08/12/01 第4回今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会議事録 第4回今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会      日時 平成20年12月1日(月)          10:00〜      場所 厚生労働省共用第7会議室(5階) ○佐藤座長 ただいまから「第4回今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関す る研究会」を開催いたします。本日は議事次第にもありますように、内容が多いため、 できるだけ要領よく進めさせていただきます。まず、学校教育関係者からのヒアリング を行うとともに、委員会メンバーの佐藤委員、増田委員からご報告をいただくこととし ております。さらに実態調査についても中間報告が出ていますので、それについて説明 していただくことになっております。その後、残った時間で最終報告書の取りまとめに ついての意見交換を行えればと思っておりますので、よろしくお願いいたします。本日 は開催要綱3(4)に基づき、実態調査を担当いただきました株式会社インテージの土屋薫 さんにお越しいただいております。まず、事務局から配付資料の確認と補足説明をお願 いいたします。 ○田平室長補佐 本日は非常に多くの資料を配付しておりますので、順番に確認させて いただきたいと思います。議事次第の裏面に資料一覧が記載されております。資料1は 本日の議事1にございますヒアリングに関しての項目、資料2及び参考資料4について は、ヒアリング対象者である神奈川県立田奈高校から提出いただいた資料です。資料3 並びに資料4及び参考資料5については、議事2にございます佐藤一郎委員及び増田喜 三郎委員からのご報告に関する資料でございます。資料5については議事3の実態調査 結果に関する中間報告資料でございます。資料6は、本日の意見交換の時間でご議論し ていただきたい点を参考までに掲げたものでございます。  さらに、本日は、本研究会の内容に関連する参考資料を配付させていただいておりま す。まず、参考資料1については、文部科学省からの提出資料でございます。本資料は、 第2回の研究会において、佐藤座長からご指摘のございました労働教育に関する学習指 導要領上の記載等について抜粋したものでございます。なお、本日、文部科学省は欠席 のため、資料の配付のみとさせていただきます。  次に参考資料2についてご説明します。まず参考資料2-1及び2-2については、第1 回研究会において座長からご指摘のありました厚生労働省の事業である「高校生向け就 職ガイダンス」において使用しているテキスト等です。また、参考資料3は労働政策研 究・研修機構において毎年編集し、都道府県労働局を通じて30万部ほど高校生に対し て配付している冊子です。資料が大部になるため、今回は労働関係法制度に関する記述 がある箇所のみを抜粋しております。なお、この冊子は高校生向けに作られたものであ り、他にも指導者向けの「就職ガイダンスブック」と、フリーター向けの「就職サポー トブック」の計3種類の冊子を作成しております。これらについては、労働政策研究・ 研修機構のホームページにてご覧いただけますし、ダウンロードもできるようになって おります。以上でございます。 ○佐藤座長 ただいまの説明にありました参考資料について、職業安定局若年者雇用対 策室大隈室長より補足説明があると伺っておりますので、お願いいたします。 ○田中補佐 若年者雇用対策室の田中です。大隈は所用により欠席させていただいてお りますので、代理で説明させていただきます。参考資料2-1、2-2をご覧ください。こち らは「高校生向け就職ガイダンス」ということで、就職を希望する高校2年生、3年生 を対象に毎年行っているものです。お配りした資料は3年生向けのものです。参考資料 2-1をご覧いただきますと、右側にカリキュラムの内容があります。1日かけてオリエ ンテーション、コミュニケーションから始まり、労働法や就職活動の進め方に関しても 盛り込んでおります。就職活動の進め方と労働法を合わせて20分程度です。  参考資料2-2は、今後の就職活動をサポートするため、何かあったときにはご覧下さ いということで配付している補足資料のようなものです。お手元の資料は関係する部分 だけを抜粋しておりますが、雇用形態にはいろいろあること、労働基準法があること、 困ったときの相談窓口と、カリキュラムの中で触れたことをコンパクトにまとめており ます。ガイダンスは全国で約800回行っておりまして、実施校数は1,500校、参加者数 は3万8,000人ほどです。実際にはハローワークが各学校の希望を聞き、開催日時など の調整をした上で、実施は民間に委託しております。参考資料3は、先ほど事務局から 説明があった労働政策研究・研修機構が作って配っているものですが、厚生労働省のほ うでは、教育委員会等に希望部数を聞いて今年は30万部ほど印刷・配付しております。 簡単ですが以上です。 ○佐藤座長 もし高校が依頼すれば無料で行ってもらえるわけですか。 ○田中補佐 無料です。 ○佐藤座長 高校の負担はないわけですね。 ○田中補佐 そうです。ただ、人数が相当多いので、学校に行ってというより会場を取 って行うことが多いです。場合によってはいくつかの学校を一同に集めて行う場合もあ りますし、単独で行うこともあります。 ○佐藤座長 わかりました。来年度もありますか。 ○田中補佐 予算要求はしておりますので、予算案が認められれば行いたいと思います。 ○佐藤座長 資料を見ていただいて、よければ使っていただくのもいいかもしれません。  それでは議事に入ります。本日は、神奈川県立田奈高等学校の中田正敏校長と吉田美 穂教諭にお越しいただいております。田奈高等学校における労働関係法制度に関わる教 育の内容についてご説明いただきます。まず、吉田教諭よりお話を伺い、その後、質疑・ 意見交換を行いたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○吉田(神奈川県立田奈高等学校教諭) あらかじめこのようなことをお話くださいと いうヒアリング項目を資料1でいただいたのですが、本日は25分という限られた時間 ですので、申し訳ありませんが資料2-1の私のレジュメに沿って進めていきたいと思い ます。  初めに、本校の状況からお話したいと思います。と言いますのは、高校と一口に言っ てもさまざまな学校がありまして、既にこの研究会の中でも、学力によって労働法教育 の成果が大きく異なっているという資料が提示されていることも伺っておりますし、や はり小・中と比べ、高校段階では学校によってかなりの学力の差があり、卒業後の進路 も大きく異なるというのが実状です。本日お話することの背景には現在の私の勤務校の 状況があり、そこを理解していただかないと伝わらない部分、また誤解が生じてしまう ところが大きいのではないかと考えております。本校の概要ですが、お手元に資料2-2 「田奈校ってどんな学校?」というパンフレットがあると思います。  本校は横浜市北部の田園都市線沿線にあり、一学年240名弱を募集する全日制の普通 科高校です。卒業生の進路などは進路状況として、パンフレットに載せてありますが、 学力という面では課題を抱えている生徒が比較的多い学校と言えると思います。ただ、 雰囲気はなかなか明るく、楽しい感じもあって、「田奈校ってこんなとこ」という頁にあ るように、生徒たちはそれなりに場を見つけ、生活し、学んでおります。さまざまな課 題を抱えている生徒に対応した実績が評価されて、このたび神奈川県教育委員会からク リエイティブスクールの指定を受けまして、今度の入試からは学力検査を行わず、意欲 などを中心に見ていく選考を行うことになっております。  また、本校は学力向上拠点形成事業や支援教育、授業研究などさまざまな研究指定を 受けて実践的な研究を進めております。具体的には、30人以下の少人数での授業展開、 キャリア教育の推進、個々の生徒を支えるための仕組みづくりなどです。後ろにある参 考資料には、そういった研究実践の報告書なども入れておりますので後ほどご覧いただ ければと思います。こういった研究実践を進める上で、本校では地域のさまざまな資源 を活かしていくことを方針としております。なぜならば、生徒の学力の背景には経済的 に非常に厳しいとか、家族関係など、学校以外で生徒を取り巻いている環境の影響が大 きくあって、学校の取組みだけでは十分な支援を行うことはなかなか難しいからです。 地域の事業所団体や施設、卒業生、大学、県商工労働部、専修学校各種学校協会などさ まざまな資源と連携することで少しでも成果を上げられるのではないかと考えて取り組 んでおります。  本校の進路状況は、まず卒業生数を見ていただくと、180名となっております。入学 時は240名弱ですから、非常に大きく減っていると見えると思います。ただ、中途退学 者の比率は、ここ2年ほどの取組みで大きく減ってきてやっとこの数ということです。 学校でのさまざまなサポートがあっても、やはり本人とそれを取り巻く環境の中で、ど うしても中退していく生徒たちがおります。彼らは就職などの面では大変不利になって いくことが考えられますので、学校を離れていく彼らを社会の中でどう支えるかという ことも非常に大切だと思っております。  さて、進路の中身ですが、1/3強が進学、1/3弱が就職、1/3が未定・その他となって おります。本校では、いわゆる浪人、予備校に通ったりという意味での浪人は進学準備 という分類をしておりますので、1/3の未定・その他は事実上ほぼフリーターと言える と思います。ここまでフリーターが多い理由の1つには経済的な背景があります。