09/11/30 第6回チーム医療の推進に関する検討会議事録 第6回 チーム医療の推進に関する検討会 日時 平成21年11月30日(月) 15:15〜17:15 場所 厚生労働省専用第18〜20会議室 ○永井座長  第6回チーム医療の推進に関する検討会を始めます。先生方にはご多忙のと ころをお集まりいただきましてありがとうございます。まず、事務局から、 委員の出欠状況、本日お越しいただいている先生方のご紹介、資料の確認を お願いします。 ○石川補佐  本日は、全委員からご出席との連絡をいただいていますが、川嶋委員が遅 れられるとのことです。  本日は、チーム医療の推進に関する話題提供をお願いしておりますナカノ 在宅医療クリニック院長の中野一司先生、東京大学大学院医学系研究科教授 の真田弘美先生にお越しいただいています。さらに、本検討会の委員である 太田委員、秋山委員、山本信夫委員にも話題提供をお願いしています。ここ で、カメラの方はご退室をお願いします。  お手元の資料の確認をお願いいたします。まず、議事次第、委員名簿、座 席表がございまして、資料1は中野先生配付資料、資料2は太田委員配付資料、 資料3は秋山委員配付資料、資料4は山本信夫委員配付資料、資料5は真田先生 配付資料となっています。また、参考資料として第4回検討会の議事録をお付 けしています。不足する資料等がありましたら、事務局までお申し付けくだ さい。 ○永井座長  議事に入ります。本日の議題は「在宅医療におけるチーム医療の実態」で す。ナカノ在宅医療クリニック院長の中野先生、本検討会委員の太田委員、 秋山委員、山本信夫委員から、話題提供をいただきます。また、褥瘡対策チ ームの活動について、東京大学大学院医学系研究科老年看護学・創傷看護学 教授の真田先生からお話を伺います。その後で、質疑応答を含め、チーム医 療の推進についてご意見をいただきます。中野先生からお願いします。 ○中野先生  鹿児島から参りましたナカノ在宅医療クリニックの中野です。スライドを 使ってご説明します。医療崩壊の原因については、研修医システムや勤務医 の過重労働など、いろいろ言われるわけですが、本当の原因は超高齢社会の 到来だと思います。超高齢社会の到来に伴い、増えているのは病気ではなく 障害ということで、現在の医療システム自体が障害モデルに対して対応して いないということです。そこで、いままでの病院の医療はキュア主体の医療 であったのに対し、在宅医療はケア主体の医療であるということです。在宅 で急性の患者さんを診ることもあるわけですが、そういう形で今後在宅医療 の推進が望まれるわけです。疾患構造が変わってきて、従来の医療モデルか ら、介護あるいは在宅医療、予防医療が言われるということです。  5に入ります。病院の医療では構造的に看取りができません。病院という場 は、病気があって、検査をして、治療をするところですが、それに対して在 宅は、病気があっても高齢だから、もう検査も治療も要らないということも 認められる場所です。そのことが、結局看取りに結び付きます。決して看取 りは財政削減のための目的ではなくて、看取りができるということは、最期 までお家で暮らす(生きる)ことを医療的に支援できたということですので、 医療介入しないほうが却って長生きすることもあることを、在宅では経験し ます。  6で、訪問診療が大事だということです。見守りの医療、予防的な、病棟に おける回診で診ることにおいて、緊急時の往診あるいは看取りまで対応でき るということです。おそらく疾患自体が治す医療、キュア主体の医療から、 支える医療に変わってきています。もちろん急性期医療は大事です。急性期 医療と慢性期医療、病院医療と在宅医療がうまく連携することにおいて、今 後の高齢社会に対応した医療システムが展望できると考えます。病院医療か ら考えると医療崩壊であっても、在宅医療サイドから考えると医療再生では ないかということです。  9です。急性期医療のスリム化、機能強化、在宅医療の普及、介護の増大と いうことで、将来の医療が展望できると考えています。  私は開業して10年になりますが、その前は大学でコンピュータのシステム をつくっていました。総計10億のシステムですが、5年間その仕事に従事して いました。これをそのまま在宅に持って来られるのではないかということで、 最初からチーム医療と、そのためのIT活用を意識して開業したわけです。  理念として、表13のようなことを挙げました。私たちのコンセプトがその まま制度に持ち込まれるような感じで、在宅療養支援診療所の制度ができま した。  15の図ですが、今日も議論されると思いますが、在宅医療の中心は、ドク ターではなく看護師が重要だと考えます。そういう在宅の見守る医療、地域 における見守る医療、急性期医療がうまく連携することが、究極のチーム医 療なのではないかと思います。今後の医療再生において、病院医療と在宅医 療の連携が非常に重要になってくると考えています。  私たちは16のスタッフでやっております。看護師の仕事としては、もちろ ん訪問看護業務が主なのですが、クリニックの看護部から分離しているので、 診療補佐業務ということで訪問診療に付いて行って、ドクターと知識の共有 を行っています。それによって、マネジメントをいろいろとしています。で すから、在宅医療において要は訪問看護で、能力の高い信頼のできる訪問看 護師の育成・採用は急務と考えます。  18です。このような形で、ステーションも自分のところだけではなくて、 自分のところは4割、あとの6割は、よそのステーションで、地域の教育、レ ベルを上げるために意図的に連携しています。居宅支援事業所でケアマネー ジャーもやっていたのですが、非常に書類業務が多いということで、3年前に 閉鎖し、訪問看護業務に特化しています。  コンセプトは訪問看護業務の中にケアマネジメント業務も含むだろうとい うことで、ケアプラン作成はよそにということで、このような戦略を取って います。  19です。チームメンバーとしては、看護師、医師のほかに、口腔ケアなど の分野で歯科医師、訪問服薬指導ということで薬剤師が、非常に大事チーム メンバーであると考えています。  チーム医療実践のための要件として2つ挙げています。これは開業当時から なのですが、まずは連携のコストが安いこと、スタッフが優秀なことです。 コストを安くあげ、ICTをフル活用していきます。スタッフを優秀にするため に教育環境を作ろうということで、ICT、Cはコミュニケーションですが、電 子カルテやメーリングリストです。院内のメーリングリストで情報を共有し ていますし、在宅ケアネット鹿児島というメーリングリストを作りました。 これは出身が鹿児島ということで、全国的な規模です。今日の委員の方でも、 複数名入会されています。それから、全国在宅療養所支援連絡会ができまし た。これもメーリングリストでサポートしていきます。ベースは在宅ケアネ ット鹿児島で、いろいろと情報が共有できたということで、これで新しい在 宅参入のドクターを支援していこうと考えています。23は、そのメールです。 24は画像です。  セキュリティの関係で、メールで情報交換するなんてとんでもないという 方もいらっしゃるわけですが、個人情報保護法のコンセプトは、情報はみん なで共有したほうがいいだろうということだと思います。だけれども、業務 以外のことについて患者情報を使うことは駄目だと認識しています。そのた めに、電子カルテとメールは使っていることを、いちいち患者さんに承諾を 取ってやります。こちらの作業のほうが大事ではないかと考えています。  スタッフが優秀なことで、教育環境を作るということで、朝のミーティン グはメールで共有していますので、申送りではなく、ディスカッションをし ます。これが非常に大きなスタッフ教育の場です。服薬カンファレンスは開 業時からやっていまして、薬剤師もチーム医療の一員であるというコンセプ トです。ケアカンファレンスは、介護保険でやれと言われてやっているので はなくて、教育の場としてきっちりとこのような場を作る形でやっておりま す。  退院前カンファレンスです。病院の医療を知らないと在宅医療はできませ んので、在宅のドクターは病院の医療について詳しいのですが、病院のドク ターあるいは看護師、スタッフが在宅医療をよくわかっていないのが問題で す。もちろん患者さんが帰ったときに、すぐにサービスが行き届くように、 このようなカンファレンスはやるわけですが、同時に病棟スタッフへの在宅 医療の教育を含めて、このようなカンファレンスは積極的にやっています。  今日の内容とはずれるかもしれませんが、在宅医療を推進するためには、 介護職がある程度(家族が対応するレベル)の医療行為ができないと、全部 看護師での医療行為は無理だと思います。学生教育、研修医の教育も積極的 に行っています。前期研修医の教育に、地域医療ではなくて在宅医療を是非 盛り込んでもらいたいと考えています。  鹿児島で今年の2月に日本在宅医学会をやりましたが、四輪駆動で展開する 在宅医療です。四輪駆動というのは、医師、看護師の二輪駆動に対して、薬 剤師、歯科医師も入れていこうということです。  最後のまとめですが、1)病院医療がキュア主体の医療であるのに対して、 在宅医療はケア主体の医療である。2)病院医療(急性期医療)、在宅医療(慢 性期医療)がうまく連携することで、病院医療のベッドを減らすことができ る。病院医療と在宅医療の連携が究極のチーム医療と考えます。3)在宅医 療、ケアにおいては、チーム医療と連携が重要です。4)在宅チーム医療に おいて、要の要職は看護師で、能力の高い、信頼できる訪問看護師の育成・ 採用は急務である。5)薬剤師、歯科医師は、在宅ケアチームの有力メンバ ーであって、四輪駆動で展開する在宅医療ということです。6)在宅ケアに おいては、介護職の、家族ができるレベルの医療行為の規制緩和が重要と考 えます。以上です。 ○永井座長  続いて太田委員からお願いします。 ○太田委員  資料2です。中野先生がお話しになったことと重複しないようにします。  在宅というのは、病棟が地域に広がったというイメージです。医局は在宅 療養支援診療所、ナースステーションは訪問看護ステーション、病棟の廊下 は路地や道路です。病院と同質の医療提供を目指しており、決して在宅医療 の質が低いわけではありません。  次の頁です。24時間在宅医療の構成要素としては、24時間の訪問看護、訪 問診療です。これは歯科も医科も必要ですし、薬剤師・管理栄養士・歯科衛 生士等の訪問も、欠くべからざるサービスです。  いちばんここが大切ですが、在宅療養支援病床の確保が重要です。我々下 流から上流を見上げれば、病院の医療というのは地域のICUであってほしいと 願うわけです。いままでここでの議論というのは、上流である病院から下流 を見たということですが、景色は些か違うように感じています。  在宅医療提供の3条件というのは、介護力、看護力、療養環境です。介護力 というのは社会的介護でも問題ないし、家族的な介護でもいいわけです。病 態や状態像ではありません。胃瘻・人工呼吸管理のNICUから戻ってきた重症 者も在宅で見ることができます。  訪問診療と往診の違いです。あえて申し上げますが、往診というのは、患 者、家族の依頼で行う急性期医療です。緊急往診、臨時往診という言い方で もいいかもしれません。我々が行っているのは定期往診です。定期往診とい うのは訪問診療という文言になりますが、病棟回診と同義であり、病態が安 定していても行われます。  標準的在宅医療というのは、訪問看護師にファストコールがあります。看 護師の看護評価、ナーシングアセスメントで対応することができます。これ は病棟と全く同じだと思っていただければ結構です。訪問看護機能と役割と いうのは、電話でも行いますが、ここで意外と多いのが、薬にまつわる調整、 相談です。私どもの施設の10月のA訪問看護ステーションの訪問件数は、451 件ですが、薬関係で指導や対応が行われたのは153件ですから、3回訪問すれ ば、1回は薬の仕事をしているわけです。これは薬剤師さんがなかなか地域に 出てこないから、看護師が代わりにやっているわけですが、本来であれば薬 剤師の職能に期待する部分です。  ちょっとした小さな健康問題は、大体看護師の判断、診断で解決できます。 バルン・ストマ・点滴、(ポートを含む)トラブル等も、力のある訪問看護師 であれば、看護師のレベルで対応します。