10/06/07 第2回職場におけるメンタルヘルス対策検討会議事録 第2回職場におけるメンタルヘルス対策検討会       日時 平成22年6月7日(月)           10:00〜12:00           場所 経済産業省別館850号会議室                      (担当)厚生労働省労働基準局安全衛生部                           労働衛生課 古田、永田                         〒100−8916                          東京都千代田区霞が関1−2−2                          TEL 03-5253-1111(内線5181,5505)                          FAX 03-3502-1598 ○永田主任中央労働衛生専門官 本日は、大変お忙しい中ご参集いただきまして、誠にありがとうご ざいます。定刻となりましたので、ただいまより「第2回職場におけるメンタルヘルス対策検討会」を 開催いたします。本日は、石井正三委員、市川佳子委員、堀江正知委員がご欠席です。生越委員は後 ほどご到着と伺っております。撮影はここまでということで、よろしくお願いします。  資料の綴じ方について、一言ご説明します。議事次第の裏側が資料の目次となっております。委員 のお手元の資料は、資料1〜11と、委員説明資料ということで別に綴じてあります。傍聴の方々用のも のは一括して綴じてありますので、後ほど相澤座長からお話がありますが、46頁のあとに本日ご説明 いただく委員の方々の資料が綴じてあります。資料1〜11のうち、資料5「労働者の健康情報の取扱」 以外については再配付となっております。  それでは、今後の議事進行は相澤座長によろしくお願いします。 ○相澤座長 皆さん、おはようございます。部屋が狭くて、メンタルヘルス的にはあまりよくないで すが、よろしくお願いします。  本日は、メンタルヘルス不調者の把握を中心にしてご議論をお願いしたいと思っております。最初 に、健康診断によるメンタルヘルス不調者の把握の現状について、いくつかの事例等をご説明いただ きたいと考えております。事前に事務局が川上憲人東京大学教授、栗原壯一郎オリエンタル労働衛生 協会所長、岡田邦夫大阪ガス総括産業医、下光輝一東京医科大学教授にお願いしておりますので、各 先生からご用意いただいた資料を参考にご説明をお願いしたいと思いますが、よろしいでしょうか。  ありがとうございます。それでは川上憲人東京大学教授から、職場におけるうつ病スクリーニング に関する調査研究についてご説明をお願いします。 ○川上委員 ありがとうございます。機会をいただきましたので、15分程度で簡単に職場のメンタル ヘルスを研究している者の立場から、うつ病などのスクリーニングの調査方法についてご紹介しつつ、 第1回目の冒頭で述べたような気になる点を整理しておきたいと思います。パワーポイントを順番にめ くりながらご説明したいと思いますが、4つの点について少しデータをお示しして、最後に私のまとめ を付けたいと思います。  1番目ですが、うつ病スクリーニングには労働者の約半数が賛成だが、健康情報の取扱いには留意し てほしいというご希望がある点についてお示ししたいと思います。  次の2つのパワーポイントですが、一般労働者ではなく地方公務員の方に関する調査研究を、昨年度 この委員会とは全く別途に実施しておりましたので、その結果をご覧いただきたいと思います。地方 公務員約2,000人ぐらいの方にうつ病のスクリーニングをすることを希望するかどうか聞いたところ、 半分の方が「はい」とお答えになっていますが、17%ぐらいが「いいえ」とお答えになっていて、こ の17%の方のお気持ちをどう扱うかは、この検討会で考えなければいけないのかと思います。  次のスライドですが、「はい」と答えた人も「いいえ」と答えた人も全部含めて、うつ病のスクリ ーニングにおいて重要と考える要素は何かということをご質問しました。頻度の高い順に並んでおり ますが、ストレスへの対処法などを教えてもらえることというのが59%。陽性者、うつ状態と判定さ れた場合に、精神科医やカウンセラーなどの専門家が面接をしてくれることが大事だとお答えになっ た方が57%。自分がスクリーニングに書いた内容が、医師や看護師以外の者には見られないこととい うのが57%挙がっております。これら3つがここでは地方公務員ですが、おそらくは労働者からの希 望かと思います。  2つ目の話題ですが、「スクリーニング陽性者」といわれる、うつ病のスクリーニングをして「うつ 状態ですね」と言われた方の中には、たくさんの健常者が含まれることについてご説明します。ご専 門でない方にご説明するのは難しいのですが、スクリーニング検査というのは病気を診断するもので はなくて、疾病異常、このパワーポイントでは縦のほうに「疾病異常」と書いてありますが、これを 検査結果でできるだけうまく当てようという種類のもので、どうしても多少のずれが発生します。こ ういうスクリーニング検査がどのぐらい効率がよいか、つまりきちんと病気を当てることができるか という指標を、次のパワーポイントに示しております。  「スクリーニング効率の指標」ということで、いくつかあるうちの「感度」と、2行目の「特異度」 が重視されております。感度というのは、病気のある方、つまりうつ病のある方のうち何パーセント がスクリーニングでポジティブ、うつ状態と出るかということで、これはもちろん高いほうがよろし いわけです。特異度は、病気でない方が何パーセントぐらいスクリーニングで陰性となるか、つまり うつ状態でないと判定されるかの割合で、これも高ければ高いほうがよいことになります。  この2つを使いながら、次のスライドです。職場の第一次スクリーニング、いわゆるストレスチェッ クでよく使用される調査票の効率、あるいはそれ以外の特性も見てみたいと思います。私の知ってい る範囲なので偏りがあるかもしれませんが、いちばん上の「うつ対策推進方策マニュアル調査票」と いうのは、厚生労働省から公表されている調査票です。質問数は5問、回答選択肢は「はい」「いい え」、2つ以上「はい」があったらうつ状態、感度は95%なのでかなり高い。ただ、特異度というか、 病気のない方で陰性となる方の割合が少ないものですから、病気でない方もポジティブになってしま う傾向があるということですが、無償で使えるところはよろしいかなという分類になっております。  2行目の「職業性ストレス簡易調査票」は、あとで下光委員がもう少しご説明されると思いますが、 旧労働省の時代の研究費で作られた、無償で使える大変便利なストレス調査票です。57項目ですが、 いちばん広く職場でストレスチェックに使われていると思います。残念なことに、この「職業性スト レス簡易調査票」については、うつ病を見つけるための感度と特異度の検討がなされておりませんの で、現在どの程度か不明という状況です。そのほか、CES-DやGHQ-12など国際的に、あるいはいくつ かの職場で使われているものを挙げましたが、大体感度で75〜80%以上、特異度で75〜80%以上。デ ータとしてはそう悪くはないのですが、この程度かなとお考えいただければと思います。  ただ、これは職場のうつ病を真正面からスクリーニングする調査票をご紹介しているもので、例え ば静岡県の自殺対策で使われているような、睡眠キャンペーンで2週間以上の不眠を聞いて、陽性の方 にできるだけ病院へ行っていただくというような、少し視点をずらしたスクリーニング方法について はここでは扱っておりませんので、これ以外の視点もあるということだけは追加しておきたいと思い ます。  5頁の上のほうには、職場の第二次スクリーニングに使われる面接法についてリストアップしました。 第一次スクリーニングだけでは診断が確定しませんので、通常は専門家、あるいは医師による第二次 スクリーニングが行われており、これでもう少しケースを絞り込むことが行われております。これに ついては、説明を端折りたいと思います。ただ、面接法になりますので時間がかかりますし、専門性 がある方でないと実施できないところが問題かなと思います。いま挙げた第一次スクリーニング、第 二次スクリーニングの調査方法ですが、可能なものについては私の別添資料にすべて、項目、カット オフの仕方、出典、論文等を挙げておきましたので、ご参考にしていただければと思います。  ここから問題提起ですが、私の資料の5頁の下のほうにある図です。先ほどのような感度が90%と いう非常に優れたもの、そして特異度も90%以上と優れたスクリーニングテストがあると仮定します。 これは現状のものよりもかなり高い水準のものだと思います。  このスクリーニングテストを、うつ病の方が約1%いらっしゃる1,000人の事業場でしたとしますと、 これはシミュレーションですが、1,000人中10人うつ病の方がいらっしゃることになりますので、こ の方たちは90%の確率でスクリーニング陽性になりますから、9人がスクリーニング陽性者の中に含ま れてきます。一方、うつ病なしの990人は、10%の割合で誤診というか、間違って陽性に入ってきます ので、10%掛けると99人が陽性者に入り込んでくることになります。合計しますと、118人がスクリ ーニング陽性者となり、そのうち9人がうつ病ということになりますので、一般的に職場のスクリーニ ングをすると、従業員1,000人中1割以上の方が陽性者となって、その中に10%弱のうつ病の方が含 まれているので、これを第二次スクリーニングする作業が必要になります。この点で多少負担がかか るということだと思います。  特異度が低い所はもっと大変なことになって、いま地域で行われている「うつ対策推進方策マニュ アル調査票」のスクリーニングでは、地域住民の40%ぐらいがうつ状態と判定されて、面接を繰り返 しているような状態も発生しておりまして、第二次スクリーニングで負担がかかる点をご説明しまし た。  6頁の2枚のスライドは最先端の話をしていますので、簡単に申し上げると、下のほうのスライドに ありますように、例えばK6という質問票を使ったときにスクリーニングすると、0-4点の人にはあま りうつ病の方がいらっしゃらない、1%ぐらいと。5-9点でも、4%ぐらいしかうつ病の方がいらっしゃ らない。ところが、10点以上取り始めると、この中には27%、3分の1ぐらいうつ病の方がいらっし ゃるので、得点がかなり高いところでスクリーニングをして、中間段階の方については別のサービス をするのも1つかなというのが、最近考えていることです。  7頁に進みます。「スクリーニングの効果があるかどうかはスクリーニングの効率だけでは決まらな いこと」についてお話します。いま感度、特異度で比較的よく判別できるとお話しましたが、スクリ ーニングがきちんと判別できることと、スクリーニングをするとうつ状態が減ることとはまた別問題 で、スクリーニングのあとに何をするかが大きなポイントになってきます。例えば、発見してもほと んどの人が病院に行かなければ何の効果もありませんので、スクリーニングの感度がいかによくても 効果がないことになります。  8頁をご覧ください。8〜9頁に簡単にサマリーしているものは、現時点までで世界で唯一、労働者の うつ病のスクリーニングに効果があると報告した論文のサマリーです。