10/01/19  第1回職場における化学物質管理の今後のあり方に関する検討会議事録                        日時 平成22年1月19日(火)             14:00〜             場所 厚生労働省2階共用第6会議室             (担当)厚生労働省労働基準局安全衛生部                       化学物質対策課 奥野                    〒100−8916                           東京都千代田区霞が関1−2−2            TEL 03-5253-1111(内線5517)           FAX 03-3502-1598           ○奥野中央産業安全専門官 本日は大変お忙しい中ご参集いただきまして、誠にありがとうございま す。定刻になりましたので、ただいまより「第1回職場における化学物質管理の今後のあり方に関する 検討会」を開催いたします。はじめに、厚生労働省安全衛生部長の平野よりご挨拶申し上げます。 ○平野安全衛生部長 安全衛生部長の平野でございます。皆様方には、本日、大変お忙しい中、第1回 職場における化学物質管理の今後のあり方に関する検討会にご参集いただきまして、誠にありがとう ございます。また、日ごろから、いろいろな分野で化学物質の管理につきましてそれぞれのお立場で ご尽力をいただいていることにつきましても、この場を借りましてお礼を申し上げる次第でございま す。  化学物質は産業現場で広く使われており、大変有用なものであるわけですが、他方、その有用性の もとになる化学的特性によって、1つ間違えると労働者に対して危険や健康障害を生ずるおそれを持っ ているということは、皆様方、ご承知のとおりです。実際、化学物質による業務上疾病は、年間、200 件から300件前後発生しており、昨今の安全についての国民の関心の高まりも考えますと、いかにして 適正に化学物質の管理をやっていくかということが非常に重要な課題となっていると考えております。  また、この化学物質の管理につきましては国際的な取組みも進められており、その1つであります化 学品の分類及び表示に関する世界調和システム、いわゆるGHSを取り入れるために、労働安全衛生法を 平成17年に改正いたしたところです。さらに、この国際動向を踏まえた化学物質管理のあり方につい て、平成14年に持続可能な開発に関する世界サミットにおける合意ですとか、あるいはこれを達成す るために平成18年2月に提案されました国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ、いわゆる SAICM、そういうことを踏まえまして対応を進めていかなければならないと考えているところです。  本検討会では、いま述べましたような状況も踏まえて、学識者の先生方だけではなくて、消費者団 体あるいは労働組合からもご参加をいただきまして、化学物質の危険有害性の伝達の促進や、より受 け入れられやすい化学物質管理手法による自主的な管理の促進について、実際的な検討をいただきた いと考えております。また、リスクに基づいた合理的な規制という観点で、現行の規制の柔軟化、あ るいは性能要件化ということについてもご検討いただきたいと考えております。産業の現場におきま して化学物質の管理がより効果的に行われることにより、化学物質による労働災害あるいは健康障害 の防止に結び付けていくことができますよう、皆様方から忌憚のないご意見をいただきたいと考えて おりますので、よろしくお願いいたします。 ○奥野中央産業安全専門官 次に、各委員のご紹介をいたします。資料2の参集者名簿をご覧いただけ ればと思います。名簿順に紹介させていただきます。  日本労働組合総連合会総合労働局雇用法制対策局長の市川委員です。化成品工業協会技術員長の塩 崎委員の代理としてご出席いただいた柳様です。日本大学大学院理工学研究科教授の城内委員です。 社団法人日本化学工業協会常務理事の豊田委員です。早稲田大学理工学術院教授の名古屋委員です。 社団法人日本化学物質安全・情報センター常務理事の西委員です。JFEスチール株式会社安全衛生部長 の西野委員です。エクソンモービル有限会社医務産業衛生部アジア太平洋地区産業衛生アドバイザー の橋本委員です。全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟(UIゼンセン同盟)政策局副部長 の廣川委員です。労働安全コンサルタント福岡事務所所長の福岡委員です。産業医科大学産業生態科 学研究所産業保健管理学教室教授の堀江委員です。労働安全衛生総合研究所健康障害予防研究グルー プ上席研究員の宮川委員です。日本化学エネルギー産業労働組合連合会JEC総研代表の山本委員です。  引き続き、厚生労働省職員をご紹介いたします。先ほどご挨拶申しました平野安全衛生部長です。 高崎計画課長です。半田化学物質対策課長です。小泉化学物質対策課課長補佐です。井上化学物質情 報管理官です。最後に、私は化学物質対策課中央産業安全専門官の奥野と申します。よろしくお願い いたします。  続きまして、資料1に開催要綱がありまして、開催要綱の「その他」の(1)「本検討会に座長を置き、 座長は検討会の議事を整理する」こととされています。事務局からは、労働衛生工学がご専門であり ます名古屋先生に座長をお願いしたいと存じます。委員の皆様、いかがでしょうか。                  (異議なし) ○奥野中央産業安全専門官 ありがとうございます。それでは、名古屋委員に座長をお願いいたしま す。このあとの進行は名古屋座長にお願いいたします。 ○名古屋座長 ご指名いただきました、座長を務めさせていただきます早稲田大学の名古屋です。よ ろしくお願いいたします。先ほど平野安全衛生部長さんからありましたように、課題が、化学物質の 危険有害性の伝達促進と、より受け入れられやすい化学物質管理手法による自主的管理の促進、現行 法の柔軟化あるいは性能要件化とあります。いずれにしても、大切な課題だと思います。委員の先生 方からの見識あるご意見を賜りましてよりよい方向にまとめてまいりたいと思いますので、よろしく お願いいたします。 ○奥野中央産業安全専門官 以下の議事進行につきましては名古屋先生にお願いいたします。 ○名古屋座長 議事に入る前に、事務局から資料の確認をよろしくお願いいたします。 ○奥野中央産業安全専門官 資料の確認をいたします。資料1「職場における化学物質管理の今後のあ り方に関する検討会開催要綱」です。2頁目、資料2「職場における化学物質管理の今後のあり方に関 する検討会参集者名簿」です。3頁目、資料3「化学物質に起因する労働災害発生状況等」です。8頁 目、資料4「職場における化学物質管理の今後のあり方に関する検討について」です。10頁目から参考 資料となります。参考1「化学物質等による健康障害の発生状況」です。11頁目、参考2「化学物質に よる中毒災害の災害調査の概要(平成19年度以降受理分)」です。15頁、参考3「化学物質管理をめ ぐる国際動向」です。16頁目、参考4「第11次労働災害防止計画の概要」です。18頁目、参考5「職 場における化学物質に係る現行の労働安全衛生関係法令の概要」です。  落丁等がございましたら、お気づきになり次第、事務局にお知らせくださいますようお願いいたし ます。 ○名古屋座長 議事に入る前に、検討会の開催要綱と化学物質管理をめぐる概要につきまして、事務 局から説明をよろしくお願いいたします。 ○奥野中央産業安全専門官 まず、お手元の資料1の1頁目、「職場における化学物質管理の今後のあ り方に関する検討会開催要綱」を説明させていただきます。  1.の目的です。化学物質による業務上疾病が毎年200〜300件前後発生しており、その発生状況を見 ますと、事業者・労働者に化学物質の危険有害性情報が伝達されていれば災害を防ぐことができたも のが少なくありません。また、特定化学物質障害予防規則等におきましては、リスクの小さな作業で も、局所排気装置等の設置が必要となっており、リスクに基づいた規制への見直しの必要性が指摘さ れています。  平成17年に労働安全衛生法が改正され、化学物質の危険有害性情報を国際ルールに基づいてラベル 表示し、また、MSDSで提供する制度が定着しつつあります。この危険有害性情報の伝達を、譲渡提供 時のみならず、事業場内での使用に拡大し、情報の活用を推進する必要がありますが、先に申し上げ た課題に対応し、また、国際動向も踏まえた形で化学物質管理のあり方について検討を行っていただ くものです。  2.の検討事項ですが、「化学物質の危険有害性の伝達(ハザード・コミュニケーション)の促進」 「より受入れられ易い化学物質管理手法による自主的管理の促進」「現行規制の柔軟化・性能要件 化」「その他」としております。  3.の検討会参集者につきましては、先ほどご紹介させていただいたとおりです。  4.の「その他」としまして、座長は先ほど名古屋先生にご就任いただいたところで、また、(2)にあ りますように、必要に応じてお願いしております委員の方以外の関係者の方々に出席を依頼する。ま た、(3)としまして、この検討会は、原則として公開するということですが、検討に当たりまして、ヒ アリング等が予定された場合に、企業のノウハウ等に係る事案を取り扱う際は非公開とすることがで きるというものです。  続きまして、3頁目の資料3の説明をさせていただきます。3頁の図-1をご覧ください。開催要綱で は「毎年200〜300件発生している」と書かれていますが、これは、化学物質の業務上疾病調べという ものを基にしております。一方、業務上疾病以外のもの、例えば危険物による爆発・火災なども含め ますと、図-1にありますように、化学物質に起因する労働災害が年間600〜700件程度発生しています。 これは、右下にありますように、労働者死傷病報告を基にしたものであり、ここに挙げたものは、休 業4日以上の労働災害となっています。  続いて円グラフの左のほう、図-2-1になりますが、こちらをご覧ください。これは平成20年に発生 した603件の化学物質による労働災害を事故の型別に見たものです。有害物等との接触、例えば一酸化 炭素中毒などがありますが、これが45%、続いて、高温・低温物との接触が31%と続いています。