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平成12年9月8日

第5例目の脳死下での臓器提供事例に係る
検証結果に関する報告書

脳死下での臓器提供事例に係る検証会議


目次

はじめに

第1章 救命治療、脳死判定等の状況の検証結果
 1.入院直後の診断と治療に関する評価
 2.救命治療に関する評価
 3.臨床的な脳死の診断及び法に基づく脳死判定に関する評価

第2章 ネットワークによる臓器あっせん業務の状況の検証結果
 あっせんの経過の概要とその評価

(参考資料1)
診断・治療概要(臓器提供施設提出資料)

(参考資料2)
臓器提供の経緯((社)日本臓器移植ネットワーク提出資料)

(参考資料3)
臓器の搬送((社)日本臓器移植ネットワーク提出資料)

(参考資料4)
脳死下での臓器提供事例に係る検証会議名簿

(参考資料5)
医学的検証作業グループ名簿

(参考資料6)
脳死下での臓器提供事例に係る検証会議における第5例目に関する検討経過



はじめに


 本報告書は、平成12年3月末に行われた第5例目の脳死下での臓器提供事例に係る検証結果を取りまとめたものである。
 ドナーに対する救命治療、脳死判定等の状況については、まず医療分野の専門家からなる「医学的検証作業グループ」において評価を行い、その結果を基に検証を行った。その際には、臓器提供施設から救命治療、脳死判定の担当医から事情を聴取するとともに、当該施設から提出された診療録(カルテ)、CT写真等の各種検査結果などの関係資料を参考に検証している。また、社団法人日本臓器移植ネットワーク(以下「ネットワーク」という。)の臓器のあっせん業務の状況については、ネットワークから提出されたコーディネート記録、レシピエント選択に係る記録その他関係資料を用いつつ、ネットワークの担当者(メディカルコンサルタント及びコーディネーター)から一連の経過を聴取し、検証を行った。
 本報告書は、第5例目に係る検証結果について、ドナーに対する救命治療、脳死判定等の状況に係る検証結果を第1章として、ネットワークによる臓器のあっせん業務の状況に係る検証結果を第2章としてとりまとめたものである。
なお、本報告書においては、家族の意向を踏まえたドナー及び家族のプライバシーの保護の観点から、現時点においては、原疾患等の一部の事項を非公開とした。


第1章 救命治療、脳死判定等の状況の検証結果


1.入院直後の診断・治療に関する評価

(平成12年3月27日10:52来院から3月27日11:18の心拍再開まで)
 本症例は3月27日10:05頃心肺停止状態で発見され、最低1時間以上にわたる心肺停止状態で病院に搬送された。直ちに心肺蘇生法が施行され、その結果、来院から26分で心拍が再開した。この経過は極めて積極的で効果的な救命処置が行われたことが示唆される。
 来院時心肺停止状態で、意識レベル300(JCS)、瞳孔左右6mm、対光反射認めず心電図上心静止、直腸温32.6℃の状態であった。心肺蘇生法は救急隊から引き続き続行され、器具や薬剤を用いた二次救命処置を施行し、来院後26分で心肺再開を得ている。この間、気管内挿管、人工呼吸器装着とともにステロイド(メチルプレドニゾロン)や抗利尿ホルモン剤(バゾプレッシン)などの薬剤投与が施行された。
 心肺蘇生法におけるステロイドやバゾプレッシン投与は、一般的な治療法とは言い難いが、1999年AHA(American Heart Association)の報告で発表された根拠のある治療法の1つであり、現に本症例のような長時間の心肺停止患者においてさえも心拍再開が得られていることから、結果的に極めて有効な治療法であったと推察される。

2.救命治療に関する評価

(平成12年3月27日11:18心拍再開から3月28日02:44の臨床的脳死診断まで)
 長時間の心肺停止状態からの蘇生に成功したが、蘇生後脳症の状態となっていた。集中治療室ではカテコールアミンで血圧を維持せざるを得ない急性循環不全が持続し、治療は対症療法を主体とせざるを得ない状態であった。基本的に集中治療室での治療方法は妥当であったが、それにもかかわらず脳機能の改善がみられなかったことは、蘇生後の脳損傷が極めて重篤であったことが示唆される。

