10/06/01 第3回慢性の痛みに関する検討会議事録         第3回慢性の痛みに関する検討会          日時 平成22年6月1日(火)          15:00〜          場所 航空会館201会議室 ○渡辺課長補佐   定刻より少し早いですが、委員の方々がお集まりですので、これから第3回慢性の痛 みに関する検討会を開催させていただきます。今日、委員の皆さまにおかれましては、 お忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。前回の第2回検討会を3 月12日に開催させていただきましたので、少し間があきましたけれども、今日が3回目 ということで、よろしくお願いします。委員の出席状況をご報告させていただきます。 まず、委員の交代のご連絡です。日本医師会の常任理事でいらっしゃいました内田委員 が今村委員に交代になっています。本日、今村委員は都合がつかず、ご欠席のご連絡を いただいています。また、真田委員から欠席のご連絡をいただいています。それでは、 葛原座長、司会進行をよろしくお願いします。   ○葛原座長   皆さん、今日はお忙しいところありがとうございます。いま、事務局から連絡があり ましたようにいままでで2回慢性の痛みについて討論してきたのですけれども、今日は、 これまでの議論を踏まえて提言をまとめていくということで、この会を終わりたいと思 っています。最後に、いままでご検討いただいたことをどういう場風に提言に盛り込め るか、内容を考えていただければと思います。昨日までは、肌寒かったのですが、6月1 日になって、いま、外に出てみましたらクールビズが合うような気候になってきたので ホットな議論をお願いできればと思っています。よろしくお願いします。  まず、事務局から資料が出ております。報告書(案)に基づいて、第一に内容、二つ 目は文言の整理ということで綿密に検討していただいて、最終的な報告書を仕上げてい ただきたいと考えていますので、よろしくお願いします。事務局から資料の説明をお願 いします。 ○渡辺課長補佐   まず、最初に資料の確認をさせていただきます。お手元の資料をご確認ください。議 事次第、構成員名簿、座席表、慢性の痛みに関する検討会の報告書(案)、参考資料と して、第2回議事録です。  それでは、「今後の慢性の痛み対策について」報告書(案)を説明させていただきま す。この報告書(案)は、大きく「はじめに」から1〜4、「まとめ」までで構成されて いますので、ところどころで区切ってご議論いただきたいと思います。よろしくお願い します。「はじめに」の部分を事務局で説明させていただきます。はじめに、我が国に おける健康づくりの取組においては、人口構造や疾病構造の変化により、慢性疾患を対 象とする対策の重要性が高まっている。平成21年8月にとりまとめられた「慢性疾患対 策の更なる充実に向けた検討会」検討概要において、今後、取組を推進すべき課題とし て、これまでの疾患別対策とは別に、症状に着目した対策として「慢性の痛み」への取 組が挙げられた。  慢性の痛みをきたす疾患は、変形性脊椎症や腰椎症といった筋骨格系及び結合組織の 疾患から、神経疾患、リウマチ性疾患などの内科的疾患、さらには線維筋痛症や複合性 局所疼痛症候群等の原因不明のものまで、多種多様である。  多くの国民にとって、慢性の痛みを抱えることで生活の質の低下をきたす一因となる 一方、痛みには客観的指標がなく、周囲に理解が得られにくい等の課題が挙げられてい る。  こうした背景及び問題意識のもと、厚生労働省においては、平成21年12月に「慢性の 痛みに関する検討会」を発足し、慢性の痛みを取り巻く課題を整理するとともに、求め られる対策について検討を行ってきた。それらの検討内容を取りまとめたものが本報告 書である。なお、「がん性疼痛」については既に取組がなされているため対象としてい ない。以上を「はじめに」として記載させていただいています。 ○葛原座長   この検討会がどういう目的で作られたかという前書きですから特にご意見はないと思 いますけれども、今日は、それについて2回検討しましたことを具体的に提言という形 でまとめています。参考資料としてついていますが、第2回の検討会の皆さま方のご発 言の議事録です。これまでの議論を踏まえてかなり上手に事務局のほうでまとめてある ので、読み返してみるとなかなか含蓄深い内容もありますので、適宜見ていただきなが ら今日の検討のご参考にしていただきたいと思います。次の1の慢性の痛みに関する現 状をまとめてお願いします。   ○渡辺課長補佐   1.慢性の痛みに関する現状。痛みは、体の異常を知らせる警告反応として重要な役目 を果しているが、国際疼痛学会では痛みを以下のように定義しており、痛みは主観的な ものであるため、標準的な評価法や診断法は未確立である。また、国内においては診療 体制も十分整っていない現状がある。「平成19年国民生活基礎調査」によると、受療頻 度が高い上位5疾病に腰痛症、肩こり症が挙げられており、同調査による頻度の高い自 覚症状として腰痛、肩こり、手足の関節痛、頭痛が上位を独占していることから国民の 多くが痛みを抱えて生活しているといえる。  痛みは慢性化するに従い、罹患部位や身体機能だけの問題ではなく、精神心理的、社 会的な要因が複雑に関与し、痛みを増悪させ、遷延することになるため、痛み診療にお いては、診療科の枠組みを超えた総合的、集学的な対応が求められる。また、患者個々 の背景に合わせた治療内容、治療目標を設定する必要がある。  慢性の痛みは患者の生活の質を著しく低下させ、就労困難を招く等、社会的損失が大 きいとされる。また、有効性が乏しい治療が繰り返されたり、患者の多くが医療機関を 渡り歩いて診療を受けている場合もあることが指摘されており、適切な痛み対策が求め られている。  痛みには、発生機序や疾患部位別等、さまざまな分類、切り口があるが、痛み対策を 行うにあたって、以下の分類を念頭において整理することが提案された。表1として、7 頁に柴田委員が提示してくださった案と、その後、もう少し整理したほうがいいのでは ないかというご意見がありましたので、案2として事務局のほうで委員と相談して作成 したものを載せています。以上が1の慢性の痛みに関する現状となります。 ○葛原座長   どうもありがとうございました。これは、現状ということで、大体こういう現状から 出発するということですけれども、ここに柴田先生からご提案いただきました3つに分 けた分類も含めて現状は、こういうところからの出発でよろしいかどうかということで 何かご意見ありますか。柴田先生、これに追加ありますか。   ○柴田委員   分類案1、案2がありますけれども、私は当初は案1を提案させていただきまして、そ の後、私なりにもいろいろ検討して案2が皆さんのご意見を参考に出てきています。分 類のコンセプトなのですけれども、案1は発生頻度、比較的多いものと難治性だけれど も比較的まれなものということで1、2と分けて、3に関しましては、いま現在のところ は単科で対応している。例えば、子宮内膜症のような婦人科領域であれば婦人科ですし 、口腔内の原因不明とはいえ、慢性的な痛みのものは、多くの場合歯科領域の先生方に 診ていただいているので、あるいは頭痛の場合には頭痛クリニックというのが、神経内 科の先生方を中心に行われているということで、診療を誰が担うかという観点から1、2 、3というのがよかろうかと考えています。しかしながら、1の中には糖尿病精神系障害 ですとか、帯状疱疹後神経痛といったような頻度も多いし、難治性であって、病態とし ては2に近いものもあります。ですので、これらは2のほうが今後、専門家が分析してア プローチしていく意味で2に分類したほうがいいのかと考えておりまして、何で分類す るかという考え方が案1と案2とで若干違うというところでご理解いただければと思いま す。   ○葛原座長   ここで扱う痛みは、どちらかというと2を中心にしたもので、1に含まれている疾患の 難治性のものを含めるという形が、先生の頭の中では分類されているということでしょ うか。   ○柴田委員   そうです。   ○葛原座長   そういうことになりましょうか。3に関しては、とりあえずそれぞれの単科に任せてお いても何とかなるだろうと。   ○柴田委員   いや、そういうわけではないのですが、3は3でいずれも難しいテーマだと思うのです けれども。   ○葛原座長   婦人科でも「血の道症候群」のように、いろいろ難しくてあっちやこっちに回される ような人たちもいるみたいで、なかなか婦人科だけでは解決していないようなこともあ るようです。  柴田先生は、1つは頻度ともう1つは原因ということで1番と2番を分けてくださって いるのと、3番目は比較的単科で扱われる疾患で、痛みの診療体制としては、もう既に ある程度ルートができているような痛みが3番目だとお考えだと思うのですが、こうい うことで考えて、大体2番目を中心に、1番と3番の中でも慢性的なもの、あるいは治り にくいものさらに、1番、3番にどうも原因としてすっきり分けられないようなものを 今後含めていくというご意見だと思いますが、大体このようなところで痛みを考えて いくということでよろしいですか。何か牛田先生ございますか。 ○牛田委員   全体的な意味から考えていくと、1つは、頻度が多く、結果として、多くの国民が困っ ている疾患というものです。二つめは罹病期間は別として、人数はそんなに多くないけ れども、なかなか原因や治療法わからなくて何回も何回も病院に行くというような分け 方という意味で、あげていただいた1、2というのを考えていったら、すっきりしやすい かと思ったりしたものですから少し意見させていただきます。   ○葛原座長   ということで、1番は、病名だけ見れば割合すっきりした病名が多いのですが、痛みの 訴えは人によってずいぶん違うので、いずれにしてもベースの病気は何であろうとも、 1では頻度が高いものではあるけれども、痛み自体が非常に治りにくくて生活を非常に 障害しているものを中心にここでは扱いましょうということでよろしいかと思います。 分類はこのようなのですが、我が国における現状ということでは、なかなか痛みを正面 から取り上げるような、医療体制とか政策は現状ではないということで患者さんの非常 に大きな愁訴になっていて、生活の質を落とす原因になっているという認識から出発す るという内容ですが、ここに関してはよろしいですか。   ○宮岡委員   いまの表に関して、2を中心にというような流れにもっていくということですか。私の 印象としてはむしろ患者さんの数としては、1で難治になっている人が多いでしょうし、 1で診断をつけてみたけれども、しっくりこないで2に診断が移っているような人がたく さんいると思います。どちらかと言えば1と2の間であまりウエイトの差を置かないでど ちらも議論をするというような方向性にしたほうがいいような気がします。   ○葛原座長   わかりました。私のまとめ方がよくなかったかもしれませんが、病気としては、こう いうものがあるけれども、痛みがとにかく治らないで残っているものについて取り上げ るということでよろしいわけですね。   ○宮岡委員   2頁の1行目の「精神心理的」という言葉なのですけれども、この言葉は違和感があり ます。精神も心理も訳せばサイコになりますし、精神科医はほとんど使いません。「精 神的」か「心理的」かどちらかでいいと思うのですけれどもどうしましょうか。ただ、 一方で心理系の人は「心理的」と言いたがって、精神科医は「精神的」と言いたがるみ たいな変な事情もあります。こういう大きな会議の文章なので考えたほうがいいのかも しれません。気になりましたので申し上げました。   ○葛原座長   先生はどういう言葉を。むしろ、これは「心理的」という言葉にしておいたほうがい いということですか。   ○宮岡委員   私は「心理的」というと、例えば抗うつ薬とかいう議論が出にくくなる可能性がある ので、精神療法も薬物療法も含むという意味で、私は「精神的」でいいと思うのです。 