ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 健康局が実施する検討会等> 水道における微生物問題検討会> 令和2年度第1回水道における微生物問題検討会(2020年12月22日)

 
 

2020年12月22日 令和2年度第1回水道における微生物問題検討会

医薬・生活衛生局水道課水道水質管理室

○日時

令和2年12月22日

 

○場所

オンライン会議

○出席者

委員(敬称略)
  

青木 稔 秋葉 道宏 五十嵐 良明 泉山 信司 枝川 亜希子
片山 浩之 島崎 大 橋本 温 船坂 鐐三 吉田 弘
                    

関係者(敬称略)

三浦 尚之

○議題

(1)水道における微生物対策の実施状況について
(2)クリプトスポリジウム等に関する知見について
(3)新型コロナウイルスに関する知見について
(4)WHO定量的微生物リスク評価について
(5)その他
 

○議事

 

 

○上島係長 
 それでは、定刻になりましたので、ただいまより令和2年度第1回「水道における微生物問題検討会」を開催いたします。
 委員の皆様におかれましては、年末の大変お忙しいところを御参加いただきまして、誠にありがとうございます。
 初めに、開催に当たりまして、厚生労働省医薬・生活衛生局水道課水道水質管理官の林より挨拶を申し上げます。

○林水道水質管理官 
 水道水質管理官の林でございます。
 本日はお忙しいところを大変ありがとうございます。
 今日は新型コロナウイルスの感染対策の一環としまして、オンライン会議とさせていただいております。検討会の様子はライブ配信ということでございます。ふだんとは少し勝手が違いますけれども、どうぞよろしくお願いいたします。
 この検討会でございますけれども、毎年度1回のペースで開催してきたところです。昨年度の開催は本年3月を予定しておりましたけれども、新型コロナウイルスの感染拡大の状況を踏まえまして、やむを得ず中止とさせていただきました。直近の開催は平成30年6月18日ということになりまして、約2年半ぶりの開催となります。
 前回までの検討会では、地表水を原水とする浄水施設の耐塩素性病原生物対策といたしまして、ろ過設備によるろ過を行った上での紫外線処理の有効性。これを中心に御審議いただいてまいりました。審議結果を踏まえまして、その後、水道施設の技術的基準を定める省令とクリプトスポリジウム等対策指針。この2つの改正案についてパブリックコメントを行い、令和元年5月29日に公布、施行されたところでございます。これによりまして、地表水を原水とする浄水施設につきましては、それまでろ過水の濁度を0.1度以下に管理するという対策に加えまして、ろ過後の紫外線処理が新たに対策の一つに追加されたことになりました。水道事業者等における対策の選択肢が増えたということになりました。ここに御報告を申し上げますとともに、委員の皆様には改めて感謝を申し上げます。
 本日の検討会では、耐塩素性病原生物や新型コロナウイルスに関しまして、厚生労働省からは最近の状況を御説明するとともに、委員の皆様からも話題提供いただく予定としております。今後の水道水の病原生物対策について、忌憚のない御意見を頂戴できればと存じますので、本日はどうぞよろしくお願いいたします。

○上島係長
 本日の委員の出席状況でございますが、10名の委員全員に御参加いただいております。参考資料1に委員名簿がございます。恐縮ですが、お一人ずつの御紹介は控え、委員名簿をもって御紹介に代えさせていただきます。
 また、本日はオブザーバーとして国立保健医療科学院、三浦主任研究官に御参加いただいております。
 そして、事務局からは、先ほど挨拶申し上げた林、室長補佐の十倉、係長の籠田、私、係長の上島が出席しております。どうぞよろしくお願いいたします。
 本日の資料については、事前に委員の皆様にお送りさせていただいているところですが、議事の進行中も該当の資料を画面上に表示させてまいりますので、画面を御覧いただければと思います。御発言の際は、Zoomの機能のミュートを解除していただき、御発言が終わりましたらオフにしていただきますようお願いいたします。
 次に、参考資料2の運営要領に基づきまして、座長を選出させていただきます。
 座長は第1回検討会において構成員の中から選出することとしております。事務局としては、これまでの検討会で座長を務めていただいた秋葉先生にお願いしたいと思いますが、よろしいでしょうか。

(異議ないことを確認)

○上島係長
 どうもありがとうございます。
 それでは、ここから進行は秋葉座長にお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

○秋葉座長
 ただいま座長に指名いただきました、国立保健医療科学院の秋葉でございます。
 皆様方から闊達な御議論をいただきまして、座長として取りまとめていきたいと思います。御協力のほど、よろしくお願いいたします。
 それでは、議事に入る前に、検討会の公開の取扱いについて、事務局より御説明をお願いいたします。

○上島係長
 事務局より説明をさせていただきます。
 参考資料3を御覧ください。本検討会の公開の取扱いにつきましては、参考資料2の運営要領にあるとおり、検討会において決定するとされております。個人情報保護等の特別な理由がない限り公開するとしておりますので、本日の検討会も公開とし、また、委員の氏名等、会議資料、議事録についても併せて公開といたします。
 資料については、取りまとめの前の調査結果などは非公開としておりますが、本日の資料については、作成いただいた委員から公開について御承諾をいただきましたので、全ての資料を公開したいと考えております。

○秋葉座長
 どうもありがとうございます。特に何かございますでしょうか。
 それでは、そのような取扱いでお願いいたします。
 では、議題に入ります。まず議題(1)の「水道における微生物対策の実施状況について」、事務局から資料1の説明をお願いいたします。