1)呼吸器系の検査治療について
 気管内挿管で気道確保さらに酸素を用いた人工呼吸が施行されている。人工呼吸器の条件(FiO2 0.6〜0.7、TV 450〜500ml、f 12〜15b/min)は成人女性として妥当な値である。呼吸状態は、頻回の動脈血液ガス分析とパルスオキシメトリーで注意深く監視されていた。心拍再開後の血液ガス分析で観察されたpH:7.073、BE:-22.6mmol/Lの代謝性アシドーシスは、重炭酸ナトリウム液150ml投与でpH:7.366、BE:-6.9mmol/Lへと適切に補正されている。27日17:00の動脈血ガス分析でpH:7.426、PaCO2:23.8mmHgであり、3時間後(20:00)の動脈血ガス分析でpH:7.424、PaCO2:23.8mmHgと過換気による低炭酸ガス血症を呈していた。一般に頭蓋内圧亢進に対する過換気療法は、近年血管収縮と脳血流量減少にともなう脳循環不全を防ぐためのPaCO2:36mmHg前後のmild hyperventilation が適切とされており、その意味で当初はやや過換気気味と思われる。しかし、同日22:30の動脈血ガス分析ではpH:7.331、PaCO2:37.8mmHgと妥当な値になっている。

2)循環器系の検査治療について
 蘇生後循環動態は、ドパミン・ノルアドレナリンなどのカテコールアミンとバゾプレッシンおよび輸液で血圧を維持せざる得ないほどの循環不全状態であった。赤色水様の気管内分泌物が観察されて、心不全あるいは中枢性肺水腫が疑われた。そのため、心臓超音波検査・腹部超音波検査・胸部CT検査で心臓の動きや肺の状態が検討されており、妥当な治療と検査が行われたと思われる。なお、循環動態を経時的に把握するために肺動脈カテーテルが挿入され、厳重な循環管理がなされている。さらに循環不全状態の持続が中枢性尿崩症にともなう循環血液量減少によることも疑われたため、輸液やバゾプレッシンの追加投与が行われ循環動態は適切に維持された。その結果、尿量と血清電解質値は適切に維持された。

3)水電解質の管理
 心拍再開後の血液ガス分析で観察された代謝性アシドーシスは、重炭酸ナトリウム液投与で適正に補正されている。これ以降は、カテコールアミンと輸液で血圧を維持せざるを得ない循環不全状態が持続しており、pH:7.366、BE:-6.9mmol/Lは補正の努力がなされた上での軽度の代謝性アシドーシスで妥当と思われる。バゾプレッシン過量投与により、ときに乏尿や低ナトリウム血症を認めることがあるが、本症例では経過を通して尿量は確保されており、血清電解質も適切に維持されていた。
 しかし、種々の治療に抵抗し27日22:20に自発呼吸の停止とともに低血圧をきたし、ドパミン増量、ノルアドレナリン投与を行ったが、その後、02:44臨床的脳死となった。

4)脳神経系の管理
(1)診断の妥当性
 27日10:05に心停止で発見されてから5時間40分後、心拍再開から4時間27分後の15:45に施行された第1回目のCTでは、高度の脳浮腫とそれに伴う髄液腔の狭小化が認められた。
 28日3:06に施行された第2回目のCTでは、脳浮腫は更に高度となり、脳底槽は消失していた。
 これらの所見は少なくとも1時間13分持続した心停止のために引き起こされた脳虚血により生じたとする判断は妥当である。

(2)CT所見の内容
 27日15:45の第1回目のCT所見では、脳幹部を含めた脳全体が低吸収域を示し、灰白質と白質の区別が不可能である。更に脳溝は全て消失し、脳底槽及び脳室は著しく狭小化しており、高度のびまん性脳浮腫が認められる。
 28日3:06の第2回目のCT所見では、脳幹部を含めた脳全体が低吸収域を示しているが、特に灰白質がまだら状に著明な低吸収域となっている。全ての脳溝、脳底槽及び第3、第4脳室が消失し、側脳室は狭小化しており、脳浮腫は更に高度となっている。
 なお、27日11:30に施行された頸椎単純レ線撮影では、頸椎の骨折や脱臼の所見は認められない。

(3)保存療法を行ったことの評価
 本症例ではCT所見により頭蓋内占拠性病変を認めず、長時間の脳虚血による高度の脳浮腫が存在するのみであるため、外科療法の適応はない。
 更に少なくとも1時間以上の心停止があり、深昏睡、瞳孔散大、対光反射消失が認められ循環動態が不安定であるため、循環・呼吸管理を治療の中心とした判断は妥当である。