ただ、サイコセラピーという言葉を精神科医は精神療法と訳して、心理士は心理療法と 訳しているなどというややゆがんだ実情があるものですから。ここでは何度か出てくる ところを前後関係を考えて、それなりに直しましょうか。今のこの箇所であれば「精神 的、社会的な要因が複雑に関与し」で十分な気がします。   ○葛原座長   第2回目の報告書にも、精神的要因であれば抗うつ薬とか認知行動療法で、心理的要 因であれば、むしろカウンセリングという意見が出ていましたので、ここは精神か心理 かでその後の対応も多少違うかもしれません。精神だけでいいかどうかという論法も出 てくるのではないかという気がします。   ○宮岡委員   それであれば、逆に精神心理とつけるのが引っかかるので、精神医学的要因、あるい は心理学的要因とはっきり分けていただいたほうがいいかと思います。そうすれば違和 感がないです。   ○葛原座長   そうしましょうか。というのは、この前、対応で二通りあるという、先生のご発言だ ったかと思うのですが。   ○宮岡委員   二通りあるというのと、言葉の厳密さは少し違うかもしれません。あとで確認します。   ○葛原座長   では、分けましょうか。   ○戸山委員   分類というのは、確かに大事でこれが例えば診断に関するものとか、研究の方向性で あるとか、治療に届くようなとか、いろいろな形があって、この1案、2案というものが どのような形の、すべてを総括する形の分類というのでずっと引いていくのか、いろい ろあろうと思うのですよ。議論を進めるにあたって、やはり1つにすると、なかなか提言 するなり報告をするのに難しいということで、こういう形で私も基本的には賛成なので すけれども、例えば基本的にその痛みの原因、病態がどうだとなると、例えば一般的に1 にヘルニアであるとか多いけれども、原因はヘルニアだけれども、そのヘルニアの本当 のところは何ですかというと、まだかなりわかっていないところがたくさんあるわけな のですよ。その辺のところは、たぶん1も2も3も同じような分類をしたけれども、流れ に沿っていくのかと思うのですけれども、仮に治療にこれを向けているのか何とかとい うのがわからないので、その辺どのようなお考えなのか、あれば。   ○柴田委員   将来的な発展性を考えないといけないのではないか。そうしますと、やはり今後調査・ 研究という段階にいくときに、ある程度、それを想定した上での分け方が必要だろうと いうふうに考えているというのがベースにあります。   ○戸山委員   よろしいですか。ぱっと見ると1は確かに一般的に多くの方々が困っているコモンデ ィジィーズと言ったらおかしいですけれども、そういう類で、しかし、その病名とか疾 患群はわかっているけれども、その痛みそのものについてはまだクエスチョン。だけれ ども、2というのは、その疾患群そのもののかなり幅広い範囲で痛みのメカニズムから、 その疾患そのものがわからないというふうな感じで捉えている。そういう感じのことで よろしいですか。そうではないのですか。   ○柴田委員   取組み方が違いますので、大きくリンクすると思うのです。   ○戸山委員   そうですよね。わかりました。   ○葛原座長   そうしたら、柴田先生が書かれているものを多少並び方を変えて、1番は「罹患患者 の多い疾患に伴う痛み」、疾患そのものの病態は割合よくわかっていると思うので、「 罹患患者の多い疾患に伴う慢性の痛み」という形にして、具体的な病名は全部下に下ろ してしまう。2番目は、「原因や病態は十分に解明されていない慢性の痛み」ということ で、病名は全部下に下ろしてしまうというようなことにしたほうが、むしろ誤解が少な いのではないかという気がするのですが、いかがですか。   ○柴田委員   それぞれに挙げるのではなく。   ○葛原座長   具体的な病名は上に挙げないで、例えば変形性脊椎症とか関節症は、病気としては画 像とか診断基準も含めてガッチリしていると思うのです。それに対して、線維筋痛症と かCRPSはまだ病態自体もよくわかっていないようなことだと思いますので、先生が後に 書かれていらっしゃる罹患患者の頻度の高い疾患に伴う慢性の痛みは、疾患名はかなり 具体的だと思いますからそういう形にして、2番目は原因や病態が十分に解明されてい ない慢性の痛みといえば、こういうのが入ってきているというふうに思いますので。3 番目は、上記以外の機能的疾患ということで、また具体的な病名を挙げるという具合に したほうが、かえって病名にとらわれずに論議できるのではないかという気がするので すが、いかがですか。   ○柴田委員   非常によい考えだと思います。   ○葛原座長   そうですと戸山先生の先ほどのご意見も、そんなに引っかからないのではないかとい う気がするのですけれども。   ○戸山委員   例えば、厚労省でもいろいろな研究班が動いていて、非常に病態難治性となると、あ る分野で、例えば難治性疾患に対する対策事由がありますから、ここは基本的に痛みで あればその中でも痛みに絞ったところの仮に研究、あるいは研究方向とか、そういう方 向ですよね。そうではないと、確かに病態も同時平行になりますけれども、難治性疾患 のここをすべてということになると、今度はそちらとも関係するかという感じがする。   ○葛原座長   これは、愁訴とか現象としての痛みをどうするか、あるいはどう診断していくかとい うことに中心を絞るということでよろしいのではないかと思います。リウマチだとか膠 原病では、具体的疾患の原因や病態に関しては研究班があるものもありますので、そち らでやっていただくということでいかがでしょう。  そうしましたら、分類案に関しましては、柴田先生の原案を、いまのような形に変更 して、病名はまとめて下に下ろすほうが痛みということが全面に出てくると思いますの で、そうさせていただきます。 ○竹内委員   1つだけ、これが世の中に出たときに慢性の痛みをきたす疾患の教科書的な分類に使 われると、この中に入っていない病気がたくさんあるのではないかという議論が。例え ば具体的に血管痛とか、入っていなくて慢性の痛み全体を包括する分類案ではなくて、 施策的に今後、解決しなければならない慢性の痛みに対して私たちはどういう疾患に取 り組むかというそういう疾患の並びなのではないかという気がするのですけれども。な ので、疾患の分類と言ってしまうと、少し大き過ぎないかという気がしました。   ○柴田委員   どうしても表になりますと、おっしゃるように一人歩きして、どうしても予期せぬ使 われ方をしたりとかいうことがあるので、先ほど、私が申し上げたようなどういう考え で分類したかをどこかに但し書でつけるかということだと思います。   ○葛原座長   一言、それはどこかに、コンセプトということで、こういう切り口で分けたというこ とだけ書いておけばいいのではないかという気もしますけれども。   ○柴田委員    報告書の中には「痛みの分類にはさまざまある」という文言がどこかに入っていたと 思います。今回は、考え方も書いてあったように、いまから出てくるかと思います。   ○葛原座長   中にございましたね。   ○渡辺課長補佐   2頁の3番目の○に「痛み対策を行うにあたって、以下の分類を念頭において」という 記載をさせていただいています。   ○竹内委員   たぶん、このタイトルを工夫して、このことが表現されるように表のタイトルを変え るといいのかという気がします。   ○葛原座長   頻度や発生機序から見た慢性の疼痛の分類ということでしょうか。疾患名は出ていま すから。どういうコンセプトでこういう分類をしたかということがはっきりわかるよう な形で書いておかないと、おそらくあれも落ちている、これも落ちているということに なりかねませんから。   ○竹山委員   そうですね。それがわかるようにしておいたほうが。   ○葛原座長  ということですね。あるいは、下の病名のところには「例えば」とか「例」とかという 形で書いておけばいいのかもしれませんけれども。タイトルも含めて表は、最終的に練 り直すということでよろしいかと思います。あとは、1番のところでは、難治性の痛み への対策とか臨床における問題点の解消とか、この辺のことも含めてあとはよろしいで しょうか。さっきの精神的背景、心理的背景とわかるように精神と心理を分けるように しておいたほうがいいということもありますので、そこも含めてお願いします。  そうしましたら、2時間ということで最後にまとめたいので次に進んで、もし時間があ れば全体を振り返ることにしたいのですが、次は2.慢性の痛みの医療を取り巻く課題を お願いします。 ○渡辺課長補佐   2.慢性の痛みの医療を取り巻く課題。(1)痛みを対象とした医療体制の確立。ペイン クリニック等、痛みを専門とする一部の医師を除き、多くの医師は自身の経験の中で痛 みに対する治療法で対応しており、個々の患者の状態に応じた適切な治療が選択されて いるとは必ずしも言い難く、痛み診療に対する知識や技術の向上を図る必要がある。  慢性の痛みに対する診療を行うにあたっては、総合的なアプローチが求められるが、 痛みを専門とする診療体制は十分に整備されていない。その背景には、痛みを対象とし た医療が成り立つような制度や人材育成、教育体制が確立されておらず、痛みを理解し、 痛みを有する者を社会全体で支えようとする意識が希薄であることが一因と考えられる。  (2)痛みに関する正しい情報の提供。痛みに関する原因や診断、治療・対処法等に関し て、おびただしい情報が氾濫しているが、中には不適切な情報等があり、科学的根拠に 基づいて情報が整理されているとは言い難く、混乱を招きかねない。医療従事者や患者、 国民に対して、正しい情報を発信していくことが必要である。  一般医と専門医、専門医と専門医の間において、痛み診療に対する認識に差異がある ため、教育や啓発活動によって、それらを埋めていく努力が求められている。また、医 療従事者と患者の間においても、痛みに関する共通した認識を持つ必要がある。  不十分なインフォームドコンセント等によって痛みが慢性化することがあるため、病 状や検査結果、治療法について、適切な説明が必要である。また、患者は医療の不確実 性や限界について、理解を深めるとともに、こうした医師・患者関係が成り立つような 医師・患者教育が必要である。  (3)難治性の痛みへの対策。線維筋痛症や複合性局所疼痛症候群のような、あるいは 器質的原因が明らかでない歯科口腔外科領域の痛み等、難治性の痛みを生じる疾患が存 在する。それらは、病態解明が不十分であり、診断が困難なため、患者は適切な対応・ 治療が受けられないばかりでなく、病状を理解されない疎外感等、精神的な苦痛をも背 負っているため、研究の推進等、難治性の痛みへの対策が求められている。  (4)臨床現場における問題点の解消。諸外国において、慢性の痛みに対して有効性が 確立されている薬剤であっても国内では現在保険適用でないものが多いとの指摘がある。 また、慢性疼痛に対して麻薬系鎮痛剤が保険適用されるようになる等、痛み治療の選択 肢が広がりつつあるが、より一層の適切な投薬が求められている。  痛みに対する治療法に関しては、有効性が乏しい治療が繰り返されることがある等の 報告も散見される。また、治療法の選択については、診療施設や診療科、医師による差 がみられることがあるため、科学的根拠の集積とそれに基づく治療適応の基準づくりが 求められる。  痛み診療においては精神心理学的な関与が少なからず存在している。客観的な所見が あるものの、精神心理的な要素が大きく存在していたり、客観所見と自覚症状に乖離が ある症例に対して、身体的な治療をどの程度行うのか、精神心理的な介入はどの様に進 めていくべきか、判断が難しい。現状では、精神科や心療内科の医師が早期に介入する ことは稀であり、痛み診療に有効なことが多いとされる認知行動療法は広まっていない。 また、患者側にも痛みがあると精神心理的な影響が及んでくることについての知識が乏 しいと考えられる。以上が、慢性の痛みの医療を取り巻く課題として、(1)から(4)で整 理させていただきました。 ○葛原座長   ありがとうございました。またこれも精神心理的というものがたくさん出てきますの で、宮岡先生から一言あるかもしれません。