これ以外に一般医師、プライ マリケア医を受診した人へのうつ病のスクリーニングが効果があるというものはたくさん出ておりま すが、労働者向けのうつ病のスクリーニング効果評価研究は少なく、これが唯一というところです。  この論文は最終的には効果があることを実証しておりますが、ご覧いただきたいのは9頁の上のほう の「介入プログラム」の部分です。このプログラムの中では、スクリーニングをしたあと、最初にケ アマネージャーが91%の人に電話連絡をして、いろいろな情報提供をし、ストレスマネジメントのワ ークブックを全員に送っております。病院に行きますよということを承諾した人で、精神科医に行く 方が44%、一般医に行く方が25%ですので、かなりの方が治療に行っていらっしゃって、41%が抗う つ剤を飲まれています。一方、個人治療を断った方についてもその後定期的に連絡が行われ、2ヶ月後 にうつ状態が続いていれば、8回のストレスマネジメントを34%の方に提供しています。  論文ですと足し算がうまく合わなくて、何パーセントの方が最終的にサービスを受けたかが厳密に はわからないのですが、少なくとも70%以上の方が、スクリーニング後にこうした受診勧奨、ストレ スマネジメントのサービスを受けて初めて効果があったという結果になっておりますので、スクリー ニングをするだけではなくて、そのあとの事後措置が大事だということもご理解いただけたらと思い ます。  少し飛ばして、10頁、最後の論点になりますが、「スクリーニング陽性者を受診させる時には十分 な説明が必要なこと」についてお話します。11頁の上にありますように、うつ病治療に関する最近の 動向を見ますと、軽度のうつ病に抗うつ剤を投与することは慎重にしたほうがいいのではないか、と いう論調の議論があります。もう1つは、抗うつ剤の副作用に関する問題意識が高まっており、あとで 申し上げますが、患者にきちんと説明をしなければいけないということが重視されるようになってき ました。  例えば、その下の「英国国立医療技術評価機構(NICE)のプライマリケア医向けのうつ病診療ガイド ライン」では、ICD-10の診断で軽症うつ病の方には抗うつ剤の投与はメリットが少ないので、ストレ スマネジメントの教育をしたり、2週間ぐらいきちんと診てあげるのが大事だという方向になっており ます。ただ、いまICD-10とDSM-IVという2つの診断が世界で大きな診断になっていますが、ICD-10の ほうが少し軽い方も含まれてしまうので、私どものやっている研究によると、ICD-10の軽症うつ病は DSM-IVの大うつ病、いわゆるうつ病よりもう少し軽い方を示しているようなので、DSM-IVの大うつ病 の診断がつけば抗うつ剤はメリットがある、それ以下だとメリットは少ないと読み取ってよいのでは ないかと思います。ですので、大うつ病の方に病院に行かなくてよいということを申し上げているわ けではありません。  12頁です。資料だけ用意しておりますが、厚生労働省から昨年5月辺りから抗うつ剤に関する自殺 企図の副作用、あるいは他害、ほかの方を害するケースがあることがあるということについて、いく つか情報が公開されておりますので、こうしたことを考えながら治療を進めなければいけないところ があると思います。  13頁には、日本うつ病学会がこれに対して見解を出しているものを引用しました。今回は精神科医 の先生がいらっしゃらないので、私が代わりにこの見解をご説明します。日本うつ病学会としては、 抗うつ剤で多少こうした副作用が出ることもあることは認識をしていますが、その頻度はほかの薬と 比べて決して高いわけではなく、一過性のものなので、ご本人やご家族が担当医に相談してくれれば、 医師はきちんと対応ができるということを述べていらっしゃいます。ただ、簡単にスクリーニングで 陽性になった方を病院にお送りして、安易に説明もなく薬を与えることは避けたほうがいいのではな いかと懸念しています。  最後の「まとめ」です。いまの4つの論点を整理して、私が現時点で考えていることのまとめですの で、組織を代表したものではないことをお断りしておきます。まず、健康情報の取扱いにはかなり留 意が必要で、医師、看護師など保健医療スタッフだけがスクリーニング結果を閲覧できるものを、多 くの労働者が求めているように思います。知識と経験のある専門家が二次面接を行うことも求められ ているように思います。一方で「受けたくない」という1、2割の労働者がいて、こうしたものを国と してのメリットと労働者のご意見のバランスを取ってどう考えるかは、ここで議論が必要かなと思い ます。  さらに、薬物治療のメリットとデメリットについて、本人にきちんと情報提供した上で受診勧奨を 行うことが必要だと考えます。特に、これは過剰な受診につながることを避ける工夫が必要かなと思 います。もちろん、多くの方は受診をしたほうがいいと言われても行かないかもしれませんが、こう したものが定期健康診断に入ってくると、事業場が安全配慮義務を非常に考慮し始めるので、陽性者 すべてに精神科に行ってくれと要請するようなケースもあり得るのではないかと思います。そのよう な過剰な薬物治療につながることを避ける工夫が必要かなと思います。最後に、労働者の方からも要 望が出ておりましたが、対象者にストレス対処の教育を実施したり、それ以外の一次予防策を推進す ることを同時に行うことが望まれるのではないかという印象を持っております。  14頁の図は、私どもが厚生労働科学研究費の中で考えているうつ病のスクリーニングの少し新しい 考え方で、これはまだ検討段階です。労働者の方にスクリーニングをするとしても、高得点者につい ては保健医療スタッフによる面接をきちんと受けていただいて受診勧奨するにしても、中間得点者に ついてはむしろうつ病やストレスに関する勉強をしていただいて、ご自身で自発することを促すとか、 勉強することだけで抑うつが軽減するという研究結果もありますので、そのような形で対応するのも いかがかなと考えているという、ご参考までの情報です。多少急ぎでやりましたが、論点はそんなと ころです。よろしくお願いします。 ○相澤座長 ありがとうございました。大変わかりやすくご説明いただきまして、先生のご意見もい ただいたと思います。1時間ぐらいで4人の委員にプレゼンテーションしていただくということで、議 論はあとでする時間がありますので、資料について質問がありましたら簡単にお願いします。よろし いですか。  それでは、栗原壯一郎オリエンタル労働衛生協会所長から、健診機関における取組例、特に産業医 の選任義務のない50人未満の事業場における例について、ご説明をお願いします。 ○栗原委員 雑駁な資料で申し訳ありませんが、ご説明させていただきます。  私どもの「基本的スタンス」としましては、健康診断に合わせてできるだけメンタルヘルスチェッ クに参加していただきたいというガイダンスを、健診を引き受けている事業場に対してやっておりま す。理由としましては、病気を探すというよりも、あくまでも働いている方お一人お一人に「心の健 康」に関する意識を高めていただくため、というのが1つの大きな理由です。2つ目は、メンタルヘル ス改善に向けて組織的な課題に対応するように、事業場に対しガイダンスできるようにしたい。です から、基本的には一次予防を目指して活用していきたいと考えて取り組んできております。  「これまでの実績」としては、平成19年度からこういうガイダンスを始めて、実施事業場数は7事 業場、約1万2,000名です。今年度、新たに3事業場、毎年おやりになっている事業場が1事業場あり ますので、4事業場が計画の中に入っております。  どんな方法をとっているかというと、大勢の従業員の方々に、あるいは健康診断時にやるわけです が、問診の代わりにということでチェックシート方式を採用しております。調査票としては、「簡易 ストレス調査票」以外に1種類のチェックシートを活用しております。もう1種類、ほかにも活用でき るような手配はしておりますが、少しコストがかかるということや設問数が多いということで、いま だ事業場で取り入れられている所はありません。  いま申し上げた7事業場のうち、健康診断との平行実施は3事業場の約5,000名です。他の4事業場 については、私どもが健診をお引き受けしている事業場ではないので、そういう意味であくまでも心 の健康診断、あるいは組織の活力診断という目的でやっています。そういう事業場に対しては、事前 になぜこれをやろうとしているのかという教育と、個人情報については、私どもは基本的にチェック シートの結果はご自宅に郵送するということで、事業場には一切入れない格好で進めてきております。 結果報告の個人への報告のところに、「封書で自宅への送付」ということを書いております。  そんなやり方で本当に参加するのか。これは当然任意参加を前提にしておりますが、なぜやらなけ ればいけないのか、何をしようとしているのかをしっかりガイドしましたら、平均参加率96%程度に なっております。そうしたことに基づいて個人へ報告をして、先ほど川上委員がおっしゃったように 医療に結びついているかどうかという話になると、例えば1,000名の事業場でやって産業保健スタッフ、 産業医や保健師、看護師に相談に出向くケースは数ケースです。その数ケースのうち、必要に応じて 私どもの方へリファーされてくる状況です。ですから、必ずしも個人の医療行動につながるところに までは至っていないようです。  ただ、ご案内の中に全員に対して結果に基づき産業保健スタッフを活用することと、私どもの所へ 直接相談に来られるガイドがしてあること、地域の医療機関をパンフレットにしてお送りしていると いう格好で、地域の医療機関に行っていらっしゃるところまでは捉えることができておりません。む しろ、私どもは組織への報告を一生懸命手がけており、組織のどんなことがストレスになっているか というレポートを出して、トップセミナーや管理監督者への報告会、オープン参加での報告会、従業 員の方でどんな状態になっているか聞いてみたいという方もいらっしゃるので、事業場のご提案でそ ういうことにも対応しているという現状です。  そのような実態を見る中で、こういう活動を広めていくには、私どもとしては健康診断に合わせて 実施できるように法制化されていくことを希望しております。先ほどご報告の中で忘れましたが、今 回4年目になる事業場は、3年目から特にストレス度の高い方については産業医とご相談して、私ども がやっているのはうつ病の診断ではありませんので、ストレス度が高いということで不定愁訴を持っ ているというデータが出て、心理面、身体面にまでそういうデータが強く出ている方には、産業医と ご相談し、ご面談いただくことをお願いしております。ですから、先ほど申し上げた法制化を進めて いく上で、健康診断として産業医が関わっていく。産業医の選任義務のない事業場等については、私 どもの常勤の医師が7名おりますが、いずれも産業医の資格を持っております。私どもをサポートして くれる顧問医も精神科医であり、かつ産業医である方をお願いしながら、そういった方々にケースの 相談をしながら、医師の指導の下に対応を進めていくことの必要性を感じております。