その他急性疾患には、医師の指示 に従い対応します。臨時往診の依頼も、看護師の判断で行われます。したが って、高い水準の看護診断が要求されます。在宅トリアージとでも言えるも ので、これは医師を呼ぶよりは救急車を要請したほうがいいというようなこ とも、ナースが判断できるということです。  家族へのケアの指導、精神的支援、療養環境整備の助言、死後の処置、グ リーフケア等を行うわけです。療養環境の重要性というのは、WHOのICFにも 明記されています。環境因子が非常に重要で、障害を規定する因子になると いうわけです。  ナースはある意味で医師の諜報部員で、患者・家族の弁護士役というわけ です。  次の頁です。医師の役割ですが、訪問診療、緊急往診、死亡診断です。対 象者200件に対して、しっかりとした訪問看護師とチームが取れていれば、時 間外の往診というのは月に10回程度です。私どもは3日に1回ぐらい、夜間に 時間外の往診をすることがあります。したがいまして、一般の開業医の先生 で、10人から15人ぐらいの訪問診療をやっている場合、時間外の呼び上げを もらうのは、月に1回あるかないかぐらいではないかと考えます。したがいま して、24時間管理が精神的に負担であると言われますけれども、月に1回時間 外に呼ばれることが、本当に負担かどうかということです。  なお、私どもは急性期や外傷にも在宅で対応しています。数枚めくってい ただきますと写真があります。ポタブルエコーやポータブルレントゲンがあ りますので、レントゲンも撮れるし、エコー検査もできます。例えば写真2で すが、おむつの交換時に骨が折れてしまう。通常はギプスを巻いて治すだけ ですが、骨が飛び出してしまった場合は少し削らなければいけません。この 程度のことであれば、在宅でもやろうと思えばできるということです。写真3 は術後のものです。  次の頁です。これは認知症の高齢者で在宅酸素をやっているケースですが、 外傷が絶えないわけです。これは左の眼瞼部の裂傷です。こういったときに は在宅で処置をしますが、術後の処置はナースがしっかりと管理してくれま す。在宅で訪問看護師が管理するということで、通院する必要はありません。  その下のものは、移乗の際に失敗して骨折をした例です。この方も認知症 が強くて、入院することにより、おそらくトランスファーショックなど、さ まざまな精神的に悪い影響があると想像される例が、在宅ではしっかりと治 療ができます。私はギプスを巻いてレントゲンを撮っただけで、あとはナー スがきちんと面倒を見てくれました。ギプスを外したあとは普通の生活に戻 りました。  また先ほどの話に戻りますが、外傷にも、急性期にも在宅で対応できます。 化学療法、酸素療法、補液は在宅でできます。緩和ケアも、ポートやPEGの管 理も可能です。人工呼吸器の管理ももちろん行います。  家族の役割は、軟膏処置、座薬の挿入、たんの吸引、褥瘡処置、摘便など をやるわけですが、この程度のことは介護職にも協力してもらってやらない と、在宅医療を実際に行うことはできません。介護職の協力を仰いでいるわ けです。家族や介護職にこういった技術を指導するのは、ナースの役割にな ります。  在宅医療の推進というのは、国家の方針という受け止め方かもしれません が、病院医療をありがたがる国民ばかりではなくて、国民も病院よりも家を 望み始めたのではないか。日経新聞の9月11日のもので、水田次官です。在宅 ケアだと、がん患者はがんで亡くなる。当たり前のことを言っているのです。 病院ではケモセラピーの副作用で亡くなることは結構ありますが、在宅では、 がん患者はちゃんとがんで亡くなるのだということを言っておられます。11 月3日の読売新聞の67歳介護者で、これはすごいのです。「病院にずっといた ら夫はきっと寝たきりになっていたと思います」ということです。そういう ことで、病院から逃げてくる患者が多いわけです。  「病気は家でなおす」と佐藤智医師がおっしゃいました。医療はこれほど パラダイムが大きく変わっています。CureからCare、急性期から終末期、根 治から緩和、長寿から天寿、臓器から人間、EBMからNBM、DataからQOL、専門 医から総合医、病院から地域へと変わってきています。  急性期病院とうまく連携します。私どもは術後管理も在宅で引き受けても いいと思っています。全身管理を在宅で徹底すれば、在宅で起こる病変の変 化は急変ではなく、予想された経過です。例えば入院期間を半分にすれば、 病床は2倍、入院患者数を半分にすれば病床は4倍です。すなわち病院の医師 の勤務量を4分の1にすることができます。  縦の連携が重要です。これは同職種間連携です。チーム医療を語るところ で、同職種間の話をしなければいけないのは寂しいのですが、病院医師と在 宅医師の連携はとりにくい、病棟看護師から訪問看護師の連携もとりにくい、 さらに連携がないのは病棟薬剤師と保険薬局です。これは中野先生がおっし ゃいましたが、車に例えれば医師と看護師は車の両輪、さらに薬剤師、歯科 医師が加わり、四輪駆動でオフロードを走らなければなりません。  在宅医療というのはナーシングです。コミュニティーというのはナースが エンパワーメントできるフィールドです。在宅医療というのは、医療再生の 入口になると信じています。雪が溶けると春がくるという感性が在宅医療に は必要で、生活こそ上位概念だと思います。雪が溶けると水になるというの は、私が病院にいた頃に考えていた生活を欠落させた視点です。  それではどうするかです。いつも座長がおっしゃいますが、「制度か金か意 識か」ということです。私は、がん拠点病院の整備同様、がん対策基本法の 第2節の均霑化の条文に、在宅ホスピスケアを法律が保障したわけです。その 際、がん拠点病院に地域とネットワークを作るように義務化したわけです。 つまり、病院側が診療所と契約をして、地域の受け皿を整備することが必要 だと思います。  現在は診療所が病院にバックベッドをお願いしにいっていて、少し違うよ うな気がします。私は近くの大学病院と関連医療機関として認定されていて、 認定書をいただいているのですが、どうも違うのではないかと思います。一 緒にやりましょうという体制が大事ではないかと考えます。  二人主治医制です。病院と地域の両方に主治医がいていいと思います。ま た、病院の外来に一定の条件が付けば、在宅医療はもっと発展するものでは ないかと想像しています。診療報酬は、当然病院の地域連携をさらに評価す るように傾斜してほしいと思います。  病院から帰ってきた患者さんに最初にすることは浣腸です。つまり、便を 貯めて患者が帰って来るという状況です。回復期リハビリ病棟へ行くと、リ ハビリをしないでベッドで寝ています。ですから、私は早く地域に帰って来 てもらいたいと思っています。  意識やマインドです。病院医師の在宅医療への偏見や誤解を払拭したいと 思います。在宅医療というのは、病院医療に比較して決して質の低いもので はありません。在宅医療を推進するにはナースが必要です。訪問看護師の養 成が在宅医療の推進の最も大きな原動力になります。ナースが重要であると いうことは、ナースにプレゼンしていただきたいと思います。以上です。 ○永井座長  続いて秋山委員からお願いします。 ○秋山委員  お2人の先生からの在宅訪問看護へのエールを担いながら発表します。資料 3をご覧ください。お2人の先生もおっしゃられましたが、在宅医療、在宅療 養といったときに、ご本人、家族の意思が大事です。住み慣れた自分の家で 療養したい、「できれば最期までの日々は、思い出深い我が家で自分らしく過 ごしたい」ということを叶えるのが、在宅療養だと思います。そこには、医 療と介護の両輪が付かないといけません。その在宅医療を支えるネットワー クとしては、保健、福祉、医療、さまざまなところ、施設を含めたたくさん の職種、機関が、このようにネットワークをしていくことが大事ではないか と思い、その中の1つが訪問看護師ではないかと考えています。  訪問看護を受けるまでの流れを3に示してあります。医療保険、介護保険の どちらでもサービスは受けられるのですが、かかりつけ医の指示をいただか ないといけない仕組みになっています。そこで、そのいちばん身近な医師と の関係の中で、少し狭まった意味でのチーム医療として見るときに、指示書 を出している主治医との関係で、大きな病院から指示書をいただいている場 合があります。患者を連れて行かないと新しい中身がきません。診療所に医 師と組む場合もあります。外来のみで、1に近い状態です。3つ目が、診療所 の医師ですが、外来と訪問診療の両方をやっている方との連携です。診療中 は電話でのやり取りがメインです。4番目に、在宅専門の診療所が主治医の場 合は24時間対応してくださいますが、ときとしては誰が来てくれるのかがわ からないこともあり、それぞれ特徴があります。  実際の場面ではどのようなことかというと、1つ目が疼痛のコントロールで す。がんの末期の方を引き受けた場合に、処方量が足りない・多いなどの判 断に対して、医師と連携していますが、医師によっては看護師の臨床判断を 先行してやり取りすることもあり、随時報告や連絡を取っていますが、レス キュウードーズ、臨時に使う薬の量などは、基準量から計算したり、その状 態を診て、看護師が判断し、患者の実情に即してアップしたりしています。  実際の患者さんのところをご紹介します。38歳、胃癌の末期で、がん性リ ンパ管症の状態になり、息苦しさを訴え、緊急訪問をしました。サチュレー ションが85%を切っていて、大学病院が主治医のために、在宅酸素をすぐに 導入することができず、患者を大学病院に連れて行き、酸素の導入が行われ ました。その結果、そのあとこの方は在宅でいることを希望されたので、在 宅でのかかりつけ医につなげることを訪問看護師がしています。これは酸素 のカニューレが付いていますが、亡くなる2週間前の写真ですが、お家でにっ こりと微笑んでいます。机上配付で、委員の方のみ公開です。  自宅で看取りの場面ですが、その方の1時間半前に撮った写真で、ご家族か ら許可をもらいまして公開しています。このように、静かに無呼吸が増えて、 ゆっくりとした呼吸になって、このまま亡くなっています。医師は死亡後、 死亡診断書を交付しています。つまり、8枚目で、死亡確認は看護師がしてい て、死亡診断は現在のところ医師が行います。医師がすぐに来られない場合 は、本来は遺体に触わってはいけないということなのですが、医師との申合 せにより、そのままご遺体のケアに入らせていただくことが多々あります。  ここに「24時間以内に医師が診察をし、死亡原因が明らかで死亡診断書が 書ける場合を除く」と書いてありますが、たいていはお医者さんに来ていた だけるのですが、その前にケアをするのに、看護の判断が先行していること が結構ございます。  次です。介護予防の考え方ですが、これは平成18年の予防にシフトしたと きの図を載せています。この9と11を併せてご覧ください。高齢者の在宅で遭 遇する救急の場合、例えば発熱、誤嚥、脱水、急性腹症、便秘、転倒骨折、 意識障害と挙げましたが、これが単独で起こることはありません。発熱があ って脱水が起こり、少し意識障害があって嚥下能力が落ちて誤嚥を起こすと いうように絡んでいきます。便秘があって急性腹症の状態で、救急搬送され るというようなことです。  そういったときに、9枚目の少し下がったところで、医療的な知識を持った 看護がそこで機能すれば、重篤にならずに対処ができます。そこの水際作戦 のところに、かなり訪問看護は機能するのではないかと思います。  それと併せて10枚目に、訪問看護の相談機能があります。これはかなり実 際の面では活動していまして、医療の関与が必要かどうか迷うときの相談先 になっていたり、地域のかかりつけ医に繋ぐ役割を担ったり、退院前に訪問 してその後の在宅へのスムーズな移行にも、かなり相談の機能を発揮してい ます。  地域での緊急入院で具体的に高期高齢者に多く見られるものは、脱水、肺 炎、食思不振です。先ほど言ったような救急のところで、ここに看護が速や かに機能すれば、重篤にならずに在宅で看たり、入院期間も短くて済むので はないかと思われます。  次に排泄の場面です。先ほど家に帰って来て最初にするのが浣腸という話 がありましたが、IVHの方の便がずっと詰まっているようなことが結構ありま して、訪問看護はまず排泄の部分を整えます。