10/01/19 第11回有期労働契約研究会議事録 第11回有期労働契約研究会 議事録 第11回 有期労働契約研究会 1 日時 平成22年1月19日(火)10:00〜12:00 2 場所 厚生労働省専用第20会議室(17F) 3 出席者 〈委員〉 荒木委員、鎌田委員、佐藤委員、橋本委員、山川委員 〈事務局〉    渡延労働基準局審議官    前田労働基準局総務課長    青山労働基準局総務課労働契約企画室長    丸山労働基準局監督課中央労働基準監察監督官 4 議題 (1)論点の集約について (2)その他 ○鎌田座長 定刻より少し早いのですが、全員おそろいのようですので、ただいまから第11回「有 期労働契約研究会」を開催いたします。  委員の皆様には御多忙のところ御出席いただきありがとうございます。  本日は阿部委員、奥田委員、藤村委員が欠席されるということでございます。  本日はこれまでの論点全体について御議論いただき、論点の集約に向けた議論を行いたいと思 います。  まず、これまでの論点についての御議論について、事務局で整理した資料を用意しております ので、御説明をお願いいたします。 ○青山室長 労働契約企画室の青山でございます。事務局の方に異動がございまして、調査官の 富田が転出いたしました。今日からは私の方から御説明させていただきます。  それでは、御説明いたします。  まず資料2でございます。  これは有機期労働契約法制の日本の法制と諸外国の法制との比較の表でございます。この表は 第7回〜第9回までに論点ごとに提出した比較の内容を1つにまとめて全体のものといたします とともに、労働に「理念」の項目を設けたものでございます。過去に説明した内容がほとんどで ございますので、理念のところとの関連を中心に簡単に御説明いたします。  理念につきましては、規制の背景にある有期労働の位置づけということでございますが、アメ リカ、日本が有期・無期の法的位置づけに差がない。デンマークからドイツについては、例えば ドイツは、解雇規制の潜脱を防止するという判例法理から実定法化という議論がされていました が、そのように、有期労働契約の濫用防止を目的とした法制となっています。  フランスは無期労働契約が原則というものでございます。  各項目を簡単におさらいいたしますと、まず「締結理由の制限」の項目ですが、例えばドイツ では、2年を超える場合のみ理由が必要になっています。2年を超えなければ必要ではございま せん。  無期原則であるフランスは、限定列挙による締結事由の制限がございます。  「勤続年数または契約更新回数の上限制限」の項目でございますが、これは有期労働契約の反 復継続からの濫用を防止するということで、イギリス、韓国、ドイツなどにおいて勤続年数また は更新回数の上限が設けられております。  ちなみに、フランスでも設けられております。  3番目の項目の一番右の「期間満了、雇止めに係るルール等」につきましては、例えばフラン スでは、契約終了手当が支払われるなどの制度がございます。  裏に行っていただきまして「契約締結時の労働条件等の明示」の欄でございます。  日本のほかイギリス、ドイツ、フランスで期間などについて書面によることを求めております けれども、その法的効果としては罰則指導といったものや、ドイツ、フランスの無期みなしなど いろいろございます。  ドイツにつきましては、これまでの資料では、書面明示が必要な期間というのは1か月以内に 書面明示が必要と資料で書かせていただいておりましたが、これは証明書法という法律に基づく ものですが、その後、橋本委員の御示唆もありまして、この書面を必要とするというのは、パー ト有期法についてはあるのですが、その規定に関し、判例では口頭で合意した後に書面を交付す ることは許されないということになっているということを教えていただきまして、その旨の記述 にしております。後ほど先生の方からも御補足をくだされば幸いです。  「均衡待遇・差別的取扱いの禁止」につきましては、我が国は短時間労働者について均衡待遇 の法制がございます。  デンマーク以下の諸外国につきましては、類似しておりますが、大まかに言いまして、有期契 約労働者であることを理由に、客観的理由により正当化されない場合は比較可能な無期契約労働 者よりも不利に取り扱ってはならないと言ったものが、共通した内容でございます。  「正社員・無期契約への転換推進」につきましては、我が国については、短時間労働者につい ての正社員転換の措置義務というものが法制化されておりますが、諸外国では、例えば無期契約 労働者のポストについて、有期に情報提供などをするといったことを推進しているところが多い かと思います。  簡単ですが、資料2の説明は以上でございます。  資料3につきましては、これまでの論点の議論で、提出させていただいた論点整理表と同じで ございますので、説明は省略いたしますが、議論の参考にしていただければ幸いでございます。  資料4でございます。  「論点整理表」とございますが、これは資料3を用いながら、これまでなされた議論を項目ご とに整理して並べたものでございます。  左の大きな欄はこれまでの御議論の整理、右の欄は関連するヒアリング等で出てきた労使の意 見などでございます。  10ページほどございますので、これも一部飛ばすかもしれませんが、かいつまみながら御説明 をさせていただきます。  初めの2ページほどは、総論についてでございますが、1番に「労働市場の現状を背景にした 有期労働契約の現状」という項目にさせていただいております。  1つ目の○でございますが、企業の生産技術等の変化の中で有期契約労働者は雇用調整弁や人 件費の削減のために活用され、増加してきている。  その結果一時的・臨時的でない仕事についても、有期労働契約の反復更新で対応している実態 がある。  平成20年末以降の雇用状勢の中、雇用不安が問題となり、労働条件も劣悪だと言われている。  一方、労働力人口の減少と言った中で、競争力の維持強化のためにも労働者の能力形成は必要 ということでございます。  1番は以上でございます。  同じ1ページの「2 規制の現状について」でございますが、これは我が国の規制の確認でご ざいますが、1つ目の○で我が国においては、労働契約の無期原則を定めていると解釈できる規 定はなく、有期労働契約の締結事由や反復継続の上限を定めたりしている法律もない。  次の○でございますが、一方、長期間にわたって使用されてきた場合にも有期労働契約という だけで関係が終了するのは均衡を失するということで、解雇権濫用法理の類推適用が判例法理と して出てきたのではないかという指摘でございました。  2ページ「3 施策の方向性に関する視点」でございます。  1つ目の○で、多様な就業形態がある中で有期労働契約の役割についてどのように評価し、ど のような理念を目指すのか。  派遣労働者など他の就業形態も視野に入れて雇用システム全体をどうするのか。  例えばとありますように、労働力の定着などによる雇用の安定化、競争力向上といったものが 日本経済の将来にとってはいいのではないかということと、その一方で、変動リスクに柔軟に対 応するといったことについてどう考えるかという視点があったかと思います。  2つ目の○でございますが、有期労働契約者は非常に多様であるということと、労使のニーズ も多様であるということで、多様な実態を重視したルールの在り方を考えることが必要だという 指摘でございました。  3つ目の○でございますが、入口で利用事由を規制する。  均等処遇などで格差を減らしていく。  更新を含めて一定の期間で使用を限定するという考え方があって、このような入口、出口、処 遇の均衡というそれぞれの規制の相互関係に留意しながら、規制の在り方の選択、組み合わせを 考える必要がございます。  4番目の○でございますけれども、規制の検討に当たっては、規制を回避するための行動を誘 発するなどの効果などにも留意が必要でございます。  5番目の○ですが、法律によりルールを設ける際には、内容の明確さにより予測可能性の向上 が必要ということでございます。  最後の○ですが、外国法制との比較検討に当たっては、労働市場、賃金システム、法規制の全 体像などを重視すべきということでございます。  総論は以上でございます。  4ページ以降は各論でございますが、各論につきましては、まず初めの各論の項目は「締結事 由の規制、勤続年数・更新回数の上限、雇止め」なんですが、これと併せて雇止めについて、関 連して議論されたことが多々あったかと思いますので、関連した議論についてはそれも含めて、 この項目で整理させていただいております。  まず、4ページの初めの「基本的な考え方」の部分ですが、総論にも類似の趣旨があったかも しれませんが、利用すべきでない場合の契約の締結をどうするのか。  期間・回数の上限規制をどうするのか。3行目の解雇権濫用法理の類推適用という制約を課す かどうかという3つぐらいがあるが、4行目に行きまして、入口規制と出口規制は連続的なもの であり、セットで組み合わせを議論する必要があるということでございます。  「締結事由の規制」の方にまいります。  この2つ目の○でございますが、フランスの法制は、原則は無期という考え方を前提としてお り、契約について客観的な理由がある場合に限るなどの厳しい規制がなされています。  次の○はドイツでございますが、ドイツの有期法制は、解雇規制の潜脱を防止するという判例 の考え方を実定法化するに至ったものだということで、5ページの方へ行きまして、具体的には 2行目ですが、最後の更新のときに正当事由があるかを見るなどの法制であるということで、フ ランスに比べ規制は厳しくないという御指摘があったかと思います。  5ページの1つ目の○ですが、この2行目ですが、我が国の法制に特別の規制がないところに、 こういう規制を設けるとすれば、その正当性が問われる。後ろの方にありますように、企業のニ ーズや、最後の行ですが、個々の労働者が望んだらどうするのかという検討が必要という指摘で ございます。  「勤続年数(利用可能期間)・更新回数の上限」でございます。  