進学 に必要な費用、例えば2年間で200万円程度が用意できないという場合が少なくないの です。一方で就職もなかなか厳しいとなると、未定・その他にならざるを得ない。これ はもう少し経済状況がよければ、今はそれほど選ばなければ入学できる学校が結構ある という状況がありますので、本校のそういった背景の厳しさを反映していると見ていた だければいいのではないかと思います。就職の数は管轄している港北ハローワークの中 で最も多いと聞いております。  このような本校の状況を踏まえていただいた上で、労働法教育の実際ということです が、本校ではキャリア教育の中に労働法教育を位置づけております。そのような関係で、 キャリア教育全般はどのように進めているかということもあるのですが、今日は時間が 限られておりますので、本校のキャリア教育全般やその基本的な考え方については、参 考資料4-1、4-2、4-3に比較的まとめたものを提出しておりますので、後ほど読んでい ただければ幸いです。ここでは労働法教育を中心にお話していきます。  本校の労働法教育はキャリア教育の中に含まれております。キャリア教育自体はどの ように進めているかと言うと、「総合的な学習の時間」が非常に大きな柱になっておりま す。「総合的な学習の時間」は1年生では2単位、週2時間を時間割の中に組み込んで おります。2年生は1単位を半期で、週1回2時間連続という形で置き、さまざまな講 座を選択できるようにしております。労働法教育については、主に全員が共通の内容を 学ぶ1年生の段階で教えるようにしております。参考資料2-3としてテキストをコピー したものが入っておりますのでご覧ください。目次をご覧いただくと、一般的なキャリ ア教育でよくある体験学習などが前半の大きな柱になっておりますが、労働法教育とい うことでは<<8>>の「働くルール」、その前の「進路室を探検しよう」の中に求人票のこ となどが入っており、その辺りが1つまとまった内容になっていると思います。  「働くルール」としては、労働基準法やケーススタディ、セクシャルハラスメントな ども載せてありますが、実はこれよりも前の部分、ちょっと戻っていただいて、<<3>> の「世の中の職業について」の後半、25頁から29頁の部分でフリーター関連の教材を 扱っておりまして、この中に労働法教育を組み込んでおります。生徒の反応がいいのは、 むしろこちらの教材かなと思っております。「フリーターって不利ーたー???」というち ょっとダジャレのようなタイトルが付いています。やはり学校現場としてはできるだけ 正社員になってもらいたいという思いがあります。最近はどこの学校でもかなり強調し ている点だと思いますし、フリーターになったらどうなるのだろうといった話も載せて おります。以前は、フリーターは不利だという話で終わっていたのですが、ここ2、3 年であとの部分を付け加えております。  特に、28、29頁の「アルバイター、フリーターの権利を考えよう!」という部分が非 常に大切だと思っております。どのようなことかと言いますと、やはり、本校では一定 割合の生徒がどうしてもフリーターになっていかざるを得ないという状況があるわけで すから、「フリーターになっちゃ駄目だよ。」で終わっては現実には意味がない。生徒た ち自身もフリーターを肯定的に受け止めているかと言うと、「どうせフリーターだし。」 というセリフをよく聞きますが、それはある程度自嘲的な部分が入っていて、なりたく てフリーターになっているとは思えないのです。そのようなことも考えて、28、29頁の 「アルバイター、フリーターの権利を考えよう!」という教材にしてきました。  ここではアルバイターを取り上げているというのが1つポイントで、1年生という年 次での教材ということもあるのですが、生徒たちにとって、卒業してからの話や就職し てからの話というのはまだまだ先のことで、ピンとはこないし、自分の問題としてはな かなか捉えづらいということがあります。そこで、彼ら自身が既にアルバイトをして働 いていることに注目し、作ったということです。実は、本校生徒の大半は既に労働者で す。どのぐらいがアルバイトをしているかですが、1年生の終わりごろに調査をして、 実に3/4、4人に3人がアルバイトをしております。この数は第1回の研究会で提示さ れていた、下位校のアルバイト経験率を遥かに上回っていると思います。  アルバイト先として多いのはファーストフード、ファミレスなどの飲食店関係、そし てコンビニやスーパー、ガソリンスタンドなどです。本校ではアルバイトは許可制では なく、届出制です。これはアルバイト代の使い途が自分の小遣いだけでなく、定期代や 学用品、中には一部学費という生徒もいて、学校に通うための費用に充てている生徒が アルバイトをしている生徒の30%ぐらいはいて、飲食代と書いてくる生徒たちの中にも 弁当を持ってくることができないため、自分で買ってくる、その費用などもアルバイト 代から出しているといった生徒が少なくないといった状況があります。禁止や許可制に してしまうと、却って実態も把握しにくくなるということがあって、届出制としており ます。  もちろん、アルバイトに多くの時間や精力をとられ過ぎてしまうと学業の妨げにもな り得るわけですが、本校ではアルバイトの中で彼らが経験的に学んでいくことも、また 大切に見ていきたいという思いもあるのです。アルバイトをするようになって挨拶がで きるようになった、目上の人との話し方を学んだ、時間を守ることを学んだなどと答え る生徒がかなり多くなっている面もあります。学校に遅刻してくる生徒に「何で遅刻し てくるの。」と聞くと、「バイトには遅刻していないから。」と答えることもあります。そ ういう話ではないと思うのですが、アルバイトに対しては本当に真面目で、遅れたり休 んだりすると人に迷惑がかかるという意識はかなり持っているように思います。ただ、 アルバイトをどんなに真面目に取り組んでも就職のときには役に立たない、学校を休め ばむしろそれが調査書に載って不利になってしまうので本当に皮肉だなと思いますが、 生徒のほうはなかなかそのような実感がないようです。  さて、先ほどのテキスト28、29頁に戻っていただきまして、このような状況を踏ま えて教材を考えました。生徒の体験を授業の中で活かしながら労働法と結び付けて、よ り印象に残る、自分のこととして法律や権利について学べるものということでクイズの 形にしてみました。最初は副教材としてプリントにして授業をしたのですが、生徒の反 応がとても良かったので今ではテキストに集録しております。  私自身もこの教材で授業をしてきているのですが、例えば8番の最低賃金のクイズを やったら、そのときの最低賃金はもっと上がっていたのでさすがに700円は切っていな かったのですが、その年の最低賃金を示すと「あっ、私、最低賃金以下だ。」という生徒 がクラスの中にいて、確かに微妙に下回っていたのです。たぶん前年度は違反ではなか ったのでしょうが今年度は違反になるというレベルの金額で、「あー、私、下だ。」とい う子がいたりしました。17番は労災ですが、授業のときにはもう少し具体的に、例えば 「宅配中にバイクでバランスを崩して転倒して怪我をしてしまいました。治療費や休ん だ分のバイト代は払ってもらえるでしょうか」といったより具体的なものにして聞いて みるのですが、生徒からは「それは無理でしょう。だって自分が悪いんじゃん、自分が コケたんじゃん。」と。ぶつけられたら別かもしれないが、絶対無理だという感じの回答 がほとんどでした。原付免許を取った生徒にとって宅配は身近なアルバイトですから、 実際をイメージして彼らにとってリアルな回答を言っているのだと思います。  生徒の大半は労災という認識はなくて、過剰な自己責任、先ほども人に迷惑をかけて はいけないとか、意外にも彼らはそのような倫理観を強く持っていて、このような事故 でも自己責任と思ってしまいがちだなと思いました。改めて彼らに労災の範囲として通 勤時間が入るなどの説明をすると、たくさん書いた書類の中に通勤ルートを書くものが あったようなのですが、「この間バイト先に行く道を書かされたけど、あれはそのためな のか。」と気が付いたりしていて、何のための書類かはわからないが、出された書類を一 生懸命に書いているのだと思うのです。そのような反応が出てきたりするので、やはり 具体的に説明しないと駄目だということを感じています。権利を自分のものとして考え るということは、かなり身近な教材にしていく必要があるということです。  生徒にとってのアルバイトは初めての経験なので、働くことそのものに新鮮さがある と同時に、やはりトラブルにも巻き込まれやすいということが言えると思います。彼ら をサポートしながら、身を守るために必要な労働の知識を身に付けさせることができた らと考えています。「総合的な学習の時間」はこういったニーズには応えやすい時間だと 思います。しかし、身近な教材で総合の時間に取り組んでいれば、使える形の知識が身 に付くのかと言うと、それほど簡単ではないということも強調しておきたいと思います。  具体的な例を出しますと、本校は年3回の三者面談、年度当初には二者面談など、担 任が比較的きめ細かく生徒と面談をする機会を持っているのですが、ある担任が2年生 の生徒との面談で、最近遅刻が多いと、それも授業に食い込むほど大きく遅刻してきた りすることが増えているがどうしたのだ、という話をしたら、アルバイトを1つ増やし たら、疲れてしまってどうしても起きられないということだったのです。生徒はそれで 2つ目のアルバイトは無理だ、辞めようと思って、店長に辞めたいと申し出たが辞めさ せてもらえないと。契約書を持ってきて、「君はここにサインしたのだから絶対に辞めら れない、きちんとやってもらわなくては困る。」