そういった意 味で、いま全衛連がそうしたスタイルの活動を今年度からスタートしており、私どももその中に加え ていただいております。  私どもは、特に健康診断の中に入れるということは、健康診断そのものは「健康状態を確認し、必 要に応じた措置をする」ことが事業場に求められていることであって、メンタルヘルスについても同 様な取組みになるべきだと、病人探しではないのではないかと認識しております。ただ現実の問題と して、きれい事で通れる世界でないことも十分承知しておりますので、そういった部分で事後措置の 実施主体のあり方や個人情報の取扱いについて、明確な方向性をこの検討会で示していく必要がある のではないかという認識をしております。  もう1つは、そういうチェックをして、事業場内産業保健スタッフは本当にサポートできるのかとい う問題を抱えております。ですから、そういった事業場内産業保健スタッフを育てていく。また、小 規模事業場においては産業保健スタッフすら十分でないのが実態ですので、私どものような健診機関 の産業保健スタッフが、メンタル面についての知識・技術等を備えていくトレーニングの場が必要で あろうという認識をしております。小規模事業場については、1つモデルを作って広げていくというよ うな地道な活動をしていかないと、広がりを求めることは難しいのかなということも、心の片隅に持 っています。雑駁ではありますが、ご報告とさせていただきます。 ○相澤座長 ありがとうございました。実際に健診機関としてやっておられたご経験を踏まえてのご 提案です。いまのご発表に対して、何かご質問等ございませんか。3年目から産業医に知らせるという ことは、あらかじめ健診を受ける方にも説明されておられるのですか。 ○栗原委員 はい。 ○相澤座長 受診率というか、検査する対象者はそれほど減ることはなかったと。 ○栗原委員 ありませんでした。 ○川上委員 定期健康診断の中で実施すると、当然事業者がそのデータをもらうことができるという 法制度にいまなっていますが、栗原委員のケースでは、個人的な結果は事業者にはいかないのですか。 ○栗原委員 事業者には出しておりません。健康診断結果を見ながら、私どもが持っている情報を確 認しながら、少し不定愁訴があるのではないかと思われますという格好で産業医に知らせるだけの形 で、いまのところやっております。 ○川上委員 特に何か契約書を交わす形ではなくて、産業医にお返しする形で、あとは事業場の中の 運用として、事業者には直接データは見せずに、産業医が管理する形を取っていると。 ○栗原委員 産業医に面談していただいて、そのあと必要があれば私どもがカウンセラーを定期的に 送っておりますので、そのカウンセラーの所へ行って一遍相談してみたらと、産業医がおっしゃって くださっています。 ○相澤座長 よろしいでしょうか。それでは、のちほどまたご議論いただくということで、どうもあ りがとうございました。  次に、岡田邦夫大阪ガス統括産業医に、職場における取組事例についてご説明をお願いします。 ○岡田委員 メンタルヘルス不調の把握ということで、お手元の資料に基づいて弊社の取組みについ てお話させていただきます。  私どもの健康診断はすべてIT化を行っており、健康診断の画面帳票に過去4年分、計5回分の健診 のデータが出てきます。そのときに組織の名前が出てきて、異動状況が把握できるようになっており、 内部の異動、外へ異動したとき等もすべてここで把握できるようになっております。この経年的変化 に関しては、体の面の変化を捉えるということで、前年度から10%以上の変化があった場合、すべて 異常所見と捉え、正常範囲内であっても一定の範囲以上に動けば、それは異常値として対応するよう にという教育をしております。そのほか行政指導に基づくVDT健診で「ストレスがある」という項目が ありますので、これもあれば赤い字で画面上には出すようにしています。また、Epworthの問診項目で 「睡眠障害のチェック」を実施しております。職業性ストレス簡易調査票における「ストレスの原因 と考えられる因子」と、「ストレスによっておこる心身の反応」を必須項目として、現在回答を求め ております。  2番目に書いてありますように、これはすべてwebで問診票に入力しますが、問診票はたくさんあり ますので、この項目だけに特定して答えるというのではなしに、いろいろな問診項目の中に散りばめ て、ご本人に答えていただくようにしております。基本的に過去の受診状況と就業上の措置しか、管 理監督者、事業主はコンピュータにアクセスすることができないようになっております。私どもが個 々に過去のデータを見る場合は、IDカードを通して、それによって許可された者しかデータにアクセ スできないシステムを現在構築しております。  この「職業性ストレス簡易調査票」は、2002年4月からリリースし、全従業員に対して選択でして おりました。その後、2002年から4年間の間で、これに答えたからということで働いている方に休業、 復職、就業上の配慮等相応の対応がなされており、労働組合等とも話をして、特にこれを答えること によって不利益を受けるという労働者が過去に見られないということで、産業医の意見並びに人事部、 労働組合等の合意に基づいて厚生労働専門委員会にかけ、2007年から必須項目として全員にこれを回 答してもらうことにしました。ただし、この情報は事業主には行きませんので、すべて産業医の間で 止まる形になっております。  事後措置ですが、私どもは「ストレスチェック票」というものを別途作っていて、ストレスによっ て起こる反応に一定の基準を設けており、もし点数が低い場合には、先ほど川上委員のお話にありま したように、陰性の人も拾い上げてしまう可能性がありますので、一定のレベルの方に関しては、産 業保健スタッフが約30分間ヒアリングをすることになっています。私たちが作った「ストレスチェッ ク票」に基づいて個別にヒアリングをして、その後、産業保健スタッフがその結果について産業医と 話をして、社内の精神科の先生への受診に結びつけるのか、産業医が再度健康相談として面接をする のかを決定します。  そのほか、こういった結果を事業場ごとに、もしうつ病等の心の問題がたくさん発生するのであれ ば、各組織から希望を募って、ストレス判定図を用いて組織風土の分析を行って、産業医が出向いて 職場の環境を改善する対策を練っております。これは強制ではなく、各職場のトップが判断して、私 どものほうへ申し出る形で対応しております。  また、過重労働の面接時に「疲労蓄積度自己診断チェックリスト」を全員に答えてもらっています。 さらに、東邦大学方式の「軽症うつ病のチェックリスト」の問診等も交えて実施して、あらゆるチャ ンスを用いて心の不調をチェックしようとしております。過重労働の面接の結果は、管理監督者と人 事部長へ流すことになっております。万が一メンタルヘルス不調者が見つかった場合には、企業内診 療所ということで、私どもは「心療科」という名前を付けて週2回、時間内と時間外にそれぞれ精神科 医による対応をしており、管理監督者が相談、並びに働いている方が自ら相談できるようにしており ます。また、産業医による定期面談、産業保健スタッフによる面談も実施しております。  こういった健康診断等にチェックを行うには、基盤整備が非常に大切です。1つは健康診断時に全員 に対応することになりますので。また、職場での対応においては、管理監督者への研修が非常に重要 ですので、部下を持った時点での研修と、マネージャークラスになった場合に、ロールプレイを含ん だ人事研修を、必修研修として実施しております。この研修の前には、労働安全衛生法に関するEラー ニングがありますが、合格するまで原則この研修を受けられないので、Eラーニングで合格して、この 研修を受ける形になります。  新入社員については、健康管理ということで産業保健スタッフから教育が行われます。その後「PTA 教育(Personal Tutor and Adviser」システムということで、3、4年先輩が新入社員を約3年間フォロ ーする形で、PTAになる人を私どもが教育しております。特に新入社員におけるいろいろな心身の問題 等がありますので、過去の事例も含めてPTAになる方についての教育をしております。さらに、大阪商 工会議所の「メンタルヘルスマネジメント検定試験」というものがありますが、ラインに関しては各 事業場が中心となって、希望者に受検講座を産業医が講師となって開催し、基本的に費用は会社が持 って団体特別試験を受検してもらうようにしています。現在のところだいたい85%程度の合格率で、 落ちた人は2回目から自分の費用で、合格するまで受けてもらうようしております。今年度から、新入 社員に対してセルフケアの検定試験を受けさせるかどうかということで、現在、予算等の問題があり ますので、勤務時間内対応等も含めて、いま人事と対応しているところです。  そのほか、外部研修会の情報の発信。産業保健スタッフの出張健康サービスとして、事業場が近畿2 府4県にまたがっているので、そこへ定期的に産業保健スタッフを派遣して、生活習慣病対策、メンタ ルヘルス対策を行っております。産業医が各事業場で、特にストレス、メンタルヘルスに関する講演 ・研修を開催しておりますし、外部の先生方にお願いして、特に専門的な分野については外部の先生 に講師になっていただいて、研修会を開催しております。また、マニュアル等を作って、管理監督者 に周知徹底しております。  会社内の診療所で受けたくないという従業員がいますので、ネットワークを作るということで、現 在大阪では産業医と大阪精神科診療所協会との合同講演会が年2回行われておりますので、ここで関西 の産業医と開業しておられる精神科の先生方とのネットワークを、10年以上ここで構築しております。 さらに、在阪の総合病院の精神科部長と産業医の研究会を、4年目になりますが、精神科部長と産業医 の有志が集まって、先生方からいろいろなアドバイスを受けております。最近の中小企業の従業員の 方、大企業の従業員の方の傾向等を精神科の先生方からお話を聞いて、その情報を私たちがいただく。 もしくは、私たちの情報を精神科の先生方にお伝えして、企業の置かれている立場等をお話して、お 互いの情報交換をするという基盤構築をしております。以上です。 ○相澤座長 どうもありがとうございました。企業で大変活発にやっておられる例です。ご質問等い かがですか。 ○川上委員 岡田委員のご活動は大変頭が下がるというか、すばらしいと思います。ご経験の中で次 のようなケースをどうされているのか、2点教えていただきたいのです。1つは、第1回でもどなたか からご発言がありましたが、健康診断でメンタルヘルスチェックリストに回答することを拒否した場 合、どのような扱いになり、対応されるか、もし現状でどうされているかがわかれば教えていただけ たらと思います。  もう1つは、先生の所でも産業医のところでスクリーニング情報が止まる形にしていらっしゃって、 それは望ましいと思いますが、それをどうやって担保するか。つまり、事業主がどうしても見せろと、 私たちがお金を出してやっているものなので、私たちの所有物だと言った場合に、産業医から情報が 流れない保証があるか、先生の所ではどうされているかを教えていただけたらと思います。 ○岡田委員 第1点目の拒否の問題につきましては、基本的には法定外項目ですので、許容しておりま す。必須の形で流れますが、全員お答えくださいという形で、人事部、労働組合や私どもから情報は 流しますが、拒否した場合、私たちはその状況で把握しておりますので。 ○川上委員 法定内ではなくて、法定外扱いをされているのですね。 ○岡田委員 法定外扱いです。産業医と会社と労働組合が今後のメンタルヘルス対策を練るという形 で、合意の上で必須にしただけで、法定外です。法定内であれば、川上委員がおっしゃったように拒 否の人は認めないということになりますが。 ○川上委員 そうしますと、2つ目の私の疑問も発生しませんので。 ○岡田委員 基本的には、会社が健康管理情報システムにアクセスできないようになっています。も し漏れた場合には、誰が個人の情報にアクセスしたかがわかりますので、必ずIDカードを通さないと コンピュータが開きません。私たちが許容したコード番号を持った人しか、健康管理情報は覗けない ことになっています。マネージャーのクラスになると、過去の健康診断の受診状況と、産業医が出し た就業に関する意見書の就業上の措置だけが見られるようになっていて、それ以外は基本的にはアク セスできません。その場合は、健康管理部門の個人情報管理者の許可がないと見られないシステムに していますので、社長でも見られないようにしてあります。それは常務会等も通して了解をもらって いますので、その心配はしておりません。 ○五十嵐委員 岡田委員は本当によくやっていらっしゃり、いつも学会等でも伺っていておりますが、 2つ教えていただきたいと思います。ストレスチェック票で、ある一定の基準でスクリーニングをして、 それを事後措置として保健師、同時に産業保健スタッフによって、1人30分ぐらいヒアリングをされ ているというお話でしたが、大体何パーセントぐらいそこに引っかかってくるのかということと、産 業保健スタッフというのはどういう職種の人を指しているのかという2点をお伺いしたいと思います。 ○岡田委員 いま率は出していないのですが、あまりおりません。「ある一定の基準」というのは、 自覚症状が極めて低い人を、私どもの基準を設けてスクリーニングを再度かけているのですが、数% というデータだったと思います。  産業保健スタッフは、私どもは診療科というものを持っていて、精神科の先生に週2回外来をしても らっていますが、精神科、診療科に従事している看護師が、基本的に私どものスクリーニングのあと のヒアリングを行っております。私どもが作った調査票に基づいてヒアリングを行って、それに記載 をして、産業医が再度見て、最終的に産業医の面談になるのか精神科へ振るのかという形になります。 今後は、保健師をはじめ産業保健スタッフを増員してメンタルヘルスチェックの体制を敷くという計 画をもっています。 ○五十嵐委員 ありがとうございます。 ○鈴木労働衛生課長 さまざまな取組みをされて、どれがどう効いたかはなかなかわかりにくいと思 いますが、全体として大阪ガスの企業の中における効果、例えばメンタルヘルス不調が軽く済んだと かいうことでも結構ですし、企業の中の雰囲気が変わったということでも結構ですが、そういったこ とをどう捉えていらっしゃるのでしょうか。 ○岡田委員 いちばんの効果は、管理職の研修です。集中研修をやりまして、40人ずつ800人の管理 職を、毎週水曜日に私どもがロールプレイをします。5つの事例を徹底してロールプレイするというこ とで、管理職のリスクの管理、あなたがこういう対応をとったことによってどういうリスクが発生す るのかというのをロールプレイをします。私が、過去にあったような過重労働で退職を申し出た従業 員であるとか、労働者の代わりになって話をするのです。いちばん目の課題の健康診断を拒否する従 業員に対する管理職の対応から始まり、退職を申し出たとか、途中で急に奇声を発したり、アルコー ルの臭いがするといった代表的な5つの事例で、管理職に対して私が従業員の役割をしてロールプレイ を全管理職に実施いたしました。  極端な例ですが、その次の年から休業日数が減ったのです。さらに人数もここ3年間ずっと減ってき ているのですが、ケアにおけるいちばんのキーパーソンは管理職です。その方たちの理解があると、 つまり、こういうストレスチェックを導入したとしても、個人情報についても理解してもらうことが でき、万が一プライバシーを侵害するようなことがあった場合には、大きな問題になるということを 理解してもらう研修を実施することによって、その成果が現れ、労働者側からも問題は出ておりませ ん。管理職も、むしろここまではやるけれど、ここからは産業医、ここからは精神科医にお願いする というラインがはっきりわかってきたと理解してもらっています。  いままでメンタルヘルスケアについてどこまでやっていいかわからないという管理職が多かったの ですが、ここからは産業医、ここからは精神科医という形で、研修によりそういうことがはっきりわ かり、むしろ管理職の方がたからは、これからは安心してメンタルヘルス対策ができるというコメン トをもらいました。それ以後ずっと、管理職に対する研修は継続して実施しています。おそらく、管 理職の人が、企業の中ではいちばん重要な役割を果たしているのではないかと思います。過去ですと、 完全にうつ病になった部下を産業医の所に連れてきていたのですが、いまはそうではなくて、非常に 軽い人で「こんな人がいるのだけれど、どうしたらいいのだろうか」という相談に変化し、早期に対 応できるようになってきているのではないかと思います。 ○鈴木労働衛生課長 もう1点、メンタルヘルスマネジメント検定も非常に興味深いものと思って聞い ていたのですが、この広がりとか、参加された企業はメンタルヘルスの把握というか、スクリーニン グのようなことをその後されるようになるのか、どんな感じなのでしょうか。 ○岡田委員 おそらく、されるのではないでしょうか。大阪では全従業員に受けさせているという金 融機関も出てきましたので。新入社員にはセルフケアを全員受けさせるという企業も出てきています。 要するに、管理職だけが知識を持っていてもうまくいきませんので、働いている部下の方もストレス に対する知識を持っていただかないと気づきが遅れてしまいます。両方に教育しない限りは、一方通 行では駄目ですので、セルフケアとラインケアは両方やっておかないと、職場風土は改善しなくなり ます。そういう意味では、両者に対する働きかけは非常に効果的であると思います。 ○相澤座長 よろしいでしょうか。岡田委員、どうもありがとうございました。  最後になりますが、下光輝一東京医科大学教授から、「職業性ストレス簡易調査票」等についてご 報告をお願いします。 ○下光委員 私は「職業性ストレス簡易調査票」の開発に関わりましたので、その開発の経緯と活用 法について簡単にお話させていただきます。  この「職業性ストレス簡易調査票」は平成7年度から平成11年度の労働省の委託研究「作業関連疾 患の予防に関する研究」の中で開発されました。この研究班は5年にわたる大変長い研究班で、加藤正 明先生が班長で、ここにおられる川上委員や相澤委員など、皆様方にご協力をいただきながらこの研 究班を進めたわけですが、その中にストレス測定法開発に関する研究班がありました。そこで、スト レス対策を職場で行うためにはまずストレス測定・評価が重要であるという認識を持ちまして、アン ケート調査を行ったところ、事業場で行われているストレス対策は相談・カウンセリングやレクリエ ーションが中心でしたが、ストレスに関する調査が行われている事業場は非常に少なかったのです。  そして、ストレス評価を行っていない理由としては、「客観的評価の指標がない」、「評価の結果 の判定が困難である」、「十分なマンパワーがない」、「使いやすい調査票がない」という意見がそ れぞれ40%前後でした。その後、既存のストレス評価法についての研究を行いましたが、客観的な指 標であるバイオロジカル・パラメーターについては現時点では妥当なものがなく、開発するにしても 莫大な研究費がかかるだろうという結論になり、職場で簡便に使用できて、かつ信頼性・妥当性の高 い質問票の必要性が認識され、本調査票の開発が行われたという経緯があります。  資料に「メンタルヘルス活動」という図がありますが、NIOSHの職業性ストレスモデルをベースとし て、その中でどのようなメンタルヘルス対策を行うかを示したものです。NIOSHの職業性ストレスモデ ルは、仕事のストレス要因、あるいは仕事以外のストレス要因から急性のストレス反応が起こって、 それが悪化してくるとストレス関連疾患になるという流れがあり、そこにパーソナリティなどの個人 的な要因やソーシャルサポートといった緩衝要因がそれらを修飾するという考え方です。  NIOSHは、仕事のストレスからストレス反応までの全体を総合的に捉えようとして、「NIOSH職業性 ストレス調査票」を開発しました。この調査票は200項目を超える膨大な質問項目が含まれ、それを実 際の職場で使うことはできないだろうということがあって、NIOSH調査票を元にして、川上委員が翻訳 されたJCQ(Demand Control Model)といった調査票、ストレス反応についてはPOMSとかCES-Dなどの 信頼性・妥当性が証明された調査票を参考にしながら、左下にありますような「職業性ストレス簡易 調査票」を開発しました。  尺度としては、仕事のストレス要因、ストレス反応、修飾要因の3つの軸を同時に捉えようというこ とで、仕事のストレス要因については仕事の負担、量的・質的負担、対人関係、コントロールなどの 全部で17項目の質問、ストレス反応については、イライラ感とか不安、疲労感、抑うつ感といったネ ガティブな尺度だけではなくて、活気のようなポジティブなものも聞いていこう、身体愁訴もストレ スの症状として重要だろうということで、29項目をピックアップしました。修飾要因としては、上司 のサポート、同僚のサポート、家族・友人のサポート、仕事や生活の満足度等、11項目を選んで、全 部で57項目になる調査票を開発しました。本調査票については、尺度の信頼性、妥当性を確認してい まして、そして基準値の設定を行いました。  この調査票の利点としましては、57項目という非常に少ない質問項目数であること、勘弁に使用が できること、あらゆる職種に使用できるということ、仕事のストレス要因とストレス反応と修飾要因 を同時にダイナミックに測定できるという特徴があります。  この調査票を職場で使用するに当たってはいくつかの活用法があります。1つの用い方として、労働 者自身のストレス評価を労働者自身がストレスチェックで行って、自分のストレスに陥っている状況 への気づきを促す、「セルフケア」に用いられる方法があります。また、個人レベルのストレスの状 態の評価を職場の産業保健スタッフが評価結果を見て、高ストレス状態にあると考えられる労働者に 対して、面談につなげていくことができるという用い方もあります。  組織レベルの評価については無記名で行うことができます。部署ごとのストレス状態を産業保健ス タッフ等が把握することができる。この評価法については「仕事のストレス判定図」と名付けられて いますが、川上委員がこの研究班の中で開発されたもので、これを用いてストレス要因が多い職場に おいてストレスフルな職場環境を改善につなげていくことができる。  