ま た、603件のうち、死亡災害が14件含まれています。右の円グラフの、図-2-2に発生状況をまとめて おります。これをご覧いただきますと、有害物等との接触が50%、爆発が36%と、この2つで大半を 占めることとなっています。  4頁目をご覧ください。事故の型のうち、有害物等との接触のみを取り出して業種別にまとめたもの が図-3になります。製造業が49%とほぼ半数を占めていますが、建設業、清掃・と畜業など、多様な 業種で発生しています。また、右にある図-4は事業場規模別に見たものですが、労働者数100人未満 の事業場が7割近くを占めているところです。  5頁目に移ります。今度は、事故の型のうち爆発及び火災を取り出して、先ほどの有害物等との接触 の図と同様、業種別と事業場規模別に見たものです。左のほうになりますが、爆発・火災につきまし ては、製造業と建設業を併せて、約6割を占めています。また、事業場規模別にご覧いただきますと、 100人未満の事業場が9割近くを占めています。  6頁目をご覧ください。6頁目は、化学物質を取り扱っている事業所のうち、化学物質に関するリス クアセスメントを実施している事業所の割合を示したものです。労働環境調査が5年ごとに実施されて おり、平成18年のものをまとめたものとなっています。左の棒グラフの右のほうに1,000人以上とい うのがありますが、こちらに3本棒があります。左のほうの高いものがリスクアセスメントを「実施し ている」というものです。真ん中が「実施の予定がある」、右が「実施の予定がない」という形とな っています。それぞれの事業所規模で左の「実施している」という黒い縦棒をご覧いただきますと、 事業所規模が大きくなるほど、リスクアセスメントの実施率が高くなることがわかります。  なお、労働安全衛生法でリスクアセスメントが努力義務とされたのが平成18年で、この統計は施行 直後に実施されたということになりますので、現在ではこれより多く実施されていると考えられます。  また、右にあります図-8は、化学物質に関するリスクアセスメントの実施状況を業種別に見たもの です。それぞれの業種で、下にあります色の濃い部分をご覧いただきますと、いずれの業種も、半数 弱がリスクアセスメントを実施していることになります。  続きまして、7頁目をご覧ください。化学物質を取り扱っている事業所のうち、MSDSを活用している 事業所の内訳をまとめたものです。先ほどの6頁の資料と同様、平成18年労働環境調査を基にしたも のですが、これは労働者に対して調査を行ったものです。左のグラフは、化学物質を取り扱っている 事業所に所属する労働者に、MSDSを知っているか尋ねたものです。下の濃い部分が「知っている」と 回答した労働者の割合です。事業所規模が小さくなるほど、「知っている」と回答した労働者の割合 が低くなることがわかります。また、右のグラフ、図-10になりますが、これは、先ほどのグラフで MSDSを「知っている」と回答した労働者に、さらにMSDSの内容を確認したことがあるか尋ねたもので す。図-10は、いずれの事業所規模においてもMSDSを「知っている」と回答した労働者は、大半がそ の内容を確認していることがわかります。  以上、資料1の検討会の開催要綱、及び資料3の化学物質管理の概況について説明させていただきま した。 ○名古屋座長 ありがとうございます。ただいまの説明についてご質問等はありますでしょうか。 ○福岡委員 労働安全コンサルタントの福岡でございます。先ほど説明が足りなくて申し訳なかった のですが、私は、今日は社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会の推薦を受けて出席させてもら ったものです。ただいまの設問の中で、6頁と7頁の辺りですが、私どもは、実際、事業所で安全診断、 衛生診断という仕事をさせてもらっているのです。そういうときに感じた感覚から言いますと、例え ば図-7で化学物質に関するリスクアセスメントの実施状況が、例えば10名〜29名のところで37%が 実施しているというデータです。あるいは、その次の50名のところにいっても48%。こういう数字を 見ますと、我々が日常接触しているところと感覚がかなり違うような感じがするのですが、化学物質 に関するリスクアセスメントの実施状況はこのような数字よりはずっと少ないと思います。ほかの委 員の方はどう感じられるかということを、これはどのような調査対象、調査方法などもお聞きしない といけないのかもしれないですが。そういう印象がありましたので一言申し上げました。 ○名古屋座長 事務局のほうからいかがですか、出典は出ていますが。 ○奥野中央産業安全専門官 労働環境調査報告ですが、事業所としましては、全国の10人以上を雇用 する民営事業所から一定の方法で抽出した1万2,700事業所が対象となっています。書面による回答と なっていますので、どういったレベルでのリスクアセスメントかというところまでは確認できていな いということですので、一定の限界があろうかとは思います。 ○福岡委員 回答率はどれぐらいですか。 ○半田化学物質対策課長 確認しまして、後ほどお答えします。これは、5年に一度実施しています、 事業所にアンケートを行う統計法に基づく統計です。いま奥野が申し上げましたように、リスクアセ スメントの中身がどういうものか、事業者の方がどの程度ご理解いただいてご回答いただいているか。 場合によっては、KYをやっておりますというようなことでリスクアセスメントをやっているというお 答えもあったのかと思われます。私もそれを感じているところです。いずれにしましても、回答率は、 後ほどご説明申し上げます。 ○名古屋座長 ほかによろしいですか。 ○城内委員 3頁です。業務上疾病で休業4日以上について化学物質によるものが200〜300件という ことはずっと続いているわけですが、休業4日以上ではない化学物質による疾病はもっと多いのではな いかと思うのですが、そういうデータはこれまで取られたことがあるのでしょうか。 ○半田化学物質対策課長 そこの部分は取れておりません。 ○城内委員 わかりました。 ○名古屋座長 また何かありましたら、事務局等にお尋ねいただければと思います。それでは、本日 の議題に入りたいと思います。化学物質管理の今後のあり方に関する検討会について、事務局から、 資料4に従って説明をよろしくお願いいたします。 ○半田化学物質対策課長 資料4に基づいてご説明を申し上げます。ただいまから申し上げますのは、 あくまでも私どもがこれまでの業務を通じて感じているところを整理したものです。これですべてと いうわけではありませんので、どういう課題があるのかというところにつきましても、先生方にご議 論いただければと思います。まず、資料4の8頁をご覧ください。化学物質の現行規制について模式図 的にご説明しております。  あらかじめお断わり申し上げます。ここで書いてあります、私どもの化学物質規制は、これまで中 毒などをメインに置いてやってきておりますので、その部分に限定したものになっています。そのこ とをご承知いただきたいと思います。  いちばん厳しい規制としましては石綿等8物質、重度の健康障害が生ずることが明らかで、かつ、そ れを防ぐ十分な方法がなかなか難しいといった化学物質につきましては製造禁止物質としております。 この絵で言いますと、いちばん上の四角「製造禁止(8物質)」となっています。  それから、禁止するというほどではないのですが、やはり重度の健康障害を生ずるおそれがある化 学物質、例えばPCB等がありますが、こういった物に対しては、製造するに際して厚生労働大臣の許可 を必要とするということで、製造許可物質としています。こういった物が7物質あります。  それから、製造、取扱いなどについて、特別な規則でもって規制がかけられている物質が約100物質 ほどあります。規則としては、特定化学物質障害予防規則あるいは有機溶剤中毒予防規則等がありま すが、こういったもので規制しています。この中では、事業者に対して、発散抑制措置を講ずること を義務づけています。具体的には、設備の密閉化又は局所排気装置の設置があります。この局所排気 装置に関しては国が定める稼働要件、例えば制御風速や抑制濃度といったものがありますが、こうい ったものを充足することを求めています。また、併せて、管理濃度を守っていただくということで管 理濃度を設定しており、これに基づく測定及び管理、改善をやっていただくということをお願いして います。こういったことによって、労働者が吸引する作業環境中の有害物質濃度を基準以下にしなけ ればならない、このようにしています。  それから、特別規則に規定されている物質を含めて、もっと大きい部分では、大きい四角になりま すが、約640物質について、販売などの譲渡・提供に際しましてMSDSという文書を交付することをお 願いしています。このMSDSは、右下の四角の中、※の中に書いてありますが、該当物質の名称、取扱 い上の注意などを記載した文書(MSDS)を交付することをお願いしています。  そのほか、化学物質を取り扱う際にどのような危険有害性を有しているかを事前に調べて必要な措 置を講ずること、これはリスクアセスメントと呼んでいますが、これも右下の四角の中に囲っていま す、こういったものについて、危険有害性を持っている物質についてはやってくださいということで、 広くお願いしているところです。  MSDSですが、これは平成11年の法改正で導入されたものです。その心は、適切な自主管理などを進 めていただくに当たって、化学物質の有害性等々の情報が的確に把握できなければ適切な管理はでき ないであろうということで、化学物質の情報を川上から川下へ流していくということを旨として定め られたものです。こういった情報を活用しながら、それぞれの事業場においてリスクアセスメントを やっていただくということで、平成18年の法改正で導入されたものです。そういう考え方で導入して まいりましたが、現状はいかがかというようなところで若干の課題を感じているところです。  続きまして、9頁から、「現状と課題」ということでご説明をさせていただきます。私ども、これま での業務を通じて感じているところを大きく3点に課題を整理させていただいています。