その次の脱水の場面では、明 らかに脱水が見られる場合に、医師との申合せで点滴を用意してもらって、 それがいま必要かどうかを判断し、電話連絡等はしますが、輸液を在宅で行 うような場合もあります。褥瘡については、予防には大変気を遣っています が、どうしても出たり、逆に褥瘡ができたからといって訪問看護につながる 場合があるので、具体的なケアに関しては訪問看護が医師に対して情報提供 を行いながら、ケアに携わることが多いです。  16です。医療過疎地域でサテライトで訪問看護をしているステーションが、 地域の中で活動しています。過疎地域では、医師不在時の初期対応時の判断 等、かなり訪問看護が担っている実情があります。都市部でも、ときとして 医療過疎状態になることもあり、訪問看護が緊急出動している場合もありま す。  このように、訪問看護指示書との関連で、医療保険、介護保険の両方に絡 みながら、さまざまに医師と連携を取りながらですが、逆に看護が先行した 判断をして動いていることもあることを、ここで皆さんにお伝えします。  18から24に関しては情報提供です。医療ジャーナリストの村上紀美子さん から資料をいただいています。英国NHS改革における処方ナースの教育等に関 する経過と、具体的に処方ナースをどのようにしているかです。地域医療先 進国であるイギリスの例を付け加えています。  最後になりますが、日本の訪問看護師の要請としては、現状では、臨床経 験を積んだ看護師を訪問看護ステーションで雇用し、On The Job Traning(オ ン・ザ・ジョブ・トレーニング)を行っています。研修基礎のコースは、各 都道府県看護協会が受託、設置を行い、受講させる場合が多いです。新卒の 看護師を研修し、事業所に配置するところも出てきました。訪問看護認定看 護師やCNSも地域で活躍してきている状況です。在宅医療、在宅療養を支える 訪問看護師の現状をお話をし、現在のところは実際の法的な規制の中でです が、かなり役割が拡大された状態で仕事をしているということをお伝えしま した。以上です。 ○永井座長  続いて山本信夫委員からお願いします。 ○山本信夫委員  資料4をご覧ください。すでに医療機関の中でのチーム医療で薬剤師が果た す役割については、第3回の検討会で林参考人から具体的な話があったので、 今日は在宅医療の中におけるチーム医療ということで、薬剤師であっても、 特に開局薬局の薬剤師の観点から、薬を中心にしてお話をします。  資料1頁です。チーム医療はこのように考えているというポンチ絵を描きま した。左側は入院医療におけるチーム医療です。右側が、ほぼ同じような絵 柄になっていますが、これまで何人かの先生がお話になったように、患者さ んを中心にして、それぞれの機関が連携しているというものです。見かけ上 は、先ほどの太田先生のお話のように、町の中の道路をどう見るかというこ とも含めて、病院と地域は同様な仕組みになっていると考えています。  2頁です。在宅医療全体における多職種連携を考えると、ここにあるような 絵になると思います。いちばん下に患者さんがいまして、かかりつけ医機能 を中心に、その脇に薬局があり、それぞれ訪問看護ステーション、あるいは かかりつけ医と連携をしながら、麻薬を含めた医薬品あるいは医療材料等を、 それらに関する情報とともに提供する役割を担っているといった絵柄です。  3、4頁は、具体的に薬に関して在宅でこのようなことが起きているという ことです。ご本人が管理する場合、介護事業者が管理する場合など、さまざ まございますが、4頁の表からは想像以上に管理の状況がよくないことも訪問 するときに発見されている様子が見て取れます。  5頁です。訪問薬剤管理指導がどのような形でスタートするかです。パワー ポイントの絵でいうと、いちばん下の部分が、具体的に訪問薬剤管理指導が 始まる部分です。それに至る経過については、医師の指示型であったり、薬 局のほうから具体的に訪問の必要性を提案をしたり、介護支援専門員の方々 からご提案があったり、多職種連携の形でいろいろな方からご提案があった ものを、薬に関しては薬剤師が訪問指示を受け、医師の診断の下にスタート します。  6頁です。開始までの経過は、医師からの指示が多いわけですが、さはさり ながら、わずかではありますが、医師以外の方々からの発意で、訪問薬剤管 理指導が開始されることが示されています。  具体的に7頁にありますが、在宅医療における薬局・薬剤師の主な役割です。 調剤、情報提供、服薬指導、服薬支援、服薬状況の確認、効果や副作用等の 確認、医師へのフィードバック、麻薬の供給等々とあります。次に多職種連 携の情報共有ですが、これはいままでもいくつか議論になりました。  8頁です。医薬品を要素として項目を並べました。薬を飲む方の理解力、服 薬拒否等の問題です。それから、もともと飲めない、身体的な能力の問題で うまく飲めない、さまざまなケースがあります。理解力に対しては服薬指導 になるし、身体的能力の低下した患者さんについては、服薬を助ける形にな ります。嚥下能力が十分でなく困難な場合には、服用が可能な適切な剤形へ の変更を行うことも、薬剤師の仕事です。こうした部分を的確に把握するう えでは、薬剤師が在宅訪問をし、医薬品の使用状況について確認するという のは、大変重要なことになると思います。  9項です。日本薬剤師会で、食事・排泄・睡眠・運動を通して、患者さんの 体調はどのように変化しているのかをフローチャートで整理したものです。 こうしたものに従って患者さんの状態をチェックしていくと、その患者の抱 える具体的な問題点が把握できます。  10頁は「多職種によりアセスメント可能」とあります。食事、排泄、睡眠、 運動を総合的に判断することが、いちばん大事なことだと考えています。こ こに示す症状は高齢者に多い症状ですが、疾病として発生するケースと、医 薬品が原因で起こるケースがあります。ここにあるように、錯乱状態からパ ーキンソンに至るまで、さまざまな症状を呈するわけです。実際にそうした 疾病をもった方と同時に、使っている薬によって変化することも、このアセ スメントで可能になると考えています。  12、13頁は、多職種連携の際の情報共有についてです。訪問看護ステーシ ョンとの連携、介護との連携についてそれぞれ書いています。そもそも医師、 薬剤師の連携については、処方箋を通して情報の共有ができているので、そ こには記載していませんが、その後調剤された医薬品を在宅で使っていく場 合の情報共有の仕方として、訪問看護ステーションでは、薬剤師から看護師、 看護師から薬剤師、あるいは薬剤師からケアマネージャー、ケアマネージャ ーから薬剤師という間の情報共有が基本的に必要なことだと考えています。  14頁以降については、実際に起こった事例をいくつか記載しています。5つ ほど載せていますが、後ほどお読みください。  21頁です。その前には量を減らしたこと、安全に薬を飲んだこともありま すが、ここについては訪問薬剤管理指導事例(5)で、緊急時の対応が出ていま す。今日では医師はもとより医療関係者は携帯電話をお持ちですので、主治 医と連絡が取れない場合というのは、そうは起こり得ないのでしょうけれど も、実際に主治医と連絡が取れない場合にどうするのか。  ここの例にあるのは、男性の患者で、在宅でこのスライドのような状態に なりました。薬局で持っている薬歴を検索して、過去に使った薬を見ます。 実際には、こうした場合には後ほど主治医に報告したわけですが、厳密に法 にしたがえば、この段階でも問合せをして、処方箋が必要だとなりますが、 こうした事例もこれから発生することも多く、この事例にあるような判断も ある程度は薬剤師ができるようになれば、先生方の負担も軽くなるのではな いか。あるいは看護の方々がおっしゃっているように、看護業務に傾注でき るという気がします。  22頁です。先ほど来、中野先生からは薬剤師に対して大変大きな期待があ りました。太田先生からは、薬剤師が前に出てこないというご指摘もありま した。薬剤師が訪問薬剤管理指導をする上で、いくつかの問題点があります。 もちろん薬剤師の意識の問題は大きな問題としてあるのでしょうけれども、 そこにあるように、一体何ができるのかの認知度が低いです。入院患者から 見て、薬局の存在が稀薄に見えるのではないか。明確に在宅医療に参加する プロセスが見えてこない。実際にはチーム医療の一員として、地域連携クリ ティカルパスにおける役割の明確化をする必要があるだろうということで、 以前から座長の言われている、制度、費用、意識のそれぞれが問題になって くるという認識です。  最後の3枚は海外の例です。これから先に、近い将来において、地域で薬剤 師がどうかかわっていくかのよい例になると思って挙げています。  最初の3枚は米国の例で、CDTM、Collaborative Drug Therapy Management というシステムがありますが、主な特徴としては、Model State Pharmacy Act という法律があって、その中に23頁の1)〜7)までの部分を規定しています。  その次の24頁です。Collaborative Drug Therapy Management、CDTMとは何 かというと、コラボレイティブファーマシープラクティス、すなわち一定の 条件下でプロトコールができたものです。そのプロトコールに従って、医師 がアグリーメントを出す。その範囲の中で薬剤師が一定の仕事ができるとい うことです。かつてはACP等が共同でステイトメントを出したものに従って作 られたもので、アメリカではほぼ全州でこれが導入されています。  26頁です。その結果、概念図としてはこのようにお考えいただければ結構 です。CDTMによる医師と薬剤師の共同参画です。「診療」と書いてありますが、 まず患者は最初に医師の診断を受けます。一定のプロトコール、これは学会 のガイドラインを主に使っているようです。プロトコールができて、医師と 薬剤師の間で一定の治療方針の合意ができます。そこでは、アグリーメント を作成し、その範囲の中でプロトコールが決まります。あとは患者さんは、 薬剤師との間の行ったり来たりで調整ができるという仕組みです。  27頁は、先ほど秋山さんのお話にあった英国の例です。こちらは Supplimentary PrescriberあるいはIndependent Prescriberといって、一定 のプロトコールの中で薬剤師あるいは看護師の方々も一部入っていますが、 処方ができるというものです。何でもかんでも診断をして、処方をしようと いうのはなしに、基本的に医師の助けをする形で、負担軽減をするために役 割分担をする観点から進んでいます。今後の在宅医療の中で、地域の薬剤師 が貢献するためには、こうした制度あるいは仕組みの部分も、少しお考えい ただく必要があるだろうと考えています。 ○永井座長  最後に真田先生にお願いします。 ○真田委員  チーム医療を考える際によく例に出されるのが褥瘡対策チームです。本日 私にいただいたテーマですが、2をご覧ください。褥瘡対策において、チーム 医療体制をどのように構築したか。その中で、皮膚・排泄ケア認定看護師を どのように活用したか。学会活動からみた組織体制作りとその評価について ご紹介します。  どのように褥瘡対策チームが作られてきたかは、WOC看護師の活用から始ま ります。3をご覧ください。日本での活動ですが、非常に古くに遡ります。下 に書きましたが、いま1,132名のWOC認定看護師がおります。この日本の認定 看護師の中で最も人数の多い分野でもあります。  WOC看護師が褥瘡対策チームで重要になるわけですが、その専門性は何かと いうと、WとOとC、これらのスキンケア対する特殊技術を提供することです。 ストーマケアからはじまり、スキンケアを通して、創傷管理、失禁管理へと 領域を拡大していっています。共通する専門性は、排泄に起因するスキント ラブルの対応で、2に書きましたが、医師との協働が非常に重要でした。スト ーマ管理、創傷管理は医療処置の範疇であることが多く、この部分で医師と の協働の必然性があったと言えます。  それはどういうことかというと、上の写真に示すように、排泄に起因する スキントラブルは大変痛みが強いこと、また、排泄を人に委ねることは、人 としての尊厳も脅かすので、患者の苦痛は非常に大きいといえます。