1つ目の○の下線部のところですが、勤続年数や更新回数の上限を設定し、それを超える場合 には無期契約でいいという決め方にも合理性があるのではないかという意見でございました。  次の○でございますが、回数や年数の上限は予測可能性を与えるとか正社員転換が促進される というメリットがある一方、6ページに行って、その前に雇止めをされて雇用が失われるという 副作用もあるという指摘でございました。  6ページの初めの○ですが、企業の実務という部分でございますが、契約期間の上限である3 年を超えると雇止め法理の適用があると考えて、この3年が年数の上限として受け止められてい る実態がある。それも踏まえて、勤続年数や更新回数の上限をどうするのか、超える場合の効果 について無期化か、合理的理由を求めるのか、複数の選択肢を検討するべきという意見でござい ました。  次の○は派遣の場合でございますが、派遣の場合に、規制の法的効果として、「直接雇用みなし」 「契約申込みみなし」「直接雇用の申込みの義務づけ」「行政による勧告」などが考えられたとい うことが紹介されたかと思います。  「解雇権濫用法理の類推適用」でございます。  1つ目の○は、雇止め法理は判例法理として定着しており、実務に置いても定着している、機 能しているため、明文化も考えられるのではないかという意見でございました。  2つ目の○は、この類推適用については雇止めをされた時点でその有効性を考えるので、上限 前のモラルハザード的な雇止めがない、また、事情、期待というものを考えながら判断するため 実情に合った期待になる可能性は高いという指摘でございました。  3つ目の○、この類推適用につきましては、労働者の合理的期待を保護すべき場合も含まれて おり、主観的なところに異存する面もあり、企業にとっての予測可能性に欠けているという指摘 がありました。  今の項目は以上でございます。  次「契約締結時の課題」の方へ参ります。7ページの下半分です。  「書面明示」の問題でございますが、1つ目の○、期間の明示というものが労基法上の義務で あることからすると、無期のみなしや反証があり得る推定とすることはあり得るという指摘があ りました。  2つ目の○で、2行目に口頭では有期であることについて合意していた場合まで全部無期とみ なすのは厳し過ぎる、推定効とするのもあり得るのではないかという指摘でございました。  「大臣告示(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準)」についてでございます。  更新の判断基準の明示については、労基法の義務に加えると重い効果が発生するため、労働契 約ルールとして、民事上の効果を与えることで、明示を推進することはあり得るという指摘でご ざいました。  この項目は以上でございます。  8ページ「1回の契約期間の上限」の項目でございます。  1つ目の○、上限延長はニーズとしては現れていないということだと思います。  2つ目の○は、労基法137条についてですが、労働者は1年経てばいつでも退職することがで きるという規定ですが、2週間前の予告が必要な正社員との均衡が取れてない等の指摘がござい ました。  「更新や雇止めに固有の課題」となっております。  先ほど契約締結時の規制などについてとセットで議論された雇止め以外の更新・雇止めに関す る固有の課題という趣旨でございます。  1つ目の○が契約終了手当ですが、フランスを例に議論されたかと思いますが、ほかの規制と セットで考えることが必要という指摘があったかと思います。  3つ目の○のクーリング期間ですが、これは更新に係る上限規制とセットで考えるものである という指摘がございました。  4つ目の○ですが、契約期間の細切れ化の問題です。  8ページの最後の行ですが、そうするのが合理的だという考えがある一方、将来展望が見えず、 問題であるという指摘もあったかと思います。  9ページ「均衡待遇と正社員転換等」でございます。  初めの○は均衡待遇と正社員転換の両者の関係につきましては、正社員転換を強化すれば、正 社員転換されていない有期契約労働者の均衡待遇は考えなくてもよいという関係には立たないと いう御指摘があったかと思います。  「均衡待遇」の問題ですが、1つ目の○、正社員は長期間を見据えて賃金システムを設計して いる。一方で、パート労働法の均等待遇の考え方が有期にも当てはまるかについては検討が必要 という指摘でございました。  次の○ですが、パート労働法同様に、ある部分については差別禁止を導入することも考えられ るが、それが妥当でない場合には、処遇の理由を説明させて交渉させることで、妥当な労働条件 に仕向けることが当事者の創意工夫を促すことにもなるのではないかという指摘でございました。  「正社員転換」でございますが、1つ目の○ですが、海外における実証分析が紹介されたかと 思いますが、それによると正社員転換の可能性の高い有期契約労働者ほど働くインセンティブが 高まる。一方、有期のまま使い続けることは企業の生産性低下や労働者の働きぶりに悪影響を及 ぼすという結果が出ているということで、正社員転換というものを位置づけたりインセンティブ を与えることは生産性向上や正社員の雇用創出につながるのではないかという指摘がされたかと 思います。  最後の○ですが、これは非正規の従業員をいきなり正社員に転換し、同じような処遇とすると いうのは、ハードルが高く働く側としても責任がないなどを期待する場合もあるため、現実的で はない。雇用の安定を重視して考えるならば、無期への転換で雇用不安を取り除き「勤務地限定」 「職種限定」など多様な雇用モデルを提供することで選択肢を増やすという方向も考えられるの ではないかという指摘がございました。  非常に駆け足になって恐縮ですが、以上でございます。  右の欄は時間の関係で説明自体は割愛いたしますけれども、御参照いただければ幸いです。  以上でございます。 ○鎌田座長 どうもありがとうございます。  それでは、今、御説明いただきました諸外国の法制度、それから論点整理表を踏まえまして、 これまでの論点全体について皆様に御質問、御意見、あるいは自由な発言をお願いしたいと思い ます。  順番から申しまして、まず諸外国の法制度について何か補足あるいは御意見があれば、そちら の方から最初にしていただきたいと思います。  橋本先生、何か補足みたいなものはありますか。先ほどのドイツのところで、ちょっと説明が ありました。 ○橋本委員 お時間を余りちょうだいするわけにはいかないかと思いますが、書面性の要件につ いて若干補足させていただきたいと思います。  表にありますとおり、ドイツでは労働契約の期間設計には書面性が必要とされ、書面性を欠く 場合には、期間設定が無効となって、期間の定めのない労働契約が締結されたものとみなされる ことになります。  この規制の沿革についてまず申し上げたいのですが、2000年3月30日の労働裁判所迅速化法と いう法律によって、民法典623条に解雇、合意解約または期間設定による労働関係の終了は有効 となるためには、書面性を必要とするという規定が定められました。  この立法目的は、まずは労働訴訟の負担軽減でしたが、同時に熟慮しないでなされた口頭の合 意によって、雇用を失うことが防止されるので、労働者保護の規制でもあると解されています。  この民法典623条の制定の9か月後にパートタイム労働・有期労働契約法が制定されまして、 この期間設定には書面性を必要とするという民法典623条の部分がパートタイム労働・有期労働 契約法54条4項という現行の規定に移行されました。  以前研究会で荒木先生から御指摘されましたとおり、この書面性というのがいつの時点で満た されているべきなのかが問題となります。  2004年12月1日の連邦労働裁判所判決によりまして、これが契約締結時であることが明らかに されました。この事案では2年間の有期契約の締結が合意された後、就労が開始され、10日経っ てから書面による労働契約が締結されたというものでしたが、連邦労働裁判所は口頭でのみ合意 された期間設定は無効であると述べて、無効になった結果、期間の定めのない契約が成立したこ とになりました。そして、その10日後に書面による労働契約が締結されたことによって、期間の 定めのない契約から有期労働契約に変わるのではないかという点が争われたのですが、連邦労働 裁判所は単に口頭の合意を書面化したにすぎない場合には、新たな期間設定の合意をしたとは言 えないと述べました。  この判例に対して学説は硬直的だという批判が強かったと言えるかと思います。この批判を考 慮したためか、2007年5月13日の連邦労働裁判所の判決は、2004年判決を踏まえながらも、単 に口頭の合意を書面化した場合とは、口頭の合意と事後の書面による労働契約の合意が完全に一 致する場合であると、2004年の判決を限定するような解釈を示しました。  その結果、事案そのものは、2004年と2007年の事案とで余り変わらなかったと思うのですが、 最初の口頭の合意が無効となって期間の定めのない契約が成立したとしても、その後締結された 書面による労働契約によって、期間の定めのない契約が有期労働契約に切り替わったという結論 に至ったかと思います。  その後は若干の判決の進展もあるのですけれども、このように現在では、この表にある原則そ のものは維持されているのですが、事後的な書面の契約が成立した段階で、書面性を欠くためい ったん無期契約とみなされた契約が、新たに有期契約に切り替えられたと認められる場合が少な くないということになって、書面性の要件の意義がかなり限定されてきているのではないかと言 えるのではないかと思います。 以上です。 ○鎌田座長 ありがとうございました。  あと外国法制に関連して、とりわけ事実に関わることで御質問があればどうぞ。  後の論点の議論の中で踏まえることもたくさんあるかと思いますので、そこで議論していただ いても結構ですが、よろしいですか。  では、外国法制については、また戻っていただいても結構です。  