10/06/16 第7回医薬品の安全対策等における医療関係データベースの活用方策に関する懇談会議事録 第7回 医薬品の安全対策等における医療関係データベースの活用方策に関する懇談会 日時 平成22年6月16日(水) 17:00〜 場所 都市センターホテル606号室 ○安全対策専門官 ただいまから第7回「医薬品の安全対策等における医療関係データ ベースの活用方策に関する懇談会」を開催します。本日はお忙しい中、また遅い時間に お集まりいただきましてありがとうございます。当懇談会の構成員15名のうち、11名の 委員の先生のご出席をいただいております。  また、本日は有識者からのヒアリングが議題にございます。3名の有識者の先生に来 ていただいておりますので、ご紹介いたします。東京大学大学院医学系研究科教授の大 江和彦先生です。浜松医科大学医療情報部非常勤講師の木村友美先生です。独立行政法 人科学技術振興機構研究開発戦略センター臨床医学ユニットの山本雄士先生です。本日 はお忙しいところご参加いただきましてありがとうございます。どうぞよろしくお願い いたします。  本日の懇談会は公開で行うこととしていますが、カメラ撮りは議事に入る前までとさ せていただいておりますので、メディア関係者の方々にはご理解とご協力のほどをお願 いします。傍聴者は、傍聴に際しての留意事項、例えば「静粛を旨とし、喧噪にわたる 行為はしないこと」「座長及び座長の命を受けた事務局職員の指示に従うこと」などの 厳守をお願いします。これより議事に入りますので、カメラ撮りはここまでとさせてい ただきます。  本日は、議題1「有識者等からのヒアリング」、議題2「懇談会の提言(案)について」、 議題3「今後の検討スケジュール」の3つを予定しています。以後の議事進行については 永井座長にお願いします。 ○座長(永井) 本日の配付資料の確認をお願いします。 ○安全対策専門官 当日配付資料1「米国での医療情報基盤の調査結果から」、こちら は山本先生からの資料です。当日配付資料2として、本日の「資料1及び資料2に対する コメント」で、佐藤先生からいただいたものです。その下が座席表、続いて議事次第、 配付資料一覧、開催要綱、構成委員名簿がございます。  その下に、資料1-1「日本のセンチネル・プロジェクト提言の概要」、資料1-2「電子 化された医療情報データベースの活用による医薬品等の安全・安心に関する提言(案)」、 資料2「提言作成のための資料(案)」、資料3「今後のスケジュール(案)」、参考資 料1「米国のHIPAA法における個人情報等の保護に関する規定について」、参考資料2「医 療情報システムの安全管理に関するガイドライン第4.1版」、参考資料3-1「日本のセン チネル・プロジェクト提言(案)についてのコメント」、参考資料3-2「生命・医学・ 医療・健康をつなぐ情報を循環させる技術と基盤の構築と活用」、参考資料4は藤田先 生から、「前回第6回懇談会資料及び今回の懇談会資料1-2に関するご意見」をいただい ています。  各構成員の先生方には事前に資料を送付させていただいておりますが、本日追加で配 付している資料等もありますので、お手元の資料でご確認をお願いします。 ○座長 議題に入ります。この懇談会においては、電子化された医療情報データベース の活用による医薬品等の安全・安心に関する提言案を、これまで議論してきました。後 ほど、これまでの議論により作成された提言案についてご議論いただきますが、今日は まず最初に、有識者からのご意見を伺います。  今日は3名の方にお出でいただいています。最初に、東京大学の大江先生、次に浜松 医科大学の木村先生、3番目に科学技術振興機構研究開発戦略センターの山本先生に、 お1人につき10分程度でお話をいただいて、さらに10分程度ご議論いただきます。大江 先生からお願いします。 ○大江参考人 東京大学で医療情報学を担当している大江と申します。よろしくお願い します。私は東大病院の情報システム管理部門でも併任で仕事をしていまして、長く大 学病院の医療情報システム、電子カルテシステムの研究開発、日常の管理をやってきま した。そういう中で、今回話題になっている、電子化された医療情報データベースを、 日常構築して使っていく立場で、この提言案を読ませていただいて、いくつか気づいた ことをコメントさせていただきます。  私のお話したいことを、参考資料3-1にスライドでまとめてきました。まず、日本の センチネル・プロジェクトの提言の案ですが、このプロジェクトが目指している基本的 な路線というのは、是非推進すべき路線だろうと考えています。ただ、このプロジェク トが対象としているデータベースの多くの部分は、日常の診療の場で医療を行う、その 結果として築積されてきたデータベースでありまして、具体的にはそのデータベースに もいろいろとあるわけで、診療のオーダーシステム、実施の記録、あるいは検査結果、 患者さんとの診察の中でいろいろと書かれる文章も含めた電子カルテのデータ、医療保 険請求のためのレセプトコンピューター、実際にそこから出てくるデータを請求情報と して提出したレセプト、このようにいろいろな種類のデータベースがあるわけですが、 いずれも今回の課題である副作用分析をする目的で収集されたデータではありません。 これは当たり前のことなのですが、この点が注意すべき点でもあります。  当然、そのようにして生まれているデータというのは、活用できる範囲に一定程度の 制約があります。それから、質も必ずしもよいものばかりではないことを把握すること が必要ではないかと感じます。そういう意味で、可能なことと、不可能なことは早い段 階から分けて、現時点の技術で可能性が低いと思われるものは、研究的な側面として、 長期的に考えることが必要ではないかと思っています。  そういう意味で、少し提言を読ませていただきますと、できることの中に、まだ今後 研究開発が必要ではないかと思われるような、夢的な部分が若干含まれているのではな いかと思います。これは否定的な意味ではありませんで、そういった面は、さらに研究 的な要素として発展させていくことが必要だろうという意味です。  もう少し具体的にどういうことかと言いますと、2枚目のスライドです。この電子化 された医療情報データベースの制約を理解して、対処方針が必要であろうと思います。 大きく4点を書きました。  1点は、現在の情報処理技術で抽出が可能な事象データを対象とすべきだろうと思い ます。例えば電子カルテや診療情報システムでは、日常の現場の診療で、特に治療や検 査が要らないもので、患者さんの話だけを聞いて、経過を見ておく程度で済むようなち ょっとした臨床的事象、例えば軽い皮膚症状、嘔吐、一時的なめまいといったものにつ いては、必ずしも電子カルテに100%記述されるわけではなく、むしろ記述しないこと もかなり多いという認識が必要だと思います。仮に記述されたとしても、多くの場合、 それは文章で書かれていることが多いわけで、患者さんが語る言葉あるいは多様な医学 表現で書かれますが、こういった文章のデータを、いまのコンピューター処理技術で抽 出するというのは、かなり研究的な要素が必要で、今後の課題ですので、現時点では、 ここから具体的な臨床的な事象の頻度を知ることは、非常に難しいだろうと思います。  仮にそれができたとしても、実際の出現頻度よりは、大幅に低い頻度情報が得られる ことの認識は必要だと思います。したがいまして、当面はコード化されたもの、あるい は結果が数値で得られているもの、病名のように標準化された用語で記録することが日 常診療でも求められているもの、こういったデータをできる限り最大限活用するほうが、 効率がよいのではないかと思います。  2番目としては、診療業務上のニーズで蓄積されているデータですので、意外に知ら れていない質の限界があります。例1として、例えば入院処方オーダーデータベースで す。これは解析すると、患者さんが飲んだ薬の頻度がすぐにわかると思われるかもしれ ませんが、実際には、大きな病院の入院処方データベースというのは、ドクターが処方 オーダーをして、例えば3日分とか1週間分を、院内の薬剤部から病棟に取り寄せるため のオーダー情報で、実際にそれを患者さんに飲ませるかどうかは、患者さんの状態に応 じて別の指示が出ます。それですので、まさに患者さんに服用させる指示のデータを対 象としないと、入院処方オーダーデータベースというのは、必ずしも服用データと同一 ではないということです。  こういった情報は、大きな病院の情報システムを扱っている管理者あるいは薬剤部の 方々はよくご存知で、当然その処方オーダーとは別に、服薬・服用指示システムとか、 実際に服用させたデータを看護師さんなどが入力する服用入力システムという別のシス テムがあります。そういったデータベースを対象にする必要があるわけですが、こうい ったシステムは病院によってもかなりまちまちですし、どの程度確実に入力されている かもはっきりしませんので、そういった限界は意識しておかないといけないと思います。 つまり、通常薬剤の投与頻度を分母にするとしますと、分母は比較的実際の服用量より も多く出ることになると思います。  同じように例2として、外来の処方オーダーも当然のことなのですが、実際に院外調 剤薬局で調剤されたデータとは異なる場合があるわけですし、さらに当然のことながら、 それを本当に患者さんが飲んだかというと、そのデータではないということで、このよ うな制度上の問題は常に意識する必要があると思います。  それとも関係しますが、3番目として、データベースから得られる事象発生頻度の精 度は、もう少し研究が必要なことではないかと思います。医薬品のばく露情報は、保険 収載品においては、仮に調剤レセプトも含めてレセプトデータを調べますと、かなり精 度的に高いと考えられます。一方で、医薬品関連で発生する臨床事象の発生頻度という のは、先ほどお話をしたように、利用するデータベースの種類、あるいはどのようなデ ータ項目を解析するかということで、非常に大きく影響されます。  どのデータベースではどの程度の精度が得られるのかという精度調査を行った研究は、 私の知る限りではほとんどないのではないかと思いますので、これは一定規模の精度調 査研究が、今後必要なのではないかと思います。  4点目としては、患者ごとの複数医療機関の電子データの連結が必要不可欠になる場 面が多いだろうと思われます。ご存じのように、医薬品を投与した医療機関と、それに よって何か副作用事象が起こったとしても、そのことについて診療を受けに行く医療機 関は、必ずしも同じとは限らないわけで、異なる医療機関を訪れることも、かなりの頻 度であると思われます。したがって、こういったケースをどのように連結するかは、今 回のような目的ではかなり重要ではないかと思います。  例えば、同一保険者レベルでレセプトを患者ごとに結合しますと、その患者さんが複 数の医療機関を受診しても、その同一保険者のところにデータが集積されますから、こ ういったデータを活用することで、受診した医療機関を把握した上で、その実際に受診 した医療機関での電子診療データを横串解析することが必要になるのではないかと思い ます。  次のスライドです。もう1つは、電子化されていない医療機関の比率は、現実にはま だかなり高いわけで、そういったところからどのようにデータを得るかの確立を、同時 に進めることが必要だと思います。レセプト情報は、ご存じのように電子化レセプト率 が非常に高くなりつつありますので有望ではありますが、レセプト情報では得られない、 臨床検査結果、特に検体検査などについては、別の集める方法を確立することが必要で はないかと思います。  1つのアイディアとしては、多くの医療機関では、仮に電子カルテやオーダーシステ ムが動いていなくても、検査を民間の臨床検査センター、いわゆる衛生検査所に外部委 託しているケースが非常に多いわけですし、そういったところでは、データはもともと コンピューター処理で扱われているので、そういったところから電子的にデータを入手 する方法を確立すると、効率が非常によいのではないかと思います。   私が申し上げたいことの主たる部分は、このデータの質、制約を把握していく必要 があるということですが、その次からの数枚のスライドは、私もかかわっている東京大 学の社会連携講座で、医療経営政策学という、一種の寄付講座のようなスタイルの講座 がありますが、そこの康永先生が研究をされている、いくつかのDPCのレセプトデータ ベースを用いた事例の中から、薬剤副作用に関するようなものをご紹介して、こういっ たことも今後できるということをご紹介しておきます。  4枚目のスライドです。この研究は厚生労働科学研究費の、産業医科大学の松田晋哉 先生を主任研究者とする研究班のDPC解析班を担当している康永先生の報告です。規模 としては、2008年度の5カ月間のデータで、延べ退院患者数は286万人のDPCデータベー スが集積されています。