しかし、 さまざまな外用薬を処方する、つまり医師の処方だけでは治癒しない、なぜ ならば排泄ケアに対する心理面も踏まえた高度な技術、スキンケア技術が非 常に優先されるわけです。  つまり、排泄ケアのスキンケアを専門とするナースによって、医師が治せ なかった皮膚障害をWOC看護師は完治させることができます。これをいちばん 認めたのは患者でした。患者からの絶大なる信頼を得ることで、患者が医師 にそれをフィードバックしてくれます。そして医師がこれらの技術の必要性 を認め、WOC看護師と医師との協働が始まったと言えます。  次の頁です。このようにスキンケアを通してWOC看護師の技術が認められ、 医師との協働が成立したわけですが、実は医師を含めた多職種連携における チーム医療を成立させたのは、病院における褥瘡管理であったといえます。 褥瘡は看、寝る、食べる、排泄することが障害され発生する疾患ですので、 看護師が責任を持つことが最も適切であるといえます。これら療養上の世話 により、予防も治療も可能です。また、あらゆる年齢、あらゆる医療の場、 どの疾患においても発生します。それはとりもなおさず、病院の質を問うク オリティインディケーターであるとなります。そうしますと、病院全体で取 り組む体制が必要となってきました。  9枚目です。このような状況の下、そこに医療費の削減を目的とする褥瘡対 策に関する制度が作られました。専任の医師と看護師から構成される褥瘡対 策チームを置くことが義務づけられ、さらに褥瘡のハイリスク加算を算定す るには、1の褥瘡管理者を専従で配置する要件が加わりました。この管理者が 現在のWOCナースになっています。  11です。このようなプログラムを経て、現在では11の例のように、ハイリ スク加算の場合、チーム体制が組織化されてきました。このチーム体制は、 患者様のそばには、いちばん近いところへWOCナースが入り、WOC看護師が褥 瘡対策のマネージャとして、各職種と協働するチーム構造が出来上がってき たと思います。  しかし、このチーム体制を作るには、多職種のコンセンサスが必要となっ てきます。そこで今日お話できることは、学会の役割です。まず日本褥瘡学 会です。1998年に多職種連携による褥瘡管理の向上を目指し設立されました。 会員数は現在7,385名で、医師、看護師、栄養士、薬剤師、PT・OTなど多職種 から構成されています。13頁ですが、チーム医療推進のためにどのような事 業をしたかというと、コンセンサスを得る共通用語を作るということ、褥瘡 対策評価をする、褥瘡認定制度を作り継続教育、在宅管理の推進などを行っ てきましたが、本日のお話として重要なのは1)です。  具体的に例を挙げますと、どのようにコンセンサスを得たのかというと、 それは褥瘡部のアセスメントツールをまず開発したことです。なぜ必要だっ たかというと、医師と看護師には、共有して褥瘡の分類と評価ができるツー ルがなかったからです。これを同一項目として、DESIGNというものを開発し ています。  15頁です。これがDESIGNツールです。DESIGNとは何かというと、病態別に 各項目の英語の頭文字を取ったものです。大文字を小文字にするという分類 が治療と直結します。そして各項目を数量化するということで、評価が可能 です。実際にこれを用いて次にした仕事は、ガイドラインの策定でした。大 文字を小文字にするという概念の下、学術集会でコンセンサスシンポジウム を行い新しいツールを作っていきました。  17頁です。診療報酬が改正される度に、実地医療の皆様はこれにどのよう に対応したらいいか悩みます。そこで、指針を作成することもやってきまし た。  20頁です。褥瘡対策におけるチーム医療実現の鍵は、多職種連携、つまり 共通用語を持つということでした。客観的評価項目、アウトカムの開発をし、 コンセンサスを得る解説書を配布していること。そして、各職種へのリスペ クトと役割の明確化を行ってきたなど、つまり学会を多職種連携のためのコ ンセンサスをつくる場として活用してきたことが、褥瘡対策推進の鍵になっ たと思います。  21頁です。しかし、このようにチーム体制づくりがいくらできたとしても、 WOC看護師がチームリーダーとしてコンセンサスを得てきたプロセスに欠か せなかったのは、評価研究だと思います。これは日本創傷・オストミー・失 禁管理学会が行った研究ですが、WOC看護師は、チームの中の褥瘡対策に貢献 したかという内容です。  ハイリスク加算が導入されたあと、つまりハイリスク加算は褥瘡管理者を 置くこと、それがWOC看護師であったわけですから、その対策が褥瘡の重症化 を減らしたかということを評価する必要性がありました。  25頁です。その方法論は飛ばしますが、結果です。褥瘡治療状況と影響要 因です。上の図の縦軸が、先ほどの評価ツールであるDESIGN、横軸が時間軸 です。赤が対照群、青が管理者群の患者です。有意に3週間で点数が下がって いる、つまり褥瘡がよくなっていることを示します。そして、DESIGNの得点 を従属変数としたときに、いちばん上がった独立変数が管理者導入でした。  このようにDESIGNの得点を下げながら管理者を導入したことの意義があっ たといえるわけなのですが、費用対効果はあったのか。結果3に示すように、 物材費と人材費から費用対効果を見ます。いちばん下に示すように、DESIGN の点数を1点削減するのに要した費用は、管理者群と対照群を比べると、管理 者群は2分の1になっています。つまり、2倍の効果があるということです。こ のように、学会からエビデンスを出すことで、WOCの体制を推進した、WOC看 護師による管理者の体制をチーム医療の中で推進したと言えます。  それでは、一体何がこの違いを出したのかというのが、結果の4です。両群 の技術の差は何があったのかを見てみます。赤が両群とも100%行っていた技 術で、青が管理者群だけ有意に行っていた技術です。全員行っていた技術と して上からいくと、ケアプランを立てること自体は、処方することですし、 外用薬やドレッシング材を選択するということも、処方に一致します。そう いうことを考えますと、すでに包括指示の中でここまで行っていたというこ とが言えますが、一方、侵襲的な処置として、外科的デブリートメントや陰 圧吸引療法に試算が出たということは、費用対効果が優れていた理由の1つに、 侵襲的な措置を行える特殊技術に差があったのではないかと言えます。  ただ、ここで是非着目していただきたいのは、この設問です。例えば創部 のケアプランを自ら立てたことがあるか、なぜ「立てたことがあるか」と聞 かなければいけないかということです。実は「立てている」と聞きたかった のですが、WOC看護師たちは、これらの自分たちが行っている行為が医療行為 であるかもしれない、違法なことをやっているかもしれないという後ろめた さのために、立てていることに対して正確な答えが得られないことを考え、 それでこのような表現にしました。自分たちがやっていい技術が明文化され ていないという問題クローズアップされたといえます。  そして、実際にWOC看護師達がどこまで技術を拡大しているかというのが、 29です。そこの青字で書いたWOC以外では、このSSIを中心として、創傷ケア を積極的に行っているのですが、明文化できない部分となっています。それ は先ほどの理由によります。  31です。そのような状況の下、この既成事実があるならず、その技術を正 式にトレーニングし、正々堂々と行えるようになるプログラムを試作して実 行したらどうかということで、科研費で実際に高度創傷管理技術を用いた重 症褥瘡発生防止に関する研究を遂行しております。  22に示すように、2段階です。昨年度はプロトコールを作成して、今年度は 費用対効果の評価を行っています。  33です。どのようなプロトコールかと申しますと、侵襲を最少限に抑え、 安全に、そして患者に苦痛なくということを趣旨に、基本的な創傷管理技術 に加えアドバンストな創傷のアセスメント、デブリードメント、陰圧吸引、 創傷のドレッシング材の使用、振動器、そして安全対策にも触れました。こ の教育を実施するために、95時間5単位のプログラムを作成し、教育を行いま した。いま申しましたように、テブリードメントとドレッシング、陰圧閉鎖 療法、振動などの技術は、写真にしめしたとおりです。  結果です。これは中間報告で、まだ分析の途中ですが、アウトカムのDESIGN の得点を縦軸、横軸には週数を取ってあります。コントロール群と教育群で は、時間と群に有意な交互作用がありました。つまり、高度創傷管理技術の 教育を受けることにより、DESIGNの減少が促進されたと言えます。このプロ グラムの有効性が示されると、裁量の拡大に関しての可能性が考えられると 言えます。  まとめます。WOC看護師が褥瘡管理をチームリーダーとして実践できた理由 は、4つあります。チーム医療の中で、医師の権限の委譲と看護師の裁量の拡 大をスムーズに行うには、資格あるいは研修を受けた者が、学会などのコン センサスを基に、包括指示の中でエビデンスのある医療行為を行うことに診 療報酬がつけられたということが、この成果として現われたのではないかと 言えます。  ただし、私は、このチーム医療推進のために褥瘡対策から見えた残された 課題がまだまだあると思いました。1つ目には、包括指示内で行える技術か? ということです。WOCナースたちが、常に行っているにもかかわらず行ったこ とがあると言わざるを得ないように、自分たちが行っている技術が、果たし て包括指示の範疇を超えるのではないか、という不安を抱えています。技術 施行の明文化が必要だと思っています。これが制度への整備につながるかど うかは検討が必要です。  2つ目には、現存の教育内容で不足する知識と技術を補っていく必要性があ ります。つまり人材の育成ですが、日本のいまの看護を考えた場合、専門看 護師や認定看護師のキャリアパスを考慮したアドバンスなコースを作ってい くのが、実行可能性が高いと思います。と言いますのも、やっと国民に認め られてきつつある専門看護師、認定看護師制度ですので、これを使わない手 はないと考えています。また、いわゆるNPの教育に関しても、広めていくこ とも可能ではないかと思います。  3番目に、チーム医療が円滑に進められる組織体制になっているかを申し上 げます。セクショナリズムの解消が必要です。看護部や診療部に属さない横 断的な部署、なぜならば、縦方向の指示命令からでは、迅速な判断や適切な 処置が十分にできていない、横断的な立場で活動できるポジショニング、体 制への支援が必要だと思います。もちろん、これらの働く人たちには対価が 必要だと思いますので、4番目には評価された給与体系などを考慮する必要が あると思います。 ○永井座長  ありがとうございました。予定どおりプレゼンテーションをしていただき ましたので、あと1時間、ご質問やご意見、自由討議に入りたいと思います。 どなたに対してでも結構ですが、いかがでしょうか。 ○朔委員  本日の話を聞きますと、人材育成がいちばん大きなポイントであるように 思ったのですけれども、具体的に中野先生や太田先生の施設で訪問看護に携 わる看護師さんというのは、どういうキャリアの方がやっていらっしゃるの でしょうか。普通の駆け出しの看護師さんではとても無理のような気がする のですが、いかがでしょうか。 ○中野先生  おっしゃるとおり、うちの場合は病棟で勤務した経験のある看護師だけで す。 ○朔委員  何年ぐらいの臨床経験が必要でしょうか。 ○中野先生  10年以上は経験がある(看護師として経験が10年以上)のではないですか。 あとは、よそで訪問看護をやってきている方がほとんどです。大きい病院に 務めて感染症の対策をしていたナースが1人いたのですが、その方1人ぐらい です。あとは全部経験のある方です。 ○朔委員  10年以上の臨床経験があって、その後に先生の所で少し教育をしてという のが現実の姿なのですね。太田先生のほうは、いかがですか。 ○太田委員  私が在宅医療を始めて18年経つのですが、18年前の私のパートナーであっ た看護師たちというのは、病棟の師長クラスでした。内科系あるいはICU、外 科系、命にかかわる科で10年以上経験があった人たちだと思います。その後 集まってきたナースたちも、命にかかわる科で数年以上の経験を持つ者が研 修をして、立派な訪問看護師になっています。