09/10/26 第6回厚生科学審議会科学技術部会ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会議事録 第6回 厚生科学審議会科学技術部会ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針の見直しに関する専門 委員会 ○日時 平成21年10月26日(月)17:00〜 ○場所 経済産業省別館(10階)1012号会議室 ○出席者 【委員】 永井委員長、梅澤委員、澤委員、鹿野委員、中内委員、中畑委員 西川委員、町野委員 【参考人】須田年生参考人、小川誠司参考人 【事務局】千村研究開発課長、井本補佐、田邊専門官、秦健一郎 ○議事 1)iPS細胞を用いる研究の現状等について 2)「再生医療における制度的枠組みに関する検討会」の報告 3)ヒト幹細胞臨床研究のためのGTP策定について 4)その他 ○永井委員長 「第6回ヒト幹細胞臨床研究指針の見直しに関する専門委員会」を始めます。事務局よ り本日の出席状況の確認をお願いします。 ○事務局 委員の先生方におかれましては、ご多忙なところ出席いただき、誠にありがとうございま す。お手元の委員名簿をご覧ください。本日の出席を確認します。本日は、位田委員、高坂委員、佐 藤委員、本田委員、水澤委員、武藤委員、山口委員が御欠席とのご連絡をいただいています。まだ着 かれていない委員の先生もいらっしゃいますが、全員で15名のうち9名の委員がご出席いただく予定 となっています。過半数を超え、本会議は成立することを報告申し上げます。 ○永井委員長 配付資料の確認をお願いします。 ○事務局 次に、配付資料について説明します。議事次第にありますように議事次第、座席表、委員 名簿、資料1、資料2〜5については発表の資料です。なお、資料3については、今回はタイトルのみ の資料となっています。机上には、ドッチファイルにまとめられている参考資料1〜10、過去の専門委 員会での配付資料を別に用意しています。ご確認いただき、過不足等がありましたら、お知らせいた だきますようお願い申し上げます。 ○永井委員長 前回の第5回委員会では、iPS細胞を用いる研究の現状について、文部科学省研究振興 局の石井ライフサイエンス課長、京都大学iPS細胞研究センターの山中伸弥先生からお話を伺いました。 また、細胞組織加工医薬品開発について、山口委員からご説明をいただき、意見交換を行いました。 今回は、続いてiPS細胞の研究の現状について、少しご理解、議論を進めていただきたいと思います。 今日の議論の進め方について、事務局から説明をお願いします。 ○事務局 前回の委員会では、「iPS細胞研究」、「ヒト幹細胞臨床研究と細胞組織加工医薬品開発」 の応援をいただきまして、そのあとに意見交換を行っていただきました。主な意見については、資料1 にまとめています。  施設基準、細胞の安全性などについては、臨床研究の審査について、特に臨床研究から治験までシ ームレスに結びついてくるような形の指針が出来上がれば、といったご意見がありました。インフォ ームド・コンセントについては、まとめたものを事務局から提示しました。  本日は、iPS細胞を用いる研究の現状などについて、慶應義塾大学総合医科学研究センター長 須田 年生先生にご講演をいただきます。また、東京大学医学研究科 小川誠司先生に、iPS細胞の安全性評 価についてご講演をいただきます。なお、先ほど申し上げましたが、小川先生に関しては資料が添付 されてはいません。今回は未発表のデータがありますことから、一部資料は発表できない分があり、 スライドのみの講演としています。報道などに関しては、できる限り控えていただければ幸いに存じ ます。発表のあとに意見交換をいただきたいと考えています。  さらに、資料6にありますが、「今回の主な論点」についてご議論をいただきたいと考えています。 特に、ES細胞やiPS細胞の臨床研究についての問題点などについてご議論をいただき、どのように指 針を見直して臨床研究を進めていくかといった検討をお願いしたいと考えています。  2番目の議事としては、厚生労働省医政局と医薬食品局の合同で開催している「再生医療における制 度的枠組みに関する検討会」の報告を、経済課からいたします。最後に、ヒト幹細胞臨床研究におけ るGood Tissue Practice(GTP)について、澤委員からご説明をいただく予定としています。 ○永井委員長 資料1、6についてご確認いただけますか。「見直しに関する専門委員会での主な意 見」というまとめと「見直しに関する主な論点」ということで、これはまた後ほどこれを基に議論を したいと思います。何かご質問等はありませんか。よろしいですか。  本日の議題に入ります。前回に引き続いて、iPS細胞を用いる研究の現状について、お話をお二人の 先生から伺いたいと思います。特に今回は、iPS細胞を用いる臨床研究に関する課題を明らかにしてい ただきたいということで、慶応義塾大学 須田年生先生にご講演をお願いしています。須田先生、よろ しくお願いします。                 (スライド開始) ○須田参考人 慶應義塾大学の須田と申します。私自身は文科省のiPS CREST(戦略的創造研究推進事 業)の総括をしており、またNEDOでは自らiPS研究に携わっているわけですが、一方、ここ2、30年 ずっと幹細胞の研究をしてまいりまして、幹細胞研究者がiPS研究をどうとらえているか私見を交えて お話したいと思います。  皆さんご存じのように、iPSの生成の分子機構はよくわかっていません。その原因としては、スライ ドにありますように生成頻度が極めて低い。しかも培養期間がヒトの培養は3週以上かかるので、その 間に何が起きているかは解析がなかなか難しいと思います。非常に頻度が上がったと言われても、1% 以下ですし、3週間にわたって、最初に山中3因子、4因子を入れたあと、多能性の幹細胞が出てくる までに何が起きているかはわからないわけです。それをいまの方法だけで解析しようとしても、非常 に少ない頻度のもの、しかも長期間に起きるイベントはフォローしきれないということで、いちばん 大事なことはiPSの生成の効率を上げて、頻度を上げて解析をしていこうということになります。 Piggy BACの系、これはAndras Nagy先生などカナダのグループがやっているし、我々はPrimordial Germ Cell (PGC)という生殖幹細胞からiPSを作る。皆さんご存じのように、生殖幹細胞は非常に多能 性の幹細胞に近いわけですが、そういうものからiPSを作るという単純な系でiPSができてくるときに、 どのようなことが起きるかを見てみようというのが大事なことだと思います。  スライドにもありますように、例えばPrimordial Germ Cellに3つの種類のシグナル分子のインヒ ビターとbFGFを入れると、かなり高率に、10%前後未分化の細胞、iPSができるわけです。しかも10 日というふうに非常に速い。こうなると、例えば3日目、6日目にiPSになり得るcandidateをとらえ ることができ、途中経過をフォローすることができるようになります。山中先生の3因子がどうなって いるかというと、例えばもともとPGCですからOct3/4は高いのですが、そのあとずっと抑えられて、 しかしゼロになることはない。逆にSox2という遺伝子は後半になって高くなる。おそらくはiPSの作 られたあとの安定化に効いているのかもしれません。Klf4などは非常に微妙な動きをします。c-Mycの ような増殖因子がある時期に高くなると、EG (embryonic germ)細胞にはなるのかもしれませんが、 iPSにはなりにくいということがこういう解析でわかってきます。  これから明らかにしなくてはいけないことは以下のことです。先ほど言いましたNagy先生などは、 iPSの形成のポイントとして、例えば線維芽細胞がその性質を失って、元の線維芽細胞には戻れないと いうPoint of no return、そしていよいよ多能性を獲得していくというCommitment、そういう段階が あると言っています。もう少しわかりやすく考えると、我々はこの3つ、例えばもともと血液細胞から iPSを作るときには、血液細胞の性質を失っていく、そのポイント、そして多分化能を獲得するポイン ト、多分化能を獲得しても、それがまた維持され安定化してなくてはいけないというポイントで、3つ ぐらいに分けることができます。例えば、Blimp1という生殖細胞だけに出ている遺伝子は、iPSに誘導 をかけるとスーッと落ちていきます。だから、少なくとも3日目あたりまでに分化特性を失うのだと思 います。そして、多分化能を獲得していくときにOct3/4やNanogという遺伝子の働きが重要ではない かと思います。  こういう小さく見積っても2つ3つの過程がある中で、これからどう標準化していこうかということ です。まずiPSの作成方法にしても、プリントに示したようにレトロウイルスを使う方法、センダイウ イルスを使う方法、センダイウイルスや蛋白導入のように染色体に組み込ませないやり方がこれから 重要ではないかと思います。  由来細胞も線維芽細胞、それも胎児性のものとアダルトから取ったものがあります。血液細胞でも 血液幹細胞から作るのかB細胞から作るのかでは、だいぶ違うと思います。  細胞培養方法、これは小川先生があとでお話になると思いますが、長期に培養すれば、当然、試験 管の中で培養しているわけですから、DNAの損傷がだんだんたまっていく。それが除去される機構は働 かないわけですから、なるべく長期には培養したくない。ただ、一方ではパーシャル iPSといってま だ安定化しないiPSというのは、長期に培養していく中で除かれてやや均質なiPSが得やすいのではな いかというので、適当な細胞培養の継代数はあるかもしれません。細胞の生物学的特性として、分化 能と腫瘍原性をこれから慎重に見ていかなければいけないと思われます。  ただ、標準化といいましても、iPSを作る方法がまだ理想化されていないので、非常にたくさんのア ームに分かれてしまって、しかもいまの技術をもってすればDeep Sequencingしなければいけない、エ ピゲノムも見たほうがいい、糖鎖・表面形質も面白いかもしれないということで、これは誰が考えて も膨大なデータの量になる。現在、Bioinformaticsの専門家、Bioinformaticianがこの分野に進出し ていないことがむしろ問題だと思うのですが、今後、そういう人たちの参入を待って対応性を克服し ていかなくてはいけないと思います。  こういう状況ですから、例えばHLA別にタイピングして、臨床応用へ向けて、Cell Bankをつくるの はあまりにも尚早ではないかと思います。もちろんCell Bankは重要で研究のためには必要ですが、い ま用意されたiPSがほとんどそのまま使われることはないので、研究の順番を考えたほうがいいのでは ないかと私自身は思います。  腫瘍化の問題は、例えばレトロウイルスを使わない、Mycを使わないということだけで克服できるか。 基本的にはiPSもESも永続的に増殖する細胞ですから、腫瘍化とは表裏一体ではないかと。それは体 の中に入れたら、周りの細胞、ニッチの細胞が適当に自己複製能を制御してくれるだろうという期待 感があるわけですが、それは誰も保証することはできない。  我々、造血幹細胞の研究をしてきた者は、こういうモデルをよく描きます。これが幹細胞です。幹 細胞が幹細胞を産み出すのを「自己複製」といい、幹細胞が赤血球や白血球に分化することを 「Commitment」と呼ぶわけです。このバランスが取れているので、例えば造血系は増えもしないし減 りもしないで一定の細胞を産み続ける。もしSelf-Renew、自己複製がわずかにでも多いと、その系は 増えていくだろうと。逆にわずかにでも少ないと、その系が消失してしまう、枯渇してしまうことは 考えられます。  いま、iPSとは直接関係ないですが、我々は1個の細胞が2個に分かれたときに、どのような遺伝子 の発現があるかを見ています。想像した以上にバリエーションがあって、1個の細胞に由来する2個の 細胞、これを「娘細胞」と呼びますが、娘細胞が全く同じということは、むしろ探すのが困難なぐら いです。それほど1回1回の分裂が多様性を含んでいます。  