10/03/30 第40回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会議事録 第40回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会        日時 平成22年3月30日(火)        16:00〜        場所 経済産業省別館共用1111号会議室(11階) ○岩村部会長  ただいまから、第40回労災保険部会を開催させていただきます。今日は、稲葉委員、 中窪委員、那須委員、小島委員が御欠席ということです。  早速、今日の議事に入らせていただきます。お手元の議題に従いつつ進めてまいります。最初に、 第1の議題ですが、「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案要綱」についてです。本件は、厚生 労働大臣から労働政策審議会会長あての諮問案件でありまして、前回のこの部会において、事務方か ら説明をいただいた件です。  それでは、最初に事務局からこの件についての説明をいただきたいと思います。よろしくお願いし ます。 ○労災管理課長   それでは、「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案要綱」について御説明し  ます。本要綱については、前回読み上げをさせていただきましたので、省略をしまして、3月16日に  行いました公聴会について御説明します。資料1-2を御覧ください。3月16日に公聴会を開催して各  側代表の口述人の方々から御意見を頂戴したところです。口述内容は、2枚目以下に、「概要」として  まとめております。詳細は省略しますが、今般の改正案につきましては、「概ね妥当」との御意見を  いただいたものと考えております。   なお、使用者側の高橋口述人の部分を御覧いただきたいと思いますが、2つ目と3つ目の○です。  「塩化ビニールにさらされる業務による肝細胞がんについて」「電離放射線にさらされる業務による  多発性骨髄腫又は悪性リンパ腫について」は、検討会報告書には異議はないが、過去6年で1件しか認  定件数がないことから、今回別表に規定する必要があるのか、次回規定することとしても遅くないの  ではないかという御意見をいただいております。   これにつきましては、例示列挙の対象をどう考えるかということになるわけですが、別表第1の2の  「業務上疾病の範囲」の追加については、労働衛生管理の充実等により、今日、職業病として発生す  ることが極めて少ないと見込まれるものを除き、業務と疾病との間に因果関係が確立していると認め  られる場合には、原則として例示列挙するという考え方をとってきているところです。したがって、  私どもとしましては、今般の改正において、「業務上疾病の範囲」に追加をさせていただきたいと考  えております。   その他、口述人の方々からはさまざまな貴重な御意見をいただいております。その御意見を要約し  ますと、1つは本改正内容の周知を徹底するように要望するもの、あるいは労災保険給付に係る認定基  準の運用を適切に行うよう要望するもの、今後、労働基準法施行規則別表第1の2の不断の見直しを行  うように要望するもの、といったことになろうかと思います。私どもといたしましては、今般の貴重  な御意見を踏まえて改正内容の周知徹底、あるいは認定基準の適切な運用、あるいは別表第1の2の不  断の見直しを行いまして、今後とも適切な制度の整備と運用に努めて参りたいと考えているところで  す。説明は以上です。 ○岩村部会長   ありがとうございました。ただいま労災管理課長から御説明いただきました公聴会に  関する内容についても、踏まえた上で、この件につきまして御意見あるいは御質問等がありましたら  お願いいたします。いかがでしょうか。 ○新谷委員   資料にありますように、先日の公聴会でも労働側代表として意見を述べさせていただき  ましたが、今回の省令案要綱については、業務の疾病の範囲の見直しが行われることに対して、連合  としては概ね評価するところです。意見の中でも申し上げましたが、今回の「範囲の見直し」に伴っ  て、かつて労災とは認定されなかった労働者や家族の方が多分おられるのではないかと思いますので、  今回の改正が広く周知されるよう、労災病院等、医療機関の協力も得ながら、可能な限り周知徹底の  対応をお願いしたいと思っているところです。   また、専門家の委員会の報告書の末尾に記載されていましたが、化学物質に係る分科会を設置して  検討を進めるという内容がありましたが、これについては速やかに、検討のための分科会を設置して  いただき、早急な検討の着手をお願いしたいと思います。 ○岩村部会長   ありがとうございました。労災管理課長、お願いいたします。 ○労災管理課長   いま御指摘いただいたことも踏まえまして、今後、適切な労災認定が行われますよ  うに、積極的に周知広報に努めて参りたいと考えております。