これは、日本全国の急性期入院患者の約41%に当たります。  5枚目のスライドに、その中の病院のプロフィールが書かれています。DPCの調査参加 施設ですので、比較的病床規模の大きな病院が多いというバイアスはかかっていること は前提です。  それをご理解いただいた上で、6頁のスライドです。これは外来のEFファイルと呼ば れる、かなり細かいもので、日付や医薬品の名称、量、その日付で行われたさまざまな 医療行為といったものがファイルになっています。これを解析することにより、例えば 乳がんに対する外来のハーセプチン投与患者は、394施設、3,181例について、その直後 に入院に至ったケース、入院時の疾患別と。そのように、105例、3.3%が、このような 内訳で入院に至っていることが、レセプトのデータベースからも比較的容易に検出がで きるという事例です。  7頁のスライドは、麻酔科の先生方や麻酔の経験のある外科系のドクターの方は、よ くご存じの事実ですが、極めて稀に、麻酔をかけたあと、悪性高熱といって非常に死亡 率の高い重篤な高熱疾患が発生します。従来から、これは極めて稀しか発生していない ために、例えば麻酔で使われた何かの医薬品が引き起こすのではないかというような説 はいろいろあるわけですが、具体的にははっきりしていないという、患者さんの合併症 の状態です。  これは同じように、123万件を超える全身麻酔の患者から、17例という、極めて頻度 の低いケースが解析されたという事例で、100万人当たり13.7人の発生率です。その中 の内訳で、上半分のVolatile agentsというのは、揮発性のガスはどのような種類を使 ったかということで、全体の75%がSevofluraneという麻酔薬を使っていますが、それ に対して100万人中15例の頻度で発生しています。それ以外のことは、そもそも使用頻 度が低いですから、有意に差があるという議論ではありませんが、こういった非常に稀 なケースが、大規模なDPCのレセプトデータベースから検出できるという事例です。  8頁のスライドです。最後に私がもう1つ申し上げたいことは、この種のプロジェクト は国の情報基盤あるいは医療の基盤として、進めるべきものだと考えますので、短期で 終わらないようにし、中・長期的に継続可能なモデルが確立されるべきであろうと思い ます。短期的には、大学病院等の医療機関や研究機関を拠点として試行するという現在 の方式は良いと思いますが、拠点を国が時限で財政支援するだけでは継続はできないと 思います。  一方で、この種のものは始めた以上は、継続することが非常に重要ではないかと思い ますので、そのためのビジネスモデルをかなり早い段階から確立していく。将来的に、 継続的運営主体の設置と、そういった運営主体への移行ということも、早い段階から考 えていただきたいと思います。以上です。 ○座長 ただいまの大江先生のご発表にご質問、ご意見がおありでしたらご発言くださ い。DPCのデータでも、かなりのことは分析できるということでしょうか。 ○大江参考人 そうです。DPCのデータは、レセプトを出しているデータだけではなく て、5カ月間はEFファイルという調査データも出していますので、それを併せると、か なり細かいところまで出ます。  と言いますのは、先ほどもお話をしましたように、個々の医療行為の日付とかが入っ ていますので、なぜそれをすることになったのかという、医療行為の前後関係について、 工夫をすればかなり活用できると思います。 ○座長 ただ、入院に限るわけですね。 ○大江参考人 そうです。そこが現時点での限界ではあります。ただ、システムの技術 上は、外来の医療行為についてもEFファイルを出すことはできるように多くの病院でな っていまして、研究班でも外来のEFファイルを集めたこともあるようですので、技術的 なハードルはあまり高くないと思います。今日ご紹介した乳がんの外来治療に関しては、 外来のEFファイルを使った事例です。 ○座長 いかがでしょうか。 ○宮田委員 臨床検査などは企業がやっていらっしゃるので、システマチックにデータ になっていますから、こういうのも活用なされたらいかがかというアイディアは非常に いいと思うのですが、そのそれぞれの会社が持っている臨床検査のデータと、患者さん のカルテを結び付けることは容易なのでしょうか。 ○大江参考人 臨床検査センターからデータを収集するとしても、それはそれぞれの診 療した医療機関と患者の同意の下に集めることが必要になります。ただ、集めるルート について、同意を得れば電子データで集めたほうが効率がいいだろうということです。 ○宮田委員 そのように意図的にコーディネーションして集めるべきということですね。 ○大江参考人 そういうことです。そうすれば、診療のデータと何らかのIDで連結でき ると。もちろん、それをしないことには意味がないと思いますので。 ○安全使用推進室長 事務局から質問させていただきます。一般的に、EFファイルとい うものは、外来でどのような形で作成されるのかというところについて、ご説明いただ けると理解しやすいかと思うのです。 ○大江参考人 2007年度単年度において、外来の医事会計コンピューターに入院のEFフ ァイルと同じような形式で、外来診療の分も出力するように、厚生労働省から調査依頼 がありました。それに対応して、各レセプトコンピューター側も、全部のシステムでは ないですがシステムを改修して、出力したと聞いています。 ○宮田委員 操作は医事会計コンピューターからのソースということですね。 ○大江参考人 そうです。 ○座長 ほかにございますか。続いて木村先生からお話を伺います。よろしくお願いし ます。 ○木村参考人 木村です。大江先生に賛成で、何を足したらいいのだろうという感じで す。スライドを使ってご説明します。大江先生のように、ハードには全く詳しくないの で、それではなくて、どうやって使うかという立場で、今回の提言を拝見させていただ きまして、思ったことを書かせていただきました。  すごくいいと思ったことは2点あります。人材育成で、私は疫学専門なのですが、疫 学者を育てたいというのは、とても嬉しく読みました。薬剤疫学者もそうですし、医療 情報の専門家もいますが、もっとたくさん増やしていこうというのは、とてもいいアイ ディアだと思いました。  研究者の層を厚くするという書き方だったと思うのですが、それだけではなくて、当 局、企業、データベースベンダーも含みますけれども、そういうところへのキャリアパ スも示せるようになると、層が厚くなって、学生も「そんな仕事があるのか」と思って くれるのではないかと思いました。  2点目は、私は法整備をとても強く望んでいたのですが、「当面の間」とは書いてあ りましたが、データベース研究に関して、疫学研究の倫理指針に従っていくべきではな いかということが、今回初めて示されたと思います。私はその点はとてもいいと思いま す。ただ、疫学研究の倫理指針は、データベース研究を基に作られたガイドラインでは ありませんので、ピッタリ合わないところもあると思うのですが、「それを基にして考 えていきましょう」「検討していきましょう」というのは、とてもいいのではないかと 思いました。  2枚目と3枚目のスライドは、変更したほうがいいかなと思った点です。こちらは先ほ ど大江先生がとても丁寧に説明してくださいましたが、データベースに向いているアウ トカムと、向いていないアウトカムがあります。向いていないアウトカムがあるからデ ータベースが駄目とはならなくて、「何が向いていて、何が向いていないかをはっきり したほうがいいのではないか」という、先ほどの大江先生のご発言のとおりだと私も思 います。  例えば先生が例に出されたもので、入院してしまう者、亡くなってしまう者というエ ンドポイントは取りやすいのですが、特別な検査をしなくてはいけなくて、その結果が ないと診断できないような者は、そのためのスペシフィックなコードがなかったりする と、データベースでは難しい場合もあります。あと症状が複雑で、正確な診断が難しい ものがあります。これは先生が駄目なのではなくて、何とかシンドロームのようなもの は、コードや病名では、これにもちょっと当てはまるし、これにもちょっと当てはまる というものがあります。そういうものは難しいと思います。  あと、診断上わざわざ分けてコードしないものというのは、例えば貧血とかで、貧血 は貧血でも何とか性貧血とか、何とか性悪貧血とか、わざわざコードで書き分けて、 「レセプトの点数も違わないのに、そのようなことはしないよ」というのもあると思い ます。でも、自分が興味があるのは、この貧血の中のスペシフィックなものだとなると、 その他の貧血というものから、どのようにして拾っていけばいいかというのは難しいこ となのです。  もともと標準化コードが存在しないような疾患もありますし、日本ICD-10のコードを 使っていますが、この中で拾いきれないようなものはたくさんあります。そもそも、あ れは病名のコンビネーションですから、その中に複数のものが含まれてしまったりもす るので、なかなか定義が難しいようなものもあります。でも、もちろんできるものもあ るので、データベースでは難しいものもあることはわかっているけれども、ここではデ ータベースでできるようなことを考えていることを、どこかで一言くらい言及してもい いのではないかと思いました。  3枚目です。情報取扱いのルールの部分で、データそのもの、データハンドリングの セキュリティについてと、研究倫理の2点から書かれていて、いいなと思いました。し かし、どうかなと思ったのは、仮説検証の目的の、しっかりとプロトコールを書いて、 この薬とあの薬と、どちらがどのようなということを出した場合だけではなくて、「い まインフルエンザはどのくらい流行っているのだろう」とか、「この薬とこの薬の併用 はよくないのではないかということが出たけれども、いまはどのくらい併用されている のだろう」とか、何かがいいとか悪いではなくて、いまの現状を知りたいということも あると思うのです。これはいちばん最後のスライドでもう1回説明しますが、そのよう なときにも、全部倫理審査委員会を開いて、研究計画書を作って、それぞれのところに かけてということが必ず必要なのかどうか。それで迅速性が担保できるか。もちろん、 どのようなサーベイでも研究計画書は書けると思いますが、レベルがいくつかあっても いいのではないかと思いました。  2点目が、データベースの構築です。私はこの懇談会は利活用についてだと思ってい ましたので、内容が構築になっていて、ああ、そうなのかと思いました。医療機関から データをご提供いただいて、一元化するということが述べられているのですが、それで 医療従事者、先生方、コーメディカルの方々、医療機関にどのようなメリットがあるの かというのが、もう少しわかりやすく述べられていると、大江先生のような先生が、 「それではうちも手伝ってあげよう」とか、「うちも参加しよう」と思ってくれやすく なるのではないかと思いました。  6-3で、国や行政は助成や支援を行うとされていて、それはいいと思いますが、誰が 経営、運営、管理をするのだろうか。それぞれの病院で、そのままなら、その病院がそ のまま責任を持っていけばいいと思うのですが、一元化すると書いてあったので、誰が やるのかなと思いました。  3つ目は、1,000万人規模を目指すと書いてあったのですが、1,000万人は総患者数な のか、年間なのかと思いまして、これもちょっと一言あるといいかと思いました。  いちばん下に「現状で利用可能なデータベース」と書いたのですが、これが今日、私 がいちばんお話したいと思った点です。資料1-2の話ですが、8.(1)で、「いま利用可能 なデータベースもあるけれども‥」とあるのですが、それまでのところに、国内には医 療情報データベースが存在せず初めてだとか、いまは日本にはないということが散見さ れるので、それは事実と違うと思いますので、このようなものはないとか、このような ものか限られているとか、大きさとしてはまだ小さいとか、そのような書き方のほうが いいのではないかと思いました。  いま利用可能なデータベースですが、大きく種類として、クレームのデータベースと クリニカのデータベースと分けられると思います。クレームのデータベースも商業ベー スで利用可能なものが複数ありますし、合わせれば100万人ぐらいの規模はあります。 クレームの中でも、先ほど大江先生の話にもありましたが、処方せんのデータベースも ありましたが、こちらのほうがもうちょっと大きいですし、商業ベースでやっている会 社の数も多いです。