最近の傾向ですけれども、3年 とか短い期間病棟勤務を経験して、一旦結婚や出産でリタイヤして、再びナ ースの仕事がしたいと言って、いわゆるリフレッシュ看護師のような形で入 ってきた人たちも増えました。そういう人たちも、マインドがあれば立派な 訪問看護師に育っていくと私は思っています。 ○朔委員  先生方の施設では優秀な人材が集まるのでそれでいいかもしれませんけれ ども、一般の訪問看護を行っている施設においては、人材確保に非常に大き な難点が出てくるのではないでしょうか。その辺はいかがですか。 ○太田委員  私が訪問看護を基軸として在宅医療を始めた時期というのは、訪問看護を やりたいというナースはほとんどいませんでした。最近は、時代の影響でし ょうか、介護保険制度の影響でしょうか、在宅医療というのが市民権を得て きましたので、やりたいという看護師も、アプライが増えたというのが実感 です。 ○中野先生  太田先生が言われるように、病院の看護だけではもの足りなくて在宅医療 をやりたいという看護師も増えています。在宅医療というのは結構看護師の 裁量権がある場所なのです。そういう看護師はいるのですが、そういう看護 師をきっちり育てる環境がまだまだないと私は思っています。結構孤戦奮闘 で頑張っている人を除けば、数的には全然足りないのかなと思います。そう いう教育システムが非常に大事だと思っております。 ○秋山委員  いま10年のキャリアということが出ましたが、実際は3〜5年くらいの臨床 経験の後で在宅に来る看護師が多い状況です。それから、全国のステーショ ンの従事者は、全体の看護師の従事者の2.2%という数字がなかなか増えてい かないという現状がありまして、人材不足には変わりはありませんが、それ ぞれの勤めたところで研修を受けながら現場で働いているというところが現 状です。 ○永井座長  ほかの委員の方々からは、いかがでしょうか。 ○竹股委員  私どもの病院でも在宅を広く行っていますけれども、一般的に在宅と言っ たときには、ステーションそのものの特徴が2つあると思うのです。特に、医 師が確保できる所は、先ほどの先生方のご説明のように、本来だったら一般 の病院に入院していなければならないような患者様にも十分な医療が在宅で 行える。そして、それに看護も関われると思いますが、どちらかというと在 宅の介護を中心にして行っている訪問看護も多くあることも事実だと思いま す。いまの話の中では、入院の病床数を減らすとか、その患者様やご家族の 幸せのために、在宅でやれるところはやるというような話ですと、いわゆる チーム医療がきちっと確保できる、保証できる環境が必要かなと。通常は、 大体介護の部分でケアをヘルパーさんと一緒にやっているという実態がある と思っております。 ○秋山委員  両方の側面があると思うのです。非常に亜急性期の状態で退院直後から関 わらせていただいているような場合、それから、がんの末期の方というのは どんどん病状が進行しますので、そういう意味ではクリティカルな部分が非 常に多いのです。それと、いま神経難病の方等が重装備の状態で、人工呼吸 器を付け、胃瘻が入りというような状態で在宅で療養する。そこの支援も訪 問看護で、一方では行っています。神経難病の方のケアに関しても重装備な のですが、非常に慢性、長期にわたっているという状況です。  一方では、高齢者が重篤にならないような状態で、予防的な側面を持ちな がら関わり、穏やかな老化の過程をたどるために医療の知識を持った看護師 が関わるということが必要なのです。単純に介護ということではなく、医療 の側面を持った者がそこに入ることで緊急の入院を回避する。入院になって も短くて済む。それこそ先ほどの「リロケーションダメージ」、つまり場所が 変わったことで認知症が進むことを避けることも可能になるので、慢性・長 期にわたる看護の部分と急性期に近い所、それから神経難病の方の長期にわ たる医療を支える、そういうことではないかと思っています。 ○島崎委員  中野先生にお伺いしたいと思います。プレゼンテーションの中で訪問看護 の役割を非常に重視しておられたと思うのです。介護職のほうにももうちょ っと権限を委譲してもいいのではないかというお話はあったのですが、医師 と看護師の関係で見たときに、もう少しこういう部分を看護職に委譲すれば 機動的に、より効果的に、あるいは効率的にできるのにという部分があるの でしょうか。あるいは、そこのところが解釈に委ねられているために、多少 リスクを冒しながらヒヤヒヤとやっているという部分もしがあれば、ご指摘 いただきたいと思います。具体的なイメージが湧きにくければ、麻酔の処置 であるとか、薬剤の処方の問題であるとか、ときどき、こういう権限があれ ば、より機動的にできるのにというご指摘を在宅医療の関係者が言われるこ とがあるのですが、中野先生も、何かそういうことでお感じになっているこ とはあるのでしょうか。 ○中野先生  私の場合は太田先生と違って、在宅で処置することはほとんどないのです。 手術したりすることはまずないので、そういう面では無いのですが、逆に、 在宅でやる医者の処置は、在宅医療の現場では、ほとんど看護師で代行でき る。もちろん人工呼吸の管理、あるいはチューブの交換とか、浣腸とか、そ の辺の確認は絶対しますし、責任は持ちますが、在宅でのいろいろな処置と いうのは訪問看護で大体できると思います。  看護師と介護師のことですが、訪問介護でもできるよね、という業務は訪 問介護でやる。ただ、これは値段(介護報酬)が倍ぐらい違いますので、サ ービスがだんだんセレクションされています。だから私たちの所では、介護 職でできることはどんどん権限を委譲していこうということにしています。 風呂に入れるぐらいだったら、そのための訪問看護はしない。ただ、状態的 に不安定な場合は一緒に訪問に入り、指導する。褥瘡なんかにしても、そん な感じでお願いするところがあります。 ○永井座長  よく例に出される、家族はできるけれども、介護職は痰の吸引ができない という話は、やはりそうなのですか。 ○中野先生  ALSとか気管切開している方の痰の吸引というのはヘルパーに頼んでいま す。喀痰に関しては、家族の了解と主治医の承諾があれば、そこは解禁にな っております。ただ、どこの事業所もそれに対応してくれるかというと、必 ずしもそうではないので、やってくれる所にお願いしているということにな ります。 ○坂本委員  いまのことに関係すると思うのですが、秋山委員資料のスライド5では、実 際の場面では疼痛コントロールについて、看護師が判断して患者の状態に応 じてレスキュードーズの量をアップしたりしているとあります。それから、 真田先生のご発表は、褥瘡管理に関しては結構うまくいったケースですが、 資料5スライド40の1番目に「包括指示内で行える技術か?」とあります。気 になるところは、包括指示内で行えないかの線引きについては、ドクターに ある程度分かっていただいているから、包括指示内で行っていいのだという ふうな感覚的なものなのか。そして、もうしかしたら診療の補助の範囲を超 えるかもしれないケアを行いながら、それを行っていることをご自分たちは ある程度は納得しているのか。それとも不安で行っているのか。そのような 微妙なところというのは一体どのように感じながら行っているかということ を教えていただきたいのです。 ○秋山委員  使える量はこの範囲の中である程度増減していいということは、包括的な 指示でいただいてはいるのですが、実際には、薬の中身を変えるとか、形態 を変えるとかということについては、その場に行って、もう口から飲めない 状態だから座薬に変えるとか、貼り薬に変えていく、そういう意見を積極的 に話していかなくてはいけないので、そういう意味では、先を見越してやっ ている部分は大丈夫な範囲ではあるけれども、ちょっと逸脱をしているかな というのは感じながらやっています。 ○真田委員  両方あると思います。1つは包括指示のように、医師のほうからデブリード メントを毎日、血の出ないように、少しずつしてもいいよということを暗黙 の了解で得て行っているということもあると思います。でも一方、褥瘡の場 合は迅速な判断が必要となる場合が多いのです。例えば、患者さんの所に行 って下痢をしている。そして、壊死組織に便がこびりついているというとき に、ガーゼなどでそのまま蓋をできるかと言ったら、できるはずがないので す。ですから、医師の指示がなくても、そこははさみで取り除くということ になりますが、そのときの割り切り方として、血が出ないものは垢だからと 思うような意識、自分の中で何らかの言い訳をしながらやっている。後ろめ たい気持ちだと私は思っています。 ○永井座長  その辺が明確化されていないという問題はあるということですね。 ○秋山委員  そのとおりです。 ○永井座長  今日ご発表いただいた先生方は皆さん、そういうところは感じていらっし ゃるということでよろしいのでしょうか。その辺を明確化して、では国とし てどうするかということを考えなければいけないと思うのですが。 ○太田委員  やはりパートナーとしての信頼関係があって、この人には任せられるけれ ども、この人にはまだというようなことはあるのです。グレーゾーンがあっ ても、その中でうまく解釈ができるというのも1つの方法だと私は思っていま す。 ○坂本委員  太田委員のおっしゃることも分からないでもないのですが、真田先生のご 発表の中に「責任を持つ」ということがありました。責任を持つということ で、最終的には信頼を得られていくことになっていくのではないかと思いま す。ですから、役割分担をきちっと明確にしていただかないといけないと考 えます。医師と看護師との分かり合っている人たちの関係性の中だけで、や っていたのが今まででしたので、この検討会では、そのあたりの役割分担と 責任の問題は明確にしていただきたいと思うのです。 ○永井座長  私もそう思うのです。今日お話いただいた先生方の中では、たぶん信頼関 係ができているから可能なのであって、これを全国に普及して標準化して人 材を育てていくにはどうするかということを考えると、どこまでできて、ど こはやってはいけないのか、あるいは責任をどうするのかということは明確 にするべきだと思うのですが、いかがでしょうか。 ○川嶋委員  今日のご報告はほとんど医師と看護師との信頼関係がかなり良くて、シス テム的にもとてもうまくいっている訪問看護ステーションの例だったと思う のです。私もいくつか訪問看護ステーションを立ち上げた経験がございまし て、医療機関とステーションとの連携は非常に緊密で、うまくいっていたの ですが、実際に自分が2年前に夫のケアを訪問看護ステーションにお願いした のです。かなりリスクの高いところでも大丈夫だというステーションを紹介 していただいたにもかかわらず、医療機関との連携が全然保たれていなくて、 私の夫が手術を受けた遠くの病院のドクターと訪問看護ステーションは全然 関係がないので、いちいち私が手術を受けた大きい病院のドクターに指示を もらわないと何もできないという状況があって、とても不便しました。在宅 の知り合いの先生方とすぐに連絡をとって何とかクリアできましたけれども。  そのときに感じたのは、先ほど年数の問題もありましたけれども、ほとん どが若いナースたちで、プライマリーではないものですから、難しい処置や 吸引の仕方などを、その度に患者である夫が筆談で指示しないとケアができ ていかないような現状もございました。病院の看護と同じなのですが、訪問 看護と言った場合でも、人材育成に関してはかなりちゃんと考えなければい けないのと同時に、ステーションと医療機関とのシステムがきちっと整わな いと、在宅にシフトと言っても、在宅の患者さんを必ずしも全面的に満足し てケアできるわけではないということを1つ感じました。  そこで、太田先生に質問を1つさせていただきたいのです。「ではどうする か」という14のスライドの最後に、病院外来の条件と書いてあって詳しくお 聞きできなかったので、もう一度お願いいたします。 ○太田委員  これは思いつきに近いのですが、病院の医者たちからは、例えば自分の術 後の経過が見たいがために、毎月おいでとか、2か月置きにおいでとかという 指示が結構多いのです。ですが患者さんの声を聞くと、「今日は半日つぶれる。 行かなきゃならないんだ。こんなに元気なのに、何で行かなきゃいけないん だろう」というような相談を在宅で受けるわけです。