これも、分けるかどちらか取るかを整理し なければいけないかもしれませんが、それも含めてこれは現在の課題ということで考え ていただければいいと思います。また対策は次のところでもう一度検討するということ で、このような課題が現在あるということに関してはいかがでしょうか。   ○内山委員   先ほどの1の現状のところでは、生活の質や就労困難、特に社会的損失といったよう なことが記載されているのですが、この臨床現場における問題点の解消というところで はそれを受けるような要素の内容が入っていないような気がします。さまざまな疾患の 機能の障害、器質の障害に対する治療はもちろんなのですが、それが労働に結びつくよ うな取組や生活に対する取組というような、いわば厚生と労働を結びつけるといったよ うな包括的な取組は必要であるということを、4つ目の○に入れるとよいと思います。   ○葛原座長   そうすると、これはどこに入りますか。   ○内山委員   (4)の臨床現場における問題点の解消という所では、最初に薬剤のことが書いてあり まして、次が治療体制のこと、3番目には精神医学的あるいは心理的な要因ということ で、いずれも症状そのものに対する取組です。やはり冒頭に生活の質や就労困難という ことを含めて、こういった慢性の痛みに対する包括的な取り組みを明記することがこの 検討会の1つの特徴だと感じました。   ○葛原座長   それは、入れるべきでしょうね。就労だけでなく就学で、私の診ていた人で痛くて高 校に行けないというので学校をやめてしまった人もいましたから、やはりいまは痛みそ のものが仕事や学校を続けられない理由になっている人もいらっしゃるようです。生活 の質あるいは就労や就学のような社会生活を困難にしているという項目を、1つ作って いただくということでよろしいでしょうか。   ○渡辺課長補佐   はい。   ○戸山委員   2の課題は、確かにいまお話があったとおりだと思います。ただ本当に痛みというも のは、患者さん個々で随分違いますし、定量も難しいですし、いちばん悩んでいて早く 取ってほしいと。ただしそれが課題ですから、前回もお話しましたが現状がどうなのだ というものは、本当はしっかり把握して、そしていろいろな治療法がたくさんあって、 その痛みに対する治療法の有効性、安全性、適用、その他がどこまで検証なり評価され ているかというものも極めて大事かなと思います。そのようなものが出てくれば、たぶ ん自分がこういう痛みでどういう治療を受けるというのは、ある程度は患者さんや国民 の皆さんがわかるような方向になるのかなと。非常に大変なことだと思いますので、定 量というとおかしいですが、その底辺には痛みをどのように確認してという基礎的な研 究や評価法やいろいろなことが大事になってくると思うのですが、確かに課題は私はこ のとおりだと思います。ただその課題を出すだけの現状把握、分析をどこまでかという のは、私は十分にやる必要があるのではないかと思います。それは、どの程度お金が注 ぎ込まれて、社会的なものがロスしているかも含めて、やはり日本として持つべきでは ないかという感じがします。   ○葛原座長   例えば、具体的にどのようなことをやれば解決するとお考えでしょうか。   ○戸山委員   前回お話しましたが、まず基本的に痛みのリサーチをどの程度の患者さんがどのよう に悩んでいるという、日本でのしっかりとしたデータは持つべきだと思います。それか ら、いろいろな痛みに対する治療法を個々でお互いに検証して、どこまでの有効性、安 全性というものは、やはりある程度出す時代にきていると思います。あと、痛み止めも 非常にいろいろな形が出ていますよね。それをいろいろ使う開業医の先生方から大学ま で、それぞれ少しずつ、ないしは迷って使っている方もいらっしゃいますから、この課 題を1つひとつクリアするために、その辺りのところの分析はやはりやる必要があると 思います。ですから結構大変だと思いますが、やはり次に進むにはそれを持っていない と難しいかなという感じはします。   ○葛原座長   この前の議事録にも書いてありますが、一体どの程度の数の患者さんがいて、どうい う治療を受けていて、その治療法というのは本当に効果があるのかないのかの検証がや られていないということと、そういう患者さんが大体どういう所に受診しているかもは っきりしないこともありました。それを調べようとするとかなり膨大な仕事量もが出て くるだろうと思います。それからここにも少し触れられていますが、欧米では常識にな っている慢性疼痛に有効な薬が、いまの日本では痛みの治療薬として保険適用になって いないという問題があります。認められているのは、がん性疼痛等ごく一部であって、 普通の慢性疼痛には認められていないというようなこともあるわけです。その辺りのこ とをやっていこうと思えば、たぶんいまはいろいろな治療ガイドラインでやっているよ うに、この薬はどのレベルでエビデンスがあるかということをやっていかなければいけ ないのだろうと思うのですね。これは、かなり膨大な仕事になるとは思うのですが、先 生はやはりそういうことまでやらないと、この辺りの対策はきちんとしたものは出てこ ないだろうということですか。   ○戸山委員   しっかりとしたものを示すためには、たぶん出ないと思います。提言で大きなアドバ ルーンのいちばん上の所だけはこうであってほしいというのは出るかもしれませんが、 それを本当に各論まで落としてとなると、やはり真剣になった膨大な作業は必要になっ てくるとは思います。   ○葛原座長   柴田先生や牛田先生がこの前おっしゃっていたように、こういう慢性疼痛には、いま 日本で使われているような非ステロイド系消炎鎮痛剤はほとんど効くものはないという ことですから、いま使われている痛み止めや湿布薬はそういうレベルから言うと、まず 効果がないことになってしまうわけですよね。そういうことを、きちんと1つひとつ文 献に当たって検証しようと思えば、相当な労力が必要になるわけですよね。この前、柴 田先生が有効な薬剤の一覧表を作って出してくださっていましたから、あの程度のもの でもまずは公表することも必要かもしれませんね。   ○柴田委員   神経障害性疼痛という言葉は、少し前までは神経因性疼痛と呼んでいて、末梢神経あ るいは脊髄、脳といったような神経系に障害が起こって痛みが遷延する病態というもの が、ようやくいろいろな医療者には知られるようになってきました。また、著効はなか なか難しいものの、有効な治療法も出てきていますので、そういう意味ではそのような 痛みについての治見を広めていくには、いい時代になってきているのかと思います。   ○葛原座長  例えば、この現状と必要とされる対策の中で、柴田先生が作られていた先ほどの表の いちばん下の辺りのがん性疼痛あるいは口腔外科領域の痛み等は、比較的昔から痛みそ のものが正面に取り上げられてきた分野であろうと思うのですね。そういうところでは 、薬や治療法等に関して、ある程度のガイドライン的なものは現在作られているのでし ょうか。 ○柴田委員  がんの痛みに関しては、やはり1980年代半ばにWHOが、がんの痛みの管理ラダーとい うものを作りまして、それが世界中に広がったのですね。日本にも入ってきたのは、も ちろん情報としては早かったのですが、それが普及するにはやはり諸外国に比べると、 わかりやすく言いますと約10年の空白期を置いて徐々に浸透してきました。最近10年で 、ようやく緩和ケアが日本のどこへ行ってもある程度のレベルで行われるようになって きているのですが、その背景にあるのはやはりがん基本法だと思います。  行政にしっかりとああいうものを作っていただきますと、医療者もそれに基づいてア クションを起こせるということですので、がんを1つのモデルにして慢性の痛みについ てもやはり組織立った取組が必要だと思います。 ○葛原座長  がんは元が相当シビアな病気ですから、緩和という言葉もぴったりするのですが、こ こで問題になっているのは元がそんなに生命に関してはシビアな感じはしないというよ うなこともあって、なかなかこの緩和医療的な考え方は普及しにくいかもしれないです ね。 ○柴田委員  同じ痛みですが、がんの痛みとがんでない痛みというのは、おっしゃるように根本的 に考え方が違うと思いますね。先ほど分類に挙げました1と2ですが、非常にこういう話 は厳密性を欠くので前もってお断りしておきますが、1番に分類されている痛みは、個 々の人にとっては機能的な損失はさほど大きくありません。人生に大きな影響を与える ほどではありませんが、これが積り積りますと、社会への損失は非常に大きなものにな ってきます。  2番目に関しては、命には直結しないものの、その患者さんの人生そのものを10年単 位で損なってしまうという、非常に悲惨な病態ですので、かんでない痛みでないからと いって、がんに比べてこういうがんでない痛みは、軽症だという意味では決してないと 思います。 ○葛原座長  生活の質を落とす、あるいは社会活動を落とすという点では、結果的には効果は同じ ようになっていることになりますか。 ○柴田委員  というよりも、がんの場合も非常に深刻ですが、痛みの期間は一般的に期間が短いで すから、全体的な影響を考えますと、むしろがんでない痛みのほうが社会的な影響は大 きいと思います。 ○宮岡委員   先ほど内山先生が言われたことにも関係があるのですが、痛み治療というのは例えば 社会適応というか、例えば就学・就労を促すことによって、むしろ二次的に痛みがよく なる方が結構いると思うのですね。ですから、痛みを治療の目標にしてそれがなくなっ たら全部よくなるということもありますが、かえっていろいろなことで生活をきちんと していただくと痛みが和らぐというようなこともあります。精神科の治療をしていると、 この痛みさえ取れればすべてできると言っているうちは、なかなか痛みが取れなくて、 痛くても何とかやってみようという方のほうがかえって痛みが取れやすい面があります。 私の印象から言うと痛みを取ることがすべてであるみたいなニュアンスが少し強く出す ぎているような気がします。ですから、どこをどう変えるかと言われると非常に難しい のですが、いま内山先生が言われたようなところをうまく入れていただいて、「痛みを とるのがすべて」のような意味が現れすぎないようにできるでしょうか。  それとこの文言で、例えばいまは医学教育の中では患者・医師関係なのですよね、医 師・患者関係ではなくて。それから、投薬と言わずに与薬と言っているのですが、その 辺りはこういう文章ではどうでしょうか。教育現場にいるとこんなことばかり気にして いるもので、申し訳ありません。 ○葛原座長   これは、厚労省からある程度委託されている検討会ですから、やはり今風の患者さん 中心の言葉に直しておいたほうがいいかもしれませんね。   ○辻本委員   宮岡委員のご支援をいただく形で、発言をお許しいただきたいと思います。何らかの 形でそうした文言をということの提案ですが、(2)の痛みに関する正しい情報の提供の 最後のインフォームドコンセントに触れているところについて、少し意見を述べさせて いただきたいと思います。「不十分なインフォームドコンセント等によって痛みが慢性 化することがあるため、症状や検査結果、治療法について」のあとですが、「適切な説 明が必要である」。何をもって適切とするかが難しい部分だと思います。ここはひとつ 提案なのですが、この項においては限りなく主語が患者になっていますので、患者が主 体的に医療参加できる支援につながるような説明ということを加味していただけたらあ りがたいと思います。  そして、そのあとにいきなり「患者は医療の不確実性や限界について理解を深めると ともに」と厳しい状況があるのですが、そこに入る前にやはり医療現場はまず何を努力 するか、そこが欠けていると思います。その部分に何を入れていただきたいかですが、 私も委員を務めている社会保障審議会医療部会で、昨年、平成22年度診療報酬改定の基 本方針を議論した中に、こういう一文があります。「患者から見て、わかりやすく納得 でき、安心、安全で生活の質にも配慮した医療を実現する視点」。