10/05/14 第7回雇用政策研究会議事録 第7回 雇用政策研究会(議事録)                       1 開催日時及び場所   開催日時:平成22年5月14日(金) 17時00分から19時00分まで   開催場所:厚生労働省・省議室(9階) 2 出席者   委 員:阿部委員、加藤委員、黒澤委員、玄田委員、小杉委員、駒村委員、鶴委員、橋 本委員、樋口委員、大和証券グループ本社CSR室長河口氏 事務局:細川厚生労働副大臣、太田厚生労働審議官、森山職業安定局長、山田職業安定 局次長、酒光労働政策担当参事官、伊奈川社会保障担当参事官、前田労働基準 局総務課長、高橋職業能力開発局総務課企画官、田河雇用均等・児童家庭局総 務課長、宮川職業安定局総務課長、小川雇用政策課長、坂口雇用保険課長、里 見雇用政策課企画官、平嶋雇用政策課長補佐  他 ○樋口座長 定刻になりましたので、ただいまより「第7回雇用政策研究会」を開催いたし ます。委員の皆様におかれましては、ご多忙の中お集まりいただきまして誠にありがとうご ざいます。今回は大和証券グループ本社のCSR室長の河口真理子様にお越しいただきまして、 お話をいただくことになっております。初めに雇用に配慮する企業への投資という観点から、 社会的責任投資についてご報告をお願いいたします。 ○大和証券グループ本社CSR室長河口氏 ただいまご紹介をいただきました大和証券グル ープ本社の河口でございます。もう1つ肩書きがありまして、NPO法人社会的責任投資フォ ーラムの代表理事もやっておりまして、そういうこともあって、こちらにお招きをいただい たのかと思います。今日は貴重な機会をいただきましてどうもありがとうございます。  時間が20分ということで限られていますので、早速本題に入らせていただきます。「社会 的責任投資と雇用」というテーマで簡単にお話をさせていただきます。投資の世界では、い ろいろな環境に対する配慮や社会性の課題に対する配慮をした投資を考えていこうという 動きがありまして、これが社会的責任投資と言われるものです。これは必ずしも雇用に限っ たものではないのですが、いまはESG、Eというのは環境、Sはソーシャル、Gはガバナンス ですが、こういった項目も従来型の財務データだけではなくて、非財務型の重要な項目もき ちんと評価した上で投資をしていこうという動きがあります。そういった大枠でお話をする というのと、雇用に限ってどう評価されるか、二段構えでお話をさせていただきたいと思い ます。  「投資にESGの視点を」と書いてあります。SRI(Socially Responsible Investment)、社 会的責任投資と言われているのですが、投資をするプロセスにおいて、財務データだけでは なくて、EとSとG、環境・社会・ガバナンスの要素を少なくとも1つ以上考慮して投資を していこうということです。もう1つの意味は最終投資家の意思が反映されること。最終投 資家とわざわざ言っているのは、例えば年金基金の場合では、年金基金を運用する窓口の担 当者ではなくて、最終的に年金を受託する我々、受益者など最終的な資金の出し手の意志が 反映されたような投資であることもSRIの定義に含まれます。これは社会的責任投資フォー ラムというNPO法人でこのように定義をしております。ただ、この名称にはやっている人に よっていろいろな言われ方があるのですが、最近では社会的責任という言われ方ではなくて、 ESG投資や、社会にインパクトを与えるという意味でインパクト投資とか、持続可能な社会 を作るという意味でサステナブル・インベストメントとかサステナブル投資などと言われる ようになっています。  この概要については、イメージとしてこの図で書いたように、従来の投資というのは基本 的に投資対象の財務的な側面を評価している。安全性、効率性、将来性を財務データから予 測して投資判断していたのですが、これに加えて、EとSとGの観点の評価も入れていくと いうことです。この2つをうまくミックスした上で総合の企業評価、投資判断というものを していく。これは投資ですので投資家の考え方によるものなので、EとSとGのどの項目を どの程度重要視するかということに関しては、投資家自身の個性というか、判断基準によっ て異なることがあります。  何でこういった投資が注目されるようになったか。昔からこういった投資はある程度の規 模があったのですが、特に注目されるようになったきっかけは、2006年4月に責任投資原 則と言われるSRIの大きなプラットホームの原則ができて、それがきっかけになって金融の 力で社会を変えていこうという動きが出てきています。ここにズラズラ書いたものは何かと 言いますと、責任投資原則が策定されたときに、当時の国連事務総長であったアナン氏がこ ういったメッセージを寄せています。基本的にそれまで金融というのは実社会とは違う次元 でうごいている話という印象がありました。、特に金融関係者は金融の中だけで金融を回し ていけばよくて、パフォーマンスを上げればよいということで仕事をしてきたわけですが、 金融でお金を投資したり、融資をするということは、結局、投資先、融資先の実社会、実物 の製造メーカーであるとか、いろいろな人々の暮らしにものすごくインパクトを与える。そ ういうことを配慮せずに投資をしていくことは、世の中に対して決してプラスの影響はない だろうということです。  赤い字で書いた所を読ませていただきます。『持続可能な発展』、これは皆様もご存じのと おり、国際社会では大きな命題になっているわけですが、環境問題にしても、人権問題にし ても、労働問題にしても、草の根や政治的なサポートを得ていろいろなキャンペーンを張っ たとしても、その観点が「持続可能な発展」の観点が、投資判断や評価にうまく組み込まれ なければそれが牽引力を持つのは難しいと。これは、PRIの原則ができたときに、当時の アナン国連事務総長がよせたコメントです。いくらいいアイデアがあり、ビジネスプランが あり、素晴らしい技術があっても、そこにお金がついていかなければ、実際にそういった製 品が世の中に出回ることや、そういうプロジェクトが世の中に出回ることはないわけですか ら、そういった技術やアイデアにちゃんとお金をつけることによって、世の中を変える原動 力にしていこうというメッセージです。  これをまとめるとどういうことかと言いますと、赤い枠組みで書いたところですが、通常、 金融というのは資産所有者がどうやって自分のお金をちゃんと運用していくのか、というと ころにフォーカスされがちですが、そうなると、株の仕組みはどうかとか、債券の仕組みは どうかと、仕組みを理解して自分で良いと思う所に投資をする考え方が主流になるのですが、 本来の金融というのはそれだけではないだろうと。金融の本来の機能というのは、運用者の ための資産を形成するだけではなくて、それを通じて、市場を通じて、社会の資源を最適な 方向に配分していくことにあると。何のためにするかというと、社会を持続的に発展させな ければいけない。ただし、いまのところ資源再配分機能というのは、どうしても目先の数字 によって左右されがちなので、その結果行われている資源再配分というのが、本当に世の中 のためにいいのかどうなのかというのは大きなクエスチョンであるということです。  特に、こういった金融が社会的課題を解決する手段として有効であるということが注目さ れるようになったのは、2006年、マイクロファイナンスでグラミン銀行のモハメド・ユヌ ス博士がノーベル平和賞を受賞したということがありまして、金融という手段を使って、彼 は貧困を解決していくことを世界に知らしめた。そこで出てきたメッセージとしては、金融 というものは社会を動かす血脈であると。これは今回のリーマンショックとか、最近のギリ シャの危機的な問題があると世界中の経済がおかしくなってしまう。金融の流れが滞ると、 社会的にはものすごくインパクトがあるということです。  重要な点は、「意志のあるお金」というものは社会を変えられる。お金というのは色がつ いていないので、どのお金も同じかと思われがちですが、意志の有るお金、所有者の意志を 反映したお金というのは、ただそれを儲けのために使うのではなくて、社会を変える原動力 になるということです。こういったことに社会の人たちが気が付き始めたということです。  最後に重要な点は、お金を所有している人。その人たちが株を持っていると株主というこ とになるわけですが、そういう人たちにも社会的責任があるのではないかと。これは何かと 言いますと、株主は、特にアメリカの場合は株主中心主義のガバナンスなので、企業に対し て株主のために収益を上げろということを厳しく要求します。経営者に対して四半期ごとの 決算のたびに株主からそういう圧力がかかわるわけです。そして思い余った、あるいは儲け に目がくらんだ経営者が目先の利益を追求するために違法行為に手を染めるたとしたらど うでしょう。  そこで違法行為がばれたら、当然経営者は違法行為をしたので罰せられる。ただし、経営 者に対してもっと儲けろ、もっと儲けろと圧力かけていた株主は、全く法律上は罰せられな いわけです。本当にそれでいいのか。またはクラスター爆弾や、国際的に非人道的であると 言われているようなものを使って収益を上げている企業に投資をして、そういう会社は糾弾 されるが、その背後でそういう会社に投資をしていたり、融資をしている金融機関は全く責 任がないのかと、そうではないだろうと。やはり、ちゃんと世の中を動かすためには、お金 を持っている人たちも、それなりに自分たちのお金がどう使われるかということに対して、 きちんと責任を持つべきだろうということで、社会的責任の視点も言われるようになってき ています。  お金でどうやって社会や環境に配慮するのだろうかということですが、6頁、基本的には お金というものは、モノとか人になって、これが実際実社会で回って、最終的にビジネスに なって収益を生み出して、またお金に戻ってくるというサイクルがあります。お金とモノと 人のモノと人、このプロセスをグリーン化、社会的に配慮する形で戻ってくるお金がグリー ンになるという仕組みが考えられております。  こういった発想でから生まれたSRI市場は、歴史的にどういう変遷を経てきたか簡単に申 し上げます。8頁、もともとSRIというのは何から始まったかと言いますと、1920年代のア メリカ、100年近く前に始まりました。アメリカでは教会でかなり多額の資金を運用してい るのですが、教会の資金を運用する際に、教会の教義から外れるタバコ、アルコール、武器、 そういうところに教会のお金を入れていいのかと。そういう運用で収益を上げていいのかと 言ったら、違うだろうと。自分たちの倫理観から外れるような所には投資をしないという倫 理投資というところからスタートしております。これが第2次世界大戦後、アメリカで公民 権運動や反戦運動というような社会運動が高まる中で、株主の力を使って世の中を変えてい こうと。  例えば、当時、ベトナム戦争で使われた枯葉剤を作っているダウケミカルに対して、株主 総会で枯葉剤を作るのをやめさせるようにという株主提案を出して、それが可決されたりと か、黒人の取締役を入れるようにということをGMに働きかけて、これが採用されたりとか、 株主の力を使って社会を変えていこうという形でSRIというのが使われてきます。  この間は何が目的かと言いますと、ここの図に書いたように、収益を上げることよりも、 社会にどう影響を与えるか。社会的なリターンが目的で行われていたということです。これ が変わってくるのが1990年代後半からです。1996年に環境のISO14001というのが発行さ れました。これで多くの企業が環境マネジメントを取得するようになるわけです。これでわ かったことは、環境に配慮した経営をするのは、別にコストアップではなくて、いろいろな 意味で、企業価値向上に寄与するのではないかということがわかってきた。CO2を減らすこ とは、エネルギー使用量を減らすことになりますのでエネルギーコストの削減になります。 廃棄物を減らすことは、製造プロセスを見直すとか、それは合理化になりますし、材料の無 駄が出ないことになりますので、これも効率的なプロセスになるということです。  