と随分言われたというのです。大人に高 圧的に、特に契約書などを見せられて上から話されると、絶対言い返せないという感じ で困っていると言うのです。  もちろん、その生徒は1年生のときに今言った授業を受けていますし、労働者は辞め ることができることや、特に高校生の場合は保護者が許可しないとできないことはクイ ズの中にも入っているのです。だからといって、自分のこととなったときはもう忘れて いるわけで、自分のこととして適用できておりません。このケースの場合、担任は働く 側は辞められるということや、どうしても自分でうまく話せなかったら、保護者の方に 電話をしてもらいなさいと伝えました。保護者の許可がないと未成年は働けないのだか ら、電話をしてもらえば絶対大丈夫だからということで、結果として無事辞めることが できました。  こうした事例から言えることは、授業の中で単発で教えているだけでは難しく、現実 には継続して個々のケースに即して、彼らの経験と労働についての学びをつなげていっ てあげる必要があるということです。担任など相談しやすい大人のアドバイスは有効だ と思います。  そうは言っても、学校現場では教員の負担はなかなか大きいというのが実情です。本 校では生徒が1年生から2年生になるときは担任も持ち上がっていきますので、つまり その学年を担任すれば、教員のほうも必ずこういった労働法について教える機会がある わけです。自分が社会科でなく体育科でも、芸術科でも、数学科でも総合の時間は担当 しますから、どの教員もこうした知識を学ぶチャンスがあるわけです。しかし、労働基 準法などはこうなっているという法律の話をするのは簡単ですが、個々のケースに即し て全員に有効なサポートをしてあげられるかと言うと、これは本当に難しいことだと思 っております。そのような意味では指導していく教員自身がアドバイスを受けることが できる仕組みが必要だと思いますし、よりいいのは、やはり授業の中だけでは限界があ るので、学校の中に生徒が気安く相談できる専門家がいて、生徒の相談を継続的に受け てくれたらいいだろうなと思っております。  一般の教科における労働法教育ということでは、現代社会や政治経済の教科書にも労 働基準法その他についての記述がありますし、授業でも扱っています。しかし、どうし ても身近にはなりにくい、お勉強ということで終わりがちなのが実情かなと思います。 抽象的であればあるほど、自分の問題とは感じにくいというのが本校での現状ではない かと思います。私も地歴公民科ですので教えていますが、部分的にはフリーター、アル バイターのクイズを入れたり、政経でももう1回やったりなどの工夫はありますが、難 しい。  一度、やって良かったかなと思ったのは、1年生の総合でフリーター、アルバイター のことを学んでいる時期に、現代社会の授業では日本の経済を扱っているので、日本経 済の変化を雇用の面から見ようと。なぜ、フリーターのような非正規雇用が増えてきた のだろうか、そういったつなげた領域で授業をしたときには、生徒から「この間の話と ちょっとつながった、現社でそのことちょっとやった。」という声が出てきたりして、い ろいろなものをつなげていく必要があるかなと感じました。身近な問題をいろいろな角 度から見せて、つなげていくような展開が必要ではないかと思っております。以上、あ まり十分にできているわけではないですが、本校の手探りの取組みをご紹介いたしまし た。  今日はこの機会にもう少しお話させていただきたい点があるのですが、今回このよう なヒアリングの場をいただき、改めて考えてみると、労働法教育について学校だけが担 うのは本当に難しい面があると思いました。とりわけ、実際には多くの職場で労働者の 権利が守られない状況にあることが、大変マイナスな教育的効果を持ってしまっている ことを感じます。高校生の労働観はアルバイト先で見聞きする現実にも大きく左右され ていると思います。最近は「名ばかり管理職」などが問題となっていますが、例えばフ ァーストフードやガソリンスタンドなど高校生がアルバイトしやすい所の店長などは、 正社員でも実は名ばかり管理職という例もかなり多いのではないかと見受けられますし、 そのようなことを生徒は横で見ているわけです。  人件費削減でアルバイトに頼る店では正社員の店長が必死にアルバイトを確保して、 場合によっては埋まらない穴を自分で埋めて働いているが、どうも給料はそんなにもら っていないらしいし、休みも取ってないと。アルバイトにも年休があると言う前に、正 社員だって年休を取っていないと。そのようなところで、いくら「権利があるよ。」と学 校で教えても、働くというのはそういうものだ、権利があっても行使するのは難しいと 考えてしまいがちかなと思います。教科書の勉強と現実のどちらから多くを学ぶかと言 うと、本校の生徒は現実からより多くを学んでしまうだろうと思います。学校としても 体験的な学習としていろいろなキャリア教育をやっていますし、重視もしているのです が、やはり高校生が働くアルバイト先の現実の持つ教育的な効果というのも見逃さない でいただきたいと思っております。  卒業生にも必要な支援ということで若干触れたいと思います。私は現在の勤務校で4 年目ですが、卒業生と話す機会も徐々に増えてきています。きちんと調べているわけで はないのですが、卒業生を見ていると、感触として753と言われている離職率の高さ を感じます。ただ、それらすべてを本人の自覚が足りないとまとめることはとてもでき ないと、卒業生といろいろな話をする中で思っております。中にはパワーハラスメント ではないかと思うような事例があったり、あるいは半年間、無遅刻無欠勤、熱が出ても 出勤していたが、半年で糸が切れたように辞めてしまうようなケースなどいろいろあり ます。  現在も働き続けている卒業生はどうかと言うと、今年、授業の一環で在校生と一緒に、 働き続けている卒業生の所に話を聞きに行くということがありました。結構おもしろい 話をいろいろ聞くことができたのですが、印象的だったのは、今は働き続けているが「辞 めたい」という気持を抱くことがあったと言う卒業生が多かったのです。それではどう して現在も続けることができているのかと聞くと、上司に自分の不満をうまく訴えて部 署を変更してもらったり、辞めたいと言ったら上司から意見されて、そこから話し合っ て考え直したという経験をした人もおりました。ここで大切なのは、やはり相談できる 大人が職場にいたということ、本人にも相談できるスキルがあったということだと思い ます。  逆に言うと、辞めてしまったケースは、職場の誰かに何とか相談できなかったのだろ うか、パワーハラスメントが疑われるようなケースでは、外部に相談できなかったのだ ろうかということです。そのような意味では、卒業してからも継続的に相談できる場を どのようにしたらつくることができるかということも非常に重要だと思います。先ほど 見せていただいた資料の中では、確かに相談窓口は公的なものがたくさんあります。授 業の中でもそういったことは伝えていますが、彼らがいきなり、例えば労働基準監督署 に行けるだろうかと考えると、現実には難しいだろうなと感じます。彼らの生活、人と の接し方といったものを観察している中で、そのような行動を取ることができるかどう かと言ったときには難しいものを感じるのです。  そのような意味では、高校時代から何らかの相談機関、あるいは相談できる所と自然 と回路ができていると非常にいいだろうなと思います。彼らは卒業しても高校に戻って きていろいろな話をしてくれたりするわけですが、残念ながら私たちはそこまでカバー できるほどの知識も余力もない、卒業生までずっとフォローし続けるだけの力はない。 そのような意味では、例えば学校にサポートできる立場の方に出入りしていただき、生 徒と接し、そういう人がいるのだなということを顔と声で実感し、そこからつなげてい くような仕組みは作ることができないのだろうかということも考えたりします。  以上、さまざま申し上げましたが、本校の実状からすると、教科内だけでは労働法に ついての知識がお勉強という形で自分とつながらないもので終わってしまう可能性が高 いこと。彼らの多くがアルバイターとして既に労働者であるため、「総合的な学習の時間」 の中で取り上げるアルバイト経験を活かした具体的で身近な教材が効果があること。し かし、それでも授業内だけでは十分ではなく、継続的に相談できる大人が周囲にいて、 相談できる体制があることが重要なこと。できれば卒業してからもフォローできる場が ほしいこと。以上です。聞いていただきまして、ありがとうございました。 ○佐藤座長 具体的なご説明をありがとうございました。中田校長から何か追加の説明 はありますか。 ○中田校長 特にございません。 ○佐藤座長 ただいまの説明についてご質問、ご意見があればお願いいたします。関連 した質問であれば続けて質問を出していただき、まとめていくようにしたいと思います が、いかがでしょうか。 ○上西委員 外部というか専門的な相談機関とのつながりがあるといいというお話は本 当にそうだと思うのですが、高校の場合だと、いちばん身近な機関はハローワークでは ないかと思います。ただ、現実にはハローワークとの連携というのはどうなのでしょう か。 ○吉田教諭 もちろん、就職に関してはハローワークと継続して関係がありますし、県 の商工労働部を通して平均2週間に一度ですが、かながわ若者就職支援センターのキャ リアカウンセラーを派遣してもらうといった取組みがあります。ただ、労働法について までの効果は上がっていないかなと思います。現実には就職の世話をするので精一杯で、 就職もなかなか厳しい中で、諦めがちになる生徒を励まして、引っ張って何とか就職へ というところで連携しているのですが、現状ではそこまでかなということです。 ○佐藤座長 他の相談で、専属のカウンセラーのような方は高校にはいないわけですね。 ○吉田教諭 おりません。 ○佐藤座長 そのような方にこのようなことを勉強してもらって、相談してもらえるよ うな人がいるわけではないのですね。 ○吉田教諭 いわゆるスクールカウンセラーは、主に心理的な点での課題を抱えている 生徒の相談に乗っています。 ○佐藤座長 そのような方はいらっしゃるわけですか。 ○吉田教諭 常駐ではありませんが、月に何度かという形で来ていただいております。 ○佐藤座長 そのような方にこのようなことを少し勉強してもらって、本人が対応でき ないような相談はどこかにつなぐという形は可能性がありますね。労働法関係だけの方 に特別に来てもらうというのはなかなか難しいですからね。 ○吉田教諭 臨床心理士の資格を持っている方がカウンセラーで、より心理的な課題へ の対応がその専門の領域だと思われます。社会的な解決を必要とする問題という点では、 教員が何とか対応しているというのが現状です。 ○中田校長 最近少し卒業生が多くなってきて、一応200名ぐらいになっており、退学 率が3年前には10%弱あったのが、最近では5%を切るぐらいということで、だいぶ減 少してきているという現状があります。教員の平均在職年数は3年余ですから、ふた回 り、つまり1年生から3年生まで持って、もう1回1年生から3年生まで持つという人 は今1人だけです。他の教員も非常に熱心に取り組むのですが、やはり労力的にきつい。 ということは、卒業してから学校に来ても、担任だった先生はほとんどいないというこ とです。そこがきつい話なのですが、教職員の配置ということもあるでしょうが、ハロ ーワークの知識を持った方が学校に常駐してくれるといいなと思います。本校の生徒は 顔見知りになると結構何でも相談してくるタイプが多いので、在学時から相談でき、卒 業してからも、おじさんがいるような形でいてくれるといちばん効果が表れるかなと思 っております。 ○原委員 曖昧な質問ですが、一律的な対応というのは意外と簡単かなと思うのです。 しかし、田奈高校のように進学する生徒と就職する生徒が混在すると、同じような対応 ではなかなかできないと思うのです。その辺りで何かご苦労されていること、工夫され ているといった話があれば教えてください。 ○吉田教諭 おっしゃるとおり、進路が非常に多様であるということは、教員の負担も あるのです。例えば授業の内容にしても、進学する生徒もいることを考えると、一般教 科で言えば、完全に身近な教材だけで埋め尽くすわけにはいかないわけです。労働法関 係で身近な教材を、例えば政経とか現代社会の中でものすごい時間を使ってやるという 方法もないわけではないかもしれませんが、そうすると、他の知識が押さえられないわ けで、進学者も1/3以上いる状況の中では、ある程度備えられた内容を教えざるを得な いのです。そうすると、どうしても「総合的な学習の時間」が中心になっているという 側面があると思います。 ○佐藤座長 田奈高校はこのようなことについて割合熱心に行っていますが、神奈川県 の他の進路が多様な高校でも大体同じように行っているのか、その辺はいかがですか。 高校によってかなり違うのでしょうか。 ○中田校長 全部この形で行っているとは言えないと思います。 ○佐藤座長 もちろん、違うと思います。 ○中田校長 自分の学校のことをきめ細かいと言うのは図々しい話ですが、このような 形で行っている高校はまだそれほど多くはないと思います。本校は必要に迫られてとい うか、青葉区にあるので工業高校、商業高校などの実業関係の高校が全くないのです。 そのような特殊性もありということで、全日制普通科という枠で全部やらざるを得ない という意味では、昔から大変苦労してきた学校なのです。1997年から現在のような、資 料2-3の「環境と自分」の原形を作ってきたというところがあります。そのような意味 では非常に先進的と言えば先進的だったかなと思いますし、「総合的な学習の時間」が入 る前から行っておりますから、入ってきたので一応位置づけはそうしたということです。 ○佐藤座長 横でお互い情報交換しながら行うという状況はなく、それぞれの高校が苦 労しながら行っているというのが実態で、田奈高はそれが割合進んでいると考えていい ですか。 ○中田校長 大師高校が「産業社会と人間」ということで行っているといったことは県 のいろいろな協議会で情報が入ってきます。ただ、田奈高校が行っているのは、生徒を 目の前にしてこの辺がいいだろうということをつくっていかなくては駄目だろうという 感じです。 ○増田委員 校長先生が教員の勤続年数は平均で3年余と言われましたが、県立高校で あっても人事的に3年か4年のローテーションを考えてやっているのですか。私の経験 で言うと、一般的には高校の勤務年数は長いほうであるとか、小・中学校では大体10 年を目処に転勤しなければならないと聞いているのですが、現状はどのようになってい るのですか。 ○中田校長 これは結構複雑なのですが、実態としては最大限10何年ということが可 能ですが、今それが少し縮まってきています。ただし、3年経ったら出ていきなさいと いうことは全くなくて、やはり本人の希望です。いま吉田教諭が何気なく紹介していま したが、大変な苦労なので、他の学校に行ったら、それはだいぶ違うと思います。基本 的に給料など、その辺の勤務条件は全く同じですので、仕事の密度が非常に濃いという ことです。 ○佐藤座長 その他何かあればお願いいたします。 ○原委員 最初に説明があったかもしれないのですが、こうした冊子を作るのを担当さ れる方というのはどのような先生なのでしょうか。 ○吉田教諭 その年度に担当になった者たちが、次年度に向けての改訂作業もしていく という、非常に厳しい状況です。毎年作業する中で少しずつ内容を、ここはこちらのほ うがいいだろうということで入れ替えていく。例えば「アルバイター・フリーターの権 利を考えよう!」は私が副教材で行って、良かったので入れましょうと提案して入れてい ただいた部分ですし、毎年関わった教員が提案して手を入れています。ただ、正直言っ て、これをこなすだけで精一杯だと言う教員が多いのが事実です。ですから本当にきつ い。本当はプロジェクトチームを作って、何人かが集中して行えばもっといいものがで きるのかもしれないですが、余力のある範囲で少しずつ手直ししながら行っているとい う感じです。 ○原委員 私自身、実態がよくわかっていないのでちょっと間の抜けた質問かもしれま せんが、社会科の先生が集中的に担当するとかということではなくて、たまたま担当に なってしまったら、その先生方が行うということでしょうか。 ○吉田教諭 時期によってもいろいろあるのですが、現在のやり方は、やはり1年生を 担任している先生にできるだけ持ってもらうようにしています。学年団はできるだけい ろいろな教科が入るように組みますので、教科は本当にバラバラです。学校によっても 違いますが、本校の生徒のようにある程度手のかかる場合には、ある意味では専門性を 無視して、学年の教員が教科の授業も持つようにしていくのです。例えば、私は地理で 採用されていますが、1年生を担任したときには現代社会を教え、2年生の担任であれ ば日本史を、3年生の担任であれば世界史を教える。そのように授業の中でも自分の学 年の生徒を見るという形で教えていくようにしています。非常に身近な教材であるだけ に、総合学習もできるだけ身近な担任の先生たち、普段顔を合わせる先生たちが教える 形にするようにしています。これは1年生の教材ですので、本校に着任された先生方は、 かなりの確率で一度はこの教材を教えることになるということです。 ○佐藤座長 1997年から始めたとのことですが、毎回累積で改訂された結果がこれだと いうことですね。 ○吉田教諭 そうです。それが現在のものということです。 ○田中補佐 進路指導、就職指導と言うと、進路指導担当主事の方もいらっしゃると思 いますが、ご説明いただいたものは「総合的な学習の時間」で担任の先生や学年担任が 行っていらっしゃるということですが、進路指導の先生との関係というのを教えていた だければと思います。 ○吉田教諭 これもいろいろ変遷があって、神奈川県では各業務の分担のことをグルー プと呼んでいるのですが、現在は進路支援グループの中にキャリア教育コーディネータ ーというポジションを置いております。これは授業時間を若干軽減して「総合的な学習 の時間」の進行の管理、それから、職場見学体験に1年生全員を出すので、それには外 部との連絡調整に非常に多くの時間を使うものですから、今年度からその者が中心とな って「総合的な学習の時間」を進めるという体制を取るようにしております。キャリア 教育コーディネーターは進路支援グループに属しているのでグループのバックアップも 得ながら、学年では1年生の学年団に入ってもらい、連携がうまくいくような組織体制 を取っております。 ○佐藤座長 「総合的な学習の時間」は何回行うのですか。 ○吉田教諭 実はもう1冊ありまして、この進路研究編がIで、IIは生活研究編です。 その2冊を1年間、週2時間の中で行います。端的に言うと、これで1単位分です。法 定では35時間ですが、実際には休み等がどうしても入りますからそんなにはないので す。 ○佐藤座長 Iのほうで1単位ということですね。 ○吉田教諭 そうです。進路研究編で1単位で、もう1つの生活研究編で1単位という 形です。 ○佐藤座長 中田校長、吉田教諭、お忙しいところをどうもありがとうございました。 本日は最後までご出席いただけるということですので、よろしくお願いいたします。続 きまして、委員会メンバーの佐藤委員、増田委員からそれぞれの取組みについて伺って、 お二人の報告が終わった後、質疑応答をしたいと思います。佐藤委員からお願いいたし ます。 ○佐藤委員 お手元の資料3パワーポイントの資料をご説明したいと思います。開いた 裏面の弊社の概要を簡単に説明した後、社員教育の事例のご紹介をしたいと思います。 本研究会のテーマである法律という観点で言いますと、実は私どもはあまりそのような 軸でやっているわけではないのですが、最後にはそのようなことが大事だという結論に なるので、ややトーンが違うように思われるかもしれませんが、一応研究会の趣旨に沿 ってまとめたつもりです。  弊社の商号は新日本製鐵株式会社です。今年は製鉄が始まって150年なので、いろい ろな記念式典を行っていることが書かれてあります。次頁にいって、新日本製鐵という 名前が付いていますから私どもは製鉄会社ですが、他にエンジニアリングなどいろいろ な事業を行っております。しかし、基本的には製鉄の会社だということです。  次のシートに書いてあるのがそれぞれの製鉄事業、会社が5つ並んでおりますが、こ れも昨今の会社では割と当たり前の形式ですが、新日本製鐵という製鉄事業を行う会社 の下に、セグメントと言いますが、いろいろな会社がぶら下がっているのです。今日ご 紹介しているのは人事処遇制度などが会社ごとに全部違います。分けることによって競 争力を高めようということが1つの大きな趣旨になっておりまして、会社を分けている ということです。したがって、今日はメインの事業であり、私が所属している製鉄事業 の話をいたします。  次頁は「世界の鉄鋼需要」で、私どもが暮らしている鉄鋼の世界はどうなっているか が簡単に書いてあります。「粗鋼見掛消費量推移」というちょっと難しい言葉が書いてあ りますが、単純に言えば、需要量推移、世界中の鉄の需要量推移だと思っていただけれ ばいいと思います。一言で申し上げますと、左側にある1964年から1973年に「5%/y」 とありますが、日本の高度経済成長期と世界の鉄鋼の成長というのはぴったり重なって おりまして、それ以降、日本の低成長期ともぴったり重なっておりますので、何となく この表は日本の表かなと思われるかもしれませんが、実はこれは世界中の鉄鋼の需要な のです。世界経済の中のインフラ部門はこのような感じで需要が推移しておりまして、 右のほうにいくと、いまの爆発的な需要が崩れてきているというのが昨今起きているこ とで、そのような状況であることが見て取れると思います。赤い所に書いてありますが、 中国が非常に大きな伸び率を示しており、黄色が中国以外の世界中の需要ですので、い かに中国がインフラ型でたくさんの需要を生み出しているかがわかると思います。  そのような中で弊社の事業上の課題ですが、足下はちょっと変わってしまったのです が、1970年代以降、鉄の消費がほとんど伸びない時代に入ります。そのような中で円高 が進行し、韓国や中国、これは技術協力をしながらそれぞれ立派な会社になったわけで すが、そのような会社が伸びてきて、競合相手になってきている。そのような中で販売 価格が下落してきたので、右の矢印にあるように、「長期に亘って国際競争力が喪失しか ねない状況」、要するに、日本で物が作れないことになりかねないということがいちばん 大きな危機でした。したがって、国際コスト競争力強化を目指して改革を推進し、設備 構造、人員構造など経営効率の向上等々、技術革新などといったことを一生懸命やって きたということです。  次頁でそれを人の面で見ると、人という観点で言いますと、労働生産性を向上するこ とが最大な仕事で、製鉄と言うと、合理化、鉄冷えなどのように、何となくあまりいい 印象がないように思いますが、とにかく生産性を向上させて日本で物を作るのだと、そ の1点に限られています。その結果がこのシートです。棒線が人員、「社内」「出向」と 書いてありますが、直接鉄の製造に携わっているのが青の社内、出向は関連会社だけで はなく、非常に広い範囲で他の会社で働いていただいた時代があるということです。そ のようなことをしながら、非常に長いレンジで見ていますが、労働生産性は5倍ぐらい になっており、中国は労務費が安いですからまだちょっと問題がありますが、韓国とは 十分戦っていける状況にあります。この間、設備休止をしたり、いろいろしております し、当然新商品の開発や工程、これは単に人を減らしただけではなく、作業を減らして 人を減らすのがポイントですので、人を減らすためには技術革新がないと減りませんか ら、そのようなことを行いながら何とか日本で物が作れるような状況にしてきた会社で す。  したがって、新日本製鐵はかつては社員が8万人いて、日本では社員がかなり多い会 社でしたが、いまは1万8,000人です。次頁に書いてあるように、いわゆるスタッフが 大体7,000人ぐらい、現場の作業に従事している技能系の者が1万1,000人で合計1万 8,000人ぐらいです。そのうち社内で実際に鉄の製造に従事しているのは1万5,000人 ぐらいです。労働生産性では、たぶん世界一のレベルにようやくきたということです。 平均年齢は42.3歳、勤続22.5歳ですので、平均年齢もだいぶ若返り始めています。か つて大量に採った人を、採用を絞ることによって人の数を減らし、この間は希望退職も、 いわゆる解雇的なことも一切行っておりません。どのようにするかと言うと、ひたすら 退職をしていただくのを待ちながら、一方、ミニマムの採用をしていくという形にして いますが、最近ではそのような状況も終わっておりますので、採用実績に書いてあるよ うに、現場は481人、去年は394人、そのうち中途採用は198人です。  中途採用の方は先ほどの話にもあったように、いろいろと厳しい目に遇って弊社に入 ってきております。例えば「えっ、残業って付くんですか。」とか「労働組合ってあるん ですか。」と平気で聞くので、実は我々にとってもかなりショックでした。非常にいい人 間だと見込んで入社してもらい、それなりのしっかりした会社で働いてきたのかなと思 っていたのですが、世の中はそうではないことが中途採用の人間を通じてわかりました。 これは先ほどの負の話と全く逆でして、私ども18歳で入社した人間は会社に慣れてし まっているので、弊社の状況は当たり前だと思っているのですが、世の中はそうではな いというか、正の教育効果を生んでおります。そのような意味では先ほどの話と表裏の ようなことですが、きっちり実態を知ることがすべての基本であることを、彼らの話を 聞いていると改めて強く思います。  この辺が全体観ですが、少し具体的な研修体系といったところに入っていきたいと思 います。これは弊社のいちばん大きな製鉄所である千葉県の君津製鐵所の操業・整備職 場、いわゆる現場の研修体系を示したものです。一部を抜粋しておりますので見にくい ところがあるかもしれませんが、上は年齢で、大体39歳ぐらいまでの20年間、どのよ うなことをやるかを簡単に書いてあります。左側に役職とありますが、どのような役職 になることを期待されているかということで、最初は一般で入りますが、その後は現場 の小隊長みたいな者を班長と呼んで、入社して10年以上、30歳ぐらいになったらこれ になるようにということで作ってあります。  我々は職場内のOJT(On the Job Training)がいちばん大事だと思っております。1 つはローテーションをきちっとこなすということで、4年ごとにAポジション、Bポジ ション、Cポジションといったいろいろな職場に回してしっかり技能を身に付ける。今 日の話に関連して言えば、技能だけではなく、人間関係をつくっていくことだと思って おります。すなわち、鉄鋼の製造というのは巨大なプラントですが、前後の仕事がわか らないで、私はここだけというのが最もまずい考え方ですので、いろいろなことを知っ ている、いろいろな人を知っている、困ったときに相談できる、このような人間関係を つくるためには、仕事もそうですが、いろいろなポジションの中に飛び込んでいっても らうということです。  次の箱に「所内大会リーダー」と書いてあります。20代後半、入社7、8年目のとき に、例えばこれは空気呼吸器装着大会で、こういうのはいかにも現場らしいですね。い わゆる有毒ガスが出たときに早く着けないと大変なことになります。あるいは、そうい う恐れがあるときに空気呼吸器を早く確実に着ける大会を行っています。そういうので 若手を指導しながら、リーダーを20代でやって18、19歳の若者を鍛えたりします。  新人のコーチャーというのを、入社7、8年目以降から、15年目ぐらいの人間の中か ら任命します。ここも若い人が入ってきたときに、彼らをもう一度鍛え直して社員とし て一人前にしていくためには、逆に世代の近い人間が親身になって教える。先ほども話 がありましたが、相談できる先輩をつくらなければいけない。その先輩をつくるために は下の「OFF-JT研修」というので、少し下に目を移していただくと「コーチャー研修」 というのを行っています。事前に自己流でない形で、少なくともここだけは押さえてお いてくれという研修を行いながら、新人も自分も成長する。こういうことを行っていま す。  下の「OFF-JT研修」というところを見ていただくと、後ほど少し説明しますけれど も、新入社員の導入研修を3カ月行っています。これもいろいろな意見があります。忙 しいのに3カ月も人を遊ばせておくわけにいかない、というのはあるのですが、日本中 から高校生を採っていますので、北海道から九州まで出身者がいます。彼らのチームワ ークを作るためには、しっかりした時間がないといけないということで、相当厳しい時 代もこの3カ月という、ある種、会社から見たらアイドルタイムですけれども、これを 確保しています。あと1年目と3年目に研修をして、ここに「総括」と書いてあるのは、 躾・定着を意識した研修ということです。何よりも躾です。