そうすると、合わせてではなく、それぞれで年間このぐらいの数が ありますし、クリニカルのデータベースに「2+」と書いたのは、商業ベースで提供して いるところが2社あるのですが、例えば大江先生のような医療情報の専門家がいらっし ゃるような大きな病院ですと、ほとんどHospital Information Systemが入っているで しょうから、そういう病院を全部足していくといくつになるかわかりませんが、総患者 数としても、いますぐに使える状態のデータがありますし、年間でもこのくらいはある と思いますので、全部の大学病院を数えたわけではないのですが、把握している範囲で、 すぐに使える状態にあるというものということですが、このくらいはあります。こうい うもので、どうしてもこのようなことはできないから、作りたいのだという書きぶりに していくと、国民にも伝わりやすいかなと思います。  右下に絵を描いたのですが、これらは、全部グロウイングなのです。どれも大きくな っている途中なのです。だから、これがマキシマムではないし、いまからみんなが頑張 って使っていって、ニーズがあるということになっていくと大きくなっていくので、ま あ病院は大きくなっていかないでしょうが、病院のデータが積もっていけば、総患者数 は増えていくでしょうし、クレームのデータベースも、やる気になってもうちょっと健 保と契約を増やしてくれれば、大きくなるかもしれないです。本当に大きくなっている 途中なので、こちらを考えてみてもどうかなと思って、今回の発表の原稿を作りました。  私は疫学者なのですが、臨床疫学の目的でデータベースをほぼ毎日使っています。先 ほど大江先生のお話で、DPCでも、レセプトでも、できることはたくさんあるとありま したが、私も100%アグリーで、レセプトでも、安全性でなければ十分に検討できるこ とはあります。安全性になると、少し難しいだろうと思うのですが、安全性も背景発生 率、その薬を使っていないときのレートがすごく重要になってきますので、そうなって くると薬剤疫学と臨床疫学の区別はつかないので、安全性だからできないという意味で もないのですが、レセプトでも十分にできることはあります。  まず分母が確保できます。病院は患者さんが来るところなので、地域によってはそれ 1つしかダイシーキホスピタルがなくて、そういう状態になった患者さんは全部その病 院に行くから、その地域のポピュレーションで、分母が代用できるところもあるかもし れませんが、例えば東京などは病院がたくさんあるから無理です。  それに対してレセプトだと、サブスクライバーがその保険に入っている人たちが分母 で取れますから、インシデンスが計算できるわけです。検索キーとして必要なデータの ほとんどが取れると書いたのですが、私はデータベースには、最初に検索して患者を抽 出するのに十分なデータがあればいいと思っているのです。それに必要なものというの は、病名、処方、処置、検査オーダー、来院日、入院日、退院日、患者基本、性、年齢 くらいがあれば、ほとんどのものは検索できます。検索して終わりではないので、検索 したあと、それが本当かどうかを確かめにいったりしなくてはいけないので、それさえ あればいいわけではないのですが、これくらいあればたくさんのことができます。マス ターは標準化されていますし、処方、処置は日ごとのデータも、元データに戻れば取れ ます。DPCレセだけだと処方のデータは入っていないのですが、元に戻ればあります。 小児は健保のデータでも、ヘルシーウォータエフェクトも受けにくいですし、お年寄り のように少なくもないので、小児だと病院ベースのデータベースよりも、一般可能性が 高いですし、データハンドリング、データ解析をずっとやってきていますので、それな りの技術もあります。レセプトデータベースでも、十分にできることはあります。レセ プトに向かない事例はあるのですが、そうだったら病院ベースのものも選べると。だか ら、私がいま使えている商業ベースのデータベースで、かなり満足しています。  とは言っても、「こうなったらいいな」と思うことはあります。それは「嬉しいこと」 というところに書きました。検査値はほしいです。私が考えたのは、リポータブルにす ることです。アメリカと同じシステムで、糖尿病の人だったら、ヘモグロビンa1c、ク レアチニン値を報告してもらうようにする。それはシステムを変えなくてはいけなくて、 しんどいです。それでは、病院ベースのデータベースを使ったほうがいいかとも思った のですが、先ほどの大江先生の発表で、検査会社のものを使えばいいと思いました。検 査値はやはりほしいです。レセプトデータベースで、いちばん痛いのはここです。  検査値というと、うちはあるというデータベースは結構あるのですが、血液検査、尿 検査のデータベースの場合が多いのです。それだけではなくて、細菌検査、ウイルス検 査の結果は重要ですし、画像診断についても、字の場合が多くて難しいのですが、診断 です。X-rayの診断の結果などがデータベース化されていると、検査結果としてはとて もとても有用です。  2点目は、カルテには戻りたいことです。これはレセプトでできないことで、とても 痛いことの2点目です。安全性の場合は特になのですが、検索されてきた症例が本当に そうなのかを確認しなければいけません。先ほどの大江先生の発表の中で、Eファイル、 Fファイルに戻れば、結構なことまでわかるというお話がありましたが、それでもいい のですが、本当に何が起こったのかを確認できるツールがほしいのです。それは病院か ら出てきたデータのほうが、健保などに集まってしまっているレセプトよりも、可能性 は高いと思っているので、そこはできると嬉しいです。  3つ目が、一般化可能性の高い高齢者のデータがほしいです。病院に行く高齢者はも ちろん多いわけですが、みんな行っているわけではありません。だからといって、レセ プトで取れるかというと、いまのレセプトは健保なので、健保に入っている高齢者とい うと、働いている高齢者か扶養家族になっているかで、とても限られていて、一般化可 能性が高いとは言えません。レセプトは長寿何とかというものに集まってしまっていて、 取れない。となると、お年寄りのほうがたくさんお薬を使われると思いますし、薬剤の 安全性ということを考えるならば、高齢者のデータをどこからどう取っていくかは研究 されてもいいことだと思います。  下から2つ目で、ワクチンの接種状況がほしいです。ワクチンはいまリンバースされ ているものは少ないので、そうすると、どの子にワクチンを打ったかがわからないので す。ワクチンは基本的に健康な子に接種しますから、ものすごくスレッシュホールドが 低くて、ワクチンの安全性の調査になると、ものすごく母集団がたくさん必要なのです。 だから、海外でデータベースが使われているスタディの多くは、ワクチンを対象にして いるものが多いのです。ものすごく稀なものを拾わなくてはいけなかったりして、1例1 例集めるのは、とても実現可能性が低い、しかも遅くなってしまいます。そうすると、 データベースを使おうとなるのですが、ちょっとアンサムタニティーはあるとしても 「まあ使いましょう」ということで、日本の場合は、誰に打ったかがわからないのです。  その方法を「例えば」に?付きで書いています。ワクチンを全部保険償還することに なったら財源的に大変だと思うので、そのようなことではなく、ワクチンを接種したと いう処置に何か点数を付けてもらえたら、そこでタイムスタンプが残るのではないかと 思って、そのようなシステムがあったらいいと思います。これもシステムを変えなけれ ばいけないので、そんな簡単なことではないと思うのですが、ワクチンの接種情報は安 全性をやるなら要るだろうと思います。  いちばん下に、「もう少し大きくなると嬉しい」というものを書いています。薬剤に よってはすごくたくさん使われていて、いま使っているデータベースでも十分に取れる ものもあるのですが、珍しい病気の薬を開発する場合には、いまのデータベースでは大 きさが足りないこともあります。どうしたら大きくなるかなと思ったのですが、やはり みんなで使って、そこにビジネスモデルがあることを謳って、そのビジネスモデルがう まく回り出すと、もうちょっと大きくなっていくのかなと思います。  これが最後のスライドですが、いまこの提言書の中で提案されているデータベースと いうのは、韓国などのパーマコメディランスネットワークにちょっと近いのかなと思い ます。どういうことかと言うと、特定の研究目的に即して計画された薬剤疫学的研究に も使うのですが、それだけではなくて、パッシブなサーベランスの拠点として使うこと を、もう少し謳ってもいいのではないかと思います。  先ほども少し言いましたが、いま何が起こっているのか。インフルエンザが流行って きたのか、落ち着いてきたのか、どれくらいその薬剤が使われていて、何歳ぐらいの人 にどのような使われ方をしているのかということを、1枚1枚先生から集めたり、患者さ んから集めたりしなくてもいいし、インフルエンザなどは先生にリポートしてもらって いるわけですから、そのリポートも先生はお忙しい中、いろいろとやってくださってい るわけですが、そういうことでもなく、先生たちが普通にインフルエンザの患者を治療 したら、データが自動的にファイルアップしていく。それを使った、パッシブなサーベ ランスをどうやっていくかという提案も、中に入っていてもいいのかなと思います。  医療機関へのインセンティブを確保するというのは、大江先生の最後のところにもあ りましたが、続けていくところは非常に重要だと思います。フィードバックは医師にわ かりやすい形にというのは、この中でも、患者さんにどうやって情報を伝えていくかと いうようなことが書いてありますが、医師はいろいろな会社から情報がくるので、捌き きれなかったりもするわけです。自分が所属している病院のデータがどのように使われ て、解析され、どのような結果になり、それがどのように自分の処方に反映されるかが、 もう少し見えやすくなるといいと思います。  そのイベントがなかったというデータも、ずっと取り続けるのは大変ですが、1年な ら1年、半年なら半年と区切って、収集できるようにしないと、分母が取れないと思い ます。医科歯科の土屋先生などから厳しく言われたことなのですが、あるデータだけを 拾っていくと、あるのか、なかったのか、わからなかったのか、効かなかったのかがわ からないので、なかったというデータを取ることが重要です。  いちばん下はまたワクチンの話で恐縮ですが、イミナリゼーション・レジストリ、も し保険を変えるとか、そういうことは大変なことだと思うので、それができないのだと したら、ネットワークの中だけでもいいですから、誰にワクチンを打ったのか、バクシ ニのレジストリーを作ってほしいと思います。これは先生たちにとても負荷がかかるの であまり言いたくないのですが、誰にワクチンを打ったかがわからない国というのは、 どうだろうと思うので、是非それも一言入れていただけたらと思いました。 ○座長 木村先生、先ほど、商業用データベース、薬剤の処方のデータベース、これは どのようなものですか。 ○木村参考人 処方のデータベースですか。 ○座長 先ほど商業用とおっしゃっていたのですが。 ○木村参考人 どれですか。 ○座長 いまお使いのデータベースで、それはどのようなルートで入手しているのでし ょうか。 ○木村参考人 種類がいくつかあるのですが、どれでしょうか。 ○座長 どれでも結構です。 ○木村参考人 5枚目ですかね。クレームのデータベースは健保に集まっているデータ ベースです。健保が大きな健保だったら、自分のところで解析して、自分の組合員の健 康によりよいように解析をして、フィードバックすることができるのでしょうが、そう いう会社ばかりではありません。しかも、昔はレセプトが紙だったので、なかなかデー タベース化すること自体も大変だった時代があったため、それをアウトソースしていた という背景があって、それを請け負っていた会社が、ちゃんと許諾を得て2次利用に供 しているものです。  ファーマシークレームスというのは、処方せんのデータベースで、薬局からの調剤レ セです。大江先生の発表の中にもありました。調剤のクレームデータベースです。  クリニカルデータベースというのは、今回提案されているのと同じように、病院のネ ットワークを作って、その病院内の複数のデータベースをまとめて、さらにその病院を まとめて、ネットワークしたタイプのデータベースです。 ○座長 これらのデータベースをさらにマージすることはできるのですか。 ○木村参考人 種類の違うものをということですか。 ○座長 ええ。 ○木村参考人 種類の違うものをマージしても、あまり意味がないのではないかと思い ます。 ○座長 全然違う内容なのですか。 ○木村参考人 内容が違うというか、重なっていないので人が違います。例えば、病院 内で医事会計と診療で検査結果をつなげて出すというのは、いちばん下のクリニカルデ ータベースのモデルです。それはもちろん意味があると思うのですが、それとクレーム データベースをくっ付けるというのは、別々の解析で、これだったらこう、こっちだっ たらこうというタイプの研究になるかと思います。 ○座長 いかがでしょうか。よろしいですか。また後ほどお話をお伺いします。