それでは、資料4の論点整理表を用いながら、少し御議論をいただきたいと思いますが、順番 はどういう順番で御議論いただいてもいいのではないかと私は思っておりますが、ただかたまり で申しますと、まず総論の部分があり、それから、各論の部分として、入口のところということ ですかね。締結事由の規制、それから勤続年数・更新回数の上限、それから入口・出口、均等待 遇・均衡処遇の問題、正社員転換の問題。幾つかそういうかたまりとしてあるかと思います。  総論のところは今、御説明していただいたとおりでありまして、特に私の方から付け加えるこ とも余りないのですが、1つ総論のところでは、就業形態の多様化の中で国際競争の激化、生産 技術の変化等を踏まえて、需要変動等に対する雇用の調整、人件費削減のニーズというものがあ る一方で労働者の雇用の安定が望まれるということがある。  ちょうど派遣のときにも議論になったのですが、有期というものを、失業状態にある人が容易 に職に就いて就職を可能にし、かつそれが安定雇用へとつながるというような一種の雇用政策的 な視点も、派遣のときには議論をされていたかと思います。  各論につきましては、外国法制のところで御紹介いただいたような理念を含めて、どのような 法制度が、より適合的なのかということを議論していただければと思います。  自由に御発言をお願いいたします。 ○佐藤委員 外国法制との関係と、今、座長がおっしゃった総論的な労働市場全体の中での有期 契約雇用のあり方という、ある程度望ましいあり方を模索するというのが、主要な趣旨ですね。  そのときにざっくりとした言い方しかできないのですが、フランスとかドイツは有期契約に関 しては、日本に比べると規制が厳しいという評価がこの研究会でもなされつつあるように思うの ですが、そのときに重要になってくるのは、1つは他の雇用形態との関係です。まずは正社員と の関係。もう一つは、パートタイムとの関係。  あえて言うと派遣との関係ということもあるのですが、錯綜してきますので正社員とパートに 限定したいと思いますが、その関係から言うと、私は法律について専門ではないので、御教授い ただければということですけれども、ドイツやフランスのような有期雇用に関して厳しい規制を 課している国の思想というのは何なのか。  すなわち一般的には有期雇用であるがゆえに期間を定めているのだから、自動的に終了すると いう意味では不安定性を持っている。それに伴った労働条件も劣化しているケースが少なくない ということから、これは保護することで対応する必要があるだろうという趣旨なのか、そうでな いのか。  そういうふうに考えたときに、フランス、ドイツなどの、日本で言う正社員、すなわち有期雇 用ではない典型的な雇用の規制というのはどうなっているのか、それは日本と比べて、厳しいの か厳しくないのか。そういうものについてちょっと認識をしておきたいのです。  すなわち、日本の場合には、一般的には正社員というのは、雇用については、解雇がなかなか 容易ではないということで言うと、一般的に正社員は、数量的な柔軟性、フレキシビリティに劣 る。そういうものを中心に置いているのだから、周辺の有期契約等については、量的フレキシビ リティを確保する必要が競争環境の激化に伴えばなおのことあるというふうに考えて、量的柔軟 性に劣る正社員と、ある有期とを組み合わせる中で対応していくという、雇用システムというも のの根本的な設計思想があったのではないかと思うわけです。  したがって、日本の場合には正規の量的柔軟性に劣る部分を有期の柔軟性を与えることで確保 をするという形でシステムの合理性が取られているのではないかというのが、かなり一般的な考 え方として定着しているように思うのです。  そのときに、私が知りたいのは、ヨーロッパも競争環境に置かれているわけでありまして、一 方で有期契約についてかなり厳しい規制を課している。ならば、典型雇用の方の規制はどうなっ ているのか。日本と比べて厳しいのか厳しくないのか。日本と同じように厳しくするならば、両 方厳しいわけで、これは量的柔軟性が両方ともないということの中でどのように考えていこうと しているのかという問題関心が誘発されてくるわけです。  その辺りの典型雇用の、特にフランス、ドイツの日本と比べた場合の規制の厳しさについて、 法的に見て少し御教授いただければと思います。そういう論点は少し大き過ぎますか。 ○鎌田座長 非常に重要な論点だと思います。今、佐藤先生から非常に重要な御指摘、かなり本 質的な問題ということなので、答える方もなかなか大変かと思いますが、とりあえずフランス、 ドイツのレギュラーの人たちの規制というのは、大まかにどうなっているかということを、奥田 先生が今日はいらっしゃらないということで、ほかの先生もそれぞれ御存じのところもあるかと 思いますので、今の御意見に対して何かありますか。 ○荒木委員 大変本質的な重要な御指摘だったと思います。正社員の雇用保障がどうなっている のか。両方を見ながら議論しなければいけないというのはそのとおりだと思います。  専門家ではありませんけれども、フランスの解雇について言いますと、フランスは正社員の解 雇が無効となった場合に、原則としては金銭解決で処理されるということです。差別的な解雇の 場合は復職となりますけれども、整理解雇のような経済的な解雇の場合には、金銭解決が可能と されているという点が、日本で解雇が無効となることとは大きく違っていると思います。  ドイツと日本で、整理解雇はどちらが規制が厳しいか。これは研究者によって見方が違ってな かなかこうだと確定的には言えないのですけれども、私個人の意見を述べますと、ドイツでは手 続は厳重ですけれども、手続を踏めば整理解雇は日本よりもやりやすい法制になっているという ふうに考えております。  整理解雇の場合には、社会計画といった退職する労働者について、補償金の額を共同決定しな さいと言ったような規制、その限りでは非常に厳しい規制がありますけれども、逆に言えば、そ のような補償金を払うという手続を踏めば、整理解雇が日本と比べるとある意味ではやりやすい ということが言えるかもしれません。  したがって、正社員の雇用保障について言えば、ドイツやフランスが少なくとも経済的な解雇 については、日本よりも緩やかという評価が可能かもしれません。  ドイツについて、以前に申し上げたことの確認ですけれども、もともとドイツでは有期契約と いうのは正社員の解雇規制の潜脱を防止するために、なるべく有期契約というのは使わせないよ うにしようという議論があり、判例がすべての有期契約に締結の正当事由を要求するという立場 を採ったところ、非常に失業率が高まったということで、これを2年間については正当事由なく 締結してよろしいというふうに規制を緩和したということがありました。  そのように労働市場全体である程度の雇用の柔軟性というのは認めつつ、しかし有期契約労働 者の保護も図る。そのバランスを模索しているということかなと考えております。 ○鎌田座長 ありがとうございます。ほかの先生から何か御意見ありますか。山川さん、イギリ スなどを踏まえてどうですか。いいですか。橋本先生、何かありませんか。 ○橋本委員 先生のおっしゃるとおりだと思います。 ○鎌田座長 ドイツについては私もちょっと勉強したことがあるので、基本的にドイツの学説の 中で、ざっくりと言いますと、典型雇用と非典型雇用という分け方があって、かなり議論の中で も、特に今、荒木先生から御紹介いただいた非典型雇用の有期だとか派遣だとか、そういったと ころでは、当初はかなり厳しい規制があって、1980年代に入った辺りから少しずつ緩和するよう な法律が出てきて、そこで意見の対立というのが非常にあったわけですけれども、2000年に入っ て以降、学説の中で、あるいは労働組合の対応で、こういった緩和についてはどういうような議 論がなされているのでしょうか。  1例を挙げると、ドイツの労働組合は、派遣というのはかなりハードな態度をしていたわけで す。基本的に認めないということです。  ところが労働協約を派遣会社との間で締結するということに対して、労働組合の方は、長い間 拒否していました。交渉相手として派遣会社を認めない。ところが法改正になって均等待遇の適 用除外の要件として協約を締結しているということがあって、方向転換していますかという、そ の辺を含めてどういうふうに変わっているのかということを教えていただければと思います。 ○橋本委員 きちんと網羅的に調べたわけではないので不正確かもしれませんが、有期契約の規 制緩和、正当事由の必要のない有期契約は2年まで許されるというような改正について特に反対 というような意見は、現時点ではないのではないかと思います。派遣については議論があるとこ ろで、鎌田先生がおっしゃったとおりかと思います。規制が一貫して緩和されてきたと言えると 思うのですが、それに対する批判もあるかと思います。  他方で、今、先生の言及された派遣先の正社員との均等待遇原則の導入については、労働協約 によって例外が認められているので貫徹されていないわけですけれども、均等待遇原則が導入さ れた背景としては、派遣可能期間の撤廃とか、登録型派遣の容認等々の規制緩和を補うものであ ったという説明が文献でされていますので、そういう意味でバランスを取りながら、規制が進め られているのではないかという印象を受けています。  ドイツより解雇規制が厳しいかどうかというところについては、整理解雇について、荒木先生 の日本と比べれば実施しやすいと言えるのではないかというのは、なるほどと思ってお聞きした のですが、ドイツ人自身は何と言っているかというと、やはり自国の解雇規制は厳しいという認 識だと思います。 ○鎌田座長 ありがとうございます。  調べていないのでよくわからないので思いつきという部分もあるのですが、イギリスなどは非 典型とか、典型雇用という区分というのは、余りしないのかなという感じがするのですけれども、 そういう発想で規制のタイプを区分するというのは、一応あるのですか。 ○山川委員 私はイギリスを特に専門にしていないのですが、特にEU加盟後は、EU法の影響があ りますから、勿論法律等も出てきていますけれども、もともと英米ということで一括しますと、 解雇の自由があれば、期間を定めた方が安定している。期間中に関しては安定している。期間を 定めなければいつでも解雇できるということは、期間を定めた方よりも定めない方が不安定だと いう状況はありますけれども、ただ労働協約で解雇規制を行っていることはありますし、レギュ ラーとかアティピカルとか、コンティンジェントとか、日本で言えば非典型あるいは不安定雇用 という概念自体は、解雇の自由がなお維持されているアメリカにおいても存在しますので、発想 としてはあると言っていいのではないでしょうか。実態としてレギュラーで使用している場合と、 そうでない場合という使われ方自体はあるかと思います。法的な解雇規制の点はともかくとして です。 ○鎌田座長 ありがとうございます。今、いろいろな先生方のお話を聞いて1つ私として注意し ておきたいなと思ったのは、例えば日本でフランス型のようなものを導入して、例えば利用事由 を限定して、違反した場合無期みなしとした場合には、日本の解雇規制の法理から言うと、いわ ゆる金銭解決というのはないわけですから、フランスよりより激しい規制になってくるというこ とになりますかね。  フランスの場合は違反で無期になっても、それは通常の解雇規制のルールでいけば、金銭解決 原則と考えれば、金銭が額の問題もあって、保護としてどうなのかというのはいろいろ議論もあ ると思いますが、日本が解雇規制をそのままにして、無期みなしということになると、解雇につ いてはフランスよりも厳しいということになりますかね。 ○荒木委員 無期とみなす効果は、フランスよりも日本で無期みなしとした効果が非常に重大だ ということは言えると思います。 ○鎌田座長 そういう意味では、フランス型と言われる場合に、フランス法制が持っている一般 的なルールとの対比で、日本のものもそのバランスを取って考えていかなければいけないという ことが言えるかと思います。 ○荒木委員 イギリスも同様です。イギリスでも無期契約となっても、勿論法律上は最初に復職 が書いてありますけれども、復職が実際上不可能な場合には、金銭解決になっていまして、使用 者の方で復職が現実的でないと主張しますと、金銭解決をしてもよろしいということになってい ますので、ほとんどの事件が金銭解決されています。  ですから、無期みなしの効果は日本とヨーロッパでは相当に違うということは踏まえておいた 方がいいと思います。 ○鎌田座長 佐藤先生、その点は、そういうことではないかと思います。  あと先生方幾つか、特に順番というのは気にしておりませんので、どういうところからでもお っしゃっていただければ結構です。 ○山川委員 さっきのイギリスに関する追加で、先ほどEU法ということを申しましたけれども、 解雇規制そのものは、EU加入以前から、一種の制定事由を要求するという法律がありますので、 そのこと自体で、さっきはアメリカの話が中心だったのですけれども、解雇からの保護というの はもともとというか、制定法によってはあったということで、ただ、整理解雇、いわゆる剰員解 雇というのでしょうか、その規制はイギリスはかなり弱いのではないかというのは、私の客観的 な印象ではあります。  以上、追加です。 ○鎌田座長 順不同でいろんなところで議論をしているのですが、均等待遇のところの議論です けれども、何度か御理論いただいているのですが、有期の場合の均等待遇の問題をどう考えるか ということを、9ページに書いてありますが、パート労働法に定める均等待遇の考え方と、諸外 国の均等待遇の考え方と比較をしながら、例えば日本でパート労働法の均等待遇の考え方を有期 と、押し広げて考えることができるのかどうかという観点で、少し御意見をいただければと思っ ております。  まず外国法との比較なんですが、資料にありますように、外国法制の均等待遇についての規定 がありますが、これはよく言われることで派遣のときでも議論をしたのですが、ざっくりといい ますと、特に職務を中心にして処遇制度が決まっている国、ドイツとかフランスとかを想定して いるのかと思いますが、そういう国での均等待遇、同一労働同一賃金原則、それを例外的に、正 当事由がある場合には不利益に取り扱うことができるというシステムと、日本の場合はどうも同 じレベルに立たないのではないかという議論があるわけです。  そうしますと、一方で、パート労働法で均衡待遇の規定が設けられている。このパート労働法 の8条の趣旨というものをどういうふうにとらえたらいいのかというのが、考える上で一つのポ イントになるのではないかと思うのですが、事務局の方に少し御質問したいと思うのですが、も し可能であれば外国法との比較も含めて、考え方の対比をさせた上で、パート労働法の8条とい うのはどういうふうに理解すればいいのかということを、少し御説明いただければと思います。 ○青山室長 わかりました。  それでは御説明しますが、過去の研究会の資料に関連する資料がございますので、恐縮ですが、 第8回の有期労働契約研究会、資料3−1の横の表などをお開きいただければと思います。  今の座長の御指摘もありましたので、ちょっと逆ですが、諸外国からでございます。  今回の表にも出していますように、欧州諸国では、客観的な理由により正当化される場合を除 き、有期であることを理由として、比較可能な無期契約労働者よりも、不利にならないという規 定が、EU諸国を中心に一般的でございます。  ここで比較可能なというものは何かというと、職務とか格付などが同じ無期契約労働者という ことに定義されています。  そういう職務や格付が同じ無期とは差別してはならないということでございますが、その背景 には座長がおっしゃったように、職務に応じた給与を決定する職務給体系が普及しておりまして、 職務等が同じであれば差別してはならないという原則の適用がしやすいというのがあるのではな いかと思います。  第8回研究会の資料3−1の下の表にもありますように、逆に言うと、2つ目の○にあります ように、職務や格付が同じ無期がいる有期労働者が対象になるという形になっておりまして、こ れで差別禁止を定め、何か紛争が起これば民事裁判で解決をするということとなっております。  差別禁止を適用しやすいということもあり、賃金水準そのものについての規制もされておりま す。  一方、我が国はパートタイム労働法でパートタイム労働者についての均衡待遇が法制化されて いますけれども、上の表の初めの行にありますように、職務のみならず人材活用の仕組み、運用 とか契約間の違いに応じて、措置のバリエーションを定めておりまして、いろいろな度合いに応 じた措置全体で均衡待遇ということで、独特の概念として打ち立てております。  具体的にはバランスを取るということで均衡待遇という概念を打ち立てております。これはま さに職務とか人材活用の仕組み等に応じて、違うなら違うなりのバランスを取るという趣旨で、 職務内容が同じでも違っても法律が広く対象としているというところでございます。  我が国の待遇というものが、職務のみならず人材活用、昇進等の仕組みをどうしているかとい うことを踏まえて総合的に決定されているという我が国の慣行が背景にあるものと考えられます。  パート労働法8条という話がございましたが、具体的には裏を見ていただきまして、今バリエ ーションと申しましたが、パート労働法では確かに一番緩やかな場合では、一番下の(4)にありま すように、職務も異なる場合も、均衡待遇ということで流しておりまして、(4)のところは賃金の ところに三角が付いておりますが、職務が異なるならば異なるので職務内容とか、成果、意欲、 能力、経験等を勘案して、決定しましょうという、まさにバランスを取りましょうということに なっております。  一方、そうした中でも正社員と同視すべき者も一部いるだろうということで、それについては 一定の要件を課して差別禁止を定めております。それがこの表で言うと(1)の部分でございまして、 これは職務が同じのみならず人材活用の仕組み・運用などが、全雇用期間を通じて同じで、実質 的に無期である場合には、これはバランスを取るというものよりも厳しく、一切の待遇について 差別してはならないという規定になっておりまして、これは先ほど座長もおっしゃいました8条 ということになっておりますので、ここについては、まさに正社員と同視するので、全く正社員 と同一ということは押さえているという形でバリエーションを持った法制度なのかなと。我が国 の賃金設定慣行を背景とした制度なのかなと思っております。  以上です。 ○鎌田座長 どうもありがとうございます。今、紹介していただいた資料3−1のパート労働法 の均等待遇の確保を見ますと、通常の労働者と同視すべきパート労働者については、職務が同一 である、それから、全雇用期間を通じて人材活用の仕組みや運用が同じである。  それから、契約期間として、無期または反復更新により無期と同じという条件が付いているわ けです。私たちが議論している有期を前提にしますと、有期の中にも、反復更新して無期と同様 ということも例外的にあるということはあるでしょうけれども、有期の場合の均衡待遇を考える 場合に、パート労働法の理屈がそのまま考えることができるのか。違う理屈でいくのかというこ とが私などは気になるところなんですけれども、そもそもこのパート労働法をつくったときに、 通常の労働者と同視すべきというときに、無期あるいは反復更新無期同様という要素が入った経 緯というのはどういう経緯か、わかったら教えていただきたいのです。 ○青山室長 済みません。詳細にはあれなんですが、当然我が国の雇用慣行上、通常の労働者と 同視すべきという場合には、長期雇用慣行ということもあって、実質的にエンドレスに雇用され る方であることが通常であろうという趣旨ではなかったかと思います。詳細には、きちっと裏を 取ったわけではありません。 ○鎌田座長 雇用期間を通じて、人材活用の処遇が一緒だと言っているわけだから、契約期間に ついても、格別無期と言わないということなんでしょうかね。  