化学物質の危 険有害性の伝達、いわゆるハザード・コミュニケーションに関するもの、それから、リスクアセスメ ントの普及状況が今ひとつかなといったところで、より受け入れられやすい化学物質管理手法による 自主的管理、そういったことが今後の課題なのではないだろうかと。それから、3つ目の課題として、 現行の規制の柔軟化といったようなことが必要なのではないだろうかということを考えています。こ の辺りは開催要綱にもお示ししているとおりです。  まず、最初のアをご説明申し上げたいと思います。アの最初のポツは、労働者が取り扱う容器等の 中身について十分な情報を持っていないために発生したと思われる災害が、年間、約30件起こってい るということを書いています。参考資料1、10頁をご覧いただきたいと思います。10頁では真ん中辺 に書いてありますが、平均値としては、こういったものが、年間25.9件、26件から30件起こってい るというわけです。  どういった事故が起こっているか、もう少し具体的なことを申し上げますと、資料の11頁をご覧く ださい。容器などに適切な表示がなされていて、それを取り扱っていらっしゃる労働者の方が中身の ことについてきちんと承知していれば防げたかなと思う事故を私どもの事故報告の中から拾ったもの です。いちばん上の事例は、本来混ぜてはならない物を誤って混ぜてしまって塩素ガスが発生したと いう事例です。それから2番目の例。表示がないペットボトルに入っていた物を誤って飲んでしまった、 お茶と間違えて飲んでしまったという災害です。  9頁にお戻りいただきまして、アの2つ目のポツです。先ほど申し上げたような考え方で、化学物質 の有害性情報を川上から川下へ流していこうということでMSDSの制度を導入したわけですが、MSDSあ るいは表示等やられているわけです。私ども、640のMSDS、表示に関しては、約100物質をやっていま すが、EUなどの例を見ますと、約8,000物質を対象としており、国際的に見ても少ないのかなと感じ ています。それから、先ほど来申し上げていますMSDSあるいは表示というような化学物質の有害性情 報をきちんと流通させるという思想に立ちますと、本来、その640云々というのはまだまだ至らないの かなという感じがしていいます。これが最初の課題、アです。  続きましてイです。最初のポツで申し上げているのは、化学物質のリスクアセスメントの実施率が 43%程度であり、事業所規模が小さいほど実施率が低い傾向にある。これは、先ほどご覧いただいた 資料3の6頁、図-7です。福岡委員から、中小事業場の実態よりは、かなりいいほうに出ているので はないかというようなご指摘もございました。仮にそうだとしましても、なお、この程度の実施率と いうことですので、もしもこれより低いということであれば、何とかしていかなくてはいけないと思 っているところです。  イの2つ目のポツです。これは、中央労働災害防止協会が化学物質管理者研修などの際にアンケート を行った結果です。1/4の事業場におかれては、リスクアセスメントの必要性は承知しているのだけれ どもそれを実施する人材がいない、あるいは不足している、こういったご回答をいただいているとこ ろです。リスクアセスメントに関しては、こういった状況です。  続きましてウ、現行規制の問題です。最初のポツです。先ほど申し上げたように、現行の規制、特 別規制は、有機則や特化則といったものがあります。ご承知のとおりですが、もともとこういった規 則は、製造現場を中心としてさまざまな規制を作ってまいりました。製造現場の実態を把握いたしま して、そのリスクを低減させるための具体的な手法を盛り込むということをやってきたわけですが、 それが現状になってみますと、過去には非常によく機能していたと思うのですが、現状から見ますと、 いろいろな使われ方をしている中で、この一律の規制が必ずしもうまく当てはまらないのかなといっ たケースも見られるようです。本来の考え方であれば、そのリスクに応じた措置を講じていただくと いうことになるのかもしれませんが、現行は、そのようにはなっていません。さらに、現行規制では、 局所排気装置の稼働要件を定める一方で作業環境を管理濃度で規制しているというようなことで、一 部からは、作業環境管理をきちんとやるのであれば、例えば局所排気装置の稼働要件の辺りをもう少 し見直してもいいのではないか、そういったご意見もこれまでにいただいているところです。そうい った問題意識でこの最初の1点目をご指摘申し上げています。  ウの2つ目のポツです。原則として、先ほどの規制の経緯から、屋外作業場は通気がいいということ で、基本的にはさまざまな規制の対象外となっているのが現行の規制体系です。一部の屋外作業場に ついては、必ずしもいまのようなものではまずいのではないか、もう少し規制を加える必要があるの ではないだろうかと考えています。例えば、そこにも書いてありますが、屋外作業と言っております が、屋外の溶接作業などでは、結局、いろいろな、近隣住民への配慮もあるのだろうと思いますが、 風除けだったり、防音といった意味でシートで覆って工事をされるというような場合もあります。こ ういった場合ですと、屋外と言いながらも通気も悪くなりますし、溶接ですと、粉じんですとか、そ こから発生するCOなどの中毒の危険性も出てくるというわけです。  こういったところに関し、測定も当然ながら義務づけられていません。この辺に関しては、屋外で の測定は、現行の作業環境測定法では非常に難しい。ただ、その作業環境測定法ができないから測定 はやらないでいいということになるのか、この辺も、もう少し検討の余地があるのではないだろうか という思いです。この辺りの災害事例については、参考資料2の11頁から具体的なものをいくつかお 示ししていますので、後ほどご覧いただければと思います。11頁の「容器等に云々」は先ほどご説明 しましたが、ただいま申し上げた現行の規制では適用のない災害の例として、12頁からいくつか現行 有機則で適用のない事例、13頁には屋外での有害作業で発生した中毒災害の例をお示ししているとこ ろです。  少し趣旨が変わりますが、14頁についてCO中毒の例を簡単にご説明させていただきたいと思います。 これに関して、今回の検討会は、原則として、大きな化学物質管理のあり方についてご議論いただき たいと思っております。ただ、その一方で、このCO中毒という非常に、古いタイプの災害が相変わら ず多発しているところです。昨年は調理用施設等で災害が多発したことから、年末に関係機関、飲食 店業といったところを中心に通気の徹底などについての指導通達を発したところですが、なかなか減 らない。非常にわかりやすい災害であるにもかかわらず減っていかないということで、このCO対策に ついては、別途、何らかの検討をする必要があるのではないだろうかという問題意識を持っています。 この検討会では、先ほど申し上げたように、化学物質管理のあり方についてご議論いただくわけです が、そのご議論をある程度進めていただいたところで、時間的余裕があれば、このCO中毒についても、 個別事案ではありますが、併せてご検討いただければと思っています。そういったことで、CO中毒の 例も14頁にお示ししています。よろしくお願いします。  最後に、参考3、15頁の資料です。国際動向について簡単にご説明します。部長からのご挨拶でも申 し上げましたが、WSSD、SAICM、こういったものが国際的な化学物質管理に関する流れをつくっていま す。このSAICM関連部署の中にも、今回私どもがお示ししていますハザード・コミュニケーションに関 すること、あるいは、化学物質のより簡便な管理に関することが書かれています。右側の項目107、 127あるいは148、こういった辺りが先ほどご指摘申し上げましたア、イ、ウの課題に関連したものと なっています。併せて、参考4は、第11次労働災害防止計画の概要です。18頁から、先ほど資料4の 最初の頁でご説明いたしました現行規制に関連した部分をもう少し詳しくご説明していますので、ご 参考としていただければと存じます。 ○名古屋座長 どうもありがとうございました。化学物質管理のあり方ということで、ハザード、リ スク・コミュニケーションあるいは現行規制の柔軟化、性能要件化という3つの課題が大きく取り上げ られているということです。このあと、個別に議論していただきたいと思うのですが、このほかに検 討しておくべきことは何かほかにありますでしょうか、皆さんの意見の中に。それを先にお聞きして おいて、それから、個別のところに1つずつ、皆さんの議論を進めていきたいと思います。現行ではこ の3つでよろしいですか。何かほかに、ここは取り上げておいてほしいということがあるようでしたら 議論しますが。もし、いまのところないようでしたら、3つを取り上げたあとに、またご意見があった ら拾い上げるという形でよろしいでしょうか。 ○廣川委員 検討の領域の確認をさせていただきたいです。世界の労働界では、農薬の問題が取り上 げられることがわりと多いのです。例えば、職場と言っても農業従事者の、例えば綿花栽培の農薬の 問題とか、そういうものが取り上げられることが多いのですが、今回では検討外と理解してよろしい のでしょうか、ということが1点。  あと、参考資料3にSAICMの世界行動計画の行動目標が書かれているのですが、この検討会の最終的 な位置づけと言いますか、この辺のSAICMの、例えばILO170号条約の批准とか、その辺を見据えたよ うな検討をしていくのかどうかを教えていただきたいと思います。 ○半田化学物質対策課長 最初の点です。農業従事者は基本的に、最近、農業法人なども出ています が、そういったところに関して労働安全衛生法の適用がありますので、排除するものではありません。 ただ、農業従事者に関しては、農林水産省でご指導をなさっているところでもあります。それで、実 際問題としてその辺りをどのように整理していくかという問題はもちろんありますが、ただいま廣川 委員からご指摘いただきました点については、前向きに考えていきたいと考えています。実際にどの ようにやっていくかということはその上で整理させていただきますので、そういったことも含めてご 指摘いただければと思います。  それから、国際動向に関して、170号条約の話です。