平成18年2月9日
厚生労働省食品安全部
桑崎 監視安全課長
担当: 鶏内、山本(内2477)


平成16年度食品からのダイオキシン類一日摂取量調査等の調査結果について


 我が国の平均的な食生活における食品からのダイオキシン類の摂取量の推計や個別食品における汚染実態を調査するため、従来より、国立医薬品食品衛生研究所を中心に調査を行い、その結果を公表してきたところですが、今般、平成16年度の調査結果がとりまとめられたので、お知らせします。
 平成16年度における食品からのダイオキシン類の一日摂取量は、1.41±0.66pg TEQ/kgbw/日(0.48〜2.93pgTEQ/kgbw/日)と推定され、耐容一日摂取量(TDI)4pgTEQ/kgbw/日より低く、一部の食品を過度に摂取するのではなく、バランスのとれた食生活が重要であることが示唆されました。
 なお、本調査結果については本日開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会において報告されました。










 本調査は、厚生労働科学研究費補助金(食品の安全性高度化推進事業)「ダイオキシン類による食品汚染実態の把握に関する研究」(主任研究者 佐々木久美子国立医薬品食品衛生研究所食品部第一室長)においてダイオキシン類及び臭素化ダイオキシン等による食品汚染実態の把握並びに分析の迅速化等を目的として実施されたものです。










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(別紙)

平成16年度ダイオキシン類による食品汚染実態の把握に関する研究
(概要)


 主任研究者 佐々木久美子 国立医薬品食品衛生研究所食品部第一室長

 目的
 ダイオキシン類の人への主な暴露経路の一つと考えられる食品について
 (1) 平均的な食生活における食品からのダイオキシン類の摂取量を推計すること
 (2) 個別の食品のダイオキシン類の汚染実態を把握すること 等

 方法
 (1) ダイオキシン類の食品経由摂取量に関する研究(トータルダイエットスタディ)
 全国7地域の9機関で、それぞれ約120品目の食品を購入し、厚生労働省の平成13年度国民栄養調査の食品別摂取量表に基づいて、それらの食品を計量し、そのまま、又は調理した後、13群に大別して、混合し均一化したもの及び飲料水(合計14食品群)を試料として、「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」(平成11年厚生省生活衛生局)に従ってダイオキシン類を分析し、平均的な食生活におけるダイオキシン類の一日摂取量を算出した。
 なお、ダイオキシン類摂取量への寄与が大きい食品群である10群(魚介類)、11群(肉類、卵類)及び12群(乳、乳製品)について、各機関が3セットずつ試料を調製し、それぞれについてダイオキシン類を測定した。
 (2) 個別食品中ダイオキシン類濃度に関する研究
 個別食品として、国内産及び輸入食品合計112試料について、(1)と同様にダイオキシン類を分析した。また、同一個体の魚類からの部位別(筋肉部、皮、内臓など)の試料及びマグロからの部位別(赤身、中トロ、大トロ)の試料についてダイオキシン類を分析した。

 ダイオキシン類の調査項目
 従来通り、世界保健機構(WHO)が毒性等価係数を定めたポリ塩化ジベンゾーパラージオキシン(PCDD)7種、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)10種及びコプラナーPCB (Co-PCB)12種の合計29種。

 結果の概要
 (1) 一日摂取量調査(トータルダイエットスタディ)
 食品からのダイオキシン類の一日摂取量は、1.41±0.66pgTEQ/kgbw/日(0.48〜2.93pgTEQ/kgbw/日)と推定された。この数値は、平成14、15年度の調査結果(1.49±0.65、1.33±0.59pgTEQ/kgbw/日)と比べ、ほとんど同レベルであり、日本における耐容一日摂取量(TDI)4pgTEQ/kgbw/日より低かった。
 なお、同一機関で調製した試料であっても、魚介類、肉類、卵類、乳及び乳製品類として採取した食品の種類、産地等の差により、ダイオキシン類の摂取量には約1.1〜6.2倍の差が生じることが分かった。