また、化学物質に係る疾病につきまし  ては、平成22年度において、国内外の化学物質による疾病等の医学的知見の調査・収集、分析・評価  を行う調査研究を実施することにしています。その調査結果を踏まえて、できるだけ早く検討を開始  することにしたいと考えております。 ○岩村部会長   その他、いかがでしょうか。よろしいですか。それでは、特に御意見もないようです  ので、諮問のあった本件については、当部会としては、「妥当と認める。」ということで、労働条件  分科会に報告したいと考えますが、よろしいでしょうか。                  (了承) ○岩村部会長   ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。報告文について  ですが、私に御一任いただくということでよろしいでしょうか。                  (了承) ○岩村部会長   それでは、そのようにしたいと思います。では、議題に沿いまして2番目になります。  2番目の議題は「平成22年度労働保険特別会計労災勘定予算概要について」です。最初に、この件に  つきまして、事務局のほうから御説明をいただきたいと思います。 ○労災管理課長   それでは、資料2の「平成22年度労働保険特別会計労災勘定予算概要」を御覧くだ  さい。1枚目は「歳入・歳出の予算概要」を掲げてございます。「歳入予算額」については、対前年度  比で93.6%ということで6.4%の減、「歳出予算額」が1兆1,268億6,000万円ということで100.3%、  対前年度比+0.3%になっております。次の頁に詳しい内容を掲げておりますので御覧いただきたいと  存じます。   「歳入」の関係ですが、1兆1,754億8,100万円ということです。まず、「1.他勘定より受入」とあ  りますが、労災保険料については徴収勘定を経由して入ってくるということで他勘定より受入という  ことになります。「保険料収入」ですが、8,253億円余ということで、対前年度比92%ということです。  これは雇用所得の減によって収入の減が見込まれるということです。   それから、「2.一般会計より受入」、これは労災保険法で一部国庫補助するという規定がありまし  て、それを踏まえての補助額です。「3.未経過保険料受入」「4.支払備金受入」というのがあり、こ  の2つは労災保険特有なもので、「3.未経過保険料受入」の「備考」のところにありますが、「既に収  納された有期事業に係る保険料のうち、平成22年度に係る保険料受入見込額」です。有期の場合、年  度をまたがるものがございますので、こういったことが生ずるのですが、対前年度比で22.8%減とい  うことで、大きく減を見込んでいます。これは平成21年度から労災保険率を引き下げたということと、  こういった厳しい経済状況を反映して、二重の意味で減になっております。「4.支払備金受入」です  が、「備考」にありますが、これは、「既に業務災害や通勤災害を受けた労働者等に支払われるべき  給付見込額」のうち、年度内に支払が完了しない額を前年度から繰り越すもので、これにつきまして  も、44億円ほどの減を見込んでいるということです。   「5.運用収入」です。これは、積立金を財政融資資金に預託しておりますが、より長期のもので運  用することに伴って、利回りが上がることによる増を見込んでいるものです。「6.雑収入」ですが、  「備考」の欄にある「返納金」というのは委託補助金等の返納金で、その分を収入に組み込むという  ことです。同じく「備考」欄の「雑入等」ですが、これらがトータルで4億円ほどの減を見込んでおる  ということです。   次の頁は「歳出」です。1兆1,268億6,600万円で+0.3%を見込んでいます。「1.給付費」は「(1)  保険給付費」で、右側の「備考」の括弧書きの中に、「診療費改定影響分」で30億円余の増というの  があり、2年ごとに労災診療費を改定しておりますが、その影響での増が30億円余ということです。   ただし、最近の給付実績を踏まえて、給付費全体としてはやや減ということになっております。  「(2)特別支給金」というのがありますが、これは、保険給付に上乗せで支給される分ですが、これ  についても保険給付費と連動してやや減ということで見込んでおります。   「2.社会復帰促進等事業費」で、これは、社会復帰促進のための事業に充てている経費ですが、158  億円余の減ということで、△が立っております。これは、1つはいわゆる、仕分けの関係で独立行政法  人あるいは公益法人に対する支出を大きく減らしたことと、立替払の補助金もここに含まれますが、  21年度は倒産等が非常に多かったということで補正も組んで対処したわけですが、22年度はそれに見  合い分を落としておりますので、その分が減になるということです。全体としてこの事業費について  は非常に精査をしておりますが、効率化を図りながら、必要な事業費は確保されるように努めている  ところです。   また、「3.業務取扱費等」ですが、これについても厳しく精査をして22億円余の減ということです。   