ILO条約の批准数が少ないというのは、つとに 組合側からのご指摘をいただいているところですので、本来なら170号条約の批准も視野に入れてと申 し上げるべきところだと思いますが、私ども、まずは日本の労働者をどう守るべきかということを考 えていくべきであって、その延長線上に批准の話も出てくるのかなと思います。批准云々ということ を排除するものではありませんが、まずは日本の労働者保護という観点からどういうことが必要なの か、そういうことをご検討いただきまして。例えば、そういったことをやってこれだけの課題をやる と95点が取れる、あと5点取れれば批准できるのだということでもう一歩やろうかということであれ ば、もちろんそういうことを進めることに吝かではないのですが、基本的な姿勢として、労働者保護 をいかに合理的に進めていくかというところを第一義にお願いできればありがたく存じます。 ○廣川委員 ありがとうございます。 ○豊田委員 現状と課題ということを検討するときに、参考資料4で言いますと16頁ですが、「第11 次労働災害防止計画の概要」というのがありますね。この中の、化学物質管理ということで言います と、16頁目のいちばん下の2行、「6の計画における労働災害防止対策、(6)化学物質対策」、それか ら17頁といったところが、第11次労働災害防止計画の概要の中の化学物質管理のところだと思います。 現状と課題を洗い出すときに、平成20年から始めたこの計画の、いま、どういうところが達成されて、 どういうところが達成されていないのかとか、やはりここのレビューも必要と思います。これも踏ま えて現状・課題のところをもう少し議論したほうがいいのではないかと思います。 ○半田化学物質対策課長 承りました。 ○名古屋座長 若干進んでいますので、その進行状況という形のものと目的の達成率がどのぐらいま でいっているかということが現状ということ。 ○豊田委員 ここのところの進行はどこまで出来ていて、達成できていないところは、本来、この現 状・課題というものに結び付いてくるのではないかと思うのです。 ○半田化学物質対策課長 わかりました。 ○西委員 1つよろしいですか。 ○名古屋座長 どうぞ。 ○西委員 ちょっとトンチンカンなことを言うかもしれませんが、MSDSですね。私ども、海外の法律 の紹介などをやっていることもあって、質問を受けたことがあるのです。例えば「非英語圏に英語の MSDSを出してもいいものなのでしょうか」という質問を受けて、「それはやはりレスポンシブルケア の点から言って、例えば中国であれば、中国語のMSDSを出すべきではないですか」という返事をした ことがあるのです。  そういう目で立ち返って見ると、日本の法律では、MSDSを出しなさいということになってくると、 日本語というのはどこにも書いていないのだと思うのです。そうした場合、輸入品の化学物質に対し てのMSDSであるとか、ラベルであるとか、その辺が英語のものだと、末端の労働者に対してどこまで 正式に正しく伝わるのか、というのがちょっと気になりまして、もし実態を把握していれば教えてい ただきたいと思ったのです。 ○奥野中央産業安全専門官 問合せなどをいただいたときは、輸入品であっても国内で譲渡・提供を されるということで、相手先は日本の会社ですので、日本語でというお願いをしています。仮に英語 であった場合、認めると、中国語でもフランス語でも何語でもいいはずになってしまいますので。 ○西委員 おっしゃるとおりだと思うのです。 ○奥野中央産業安全専門官 法令で明記はされていないのですが、当然、日本語で、ということが前 提になろうかと考えています。 ○名古屋座長 もともと扱うユーザーさんがそれを使ってということですから、やはりその母国語に 合わせてもらうのがありがたいかなと思います。 ○西委員 ただ、「いや、私はずっと非英語圏に英語のMSDSを出していて、いままで文句を言われた ことは全然ございません」という豪傑がいまして、どうなのかなという気がしたのです。 ○名古屋座長 あとはよろしいですか。そうしましたら、これから各項目ごとということで。まずい ちばん最初は、化学物質の危険性情報の伝達と活用が十分でないのではないか。この辺につきまして 議論していきたいと思います。この辺の扱いはどうなのでしょうか、皆さん、ご意見があればという ことで。  先ほどありましたように、当然、購入時にはラベルは付いてくるのですが、今度それを小分けした 時は、ラベルが付いていないので、そのものに対する情報不足になる。実際、使うところまでラベル が付いていかないということになってくると、そのラベルを見ていろいろなことを判断しようと思っ ても、結果的には、それを取り扱う人は、そこのところで情報が入ってこないことによる怪我や疾病 が起こることにつながると思うのですが、この辺のところは。 ○城内委員 私は、アの最初のポツのところで提起されている問題の意味がよくわからないのです。 というのは、小分けした容器の取扱いということで、そこにラベルがなければ問題であろうというこ とは確かにそうなのですが、先ほどの資料、参考資料の国際動向のところにもあったのですが、世界 的には、15頁の項目107にもありますが、危険有害性を知らせる、それもラベルで知らせるというこ とは、「市場にあるあらゆる有害物質について」ということが前提になっている話です。ご存じのよ うに、EUではCLP規則というのを作って、40年ぐらいの歴史があるわけですが、危険有害性をラベル できちんと伝えるというシステムがあって、それをさらにGHSでグレードアップしたという形になって いるわけです。アメリカでも、25年前にはそういう概念の法律が出来ています。ところが、日本では そういう概念の法律がなくて、労働安全衛生法で言うラベル表示は100物質にしか義務はかかっていな いという状況で、工場内で小分けするときにきちんとラベルを付けましょうというもっともっと前の 段階で、危険有害な物質についてはラベル表示をしましょうというのがないような気がするのです。 その辺はどのように考えていらっしゃるのでしょうか。 ○奥野中央産業安全専門官 危険有害な化学物質につきまして、譲渡・提供時のラベルが法令で義務 づけられているのは100物質なのですが、それ以外の危険有害な化学物質については、化学物質等の危 険有害性等の表示に関する指針というものが告示として出ており、基本はこれで指導しているところ です。 ○半田化学物質対策課長 ただ、指導ベースですので、やはり限度もあるというようなことで、その 辺りもご検討いただくところかと考えています。 ○名古屋座長 これは、要するに物質を増やすという検討ですか。 ○半田化学物質対策課長 物質を増やすとともに、義務の課し方も工夫していく必要があるのだろう と思っております。従来のまま、ただ増やしていけばいいのか、表示内容などをもう少し工夫しなが らやっていくのか、その辺も併せてご検討いただく必要があろうかと思っております。 ○豊田委員 アの文章を読んでいますと、例えば、ラベル表示を義務化してその表示の量を増やして いったらどうか、MSDSについても、欧州との比較でもっと増やしたらと受け取れかねないのですが、 上の1行の冒頭にも書いてありますように、「伝達と活用」が十分ではないと考えます。例えば1ポツ 目の災害発生の問題でも、本来、その物質にどういう危険性があるかという教育がなされていないの ではないかと思うのです。ですから、いくらラベル対象を増やしても、それが本当にこういうふうに 悪いのだという教育をした上でそういうことをやらないと、空回りに終わってしまうのではないかと 思うのです。  2つ目もそうだと思うのです。MSDSに関して、日本が640でEUが8,000だと、では、それで8,000 に増やしたらいい、うまくいくのではないか、というだけでは駄目だと思うのです。例えば、今、中 災防の全国キャラバン講演で、こういう化学物質管理の講演なども盛んに行っておられ、日化協もい ろいろお手伝いさせていただいています。地方に行って、このように講演をやりますと、中小企業の 方が聴講されていて、その質問の中に「MSDSというのは何ですか」という質問が現実にあるわけです。 厚労省のアンケート調査結果の中でも、中小企業のところでは、やはりMSDSをまだ知らないところが かなりある(84%)という状況ですから、活用にも力を入れる必要があります。MSDSについては、た だ対象数を増やすのではなくて、まずはMSDSそのものの普及がまだ足りていないという観点に立って、 普及活用のところ、ソフトの仕組みも含めて、そういったところも十分にやっていかないとかみ合わ ず、空回りに終わってしまうということです。 ○半田化学物質対策課長 活用あるいはそういった人材の育成という観点のご指摘、承りました。 ○橋本委員 ラベル表示というところで意見と、お尋ねも少ししたいのです。ここで言うラベル表示 というのは、先ほどの約100物質についてラベル表示の義務がありますが、GHSの標章とか、そういっ た注意書きとか。そういう意味でそういう内容のラベルをある特定のいくつかの物質に対してする、 こういう意味ですか。 ○奥野中央産業安全専門官 そのとおりです。 ○橋本委員 あと、これは質問なのですが、まずは、小分けしたときには、すべて、最低でもその物 質の名前を容器に付ける、すべての物質に対して。これがまず第一歩ではないかと思うのですが、こ ういう法律はいまあるのですか、ないのですか、ないようなのですが。 ○奥野中央産業安全専門官 先ほどの化学物質等の危険有害性等の表示等に関する指針にはそのよう に書かれていますが、法令上の義務では、一部の特定化学物質以外はございません。 ○橋本委員 わかりました。そうすると、まずは、最低、名前はすべての物に付けるというのがまず 第一歩ではないか。あと、例えば弊社の中では、小分けしたときには必ず、最低名前は付けるという ことをやっているのですが、名前を付けるだけでも、実際、なかなか大変で、いろいろな情報の含ま れたあるラベルを付けるというのは大変なことではないかと実は思いますので、まず名前からと思い ます。 ○名古屋座長 その小分けというのは、例えば1つの大きなところから分けて。最終、末端まで全部名 前を付けるということですね。 ○橋本委員 そうです、すべての容器に。 ○名古屋座長 すべての容器にですね、最後まで、小さくなっていくところまで。 ○橋本委員 はい。