いつぞやこちらで調べた資料の中で、有期労働者の中でも職能資格制度が適用されているケー スというのが結構ありましたね。既に有期と言っても、その処遇において、正社員に準じたよう な形で処遇しているケースがある。それはまさに企業ニーズの中でやっているわけだと思うので す。  そうしますと、契約期間が無期であるということが、均衡待遇をする上で、本質的な要素と言 えるのかどうかというのが1つ議論になるところです。これは議論の中でも契約期間が短いとい うことで、企業がどういうふうに、この人たちの仕事や労務管理を考えているかということにも 関わると思うのです。これはもしかしたら佐藤先生に御質問した方がいいかもしれません。  短く切っているので、例えば3か月とか半年とで切っているので、本当に短く終わっているの かというと、そうでもないわけです。ほとんどが長く続いているわけです。  そういったような実態があれば処遇についても当然考えていくということになるかと思うので すが。 ○佐藤委員 ここのところは、審議会の前のパート労働研究会の委員ではありましたから、ここ は随分議論した記憶があります。そのときの考え方の基本は、まず、このパートの(1)〜(4)までい ろいろタイプがあるのだけれども、まずは流通等を基幹労働力化したパート、基幹化パートとい うのが重要なコンセプトとして上がってきまして、すなわち業務的に基幹性を帯びている仕事を やっているにもかかわらず、処遇は正規と随分違う。これはこのままでいいのかという議論が非 常に重要な論点としてあったと思います。それがまさにこの(1)のタイプなんです。  ここをいろいろヒアリング、あるいはアンケート調査等を見ていきますと、まさに基幹化とい うのは、長期勤続化しているわけです。長期勤続化しているというのは実態として長いんです。 そういうものが基本的に職務もかなり高度の仕事もやり、そしてまた責任性も、正社員まではい かないにしても、かなり準じるような役割を帯びているということで見ていったときには、この 点についてはきちっとしていく必要があるだろうという中でこういう要素が入ってきたのではな いかという印象を持っています。この契約のところはですね。 ○鎌田座長 無期ということですか。 ○佐藤委員 実質的にそこは短くないわけです。勤続年数が長くなっている。そこはオーバーラ ップしてきているということが実態としてあったということがあります。 ○鎌田座長 法律の方から見ますと、反復更新して無期と同じというのは、割と厳格なんです。 反復更新したからすぐに無期同視という形にはなかなかならない。それをどう評価するかという のは裁判例でも基準というのは必ずしも明確ではないのですけれども、佐藤先生たちが研究会で 御議論したときには、反復更新をして長いということを重視していたわけですね。 ○佐藤委員 そうですね。そのことが基幹化ということにつながって、業務の重要度も高くなり、 他方で処遇はそうではないということが出発点として、強いロジックとしてありました。 ○荒木委員 私は議論をフォローしていないので、推測なんですけれども、8条は、賃金のみな らず教育訓練の実施、福利厚生の利用、その他の待遇すべてについて差別を禁止しているわけで す。その場合に期間の短い人について例えば教育訓練などにおいて、無期契約の人と、同じ処遇 をしないと法違反となるかということを考えた場合には、やはり無期契約、これからもずっと続 けていただくという方に限定すべきではないかという発想が出てきても、自然だと思うのです。  そうすると、無期契約に限るかというと、実はパートタイマーの大多数の方が、有期契約で反 復更新されているという実態がありますので、それを全部無期に限るというのも、政策としては 妥当性がないだろうということで、有期も対象としよう、しかしすべてではなく有期であっても、 それが無期契約と同視される方に限ろうという判断だったのかなと私は推測しております。 ○鎌田座長 この場合は反復更新して、無期と同視されるというのは、判例で言うと、例えば東 芝柳町工場事件みたいな、それだけではないですね。反復更新だけではなくて、ほかの要素も含 めて無期同視という、判例的には総合判断ということになりますね。  ここで言うとむしろ反復更新が長く続いたということにウェートがかかってくるわけですね。 ○荒木委員 8条の2項は期間の定めのない労働契約と同視することが社会通念上相当と認めら れる期間の定めのある労働契約ですので、ここは明示的に東芝柳町工場のタイプに限定して、日 立メディコなどには及ばないという、そういう立法者の意図であったのではないかと私は思って います。 ○山川委員 私も荒木委員と同様の感想で、この2項は基本的に、鎌田座長も言われたように、 仕事としてもそんなに区別されていないというのが、実質的に期間の定めのない契約と同視され る一つのファクターにはなっていますけれども、これは東芝柳町工場の類型を意識したのではな いかというふうに思います。 ○鎌田座長 反復更新して、相当期間長く続いているというだけではないですね。 ○山川委員 そこはこの2項は、3つの要件の期間の定めのない労働契約であるという要件につ いての言わばみなし規定みたいなものですので、そのほかの要件も勿論8条を適用するには考慮 される。言わば二重になるといいますか、同視されるかどうかの点で、つまり期間の定めがない ものと同視されるかどうかの点でも考慮されるでしょうけれども、その他の職務の同一性と人材 活用の仕組みの同一性においても、今の点はかかると思いまして、先ほどの荒木委員のお話と似 たようなことになるのですが、結局効果から考えると、要は通常の労働者と差別してはいけない、 賃金やいろいろな点でです。ということは通常の労働者と同視される要件を設定する。  通常の労働者というのはどういう属性があるかというと、この3つの要件を備えている属性が 普通はあるであろうということではないかという感じがしますので、そうしますとパートである ということで残った属性は、時間が短いというだけで、その他の点について正社員と同一であれ ば、均衡というよりも均等に近いということになるのですが、ほかの3つの、この資料3−1の (2)〜(4)は、その意味では通常の労働者と同視できない。属性の一部ないしは全部が欠けているの で、しかしそれに応じた効果を与えるということで、有期労働契約の場合も、結局、どういう効 果を考えるかによって要件の設定の仕方が違ってくるのかなと思います。 ○鎌田座長 そうすると、まさに均衡待遇をする項目というか、そういうことを見据えながら考 えていく。そうするとそういうことから、今のお話ですと、いわゆる典型的な有期については、 パート労働法の精神というのは使えないわけですね。  問題になってくるのは有期であっても、雇用契約期間は定めていても、ある程度反復して、長 く働いている方だと。実際にそういう方が多いわけですから、こういう方たちで、かつ反復更新 して無期同視とまではいかない人たちをどう処遇するか。法的に均衡処遇というもので保護して いくか。必要性があればしていくかということですかね。そこを少し私たちとしては考えなけれ ばいけない。 ○山川委員 そこが中心だと思います。あとは別な話かもしれませんけれども、先ほどのパート タイム労働法8条は、所定時間が短いということを前提にしておりますので、丸子警報器事件み たいに、所定時間も同じであった場合は、逆に8条が直接適用されないので、類推しようかとい うことになりまして、その場合はどこで取り扱うのか。あの丸子警報器事件が実質無期であると すると、有期労働契約による規律の対象から外すとなると、あの部分の空白がなお残ることにな るので、かなり極限的な事例かもしれないんですけれども、その辺も視野に入れる必要があるの かなと思います。パート労働法の指針では、趣旨を考えるべしとされていて、法規律の対象から は抜けています。 ○鎌田座長 いわゆるフルタイムパートについては、今言った8条というのを類推適用するとい う考え方もあるわけですか。 ○山川委員 あるというか、自分で書いたような記憶がありますけれども、一般的かどうかはわ かりません。 ○鎌田座長 ただ、フルタイムパートということで言えば、より通常の労働者に近いということ ですね。恐らく業務の内容としてもより基幹的なものをやっているという可能性は高いですね。  そういうふうに考えれば、均衡待遇するというニーズとか、あるいは必要性も高くなっている とは考えられますね。 ○山川委員 そうですね。理由づけをどうするかという問題はあります。 ○鎌田座長 そうすると、ここは何らかの手当を考えておく方がいいということになりますかね。 ○山川委員 その手当をどのような手当にするかというのはあるかと思います。いろいろな類型 に応ずる検討が必要かと思います。 ○鎌田座長 そうですね。恐らく普通に考えると、中心になるのは賃金だとか、給与だと思うの ですが、そのほかに荒木委員がおっしゃったように、教育訓練ということになると相当長期間に わたって働く人と、長期間働いているけれどもどこかで辞めるということが想定される人とは当 然対応が違ってくると思います。でも教育訓練でもいろいろバリエーションはありそうですね。 本当に長期間必要な教育訓練と、コンピュータの操作みたいな一時的な方でもやらなければいけ ないような、当然受けられるべき教育訓練もありますしね。  福利厚生などは期間が短い長いということでそんなに差が出てきますか。慶弔休暇というのは 短いとそんなに要らないのではないかということになりますかね。 ○荒木委員 山川委員がおっしゃったように、どういう規制をするかによると思います。資料3 −1の二重丸のところは差別禁止、不利益取扱禁止という非常に重たい規制をやるわけです。そ れと違う人事管理を禁止するわけですから、厳格な要件が課されてきますけれども、そうではな い努力義務、そういう方が望ましいだろうということで、労使はそちらの方向に向けて努力して くださいというようなことであれば、それほど厳格な要件を設定しなくてもよいということにな りまして、均衡待遇というのは8条の均等待遇のほかの努力義務を全部ひっくるめて均衡待遇と 呼んでおられますので、均衡待遇としてはいろいろなものまで視野に入れることは可能でしょう が、どういう規制をするかによって、内容・要件を考えないといけないということだと思います。 ○鎌田座長 これからだと思うのですけれども、派遣についても、均衡待遇についての規定が盛 り込まれてくる可能性もありまして、派遣というのはもっとドラスティックですね。派遣先従業 員との均衡ですからね。会社が違っても均衡をしますという話ですから、ただ中身として、今、 荒木委員がおっしゃったよう努力義務になるのか。あるいは均衡させる事項がどういうものであ るのかというのはまだわかりません。 ○青山室長 山川委員がおっしゃった点で事実関係の御説明ですが、パート労働法で所定時間が 同じ、いわゆるフルタイムパートは、直接パート法の対象にならないのですが、おっしゃいまし たように、パートタイム労働指針において、所定時間が通常の労働者と同一の有期労働者につい ては、パートタイム労働法の短時間労働者には該当しないが、パート法の趣旨が考慮されるべき であることに留意することと事業主向けの指針で明らかにしております。 ○鎌田座長 ほかのテーマについても結構ですので、何かありますでしょうか。 ○山川委員 論点ということとは別かもしれませんけれども、今日のお話あるいはこれまでのお 話の中で出てきているのが、法律で何らかのルールを定めた場合の効果といいますか。あるいは 違反の効果、それについてしばしば言及されていますし、派遣法でも例えば裁判所に行った場合 にどうなるかという議論がしょっちゅうなされて、それによって要件の設定も、先ほど申しまし たように違っていますし、例えば派遣法ですと直接雇用のこれまでの規定が裁判上どういう意味 を持つかということで争われていますし、この辺の趣旨は雇用安定法でも、高齢者雇用確保措置 の裁判上の意味がどうなるかというのが争われていますし、何らかのルールをつくった場合に、 それが一体どういう法的効果をもたらすのか。今後民事訴訟とか労働審判で争われる場合が多い ものですから、法律要件の議論はこれまでもいろいろやってきたのですが、余り労働関係の政策 議論をするときに、法律効果の議論というのは、要は行政が指導とか、場合によっては刑罰とか でやりますから、そんな認識しなかったのですが、最近の状況を見ているとかなり意識せざるを 得ないような状況ですので、新たな論点というよりも、メタ論点みたいな話なんですけれども、 それぞれについて違反した場合にどうなるかという効果論も伴った方がいいのかなという感じが しております。 ○鎌田座長 これは結構大きなテーマで、今、山川委員から民事的な効果の話も出ていましたけ れども、派遣のときの話をちょっと思い出しながら言いますと、そもそもこういう法的規制をし て、その規制に違反した場合に、どういう救済手段を考えるかというのが一般です。  どういうことかといいますと、派遣で言うと行政が介入した救済手段と、純粋に被害をこうむ った労働者個人が民事裁判で争うという意味での、司法救済のみを考えた制度でいくのか。両方 というのもあるわけですけれども、派遣のときの議論でまずこの2つが大きな議論になって、そ れぞれ賛成反対があったのですが、メリット・デメリットとしては、違法派遣があった場合に、 偽装請負などを例に挙げますと、偽装請負が違法派遣であった場合に、行政救済というものを考 えた場合には、行政で違法の事実を調べるということになるわけです。勿論申し出は労働者があ るいは組合の方から偽装請負ですということがあるわけですけれども、行政が行政の責任として 調べて、行政勧告というやり方で受入先に対して、形の上では請負みたいになっていますから、 発注者ということになるのですけれども、発注者の方に受け入れ、直接雇用の勧告をするという ことです。  これのいいところは、違法であるということの事実関係を行政が調べてくれるということだっ たわけです。  そういった行政主導の考え方では不十分ではないかということで、むしろ直接に労働者が民事 的な効力を争われる裁判所でそういうような規定にすべきだという考え方が強く主張されたわけ です。ですから、組合というよりも個人が、違法についての直接の雇用を、裁判上派遣先に請求 する。こういう行政の仕組みを介入させるか、それとも直接裁判にするか。  裁判ということになると、何を裁判上効果として求めるかということで更に議論がありまして、 これは先生方も御存知かと思いますが、直接みなしという、つまり違反の事実があるということ になると、違反事実が発生したその瞬間に、派遣先の従業員としての地位が発生するという考え 方です。  2番目に問題にしたのは、契約申し込みみなしというものです。今、言った直接みなしという のは、偽装請負で違法事実があったその瞬間に派遣先の従業員になってしまう。ところが契約申 し込みみなしというのは、派遣先は従業員の地位は申し込みみなしはするわけですけれども、労 働者がそれを承諾しないと成立しないわけです。そうすると、労働者が例えば1年くらい経った ときに契約申し込みみなしに基づいて、自分はこの会社の申し込みみなしを承諾する。そこで、 雇用関係が成立するという仕組みなんです。  もう一つ挙げられたのは、申し込み義務を課するという考え方です。申し込み義務というのは、 派遣先が申し込みをすることを義務づけるんですから、場合によっては、申し込みをしない場合 もあるわけです。申し込みをしない場合に、裁判上申し込みの履行を請求するのか。あるいは申 し込みという債務の履行をしなかった場合に、どういう裁判上の救済が考えられるのか。こうい う議論があったわけです。  今まで有期雇用規制についての違反というのは、無期みなしという意見が外国との関連で言わ れていたのは、派遣で言うと直接みなしみたいなものを前提にしていっていた。ところが派遣の 議論の中で幾つかの効果についてのバリエーションがあった。それぞれのメリット・デメリット があって、これは話すと長くなるんですけれども、メリット・デメリットというのは、それぞれ かなりあります。 ○荒木委員 この問題は、有期契約の規制について、労働基準法を改正としてやるのか。労働契 約法を改正してやるのかと関連してくるものだと思います。多分、今議論しているのは労働契約 法マターなのかなと思いますが。 ○鎌田座長 パート法のような性格というものはありませんか。 ○荒木委員 そこは難しいところです。例えば努力義務などにして、それに対して行政は一定の 働きかけをするということになってくると、労働契約法に置くのがいいのかという問題は出てき ます。ドイツのように、パート有期法という、そういう枠組みをつくってやるということもでき ますが、パート法は民事効については挙げて裁判所の解釈にお任せしますというスタンスで、民 事効についてはあえて規定をせずにいると思うのですけれども、有期契約についても同じような スタンスを取るかどうかという問題はありますね。 ○鎌田座長 派遣法でも今度は契約申し込みみなしというのは、民事効ですね。派遣法の中でも ああいうものを導入したんですから、そういうような方向が少し出されていて、パート有期法み たいなものでもそういうような規定というのは、入れられないわけではないですね。後で少し教 えていただければと思うのです。  それはともかく、違反に対して、行政の役割をどう考えるかというのは結構大きいわけです。 ○山川委員 そもそも新たなルールを立てるかどうか。立てるものをどうするかによっていろい ろ幅があり得ると思いますし、理念的なものということもあり得るかもしれない。ソフトな規制 とかですね。例えば、正社員転換とか無期転換みたいなものを考えるとすれば、それはどうも民 事上の請求権とは別の話になる可能性が高い、パート法との対比で言う限りでは思いますので、 要は先ほど申したのはいろいろな選択肢があり得るけれども意識する必要があるのではないかと いうことでした。 ○鎌田座長 そこは大変重要な論点だと思います。 ○荒木委員 今の点に関連して、先ほど橋本委員がドイツの無期みなしについて、最新の判例に ついて教えていただいて、大変勉強になったのですが、ドイツは有期の期間設定も契約締結時に 書面でなさなければならないというのが、パート有期法の立法時からの解釈があった。しかし、 期間について書面の作成がないままに就労を開始したけれども、その後になって有期の書面を取 り交わしたという場合に、その書面で有期の設定をした時点から有期契約が締結されたという解 釈も許容するようになってきているということでよろしいのでしょうか。  そうすると、最初の就労を開始した時点では書面で有期契約を結んでいないのですけれども、 そういう点では無期とみなされているから、後で幾ら有期の書面を取り交わしても、無期契約か ら変わり得ないというふうにはドイツでも解さなくなっているということですね。 ○橋本委員 全く同じ内容を書面にした場合には、元の厳しい判例はまだ当てはまっているので すが、事案を見る限りは、当初の合意というのは、契約期間を1年間とか2年間にするという合 意ぐらいで、契約書で、いつからいつまでと期間が明示されたという事案が問題になっています。 なぜ、最初の合意について契約期間がきちんと認定されていないのかがよくわかりませんが、お そらく、口頭の合意ではそこまではしていないか、していても、立証できないのかもしれません。 このような場合に、最初の口頭の合意と事後の書面による合意は完全に同一ではない、と判断さ れています。同じ内容の合意を単に書面化したものではないということで、書面の契約によって 有期契約が新たに締結されたということになって、書面性の要件が減殺されたと言っていいので はないかと思います。 ○荒木委員 1年間の有期だよという口頭の合意があっても、1月19日から1年間という契約の 書面は取り交わさないという場合に、例えば1年間の有期ですよというのを1月5日に合意して いた。しかし、1月19日で働き始めたので、1月19日から1年間、あるいは1月19日から翌年 の1月5日までという契約を取り交わしたら、それで有期契約になり得るということですね。