○十倉室長補佐
 それでは、資料1に関しまして、水道課、十倉が御説明させていただきます。
 「水道における微生物対策の実施状況について」です。まず、遊離残留塩素濃度に関する事故事例、次に、クリプトスポリジウム等対策の実施状況あるいは調査結果、さらに給水停止等の対応状況について御説明させていただきたいと思います。
 1ページ目、水道における遊離残留塩素濃度に関する事故事例についてです。厚生労働省では水質事故情報等の提供を事業体等の方々にお願いしているところでありますが、報告された水道水質関連事故事例のうち、平成29年から令和2年11月に発生しました遊離残留塩素濃度が0.1mg/Lを下回る等の塩素消毒に関する事故事例を抽出しまして、表-1に示しました。平成29年から令和2年11月にかけて、合計で16件の遊離残留塩素濃度に関する事故事例が報告されております。このうち、健康被害が確認された3例について御説明させていただきます。
 1つ目は、29年の山梨県の飲用井戸についてですが、残留塩素濃度の測定が行われないで供給されていた期間に18名が体調不良を訴え、うち10名からカンピロバクターが検出された事例であり、日常管理の徹底などが指導されております。
 2つ目は、31年の兵庫県の簡易専用水道で、複数の飲食店が入店する商業ビルになりますが、地下式の受水槽に汚水が流入したことにより6名に健康被害が発生し、給水栓水からもノロウイルスが検出された事例で、保健所から原因究明及び再発防止のための改善策の提出が指示されております。
 3つ目は、令和元年の長野県の飲料水供給施設で、宿泊施設になりますが、塩素注入装置の不具合により41名が下痢、発熱、腹痛などを発症し、給水栓水からカンピロバクターが検出された事例です。
 また、今年度、健康被害は発生しておりませんが、京都府の簡易専用水道において、受水槽及び高架水槽の水が長期にわたり滞留したことで残留塩素濃度が低下したために、一般細菌が基準値を超過した事例がございました。こちらは6月に学校で発生した事例ですが、新型コロナの影響で休校になっていたために水の使用量が減少したことが影響しているものです。
 そのほか、健康被害が確認されなかった事例も含め、塩素注入装置の故障や詰まりが原因で残留塩素濃度が不検出となる事例が多くなっております。さらに、一般細菌の基準超過や大腸菌を検出した事例が毎年発生しております。対応としましては、飲用制限や受水槽等の清掃、残留塩素濃度管理の徹底などがなされています。
 水道における遊離残留塩素濃度に関する事故事例については以上です。
 続きまして、2ページ目は、水道におけるクリプトスポリジウム等対策についてです。図-1につきましては、クリプトスポリジウム等対策指針に書かれているもので、汚染のおそれの判定基準、それに対する必要な予防対策をまとめたものです。令和元年5月29日に施設基準省令及び対策指針を改正し、クリプトスポリジウム等による汚染のおそれが高いレベル4の表流水を原水とする水道施設に対しても、ろ過処理を行った上での紫外線処理を適用可能としております。
 2ページ目の下から3ページ目の表-2には、31年3月末時点のクリプトスポリジウム等対策の実施状況を示しております。水道事業、水道用水供給事業及び専用水道における対策指針に基づく浄水施設でのろ過または紫外線処理施設の整備や水源変更等によるクリプトスポリジウム等対策の実施状況について調査を行いました。表-2ですが、全量受水を除く表流水、伏流水、浅井戸または深井戸を水源とする浄水施設の施設数としましては2万135施設ございまして、そのうち水道原水のクリプトスポリジウム等による汚染のおそれがある施設、つまり、予防対策の必要なレベル4の施設が4,150施設ございます。このうち3,660施設では既に対策施設設置等の予防対策について実施済みでありました。残る490施設につきましては、対策施設設置等について検討中である、もしくは検討を行っている段階でございました。
 同様に、予防対策の必要なレベル3の施設が3,544施設ございまして、このうち1,797施設では対策実施済みでありました。残る1,747施設、レベル3施設の約半数が対策を検討中という状況です。
 これらの施設では、当面の措置として、対策指針に基づき原水の水質監視を徹底し、クリプトスポリジウム等が混入するおそれが高まった場合には取水停止を行うこととされています。なお、クリプトスポリジウム等の汚染のおそれの判断を行っていない施設数、レベル未判定の施設数は1,315施設ありまして、調査対象の浄水施設数の約7%を占めているという結果になっております。
 4ページ目、5ページ目は、クリプトスポリジウム等の検出による給水停止等の対応状況につきまして、平成8年から令和2年11月末までに厚生労働省水道課に報告された事例をお示ししております。平成8年の埼玉県越生町上水道における事故以降、水道事業、水道用水供給事業及び専用水道が供給する水を原因とするクリプトスポリジウム等による感染症発生事例は報告されていませんが、平成22年度に千葉県成田市において貯水槽での汚染が原因と見られるジアルジア症が発生しております。
 これらの報告事例のうち、平成28年度以降の報告事例につきまして7件の報告がございまして、長期的対応の状況についてフォローアップした結果を6ページ目の表-4に示しております。
 1つ目は、28年度の長野県箕輪町の簡易水道での事例で、該当する水源の給水人口1,200人の湧水を水源とする塩素消毒のみの施設でしたが、紫外線照射設備を設置し、運用しているとのことでございます。
 2つ目は、長野県辰野町の簡易水道での事例で、該当する水源の給水人口68人の湧水を水源とする塩素消毒のみの施設でしたが、膜ろ過施設を設置し、運用しているとのことでございます。
 3つ目は、千葉市の専用水道での事例で、確認申請時の給水人口は1,869人の地下水を水源とする塩素消毒のみの施設でしたが、紫外線照射設備を設置するとともに、3か月に1回、指標菌の検査を実施しているとのことでございます。
 4つ目は、愛媛県大洲市の簡易水道での事例で、該当する水源の給水人口364人の表流水を水源とする緩速ろ過の施設であり、浄水の濁度管理を強化するために高感度濁度計を設置し、3か月に1回、クリプトスポリジウム等の検査を実施しているとのことでございます。
 5つ目は、29年度の鹿児島県長島町の簡易水道での事例で、該当する水源の給水人口1,177人の深井戸を水源とする塩素消毒のみの施設でしたが、紫外線照射設備を設置し、運用しているとのことでございます。
 6つ目は、30年度の山形県村山市の上水道で、該当する水源の給水人口427人の湧水を水源とする塩素消毒のみの施設でしたが、当該水源は廃止し、全量を水道用水供給事業者からの受水に切り替えたとのことでございます。
 最後、7つ目が、今年11月に長野市の上水道で、該当する水源の給水人口15人の湧水を水源とする塩素消毒のみの施設で発生した事例です。原因としては、水源地にハクビシンが侵入し、汚染されたと考えられております。現在、応急的な対応として可搬式膜ろ過設備を設置しているところですが、長期的な対応につきましては水源の切替えを含めて検討しているとの報告を受けております。
 資料1の説明は以上でございます。

○秋葉座長
 どうもありがとうございました。
 それでは、ただいまの御説明に対しまして、御質問、御意見等がございましたら、挙手をお願いできますでしょうか。
 片山先生、お願いします。

○片山委員
 御説明があったかも分からないのですけれども、昨年の兵庫県のノロウイルスの事例で、残留塩素はどうだったのかということが気になったので、御質問させていただきます。

○秋葉座長
 分かりました。

○十倉室長補佐
 事務局ですけれども、この問題が発生した時点で残留塩素は不検出だったと報告を受けております。

○片山委員
 分かりました。ありがとうございます。

○秋葉座長
 では、続きまして、橋本先生、お願いいたします。

○橋本委員
 県立広島大学の橋本でございます。
 今の片山先生と同じところの残留塩素の件なのですけれども、これらの事例がそれぞれケース・バイ・ケースなのだと思うのですが、残留塩素の計測によって残塩が基準値以下だったことが判明したケースと、何か突発、例えばカンピロとかノロとかの感染者が出て残塩がなかったことが分かったケースとか、そのような区別はついているのでしょうか。というのは、何か事故があって残塩を測って残塩がなかったということと、ちゃんと定期的に残塩を測っているところでなかったことに気づいたということでは意味が全然違ってくると思うのです。その辺の整理ができたら教えていただきたいと思うのですけれども、いかがでしょうか。

○秋葉座長
 事務局、いかがでしょうか。

○籠田係長
 事務局の厚生労働省水道課の籠田と申します。
 御質問ありがとうございます。今回1ページ目で御紹介しております残留塩素が検出されなかった事故については、様々なケースがあるのですけれども、行政の立入検査で残留塩素が不検出だった事例ですとか、または汚水が貯水槽に流入しまして、臭いや濁りのような水が給水栓から供給されてそれで発覚したケースですとか、残留塩素をめぐりましては様々あるのですが、もしくは定期の検査で大腸菌が検出されて残留塩素が不検出であったことが発覚したものですとか、明らかに残留塩素の管理が不十分だった、塩素注入の管理が不十分だったケースなどもございます。

○橋本委員
 分かりました。その辺りの原因、なぜそれが分かったのかということだとか、なぜそれが発生してしまったのかをきちんと整理して統計を取るなりすることが次の対策につながるのかなと思いましたので、できたらそういうところを事例が少ないというより多いと考えたほうがいいのでしょうか。年間に数例ずつ出てくるというのは、事例としては多いでしょうけれども、まとめるには少ないのかもしれませんけれども、少し整理したらいいのかなと思いました。ありがとうございます。

○秋葉座長
 どうもありがとうございます。

○籠田係長
 ありがとうございます。

○秋葉座長
 これは結局、この3事例が健康影響が生じてしまったということで、この3事例は残留塩素を定期的に測定しているのではなくて、その被害発生後、残留塩素を確認したということでしょうか。

○籠田係長
 そのとおりでございます。

○秋葉座長
 橋本委員からは、残留塩素に関しまして、定期検査なのか、臨時なのか、そのようなところも含めて整理してくださいという話でした。
 そのほか、何かありますか。
 船坂委員、お願いいたします。

○船坂委員
 給衛協の船坂です。
 表-2の注4)のところで、レベル不明施設数についてですけれども、指標菌の検査に基づく判断が未実施であるということは、指標菌の検査はやっているのですね。どうして判断ができなかったかという理由と、今後こういう不明の施設についてどのように対応されていくかということについてお聞かせください。

○十倉室長補佐
 事務局ですけれども、レベル不明のところにつきましては、そもそもこれは原水の検査ですので、原水の検査でしていなかったというところ、もしくは片方しかしていないということもあるかと思うのですけれども、そういったところが不明となっております。

○籠田係長
 事務局の籠田です。
 全ての施設についてレベル判断は必要となりますので、水質関連調査等で都道府県等とやり取りしている中で、今後も引き続き都道府県等を通しまして指導していただいたり、大臣認可の事業体につきましては、厚生労働省からレベル判断の実施についてはしていただきたいということでお話ししていきたいと考えております。

○秋葉座長
 よろしくお願いいたします。
 よろしいですか。
 そのほか、何かございますでしょうか。
 枝川委員、お願いいたします。

○枝川委員
 大阪健康安全基盤研究所の枝川です。
 情報をありがとうございます。先ほどの表-1のところで、令和2年、京都府でコロナで少し使っていなかった施設で一般細菌が超過したという事例が紹介されたと思うのですけれども、このときの菌数ですね。オーダーとしてどれぐらい上昇したのかを教えていただけたらと思います。