<表1 ダイオキシン類一日摂取量の全国平均年次推移>
(5年間の調査結果)
  平成12年度 平成13年度 平成14年度 平成15年度 平成16年度
一日摂取量
(pgTEQ/日)
72.66
(42.1〜100.5)
81.47
(33.3〜169.9)
74.45
(28.42〜169.82)
66.51
(28.95〜152.41)
70.47
(23.83〜146.60)
体重1kg当たりの
一日摂取量
(pgTEQ/kgbw/日)
1.45
(0.84〜2.01)
1.63
(0.67〜3.40)
1.49
(0.57〜3.40)
1.33
(0.58〜3.05)
1.41
(0.48〜2.93)
 数値は平均値、( )内は範囲を示す。なお、体重1kg当たりの一日摂取量は日本人の平均体重を50Kgとして計算している。

<表2 ダイオキシン類一日摂取量の地域別年次推移>
(単位:pgTEQ/kgbw/日)
地域 北海道
地区
東北地方 関東地方 中部地方
東北A 東北B 関東A 関東B 関東C 中部A 中部B
平成10年度 2.77 1.26 2.06 2.14 2.00 1.87
平成11年度 1.29 1.47 1.65 4.04 1.59 1.68 1.53 1.57
平成12年度 0.84 1.10 1.92 1.30 1.72 1.48 1.44 1.41
平成13年度 0.67 2.02 1.08 1.99 1.42 1.65
平成14年度 0.88
0.94
1.44
1.16
1.46
2.05
1.46
2.01
2.76
1.34
2.33
3.40
0.90
1.17
1.51
1.40
1.67
1.93
平成15年度 0.84
1.03
1.33
0.72
0.84
1.35
0.78
1.86
3.05
0.90
1.01
2.93
1.02
1.06
2.05
1.34
1.48
1.86
平成16年度 0.48
1.03
2.48
0.48
0.80
2.93
1.64
1.80
1.87
1.05
1.75
2.34
0.72
0.91
1.83

地域 中部地方 関西地方 中国四国地方 九州地方
中部C 関西A 関西B 関西C 中四国A 中四国B 中四国C 九州A 九州B
平成10年度 2.03 2.72 1.22 1.99
平成11年度 2.42 7.01 1.79 1.89 3.59 1.48 1.84 1.19
平成12年度 1.80 2.01 1.43 2.01 0.98 1.40 1.55 0.86
平成13年度 1.53 1.33 2.00 0.88 1.60 3.40
平成14年度 0.62
0.68
1.28
0.96
1.39
2.75
1.40
1.78
2.02
0.79
0.98
1.22
0.73
1.54
2.12
0.57
1.18
1.81
平成15年度 0.58
1.15
1.50
0.77
1.15
1.58
0.62
1.22
1.56
1.03
1.51
2.05
0.85
1.04
1.83
平成16年度 0.64
0.71
2.03
1.32
1.86
2.25
1.19
1.35
1.72
0.61
0.99
1.27
(注)  平成16年度調査において各地方でのサンプリングを実施した自治体は以下のとおり。なお、数値は各地方毎の食品別一日摂取量を用いて換算されたものである。表の左から、北海道地方:北海道、東北地方:宮城県、関東地方:埼玉県、横浜市、中部地方:石川県、名古屋市、関西地方:大阪府、中四国地方:香川県、九州地方:福岡県

 (2) 個別食品中のダイオキシン類濃度調査
 個別食品の測定結果は表3、同一個体の魚介類からの部位別(筋肉部、皮、内臓など)の試料の測定結果は図1及びマグロからの部位別(赤身、中トロ、大トロ)の試料の測定結果は表4のとおりであった。


以上



【用語説明】

ダイオキシン類:
  ダイオキシン及びコプラナーPCB

ダイオキシン:
  ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD)
ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)

コプラナーPCB(Co-PCB):
  PCDD及びPCDFと類似した生理作用を示す一群のPCB類

トータルダイエットスタディ:
  通常の食生活において、食品を介して化学物質等の特定の物質がどの程度実際に摂取されるかを把握するための調査方法。飲料水を含めた全食品を14群に分け、国民栄養調査による食品摂取量に基づき、小売店等から食品を購入し、必要に応じて調理した後、各食品群ごとに化学物質等の分析を行い国民1人あたりの平均的な1日摂取量を推定するもの。

TEF(毒性等価係数):
  ダイオキシン類は通常混合物として環境中に存在するため、様々な同族体のそれぞれの毒性強度を、最も毒性が強いとされる2,3,7,8-TCDDの毒性を1とした毒性等価係数(TEF:Toxic Equivalency Factor)を用いて表す。なお、今回は1997年にWHOで再評価された最新のTEFを用いている。