環境に配慮した企業ということがブランド価値につながるとか、環境配慮型の製品の開発 がより進むとか、そういった面で、これはプラスになるよねという見方が出てきます。さら に2000年以降、食品会社のいろいろな不祥事などの、事件が多発していく中で、企業の倫 理というのはどういうことなのか。中には潰れる企業も出てくる中で、きちんとした倫理に 配慮していない会社というのはリスクではないかと。そこもちゃんと見なければいけない。  人権問題については、日本の場合は環境が中心だったのですが、ヨーロッパでCSRと言い ますと、人権とか労働が中心になって、労働者の権利に配慮していない会社は、働き場所と してどうなのかと。労働環境のある場所としてどう評価されるのかという観点から、労働と か人権問題にも配慮するべきである。そうしたほうがより正確な企業価値、企業評価ができ るからであるという見方になってきます。ここにホリスティックと書きましたが、財務の数 字では見えてこない、より立体的、包括的な企業価値というのを、その企業の環境や労働、 人権対策の中からきちんと読み取ることができるということです。現在のSRI市場には、こ こに書いたような多様な動機で参加している人たちが混在している状況です。  いまのところSRIとしてどんな金融商品があるのかということで、ざっくりお見せしたの がこの図です。横軸はリスクで、大きいものから小さいもの。株と債券と預貯金という形で リスクの代償を受けています。縦軸が規模の大小です。株式の場合は株主行動、その企業に 対してダウケミカルのような事例で、株主として企業にものを申していくやり方が1つあり ます。  その隣のうぐいす色で囲ってあるSRIスクリーン運用は、お聞きになったことがあるかも しれませんが、エコファンドやSRIファンド、環境、それ以外のCSRの要素を評価基準に加 味して銘柄を決めていくという投資信託があります。規模が小さいものはソーシャルベンチ ャーやプライベートエイクティ、これは未公開の会社に対して、社会性に配慮した会社に投 資をするというものもあります。横に動きますと、コミュニティ投資、ミニ公債、これは地 方自治体で公園を整備する、学校をつくるという場合、地元の住民から資金を調達する公債 を発行することがあるのですが、こういうものは結構地元の住民に非常に人気がある。この 債券を買うことによって公園ができるとか、学校がよくなるということで、かなり人気があ るということです。これはその効果が見えやすい。  当社グループで販売したワクチン債というのは、ワクチンを途上国で打つために資金を調 達するというものがあります。預貯金型ではエコバンクがありますし、これは個人向けで、 さらに大きくなると、政策投資銀行がやられている環境配慮型事業融資というものもありま す。最近はエコ不動産投資、グリーン不動産に対する投資というのも、国交省が非常に熱心 に進めておられる状況です。  次の頁はいままでのまとめです。CSR、ESGとも言いますが、この投資判断は3つの立場 があるということです。いちばん上のものでは、従来型のもので、倫理とか正義感を自分の 投資の中に反映させたいというものです。もう1つは、ESGをきちんと取り込むことによっ て、パフォーマンスをより上げられる可能性が高いという事情で組み込むと。もう1つは、 パフォーマンスも当然上げたいのですが、環境とか人権とか社会性に配慮した会社に投資す ることによって、自分としての株主責任を果たしていきたい。大体、この3つの立場に分類 できるかと思います。  次は、簡単にマーケットはどのぐらいなのか。古いデータしかないのですが、これは欧米 のNPOが集計しているもので、2年に1遍ぐらいしか出てこなく、2009年のデータがそろそ ろ出てきてもいいのですがないのです。例えば、欧州の場合は5年間、2002年から2007年 の間で8倍になっています。規模としては、2007年の段階で330兆円。リーマンショック でかなり減っているのですが、その後回復したことを見ても、200兆円から250兆円ぐらい の規模がある。250兆円とか、そういうオーダーであるということをご理解ください。  次がアメリカです。アメリカの場合も2007年のデータまでしかないのですが、こちらは 1995年から2007年の12年間で4.3倍に膨れています。2007年の時点で270兆円です。こ れも200兆円規模ということになります。日本はどうなのかということです。日本の純資産 残高は0がたくさん並んでいるので、すごくたくさんあるかと思われるのですが、これは 100万円単位なので、いちばん高いところでも1兆円くらいです。これは何の残高かといい ますと、先ほどのエコファンド、SRIファンドと言われる投資信託です。これは個人が主に 買うものですが、この残高を私がいるNPOで集計をしているものです。これですと去年の9 月の時点まであるのですが、リーマンショックでドンと減って少し回復している。3割ぐら い回復して、いまのところ横這いの状況になって6,000億円規模です。これにプラス企業年 金が500〜800億ぐらい買っているかなということですが、6-7,000億円程度ということで、 欧米の市場とは0が2つ違う状況です。  それは何でこんなに小さいのというのは本筋の話ではないのですが、日本の場合は年金基 金が不在というのが最大の要因です。欧米の場合は公的年金基金がSRI市場をリードしてい ることがありますが、日本の場合、買っているのは意識のある個人ばかりで、年金基金がほ とんど動いていないというのが非常に小さいマーケットになる要因になっています。  いまは欧米の市場だけではなくて、韓国やタイという所でも政府系年金基金が社会性に配 慮した投資を率先してやっていこうという動きがあります。  ちなみにこれがいまの状況です。しかし、SRI市場はまだまだ拡大すると予測されていま す。2007年では世界で5兆ドルぐらいだったのですが、これが26.5兆ドルまでに拡大する のではないかという予測があります。これは社会的な関心が非常に増えている。特にエコに 関しての技術イノベーションがあるということと、社会的責任に関する法規制が強化される ということ。トラックレコードが増えるというのは、過去の投資の実績が増えてくると、投 資をする際にいろいろな分析がしやすくなって、より投資をするハードルが低くなる。より 良い投資手法が編み出されてやりやすくなるだろうということがあります。  次の頁に付けたのは、先ほどお見せした日本の市場のSRIファンドは、ピークのときにや っと8,000億円、いまは6,000億円ぐらいといった市場ですが、ここで雇用を評価したファ ンドというのは日本の市場においてどのぐらいあるのかということをお見せしたものです。 これは億円単位です。環境とCSRと雇用とウーマノミクス、これは女性の活用ということに なりますので、雇用とウーマノミクスを比べても30億円ぐらいで非常に小さい。日本の場 合は環境が圧倒的に大きいということで、雇用に関してはまだ少ししか設定されていない状 況です。  SRIと雇用はどういうインパクトがあるのかということについて、簡単にご説明いたしま す。CSRのいろいろな要素というのは、企業価値に影響があるのだろうかということを、イ ギリスで先進的にSRIを取り組んでいる年金、英国の年金基金ですが、そこにアンケートを 取った結果です。環境、雇用というものは、短期、長期において重大、または多少のプラス の影響があるだろうという結論が出ています。これを見ていただければわかるのですが、長 期的には7割とか8割は影響があると見ているわけですが、短期的な影響はそれほどでもな いと。どちらかというと目先の業績というよりも、体質を改善するという話なので、すぐに は企業価値に影響はないが、長期では効いてくるだろうということが、いまの投資家の世界 ではコンセンサスになっています。  もう1つは企業価値ということで書いてあります。ファンドマネージャーの人たちに、CSR とか財務と関係ない情報が投資判断にどのぐらい重要になるのだろうかということを聞い たものです。気候変動や従業員といったようなことは重要になると。コーポレートガバナン スは半分以上が重要になるということを言っています。こういった非財務情報、CSR、また はESGの情報というのは、投資家の間でも企業価値に影響があるから、投資判断でも組み入 れていかなければいけないなというような認識は増えてきている状況です。  何でそうなったのかということを理論的に考えますと、こういうことなのかというのがそ の次の図です。私はCSRの研究もずっとやっていまして、いまは違う部署に来てしまったの ですが、企業価値を評価するベースとしてはビジネス戦略を見ていくのが大きなポイントか と思います。そこで見ていくと、CSRというのはビジネス戦略に対する係数ではないかと思 っています。いろいろなビジネス戦略は、ここに書いたようなものがあるのですが、CSR的 な発想になると、人事的なところだとワークライフバランスや多様性に変換できるのかと思 います。製品だったら、ユニバーサルデザインやエコ製品というものを開発していこうとい う形になるのかと思います。ビジネス戦略がしっかりしていても、CSRが全然しっかりして いないと、最終的に掛け算なので、経営の質にはあまり効いてこない。逆に、ビジネス戦略 は並だけれども、ここをちゃんとすることによって、かなり高い係数を得ることができると いう関係があるのではないかと考えています。  そこで雇用ということなので、もう1つおまけです。次を見ていただくと、これを少しブ レイクダウンして因数分解して見るとこういう形であると。ビジネス戦略というのも、こう やって戦略はあるのですが、これをやるのは全部人です。経営理念というのもCSRと書きま したが、これを体現するのも人なので、ビジネス戦略掛ける経営理念というのを掛けると、 人材はダブルで、つまり二乗で効いてくると。人の教育をきちんとするということが、大き な企業価値にプラスになるということではないかなというのが私の仮説ですので、人材は二 乗で効いてくる要素です。ですから雇用面等を評価するのは重要である。  実際に次にお見せするのは、厚生労働省で均等推進企業表彰銘柄ということをやられてい るわけですが、これは何かと言いますと、これを表彰された企業の株価を累計で足し合わせ たものです。0カ月というのが、表彰された時点です。何十社かずつ毎年表彰されているの で、全部表彰された時点を0ということで正規化しているものです。これで見ていただくと 大体右肩上がりです。60カ月後のところを見ていただくと37%になっているのですが、こ れはどういうことかと言いますと、表彰された会社を表彰されたときに買って、60カ月、5 年間放ったらかしておくと、5年後にはトピックスのパフォーマンスを37%平均で上回るだ ろうということになります。  ですから、これが何を意味しているかと言うと、こういうのは市場平均に対してより上回 ることをアウトパフォームと言うのですが、雇用という要素は企業価値に長期的に見るとい ろいろと効いてくると。これは単に表彰された企業を乱暴に買っているだけなので、財務的 にもう少し買える会社とか、買えない会社というのは絶対にあるわけですから、そういうも のを選んでいくともっと高いパフォーマンスになる可能性があるのですが、非常にきれいな 結果が出ております。  これは当社の吉野というのですが、クオンツアナリストでは10年ほど日経のランキング で1位を取っている人間がこういう分析をしておりまして、こんな結果が出ています。もう 1つおまけですが、これはファミリー・フレンドリー企業表彰でやると均等ほどはきれいに 出ないのですが、似たようにパフォーマンスが上がるという結果が出ております。ですから、 雇用という要素は非常に企業価値に効いてくるということはある程度わかってきているの ですが、これから具体的にどの数字がどう結び付くのかということに関しては、これからで あると。ただ、投資の世界では非常に注目されるようになってきている。  結局、EとSとGと企業の関係ということですが、基本的に投資というのは財務数字を見 てやるわけですが、EとSとGがあって企業は収益を上げることができる。人がいてコミュ ニケーションをとって、その社会の仕組みの中で資源や材料を使って、それをきちんと運用 して、最終的に決算を上げるということであれば、EとSとGというのは企業価値に結び付 くということです。  