3.臨床的な脳死の診断及び法に基づく脳死判定に関する評価

(1)脳死判定を行うための前提条件及び除外例について
 本症例は平成12年3月27日、心肺停止状態で10:38救急車に収容され、10:52救急隊員から医師に引き継がれた。来院時、意識障害(JCS300、両側瞳孔6mm)、対光反射消失、心肺蘇生法(心電図モニタ、気管内挿管、薬物療法)を行い、11:18心拍再開し、13:20失調性自発呼吸が出現した。15:45に行った頭部CT検査で高度の脳浮腫像を認めた。
 22:20自発呼吸が消失、血圧が次第に低下し、以後血圧を維持するために血管作動薬の増量が必要となった。本症例は推定1時間以上の心肺停止例で、神経所見、頭部CT検査、循環動態からみても保存的療法以外になく、当該医療機関では、28日2:44臨床的に脳死と診断し、ついで法に基づく脳死判定を行っている。
 本症例は、「1.入院直後の診断・治療に関する評価」及び「2.救命治療に関する評価」にあるように、脳死判定の対象例としての前提条件を満たしている。すなわち、

1)深昏睡及び無呼吸で人工呼吸を行っている状態が継続している(蘇生後脳症)。
 27日10:52来院時に気管内挿管が行われ人工呼吸が開始された。以降の全経過を通じて、意識レベルはJCS300のままで人工呼吸を必要とする状態が続いている。22:20には自発呼吸が消失している。臨床的脳死診断を行うまでには来院後、約15時間、自発呼吸消失後、約5時間経過している。

2)原因、臨床経過、症状、CT所見から、原疾患が確定されている脳の二次性、器質性病変であることは確実である。

3)また、診断・治療を含む臨床経過から、現在行いうる全ての適切な治療手段をもってしても、回復の可能性が全くないと判断される。

 また、本症例では、本人の意思表示が有効でないと思われる症例に該当するかどうかについて慎重に検討する必要があった。提供施設の医師団は、本件のドナーが以前から治療関係にあった主治医から意見を聞くとともに、さらに、家族からドナーが意思表示カードに署名をした時期の状況やその後の経過について事情を聴取した上、本人の意思表示が有効であったことを確認している。このように、提供施設の医師団によって慎重に本人の意思表示の有効性が確認されたことは適切であると考えられる。また、本症例は通院治療中であり薬物が処方されていたが、使用量は一般的であり薬物の脳死判定に及ぼす影響はなかったと判断したことも適切であると考えられる。
 なお、本症例においては意思表示の有効性に問題はなかったが、今後の事例においては意思表示の有効性の判断が困難な事例もあり得る。この点に関しては、臓器提供施設等の当事者以外の第三者をその判断に関与させるシステムを構築することも検討に値するとの意見と医療現場の実態からすると当事者以外の第三者の関与は困難であるとする意見があった。

(2)臨床的な脳死の診断及び法に規定する脳死判定について
1)臨床的な脳死の診断
<検査所見及び診断内容>
検査所見(3月28日 01:10から02:44まで)
体温:37.9℃ 血圧:121/86mmHg 心拍数:135/分
JCS:300
自発運動:なし 除脳硬直・除皮質硬直:なし けいれん:なし
瞳孔:固定し瞳孔径 左 6mm 右6mm
脳幹反射:対光、角膜、毛様体脊髄、眼球頭、前庭、咽頭、咳反射 なし
脳波:感度10μV/mmで平坦波形であった。2μV/mmでは、筋電図アーチファクトが混入していたが、27日14:40の脳波記録も参考にして平坦脳波と判定。
診断内容
以上の結果から臨床的脳死と診断。