○籠田係長
 事務局の籠田です。
 令和2年度の京都府の簡易専用水道のケースなのですが、複数の学校で同時多発的に同じような状況が確認されていまして、この定期の水質検査結果では260~1万1000個/mLで検出されたと報告を受けております。

○枝川委員
 ありがとうございます。
 生活様式が変わることによって、水道だけでなく建築物内ですとかそういったところの滞留でこういった事例が今後増えてくるのかなと思っておりますので、また情報があれば開示していただけると大変ありがたいと思います。ありがとうございます。

○秋葉座長
 そのほか、何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。
 では、次の議題に入りたいと思います。議題(2)の「クリプトスポリジウム等に関する知見について」に入ります。
 資料2につきまして、泉山委員、橋本委員から説明をお願いいたします。

○泉山委員
 泉山です。よろしくお願いします。
 こちら、資料2「水道水における耐塩素性病原生物のリスク等について」ということで御紹介をします。
 こちらはクリプトスポリジウムとジアルジアの写真になります。左側がクリプト、右側がジアルジア、5類の全数把握疾患で、診断した医師は保健所に届け出るという約束です。腸管に寄生して下痢を引き起こします。たった1つを飲んだだけで10%とか、高い確率で感染するのですけれども、この数字については後で詳しくお話ししたいと思います。消毒に抵抗性があるものですから、水道水の塩素消毒等にも抵抗して、水系感染で問題になってきます。食品等の経路とか様々な経路を介して、とにかく糞便を口に入れてしまうと感染するというものです。クリプトスポリジウムの場合は特効薬がなくて、免疫不全で致命的になることがあるので注意が要ります。ジアルジアにはメトロニダゾールが使えます。
 大規模水系感染は避けたいわけです。これはアメリカのミルウォーキーで水道40万人が感染した事例、それから、ヨーロッパですとスウェーデンで2万7000人、日本国内では越生町水道8,800人ということで、この辺りの話については、この会議に参加されている方はよく御存じかもしれませんけれども、繰り返し御紹介しています。
 浄水場の模式図ですが、クリプトスポリジウム対策としましては、原水の品質を確認して、凝集剤をちゃんと使ってごみを凝集・沈殿して、ろ過をして除く。きれいになった水を濁度計で確認して、対策に追加が必要となれば紫外線や膜ろ過、そういうものを使っていくということになって、塩素消毒だけではちょっと対策不足ということになります。
 こちらの表は先ほど資料1のほうで水道課から御紹介がありましたので、省略します。
 とにかくクリプトスポリジウムやジアルジアが浄水中に入ってしまうと困ったことで、煮沸勧告になってしまったりして、給水人口によりますけれども場合によっては10万人単位で影響を受けてしまう。生水は飲まないで煮沸してくださいというように、非常に混乱するわけです。
 国内のクリプトとジアルジアの流行状況ですけれども、届出数としましては非常に少ないです。クリプトスポリジウムが年に大体10件とか20件とかあって、集団感染があるとこのような飛び上がった数字が出てきます。ジアルジアはなだらかですね。いずれにしましても、下痢症を起こしても、まず病院にかからないとか、あるいは診断、検査がなかなか行われないことがあって、とにかく事故が問題になってくるわけです。
 国内の集団感染は94年の平塚とか96年の越生町から始まって、大体2年置きにこのような事故があって、最近のものまで含めて把握し切れないぐらいあるのですけれども、集団感染になるし、輸入感染症にもなるし、とにかくユビキタスにいろいろなところにクリプトとジアルジアはいるのだということが分かっています。
 ここからは、橋本先生に説明をお願いしたいと思います。

○橋本委員
 橋本です。
 今のお話の中で、水道の原水になる河川水のクリプトの汚染の実態をもうちょっとちゃんと評価しましょうということで、そのバックグラウンドとしましては、河川の汚染をどうも小さく評価している可能性はないかというところでして、それはなぜかというところが次のところですが、そもそも水質基準にないということから、しっかりとデータベース化されていない、いろいろなデータの蓄積がないということ。それから、これは水道事業体さんのほうでどうしてもクリプトが水道原水から検出されることがネガティブな意味を持ってしまって、いろいろな対策をしなければならない。そういった陽性を避けてしまうバイアスがあるのではないかと。これをどうにか緩和したい。実際にはどこで出てきてもおかしくないのだというところにスタートラインを持っていきたいということ。それから、検査方法ですね。現在、10Lの水道原水等の河川水を検査する。これをもう少し改善したり向上したりすることができないかということを目的としまして、まずは1番として、クリプトの全国のデータの試験結果をまずは地図上に示して見てみましょうというところからお話をしたいと思います。
 データとしましては、水道課さんで全国の水道原水のクリプトの調査結果を集約されております。それのデータを使わせていただきまして、毎年50件ぐらい陽性の報告があります。このデータを使いました。
 次で、どれぐらいの報告数があるか。これはクリプトとジアルジア、両方出ていますが、年間50件、60件、70件ぐらいなのですが、何とも言えないのですけれども、何となく平成20年から30年の10年間で少しなだらかに下がっているのではないかと見ることもできます。この下がっている理由が、例えば下のほうにありますように、流域の下水の処理能力が向上しているとか、ヒトでも動物でもいいのですが、流行が抑えられているといういい理由ならばいいのですが、一方でクリプトの検査頻度といったところが少し低下しているのではないかという危惧もないことはないので、この辺りも含めて検討したいと思っているところでございます。
 結果なのですが、平成20年から30年の10年間、全国でクリプトの水道原水から検出があったところを、位置は多少ずらしてプロットしているのがこの地図です。これを見ていただくと、ぱっと見たところでは関東と近畿とか、一部の地域に集中しているように見えるのですが、これは当然、人口が多くて水道事業体さんもたくさんあるので検査数が多いというだけのことで、そういう見方よりも、全国各地、北海道から沖縄までどこも満遍なく検出されるというのがこの地図で読み取るところなのかと思います。どこの水源から出ても珍しいことではない、当たり前なのだというところから、対策や検査等を実施していくべきではないかということが見られると思います。
 同様にジアルジアも、次のところですけれども、同じような雰囲気で、全国各地で満遍なく出てくるイメージでございます。
 これが全国のデータをまとめたものでございます。
 次が試験の状況です。現在10Lの水道原水の検査ということをもう少し広域的に、例えば従来よりもっと高感度に、地域の健康診断、その流域の地域の疫学的な情報であるとか、感染者数だとか、感染リスクといったものを大きく捉えるという意味で、下水の検査をするというのが一つの手ではないか。コロナなどでも行われていますけれども、こういったことを検討してやってみたというところです。
 検査方法としては、普通にこのようにしてやりましたということで、これは一部のところと共同研究でやっております。
 この結果がこちらです。2018年のクリプトとジアルジアのある地域の下水処理場の放流水の検出結果です。なかなか水道原水だと全国で50件ぐらいしか毎年出てこないのに対して、これだけやってもクリプトだけでも1か所ですけれども、2回出てきて、濃度で言っても1Lで0.4個、10Lで4個ぐらい出てくる。ジアルジアに関してはほぼ毎月どこでも出てくるよというイメージで、一番多いところですと240個、10Lで2,000個などというオーダーで出てくる。こういうことがあり得る。
 これが次の年、2019年が同じように、違う地域、違う処理場ですけれども、やはり出てきて、幾つかのところで検出されますし、クリプトに関しては4.8個などというものが出てきます。高濃度でこうやって検出されますので、その地域のクリプトの感染の実態ですとか、一つの汚染源として考えた場合に、汚染源のデータという意味では、水道原水を調べるというのも一つですけれども、高濃度に検出されるであろう、こういった下水を見ようではないかということでございます。
 よろしいでしょうか。