病院はそもそも忙しく て疲弊しているわけですから、そういったものは地域の開業医を信頼して任 せてもらいたいなというような、そういった意味です。 ○島崎委員  真田先生にご意見を聞かせていただきたいのです。最後のスライド40の「包 括指示内で行われる技術か?」という所で、「診療の補助」を越える位置づけ に関して「法改正の検討?」ということでクェスチョンマークがついていま す。具体的にどのような条文かということをお聞きしたいわけではないので すが、イメージとして、専門看護師であるとか認定看護師、しかも、その中 で一定のスキルを持った人、つまり、単に認定看護師であれば誰でもという ことではなくて、この場合であれば、褥瘡に関しての認定看護師、当然そう いう意味になると思うのですが、そういう一定の資格要件を付して、その人 に限っては除外をするというイメージでしょうか。 ○真田委員  すみません、除外するというのは。 ○島崎委員  言い方が難しいのですが、医行為をしてもよいというように解禁していく、 そういうイメージなのでしょうか。 ○真田委員  そのように考えております。 ○島崎委員  一定の資格とペアでということでしょうか。 ○真田委員  何らかの研修をしっかりしたという証拠が必要で、それがある意味では資 格ということになるのではないかと私は思っております。 ○海辺委員  私の立場からですと、以前にも申し上げましたけれども、あまりにも現場 任せですと質がばらばらになってしまうというところがございます。やはり 患者の側では、安心して医療を受けたいというのがありますので、そういう ことはきちんとした資格を持っている方が、ちゃんと法も改正した上でやる ということがいちばん望ましいのではないかと思います。しかも、その行為 に対してはきちんきちんと報酬を付けていくというのが絶対条件だと思いま す。  資格が大事かなと感じましたのは、前回の話題提供の発表では、看護職の 方などがそういう医行為をすること自体には賛成だけれども、では自分がそ の資格を取るかどうかと言ったら、あまり取りたくないというようなご意見 があったように、資格を持っていらっしゃるという方は、その行為をするこ とに対するモチベーションもお持ちなわけです。現状ですと、いまの業務で すら本当に大変というような状況の中で、適当にやっていいよということだ けで来ると、いまでも大変なのに、ますますやらなければいけないことが増 えてきてしまうというような状況になると、ますます看護職離れのようなこ とが起こっても大変だと思いますので、法改正、資格、報酬というのは、き ちんとシステムとしてやるべきではないかと感じました。 ○坂本委員  真田先生資料のスライド40の3番目に「セクショナリズムの解消」と書かれ ているのですが、いま海辺委員がおっしゃったような仕事の仕方となると、 看護部に所属しながら二足のわらじを履いていくという形になって、大変苦 しくなってくる可能性もあるのです。実は真田先生のおっしゃったように、 専従での勤務となればやりがいも得られ、そういう意味では、どこかの部門 に所属することでのがんじがらめの忙しさというのに縛られないのかなと思 います。真田先生に、この3番目のことをもう少し詳しく教えていただければ と思います。 ○真田委員  私は大変重要な点だと思っているのですが、専従になって、その専従のポ ストをどこに置くのかということも1つの懸案事項ではないかと思っており ます。診療部にあったり、看護部にあったり、いろいろな所にそのポジショ ンはあるのですが、見ていますと、ほとんど看護部にそのポジションがあっ てそこから横断的な活動をしている、という状況が今の多くの現状だと思い ます。そうなってきますと、例えば患者さんに新しいマットレスや新しい処 置のドレッシング材を導入したいということをディスカッションするときに、 縦組織ですから、一旦は部長まで上げて、そこからまた診療部長に下りてこ なければいけない。この迅速な対応ができないということは非常に大きな問 題だと私は思っているのです。専従になってとても動きやすい状況というの は、副院長直轄のチーム体制部とか、そういうのがあればいいと思っている のです。 ○永井座長  よく医療安全などでそういう体制をとりますね。医師も、看護師も、薬剤 師も、事務の方も入って医療安全対策チームを作って、病院長直轄で動く。 そのようなイメージですか。 ○真田委員  そうです。 ○川嶋委員  真田先生に引き続き伺いたいのです。専従にしていただいて、そしてシス テム的には副院長直属ということはいいと思うのですが、WOCを局所のケアだ けに限定して考えられるような印象がございます。褥瘡というのは全人的な ケアを抜きにできない。その辺のところを説明していただいたほうが、全員 がよく了解できると思うのです。 ○真田委員  川島先生、ありがとうございました。褥瘡ほど生活の支援が大事なケアは ないと思います。今日先生方に説明させていただいたプリントで、6番、なぜ このように、褥瘡について看護師が責任を持てるようになった、持つべきだ ということについては、褥瘡の原因のすべてが圧迫、床や椅子から来る圧力 やずれ力。そして悪くなる原因が失禁や栄養状態の不良という、生活の支援 そのものが原因である。私が申し上げたいのは、この看護の基本の療養上の 支援をしっかりしないと、局所ケアの効果は全く出ない。ここが褥瘡ケアの 持つべき意義づけであったと説明させていただきましたが、先生はそれでよ ろしいでしょうか。 ○川嶋委員  WOCナースが処置屋さんになってしまったら困ると思いまして質問いたし ました。 ○真田委員  ありがとうございます。 ○井上委員  今日の最初に人材育成の話が話題に出ました。うちの看護学生を見ている と、在宅ケアにすごく魅力を感じていて、いずれはそこに行きたいけれども、 いろいろなことを判断しなければいけないので自信がないから、まずは病院 で臨床研修を積んでという人が多い。それは1つのあるべき良い道なのかもし れないのですが、そういうのをずっと待っていたら、今でもすごい人材不足 なのに、エキスパートばかり求めていると、立ちゆかなくなる。今でも人材 不足は深刻だと思うのです。  それとはちょうど対極にあるようなのですが、ICUやCCUのナースも、昔は 外科病棟や内科病棟、できれば小児科病棟も全部回ってきた人でないと入れ ないということになってました。でも、もうそうではなくて、基礎教育から クリティカルケアとかICU、CCUを教育するようになった。うちも、全部実習 を終えて、最後に在宅ケアの看護実習を持ってきているのですが、いまそれ を変えようとしているのです。例えば、いちばん生活に近いから、1年生、2 年生で在宅ケア実習を入れてもいいのではないか。そうしないと、いつまで も病院中心で、そこから派生しているというところで発想を変えて、新人で も入れるようにする。ただし能力の高い人が必要なので、そこは、さんざん 論議で出てきている、ある程度訓練を受けた資格を持った人が、診療報酬や ら裁量権が法的にもちゃんと守られて配置されて、その人たちが教育すると いうふうにしないと。ナースの自助努力で能力の高い人に来てくださいとい うことになっていると、川島先生がおっしゃったように、非常にばらつきが 出来て危ない状況が続いていくと思うのです。ですから、ここで抜本的にい ろいろなことの発想を変えて、新人のナースでもできる部分とそれを管轄す る、あるいは教育する次の段階の資格を持ったナース、権限を持ったナース を誕生させて欲しい。こうしてプレゼンテーションをいろいろ聞いていると、 どの分野も一緒だなということを感じました。 ○永井座長  10年経たないと入れないというのでは間に合わないと思いますが。 ○山本信夫委員  もともとの議論は、医師と看護師というチームの話ですから論点がそこに いくのは理解できるのですが、そもそも入院と外来というのを比べてみると、 薬剤師の場合にどういう立場になるか。これは業務の取り合いではなく、ご 理解いただきたいのは、薬剤師として働いている人間は、病院と地域を比べ たら地域のほうが圧倒的に多いはずなのです。  今日の議論からすれば、病院の中でさまざまな連携がとれるのは、言って みれば同じ箱の中にいるので、比較的容易に連携がとれるのですが、地域で はそうはいかない。病院の中ですら十分な役割分担ができていないのではな いかとのご指摘があるのですから。  しかし、その中でさまざまなステップを踏もうということになると、先ほ ど太田・中野両先生から、薬剤師は何をしているのだと、とても嬉しいよう な、悲しいような指摘がありましたが、それなりに頑張っているつもりなの です。そもそも在宅の中で薬剤師が働くための仕組みをとるとすれば、それ はまさに人材育成であって、そのための教育や役割分担がないと進んでいか ないので、その仕組みをどう作っていくのかです。あとは、研修がいいのか、 実習がいいのか、あるいは単なる資格がいいのか、あるいは教育そのもので 変えていくのかということも当然ここで議論されて、それがいずれは、先ほ ど井上先生がおっしゃったように、いろいろな所を回って、さまざまなベー スを持った方が専門性を持つ。薬剤師は基本的にオールラウンド・プレーヤ ーですから、その中で専門性を持たせるのか。あるいは、さらにたくさんの 専門性を持つと、むしろ臨床になるのか。開局者は臨床という部分が比較的 弱いものですから、そういったものについて十分に教育をする。そういう仕 組みを組めば、地域の中でも、病院の中でも皆様方が困っている部分をフォ ローできます。薬に関しては、任せておいていただければそこは十分に担当 できるという仕組みがこれからは必要なのだろう。そうすれば、それぞれの 立場で、看護の方は看護なりの仕事ができるでしょうし、薬剤師は薬剤師の 仕事ができると思います。 ○永井座長  それを具体的におっしゃっていただきたいのです。 ○山本信夫委員  それはこれから申し上げようと思っていたのです。いま6年制になりまして、 まだまだベースの部分ですから、さらに専門性を積むなり臨床経験を積むな りした上で、そうした資格ができれば、いま先生がおっしゃっている法を変 えるかどうかは議論があります。制度そのものは、きっと変わっていくのだ ろうという気がしますが、その方向は打ち出していただきたいのです。 ○永井座長  それは皆さんそう思っているので、では具体的に何がいま問題で、何をす べきなのかということを挙げていただきたいのです。それは法改正なのか、 マンパワーなのか、意識の問題なのか、あるいは診療報酬の問題なのか。当 然、薬剤師さんにしても、場合によっては診察する必要もあるかもしれない のです。今それはたぶんできないと思うのですが。そういうところで問題が あるのか無いのか、それをお聞きしたいわけです。 ○山本信夫委員  私がここで申し上げたいのは、医師にはなりようがありませんから、医師 の替わりに診察をしようとは思いませんが、ある一定の範囲の中でそうした ことができる仕組みを作っていただきたい。それは診療報酬上も評価される かもしれませんし、あるいは資格の問題かもしれません。ただ、今ここで医 師の方々と、ということではありません。 ○西澤委員  秋山委員に聞きたいのです。いま褥瘡の問題で、特に病院等では、専門看 護師とか専従でいたほうがいいということです。15頁にあるように、在宅の 場合でも、褥瘡が出来てからの依頼があるということですが、在宅の褥瘡と いうのは非常に大変だと思うのです。しかも、訪問看護師はそれだけに専従 で関わるわけにいかないのです。今までのお話を聞いて、在宅での褥瘡に対 する対応のあり方についての悩みと、今後どうしたらいいかというのを教え ていただきたいのです。 ○秋山委員  真田先生の資料で、病棟と在宅とで在宅のほうが褥瘡の出現率が高いとい うのは、褥瘡が出来てから在宅に依頼されるためだと私は思うのです。1つは、 生活上、療養上のさまざまなことを、例えば栄養状態とか、排泄の問題とか、 環境とか、介護力など全部を含めてのマネジメントが必要なので、そういう ことをチームで話し合う。そこのアプローチがないと、それこそ局所の処置 屋さんになってしまうので、そこのところでかなりチーム・アプローチへの 働きかけを看護の側からしているというのが現状です。  それから、今はマンパワーの問題があるので、ラップ療法とか、非常に安 価でやれる方法がわりと流布されてきています。