なぜ我々がシンプルなモデルを考えるかというと、そのほうが研究しやすいということもあります が、1つは、プロトタイプになっているショウジョウバエの仕事があります。赤いHub Cellはニッチ の細胞、黄色の細胞がGerm Stemです。これが垂直に分裂して、この細胞がニッチから離れると幹細胞 でなくなり、水色の細胞になる。もし水平に分裂して両方ともHub Cellに着いていられたら幹細胞な のだと、そういう非常にall or noneのコミットメントが考えられます。これにどうしても影響を受け て造血幹細胞でも自己複製か分化かと考えますが、我々がいま考えているのは、何回かの分裂、10回 以上あるいは20回近い幹細胞のあたりでの分裂でだんだん分化が決定していくモデルが正しいのでは ないかと。だから、例えば赤が次の赤を作る確率が0.505というような、0.5よりわずかに高いだけで その系は増えていくわけです。0.495だと減るわけです。例えば、そういうのを、ES細胞あるいはiPS 細胞を生体に入れたあとの細胞の動態を見たときに、それが増えてくればそれは増殖という、腫瘍が 増大したという形で見えるのかもしれません。  それでは困るわけで、何とかバイオマーカーをいくつも発見して、ある意味では多能性幹細胞の安 定化となるマーカー、あるいは腫瘍マーカーが見つけられればいいわけです。例えばこのマーカーが 出ていれば移植するべきではない、がんになりやすいということがわかれば、それはすばらしいこと ですが、そう簡単にできるのでしょうか。それは技術革新があるし何が起きるかわかりませんので、 できないとは言えませんが、白血病、造血幹細胞の研究では、なかなか歴然たる腫瘍マーカーを探し ていくことは難しいと言われています。  細胞移植する前に、少なくともiPSは、ヒト疾患モデルへは応用できるのではないかと。特にこれは 大きいです。神経や心筋細胞のようにヒトで得ることのできない細胞を試験管の中で獲得することは、 可能になりました。ただ問題は、そこで得た神経や心筋細胞は十分に成熟した細胞かどうか。どちら かというと未分化の細胞が多いので、そのことも注意しなくてはいけない。  基本的には増殖を続ける細胞ですから、ある意味ではCell Lineです。だから、私らは「Cell Line Work」とやや下に見て言いますが、それは非常にワナがいっぱいあるわけです。分化度が100%ではな い、またそこに集めた細胞集団が必ずしも100%ニューロンになっているとかグリアになっているなど ということはないわけですので、細胞の分化などを言うときには注意しなくてはいけない、というこ とはずっと教えられてきたことです。  我々がいまできることは、iPSから1系列の細胞を作ることです。例えば、肝臓細胞を作る。しかし 培養肝臓細胞は、先ほども言いましたように必ずしも成熟していない。その培養肝臓細胞で肝毒性を 見られるかというと、私はなかなか難しいと思います。肝毒性は、血流があって、胆管があって間質 の細胞があって、そこで肝臓に対しての毒性を示すかどうかですから、こういう多系列の細胞から成 る組織を作らなければ、真の肝毒性を見ることはできないというのは、誰もがすぐわかることだと思 います。  あるいは、NEDOなどでもQT延長という心電図上非常にわかりやすい心筋の変化を見ていこうという プロジェクトがあります。しかし、そのいちばん易しそうなものでも、実際にはQTは心電図上にとら える波形の変化で、一つひとつの心筋細胞の電位変化というものとどこまでパラレルかという問題は あります。これは永井委員長のほうが専門家ですので議論は譲りますが、そう簡単にiPSから細胞を作 って疾患に応用するわけにはいかない。いくつもの壁があることを認識するべきです。  もう一度、細胞移植療法に戻ります。いま多くの論文が出ていますが、ここに書いたように臨床応 用するための現実的な検証がない限りは、モデル実験はヒトに応用されて初めて意味のある実験で、 そうでない限りはむしろ夢物語に終わる。それこそ大型のプロジェクトのなかでゲノムプロジェクト などは、ゲノムを読むことで蓄積されていきますが、モデル実験はある意味では「ままごと」のよう なことになるので、投資された研究費が有用に使われたことにならないのかもしれない。注意しなく てはいけないのは、必要とされる細胞数が臨床応用するときには、103倍以上必要であることは言われ ています。そのためにはどういう培養法を採ればいいのかというところぐらいまでは考えないと、 「マウスでうまくいきました」、「ヒトでin vitroでこれぐらいできます」と言っても、それを実際 に応用するときには想像を絶する壁があると思われます。もう1つは、当然ほかの治療法があるわけで、 それとの比較をして細胞治療の有利性をはっきり示すことができなければ、難しいと思います。  そうはいっても少しずつ動いていきましょうということでスタートするときに、どういう疾患が対 象になるか考えました。これはいみじくも西川委員も今度イノベーションSでわざわざ特記されていま したが、移植する細胞の少なくて済む疾患、たぶん私は眼科領域の病気などがそうだと思いますが、 例えばそういうものは比較的ピュアな104だけの細胞集団は得やすいのではないかと。108、109の血液 細胞をしっかり得ようというよりははるかに易しいということで、細胞移植していくときには、どう いう疾患を選べばいいのかを真剣に考えなくてはいけないと思います。  もう1つはほかに治療法のない疾患を選ぶべきで、例えばいまiPSからNK CellやDendritic Cell の分化誘導はかなりうまくいくようになりました。こういう免疫細胞療法をがん患者でさせていただ くのは、ある意味では許されることかとも思います。  目的細胞の100%の安全性はなかなか望めない。だから、一定のリスクを了解した上での細胞治療が 必要であろうと考えられます。100%の絶対安全性を言っていたら、たぶん臨床応用はいつまで経って も進まないと思います。そのときに選ぶべきは、ほかに治療法のない疾患を持つ患者、また患者自身 がコンソーシアムでもつくっていただいて、十分リスクを理解していただいて、その上でもその治療 法を受けたいというコンセンサスを患者サイドあるいはコメディカルのサイドから出してもらうこと も1つの方法で、我々研究者だけがリードしていると、ミスリーディングになる可能性はあると思いま す。それは二重の意味でです。1つは非常に冒険的な治療をする、一方では非常に萎縮していつまで経 っても治療できない、その2つがあるので患者側の意見を聞いていくことは大変大事だと思います。も う1つは、多能性幹細胞の安定化ならびに腫瘍マーカーによって未分化細胞を除くのは、私は思ったよ り難しいのではないかと想像しています。  最後に、そうはいっても臨床応用への研究は非常に重要なわけですが、先ほども言いましたように 研究の順番が大事だと思います。血液幹細胞は幹細胞研究をリードしてきましたが、ときどき落とし 穴にはまっています。20〜30年前は、Friend Cellという赤血球に分化する細胞を使って何でも赤血球 に分化誘導できるという話が出たのですが、それはプライマリの細胞とCell Lineでは全然違うので、 注意しなくてはいけなかったのです。  あるいは正常の骨髄細胞と思われる中に混じる白血病細胞を、抗体でパージしてしまえばいいでは ないか、除いてしまえばいいではないかと言いましたが、現在、これだけいろいろな抗体が用意でき ますが、そういうLeukemic Cell Purgeはうまくいっていません。あるいはここ5、6年、幹細胞はい ろいろな可塑性を持っているので、それを使えばいいのではないかと。つまり、例えば血液細胞を移 植して肝臓細胞を作ることもできるのではないかと言われましたが、極めて低頻度で、それは臨床応 用に踏み込めるものではなかった、ということも最近の研究が教えていると思うのです。そういうこ とで、過去の失敗に倣って研究をゆっくり進めていく必要はあると思います。これは山中先生やFiona M. Wattが、来年、Keystoneでやられるミーティングですが、この演題を見てもわかるように、まだ世 界のレベルではゆっくりと基礎研究をしていて、iPSの臨床への道を探していこうという段階で、やや 多額の研究費を投資したために出口を急ぐ傾向があるというのは、それはかえってマイナスになるの ではないかといま考えています。 ○永井委員長 どなたかご質問、ご意見ございますでしょうか。私からよろしいでしょうか。腫瘍化 の話が出ましたが、悪性化することはないのですか。多くはテラトーマと考えてよろしいのでしょう か。がんになることもあるのですか。 ○須田参考人 両方あるみたいですね。テラトーマになる部分と極めて特殊な腫瘍ができやすいとい う、それはマウスのiPS研究では言われています。 ○永井委員長 いかがでしょうか。Cell Bank化の問題点というのはどういうことでしょうか。 ○須田参考人 いや、Cell Bankは、できるだけ多くの人がiPS研究に携われるようにするために必要 だと思うのですが、これは語弊があるかもしれませんが、例えばHLAマッチのiPSを用意して、そして 細胞分化をかけて、脊髄損傷その他の治療に使っていきましょうという、そのコンセプトは非常に正 しいと思うのですが、ではいまそれをすぐにレトロウイルスその他でiPSを用意して、しかもHLA 100 種類ぐらいのものを用意すれば、何とかなるというような議論もありますけれども、それらは用意し てもすぐに使える見込みはないのではないかなと思います。むしろいろいろな細胞から作ったiPSを研 究のために用意していったほうが研究を促進できるのではないかと思います。何かときどきとても短 絡的に、明日にも再生医療が実行されるような話があって、それがそのまま研究費となったり、ある いは施設拡充に動いていくというのは、ちょっと不思議な現象かなと思います。例えばセルプロセシ ングというのも、iPSのセルプロセシングというのはまだだいぶ先だなというように思います。 ○梅澤委員 ヒトのiPSで、実際に奇形種ではない胎児性癌(Embryonal Carcinoma)、ないしはGerm Lineに入ることはないですけれども、奇形腫からがんが発生したということは報告がございますでし ょうか。ほかの委員の方でご存じの方はいらっしゃいますか。 ○須田参考人 いや、私は知りません。 ○梅澤委員 ありがとうございます。 ○西川委員 ないです。 ○永井委員長 ほかにいかがでしょうか。 ○中内委員 非常に多額のお金を投資したからといって、すぐに結果を求めるというのは、確かにあ る意味では危険だと思いますので、それは非常に慎重に、本当に安全だということを確認してから進 めるべきだと思います。バンクの問題に関しては、山中先生たちが5年後ぐらいを目指しています。い まから2年前まではヒトiPS細胞はなかったわけですから、5年後からバンクをスタートするようでは もう遅いぐらいではないかという見方もできるのではないでしょうか。それからいつも言っているの ですが、いま作ったiPS細胞をそのまま5年後に臨床に使おうというのではなくて、やはりそういう準 備をしておく。作り方もそうですし、ある程度大量に培養する技術も必要ですし、モニタリングする 技術も必要です。そういうことを考えると必ずしも時期が早いということはないのではないかと。そ ういった細胞の一部をiPS化しないで取っておけば、その時点でいちばんいい方法でもう1回作り直す ことはすぐできますので、それまでにノウハウをいろいろ蓄積しておく。設備も含めてです。それは やっていいのではないかと思いますが、中畑先生どうでしょうか。 ○中畑委員 私も全く同感で、いますぐにそういう臨床に移るということではなくて、将来を見据え ていろいろな問題がありますので、それを一つずつ解決する上で、ある一定の目標を持っていないと、 なかなかその問題点というのも出てこないので、そういったことをある目標を作って進めていくとい うところで、いま山中先生や我々もある一定の目標を作ってやっていこうということにしているので す。だからいますぐにそれを臨床に応用するというような気持は全くありませんので。 ○須田参考人 それはそう思いますけれども、私が言いたいのは、例えばイギリスのグループは結構 いまでも患者から得たfibroblast、リンパ球などを一生懸命用意してレジストレーションしているの です。