TEQ(毒性等量):
  ダイオキシン類は通常混合物として環境中に存在するので、摂取したダイオキシン類の毒性の強さは、各同族体の量にそれぞれのTEFを乗じた値を総和した毒性等量(TEQ:Toxic Equivalent Quantity)として表す。

TDI(耐容一日摂取量):
  長期にわたり体内に取り込むことにより健康影響が懸念される化学物質について、その量まではヒトが一生涯にわたり摂取しても健康に対する有害な影響が現れないと判断される一日当たりの摂取量。ダイオキシン類のTDIについては、1999年6月に厚生省及び環境庁の専門家委員会で、当面4pgTEQ/kgbw/日(1日に体重1kg当たり4pgTEQの意味。体重50kgの人であれば、4pgTEQ×50kgで計算し、TDIは200pgTEQとなる。)とされている。



表3  平成16年度 食品中のダイオキシン類の濃度(pgTEQ/g)

食品 産地 ダイオキシン類 (pgTEQ/g)
PCDD/Fs Co-PCBs Total
魚介類
(鮮魚)
あなご 国産 0.576 1.601 2.177
あなご 国産 0.536 1.274 1.810
あゆ 国産 0.027 0.093 0.120
あゆ 国産 0.036 0.120 0.156
いさき 国産 0.011 0.029 0.040
いさき 国産 0.049 0.098 0.146
うなぎ 国産 0.255 0.383 0.638
うなぎ 国産 0.134 0.167 0.301
うなぎ 輸入 0.235 0.388 0.623
うなぎ 輸入 0.137 0.296 0.433
かつお 国産 0.128 0.569 0.696
かつお 国産 0.044 0.179 0.223
きびなご 国産 0.125 0.263 0.388
きびなご 国産 0.134 0.270 0.403
ぎんだら 国産 0.093 0.346 0.439
ぎんだら 国産 0.344 0.691 1.035
さば 国産 0.588 1.027 1.615
さば 国産 0.522 2.174 2.696
さめ 国産 0.406 0.928 1.333
さめ 国産 0.704 1.490 2.194
さんま 国産 0.049 0.205 0.254
さんま 国産 0.076 0.241 0.317
さんま 国産 0.048 0.212 0.260
さんま 国産 0.064 0.224 0.287
すずき 国産 0.803 2.542 3.345
すずき 国産 1.476 2.759 4.235
すじこ(生) 国産 0.095 0.314 0.409
すじこ(生) 国産 0.038 0.125 0.163
たちうお 国産 1.104 4.059 5.163
たちうお 国産 0.942 1.796 2.738
にしん 国産 0.221 0.284 0.505
にしん 国産 0.343 0.460 0.804
はまち 国産 0.558 2.482 3.040
はまち 国産 0.457 1.654 2.111
ぶり 国産 0.484 1.552 2.036
ぶり 国産 0.795 2.174 2.969
ほっけ 国産 0.165 0.199 0.363
ほっけ 国産 0.119 0.257 0.376
まいわし 国産 0.183 0.351 0.534
まいわし 国産 0.274 0.293 0.566
まあじ 国産 0.173 0.230 0.403
まあじ 国産 0.093 0.168 0.261
まぐろ 国産 0.790 1.167 1.957
まぐろ 国産 0.075 0.223 0.298
むきがれい 国産 0.032 0.178 0.210
むきがれい 国産 0.002 0.015 0.017
メカジキ 国産 1.016 2.015 3.031
メカジキ 国産 0.413 2.366 2.778
めばる 国産 0.292 0.446 0.738
めばる 国産 0.188 0.738 0.926
メルルーサ 国産 0.010 0.051 0.061
メルルーサ 国産 0.032 0.077 0.108
かに 国産 0.104 0.188 0.292
かに 国産 0.324 0.490 0.814
かに 輸入 0.003 0.013 0.016
かに 輸入 0.003 0.003 0.006
えび 国産 0.125 0.208 0.333
えび 国産 0.181 0.067 0.248
えび 輸入 0.027 <0.001 0.027
えび 輸入 0.020 <0.001 0.020
魚介類
加工品
あじ開き 国産 0.085 0.132 0.217
あじ開き 国産 0.065 0.129 0.194
塩さけ 国産 0.078 0.191 0.268
塩さけ 国産 0.046 0.124 0.170
塩さけ 輸入加工品 0.144 0.288 0.432
塩さけ 輸入加工品 0.063 0.114 0.177
塩さば 国産 1.130 1.177 2.308
塩さば 国産 0.496 0.636 1.131
塩さば 輸入加工品 0.332 1.241 1.572
塩さば 輸入加工品 0.120 0.443 0.563
しらす干し 国産 0.044 0.088 0.131
しらす干し 国産 0.075 0.114 0.189
ほっけ開き 国産 0.426 0.964 1.390
ほっけ開き 国産 0.296 0.714 1.010
いわし味付缶詰 国産 0.014 0.105 0.119
いわし味付缶詰 国産 0.011 0.210 0.221
さば水煮缶詰 国産 0.317 1.100 1.417
さば水煮缶詰 国産 0.290 1.055 1.345
まぐろ缶詰 国産 0.001 0.022 0.023
まぐろ缶詰 国産 0.001 0.020 0.021
畜産食品 牛肉 輸入 0.007 0.002 0.009
牛肉 輸入 0.008 0.011 0.019
鶏肉 輸入 0.001 0.001 0.002
鶏肉 輸入 0.003 <0.001 0.003
豚肉 輸入 0.021 0.022 0.043
豚肉 輸入 <0.001 <0.001 0.001
羊肉(マトン) 輸入 <0.001 0.020 0.020
羊肉(マトン) 輸入 <0.001 <0.001 <0.001
子羊(ラム) 輸入 <0.001 0.001 0.001
子羊(ラム) 輸入 <0.001 <0.001 <0.001
サラミ 国産 0.031 0.004 0.035
サラミ 国産 0.020 0.018 0.038
ベーコン 国産 <0.001 0.006 0.006
ベーコン 国産 <0.001 0.007 0.007
鶏卵 国産 0.026 0.025 0.051
鶏卵 国産 0.013 0.025 0.038
菓子 カステラ 国産 <0.001 0.003 0.003
カステラ 国産 0.001 0.013 0.014
カステラ 国産 0.001 0.013 0.014
油脂 バター 国産 0.108 0.056 0.164
バター 国産 0.452 0.056 0.508
牛脂 国産 0.336 0.123 0.459
牛脂 国産 0.664 0.299 0.963
ラード 国産 0.009 <0.001 0.009
ラード 国産 0.009 <0.001 0.009
野菜 小松菜 国産 0.015 <0.001 0.015
小松菜 国産 0.002 <0.001 0.002
春菊 国産 0.001 <0.001 0.001
春菊 国産 0.082 <0.001 0.083
嗜好飲料 緑茶 国産 <0.001 <0.001 <0.001
緑茶 国産 <0.001 <0.001 <0.001
緑茶 国産 <0.001 <0.001 <0.001