○泉山委員
 引き続き、泉山からお話しします。
 クリプトの感染性のお話なのですけれども、これは相当に高いのではないか、低い濃度でも問題になってしまうのではないかということを危惧しています。10L中に僅か0.08個、最大の濃度で0.08個の水道水を使ったときに、患者が218人発生してしまったという報告が出ています。こうなってくると適切なろ過をする必要があるし、ちゃんと対策をしていかないと困るのではないかという印象があります。たった1個を飲んだときの感染確率は、以前は0.4%しかないと考えられていました。ところが、感染しやすい種と株がどうもある。アメリカのEPAの資料ですと10%程度、WHOの資料ですと20%程度と、前提が桁違いに変化しているのです。さらに、新しい報告を見ますと1個で50%ということで、2桁もオーダーが上がってしまっていて、これはすごく困ったなという印象があります。
 これは水道水を介した感染確率について、平成15年の会議資料を引用したものです。ここからここまで(表の左側)は引用して、ここ(表の右側2列)を私が付け加えています。原水中のオーシストが10L中に1個あった場合、3桁(3log)の99.9%を除去できたとして、10-4個/Lの濃度で水道水中に出てきてしまうのだろう。これを1日に1L飲めば、10-4個飲んでしまうかもしれない。1個飲んだときに0.4%感染するのだったら、年間に直すと1.5×10-4個程度の感染確率、万に一つ感染するのではないかという結果になります。健康影響度を掛け算して、年間このくらいに健康影響を受けてしまうかもしれないということを表示しています。
 こちら(表の右側2列)では逆算しています。水道における化学物質の健康影響度の目標に倣えば、10-6程度の健康影響度に抑えましょうと。そういう目標の場合は、2.2logの除去をすれば足りているのだろう。あるいは10-4/年の感染確率に抑えたい場合には3.2log、99.9%程度除去すればいいのではないかという逆算になります。
 これを新しい感染確率で計算してみます。0.4%の従来に対して、新しい10%、20%あるいは50%の感染確率で計算してみる。あるいは、1Lも水を飲む人は今は少ないかもしれないので、200mLの計算を加えてみましょう。原水中のオーシスト濃度は10Lに1個。これはそのまま前提として使っています。結果として、従来は2logないし3log取れればいいのではないかと考えられていたものが、新しい感染確率を使うと3logないし5log、99.9%ないし99.999%ぐらい取らないと目標を超えた感染が起こってしまうかもしれないという印象、そういう結果になっています。
 ただ、これは原水の汚れの具合によるのです。結局、浄水場ごとに事情が異なるのです。いろいろな水の事情があって、詳しくは言わないのですけれども、前提条件が異なるので、リスクの程度も大小してしまう。これらを考慮した上で、必要があればろ過施設を整備するとか、紫外線とか、膜処理を入れるとか、引き続き濁度管理も徹底して、対策していったらいいのではないか、という話です。
 以上になります。

○秋葉座長
 どうもありがとうございました。
 それでは、泉山委員、橋本委員の御説明に関しまして、御質問、コメント等がございましたら挙手を願います。
 島崎委員、お願いいたします。

○島崎委員
 国立保健医療科学院の島崎でございます。
 泉山先生、橋本先生、大変興味深い検討結果をどうもありがとうございました。
 橋本先生から御紹介いただいたクリプトなりジアルジアの検出結果は、確かに日本地図上にプロットしてみると全国津々浦々どこで出てもおかしくないのかなというのはよく分かりました。ただ、その一方で、それぞれの水道事業体がすべからくクリプトやジアルジアを測れるわけではないということを考えると、先ほど泉山先生のお話にもありましたとおり、自分の水道原水にどれだけ潜在的にクリプトやジアルジアがいるのか。そこを判断する取っかかりとしては、やはり指標菌である大腸菌およびウエルシュ菌の存在濃度がどの程度であるのか把握することが重要と考えます。
 当然、大腸菌濃度が高いような原水であればクリプトのリスクも高くなるだろうというふうに想像できると思いますが、もしそういった情報等を同時に比べることができるのであれば、地図上でバツがついているところでは指標菌も検出されていると思いますので、各指標菌がどの程度の濃度で検出されているのか興味があります。原水で毎月など定期的に測っているデータがあれば、原水中の指標菌の濃度が所定のレベルに達すると、クリプトも要注意というレベル分けのようなこともできるかもしれません。思いつきの部分もありますが、そういった御検討もなさると非常に有益な情報になるかなと思った次第です。

○泉山委員
 コメントをありがとうございます。
 これに関しましては橋本先生がまさに考えているところ、橋本先生、もし現状について御紹介できたらありがたいですけれども、どうでしょうか。クリプトと芽胞菌の結果をまとめるなどという話があったと思いました。

○橋本委員
 現在、まだデータが集まっていないというか、今、年間50件ぐらいポジティブのデータが出てきて、ほとんどレベル4なのですけれども、レベル4で年間50件ぐらい集まってきている。クリプトのデータと指標菌のデータがしっかり合わさったデータが昨年度から厚労省さんのほうで取っていただけるということで取り始めていますので、それを数年分集めて、例えばレベルごとに指標菌の検出レベルがどうだとか、指標菌が出たときにクリプトがちゃんと出るのかとか、もしくはその逆なのかといった辺りをこの後詰めていきたいなというイメージです。今、島崎先生がおっしゃったとおりで、そのようなデータをこれからまた取っていきたいと思っております。

○島崎委員
 ありがとうございます。
 ついでながら申し上げると、水道統計を参照すると水道原水の大腸菌を測っている水道事業体も少なからずありますので、そういったデータも見ていただけると、各水域の大腸菌のバックグラウンドのレベルも把握できるかと思いました。よろしくお願いいたします。

○秋葉座長
 よろしいでしょうか。
 そのほか、何かございますでしょうか。よろしいですか。
 では、次の議題(3)の「新型コロナウイルスに関する知見について」に入ります。
 まず、資料3について事務局から、その次に資料4については三浦主任研究官から説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

○林水道水質管理官
 事務局の林でございます。
 資料3を御覧いただきたいと思います。こちらは新型コロナウイルスに関するこれまでの対応ということで、厚労省から事務連絡、通知などをこれまで発出してきておりますので、それの一覧をまとめたものでございます。通知、事務連絡そのものについては、参考資料4にお示ししております。ここに書いてあるものは概要を書いてあるということで、幾つか御紹介します。
 まずは1番でございますが、1月31日「新型コロナウイルス感染症に対する対応について」ということで、職員をはじめとする作業従事者の感染予防対策に努めるように依頼ということであります。
 それから、5番です。3月18日に水道料金の関係でございますけれども、支払いについて困難を来している者について、支払い猶予等の対応、それから、料金未払いによる機械的な給水停止の回避等、柔軟な措置の実施の検討を依頼したというものであります。
 先に行きまして、12番、6月2日でございます。こちらはいわゆる水道メーターの件でございまして、経済産業省が所管になる部分でございますけれども、水道メーターの検定の有効期間が8年ということですが、4月から7月の間に有効期間が満了になる水道メーター。これについては6か月間効力を延長させるという措置を経済産業省は取りましたので、その情報提供をしたというものでございます。この事務連絡、通知の宛先は水道事業体もしくは都道府県の水道行政担当課というところになります。
 最後14番、直近の事務連絡でございますと、11月30日ということで、水道事業者における職場における感染予防、健康管理の徹底に努めるよう改めて依頼と。幾つか、この類いの事務連絡を何回か出させていただいております。
 それから、水道水については、新型コロナは大丈夫かというところについては、特に事務連絡などは発出しておりませんけれども、こちらの新型インフルエンザ対策マニュアル策定指針にありますQ&Aというものを照会のあった事業体の皆様には紹介をさせていただいておりました。基本的に水道水は塩素消毒をしておりますので、こういったウイルスに対してもそこは問題ないということでございまして、特に新型コロナのようなエンベロープを持つウイルスは比較的、塩素消毒に対する耐性もあまりないということもありまして、十分、水道水の塩素消毒の中で対応できているということでございます。
 こちら、新型インフルエンザに関するQ&AのQ1でございますけれども、インフルエンザウイルスもエンベロープのあるウイルスということで、水道水の飲用等の御利用についても問題ありませんということでございます。
 Q2ですと、職員が感染した場合に水道水に影響があるのではないかということですけれども、こちらについても、適正な浄水処理、消毒を行っているので、感染のおそれはないということでございます。こういったものを御紹介させていただいているということでございます。
 説明は以上です。