医療現場としては、 まずそういうことを努力します。そのうえで患者は医療の不確実性、限界についてその 理解を深めようと言っていただくなら、フィフティーフィフティーにもなるのではない かという思いがしますので、そこを是非ご議論いただきたいと思います。  次に、いまも医学教育の現場で関係性、コミュニケーションの問題が大きく取り上げ られていますし、CBTにおいてA群はまさに倫理というところにポイントがありますので、 こうした医師・患者関係が成り立つような医師・患者教育が必要であると簡単にまとめ てある部分について、「こうした」というのを例えば「協働する」、互いの足りなさを 補い合い協働する医師患者関係、しかもその「関係」の前に「の信頼関係」というもの を入れていただいて、私の提案としては「協働する、あるいは共に向き合う医師・患者 の信頼関係が成り立つような」、これは主語が患者ですので「コミュニケーション教育 や支援が必要である」というような一文にしていただくと、より今後に繋がっていくの かなという思いがしますので、皆さんのご意見をいただけたらと思います。よろしくお 願いします。 ○葛原座長  ありがとうございました。さらっと書いてありますが少し内容に沿うものを当然入れ ておくべきことのように私も思いますが、何かご意見はありますか。 ○片山委員  いまの発言には全く異論はないですし、そのとおりにすべきであろうと思います。こ こに書いてあるそれぞれの課題も、全くそのとおりだと思います。医療の現場の課題と して十分認識されるべき項目だと思いますが、これを実現するには何をおいても社会の 支援が必要なんですね。社会の理解が得られていないと、何事も現場では実現できませ ん。もう少し端的に言えば、行政の理解と認識、そして財政上の対策がない限り、いく ら声を張り上げても現場に無理を要求しているだけになってしまいますので、この点を (3)あるいは(2)の最後に少し付け加えていただければと思います。  医療現場も努力していると思うのですが、努力が結実するような環境にしていただか ないとバテてしまうのではないだろうかと思います。やはり社会の支援、行政の支援が 必要だという文言が要るのではないでしょうか。 ○葛原座長  現状分析と課題の中で、あまりにそれについての言及が少な過ぎるということですね。 この前も少し話題になっていましたが、こういう慢性疼痛でそれこそ認知行動療法や心 理的な対応をしようと思っても、それは保険適用がないので全部持ち出しになるという 話も出ていました。もう1つは、薬も外国では使えるものが日本では保険適用がないとい うことで、なかなかすんなりとは使えませんので、そういうことも含めてのご発言だと 思います。 ○牛田委員  そのことにも少し関連するかもしれませんが、患者さん、医師、国民、行政が現在の どの時点で慢性の痛みがどの程度治療できるのかという分析や理解できているのかとい う点で認識が大きくずれていると思うのですね。前回も、議論されましたように、ある 病名を付けられたらその病名に沿って患者さんに症状が出てくるようなことがあったり します。従って実際のところ多くの痛み、特に慢性痛についてはわかっていないことが 多いですので、そこのところについて、“現在の取り巻く環境”の頁のどこかに一言入 れておいていただけたらと思います。1回誰かが言ってしまったことや大きなイベント があとの患者さんの方向性を大きく変えていきますので、そういうことを皆さんにわか っていただけるような文章にしていただけたらと思います。そのうえで、我々医師は努 力し、研究し、患者さんと一緒に考えていって治療しないと、いけないと思います。  もう1つは、疾病利得を含めてこれは法律にも関係してくるようなことになろうかと 思いますが、そういうような概念が精神的あるいは心理的なものに大きく関与していて、 それが患者さんの治療を難しくしている現状がありますので、どこにそれを入れたらい いのかと思って見てみました。いちばん最後の頁になるのかもしれませんが、そういう ことも今後また理解しつつ、いい対応策を考えていかないといけないのかなとも思って います。 ○葛原座長  そういう点でいうと、先ほどの不十分なインフォームドコンセント、(2)のいちばん 最後に書いてありますが、これは私も「不十分」というものも含めて「不適切」という 言葉のほうが適当かなという気もします。というのは、いま牛田先生がおっしゃったよ うに、最初にどういう病名を付けられたかということで、患者さんによってはそれに合 わせた症状で非常に苦しむ方もいらっしゃるのですね。ですから、痛みというものはい ろいろな要因があって、それこそ最初あるいは途中で言われた病名に支配されてしまう ということもあるようですから、やはり最初に慢性疼痛のようなことになりがちな症状 は早くに見抜いて、検査で見えたというだけで病名をどんどん付けていくような医療は しないほうがいいようなこともあると思います。  例えば頸椎症や腰椎症は、最近ではレントゲンやMRIで見ればもう50歳を超えた人に は高頻度にあるわけです。別にそれが全部症状の原因になっているわけではないのです が、こういう患者さんはそういう病名を付けられると、症状はそれが原因だというよう に固定観念のようになってしまうこともあると思います。そういう点では本当に患者さ んにきちんと理解していただけるようなインフォームドコンセントというのも非常に大 事であろうと思います。 ○辻本委員  不適切とおっしゃられると、患者がそれは間違っているのかなと感じてしまうのです ね。むしろ、インフォームドコンセントという概念は、やり取りをする、情報を共有す る、どういうコミュニケーションを取るかということ。それがやはりいまは不十分なの ですね。時間がないことももちろんわかります。そして、治してあげられないというこ とで腰が引けていらっしゃるから不十分になるのかなとも患者としては感じてしまうの です。不適切と言ったときに医療現場がどうご反応なさるのかは私はよくわかりません。 しかし、患者としては、「え、それは間違っているのね」というようなニュアンスで受 け止める嫌いがあるのではないかということを、お聞きしていて思ったのですが、いか がでしょうか。 ○安達委員  私も聞いていたときには、不十分と不適切はやはり少し意味が違いますので、ここは どちらも並列に入れられたほうがいいと思いました。不適切あるいは不十分としたほう が良いと思います。両者は、確かに意味は違うと思います。おっしゃることはよくわか ります。 ○葛原座長  それは、何を主語にするかによっても少し違うでしょうね。確かに、不適切と不十分 は意味が違うだろうとは思いますが、たぶん医療側から見る場合は不適切というほうが ぴったりくるでしょうが、受けるほうからすれば不十分ということになるのでしょうね。 何を主語にするかによっても違うと思いますから、あとで文言の整理のときにもう一度 事務局と合わせます。いろいろなご意見が出ましたので、うまくまとまるかどうかわか りませんが、最後に、でき上がった議事録を皆さんに投げ戻しますので、直して下さい。 しかしこの辺りは痛みではやはりいちばん大事なところで、私どもが実際に拝見する、 難渋している痛みというのも、不適切な言動とか不十分な説明で、それにとらわれた形 で返ってこじらせているという方は非常に多いですし、ここで話題になるのもたぶんそ ういうことだと思うのです。ですから、前回のときも手術の話が出ましたが、本当は手 術してはいけないようなタイプの患者さんに手術しているということで余計にこじれて いるという。私もこの前、4回手術したという人の話を聞きましたが、やる度に悪くな っているというようなことです。やはり異常があるからすぐ手術ということには決して ならないということの辺りも含めて、こういう医療現場の教育と、患者さんの啓発と言 うのですか、それは、痛みの対応では大事なことだろうと思います。最初を間違うとい ろいろなことがかえって悪くなるということもありましょうから。  いまここの項で足りないことをいくつか挙げていただきました。まず、患者さんの受 けるべき権利、患者側から見た医療の質つまりどういうことを求めていらっしゃるかと いうことをここに書くということです。インフォームドコンセントについては、この言 葉自体がインフォームドという受動形になっているように患者さんが主語の言葉ですか ら、患者さんが主語になる文章で書いていくということです。もう1つは、内山委員か ら言われたいわゆる社会的な面における問題で、就労・就学のような社会生活の質を非 常に落とす要因になっていることへの言及です。こういう慢性の痛みではがんよりもさ らに長く続くということで、非常に大きな社会的損失であり、また患者さんにとっても 大きな損失を生み出しているというようなことを強調すると項目を設けるということだ と思います。それ以外にいかがでしょうか。この項の課題に立脚して、最後にいくつか の提言対策をまとめることになるわけですが、あとはいかがでしょうか。 ○片山委員  いま葛原先生がおっしゃったことは非常に重要だと思うのです。インフォームドコン セントも含めて、コミュニケーションは言葉で行うと効率的です。ですから、病名を付 けるというのは非常に楽なコミュニケーションの方法なのです。ところが、安易に病名 を付けることによってそのあとをこじらせてしまうということが多々あるので、安易な 病名の使用は避けるべきだ、ぐらいのはっきりした提言を入れたほうがいいかなと思い ました。 ○葛原座長  いちばん簡単なコミュニケーションの方法は、ネットの医療ニュースを見ていたら、 まず検査をして例えば頸椎症がある、腰椎症があるなどと検査の異常を言うこと、病名 を付けること、薬を出すこと、この3つがいちばん簡単なのだそうです。ですから、デ ンマークなどはそこまでいくのに1週間かかり、その間は何もしてくれないと書いてあ りましたが、日本ではその3つはその場でやってしまう国です。ヨーロッパやアメリカ は原因がはっきりするまでは、まず絶対というぐらい薬は出さないです、普通は。注射 はまず絶対というぐらいしない国です。その辺は医療に対する考え方が随分違うのだと 思います。おなかが痛いという子どもをデンマークで医師のところに連れていったら、 何か胃薬を出すまでに1週間かかって、医師からは大抵の人は放っておけば治ると言わ れ、本当にそのうちに治ってしまったというような話でした。  それは日本の医療の根本的な問題でもあろうと思います。検査して、病名を付けて、 薬を出すという現状をどうするかということです。特に痛みでは、患者側がそれを求め てしまう、あるいは医師はすぐやってしまうということが医療現場ではやられている、 そういうことだろうと思うのです。 ○竹内委員  その辺りは、もちろん医者の側の問題もありますが、患者さん側の問題もかなり大き くて。逆に言うと、医者に対する教育ばかりを言っていますが、広く言えば国民、患者 さんの教育も非常に重要なのではないかと思います。これは医者向けだけの提言になっ てしまってはまずいので、やはり社会全体に対しての提言であるべきで、やはり患者さ んも含めた社会への提言をしないと、これは成り立たないのではないかと思います。 ○葛原座長  そうですね、それは医療の風土が違うという感じもしますね。欧米の考え方というの は、治らないものは放っておくというのが徹底しているのです。だから、絶対に何もし ないわけですよね。日本は、患者側は「とにかく何でもいいからしてくれ」というのが すぐ出てくるし、医療側は「何かしてあげなければいけない」と行動してしまう。 ○竹内委員  あるいは、自分で治せるようなものは例えば薬局に行って痛み止めを買って治すとい うようなところですよね。医者に行かなくても済むような痛みは自分である程度判断す るという土壌がたぶんあるのだと思います。 ○葛原座長  その辺は一朝一夕で変わるとは思いませんが、そういうことも含めて、少し難しいで すが、問題点という中に多少入れ込んでおいたほうがいいかもしれませんね。 ○宮岡委員  いまの片山先生が言われた安易に病名告知をしないようにということは、おそらく患 者さん、医師、どちらの啓発が必要かはわかりませんが、患者さんはやはり病名を言っ てくれる先生のところにいらっしゃるのです。