魚介類中のダイオキシン類の部位別分析結果のグラフ
PCDD/Fs + Co-PCBs (pgTEQ/g wet weight)

図1. 魚介類中のダイオキシン類の部位別分析結果
水色 :筋肉部,身   網掛け :内臓   黒 :皮



表4  マグロ試料中の部位別ダイオキシン類濃度の比較

魚名 No. 部位 脂肪含量
(%)
PCDD/Fs
(pgTEQ/g)
Co-PCBs
(pgTEQ/g)
Total
(pgTEQ/g)
ミナミマグロ
(蓄養)
赤身 9.0 0.066 0.28 0.35
中トロ 22 0.17 0.78 0.95
大トロ 33 0.25 1.2 1.4
赤身 8.8 0.042 0.24 0.28
中トロ 25.9 0.16 0.70 0.86
大トロ 34.1 0.22 1.1 1.3
赤身 5.5 0.048 0.61 0.66
中トロ 22.2 0.29 2.7 3.0
大トロ 25 0.41 3.5 3.9
クロマグロ
(天然)
赤身 3.6 0.49 1.9 2.3
中トロ 8.8 0.98 4.5 5.5
大トロ 24.7 2.8 14 17
赤身 2.7 0.37 1.5 1.8
中トロ 11.6 1.4 6.4 7.8
大トロ 19.6 2.4 11 13
赤身 0.60 0.16 0.91 1.1
中トロ 5.8 1.1 6.1 7.2
大トロ 17.7 3.2 21 24
クロマグロ
(蓄養)
赤身 6.5 0.030 0.66 0.69
中トロ 25.4 0.20 2.4 2.6
大トロ 44.8 0.40 5.3 5.7
赤身 12.4 0.35 5.4 5.7
中トロ 24.5 0.80 11 12
大トロ 36.8 1.1 17 18
赤身 16.3 0.73 3.6 4.4
中トロ 32.9 1.4 7.1 8.5
大トロ 40.7 1.8 9.7 12
注: PCDD/Fs、Co-PCBs及びTotalの値は「食品中のダイオキシン類
測定方法ガイドライン」(平成11年厚生省生活衛生局)に従って
測定したもの。