「4.他会計・他勘定への繰入等」が唯一、増となっており、246億円余の増ということです。1つの要  因は徴収勘定への繰入ということで、これは保険料を清算した分をまた事業主にお返しするというこ  とで、この返還金の増が見込まれるということ、2つ目が主たる要因で、年金特会への繰入等です。こ  れは、船員保険との統合に伴い、従前、船員保険のほうから年金特会のほうに繰入を行っていた分を  労災保険のほうから行うことになったということで、21年度については統合が22年1月ですので、3  月分ということで、22年度から平年度化されるということで、その分が増えております。全体として、  4番を除きますと、いずれも減という予算となっております。   次の頁の参考2-1ですが、以上を踏まえての「労災保険経済概況」ということです。「(1)収入」「(2)  支出」で、いわば当該年度で完結する部分です。その下に、「単年度の収支過不足」を付けています。  「(3)前年度より受入」「(4)翌年度への繰越」というのがありますが、先ほど予算のところで御覧いた  だきましたが、労災保険の性質から、未経過保険料あるいは支払備金については繰入・繰越を繰り返  しております。それらを踏まえて、最終的な決算上の収支が出てきます。現時点では、21、22年度の  (3)と(4)の部分は未確定ですので、「−」の形にしていますが、概ね、同じ額を繰入・繰越という形に  なりますので、「単年度の収支過不足」とほぼ同様の数字が決算上の収支となって参ります。したが  って、平成21、22年度からは、積立金を徐々に取り崩していく形になるということが見込まれるとこ  ろです。    次に、参考2-2です。「労災保険給付支払状況(年度別・月別)」のデータを付けさせていただきま  した。これは、各給付別の給付件数と給付金額を年度及び直近の各月で掲げたものです。ご注意いた  だきたいのは、21年の4月からの各月のデータを付けていますが、これは4月以降その月までの累計  ですので、数字を御覧いただく際にご注意いただきたいと思います。詳細は承略しますが、こういっ  たものを「労災保険事業月報」の形で公表しているところです。   それから、参考2-3ですが、「労災保険の積立金について」ということで、積立金の考え方を書いた  紙を付けさせていただいております。2つ目の●ですが、「年金給付に要する費用については、『労働  災害に伴う補償責任は、事故が発生した時点における事業主集団が負うべき』という考え方に立って、  事故が発生した時点において将来分も含めて『全額徴収』し、これを積み立てている」ということで、  これは現在の保険料あるいは、積立金の考え方です。したがって、現在の積立金残高は8兆985億円あ  りますが、これは使用用途のない剰余金ではなく、現在年金を受けている方々に対する、今後必要と  なる「年金給付の原資」となる確定的な債務(責任準備金)の性格を有するものです。したがって、  いわゆる埋蔵金の類ではないということについて、改めて御理解をいただきたいと思います。説明は  以上です。 ○岩村部会長   ありがとうございました。   ただいま、御説明いただきました「平成22年度労働保険特別会計労災勘定予算概要」につきまして  御意見、御質問等ございましたら、お願いします。いかがですか。 ○新谷委員   以前、この部会でも申し上げたのですが、たぶん、あと4か月もすると来年度の概算要求  で予算策定作業に入ってくると思われます。いま参考2-3でも労災管理課長から御説明いただいたので  すけれども、労災保険の積立金が非常に巨額な8兆1,000億円近い積立金ということになっていますが、  この資料にありますように、「年金給付の原資」として、責任準備金としての確定的な債務というこ  とでございますので、他の特別会計の積立金のような性格ではないということです。労災保険の積立  金の使途が非常に明確な積立金ですので、適切な情報発信をしていただいて、埋蔵金として狙われな  いように、是非、適切な運用をお願いしたいというのが1点目です。   もう1点は、今日の議題と直接関係しないところですが、年度初めということもありますので、一言  申し上げておきたいと思います。実は、地方分権改革の論議の中で、先日、全国知事会の「国の出先  機関原則廃止プロジェクト」の中間報告が出されておりまして、現在、都道府県の労働局が担ってお  られる事務のすべてを地方に移管すべしという趣旨の中間報告が出されたわけです。労災保険の事務  についても、安定行政、基準行政とともに労働保険の認定・給付、労働保険料の徴収事務等について  も受入可能な地方に移すということが記載されているわけです。   私どもとしては、地方と国での労働行政の役割分担のあり方について論議をしていただければいい  のですが、全国一律で残すべきものはきちんと国の責任として残すということが重要だと思っていま  す。