それで は、最後に山本先生からお話を伺います。 ○山本参考人 JSTの山本です。今日は貴重な機会をいただいてありがとうございます。 すでにお二方の先生からお話がありましたように、私もヘルスケアのデータベース、全 国規模でナショナルデータベースのようなものを構築するという案自体には、非常に賛 成しています。データベースを作る際に、第1歩目として、何に使うかの具体案が必要 だというところにも賛成するのですが、医薬品の安全・安心に関するという部分で、読 んでみますと、副作用の検知に重点を置きすぎている、つまり実際にできることを超え て置きすぎているのかなという印象を受けました。  実際にその副作用が捕まるのかどうかという話は、いま木村先生あるいは大江先生か らもお話がありましたように、データの質の問題として、例えばオーダーの詳細な情報 を手に入れたとしても、それが実際に行われたのか、もっと言うと医薬品が実際に投与 されたのか、服用されたのかといった部分の把握が難しいです。あるいはレセプトに関 しても、病名が実態に即して反映されたものになっているのか、そうした問題があるか と思います。  データの入手元に関してですが、医療機関側ということになると、どうしても1個人 の患者さんがすべてかかった医療サービスを完全に把握するのは難しい気もするので、 そういった辺りから考えると、本当の意味での副作用が捕まるのかは、若干疑問視する ところです。  もう1点言いますと、薬の副作用、効果を見るときに、当然治験ないしは臨床研究を やるわけですが、臨床研究、臨床試験をやるときに、プロトコールをあれだけしっかり と厳しく管理するのは、できるだけ医薬品のピュアな影響を見たいということで、それ 以外のファクターをできるだけ排除したいという意図があるわけですから、それと異な る形で、レセプト情報、検査情報を集めても、なかなか医薬品そのものの影響だけを見 るのは難しいのではないか。むしろ提供された医療サービス全体の価値や影響を見るこ とに、結局は落ち着いてしまうのではないかという感じがしています。  ですから、データベースを作ること、それを活用しようという発想には大賛成なので すが、データベース自体の設計に際しては、その先にどういった用途があるのかを事前 に考えておかないと、作ったはいいものの、汎用性がなくて、2個目のデータベースを 作りますかというようなことになって、大惨事になりかねませんので、いまのうちから、 医薬品の安全・安心のみならず、どういったことに活用できるのかを検討しておくこと が大事なのだろうと思います。  それを踏まえて、JSTで参考資料3-2として提言を出させていただきました。これは若 干今回の議題とは離れるのですが、もともとライフサイエンスのほうで、バイオ系のデ ータベースが大規模データベースとして構築中で、それと臨床現場ないしは診療の情報 と併せることで、新たな創薬、基礎研究の発展につながるのではないかというのが、そ もそもの発想で書かせていただいた提言です。それですので、今回の懇談会の趣旨に沿 って言いますと、12〜14頁にあるように、こうしたデータベースを構築ないしは活用す る上での、推進上の課題として書いた部分が、参考になるのかなと思います。  特に14頁に書いている人材育成の部分で、実際の臨床現場あるいはその他データ収集 をする場合に、インフォームド・コンセントはどうするのか、あるいは収集したデータ をクレンジングしたり、利用しやすい形にしていくのは誰が担うのか、そういったとこ ろの検討は必須になると思います。次の14頁の下「人材の継続性」と書きましたが、我 々のようなJSTは支援機関なので、ファンディングの継続性というのは、なかなか踏み 込みきれずに書けなかったのですが、実際に言いたいことは、こうしたデータベースを 構築しましょう、活用しましょうというのが、プロジェクトベースで、時限で終わって しまうと、必ずそこに参加した人が、キャリアパスをどうするのだとか、せっかくのデ ータベースがこのまま埋もれてしまうのか、それも悲しい事態ですので、そういったこ とがないようにということが書いてあります。  もう1つは、本日の当日配付資料1として、「米国での医療情報基盤の調査結果から」 を付けています。こちらは最初にお話をしましたように、こうした全国規模の医療情報 データベースを作るときに、どのようなことが可能となり得るのか、あるいはどのよう なことを期待してデータベースを1から設計していくのかの参考資料として出していま す。ご存じのように、米国の医療制度は日本とはかなり違うので、なかなかそのまま持 ってくるのは難しいと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、ご存じのように、米 国もセミ皆保険というか、皆保険類似の医療制度に大きく舵を切っているので、これか らはそうした批判も減ってくるのではないかと期待しています。  早速ですが、当日配付資料1の1枚目の下半分の「米国の医療情報データベースの実態 について」です。アメリカの医療情報データベースの産業というのは、日本に比べて非 常に発達しています。いくつかの要素があるのですが、メインのプレイヤーは保険者で、 日本でいう健保に当たるところか、ないしはIT企業です。その理由としては、もちろん 医療費が高いということで、支払い側である保険者が、いかに医療費の支払いを削減す るのか。そうした観点で見ると、どのような医療が提供されて、どのようなアウトカム が出ているか。それを彼らはチェックしたいというのがあります。  なぜ保険者が、医療情報データベースで主たるプレイヤーになるのかという理由とし て3つ挙げますと、いまお話をしたように、いい医療をするとコストが下がるだろうと いう仮説、仮定があるということが1つです。それから、先ほども申しましたように、 1人の患者さん、アメリカの場合は保険に加入している期間に限るということもありま すが、全医療介入データが手に入ることです。もう1つ、これも重要な点なのですが、 医療機関にかかった方と、かかったことのない方の双方のデータが、保険機関にありま す。つまり、医療機関の場合は、医療機関にかかった疾病を持つ患者さんのデータしか ない部分が、ある程度補完できるというところがあります。  実際にデータ収集等の話で、資料に書いていないのですが、アメリカの場合は、医療 費の請求書を保険会社に送るわけですから、各医療機関が、患者さんが診察を受ける際 に、あなたの受けた医療内容と、そのアウトカムというのは、医療機関のみならず、あ なたの加入している保険会社にも当然シェアしますという、インフォームド・コンセン トを取る仕組みになっています。ですから、逆に言うと、そういった請求書データを保 険会社に送ってくれるなというのであれば、全額負担してくださいということを患者さ んに伝える仕組みになっています。  かつ、保険会社のほうも、どんな医療サービスを提供したのかだけではなく、そのア ウトカムまでを見て、医療サービスの妥当性を検証したいという意図がありますので、 保険会社と検査会社が取引きをして、自社の被保険者の検査データに関しては、必ず保 険会社に送るようにという契約を結んでいます。  次の頁です。もう1点、米国で先日も皆保険制度がありましたが、それ以前にアメリ カの経済危機の中で、アメリカの産業として、医療ITないしは医療産業をできるだけ推 進しようということで、アメリカでは医療ITの推進として、(HITECH)Actと呼ばれる法 案群が可決されています。これを基に、政府内に医療ITのネットワークをコーディネー ションする調整局のようなものが出来上がっていて、そこにかなりの規模の予算が付い て、データベース化ないしは情報のやり取りに関する整備が、これから進められていく 状況になっています。投資額等については、お手元の資料をご覧いただければと思いま す。  3枚目の下に「米国の公的医療データベースについて」とありますが、こちらは厚生 労働省がナショナルデータベースを作ろうということに関連して、ということに関して、 アメリカではナショナルデータベースはどのようにやっているのかということで書いて います。  米国の厚生労働省に当たる保健福祉省です。その下にAHRQと呼ばれる部局がありまし て、そこが公的な医療データベース群を管理運営しています。ここで1つ重要なことは、 彼ら自身はデータの収集もしているのですが、多くの部分を民間の企業や保険会社にも 委託し、そちらでもデータ収集をしています。  次の頁です。このAHRQという部局が管理する医療データベースはどのようなものがあ るのか。いくつか種類がありまして、提携先の民間企業もさまざまです。日本で有名な のはいちばん下にありますHCUP、Healthcare Cost and Utilization Projectと言いま して、医療サービスの質やコストを評価するためのデータベースで、こちらが非常にア クセスもよくて、データの規模としてはものすごい大きいというわけではないのですが、 非常に重要視されています。  赤枠で囲みましたように、今回のプロジェクトにかかわる部分ですと、薬剤による有 害事象の削減ないしは安全かつ有効な治療薬の推進を目指すデータベースとして、CERTs というものを取っております。  HCUPに関しては、データベースの内容等に関しては、図に示したとおりですので、こ ちらをご覧いただければと思います。  また、1枚めくっていただきまして、HCUP Software Toolsと書いてあるスライドに、 そうしたデータベース、つまりデータベースはデータを貯めているものですので、そう したデータをいかに情報に換えていくものかというツールが、ここに列挙されています。  こういったデータが、少なくとも医療情報からわかるだろうというのが彼らの主張な のですが、言い忘れましたが、ここで集めているデータはどんなものがあるかと言いま すと、実は日本のレセプトデータとほとんど変わらない。つまり、どんな医療サービス をしたのか、そのコストはいかばかりだったのか。どこの医療機関でやったのか、病名 は何なのか、患者さんのプロファイルはどうなのか。それにプラスしてあるとすると検 査データ、個々の検査データ、画像データ、そういったものが追記されているというぐ らいのデータベースでこうしたことができるということになっています。  少し話が前後しましたが、もう1つ日本のセンチネル・プロジェクトということで、 米国の医薬品審査機関であるFDAでやられているセンチネル・プロジェクトに関しても、 1つサーベイランスシステムに関して、そのスライドの下半分に書かせていただいてい ます。  続きましてその隣の頁です。では、産業側で医療データベースをどのように構築して、 それをビジネス化しているのかについて書かせていただいています。これを書きました のは、先ほどの大江先生あるいは木村先生からお話がございましたように、医療情報デ ータベースを築いて、その後、継続して運用することを考えますと、ある程度のビジネ スモデルですとか、どういった用途が考えられるのかというのを、先に把握しておくこ と、予想しておくことがデータベースの設計にもそうですし、長期の管理運用を考えた ときには重要であるという意図から、これを入れさせていただいています。  ここに書いてありますのは、Ingenixという医療情報データベース、これは親会社が 全米で第3位の規模を持つ保険会社ユナイテッドヘルス社のデータベース部門です。2つ 目がトムソン・ロイター社といいまして、日本にもあります統合情報データベース企業 です。これらはここに書いてあるように、Ingenix社に関してお話しますと、7,000万人 クラスのデータを蓄積して解析しています。10年分の横断的なデータを持っている人数 は1,500万人分とのことですが、それ以外、合わせて7,000万人分あると。取得データは ここに書いてありますように、請求書データ、つまり日本でいうところのレセプトデー タ、処方内容のデータ、これもレセプトと同時に手に入る情報です。  それから個人の診療歴等のデータ、これは先ほどお話に出てきましたように、電子カ ルテそのもの全部というわけではなくて、ある程度のフォーマットに沿った、そして記 載ルールも決められた情報を得ている。それから検査データとなっています。  Ingenix社は自身の保険会社のみでなくて、ここで作ったデータベースをさまざまな 例えば製薬企業であるとか、他の保険会社であるとか、そういったところにも販売とい う形でビジネスを作って運営しております。  一方のトムソン・ロイター社は、ヘルスケアに特化した会社ではありませんが、大規 模データベースを扱うのに非常に長けているという会社なのですが、医療分野に関して 言いますと、米国政府のみならず、州政府、あるいはその他の保険会社と取引きをしま して、大規模データベースの運用をしています。  