最後にゴチャゴチャ書きましたが、ここはあとでお読みいただくということで、時間もオ ーバーしていますので、どうもご清聴ありがとうございました。 ○樋口座長 ただいまの報告について、ご意見、ご質問があればお願いいたします。 ○加藤委員 3つほどお伺いしたいことがあります。1つは、ESGを目的としているという ことを最初に伺って、それはすごいと思ったのですが、ESGが目的なのか、ESGをやってい る企業の価値が高いからなのかということです。つまり、ESGが目的関数なのか、それとも 企業の価値が目的関数で投資をしているのかということです。2つ目はちょっと申し訳ない 質問で、先ほど均等推進企業あるいはファミリー・フレンドリー企業の株価が上がっている とのことでしたが、因果が逆ということはないですか。つまり、非常にいい企業だから均等 推進やファミリー・フレンドができるという解釈はできないかということです。3つ目は、 ESGなどといったことをやっている企業ほど企業価値が高い、ということの実証的な分析は このアンケートだけなのですが、エビデンスのようなものはあるのでしょうか。以上3点に ついて教えていただければと思います。 ○大和証券グループ本社CSR室長河口氏 ESGは目的か、結果かというところでは、人によ って言い方を変えるのがいいと思うのです。2つ目の質問にも関わるのですが、どちらが原 因で、どちらが結果かということを分析してもあまり意味がなく、投資の場合は相関関係が あれば、投資家としてはこれが上がるということが分かれば、ある意味銘柄をピックすると きはいいということもあります。また、厚生労働省から出されているいろいろな調査の中で、 以前、ワークライフバランスと企業価値といったことで調べたのですが、基本的にESGに配 慮した会社のほうが、長期的に企業価値が高いということが多く言われておりました。良い 会社とはどのような会社かということを長期的に分析するということです。  『日本の優秀企業研究』を書かれた経済産業省にいらした新原浩朗さんという方は、何千 社という企業を分析し、その中で本当に優秀な30社ぐらいの企業を分析しているのですが、 6つの条件が出てくるのです。6つの条件の中に企業戦略がいいというのがあるのですが、 そのうちの3つがCSRに絡むものなのです。やはり、社会に対してどう貢献するかというこ とと、良い職場を提供しているかということでした。やはり従業員満足、言葉は違いますが、 どう配慮しているかといった要素は、いい企業の絶対の条件になってくるのです。そうでな ければ、悪い企業が大きくなってからいい企業になるというか、人に優しくなるというのは 無理です。やはり企業文化、風土というものがあるので、いいことを考えてやっている会社 のほうが、長期的には勝つかなと。  ただ、短期的にそうでない会社がワーっと儲けるということもありますが、日本で老舗と 言われている50年、100年単位の会社の特徴としては、やはり経営倫理がしっかりしてい ることと、状況に柔軟に対応できるが、揺るがない経営倫理があるということと、従業員を 大事にするというのは絶対外せない要素で、長期的に伸びていく。ただ、目先にはいろいろ なことがあるので見えてこないということもあるのですが、基本的にはきちんとした意図を 持って運営している会社がいいと思います。なぜかと言うと、企業を経営する目的がどちら かだからです。儲けるためにやるのか、世の中に寄与するために経営という手法を使うのか。 企業という手法を使ったら、そこには収益がないと持続的ではないから、収益は上げなけれ ばいけないが、収益を上げるために会社を経営しているのか、世の中に貢献するためにビジ ネスをやっているが、それは慈善事業ではないからきちんと回っていくような経営手腕が必 要かということになると、社会のために、世の中に喜んでもらうために事業をやっていくと いう意図で、そこに経営手腕がくっ付いてきているほうが絶対に長期的に生き延びると思っ ております。  私もいろいろな会社の話を聞くチャンスがありますが、長期的に素晴らしい会社だと言わ れているのは、例えばアメリカではジョンソン・エンド・ジョンソンという会社で、たしか 戦争を挟んで70何年間連続増収、40何年間連続増益です。彼らには「我々の信条」という のがあって、1番目に貢献しなくてはいけないのはお客様、2番目に従業員、3番目が社会・ 環境、4番目が株主で、収益は最後に付いてくるというのです。お客様、従業員、社会、株 主という順番と言っている会社が70何年連続増収、増益というわけです。  日本においても優秀企業と言われているところを分析していくと、単に経営戦略がうまい だけではなく、その背後にはものすごい哲学、つまり、いかに人を大事にするかということ がありますから、利益が上がっているからできるというのは逆だと思います。違うと言われ る方もおりますが、歴史的な経緯から見ると、そうではないかと。そのようなことになると、 因果関係を考えても、きちんとした経営をしているからこそ周りに評価され、より高いブラ ンド価値になり、従業員がプライドを持って働くことができ、周りから羨ましがられ、従業 員はより頑張っていい製品を開発する、という好循環のほうが信じやすいという気がいたし ます。 ○宮本委員 大変興味深くお伺いしましたが、9頁のマトリックスについてお尋ねします。 預貯金の側で規模の大きな象限が、ここでは社会的配慮融資になっているわけですが、ヨー ロッパですと、例えばイタリアの倫理銀行、オランダのトリオドスは預貯金で規模が大きい、 いわば間接金融の社会的金融というのが大きな位置を占めていると思うのです。倫理銀行に は何度かインタビューに行ったことがあるのですが、ご存じのように、ローマ銀行のオーソ ライズを受けた都市銀行で、預金者は4つのコースを選ぶことができ、自分の預金が確実に 貸し出される対象を限定できるわけです。イタリアの場合、その中には社会的協同組合とい う雇用にかなり力を入れた協同組合が貸出のコースの1つにあって、雇用との連関も明確で す。  日本のSRI市場の小ささというのは、ご指摘のような年金基金の問題もあると思いますが、 ある種投資文化と言いますか、投資よりも預金に流れる傾向があると思うのです。そのよう な日本の条件を考えたときに、預貯金で行っていく社会的金融、あるいは倫理銀行、トリオ ドスの日本版のようなものが成長していく条件や可能性というのはあるだろうか、ないだろ うか、そこをちょっと伺いたいと思います。  2点目は、SRIの判断基準になる情報の流れについてです。ベルギーのNPOなどはそのよ うな情報を集めて提供しているという話もありますが、日本の中で、企業の社会的な価値を 巡る情報の流れについての見通しや現状を一言お聞かせいただければと思います。 ○大和証券グループ本社CSR室長河口氏 倫理銀行やトリオドスは非常によくやっている と思いますし、イギリスにはCo-operative Bankという倫理的配慮のある銀行があります。 おっしゃるとおり、日本の場合は個人金融資産の50%は預貯金、現預金ですし、株の保有 比率は12%ですから、預貯金型でやるほうがいいのではないかと思います。また、エコバ ンクとか市民バンクというのは数千万円、億円単位ですが、今日の新聞にNPO法人やNPOバ ンクといったところには規制を少し緩めるとありました。しかし、この間規制を強めるとい う話しも一時あり、そうなるとこれらのエコバンクは存続できなくなるかもと危ぶまれまし た。このようなのが現状ですので、日本の金融政策として、これを増やそうとしているのだ ろうか、逆にこちらから聞きたいぐらいですから、政策上できるような仕組みにまだなって いないとのではないかと思います。数千万円という単位でボランタリーでやっているような エコバンクというのは少しはあるのですが、日本の金融機関では、地銀にしてもそういう発 想というのところはなかなかないです。信用組合などといった規模になると、そのような形 で生き延びていこうという発想を持っているところもあるようですが、あまり沢山は聞こえ てこないので、そういった発想の銀行というのも育てていこうという意志があれば、もっと 情報を出したほうがいいかなと思います。  おっしゃるとおり、日本の場合は、株は非常にリスキーだから預貯金型がいいわけです。 先ほど少しお話しましたが、当社グループで売っているワクチン債などといったものは債券 型ですから、基本的に何年か経つと金利が付いて償還されるので、定期預金のような感じな のです。これは非常に人気があって、これらの外債は2,000億円ぐらいをあっと言う間に売 ってしまいました。このように非常によく売れているので、たぶん、日本人は債券型のほう がいいという気はしております。株については株式投資家の層を広げること、リスクをとる 投資家の層が非常に小さいので、そこを広げるところからスタートしないと、ちょっと難し いかなと思っております。  もう1点、ESGの情報についてですが、これは急速に改善されております。1つには、多 くの会社がCSR報告書を出しているということがあります。今までは個別にCSR報告書を引 っ張ってきて、人事の情報として女性の役員比率などを1個ずつ全部転記しなければいけな かったのですが、金融端末を提供しているブルームバーグという会社がありまして、運用会 社はどこでも持っているのですが、それを使うとすべての企業の財務データが一度に出てき て、株価のデータなども全部出てくるのですが、そこにESG情報を載せ始めたのです。Eと SとGを全部合わせると100項目ぐらいあって、労働の話ですと障害者雇用比率、女性の役 員比率、従業員の平均年齢、平均所得、有休取得率などといったデータが取れるので、その ようなデータと財務データをくっ付けて分析することが可能です。先日、それのデモを見せ てもらったのですが、障害者雇用比率でやると、20%ぐらいの海外の企業から全部出てくる わけです。日本は1.8%ですから、かなりスクロールダウンしないと日本企業は出てこない のですが、たしか5%か7%ぐらいのところにユニクロが出てきて、もう少し下がるとヤマ ダ電機が出てきました。これらの会社は、いま業績面で勝ち組と言われておりますが、意外 なところで良い数字が出てくるのだと。  投資家らはいろいろな方法で投資銘柄を絞り込むのですが、たとえば良い会社を銘柄をに 投資したいという投資家に向けて言うのは、例えば障害者雇用比率や女性役員比率でまず銘 柄をしぼってみてはtいうことです。それでよいっ評価を得ている会社がパッと出てくる状 況になっております。そのリストの中からさらに調べて銘柄を絞り込むと良い会社を選べる 可能性がたかまる。ただ、このブルームバーグのデータは各社が出しているCSRデータで すので、算出基準は会社によって違います。国内だけの場合だったり、海外が入っていたり ということがありますので、単純に横に比較してもよくわかりません。特に環境のデータな どは、どこが対象範囲でCO2を出しているかで違ってくるので単純には比較できないのです が、実情に関してはそのようなデータで簡単に分析できますから、いま投資家にそれを一生 懸命宣伝して回っているところです。  いま言いましたように、CSR情報が同じ土俵にないものですから、土俵を統一化しよう という動きがあります。1つはCDSB(Climate Disclosure Standards Board)と言って、雇用 の情報ではないのですが、Climate Disclosure、つまり気候変動に関する情報については国 際的な基準でやっていこうというものなのです。皆さんはIFRS、つまり国際会計基準で会 計を変えていこうということがあるのはご存じだと思いますが、これに平行してCDSBとい うのがあります。Climate Disclosureに関しても世界統一の開示基準をつくろうとしてい ます。IFRSの適用はほぼきまっていますが、このCDSBも一緒にきてしまっているので はないかと思います。  これについては、実際に日本の公認会計士協会から人を送り込んで開発していますし、 CDSBの状況はこうなっていて、こういう情報開示を求めてくるといったことを今啓発活動 やっています。これは気候変動に関する情報ということですが、気候変動だけでなく、当然、 人も重要だという観点になっております。