右下に、個人の回答をもとにコンピュータでデータを解析して、結果をレーダーチャートで示した ものの例をコピーしました。労働者個人のストレッサーとストレス反応、そしてソーシャルサポート を同時に評価することができ、その結果を一目で見ることができるということで、大変わかりやすい ものであるといえます。  また、コンピュータでの解析法以外に簡易判定法も開発しました。これはマークシート方式で、労 働者本人が鉛筆で回答欄を塗りつぶして、その塗りつぶした頁を1枚めくりますと、その場で自分のス トレス状態を採点することができるようになっている方法です。これはコンピュータが不要でその場 ですぐに評価ができますので、セルフチェックのツールとして非常に便利であるということがありま す。しかし、これはあくまでも簡易判定ということで、コンピュータの判定と結果がやや異なります。 この簡易測定法では、それぞれの尺度をまとめて要チェックとして付いたものの数をカウントし、要 チェックの数によりストレスの度合いを見るような形になっています。  例えば量的負担と質的負担は1つの尺度としてまとめていますので、その尺度の重みと他の例えば対 人関係とか、それ以外の尺度との間の重みが少し違うということ、あるいはそれぞれの尺度のリスク の重さが少し違うということなどを若干無視しまして、エイヤッと決めたものがこの簡易判定法です。 ただ左下のグラフのように、ストレスのチェック数が多ければ多いほど、そのストレス反応の要チェ ックの発現リスクが高いということが、男女共に認められています。  右上のグラフですが、これは1万数千人の労働者のデータを項目反応理論を用いてコンピュータで解 析したものです。横軸にストレス反応の強さを示していて、左から右に行くに従ってストレス反応の レベルが高度になってくるようになっています。それぞれのストレス反応の尺度がどの時点で立ち上 がってくるのかということと、それから該当回答率が50%のところでの傾きがどうなるかということ を見ることができるグラフです。  該当回答率0.5というところで、それぞれのグラフの傾きを見ますと、傾きがダラダラしているのは ストレス反応としての識別性が低い、反対に非常に急峻に立ち上がっているところはストレス反応と しての識別性が高いということを意味しており、「イライラ」、「不安」、「抑うつ」といった、ど ちらかというと心理的なストレス反応については、ストレス反応としての識別性が高いという結果が 出ています。反対に「活気の低下」、「疲労感」や「身体的愁訴」がダラダラと立ち上がっており、 やや識別性が低いのかなという感じです。次に、ストレス反応のどの時点で立ち上がってくるかとい うことなのですが、ストレス反応が低い段階から「活気の低下」が徐々に出現してきて、それから 「イライラ」、「疲労」、「不安」、「身体愁訴」が出てまいりまして、最後に「抑うつ」が立ち上 がってくるということが解りました。これはいろいろな心理的ストレス反応の中で、抑うつだけをチ ェックすると、かなり強いストレス状態にあり、うつ状態に陥ってしまっている人のみがピックアッ プされ、軽いストレス状態にある人が見逃されてしまうということになります。職業性ストレス簡易 調査票は、ストレス状態に陥った労働者を軽いストレス状態から重度のストレス状態まで幅広く調べ ることができる特徴があるということです。  先ほどの川上委員のご発表の中でお話のあった感度・特異度ですが、実は研究班の中でうつ病に限 定しては調べていないのですが、精神疾患患者と一般健康人との間でデータを比較しております(大 野裕先生の研究)。DSM-IVの気分障害、不安障害、身体表現性障害、解離障害、摂食障害、睡眠障害 などの外来患者さん58名と、それから精神・身体疾患の既往のない勤労者群について、抑うつと不安、 疲労、怒り、活気について合計得点を算出し、その点数で比較をいたしました。この合計得点の44点 と45点のところでカットしますと、特異度85.7、感度89.9という結果になりました。これについて は先ほど川上委員が言われたように、うつ病についての感度・特異度は調べていませんし、こういう ような幅広い患者さんを調べているというところに問題があるのだろうと思います。  最後に調査票の活用方法についてお話したいと思います。まず、労働者個人のセルフチェックのた めのツールとして、また、岡田委員が先ほどご発表なさったような方式で問題がある人を産業保健ス タッフとの面談に結びつけていくためのツールとしてこれを使うことができるだろう。それから今日 は説明しませんでしたが、川上委員が開発されたような「仕事のストレス判定図」として、部署ごと の職場環境の評価が可能となりそれにより職場環境改善へのアプローチができるようになるというこ とで、かなり汎用性が高いものだろうというふうに思います。  資料中の「メンタルヘルス活動」の図にありますように、メンタルヘルス活動の一次予防には、ス トレッサーの軽減とストレス耐性の強化がありますが、この調査票はそのような一次予防のために開 発されたものです。研究班のディスカッションの中で、うつ病のスクリーニングなどに使うことを目 的としているのではないということを確認しておりますが、ひょっとすると将来スクリーニングに使 われてしまうかもしれませんね、というようなディスカッションが確かあったかと記憶しております。 もしスクリーニングとして用いるのであればそのための検討がきちんとなされる必要があるのではな いかと思いますし、法に基づく健診に使用するとなりますと、なかなか大変だろうと思います。心と 体の健康づくりにおける「健康測定」というような健康増進活動の中で本調査票を用いていくのがい いのではないかと個人的には思っております。以上です。  ○相澤座長 ありがとうございました。ストレス簡易調査票の開発と、その利用法についてご説明を いただきました。いまの下光先生に対するご質問がございませんでしょうか。よろしいでしょうか。4 人の先生方にお話をいただきまして、どうもありがとうございました。今日、追加で五十嵐委員から 資料が出されております。時間がかなり押していますので簡単にお願いいたします。 ○五十嵐委員 お手元の資料がありますが簡単に。前回配られました厚生労働省プロジェクトチーム のまとめた資料の18頁のところに、職場におけるメンタルヘルス不調者の把握及び対応というところ で、産業医と医師しか出ていなかったのです。私は厚生労働省プロジェクトチームのヒアリングでも、 ここはかなり強く「保健師の活用を」ということを申し上げたのですが、割愛されていましたので、 実態調査を今日資料として持ってまいりました。お手元の資料は厚生省の外郭団体であります日本公 衆衛生協会から依頼されたもので、平成20年に「産業保健師就業実態調査研究事業」を私が代表とい たしまして研究をさせていただいた報告書からの抜粋です。現在、保健師はほとんど4年制の看護系大 学で基礎教育がなされておりますが、保健師課程のところに産業看護が位置づけられています、保健 師教育の見直しや保健師機能の強化という目的で、産業保健分野の保健師の調査をおこなったもので す。  1枚目の紙は産業保健師に対する調査ですが、実際に産業保健師がやっていると答えた業務です。図 1をご覧いただきますと、メンタルヘルスに関しては「よくやっている」「やっている」を足しますと 76.8%ということで、非常に高い割合で保健師が現在の仕事の中でメンタルヘルスの実務に就いてい ることがわかります。  次に下ですが、この図1は事業場所属ですとか、健保とかいろいろあるわけですが、表1では所属に かかわらず、産業保健師の実際の業務でのウエイトを示しています。1位は何か、2位は何かと尋ねた 表です。(4)にも示されるように、ほとんどいまの事業実態がメンタルヘルス対策に追われているとい うような状況です。もともと保健師は健康診断後の事後措置ということで、保健指導の業務が労働安 全衛生法には唯一法文化されているところなのですが、実際にはメンタルヘルス対策が主になってい るということがわかります。  この業務は実は抜粋ですので、図1は38項目の中から抜粋したもので、この中には連携とか相談だ とかメンタルヘルスに関してのスキルというところで散りばめられているのですが、図1はあえてメン タルヘルスと聞いている項目です。下の図もテーマ別で聞いたもので、メンタルヘルスに対してのウ エイトが非常に高いということがわかります。  次を見ていただきたいのですが、事業者に対して調査を行った結果です。おそらく事業者から保健 師活動を聞いた資料としては初めてだと思うのですが、人事労務部長以上の方に答えていただきまし た。総数で134で、専属産業医がいる事業場と、嘱託産業医がいる事業場がほぼ半々です。  上の表2を見ていただきたいのですが、「健康相談」という様々な相談の対応というのがほぼ9割以 上ということで、常に何か労働者の不調について対応に当たっているということがわかります。次に [6]の「メンタルヘルス不調者への対応」ということで、これが実は2番目に多く挙げられています。つ まり面談をして何かあった場合には、受診勧奨まで含めて対応しているということで、もちろんここ には産業医や専門医と連携をしながらということはありますが、対応の中で多く関わっているといま す。  3番目としては「復職時の対応」で、面談をしたり、人事部・職場・主治医・産業医等との連携を行 っているということ。4番目は「メンタルヘルス不調者に関する職場への対応や助言」ということで、 前回の会議でも椎葉委員からも、何か健康問題が職場に起因する時は、人事、労務と連携しながら、 職場の改善につなげているというようなお話がありましたが、そういったものが4番目。5番目として [2]の「メンタルヘルス教育」が挙げられています。  次に、表の3です。「産業医の形態別事業者からみたメンタルヘルス対策における産業保健師の実際 の業務」で、産業医が専属か専属でないかということに分けまして、それで事業者から保健師がどう いう仕事をしているかというのを答えていただいたわけです。[5][6][7][8][9]といったところが大きくと いうか、嘱託産業医のみの事業場の保健師が多く関わっている実態があります。先ほど素晴らしいご 発表がありました岡田委員の所は、当然、専属産業医というところで、産業医が中心になってやって いらっしゃるところだろうと思いますが、嘱託産業医となりますと、月に1から2回という来社ですの で、主として保健師がファーストライン・プロフェッショナルとして窓口的なものもやり、その後の 対応も中心的におこなっている実態がここでわかると思われます。  先ほど下光委員からもお話がありましたが、スクリーニングだけで安易に異常者がパッと出るもの ではなくて、日々の活動の中で社員との関係性の中で、何か社員が不調を気軽に話す中に、保健師が 異常に気付き産業医や専門医と連携とりながらスクリーニングしているという実態があります。特に 嘱託産業医がいないところでは、メンタルヘルス対策においても、保健師が中心となっている実態が わかると思いますので、資料として提出させていただきました。 ○相澤座長 ありがとうございました。産業保健師の方々がメンタルヘルスにずいぶん関わっている というデータをお示しいただいたと思います。