労働行政については、全国一律でネットワークを残す、統一的な運営基準を残すということが重  要と考えていますので、そういった視点で厚生労働省におかれても、是非、関係各位に対して説明責  任をきちんと果していただきたいと思っているところです。 ○岩村部会長   ありがとうございました。その他、いかがですか。労災管理課長、何かありますか。 ○労災管理課長   御指摘いただいたとおり、まず、積立金につきましては先ほど申し上げ、あるいは  御指摘いただいたとおりですので、そういった趣旨がきちんと理解されるように私どもとしても説明  責任を果してまいりたいと考えています。   労災保険につきましても、労災認定は全国斉一的でないといけないものですし、監督行政あるいは  安全衛生行政といった労働基準行政と深く一体なものだと考えていますので、そういったことについ  てもきちんと説明していきたいと思っています。 ○輪島委員   参考2-3の件ですが、これは前々回の審議会でも同じように使用者側として発言させてい  ただきましたし、いま事務局からも力強い御答弁をいただきましたので、是非、そのようにちゃんと  していただくように努力をしていただければと思います。以上です。 ○岩村部会長   ありがとうございます。私自身も専門家としては、やはり積立金は単なる剰余金では  なくて、ここに説明がありますように、年金給付に要する費用を事故発生時の事業主集団から徴収し  て、それを将来の年金に充てるという考え方で、この間、ずっと積み立ててきたというものでありま  すので、そういう意味では、埋蔵金といった類のものではないということは非常にはっきりしていま  すし、これを埋蔵金というようなものとして取り崩しますと、このあと、また保険料の設定から、一  からもう一度考え直さなければいけないというようなことになって、労災保険の運営そのものに非常  に大きな悪影響を及ぼすというのははっきりしていると思いますので、今日、公労使でこういうご発  言をして記録に残すということで、それをもとにして事務局のほうでも精力的に働きかけてうまく説  明していっていただきたいと思うところです。   いま、労側から地方移管の関係でもお話がありましたけれども、私自身も、例えば労災のさまざま  な権限を地方に移すということは、県なら県の首長さん、あるいは議会の意向によってそれぞれ認定  の基準やら徴収の報酬やらといったものが違うという話になってしまうというものであって、それは  やはり労災保険というものの性格とは相容れないものだと思います。安全衛生についてもまったく同  じですので、そういう点で少なくとも専門家の目から見たときには、労災保険であるとか安全衛生と  か、さらに広く労働基準という関係というものが県で独自にやればいいという、そういう性格なもの  ではないと非常にはっきりしているのではないかと思っています。そういったことも、さまざまな形  で考慮し、それぞれが各界に発言していただいて御理解を得るようにお願いできればと私からも思い  ます。この件はよろしいですか。 ○野寺委員   いまの積立金の御説明なのですが、皆さまの御意見はよくわかるのですけれども、先ほ  どの事務局の御説明ですと、実際問題として平成21年度、平成22年度積立金を取り崩すことになるわ  けです。そうすると、現在の8兆985億円というレベルが、いま御説明があった趣旨から適正なのかど  うか、つまりこれで足りるのか足りないのか、どのくらい足りないのか、どのくらい必要なのかとい  うことが出てくると思いますけれども、その辺は何か御説明はできますか。 ○労災管理課   労災保険の保険料の徴収方式につきましては、先ほどの参考2-3の●で2つ目にござ  いましたように、事故が発生した時点で、将来分も見越して積み足していくという方式に変えました。  その背景には、石炭産業から石油産業へのエネルギー政策の転換といったことで特定の産業だけで賄  えないような事態が生じてきた。そういうことが今後起きないように、予め将来分を見通してやって  いこうということに切り替えたわけです。   しかしながら、その時点では、それ以前の過去債務分を多く引きずっていたということで、平成元  年以降、積立金が必要額まで積み上がるように努力をしようということで積立金の積立を図ってきた  わけです。現時点では予め必要額ももちろん推定するわけですが、概ね必要額を積み立ててという状  況です。ただし、船員保険との統合がございまして、今後の過去債務分をこれから解消していくとい  うことがございますので、もちろん100%ではありませんが、概ね積み立てている状況です。   その後の推移というのは、したがって積立金を使って年金を支給していく分と、今後発生する年金  受給者に必要な分を積み立てていくというものの差引きで、この増減が決まっていくということです  が、労災年金の受給者数が現在やや減少傾向ですので、そうしますと、出ていく分が多くなるという  ことで、徐々に取り崩していく形になってくるわけです。必要額につきましては、ほぼ充足している  ということでございますので、こういった取崩しをすることによって積立金に支障を来たす状況には  ありません。