そういうことをとにかく徹 底的にやらないと、長くきちっと働いてもらえないと思っていますので、こういうのが あります。  先ほど申し上げたコーチャー研修とか、働いてから10年目ぐらいになると少し緩ん できたりしますから、そういうところを緩ませないように、自分たちの後輩をきっちり 躾ける意味でも、若手リーダーを意識させるようにする。あと役職にプロモートすると か、そういうことがあるということで動機づけをしていく。  実はこの中の1つの大きなキーワードというのは、コミュニケーションをきちっとと ろうということです。躾というのは結局、そういうことが我々はいちばん大事だと思っ ていますので、別にお辞儀をちゃんとしなさいというのが大事なのではなくて、コミュ ニケーションをきちんととる。それは上下とのコミュニケーションでもあるし、横のコ ミュニケーションでもある。ここにいろいろな形が書いてありますが、そういうことが いちばん大事だと思っています。  次の頁に新入社員教育のカリキュラムが書いてあります。マルで囲ったのが「社会人 としての知識・心構え」、「人権問題」、「労使関係」、「人事制度 能力開発」、「給与制度に ついて」ですが、労使関係や人事制度は法律に基づいて作られていますから、これは法 律で決まっていますよと言いながら教えています。点線で囲ったものは、いろいろな人 間関係や、自分1人でものをやっていないとか、いろいろなことを気にしなければいけ ないなど、社会人になっていくことをどうやって意識づけさせるかということで、実は そんなものばかり入っています。知識教育は労使関係とか知的財産など一部あるだけで、 ほとんどそういうことをずっと教えているというのが、実はこのポイントです。  当然、高卒で入ってきて急に給料をもらうと金銭トラブルに巻き込まれますので、そ ういう実例を最初のうちに打ち込んだり、すぐ車を買って事故を起こさないように、半 年間は買ってはいけないというルールがありますが、交通安全活動をやったり、自衛隊 に1週間お世話になって自衛隊の訓練を一緒に体験してみたり、2カ月間、班を作って、 これは彼らが配属になる工場とは関係ない、一般的な実習をずっと経験させていきます。 そういうのを3カ月間行っています。したがって、あまり知識ということよりも、学校 を出て来てまずちゃんと躾をする。躾というのは我々で言うと、こういうことを実践す るのが躾だということです。  次の頁にコーチャー研修が出ています。これは先ほど言ったように、10年前後の人間 にどういうことを教えるかということです。いろいろなことを改めて徹底することがあ るのですが、例えばメンタルヘルスということも若いうちに1回、ちゃんと産業医の話 を聞いておく。その下に赤字になっていませんが、警察に来ていただいて事件や事故の 防止ということで、これは後輩を指導する上でも、何となくそこら辺で本人自身が緩ん でいるのではないかというのも正直言ってありますから、両面でちゃんと話をしていた だく。コーチングの研修ということで、まる1日、ロールプレイなども含めながら行い、 10年経って先輩としての自覚を持って、きちっと若い人間を育てていく。これは先ほど 言った相談できる人間になってほしいということです。  次は、それと同じような時期に行っているもので、現場の小隊長である班長あるいは 若手リーダーの研修体系です。赤字で書いてあり、これはどちらかというと知識教育で す。その中で勤務給与、労使関係といったことを改めて教育します。勤務給与の中には 当然、労働法を背景にした弊社の就業規則を教えます。労働法そのものを彼らに教える ことは実はなかなか厳しいので、就業規則を徹底的に教えます。「確認テスト」と書いて ありますがテストをします。  そうなると、本日の研究会のテーマに全然関係ない話をしているように思われるので すが、実はそうではなくて、私どもはどちらかというと法律そのものは管理職、上司に 対して教えるようにしています。すなわち就業規則は当然に法律に基づいて作られてい ますし、ほかのことも法令を守っているという前提で作られていますので、まず一般社 員に対しては法令を教えるよりも、社内のルールを教えることが大原則だと思っていま す。しかしながら、上司が把握しておくべきことは何に因って立つべきものなのかとい うことであり、場合によっては罰則です。そういったものもきちっと教えることにより、 それを守らせていく。社内規則を守るのは単に社内規則ではないのだということを、上 司教育で教えていくということです。例えば、管理職テキストを見ると、具体的な条文 を出しながら法定で決められていることを紹介しています。もちろん安全衛生教育なん かはもっとしっかり行っていますので、それを入れると話が非常に煩雑になりますから 省略しています。  したがって、若いうちは、とにかくコミュニケーションをきっちりとれる躾をすると いうこと。社内の規則をまず守りなさいということを教えていますが、一方、管理者に 対しては、なるべく法律をよくわかって、これは法定であって絶対守らなければいけな いのだということ。どうしても社内ルールですと、「そこを何とか。」みたいな感じにな るので、そうでないということを上位者から教えていくことをしないと、バランスがと れないし効果がないのではないかと思っていますので、管理職教育もポイントだけ抜き 出せば、こういうことだと思います。  本研究会との関係で申しますと、「まとめ」ということで書いてあります。当たり前の ことですけれども、背景にある真の課題は「労働関係の紛争や不利益な取り扱いの未然 防止および解決」ということで、そのことを「労働関係法制をめぐる教育の在り方」と いう切り口で議論していると理解しています。  それは、今日も全くその意を強くしたわけですが、紛争や不利益な取り扱いに至った 経緯において、法知識というのは法律そのものであったり、それを基にした社内規定だ ったり、あるいは労使関係もそれをベースにできていますので、そういったことが欠如 しているということと、コミュニケーションの欠如が二大要因であり、この2つが分け られないと思っています。それを換言すると、「働く」ということの基本として遵法とコ ミュニケーションというのは極めて重要で、その意識の高い者ほど紛争や不利益な取り 扱いに至りにくいのではないかと思っていますから、いま申し上げたコミュニケーショ ンと社内規律、そして上位者は特に法律という観点で学ぶ。そういうことを行っていま す。  正直言って、そういうことを行ってもいろいろな揉め事があります。全く何も揉め事 がなくて全く大丈夫かといったら、そんなことは全くありませんので、そういう意味で は、こういう観点でヒアリングをお聞きしても、どこの皆様も実践しておられるし、学 校もそうですし、行政もそうですが、こういう取り組みをきちっと行って、どちらかだ けというのがいちばんよくないですし、具体的でないものはなかなか定着しないので、 是非、そういうことのまとめができればということです。簡単ですが以上です。 ○佐藤座長 ありがとうございました。続けて、増田委員からご報告いただいて、それ から議論したいと思います。よろしくお願いします。 ○増田委員 私のほうは資料4がレジュメとなります。私は労働組合の立場から意見を 述べさせてもらうことにします。まず現状認識ですが、行政機関が行っている全国の労 働相談コーナーには、2007年度に約100万件の相談が寄せられたとの報告を聞いてい ます。また、労働審判の今年の事件数は昨年1年間の事件数を上回ることが確実となっ ています。さらに、私どもが行っている連合の労働相談ダイヤルには、2007年10月か ら2009年9月までに9,599件の相談が寄せられている状況です。  参考資料5-1をご覧ください。「連合労働相談の受付状況について」という資料です。 全体で9,599件、雇用形態別では正社員、パートタイム、派遣社員という件数になりま す。年代別では1番目に40代がきて、次に30代、50代、20代という相談件数になっ ています。業種別ではサービス業、製造業、卸売・小売業の順です。相談のルートは「ビ ラやパンフを見て」と「インターネット」が上位を占めています。相談項目は賃金、雇 用関係、労働時間関係等々が続きます。  相談の中心となるものは、労働組合の関係、労働契約関係、賃金関係、労働時間関係、 雇用関係、退職関係、社会保険・税関係、差別等ということで、これらは相談先を知っ ていた方々からの相談であり、この相談件数の陰には、相談先も知らずに泣き寝入りし ている労働者が、相当数いると見ておかなければならないと考えています。  私も地方連合会での労働相談ダイヤルを担当したことがあります。連合の労働相談ダ イヤルに寄せられる相談に対応すると、労働者の権利や労働法制について、あまりにも 知らない人が多いことに驚かされることがあります。  次の資料は参考資料5-2ですが、連合の関係研究機関である連合総研が2008年10月 に実施した「第16回勤労者短観」です。この調査の実施概要は2頁に記載されていま すが、タイムリーな調査として新聞やテレビニュースなどにも取り上げられたものです。 調査によると、景気が「悪くなる」と答えた方が調査開始以来最大であるとか、低所得 者層では実感として物価上昇率が高く、食料品の節約志向が強いとか、今後1年ぐらい の間に失業する不安を感じている者が23.8%もおられて、これは朝日新聞では失業の不 安が4人に1人と報じられました。  興味深い調査結果となっていますが、今回、特に注目したいのが28頁からの「労働 者の権利についての認識」の部分です。28頁を開けていただくと図表III-1で書いてい ますように、法律で労働者の権利と定められていると思うものをたずねて、認知状況を 測る目安としての結果を得点化したところ、中・高校卒、個人年収が200万円未満の層、 そして労働組合に加入していない層などで比較的低い、ということが書いてあります。  