 脳波は雑音混入を防ぐため手術室で記録している。国際電極配置によりFp1,Fp2,C3,C4,O1,O2,T3,T4,Cz,A1,A2に電極を装着、12素子を用いて基準電極導出と双極導出(長距離双極導出を含む)の同時記録で30分以上の記録を行っている。2μV/mmではアーチファクトが混入して判読困難であった。しかし、臨床的脳死診断の約11時間前に、経過観察として行った27日14:40の脳波記録(筋電図アーチファクト除去のため病室で筋弛緩薬:ベクロニウムを使用して記録)には、心電図、交流のアーチファクトの混入はあるが、10μV/mm、2μV/mmの記録ともに平坦脳波と認められる。そこで、臨床的脳死診断の検査における感度2μV/mmの記録は、筋電図アーチファクト混入のため判読困難であったが、感度10μV/mmの記録が27日14:40の記録とほぼ同様であったので、平坦脳波と判定した。このように、臨床的脳死診断以前に行われた脳波記録も参考にして判読されたことは、必ずしも十分な検査方法とはいえないが、前回の所見を参考にして総合的に平坦と判定することは許容できることと思われる。
 神経所見については結果が明確に記載されている。


2)法に基づく脳死判定
<検査所見及び判定内容>
検査所見 (第1回) (3月28日09:04から11:46まで)
体温:38.1℃ 血圧:134/94mmHg 心拍数:139/分
JCS:300
自発運動:なし 除脳硬直・除皮質硬直:なし けいれん:なし
瞳孔:固定し瞳孔径 左 6.0mm 右6.5mm
脳幹反射:対光、角膜、眼球頭、前庭、毛様脊髄、咽頭、咳反射すべてなし
脳波:感度10μV/mmでは平坦波形であり、2μV/mmでは交流、筋電図、心電図などによるアーチファクトが混入しているものの平坦脳波に該当する。
無呼吸テスト:陽性
  (開始時) (2分後) (5分後)
PaCO2 41 56
(mmHg)

72

PaO2 361 314 296
血圧 128/90 122/85 113/74

脳死判定終了後に実施された聴性脳幹誘発電位(ABR):I波を含む全ての波を識別できない。
検査所見 第2回)(3月28日18:31から21:00まで)
体温:38.6℃ 血圧:119/86mmHg 心拍数:143/分
JCS:300
自発運動:なし 除脳硬直・除皮質硬直:なし けいれん:なし
瞳孔:固定し瞳孔径 左 6.0mm 右6mm
脳幹反射:対光、角膜、眼球頭、前庭、毛様脊髄、咽頭、咳反射すべてなし
脳波:平坦脳波に該当する(感度10μV/mm,感度2μV/mm)。
聴性脳幹誘発電位(ABR):I波を含む全ての波を識別できない。
無呼吸テスト:陽性
  (開始時) (2分後) (6分後) (8分後)
PaCO2 43 56 62
(mmHg)

72

PaO2 382 328 314 177
血圧 124/85 117/79 112 /72 107/65
脳死判定終了後に実施された聴性脳幹誘発電位(ABR):I波を含む全ての波を識別できない。
判定内容
以上の結果より第1回目の結果は脳死判定基準を満たすと判定(3月28日11:46)
以上の結果より第2回目の結果は脳死判定基準を満たすと判定(3月28日21:00)

 脳死判定承諾書を得た上で、指針に定める資格を持った専門医が行っている。判定者は、本症例が脳死判定の対象となる前提条件を満たし、かつ、本人の意思表示が有効でない症例といった除外例でないことを確認しており、脳死判定に至る手順にも問題はない。法的脳死判定における脳死判定記録、脳死判定の的確実施の証明書の記載は適切で、結果も明確に記載されている。第1回目の終了から6時間45分を経過して、第2回目が開始されており、その時間間隔も基準を満たしている。また、すべての検査結果の記載も適切である。
 脳波は、国際電極配置によりFp1,Fp2,C3,C4,O1,O2,T3,T4,Cz,Pz,A1,A2に電極を装着、10素子を用いて記録している。第1回目は基準電極導出のみの記録で、感度10μV/mmで平坦波形であった。2μV/mmでは交流、筋電図、心電図などによるアーチファクトが混入しているものの平坦脳波と判定できる。第2回目は感度10μV/mmで平坦波形であるが、2μV/mmでは第1回目同様のアーチファクトが混入し、心電図アーチファクトではQRSの棘波のほかにT波などによる4Hz前後の遅い波がみられる。しかし、いずれもアーチファクトであることは明らかで、それらを除くと平坦脳波と判定される。第1回の判定で双極導出の記録が欠けており、基準電極導出による記録だけでも平坦脳波の判定は可能であったものの、第2回目のように双極導出を行うべきであった。第1回目の判定で双極導出が欠けた理由は、検査担当者の単純なスイッチの変換忘れ及び脳死判定者のチェック漏れであった。
 なお、聴性脳幹反応が第1,2回の脳死判定後、それぞれ16:30と21:15に行われているが、何れも無反応である。
 無呼吸テストは2回とも適切に行われており、必要なPaCO2レベルを得て無呼吸テスト陽性を確認している。パルスオキシメータによる酸素飽和度は、テスト中ほぼ100%で、血圧も十分に維持されていた。