この業務の内容としていちばん下に書きましたが、疾病の重症度から、リスク別の調 整をできるような、いわゆる疫学データの基礎となるようなもの、薬物乱用の調査とか レセプト内容の妥当性といったことを見ているというわけです。ですから、最初に申し 上げましたように医薬品だけ安全・安心にするようなデータを取れるかというと、なか なかこうしたデータからは、おそらく難しくて、医療サービス全体の効果、安全性とい ったものを見るべきでしょうし、そういったものをすでに見始めているということが言 えるのではないかと思います。  1点、ここで精神疾患及び薬物乱用の調査というのがありますが、プライバシーとの 関係で、彼らが話していたのは、どんな情報でも保険会社に吸い上げていいか、共有し ていいのかというとそうでもなくて、例えばある地域をレアディジーズ、希少疾患のよ うな場合、ある地域で極端に患者数が少ない場合は、どれだけ匿名化をしても誰がその 疾患なのかすぐわかってしまう。そういった場合は、当然その匿名化の範疇を超えるの で、強制的にデータを出させないであるとか、あるいは精神疾患であるとか、性病に関 するようなもの、そういったものも特例として除くような処理をしているというような 話が出ていました。  それ以降の資料に関しましては、ご紹介しました会社の企業からの資料になりますの で、多くはご説明しませんが、1点、後ろから2枚目の紙の下半分に、赤や黄色の棒グラ フとともに、(OPPORTUNITY)ということで、データベース解析から、どんなアウトカム が得られるのか、あるいは得られたのか、あるいは得られることが予想されるのかとい うスライドだけご紹介させていただきます。かなりの大規模な医療データベースを解析、 分析することによって、いくつかヘルスケアの医療費のコストが削減できたということ が、ここに書いてあります。上からの順にお話しますと、不必要な治療がされないよう に、予防的な処置をすることで、25〜50ビリオンドル、1ビリオンドルは大体1,000億円 ぐらいという計算になると思いますが、そのぐらいの単位で見てほしいのですが、あと は治療の関連性がないということで、2つ目、これは日本でもよく言われますように、 同じ方が複数の医療機関にかかって、同じような検査を受ける、あるいは同じような処 方を受ける、そういったものを削減できた。あるいは医療機関側のサービスの質が向上 した。医療サービスの質のみならず、医療機関側の管理コストが下がった。  このFraud and Abuseというのはレセプト内容です。アメリカの場合はアップコーデ ィングと言って、病名を違えて過大に請求するとか、そういうことがあるので、それを 削減することでこれだけの効果があった。  もう1つ、最後になりますが、Unwarranted Use、これも重なる部分があるのですが、 本当にやったのかどうかわからない。やったとは言っているのだけれども、効果がよく わからない、というようなものを削減した。そういったことで最終的に600〜850ビリオ ンの削減につながるのだということを、こうした会社は言っていますので、今回の医療 データベース、情報データベース活用にあたっては、こうした社会的な意義も念頭に置 いた上で、政治的な突破口として、医薬品というのは非常にいいことだと思うのですが、 設計ないしは検討いただければいいかなと考えています。 ○座長 ありがとうございました。それではご質問をお願いします。アメリカの場合コ ストは誰が負担しているのですか。保険会社がその一部でやっているのですか。 ○山本参考人 医療費でしょうか、データベースでしょうか。 ○座長 データベースです。 ○山本参考人 データベースに関しては保険者が基本的にはコストを負担しています。 ○宮田委員 山本さんにお伺いしたいのですが、民間が収集している医療データベース と、先ほど教えていただいたアメリカの公的データベースの相互関係というか、そこら 辺を教えていただきたいのですが。 ○山本参考人 面白いなと思ったのですが、医療情報を公的機関が集めるというのを米 国民は嫌うんだよね、というのが彼らのコメントでして、AHRQも最低限の疫学療法であ るとか、医療の質に関するデータを集めたいのだけれども、それほどの強制力をもって がんがんやり切れないと。なので、彼らはある程度の予算を民間企業との共同プロジェ クトという形にして、2年に1回、5年に1回収集してたりはするのだけれども、多くの場 合はもう民間の投資に任せているのだというようなコメントがありました。  一方で、ではAHRQはどうやってデータを集めているのだというお話も聞いてきたので すが、最初は出してくださいと頭を下げて回るのだと。ある程度出すようになると、出 してくれないと保険償還しないよと脅すのだと言っていまして、彼らのやり方がいいか どうかは別にしても、かなりの部分公的にやる部分と、民間で自由に市場の中でやりな さいという部分は線を引いてやっているのだなという印象でした。 ○宮田委員 もう1つ、アメリカの国民性もあると思うのですが、個人情報保護に対し て、連邦法である程度保護していますよね。例えばジェネティック、ディスクリルネー ションアクトとか、今度のヘルスケア・リフォームアクトでも、患者さんは以前の状態 で差別をされないということをまず明確に規程していますよね。そこら辺の法的な枠組 みの整備はどういうふうになっているのですか。 ○山本参考人 ジェネティックデータに関しては保険会社もAHRQも当面は集めるつもり はないと、それは明言していました。それはあまりにも倫理的な問題であるとか、社会 需要の問題でハードルが高すぎると。もう1つは患者さんのステータスによって差別し ないということなのですが、どうも話を聞いていますと、結果的に差別が疑われる場合 には介入するというぐらいのスタンスで、事前にこの人には介入しないようにとか、と いうところは難しいのではないかというようなコメントはありました。 ○座長 ほかにございませんか。 ○山本委員 山本先生に質問ですが、今回提言案が最終段階にきているということで、 この提言の内容について、先生は賛成の立場なのか、もしくはここを配慮したほうがい いとか、そういったことについてのコメントをお聞かせいただけますか。 ○山本参考人 提言はデータベースのほうでしょうか、それとも参考資料3-2のほうで しょうか。 ○山本委員 事務局が出されているこちらの資料1とか、そういう関係です。 ○山本参考人 データベースを活用しましょう、あるいは整備しましょう、そこはもう 大賛成です。もう1つは、1点心配に思いますのが、医薬品の安全・安心に関する提言で、 内容を副作用の検知に資するためとしてしまったときに、本当にそれに足るだけのデー タ整備ができるのか。逆にそこだけをフォーカスして、データベースを設計してしまっ た場合に、これだけ利活用方法がある中で、将来的な用途が制限されてしまうのではな いかと、その2点がちょっと懸念としてあります。そこがもしクリアになるのであれば、 積極的に個人的には推進していただきたいと思っています。 ○座長 いかがでしょうか。山本先生、いまアメリカのセンチネル・プロジェクトとい うのは、いまどういう段階にあって、これからどういう方向がいま模索されているのか、 もしご存じでしたら教えていただけますか。 ○山本参考人 実はあまり存じ上げないのですが、FDAが最近いくつか大規模な特定し た名前は出しませんけれども、医薬品の試験で失敗したりとか、発売後に大規模な副作 用が見つかったこともありますので、センチネル・プロジェクトのようなプロジェクト で推進しようというのは、非常に力が入っているのは間違いないと思います。ただ、こ れが先ほど申し上げたオバマ政権下で医療情報をもっと利活用しましょうというのとど うリンクするのかというのが、ちょっとわからないところがありまして、何となく別個 に動いてしまうのではないかという気はしています。そうすると、ちょっともったいな いのではないのかなというのが個人的には思っています。 ○座長 よろしいでしょうか。はい、どうぞ。 ○木村参考人 私からですが、ミニセンチネルもやりましたし、着々とそれなりに進行 はしているみたいです。ただ、確かにオバマ政権に変わりましたので、2014年までに全 国民をカバーすると言ってしまったので、それをどのようにデータベース化していくか というのは、いまたくさんのコンサルが入って調査中です。国がやっているデータベー スはアメディケートとかアメディケアとかはもちろんあるわけですが、連邦という形で はなくて、州レベルになっています。だから、州レベルでたぶん法律とか、決まりとか も違うのだと思いますし、それはそれで運営をしていくと。それでセンチネルに入るか どうかは州が決めることだと思います。それとは別にいまカバーされていない人たちを カバーする新しい保険のシステムを作るのでしょうけれども、それがセンチネルとどう 関係してくるかはまだそこまではいっていないだろうと思います。 ○座長 よろしいでしょうか。 ○宮田委員 もう1ついいですか。山本さんとか皆さんご存じだったら教えてほしいの ですが、ヘルスケアリフォームで、アメリカはペイシャンセンターズアウトホームリサ ーチインスティチュートを作る。しかもこれは政府機関ではなくてNPOである。先ほど からデータベースの活用の中で安全性だけではなくて、医療のアウトカムを評価すると いうような使い方もあるという議論をしていたのですが、今回のヘルスケアリフォーム をきちんと読むと、そこを新たに、いままでの政府機関ではない方法で設立するという 仕組みが入っているのです。  先週、実はファーマの東京でのセミナーがあって、その立て役者みたいな人と議論を していたのですが、要するに政府の機関だと。要するにいろいろなロビングが入って、 実はアウトカムに対するきちんとした情報を国民に伝えるというのは難しい。実際バッ クペインか何かのある手術を使ったときに、無意味であるといったデータが出てしまっ たらしくて、政府がやったときです。それで猛烈なロビングを受けて、なかなか正しく 伝わることができなかったのです。ですから、インディペンデントなノンプロフィット のオーガナイゼーションで今回はそういうものをやろう。センチネルのような副作用と か安全性のことは政府がやるというような仕分けがどうも行われているというふうに、 私は理解しています。何かその付加情報があれば教えていただきたいと思います。 ○山本参考人 特別具体的には存じ上げないのですが、このヒアリングで聞く限りは連 邦政府としての関与は、極力廃止したいのだというような印象は、企業側には強かった と思います。このAHRQも連邦政府の機関ではありますが、どちらかというと上目使いに といいますか、下手に出て、最低限の情報を整備したいのだというスタンスだったのは 印象的でした。ただ、オバマ政権になって、ヘルスケアのリフォームとかも含めて、急 に連邦政府がグッと主体的にやろうとしている部分もありますので、たぶん反発も多い と思うのです。そこに対して気を回せば、医療の質の評価機関はNPOにして、アカデミ アとかインダストリーサイドの声を入れないと、これは収拾がつかないのだろうなと思 ったのだろうなというのは、容易には想像できるかと思います。  それから日本のデータもそこで扱おうとしていました。 ○座長 よろしいでしょうか。時間になりましたので、またこの後、提言(案)につい て議論にまいりますので、そのときにお話を伺えればと思います。それでは議題2にま いります。これまで議論されてきました、提言(案)について、各方面からのご意見を 踏まえて、修正されたものが出ております。議題2について、事務局からご説明をお願 いいたします。 ○安全対策専門官 それでは議題2、「電子化された医療情報データベースの活用によ る医薬品等の安全・安心に関する提言(案)」について、時間も迫っておりますので、 簡単にご説明をさせていただきます。資料1-1が概要編、資料1-2、ワードの文章のほう が提言の本文です。  概要、資料1-1のパワーポイントのほうでご説明をさせていただきます。まずスライ ド2枚目をご覧いただけますでしょうか。「医薬品の安全性評価等に関する現状と課題」 について記載してあります。現在の副作用報告では、正確な副作用の現状の把握が難し く、過大評価されたりあるいは過小評価されて、正確な国民への情報提供に限界がある というのが現状であり、そのため、医薬品のリスク・ベネフィット評価のための医療情 報データベースを構築するということが課題であると記載されています。  1枚めくっていただき、スライドの3枚目です。医療情報データベース、今回構築を目 標としているものですが、これが作られたときにどのようなことが新しく可能になるか という点についてこのスライドに示されています。いちばん左の図をご覧いただけます でしょうか。この図では、ある医薬品を使用したときに、他剤との比較ができるという ことが記載されています。ある副作用が起こったときに、リアルタイムで比較すること や、客観的かつ迅速な安全対策が可能であるという記載がされています。  