それで、それがその人に本 当に適切かどうかということも含めて、少し頻度高く入れるような特別指示 をいただいて介護保険から医療保険に替えるとか、頻度も含めて関与ができ るように、訪問看護はいま働きかけをしているという状況です。  うちのチームに1人WOCナースがいるのですが、タイムリーに入っていくの が難しいので、デブリードメントに近い状態をやらなければいけなくて、ち ょっとヒヤヒヤしながら普通に訪問看護をやっているような状況です。 ○永井座長  でも、それはちゃんとトレーニングを積めば、別にヒヤヒヤして仕事をす る必要もないということなのでしょうか。ヒヤヒヤしているといいうのは、 法的に何かを恐れているからなのですか。 ○秋山委員  そこのところは真田先生の揺れ動くところで、在宅も一緒の状況ではない かと思います。 ○永井座長  看護課長あるいは医事課長にお聞きしたいのです、その辺は問題ないでし ょうか。 ○杉野医事課長  直接のお答えにはならないのですが…。厚生労働省が、ある看護師の行為 が保助看法に違反するか、しないかということを明らかにするというときに、 これまでは基本的に、看護師の資格というのは一本ですから、どういう看護 師さんがやられても、太田先生がおっしゃるように、信頼関係があろうが、 あるまいが、およそ看護師の方というのはこういうことはできるのですとい う見解を示すということだったわけです。それで、そういうことをやろうと すると、極めて抑制的な判断しかできなかった。本当はそれだけしかできな いというわけではなくて、それ以上できる看護師さんもいるかもしれない。 現場ではやっているかもしれない。だけれども、それについて言及するので はなくて、グッと手前の所で、ここまでは大丈夫ですということしか言えな い、という話しかしてこなかったわけです。そうすると、褥瘡の処置という のはどうなのかと言われても、いつもそこは何も答えないという状況だった わけです。  しかし、今日お話を聞いていても非常に感じるのですが、そういう厚生労 働省の見解の出し方というのは、かなり限界に近づいているのだろうという 気はします。私が言うのも変なのですが、検討会ですから、検討の参考にし ていただければと思うのです。要するに、認定看護師の方がこんなに活動さ れている。あるいは専門看護師の方も活躍されている。それ以外の看護師の 方もいらっしゃいますが、いわば看護師さんの中でも多様な訓練・教育のバ ックグラウンドを持った方がどんどん出てきている。もちろん一般の看護師 さんもいらっしゃいますが、幅のある看護師さんがいらっしゃるということ を前提に、では厚生労働省として、どういう形で多様な教育のバックグラウ ンドを持った看護師さんについてどれだけ明確に、ここまではできる、その ための要件はこうですよねということを表現できるか、そこのところが今後 は問われているのだろうという感じがしました。  真田先生もおっしゃいましたけれども、その中で、必ずしも法律改正する かどうかは別として、明確化するということは大切だろうと思います。その 中でデブリードメントについても、できるとすれば、どういうバックグラウ ンドを持った方であればできるのかということを表明していくことが必要な のかなと、そういうことを感じながら今日はお話を聞いておりました。参考 にしていただければと存じます。 ○島崎委員  折角なので太田先生と中野先生に、いまの点に関してお聞きします。訪問 看護師を確保するのもなかなか大変だろうと思うのです。中野先生はここま でやってこられた実績があるので、今は集まるような状態になっているかも しれませんが。しかも、実際に生活する場面での支援が在宅医療の本質だと すると、いろいろなケースがあり、それぞれの部分について、この領域につ いては何々についての専門看護師あるいは認定看護師でなければいけないと いう箍をはめられていくと困る面はないのでしょうか。お話をうかがってい て、今、議論になっているようなことは、先ほど医事課長がおっしゃったよ うな背景のもとで実態上はやっているのではないか。そして、そういう手づ くりの良さみたいなものが損なわれてしまうのではないかという懸念が一方 であるのではないかという気がするのですが、その点についてはどのように お考えになっていますか。 ○中野先生  今日の議論を聞いていて、病院サイドの発言が多いということにかなり違 和感を感じております。といいますのは、いろいろ規制とか専門とかと決め てもらうのはいいのですが、それを一旦決めてしまうと、それから外れるこ とは何もできなくなってしまうという側面があるのです。  真田先生は一生懸命褥瘡のお仕事をされているのですが、今年私は日本褥 瘡学会に呼ばれて、在宅医療とラップ療法のことをお話しました。詳しく話 をしませんが、ラップ療法では、ラップをかぶせれば褥瘡が治ってしまうと 言いますが、ラップで褥瘡を治すのではないのです。褥瘡は自然に治るので す。人間は自然治癒力を持っていますので、そういう褥瘡が治る環境を作っ てやると、褥瘡は自然に治るのです。手間もかからないし、お金もかからな い。私は日本褥瘡学会で言いきってきましたが、褥瘡は水で洗ってラップを かければほぼ100%治る。それに、介護師さんでできる仕事です。褥瘡のキュ ア(治療)だというといろいろ規制がかかりますが、これは褥瘡のケアなの です。傷が自然に治ってくるものを私たちがサポートしているだけなのです。 そして、在宅ではケアがよいので褥瘡を作りません。ほとんど発生しません。 先ほど秋山先生が言われたように、病院で作ってきた褥瘡を我々が在宅でケ アしているという側面もあるのです。いろいろしてもらうのは非常に結構な のですが、そういう側面もあるのです。  いま医療のパラダイムが大きく変わってきています。病院の医療でしか診 られないような患者さんを在宅でケアすることで、在宅という良い環境に置 いてあげるだけで、私のようなやぶ医者であっても、患者さんは自然に治っ てしまうというのが在宅医療ですので、その辺はちょっと病院医療と在宅医 療はパラダイムの違う医療だと思っています。 ○太田委員  島崎さんの発言は非常に貴重なご発言だと思うのです。つまり、例えば来 年法律が変わるのであれば法的バックグラウンドをちゃんと整備してほしい のですが、それは期待していないわけです。在宅医療をやっている以上、患 者中心に考えたときに、やらざるを得ない状況であるということでグレーゾ ーンを残していただきたいというのが私の発言であって、あまりがんじがら めに、ここまでやれるのはこういう資格を持ったこういうナースだと、そう いうことになることをさほど期待しているわけではありません。  山本先生が言われたことについて、具体的にこうしてほしいという提案を します。訪問看護師の仕事で、薬関係のものが非常に多いのです。それで彼 女たちは、自分の判断で行うこともあるけれども、判断がつかないときは主 治医に聞く。薬のことは薬剤師に聞けるようなシステムがあったほうがいい と思いますが、薬剤師と訪問看護師の間というのは何らつながりはないので す。指示書を書くとか情報を提供してもらうとかということがないので、そ こは是非必要だと思います。処方箋を出すお医者さんには皆さん優しいので すが、ナースには怖い人もいると聞いています。 ○有賀委員  いま厚労省のお役人の方がいみじくも言ってくださったので、つい前のめ りで言いたくなったのは、現場というのはそういうものなのです。要は患者 さんがいて、キュアかケアかは別にして、患者さんを良くしようと思って、 みんなやっているわけです。そのプロセスの中で、たまたま危ういかな、ど うかなという話があって、言わば「後ろめたいかな」みたいな話があるので すが、それは本当は後ろめたくも何でもないわけです。  それをきちっと理論的に武装するためにはどうするかと言うと、山本先生 がお作りになった資料の最初の頁に、入院医療の場合はこうだ、地域はこう だとありますね。この仕組みそのものが現場の患者さんたちを支えていると いうことに鑑みれば、そういう中で地域の薬剤師さんがいまお話のあったよ うな看護師さんと上手にコラボレートできる。そういうふうに地域でやって いる限りにおいては、医師が処方することはあったにしても、その処方を変 えて、こっちでいきましょうねというようなことを薬剤師さんと看護師さん が考えてやっていくということ、それは違法とか合法とかという問題ではな くて、もともとそういうものは患者をめぐる景色の中にあるのだと私は思い ます。  病院で言えば、この下に「クリティカルパス」とあります。クリティカル パスは1つの方法論ですからどうでもいいのですが、病院と地域の四角(□) の中で、こういうふうな設えで病院が患者さんの面倒を見ようねというふう なことができていれば、それは確かにできているということです。井上さん とか、極めてパワフルな看護師さんがいることはもう山ほど聞いたので分か りましたが、たとえ、そうであったと仮定しても、それは看護師さんだけが やっているのではないのです。周りにいろいろな人がいて、そういう意味で は看護師さんをサポートしているわけです。そういうふうな助け合いの中で 患者さんが助かっていくということがあるのです。もし座長が言われるよう に提案しろというのであれば。  私はこの間座長が診療報酬云々だと言ってくれましたのでちょっと言いま したけれども、病院だったら、こういうふうな設えがあるほうが全体として は質がいい。地域はこういうふうなことがあれば質がいいと。そういうもの に関して言えば、先ほど太田先生が言われたように、法改正があっても無く ても、現場はやることをやらなければいけないから、やっているわけです。 そういう意味では、法律がとやかく言うようなことはやめて、現場が上手に 行けるようにやっていただければいい。そういうことができていれば、そし て、ちゃんとそこに富が流れるようにしてさえくれれば、私たちの国は馬鹿 ではありませんから、きちっとやっていけるのではないかということです。 つまり、そういう意味では、ちゃんとしたところに金を付けろと言っている わけです。 ○永井座長  それは診療報酬の問題ですか。 ○有賀委員  基本的にはそうなのです。先立つものをきちっともらえば、私たちはみん なできるということを言っているわけです。中野先生、それでいいのですよ ね。 ○中野先生  はい、訪問看護も安いですから。 ○坂本委員  それはおそらくドクターの視点ではないかと思うのです。 ○有賀委員  いやいや、患者さんの視点です。 ○坂本委員  チームで一緒に働いている人たちがどういう思いでそのチームを組んでい るかということを酌み取らないといけないと思うのです。秋山委員も真田先 生もおっしゃったけれども、私も現場にいて同じことを感じていました。私 が役割分担を調査するために病院に入っていっていちばん気になったことは、 ドクターは、ガイドラインなんか無いよと言うのですが、ナースは一生懸命 ガイドラインを作成しているわけです。それがないと、できないと言うので す。そこで、ナースがガイドラインを欲しがる理由は一体何なのだろうと考 えました。それは責任を持つこと、役割や分担をきちっと明文化するという ことの必要性だと思うのです。グレーゾーンはたくさんあると思いますが、 明文化されたものがないと、役割分担ととらなければならない責任が明確に ならないと考えるのが当然です。明文化したものは何もなくてもいい、診療 報酬だけくれればという意見に対して、私は異議ありだと思います。 ○有賀委員  そんなアホなことは言っていないのです。 ○坂本委員  それでもう1点。在宅で訪問看護師をするには10年かかるとか、病棟の勤務 を経験してきた人たちが必要だとかとおっしゃるのは、大変よく分かります。 しかし、それまでずっと教育を待っているのだろうかという疑問があります。 大学院でいろいろな教育が開始されています。ですから、教育をきちっと付 けていかないといけないのではないかと思います。 ○有賀委員  アホな医者を前に出して、そう言ってくださっても、どうにもならないの です。山本先生がお書きになったような絵を素直に理解できるような、そう いうチームがありますよということを前提に私は話をしています。訳が分か らない人がいることは知っていますが、訳が分からない人には、もう退場し ていただくしかないのです。  教育のことで少しアップデートな話をします。