ですから、先ほどあったペットボトルに入れた何かとか、そういう物も全部付け るということです。 ○半田化学物質対策課長 このラベルを規定していますのは57条の表示というところですが、もとも とこの表示は、名前と極く一部の特性を書くだけの非常に簡単な、文字どおりラベルだったのです。 労働安全衛生法が出発したときにはそういう表示から出発しています。ただ、それが、その後GHSなど の動きも出てきまして、そういったものに合わせていく中で、いまの表示はもう少し情報の多いもの になっています。ですから、先ほど申し上げましたように、表示を単純に拡大していくのかどうかと いうところで豊田委員のご指摘があったときに私が申し上げたのは、そういったところもご議論いた だければと。いまの表示のあり方のままで拡充をするというのも考え方ですし、いま橋本委員のご指 摘にありましたように、まずは名前がきちんと行き渡るようにするのが先だろうというのもあります し、または、それ以外のお考えもあろうかと思いますので、そういったところも含めて、この検討会 でご検討いただければありがたく存じます。 ○豊田委員 少し補足しますが、労働現場の実態ということを踏まえると、GHSのラベルについては 「GHSラベル表示の代替手段の活用」ということが国連の勧告書にも謳われているわけですので、やは りそのようなものを十分考慮しなければいけないと思います。参考までに、ここに持参した「GHSラベ ル表示」見本は、全部の要件を記載しているものですが、すべての要件を記載、表示すると、このよ うにA4の紙1枚のサイズになってしまい、例えば、小分け容器等にまで、この表示を貼るなどという ことは不可能です。例えばGHSの絵表示だけを貼るとか、あるいは先ほど言われたような化学物質の物 質名だけを表示するなど、現場の実態に応じて、いろいろな工夫をしております。それが有効であれ ば、GHSラベル表示の代替手段として認めて、運用することについては、GHS勧告書においても推奨さ れています。要は、ただGHSラベルを職場にベタベタ貼れば安全が確保されるというものでもない訳で、 やはり労働現場の実態を踏まえて考えなければいけないことと思います。 ○宮川委員 現場の実態については先ほども少し話が出たと思いますが、実際に義務化されている100 物質のラベル表示については、たぶん表示をきちんとつくってやっていると思いますが、MSDSについ て言うと、なかなか添付されてこないものがあるという声も一部で聞きますし、義務があるもの以外 についてもMSDSあるいはラベル表示等が、できればあったほうがいいと思うのです。そのようなもの については実際にどのぐらい行われているのか。義務等々がかかっているものについてはどの程度行 われていて、MSDSを要求すれば出てくる、要求しなくてもきちんと付いてくるのはどの程度か調べて いるのでしょうか。また、義務がかかっていないものについても、そのようなことが自主的にどの程 度行われているかなどといった調査、現状の把握というのはしているのですか。 ○半田化学物質対策課長 世の中の物質の何物質ぐらいが流通過程でどれぐらいMSDSを交付している かというデータはなかなか難しいと思いますが、産業保健推進センターなどのアンケートの中に、 MSDSをきちんともらっていますかとか、請求したらもらえる、請求してももらえないなどといった観 点からの調査はありますので、最低限それが用意できると思います。 ○堀江委員 産業医あるいは産業医学に関する診療を担当する立場からMSDSについて言うと、最終的 には人を助けるために役立てたいという思いが非常に強いわけです。予防という部分もありますが、 医療現場で何かを触った、皮膚がかぶれた、目に入った、飲んだと言っても、その人たちはその化学 物質がほとんど分からないというのが現状だと思います。しかし、実際の現場ではほとんど分かりま せん。例えばシンナーと言われても、シンナーに入っているものがキシレンだとしたら、メチル馬尿 酸などの代謝物を測ればある程度わかるなどといった発想は、医療従事者でもなかなか持てないのが 現状です。20年ほど前のアメリカのクリニックでの経験ですが、現場の労働者がMSDSないしはラベル を剥がして持ってきて、それで一般名が確認できて、それによって診療の方針を立てて、ばく露量も 人間の試料から測定できるといったことがありました。労働者に何かあったとき、最終的にラベルを 剥がして持っていくことができるような状態の活用があれば、医療現場では非常に役立つと思います。  似たような話で、健康診断をしている立場から、産業医が直接面接をして現場や現場の名前がわか れば、どのような化学物質を使っているかがわかるのですが、そうではなく、医療機関が出張し、あ る職域の労働者の健診の際に何を使っていますかと聞いても、化学物質の一般名が出てくることはほ とんどないのです。それを管理者にたずねて、どの組織では誰がどの職場にいくのかというマトリッ クスを作らないと、誰が何にばく露しているか分からないという話になるので、面接の際、末端の労 働者1人ひとりが化学物質の一般名は言えないにしても、ラベルを剥がして持ってきたり、健診の情報 として、この人はこんな化学物質を使っているというのが一般名で出てきたりすれば、日本の医療機 関ならばインターネットで検索し、然るべきサイトに行けば、これは活性炭が有効だとか、上気道で 吸収されるなどといった話が出てきますから、医療機関に一般名が分かるという活用法まで何とか考 えていただければありがたいと思います。 ○名古屋座長 やはりラベルを剥がしてくるのは大変ですが、橋本委員が言われたように、かなり末 端まで貼ってあれば、書いてあることは分かる。いままでは書いてないために、何を使ったかがわか らないということがあったと思いますが、末端まで貼ってあり、情報が書いてあれば、たぶん剥がさ なくても。 ○堀江委員 そうですね。剥がすというより、情報として持ってくるという意味です。 ○名古屋座長 情報として持ってくるというのはいいですね。今までは末端までなかった情報が必ず 小分けの末端までいくという流れをつくると、いまのようなことは解決してきます。 ○豊田委員 先ほども言いましたが、このA4サイズの表示がGHSラベル表示のフルの要件です。これ を小型容器などにも全部貼ることを、例えば、義務化してしまうと大変なことになりますから、例え ば海外などの事業所で、既に自主的にGHS表示活動を実施しているところでは、GHS絵表示だけを貼付 というケースもあるのです。絵表示だけを見るとギョッとなり、これは飲んではいけないのではない かということで、先生の所に持っていって尋ね、結果として、有効に機能する場合もあるかと思いま す。よく行われているのは、意識付けを含めて絵表示だけでもいいからやりましょうといった柔軟な 自主的活動も含めて、「GHSラベル表示の普及」ということを考えなければいけないのではないかと思 います。ただ、一律にがんじがらめにしてしまうと、結果として、うまく機能しないということです。 ○堀江委員 大賛成です。もう1つ付け加えたいのは、活用についてです。それは末端の労働者が化学 物質の一般名に触れたとき、言葉の意味については欧米に比べて非常に不利な状況にあるということ です。例えば、クロロという言葉があったとすると、英語圏の人ならば塩素系のものが入っていると いうことがある程度わかりますし、医療機関側にしても、それはハロゲンということがわかり、肝障 害があるなどという発想ができるのです。しかし、日本では一般の人はクロロと塩素がなかなか結び 付かないこともあるのが現状で、カタカナにした時点ですでにバリアがまだあるという感じがします。 その辺のことも活用ということを考えると、一般の方が本当に理解できるような一般名があるとよい ですし、どのような部類の化学物質で何なのかということが何となくわかる方法があればありがたい と思っております。 ○西野委員 先ほど豊田委員が話されていたのですが、私も教えることが大事ではないかと思います。 ラベル表示も必要かもしれませんし、私どもの事業所でもMSDSで集めてはいるのですが、それを使っ た教育や周知が本当にできているかと言うと、集めることに一生懸命で、どうもその辺はできていな いような気がします。したがって、先ほど豊田委員はラベルの絵表示のことを言われましたが、中に 入っているものの名称は何か、MSDSを読んで、こういうものが入っているからこのような保護具を使 ったり、このようなことに気を付けなければいけないといった教育をもっと位置づけることのほうが 大切ではないかと思いました。 ○橋本委員 先ほど最低でも名前と申し上げたのですが、豊田委員が言われたように、確かにGHSの標 章は大変いいと思いますので、例えば名前プラス標章、MSDSのあるもの、利用できるものについてす べて付ける。最低でも名前、標章があるものは標章を付けるなどといった考えもあると思います。現 実の話、標章を付けるぐらいならば、シールをたくさん作っておけば、労働現場では割と付けやすい と思いますから、そのような選択肢もあるだろうと思います。 ○名古屋座長 次回以降、教育あるいは情報の共有をどのようにしたらいいかということを議論して いきたいと思います。もう1つ、イのリスクアセスメントの普及状況が低調ではないかということにつ いてどのように考えていくか、この辺りを進めていきたいと思いますが、いかがですか。 ○小泉化学物質対策課長補佐 先ほど統計について質問があり、調べた結果がございます。先ほどの 労働環境調査ですが、1万2,700の事業場に対して調査を行い、回答があったのは8,581事業場、回答 率は67.4%でした。また、リスクアセスメントの実施状況の聞き方なのですが、有害な化学物質の取 扱いがある事業場を100としたときの割合となっております。リスクアセスメントについてどのような 聞き方をしているかと言うと、「実施している」「実施の予定がある」「実施の予定がない」という3 つのうちのどれかに○を付けていただく形です。リスクアセスメントについては一応の説明がありま して、「ここで言う化学物質に関するリスクアセスメントとは、化学物質により発生する負傷または 疾病の重篤度と発生の可能性の度合を見積り、それに対する対策を検討するもの」としており、これ に該当するか、しないかという聞き方をしております。  