試行錯誤を多少はしていかなければ進展がないと思いますけれども、まだ理想的なiPSの作り方 が定まらないときに、あまり難しいというか、得難い、貴重な患者検体をどんどんiPS化してバンクを 作りましょうというようにはしなくてもいいのではないか。それぐらいのニュアンスです。 ○中畑委員 いま先生がおっしゃることは非常に大事なことで、やはりいい方法ができたときに、す ぐにその新しい良いiPSづくりというのを始められるように、その元になる試料というのをしっかり蓄 積するということは非常に大事なことで、我々もfibroblastなどは、最初の出発点になる細胞はかな り大量に、もう何本かに分けて必ず保存をするという形を取っています。最終的に例えば臍帯血を使 って、iPSのバンクを作るというような構想も将来的には考えられるとは思うのですけれども、その際 も当然その元になる細胞をいくつかに分けておく。いまはまだHLAのホモの臍帯血がどのくらいで得ら れるか。まずそのシミュレーションをしようという段階ですので、いますぐにそのバンクができると いうことではありません。 ○西川委員 意見交換のときにと思ったのですが、実際には私たち、私自身ではないのですが、何回 も申し上げているように、3、4年で少なくとも視細胞であったり、色素上皮であったりというものの 臨床研究、治験ではなくて臨床研究です。そういう段階までは十分いくのではないか。そのためには 最初の段階でインテグレーティブにクリティカルなパスを考えておかないと、結局何もできません。 ですから実際に安全性を確かめるためにはどういう患者さんで、いまからどういう形で対応するか。 それからiPSの1つ重要な点は、安全性のためだけのインフォームド・コンセントが取られるわけです。 ですからクリニカルテストにいくより前に、まずその細胞は例えばSCIDマウスで安全性が確保できる のかどうかというところも、やはり先に前もってやりますから、そういうものをきちっとパスを決め てやっていく。ですからヒト幹細胞の指針ができる、できないは別として、それ自身に関して何年先 に、これは自身の細胞を使うケースが中心ですが、対応していくということができるのではないか。 私自身の感覚で言うと、少なくともタンパクであったり、センダイウイルスであったり、ゲノムが変 わらないというiPSができるかどうかがやはりいままでのキーであって、少なくともテクノロジーとし てはゲノムに全く影響のないiPSができるのは事実なので、一方エピジェネティックな腫瘍がある可能 性は私はあると思うし、iPS自体も基本的にはゲノムは全く変わっていないけれども、一種腫瘍様の増 殖を示すということですから、それは独自の研究を別にやっていく必要があって、やはりそういう問 題が全部揃うかどうかということはたぶん臨床研究とは別の問題で、それは患者さんなり安全性をど ういう形できちっと担保していくか。そういう問題に関してヒト幹の指針があるのだと思っています。 ○永井委員長 あと腫瘍化するかしないかというのは、何かマーカーのようなものはないのでしょう か。こういうのが陽性の細胞は腫瘍化しやすいなど、それがわかれば増殖した後それを取り除いて臨 床に使うというアプローチも可能だと思うのですが。 ○須田参考人 そうですね、それはもう先生がおっしゃるように、バイオマーカーを捜すというのは 大きなプロジェクトになると思うのです。 ○永井委員長 表面マーカーのようなものですね。 ○須田参考人 ええ、しかもそれはパネルになるのではないでしょうか。1つ2つではなくて、たぶん 何十というパネルで見てそれが全部クリアされていると、かなり安全性が高いなどという、そういう 相関は取られていくのではないかなとは思います。 ○西川委員 それも実際には、どの細胞を作るかということに完全にきいていると思うのです。例え ば視細胞と未熟なiPS細胞との分別ということであれば、もういまでもマーカーはあるわけです。です から要するにいま梅澤先生がおっしゃった、さらに胚細胞癌になったりなどというような問題がない とすると、未熟な細胞を分別できるかどうかという点に関してはいくらでも可能性がある。ただこれ はバンキングの問題とは違うのです。基本的にはある方の患者さんの自己の細胞からiPSを作って、あ るいは臍帯血でもいいですが、それを使ってある決まった細胞の治療を行うかどうかという問題だと 思っています。 ○永井委員長 いかがですか。 ○中内委員 我々はFACSという機械を使って、いつも非常に稀な細胞を捜しているので、むしろ逆に 私たちは性善説ではなくて、そういったがん細胞を完全に取り除くというのは非常に難しい。GERON社 とFDAのやり取りを見ていても切りがない。ですからむしろ性悪説に立って、完全に未分化ES細胞を 取り除くことは不可能であると考え、最初の少なくとも何例かは癌化したときに、そういった細胞を やっつけられるような自殺遺伝子のようなものを組み込んでおいて、最初の臨床応用を始めるという のも1つの方法かなと考えています。それは実際にそのような遺伝子治療はやられておりますし、本当 に最初のよくわからない時期に安全性を確保するという意味では、そういうやり方もいいのではない かなと考えています。 ○中畑委員 最終的に腫瘍化というのは、患者さんに入れたときに本当に腫瘍が起こるかどうかとい うことでしか見られないわけです。けれども、それに代わるようないろいろなことで担保しようとい うこと、例えばアメリカでのES細胞の腫瘍についても、免疫不全のマウスを大量に使って、何千匹と いうマウスで検証して、そこで腫瘍が6カ月経っても起こらないというような見方をして、それで見ら れない。2頭や3頭の例えばサルなど、そういうものでやってもそれは意味がない。むしろマウスなど を大量に使ってやった実験で、そこで腫瘍が起こらないということを見て、それで一応ゴーサインが 出たわけですけれども、おそらくiPSについても同じような見方で、ある程度最低限のことは担保して いくという形をやはり取るのではないかと思います。 ○永井委員長 ゴーサインが出たのは何の細胞ですか。 ○中畑委員 ヒトのES細胞についてです。 ○永井委員長 何に使うのですか。 ○中畑委員 神経系です。 ○永井委員長 そうですか。 ○西川委員 テクニカルには、患者さんにしてみれば本当に癌ができないかどうかということは、決 してシークエンスであったりエピゲノムではなくて、確実に1個のiPSでも増えるという条件で、細胞 が増えないということを示すしかないのです。それをどういう形で科学的に担保するかです。では、 いままでの日本のプロジェクトが真面目に考えてきたかどうかをやはり反省すべきであって、それ自 身に関して言えば、例えばテラトカルシノーマですら1個の細胞は普通の条件でどこに打っても、SCID NOD/SCIDマウスには増えません。ですからやはりそういう問題をきちっと担保するという実験系の開 発が大事で、それをクリアすれば例えば105の移植をする場合に、106の細胞を注射して、何も出てこ なければ、これはまず間違いなく出てこない。実際にテラトカルシノーマでもそういう状況ですから、 少量のES細胞がいま本当に増えるということを担保する仕組みというのはなかなかなくて、そのため には私たちも一生懸命やっていますけれども、そういうことをやることがたぶん大事だと思います。 ○中内委員 中畑先生とはまた少し違う考えですが、結局動物でいくらやっても、異種移植で見てい るので、そこで106で腫瘍が出なくても、安全とは言えないというのが先生のご意見ですよね。私はも ともと免疫学をやっていたこともあって、iPSの場合の問題点は完全に自家移植になりますので、ます ます感度がよくなるというか、腫瘍原性、発症しやすくなる可能性があります。ですから私が考えて いるのは皆さんと逆かもしれませんが、むしろセンダイウイルスなどを使ってゲノムにマーキングが されないような細胞を使って治療するよりは、むしろレトロウイルスなどしっかりと患者の元の細胞 とiPS以外の細胞とが区別できるような状況で、しかも安全装置が入っているような、そういうような もので最初はスタートしたほうがよいのではないか。きちんと安全性を最初の何例かの患者さんで確 認することのほうが大事なような気がします。 ○永井委員長 また最後に総合討論の中で話を伺いたいと思います。それでは続きまして小川誠司先 生から「iPS細胞におけるゲノムの安定性の評価」ということでお願いいたします。 ○小川参考人 初めまして、東京大学の小川誠司と申します。私はがんのゲノムの研究をしているの で、幹細胞のバイオロジーをやっていたということではございませんが、中内教授が進められている 拠点プログラムの中で、iPSのゲノム安定性を評価してくれというご拝命を受け、ここ1、2年こうい った研究をやっているので、客観的な現時点の観察結果を今日はお話させていただこうかと思います。 先ほども議論がありましたが、腫瘍原性というのは非常に大きな問題です。しかしこれはなかなかバ イオロジーからの評価不相関にできるような気はなかなか私自身はしない。というのは、例えば私は 造血幹細胞しかやりませんが、109のような細胞をドバッと投与して、それで再発が起こってくるとい うようなことは6カ月、1年見てもわからないことがありますね。3年ぐらいで再発してくるというこ とはいくらでもあるわけで、やはり安全性の担保というのはなかなか難しい問題ではないかと思うわ けです。できるだけどこまで我々は担保できるのだろうかということを考えていくことが非常に重要 だと思いますので、ゲノムの安定性の評価、安定性がどのくらい保たれるのかということを評価する ということで、ご判断の何かの一助になればということで、こういった研究をやっております。  癌細胞の非常に重要な特徴というのは、ゲノムが不安定になるということで、癌細胞の非常に共通 した特徴ですから、ゲノムの安定性というものを評価してみることは意味があるだろうと思っていま す。先ほどもありましたが、体外培養で遺伝的な変化が生ずることは経験的に知られています。これ はもう我々は日常茶飯事に経験することで、Cell Lineなどをみますと、こういうゲノム不安定性も必 然的に生じてきます。これらにはいろいろな原因がありますが、通常体の中だとそういうことは起こ っても、免疫機構が、ゲノムができるいろいろな機構で免疫が排除する、あるいは細胞の内部プログ ラムが働いて、ゲノムに傷が起こったようなものは修復されるというか、殺されてしまうということ が起こるわけですが、免疫学的排除はなかなか試験管の中では働かない。そういう細胞は遺伝的変化 は正確に複製されますから、常に持ち越されていきます。これは時間とともにいつも単調に増加しま す。大体1回の複製当たり109に1個の割合でエラーが起こるということになっていますが、人間のゲ ノムは30億いくつになるわけですから、分裂すると、これは当たり前ですが、どこかのゲノムは変わ っているわけです。そういうものが単調に蓄積していく効果というものは、非常に長い形態を体外で する場合に無視できないだろうということもあります。ランダムに起こるとしても、増殖して生存に 関与するような、つまりそれが起こればどんどん自分は増えやすくなってしまうような変化というの は、そういう培養の中ではしたがって蓄積されやすいということです。さらにそれに加えて、今回い ろいろな遺伝子導入をするわけです。例えばMycというようなものを導入した場合には、これはがん遺 伝子なわけですから、一定の細胞増殖、腫瘍化への影響は危惧されるということです。あるかどうか ははっきりしないけれども危惧はされる。というようなことがあり、臨床応用に関してゲノムの不安 定性の理屈を評価するのは重要な評価点の1つであろうと思います。最終的にはもちろん何かのバイオ ロジカルな評価をする必要があるのだろうと思いますが、これは比較的簡単にできるということです。 ある一定の感度であれば。実際にこういうことが起こるということは、これはES細胞の例ですが、非 常に長期継代すると、非常に高頻度でゲノムの異常が起こるということは、2005年にもうすでに Nature Geneticsに報告されておりまして、この系では9つのヒトのESを長い間カルチャーすると、 そのうちの半分近くにコピーナンバーの変化がこのように起こってくるということが報告されていま す。