救急救命士というのがいま すが、彼らは、若い人とベテランとの2人のペアでやると、何と、欧米のデー タと同じぐらいの良い蘇生率を示すという話が、ついこの間出ました。です から、10年選手云々という話がありましたけれども、もし、うまく地域の中 に育ってやってきた先輩の看護師さんがいて、そこへ入り込んでいくだけの 熱意があれば、結構いい塩梅にいくのではないかという気が、すごくします。 そういう意味ではオン・ザ・ジョブ・トレーニングそのものでいきたいと。 ○太田委員  教育のことです。OJTで若いナースも立派に育つというのは私も体験してい ます。いま議論から抜けているのが特養だとか老健なのですが、そこでのナ ーシングというのは、在宅の視点と非常に似ているものがあると私は思うの です、ある所でそれを話したら非常に顰蹙を買ったのですが。老健や特養で のナースたちがどうやってそこのナースになっていくのだろうと見ると、生 活も、健康管理も、お金のことも。その人のバックグラウンドすべてを管理 しながら、家族とコンタクトを取ったりして見ているのです。非常に上級編 なのです。だから、訪問看護も大事ですけれども、そういった施設のナース と育て方が非常に似ているのではないかと私は思いました。 ○朔委員  人材教育の点でひとつ申し上げます。私は坂本委員や井上委員の意見と全 く同じで、看護師の教育を看護学校の学生の時代から考えるべきだと思いま す。看護学校における教育を今の医療に合うようなカリキュラムに変えない といけないと思います。今は老人医療のほうにかなり医療がシフトしている のだから、学生の段階からそういう教育をしていかないと、若い方が在宅医 療とか老人医療分野に入っていかないと思うのです。在宅医療に従事するま でに10年の臨床経験が必要というのでは時間がかかりすぎますよね。一般病 院で10年臨床をやって、後にそういう所に入るのではなくて、学生時代に教 育をして、早い時点でそういう分野に従事する看護師を育てないといけない のではないでしょうか。そのためには看護師の学校のカリキュラムを組むと きに、そういう視点で考えていただきたいと思います。 ○井上委員  カリキュラムに関しては、大学教育だと大綱化しているので、かなり自由 にできるのです。あとは意識改革だと思うので、カリキュラムまで改正する とか、規定・規則までというのではなくて、むしろ、そこは医学教育のほう にこそ言いたいと思います。 ○大熊委員  在学中から在宅を勉強するというのは、デンマークなどではもう長くやっ ていることで、それは是非やってみたらいいと思います。たまたまここに前 回の議事録がありますが、急性期の病院が力を発揮し、お医者さんが疲弊し ないためには慢性期病院が必要だという前々回のプレゼンに対して、私は、 そんなものをたくさん作るよりも、急性期から在宅へという流れを作ること が大切だと申し上げました。議事録にも載っていますが、今日の太田先生、 秋山先生、中野先生のお話は、外国ではもうそういう流れになっているけれ ども、日本でもできるのだということを実証してくださったと思うのです。  太田先生が14番のスライドの中で、ではどうするかというので明確に制度、 報酬、意識と分けて書いてくださっているので、それを太田先生に補ってい ただくと同時に、秋山先生、中野先生はそれについてどう思われるか。また 良くするためには何か新たな資格が必要だとお思いかどうかということを伺 いたいのです。 ○太田委員  病院医師と在宅医師がもっと連携するということは非常に大事だと思いま す。そして、もっとお互いに信頼し合うことが大切です。ですから、病院医 師が気楽に在宅医療を体験できるようなチャンスを作らないと。在宅が見え ていないわけです。「こんな状態では在宅で生活できない」と病院医師は言い ます。でも、患者は逃げて帰ってきて、できるのです。床ずれだらけの患者 も元気になる例はいくらでもあるわけです。ですから、とにかく病院医師に 在宅医療を知ってほしいというのが私どものいちばん強い希望です。そして、 そのためには、病院が地域に目を向けるようなインセンティブ、それを是非 お願いしたいと思います。 ○秋山委員  先ほどから看護教育の話が出ていますが、在宅看護論というのがカリキュ ラムの改正を伴って導入されてから、もう10年以上経つわけです。ですので、 訪問看護ステーションで実習している若い看護師たちが臨床の場に既に出て いる。その人たちが最初の意欲をそがないで、在宅の場に是非出てきてほし いという気がしています。そして、人材育成に関しては、卒後臨床研修制度 がいま検討されているので、その中で、再び資格を持って在宅での実習を終 えた人たちがそのままでも在宅に来ていただければ、それこそ在宅の臨床の 場で十分にトレーニングできる、そういう形で力を付けていきたいと考えて います。  制度上のことですが、いまの在宅をより推進するということに関して、訪 問看護としては十分そこを充実してほしいというところです。診療報酬にま だまだ載らない訪問看護のボランティア的な要素の相談機能とか、2人で行っ ても1人しか認められない部分とか、そういうものは認めてほしいと思ってい るところです。太田先生も言われましたが、急性期の医療の方々にもう少し 在宅の現場を知ってほしいというのが私の思いです。 ○中野先生  ではどうするかということを一言で言うと、教育です。うちにたまたま来 た看護師が10年以上のキャリアというだけで、在宅医療をやるには10年のキ ャリアが要るなどとは全然思っていません。むしろアーリーエクスポージャ ーで、看護教育でどんどん在宅の現場に送ってほしいのです。あとは前期研 修システムに「地域医療」ではなくて「在宅医療」という言葉を入れてほし いのです。保健所に行ったり、外来を見るのと全然違います。実際の在宅の 現場とは雲泥の違いがあります。現場を見ることがいちばん大事で、それを 医学教育に是非入れてほしいということをこの場で申し上げておきたいと思 います。 ○真田委員  先ほどから誤解があるのでちょっと付け加えなければいけないと思ってい ました。人材育成の中でのデブリードメントの話をさせていただきます。何 が危険かと申しますと、在宅でデブリードメントができるということは、万 が一何かがあったときに止血ができるということなのです。それを担保でき るのかということが、在宅ケアのナースたちに資格が必要か云々というとき に私が話をしたい内容です。ただ、デブリードメントも、はさみでするデブ リードメントから自己融解のデブリードメントまでいろいろあります。ここ で私が例に挙げたデブリードメントは、はさみを入れなければいけないデブ リードメントだということに限定させていただきます。そして、そこはある 程度の資格、研修が必要だとは思っていますし、それは人材育成で非常に重 要な点だと思います。  もう1点申し上げたいのは、やはり連携だと思います。先ほど体制づくりと 申し上げましたが、病院の中で、例えば地域連携のような場所にチーム医療 の人たちが出かけていけるならば、そこから在宅への派遣ということが可能 になると思うのです。そして、2人ぐらいで訪問できるならば随行訪問という ことも可能になります。病院の中にいる専門ナースたちは外で働きたい、在 宅で働きたいと思っているのです。ですから、そういうシステムを考えてい くというのも今後の課題ではないかと私は考えております。 ○井上委員  議論を戻すわけでは決してなくて確認をしておきたいことがあるのです。 それと、座長が、常に具体をとおっしゃるのですが、やはり教育制度のシス テムが必要なことです。専門看護師あるいは認定看護師という資格を少なく とも今持っていれば、それにプラスアルファの教育を受けた人は何らかの役 割拡大措置を認めてほしい。先ほど、ではジェネラルは駄目なのかというご 意見が出ましたが、そういうことを言っているわけではなくて、その人たち には、まず第1段階として認めてほしい。もう1つの提案としては、チーム医 療の中で何らかのドクターの担保はとるにしても、例えばナースと薬剤師、 ナースと技師とか、薬剤師と現場の人というような形で医療チームの中の人 たちが連携することで何らかの保証をするというような制度を是非作っても らいたい。そうしないと、その人たちだけに許して他は駄目なのだとなると、 また逆戻りして、今のままになってしまうのです。そのためには、それを何 らかの形で実現してほしいと思います。 ○山本信夫委員  それをどうするのだというのでは教育が要るだろうと私も思います。薬学 教育の中でも、オン・ザ・ジョップ・トレーニングが来年から始まりますけ れども、実は薬剤師ではなく薬学生ですから、できる範囲はもっと狭い範囲 です。つまり、学生がやりますので、法的にみても触れられない部分があり ます。まずはベースの部分を作って、6年終わった後に、さらに専門看護師あ るいは高度専門看護師という名前が出ていますが、薬剤師の中でも、ベース を踏まえた上で専門性、さらには臨床の教育をするようなことに対して幅を 広げていくという仕組みが要るのだろうということ、それは先生方のおっし ゃるとおりだと思います。 ○川嶋委員  教育のことに関連して、在宅のレベルというのは本当に質の高いジェネラ リストをたくさん育てることだと思うのです。その意味で教育の根本を、ジ ェネラリストの教育を高めるということ、それから、先ほど井上委員がおっ しゃったように、認定とかCNSの、要するに医師との接点を。この委員会が始 まったそもそもが医師不足というところからいろいろなことが出てきている と思うのですが、医師との接点で働く、非常に専門分化したところでのレベ ルをアップする必要があるのです。そうなってきますと、そこを資格化して、 みんながその資格を取ろうとすると、ジェネラリストのレベルが一段と低い 方向になりますから、ジェネラリストを全体的にレベルアップして、その上 に資格を作っていくというようなカリキュラムの構成ができないかと考えま した。  先ほどチラッと座長がおっしゃったのですが、この委員会ではマンパワー の問題が抜けています。限られたマンパワーの中で、いくら制度を動かして 役割を考えても、また元の木阿弥だと思いますので、そのことも。今すぐ解 決できないかもしれませんが、見通しだけは是非これから論議していただき たいと思います。 ○海辺委員  介護の現場の受手の側の立場から申し上げますと、今後私の世代とか、も っと若い世代ですと、結婚していない一人っ子なども多くなってきまして、1 人で1人の親を介護しながら自分自身の収入を得るために働く、というような ことも非常に増えてまいります。今の在宅介護の現場は、基本的に看護職の 方が非常に多くなっていますが、今後、看護と介護の振り分けというか切り 出しというか、そういうところもどんどん手当てをしていかないと。今ヘル パーの方はちょっといてくださると聞きますが、働きに出ている間に訪問看 護の方が1時間とか、ずっといていただくことは、あまりできないのではない か。なので、そういうことも視野に入れて、看護職の方々が今まで請け負っ ていた部分の見直しも必要ではないかと申し上げたかったのです。  もう1つは、在宅といいましても重症ではなくて、自分の始末は全部自分で しているような。例えばアレルギーとか慢性疾患の方ですと、ステロイドの 吸入や薬を塗るとかいうようなことが、お医者さんの説明だけだと実は全然 理解できていなくて、やり方が間違っているために効果が上がらないという ようなこともよく伺います。そういうことは、薬局で薬剤師さんが懇切丁寧 に「分からなかったら、どうぞ来てください」というようなことで何度でも 実演したり、「やってごらんなさい」と言ってやらせるようなやり取りがもっ と円滑にできるようになると非常にいいのではないかと感じております。 ○永井座長  どうもありがとうございました。この辺りの議論はこれからも引き続きし てまいりたいと思います。時間になりましたので、最後に事務局から連絡事 項をお願いいたします。 ○石川補佐  次回の日程ですが、12月7日(月)14〜16時、場所は厚生労働省の省議室(9 階)で行うということで予定されております。また追ってご連絡を申し上げ ますので、よろしくお願いいたします。 ○永井座長  本日はこれで終了いたします。どうもありがとうございました。 −了− (照会先) 厚生労働省医政局医事課 石川義浩、石川典子 (代表)03−5253−1111(内線2564、内線2563)