ちなみに、アメリカのSECは今年2月にガイダン スドキュメントというのを出したのですが、これも気候変動に関してきちっと情報開示をし ろと、アメリカの有価証券報告書の中では開示することをほぼ義務づけているというか、そ のような動きがありますので、ESG情報を全体的により充実させていこうというトレンドは、 これからどんどん増えると思います。  いままでESG情報を集めていたのはNPO的な小さい会社だったのですが、そこは現在M&A が起こっていて、MSCI、モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル・パース ペクティブという世界的な指数を作っている会社がESGを調査している所を買収したり、ブ ルームバーグが買収したり、トムソン・ロイターズも買収したりするといったことによって、 こういった情報を金融の主流の情報の中に取り込むという動きが加速化、大手化していると いう状況があります。 ○鶴委員 貴重なお話をありがとうございました。CSRの問題と言うと、やはり企業にとっ て大事だという話はよくあるのですが、なかなか進まない。そのような中で今日の話を非常 に貴重だと思ったのは、私は投資家からの評価が大事だと思うからです。それをやって株価 が上がる、評価されるということであれば、企業はそれをやるインセンティブが出てくるわ けです。イギリスの例や累積超過リターンの話は、先ほど加藤委員が結局良い企業が選ばれ ているのではないかと言われましたが、均等処遇をやっているような企業が表彰されるとい うのは1つのイベントで、新しい情報に株価が反応しているわけですから、収益以外のとこ ろでマーケットは評価しているということになります。先ほど言われたように、それ以外の ところを株式市場はしっかり見ている、投資家は見ているということの大きな証拠ですので、 非常に有益な分析だと思います。  ただ、評価の仕方、解釈の仕方ですが、先ほど少し言われたように、投資家は環境問題や 雇用ということに対して本当に評価しているのか。むしろ、企業としては長期的な視野で経 営している非常に重要なシグナルと考えることができると思うのです。先ほど少し話された 新原さんの『日本の優秀企業研究』の6つの条件というのも、突き詰めて言えば、経営のマ ネージャー・パースペクティブがどれぐらい長いかといったところに全部関係している話で す。もし、投資家がそれのシグナルとして受け取っているのであれば、企業が雇用とか環境 問題などに一生懸命頑張ってやれることが、既にそのような視野を持っていることのシグナ ルかもしれませんが、もしかしたら投資家は別のところを見ているのかもしれないというこ とで、どこまで行っても評価、何を本当に見ているのかというところは非常に難しい問題が あるのではないか。お話されたことと、いま私が申し上げたことは矛盾する話ではないと思 うのですが、話を聞きながらより難しさが分かったという感じがしました。 ○大和証券グループ本社CSR室長河口氏 おっしゃるとおり、経営としてのシグナルという のがいちばん正しいことだと思います。目先の業績の今期、来期というのは、数字を見れば ある程度分析できるのですが、5年後、10年後となると、経営の質、企業の文化や体質とい ったものが影響してくるので、それをどこで見るかというのは環境に対する発想とか、人を どれだけ大事にするか。やはり、人的資源をリソースとして考えると、どこまで大事にする かという要素が長期的にはいちばん効いてくるところだと考えると、従業員を愛しているか ら大事にするではなくても、従業員に対して配慮しないと長期的にいい経営ができないと思 うわけです。目的はいい経営かもしれませんが、そこでやらなければいけないことと言った ら、従業員というのは大きな要素として落ちてくるという発想をする。従業員のために寄付 しているわけではないわけですから、それならば長期的な経営判断としてそのような要素を 重要視していくと。目先搾取型ではなく、共存共栄型が、結局自分にとってプラスであると 気が付いている経営者であれば、それは長期的な視野で物を見ているのです。  イベントのシグナルというお話があったのですが、残念ながら、投資家は均等推進企業表 彰のデータを日々楽しみに見ていて、それが出たらオーっと言って買うなどということはな いです。逆に、イベントですからいったん上がっても、短期的はその値上がりははげてしま って、60カ月でのパフォーマンスにはつながらないと思います。、イベントが終わると下が るというのが株価なのです。投資家はそのようなところをウォッチしていないが、何だかん だ言っても、この会社の新製品はすごいとか、最近は店舗も拡大しているし、伸びていると いったところで買うのだと思うのです。  そして、なぜ新製品が出たのか、どうして店舗が拡大し、お客がどんどん来るようになっ たのかということの背後に、企業の取組みとして、やはり風通しのいい職場を作るなどとい った体質があり、結果としてこの新製品が生まれたということがあるわけで、やはり底流に ある体質的なところをどう改善していくかという部分だと思うのです。投資家が見ているの は、たとえばフィギアスケーターがトレーニング体質を改善した結果、その人がどんな素晴 らしいジャンプを見せてくれるかということだと思うのです。そのジャンプができるように なったところを評価していくわけですが、きちんとしたきれいなジャンプができるためには、 体質も改善しなければいけないし、美しく踊るためにはバレエも勉強しなければいけない。 人の問題は、体質改善やバレエの練習のほうです。でもフィギュアスケートで見ているのは、 どれぐらいバレエを練習しているかではなくて、いかにきれいにジャンプしているかを見て いるのです。きれいにジャンプするためには、必要条件としてバレエもやらなければいけな いということがある、そのような違いではないかと思うのです。 ○樋口座長 その他何かあれば、お願いいたします。 ○阿部委員 非常に興味深いお話で、特に、海外でSRI市場が非常に拡大しているのに対し て、日本はほとんどないに等しいといったところを非常に興味深くお聞きしました。私の記 憶が正しければ、たぶん7、8年前、厚生労働省には労働に関するCSRの研究会がありまし て、私も出席しておりました。そのときに、SRI市場を拡大するためにはどのような政策が 必要かという議論があったと思うのです。その際、私自身は年金基金をSRIに投資してはど うかということを言って、たぶん議事録には残っていると思いますが、7、8年前からどの ような政策が行われてきたかということを一度整理してはどうでしょうか。たぶん、ほとん ど何もしていないのではないかと思うのです。厚生労働省の中でも2回ぐらいSRI、CSRに 関する研究会が行われて、そのときにいろいろな問題が整理されていると思うのです。  それをやっていただいてから今から何をするのかというのを議論しないと、何が問題にな っているかが分からないというところがあるのではないかと思います。私はわからないです が、取りわけ、日本の市場でSRI市場があまり伸びなかった理由として年金基金の話が出ま したが、もしそうだとしたら、7、8年前議論したのは何だったのだろうかと思ってしまい ます。別に今すぐどうの、こうのではないのですが、これから何をするかといったところで も、その辺りは非常に重要な問題になるのではないかと思います。 ○大和証券グループ本社CSR室長河口氏 その点について少し補足したいのですが、SRI市 場が欧米で広がっている理由は投資家が自発的で、みんな天使のような人たちというわけで は全くなくて、やはりいろいろな規制があるのです。イギリスの場合は2000年に年金法が 改正され、年金法は運用方針を開示しなければいけないのですが、ESGに配慮しているかど うかを明示しろという法律ができたために、我々はそういうことに配慮はしていませんとは なかなか書けないというのがあって、いきなり年金基金の7、8割ぐらいが方針に入れられ たわけです。ただ、この方針においては、経営理念はこの辺に掲げてあるが、どこまでやる のかということになるとまだ温度差があって、真面目に取り組んでいるところは2、3割で す。しかし、取りあえず、「何だ、これは」ということで全員が勉強したためにマーケット が広がったわけです。  また、ヨーロッパの他の国でも似たような法律ができたというのもあります。スウェーデ ンのすべての公的年金はパフォーマンスの追求と同時に、環境と倫理に配慮しなければなら ないということが、同じころにできた公的年金の法律の中に入ってしまったということがあ ります。フランスでは退職年金基金準備制度というのがあって、これは2003年にできまし た。フランスの場合は積立法で、賦課方式で年金基金をずっと回していたのですが、これで は行き詰まるということで積立法の年金基金としてFRR(フランス退職年金準備基金)がで きたのです。  もう1つ2つ似たようなの基金ができているのですが、フランスの場合は労働組合が非常 に強く、労働組合はこの賦課方式が年金の趣旨であるべきで積立はいかんと、資本家階級を 利するようなのはいかんということだったらしいのです。去年、取材に行ったのですが、労 働者の連帯から考えるとつめたてで運用することはいけないということだったらしく、ただ 積立にしないと年金制度がもたない。労働組合を説得するために、積立にすることは労働者 の権利にも配慮したSRIなのだからいいでしょうという形でやったわけです。ですから、SRI は当然やらなければいけないということになって、そういう需要があればマーケットも広が る。マーケットが広がれば、当然ESGに対する調査機関や、よりいい運用サービスも出てく るということです。しかし、日本の場合はマーケットが小さいから、調査機関なども育たな いし、いい運用商品のアイディアもない。  年金シニアプラン総合では私もいくつか研究会に入っておりまして、日本の年金基金につ いてのアンケートを取ることがあるのですが、いいSRIの提案が来ない、考え方はわかる が、実際に来るプランはよくない、よく分からない、何でそんなことに投資しなければいけ ないのか、社会的にそのようなことに配慮するというのがないというのがあります。オラン ダも非常に熱心ですが、なぜ火が付いたかと言うと、オランダの年金基金がクラスター爆弾 を作っている会社に投資をしているみたいなことがマスコミで大々的に取り上げられ、これ が大変な社会問題になったのです。年金基金が何でクラスター爆弾に、私たちの老後を保障 するお金でクラスター爆弾なんてあり得ないと。年金基金はクラスター爆弾などに投資して は絶対いけないというところから始まって、ソーシャルなところをどんどん広げていったわ けです。  また、労働組合が年金基金とはワーカーズ・キャピタルである、労働者のためにきちんと リターンを上げることが重要であり、彼らのオーナーシップとして配慮したいと。ちなみに、 連合が昨年12月からワーカーズ・キャピタルということで、いまSRIの評価基準を作って おりまして、今年の10月か11月にはできるはずです。今年2月にそれの勉強会があるので 少し話してきたのですが、なぜ、やらなければいけないのかというところから始まり、どの ようなガイドラインかと。ガイドラインはあまり細かいことは言わないで、EやSやG、社 会と人権と労働者の権利にも配慮しましょうぐらいのラフな一文ですが、それが入ることに よって実際に評価に落とし込まれ、動いてくるのです。それができたら、連合は連合会に持 っていくし、各組合は自分のところの企業年金に持っていくことになっております。最終投 資家のディマンドがなければ、いい意志だけでは動かないということです。  ただ、市場というのは声の大きい人が勝つというところがあるので、いくらいいなと思っ ても、例えば環境に配慮しているサインを買いのサインだと思う投資家が1人しかいなかっ たら、マーケット全体は動かないことになります。そのようなことで最初に買って動かなか ったが、みんなが環境はいいと言ってついてきたら、株価は上がってきます。しかし、本来 はみんなが気付く前に買うのがいちばん正しいのです。