真ん中の図をご覧ください。例えば、ある薬を使用したときに、何か異常な行動など のイベントが起こったような場合、実際にはそのイベントは医薬品を投与していなくて も起こった可能性がある場合があります。そういった副作用と思われていたものが、実 際には、例えば、病気自体の症状によるものなのかどうかということを判別することが 可能になるということが、2つ目の真ん中の図に示されています。  いちばん右側の図では、例えば、何か安全対策措置を実施した場合に、それを実施し た前と後で、副作用の発生割合が変わっているかどうかを検証できるのではないかとい うこについて、記載されています。  スライドの4枚目、「プロジェクトに期待される成果と推進のための課題」と記載の ある部分ですが、電子的な医療情報のデータの利活用により、医薬品の副作用と安全性 情報のリスクの抽出、定量的な評価、リスク・ベネフィットバランス改善のための対策 の実施と評価が進められていくと記載がされています。このような活動を実際に進めて いく上で、3つの課題となるものがあり、それがスライドの下のほうに記載してありま す。1つが情報ルールの整備、次にインフラの整備、そして人材の育成といった3つの課 題が記載されています。  スライドの5枚目をご覧いただけますでしょうか。ここにデータベース利活用の際の ルール、主にプライバシー等を中心に記載されていますが、こちらもご覧ください。上 の部分に匿名化された医療情報の基本的な取扱い、これは疫学倫理指針等に基づいて記 載されているものですが、ここに研究者に提供する者、誰が提供するか、データベース の状態、患者の同意、外部でのデータベース化、あるいは外部への提供、計画審査につ いてまとめられています。  大事な点としてはデータの活用に関して、国民のプライバシーの不安をどういうふう に解消するのかということであり、十分に注意をする必要があるというところです。  その下に匿名化したデータを取扱う基本的なルールについて記載してあり、1つは審 査委員会、これは第三者委員会ですが、ここにおいてどういう調査・研究を行うのかと いう計画の審査を行うこと。2つ目として利用計画を公表すること。3つ目として通常の 指針に付加して、包括的な同意を得ることと記載してあります。  右側の部分は米国のHIPAA等を参考にした取扱いについて記載されており、プライバ シールール、情報セキュリティールールが挙げられています。いずれにしましても、実 施するに当たっては、「疫学研究に関する倫理指針」及び「医療情報システムの安全管 理に関するガイドライン」を遵守して行うことが重要であるという記載があります。  スライドの6枚目です。「データベースの構築と利活用の想定」とタイトルがあるス ライドです。スライドの上のほうで緑色の枠で囲っている部分があります。これは大学 病院等の内部というようなイメージとなっています。データベースを大学病院の中で作 るにあたりまして、元データとなるものが電子カルテの中では主病名、合併症名、性別、 年齢等といったものを元データにする。一方、別のデータ源としてオーダリング、レセ プト等といったデータも記載があります。これらの中から医薬品等の評価に必要なデー タを抽出して、また倫理同意等の包括同意等の倫理手続きを経まして、このようなデー タから新たな大規模なデータベースを構築するということが考えられています。  利用にあたりましては、下のPMDA、研究者等の部分から大規模データベースへの矢印 がありますが、これはアクセスを意味するのですが、利用目的を含む計画審査を行って、 そこで認められたらそのデータを活用して分析・研究を行うというようなイメージにな ります。その下の左側に、参考として、どういうような解析結果が出るかという例が示 されています。  少し飛んでスライドの8枚目、「新たなインフラの整備と人材の育成」とあるスライ ドをご覧ください。このプロジェクトにおいては、現在日本の医療情報のインフラがあ まり進んでいないという現状があるので、これからどういう形で進めていこうかという 点についてスライドの8枚目に記載されています。まず、はじめに2011年頃を目処とし て、新たなデータベース構築のためのルールを作る。2013年頃までに大規模データベー スの設置と拠点での運用、併せて人材育成プログラムを行う。ここに並行してPMDA等で の活用や基盤の整備も併せて行っていくことが考えられています。2015年頃の部分に、 将来的には統合的な管理運営の検討、医療情報を活用できる研究者を育成、養成しよう ということが記載してあります。  スライドの10枚目、「今後の課題」です。上側の部分に、既存の利用可能なデータベ ース等のとの関係についての記載があります。1点目として規模は問わずに、既に利用 が可能な状態で構築されている医療情報、データベースの活用と、医薬品の評価・分析 のための情報基盤の整備、これは医薬品医療機器総合機構等で行うというようなことも 含めて考えること。2点目としてレセプトデータベースについて今後の利用ルールが策 定された場合には、公益的な医薬品等の安全対策に活用できるかどうかを検討なされる ことを期待するということが記載してあります。  その下の部分に、その他の疫学研究として、エビデンスの活用による治療法の評価・ 検証やより有効な治療法の探索とエビデンスによる技術の評価の課題に対する利用につ いて公益性等を踏まえて検討するのが課題ということが、記載されています。  最後にスライドの11枚目をご覧ください。「提言のポイント」について簡単にまとめ られているのがこのスライドです。  続いて参考資料の4ですが、藤田先生からいただいているご意見です。1枚めくってい ただき、右上に2010年6月15日と書いてあるものがございますが、こちらが今回の資料 1-2、提言(案)にかかわるご意見です。  もう1つ、本日お配りさせていただいている資料についてのコメントをいただいてい ます。当日配付資料2、こちらは今回お配りした資料1-1と1-2に関するコメントとして、 佐藤先生からいただいているものです。今回の案をご審議いただきます際に、これらの 資料をご覧いただきながらご議論をいただければと考えております。 ○座長 ありがとうございました。それではお手元の資料をご覧いただきながら、資料 1-1と提案の本文は資料1-2です。これについてご意見をいただけますでしょうか。 ○丸山委員 いまご説明いただいた資料1-1からもわかるのですが、前回まではレセプ トデータベースの活用が前面に出ていたと思うのですが、今回の資料では電子カルテの データの活用だけになってしまって、レセプトデータベースの活用は今後の課題のほう に移っているのですが、その背景としてどういうのがあったのかというご説明をお願い できればと思います。 ○安全使用推進室長 事務局でございます。この懇談会における提言については少しず つまとめに入ってきているステージかと思っております。今後プロジェクトを考えてい く部分において、あまり話が分散していかないほうがいいだろうということもあり、ま ず、ここでの目的としてある部分のより中心的な部分を、もっとすっきり提言の中で位 置づけていったほうがいいのではないかということがあり、今回そこを少しより純粋な 形で提言として抽出した形にしています。一方で、いろいろな既存のデータベース、先 ほどもご指摘がありましたが、そういうものについて直接、手を付けられるものでもな い部分もありますが、そういう部分については既存の利用可能なデータベースとの関係 という形で、少し位置づけを整理させていただいたというようなことがあり、そういう 意味で少し最終的な提言にもっていくにあたって、全体的にコアの部分をきちんとクリ アにしていくという趣旨で、少しまとめ方を変えさせていただいたということです。 ○座長 よろしいですか。 ○丸山委員 そうしますと、レセプトデータベースの今後の位置づけというのは、今回 一緒には議論しないということでしょうか。 ○安全使用推進室長 いろいろなご要望ですとかご提案をいただくところは、それはそ れで非常に、全体的な医薬品の安全対策に対する活用という観点でウエルカムで、本日 もいろいろな意見をいただいたところですが、プロジェクトの中心的な部分の課題とい う部分とは少し切り離した形で、この提言の中身としてはまとめさせていただこうかと 思っています。 ○生出委員 資料1-1の5枚目のスライド、データベースの利活用のルールというところ で、実はこの提言の中には薬局のデータをどう扱うのかということに全く触れられてい ません。と言いますのも、いま我々の手元に先ほど大江先生から電子化医療情報データ ベースの制約と対処方針の2)の例2の中で、患者が調剤されたデータとは異なる場合が ある。調剤レセデータは、調剤データではあるが、患者が服用したデータではないとい うもっともな提言がありまして、これを逆に考えますと、我々が持っている薬剤服用歴 管理簿、これの電子化がどんどん進んでおりまして、いまはまだ20%程度かと思われる のですが、将来的なことを考えますと、例えば添付文書に書いていないイベント発生に 関する情報を得ることもできますし、患者との直接の会話のやり取りから出てきて、例 えば何歳以上の女性で、この薬を飲んだらこんな症状が出たというようなデータも出て くるわけなのです。  ただ、問題は用語の統一をしていかなければいけないと思うのですが、例えば医師が 熱発と書いてあるものを、薬局では熱が出たというような表現だとすると、なかなか突 合が難しいのかなという面もありますが、是非将来的にその用語の統一ができたり、電 子薬歴が完全に普及したということを考えますと、研究者に提供するものの医療機関の 中に、「等」というふうな言葉を入れていただきますと、将来的に薬局からの情報提供 ができるということも含めることができるのではないかということで、是非、「等」と いう文字を、本文の中にも入れていただきたいと思います。 ○座長 よろしいでしょうか。いますぐにはまだ体制がとれていないですから。 ○生出委員 ただ、そんな遠い将来ではなしに、そういうことが可能になるという状況 がやがてくると思いますので。 ○安全使用推進室長 事務局でございます。そういう形で薬局等の情報もこういったプ ロジェクトの中で活用させていただけるということは非常にウエルカムですので、そう いった形での展開が読めるような形で、少し情報提供の草創部分については書き方を工 夫させていただきたいと思います。 ○座長 ほかにいかがでしょうか。 ○佐藤委員 資料1の6枚目のスライドですが、電子カルテとそのオーダリング、レセプ トから大規模データベースを作るような絵が描いてあるのですが、この提言(案)を読 みましても、どのようなデータベースを作ることを想定しているのかが見えてこないの ですが、その辺りをご説明いただけませんでしょうか。 ○安全使用推進室長 事務局です。質問が少し漠然としている感じがするのですが、も う少しこういうポイントをというのが例示的にいただけると、お答えがしやすいかと思 うのですが。 ○佐藤委員 例えば電子カルテは病院の情報ですよね。それを大規模データベースとい った場合に、かなりたくさんの病院の電子カルテの情報を統合するようなことをお考え なのですか。 ○安全使用推進室長 現在のこのプロジェクトのパイロット的なものという位置づけも あろうかと思いますが、まず数箇所の拠点の病院、そこでの情報をまずこういう形での データベースとして作っていくというのが、このプロジェクトの言っているところでし て、最初からいろいろな複数の何千何百という医療機関の情報を集めようという形のも のではありません。 ○佐藤委員 少なくとも数箇所の病院のデータを統合するということを想定されている のですか。 ○安全使用推進室長 技術的な統合という部分については、一元的に何かを1カ所に集 めるという部分については、いろいろな課題があり、そこについてはこの提言の中でも 将来的に少しずつ検討していくことになろうかと思います。何らか各所に集めている情 報を分析する際に、統合的にできるのかといった部分についても、具体的に考えていく ようなことになろうかと思います。統合という部分、もう1つのご質問の趣旨として、 例えば6枚目の絵で申し上げますと、例えば大規模データベースを病院内に構成する場 合に、先ほども大江先生からもご紹介がありましたように、いろいろな情報のソースが ありまして、そのソースから医薬品の評価に必要なデータを抽出して、その医薬品の評 価等にいちばん最適な形でのデータベースという形にするか、さまざまな院内のソース から抽出したものを構成していくような、そういうイメージというように申し上げたほ うがわかりやすいかと思います。 ○佐藤委員 いま伺ってもイメージが浮かばないのですが、各病院のデータベースであ れば、いま既存のものですよね。