いままで4人の先生といまの五十嵐先生に何か質問等が ございますか。よろしければこれから議論を深めさせていただきたいと思いますが、実は6つの項目を これからご討議いただきます。まず「労働者のメンタルヘルス不調把握の目的」です。それから「メ ンタルヘルス不調の把握の具体的な手法」「労働者のプライバシーの保護」「メンタルヘルス不調の 把握の対象者」「専門家の関与の方法」「健康以外の観点から評価され人事、処遇等で不利益を被る ことの防止」という6つの項目を議論していただきたいと思います。 ○永田主任中央労働衛生専門官 その前に資料5だけ、あとのご議論にも関係がありますので簡単に現 状だけご説明いたします。配付資料5、7頁。「労働者の健康情報の取扱」ということで、個人情報の 保護に関する法律に基づくもの。10頁、「労働安全衛生法に基づくもの」ということで整理をしてお ります。  「雇用管理に関する個人情報の適正な取扱いを確保するために事業者が講ずべき措置に関する指 針」。これは個人情報保護法の8条の中で、指針の策定等が規定されておりまして、それに基づいて出 されております。その中で第3として「事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るための指針 となるべき事項」ということで、1、2、3を挙げておりますが、法第15条、これは利用の目的の特定 に関する事項ということです。2として、法第16条及び法第23条第1項に規定する本人の同意。これ は16条が利用目的による制限、23条1項は第三者提供の制限。これはあらかじめ本人の同意を得ない で利用目的外への使用や、第三者に提供してはならないということに関連して、本人の同意というこ とで、それの2行目「当該本人が口頭、書面等により当該個人情報の取扱いについて承諾する意思表示 を行うことが望ましいこと」ということが記されています。  3としまして、法第20条に規定する、これは安全管理措置について、法第21条は従業者の監督に関 する事項ということです。その中で(1)から(3)までを申し上げますと、雇用管理に関する個人データ を取り扱う従業者及びその権限を明確にした上で、業務を行わせなさい。個人データは、その取扱い についての権限を与えられた者のみが業務の遂行上必要な限りにおいて取り扱う。個人データを取り 扱う者は、業務上知り得た個人データの内容をみだりに第三者に知らせ、又は不当な目的に使用して はならない。その職を退いた後も同様とするというふうにされています。  次の頁ですが、「雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」。 これは先ほどの指針を受けたものですが、その中の第3で事業者が留意すべき事項ということで、先ほ どの1の法第16条、23条に関する本人の同意について記載されています。  2として、安全管理措置、それから従業者の監督のところで(2)を申し上げます。「産業保健業務従 事者以外の者に健康情報を取り扱わせる時は、これらの者が取り扱う健康情報が利用目的の達成に必 要な範囲に限定されるよう、必要に応じて健康情報を適切に加工した上で提供する等の措置を講ずる こと」というふうにされています。以下は省略いたします。  10頁、「労働安全衛生法に基づくもの」ということで、労働安全衛生法上では、第104条の中でこ れは健康診断に関するものですが、「健康診断並びに第66条の8第1項の規定による面接指導の実施 の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない」とされてい ます。  それから「労働者の心の健康の保持増進のための指針」の中の7におきまして、個人情報への配慮と いうことで、アンダーラインのところを申し上げますと、「メンタルヘルスに関する労働者の個人情 報は、健康情報を含むものであり、その取得、保管、利用等において特に適切に保護をしなければな らないが、その一方で、メンタルヘルス不調の労働者の対応に当たっては、労働者の上司や同僚の理 解と協力のため、当該情報を適切に活用することが必要となる場合もある」というふうにされていま す。そのあと(1)として労働者の同意、(2)として情報の加工、(3)として事業場内における取り決めな どが記載されています。  12頁で「健康診断の結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」が示されていまして、その 中で健康情報の保護というところがあります。その中で「就業上の措置を実施する上で必要最小限と し、特に産業保健業務従事者(産業医、保健師等、衛生管理者その他の労働者の健康管理に関する業 務に従事する者をいう)以外の者に健康情報を取り扱わせる時は、これらの者が取り扱う健康情報が 利用目的の達成に必要な範囲に限定されるよう、必要に応じて健康情報の内容を適切に加工した上 で」というようなことが規定されています。以上ご説明させていただきました。 ○相澤座長 ありがとうございました。個人情報保護法と労働安全衛生法関係での指針等についての 個人情報保護に関する規定をまとめていただいております。それでは議論に入らせていただいてよろ しいですか。ほかに資料7がございますか、これはよろしいですか。よろしいですね。  最初に申し上げましたように、最初に「労働者のメンタルヘルス不調把握の目的」ですが、労働者 のメンタルヘルス不調というのは、家庭等職場以外の要因によるものもございます。事前に区別でき ないわけですが、事業者が労働者のメンタルヘルス不調を把握する目的、これをどう位置づけるかと いうのは非常に大事な点があるわけですが、これについてはご意見をいただければと思います。先生 方からございませんでしょうか。 ○三柴委員 この問題に絡んでは、3つの視点が必要かと思っております。要は労働者に本音でスクリ ーニング、特に自記式のチェックを受けてもらうためには、第1にプライバシー保護、もう1つは不利 益措置の禁止や抑制。最後は一次予防への連携。これらがあって、初めて安心できるということにな ると思いますので、この3つの視点がおそらく必要になると思うのですね。  なお、法的には、いままでの行政の指針等の中で、十分に触れられて来なかった、労働者がスクリ ーニングを拒否した場合、嫌だと言って情報の授受ができない場合をどうするかという問題があるわ けですが、これについては、まず3つの条件下で、事業者は知っていて当然ということになります。1 つ目は、法定健診や面接制度などで、当然に状態を把握していて当然という場合ですね。そこで、不 調状態をきちんと伝えたのに事業者が知らないというわけにはいかない。2番目に直属の上司等が観察 していて、当然気づいていないとおかしいだろうという場合ですね。これは過重な労働条件の設定と いうことと絡むのですが、いずれにしてもそばで見ていれば当然にわかるでしょうというような場合 は、それを知らなかったではすまない。3番目に、最も重要な条件として、客観的に過重な労働条件を 使用者側、事業者側が設定していると、だから、調子を崩して当然でしょうという場合ですね。  この3つの場合は自身のメンタルヘルス情報を労働者側が渡していないからといって、使用者側が知 らなかったとは言えないということになりますが、本人が知らせないと伝わりようがない場合につい ては、過去の判例を見るかぎりは、やはり過失相殺なりの要素として汲み上げられる。たしかに、特 に民事裁判では、労災補償をカバーするような役割を民事損害賠償で行う仕組みになっていることも あって、会社側に一次的な過失責任が認められることが多いのですが、しかし、労働者側が伝えない とわからないものを伝えなかったというときは、やはり労働者側にも過失があるだろうというふうに 捉えられてきたと思うのです。だからそういう事態を防ぐためにも、最初に申し上げたような原則を 打ち立てることなどで、必要な情報の授受ができる体制を整えていかないといけないのかなと思って おります。  最後に1点だけ申し上げると、これまでの行政指針等の流れというのは、前回申し上げましたよう に、医療情報については、取扱い、流通自体を抑制してしまうというところが当初のメッセージだっ たと解されますが、それが近年に至って適正化へという流れを持ってきているように私は理解してお ります。そして、特にメンタルヘルス情報のようなセンシティブな情報の場合は、その性質上、保護 の要請、必要性も高いけれども、アクセスや活用の必要性も高いという特徴を持っているから、やは り十分な適正化が求められるし、それが担保される限り、必要な情報の流通自体は促進されねばなら ない、と。そこで、信用に足る専門家の方に中に入ってもらうこと、あるいは法律上の守秘義務を課 された外部の第三者を利用するとか、いろいろ方法はあると思うのですが、そういうことで適正化を 図るのが良いのだろうと思います。現に、従来の行政指針等も、特に産業医を中心とした方に介在し て頂くことで、同意を取り易い条件づくりをして、それでも取れない場合は得られた情報の提供の可 否や方法などについて、専門家の判断に委ねるというような方向性でやってきたものだと理解してお ります。以上です。 ○相澤座長 大事な視点でございます。例えば家庭でのストレスがあって、そして不調になったとい うようなケースもあるし、職場でのいろいろなストレスがある。そういうものをひっくるめて事業者 が行うということについては、いかがでしょうか。 ○三柴委員 事案によって異なるとは思いますが、お尋ねの点は、いわゆる作業関連疾患について、 事業者がどう法的に責任を取るか、ということかと思うのです。現に、産業ストレス性災害に関する これまでの民事裁判例は、わりと事業者側に一次的な責任がある、一次的な過失責任があるというこ とは割合容易に認める傾向にあったと思います。ただし、全部が事業者の責任ではないよということ で、労働者側にも過失責任、少し事業者側とは意味が違うのですが、あるいは過失に類するようなも のがあるということで、損害額を差し引いてきたのですね。上げたり下げたりするから、私は「ジェ ットコースター判決」と言っているのですが、結果を受けて、労使どちらも勝ったといえるような判 決が多かったと思うのです。例えばヨーロッパのドイツなどですと、原則として労災補償で全部カバ ーしてしまうというふうに処理するので、労使ともそういう二度手間がないのですが、日本の場合は、 民事裁判では、結局大岡裁きといいますか、両者痛み分けというような判決で、どこか決着してきて しまったところがあると思うのです。では、今後どうするかということは、恐縮ながら、パッとは思 い浮かばないのですが、基本的には精神障害のリスクファクターと本人要因の客観的で正確な捕捉が 求められるということかと思います。 ○相澤座長 ありがとうございました。これについてはいかがでしょうか。いま作業関連疾患といっ た概念があるということで、事業者のある程度の責任は持たざるを得ないという解釈も成り立つので すよね。 ○川上委員 いまのことを少し広めにお話してもいいですか。目的ということをどのぐらいここで検 討をする意味があるか、実は私はよくわからないのですが、ただ確認をするのは大事かなとも思いま して、私自身も少しわからないので確認させていただきたいのです。