EとSとGで買っていたら、こんな に上がったというようになってくると、ウォッチする人がだんだん増えてワーっと上がって くるし、マーケット自体、投資家自体も進歩するという構造になってくると思います。 ○樋口座長 厚生労働省から何かあれば、これからの宿題ということでお願いいたします。 最近いろいろなところで、政策金融においてもSRIを重視した融資、あるいはソーシャル・ エンタープライズに対する融資額の目標額を設定したりというのが始まっているので、今後 期待できるかなと思います。本日はお忙しい中、お時間を頂戴いたしましてありがとうござ いました。  それでは議論を続けます。今日は労働市場から見た賛助社会のあり方について、さらには 企業行動や消費者行動、労働者を取り巻く公的な枠組みについて資料が用意されております ので、それについて事務局より説明をお願いいたします。 ○平嶋雇用政策課長補佐 資料2と3について説明いたします。今回は狭義の雇用政策とい うよりは、一歩広い形での枠組みになっております。最初に、企業行動と消費者行動につい てです。3頁、これは経済産業省の資料ですが、日本企業を海外企業と比較し、同一産業の 中に多くの会社があるのではないか、ということが言われております。下のグラフは産業内 で上位10社あるいは20社を、海外の企業と日本の企業について、グループ企業も含めた収 益を比較したもので、海外企業に比べ、国内企業は低いのではないかということが指摘され ております。  4頁は、世界市場における日本のシェアです。日本企業は新製品をいろいろ開発するわけ ですが、世界の中で広がってくると、相対的にシェアが低くなってくる傾向があるというこ とです。5頁は小売業事業所の営業時間の推移で、上が事業所数、下が従業者数による構成 比となっております。いちばん右が終日営業ですが、2007年の事業所の割合は4.2%、従業 者数の割合は11%となっております。  下請取引についてさまざまな問題が指摘されておりますが、6頁は下請代金法の厳格な運 用、あるいは下請かけこみ寺の体制強化といった取組みが行われているということです。7 頁は労働生産性の伸び率で、以前の研究会でもお示ししたものですが、近年、上昇幅が非常 に低下しているということです。8頁は国際比較で、OECD加盟30カ国中、20位という低い 水準にあることが指摘されております。  9頁は消費者動向の経年変化ということで、近年安いものがたくさん売れるのではないか とよく言われており、さまざまなところで値下げが行われておりますが、消費者にアンケー トを取ってみると、安くて経済的なものを買う割合は若干低下してきており、むしろ品質の よいものを買う、ライフスタイルにこだわって商品を選ぶ、できるだけ長く使えるものを買 う、先ほどの環境などといったこだわりの傾向も出てきていることが指摘されております。  10頁以降は、企業・労働者を取り巻く公的な枠組みについてです。11頁は税・社会保障 制度で、年収103万円、130万円を区切りとして、税や社会保障の対象になるということで す。右下は夫の年収が500万円だった場合、妻が就業調整をすると世帯収入はどうなるかと いうことを表しておりますが、103万円、130万円のところに段差がありまして、150万円 ぐらいになっても、100万円のところにはなかなか届かないということです。  12頁は就業調整についてです。パート労働者では約2割が就業調整をしており、その理 由としては、103万円で税金を払わなければいけない、配偶者控除がなくなる、自分で健康 保険等に入らなければいけないといったことが挙げられております。13頁は給付付き税額 控除で、1ドル106円換算で、アメリカの場合をグラフ化しております。年収が低い段階で は、年収の増加に合わせて給付が増えていく、一定段階を超えると給付が減額されていくと いうことです。これは「税額控除(給付)」となっておりますが、税額がこれを上回る場合 は控除されますし、下回っている場合はその差額が給付されるということです。また、子女 税額控除というものも、合わせて組み込まれております。  14頁は、昨年末の税制改正大綱でまとまっている話ですが、配偶者控除の見直し、扶養 者控除の見直し、給付付き税額控除について検討を進めるということです。15頁は年金、 医療、介護、労働保険で、その対象に応じてさまざまな制度になっているということです。  16頁が福利厚生費で、法定福利費は年を追ってずっと上がってきており、1970年代に比 べると倍ぐらいになっています。法定外福利費は緩やかに減少しています。法定外福利費の 中身についても、以前は社宅等のハコもの的なものが多かったわけですが、最近は人間ドッ ク、メンタルヘルスへの助成などのヒトもの的なものに変わってきています。  17頁の年金制度と高齢者就業に関する研究ということで、樋口先生、黒澤先生のものを 引用させていただきますが、年金制度の改正は高齢者の雇用に非常に影響を与えるというこ とが研究されております。  18頁は医療・介護関係従事者の平均年収です。年齢階級ごとにとっていますが、ほかの 産業に比べて比較的フラットな動きになっております。なかなか賃金上昇はしないというこ とです。これは記述が不正確ですが、産業計の所定内賃金が約300万円ということで、例え ばホームヘルパー、福祉施設介護員は200万円程度となっています。  19頁は医療・福祉業の各県における有業者の割合です。大都市部と思われる所をピンク にしておりますが、7〜4%ということで、かなりばらつきがあります。あと比較的地方部と いうか、そういう所については割合が高いのではないかと思います。  20頁は諸外国の失業保険制度で、各国を挙げております。例えば、給付期間を見ますと、 日本は現在90〜360日となっておりますが、米・英では182日、ドイツは24カ月、フラン スも50歳未満で24カ月、50歳以上は36カ月、スウェーデンは300日となっています。欄 外の下に書いてありますが、イタリア、オランダ、ベルギー、スウェーデンなどでは給付が 長期にわたると減額するような制度が組み込まれています。  22頁は諸外国の失業扶助制度で、雇用保険終了後等に失業扶助がイギリス、ドイツ、フ ランス、スウェーデンで設けられております。いちばん下が給付期間ですが、イギリス、ド イツでは65歳程度まで受給可能です。フランスは6カ月、スウェーデンは300日となって います。  23頁は、ILOで我が国は失業給付を受けていない人の割合が77%と指摘されています。 これについて1997年ごろには受給者比率のほうが6割ぐらいあったということですが、現 在は3割程度に低下しています。こういったこともあって、適用範囲の拡大、雇用見込み 12カ月以上を6カ月に短縮し、今回は31日以上に短縮しており、現在は個別延長給付とい う、もともとの給付日数を年齢、地域等を踏まえて60日間延長するということをやってお ります。  24頁の第2のセーフティネットについてですが、第1の雇用保険と生活保護を結ぶ間の 第2のセーフティネットについて、就職安定資金融資、住宅手当、その他いろいろな取組み を行っているところです。  求職者支援制度は、雇用保険を受給できないような方に対して、訓練と給付を併せて提供 する。現在、緊急雇用対策として行っていますが、制度化するということで雇用保険部会の 中で訓練の内容、給付の在り方について、現在検討を行っているところです。  25頁はいろいろ項目が変わりますが、保育サービスの不足です。現在、保育サービスは 213万人ほど提供されていますが、2万5,000人ぐらいの待機児童がいます。  26頁は「子ども・子育てビジョン」をまとめており、保育サービスを受けている子ども の割合は、いまは3歳未満児の4人に1人ですが、平成26年には3人に1人に引き上げて いこうということで取り組んでいるところです。  27頁の教育です。これは文科省のモデル的なイメージになりますが、標準的な、例えば 世帯主が30歳で結婚して2人の子どもを持った場合に、どういうことになるかをモデル的 に示しているものです。子どもが大きくなるにつれて教育費の割合がどんどん上昇していき、 高校、大学辺りになると3割程度の負担になるということが試算されています。  28頁は子ども手当です。現在は月額1万3,000円が支給されています。高校の無償化と いうことで、公立学校については無償化、私立学校に通う方については、最大で月2万円程 度の助成が受けられます。  29頁の教育については、PISAの調査で、日本の科学的リテラシー、読解力、数学的リテ ラシーのいずれも近年順位が低下していることが指摘されています。  30頁は、企業が大学・大学院に何を望むかということです。文系の学生については「知 識や情報を集めて自分の考えを導き出す訓練をすること」というのが非常に多くなっていま す。理系の学生については「専門分野の知識をしっかり身に付けさせること」ということが、 アンケートで出ています。  31頁は、住宅費の支出ということで、大都市、中都市、町村に分けてみますと、1990年 以降、大都市を中心に住居関係費の支出が増大していることがわかるかと思います。  今回は資料3で論点を用意いたしました。SRIについては先ほどご議論いただいたとおり です。  日本企業の国際競争力について、先ほどの同一産業内に多数の企業があって、国内市場で の競争で体力が消耗して、国際競争力の低下につながっているのではないか、という指摘が ありますが、こうした状況をどう考えるか。下請取引の適正化について、厳しい状況が指摘 されていますが、どう考えるか。労働生産性について、世界的にも低い水準にありますが、 今後の国際競争の向上を図る上でどう考えるか。消費者行動について、消費者ニーズの変化 に適切に対応することで、雇用にも好影響を与える余地があるのではないか。  税・社会保障について、労働者の就労を阻害しているものもあるが、どう考えるか。ある いは税・社会保障を財源にするような分野の就業者の賃金の在り方について、どう考えるか。 失業者に対するセーフティネットについて、各国の状況を踏まえてどう考えるか。これまで 企業が担ってきた保育・教育・住宅支援について、社会保障の在り方とあわせて、社会全体 でサポートすることが必要との指摘もあるが、どう考えるかなどということを、ご議論いた だければと思っております。以上です。 ○樋口座長 それでは、フリーディスカッションに移りたいと思います。多岐に渡っており ますので、2つに分けて議論していったらどうかということを提案いたします。まず最初に、 例えば資料3でいきますと、最初の頁に関わるSRIは終わりましたので、2番目から4番目 までのテーマ、そのあとは2頁の公的な枠組みについてという形でご議論いただけると整理 しやすいかと思います。  この雇用政策研究会のレポートをまとめる上で、当初、問題提起をした個人の働き方、暮 らしという視点から、産業とか社会を眺めたときに、果たしてどんなことが言えるのだろう か。あるいはどのような姿にしていくべきだと考えるのかといったところで、この図表を用 意していただきました。  まず最初に企業の競争力の問題、その中における例えば過当競争になっているのではない か。そのことが企業の収益率を下げ、結果的に労働者の賃金を抑制するというデフレ状態を 続けているのではないか、という議論があるわけで、そういった産業政策について、どう考 えたらいいのかということでまとめていただいておりますが、その点に関して何かありまし たらお願いします。 ○鶴委員 3頁の資料は経済産業省の産業構造審議会の資料ですが、ちょっと話題になった 資料だと思います。結論から申し上げると、たぶん経済産業省のこういう問題に関わってい る者の中でも、必ずしもコンセンサスになっている話ではないのではないかということです。  競争がこのような悪い要因を起こしているというような議論は、実は日本でもほかの世界 でも、景気が悪くなると必ず出てくるのです。それで過当競争だと。ついては企業を合併し たほうがいいのではないかということで、独占禁止法の政策も、それで非常に影響を受けま す。  では、結果的に合併したらうまくいっているかというと、実証分析の結果などを見ても、 必ずしもパフォーマンスが改善しているわけではないということです。事実関係としても、 日本の状況を本当に過当競争として考えることが適切なのか。