(3)まとめ
 本症例の脳死判定は、脳死判定承諾書を得たうえで、指針に定める資格を持った専門医が行っている。法に基づく脳死判定において、深昏睡、瞳孔の固定と瞳孔径、脳幹反射の消失及び自発呼吸の消失については適切に確認されている。なお、脳波検査については、第1回目の判定では基準電極導出のみで双極導出が欠けており、必ずしも十分な検査方法とはいえなかったが、基準電極導出のみで平坦脳波の確認は可能であった。
 以上から、本症例は、厚生省基準の基本的考え方と基準の各項目、特に脳波検査の方法と意義を勘案し、総合的に判断し脳死と判定できると評価する。ただし、検査データに万全を期するためにも、各臓器提供施設は、「法的脳死判定マニュアル」(厚生省厚生科学研究費特別研究事業「脳死判定手順に関する研究班」平成11年度報告書)に記述された「脳波検査の基本条件」に従って平坦脳波の確認を行うべきである。


第2章 ネットワークによる臓器あっせん業務の状況の検証結果

(注)枠内は、ネットワークから聴取した事項及びネットワークから提出された資料等により、本検証会議として認識している事実経過の概要である。

1.初動体制

平成12年3月27日10:05頃に患者が心肺停止状態となっているのを父親が発見。救急隊が患者を搬送し、10:51に病院に到着。その際には心拍停止状態であったが、治療により心拍は再開。その後、3月28日2:44に臨床的に脳死と診断され、3:05に関東甲信越ブロックセンターに連絡があった。
4:30にコーディネーター3名が臓器提供施設に到着し、院長、副院長、救命救急センター部長及び庶務課長と面談し、院内体制等を確認。また、医学的情報を収集し、一次評価を行った。
【評価】
○ネットワークは、病院からブロックセンターに連絡があった後、迅速に対応を開始しコーディネーターを同施設に派遣している。
○また、コーディネーターは、病院に到着後、院内体制等の確認や第1次評価等を適切に行っている。


2.家族への脳死判定等の説明及び承諾

3月28日5:35にコーディネーター2名が家族(父、母、姉)と面談。脳死判定・臓器提供の内容、手続等を記載した文書を用いてこれらを説明するとともに、施設が本人の意思表示の有効性について確認中であることを説明。その際、家族からは、皆でよく臓器提供について話し合っていたことや「本人の意思を尊重したい。本人の体は宝石箱のようであり、病気で苦しんでいる人にその宝石を分け与えることができる。」旨の話があった。その後手続にまだ時間を要するため、家族には一時休んでもらうこととなった(6:40終了)。7:40には、院長、救命救急センター部長、倫理委員会委員長が家族と面談し、その際家族から患者の臓器提供の意思を尊重したいとの強い意志が示されている。施設において患者の意思表示は有効との結論となったため、8:20にコーディネーター2名が家族(父、母、姉)と面談し、承諾手続に入った。8:30に父親が脳死判定承諾書、臓器摘出承諾書に署名捺印。また、その後コーディネーター等は、情報公開の内容等について家族の意向を確認。その結果、原疾患等は公表しない取扱いとなった。
【評価】
○コーディネーターは、臓器提供意思表示カードの記載内容を確認した後、脳死判定・臓器提供等の内容・手続を記載した文書を手渡しその内容を説明するとともに、ドナーの意思表示の有効性について検討中であることも説明している。
○また、ドナーの意思表示の有効性に係る病院の見解を踏まえ、コーディネーターは承諾手続を開始し、脳死判定承諾書及び臓器摘出承諾書を受理している。
○これらのことから、コーディネーターの家族への脳死判定の説明等は適正に行われたものと評価できる。