今回のこの検討会の作成の流れ からいきますと、まず1番目にステークホルダーは国で、国として自殺対策基本法に基づいた自殺対策 を進める上で、国としての責任を果たすというのが1つの目的に置かれていると理解していいのでしょ うか、1番目です。  2つ目は事業場にとっても利益のある部分はあると思いますので、事業場が単なる裁判に対する責任 だけではなくて、広い意味でのCSRを、企業の社会的責任を果たすという意味で実施することにメリッ トがあるという整理を、ここでするのが適切かはよくわかりませんが、それもあるのかなと思います。 3番目は個別労働者にももちろん利益は発生し得ると思いますので、そういう個別労働者の利益を目的 に入れるというのもあるかもしれません。私が国、事業者、労働者のどれのステークホルダーにも属 していないものですから、私が申し上げるのは少し変なので、むしろ教えていただきたいと思います。 ○相澤座長 1回目の委員会でも、この委員会の目的とか背景については説明があったと思うのですが、 国の責任としてこういったことをやることについての基盤といいますか、事務局から説明していただ けますか。 ○鈴木労働衛生課長 前回この検討会を立ち上げた経緯についてはご説明いたしましたので、いまあ まり真正面に聞かれますと、なかなか説明が難しいので、一般的にはやはり法律の整備や各種の支援 策を講じながら、その時代に必要な国の責務を果たしていくということだと思うのです。  今日、第1回ではまだ論点を提示するほどの議論が十分になされていないので、議論のポイントだけ 座長にいろいろお願いしているのです。目的というのは要するに逆にいえば目的によりどこまで義務 づけるかというのが、後々行政の対応としてはできてきます。先ほど言いました、メンタルは家庭の 問題とかその他の問題と業務性に起因するものが簡単には選別できないものですから、その対象者を 全員というふうに仮定した場合に、どういう目的だからこの部分は義務づけ、それに伴って生じてく る個人情報等の扱いについては、一般の健康診断とは別の流れを作るべきではないかと、そういう議 論に後々なっていくと思いましたので、そもそもメンタルヘルス不調、そのスクリーニング自体が必 要かどうかとか、そういう目的を議論していただくということではなくて、特にそのあとの流れをも 考えると、どういうところに焦点を最終的に絞るべきかと、説明がかえってよくないかもしれません が、そういう意味でございます。  例えば家庭に起因するものは、最初の段階ではもちろんみんな入ってきますが、どこかの段階から 適切に振り分けて、そこは個人の責任にするとかにすれば、それに関わる個人情報の流れは別になり ます。そうは言っても職場の環境と密接に関係あるとなれば、産業医が本人の同意を得た上で、一部 は管理者に伝えるとかそういう措置も必要になってくると思いますので、そういった意味で目的とい うキーワードで座長にお願いいたしました。 ○五十嵐委員 私も川上委員と同じで、私たちのこのミッションをどこに置くかというところがとて も難しく感じています。私は内閣府の自殺対策の委員会にいますが、前回の資料で清水委員が「定期 健康診断項目での追加が必要」というのをおっしゃっている記載があるのです。いわゆる自殺対策の 中で、労働者のそういうリスクの高い人をいかに拾い上げようかというところでおっしゃったという ことは、私も認識しておりますが、やはり労働安全衛生法という性格上、事業者に情報が開示され、 事業者責任が発生してくるところに、安易に健康診断にポンと入れることに委員の皆さんも躊躇して いるのだと思います。ですから自殺対策の源流であるメンタルヘルス対策をしっかりしなければなら ないということで、メンタルヘルススクリーニングという発想があるのだろうと思います。しかし、 労働者をケアするという面での側面はあるのかもしれませんが、ともすると、労働安全衛生法に入れ ると労働者の不利益に通じることにもなりかねないところにどう整合性をとるのかということです。  それと、定期健康診断だけでなく、先ほど資料を使ってお話させていただきましたが、定期健康診 断というのは1年に1日の様子ですから、そうではなくて1年を通して何か不調があったときにきちん と把握できて、フォローにつなげられるような産業医、保健師がいるところ、いないところもどうや ってそういった仕組みづくりをしていくかというところの一次予防ということも想定していかないと、 やはり成果に結びつかないと思います。そうでないと、スクリーニングの仕組みは出来たけれども、 健診の煩雑さと費用の莫大さだけが残ってしまったりしてはいけないわけで、その辺もこの会として どういうところを目指していくのかというのが、みんなおそらく悩ましいところなのではないかと思 っているのですね。いったいそれをどう考えるべきかと思うのです。 ○生越委員 目的ということで非常に抽象的なお話しかできないのですが、私はライフリンクという ところで「自殺実態白書」の作成に関わりましたが、その主な原因が家庭内にある場合が多々あるの ですね。そのときに企業に対して行政のほうから、健康診断をどういうふうに位置づけるかといった ときの説明の仕方はいくつかあると思うのですが、多くの方が労働者として企業に雇用されている現 状がありますよね。ですから、結局この亡くなるいろいろなライフイベントの過程で、必ず企業の出 来事というのは通過したりするのです。ですからそのときに、企業がある種の自殺の防止のゲートキ ーパーの役割をすることが、いや、実はそれは自殺を減らすこと、ひいてはその企業の社会的な責任 を果たすことなのだというような大枠のメッセージを発信して、そういう発信であればおそらく企業 の方も、それはそうだよねというふうに乗ってきてくれると思うのです。  もっと言いますと、例えば労災の事件もそうですが、原因がわからなくても職場でとにかく自殺が あると、労働者はものすごいストレスが加わるのですね。特に上司の方はものすごいストレス。何で 亡くなったんだということをいちいち考えなければいけません。それがまた何で部下が亡くなったと いうことで、上司がまたえらい報告書やら何やら書かされて、また働かなければいけないという、そ の負の連鎖を止めるということで、ちょっと間接的ですが、企業内にとっても、主な心理的ストレス が業務外で亡くなった人に対してある一定のフォローをしていくというのは、企業にとっても実はメ リットがある話ではないかというようなこと。最終的にはこの活動が企業にとってもメリットがある のだよというようなところを、この目的の中に大枠として発信をすべきではないのかというふうに個 人的には考えています。 ○相澤座長 ありがとうございました。企業としての社会的な責任と、それからメリットもあるとい う位置づけで、この委員会を進めていこうということですね。 ○川上委員 私が話さなくてもいいような気がするのですが、現状、非常に難しい問題がありまして、 いまの話でも非常によくわかるのですが、一方で長年続いてきた過労自殺の裁判例とかを通じて、企 業のいまの責任のスタンスは、訴えられないミニマムをするというほうへこの10年でかなり傾いてし まっている。ですから、それをはみ出したことをして責任を問われることを非常に嫌がっているので す。ですからどういうメッセージを出して企業をモチベートするかというのは、私は大事だとは思う のですが、ここでかなりよく考えないと動かないかなという印象はあります。 ○生越委員 ただ、その企業がやることが、実際の民事裁判で三柴委員もおっしゃっていましたけれ ども、企業がやったことが実務上民事裁判で評価されないかとか、そのようなことは全然ないわけで す。その部分はかなり相殺なりで考慮されますし、業務によるストレスが明らかに高いときはちょっ と無理かもしれませんが、低いとき、ある程度中途半端なときは、例えば企業が配置転換をしている、 労働時間を減らしている、ヒアリングをしているとか、そういうことをやっていると、実は安全配慮 義務違反自体で飛ばされる可能性があるのです。だからそういうことは、民事裁判実務も裁判官もそ の辺はかなり細かく見ている。  現に勝った報道ばかりなされていますので、訴えられたらすぐ負けてしまうというような感じがあ りますが、民事で勝つのはなかなか難しくて、先生方もご存じのとおり、いま最高裁に上がっている ある事件は行政では勝てていますが、民事で引っ繰り返されて、いま上告審に申立て、いま最高裁で 和解をやっているらしいです。あれもそうですが、負けるわけではないのだと。民事裁判のリスクが あるからといって、やることをやれば大丈夫なのだよというような、それが歩いて、それが何かの指 針を出したときに、このとおりにきちんとやっていれば、企業の責任が、それは将来的には何年後か の裁判の中で明らかになる話かもしれませんが、これをやれば何とかなるというような企業側にメッ セージを出すことも、一定の目的の中に含まれるのではないかという気はしますけれども。 ○川上委員 ただ、一般的には出せるメッセージは不明確なものにしかできないことが多くて、モチ ベーションまであげることは難しいのでは。 ○北村委員 プライベートなストレスで自殺に至ること、これ人道的に企業としても防ぎたいという のは当然なのですね。だけどそれを法律で義務づけられると、中でやっている人間としては非常に辛 いです。見落としがあったことを落ち度とされるのですね。それはちょっと厳しいなと。 ○生越委員 落ち度というのは民事上ということですか。それは道義上。 ○北村委員 いや、民事上、法律的に健康チェックをやれと言われているのに、決まっているのにそ れを見逃がしたわけですよね。そうすると中で実務をやっている人間としては、非常に厳しいという こと。 ○生越委員 といいますか、そもそもそのケースの場合、因果関係はないですよね。 ○北村委員 でも、うつ病をチェックして見つけなさいと言われると辛いですね。 ○生越委員 それは企業としての辛さはわかりますけれども、民事責任を負うかというと、その場合 はおそらく相当因果関係がないので、民事上の責任には直接つながっていかない。もちろんその義務 づけすることで、注意義務ないし安全配慮義務違反のところの1つの検討項目には入ってくるかもしれ ませんね。ただ、そこの部分はそれでやると言われる先生はいらっしゃるかもしれませんが、因果関 係がないような気がする。ただ、先生がおっしゃることの理解はできますけれども。 ○三柴委員 そうですね。結局、必要なのは負うべき責任についての公正妥当な切り分けということ なのだと思うのですが、民事でも、豊富な実務経験をお持ちの生越委員が、なかなか勝てないとおっ しゃるのは、現実的には、やはりプロの法律家として冷静にみて、取り上げるに足りるような事件は、 案外多くはないということかと思います。本来、民事の責任を問えるというのは、過失の存在が前提 ですから、使用者側として、やるべきことをやっていれば過失は問えないわけですね。相当因果関係 も求められる。だから理論的にはそうなるのだろうと思います。  ただ、先ほど申し上げたように、少なくともドイツとは比べると、日本では、労災補償の役割とい うのが、結構限定的ですので、そこを労使の利害調整的にカバーするような判決が出ると、事業者と しても、労災が起きるとほとんど結果責任のように責任を問われてしまうのではないか、という認識 があるのはわかる面があります。  