それをどのようにすると、大規模データベースになる のかが、いまのお話を伺っても全くわからないのですが。 ○安全使用推進室長 要するに、いまはいろいろな形で病院の情報システムとか、いろ いろなものがありますが、それ自体が何かこういう目的で使えるデータベースではない だろうと思っていまして、むしろそういった病院の中のいろいろな診療情報のデータか ら、こういう医薬品の安全等を目的とした形でのデータを抽出した形で、集積をしてい くようなイメージかと思っております。 ○佐藤委員 そうしますと、このスライド6の中のデータベースを構築する元データと あって、そこに電子カルテとオーダリング、レセプト等とありますが、これは1つの病 院の中にあるオーダリングやレセプトのデータという意味ですか。 ○安全使用推進室長 おっしゃるとおりです。 ○佐藤委員 それをその病院の中で、ある目的に使えるようなデータベースを各病院の 中で作っていこうという意味ですか。 ○安全使用推進室長 はい。 ○佐藤委員 やっと意図がわかりました。それでそのデータベースで何がわかるのでし ょうか。例えば1つの病院のデータというだけでは、患者さんが別の病院に行った場合 のことは全く情報がないわけですね。開業医さん、クリニックを受診した情報も全く入 ってきません。そうした状態で、ある薬を飲んだ患者さんに何が起こったかということ を調べることができる場合と、できない場合とがあると思うのですが、何ができて何が できないとお考えですか。 ○安全使用推進室長 なかなか事務方として何ができるできないということをお答えす るというよりは、いろいろな先生方のご意見を伺いながらこういう提言をまとめさせて いただいているという状況かと思っております。今日大江先生のプレゼンテーションで すとか、木村先生のプレゼンテーションにもありましたように、やはりデータベースの 構築する種類やタイプによって、できること、できないことというのは、いろいろとそ の展開が違ってくる部分はあります。保険組合単位でのデータベースであれば、それは そういったメリットもあるでしょうし、病院という単位であればそこはメリット、デメ リットというものもあるでしょうし、そこを少し今日いただいたお話等も踏まえまして、 現実的にできること、どういうメリット、デメリットがあるということも整理して、こ の提言の中で整理をさせていただいたらよろしいかと思っております。 ○佐藤委員 1つの病院の中で完結できるスタディというのはあると思います。例えば 入院されている患者さんを対象に、例えば心臓の手術をしてから退院するまでの間に何 かイベントが起きていないかということを、例えば心臓手術の際に、Aという薬を使っ た場合と、薬を使わない場合、退院するまでに、入院中に何かイベントが起きるか起き ないかというのを比較するということは可能だと思います。対象の患者さんが入院して いる限りはその病院1つで追えるわけですが、退院後に何が起こるかということまで見 ようとすると、その患者さんが別の病院にかかったら追えないわけですから、そういう ことはなかなかしづらい。非常に短期間に、病院の中ですべてが起こるような薬の曝露 とアウトカムの関係を見ようとする調査はできると思うのですが、おそらくそれ以外の ことはなかなか難しいだろうと思います。  そういう状況において、この資料1-1の3枚目のスライドですか、副作用の発生割合の 比較が、リアルタイムで可能。副作用と思われるものが、病気自体の症状なのか判別可 能。安全対策の措置が副作用低減に本当に効果があったのか検証可能というようなこと が実現できるとお考えですか。 ○安全使用推進室長 先生のほうで実現できないとおっしゃるのであれば、この提言に ついて書き直していただければと思います。 ○座長 各病院で作って、いざとなれば統合できるようにしておくわけですね。 ○安全使用推進室長 こちらの8頁の図ですが、大規模データベースの拠点を置かして いただく。それを何カ所か作って、そういったデータをうまくネットワークにして活用 していくとか、また将来的にはこの懇談会でも議論をしてきましたが、地域の中での連 携のようなものを、そういった拠点を通じて作っていくような形で、佐藤先生のおっし ゃられているデメリットもある種、克服するような形で使えるような形にしていくとい うところも、1つの全体的な整備の中の目標に入るのだろうと思います。 ○望月委員 私もちょっと佐藤先生のおっしゃっているところは、以前に比べて若干後 退してしまったかなというイメージを持っています。大規模と言っていても、ただ1病 院のデータベースですと、とても大規模というところまではいきませんで、今回このプ ロジェクトの大きな目的は何10万人かの規模のデータベースを作って、非常に希な、し かし非常に問題となるようなものの検出というものも目的の1つにあったように思いま す。それが最終的には永井座長が確認されたような形に、いくつかの病院のデータベー スがリンクされて大きな規模になっていけば解決するものかもしれないのですが、そこ がだいぶ先の話みたいなイメージになってしまったように、私は感じました。  もう1点ですが、先ほどレセプトのデータベースは先送りというように話を聞いてし まったのですが、電子カルテの情報等に比べますと、確かに足りない情報の部分はたく さんあるのですが、いま佐藤委員がおっしゃっていた多施設を受診するような人たちの データを、保険者単位でまとめていけるという意味で、レセプトデータというのは、あ る意味では利用性があるのではないかと思っています。比較的難しい病気の場合は、病 院データベースを使って、それに対して使われた医薬品等についての解析をしていくと いうことはできるのですが、一般的に開業医レベルでご使用されるような、例えば今回 問題になった、DPP4の阻害薬とSU剤を一緒に使ったときの低血糖みたいな形のものをフ ォローアップで市販後に見ていくときに、そうしたベースになるデータベースの利活用 も先送りにしないで考えていたほうがいいのではないかと感じました。 ○山本副座長 レセプトのデータを使わないという意味では、おそらくなくて、レセプ トのナショナルデータベースの利用に関しては、この報告書からは少し課題のほうに移 ったということだろうと思います。結果から言えば、レセプトナショナルデータベース は高齢者の医療費の適正化の確保に基づいて作られたデータベースで、あれを作ったと きの委員会の結論の中に、広く公益的な利用目的のために利用することを検討するけれ ども、その検討資料の利用の仕方については、さらにもう一度検討するということにな っていたように思います。私の知る限り、その結論はまだ出ていないと思うので、そう いう意味ではこの後のスケジュールで次回でこれを最終提言するとすると、若干そこま で書き込んでしまうとやや無理があるかなということで、課題のほうに移したのだろう と考えています。  規模の問題は7頁目で1,000万人規模からと書いてあるので、規模の問題はあまり心配 はしていなかったのです。ただその規模に至るまでの間に、ここの検討会でもさまざま な解決すべき課題が出されていたわけで、これを十分な時間をかけて解決した上で、最 終的にこの規模のものを、ここでは2015年ごろを目指すのだということだろうと思うの で、若干全体の印象からすると、ナショナルデータベースが後ろに引っ込んだり、1つ の病院の中からまず始めるみたいなところがあるとは思うのですが、最終的な目的は変 わっていないと私は見ています。むしろ例えば疫学研究の倫理指針で簡単に片付く問題 では全くなくて、1,000万人のデータベースを用いる研究を、いまの病院にある倫理委 員会で本当に扱えるのかというと、たぶん扱えないと思っています。もっと専門的知識 を持った人が入った上で、本当にプライバシーの侵害がどのくらい恐れがないというこ とを評価しなければいけないわけです。そういったことができるようにするための時間 が必要であるし、それなりにこういうことはあまり試行錯誤ができないわけですから、 やってしまって被害が起こってしまうと、もうそれで全部止まってしまうわけで、被害 は起こせないという前提でいくとかなり慎重に検討する時間が必要かとは思っています。  最後の7頁目のまずは1,000万人規模からというところが変わらなければいいのではな いかと考えています。 ○宮田委員 私の感想も似たようなものなのですが、非常に元気な議論が最終的な結論 の中では矮小になっていくという過程は現実化のプロセスだと思っていて、むしろそう いったことを認識した上で、非常に現実的なアプローチを取ろうとしているのではない かと考えています。先ほど副座長がおっしゃったように、まず1,000万人ぐらいの規模 の医療データベースを作って、医薬品の安全対策に資するのだというのがたぶんこの報 告書の中ではいちばん重要な点なので、ここを譲っていなければ、それからロードマッ プを作っていくところを譲っていなければ、私は問題ないと思います。ただ、皆さんは これだけきちんと議論したので、要するにいろいろなデータベースがあって、そのいろ いろなデータベースの特徴というのをスライド1枚にまとめていただいて、レセプト情 報はいま言ったように、各病院機関ではとりあえずできないような情報を、きちんと取 れる特徴がある。病院の中ではいろいろ薬歴もあるし、検査のデータベースもあるし、 そういうのをきちんとまとめていただいて、それぞれいい特徴があって、最終的にはこ れをフルに利用するようなネットワークが必要になってくるのだけれども、当面利用可 能なフィージビリティからいうと、こういうような段階でいきたいというような絵があ れば、我々はこれだけ議論していたのが、いきなりここまで縮んだかというような印象 を受けることはなかったのではないか。とにかく医療のデータベースは国民の財産なの ですから、いろいろな種類のデータベースをきちんと、我々が活用していくというメッ セージがあって、当面の活用はこういうものというような絵が見えてくれば、私は最も フィージブルな報告書ではないかと考えます。  先ほどの拠点の病院の定義も、これはまだ全国的に少ないかもしれませんが、先週行 っていた北海道の北見市の日赤中央病院は1個しかなくて、しかも周辺の診療機関と実 は電子カルテを共有している状況があるのです。そういうようなところを選んで拠点化 して、いろいろなケースを使って、フィージビリティをやるというのがフェイズIだと いうような形で書いていただければ、いままでの議論も活かせるような気がしています。 ○座長 私も同意見で、1,000万人だからいいというわけでもないのだと思うのです。 いろいろなデータベースが必要で前に私たちがご紹介した、例えばカテーテルインター ベンションなどというのは、10万人規模でも是非作っていただきたいのです。これは十 分フィージブルだと思いますし、そのほかにも外科系であったり、いろいろな内視鏡の 手術であったり、そういうのも多分数万人規模のレジストリーがちゃんとできるような ものということ、そのほうがおそらく学術的にも実際に社会に還元するにも重要ではな いかなと考えます。レセプトにこだわる必要は必ずしもないだろうと思いますが、いず れそちらに展開できるような検討は続けていくべきだろうと思います。いままでの議論 の中にあったIDの問題についても少し触れておいたほうがよろしいのではないかと思い ます。 ○我妻委員 私自身もデータベースを構築するという点については皆さんと共有してい ます。5枚目のデータベースの利活用のルールに関して、プライバシーを非常に強調さ れているのはわからないでもないのですが、提言のポイントという一番最後の11頁のと ころには、個人情報に対する指針整備という形で収斂させていて、そこと並んで下に研 究の利益相反の取扱いの明確化ということが指摘されていて、やはりここでも5頁に HIPPAAのプライバシールールと情報セキュリティールールの2つを挙げています。プラ イバシーはもちろん配慮するけれども、その情報をどのように使っていくのか、利益相 反とか適正な使用をするのだということもあわせて指摘しないと、データのインカムの ところだけを検討している印象を与えるおそれもありますので、その辺を少し配慮され るのがよろしいのではないか。先ほど副座長も指摘されましたけれども、非常にデータ ベースの規模が大きくなればその規模に即した形での運用ということを配慮した報告書 であるということを、きちんと明確化させていくということが大事ではないかと思いま す。 ○座長 ほかにいかがでしょうか。 ○山本委員 1つコメントで、1つ質問です。コメントは私がここの拠点というか、新し く構築を検討されているものに望むのは、1つは規模、もう1つは患者さんの情報の網羅 性です。規模に関しては先ほど木村先生もお話になったように、いま既存のデータベー スのサイズアップというのもそれは当然ビジネスモデルとしては考え方の1つだと思い ます。  