これは平均、中央値が59世代パッセージという非常に長い継代であるのですが、長くかけていけ ばこういうことは起こってきても文句は言えないということです。今回がSNPアレイという非常にたく さんのプローブを使ってゲノムのいろいろな所を調べて、ゲノムが変化していないかどうかを調べる 系がありますので、それを使ってやったということです。これは100万ローカスなど、そういうローカ スでゲノムが増えているか、減っているかということを見られるということです。詳しい原理はご説 明しませんが、具体的にゲノムが増えていたり、減っていたりするということを100万ローカスについ て調べることができるというわけです。これは例えば癌細胞ですが、癌細胞はこのようにめちゃくち ゃになるわけです。増えていたり、減っていたりがめちゃくちゃで非常に微細な異常まで含めると、 ものすごい数の異常が出てくるというわけです。  この系感度というのが自ずとありまして、この系では大体解析する細胞の中に2割から3割、そうい う異常を持っているクローンがいればわかるということです。これ以下だと逆にわからないというこ とです。それでこれでつかまるのはこういうゲノムが増える、染色体が増えているということがわか るし、減っている所は減っているとわかりますし、それからアレルが、お父さんとお母さんが1本ずつ あるわけですが、ときどき癌細胞ではこういうアレルが片方だけになることが起こるわけですが、こ ういうことがわかるということです。実際にこういう染色体分析というものをやるとわかりますが、 検出感度は従来の染色体分析が青で、赤がSNPアレイの解析ですが、普通の染色体分析でもずいぶん感 度は高い。それから比較的手軽にできるということです。染色体分析をやるのにはなかなか手間がか かりますが、これは簡単に高速にできるということです。  こういうことでSNPアレイを使って解析するわけですが、評価項目としては一体どれくらいiPSと呼 ばれるものを解析すると、こういうことが起こるのか。どの程度ゲノムでそういうことが、どの程度 の異常が起こるのかということをまず調べる。それから生物学的効果というのはなかなかすぐには難 しいわけですが、本当はこれがいちばん重要です。そのゲノムが何もしなければいいわけですが、例 えばそれがどういう発癌に結びつくか。そういうことを調べることは重要です。ゲノム不安定性に影 響をおよぼす因子をどうするか。これは私自身がやっている研究の重要な目的です。体外培養にして も、一体どういう継代方法をするとまずいのか。どういう継代方法なら比較的そういうことは少ない のか。どれくらいやるとどんどんそういうリスクが増えるのか。どういうiPSの作製方法をすると、そ ういうことが起こりやすいのか、起こりにくいのか。あるいはどういう組織からやると起こりやすい か、起こりにくいかなど、いろいろな評価項目があるわけです。こういうことを調べていこうとして いるわけです。  副次的な項目としては、バンキングなどはもし将来的にやるとすると、これはSNPをタイピングしま すから、非常に正確なfinger printになるということです。それから個体のジェネティックバックグ ラウンドに関する情報は、どんどん今後蓄積されていきますが、そういうものが一緒に同定されると いうことです。今回使ったのは中内先生が施設で樹立された細胞、iPSラインです。いろいろなソース はcord bloodのStem Cell分画。それからfibroblast、これはいちばん典型的ですが、あとcord blood。今回の例ではADA欠損症の患者さんから樹立されたいくつかのCell Line、合計8例の患者さ んから樹立された28個のインディペンデントなiPSクローンを解析しています。  細かいことは省略しますが、これはほとんど真っ直ぐで異常なさそうに見えますが、例えばこうい う所に変化があるわけです。こういうのは上に上がっているので、コピー数が増えているわけです。 ここでは1メガ以下ですが、比較的小さい異常です。異常というか、コピー数の変化が見て取れるわけ です。しかしこれは実際にはコピーナンバーバリエーションと呼ばれるもので、これは自分の、樹立 したもとのゲノムと比較するとこういうものはないということで、コピーナンバーバリエーション。 だからここで言いたいのは、細かい変化を見るのには、きちんともともとの細胞を取って、それと比 較するということがとても重要です。これは実際の染色体異常があった例です。これは実は山中先生 の所で樹立されて、現在分配されているiPSですが、合計32世代だったと思いますが、32回パッセー ジをした後の細胞で、これは4番染色体の長腕部分に非常に大きなコピーナンバーの増加があります。 ここの部分です。これは見慣れないとわからないかもしれませんが、これは非常にはっきりした異常 です。  それからこれはもう1つ、fibroblastだと思いますが、この例ではX染色体の所です。これはかな り甚だしい異常です。これは正常ですが、これはコピー数がたぶん数倍に増えている異常です。短腕 部分が増えています。先ほどのものは63パッセージで比較的これは長い継代だと思います。これはも っと前のパッセージでは起こっていません。これはもう1つの例で、ここの部分、10番染色体の長腕 の末端と12番染色体の短腕の末端部分でコピー数の増加と減少が起こっているということです。これ はおそらく不均衡転座ではないかと思いますが、これは解析、分析をやっていないのでわかりません。 いずれにしろ比較的これは大きな染色体レベルでの異常です。  最後の例は非常に微細な異常でして、これは3番染色体の部分ですが、ここの部分にこれは自己対象 を取っていますから、ここははっきりした腫瘍で、これは92Kbという全体のゲノムの大体3万分の1 ぐらいです。3万分の1ぐらいの範囲の所でコピー数が上昇している、増えているという異常が起こっ てきているわけです。  まとめると、こういう種類の5カ所に認められて、計4つのCell Lineに5カ所の異常が検出された ということです。大きさは非常に大きな91メガベースに及ぶものから、わずか1メガベースの非常に 小さなものなどさまざまです。これがまとめで、28個のうち結局4株です。異常が同定されています。 比較的長いものが多いのかと思ったら、最近はADA欠損症の患者さんから樹立されたラインでは、6パ ッセージ目です。だから非常に早いと思います。6パッセージ目ではっきりした異常が現われていると いうことです。だから今回いろいろな条件、どういう条件でできるかということを知りたいわけです が、今回わかったことははっきりこういうことは起こり得る。しかも比較的短い継代内で起こってし まうということです。やはりもう少し今後いろいろな疑問が沸いてくるわけです。どれくらいの頻度 かというのはもっとたくさん調べないとわからない。いまのところ解析できているiPSが少ないので、 何とも言えませんが、最近山中先生からいくらでもそういうものは起こるから、よく検討するように とご拝命を受けましたので、今後もっとたくさん、さまざまな条件での状況が見られると思います。 どういう所で起こりやすいのかということをもう少しはっきりさせていかないと、いまのところでは あまりにも漠然としすぎて、いませいぜい言えるのはこういうことが起こる。決して稀ではない、比 較的短いパッセージでも起こり得るということぐらいです。これは解析数を増やさなければいけませ んし、労力自体は大したことではないのですが、経費はそれなりにかかりますから、こういう経費の ことも考えなければいけない。  それから評価方法は、いまは非常に大まかなマイクロアレイという方法を使っています。これは非 常にスループットが高くて、たくさん解析できます。しかしわずかですが1メガバイトのベースの増幅 が起こるので、実際にはもっと細かい変化を見逃していることは想像にかたくないと思います。検出 感度以下の異常はたぶんもっとあるのではないかと思います。特に、少数例であっても今後、点変異 と挿入・欠失変異といったものはどのくらいの変化が起こっているかは、シークエンシングを使って 一応評価してみようと考えていますが、これは資金的な問題でいまは考えています。  あとはエビジェネティックな変化は私の仕事ではない、iPSの生物的特徴とも密接に関連するので、 もう少しこれはこのコミュニティの中で検討が進むのではないかと思いますが、こういったことも興 味があるかもしれません。いずれにしてもいちばん重要なのはこういったゲノムの不安定性がそうい うことを入れた場合に、実際に癌になるのか。ここのところがいちばん重要で、入れてもならないか もしれないわけです。そこのところはこういった方法で限界があって、これはもう明らかにバイオア ッセイの系でないと、これは評価できない。  しかし一方、バイオアッセイは限界が明らかにあって、ヒトに投与するぐらいのレベルの細胞を打 ったときに、それはしかも何年も、長期に及んで腫瘍化が起こらないということなので、なかなかそ う簡単に担保できるとは思いませんから、最終的には100%の保証などできるわけがなくて、結局は安 全性と有用性、必要性のバランスの平衡点を我々はいかに見い出していくかということが重要で、こ れは社会的なコンセンサスが得られなければどうしようもないことだと思います。  一方で、これで非常にメリットのある患者さんのポテンシャルは非常に高いわけですから、我々は やはりこういうことを是非ともしっかりやっていく責任があると思います。こういうことが起こるか らやめるということは、私はあまり賛成ではなくて、ただ評価はきちんとして、どれくらいの安全で きちっといくのか。少し統計学的にはっきり数字で物が言えるような、我々はデータとしてははっき りしたことを持っておく必要があるだろうと考えています。以上です。 ○永井委員長 ではご質問をお願いいたします。 ○梅澤委員 検出感度ですがどのくらいでしょうか。たぶんお話なさっていたのですが、ちょっと分 かりませんでした。 ○小川参考人 申し訳ありません。 ○梅澤委員 何個に1個あると検出できるかという質問です。 ○小川参考人 この方法では、10個に2個ないし3個以上ないと、いまの状況では難しいと思います。 ○梅澤委員 それは欠失の場合ですか。 ○小川参考人 増幅も欠失も。 ○梅澤委員 両方とも同じですか。 ○小川参考人 両方ともです。 ○梅澤委員 同じ感度だと理解してよろしいでしょうか。 ○小川参考人 はい、結構です。 ○梅澤委員 ゲノムの長さについてもお話になっておられましたが、何メガベースあると検出できる のでしょうか。 ○小川参考人 現実的に、いまいちばん密度の高いものだと、平均プローブ間隔は数Kbです。5Kb以 下になっています。それぐらいの感度であれば原理的にはできますけれども、実はこれ自体の揺らぎ がありますから、そこを統計的にものを言うためには、やはり数十Kbというのが現実的な線だと考え ています。我々は、統計学的に異常を判定しています。ヒト疾患マウスモデルを使って、非常に確か らしいところを出しているわけですが、それは結構当たります。それでいうと、やはり数Kbは必要だ ろうと思いますが、条件にもよります。我々が普通に考えているのは、この系では数十Kbぐらいだと 思います。 ○梅澤委員 将来の話は言いにくいでしょうけれども、この技術で検出限界というのを、先ほどは20 〜30%とおっしゃっていましたけれども、例えば5%とか1%以下に落ちることはあり得るものなので しょうか、それとも原理的に難しいものなのでしょうか。 ○小川参考人 ただ単にそこにあるものをBulkで取ってきて、それを調べるという限りにおいては、 少なくともこのSNPアレイという方法ではそれが限界だと思います。細胞をいくつかのコロニーに分け て、そのコロニーの1つの検体から、コロニーをピックして調べるというようなことをやれば、つまり お金をかければ、量をやれば、一個一個にすればわかるわけですから、そういうことをやればもっと 感度は上がると思いますが、労力的な問題からすると、ちょっと難しいだろうと思いますが、やれな いことはないです。100個のコロニーを取って調べれば、もちろん感度は上がりますが、それだとなか なかスループットは出ないだろうと思います。 ○梅澤委員 検出限界は、将来的にも20%と理解してよろしいでしょうか。 ○小川参考人 そうですね、どこまで労力をかけるかによると思いますが、いまのこの方法だと20% です。 ○中畑委員 iPSで考えた場合は、iPS化するところに伴うゲノムに与えるいろいろな影響ということ と、もう1つは培養をずっと重ねている間に起こってくる変化ということで、2つを分ければいいと思 うのです。例えば、間葉系幹細胞でも、臨床にも使われている間葉系幹細胞の培養をずっと重ねてい ると、明らかな普通のコンベンショナルな方法でも染色体の異常が起こってくる。  そういうことと、このiPSに伴う問題とは区別する方法を考えないといけないと思うのです。そうで ないと、既に臨床で行われている間葉系幹細胞も培養を重ねていけば、ゲノムが非常に不安定で、明 らかに染色体異常が起こってくる、ということも既にレポートされています。それでも、いまは間葉 系幹細胞を使った臨床研究はアメリカでも行われ、日本でも既に厚生労働省で始まっています。そこ を区別する方法があるのかどうか、あるいは間葉系幹細胞を培養していったので、比較するような検 討は行われているのか、行う予定があるのか、その辺を教えていただければと思います。 ○小川参考人 先生のご想像のとおり、原則的にそういうことをはっきり区別するのは難しいだろう と思います。間葉系幹細胞の場合も、継代を繰り返せば、エラーレートが一定以上、ゼロでない以上 はどこかで出てくるに決まっているわけです。間葉系幹細胞による治療の場合もおそらく出てくるの だと思いますが、それをどこまで、どういう基準でそれを許容するかどうかというところは、投与さ れる側、投与する側のコンセンサスも必要ですし、一見それは腫瘍化が起こらないのだということを、 何らかの形で評価する必要があると思います。でも、それは逆にいいモデルケースではないかと。間 葉系幹細胞で実際にゲノム異常はあるけれども、投与しても何も起こらないというのは、それはそれ なりに、ある意味それは試験でやられているわけで、実際にこういうことをやっても起こらないとい うことは担保されますから、それは我々が進んでいくときの参考にもなるだろうと思います。 ○中内委員 これは非常に感覚的な問題と言ったら悪いですけれども、ゲノム異常がいっぱいある場 合に、これを投与されるのは、かなり気分が悪いことは確かです。そんな感情論ばかり言っていても しようがないのですが、それならそれで、これの安全性はどのぐらいだ、ということが何らかの形で 検討されることが重要だと思います。いまは、ただ単にゲノムに変異があった、なかっただけですか ら、これが生理学的にどう影響があるのか、ということが本当は評価されないといけません。いまの ところ、これが我々の限界なので、そこのところはバイオロジーをやっておられる先生方にもう少し お入りいただいて評価していただくことが必要ではないかと思います。 ○西川委員 いままで情報はちゃんと出してきているのですが、それがシェアされていなくて大変悲 しいです。日本がきちんとお金を出して、ES細胞の標準化のための培養があって、しかもピーターア ンドリュースでストックがあります。ですから、その間葉系幹細胞のところまでいかなくても、こう いうケースの場合はES細胞と、中内先生のiPSとを比べていただくのがいちばん正しいやり方だと思 うのです。  日本は、年間1,000万円というお金を出して、ピーターアンドリュースさんに20ラインで2年間ぐ らい培養する。中辻先生も入っておられますし、しかもいろいろな場所で、決まった培養方法で取ら れてきたストックがありますから、それをきちんと使っていただいて、ヒトES細胞ではどのぐらいあ って、こういう培養方法ではどのぐらい起こってきて、iPSはこの場合ゲノムにいろいろなものが入っ ていると思いますが、iPSではどのぐらいなのか、ということを是非やっていただきたいと思います。 ○小川参考人 いつでもご用命いただければ。 ○中内委員 こういう方法で、比較的簡単にゲノムの不安定性を調べられるようになったということ は非常にいいことで、これによって至適な培養条件が見つかるかもしれませんし、それは小川先生が 説明したとおりです。  中畑先生が聞かれた問題点は、私も西川先生と同じで、これがエピジェネティクスとか、挿入遺伝 子によって、こういうふうに頻度が高くなってくるかどうかは、ES細胞と比べればいいわけです。た だ、日本には数株しかないので、比較対照するには寂しいのですが、比較対象となるES細胞がもしい ろいろな所から得られれば非常にいいと思います。  結局はヒトに移植してみないとわからないわけですけれども、それは間葉系幹細胞もそうですけれ ども、よく行われているLAK療法などは、T Cellを相当な勢いで増やしています。かなり長い間増や していますから、ああいう細胞でどの程度こういうゲノム異常があるかというのを見れば、1つの参考 にはなるかもしれません。 ○西川委員 最も新しい情報を共有していくということが本当は大事です。ヒトES細胞で、1週間、2 週間前の話ですが、驚いたのは、全然違うメチレーションが起こっているということが『Nature』に ありました。ただCpGアイランドではなくて、たぶんiPSもそうだと思いますから、まるっきりメカニ ズムの違うものを相手にしているのである、ということは私たちもしっかりと認識する必要がありま す。ただし、それ自身に関して、分化誘導したものに関して、これからは小川先生のようなアッセイ とかをきちんと議論していく必要があるとは思っています。 ○小川参考人 これは非常に簡単で、たくさんやることができるので、もしそういう評価できるリソ ースがあるのであれば是非共有していただいて、いくらでも調べることはできると思います。もう少 し評価できると思います。 ○永井委員長 先生の方法で見て、全く異常がないというのもかなりあるわけですね。 ○小川参考人 もちろん。だから28分の21個は有意な変化は観察できないということです。 ○永井委員長 ハイブリの条件で、シークエンスしてみないと本当はわからないのかもしれないです ね。 ○小川参考人 シークエンスは、うちもエクソンだけです。エクソンだけのシークエンスは早晩年末 ぐらいまでに結果がもう少しわかると思います。 ○永井委員長 次世代のシークエンサーで見てということですか。 ○小川参考人 そうです。 ○永井委員長 それではよろしいでしょうか。また後ほどいろいろご議論いただきたいと思います。 本日は、検討すべき課題の焦点を絞って行いたいと思います。須田先生、小川先生にも是非議論に加 わっていただきたいと思います。資料6に、主な論点としてまとめられています。特に1の検討すべき 課題に2つの○が付いています。ES細胞やiPS細胞を用いる臨床研究を開始する際に求められる要件。 ES細胞を用いる臨床研究に関する倫理的問題の有無等。採取、樹立、調整、移植又は投与段階での問 題点。これがES細胞、iPS細胞を用いる臨床研究です。  これから、これらの臨床研究を適切に推進するための指針の見直しについてということで、各委員 のご意見を伺いたいと思います。本日は、とにかく問題点を列挙していただきたいということで、何 でも結構です。あとで事務局でまとめ、次回に議論を深めたいと思います。どんな問題点があり得る のかということで、委員の皆様にご意見を伺います。また、須田先生、小川先生にも議論に加わって いただければと思います。これも、いままでだいぶ議論してきたところでありますけれども、それを 乗り越えていくにはどういう方法があるのか、というところまで含めてご議論いただければと思いま す。  例えば、ES細胞を用いる臨床研究ということでは、まずは倫理的な問題が出てきますし、それでは 倫理的な問題はあらかじめ説明をして、細胞の条件等が透明であればいいのではないかとか、いろい ろな考え方があるのではないかと思うのです。いまのiPSはもう少し先になるかもしれませんが、しか し限られた条件であれば、こういう条件をクリアすれば、この研究には使えるだろう、というような 考え方もあるのではないかと思います。 ○西川委員 これを抽象的にやるのは難しいので、それこそ先ほど言ったインテグレーティブなクリ ティカルパスをいくつかきちんと、例えば私、中内先生、中畑先生などが、いくつかのエグザンプル を。ここは許せないよねとか、ここはこうあってほしいということを具体的にやらないと、抽象論で やってもほとんど問題は解決しないと思います。ですから、ある時期にいまの指針をきちんと読んだ 上で、これに対する研究をやっていこうという側の1つの提案を、それはどういうタイムラインであろ うと出していただいて、それに関してはこうですよと。その場合はiPSがあり、ES細胞がありという ことで、一般的なオートの細胞に関しては既にクリアされているので新しい細胞になると思います。  もう1つ考えなければならないのはほかの細胞もそうですがアロです。いままでそれはほとんど考え たことがなかったので、この2点を具体案としてどこかに出して、やはり議論を闘わせたほうがいいか なと私自身は思います。 ○梅澤委員 この検討すべき論点のES細胞を用いる臨床研究に関する倫理的問題についてです。いま 現在文部科学省のライセンス課の生命安全対策室で、指針が既に研究に対してはあります。今回、臨 床研究に対してどのような倫理的な問題があるかということに関しての議論が必要だということで理 解しております。先ほども安全性と有用性の必要性との平衡点という言い方を小川先生がおっしゃっ ていましたけれども、倫理性と有用性の平衡点というものが存在するのかどうか。もし存在するので あれば、いまの指針の中で、どの程度(規制を)削れるのかということを、具体的に膝を突き合わせ てやる。要らないところもあるのではないかということも考えております。 ○永井委員長 なかなか例が出ないと、イメージがわかりにくいと思うのです。あらゆる治療法がな くて、あとは死を待つばかりという状況のもとで、こういう病気で、こういう移植があり得るという 例を挙げながら考えるということでしょうか。具体的にどういう病気があるか。おそらくこういう治 療法が臨床に導入される場合には、いきなりたくさんの疾患に対する治療法ということはあり得ない だろうと思いますので、何かわかりやすい例を挙げていただくと、議論が少し見えてくるかもしれま せん。 ○西川委員 必要であれば、実際に高橋先生のものに関しては、例えばレギュレーションのチーム、 知財のチームというのも全部サポートして、実際にどういう形で安全性を確保していくか、というこ とをかなり事細かに5年にわたって考えているのがあるので、それ自身はいくらでも出せます。ディス クローズしたらいいと思います。 ○永井委員長 少し一般論にはなりますが、腫瘍化したときにすぐに除けるなどという条件は重要に なりますか。腫瘍化して、既存の正常組織をダメージしないことはもちろん求められると思うのです が、仮に腫瘍化しても、テラトーマができたとしても、パッとレーザーで焼けるとか、そういう状況 ならば問題はないだろうと。 ○梅澤委員 先ほど私が申し上げたのは、ES細胞を用いる臨床研究に関する樹立や使用に関する点で す。つまり臨床のリスクベネフィット、腫瘍化とかそういう点に関して申し上げたのではなく、どち らかというと、いま現在こちらの参考資料にある、文部科学省告示の樹立、使用に関する指針の中で、 これと全く同じにする必要があるのかという点です。使用と樹立に関して、臨床の応用の場合には、 文部科学省と同じである必要はないのではないかということです。もし同じである必要があるという ことであれば、もうこの議論はやめてもいいということです。その部分についての議論は必要ないの かと思います。 ○永井委員長 同じということはあり得ないのではないですか。 ○西川委員 私も主査なのですが、梅澤委員の趣旨が。実際にはES細胞に関して議論を共通できちん とやっていただきたい。そのときには、私もしっかりと参加しようと思います。ES細胞の場合は、い ままでヒト幹細胞であまり扱ってこなかった、アロのケースになります。ですから、ある意味でどう いうステップで理解を得ていくのかということもあるので、一度集中的にやっていただければ文部科 学省からも来ていただいて、どういう問題があるのかと。  日本のES細胞と、前にも申し上げましたけれども、外国からGMPという形で売られるES細胞の2種 類が必ず出てきます。インフォームド・コンセントの問題でいうと、外国でGMP化されたES細胞をど ういう形で使うか、ということがわりと近い問題になっていく感じはしております。 ○町野委員 いまの西川先生のご提案のように、文部科学省側のES細胞の指針とすり合わせをしなけ ればいけないと思うのです。事務局の意見も聞かせていただきたいのですけれども、いま予測される 問題というのは、ES細胞を使って臨床研究をするときに、倫理的問題と書かれているけれども、何が 倫理的問題なのかがいちばんの問題です。現在のES指針が最初にできたときには、ESの樹立とその使 用の両方とも同じ規制をしていました。つまり、胚を滅してES細胞を何か研究目的に作るということ と、作られたものを使うことについて、同じ倫理的問題があると考えていたのを区別するようになり ました。  つまり、作られたES指針については、既に生命を滅して作られたものであるけれども、その点を考 慮しながら使わなければいけないけれども、生命を滅失する問題ではないと考えられる。  そうなってくると、ES細胞というのは、一体普通の細胞とどこが違うのかという問題が次に出てき て、それはかろうじて出自の問題ということが少しかかっていますけれども、これが果たしてどれだ けの意味があるのか。iPS細胞が出てくるようになってきたときについて、こちらについては全然考慮 しないで、ESだけどうしてこれだけ引きずっているのかよくわからないという話になっております。  その辺も、文部科学省側のES指針の持っている、倫理審査の倫理の意味との関係をこちらでひとつ 考えてみなければいけないということがあるだろうと思います。それは、こちらだけで決められると いうよりは、やはり両方でやらないと先が見えない問題だろうと思います。  もう1つの問題は、ES細胞を作るときに、受精胚の提供を受けるわけです。その受精胚の提供をし てもらうときのインフォームド・コンセントの内容が、研究目的でこれからES細胞を作りますという ことでインフォームド・コンセントを得ているわけです。既に作られてしまっているES細胞のほうか ら、これを臨床研究に使うことになりますと、最初のインフォームド・コンセントの範囲を超えるの ではないかという議論はあり得るわけです。インフォームド・コンセントについてどのように考える かということとかなり関係します。  あとは安全性などの問題がありますけれども、これを取得したときに、受精胚の取得のときについ て、これは途中でトレーサビリティを切るような格好でいまは出来上がっているのではないかと思う のです。果たしてこれで安全性の確保ができるのだろうかということがあります。これを切るように したのは、トレーサビリティを切って、連結不可能匿名化にしているのはなぜかというと、個人情報 の保護ということがおそらく頭の中にはあったと思うのです。その保護のあり方ということについて もまた考えなければいけない問題があると思います。  これは、いま思いつく程度ですけれども、これまでES細胞のことを一生懸命倫理性のことでやって こられたのは、文部科学省側ですから、そちら側と突き合わせながらやらないと、それぞれの部局に よって、厚生労働省と文部科学省とで考え方が違って、統一性が取れないという問題が起こりますか ら、それは是非やっていただきたいと思います。 ○西川委員 少なくとも日本の5ラインに関しては、GMP基準というか、臨床応用を目指して樹立され ていませんから、基本的にはクリアできないと思います。これから作られる分はGMP基準で作られると 思います。それから外国のものというので、明確に対象を絞って一度議論すればいいけれども、これ が緊急に必要かという部分でいうと、わりと時間をかけても、ほかのものよりは、例えばiPS等よりは まだ時間的に余裕があるかなという感じです。 ○永井委員長 インフォームド・コンセントの問題はいかがですか。GMPで作ればいいということでも なくて、やはり研究用に使うのか、臨床用に使うのか、初めからきっちり話をしておくべきだと思い ますが、そこはいかがでしょうか。 ○西川委員 実際には玉虫色の部分があって、研究というのは何を意味するのか。臨床研究までカバ ーされるのか。これは誰とは言いませんが、あるケースに関しては患者に注射はしません、というこ とをわざわざインフォームド・コンセントの中で書いている取り方をしているものもあります。逆に いちばん難しいのは、そうではないもので、再生医学の研究に使ってくださいといったときの、イン フォームド・コンセントをどう考えるかというのは是非一度議論をしていただく必要があります。 ○永井委員長 いま樹立には、再生医学の研究のためというような記載になっているのですか。 ○西川委員 そうです。 ○永井委員長 そうすると、ヒトに投与ということは全く想定していないのですけれども、インフォ ームド・コンセントにもそこまで明記はされていないのですか。 ○西川委員 逆に、明らかにそういうことをしませんと書かれているインフォームド・コンセントも あります。 ○永井委員長 どんな論点でも結構ですが、いかがですか。 ○鹿野委員 トレーサビリティが断たれているということなので、元のドナーのほうに戻って、改め て同意を取り直すこともほとんど不可能と考えたほうがよろしいわけですね。 ○西川委員 そうです。 ○鹿野委員 わかりました。それから1点気になったのですが、新しく作られるものについては臨床研 究を想定して同意を取るということなのですが、最終的にちゃんとした治療法の確立ということ、製 品開発に結び付くことも想定していただかないといけないのかと思います。やはり臨床研究の段階で いろいろなデータが取られて、それをベースにして製品化に持っていく場合に、それができなくなっ てしまいます。製品化のときには全く別に作り直すのかというと、それについて新たなデータをたく さん取り直さなくてはならない、これでまた何年もかかるというのは、広く患者に利用していただく ことを想定すると、患者にとって広い意味でのメリットはないのかと思います。  製品化イコール収入といいますか、利潤につながる部分もありますので、同意を取るという意味で は難しい部分があると思うのです。そこは将来的なものも想定していただいたほうが、やはり研究成 果を広く一般に還元するという意味では重要ではないかと思います。 ○永井委員長 先ほどのトレーサビリティは、これから臨床に使う場合も、一切切ってしまうのです か。いわゆる安全性についてです。 ○西川委員 それは指針で。 ○永井委員長 もし臨床に使う場合にどういうふうに考えたらいいのかということです。 ○西川委員 基本的に厚生労働省の指針で、違う樹立の指針を持ち得るかどうかという問題です。先 ほど町野先生からもすり合わせでというお話がありましたが、逆に厚生労働省のほうが、ある程度の トレーサビリティまで含めた形で指針が書かれた場合には、当然文部科学省のほうもそちらに変わっ ていくのではないかと思います。 ○永井委員長 論点としては、いま出た同意の問題、トレーサビリティ、それから製品化の場合です。 あと安全性についてはいかがでしょうか。 ○西川委員 それは絶対必要です。 ○永井委員長 先ほどの小川先生のような解析は一応やっておくべきであるという意見が出てくるだ ろうと思います。 ○事務局 事務局から1つ確認させていただきます。ここに書いた内容は曖昧で申し訳ないのですけれ ども、特に樹立に関するところで倫理的な問題があろうかと思います。特に、臨床研究のために新た にこれから胚を滅失しなければいけないということが、問題がないか、あるかということについて、 ご意見がありましたらお願いいたします。 ○西川委員 私自身は、きちんとインフォームド・コンセントが取れておればいいと思います。いま の指針でも、実際に再生医学の研究用にとおっしゃったときに、多くの患者は、実際の治療にも使わ れると思われることが多いですから、それは臍帯血のときも同じようなことがありましたから、そう いう目的で樹立しても問題はない。それでは、コマーシャルユースのためにどうかというのは、また ちょっと違う部分があります。ただ、臍帯血の経験から言いますと、意外と提供されるドナーの方と いうのは、当然コマーシャルユースも問題ないと考えていたことが多いというのが私自身の経験です。 中内先生も経験されていますけれども、あると思います。ですから、原則としてインフォームド・コ ンセントは違うインフォームド・コンセントで取っていいと思います。 ○町野委員 ES指針を作ったときの考え方ですけれども、いちばんの問題はヒトの生命を滅失して研 究に使っていいのですか、というのがいちばんのおそれだったわけです。しかし、その段階では、そ れが研究からさらにそれをヒトに使うという応用までは考えられていなかったので、非常にモデスト なところでまず議論が始まりました。しかし多くの国では、もちろん将来何のために研究するのかと いうと、やはりそちらに使うために研究するわけですから、そちらのことを見据えた上での外国の議 論であって、日本はいまのようなことしかやらないので、その範囲を議論したということなので、こ れは他人の役に立つためにやるわけですから、むしろこちらのほうが倫理性は高いと言えるぐらいの はずです。研究のためのほうが倫理性が高いということはないだろうと思います。 ○永井委員長 なかなか難しい議論です。 ○中畑委員 確かに研究に資する。その研究は臨床研究も含まれるかどうかというのは非常に微妙な 問題です。むしろ臨床応用については厚生労働省で別に考えることになっていますので、それ全体を 読み解けば、やはり臨床に使うことを明記するようなインフォームド・コンセントを新しく取り直す ほうが問題は少ないと思います。  トレーサビリティの問題は、確かに患者とかドナーが同定できないという形を絶対に取る必要があ ります。臍帯血の場合は、臍帯血を提供していただいた方に、6カ月間保存して、6カ月の時点でアン ケートを取って、異常が起こらないかどうかということのアンケートを取って、それで問題がないと いうものだけを、そこで連結不可能の匿名化という形にして、そこで完全に情報を切って、それ以後 はバンクとして患者に使えるようにするという手段をとっています。  ヒトのES細胞を樹立するときに、例えば遺伝的な病気がないとか、いろいろなことを付加してイン フォームド・コンセントを取るかどうか、というところの議論を、もしトレーサビリティ云々という ことを議論するとすれば、その辺が議論の中心になるのではないかと思います。その辺を含めるかど うかということです。そうでなくても、とにかくいただいて、あとは我々の実験の中でできるような、 いろいろな医療をディレクトするような系でそれを代用するということも1つの方法としてあると思い ます。その辺は非常に微妙なところではないかと思います。  どちらにしても、いまあるES細胞は臨床には使えないわけです。それはICの問題だけではなくて、 樹立するときの臨床用に作っていませんので、やはり臨床に使えるような形で、これから日本でも作 るということになれば、やはり作り直す必要があると思います。だから、これからそれ用のICについ ても、そこに含まれるような条件を検討することになると思います。 ○永井委員長 提供された方の心理もよく考えないといけないと思うのです。自分が提供したESが、 どなたかヒトに使われるということであれば、自分も参加しているような思いが出てくるのではない かと思うのです。そういう場合にはあらかじめ知らせておいてほしいというのが心情ではないかと思 うのです。その辺のご意見もさらにお聞きしたいと思います。トレーサビリティについては、臍帯血 バンクである手段を講じていらっしゃるということです。  iPSについてはいかがですか。これも具体的な例が出てこないとなかなかわかりにくいですね。西川 先生に、こういう場合なら、こう使えるのではということを次回以降にお願いできますか。 ○西川委員 実際にはインテグレーティブなパスというものをどのようにイメージしているかを見て いただいて、ここはまだ甘いとか、例えば小川先生のをここに入れたらどうかというような形で、あ る程度コンセンサスでなくてもいいですから、議論をしていただけるようなたたき台では出せるので はないかと思います。 ○須田参考人 iPSを用いた細胞移植という場合に、個々の例で検討するのも非常に具体的でいいと思 うのです。逆に言えば、いくつかの要件というか、マトリックスがあると思うのです。