それで、薬を出してくれる先生のところ に集まる傾向がある。慢性の痛みのときは安易な病名告知をしないでほしいというのは 重要なポイントのように思います。これに入れるというのは言いすぎになるのですか。 私ははっきり、そのぐらいに具体的にしていただいたほうがいいというような印象を持 つのですが。 ○葛原座長  そうですね。皆さん、いかがでしょう。たぶん病名というのと。ですから、私も医療 の現場で思うのですが、何か検査してみて「異常があるという検査所見」と「痛みとの 関係があるかどうか、ない場合には関係ない」ということを、むしろはっきり言ってあ げればいいのではないかというご意見ですね。関係がわからない場合には、「何もわか らない」と言っておいたほうがいいのか。ほかの先生方も、それはどうお考えなのでし ょうか。その辺はおそらく日本の医療のかなり根本的な問題だろうと思うのです。  デンマークでは1週間、わからぬものはわからないと全部の医者が、7人ぐらいの人が 言ったという、それで何もしないと言ったというのです。それで我慢する国なのですね。 しかし、日本ではそれはたぶん通用しないだろうという気がします。 ○戸山委員  やはりその医療、国民も医療側も含めて、保険の体制も含めて全く違うことがあるの で、日本の中で、いや、わからないのでということを言うと、たぶん患者さんは、では わかるところへというのでその次に行くという感じをたぶんおとりになるし、保険とい うようなことを考えると、いま診断名というようなものをどこかに明記するというよう な形をやはりとらざるを得ないし、いろいろ難しいところがあるかなとは思うのです。 そうすると、それではない、その途中のお話をする段階のところが、医療側も患者さん 側もその辺のところがいちばん大事かなという感じはします。ですから、先生がお話に なったように、まず、画像でこうだけれどもこれは痛みとどうのこうのというようなこ とをしっかりお話してあげるというようなことに尽きるのではないのですか。それ以前 のことはすごく難しいし、なかなか、ですよね。 ○葛原座長  これは前回の議事録を見るとわかるのですが、日本の医療というのは保険病名を付け ざるを得ない。病名をつけない限り医療機関には一銭もお金がもらえないようになって いますから、とにかく保険病名を付けざるを得ない。病名をつけない限り、医療行為が 支払いの対象にならず、すべて無償奉仕で何をやっても病院の負担になってしまうので 片山先生、これはやはり何か病名が付いてしまうのですよね。検査をしたら、またその 検査に合う保険病名を付けないといけないと。ですから今後、医療費の明細書を患者さ んがもらうようになると、うつ病からてんかんから、がんからいろいろな病名が付いて びっくりするような事態が起こるかもしれません。そういうルールが通用しているのが 今の日本の保険診療なのです。ですから、やはり保険病名として明細書に付いている病 名と患者さんの痛みの関係を何かうまく説明してあげるというのが、たぶん日本の医療 制度の中のできる精一杯のことではないでしょうか。これは、ヨーロッパとかアメリカ みたいに、何もわからないから何もしない、それがまっとうな医療だということでお金 がもらえる制度とはちょっと違うのですよね。 ○片山委員  先生のおっしゃるとおりで、私も病名は付けているのですが、ある特殊な病名を告げ られた患者さんが「病名がわかっただけで私は救われた気がしました」とおっしゃった のです。その次に「先生はいままで何をやっていたのですか」という、そういうことに なるわけです。何年も苦しんできたのに今日やっと診断が付いた、よその先生が付けて くれたと。そうすると、私は「それはよかったですね」と言うしかないのですが、実際 それで解決になっているとは、とても医学的には思えないわけです。そういう病名の付 け方はちょっと慎んでいただきたいなと思います。 ○葛原座長  確かに、何もわからないと言うところは本当にヤブ医者に診てもらったかというよう なことになってしまうわけですね。 ○宮岡委員  保険病名というのはそのとおりなのです。ただ、それを患者さんにどう説明するか。 例えば「X線上ではこうゆう所見が出ています。あなたの可能性のいちばん高いのは、 これこれですが、痛みとの関係ははっきりしません」、というようなことをきちんと説 明して、そして、極端に言うと、「保険上もこういうことでこの可能性はあるから検査 をしますよ」ということを患者さんにきちんと言っておけば問題はないように思います 。事実をきちんと伝えておけば、それほど引っかかるようなことはないと思うのですが 。 患者さんが身体疾患を示唆するような病名を決まった病名であるかのごとく告げら れていると、患者さんの病名へのこだわりも関係して、後で精神科医が治療することに なった時、大きな妨げになることがあります。確定された病名とはいえない、可能性が どの程度か、などがきちんと説明されていれば、後の精神科治療にもそんなに妨げにな らないでしょう。今の保険制度上は病名を付けざるを得ないというのはよくわかるので すが、病名告知について何らかのノウハウが出てこないとこの慢性の痛みの問題はなか なか解決にいかないと思いますので、いまお話を聞いていて非常に危惧を感じました。 ○葛原座長  日本の医療制度の根本問題ですね。ですが、1回付いた病名には患者さんはやはり非 常にこだわりますね。私だって、自分の検査に異常があるということになればこだわる でしょうね、それなりに。 ○辻本委員  これは報告書にはっきり書いていただきたいのです。やはり厚労省にお願いしたいの は、中医協に進言していただいて、十分な説明のできる診療報酬ということがなかった ら、たぶん現場は努力できないと思うのです。これ、患者の立場で言うのは実は苦しい ところなのです、結局は私たちが払わなければならないのですから。しかし、いま患者 さんはそういったところに、納得のできる医療費であればきちんと払います。時間がな いから説明できないよということではなくて、5分ルールはなくなってしまいましたが、 5分などと言わず、やはりそこのところでやりとりのできるという診療体制を担保して いただくためには、これは中医協に進言していただくしかない、診療報酬に反映してい ただくしかないと思いますので、それは報告書で是非書いていただいたほうがいいと思 います。 ○葛原座長  わかりました。では渡辺さん、それ、きちんと書くようにしますかね。私などは神経 難病患者を診ることが多いのですが、何がいちばん欠けているかと言うと、やはりきち んとした、患者さんに理解できるような説明が欠けているから患者さんがすごく悩んで いるということがいちばん多いのです。だから、これは治るとかここはしょうがないの だということを時間をかけて説明すると、苦しみは随分消えていきます。いままでの日 本の医療制度は、そこがなかなか評価されないような仕組みになっていたということで す。そういう主張を、患者さんの側の立場を代表する「ささえあいの医療」のほうの委 員がおっしゃるのですから、今は日本国民はもうそういう認識になってきていらっしゃ るのだということで、次の対策の中にそういう形のことも今後は必要だということをは っきり書くということにしましょう。これは、厚労省の責任というよりは、委員からの 発言だということを強調していただければいいのではないかと思います。 ○辻本委員  目の前でドクターが治せないということを一生懸命患者さんに「わかってほしい」と いう、その人間性みたいなものが受け止められるやりとりがあることで、患者さんも逆 にその痛みを引き受けていくという、それこそ信頼関係につながるコミュニケーション がそこに新しく生まれます。この委員会はそういったことをやはり確立していこうとい う位置づけだと私は理解しておりますので、是非よろしくお願いしたいと思います。 ○葛原座長  先ほど宮岡委員がおっしゃった、痛みを消すとか治すというのではなくて就労とか就 学をしてもらうことによって痛みがむしろ治っていったり軽くなっていくのだと、おっ しゃったこともたぶんそれに通ずるだろうと思うのです。ここはある程度、痛みを受容 して、とにかくやってみましょうということも場合によっては必要だろうと、そういう ことでしょうね。わかりました。  そうしましたら、話がだんだんと今後の対策ということに入っていますから、ここも 一緒に考えていただいたほうがいろいろとまとまりも早いと思いますし、時間の関係も ありますから、4頁の対策という所を読んでいただいて最後の詰めにしていただきたい と思います。よろしくお願いします。 ○渡辺課長補佐  委員の皆様、本当に貴重なご意見をありがとうございます。それでは3.今後、必要と される対策に入ります。  (1)医療体制の構築。痛みに対して早期に適切な治療を行うことで、慢性化させない 取組が重要であり、一般医の医療に対する診療レベルの向上が求められる。ガイドライ ンやフローチャートによって、痛み診療の入り口において、器質的障害、精神心理的障 害等について識別し、振分けを行うための手助けとなるツールの作成が必要である。  一般医で対応困難な痛みについては、関係する診療各科が連携して治療にあたるため の核となる痛み診療部門の整備が求められる。痛み診療部門には、診療だけでなく、情 報収集や発信、人材育成、講演活動等の役割が付帯されることが望ましい。  痛み診療体制の構築には、医療従事者の役割分担や連携について明確化するとともに、 痛み診療に精通した人材育成が必要であり、さらに経済的に痛み診療が成り立つ仕組み 作り等、現状に即した対応が求められる。  (2)教育、普及・啓発。痛み診療の推進においては、診療体制のみならず、人材育成 も重要な課題である。卒前・卒後の教育プログラムに痛みに関する診断や対処法等を組 み入れたり、関係団体や関係学会と連携すること等で、痛み診療の向上を図る。  慢性の痛みに対して社会全体で取り組む必要があり、医療従事者だけでなく、患者や 家族、広い意味では国民全体が痛みに関心を持ち、知識を持つことが大切である。関係 団体や関係学会等と連携し、積極的に普及啓発活動を推進しなければならない。  (3)情報提供、相談体制。痛みに関する情報は多いが、科学的根拠に基づいて整理する 必要があり、最新の知見も踏まえた情報の収集及び発信をしなければならない。医療関 係者だけでなく、患者、家族の視点を意識して、わかりやすい情報提供を行う必要があ る。  患者会やNPOとの連携によって情報を共有し、相談体制を整備することで、社会全体 で痛みに向き合う土壌を形成していかなければならない。  (4)調査・研究。まず、慢性の痛みに関する現状把握に着手すべきである。どういっ た痛みがあり、どこでどのような対応が行われ、その効果はどうなのか調査・研究し、 それらの基礎資料を基に具体的な対策を打ち出し、今後の施策につなげていく必要があ る。 疫学調査のみならず、難治性の痛みの病態解明・診断方法の開発、新規治療薬や 安全で効果的な治療法の開発、痛みの評価につながる検査法や評価指標の開発、治療ガ イドライン、フローチャートの策定、教育資材の開発等、現状の課題克服に向けて研究 の推進は必須である。以上を必要とされる対策としてまとめております。 ○葛原座長  どうもありがとうございました。先ほどの課題というところで、もうかなり出たこと がもう一度、今度は対策ということで出てきております。これは最終的には提言という 形でまとめるという方向でいっていますので、こういうことを提言という形でしたいと 思っているのですが、先ほどの課題ということから含めて多少足りない面もあろうかと 思いますが、これをご覧になっていかがでしょうか。対策としてここに書いてあること でいろいろな問題が出ています、ツールの作成とか人材育成とか情報発信。誰がやるの かというのは書いていないのですが、こういうことが必要だということが書いてありま す。それから、教育のこと、啓発活動、調査・研究、こういうことについて。では具体 的に誰が何をするかということについてはまた次の何かということになるのだと思いま すが、ここでは、こういうことが今後必要であるということの提言ということで見てい ただければと思うのです。