○秋葉座長
 どうもありがとうございました。
 では、引き続きまして三浦主任研究官お願いします。

○三浦氏
 国立保健医療科学院の三浦でございます。
 私からは、WHO/UNICEFによる「COVID-19の原因となるSARS-CoV-2に関する水、衛生、廃棄物の管理暫定ガイダンス」について御説明いたします。資料4を用いて説明を進めてまいります。
 COVID-19の世界的流行を受けまして、WHOでは新型コロナウイルスの感染予防と管理を目的とした「Technical Brief」という技術概要をトピックごとに作成し、公開しております。水と衛生に関わる実務者及び医療従事者に対しても、新型コロナウイルスに関連する情報を整理した技術概要がWHOとUNICEFによって作成されました。そのタイトルが一番上に示しております「Water, sanitation, hygiene and waste management for the COVID-19 virus」で「新型コロナウイルスに関する水・衛生・廃棄物管理」になります。
 技術概要の公開前に新型コロナウイルスの正式名称が「SARS-CoV-2」と決定されておりますが、このウイルスによってSARS、重症急性呼吸器症候群が引き起こされるという誤解を与えないようにするために、WHOでは当初「COVID-19 virus」という名称を用いることとし、出版に至りました。後に正式名称「SARS-CoV-2」を用いたタイトルに変更になっております。
 この「Technical Brief」という技術概要は3月3日にまず出版されました。その後、3月19日に書式が変更になりまして「Interim Guidance」、暫定ガイダンスとなっております。
 この間に、患者の糞便や下水から新型コロナウイルスのRNAが検出されるという報告が増加してまいりました。そのことを受けまして、4月23日に1回目の更新が行われております。最初は29編だった参考文献に20件追加されまして、下水や糞便を取り扱う実務者向けに特に注意すべき点等が追記されました。この4月23日のガイダンスについて、当方で翻訳を作成しまして、国立保健医療科学院のウェブページにおいて仮訳として公開しております。
 その後、7月29日にさらに参考文献が20件ほど追加されまして、2回目の更新が行われました。そして、ガイダンスの名称についても先ほど申しました「SARS-CoV-2」という正式名称が用いられております。
 本日は、その構成の紹介と特に水道に関わる項目について解説を行ってまいります。
 まず、構成についてですけれども「背景」として5つの項目が整理されています。1つ目が「COVID-19の伝播」の様式についてです。そして、2つ目として、「SARS-CoV-2の飲料水、下水及び表面での残存性」について。3つ目として、「下水と糞便廃棄物の安全な取扱い」について。このような項目名になっておりますが、技術概要は様々な衛生状態の国や地域を対象としたガイダンスとして作成されておりますので、日本の状況に必ずしも当てはまらない部分もございます。ですが、可能な限り日本語に置き換えて説明してまいります。4番目として、「水供給を安全に保つ」ということ。そして、5番目、「下水と下水汚泥中のSARS-CoV-2の監視」。こちらの部分が7月29日版で追加となっています。
 本日取り上げて解説いたしますのは、水道の微生物学的安全性に関わることとして、2、3、4の部分を取り上げます。この5番目、下水と下水汚泥中のSARS-CoV-2の監視についてですけれども、現在、日本も含めて多くの国々で下水や下水汚泥中の新型コロナウイルスの調査研究が行われておりますが、ポリオウイルスと同様に、ヒトを対象とした疫学調査の補完ですとか、感染拡大の早期検知に利用できるかもしれないということが記載されております。ただし、ヒトを対象とした調査の代替として利用すべきではないということも併せて書かれております。このようなことが追記事項です。
 次の章では「医療現場におけるWASH」。こちらは「water, sanitation and hygiene」を略して「WASH」という言い方でガイダンスでは書かれておりますけれども「1.手指消毒の実践」「2.施設の衛生と配管」「3.施設のトイレと糞便の取り扱い」「4.医療廃棄物の安全な管理」「5.施設の環境の清掃及び洗濯」、6.で個人用保護具の「PPE」、テーブルやドアノブの「表面」、「床の洗浄で発生した雑排水または水の安全な廃棄」について、そして「7.遺体の安全な管理」についてです。
 最後の章では「家庭や社会でのWASHの実践に関する配慮」となりまして「1.手指消毒の一般的な推奨事項」「2.手指消毒資材」「3.手洗いのための水の品質と量の要件」「4.手洗い設備オプション」「5.家庭での消毒と排泄物の安全な管理」「6.家庭で発生する廃棄物の管理」「7.公営プールと水浴場の利用」となっております。この7つ目のプールや水浴場での利用に関しましては、少し水道とも関わるかとは思いますので説明いたしますけれども、淡水や海水浴場やプール、そして、温泉などが糞便に汚染されたとしても、新型コロナウイルス伝播のリスクは非常に低い。また、管理状況が良好な公営プール等においては、遊離残留塩素濃度が1.0mg/L以上、pHが7.2から7.8となるように管理すべきである。ただし、御存じの方も多いと思いますけれども、更衣室やトイレ、シャワー、レストラン等、利用者が「密」になる状況では伝播のリスクが増大するため、一般的な感染対策が推奨されると説明されております。
 それでは、具体的な中身に移ってまいります。まず、このガイダンスの一番最初に書かれている重要事項として3点挙げられております。1つ目が、頻繁で正しい手指消毒は、新型コロナウイルスへの感染を防ぐための最も重要な手段の一つである。WASHの実務者は、手指消毒を行えるよう環境を整備し、複数の手段で手指消毒の適切な行動をサポートすることにより、より頻繁に定期的に手指消毒ができるように取り組む必要がある。これも様々な衛生状態の国や地域を対象としているため、水道のパイプラインがないような施設においても手指消毒ができるように、タンクや蛇口を用意するなど、それらを実際に利用可能なようにサポートすることが掲げられております。アルコールベースでの手指消毒剤または石けんと水を使用し、正しい方法で、かつ適切なタイミングで手指消毒を実施することが重要である。
 2つ目です。飲料水と衛生サービスの安全管理に関するWHOの既存のガイダンス、飲料水水質ガイドラインですとかサニテーションガイドラインというものが出版されておりますが、そのようなガイダンスはCOVID-19のパンデミックにも適用できる。そして、水の消毒と下水処理により、ウイルスを低減することができる。衛生実務者は適切なトレーニングを受け、PPEを利用できる必要があり、多くのシナリオにおいて、PPEの特定の組合せが推奨される。
 3つ目です。水と衛生サービスを適切に管理し、衛生状態を良くすることで、ほかの多くの感染症も予防し、健康という副次的効果が得られるとまとめられております。
 それでは、水道に関わる具体的な項目に移ってまいりますけれども、まず「SARS-CoV-2の飲料水、下水および表面での残存性」についてです。まず、このような環境からウイルスが検出されるという報告についてです。未処理の飲料水からSARS-CoV-2が検出される可能性はあるが、これまでに感染性を有したウイルスは飲料水供給システムから検出された報告はない。
 河川水からSARS-CoV-2 RNAが検出された報告はあるが、表流水や地下水からほかのコロナウイルスは検出されたことがなく、飲料水供給システムが汚染されるリスクは低い。
 下水や下水処理汚泥からSARS-CoV-2 RNAは検出される。地域の患者数が増加するにつれ、下水中のウイルスRNA濃度も増加することが多くの国で報告されているが、未処理下水や下水処理水から感染性を有したSARS-CoV-2が検出された報告はない。
 続いて残存性についてです。SARS-CoV-2は、先ほど説明されておりますけれども、エンベロープウイルスというタイプのウイルスになります。ですから、ノロウイルスやA型肝炎ウイルスなどの水系感染するノンエンベロープウイルスと比較して、環境中での安定性が低い。
 こちらでは、実験室での研究結果が紹介されていますけれども、SARS-CoVは20度の塩素を除去した水道水や未処理の病院排水中において2日間しか残存しない。論文を確認しましたところ、最初に105TCID50の濃度のウイルスを用意しておりまして、2日後には不検出になっていたという結果です。次はインフルエンザウイルスで、こちらも先ほど説明されておりますけれども、コロナウイルスと同じエンベロープウイルスになります。こちらは残留塩素濃度0.3mg/Lの飲料水に5分間接触することで99.99%以上不活化される。こちらの文献も元はおよそ105のインフルエンザウイルスを用意して、それが101以下、不検出になったことが確認されたので、4桁、99.99%以上不活化されると報告しているものです。3つ目、こちらは同じコロナウイルスで一般的な風邪を引き起こすヒトコロナウイルス229Eを用いた実験ですけれども、23度の下水、下水試料の種類としては最初沈殿池越流水を用いておりましたけれども、その中で2日間で99.9%不活化する、3桁濃度が下がるというデータが報告されております。
 最後ですけれども、固体表面についてはSARS-CoV-2を用いた実験結果も出てきております。SARSコロナウイルスと同程度の残存性を示すそうです。また、表面におけるSARS-CoV-2感染価の半減期は1~7時間と報告されております。一方で、感染性を有したSARS-CoV-2が7日間検出されるという報告もありますので、まだ報告数は非常に少ない状況ですが、初期のウイルス濃度ですとか、用いた表面の種類、ステンレスなのか、プラスチックなのか、そのような材質の違い、そして、実験条件になりますけれども、室温や湿度による違いもあるので、今後も知見が蓄積されるのが待たれるところです。
 次に「下水と糞便廃棄物の安全な取扱い」についてです。今のところ、エビデンスはほとんど存在しませんが、特に糞便がエアロゾル化した場合は、糞便を介した感染の伝播は否定できないと書かれております。形態的にもSARSコロナウイルスと類似していることが分かっており、SARSコロナウイルスが糞便を介して伝播した事例が過去に報告されていますので、そういうことが起こらないとは言えないということが書かれております。排せつ物はSARS-CoV-2を含め潜在的に感染症のリスクがあるため、下水と糞便廃棄物は封じ込め、現場で処理するか、運搬して、適切に設計され管理された処理施設で処理される必要がある。標準的な下水処理プロセスは、SARS-CoV-2を含むエンベロープウイルスに有効である。衛生サービスの実務者は、保護服、グローブ、ブーツ、医療用マスク、ゴーグル、フェイスシールド等の適切なPPEを着用し、手指消毒を頻繁に行う等の標準的な作業手順を遵守すべきである。
 次に「水供給を安全に保つ」についてです。ろ過と消毒による従来の集中型浄水処理方式では、SARS-CoV-2の濃度を効果的に低減することができます。
 ほかのヒトコロナウイルスは、塩素処理及び紫外線照射による消毒が効きやすい。
 また、効果的な集中型の消毒では、少なくとも30分間の接触後に遊離塩素の残留濃度が0.5mg/L以上、pH 8.0未満である必要がある。こちらについては、アンダーラインを引かせていただきましたけれども、水道施設設計指針において、浄水池の有効容量は計画最大浄水量の1時間分以上の容量を確保するとされておりますので、日本の水道事業体の施設においては、ほぼこれを満たしていると考えられます。
 4つ目です。残留塩素は、配水システム全体で維持される必要がある。
 5つ目、水道事業管理者は、効果的な浄水処理に加え、水安全計画に基づくアプローチの一環として、浄水薬品や重要な補修部品、燃料等の適切な在庫の確保及び安全な飲料水の供給を維持するためのスタッフとトレーニングの計画等を導入できる。
 最後です。水道の作業従事者は、COVID-19の予防策を把握し、適切なマスクの着用、そして、ソーシャルディスタンスや衛生状態の確保等に努めるとされております。
 以上がWHOとUNICEFによるガイダンスに書かれている内容になりますけれども、最後に一専門家としてまとめを述べさせていただきます。
 浄水処理では、病源微生物を効果的に除去・不活化するために、まず凝集・沈殿、そして、ろ過による濁度除去の徹底、消毒剤注入率の管理、給水栓水における適切な残留塩素濃度の確保が重要です。これらの水質管理を徹底することにより、新型コロナウイルスを含めた病原微生物のリスクは管理されると考えられます。
 しかしながら、台風や豪雨の発生に伴い、水道水源に未処理下水が大量に入る場合もあるため、水源における病原微生物汚染には引き続き注視する必要があると考えております。
 以上で御説明を終わります。