3.ドナーの医学的検査及びレシピエントの選択等

 3月28日12:10にレシピエント候補者の選定を開始。また、22:35に各臓器別にレシピエント候補者の意思確認が開始された。
 心臓については、ネットワークのメディカルコンサルタントの検討を踏まえ、1時間を超える心停止のため移植ができない可能性も説明しつつ移植実施施設に連絡。移植実施施設が現地で移植可能かどうかを評価することとなった。現地での評価の結果、心拍出量の低下があったため、第1、第2候補者については移植実施施設側は移植を辞退したが、第3候補者の移植実施施設側は移植を受諾した。肝臓については、まず確定したレシピエントが小児であるため、分割肝移植を検討し、次候補者の意思確認を経て最終的に分割肝移植が実施された。また、膵臓については、第1候補者から第8候補者まで意思確認を行ったが、医学的理由によりすべて移植は辞退され、最終的にメディカルコンサルタントが医学的理由により移植は不可能と判断。なお、膵臓のレシピエント候補者の意思確認については、移植実施施設との連絡が取れなかったこと及び移植への適応評価が困難な事例であったことにより、意思確認を終了するまでに約7時間を要した。
 また、感染症やHLAの検査等については、ネットワーク本部において適宜検査を検査施設に依頼し、特に問題はないことが確認されている。
【評価】
○今回の事例においては、肝臓について、まず確定したレシピエントが小児であったため、分割肝移植が実施されたが、その手続は厚生省の定める手順に従い適切に行われた。
○心臓については、約50分間の心停止を経ていたため、移植への利用の可能性に係る高度な医学的判断を要したが、適正にレシピエントの選択手続がなされ、また、その他の臓器についても、概ね適正にレシピエントの選択手続が行われたものと評価できる。
○膵臓については、最終的に医学的理由により移植が不可能と判断されたが、そのレシピエント候補者の意思確認については、膵臓のドナー発生時の各移植実施設側の連絡体制が整っておらず、
(1) ネットワークからの各移植実施施設の窓口となる医師への連絡
(2) 各移植実施施設の医師からのレシピエント候補者への連絡
に時間を要したこと等により、結果的に膵臓のレシピエント候補者の第1位から第8位の候補者すべての意思確認を終えるまでに約7時間を要することとなり、他の臓器に比較して迅速な手続が行われたということはできない。
 今回の事例においては、上記(1)・(2)だけでなく、移植が可能かどうかについて高度の医学的な判断を要したこともレシピエント候補者の意思確認に長時間を要することとなったとの意見もあったが、それを勘案したとしても、問題があるとの結論となった。このため、今後は、膵臓の各移植実施施設における連絡体制を十分に整備し、レシピエント候補者の意思確認の手続が迅速に行われるようにすべきである。
○ドナーの医学的検査等は適正に行われている。

4.法的脳死判定終了後の家族への説明、摘出手術の支援等

3月28日21:45に脳死判定医等より脳死判定結果が伝えられた後、コーディネーターからその後の摘出手術に向けた流れの説明があった。また、22:30にコーディネーターと病院の医師及び看護婦で摘出手術の打合せが行われた後、摘出手術に必要な機材準備等が行われた。
【評価】
○法的脳死判定終了後の家族への説明、摘出手術の支援等に特に問題はなかった。


5.臓器の搬送

3月29日にレシピエント候補者の意思確認と並行してコーディネーターによる臓器搬送の準備が開始され、参考資料3のとおり搬送が行われた。
【評価】
○臓器の搬送は適正に行われた。


6.臓器摘出後の家族への支援

3月30日、コーディネーターから家族に無事移植手術が終了したことを報告し、葬儀への出席の了解を得た。その後、遺体をお見送り。4月3日に、心臓移植の経過 について父親へ報告し、お別れの会(お通夜)に出席。翌日4月4日には、コーディネーター3名で旅立ちの会(告別式)に出席した。5月9日に、コーディネーター3名で家族に移植後のレシピエントの経過報告を行うとともに、何か問題となって いることがないかどうかを確認したが、特に問題はないとのことであった。
【評価】
○コーディネーターにより、家族の同意を得た上で、遺体のお見送り、葬儀への出席が行われており、また、その後もレシピエントの経過報告など適切な対応が採られている。