先ほど先生が 言われたように、腫瘍化が予測できないとすれば、細胞数は減らす、あるいは除去できる、ほかに治 療法がない、あるいは効果判定が容易であるということも結構大事かと思うのです。患者の希望も要 件の中に入ってきてもいいのかもしれませんし、そういう要件をいくつか挙げる。そうすると、網膜 の色素変性は比較的その要件の大部分を満たすとか、まだまだ血液疾患は難しいというふうになって いくのではないかと思っています。 ○永井委員長 いま須田先生がおっしゃった、効果判定のことは重要で、結局10例やっても所詮わか らない、100例やってもわからない、数百例やってわかるか、わからないかという世界なのだというこ とが延々と続いてしまうと、参加する人も、提供する人もそうですし、場合によっては害が出てくる 可能性があります。そういう疾患の場合にはあまり適していないだろうと。ある程度普及して、安全 性も確認された段階でしたら、そういう疾患も対象になるかもしれませんが、初めのうちは効果判定 が容易である疾患、あるいは治療法ということでしょうか。 ○澤委員 いろいろな面から、どういう疾患がいいかというのは検討されるべきでしょう。倫理性と いう意味からも、治療法のない疾患というのは最も優先されるものの1つになるかと思います。当然安 全性を見越してですけれども、先ほど須田先生がおっしゃったような、評価法の確立ということはも ちろん重要で、その効果をしっかり見られるということも大事でしょうけれども、最も優先順位が高 くなるのは、ほかに治療法がないということも大きいかもしれません。そのままで死を待つしかない というような状況を考えられるものがいちばん大きいかと思います。 ○中内委員 ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針ということで、幹細胞を用いるということが 入っていますけれども、それを除けば普通の臨床研究と同じであって、臨床効果の判定というのは、 いろいろな臨床研究をやっていますけれども、中には難しいものがたくさんあります。  ここはよくわからないところでもあるのですが、特にヒト幹細胞ということを言うのであれば、ES 細胞とかiPS細胞の特殊性を検討すべきで、それ以上は、ほかの臨床研究と変わらないかもしれません。  このガイドラインは、基本的にはある特定の疾患に絞る。今後世界的に見ていろいろなものが出て くる可能性がありますので、ある程度間口を広くして、なるべくハードルを低くしておいて、あとは ケース・バイ・ケースでやるというのがいちばんいいのではないかと思います。 ○永井委員長 小川先生何かご意見はありますか。 ○小川参考人 特にありません。 ○鹿野委員 私の立場でいろいろ経験したものと比べると、やはりiPSというのは非常にリスクが高い ものの部類に入ると思います。普通の再生医療一般と比べても。そうしますと、先ほどからお話があ りますように、既存の治療法には良い治療法がないというのと、もう1つはかなり重篤性が高い、致死 性が高い疾患というのは外せないのかというのが印象です。  こういうものに限らず、再生医療一般については、腫瘍化をどうやって評価するかというのは随分 議論になるのですけれども、現在良い評価法が、これを見れば腫瘍化をある程度予測できるという方 法がないので、これからは先ほど小川先生が出された方法とか、いろいろな方法で情報を蓄積して、 ある程度治験が積み重なってくれば、集積すればある程度予想が付くようになると思うのです。スタ ートの時点では、腫瘍化のリスクは絶対に避けられないという前提で始めるしかないのではないかと 思います。 ○小川参考人 対象とする疾患については、非常に重篤性が高くて、他に治療法がなくて、非常に予 後が悪い。さもなければよく言われている疾患が対象になろうかと思います。それは、がん化の現状 で全く正確に評価できない限りにおいてはそうであるというので、私もそれはそうではないかと思う のです。それに対して今後どうしたらいいかという問題に関しては、我々は医師としてそういう事態 によく遭遇します。例えば、白血病の末期の患者というのは、この人はほかに絶対に助かりようがな いわけです。そのときに我々が臨床試験で新しい治療にトライすることがあります。例えば、ハプロ アイデンティカルの移植といいましても、全然前例がないような移植を、非常に高度にステムセルを 分化して、T細胞を高度に除いて投与すればいいというスタディが出る。それを臨床に実用化するとき に、我々はどう考えるかというと、それは非常に危険なのです。例えば、T細胞がちょっと入ってしま うと、ものすごい反応を起こして死んでしまいます。だけどうまく入ると、患者はときどき治って、 起死回生の逆転ホームランになることがあります。そういう患者に我々がいちばん最初に投与すると きには、結構似たようなシチュエーションなのですが、さもなければ化学療法を繰り返していれば3年 ぐらい生きられるかもしれないけれども、だけど失敗に至ってしまったら6カ月、あるいは1カ月以内 に死んでしまうかもしれません。そういう選択を患者にすることがあります。そこに、こういう方法 ならいい。つまり、この方法だとT細胞がすごく除けるからこれがいいのだ。だけど完全に除けない場 合もあるということを提供します。このときに、我々はリスクがものすごくあるわけです。実際にや ってみると、患者がたくさん死んでしまいますが、可能性はゼロではないわけです。そういう場合に 我々がやる方向があるというのは、患者が強く望むのです。そこで、我々は危険と知りつつも、怖々、 恐る恐るやっていくわけです。そうすることによって治療が進んでいってある患者は助かるわけです。 これと、ちょっと似たようなところがあると思うのです。  我々は、やれる範囲では進めていくという方向です。その前に私が言いたかったのは、我々が現在 評価できる最大のもの、開発に携わる者が誠実に、あらゆる考えられる対策をとって評価をした上で あれば、やはり最後の部分は社会の判断に委ねる、あるいは患者の判断に委ねることが必要ではない かと思います。そこのところをどこに求めるかというのは、そういうデータを我々が積み重ねない段 階でものを言ってもなかなか難しいのです。我々は誠実にそういう客観的なデータを積み重ねていく のが科学だと思いますから、そういう努力をすべきではないかと思います。安全性の評価を、我々は できる範囲で誠実にやるというのが、我々は人間としての誠意というか、そこが倫理だと思います。  もう1つは適用の範囲ですが、これはリスクが非常に少ないような場合がiPSを使ってもあるわけで す。例えば、血小板などを作って、分化させて、そこにラディエーションを照射しても絶対に増えな いというような場合であれば、これはベネフィットが考えられるけれども、リスクはすごく少ないわ けです。そういう場合も排除すべきではないのではないかと思います。中内先生はどのようにお考え ですか。 ○中内委員 鹿野委員の意見にはあまり賛成できないのですが、例えば世界的に見て、網膜色素変性 症とか、加齢黄斑変性がいいターゲットだと言うのは常識で、世界中で研究が進んでいます。これら は致死性疾患ではないわけです。しかし、外から見ていて、腫瘍が発生したときにすぐ対応できます し、最悪、眼を取ってしまえばいい、というぐらいの勢いでアメリカではやっています。簡単に言え ば、確かに何をやっても助からない人を最初のターゲットにするというのは非常にイージーで、責任 を問われないかもしれないけれども、それでは新しい医療は出てこないです。新しい医療ですから当 然リスクはあるわけですから、それを恐れずケース・バイ・ケースでよく考えて、このぐらいの危険 性はあるけれども、それを上まわる利益があるのだということがわかればそれはいいのではないか。  何度も言うようですが、ここのガイドラインでは間口を狭めるのではなくて、iPSとかヒトES細胞 に特徴的なリスクなどもよく考えているわけです。ですから、新しい治療に対して、個別に対応する ことが非常に大事だと思います。 ○鹿野委員 ちょっと誤解を招く表現で申し訳ないです。私が思っていたのは、リスクとベネフィッ トのバランスというのは確かにそのとおりだと思います。ただ、一般的に伺った範囲では、リスクが 高いのかなと思ったのです。それをカバーできるだけの方策、リスクを低減するだけの方策がきちん ととられるということであれば、そうするとベネフィットのバランスが変わってくると思います。そ れはご指摘のとおりだと思います。そこの部分については訂正させていただきます。 ○永井委員長 いろいろご意見を伺いましたので、本日のご意見をまとめて、次回さらに議論を深め たいと思います。本日はこの辺で次の議題に移ります。議題3は、「再生医療における制度的枠組みに 関する検討会」について、医政局経済課の山本補佐からお願いいたします。 ○山本補佐 資料4に基づき、再生医療における制度的枠組みに関する検討会の趣旨、検討事項。いま までに計4回検討しておりますので、検討の状況についてご説明させていただきます。資料4の1頁で は、この検討会を開催するに当たった経緯というか背景を簡単にご説明いたします。  ご承知のとおりライフサイエンスというのは、我が国のものづくりと科学技術の先進性を兼ね備え た分野で、そういう技術の進歩をいかに国民に適切に届けていくか、というのが重大な課題であると 考えています。その中で2.の[1][2]と合わせて見ていただきますと、本検討会では、再生・細胞医療に ついて2つの検討を行っております。検討事項の(1)で、1つ目の検討内容というのは、複数の医療機関 が共同で患者の診療を行う。イメージしにくい部分があろうと思うので、2頁の概念図のいちばん上の ところを見ていただきますと、実際にCPCで細胞の培養を行う機関と、患者の診察、細胞の採取・投与 を行う機関が、別の医療機関であるという場合を想定しています。患者の診察を行っている医療機関 で、細胞の採取をし、それを加工医療機関と呼んでおりますけれども、別の医療機関において培養・ 加工を行い、戻した上で患者に投与するというように、2つの医療機関が共同で患者の診療に当たって いくというケースを想定し、こういう体制で医療を行う場合の条件について検討を行っているという のが1つ目の検討内容です。  1頁に戻りまして2つ目の検討内容ですが、2.の[2]です。これは来年度以降の検討ですが、これは課 題としてはもう少し大きく広げております。再生・細胞医療にふさわしい制度を実現するために、自 家や細胞の違い等々さまざまな状況を踏まえ、現行の法制度にとらわれることなく、最適な枠組みに ついて検討する。これは来年度以降です。そういう意味で、今回の会議では、[1]の共同での診療の検 討状況について簡単にご説明させていただきます。  3頁です。複数の医療機関で、共同で診療に当たっていくときにどういう条件、どういうことのルー ル作りをしていく必要性があるか。前回の会議で、これまでの議論の取りまとめ等を行っております。 それが3頁以降、又は6頁になっております。基本的な考え方は3頁に一般的な話を書かせていただい ております。目的は、再生・細胞医療の一般化・普及化です。そのために安全性の確保も含めて議論 が必要だろうということ。[2]のところで、複数の医療機関が関与してまいりますので、インフォーム ド・コンセントについても、やはり分断されるのではなく、患者には一貫したインフォームド・コン セントが必要ということをいままでにご議論いただいております。  具体的な要件として、それ以降2.、3.とありますけれども、2.として診療の体制としては、個別の 医師のみが実施するというわけではなく、やはり医療機関、もしくはその管理者として管理体制を明 確にするためにも、倫理審査委員会は当然必要だろうと。3頁の3.にありますように、複数の医療機関 でこの医療を実施していく形になりますので、共同開催、これについては前回の会議でかなり議論が ありましたが、どういう形であるにせよ、相互に関係を持ちつつやっていく必要性があるというご議 論をいただいております。  4頁では、医療機関間の連携だけではなく、当然実施する医師同士、カンファレンスを共同で実施す る、また診療情報の共有等も含め、医療機関間で実際に実施する医師同士の連携も必要であろう。ま た、それは[3]にあるとおり、治療を実施するだけではなく、長期的なフォローという意味でも、連携 が必要だろうというご議論をいただいております。