○秋葉座長
 林管理官、三浦主任研究官、どうもありがとうございます。
 では、ただいまの御説明に対しまして、御質問、コメント等はございますでしょうか。
 林管理官、三浦主任研究官からの御説明にありましたとおり、水道水は塩素消毒が行われますが、特にエンベロープを持つウイルスは一般的に塩素消毒への耐性が低いと言われております。新型コロナウイルスに対しても水道水の安全性は確保されているということになると思います。新型コロナウイルスと塩素消毒に関する知見を御紹介いただきましたが、この点に対しまして改めてコメント等はございますでしょうか。
 委員の皆様方から他に何かございますでしょうか。泉山先生、お願いします。

○泉山委員
 特に質問や意見ではないのですけれども、三浦先生のスライドの6枚目に「未処理下水や下水処理水から感染性を有したSARS-CoV-2が検出された報告はない」と書いてはあるのですけれども、一応、気をつけて扱ったほうがいいのかなと思って、クリプトとジアルジアの下水の検査をしています。糞便中のウイルスを取り出して培養細胞に感染させるのを、SARSコロナウイルスでも可能と聞いたことがありまして、糞便は気をつけたほうがいいのだなと。未処理下水は濃いのか薄いのか、どの程度時間がたっているのかは分かりませんし、下水関係を扱う方はちゃんと注意して扱っているのではないかと。今回、我々はクリプト、ジアルジアの検査を下水試料から行っていますので、くれぐれも気をつけましょうという話をしています。
 気がついたところなのですけれども、以上です。

○秋葉座長
 どうも、貴重なコメントをありがとうございます。
 そのほか、何かございますでしょうか。よろしいですか。
 では、次に議題(4)の「WHO定量的微生物リスク評価について」に入ります。
 資料5につきまして、島崎委員から説明をお願いいたします。