厚生労働省健康局疾病対策課臓器移植対策室
[担当]岩崎、小森、衣笠、木村
(代表)03-5253-1111
(内線)2361,2362,2364,2366


〈参考資料1〉

臓器提供施設より報告された診断・治療概要

3月27日
10:05頃

父親が心肺停止状態の患者を発見、救急隊を要請。
10:21 救急隊の覚知
10:26 救急隊の現着
心肺停止状態。
父親が人工呼吸を行っていた。
心電図モニター:施行せず。特定行為:施行せず。
10:38 車内収容
10:51 救急車で病院到着
10:52 医師引継(以上救急隊からの情報)
来院時心肺停止状態。意識レベル:JCS300点。心電図:心静止。瞳孔:6×6mm、対光反射:消失。
人工呼吸、心臓マッサージ、静脈路確保、気管内挿管施行。
11:00 エピネフリン1mg+生食10ml静注。心電図:心静止。
11:05 メチルプレドニゾロン1000mg+生食20ml静注。
11:10 バゾプレシン40単位+生食10ml静注。
心電図:心静止。直腸温:32.6℃
11:18 バゾプレシン40単位+生食10ml静注後、心拍再開。心拍数:110/分。瞳孔散大、対光反射消失。
11:20 ドパミン点滴静注開始。ウリナスタチン30万単位静注。
11:30〜 胸・腹部・頸椎単純エックス線撮影施行。
12:00 初回ガス分析でpH7.073、BE-22.6mmol/lと著明な代謝性アシドーシスを呈していたため、炭酸水素ナトリウム150mEqを静注。気管内チ ューブから血性泡沫状喀痰吸引。
12:20 主治医が家族に脳は重篤な障害を受けているとの病状説明。家族から意思表示カードを持っていたはずなので、脳死なら臓器提供をしたいとの申し出があり、家族の一人が意思表示カードを探すために帰宅。この約1時間後、主治医に意思表示カードを提示。
13:20 自発呼吸発現:毎分5〜10回程度のため息様の失調性呼吸。意識レベルJCS300点、GCS3点、瞳孔散大は変化なし。
13:30 治療方針検討:(1)推定1時間以上にわたる長時間の心停止、(2)瞳孔散大、対光反射消失持続、(3)循環動態不安定なため、脳低温療法等の積極的治療の適応はなく、保存的治療を行いながら病態の把握を進めることを確認。
13:50〜 心エコー施行:左室壁運動正常、弁の異常認めず。
14:00 ノルエピネフリン投与開始。
14:00〜 腹部エコー施行:胆嚢拡大あり。肝、腎、脾、膵に異常を認めず。
14:40〜 病室で脳波検査施行、筋電図混入するためベクロニウム使用:平坦脳波確認。
15:45 第一回頭部・胸部・腹部CT検査施行:頭部CT所見−全体にlow densityで脳の構造不明瞭。basal cistern消失、brain swellingを呈し、高度の頭蓋内圧亢進を示唆する所見。
16:00頃 血圧上昇傾向。
16:10 循環動態モニターのため、Swan-Ganzカテーテル留置。心係数2.9、
肺動脈圧20/11mmHg。
16:50 胸部エックス線撮影施行。
17:00 主治医が家族に脳波検査の結果を説明。
17:30〜
18:00
主治医、救命救急センター部長及び婦長が家族と面談。再度臓器提供の申し出を受けたが、現在は自発呼吸があり脳死ではないので、臨床的に脳死と判定された時点で希望に添うよう対応すると応対。
18:00 ノルエピネフリン投与中止。マンニトール200ml点滴静注。
21:00 体温39.3℃に上昇、クーリング施行。
21:30 心拍数155/分。輸液速度早める。
22:20 自発呼吸停止。SpO2 90%代に低下。血圧次第に低下、ドパミン増量、輸液速度を早めて対処。
22:39 ノルエピネフリン投与再開。
23:09 尿量500ml/hと増加したためバゾプレシン投与開始。
23:41 意識レベル:深昏睡変わらず。瞳孔:6×6mm、対光反射消失。
3月28日
00:10