厚生労働科学研究費補助金(食品の安全性高度化推進研究事業)
総括研究報告書

ダイオキシン類による食品汚染実態の把握に関する研究


主任研究者 佐々木久美子 国立医薬品食品衛生研究所 食品部第一室長

研究要旨
 ダイオキシン類及び臭素化ダイオキシン類による食品汚染実態の把握及び分析の迅速化を目的として,四つの分担研究を実施した.
(1) ダイオキシン類のトータルダイエットによる摂取量調査では,全国9機関で調製したトータルダイエット試料を分析し,食事経由ダイオキシン類一日摂取量の全国平均が,1.41±0.66 pgTEQ/kgbw/dayであることを明らかにした.(PDF:282KB)
(2) 個別食品のダイオキシン類汚染実態調査では,魚介類,畜産物及びそれらの加工品等112試料中のダイオキシン類を分析し,汚染実態を明らかにした.さらに,魚介類の筋肉部と内臓,皮,マグロの赤身とトロなど同一個体から調製した部位別試料についてダイオキシン類を分析した結果,部位によりダイオキシン類濃度は異なるが,脂質重量あたりの濃度には差が少ないことを明らかにした.(PDF:380KB)
(3) 食品中ダイオキシン類分析の迅速化・信頼性向上に関する研究では,A.高速加熱流下抽出装置を用いた魚試料からのダイオキシン類の抽出法を検討した.抽出条件を検討し,従来法であるアルカリ分解・溶媒抽出法と比較した結果,分析値には非常に高い相関(r = 0.99)が認められたことから,本抽出法は魚試料中のダイオキシン類分析の迅速化・信頼性の向上に有効であると考えられた.
B.高速溶媒抽出法(ASE)の植物性食品試料への適用を検討した.乾海苔を用いてASEと従来法であるアセトン・ヘキサン溶媒振とう法の定量値を比較した結果,各異性体の定量値はASEの方が従来法よりも1.1〜3.2倍高値を示した.また,植物性食品21試料におけるASE適用時のクリーンアップスパイクの回収率は45〜116%の適正な値が得られたことから,ASEは植物性食品試料中のダイオキシン類の迅速かつ効率的な抽出法として使用可能と考えられた.
(1〜11ページ(PDF:483KB)、 12〜19ページ(PDF:344KB)、 20〜22ページ(PDF:376KB))
(4) 臭素化ダイオキシン及びその関連化合物質の汚染調査では,A.3地域から採取した生鮮魚介類等45試料を分析した結果,中国・四国地域の一部の生鮮魚類から1,2,3,4,6,7,8-HpBDF,2,3,7,8- TeBDD,2,3,7,8-TeBDF及び3-Br-2,7,8-CDFが検出されたが,その他の地域の魚介類からは検出されなかった.臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)はすべての魚介類から検出されたが,中部の魚介類が他の地域のものよりも総濃度が高い傾向が認められた.異性体別構成では,主として,4臭素化体の寄与が大きく,底質に棲息する魚類については,DBDEの寄与も大きかった.また,PBDE濃度は脂肪含量との相関傾向が認められた.B.難燃剤の四臭素化ビスフェノールA (TBBPA)の微量分析法を検討し,個別食品試料及びトータルダイエット試料について汚染調査を実施した.これらを基に,1日摂取量を推定した.
(1〜11ページ(PDF:499KB)、 12ページ(PDF:110KB)、 13ページ(PDF:527KB)、
14〜17ページ(PDF:435KB)、 18〜21ページ(PDF:456KB)、 22〜24ページ(PDF:479KB)、
25〜27ページ(PDF:267KB))