29頁で、労働者の権利に関わる知識の情報源は、「新聞・テレビ等の情報」から得た とする者が最も多く、「会社の教育訓練」が次に続き、学校で指摘されたとする者の割合 は少なくなっています。  30頁の表を見ていただくと、特に権利認知得点が低い「知る機会がなかった」とする 者は、20代、中・高校卒、労働組合に加入していない層などで多いという結果が出てき ています。  31頁で、雇われて働いていく上で、労働者の権利を知っておくことが不可欠だと思う か、という質問に対しては、20代や労働組合に加入していない層においては、他と比較 すれば感じる度合いが低いという結果になっています。総じて言えば、中・高校卒、そ して年収200万円未満の低所得層、20歳代、労働組合員未加入の人は、他の層と比較 して労働者の権利に関する認知度が低く、労働者の権利を知る機会がなかったとする回 答が多いという結果が出ていると思います。  次に小中高・大学教育における労働法教育ですが、これまで説明した状況などは国民 生活審議会においても、働くという観点からは、我が国における労働関係法令遵守水準 の低さの大きな原因の1つとして、学校教育段階で働くことの意味をはじめ、働くこと に関する的確な教育が行われていないことが指摘されるところであります。働くことの 権利と義務など、働くことに関する教育の充実を通じて、若年者の職業意識の形成が重 要であると考えられると明記されているように、学校教育における労働法教育が不十分 であることについては、指摘しなければならないと思います。  次に、地域における労働法教育について感じるところを述べます。私の知り得る範囲 では、集団的労使紛争が増加の時代のころ、地方の労政事務所等が主催する労働法講座 が全国各地で開催されていました。仕事を終わってそこに集う労働者、労働組合の関係 者、中小企業の経営者などが参加し、熱心に学習していた姿があったように思っていま す。最近は残念ながら地域で労働法講座を見ることが少なくなっています。もしかする と皆無と言わざるを得ないかもしれません。これは国などの補助金削減、廃止などで、 各県の労働教育事業などの実施根拠がなくなり、その結果、施策が大きく後退したこと によるものであると聞いているところです。  次に、連合の取組みについて若干紹介したいと思います。連合の関係機関である連合 教育文化協会は、大学の労働法研究者の協力を得て、連合運動の若手リーダーの育成を 目的とし、若手組合役員を対象に連合アカデミー・マスターコースを開催しています。 またアカデミーでカバーしきれない専門分野として、組合役職員を対象に女性リーダー 養成講座、中小企業経営分析講座、社会保障講座、労働法講座など、各種講座やセミナ ーを開催しているところです。  さらに大学生に対して、労働組合の役割や労働運動の意義などを教育する重要性から、 連合寄付講座を設けています。これは大学の履修科目として労働組合の役員が各大学で 講義を行うものです。現在は同志社大学社会学部、一橋大学社会学部、埼玉大学経済学 部において単位認可科目の講座を持っています。また、連合は労働審判制度の審判員の 要件である基礎研修、審判員の再教育としての応用研修について積極的に受講するよう、 構成組織、地方連合に働きかけています。それぞれが毎年、200名前後受講している状 況となっています。  次に、構成組織における労働者教育について、若干紹介したいと思います。UIゼンセ ン同盟は岡山に独自の研修施設、「友愛の丘」という宿泊施設付の研修施設を持っていま す。労働法や労働条件の基礎知識など、毎年、1年間分のカリキュラムを組んで労働者 教育を行っています。この研修所は他の労働組合あるいは地域にも開放している施設と なっています。  電機連合ですが、産別としては中堅・中小労組の人材育成を目的に、労働組合活動の 基礎教育、労働協約・労働法などを学習する研修として、電機連合ユニオンカレッジと いうのを、東西2カ所で開催しています。電機連合の産別ではなく各単組では、それぞ れ大規模な研修施設を持っている所もあります。私の知っている範囲では三菱電気、松 下、シャープ等、その他もたくさんあるのですが、大規模な研修施設を持って組合員教 育及び地域や他労組に開放する取組みを進めています。  レジュメには項目を入れていませんが、情報労連という情報産業では組合員の教育活 動とともに、大学生に労働組合の役割や労働環境の実態、情報通信産業の将来などを伝 えて情報を共有し、働くことの質を高めるために「明日知恵塾」というものを、これま で12回にわたって開催し、情報労連の組合役職員による講演や職場見学、グループデ ィスカッションなど、労働組合と学生との働くことに関する意見交換の場を提供する取 組みを進めています。  最後に付け足しで我が組合のJP労組ですが、組合員の人材育成を目的として、組合 員の各レベルに合わせたセミナーを毎回開催しています。現在、全国に466支部が存在 しますが、西と東に分けて2回ずつ行っている支部長研修と支部書記長研修、また女性 セミナー、ユースセミナー、新入組合員向けの取組み、あるいは役員経験がない組合員 向けのセミナーなどを行っています。教材なども統一して作って活用しているところで す。  次に、労働関係制度の教育に関する考え方として、私どもの考え方を述べたいと思い ます。労働者の権利、労働関係法制を学ぶ意味ですが、雇用社会の日本にあって労働者 の権利、労働関係法制を学び、知ることは生きていく上で必要不可欠であると同時に、 身を守る手段でもあり、国民全体にとって重要な問題であると考えています。学ぶこと の意味は、その8割が雇用労働者である日本ということの中にあって、生きていく上で 必要不可欠との考え方に立って、各施策を進めるべきであると考えています。  学校教育、地域における教育というのも非常に重要であり、各段階に応じて労働者の 権利、労働法制について教育を行うべきということです。労働者や学生など、あらゆる 層の勤労者が学ぶことのできる機会を設けることが、関係機関あるいは行政機関の連携 によって実現できたらと思っています。労働組合においては、自らの責任として労働者 の権利、労働法制を学ぶ機会を、さらに増やしていくことが重要であると考えています。  最後にまとめとして、労働法制の教育に関わる提言ということで意見を述べます。ま ず厚生労働省と文部科学省、法務省等が連携して、労働法教育や契約ルールなどの法教 育を行うことが重要であって、国民、労働者が学習する機会を提供することが必要では ないかと思っています。それと学校教育が非常に重要であることから、小学、中学、高 校、大学の各教育段階に応じて、労働者の権利、労働法制などをきちんと教えることが 重要です。とりわけ中学、高校、大学では、卒業生に対する教育の充実を早急に図るべ きです。また大学においては労働法を必修科目とすることを検討するべきであると考え ます。特に教える立場の先生方への教育や、大学の段階においては、教職課程に何らか の必修講座を義務づけるべきではないかと考えています。  大学あるいは学校の教育とともに、勤労観、職業観の醸成に向け、現役の労働組合役 員やOBを積極的に活用する。あるいは教職員に対する研修を実施するなど、学校、大 学と産業界、労働界との連携強化も進めるべきであると考えています。  各都道府県労働局、自治体などの行政機関が中心となり、労働法講座、セミナーなど を全国各地で積極的、恒常的に開催することが非常に重要になっていると思います。か つてのような労働者、労働組合、学生向けの権利教育を復活させるための予算措置を講 じるべきであると考えています。さらに労働組合が主催する市民や地域に公開して行う 同種の講座、セミナーに対しても、何らかの補助が行われて然るべきであると考えてい ます。  最後に、いちばん問題になる、労働組合が存在しない職場の労働法教育の提供ですが、 高校、大学を卒業して就職したときに、労働組合のある職場であれば組合が労働者教育 を行う機会はあります。労働者は学習する機会を得ることがあって問題化できるという ことになります。しかし、労働組合のない企業に就職した労働者にはほとんど機会がな いのが現状です。先に紹介した連合総研の調査からも、労働組合未加入の人は労働者の 権利に関する認知度が低く、「労働者の権利を知る機会がなかった」という回答が多い結 果となっています。私どもも労働組合未加入者の組織化に全力を上げて精いっぱい取組 みを進めますが、労働組合のない所で働く労働者に学習する機会を提供するためには、 前述した地域における講座やセミナーなどの開催が必要なのではないかとまとめて、私 の意見とさせていただきます。ありがとうございました。 ○佐藤座長 ありがとうございます。この後、先ほど労働関係法制度の知識の理解状況 の調査を、この研究会で実施していますので、それの中間報告をご説明いただいた後、 いまの佐藤委員、増田委員のご説明を踏まえた議論をしたいと思います。事務局から報 告をお願いします。 ○田平室長補佐 次回に詳しい内容は報告させていただきたいと思いますので、簡単に 結果を報告させていただきます。  資料5-1ですが、社会人調査で回答者970名、男性が58%ということで、年齢の分布 もかなり均等がとれている状況です。正社員の割合は66%です。2頁ですが、労働組合 の有無は「ある」、「なし」がほぼ同じで40%ぐらいです。3頁で労働組合の加入状況は 「加入している」が30%、「加入したことがない」が60%という状況です。4頁で問4 の婚姻の状況は「既婚」が45%、問6で最終学歴は「大学」が45.1%となっています。  今回のテーマの知識の理解状況というところで主要なところですが、3頁の問3-10で 就業規則は「ある」が82.9%です。