実際の加工施設、CPCを持つ医療機関の要件として は、4頁の4.のように、実際には病院とか特定機能病院とか、医療法に基づいた区分が医療機関にはあ りますけれども、特定機能病院に限るとかそういう限定ではなくて、やはりきちんと要件を満たして いれば、そういう医療機関であれば実施できるのではないかという議論がありました。[2]のところは 当然ですけれども、実際にやるのは医師である必要性は必ずしもないけれども、やはり医師の監督の 下で実施することが必要である。[3][4]については、実際に最低限有しておかないといけない施設とい うもの、もしくは人員というのはさまざまな要件があるのではないかというご議論をいただいており ます。  5頁は、依頼医療機関とこの枠組みでは呼んでおりますけれども、実際に患者の診療をやれる所につ いて、再生・細胞医療について一切知識がないということではやはり問題だろうということで、知識 や経験等が必要、また治療成績についての公表や、学会への報告等々が必要だろうというご議論をい ただいております。6.で、さらにこういう先進的な分野では、学会でさまざま期待される役割がある だろうということで、検討の中で出ておりますのは、本当に個別的な細胞の培養施設の水準、研修の 実施、個別の技術ごとの培養・加工の方法や、科学的な評価やデータの公開等々は、やはり学会中心 でやっていただくことが望ましいのではないかというご議論をいただいております。  第4回でそれに加えてご議論いただいたのが6頁です。3点挙げておりますけれども、複数医療機関 が関与しますので、搬送、取り違い防止、製造・製品の管理のあり方。2番目として、実際に再生・細 胞医療が医療現場でやられていく上での評価システムをどのように構築していくべきか、というとこ ろについてご議論いただいております。3つ目は、細胞培養・加工を行う施設というのが、実際にその 医療そのものを実施しておく必要性があるかというところについてご議論いただいております。今後 スケジューリングとしては、まだ結論が出ているわけではないのですけれども、今年度中を目途に、 継続的に議論を行っていただいているところであります。以上です。 ○永井委員長 これは、結構複雑な問題があります。私が座長をさせていただいておりますけれども、 例えば新しい医療、細胞医療と言っても、本当に少数例で効果があるかもしれないという段階から、 かなり確立された医療で、まだ保険で承認されていないというような段階まで、ステージによって随 分違うのだということが議論されました。ただ、新しい医療を開発して、細胞を使って行う場合には、 臨床研究、先進医療、そして承認された医療というステップを踏んでいくべきであろうという議論が されました。その枠組みの中で、どのレベル、ステージの医療なのかということを考えながら、いろ いろな取り決めをしていく必要があるだろうと思います。  なかなか一概に言えないところはあるのですが、これまでの議論では、まだ非常にプリミティブな 細胞移植医療の場合にどうするか、しかも、それを調整する機関と、治療する機関が異なる場合には どうあるべきかという議論で進んでおります。描いているステージのイメージによって随分いろいろ なご意見が出ているという感じがいたします。ご質問はございますか。 ○中畑委員 ここで検討されているような項目というのは、この委員会でもある程度検討することに なっていると思います。この委員会との関係というか、この委員会の諮問みたいな形なのか、それと も全く別に独立した制度設計を考えているのか、その辺はどうなのでしょうか。 ○永井委員長 それは、いずれ両方関係してきます。ただiPS、ESの場合、初めは単独機関で行われる のだと思うのです。もしそれが有効であるということになると、外部で細胞の調整を行うような場合 が生まれてくると思います。事務局はいかがですか。 ○山本補佐 資料4の6頁に書いてあるとおり、さまざまな製造品質管理については、今回この検討会 で議論されているヒト幹指針、また治験のGMP、1314号通知等々出ています。この辺りについては、概 念的に整合性等々いろいろ議論があろうと思います。検討会自体は、そういう意味では親子関係では ありませんけれども、開発段階から一般化に向けていく中では、整合性は取っていく必要があるとは 考えております。 ○町野委員 私は完全に何もわかっていないのですが、1頁の検討事項の2.の[1]ですが、現行の医療法 の下で可能であることを検討するとあるのですが、現行の医療法の下でどこが問題なのですか。 ○山本補佐 いまここで検討していただいておりますような、共同でやる場合の条件を明示していく 必要性があるというご指摘をいただいておりますので、その点を検討している状況です。 ○町野委員 それなら、医療法上は全然問題ないでしょう。 ○山本補佐 どうお答えしていいのか、質問の趣旨を十分に理解していないのですが。 ○町野委員 私は、この中では世にも珍しい法律家です。法律のほうで、医療法で問題があるという と、どこか法律の条文に触れるのかとか、こういうことを医療法では想定していないから、別の制度 を作らなければいけないことになるのかとか、そういう議論になるのが普通なのです。そういう問題 なのですかという質問です。 ○山本補佐 医療法上現行制度で現時点で、できないというわけではなかろうと思っております。 ○永井委員長 つまり、これはどこまで可能であるかを明示しということでしょうか。すべてが可能 であるというわけではない。 ○山本補佐 やる場合の条件設定をしていくわけです。 ○町野委員 要するに、医療法の運用の問題だということですか。要するに、医療法でこういうこと を全然想定していないので、新たに何か考えなければいけないという問題なのか。そうではなくて、 医療法の中でこれはできますよという話で、ただ従来こういうのがなかったので少し考えていこうと いうだけの話ですか。 ○山本補佐 十分問題意識を把握できているかどうかわかりませんけれども、後者に近いイメージだ と思います。 ○永井委員長 それでは、最後に澤委員からヒト幹細胞臨床研究を行う際の再生医療製品の安全基準 作りということで資料を用意していただきましたのでお願いいたします。 ○澤委員 私は、中内理事長がおられます再生医療学会の臨床研究とガイドライン委員会の委員を担 当させていただいています。その立場からも、先ほどの制度的枠組みと、こちらの両方の委員会に跨 らせていただいている立場からも、整合性を付ける意味でも、このヒト幹細胞の臨床研究のためのGTP を学会のほうから提案させていただければと考えて、ここに提出させていただきました。  制度的枠組みの検討のほうでも、その解釈というか、結局1314号に適用するということと、GTPに 関してですが、ミニマムリクワイアメント的につながるかどうか。前回の委員会でも、山口委員がお っしゃったように、ヒト幹と、それから最終的な薬事的なところのつながりをどう考えるかというこ とは、結局は培養する安全性ということでは共通項が非常に強かろうと。そういう観点から、我々の 委員会としても、このGTPの考え方をもう一度整理して提案させていただければと考えております。  次の頁のGTPはご存じのように、細胞組織を製品化する取扱いです。その次の頁で、日本では1314 号通知がこれに適するということで、薬事承認されている治験を行うための製品を対象としています。 ただ、1314号にはGMPの部分も含まれているということがここに書いてあります。次の頁は、1314号 通知の構成その2というところで、確認申請するための資料内容であるということが、非常にハードル 的にも、要は製品化を目指した治験のためのレベルで要求されているということです。  本題に入りますが、ヒト幹細胞臨床研究指針におけるGTPの考え方です。現在、実際にヒト幹の指針 の中には、特にヒト幹細胞の採取、調整、移植、投与と、第3章、第4章、第5章がこれに当たるかと 思います。それぞれに人権保護と、安全対策ということが明記されています。特に安全対策について は、1314号通知に規定するという形で、1314号を準拠してやるようにということが書かれてはいます。 問題点はどうなってくるかというと、1314号の臨床試験の中で、治験、それから製品化というところ をしっかり見据えた通知であります。それとヒト幹細胞のすべてをこれで括ってしまうのかどうか、 もしくはそれを横に本当につなげるかどうか、そこが非常に大きなポイントになってくるということ です。  次は、治験とヒト幹指針が対象とする臨床研究の相違点・共通点ということです。相違点はいま申 しましたように、そもそも治験は製品化すること、それから薬事申請を意図した臨床試験ということ。 探索的な臨床研究を含めるヒト幹指針です。ヒト幹指針臨床研究も非常に幅があると思います。探索 的には最初のphase1的なものから、製品化を念頭に置いているものもあります。いずれもFirst in Manからphase3まで、そういうステージなども含む。いきなり最初から、もちろんヒト幹でなくて、 治験というものも入るわけです。そこをどう考えて、GTP的なつながりを作るか。逆に言うと、1314号 も、極めてハードルをガンガンに高くしてというのではなくて、読み方によっては横につながれるよ うな流れに書かれているというのも事実ですし、そこの解釈が十分できていない、もしくはどういう 解釈をすれば、この1314号を準じて、このヒト幹に適用すべきかということと、実際の1314号の治験 の通知が、どうやったらつながるか、そこもよく考えないといけないというところであります。探索 段階の研究に対応した記述や許容範囲を明示する必要もあるでしょうし、項目によっては、なかなか 1314号を読めと言われても、ヒト幹で申請している申請者が、すべて理解できるわけではないという ことになります。  ちょっとまとまりが悪い説明になっているかもしれませんが、そういうことで、1314号を準拠する という流れを、いかにFirst in Manのtrial、それから治験につながるような臨床、それでレベルの 高い臨床研究につながるように、どうGTPのコンセプトを1314号から解釈して持ってくるか、ここが ポイントです。要はいま作業中でして、本日はそれを明記させていただくというよりは、経過報告と いうことでお話をさせていただいています。  最後の頁ですが、現在この臨床研究ガイドライン委員会で、再生医療学会としましては、1314号通 知作成に携われた早川先生にご協力をいただいて、実際に1314号の通知を解釈しながら、臨床研究の 現状に合わせたGTPの案を作成させていただいているところです。最終的には、ヒト幹の幅が非常にあ るということだと思いますので、最初のFirst in Manのphase1的な部分と、phase2というか、治験 を意識したヒト幹細胞の症例数を増やす、もしくは多施設でやるということも含めたレベル、それか ら最終的には治験ということがステージであると思いますので、最初の部分をどこまで要求するかで す。  いまのレベルが、さらに1314号を読み換えてはっきり明記すると、逆にハードルがものすごく高く なるように見えるかもしれませんので、その辺りをうまくこの中に盛り込んでいきたいと。私たち自 身が実際に例として行っていく上でも、非常に重要なポイントかと思っております。 ○永井委員長 ご質問、ご意見はございますでしょうか。これは、いつごろを目指して取りまとめを なさるのでしょうか。 ○澤委員 年内ぐらいに大体の案ができるかなと思っております。 ○永井委員長 本日は時間もなくて議論は十分できませんが、この件については適宜ご報告いただき ながら、こちらでも検討させていただきたいと思います。次回以降、この委員会で、これまでのご意 見をまとめて、指針の見直しを進めていきたいと考えておりますので、是非よろしくお願いいたしま す。事務局から連絡はありますか。 ○事務局 本日は、大変お忙しい中、また悪天候にもかかわらず遠方よりご参加いただきまして大変 ありがとうございました。次回の日程ですが、12月初旬の開催を予定して調整中です。詳細につきま しては追ってご連絡させていただきますのでよろしくお願いいたします。 ○永井委員長 それでは、第6回の委員会はこれで終了させていただきます。どうもありがとうござい ました。 照会先 厚生労働省 医政局研究開発振興課 田邊     03(5253)1111 (内線2545)