これをご覧いただいていかがでしょうか。 ○戸山委員  これもどれも必要なことだと思いますが、これを各論でどのように進めていくかとい うことがいちばんだと思います。ただ、私のほうとしては、まず(2)の教育、普及・啓 発のことで少し意見を述べさせていただきます。  まず、教育というものも非常に大事だと思うのです。例えば学生の教育に関しまして も、どうしても科であるとか診療科別、組織別、臓器別云々というようなことに今まだ まだなっていて、今後、たぶん多くの大学等で取組がもう始まっていると思いますが、 例えば痛みというようなことを1つ挙げれば、初期の入学したての1年生、2年生ぐらい の者で、それも医学部だけではなくて、これは私の大学でも取り組もうとして始めると ころですが、薬学部とか看護医療学部とか、それの学生たちが一体となって痛みという ようなものに対する講義を受けて、みんなでそれを共有するという形、これもすごく大 事かなと。それから、例えば高学年になって実習に入りますね、5年生、6年生、ないし 4、5、6ぐらい。そのときにはそういう痛みというようなものをやはり、例えば看護部 も入り、薬剤部も入り、医師側も入ると。その医師側のところも、1つの診療科ではな くてそれに対するペインクリニックや、痛みであれば精神科の方とか、そういう形が入 るものを学生のときからしみ込ませるというか、教え込むというのがものすごく大事か なと。それはこの痛みだけではないのですが、特に縦ではなくて横に広がるこの痛みに 関して、痛み以外にもたくさんあると思いますが、ものすごく大事になってくると思い ますし、私は全国的に、文科省かもしれませんが、取り組むべきことで、是非大きく提 言に加えていただきたいというのが1つです。  もう1つ、この啓発ということで、○の2番目の所の「国民全体が痛みに関心を持ち」 と。これは竹内委員もお話になっていましたように、この痛みに関しては、医療側では なくて受ける側もやはり、知識というか現状というか、その辺は広く知るべきだと思う のです。では、そのために行政がどうしたらいいかというようなことになると、例えば ここの2000年からの、日本ではBorn and Joint Decadeがあったように、何かそのよう に国民も広く、おっ、これが動いていてこれなんだなという感じの、痛みの10年という のはちょっとあれかもしれませんが、アメリカで動いていたような、何かそうしたもの を1つ施策として打ち出すのも大きな点かなと思います。その辺のところを是非お考え いただいて盛り込んでいただければと思います。以上です。 ○葛原座長  非常に具体的でかつ重要なご提言です。教育、普及・啓発というのは痛みでは非常に 大事だろうということで、特に教育の中でですね。痛みのメカニズムはたぶん今は生理 とか薬理では非常に詳しく教育していると思うのですが、現場であまり役に立たないと いう声もあるのです。それをどうすれば現場で活かせる内容に変えられるかということ で、痛みを初期教育の中に取り入れるということ、もう1つは高学年でやること。いま 戸山先生が特に強調されたのは、診療科を超えているということだけではなくて、職種 も超えてやる必要があることだと思います。例えば、がんの緩和医療などで主力になっ ているのはおそらく看護師さんとか精神科のお医者さんで、外科医や内科医と一緒にや っていらっしゃると。あるいは、カウンセラーも随分入っていると思います。外国です と、こういうのには牧師さんも入っているわけです。ですから、たぶんいろいろな職種 の人が一緒にやってこそ初めて効果があることで、それを現場の教育に取り入れて、カ リキュラムの中にこういうのを作っていくようなことを医学教育関係者に提言するとい うことですね。 ○戸山委員  それは両面あります。教える側が、そこに看護部も医師側も薬剤部側も入るという、 その1つと、受ける側も、そこのところに例えば看護部があり、医学部があり、薬学部 があれば、それが一体となってそういう形でアプローチしてもらって、学生でそれを共 有するというのも私はすごく大事だと思うのです。私は、その両面が必要ではないかと 思います。 ○葛原座長  そうですね、薬剤部なども今は麻薬などのことでは随分活躍していますしね。片山先 生はちょうどいま医学部長でいらっしゃいますから、どんなことができるかということ も含めて。 ○片山委員  戸山先生がおっしゃったことは非常に大切なことだと思います。私も大賛成です。戸 山先生がおっしゃったように、基礎医学の教育で疼痛の受容・伝達・認知というような ところは、一生懸命に教えているのですが役に立たない。なぜ役に立たないかと言うと 、慢性の痛みは通常の疼痛と違うのです。通常の疼痛には、侵害刺激が加わったという ことを警告するという意味が1つ。もう1つは、それに不快ないしは苦痛という感情が加 わっている。この2面があるのです。慢性の痛みは警告としての意味は既に失われてる のに不快、苦痛だけが残ってしまったという状態ですから、通常の疼痛の講義をいくら 増やしても駄目なのだろうと思います。だからこそ、医学だけではなくていろいろな職 種の方々の参加が必要だという話になってくるのかなと思います。  30年ほど前ですが、日本疼痛学会が出来ました。そのあと、20年前ぐらいに日本慢性 疼痛学会というのがまた出来たのです。何で2つも疼痛の学会があるんだと、当時、私 は非常に不思議に思ったのですが、慢性疼痛というのは疼痛とは全然違うものなのだと、 このことをまずみんなに認識してもらわなければいけないから学会をつくるのだと当時、 理事長はおっしゃっていました。まさに欠けているのは慢性疼痛とは何かということに ついての教育だと思います。 ○葛原座長  生理とか薬理で教わるのは、大体、それは対応可能でもう治ってしまっているほうの 疼痛なのですね。 ○片山委員  そうですね。 ○柴田委員  片山先生のおっしゃることはもっともだと思うのですが、痛みに関することはその分 子から社会までが連続すると、こういうコモンセンスが要ると思うのです、別個ではな くて。ですから、戸山先生の構想される医学教育の中には、そういう専門的なお話をし ますと、痛みを感知するレセプターの話から、あるいは牛田先生が先ほどちょっとおっ しゃった疾病利得の話まで、同じ場所、同じ時間内に連続的に話をするという内容が必 要だと思います。ですから、あくまでも身体的なものと心理・社会的なものは分けられ ません。ですので、それとも関連するのですが、3の(1)のいちばん初めに「器質的障害、 精神心理的障害等について識別し」と書いてありますが、これは識別というよりは「評 価し」と。心理社会的か器質的か、これを分けることは非常に困難ですから、そういう 連続したものを扱っているということを盛り込まれたほうがいいのではないかと思いま す。 ○葛原座長  確かに慢性疼痛というのは、原因がわからなくてなかなか治しにくいものとそれなり に原因がはっきりしていて元の病気は治っているか対応しているはずなのに痛みだけが 残っているのと二通りあると思います。特に後者に関しては、いろいろな要因が加わっ ているということがあろうかと思います。では、これはがどちらであるかということに 関して、識別は簡単にはできないかもしれないですね。 ○牛田委員  先刻から話に出ているように、結局慢性疼痛の多くは、慢性腰痛のように、国民病と いうような背景もありますので、先ほど戸山先生がおっしゃったように、ここはひとつ のムーブメントのような感じで教育を全体的にしていくというようなことも1つしてい かないといけないということがあろうかと思うのです。いま作っていただいている案の いちばん最初に「痛みに対して早期に適切な治療を行うこと」と書いてありますが、私 が引っかかったのはこの「治療」という言葉です。 ○葛原座長  その意味の治療はどうも難しそうですね。 ○牛田委員  そうなのです、医療はできるかもしれないですが、治療はできないかもしれないので。 それも、やはり国民の皆さんにもわかっていただいて、みんなで勉強していけるような 感じで行った方が良いと思います。 ○葛原座長  これは適切な言葉は治療ではなくて対応か何かでしょう。 ○牛田委員  対応かもしれませんね。 ○葛原座長  対応でしょうね、先ほどからの話を聞いていると。 ○牛田委員  はい。 ○葛原座長  治療できないのをいま論議しているわけですから。 ○牛田委員  治してくれたらいいんだとか言われますが、治せないから困っているんだというとこ ろがありますので。 ○辻本委員  よろしいですか。 ○葛原座長  どうぞ。 ○辻本委員  あえて抜いているのか、まだ検討会で議論が伯仲しているから載せていないのか、こ の報告書の中にチーム医療という文言がどこにもないのです。ほかの所では、これでも かこれでもかと加わるのにチーム医療という文字が見受けられなかったこと、それはや はりはっきりと書いていただいたほうが患者にもわかりやすいと思いますので、それを 書いていただきたいということが1つ。  それから先ほど来、学生さんの教育というお話が出ているのですが、今年、文科省の コアカリの改定を検討する議論が始まります。絶好のチャンスですので、この報告書を そのコアカリの改定にぶつける形でまとめていただけたらありがたいと思うことと、い ま、Early Exposureの医学入門のところでそうした難治性の患者さんを講師に呼んでき て体験談を聞くというような学校が少しずつ増えているやに聞いております。やはり医 学入門1年生のところでそういう患者さんの体験などを共感し、傾聴するということを 身につけること。それから、1年生だけで、それで十分かと言うと、決してそうではな い。 やはり6年間の、例えば医学の6年間の教育のここかしこにやはりそうしたプログラムを 忙しいとは思いますが、加えていただくことがこの慢性疼痛ということの理解につなが ると思いますので、具体的なそうしたものも入れながらコアカリにぶつけられるような パワーのある文言を報告書に加えていただきたいということをお願いします。  そしてもう1点、最後ですが、先ほど来医療ということで不確実性の議論に及んでいる のですが、この報告書をずっと読んでいて具体的な期待を、希望を持てるような、そう いったものが患者の立場にはないのです。やはりそうした、可視化と言うのでしょうか 今よりも少しでも希望が持てる、ああ、本当に国が本気になってくれているんだ、そう いったものが見える、受け止められるような一文を是非とも載せていただきたいという ことを心からお願いしたいと思います。 ○葛原座長  いまおっしゃった中でチーム医療というのは、たぶん(1)の2番目の「関係する診療各 科が連携して治療にあたる」という辺りと関係する部分だろうと思います。チーム医療 は診療科だけではなくて、各職種が関係するのですね、看護とか薬剤とかカウンセラー とか。だから、この辺にチーム医療という言葉を使ってももう少しはっきりと書き込む こと。これは、先ほど戸山先生からありました教育のところの教育とはまた少し違う現 場の医療だと思いますから。  それからもう1つ、目に見えるような形のというので、確かに難しいという話だけにせ ずに何か痛みが少し和らぐような言葉をキャッチフレーズで打ち上げることでしょうか。 これは、先ほどから出ているように、痛みの10年というのでDecade of Painという、ア メリカなどではそういう形で、大統領などがこういうキャッチフレーズを上手に言うの です。鳩山さんに上手に言ってもらうというのも1つの方法かもしれませんが、かえって 痛みがまた錯綜してもいけないのですが。やはりアメリカなどは、脳の10年とか、運動 器疾患の10年とか、痛みの10年と非常に、英語でそういううまいキャッチフレーズを作 ってやっていくということと似たようなことを厚労省で考えていただきたい。これは行 政の立場でやっていって国民運動になれば、そういうことでは関心を持つ人も非常に増 えるのではないかというご提言だと思うのです。  