もう1点の情報の網羅性という観点は、大江先生がご紹介されたように、掛かりつけ 医制度がない我々のお国では、やはりその地域でもって散在する情報を、リンケイジし ていくだとか、すべてをカバーしているということが重要になってくると思います。先 ほど佐藤先生がご指摘になった1つの病院の中で完結するものでない研究テーマに関し ても、医薬品に関して、慢性的な疾患のお薬が重篤なものを検出する場合、その関係性 を評価する場合には、そういった地域で網羅されている、例えば地域ベースでもって構 築されているデータというのがやはり貢献していくのだと思っています。その辺をすで に8頁のスライドのところに地域での連携だとか、ネットワーク化ということが書かれ ていますが、この点はぜひお願いしたいと思っています。  質問のほうですが、8頁のスライドとか、あるいは6頁のPMDA等での活用基盤の整備と 書かれているのですが、この辺りの基盤整備の内容というのは、どういったことを想定 されているのか、現時点で何かあれば具体的なことをお聞かせいただければと思います。 ○安全使用推進室長 PMDAの方が横にいるのに私のほうからお答えするのもはばかれる 部分はございますが、PMDAの中でのいろいろな中期計画ですとか、そういったものはあ りまして、その中でPMDAにおいてこういう情報を活用して、安全対策を実施していくと いうために、やはりPMDA側のほうでもいろいろな専門家の育成というわけではありませ んが、どういう形でこれが安全対策に活かせるかといった検討ですとか、また、それに 伴ってPMDA側のほうのいろいろなシステムを作っていくとか、そういったことが必要に なってくる部分があります。そういう部分について特にPMDAに何か大きなデータベース を置いて、そこにお金をかけるということではなくて、むしろこういった拠点ができた 場合にそれをどうやって効率的に利用していくかとか、そういった部分での専門性をど うやって確保していくか、そういう形でPMDA側での活用の体制を作っていくということ と、一方で拠点を作るのと対になって検討すべき課題ということで、この8頁に書かせ ていただきました。 ○山本委員 確認ですけれど、そうするとデータベースの構築にということではなくて、 そのユーザーとしてどんどん有用性を示していくというふうな役割を示されているとい うことですか。 ○安全使用推進室長 おっしゃるとおりだと思います。 ○望月委員 質問ですが、提言のほうの案にも、こちらの概要のほうにもところどころ でドラッグラグの解消ですとか、承認の迅速化に寄与するというような表現のところが 散見されるのですが、これは具体的に、このデータベースを使った結果としてどうやっ たら承認が迅速化されるところに繋がり、ドラッグラグの解消に繋がるのかというとこ ろが、ちょっと表現の中で見えてこなかったのでご説明いただけますか。 ○安全使用推進室長 おそらく山本委員にご説明いただいたほうが的確かもしれないの ですが、先ほどちょっと3人のプレゼンターの方からもご指摘をいただいた部分ありま すけれども、例えば実際、臨床試験をやろうとした場合どういった患者さんがいらっし ゃって、そういう方々はどういう治療をされているかとか、そういうバック・グラウン ドのデータを取っていくようなプロセスというのは、なかなか日本のいまのデータベー スは規模的にも網羅的にも難しい部分があったので、おそらくこういったデータベース の威力を発揮する部分は、当然あるのだろうというのが1つの想定だろうと思います。 それ以外にもいろいろと想定できるものがあれば、何かご意見をいただけると大変助か ります。 ○山本委員 個々の治験の潜在的な患者さんがどこの施設に、そのプロトコールに合致 した患者さんがいるかというようなことをもう少し的確に把握できるというところで、 個々の治験での迅速化ということを大きく示しているのだと思います。答えになりまし たか、あんまりですか。 ○望月委員 いや、それだけで十分解決になるかどうかわかりませんが、きっとエント リーするときにいいのですね、わかりました。 ○座長 これは医薬品等になっていますが、医療機器というのはあまり表に出す予定は ないのですか。医薬品医療機器等とか。 ○安全使用推進室長 基本的には医療機器も同じ扱いだろうと思いますけれども、同じ 属性のものをたくさん書いていきますと、きりがないものですから、等という形でまと めさせていただきました。 ○座長 いろいろな考えがあろうかと思うのですが、もう少しイメージが湧きやすく、 例を挙げながら書いていただいたほうがいいかもしれませんね。いままでの議論から後 退したような印象を与えてもいけないと思うのですが。 ○木村参考人 すみません、話題の6枚目のスライドで、先ほど佐藤先生が何回か質問 なさっていたところですが、左側のデータベースを構築する元データというのは、病院 内のわけですよね。病院内のデータ、それぞれ独立しているデータベースが複数あって、 それを診療目的でリンクしていくだとか、標準化した形でストレージを作るだとかとい うのは、病院の仕事のような気がするのですけれども、これは山本先生とか大井先生と かにお答えいただいたほうがいいのかもしれませんけど、それは国が病院に入っていっ て統合したりとかしませんよね。そのデータを二次的に利用したいので何らかの標準化 された形で、データの抽出と矢印の上に書いてありますけれど、はき出すためのお手伝 いというか、補助というか、女性みたいなことを国がしてくれるというイメージなので しょうか、違いますか。 ○安全使用推進室長 ここで、国は構築の支援というように書かせていただいておりま す。やはり国自体が何か大きなナショナルレセプトデータベースのようなものをもつよ うなイメージではなく、むしろ個々の医療機関でこういったデータベースを用いて、研 究を進められるところをサポートしていくことです。1つはいまの段階で申し上げるの は予算的なサポートについて、取れればありがたい話でしょうし、いま木村先生がご指 摘いただいたようなインターフェースに関するいろいろな標準化とか、共通化とか、そ ういった部分での旗振りというものもあるでしょうし、いろいろな形でこのパイロット プロジェクトというものが上手くできていくことによって、またこういったことを国の 支援がなくても、いろいろな方々がメリットを感じるようになってくると、全国的なネ ットワークも広がっていくのかなというところも、ひとつ期待をしている部分かと思っ ております。 ○座長 これはかなり標準化を意識した支援ということですよね。 ○安全使用推進室長 おっしゃるとおりです。 ○座長 バラバラに作られたらあとは収拾がつきませんので、そこはしっかり確認して おく必要があると思います。それからお金もかかる話ですから、ぜひこういうプロジェ クトに参加するところはきちんと国からの支援が得られるという仕掛けは作っておいて いただきたいと思います。 ○木村参考人 確認できてよかったのですが、標準化がある程度進んでいると、マスタ ーにしても、データの形というか形式が標準化されていれば一元化しなくてもいいので はないかという気持ちもするのですよね。インテグレートする必要があるか、一箇所に まとめる必要があるかというのもちょっと検討したほうがいいのではないかと思ってい て、標準化さえされていれば、コモンプロトコールアプローチと同じプロトコールをも ってA病院でもB病院でもC病院でも研究を依頼して協力をしてもらって、出てくるとい うふうにすればいいのかと思っています。 ○座長 これは前に随分議論をしまして、バラバラにならないほうがいいというのが、 一応、ここの委員会での意見だったのです。 ○木村参考人 そうなのですね、どうしても一元化したいと。 ○座長 できるだけそういう方向でするという議論は既にしてあります。 ○木村参考人 ではアメリカもヨーロッパもディストリビューテットリサーチネットワ ークのほうにいったけど、日本は統合したいということでしょうか。 ○山本副座長 アメリカも医療機関がそれぞれもっているわけではなくて、保険者に集 めて、それをもっているのですね。医療機関というのは目の前に来た患者さんのケアを することが仕事ですから、患者さんが来なくなったらできるだけデータは早く消したい のですね。もっていればもっているだけリスクがありますから。そうするとそこまで分 散してしまうと、多分データはなくなってしまうと思いますので、どこかで確保しない といけない。それが国がいいのか、どこがいいのか、いろいろな例があるでしょうけれ ども。医療機関にその責任を押し付けるのは私は気の毒だと思っています。 ○安全使用推室長 そこの交通整理ですが、このポンチ絵のほうの概要を見るとあまり 正確に書いてないところなのですが、ここでもいろいろな議論の経緯がありまして、資 料1-2の文書編のほうをご覧いただいたときに、13頁に、ここでいろいろとあった議論 についてサマライズをしております。拠点の整備という部分でこのデータベースの設置 については、いまのこの計画においては拠点ごとに作っていくアプローチというものが、 このパイロットとしてのプロジェクトで書いています。[2]の議論ですけれども、先ほど FDAのセンチネルのお話もありましたが、木村先生がおっしゃるように、統合的という よりは、むしろネットワーク型のデータ抽出なり、データの解析を行うような形でのプ ロジェクトという形でFDAは動いているようなところもあります。その中でFDAも一箇所 に、例えば国で集めることによる個人患者情報の観点とか、そういう懸念も言われてい るところも外国のモデルとしてはあると。それを保険者がどうこうという話ではありま せんけれども、FDAのモデルとしてはこういうふうになっているということです。  一方データのセキュリティーの保護とか、技術的なコストというものを考えると、統 合的に管理するメリットが当然あるわけですが、プロジェクトの中でやっていく上で、 拠点内に完結をするという部分のメリットと、そういう統合的な管理といったメリット と2つのメリットがあり、そうした合理性についても、ここでは検討しながら進めてい くという形での結論になっております。まずそのパイロットとして動かすときの段階と しては、拠点に分散するような形からスタートしていくけれども、一元化することにつ いては、ここでは書いておりませんが、統合的に管理をしていくような方向での検討も 併せて進めていこう、ということでここには書かせていただいているようなことになっ ています。 ○座長 いかがですか。これはちょっといままでの話と違うところですね。前の議論で はそうではなかったと思うのですが、あまり分散してしまってあとの管理ができないと いうことですが、データベースにもよると思いますね。ですから、ものによっては小規 模でいけるのであれば統合しておいたほうがいいというのもあるのではないかと思いま すが。 ○安全使用推室長 違う議論というよりは、このプロジェクト自体最初は拠点からパイ ロットしていきスタートしていくというふうに、そこについてはまず分散的なところで スタートしていきますけれども、このプロジェクトの伸展の段階において、様々課題を 解決していきながら、統合的な管理のメリット、デメリットを検討して進めていくとい うことですから、この議論をできるだけ反映した形にしたつもりだったのですが、そこ は少し言葉が足りない部分があれば、また、補わせていただいて、また座長にご確認い ただけるようにしたいと思います。 ○座長 いかがでしょうか。そうしましたらだいたいご議論も出つくしたようですので、 今後の予定としまして、次回、これを取りまとめるということでよろしいでしょうか。 パブコメはどの時点で出しますでしょうか。 ○安全使用推進室長 本日、こちらのほうに出させていただきました案につきまして、 今日ご出席の参考人の先生方、また、これの議論を少し反映させていただいた形で、例 えば利活用の中でのいろいろな既存のデータベースのメリット、デメリットとか、そう いった部分の背後にある全体的な伸展の問題ですとか、少し後退したと言われた部分が ございますけれども、そういう部分について、今日の議論もまた整理をして、加えさせ ていただいて、座長にご確認をいただいたところで、これは一般からの意見公開の手続 きという形で出させていただこうと思っております。それをさせていただいた上で、ま た次回お集りいただいて、一般からのご意見等も踏まえながらご審議をいただいて、取 りまとめをいただければというスケジュールになろうかと思っています。 ○座長 そうしましたら、またこの案に対して委員の先生方からご意見をいただいて、 取りまとめと言いますか、パブコメにかけるということですね。その上でもう一度お集 りいただいて、最終的な提言にしたいと思います。今後の予定、連絡事項等ございます か。 ○安全対策専門官 特にございません。 ○座長 それではこれで本日の懇談会を終了させていただきます。どうもありがとうご ざいました。 照会先:医薬食品局安全対策課 電話番号:03−5253−1111