短く、嘔吐又は嘔気、下痢を主徴としていること、多くの有症者が喫食した低脂肪乳から黄色ブドウ球菌の産生するエンテロトキシンA型が検出されていることから同毒素と判断される。
2 原因食品については、雪印乳業(株)大阪工場で製造された「低脂肪乳」に加えて、エンテロトキシンA型が検出された「のむヨーグルト毎日骨太」、「のむヨーグルトナチュレ」も疑われる。
3 雪印乳業(株)大阪工場の調査の結果、6月に同工場で使用された脱脂粉乳のうち同社大樹工場で製造された脱脂粉乳の特定のロットからのみエンテロトキシンA型が検出され、当該ロットの脱脂粉乳が「低脂肪乳」、「のむヨーグルト毎日骨太」及び「のむヨーグルトナチュレ」に使用されたことが確認又は推定されたことから、本脱脂粉乳が本食中毒の原因であったと判断される。
4 同社大樹工場の調査の結果、4月10日製造の脱脂粉乳製造時に再利用された4月1日製造の脱脂粉乳の製造過程において発生した停電の際に,生乳中又は製造ラインに滞留したライン乳中に由来する黄色ブドウ球菌が増殖し、エンテロトキシンA型を産生したと考えられる。
5 黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンA型産生は、クリーム分離工程又は濃縮工程のライン乳タンクで起こったと考えられる。これらの工程における汚染要因については前者が、増殖要因については後者が合理的な説明が可能であるが、調査において確認された事実からはこれ以上の解明は困難と考える。
照会先 厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課 乳肉水産安全係 蟹江 (2476)