自発呼吸停止、深昏睡、瞳孔散大、対光反射消失、循環動態悪化を父親に伝え、臨床的脳死診断を行うことの了承を得た。
01:00 脳死判定の前提条件、除外条件を確認。
01:10 臨床的脳死診断開始。病室で脳波測定開始したがノイズ多いため 手術室へ移動して測定:平坦脳波確認。
02:35〜 病室へ戻り脳波以外の必須検査施行。
02:44 臨床的脳死と診断。
家族、病院長に結果を報告。
03:05 日本臓器移植ネットワーク関東甲信越ブロックセンターに連絡。
03:06 第二回頭部CT検査施行:第4脳室消失、全体に斑状のlow density。
より一層の頭蓋内圧上昇、brain swellingを示す所見。
03:10 脳死判定委員会開催。4名の脳死判定医を選出。
07:40〜
08:00
家族と面談
08:30 コーディネーターが脳死判定承諾書、臓器摘出承諾書を受領。
09:04 法に基づく第一回脳死判定開始。
11:30 脳死判定に立ち会った母親が途中退席。
11:46 法に基づく第一回脳死判定終了。
16:30 ABR再検:平坦。
18:13〜
18:35
院長、救命センター部長、主治医及びコーディネーターが家族に経過説明。
18:31 法に基づく第二回脳死判定開始
19:05 脳波測定開始
21:00 法に基づく第二回脳死判定終了。法的に脳死と判定される。
21:10 病院長、コーディネーターに結果を報告。
21:15 ABR施行:平坦。
21:30〜 警察、監察医務院院長により検視・検案施行。死体検案書交付。
21:45 血圧低下傾向、血漿蛋白製剤投与。
23:00 心エコー施行:左室壁運動低下を認める。
3月29日
01:00頃

循環機能低下している事をコーディネーターに説明。
02:00頃 コーディネーターから、移植チーム到着までに状態が悪化するようなら、緊急に肝・腎のみでも摘出できる用意をしたいとの申し入れあり。家族の了解を得た後、手術室、麻酔科医に連絡、準備をしてもらう。家族からは最悪の場合は心停止後にでも腎提供をしたいと申し出あり。
03:00〜 循環動態やや改善。
03:15 ノルエピネフリン投与中止。血圧90mmHg台を維持。
04:30 肺動脈圧上昇したためバゾプレシン投与中止。
05:50 東北大学肺移植チーム来院、気管支鏡検査施行。
06:00 尿量増加したためバゾプレシン投与再開。
06:50 大阪大学、国立循環器病センター心移植チーム来院、心エコー検査施行。
08:00 大阪大学肺移植チーム来院、診察。
10:15 手術室へ向かう。
10:29 手術室入室
11:12〜 摘出手術開始
16:15 摘出手術終了
経過記録


〈参考資料2〉

臓器提供の経緯

〈参考資料3〉

臓器の搬送

〈参考資料4〉

脳死下での臓器提供事例に係る検証会議名簿

氏名 所属
 宇都木 伸
 川口 和子
 嶋 多門
 島崎 修次
 竹内 一夫
 アルフォンス・デ ーケン
 新美 育文
 貫井 英明
 平山 正実
 藤森 和美
○藤原 研司
 柳田 邦男
東海大学法学部教授
全国心臓病の子供を守る会幹事
福島県医師会会長
杏林大学医学部救急医学教授
杏林大学名誉教授
上智大学文学部人間学教室教授
明治大学法学部教授
山梨医科大学脳神経外科学教授
東洋英和女学院大学人間科学部教授
聖マリアンナ医学研究所カウンセリング部長
埼玉医科大学第3内科教授
作家・評論家
(50音順/敬称略。○:座長)


〈参考資料5〉

医学的検証作業グループ名簿

氏名 所属
 大塚 敏文
 桐野 高明
 島崎 修次
○竹内 一夫
 武下 浩
 貫井 英明
日本医科大学理事長
東京大学医学部長
杏林大学医学部救急医学教授
杏林大学名誉教授
宇部短期大学学長
山梨医科大学脳神経外科学教授
(50音順/敬称略。○:班長)


医学的検証作業グループ参考人名簿

浅井 昌弘
大熊 輝雄
慶應義塾大学医学部教授
国立精神・神経センター前総長
現大熊クリニック院長
(50音順/敬称略。)



〈参考資料6〉

脳死下での臓器提供事例に係る検証会議における第5例目に関する検討経過

平成12年4月17日 医学的検証作業グループ(第1回)
5月11日 第2回脳死下での臓器提供事例に係る検証会議
5月18日 医学的検証作業グループ(第2回)
・5例目を検証。


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