そ れに対して1月5日から翌年の1月4日までという1年間というのを合意していて、それを1月 19日に忘れていたけれども、取り交わすよということによって、1月5日の瑕疵が治癒されるこ とはない。 ○橋本委員 2004年の判決のルールでいきますとそうです。 ○荒木委員 よくわかりました。 ○橋本委員 これも細かい話で恐縮なんですが、ドイツの場合書面性が欠けると無効だというの が民法の方に、一般的な原則としてあるので、強い効果といいますか。それがあるのかなと思い ます。 ○荒木委員 それをそのまま適用してしまうと、有期というのは合意をしたのだけれども、書面 の取り交わしという、法が要求する方式を取っていないと全部無効になってしまう。期間設定が 無効だと無期になってしまう。それでいくと余りにも結果が妥当でないということで、ある程度 柔軟な解釈を裁判所が取り始めたということですね。 ○橋本委員 書面が遅れてしまうということはよくあることだと思うので、実態に合っていない という感じがするのかなと思います。 ○鎌田座長 それは、諾成契約の原則を変えているわけですね。効果まで無効にしてしまうわけ だから、それというのは労働契約だけなんですか。ほかはないんですか。 ○橋本委員 民法の方に規定があるので、形式を定めている場合には形式が定まっていない法律 行為は無効であるという一般原則があるので、何も書いていなければ諾成契約が、そのまま合意 で契約が成立するという原則に行くのですけれども、いろんなところで書面性が必要だという規 定があります。 ○鎌田座長 書面性が必要であれば別に労働契約に限った話ではなく、消費者契約だとかいろい ろありますね。民法のそこで言う諾成契約についての例外というか、様式契約というか、それに ついての受け皿をつくっているわけですね。議論としてはそれにのっかっているわけですね。 ○荒木委員 議論としては、有期契約というのが当事者の効果意思であって、そこで要式性を欠 いていた場合には、そもそも無効だから、契約関係は存在しないというのも1つあり得るけれど も、そういう解決は妥当でないので、有期契約として効力を維持するという方向に解釈してきて いるということですかね。民法の方式を欠く契約は無効だとすると、有期ということだけ無効に なるのか、それとも契約全体が無効になるのかという議論はありますね。 ○鎌田座長 全部無効ですね。無効行為の転換というか、その一部だけ無効にしている。そうし ないと保護が図れない。 ○橋本委員 期間設定というのが、契約全体とは区別されている観念のようで、契約全体は有効 なわけです。期間設定だけが無効になる。 ○鎌田座長 それで無期にするというよりは、期間の定めがなくなっているということですね。 ○山川委員 外国では、日本の判例のように、更新はするけれども更新拒絶に合理的な理由が必 要である。ドイツは、この間以来教えていただいたような状況があるようですが、それを除くと 余り無期以外の選択肢というのは諸外国では考えていないということなのでしょうか。 ○鎌田座長 フランスは無期原則だから割とすっきりしています。ドイツの場合は、契約要件の 1つがなくなるということが事実上無期になるという話なんですね。事実上というか、法的に無 期になる。  日本の労働契約法で議論されたときのことは余りよくわかっていないので聞くんですけれども、 例えば期間の定めがない場合に、無期みなしというのは、私としてはいろいろ想像できるのです けれども、両当事者は有期だという認識はしていた。だけれども、期間の定めは特にしていなか った。それで無期みなしという問題意識を持つとすれば、民法的に言うと、それは期間の定めが 無効になるということはないですね。 ○山川委員 書面を欠いたときということですか。 ○荒木委員 期間の定めについて書面で明示しなかった場合に、無期契約になってしまうのかど うかという問題ですね。無期契約になるという考え方は、単に期間の定めは書面によることが必 要だとしますと、有効に期間の定めを設定していませんから、単に期間の定めのない契約となる。 期間の設定のところが効力がありませんから、無期になる。そういう意味ではみなしとかいう操 作を経ることなく、期間の定めの部分だけが無効になると言ってしまえば契約は無期になるとい うことになるでしょうね。 ○鎌田座長 そうするとその分はドイツ的なんですかね。 ○荒木委員 そういう区切りではないかと思うんですけれどもね。 ○渡延審議官 お手元の資料集のこの研究会の第1回の資料の中の資料5−2というのがありま して、これが17年9月におまとめいただいた研究会報告の該当部分なんですが、この5−2の2 ページの下から3ページの頭にかけて、明示を欠いたときの効力についてどうあるべきかという ことに触れている部分です。今の荒木委員がおっしゃったとおりだと思うのですが、2ページの 終わりから3ページの頭にかけて、契約において契約期間は非常に重要な要素であり、書面明示 が義務化されている事項でもあるので、明示されていなければ効力は発しないという説明になっ て、また以下のところは、奇禍として無期みなしするのはやり過ぎではないかというものに対し て、もともと期間の定め、業務上の必要があってそれが終わったようなときは、無期としても解 雇の正当性を争ったときには、適当な結論が出るからいいではないかというふうに書いてあるよ うには読めます。  それ以上に理論的に詰めてはいないというか、この全体を貫いているのは、どうも手続重視と いうことが全体を貫いて流れている。この前の部分もですね。 ○荒木委員 この議論をしたときは、労働契約をつくるに当たって、労働契約関係を当事者、使 用者・労働者がきちんと認識ができていないことから、いろいろな紛争が生ずるので、それにつ いてきちんと当事者間で明確に契約関係を認識させる方向がいいだろう。期間の定めについては 労働基準法では罰則付きで明示を要求しているということがありますので、それについて民事上 の効力もこのようにしてはどうか。多分そういった議論だったのではないかと思います。 ○鎌田座長 そうしますと以前この研究会でも議論したのですけれども、要するに無期とみなす というのはやり過ぎで、推定でどうかという議論もありました。でも、これは理屈から言うと、 要するに言わば必須事項を欠いているのだから、その部分は無効だという趣旨でいくと、推定と いうのとかなり考え方は違いますね。  推定というのは、当事者の真意をはかるという手続ですね。単に書面にないというだけではな くて、まさに法律行為の解釈の原則に戻るような話ですね。  基準法で書面で明示ということを言っていると、どちらかというと無効にしたくなるようなと ころもありますね。 ○荒木委員 そこがまさに取り締まり規定としての規制であるという考え方、現在の労働基準法 の解釈は恐らくそうなっていると思うのです。書面明示が労働基準法にあることから、それを欠 いたら、無期契約かというと、裁判でもそういう取り扱いをしておりませんので、あくまでもこ れは取締まり規定で効力規定ではない。他方では、座長が当初おっしゃったように諾成契約の原 則があります。労働契約法でも、合意によって成立すると言っていますから、そういう考え方が 存在する中でどの程度書面明示を要求すべきか。それと今日議論したように、その効果、諸外国 の無期になった場合の雇用保障の手厚さ、そして、日本で無期になった場合の保護の程度、全体 を見ながらどういう効果を認めるべきかという議論をするということだと思います。 ○鎌田座長 わかりました。  私がもう一つ今よくわかっていないところで、金銭補償というか、いわゆる雇止め無効の金銭 賠償云々の話は既に前回お聞きしてある程度理解したのですが、フランス法的な契約終了手当の 性格、これは無効というのとはまた違う話ですね。これはどういう趣旨で設けられたのですか。 ○青山室長 ヒアリングのときに奥田先生が出された資料を拝見すると、第5回目の資料3の5 ページですが、契約終了手当の目的は、読み上げますと、契約終了後に労働者が不安定な状況に 置かれることを防止する、または補うことを目的とするとなっております。 ○鎌田座長 終了後に、もう一度お願いします。 ○青山室長 契約終了後に労働者が不安定な状況に置かれることを防止する、または補うことを 目的とするということで、雇止め後の労働者の不安定な状況というものに着目した手当てという 御説明がされたかと思います。 ○鎌田座長 失業手当みたいなものですか。 ○荒木委員 私も何も知らなくて推測なんですけれども、今日の資料2を見ますと、フランスの 期間満了雇止めルールのところで、期間満了時に期間の定めのない契約での継続が、使用者から 提示されなかった場合に払うわけです。すなわち最長18か月ですから、18か月以上になると無期 契約の提案をしなければいけないわけです。その前に雇用関係を終了させる、それ以上雇うと無 期になってしまうので、モラルハザード的に、雇止めしてしまうということは当然あるわけです。 そういうモラルハザードに対して一定の金額を払う、無期に転換するコストを回避しようとする のであれば、一定の手当を払いなさいという規制を行っているということかなと思います。 ○鎌田座長 なるほど。それは確かに工夫ですね。  そこは重要なところだと思いますので、荒木委員の御説明で私はすごく納得しているのですけ れども、少し事務局としても確認をしていただきたいと思います。 ○青山室長 わかりました。 ○渡延審議官 奥田先生から御説明があった日に、例えば雇用保険との関係はどうなっているの かというところもお尋ねをしまして、そこはまだ調査が尽きていないところがありますので、あ のときの資料の不安定な状況に置かれることを防止するというのはいろんな意味があり得る話で あって、モラルハザード的雇止めから身を守ることで不安定な状態に陥ることを防止するのか。 終了後にと書いてある以上、雇用保険と似たような何らかのものを併せ持っているのか。そこは また再度調査を尽くしたいと思っております。 ○鎌田座長 私たちの研究会で雇用保険に関わることを話してもいいんですね。 ○渡延審議官 全体像を考える上で必要なことは当然おっしゃったように入ってくるだろうと思 います。 ○鎌田座長 もしわかったことがあれば教えてください。  今日は私非常に勉強になりました。 ○佐藤委員 また素朴な質問で申し訳ないのですけれども、無期みなしというものが今ひとつよ くわからないのですけれども、有期であるとして契約して雇い入れて働く。例えば3年経過して、 その間使用者もそれを知っている。あえてそこは何も言わないというままにある種ずるずると長 くなってしまったというときに、これは事実上有期ではないですね。そういう有期ではないとい うことで無期としてみなすという考え方になるんですか。 ○鎌田座長 今の先生の前提のものとして、例えば3年とかいう上限を決められた場合というこ とですか。 ○佐藤委員 そうです。 ○鎌田座長 そして違反しながらも両当事者は雇用を継続して、形の上では契約形式的には恐ら く有期契約の形で続いている。 ○佐藤委員 続いているけれども、実質的には、あえてそういう手続ではなしに人間関係もある から、いいではないかという形で行くケースも結構ありますね。そういう状態になっているもの は無期みなしなんですか。 ○鎌田座長 これも先ほどの効果との関わり合いなんですけれども、要するにみなしということ になると、その違反になった時点で両当事者の意思に関わりなく無期ということになると思いま す。 ○佐藤委員 違反になった時点でですね。 ○鎌田座長 裁判上争ってそれを確定するわけですから、労働者が主張してということになると 思います。 ○佐藤委員 もう一つよくわからないのは、無期となったときの立場というのが、要は従前の雇 用契約のときの契約の労働条件というものを全く同じような形で引き継ぎながら、ただ単に雇用 期間がなくなっているという状態だというふうに解するべきなんですか。それとも要するに正社 員というか、これは労働条件等も違いますね。そういうふうにみなすということになるんですか。 ○鎌田座長 それは無期だけです。 ○佐藤委員 正社員ということではないということですね。 ○鎌田座長 それをどういうふうにするかというのは問題だと思います。労働者の立場から言え ば無期になったのだから、それなりの処遇をしてくださいということになります。ただ法律論と すると、無期みなしというのはまさに無期だけですから、一度議論になったのですけれども、そ ういうことでよろしいですかね。 ○荒木委員 正社員ということによって労働者がこうなるというふうに決まるということではあ りませんので、無期契約労働者との差別禁止などと合わせれば、その部分で保護が及んでくるこ とはありますけれども、今の有期契約の利用期間を例えば一定に決めて、それを超えて有期契約 を使った場合には有期の部分の効力が否定されて労働契約が無期契約になるというそれだけの効 果で、そのときの賃金とか、処遇がどうなるかということは別の規制をするかどうかという問題 だと思います。 ○鎌田座長 先生の質問とちょっとずれるかもしれませんけれども、今言った直接無期みなしと いうことになると、労働者が無期という扱いを私は望みませんという場合にどうするかという問 題もあるんです。今まででいいですと。  みなしの場合には、先ほど言いましたように当事者の意思にかかわらずですから、いやでもそ うなってしまうわけです。そこは派遣でもいろいろ苦労したところで、今の状態でいいという方 たちの労働者の意思というのは尊重しなくてはいけないのではないですかということで、契約申 し込みみなしとか、無期契約申し込みみなしといった場合に労働者がそれを承諾しない限りは今 までの状態が維持されるということになります。 ○佐藤委員 先ほど説明になった3タイプというか、直接みなしと、2番目の契約申し込みみな し。 ○鎌田座長 1つ大きな論点だったのは、労働者の意思にかかわらず無期にしてしまうというこ とでいいんですかということだったわけです。 ○荒木委員 確かドイツでは、有期契約の規制について、2年の上限について協約で別の規制が 可能だったと思います。つまり、法ですべてを一定の価値判断で規制することが妥当でない場合 があります。その場合に個人の自由に任せてしますと、交渉力が余りに違い過ぎるので、使用者 の思ったとおりになってしまって規制の意味がない。そこで、労働協約で別段の定めをすれば、 その規制の除外を認めるというのがヨーロッパではよくあることです。立法でやるというのは、 最も中央集権的な規制ですから、いろんな多様な就業形態についてすべてそれが本当に妥当かど うかはわかりませんので、そこに一定の手続的な規制を取り入れることによって、国全体として の方向と現場の関係当事者の利害の調整を図るという仕組みもあり得るのではないかと思います。 ○鎌田座長 佐藤委員のあれでいろいろ思い出したので更に言いますけれども、大きな問題は2 つあって、1つは労働者の意思をどうするかということです。もう一つは、待遇労働条件はどう するかということです。みなしというのは法律で決めますから、大体前の労働条件をそのままと いうことです。本当にそれでいいかという問題がありまして、いわゆる契約締結義務づけという 工夫はそこなんです。  つまり、有期にしなさいという申し込みを会社の方で義務づけますよ。当然そのときには労働 条件は会社の方で工夫して提案してくださいという仕組みなんです。ところがその工夫ができな いということになったら、そもそも申し込みは義務づけられているけれども、やりませんという ことも会社としては選択肢として残っているわけです。  ただしそれは全く何でもいいというわけではなくて、お金の問題とかいろんな問題で、処理を しなければいけない。そこで交渉の余地が出てくるわけです。労働者と会社との間でどうします かと。無期で受け入れるということはいいのですけれども、労働条件をどうするんですかという のは、両当事者にそこの部分については交渉させるという仕組みでもあるわけです。みなしとい うのは交渉の余地がないですから、法律でみなしているわけですから、それが簡便だという考え 方もあるけれども、必ずしもそれがデメリットだというわけではないのですけれども、これは派 遣のところでも議論になりまして、派遣先によるみなしということをやった場合に、私などの考 えですと、それは従前の派遣元との間の契約条件でみなすというふうにしかなりませんねという ことなんですけれども、一部の人たちは、要するに有期の人が派遣先に雇用みなしということに なれば、無期みなしに変わるべきだという議論もあるわけです。そういう要求というのもわかり ます。  その辺のところもありまして、先ほどの効果の部分でどう判断するかということが非常に大き な問題です。先生の御質問でいろいろ思い出しましてありがとうございます。  そういったことをいろいろ考えて、要するに法律で、何らかの雇用システムとしての大枠を決 めていきながら、なおかつ違反の場合ではあるとは言いながら、両当事者に自発的な交渉が可能 となるような仕組みはないのだろうか。そういうことが理想としては考えられるのではないか。 そこで効果の面でいろいろ工夫もあるのではないか。  派遣については、今、言ったようなことでいろいろ工夫をしたということです。  こういったことというのは諸外国では余り問題にしていないのかもしれないですね。 ○橋本委員 問題意識は余りないかもしれません。多分労働者の意思に合わないのではないかと いうところでは、基本的に司法救済なので、裁判を起こすか起こさないかがすべて労働者に委ね られているので、書面性の無効を主張する場合も有期契約が終わってから提訴する場合がほとん どですので、有期契約が続いていれば争わないというのは恐らく実態なのかなと推測しておりま す。 ○鎌田座長 少し雑談みたいになっているのですけれども、直接みなしするとちょっと困ること があって、今、先生のお話で思い出したのですが、別な会社に既に勤めているという場合があり ますね。みなし制度というのがあるのでわかったと。だったらこちらの会社に、みなしでしょう という争いというのが出てきます。その場合その調整はどうするのか。そういったようなことも 少し考えなければいけない。  どうもありがとうございました。時間が押しておりますけれども、特に御発言がないようでし たら、今後の進め方について御相談したいと思います。事務局から資料を用意していただいてお りますので、御説明をお願いいたします。 ○青山室長 資料5をお開きください。「有期雇用契約研究会の今後の進め方(案)」ということで 提示させていただいております。  今後でございますが、議論をいろいろしていただいているところでございますが、中間取りま とめに向けた議論に入っていただき、中間取りまとめをいただき、それを踏まえて労使関係者か らのヒアリングを得てはどうか。そういうことを経て最終取りまとめに向けた議論をしてはどう かという案でございます。  本年夏ごろまでには最終取りまとめができたらいいのではないかという提案でございます。  以上です。 ○鎌田座長 ただいまの御説明について何か御質問、御意見がありましたらお願いいたします。 ○佐藤委員 確認なんですが、中間取りまとめをして労使ヒアリングというのは、中間取りまと めをしました。それについて労使の方を招いてどうですかという御意見を伺うということですか。 ○青山室長 基本的にそのように考えております。 ○鎌田座長 よろしいですか。 ○佐藤委員 はい。 ○鎌田座長 それでは、今、事務局から御説明のあったような形で今後進めていきたいと思いま すので、よろしくお願いいたします。  次回の日程について、事務局から説明をお願いいたします。 ○青山室長 次回の研究会の日程につきましては、現在調整中でございますので、委員の皆様に は改めて御連絡をさせていただきます。 ○鎌田座長 それでは、以上をもちまして、第11回「有期労働契約研究会」を終了させていただ きます。  本日は貴重な御意見ありがとうございました。  (照会先)労働基準局総務課政策係(内線:5587)