○島崎委員
 国立保健医療科学院の島崎でございます。
 御覧のタイトルで紹介をさせていただきます。
 本件ですけれども、3年前の2017年3月に開催された当検討会の中で翻訳をやりますと紹介して、1年ぐらいでと思っていたのですが、結局3年以上かかってしまいまして、大変失礼いたしました。
 元はWHOの水・衛生・健康部門により2016年7月にウェブサイトで公開されまして、同年11月に一部修正を行った上で再公開をしたということでございます。WHOの水・衛生・健康部門は、3種類の水質関係のガイドラインを公開しております。一つは皆様よく御存じの飲料水ですが、そのほかに下廃水を農業あるいは漁業等に再利用する際のガイドライン。もう一つは湖沼、河川等のレクリエーション水のガイドライン。この3つがあります。各ガイドラインにおける微生物に関するリスク評価の手法を調和させることを目的として、この定量的微生物リスク評価、QMRAと呼ばれておりますが、そうした水質管理手法を導入し、同じ手法で今後リスク評価やガイドライン等の作成にも使っていくということです。それに際して、最新の知見や適用事例等を取りまとめた。そのような趣旨でございます。
 翻訳作成のきっかけですが、平成23年度から25年度にかけて私自身が研究代表者を務めさせていただいた厚生労働科学研究「水道の浄水処理および配水過程における微生物リスク評価を用いた水質管理手法に関する研究」の中で、WHOが本書の公開を準備しているとの情報を得て、研究班のメンバーを中心に、これをぜひ翻訳して日本の関係者に紹介しようではないかということで立ち上がったのですが、繰り返しになりますが、作業に大分時間がかかってしまいまして、今年の3月末に私ども国立保健医療科学院のウェブサイトにて公開に至ったということでございます。
 私ども国立保健医療科学院のホームページから、「飲料水安全対策情報」をクリックしてリンクを辿っていただければ、日本語訳の公開ページが表示されますし、ウェブ検索等でも見ていただけます。フリーで公開しておりますので、興味がありましたらぜひ御覧いただければと思います。原文のWHOへのリンクも用意しております。
 時間をいただきまして、本書の紹介をさせていただきます。まず、本書はどのような目的でつくられたかですが、先ほど申しましたWHOの3つのガイドラインである飲料水、廃水再利用、親水用水の糞便性の病原体に関するリスク評価を目的としてQMRAを適用し、その手法を使って各ガイドラインを評価するための枠組み、フレームワークを提示することが一つ。2つ目は、QMRAにはいろいろなデータが用いられます。例えば、水源中の病原体の濃度や、異なる条件下で病原体をコントロールする場合の除去性、曝露量や、用量-反応関係等、そういった各種の研究データ等を適用する際の助言を提供する。3つ目は、主に行政向けですが、水の安全性管理を支援する上で、QMRAをどのように解釈して制度や規制などに組み込むか。水を監督する行政の立場に対して助言を提供する。以上の3つの目的が挙げられております。
 本書が想定する読者ですが、行政関係であれば水道、下水道の規制者や、水道事業者、下水道事業者等。小規模の水供給や衛生システムに関わる技術者や、管理者。あるいは、大学・研究機関等の科学者で、水系感染微生物等の健康リスクの最小化に取り組んでいる方が対象になります。また、この本は、前半にQMRAの方法論に関する説明があって、後半には実際の適用に関するケーススタディーや各病原体の用量-反応モデル等の細かい情報が載っていますので、様々な背景を持つ読者が目的に応じて理解できる構成になっております。
 目次のうち、赤文字のところを今回紹介させていただこうかと思います。前半が第1章から第10章までありまして、イントロダクションがあって、水系感染症に対するリスク評価にどういった手法があるかというのが第2章、QMRAの概要の説明が第3章にありまして、QMRAの各プロセスに関する詳細な説明が、教科書的な内容も含めて第4章から続いてまいります。最終的にリスクを総合的に判定するところが第8章です。時間も限られていますので、今回は割愛させていただきます。
 第9章の、QMRAがどのように水安全管理に関する行政を支援できるのかというところと、第10章の今後、どのようにQMRAの手法を展開していくかという結論の部分を紹介いたします。それと、ANNEX Aのケーススタディーのうち、フランスの水道システムを対象としたクリプトスポリジウムのリスク評価事例も時間がありましたら紹介いたします。
 そのほか、ANNEXには変動性、不確実性の分析の適用事例、データと統計的推定の手法、各病原体の用量-反応関係モデル等が載っておりまして、原文は200ページ以上と、かなりのボリュームがございます。
 第2章の「リスク評価手法の範囲」について、なぜリスク評価を行うのかということですが、水供給に関連する健康リスクを同定・評価する、健康危害となる因子が適切に制御されているかどうかを決定する、水道の運転・管理者に通知して、安全な飲料水の供給を確実にするために必要な改善策や更新策を決めるためにあります。
 リスク評価にはいくつかのプロセスがあって、1つ目は健康への危害を及ぼす元となる病原体を決める。2つ目は、その病原体が水道システムに入り込む事象、あるいは病原体の除去に失敗するような事象(Hazardous event)を決める。3つ目が、病原体による汚染を防止するために、いかに水道システムを管理するか、その管理方法が適切であるかという点で、病原体による汚染を防ぎ水道システムから取り除く、あるいは許容可能なレベルまで低減するための管理措置を決める。以上の3点を、体系的に評価することになります。
 第2章では、古典的なリスク評価の手法も紹介されていまして、まず、衛生査察(Sanitary Inspection)は1980年代頃から取られている手法です。例えば井戸や湧き水を集める場所が適切に管理されているか、標準化された書式のチェックリストに基づいて、立入検査等により目視やヒアリングで確認するという方法ではありますが、特に開発途上国の農村地域等では有効な手法で、最近もこの衛生査察に関する様式等をまとめた資料をWHOが更新して、ホームページにて公開しております。
 2つ目のリスクマトリックスは、水安全計画にも用いられていますのでなじみはあるかと思いますが、ある危害事象が生じる可能性とその危害による重大性や結果を、表の縦と横に位置付けて半定量的な評価を行い、スコアや等級に結びつける方法です。
 QMRAは、後ほど取り上げますのでここでは省略いたします。
 衛生査察で使われるチェックリスト例を訳したものをお示しします。これは湧水源を対象としたチェックリストですが、基本情報に続いて、水源の周辺が適切に保護、保全されているかに関してイエス・ノーを記入します。動物が立ち入れないか、トイレが30メートル以内にあるか、あるいは廃棄物などの汚染源が存在しないか等のリスク因子の有無を合計し、リスク因子の総合スコアを算出して、例えばリスクスコアの高いところに手当てをしていく。そのような方法となります。
 続いて、半定量的リスクマトリックスの例です。先ほども申したように、水安全計画でよく使われている方法ですが、縦軸には水道への汚染や被害が生じる可能性を「ほぼ確実」から「滅多にない」まで設定し、頻度が大きいほどリスクスコアも高くなります。横軸の「重大性または結果」については、表の右ほど深刻な公衆衛生への影響があるとの評価になります。危害因子が生じる「頻度」と「重大性」のマトリックスにて設定されたリスクスコアを基に、リスク等級を評価する手法となります。
 QMRAに関しては、大きく4段階に分かれていまして、まずは問題を定式化する。リスク評価の全体像として、どの病原体を対象とするか、どのような曝露経路を想定し、何を危害事象として取り上げ、どの健康影響を評価するかという枠組みをあらかじめ定義し、評価の範囲を設定します。次に、対象とする病原体がどの経路でヒトに曝露するか、曝露評価を行う。続いて、その病原体に対応する用量-反応関係のモデル式を用いて健康影響評価を行う。最終的に、リスクの総合的な判定につなげる。以上の流れになっております。
 第3章のQMRAの流れ図を示しますと、繰り返しになりますが、まず問題の定式化にて、どういった危害因子、この場合で言えば病原体を対象とするか。曝露経路および最悪死に至る状態も含めての健康影響、リスク管理のために必要な確実性の程度を設定して、左側の曝露評価では、対象とする曝露経路による病原体の推定摂取量を計算します。これには、原水中の濃度、その病原体が水処理等の制御手段でどの程度低減できるか、ヒトがその経路を通じてどの程度曝露されるかの評価を行う。右側の健康影響評価については、ヒトの体内に摂取された病原体によってどのような健康影響が起こり得るか、用量-反応関係のモデル式を使って評価することになります。双方の評価を基に、リスクの総合的判定を行う流れになります。この中では、変動性や不確実性の分析、感度分析を実施する場合があります。
 第4章から8章は割愛させていただきまして、第9章の実際に行政支援としてどのようにQMRAを活用するかについてです。本書では2点紹介されております。1点目は、国レベルでの規制やガイドライン策定の支援です。御存じの方もいらっしゃるかと思いますが、WHOの飲料水水質ガイドラインや他のガイドラインでは、耐容可能な健康成果の目標値として、年間1人当たりの障害調整年数を10-6DALYと設定しております。その目標値を達成するために必要な水処理などの性能目標を決定するための方法として、QMRAが推奨されております。
 一例として、オランダでは飲料水法によって年間1人当たり10-4、1万人に1人未満の感染リスクとする水質を確保することが決められております。オーストラリアの再生水のガイドラインにおいても、DALYに基づいた健康成果の目標が適用されています。スライドの図に示されるように、原水の病原体の汚染レベルに応じて、所定の年間感染確率、あるいは年間のDALYによる健康成果の目標を達成するため、この緑の四角の段階で必要となる、病原体除去・不活化の目標値を定める流れとなります。この各段階に、QMRAを利用していくということでございます。
 2点目は、水道事業あるいは下水道事業等の個々の事業体が策定する水安全計画または衛生安全計画。どちらもWHOが推奨しているものですけれども、その策定の支援にQMRAを用いることです。QMRAによって、対象となる浄水場等の水供給システムの中でどの過程が病原体の侵入や制御の面で弱いか明らかになりますし、システム全体の安全性を評価し、脆弱な部分や病原体の制御に有効である部分等に追加の措置を入れる。また、病原体の監視や制御の面から重要となる管理点を設定して、その箇所での管理目標を設定する。最終的な浄水中の受容限界レベルを決定する。さらには、施設の更新、改善計画等の施策立案の際に、微生物リスク低減の観点から優先づけを行う例も挙げられております。
 水安全計画の策定がこのフローチャートのように流れていく中で、QMRAによって得られたデータや評価をそれぞれ入力することで、策定を支援する提案を示しております。
 第10章の結論の部分から抜粋しておりますけれども、水に関する病原体への曝露経路である、飲料水・廃水と再利用・親水用水に対して、調和したQMRAの手法を横断的に適用することには大きな価値があるということです。ただし、QMRAの成果が価値を持つかどうかは、適用された各モデルに入力する、様々な仮定条件が適切かどうか、科学的な根拠が適切に解釈されているかに強く依存するとしています。先ほどの泉山先生の御発表でも、クリプトの感染確率の評価が2桁ぐらい変わってしまうと、当然、健康影響リスクも2桁前後の範囲で変わってくる可能性があります。今回は紹介できませんでしたが、不確実性解析や感度解析を組み込むか否かによって、かなり解釈が変わる可能性があるという点には留意する必要があると考えております。
 先にも述べたように、QMRAは国家規模から各事業体の規模まで広範囲にわたる水安全管理に関する意思決定を支援する手法であるとしています。最後に、全体的にQMRAは、当該の水システムにおける危害因子と制御について、科学的根拠に基づいて理解する助けとなる。リスク管理に関する貴重な見識をもたらすとまとめてあります。
 ANNEX Aではいくつかケーススタディーが挙げられているのですが、その中で水道におけるクリプトスポリジウムリスク評価を、まだ少し時間がございますので、紹介させていただければと思います。元はオランダ国KWRのMedema博士の2009年論文ですが、Suez社は当時フランス国内で1,500か所以上の水道システムを運転管理していたところ、アメリカやイギリスの水道でクリプトスポリジウムの集団感染事例が報告されたため、フランス国内の施設を対象にクリプトのリスク評価を検討しました。QMRAの目的は、EUの飲料水指針にクリプトを含む病原性の寄生虫がヒトの健康を脅かすレベルで飲料水に含まれてはならないと定められていますので、その指針への適合性を評価する。また、クリプトスポリジウムのリスクがある水道システムの所在を明らかにする。さらに、リスクが高いシステムへの投資の優先づけをすることが挙げられております。
 QMRAの範囲設定について、危害因子の確認では、原水に含まれている可能性があり、かつ、化学的な消毒すなわち塩素消毒に耐性があるため除去・不活化が難しい病原体として、クリプトスポリジウムのみを対象としています。曝露経路については、集水域のタイプが異なる表流水及び地下水を水源として、それぞれ異なる処理工程を経た水道水を対象に、煮沸しないで飲用することで体内に摂取する。健康転帰(Health outcome)は、年間感染確率(DALYs)に基づいております。
 曝露評価についてですが、各水道システムの運転者に質問票を送りまして、給水量と原水の種別、周辺環境、水質項目、処理工程等の情報を入手し、回答に基づいて水道システムを4分類しています。すなわち、地下水、地表水の影響を受けている浅層地下水、地表水、用水供給により異なる原水の水道水をブレンドしているシステムです。各原水のクリプト濃度を実測値ではなく学術文献に基づいて仮定しており、地下水は100L当たり1オーシスト未満、地表水の影響を受けた地下水(GWI)が10オーシスト、両者のブレンドが1オーシスト、地表水が104オーシストです。
 浄水処理の各工程によるクリプトスポリジウムの除去・不活化に関しては、Suez社の研究施設による結果または学術文献の参照により、図に示されたLog10除去数と設定しています。塩素系の消毒剤ではまったく不活化できず、前オゾンまたはオゾン処理で0.5から1.5桁、直接ろ過で3桁、緩速ろ過は6桁、UFで6桁以上となります。非加熱飲水量は1人当たり1日1L。健康影響評価では、先ほども紹介がありましたように感染確率0.4%、0.004を用いた指数型モデルです。これは新しいモデルやデータ等を使えば当然、評価が変わってくることになります。
 リスクの総合的判定では、原水の推定クリプト濃度に基づき、スライドの各リスクレベルを達成可能となる各システムの処理性能目標を決定しました。途中の過程は省略しますが、リスク管理については、リスクが高レベルであるシステムは主に小規模、特に給水人口が5,000人未満であり、地表水の影響を受けた地下水を利用していることが明らかになりました。おそらく、浄水処理としては消毒のみを実施していたのかと思います。中・高レベルに分類されたシステムの運転条件を見直したとのことです。先ほどの曝露評価では、各原水中のクリプトスポリジウム濃度を文献値により仮定していましたが、その後クリプトスポリジウムを継続モニタリングしたところ、リスク評価の結果とも一致していたとのことです。
 クリプトスポリジウムによる水道原水汚染の主なリスク因子は、集水域でウシを飼っているかどうか、大腸菌群の基準値の適合率が99%以下、給水栓の濁度が0.2NTUよりも高いということが判明しました。Suez社は、リスクレベルが高い施設を監査し、必要な場合には処理施設の性能を高める対応を行いました。同社はこのリスク評価手法を他国にも適用したとのことです。
 最後に、この微生物問題検討会に出席されている方の中にもいらっしゃいますけれども、翻訳の作業に携わっていただいた方に改めてお礼を申し上げまして、私からの発表とさせていただきます。ありがとうございました。