経済学的にも独占利潤とイノ ベーションの関係などというのはいろいろな研究があって、実証的にも理論的にも、たぶん 競争が非常に激しいほうがいいのか、独占利潤があるほうがイノベーションが盛んになるの か、これも必ずしもはっきりした結果は出ていないのです。だから、こういうことで体力の 消耗、国際競争力の低下になっているということで、論理を考えるというのは非常に難しい なと思います。  1つ考えなければいけない点は、非常に同質的な財について、極端な価格競争が行われて いるような状況を考えると、確かにいちばん低い価格に収斂していくということなのです。 いま日本企業もそういう競争ばかりをやっているわけではなくて、非常に付加価値の高いも のを作る、商品の差別化をするということもやっているわけです。そういう競争と、単なる 価格競争というのは当然違うし、消費者に対しても、先ほどご説明があったように、単なる 価格だけでみんなが買っているわけではないですよねという話も出ているわけです。だから、 健全な競争をやる、競争は基本的にいいことだということで、ここはちょっと整理をして、 基本的な認識を持つべきではないかと思います。 ○樋口座長 いまの点と関連しますと、5頁に小売事業の営業時間の長さの問題で、長時間 にわたって開業しているようなお店がだいぶ増えてきているということで、ここについても 最近、いろいろな議論があるかと思います。そのことが結果的に労働者の労働時間を延ばし ているとか、元旦から営業するということが労働者の生活を乱しているのではないかという こともあるわけですが、こういった点について、何かご意見はありますか。これも鶴さんの 言葉でいえば、競争の在り方について、どう考えるかという話ですか。 ○鶴委員 そうです。ここの話で非常に難しいのは、消費者の立場から言うと、確かに営業 時間も含めて、いろいろな財が、より選択肢が多くなって、供給の選択肢が増えているとい うことで、そこは非常にプラスである。  ただし、おっしゃるように長時間労働になっています。特に最近の研究で、東大の黒田さ んを中心に、例えば夜間などの営業に関わっている方々というのは、当然のことながら非正 規の方々が非常に多いわけです。自分で望んでやっている方もいらっしゃる中で、どうして も変則的な時間を選ばないと仕事が見つからないという方々も多くなっているわけです。だ から、こういうサービスというのは、実は非自発的な非正規雇用の方々によって支えられて いる部分もあるので、たぶんそこをどう評価するのかという話だと思います。 ○樋口座長 小杉さん、何かありますか。 ○小杉委員 プリミティブですが、やはり長時間労働をきちんと規制するというのは非常に 大事ではないかと思います。そこをしっかり規制すれば、競争が即、非正規労働者たちの環 境を悪くするということにはならないと思っているのですけれども。 ○樋口座長 他にどなたか、いかがですか。 ○橋本委員 いまのご指摘に補足しますと、2、3年前に話題になった多くの紛争がありま す。小売業に従事する店長が管理職扱いをされて、残業代がもらえず、名ばかり管理職とい うことで訴訟にもなって、大きく取り上げられたかと思います。そういう紛争になると、そ のとき実際には経営的な立場で人事管理や経営に参画していたわけではないということで、 管理職と見るべきではなく、通常の労働者だということで残業代を認めるという争いになる のですが、本質は長時間労働で営業しているというのが問題ですので、いま議論されている ような営業時間の規制という形でないと抜本的な解決は難しいのではないかと思います。 ○樋口座長 反対意見はありませんか。ショップあくつが、ドイツ辺りでは逆に緩められる という方向になってきて、日曜日も開店していることを認めるというものも、ドイツ全体と いうよりは州によってあるわけです。そういうのとは逆に今度は何時以降は営業はしないと いうことを法的に云々となると、逆にいろいろ摩擦が起こる可能性もあるかと思いますが、 そういったことはいかがでしょうか。 ○橋本委員 先生のおっしゃるとおりです。直ちに実現可能かと思っているわけではないの です。ドイツはおっしゃるとおり、規制は緩くなっていますが、実際には営業していないの です。コンビニのような24時間営業というのは、基本的にありませんし、文化において違 うのかなとは思っています。そういう意味で直ちにどこでも24時間営業かというと、そう ではないと思います。 ○樋口座長 ほかの問題も含めて、その前に下請取引の適正化について、これは中小企業庁 というか経産省の政策として、そのガイドラインを強化するという形をとってきているかと 思いますが。金曜日の夜発注して月曜日の朝まででいいという話も、冗談めいて言われるわ けですが、ワークライフバランスの視点からは望ましくないという議論もある一方で、仕事 を取るためにはということになると、そこでの競争がどうしても起こってくるという可能性 もあるという感じがするのですが、宮本先生、何かありますか。 ○宮本委員 素人ゆえに言える初歩的な話で許していただけるならば、先ほど来のドイツは 規制緩和の出発点が違うと思うのです。同時にライシュが言っているような私たちの中で働 き手であるということと、消費者であるということの二面性で、働き手であるところの仕切 りがなかなか厳しくて、辛ければ辛いほど消費者になったときに高いディマンドを持ってく るという悪循環が進行していると思います。もし、この議論が報告書の1つの素地であるな らば、是非報告書の中ではそこでもう一回消費者と働き手というのは一体なのだという、極 めて基本的なことに再考を促すような文言が欲しいかなと思います。 ○玄田委員 いろいろなことをまとめて申し上げますが、8頁で生産性が日本は30カ国中、 20位で低いというのを、どう考えるかということです。これまでの考え方だと、やはり低 いな、何とかしなければいけないなと。そうすると、もっと生産性の高いものを作ろう、高 付加価値化だとか、良いもの作ろう、高品質のものを作ろうという話に慣れ切ってしまって いて、大変だなと思うのです。  本当にそれだけをこの数字は意味しているかというと、もしかしたらちょっと違うかなと いう気がするのは、高品質化と同時に、いま足りないものは、いい言葉が思い付きませんが、 独自の営業力みたいなものが、日本は弱まっているのではないか。どうしてもものづくりと いうので、いい物を作っていれば、きっと誰かがわかってくれて、買ってくれるという発想 からまだまだ逸脱できないのです。  実は下請けの問題もそんな気がするのは、例えば、福井県に鯖江という国内の眼鏡の9割 ぐらいを作っている所がありますが、すごく安い値段で作っているのです。つまり、OEM生 産で、その辺で何万円もする眼鏡を作っているのですが、入ってくるのは2,000円ぐらいな のです。そういう体制であるときに、致し方ないかと思いますが、絶対子どもに継がせよう などとは思わないのです。そうすると福井とか、鯖江が考えているのは、本来はOEMではな くて、自分で作って、自分で売れる力があるはずなのに、そういう発想がないから、営業力 を持とうなどというのがないので、悲しい状況にずっとなっているのです。  いま日本で問われているのは、もしかすると大学の世界もそうかもしれませんが、いい論 文を書いていれば、絶対認められるなどということは全然なくて、どうやって自分でアピー ルしていくかとか、打って出ていくかなどという発想を持っていかないと負けてしまうので はないか。もうかなり負けているというか、その辺は韓国などはかなり割り切ってしまって、 そういう勝負をしている感じがするのです。  消費者行動もそうで、安い物を求めているのですよねとか、24時間便利に買えるものが 欲しいのですというのは、どうも現実とは違って、どちらかというと、9頁を見ていると、 みんな納得して買いたいと思っている感じです。納得して、これはと思う物を買いたいと思 っているような感じが強くなっています。私はお金がないから失敗したくないので、納得し て買いたい。どうしたら納得して買えるかというと、ちゃんと営業してもらって、ちゃんと コミュニケーションをとって買おうという、その辺のものづくりと消費者との間をつなぐ営 業という言葉がいいかどうかわかりませんが、そういうものが日本はかなりヤバくなってし まっているのではないかということではないかなという気がしています。  それでは、その仮称営業力みたいなものを高めるような雇用政策などは、たぶんないと思 いますが、平成の近江商人育成計画でも、何でもいいのですが、考え方の観点を、いいもの を作れば、絶対誰かが買ってくれるという社会ではないというのがグローバル社会なのだと みなして、そういう力を育てるみたいな感じに。とりとめのないことを言っていますが、こ ういう生産性とか、下請けとか、消費者行動とか、数字をまとめてみると、私はそう思いま す。 ○加藤委員 生産性と、もう1点同じようなお話をしたいと思います。生産性というものの 見方は非常に難しいのではないかと思います。生産性は大事ですが、失業を減らすと労働生 産性は上がります。人の数が減れば、当然労働生産性は上がるということになってしまいま すので、労働生産性で国際比較をする見方が、果たして本当にいいのかと昔からよく考えて いました。  日本の場合、生産性の上昇率というと、それほど高くありません。逆にいえば、雇用を増 やせば生産性上昇率は下がる可能性もあるので、本当はここはTFPで見ていかなければいけ ないのではないかと昔から思っていました。TFPと就業者の関係も話をさせていただける機 会があればしたいと思いますが、これからのことを考えると、TFPに対して労働者がどのよ うに関与できるのか、ということをやっていかなければいけないのかなというのが1点です。  先ほどの24時間ですが、この間夜中に私の友人のパソコンにウイルスが入ってしまい、 自分では駆除できないということで、パソコンのメンテナンスの会社に電話をしたら、24 時間やっているのです。24時間やっていて、夜中がいちばん繁盛期だと。つまり、ITでみ んなが仕事をして、家に帰ってパソコンを使って見ているときの繁盛期は24時間ですので、 うちの会社は24時間開けていないと仕事にならないという所もあるという話でした。 ○鶴委員 ここで生産性とか、競争をするから、国際競争力といういくつかのキーワードが 出てきているのですが、私は少し分けて考えたほうがいいと思います。一国の生活水準を決 めるのは生産性で、それはTFPを見るのがいいのではないかというのも本当はあるのだと思 いますが、それはやはり非常に重要で、そこを着実にどれだけ高めていくのかというのは、 国の政策としては非常に大きいのです。一方、その生産性と国際競争力が必ずしも結び付い ているかというと、そこはたぶん別なのだと思います。  最近の問題点は、かつてよりも日本が内向きになっている。海外の市場で、ほかの国の製 品とどれだけ鎬を削っていくのかというところに関しては、感覚的なのですが、むしろ昔よ りも相当弱くなっています。先ほど玄田先生が言われた営業力というのも、むしろ国際的な 営業力というところが非常に落ちているのではないか。感覚的な話で恐縮ですが、そういう のが実感として持つような部分はあります。そこはちょっと区別して考えたほうがいいとい うことです。  それから、労働時間の問題は非常にいろいろな要素を全部含めているので、十把一絡げに、 長い労働時間はけしからんから、それを政策的に短くしようということをあまりやるのも副 作用が非常に大きいと思います。  下請けの問題もそこで働いている人たちのバーニングパワーが、ほかの企業よりも非常に 弱い。本当はこんなにきついのだったら、職探しをして辞めたいのだが、職探しをする時間 もない、ほかのオルタナティブもない。要はそういう状況にいる人ほど、そういう状況に置 かれているとしたら、やはり別途通常の場合とは違った考え方をしなければいけない。そう いうところに着目しないと、十把一絡げに労働時間を規制すればいいのではないかというこ とは逆の副作用も生じるので、私はあまり良くないのではないかと思います。 ○樋口座長 オルタナティブで最近、べーシックインカムの議論がありますね。最低限の生 活は、すべての国民に保障するのだということです。