ただ、先ほどございましたように、まったく別の要因でこれが何兆円もなくなるという  ような話になりますと、それは大きく影響してくるわけでございまして、したがって、こういう労災  保険の中で推移計算をしながら支給に使っていく形を引き続き取っていくことが重要であると思って  います。 ○岩村部会長   よろしいですか。特にないということでありましたら、この件につきましてはここま  でということにさせていただきます。   次の議題ですが、お手元にある議題では(3)として、「その他」ということになっています。これに  つきましては、事務局のほうから、「労災診療費の改定について」ということで報告をいただくこと  になっています。事務局から御説明をいただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○補償課長   資料3と参考3の2つのペーパーで御説明をさせていただきます。先ほどの議題2の予算  の説明での「歳出」のところに、「診療費改定影響分」というものがあったと思います。30億円余の  プラスということです。労災保険の診療をした医療機関に対して国から診療費を支払うわけですけれ  ども、その算定については、基本的に健康保険の診療報酬に準拠しています。準拠をしている健康保  険の診療報酬は2年に1度改定がなされるということで、本年がその改定の年に当たっています。いろ  いろ報道でもあるとおり、久しぶりに健康保険の診療報酬についてはプラス改定になりまして、労災  診療費においてもその分、プラスの影響が出てきていますが、健康保険とまったく同じではなく、労  災特有の報酬設定をしている部分もあります。そういった部分も含めて、2年ごとにあります健康保険  の診療報酬の改定の機会に、労災診療費についても見直しをするということとさせていただいていま  す。本日は、今回の労災診療費の改定内容について、御報告させていただきたいと思います。   資料3「労災診療費の改定」について、「1.概要」です。先ほど御説明しましたとおり、労災診療費  の算定は、健康保険の診療報酬点数表に原則準拠しています。今回の健康保険の診療報酬改定に伴い  まして、労災診療費の相当部分がこれに連動して改定されまして、この影響額が28.3億円増となって  います。労災保険の療養補償給付の総額が毎年若干の変動がありますが、2,000億円余となっています。   それに対して増分が28.3億円となります。これに併せて、労災医療の特性を考慮して設定している労  災独自部分があります。後ほど少し概要を見ていただきますけれども、現下の課題を踏まえた見直し  を行うことにいたしております。   「労災医療の特性」と書いておきましたけれども、健康保険で言う一般的な治療の目的は病気を治  すことですが、労災保険については労働者が療養を受けるだけではなく、元の職場に帰り、できるだ  け元の状態で働けるようにするというところまでが大きな労災医療の目的でして、その部分の目的に  従って医療機関に積極的に対応していただく。その対応いただいた医療機関に対して、報酬面でも適  切に評価をするという考え方です。   2年ごとの健康保険の診療報酬点数表の改定にあたり、労災独自の対応について、いろいろ課題が出  てくるわけですけれども、ほぼ毎回対応している課題としては職場復帰に資するリハビリテーション  の充実ということです。主な課題の(1)に書かせていただいています。   その他、近年の労災補償に係る課題として、2点ほど今回対応したいと考えておりまして、(2)の  「増加傾向にある業務上の精神疾患への対応の充実」と(3)の「石綿疾患など労災固有の疾病対策の充  実」です。   「2.主な改定内容」について御説明します。まず、「(1)健保改定に伴う自然増」です。健康保険に  つきましては、昨今の医療崩壊といった指摘がある中で、特に救急医療でありますとか、外科、ある  いは労災と少し離れますけれども、産科、小児科、こういった科目の病院の医療対応を再生していこ  うというような考え方、あるいは病院の勤務医の労働条件等が非常に悪くなっており、その負担を軽  減する必要があるというような観点から、医療費の項目としては、手術の適正評価でありますとか、  入院医療の評価を充実するといった部分での充実が今回図られるということです。手術、入院医療と  いいますと、労災医療においてもかなりのウエイトが占められているところでして、御覧のような額  の増加になります。   次に「(2)現下の課題への対応」です。   1つ目は「(1)早期の職場復帰に資するリハビリテーションの充実」です。「早期リハビリテーショ  ン加算」とありますが、もともと「加算」という言葉でわかりますように、リハビリテーションに対  する元々の評価があります。