○秋葉座長
 どうもありがとうございました。
 では、ただいまの説明に対しまして、御質問、コメント等がございましたら、挙手をお願いいたします。
 では、泉山委員、お願いします。

○泉山委員
 質問というか、コメントなのですけれども、スライド22枚目にクリプトスポリジウムパルバムの用量-反応モデル、r=0.004というものが出てきて、新しいデータを使えば当然に評価が変わってくるということを直前に御紹介いただいたので、ぜひ本日の資料2の通り新しい数字もあることをこのドキュメントに載せていただけるとうれしいなと。いずれ更新版などがつくられることがあると思いますので、そういうところで反映してくださったら、より水道水が安全になっていくのではないかと期待しております。よろしくお願いします。

○島崎委員
 御意見ありがとうございます。
 和訳作業に関わっていただいた先生方から、この部分の表記や解釈は誤っているのではないかと複数の意見を受けておりますので、とりまとめてWHOに情報提供をしようと考えております。今回紹介したこのケーススタディーは、2009年の事例なので当時のパラメータを用いているのですが、今後、仮に第2版を作成することになり、それまでに新しい用量-反応モデルやパラメータを用いた事例が出てくれば、新たにケーススタディーに入れることになるかもしれません。欲張って言いますと、その機会に日本発の情報をとりまとめてWHOにインプットし、反映していくことも大いに意義があると個人的に考えております。

○秋葉座長
 よろしいですか。
 では、吉田委員、お願いいたします。

○吉田委員
 島崎先生、どうもありがとうございました。
 非常に興味深く聞かせていただきましたが、スライドの10番にありますリスク評価の手法として、結局、これは衛生査察とリスクマトリックス並びにQMRAを組み合わせてやっていくということだと思うのですが、2つ質問がございまして、水道と食品というものはこのQMRAという考え方が割と使われていると思うのですけれども、ほかの部門というのはどうなのでしょう。こういうものがあればまた教えてください。それが1点目です。
 2点目なのですが、政策決定の過程にこういうリスクの考え方、評価指標が使われるわけでしょうが、これを実際に使っている国は具体的に何か国ぐらいありますか。これも御存じだったら教えていただければと思います。

○島崎委員
 御質問ありがとうございました。
 QMRAに関しては、おっしゃるとおり、食品および水など、実際にヒトの体の中に摂取、摂食されるものが中心となっております。研究レベルであれば、それこそ大気や室内空気等も含めて、病原体を移送できる媒体であればあり得るような気がします。ただ、次の話題とも関係しますけれども、衛生管理の実務や政策決定に適用されている例は、食品および水にとどまるのではないかと思います。医薬品製造プロセス等の評価も、考えによってはあるかもしれませんが、その辺りはほかに御存じの先生がいたらフォローをお願いできればと思います。
 もう一点ですが、先ほども少し紹介しましたが、実際に実務に導入しているところはオランダの水道でして、1人あたり年間10-4未満の感染リスクとする水質基準を導入していますし、オーストラリアの再生水ガイドライン等にも適用されております。WHOは、水に関する各ガイドラインにて1×10-6DALYという健康成果目標を推奨していますし、USEPAも年間感染率10-4を飲用水由来の許容リスク値にしていたかと思います。幾つかの国に関しては、このようなQMRAの考え方を規制等に導入しているという理解でおります。

○吉田委員
 島崎先生、どうもありがとうございました。

○秋葉座長
 よろしいですか。
 そのほか、よろしいでしょうか。
 では、島崎委員、どうもありがとうございました。
 では、最後に議題(5)の「その他」でありますけれども、事務局から何かありますでしょうか。

○林水道水質管理官
 事務局の林でございます。
 こういうものがあるということの御紹介でございます。令和2年4月に、公益財団法人水道技術研究センターから紫外線の導入のマニュアルが発行されております。もし水道事業体のほうで紫外線を考えてみたいという事業体がありましたら、こういったものもあるという御紹介でございます。
 昨年度1年間かけて、このセンターの中で委員会を設置しまして、その中で内容について詰めてきております。その中には学識経験者の大学の先生なども入っていただいて、厚労省はその委員会にオブザーバーということで参加してまいりました。今年度は下のほうに※がありますけれども、維持管理について別途検討を進めておりまして、この導入編と合わせて一つの冊子になるということで、4月以降発行の見込みということでございます。
 以上です。

○秋葉座長
 どうもありがとうございました。
 公益財団法人水道技術センターから「水道における紫外線処理設備導入及び維持管理の手引き」が発行されたということであります。
 本日の議題はこれで全て終了しました。あとは事務局にお返しいたします。

○上島係長
 ありがとうございました。
 本日は活発な御議論をいただきまして、どうもありがとうございました。
 本日の議事録につきましては、事務局で案を作成いたしまして、皆様に確認をいただいた後にホームページに公表いたしますので、よろしくお願いいたします。
 これをもちまして、閉会といたします。本日は長時間にわたり、誠にありがとうございました。

ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 健康局が実施する検討会等> 水道における微生物問題検討会> 令和2年度第1回水道における微生物問題検討会(2020年12月22日)

ページの先頭へ戻る