例えば、転職のときに仕事がなくなっ て、もし失業給付がもらえればそれでいいわけですが、もらえなくなったときに別の形で社 会保障で給付をしていくというようなものに対しては、どうお考えですか。 ○鶴委員 これはここにいらっしゃる先生方で、かなり意見が違うと思います。何かあった ときのセーフティネットというところについては、これまで足りなかった部分があって、そ れを何とかしなければいけないし、そこの中に欠けていた方が非常に多かった。それを政策 的にも、最近はかなりできてきたなという感じを持っています。  ただ、ベーシックインカムというのは、そういう意味では十把一絡げの問題にまた戻るわ けです。どういう状況でも、みんなある一定の額は政府からもらえて、それをもらって、逆 にいうと、あとは政府は何もやらなくてもいいと。そこはいろいろ論者によって違うのかも しれませんが、私は働くこと自体が、人間にとって非常に大きな喜びというか、根本的なも のを与えているわけで、それに対してそのような考え方というのは、どうしてもマイナスの 影響を与えるということなので、その1点から、私もどうしてもそういう考え方に全面賛成 という形にはなりません。ただ、セーフティネットはきちんと考えなければいけないという ことを議論している流れの中では、もちろん理解できる部分もあるのです。 ○樋口座長 たぶん駒村さんは何かしゃべりたいだろうと思います。 ○駒村委員 全く鶴先生のご意見と一緒で、全く賛成です。 ○宮本委員 ベーシックインカムかワークフェアか、あるいはアクティベーションかという 二分法にしてしまうと、ややミスリーディングなところがあると思います。むしろ勤労所得 代替型の所得保障、つまり社会保険であれば、これは従来労働市場で勤労所得だけで生活で きる水準が確保していた場合、その所得が中断したときに、社会保険で所得保障をするとい う形があったわけですが、所得代替型ではそもそもの勤労所得が低い水準になってしまって いるわけで、所得補完型の所得保障とでも言いますか、そういう意味でのベーシックインカ ムというのは、就労インセンティブと全く矛盾しない。  むしろベーシックインカムというのを広くとるならば、負の所得税から、給付付き税額控 除等の流れに至るまで、もともとは子ども手当も扶養控除や配偶者控除をなくして行政が就 労したことを前提に、その所得を補完するという意味合いだったわけです。そういう意味で 補完型所得保障という捉え方をするならば、ベーシックインカム的な制度はアクティベーシ ョンと全くもって両立をすると。むしろ一定割合で必要性が高まっていると言ってもいいの ではないかと思います。 ○樋口座長 これでいうと2枚目に入っていきたいというか、もう入っているのですが、公 的な枠組みというところで議論をお願いします。 ○駒村委員 資料の23頁ですが、失業給付を受けていない失業者の割合が、おそらく上昇 しているのだろうと思います。ただ、この評価が難しいのは、この人たちが一体どういう人 たちなのか。だからと言って、直ちにセーフティネットが必要なのか、貧困状態になってい たかどうかというのは、直ちにはわからないわけです。家計補助的な人なのか、どうなのか ということにもよりますので。だから、失業給付を受けていない失業者たちがどういう収入 で生活をして、どの程度の生活状態になっているかというのは知りたいと思っています。  というのも、24頁の求職者支援制度が具体的な制度設計になってきて、日本版失業扶助 みたいなものを作るかどうかということですが、そこでは生活保護との役割分担というか、 あるいは連携というか、そういう部分も必要になってくるだろうと思いますし、訓練の実施 主体についての議論、あるいは自営業者の廃業者をどう考えていくのか。給付水準、期間を どう考えていくのかというのは、非常に難しい問題が入ってくると思います。これは是非、 今後もどういう議論が行われているかご紹介いただきたいと思っています。厚労省が、いま どのように考えていらっしゃるのか、あるいはデータに基づく議論がどの程度行われている のかを教えていただきたいと思います。  また住宅の話が最後の頁で出ていますが、なぜ住宅なのかというのは、ここからすぐには 読み取れないわけです。正規で就職して結婚して住宅を持つという標準的な住宅保有パター ンが随分崩れてきて、非正規のままの方もいれば、結婚しない方も増えてくる中で、日本に なかった住宅政策、すなわち持家政策ではない住宅政策を、低所得者に対して考えて、この 数字が出てきたのか。なぜ最後に住宅関係費支出が出てきたのかというのは、すぐにはわか らなかったのですが、その辺、少し問題意識を教えていただければと思います。 ○樋口座長 これは厚生労働省でお願いします。 ○坂口雇用保険課長 1点目ですが、24頁の求職者支援制度の創設に関して、現在、関係の 審議会でご議論をいただき出したところです。ここで言う求職者支援制度というのは、現在、 基金事業で行っている訓練期間中の生活保障、生活支援をするという現行制度のフォローも しながら、そういったものを恒久化していこうという形で、ご議論を始めていただいていま す。  いくつかそこに示しているのは、直近の12日に出した論点ですが、具体的にはこれを2 月上旬から提示して、議論を始めたところですので、現在5月の58回では位置づけであっ たり、IIIの給付の対象者や要件のところについてのご議論の1クール目をし始めていただい たという状況です。  いま申し上げましたように、全体は訓練期間中の生活支援をどう考えるかということです ので、どういった訓練を行うかについても、ここでいう雇用保険部会のみならず、職業能力 開発の分科会においてもご検討いただいて、お互いにフィードバックしながら制度づくりを していこうということです。  いま駒村先生からご指摘があったバックデータ的なものについては、今日はお配りしてお りませんが、12日の部会であったり、能開分科会のほうでも、現行の基金訓練を受講され ている方の属性であったり、雇用保険部会のほうでは、ハローワークに来所されている方に ついての属性ということで、直近の年収がどうだったかとか、世帯も含めての収入がどうだ ったかということも提示しながら、いま議論をし出したところです。 ○小川雇用政策課長 2点目ですが、論点メモの最後に書いてあるとおりで、もちろん住宅 支援のあり方を言うわけですが、企業が教育とか住宅などを生活給として支給してきたとい う面があるのではないか。それが本当に今後サスティナブルかどうかと。むしろこういった 問題について社会全体で考えたほうがいいのではないかということで、ある意味で低所得に 限らず、そういった問題について社会全体としてサポートすることが必要かどうかというこ とについての問題意識で資料を付けました。 ○樋口座長 よろしいですか、ほかにいかがですか。 ○黒澤委員 少し戻ってしまうかもしれませんが、資料3の最初の頁の最後の消費者行動に ついてです。消費者行動と投資行動ということで、今日は投資行動についてお話を伺いまし たが、この点に関しては、情報の整備が非常に重要なのではないかと思っております。  資料2の9頁に「消費者動向の経年変化」というのがありますが、こういった環境とか、 ワークライフバランス、何でもいいのですが、先ほどのお話にあったSRI、ESG的な観点の ものは楽処理グッズです。しかしながら、この頁を見てもわかるように、経年的には日本の 生活水準も上がり、消費者もそういったものを担保するような企業カラーとか、そういった ことに関連する消費グッズを購入しようという欲求は高まっているような気がします。  しかしながら、消費者にそれらが十分開示されている状況があるのかどうかというと、必 ずしもそうではない。例えば、農産物であったら、遺伝子組換えであるかどうかとか、有機 農産物であるかとか、いろいろな詳しいところに十分な情報開示がされていないのではない かという辺りで、規制強化というのはあり得るかなという気がするのが1点です。つまり、 それが雇用にというか、そこに影響を与えるためには、そういったルートを強化する必要が あるというのが1つです。  投資の側面でいうと、先ほどお話にあった調査会社の発展みたいなものが必要だというこ とですが、それに必要なのは市場規模の拡大ということで、その市場規模の拡大が放ってお いても到達されるような状況にないとするならば、欧米の例にあったような年金基金の運用 先としてのインセンティブを与える先ほどの阿部さんの話、あるいは何らかの形で介入が正 当化されるのかなということです。 ○宮本委員 先ほど事務局からお話のあった基金訓練等の展開についてですが、これはドイ ツやフランスの失業扶助制度のご紹介があって、ドイツの場合は失業給付2と訳されている 制度に相当すると思いますし、フランスはエレミーと言われていた制度が、最近はエルサー と言うのでしょうか、拡張されています。  ただ、双方に共通するのは、単に給付がなされるだけではなく、そこで主に受給者と行政 との間ですが、ある就労実現プランのようなカウンセリングが組み込まれているということ だと思います。そこの話が必ずしも言及されていなかったのです。特に求職者支援制度の設 計であるとか、その文脈で大変重要になってくるのではないだろうか。  特にいま内閣府等でパーソナルサポートの話が進んでいて、この前の雇用戦略対話でも総 理が「ゾーン・ディフェンスからマン・ツー・マンのサポートへ」などという言い方をされ ていましたが、より細かく失業者のサポートを行って、ワンストップサービスが実現しない なら、人が窓口を束ねていこうというサポート役を作っていこうという流れがあると思いま す。これが求職者支援制度の設計と別々なものにならないように統合的に設計していくこと が必要なのだろう。いま流れを見ると、別の流れになってしまっているのが、やや気にかか るのですが、特にヨーロッパの失業扶助制度は、その両者を一体化しているということを鑑 みると、日本でもそこを一体的に進めていくのが大切だろうと思います。 ○鶴委員 先ほどの住宅のところですが、最後の論点で、これまで企業が年功賃金で教育費 がかかる世代をきちんと手当てする。それから独身寮とか、社宅ということで住宅を手当て する。また結婚の機会も企業は提供していたと思います。そういうものは明らかに企業が提 供できなくなってきているというのは、疑いもない事実だと思います。  この資料を見ると、最後の住宅費の上昇と言っても、この10年ぐらいは波を打っていま すが、そんなに大きく増加しているという感じではないのです。それから16頁に、これは 非常に面白いというか、貴重だと思いますが、法定外福利費が少し減少気味です。ただ、こ れもハコものとヒトものが分かれているわけではないのです。データというのは非常に難し いと思いますが、この辺が明らかに企業が提供してきたもので、住宅についてもそこのウエ イトが非常に小さくなっているということがわかれば、政策的にでは誰がそれを埋め合わせ ていくのかというのを、かなりはっきり言えるのではないかと思います。  私もデータを見ているわけではないのですが、例えば若い世代において住居費の固定費み たいなところが、昔と比べてどのぐらい割合として上がっているのかとか、いろいろ見てい けば、若干こういう状況を示すようなエビデンスも出てくるのではないかと思いますが、も し事務局のほうで「実はこのような数字もあります」というお話があれば教えていただけれ ばありがたいのです。 ○小川雇用政策課長 住宅のほうは作業中の所もあって、「消費実態調査」とか「家計調査」 とかいろいろいじくってはいるのですが、家計調査だと世帯類型が出ないものですから、そ こが隔靴掻痒感があって、どうもはっきりしないのです。ピタッと出るのがあればいいので すが、ピンポイントで増えているとか、減っているとかというデータがなかなか見つからな くて、いまは作業中というところです。 ○樋口座長 先ほどから出ているセーフティネットの話と、その一方で従来はそれが行きす ぎるとモラルハザードの議論ということで、どちらを取るのですかという話がかなりあった のですが、最近はむしろモラルハザードを阻止し、働くということをエンカレッジするため のセーフティネットのあり方というのは、海外でもいろいろな所で議論になって、いろいろ な仕組みが作られてきているのだろうと思います。  