先ほど宮川委員から質問があったMSDSの関係ですが、同じく労働環境調査でMSDSの添付状況を聞い ています。MSDSの交付対象物質か、交付対象物質以外かという区分けはないのですが、化学物質の取 扱いの業務がある事業場に対して、MSDSが添付されているか、されていないかという、入ってくる化 学物質に対しての添付状況ですが、「添付されている」「一部のものは添付されている」「添付され ていない」「譲渡・提供される化学物質はない」の4択となっています。「添付されている」は65.7 %、「一部のものは添付されている」は15.8%、「添付されていない」が9.6%、「譲渡・提供される 化学物質はない」は8.9%で、「添付されている」と「一部のものは添付されている」を合わせると、 81.5%という結果でした。  MSDSについてはもう1つ質問していまして、これは自分の所から外に出すときに添付しているかど うかというものです。化学物質の取扱いの業務がある事業場に対して、「添付している」「一部のも のは添付している」「添付する予定がある」「添付する予定はない」「譲渡・提供する化学物質はな い」の5択で回答を求めています。「譲渡・提供する化学物質はない」は57.4%、「添付している」 は29.0%、「一部のものは添付している」が8.9%、「添付する予定がある」は1.4%、「添付する予 定はない」が3.3%という結果です。以上、ご紹介いたしました。 ○名古屋座長 よろしいでしょうか。 ○半田化学物質対策課長 次回また提出させていただきます。 ○名古屋座長 イの「リスクアセスメントの普及状況が低調ではないか」ということについて、たぶ ん、これは促進するためには何を行ったらいいかということだと思いますが、ここでは人材養成など といったところまでは踏み込まないでいいのでしょうか。 ○半田化学物質対策課長 そこについても先生方のご検討をお願いします。 ○名古屋座長 これについてはいかがでしょうか。今日のところは議論しておくだけで、次回以降に きちっとまとめていこうと思っておりますので、このようにしたらいいというご意見をお聞かせ願え ればよろしいと思います。何かあればお願いします。 ○豊田委員 リスクアセスメントと一言で言ってもピンからキリまでありまして、どのレベルのこと をやればいいかということも重要です。要は、化学物質を安全に管理していこうという目標ですから、 その目標達成のためにどういったレベルの人を対象に、どの程度のリスクアセスメントをやれば有効 か、それが普及されているか、されていないかという議論をしないと、単にリスクアセスメントの普 及についてのデータだけで議論をしてしまうと、間違うのではないかと思います。そこはもう少し丁 寧な議論が必要ではないかという気がします。 ○福岡委員 いまの話に若干関連すると思うのですが、先ほど統計のベースの話がありました。調査 したのが平成18年で、化学物質についてのリスクアセスメントの指針が出たのも平成18年という状況 で、リスクを有害度とばく露の2つの物差しで評価するという方法自体が今でも普及していないために、 11次防の中の大きな目標となっているということです。平成18年のデータについては先ほど説明があ りましたが、本当かなという印象があります。例えば、7頁の図-9ではMSDSを知っている労働者の割 合が出ていますが、いちばん左側にあるように、「知っている」が16%、6頁の図-7では「実施して いる」が37%となっております。ご存じのように、リスクアセスメントについては実際の作業者も含 めて評価しなさいという話になっておりますので、そのようなところから考えても、ちょっと何かと いう感じがすることが1つあります。  また、先ほど教育の話がありましたが、50人未満の事業場では、ご存じのように安全衛生推進者の 選任というのがあります。安全衛生推進者の養成の講習などのとき、教科書を見ると、今のところ、 リスクアセスメントの説明や化学物質についてのことはたくさんあります。しかし、それ以前に他に 教育する内容がたくさんあって、こういったレベルまで教育するところになかなか行かないというの が実態ではないかと思うのです。事業場では少なくとも管理の仕事をしていく人をどう育てるかとい うことを突っ込んでいかないと、なかなか行かないのではないかという感じがします。  先ほど出た話でちょっと恐れたのは、化学物質の名前についてです。場合によっては提供者が企業 秘密という理由で内容の一部をオープンにしないケースもあるようです。それでも内々で電話をもら っているのかもしれませんが、一般名がなかなか分からないというケースが実態としてあるのではな いかという感じがします。ちょっと別の話になって申し訳ありませんでしたが、そのようなことを感 じました。 ○名古屋座長 名称のことですね。他にお気付きの点があればお願いいたします。 ○山本委員 先ほど豊田委員も言われましたが、リスクアセスメントを一概につかむということは非 常に難しいと思うのです。今回のこの検討会で念頭に置く労働災害の特徴と言いますか、時代によっ て、産業構造によって、雇用形態によっていろいろな局面が出てくるので、我々は職場における化学 物質管理というのは一体どのようなものを念頭に置けばいいのかと。さまざまな具体的な事例を見て いても本当にいろいろなものが出てきているので、私は労働組合ですが、労働組合と言えば工場、原 液があってそれを薄めたり、反応させたりしていると思われがちですが、かなり広い範囲でサプライ チェーンと言うか、下のほうや脇のほうでリスクと言えばリスクがある。そこで、まずリスクという のはどの辺りに重きを置くかということをこの検討会ではある程度絞り、非常に一般的なハザードを かけるばく露量イコール、リスクということだけに終わってしまってはあまり意味がないですから、 リスクアセスメントのリスクそのものの今日に特有な局面のようなのを押さえておいたほうがいいと いう感じがします。 ○西委員 リスクアセスメントについては、皆さんがおっしゃられたことに同感です。リスクアセス メントの最たるものでは例のREACHのCSRがありますが、あれをまともにできるのは、残念ながら、大 手の化学会社の中でもほんの数えるぐらいしかないと思います。一口にリスクアセスメントと言って もピンからキリまであるわけで、本当に労働者保護のために行うリスクアセスメントとして、最低限 これだけやりましょうなどといったものを提示し、皆さん頑張りましょうとか、既にあるのでしたら 申し訳ありませんが、そのようなことをしていく。リスクアセスメントと言うと構えてしまって最初 から無理ということになってしまうと逆効果ですし、あまり簡便過ぎても、それでいいということに なっては逆に困るかもしれませんので、もう少し取っ付きやすいような方策を考えるのがいいかなと いう気がします。 ○橋本委員 アメリカの労働衛生管理の様子を見聞きすることが多いのですが、先般からのデータで も中小企業で特に問題が多いということが出ています。アメリカ辺りでは、中小企業ですと人材がな かなかいないので、どうするかと言うと、外のコンサルタント会社に依頼し、まずリスクアセスメン トをやってもらい、あとは見よう見まねでそれに応じてやっていく、こんなところだと思います。そ のように外部から専門家が来て、リスクアセスメントで何をするかと言うと、まず作業を見るわけで す。経験と知識があれば、見ただけで、これはリスクが非常に低いからオーケーといった判断もかな りできるわけです。また、Control Bandingなど簡易的なツールも別途あるのですが、観察や簡易ツー ルなどどちらにしても、リスクアセスメントのいちばんの基本というのはばく露の評価だと思うので す。  ばく露限界値については、日本では産業衛生学会の許容濃度がありますし、ご存じのように海外に はACGIHのTLVがあります。ばく露限界値というのは、その濃度までであれば、長年ばく露していても 安全だという指標であって、リスクの大小を判定する最も基本となるもの、1つの基準値です。また、 基本は測定をして、労働者の実際のばく露がそれを超えているかいないかを判定し、それによってリ スクの大小を判定する、これがスタンダードで、いちばん基本的なやり方です。さらに、そこから発 展して観察、判断などいろいろなものが出てくるわけです。日本国内の法律で見ると、ばく露限界値 というものが定まっていない、あるいは推奨されていないということがあるので、国がまずそれを定 める、あるいは推奨し、はっきり公開して、それに従うようにという指針を出していくことがすべて の基本になるのではないかと思うのです。 ○名古屋座長 測定になってくると、なかなか難しい部分があります。専門の人であればいいが、工 場にいる人たちが自分たちで自主的にというのはなかなか難しい部分があって、いま中小ではばく露 などを測定するという現状にないという気がしますが、その辺はどうなのでしょうか。もっと簡易的 な、あるいはある程度リスクアセスメントをやったら、例えば軽減していくといった形の置き方をす るのか、もっと簡易的なもので自分たちで自由にやっていくのか。たぶん、測定があるのでなかなか そうはいかないと思いますが、これからの議論は自主的にどれだけうまく運用していくかという話に なってくると思いますので、実際の現場ではうまくいきそうか、その辺りについてお聞かせください。 ○橋本委員 先ほど私が申し上げたのは、それが基本だということであって、特に中小辺りではそれ ほどたくさん測定するわけにもいきませんし、簡易法とか専門家の定性的な判断などをできるだけ活 用してやるのですが、基本はばく露限界値とそれを測る、どうしても分からなかったら測るというと ころがあるので、やはりそれは必要ではないかと思います。 ○堀江委員 橋本委員にお尋ねしたいのですが、欧米の現状として、特に教育を受けていない人が現 場を観察し、何らかの簡易的なツールを用いてやるという話がありましたが、そのようなものも含め てリスクアセスメントと呼ぶのですか。 ○橋本委員 測定はある程度経験のある方、ここに書いてある「十分な知識を有する人材」、このよ うな人がやるわけですが、例えばイギリスから始まったControl Bandingという方法がありますが、こ れは一般の労働者でもちょっとトレーニングを受け、簡易ツールを使ってたどっていけばリスク判定 ができることになっています。