分担研究者
米谷民雄   国立医薬品食品衛生研究所
食品部長
天倉吉章 国立医薬品食品衛生研究所
食品部主任研究官
堤 智昭 国立医薬品食品衛生研究所
食品部主任研究官
中川礼子 福岡県保健環境研究所
生活化学課長

A. 研究目的
 ヒトは主に食品を通してダイオキシン類に暴露されており,ダイオキシン類の人体への影響を評価するためには,食品汚染状況の把握が重要である.本研究では,ダイオキシン類の摂取量及び個別食品の汚染実態の把握を目的として,さらに,ダイオキシン類測定の迅速化,信頼性向上を目的として,次の3課題の研究を実施した.(1)ダイオキシン類のトータルダイエットによる摂取量調査,(2)個別食品のダイオキシン類汚染実態調査,(3)食品中ダイオキシン類分析の迅速化・信頼性向上に関する研究.
 また,臭素化ダイオキシン類は,塩素化ダイオキシン類(いわゆるダイオキシン)と同様の毒性を有することが知られているが,塩素化ダイオキシン類と比べて食品汚染実態を明らかにした調査は少ない.そこで,臭素化ダイオキシン類,その関連化合物である臭素化ジフェニルエーテル類及び四臭素化ビスフェノールAについて,汚染実態を明らかにすることを目的として,(4)食品中臭素化ダイオキシン及びその関連化合物質汚染調査を実施した.

B. 研究方法
(1) ダイオキシン類のトータルダイエット調査
 全国7地区9機関で,それぞれ約120品目の食品を購入し,厚生労働省の平成13年度国民栄養調査の食品別摂取量表に基づいて,それらの食品を計量し,そのまま,または調理した後,13群に大別して,混合均一化したものを試料とした.さらに第14群として飲料水を試料とした.なお,10群(魚介類),11群(肉・卵)及び12群(乳・乳製品)は,各機関で魚種,産地,メーカー等が異なる食品で構成された各3セットの試料を調製した.これらについて,「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」に従ってダイオキシン類を分析し,一日摂取量を算出した.

(2) 個別食品のダイオキシン類汚染実態調査
 国内産食品(92試料)及び輸入食品(20試料)について,「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」に従ってダイオキシン類を分析した.また,同一個体の魚試料から筋肉部,皮,内臓など部位別に試料を調製し,ダイオキシン類を分析した.マグロについては同一個体試料を赤身,中トロ,大トロに分けて分析を行った.

(3) 食品中ダイオキシン類分析の迅速化・信頼性向上に関する研究
A. 高速加熱流下抽出装置(ダイアインスツルメンツ社製SE-100型)を魚試料のダイオキシン類の抽出に適用するための抽出条件を検討し,確立した条件で魚試料からダイオキシン類を抽出し,定量値及び毒性等量濃度を従来法であるアルカリ分解・溶媒抽出法の場合と比較した.
B. 高速溶媒抽出法(ASE)を植物性食品試料のダイオキシン類抽出に適用するための抽出条件を検討し,確立した条件で乾海苔試料を抽出し,定量値を従来法である溶媒振とう抽出法による定量値と比較した。さらに種々の植物性食品21試料を分析し,クリーンアップスパイク(CS)の回収率の妥当性を検討した。

(4) 食品中臭素化ダイオキシン及びその関連化合物質汚染調査
 臭素化ダイオキシン及び臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)の分析については,九州地方(天草),中部地方(三河湾,伊勢湾),中国・四国地方(瀬戸内海)の鮮魚店から,魚介類各々15件計45試料を購入した.試料は可食部をそれぞれフードプロセッサーで均一化し,臭素化ダイオキシン類(PBDDs/PBDFs+モノブロモポリクロロダイオキシン類)及びPBDEsを分析した.
 テトラブロモビスフェノールA(TBBPA)の分析については,国民栄養調査及び県民栄養調査をもとに2002年に調製した福岡県のトータルダイエット試料(第1群から第13群まで)及び個別食品として2001年9月から2004年2月までの間に購入した生鮮魚介類18試料,加工食品5試料,海藻類4試料から,高速溶媒抽出装置でTBBPAを抽出し,エチル化した後,フロリジルカラムで精製し,HRGC/HRMSで分析した.