もう1つは、最後の所に調査・研究というのがあって、具体的にこれでどうするかとい うことは書いていないのですが、厚労省のほうとしては、是非平成23年度は何とか研究 班を作れるような研究費を獲得したいという希望はあるわけですよね、財政事情もある のでしょうけれども。やはり先ほどから出ているようないろいろな、現在ある治療法の 評価あるいはいろいろな講演会、そういうことも含めて、特に原因のわからない痛みの 実態調査、あるいは原因の解明、あるいは病態の解明、そういうことに関してはこうい う何カ月かに1回の委員会ではとてもできないわけで、やはりそういうことをやるよう な研究チームなり研究班を立ち上げるとか、あるいはそういう調査を国レベルできちん とやるべきであるということをきちんと書き込んでおくということでしょうね。そうで ないと、山に向かって叫んでも木霊がすうっと吸い込まれるようなことでは、せっかく 発言した意味がないということになりましょうから。是非対策チームとか研究班を作っ てここで行った提案を具体化してほしいと、そういうことで可視化したいと思います。 そういうことでよろしいですか。 ○竹内委員  あともう1つ。この具体制が見えてこないような最大の1つは、(1)の医療体制の構築 のところが一般論で終始していて、例えば患者さんが見たときに、これで本当に自分た ちの痛み医療がよりよくなるのかというところが読み取れないというところがあるので はないかと思うのです。ここのところを少し踏み込んだ内容にするということは可能な のでしょうか。 ○葛原座長  これはこの委員会では可能ではないのですよね、これは提言だけで。しかし、可能に するような提言をしておけばいいわけで、もし先生のほうからあればご提案いただきた いのです。例えば前回の議事録などには書いてありますが、現実にここの委員の方で、 痛みセンターを作ってチーム医療を実践しているようなところもあるので、例えば痛み センターのようなものを大学病院とか総合病院につくるとか、そういうことを具体的に 提言していくということも1つの法かと思います。  ただ、それにはまたそれなりの何か補助金が要るかもしれませんし、あるいは、薬物 治療とかあるいは認知行動療法とかも含めて医療費などの面でそういう実践をやりやす いような仕組みを作らないと、この前の全部病院持出しというような話ではなかなかで きないと思います。先生、何か具体的なこのキャッチフレーズか提言はございますか。 どういうものを入れれば目に見えていくかという。 ○竹内委員  難しいのですが、予算措置などもありますが、[1]のほうは主にそのGPに対する医療体 制のことを書いてあるのだと思います。例えばGPも今後、他の疾患を識別するのはなか なか難しいのですが、例えば痛みドクターみたいな者をGPの中で認定していって、そこ にかかればきちんとした識別ができるとか、GPに対するその痛みを特に識別・鑑別でき るような先生を育てる、それに対して例えばある資格を付与するといったようなことを 考えてみる。  それから、2番目の専門医に対しては、その専門施設をやはり集中化して、そこで難治 性の痛みに対してケアしていくような施設をある地域に例えば一定の割合で設立してい く、それに対しては何らかの専門医の資格を付与していくというような方向性だと思い ます。 ○葛原座長  先生、今のご提案は学会に対する提言ということになるのですか。 ○竹内委員  私、これを読んでいて1つ引っかかったのは、最初から専門家としてペインクリニック というのが所々に出てきて、これは麻酔科学会、それからペインクリニックをやってい らっしゃる先生方との関係がどうなのかなということをちょっと気に留めました。です から、学会主導で特に専門家に、専門医のほうはそれでいいと思うのですが、GPに対し てどうしていくかというのは、医師会とのいろいろなご相談があって然るべきかと思い ます。 ○葛原座長  今日は医師会の先生がご欠席なのと、今度、内田先生から新委員に替わりましたので、 話は、医師会に関してはまた振出しでご相談しないといけないかもしれません。ですか ら、これは対策ということで、特に提言ということになれば、例えば学会に対してとか 行政に対してとか、あるいは医学教育機関とか医学部、あるいは医学部長・病院長会議、 そういうところに対してとか、医療機関に対して、あるいは患者団体とか、そういう具 合に多少分けてやっていったほうがむしろ具体的になるかもしれないですね。 ○内山委員  冒頭、葛原先生がご指摘されましたように、主語がはっきりしていない部分がありま す。患者さんがおやりになること、医療者がなすべきことの書き分けが必要と思います。 医療者も、専門医とGPというお話も出ましたので、その辺のところを少しずつ書き込む ことによって、結果としてチーム医療でそれぞれの役割と連携がはっきり見えてくるの ではないかと思います。  あともう1つは、調査・研究のところです。これはそれぞれの立場でご議論があるの かもしれないのですが、特に○の2つ目の「疫学調査のみならず」という所は、大体思 いつくことが網羅的に並列的に書かれています。3回の委員会に出席させていただいた 印象としては、戸山先生もおっしゃられた現状の把握が非常に重要だというのは、まず 皆さんのコンセンサスであったと思います。もう一つは、チーム医療で多次元、多要素 的な痛みの評価をすることであったと思います。それは、対象者の方がどのように受け 止められているのか、あるいは器質的なものがどうか。社会参加や活動はどうかという ような評価、ツール、それを考えることによってチーム医療というもののありようを患 者さん自身も含めて明確にするということでした。そのため、この2つの項目を独立さ せて、それぞれ具体的に書いて、3番目に、ここに書いてあることを加えることでいか がでしょうか。書いてあること自体否定するものは1つもないと思いますので、そのよ うにすればこの委員会として次のステップにどういうことを期待しているのかがはっき り出てくるのではないかと思います。 ○葛原座長  調査・研究ということになると、現状把握と痛みの評価ということですか。 ○内山委員  評価というのは、いままでの議論では、チームで、それぞれの他職種の方々と、病態 の理解から始まって社会へ、先ほど分子から社会へということもありましたが、そのマ トリックスをどのように全体として表現していくかということが、結局は慢性疼痛とい うことを具体的に理解する、表現するということにつながるのではないかと思います。 ○葛原座長  別の研究費で痛みがどのくらいの患者さんがいるかというのを調べようかというよう なのがあったのですが、これはすごくお金がかかることのようなのです。ですから、現 状把握で特に疫学的な数の把握というのは日本では非常に難しい。それから、保険病名 からも難しいのです。先ほど言ったように、保険病名が必ずしも実態を把握反映してい ないということもありますので。ですから、これは本当にアンケートとかそういうこと しかないと思うのですが、確かに今おっしゃったようなことは現場でたぶんすぐに必要 なことだと思いますので、こういうのは、優先順位から言えば上のほうにいくと思うの です。  あと、私は、ここにたくさん書いてある中で現状でやろうと思えばできることは、「 新規治療薬や安全で効果的な治療法の開発」というのは柴田先生でしたか、牛田先生で したか、現在日本にある薬でこういう慢性疼痛に使える薬はこういうのがあるというの を一覧表を出してくださっていたと思うのです。ああいうものに関してのエビデンスが どのくらいあるかというのは、これは文献的に出そうと思えば、お金と時間をかければ これはある程度出ることですよね、現在日本で使用されている薬で慢性疼痛に有効な薬 というのは。保険適用があるかどうかは別として、これは出ますよね。 ○柴田委員  外国のデータをもとにという。 ○葛原座長  ということですよね。 ○柴田委員  ええ。 ○牛田委員  話をもとに戻しますが、いま竹内委員がおっしゃったように、痛みの専門医、スペシ ャリストのような者を認定していくということは非常に大事なプロセスになってこよう かと思うのですが、その一方で、ここにたくさんのフィールドのドクターが集まってい ること、それからほかの職種の方も集まっていることを考えると、整形外科もあり、脳 神経外科もあり、あるいはリウマチ科など、いろいろなところがギャザーしその中でな いと慢性疼痛というようなものに対してはなかなか専門家を育てていくことができない のではないかという面もあると思うのです。そういった場合に、国としてこのようなこ とをあるいくつかの学会に投げていただいて集まるようなことを、もし提言できたらや りやすくなるのではないかとは思ったりするのですが、その辺はいかがなのでしょうか。 ○葛原座長  そうですね。例えばいま第三者評価というので、日本専門医評価・認定機構が今度、 社団法人化されていよいよ専門医の認定をするというようなことになっています。しか し、専門医の種類の数を増やすということは難しそうですし、学際的な専門医はあそこ ではなかなか認定しにくいのではないかという気がするのです。特にチーム医療的なも のと専門医というのは概念としてはかなりかけ離れていますでしょう。かなり狭い分野 の特殊なものをむしろという形になっていますので、これはちょっと専門医制度そのも のではないところで考えたほうがいいような感じですね。例えばNST、栄養サポートチ ームとか、ああいう種類のことというのでやっていったほうがむしろ成功しやすいよう な感じがしますね。とにかく、ある職種とかある診療科の人で担えることではないわけ ですから。しかし、NSTなどは随分普及しましたよね。だから、ああいう種類のことが できれば、それこそペインサポートチームなどという形でできれば、割合簡単に。そう いうのをどこかで、うちはこううまくやっているなどというのを何かうまく発信してく れるようなところがあるといいと思うのですが、柴田先生のところなどではやっていな いですか。 ○柴田委員  意外にこういうチーム医療がうまく機能するのは、比較的小さな集団と言いますか、 病院でも300床ぐらいの規模であれば、お互いに顔が見えるのでうまくいくのです。し かし、それは地域だけのものでしかなくて、普遍性という意味ではどうしても劣ってし まう。大きな大学病院でチーム医療を実践するのは非常に大変なのです。私たちの病院 は1,000床ぐらいの非常に大きな病院ですが、そこで10年がかりぐらいでやっと機能し ています。するのです。しかし、出発点はやはり顔の見えている人たちから始まります しいまだにやはり、私はもともと麻酔科医ですから、外科系が中心になって、内科の先 生とのコミュニケーション、あるいは外科系の先生方のほうがどうしても多くなってし まうというような現状があるのです。ですので、竹内先生のおっしゃった痛みの専門と いうのを誰が担っていくのかという問題に関して申し上げますと、麻酔科医が痛みに関 わった歴史は、もともと神経ブロックから発展してまいりました。日本の中でもペイン クリニックを専門とする人たちの中にはやはり神経ブロックというものを1つのスペシ ャリティとしてやってきておられる方が過半数です。一方では、麻酔科医の場合には、 病院の横糸的な機能と言いますか、手術の麻酔にしろ集中治療にいろ、病院の穴埋め的 な役割も得意な分野ですので、そういう機能を活かして痛みをやっている横糸的なペイ ンというのもあります。しかし、縦糸型がどうしても多いのが現状です。診療報酬が付 いてきますから。横糸型は診療報酬が付いてこないのです。しかし実際に医療に求めら れているのは横糸型かなと思います。 ○葛原座長  どうも。吹田の阪大病院のような大きなところではこれはやはりなかなか難しいとい う、もう少し中規模ぐらいのところでこういうものに取り組んでいるところがむしろ雛 形になりやすいということですかね。 ○柴田委員  しかし、例えば専門的な脊髄刺激とか、あるいはそういう先進的な医療を必要とする 患者さんも来られますので、そういうニーズにも応えられるということになると、やは り大きな病院にペインセンターというのが理想だろうとは思います。 ○宮岡委員  緩和ケアチームが横糸で、もうかなり動いていますよね。