大きなリスク判定についてはあれでいいと思うのですが、あの中でも 判定の難しいものやハザードの非常に高い物質については、専門家に相談をしなさいということがあ るのです。それについてはコンサルタントとか専門家の所に行き、最後は測定することになってくる ので、簡便法とか定性的な方法もあるのですが、大事なところは測定しないと白黒が付かないという 意味で、そこのところも基本として必要ではないかと。さらには、簡便法などといったものもあって いい、そのような意見を述べたのです。 ○堀江委員 日本の現状では、おそらく本当の意味でのHazard IdentificationとRisk Estimationと Risk Reductionの提案のところをやれるのは、専門家しかいないような気がしていまして、統計の話 もありましたが、私たちはリスクアセスメントをしていると言っているのを見に行ってみると、評価 をしたらほとんどはリスクアセスメントとは到底呼べないというものでしかないのかなと。そのよう な意味では、安易にリスクアセスメントを現場でしましょうと言うよりは、専門家を見つける、ある いは国が専門家がどこにいるかをはっきりと示して、外部にリスクアセスメントをしてもらう、ある いは作業環境測定の結果等を利用して評価をしてもらうなどといったことをしない限り、信頼できる リスクアセスメントはできないと思います。 ○橋本委員 その点は賛成です。やはり、基本的には専門家がやっていかなければできないだろうと 思います。 ○豊田委員 イのテーマというのは資料1の1頁で言うと、検討事項の(2)の「より受け入れられ易い 管理手法による自主管理の促進」、このカウンターパートではないかと思います。厚生労働省の事前 の説明も、先ほど紹介があったControl Bandingのようなものを想定されていると思いますが、私自身 は、もし有効であれば、それなりにやってもいいのではないかと思っています。昨年秋に厚生労働省 はリスク評価の体制について企画検討会を設け、ハザードのところを有害性評価小検討会とばく露評 価小検討会に分けて、さらにアプリケーションのところも検討しましょうということで体制を強化し ました。1つはそのような形で、今までのリスク評価の延長に立って強化しているということについて は、私はそれなりに評価しています。今度の「より受け入れられ易い管理手法による自主管理の促 進」は中小を対象にしているとのことですが、中小を対象にしたControl Bandingもいいのですが、受 け入れられやすい自主的な促進というところにどのようにつながるのかといったところもよく議論し なければいけないのではないかという気がします。 ○名古屋座長 次回以降になってくると、先ほどからご意見が出ていますが、どこを対象にして、ど のレベルのところでリスク評価をするかということも絡んでくると思います。今まで行われているリ スク評価というのはハードルがかなり高いところのリスクだったのですが、中小企業までという表現 は申し訳ないのですが、どこを対象にして、どのくらいのレベルについて実施するかといったことを 議論していき、ハザード第1、第2という言い方は変ですが、レベル1、レベル2といったレベル段階 を決めて、どのレベルに何をといった所から議論し、詰めていきたいと思います。できれば、いま低 調であるものを普及させることによって、自主的な管理が促進でき、安全に結び付いていけばいいと いう形になるのではないかと思います。次回はここのところを時間に応じて進めていきたいと思いま すが、とりあえず、現行法の目的達成を限定しすぎではないかといったことについて時間まで議論し、 次回以降はもう少し個別のものを議論していきたいと思っています。ここに関してのご意見があれば お願いします。 ○豊田委員 この「ウ」のタイトルが「現行規制は、目標達成手段を限定しすぎているのではない か」と書かれてあり、半田課長からも、「一律の規制がうまく回っていないのではないか」という発 言があったと思います。それを踏まえて11次の労働災害防止計画の資料を見ると、17頁の真ん中辺り のイに「化学物質管理対策」とあって、(ア)のリスク評価に基づく化学物質管理の一層の推進の3行 目に「規制と自主管理の適切な組合せによる化学物質管理の一層の推進をする」ということが謳われ ています。やはり、この「規制と自主管理」の適切な組合せというのがなかなかうまくいっていない ということに行き着くのではないかと思います。よって、この課題を受けて、今後は、「ウ」のタイ トルを「いかに規制と自主の適切な組合せを推進していくか」、というような形に言葉を換えて検討 していく必要があるのではないかと思います。その一例として挙がっているのが局排の稼動要件など で、リスク評価の結果に応じて適切な処置を行うことにつながっていくのではないかと思います。 ○名古屋座長 ここに書かれてあるように、現行の場合はリスクが著しく低くても、法体系の中では 繰り返し測定していかなければいけないということもあって、リスク評価より過剰的なものになって いるかなという印象があります。これを少し緩和できる形のものにするために、リスク評価である程 度目的が達成されているとしたら、測定など軽減化ができるのかなと、これを見ていると思います。 他にここについて何かあればお願いします。 ○宮川委員 先ほどのリスクアセスメントにも関係するのですが、誰でもできる比較的簡易な方法と、 ある程度のエキスパートが必要なきちんとした方法とがあると思います。自主的な管理というのがき ちっと行われるためには、やはり技術が必要だと思います。技術の伴わない所に自主的に管理せよと 言っても、適切な管理は望めないですから、規制と自主管理と書いてありますが、自主管理のために はある程度のエキスパートが外部でも内部でも日本国内で活用できるような状況になっていること。 そのような技術が伴った場合は相当程度の自主管理が拡大しても、合理的な管理ができるのではない かと思います。技術のない所に任せるということにはおそらくならないと思いますが、規制と自主管 理というのは、逆にいうと、技術のない人でも守らなければいけないルールと、技術のある人は工夫 してやってもらう部分というように読み換えることができると思います。先ほどのリスク評価で簡易 な評価ときちんとしたエキスパートがやる評価とペアの関係にあると思います。どちらがいいという ことではなく、両方が必要であるし、仮に片方に力を入れることによって災害が少なくなるならいい のですが、どちらに力を入れるかということについてはバランスを取った見方が必要だということで す。 ○山本委員 ウの「現行規制は、目標達成手段を限定しすぎているのではないか」という表現につい てですが、現行規制というのは究極的には労働災害を減らすことであり、強制的なものであれ、自主 的なものであれ、どちらでもいいわけです。このような検討会が手法の論議だけで終わっていてはあ まり生産的ではないと思いますし、リスクアセスメントという言葉が我々の耳に入って10年経つか経 たないかですから、リスクアセスメントが低調だというのもある程度当たり前だと思うのです。問題 は現行法規が労働災害を減らすことができるようなものになれるかどうかということにあるのであっ て、目的達成手段限定ということが適切かどうか、やや疑問に思っています。表現に文句をつけるわ けではないのですが、そんな感じがしています。 ○城内委員 観点が違うかもしれませんが、例えばイの問題やウの問題にしても、いままで日本の労 働安全衛生というのは、いわゆる法規準拠型でやってきたわけで、2000年以降、世界的な化学物質管 理のstrategy、戦略にもよりますが、先ほどからあるように、かなり自主的にやろうということにな ってきたわけです。ところが、日本では告示というか通達といったレベルで出て、概念としては、た ぶん通達レベルのほうが大きくなっていて、法律で規制してきたことは非常に狭い範囲だったわけで す。しかし、行政的には法律のほうが上ですから、法律を守りなさいというのが常にあり、現場では どうすればいいのかという話があったと思うのです。これはその辺の整合性というか、どのように仕 分けしていけばいいかということだと思いますが、私はここで大きく変えたほうがいいと思っていま す。個人的には労働安全衛生法を変えたほうがいいと思っていますが、それは難しいにしても、少な くとも化学物質管理の大きな枠組みがあって、法律で規制しているのは実はここなのだということを 示すガイドラインのようなものが必要ではないかと思っています。 ○堀江委員 法律の話が出たのですが、産業医は健康診断と作業環境測定の両方に関わりを持ってい ます。健康診断は罰則で言うと120条にある50万円以下の罰金、作業環境測定は119条の懲役6カ月 でより厳しい罰則が付いている条文であるにもかかわらず、健康診断のほうは監督署に報告するので 一生懸命やっている、一般健診は50人以上ですが、特殊健診はすべての事業場が報告しているという 状況で、これは規制がかかっていると。ところが、作業環境測定はそういった報告義務がなく、それ だからかどうか分かりませんが、作業環境測定の実施そのものが省略されているようなことがあるの ではないかという危惧があります。城内委員も指摘されたように、どちらかと言うとリスクアセスメ ントのほうが専門家の指導、助言が必要で、より広い範囲のものを取り扱うし、より効率的、専門的 に行うのですが、作業環境測定のほうは国の示した一定の水準さえ保たれれば良い、しかも限定的と いうことからすれば、本来は中小企業は作業環境測定をとにかく報告すればいい、大企業はそこまで しなくても専門家が自主的にやれば、逆に一々これをやれ、あれをやれと規定しなくてもいいのでは ないかと思います。 ○名古屋座長 中小企業では、測定して報告するというのはなかなか難しいです。いま有機則などで 規制緩和がきちんとできている体制にあるのですが、その運用がうまくいっていないというのは、た ぶん報告義務があるからではないかということをときどき聞きました。報告したときに報告事項の確 認に、監督署の人が入ってきて、報告したことだけを指摘されるのであればいいのですが、当然それ ばかりではなく、安全からすべてについて工場等を見られてしまい、報告確認とは違ったところで指 摘事項をを見つけられてしまうわけです。