その中で先ほど宮本先生がおっしゃった所得代替と所得補完の話で、部分失業に対する給 付をどう考えるかと。ですから、いまですと、完全失業者ということですから、少しでも働 いたら給付はなくなりますよと。そうなってくると、低賃金で働くというよりは失業給付を 受けておいたほうがいいというような選択が行われやすい。それを回避するためにいろいろ な仕組みがとられてきて、1つは部分失業をどう考えるか、もう1つは失業給付の期間とと もに、給付率、給付額を削減していくようなやり方。一律給付期間中であれば同じ額を出し ますというようなことではなくて、そういった仕組み的に両者を両立させるような仕組みが いろいろ模索されてきているのではないか。先ほどの就業支援というのもそういった形で組 み込まれてくるということで、それを日本でどう考えていくのか、あるいは考えていかない といけないのではないかと思いますが、どうでしょうか。大改革になるかもしれませんけれ ども。 ○鶴委員 これまでヨーロッパは、長期失業は非常に大きな問題だったので、どのような制 度設計をしたらいいのかというアクティベーションについても、非常に長い年月をかけて考 えて、実際にやってうまくいかなかったり、うまくいったケースがいろいろあるのですが、 いま日本も長期失業というのは少しずつ増えてきているので、取り入れるところは十分ある のだと思います。  特に期間が長くなれば給付率を減らしていくとか、訓練をやらなければ給付を見直すとか、 いろいろ細かい手法をやって、それが例えば失業者の職探しとか、就業できる確率にどのぐ らい影響を与えるのかというのも、かなり詳細な分析はヨーロッパで実は行われているので す。日本は昔はそういうことを考える必要はなかったのだと思いますが、ヨーロッパは今は、 いろいろな国で成功しているケースがあって、オランダとか、スイスは、特に厳しい罰則的 なことをやることによって効果を上げているということが、いくつかよく例に挙がるのです が、今はいろいろな国の状況を見て、そこはどのような政策のやり方があるかを考える、少 し準備するところにきているような感じがします。 ○樋口座長 給付付き税額控除の議論と全く同じところから発想が出てきているわけです ね。社会保障で保険制度でやるのか、それとも失業扶助みたいなものにするのか、税額控除 という形で給付付きでやっていくのかというようなところで、そういったメニューというか、 それぞれのメリット、デメリットがあるとは思いますが、それを整理していくというのはど うしても必要かと思います。 ○駒村委員 全く私もそのとおりだと思っております。捉え方が私は限定的に捉えたのです が、先ほどの宮本先生がおっしゃるように幅広くとれば、さまざまな給付の組合せによって インセンティブを高めながらということになると思います。デンマークにしろフィンランド にしろ、さまざまな国で社会実験的な給付設計を行って、その反応を調べていると思います。 そういう情報を集めて、どういう給付設計をしていくとどうなるのかを、是非集めた上で、 この期間とか雇用・就労努力契約みたいなものをどう結ぶのか。是非整理していただきたい と思います。 ○宮本委員 あともう1つは、ヨーロッパは確かに手厚いセーフティネットですが、それが 就労意欲と両立されるさまざまな仕掛けの中には、ある種の厳しさを伴った制度も確かにあ ります。  例えば、スウェーデンなどでは、失業手当に関して、公的職業安定所からのオファーがあ ったときに、許容される拒否理由のメニューがあるわけです。例えばこの職務に就くために 引越しをしなければならなくなって、家族がバラバラになってしまうとか、失業手当を受け ていく。これは従前所得の大体8割ですが、そこからさらに2割以上下がってしまうという 賃金条件の場合は拒否できるのですが、それより上がった場合は基本的にオファーを受け入 れなければいけない。それが果たされない場合は、労働組合に連絡が行って、労働組合から お尻を叩いてもらうという形です。そんないろいろな仕掛けがあることも、是非調べていた だくといいのではないかと思います。  それから樋口先生がおっしゃった部分失業ですが、北欧では部分失業制度があって、フル タイムの就労を希望するにもかかわらず、パートタイムの仕事しか得られない場合は、その ことが失業とみなされて補填の給付があるのですが、フルタイムの仕事が、今度は先ほどの ような形でオファーされたときに、それは受けなければいけないという形になるわけです。 そういうもう少し細かいところを含めてトータルな仕組みが、セーフティネットの給付と絡 み合って、アクティベーションになっているということを見ていくといいのではないかと思 います。 ○玄田委員 専門の皆さんのご意見のあとで素人が全くトンチンカンなことを言うことを お許しいただきたいと思います。公的枠組みについて、足りないものはいろいろあると思い ますが、何が足りない、何が足りないとやっていると、疲れてしまって先送りになるのです。 足りないものはたくさんあって、先ほどの給付付き税額控除も、どうやって納税者番号をう まく徹底してくれるかということにかかっているでしょうから、それは政治家の方々に頑張 っていただいて、大変な反対がある中を、何とか克服してやっていただくしかないと思いま す。  私が言いたいのは、足りないものを何とかやると同時に、今回の2008年以降のを教訓化 すると、日本でも結構頑張ったのではないの、雇用政策にも結構頑張ってもらったんのでは ないのというのは、大いに認めて、いまあるものをもっと良くしていくという発想も大事な のではないかということを1つだけ言いたいと思います。  確かにデンマークも素晴らしい国だし、オランダもサッカーは強いでしょうけれども、日 本の失業率もこの状況の中で、みんなが6を超えると言ったのを5.1で押さえたというのは 大変なものです。今後は経済学者がいろいろ実証研究をされて、その理由を明らかにするの でしょうが、去年の2月に雇用調整助成金をこれだけやろうと決めたというのは、相当大き なことで、かなり博打だったと思いますが、結果的に今回のショックがセクトラル・ショッ クではなくて、アグリゲイト・ディマンド・ショックということで、どこにも移動すべき所 がないときには、こうやって雇用調整助成金をドカンと出すのだということは必要だという ことを突きつけた感じがします。そうすると、前にも同じようなことを言いましたが、今後 同じようなことがあったときに、ここはちゃんと助成金を使うという合意を作って、そのた めのお金をちゃんと取っておこうということをしないと、またいろいろ慌てふためいて何か 足りないという議論になってしまうような気がします。  それをやっていると全然解決しないというか、いまあるものを良くしようというのが、大 体苦しくなった社会の常で、失業扶助もいいのですが、やはり今の日本の状況を見ると、ハ ローワークの人たちに頑張ってもらって、何とか3カ月で就職できるように。先ほど宮本さ んがカウンセリングに行くとか、パーソナルサポートとおっしゃいましたが、それも足りな いけれども、2002年以降、随分頑張ったと思います。何となくいまの制度をもう少し良く するという観点を、是非入れていただく。たぶん外国のほうが素晴らしいものがたくさんあ るでしょうが、日本も結構いいぜということを、何となく行間に出していただかないと、誰 も日本に住みたくなくなってしまうという感じがするので、是非、座長のお力でお願いした いと思います。 ○小杉委員 私も最後に一言。私は日本の現場を、特に若い人の働く現場をずっと歩いてき たということで、いまの話を訂正するのですが、日本の現場から発想して、いま何が困難か という話です。1つは就業になかなか遠い状態の若者たちが、いま自立塾等々でだんだんと 働くことに近い所まで来ているのですが、彼らは働きたいのです。ですから、ベーシックイ ンカムという形で生活が保障されるというよりは、労働を通じて社会に参加したいという気 持が非常に高い。ただ、その労働能力が十分労働市場に見合うだけのものになっていないの で、その部分を社会的な働き方の中で、参加しながら、ある意味では足りないところを補っ てもらうという考え方は、非常に大事だと思います。これはいまの日本の若者の現実にも対 応した考え方ではないかと思いますので、その点は非常に大事なポイントだと思います。  2つ目に申し上げたいのは、例えばいまカウンセリングをしっかりやって、それと訓練と 結びつけたり、雇用と結びつけるという考え方は、既に日本の中でもやっているのですが、 例えばジョブカードという制度は基本的にそういう仕組みなのです。そこのジョブカードの 現場で何が問題かというと、企業が雇用型でジョブカードの訓練を用意しているにもかかわ らず、求職者が来てくれない、知られていないということがいちばん大きいのです。ハロー ワークの現場でも、ハローワークは非常に忙しいこともあって、きちんとそこにつなげられ るような形につながっていない。その辺は現実に既にあるものなのですが、それがなかなか うまくつながっていないところをきちんとしていくということが、たぶん大事なポイントで はないかと思います。  もう1つ申し上げたかったのは、大きな枠組みとして住宅や教育という話を誰がというこ ともある程度考えておかなければならない。それは例えば、介護の人たちの賃金の上昇の度 合などは非常にフラットな状態で、介護などの現場ではこういう働き方なのです。つまり、 賃金がそう簡単に上昇するような、生産性というか、それがすぐ上がるような働き方ではな い。こういう働き方の人が増えていくということを前提にすると、こういう2人がペアを作 って家族を作って生きていくためにはどうしたらいいか。そうすると、子どもの教育費と住 宅ローンの部分を社会的に何とかしなければならないというのは絶対あるので、これも働き 方がそうなるということを前提にした仕組みとして考えていかなければならないのではな いかと思います。 ○樋口座長 玄田さんがおっしゃるようなことは、もちろん多々あるかと思います。ただ、 気になるのは、失業者に占める給付の割合が、1997年の6割から、現在は3割まで減った というセーフティネットの対象になっている人と、そうではない人の比率がだいぶ変わって きたという問題があります。  逆にこれは雇用保険だけではなくて、例えば年金あるいは医療に関しても、ある意味で、 その加入者と未加入者が制度で作られていって、企業の負担を考えれば非正規というか、雇 用主負担のない労働者を増やしていくというところに歪みみたいなものが現れてきている というのも、片方で事実かなという気がするのですが、その点が前のほうに出てきた税・社 会保障制度の103万円、130万円の問題とか、就業調整の話という形で起こってきているの かと思います。これは何とかしておいたほうがいいのではないのと思うのですが、どうでし ょうか。 ○玄田委員 それはやってください。ただ、先ほどの失業給付7割、8割というのは、失業 のキャリアを見てみないと、日本みたいに非労働力から失業に移るというケースを考えてい くと、先ほど駒村さんが言われた自営業のケースとか、一律に議論することは難しいでしょ うね。事実は事実として受け止めなければいけませんが、そういう意味では実態把握をして、 あまり数字だけにびっくりしたり喜んだり悲しんだりというのもどうかなという気がしま す。 ○樋口座長 ほかにいかがですか。もしご意見がありましたら、メールで流していただくな りしていただければと思います。それでは時間の関係もありますので、今日の議論はここま でとさせていただきたいと思います。  次回はこれまでの議論を踏まえて、報告書案について検討いただきたいと考えております が、事務局から今後のスケジュールについてご説明をお願いします。 ○平嶋雇用政策課長補佐 資料4ですが、次回の第8回研究会は6月4日の14時から、現 在、場所を調整中ですが、ご案内をお送りいたします。最終回の第9回の開催日程は、6月 24日の10時に変更になっておりますので、よろしくお願いいたします。 ○樋口座長 それでは、本日は以上で終了いたします。どうもありがとうございました。 照会先 厚生労働省職業安定局雇用政策課雇用政策係  〒100−8916 東京都千代田区霞が関1−2−2  電話 03−5253−1111(内線:5732)