C. 結果及び考察
(1) ダイオキシン類のトータルダイエット調査
 ダイオキシン類の一日摂取量は1.41±0.66(範囲0.48〜2.93)pgTEQ/kgbw/dayであった.摂取量の68%はCo-PCBsであり,主な摂取源は10群(魚介類),11群(肉・卵)であった.一日摂取量は,同様の方法で調査した平成14,15年度の調査結果(1.49±0.65,1.33±0.59pgTEQ/kgbw/day)とほとんど同じレベルであり,この数年間1.5 pgTEQ/kgbw/day前後で推移している.日本における耐容一日摂取量(TDI)は4 pgTEQ/kgbw/dayであり,調査結果はTDIより低かった.なお,同一機関で調製したTDS試料でも,10〜12群に選択した食品の種類,産地等の差により,ダイオキシン類摂取量には約1.1〜6.2倍の差があった.

(2) 個別食品のダイオキシン類汚染実態調査
 魚介類,畜肉,それらの加工品等の各種食品112試料について,ダイオキシン類濃度を調査した結果,最も濃度が高かったのは生鮮魚類(52試料:平均1.129pgTEQ/g)であった.次いで,塩干物(14試料:平均0.697pgTEQ/g),魚介類缶詰(6試料:平均0.524pgTEQ/g)であった.魚介類から検出されたダイオキシン類の大半はCo-PCBsであり,PCDDs/Fsは少なかった.
 畜肉,その加工品及び鶏卵(16試料)を調査したが,ダイオキシン類が0.100pgTEQ/g以上検出された試料はなかった.小松菜,春菊,カステラ,ラード及びペットボトル入り緑茶(12試料)も0.100pgTEQ/g以下であった.バターと牛脂からは,0.164〜0.963pgTEQ/gのダイオキシン類が検出された.
 魚の部位別分析の結果,湿重量あたりのダイオキシン類濃度は,筋肉部に比べ内臓及び皮で高かった.特にあんこうの肝では,筋肉部の約330倍,スルメイカの内臓では筋肉部の50〜65倍の濃度であった.しかし,脂質重量あたりの濃度で比較すると,筋肉部と内臓の濃度比は小さく,あんこうでもその比は約2倍に過ぎなかった.また,マグロの中トロでは赤身より2.5倍高濃度,大トロでは赤身より5倍高濃度であったが,脂質重量ベースで含有量を表した場合は部位による濃度の差は非常に小さくなった.

(3) 食品中ダイオキシン類分析の迅速化・信頼性向上に関する研究
A. 高速加熱流下抽出装置による魚試料の抽出条件を検討した結果,溶媒にアセトン−ヘキサン(1:1)混液を使用し,温度30℃,流速6ml/minの条件で1時間抽出を行えば,良好に魚試料からダイオキシン類を抽出できることが判明した.従来法であるアルカリ分解・溶媒抽出法と比較した結果,得られたダイオキシン類異性体の各定量値は従来法と良く一致した(±10%以内).また,種々の魚試料(n = 12)に適用し,従来法の毒性等量濃度と比較した結果,非常に高い相関(r = 0.99)が認められた.
B. ASEと従来法であるアセトン・ヘキサン溶媒振とう法による乾海苔中のダイオキシン類定量値の比較を行った結果,ASEによる定量値の再現性は従来法とほぼ同様であったが,各異性体の定量値はASEの方が従来法よりも1.1〜3.2倍の高値を示し,ASEの抽出効率の方が高いと推察された.植物性食品21試料におけるASE適用時のクリーンアップスパイクしたダイオキシン類の回収率は45〜116%であり,「食品中のダイオキシン類及びコプラナーPCBsの測定方法暫定ガイドライン」の要求事項(40〜120%)に適合していた.

(4) 食品中臭素化ダイオキシン及びその関連化合物質汚染調査
 中国・四国地域の7種の生鮮魚類から1,2,3,4,6,7,8-HpBDFを,タイから2,3,7,8-TeBDDを,アナゴから2,3,7,8-TeBDF及び3-Br-2,7,8-CDFを検出したが,その他の二地域の魚介類からは検出されなかった.PBDEはすべての魚介類から検出されたが,中部の魚介類が他の二地域のものよりも総濃度が高い傾向が認められた.異性体別構成では,主として,四臭素化体の寄与が大きく,底質に棲息する魚類については,DBDEの寄与も大きかった.また,PBDE濃度は脂肪含量との相関傾向が認められた.
 TBBPA分析法の検討では良好な添加回収率が得られ,個別食品8試料から0.14〜2.98ng/g,トータルダイエット試料の魚介類群試料から0.46ng/gのTBBPAを検出した.