そうすると、規制緩和は希望するが、それ以外の所はあま り触られたくないという部分は無きにしもあらずかなという気がするのです。経済産業省原子力安全 ・保安院が扱う鉱山等では、測定の義務がありますが、さらに、報告義務もあります。厚生労働省に おいて、測定の報告義務がないというのは、たぶん測定対象事業場の数が大きく違うことがあるから だと思いますが、難しいかなと思いました。  もう1つ、現行法でリスク評価をして、評価がオーケーになっていても、それでオーケーかと言うと、 現行法があることでどうしても二重規制になっている部分がある。リスク評価でオーケーならば、現 行法を外してもらえたらと。いま言ったように測定の重要性があって、これでオーケーということで あれば、測定の緩和とか制御風速などといったものを全部外してもらえると、測定し、結果に応じた 対応を事業者が自由裁量で、制御風速を遅く知ることが出来る様にすれば、局所排気装置の運転コス トの削減など経済的メリットに結びつき、事業者も、測定し、リスク評価することでメリットがある ことが分かれば、測定やリスク評価を積極的に実施してくれると思います。しかし、現状では、測定 やリスク評価を一生懸命努力しても、現行法の法律があり、リスクの評価に関わらず定期的な測定を 行わなければならない。要するに二重にお金を払うということなのです。よくできたら褒美を上げる というシステムにそろそろしてもいいのかなと思うのです。その辺が現行法で今後検討されている規 定だと思いますし、そうすると自主的な管理というのもかなり進んでくると同時に、測定士も非常に 責任を負うことになりますから測定や測定士のレベルも上がる、測定によるメリットを考えることに よって事業主の環境に関する意識向上にも繋がってくる。要するに、今言った様なことが現行法の規 制で書かれているのではないかと思いながら見ています。 ○豊田委員 まさにおっしゃるとおりで、例えばリスクアセスメントなどもインセンティブと言いま すか、これをやればポジティブにうまく回るといった形で、自主的な活動を醸成していくような何ら かの行政サイドの政策というものを期待したいと思います。 ○名古屋座長 このあとそのような議論をしていくのですが、今日はフリーですので、何かあればお 願いします。 ○福岡委員 私どもは中小のところで安全診断という形で出入りすることがあるのですが、ちょっと 感じることがあるのです。安全衛生のいい所にはあまり行かなくて、最悪の所に行くわけですが、現 場をパトロールして、あそこは危ないということを素直に聞いてくれる所というよりも、なるべく指 摘してほしくないというか隠すという雰囲気を感じる場合があるわけです。日本では、このように危 ないところがあるということを余程うまく言わないと、素直に受け取らない。日本の文化も関係する かもしれませんが、すぐ責任とか何かが絡むので、リスクアセスメントの場合もこんな危険性、有害 性があるが、このような対応をすれば安全ですという順番でいこうとしても、最初のところで危ない と知らせることに十分でない点がある。  例えば、現場では正社員だけでなく、派遣やパートの人も仕事をしているわけで、事業者としても、 今日は来ても明日は来るかどうか分からないような派遣の人にどこまできっちり教えるのかというこ ともあったりして、教育と言ったとき、その作業をする人にどんな危険性、有害性があるのかをきち んと教え、しかしこのような対応をするから大丈夫だという事業者からの働きかけがもっとスムーズ に進むような考え方ができるようにならないか、そんな印象を持ちます。  今日の議論の法規制云々にはいかないかもしれませんが、そうした物の考え方、例えば原子力の話 にしても、放射能が危ないということをあまり言わずに、発電所は安全という言い方をして、事故が 起こってからこのような体制だったら安全だとか、どうも日本の文化がベースになっていうような感 じがします。リスクアセスメントの普及に関しても、危険を知らせることが大事であると、それによ って安全が確保できるのだといった辺りをもっとうまく一般に、あるいは事業者にも知ってもらうよ うな何らかのやり方はないかなと思っています。 ○橋本委員 ここに少量の物質をたまにしか使わない例と、屋外作業の例の2つの例が書いてあります が、リスクを正確に評価しようと思ったら、先ほど申し上げた個人ばく露測定、ばく露基準値に基づ くといったことになるわけですが、実際の話としては必ずしもそのようにならないであろうと。と言 いますのは、例えばばく露基準値を定めて個人ばく露測定を基にしてリスク評価というのが基本のや り方になったときに、たくさんの数のサンプルを取るなどといったことは現実にはなかなかできない ので、例えば2つか3つのサンプルを取って、それを基に専門家が判定し、リスクが非常に小さければ それでいいだろうと、このようにリスクを絞り込んでくるからです。ばく露基準値に基づくリスクの 判定というのは、そのような判断の余地というのがたくさんあり、特に海外では、そういった必要性 から専門家が多く育ってきて、いま多くの専門家がいるので、現実には測ってばかりではなく、定性 的な判断なども十分活用し、意外に簡単にリスクアセスメントができるようになってきたという育ち 方をしているのです。  一方、日本では90数物質についての作業環境測定、そのやり方もがっちり決まっているので、それ を超えるような余地がなかなかなくて、人がそれ以上創意工夫する余地がない、法律のことだけやっ ていればいいということで、人材もなかなか育ってこなかったのだと思うのです。そのような意味か らもばく露基準値を定め、それに基づく施策というのは、人材を育てる、これは中期的な意味合いに なると思いますが、非常に重要なことではないかと思います。 ○名古屋座長 先ほどお話しましたリスクのところで、厚生労働省のホルムアルデヒドの検討委員会 の中で、同じことが起こっています。ホルムアルデヒドを少量取り扱っている所は歯医者とか内視鏡 を扱う小さな個人病院では、ホルムアルデヒドを取り扱う時間が極端に短く、リスクの時間と量を見 ていくと、著しく小さいから測定義務から外しました。また、解剖とか解剖実験などについては、取 扱量は多いが、時間は短い。でも総合的に判断するとリスクは高いから測定義務をかけましょうとい うことがあるのですが、その辺の住み分けがうまく出てくると、リスク評価で一様に規則をかけてい るものは緩和できる部分があるのではないかと思います。  屋外もなかなか難しく、65条の測定で測定対象になっている物質を屋外で扱っているときにはガイ ドライン法に従って一応測定することにはなっているのですが、実際には行われている事はないかも しれないので、その辺の取扱いもここに書かれているように、法律義務はないがどうなのかと。溶接 なども、風があると間違いなく溶接不良が起こるので、屋外でも必ず屋外シートで覆い屋内作業と同 じ様に囲いの中で行っている作業もたくさんあります。また、住宅等で塗装をする場合、ネットを張 りますが、ネットを張ることによりそこで塗装作業をする作業者は、有機溶剤のばく露濃度が普通の 作業環境よりものすごく高くて疾病が起こるケースもあるので、そうした環境では、屋外ガイドライ ンという形で評価はできるのです。しかしながら、屋外ガイドラインは、通達レベルなので、法律の 義務化がなかなか難しいと思います。城内委員が言われた本法と通達といった形での運用については、 ある程度は担保できているのですが、うまく住み分けられていないという気がします。その辺りも含 めて、これからこのところを議論していきたいと思っています。その他、何かお気づきの点があれば お願いします。 ○堀江委員 作業環境測定ないしは今回議論しているリスクアセスメントの結果を、労働者側に通知 するという流れが今まであまり検討されていなかったように思います。最近では健康診断や過重労働 対策、メンタルヘルス等に関しては安全衛生委員会で必ず報告するといった流れができてきているの ですが、もっと大事なことではないかと思いますので、いいのかどうかも含めて、そういった方法も 検討してはどうかと思います。 ○名古屋座長 諸外国は測定結果を2週間以内に作業者に報告しなさいとなっていて、それを受けて屋 外ガイドラインでは、個人にサンプラーを付けるので、結果については個人に必ず教えることになっ ているのですが、作業環境測定では、そういうことにはなってないです。ときどきお願いしているの は、医者が作業者の働いている現場と疾病の関連性を知るために、カルテの一部に作業環境の管理状 況を書ける様な項目を、逆に、企業側は、作業者がどのような疾病なのかが簡単にわかるような情報 を測定結果の記録用紙に書ける欄があると、作業環境管理と健康管理の関連性が深まる様に思います。 カルテと記録用紙に1つ書いてもらうだけでも両方の関連性がつかめると思うのです。確かに、自分 が測定してもらった所の状況を把握できるシステムは、やはり早めにあったほうがいいし、意識レベ ルの中で、自分はこのような状況下で働いているということが分かるのではないかと。個人に言うこ と以外に、安全衛生委員会の中に彼らが出てきて、そこで意見を述べる機会を作るというシステムは あるかもしれませんので、そのときにまた検討してもいいかなと思います。  取りあえず、今日は皆さんのいろいろな意見を伺って、事務局にまとめていただき、今後の検討の 中で進めていきたいと思います。その他よろしいでしょうか。多岐にわたってのご議論をいただきま して、ありがとうございました。今後の予定について事務局よりお願いします。 ○奥野中央産業安全専門官 本日ご議論いただいたご意見を事務局でまとめまして、次回以降、さら にご検討をお願いしたいと考えています。今後の予定ですが、第2回検討会を2月19日、10〜12時に 開催いたします。第2回は本日いただいたご意見を基に、事務局で論点を整理しておきますので、ご検 討をお願いしたいと思います。また、第3回委員会は3月4日、14〜16時に開催する予定です。正式 な開催案内は別途送付させていただきますので、よろしくお願いいたします。 ○名古屋座長 以上で「第1回職場における化学物質管理の今後のあり方に関する検討会」を終了いた します。本日はどうもありがとうございました。