緩和ケアチームというのは、 やはり麻酔科医、薬剤師、看護、精神科医が入って動いているのです。ああいう形のも のがこういう痛みで、保険診療できちんと動くようになれば、第一歩としてはよいので すが。緩和ケアチームがあれだけ動きだしたということはやはりお金が付いたからなの で、それが必要ですよね。  それから、うちの大学などを見ても、難治性の痛みというのはいちばんどこへ相談し たらいいかと言うと、緩和チームが頼りになるのかもしれません。実際に動いている1 つのモデルはあるわけで、私も、是非そういう診療報酬上も保障されたようなものが出 来ればいいかと思います。 ○葛原座長  では、もしモデルにするとすれば、いまがんが中心だと思いますが、緩和医療チーム のような形のものをモデルにして慢性疼痛ということの、痛みを緩和する、あるいは痛 みを忘れさせて何か社会復帰するとか、就労・就学までいくような、そういうサポート チームが1つのモデルになるのではないかと。それを厚労省とか行政のほうでどういう 具合にサポートしていただけるかということにもなるかもしれませんが、たぶんそれは ある程度の投資をしないと実際は絵に描いた餅になってしまうだろうと、そういうご意 見だろうと思います。 ○宮岡委員  「これから」の所に、調査・研究の所に教育資材の開発ということを書いてくださっ ているのですが、慢性疼痛のところは、学生にチームで教えるということはできるにし ても、教科書がないのです。由って立つ教科書に、今一歩しっかりしたものがない。薬 物の本はあっても、バランスのとれたものがないので、こういう研究班か何かでいろい ろな分野の方が入ってテキスト作りみたいなことは難しいのですか。やはりテキストが ないとなかなかいい教育ができないというのがどうもいつも気になっています。  それからもう1点は、これ、いちばん最初のところで先ほどちょっとお話が出ました、 2頁の「ペインクリニック等、痛みを専門とする一部の医師を除き、多くの医師は自身 の経験の中で」という言葉です。ペインクリニックでも結構強引にやっているところも ありますし、それによってあとの治療がかえって難しくなることもある。ここは除かな くてもいい、すなわち「ペインクリニック等、痛みを専門とする一部の医師を除き」と いう文章は残した方がよいような気がするのですが、やはりこの文章は必要ですか。私 は、「全部の医師が専門性のないところでやっているから」というぐらいの時点で出発 したほうがいいような気がするのです。ちょっと言いすぎかもしれません、すみません。 ○葛原座長  要するに、ペインクリニックの医師だってうまく扱っているわけではないということ ですね。 ○宮岡委員  ペインクリニックが今こういう慢性痛に対しては、きちんとした治療法を持っていな いように思います。だから、「ペインクリニック等、痛みを専門とする一部の医師は認 める」みたいな書き方をこういう大きな文章でしないほうがいいような気がするのです。 ○葛原座長  なるほど。 ○竹内委員  私もそこは気になりました。ペインクリニックを専門家と考えるのかどうなのかとい う。 ○葛原座長  「痛みを専門とする医師を含め」と書くと、またクレームが付きそうですから。では 全部削っておいたほうがいいということですか。皆さん、痛みを専門としている方、ペ インクリニックが必ずしもこれをうまく処理しているとはとても思えないという認識の ようですから。では、これは全部削除しましょう、これは、たぶんペインクリニックで も難渋している痛みだろうと思います。わかりました。  そろそろ時間ですので、いまいただいたご意見を「課題と提言」という形で事務局を 中心にもう1回まとめ直して、それで先生方のところに最後の校正をしていただきます。 これはどうなのですかね、提言というタイトルになるのですかね。それとも報告書です かね。 ○大竹課長補佐  報告書という形でまとめさせていただきますが、専門の先生方からのご提言という形 でいただきたいと思います。 ○葛原座長  最後の「今後必要とされる対策」ということと提言という形で最後は言っておいたほ うがいいかもしれませんね。 ○大竹課長補佐  はい。 ○葛原座長  こうしたらどうでしょうかということで。しかも、これは少し主語と対象をはっきり させて、それぞれの対象ごとに、ここにはこういうことをしてほしいというような形で やっていくということで、いまいただいたご意見を列挙しましょう。この対象には行政 のほうもありますし、医療側、患者側、それから非常に強調されていたのは、教育の中 でもう初期教育からインフォームドコンセントとチーム医療ということをきちんとやっ ていくというのが痛みを慢性化させない1つのキーワードでもあるような気がしますか ら、そういうことはうんと強調しておいたほうがいいのではないかと思います。最後に 「まとめ」という所もお読みになりますか。 ○渡辺課長補佐  それでは、まとめを読み上げさせて頂きます。 ○葛原座長  はい、まとまるかどうかわかりませんが。 ○渡辺課長補佐  4.まとめです。慢性の痛みは、原因疾患のみならず、生活環境、行動様式、個人の性 格等を反映するため、個々の症例に応じてきめ細やかな対応が求められる。痛みを完全 に取り除くことは困難であるが、痛みの適切な管理と理解が必要であり、痛みと向き合 うことが求められている。  痛みの緩和、痛みと関連して損なわれる生活の質や精神的負担の改善を目標に、医療 や社会、医療を取り巻く人々や国民自身が、それぞれの立場で計画的かつ協力的に痛み 対策に取り組むことが重要である。  本検討会の議論を踏まえて、慢性の痛みに関する医療体制整備や医療資源の適正配分 また、痛みによる社会的損失の軽減に寄与するような取組の第一歩を踏み出すこととし たい、とさせていただいております。 ○葛原座長  まとめは短いだけあって割合よくまとまっているような気もしますが、具体的なこと を書いていないので割合まとめやすかったのかもしれません。  ということでそろそろ時間なのですが、ここの3回の討論を通じて、わからないこと も含めていろいろなことが割合はっきりしてきたように思います。最近の日本でいちば ん問題になっている病気はどれも慢性疾患です。急性何疾患では、大体、治るものは全 部治ってしまっているわけですから、たぶん痛みも、生理・薬理学からペインクリニッ クで対応するようなすっきりした痛みは、大体もうその通りでうまく治まっていて、い ま話題になっているような痛みはそういうことだけではどうも説明しきれないような痛 み、特にもとの病気から多少離れて、心理的要因とか社会的要因まで加わって、それが 患者さんを非常に苦しめ、また医療の現場では問題になり、社会的な損失にもなってい るということです。おそらく慢性疾患の対応は、治療というよりは緩和で、そういう症 状とか病気がもうベースにあった中で、どのようにそういう方にうまく社会適応して生 産的な生き方をしていただけるかという、そういうことをチームでサポートし、また一 緒に考え、患者さんにも多少強くなっていただくという、そこがたぶんいちばんのポイ ントだと思います。  そういうことで、今日いただいたご意見をこちらでまとめますが、行政のほうではや はり、何かせっかく討論した、3回の内容を、とても魅力的なキャッチフレーズでやれ というのは無理かもしれませんが、厚労省としても痛みに対してこれだけ本気で考えて 取り組んでいるんだなということを医療の現場、あるいはそういう痛みで悩んでいる患 者さんに何かわかるような形で発信していただくような方策を是非考えていただきたい と思います。厚労省のホームページを見るとわーっとたくさん並んでいるのですが、あ あいう中に見てたくなるようなキャッチフレーズがポッと出てくれば、普及に役立つか もしれません。それから、再三言われていたようですが、かなりお金がかかる面もある ということも強調したいと思います。こういうことに関しては、いま、なかなか難しい のかもしれませんが、むしろお金をかけた何倍もの効果が上がるというような形の施策 に是非取り組んでいただきたいと思います。 ○安達委員  一言追加したいのですが。私は婦人科医なので実は痛みというものにとても関係して いるのですが、私が関係しているのはこの慢性の痛みとはちょっと違うものなのです。 ですから、今回この検討会のいちばんの大きな点は、普通の痛みと慢性の痛みは全然違 うのだと、そこをもっと強調していただきたいと思うのです。産婦人科で診る痛みでも 生殖年齢の間、ずっと痛いというようなものもあるのです。しかし、その方たちは閉経 すれば痛みからずいぶん解放されます。でも、今回扱っているものは全然違うものなの だということをもっと強調してくださればと。これについては、文章の中のいろいろな 所に書かれているのです。しかし、先ほどもおっしゃったように、慢性の痛みというも のは通常皆さんが経験する痛みとは全然違うもので、違う対応をしなくてはいけないの だというようなことをしっかり入れた文言にしていただきたいのです。そうしますと、 先ほどから病名ありきでみんな安心して、そのためにかえって治療が混乱するとかそう いうことに関しても、慢性の痛みという言葉が1つ出てきただけで皆さんが、すなわち 社会がわかるようになります。 ○葛原座長  何度も出ていましたが、慢性の痛みというのはどうも出てきている検査の異常とか、 もともとの目に見えるような病気とは関係ないものとして残っている痛みの側面が強い ように思いますし、場合によっては病名の故に残っている痛みもあるということで、か なり複雑なものだということです。先ほどの分類についても、痛みというものを前に出 して下に病気を付けておいたほうが、かえって、より具体的な施策ができるかもしれな いですね。  ちょうど時間なのでこれで終わりにしたいと思いますが、よろしいでしょうか。あと は、この議事録と具体的な提言をできるだけすっきりした提言になるような形でこれか らまた事務局のほうで推敲してくださると思います。これもまとめるのは大変だと思い ますが、あとは、私どもでやったものを皆様方に見ていただくということにしたいと思 います。今日は長時間、どうもありがとうございました。 ○渡辺課長補佐  委員の皆様方、本日は本当に活発なご議論をありがとうございました。今日の議事録 は出来次第、私も何度も読み直して皆様のご意見をできる限りこの報告書、提言に反映 させていきたいと思っております。この慢性の痛みに関する検討会、昨年の12月に発足 しましたが、今日まで3回、本当にお忙しい中、日程調整、そして活発なご議論をあり がとうございました。最後になりますが、健康局審議官中尾のほうから一言ご挨拶させ ていただきます。 ○中尾審議官  本日、健康局長が出席がかないませんでしたので、私から代わりましてお礼を申し上 げます。  慢性の痛みにつきましては、昨年の12月から3回にわたりましてこの委員会でご議論 いただきました。お忙しいところご出席いただきまして、貴重なご意見をお伺いいたし ましたことにお礼を申し上げます。この慢性の痛みというのは大変重要な課題ですが、 大変難しい課題です。この3回の会議の中でそれぞれのプレゼンテーション、またその 意見交換、大変いろいろな角度からのご意見をいただいたと思っております。本日も私 どもの素案につきまして本当に活発なご意見をいただきまして、これをまとめる事務局 はなかなか大変かなという感じもいたしますが、またよくご相談をさせていただきなが らまとめるとともに、本日いただきましたご意見を含めまして、今回の報告書は貴重な 提言だという受止めをいたしまして、問題は、我々、これを受けてどのような施策を展 開していくのかということだと思います。そこにつきましては、これを受けてきちんと した対応をしていきたいということと、もう1つは、これは行政の対応のみならず、医 療界あるいは患者の皆様も含めまして国民全体にこの問題についての情報発信をできる だけわかりやすい形でしていくと。そのことにつきましても工夫をしながら進めていき たいと思っております。大変お忙しいところ、ありがとうございました。 ○葛原座長  では、どうもありがとうございました。 【照会先】  厚生労働省健康局疾病対策課  代表:03(5253)1111  内線:2354