D. 結論
(1) トータルダイエット調査の結果,ダイオキシン類の一日摂取量は1.41±0.66 pgTEQ/kgbw/dayであった.一日摂取量にはこの数年間ほとんど変化は認められず,今後も推移を調査する必要がある.

(2) 個別食品中のダイオキシン類を分析し,汚染実態を明らかにした.また,魚介類の筋肉部と内臓,マグロの赤身とトロなど部位別にダイオキシン類を分析した結果,部位によりダイオキシン類濃度は異なるが,脂質重量あたりの濃度には差が少ないことを明らかにした.

(3) A.高速加熱流下抽出法は短時間(約1.5時間)でダイオキシン類を抽出でき,さらに従来法のようにアルカリ溶液を使用しないためダイオキシン類の分解を懸念する必要がない.従って,本抽出法は魚試料中のダイオキシン類分析の迅速化・信頼性の向上に有効であると考えられる.B.ASEの抽出効率は溶媒振とう抽出と同等以上であり,植物性食品試料におけるダイオキシン類の迅速な抽出法として使用可能と考えられる.

(4) 三地域のうち,一地域での生鮮魚介類から,微量ではあるが,臭素化ダイオキシンを検出した.本物質は臭素系難燃剤から非意図的に生成することが明らかにされており,その意味において,今後も,日本の地域ごとの臭素系ダイオキシン及び臭素系難燃剤の食品汚染の実態を把握することは,食品の安全確保施策の展開において重要と思われる.

F. 健康危険情報
 なし

G. 研究発表
1. 論文発表
1) Hori, T., Tobiishi, K., Ashizuka, Y., Nakagawa, R., Iida, T., Tsutsumi, T., Sasaki, K., Comparison of accelerated solvent extraction and standard shaking extraction for determination of dioxins in foods. Organohalogen compounds, 66 537-541(2004) .
2) Ashizuka,Y., Nakagawa,R., Hori,T., Tobiishi,K., Iida,T., Determination of polybrominated diphenyl ethers(PBDEs) and polybrominated dibenzo-p-dioxins, dibenzofurans(PBDD/DFs) in marine products. J. Agri. Food Chem. 43, 3807-3813 (2005).
3) Ashizuka, Y., Nakagawa, R., Hori, T., Tobiishi, K., Iida, T., Levels of poly-brominated diphenyl-ethers and poly-brominated dioxins in fish, total diet study food groups and Japanese meals, Organohalogen Compounds, 66, 2524-2529(2004)

2. 学会・協議会発表
1) 堤 智昭*1、天倉吉章*1、松本輝樹*1、伊藤日本男*2、栗原 浩*2、佐々木久美子*1、米谷民雄*1:高速加熱流下抽出装置による市販魚中ダイオキシン類の抽出法の検討.第14回環境化学討論会(2005.6)
*1  国立医薬品食品衛生研究所
*2  株式会社ダイアインスツルメンツ
2) 中川礼子,芦塚由紀,堀 就英,飛石和大,飯田隆雄:食品における臭素化ジフェニルエーテル及び臭素化ダイオキシン分析.日本食品衛生学会第88回学術講演会,2004年11月11-12日,広島市
3) 芦塚由紀,中川礼子,堀 就英,飛石和大,飯田隆雄:食品中のテトラブロモビスフェノールA(TBBPA)分析法の検討.第41回全国衛生化学技術協議会,2004年11月18-19日,甲府市
4) 芦塚由紀,中川礼子,飛石和大,堀 就英,飯田隆雄:食品における臭素系難燃剤の分析.環境ホルモン学会第7回研究発表会,2004年12月14-15日,名古屋市
5) Ashizuka,Y., Nakagawa, R., Hori,T., Tobiishi,K., Iida,T.: Levels of polybrominated diphenyl-ethers and polybrominated dioxins in fish, total diet study food groups and Japanese meals. 24thInternational Symposium on Halogenated Environmental Organic Pollutants and POPs(Dioxin 2004), September 6-10,2004, Berlin, Germany

H. 知的財産権の出願,登録
 なし

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