リハビリテーションというのは、例えば疾患別にいきますと、脳溢血等  の脳血管疾患で治療をする場合に細かな作業能力の回復を図るために作業療法をするとか、あるいは  骨折のあとに歩行訓練をするとか、こういったものを「リハビリテーション」と言っておりますけれ  ども、入院当初、1か月程度の早期の段階でのリハビリテーションが早期回復、職場復帰には有効とい  うふうに考えられておりまして、健康保険においても、今般こういった早期の回復に資するリハビリ  テーションに対して、より高い評価を与えようというふうに考えられ、これまで「早期リハビリテー  ション加算」については30点であったものが、45点に引き上げられています。   「早期リハビリテーション加算」については、実は前回の平成20年の健保の診療報酬点数表の改定  のときに導入されたわけですけれども、その際、労災のリハビリテーションについてはもともと評価  が高かったということもあり、この加算については労災では対応しておりませんでした。今回は、健  康保険の基本部分のリハビリテーションの点数の引上げもあり、また加算部分の引上げもあるという  ダブルの引上げがなされたことから、労災としても本来の準拠に戻り、対応したいと考えています。   そういった観点から3億円程度の増額となります。   2つ目は「増加傾向にある業務上の精神疾患への対応の充実」です。もともと精神疾患の労災とい  いますと、自殺が大きなウエイトを占めておりましたけれども、最近は自殺の伸びが止まる一方で、  うつ病といった療養を要する精神疾患が労災認定される事例が増えています。こういった場合、先ほ  どの労災医療の目的でも申し上げましたように、そういう方々の職場復帰についても力を入れていく  必要があります。今回は2つの点でその対応を評価しようと考えています。   第1点は、「精神科デイ・ケア等への職場復帰プログラムの導入」です。現在も健康保険で、精神疾  患に罹った方が社会復帰を円滑化するために、ワークショップのような形で集団的なプログラムを受  けることに対して、報酬の設定がされておりますけれども、特に業務上の事由により精神疾患に罹っ  た方につきましては、そもそも職場復帰する先の業務自体が精神疾患の要因となっているわけで、そ  のところを考慮して、リハビリの対応をしていかないといけない部分があります。そういった意味で  労災患者に必要な職場復帰プログラムを特に導入をして実施していただいた場合に、「職場復帰支援  加算」として評価をしようというものです。これは、いわば病院の中での対応に対する評価です。   第2点は、「職場訪問指導の積極評価」です。この「職場訪問指導」というのは、健康保険にはまっ  たくない評価項目です。お医者さんあるいは看護師などの医療スタッフが患者さんの職場まで行って、  職場の産業医でありますとか事業主さんといろいろお話をして、労災の患者の職場復帰を受け入れる  体制を整えていただくというものです。平成20年度に新設した項目ですけれども、そもそもの点数設  定が実態に合っていない部分もありまして、活用が進んでいない状況です。こういった部分を踏まえ、  今般、職場訪問指導にかかる時間でありますとか手間を改めて評価し直しまして、点数の増加を行う  ということとし、0.5億円程度の必要分を見込んでいます。   次に、「(3)石綿疾患等労災固有の疾病対策の充実」です。「石綿疾患」については昨今、非常に重  要な職業病対策の対象です。石綿に関する疾病については、石綿ばく露より数十年も遅れて発症する  という遅発性という特徴がありますので、今後かなり増えてくることも予想されますので、石綿疾患  の診断、療養につきましては専門的な医療を提供する体制整備が必要になっています。健康保険にお  いても、「がん」でありますとか慢性疾患の計画的な管理につきまして、「特定疾患療養管理料」と  いうものが設定されておりますけれども、石綿関連疾病についてはその対象とされていないことから、  労災においては、特に「石綿疾患療養管理料」を設定し、計画的な治療について適正な評価をすると  いうふうにいたしたいと考えています。これに1億円程度を要するということです。   以上、労災独自の部分について、4.5億円程度の対応をさせていただきたいと考えています。   裏面を見ていただきますと、「労災診療費の仕組み」ということで、少しお時間をいただいて説明  をさせていただいています。   健康保険の診療報酬点数表に原則準拠しながら、労災医療の特性を考慮した独自の設定をしていま  す。具体的に考慮すべき観点を左の四角の中に3点書いています。   1番目は、労災診療費を支払う基礎になる考え方とも関連するのですけれども、「使用者の災害補償  責任を担保する公的保険として労災保険で措置すべき療養の範囲」を独自に定める部分が出てくるこ  とです。健保にない評価項目がこの観点から出てきます。先ほど御説明した職場復帰指導などはその  典型です。   2番目は、「労災患者の複雑な受傷状態等に対応した医療機関の負担の適正評価」です。健康保険で  の医療ですと、手が痛い、足が痛い、こういったことで訴えてきますと、その部分を中心に診察、療  養をすることが一般的ですが、労災の場合ですと、どこかにぶつかった、高所から落ちた、こういっ  た事象の中では、患者さんが訴えるところだけではなく、全体を観察し、療養の計画でありますとか、  対応を決めていかなければ、あとから手遅れになるといったこともあります。