そういう条件下で、今現在、一方では、労働者の不調状態に気づけと義務づけるかのような司法判 断が出ている一方で、労働者側はキャリアにも悪影響が及ぶし言いたくないと、そういうジレンマに 陥ってしまっているという問題があります。だから、ここ以上は労働者の責任になります、だけどこ こ以上は使用者にも責任を取ってくださいね、という妥当な切り分けをするのが、いま議論の俎上に 上っている制度に絡んでくることなのだろうと思うのですよね。そうしないとかえって押しくら饅頭 になってしまって混乱を引きずることになるかな、と。 ○石井妙子委員 三柴委員のご見解だと、例えばスクリーニング制度を設けたのに引っかかってこな かった人については、予見可能性がないから事業主としては責任を負わないというようなことでしょ うか。引っかかってこなかったわけですから、それを何かすべきであったと言われるのはきついとい うふうに思うのですが。 ○三柴委員 機械の目と人の眼によるスクリーニングだからと言って100%信頼に足るかというと、ち ょっとそこは科学者ではないので確証を持っては申し上げられないのですが、妥当な切り分けという 以上、そういう方向性があってもいいのかな、と思います。ただ、正確な回答は、もう少し考えさせ て頂いてから差し上げたいと思いますが。 ○鈴木労働衛生課長 事務局から整理といいますか、その目的をご議論いただいた主な目的は、いま のご議論で大体、例えば次の論点整理などをするときには、素材は揃ったのではないかというふうに 思います。それで最初に三柴委員と生越委員が言われたように、作業関連疾患という捉え方は、これ はひとつ健診という意味では今後考える重要な要素だと思います。それよりさらに膨らんだ企業の一 般的な責任、あるいは企業にとってもメリットがあるという生越委員のお話についても、例えばこれ、 別途自殺PTの取りまとめのところでやはり清水委員がデンマークの事例を参考にされて、企業がきち んとやっているかどうかというのを、日本でいえば監督署が判定するというような話がありますが、 そういったところにも最終的にはこういったことを十分に取り組んでいるところは優良に。例えば環 境に十分取り組んでいるところがISOの14,000シリーズを取得するかのように、そういったように前 向きに捉える要素もこの部分については若干あるのかなと思います。ただ労働安全衛生法の中でどう 考えるかは、また少し整理をさせていただきたいと思います。  北村委員が言われた懸念、それからいま最後に話題になったことについては、一般健診、これまで の健診で身体疾患を実施はしたけれども例えば見逃すような場合もあるわけですので、そういったこ との比較とか、それから、ではこのスクリーニングの簡易検査とかそのエビデンスという面で目的な り限界があろうかと思いますので、そういった場合に今回のスクリーニングというものはどういうふ うに位置づけるのか。いわゆる従来の健康診断として位置づけるのか、その機会を捉えた不調のシス テムとして別途位置づけるのか、これは法令上の位置づけとしても当然ですけれども、議論があると ころだと思いますので、そこはまた少し素材を用意してご議論いただきたいと思います。  五十嵐委員が言われたミッション自体については、第1回目に提示した大きな3点ですが、当然、従 来からのメンタルヘルスの指針を活用した4つのケアの体制づくりとか、国がやってきたいろいろな方 策があるわけです。それでは不十分だということで、今回この切り口から特にご議論をいただいて、 何らかの新たな仕組みを導入しようということでご検討をいただくわけですが、それをやるに当たっ て必要となる条件整備というか、周辺の部分について、全くご議論というかご意見はいただかなくて 結構ですということではありませんので、主たる目的はこの不調者の把握についての議論ですが、そ れに必要な部分について、周辺的なご提言をいただくのは大いに結構だというふうに思います。それ は次回以降よろしくお願いしたいと思います。 ○岡田委員 例えば定期健康診断であれば中小企業規模事業者も対象になりますね。するとこの経費 の問題とかいろいろな問題が関わってくると思うのですが、特に産業医が選任されていないところは、 先ほどお話があったように、いろいろな機関にお願いすることになる。そういった中で問診票が出来 て、それをどのように評価して、どう対応するのかというものが、個々の産業医なり健診機関さんで ばらばらであった場合に、現場では極めて混乱をきたす可能性がありますね。  そうすると過重労働の面接より構造化面接法等によって、ある一定のスタンダードがあって、それ をしておけば担保されるという形であればクリアできるのですが、同じ質問であっても例えばA産業医 が診た場合はこれは問題があると、B産業医が診た場合はこれは問題がないとなった場合に、混乱が出 てくることになります。そこもスタンダードを作って、対応方法もきちんと学会等で、例えばこのメ ンタルヘルスチェックが法制化される場合にそれがきちんとできればいいのだろうと思うのです。も しそうでない場合は、これは企業にとっては訴訟のリスクになる可能性が高くなります。A産業医はこ れは異常と認めたけれども、B産業医とか、B機関は認めていないとなった場合に、産業医や機関スタ ッフのスキルの問題になってきますね。  例えば生活習慣病の場合は血糖値、LDLコレステロールの数値により、ある程度の学会の判定基準と いうのが出てきますが、メンタルにおいてはご本人さんが例えばメランコリータイプで本当のことを 書かなかった、過重労働があったけれども本当のことを書かなかった、その結果うつ病を見逃すこと もあります。これは明らかな数字的な時間外労働があっても、しかし、この問診票ではうつ病を疑わ せるようなものは全くなかった。もしくはストレスの過重な状態を疑わせるものは全くなかった。し かし、発作的に自殺をしたといった場合に、明らかにこれは見逃しがあったのではないかという問題 点が、かなり浮き上がってくるような気がするのです。そこまで法制化した場合にあとの問診票なり 評価の仕方なり、対応の仕方なりというのも、全国画一的にそれが決まるのであれば、これは大企業、 中小企業もおしなべて、外部の健診機関さんができると思うのです。そこまで決めるということでよ ろしいのでしょうか。 ○鈴木労働衛生課長 いま座長にお願いしてる議論のポイントの2点目のほうにいっていると思うので す。具体的な方法というか。一般の身体疾患を主とした健康診断であれば、別途、法律では大枠を決 めてあとはガイドラインを出したりとか、いろいろな研修等によって精度管理を行うというようなこ とが実際行われていますので、そこも今回の、先ほどの目的からして、どう位置づけるか、どの程度 がっちりしたものをやるのか、あるいは安衛法はある意味、全国どの事業場でも最低基準としてやっ ていただくルールというものですので、そういったことを考えた場合、どのレベルにするかというこ とを、まさにご議論いただければと思います。そこは皆さんからむしろご意見をいただいてから、と いうふうに思っています。 ○生越委員 議論が途中で止まってしまったので、予見可能性の話を少しだけ。特に企業で労働者が 亡くなった場合の予見可能性はどのようになっているかといいますと、基本的に大枠は集約すると2つ の説があると思います。1つの説は福岡高裁の事件です。就労の状況、就労の環境ですよね。それが過 重、そのことを予見していれば予見可能性を認める。これが1つの流れです。もう1つは東京高裁の事 件、あれは身体疾患までいかなくても、体の不調を認識予見しないと駄目ですよと言っているのです。 ですから、東京高裁の事件のほうがハードルが高くなっているのです。  色分けはあるのですが、企業に業務上ではないストレスで亡くなったときというのは、自殺の裁判 はいろいろあるのです。1つはパラレルに考えると、ちょっと違うのですが、学校のいじめの事件、い じめで亡くなりましたとか、ああいうものの事件は、自殺ないしは自殺そのものに予見可能性を求め る裁判例が非常に多いのですね。ですから学校から見ると、自殺自体予見できないでしょうというこ となのです。それはおそらく裁判官の頭としては、どれだけリスクというのですか、そのストレスに 関して影響を与えているか、誰が責任を取るべきかということをかなり細かく見ているということで す。  話を戻しますと、チェックリストに引っかからないと予見可能性がないということには、そうは単 純にはならないというふうに思います。ただ、チェックリストで引っかからない、ですから学説にも よりますが、そこの部分もおそらく過失相殺の議論に、特に業務上の話か過失相殺の議論になってい くだろうというふうに思います。予見可能性はいまは大体このような感じで動いております。  ○相澤座長 ありがとうございました。時間があと5分しかございませんので、今日は目的のところし かいけませんでしたが、次回具体的な手法ということでご議論をいただきたいと思います。この目的 について、いまのご議論に何か付け加えることはございませんでしょうか。 ○三柴委員 先ほどの技術論とも関係して来ると思いますが、チェックリストなどを複数組み合わせ るなどして活用して、なおかつ人の目を使って、そして妥当な総合判断をするという枠組みが、確た る制度として出来上がってきたときには、それを法的な責任論、例えば予見可能性の判断の要素とし て論じることはできるようになるのではないかと思います。そのことだけ追加で申し上げたいと思い ます。 ○川上委員 私は来週欠席するので、いまのお話を伺って1つだけ。目的ですが、うつ病のスクリーニ ングに限定した健康診断ないしスクリーニングをするのではなくて、広くストレスチェックという形 で、最終的には労働者のストレスマネジメントのためにする、あるいはよい職場環境をつくるために 資する、という目的に置いたほうがよいのではないかという印象を持ちました。 ○相澤座長 川上委員から一次予防を前提としたものですか、目的としたチェックリストみたいのが いると。次回までそれでよろしいですか。 ○川上委員 難しい議論は先生方にお任せいたします。 ○相澤座長 よろしいでしょうか。そうしましたら、目的についてはある程度やったほうが法的にも いいのではないかというご意見が多かったように思いますが、よろしいでしょうか。不手際で6つ議論 をするところを1つで終わってしまいましたが、非常に基本的なところですので、今日は大変貴重なご 議論をいただきましてありがとうございました。次回は本日の議論を踏まえて、事務局にメンタルヘ ルス不調の把握方法に関する論点整理案を作成していただいて議論を進めたいと思いますが、そこま で行かなかったというところがありますので、どこまで行くかはわかりませんがお願いしたいと思い ます。では、次回の予定を事務局からお願いいたします。 ○永田主任中央労働衛生専門官 次回第3回は6月15日(火)17時からを予定をしております。正式 な開催案内は別途送付させていただきます。 ○相澤座長 それでは「第2回職場におけるメンタルヘルス対策検討会」を閉会いたします。どうも今 日はありがとうございました。