このため、労災患者を  受け入れる医療機関の負担の平均像を見ますと、一般の健康保険での患者さんを受け入れる医療機関  の負担よりも、ある程度高く評価をする必要が出てきます。こういった点を考慮して、右にあります  ように、健康保険では点数単価が1点10円となっていますけれども、労災保険では、現在1点12円で  計算することになっています。   3番目は、「労働能力の回復、早期職場復帰に向けた労災患者への医療上の対応・コストの積極的な  評価」です。これにつきましては、リハビリテーションは健康保険でも一定の評価項目になっており  ますけれども、より早期の職場復帰を目指す観点から、健康保険の評価よりも高い評価をする。ある  いは健康保険では認められていない期間にわたり、一定のリハビリテーションの算定を認める。こう  いった形で健保にある項目に、労災独自の観点から上乗せをして対応をしているというようなことで  あります。   概ねこういった3つの観点で、「労災独自の措置」が定められてきています。上記以外については  健保の診療報酬点数表に準拠しているということでして、若干詳しい内容につきましては下半分に書  かせていただいておりますので御覧いただければと思います。   参考3もさらに詳しくなりますので、簡単に御説明します。先ほど御説明しました新たな診療費の項  目も含めて、現在の労災診療費の算定基準がどのような形になっているのかというものを概略でお示  しする資料になっています。労災医療費については、昭和52年1月付けの労働基準局長通達で定めら  れています。2年ごとに行われる健康保険の診療報酬の改定の際に、必要な項目を追加したり改めたり  しながらやってきており、現在の姿になっているということで御理解いただきたいと思います。   その「労災診療費算定基準」の設定の観点を5つほどに分類して、それぞれ項目を列挙させていただ  いています。   1つ目は、「労災医療の目的を踏まえたきめ細かな指導等への評価」です。今回、改定する「職業復  帰訪問指導料」「精神科職場復帰支援加算」「石綿疾患療養管理料」もこの部分に属します。   また、救急医療などで突然運び込まれる「労災患者特有の傷病に対する評価」として、2のような評  価項目があります。この中に、例えば「初診時ブラッシング料」がありますけれども、これは、工場  で怪我をされたりして、傷が極めて汚れている場合にそこをきれいにしてから、本体の治療に入ると  いう行為もきめ細かく技術料として評価しています。次の頁ですが、「ADL加算」は日常生活動作に関  するリハビリテーションということで、通常のリハビリテーションなどは訓練室で行うものがほとん  どですけれども、労災患者の早期職場復帰のため、病棟まで作業療法士が出張して、病棟での日常生  活の動作についても支援をする、訓練をするというようなことにも評価をしています。   3番目は「複雑な受傷状態に対応した医療機関の負担の適正評価」です。単価での評価に加えまして、  初診や再診では、一般の健康保険での受診者よりも丁寧に労災患者に対応しなければならない部分が  どうしても出てきますので、そういった部分を適切に評価しています。   4番目は、労災患者が平均的に重篤であるということ、作業に関連する四肢の傷病が多いということ、  その四肢の傷病についても今後、職業動作として非常に使う部分ですので、より積極的な早期回復へ  の対応が必要ということで、「四肢の傷病に対する評価」のアップといったものも労災では行ってい  ます。特に手・手指は非常に重要ですので、1本、2本という形で、それぞれ本数ごとに評価するとい  うような対応もしています。   5番目は、「充実したリハビリテーションの実施」です。健康保険においても疾患別にリハビリテー  ションの点数が定められていますけれども、その中で労災保険において、一定の上乗せを図っている  部分があります。また、最後の頁を見ていただきますと、健保では一定の上限日数が定められていま  すけれども、労災では必要性が認められれば、上限日数を超えて算定することができます。   最後の「早期リハビリテーション加算」は、リハビリテーションの充実という中で労災としても今  回対応するということです。ここだけは健保も45点なので、純粋に労災独自と言えませんけれども、  労災では対応していなかったものを、今回、健康保険に合わせるという意味で、○新と表示させていた  だいています。   以上、中身として非常に複雑なものですので、十分御理解いただけなかった部分もあろうかと思い  ますけれども、労災診療費の設定の趣旨を是非御理解いただければありがたいと存じます。よろしく  お願いします。 ○岩村部会長   どうもありがとうございました。ただいま事務局のほうから、労災の診療報酬につき  まして御説明いただいたところですけれども、これにつきまして御意見あるいは御質問などありまし  たら、お願いしたいと思います。 ○林委員   資料3の関係なのですが、特に1.概要の(主な課題)の(3)ですが、特に建設の関係は石  綿の疾患が非常に多い。ところが専門医が極端に少なくて、一般的な医者のところに行くと、例えば  肺炎など、そういうところで済ませてしまうようなものですから、2.主な改定内容の(2)の[3]の「計  画的な治療を新たに評価」というところに、是非とも、「専門医の養成」をこの中に入れていただき  たいという要望です。 ○補償課長   御指摘の点は、私どもも今後、かなり中長期的な目で患者数の増加に対応できる専門医  を確保することが、労災医療の基盤づくりとしては非常に重要な課題だと思っています。診療報酬で  の対応というのは、医療行為自体を評価する診療報酬の性格上、限界がある部分があります。そうい  った意味で労災病院でありますとか労災指定医療機関を中心に、専門性が充実されるようにさまざま  な対応を行っていく必要があります。現場の実状等も踏まえて今後対応していきたいと考えています。 ○岩村部会長   その他、いかがですか。 ○輪島委員   資料3で、「2.主な改定内容」の(2)の[2]ですが、これも要望で、この中身についてはそ  ういうことだと思いますけれども、「精神疾患への対応の充実」というところで、基本的には休職を  経てから職場復帰をするということが一般的だと思うのですけれども、その休んでいる間にどういう  ような状況だったのか、どういう薬を飲んでいたのか、職場復帰にあたってどういうことを注意した  らいいのかというところが、むしろ企業の現場としては主治医の先生にお伺いできれば、実は非常に  有効なのではないかと思っているのです。   患者本人と主治医の関係ですと、守秘義務もありますし、なかなかそこのところ、現実問題として  は難しいと思うのですけれども、これは、「職場訪問指導」ということでお医者さんのほうが職場に  来ていただくということなのですけれども、反対に企業の管理者、または人事の担当者が主治医の先  生のところにお伺いをして、多少どういった状況なのかということを聞くことも、実はそれは点数に  なっていないので、お医者さんからすると、余計なことを聞きに来ると時間もかかってしまうという  意味合いでは、労災独自の制度なのかもしれませんので、そういうようなものも課題として今後検討  していただければありがたいと思っています。 ○補償課長   御指摘のとおり、職場訪問があるのであれば、事業主からの医師への訪問もあるのでは  ないかということだと思います。この点はおそらく医師が病院の中で診療した場合に、患者さんを前  にしている場合は診療報酬の対象になり、また、例えば看護している家族に指導するような場合は算  定できるようですけれども、それ以外の会社の方とか関係者の方が医師のところへ行って話を聞いて  も、その時間分の診療報酬を医師が保険に請求することができず、患者さんに対する診療費の中でや  りくりしてもらうということになっています。輪島委員がおっしゃるとおり、個人情報の取扱いであ  りますとか、病院内でのそういう医師の行為をどのように具体的に取り出して評価するのかという技  術的な問題もありますが、御趣旨については理解できる部分もありますので、今後どのような対応が  可能か検討していきたいと思っています。 ○岩村部会長   そこは、たぶん輪島委員御自身もおっしゃったように、医者の守秘義務の関係もあり、  もう1つは事業主が直接なのか、そこに産業医が関与するのかという、もう少し大きな仕組み方の問題  もあるので、そういった多角的な観点から検討する必要があるのかと思います。   私も労働委員会をやっていて、現実には精神性疾患、特にうつ病からの職場復帰というのは非常に  トラブルが多発する領域でもありますので、何らかの形でそういったトラブルを防止できるような、  要するにお医者さんと産業医とご本人と事業主との間を、うまく医学的な見地をベースにしながら調  整できるような仕組みが構築できればいちばんいいと思いますので、そこはもう少し幅広な見地から  検討していく必要があるかと私自身も思います。その辺は安全衛生との関係もあり、労災補償部と安  全衛生部とも含めて少しずつ問題を検討していっていただければと思います。   その他、いかがですか。よろしいですか。特段、他にないということでしたらこの議題については  ここまでとさせていただきたいと思います。   本日、用意している議題は以上ですけれども、他に御意見等ございますか。よろしいですか。   以上をもちまして、本日の部会は終了させていただきます。なお、今日の議事録の署名委員ですけ  れども、労働者代表につきましては齋藤委員、使用者代表につきましては田中委員にお願いしたいと  思います。皆さま、本日はお忙しいところありがとうございました。これで終了といたします。 照会先:労働基準局労災補償部労災管理課企画調整係             03−5253−1111(内線5436)