4頁で保管場所は約84%が「文書配布されている」、 「職場に掲示されている」で、「どこにあるかわからない」が16%です。  5頁の問8ですが、用語の内容の認知状況で「年次有給休暇」、「育児休業」、「ハロー ワーク」といった用語の認知状況は高いのですが、「団結権」、「未払い賃金の請求権」と いったところは低くなっています。問9は具体的な事例を挙げて法律違反かどうかを判 断させる調査ですが、「団結権」とか「残業割増」といったもので正答率はあまり高くな く、逆に「最低賃金」、「男女雇用機会均等」、「労災保険」などでは高い状況になってい ます。  7頁の問10ですが、勤務先における働き方に関する質問です。勤務先における不当な 扱いに関する経験について、実際の労働条件が募集と提示された条件と違うとか、就業 規則がいつでも確認できるようになっていないといった項目で、3割前後が「経験があ る」と回答しています。問10-1ですが、それらの問題を経験した後に、先ほどの吉田 先生の話にもありましたけれども、相談ができるかどうかというところです。職場の先 輩社員や同僚に相談した場合、友人に相談した場合もありますが、「転職した」、「辞めた」 が2割、「何もしなかった」という回答も41%になっている状況です。  8頁の問10-2で、「問題を経験した後に行動したものの、問題が解決したことのほう が少ない」、「ほとんど解決しなかった」を合わせると約80%になっています。問13で 何も行動を起こさなかった人が、その理由についてどう答えているかというと、半数は 「どうせ何も変わらないから」と回答しています。  次に資料5-2は学生調査です。回答者数は約460名、男女はほぼ同数で、高校生が約 51%、大学生が45%です。学校卒業後に就職を希望している学生は42%、就職活動を 終えて内定をもらっている学生は44%です。  2頁で問7のアルバイト等の経験については、「ある」と回答した学生が約63%です。 そのうち、どのような不当な扱いを受けたかを聞いた3頁の問8については、社会人調 査と同様に、「実際の労働条件が募集や面接等で提示された労働条件と違う」というのが 最も多くて約22%です。社会人調査と比較すると、それらの問題を経験した後に友人に 相談したり、親に相談した場合が多くなっています。「転職した」、「辞めた」が19%、 「何もしなかった」は55%です。  知識の理解状況については4頁の問9で、用語の内容認知状況で「最低賃金」、「育児 休業」、「男女雇用機会均等法」、「ハローワーク」といった用語の認知状況は高く、「未払 い賃金の請求権」などの認知状況が低い状況です。  5頁の問9ですが、学校において教わった用語については、「団結権」、「育児休業」、 「男女雇用機会均等法」は学校において学んでいるという回答が高い結果ですが、それ 以外の用語については概ね認知状況との間に大きな差があります。  問10も社会人調査と同様に具体的な事例に関する違法性の判断ですが、「団結権」、「残 業割増」といった事例で正答率が低く、逆に「最低賃金」、「年次有給休暇」、「男女雇用 機会均等法」等などで正答率が高い状況です。社会人調査と比較すると概ね正答率は低 くなっていますが、「育児休業」の事例が社会人よりも正答率が高い状況になっています。  学校内外の活動について聞いた問11以降ですが、6割を超える学生が「高校までに進 学・就職など進路を考えるための授業・プログラム」、「個別相談」を受講または参加し ています。「労働者の権利・義務を学ぶ授業・プログラム」については、受講学生は3 割程度となっています。短大・大学などで「労働者の権利・義務を学ぶ授業・プログラ ム」を受講した学生は、2割を切っている状況です。  駆け足ですが、とりあえず単純集計結果についての報告をさせていただきました。 ○佐藤座長 ありがとうございました。残された時間が25分ぐらいありますので、佐 藤委員、増田委員からのご報告について、ご質問、ご意見があればということ。あと中 間報告についてはこれから詳しく分析するということですから、気づかれたことがあれ ばということです。もう1つは資料6があります。一応、論点ということで出していま すので、特に大きな点が落ちているとかを今日の段階で伺えればと思います。まず最初 にお2人のご報告について、あと中間報告についてご質問があれば、あるいは全体を通 じていかがですか。  今回、学校段階と働き始めてから、それぞれ労働者として働く権利をどういう形で提 供するか。もう1つは、具体的にそういう問題に直面したときに、どのような対応の機 会があるかを知ってもらって、対応できるようにするかを議論していたわけですが、特 に知識だけでなく、今回はコミュニケーション能力ということで、その後どう対処する かがすごく大事ですが、ここはなかなか難しくて、どうコミュニケーション能力を高め るか。これは今回のテーマだけでなく、もっと広い意味で横、縦を含めた人との付合い 方、あるいは自分の思っていることをどう伝え、相手の言うことをどう聞くか、この辺 をどう高めていくかが大事だということです。  もう1つは、学校段階での教育は出た後のことを考えていたのです。確かに高校、大 学在学中に皆さんは働いているわけです。既に学校段階である面で労働者としての側面 を持っているので、実際にここでいろいろな経験をして、そこでも解決できないという のは、吉田先生が言われたように知識として学ぶことと実態のギャップが大きいと、い くら知識を提供しても実際にそんなものだという対応をとられてしまうことがある。つ まり学校段階でも知識を教えるだけでなく、そこで実際に遭遇している課題について、 どう対応できるかについても併せて考えることをしないといけないと、今日、ご提案が あったかと思います。  佐藤委員のお話を伺っていて、企業が行うのは確かに一般社員については就業規則を 通じてですね。そうすると、ここは普通に考えれば法律を上回っている部分がかなり入 っていたりするわけです。ですから企業に入って就業規則でいろいろ勉強しても、別の 会社に来てしまうと就業規則は当然違うし、ある面では法律が守られていない会社もあ りますから、企業での教育というのは法律についての部分があるのはたしかです。 ○佐藤委員 そうですね。まさに、いま先生がおっしゃったように、まず管理職をきち っと鍛えることを通じて教育するのが、たぶんいちばん早いのだろうなということ。特 に罰則等もありますし、会社全体への影響、まさにコンプライアンスの影響等もありま すから、まずそこを押さえて、結果的に今日の研究会のテーマに関係するところに波及 させていくというのが、企業のやり方だと思います。就業規則ですら暗記させてテスト したりするのですが、正答率が悪かったりするのが正直なところです。  ただ、自分で部下を持つと、「おい、これはどうなっているんだ。」と必ず人事に聞き に来るわけです。先生がまとめていますけれども、実際に使ったり考えたりという場に 遭遇しないと、なかなかこういうものはないのです。ただ、それが非常に重要なもので あるが故に、何とかその前に知ってもらいたいという難しい話を、いましているのだと 思いますが、企業の中でもそこは全く一緒です。 ○佐藤座長 先ほどおっしゃったように、高校生などがアルバイトをしている主要な業 種では、割合に経験の短い人が店長をやっていたりするのです。それが悪いというわけ ではないですが、そういう問題もあるのかもしれない。1つだけ、今日は文科省の方は いませんが、参考資料1の後ろの学習指導要領のところで、これを見ると新しい中学校 のところにも古い中学校のところにも、勤労の権利とか義務を書いてありますけれども、 高校はそういう言葉が出てこないのですね。公民と政治経済のところには雇用とか労働 問題、労使関係という言葉が出てきますが、勤労の権利・義務というのは中学のほうに 出てきます。  高校の学習指導要領には、そういう直接的な言い方はないのですね。 ○吉田教諭 教科書レベルでは、そういう表現が入っているのもあると思いますが、私 も中学と高校の教科書を比較してみるということをしていないのです。 ○佐藤座長 それではお2人の報告、資料6の論点について、どなたからでも結構です ので、ご質問・ご意見を伺います。先ほどの学生調査だと、先生に相談するより、親と 友達ですね。学校はあまり出てこない。学生編の場合はですね。ただ、いずれにしても 半分は何もしないということです。 ○原委員 あまりまとまっていないのですが、これまでの研究会でもさまざま言われて きたように、知っているけれど行動に移すところにつながっていかないというのは、小 学校、中学校を通じた経験や、社会環境に規定される部分も大きいのかなと思うし、学 校教育の果たす役割が大きいのかなとも実は思っています。権利の大切さや知識が広が るということは外部経済性のある活動になりますから、無形の社会資本の蓄積みたいな 形で、国と学校というところがかなりポイントになると思うと、文科省との連携なしで はかなり難しいのかなと思いました。  あと感想めいてしまうのですが、さまざまな取組みがなされているのだなと思うので す。ただ、その情報が届いていないという現状をどうするのか。労働者自身が取組みに 移す前に、実はやっているけれども個々人には情報が届いていないという実態もあるの かなと、ちょっと思いました。 ○佐藤座長 先ほど厚生労働省のガイダンス事業も知らないという話がありました。就 職する生徒が多いから、比較的ハローワークとは普通は連携があるわけですよね。 ○吉田教諭 そうですね。 ○佐藤座長 だけど、ハローワークからそういう話は来ていないということでしょうか。 ○吉田教諭 就職ガイダンスについて、私はお聞きしたことがあると思います。ただ、 会場が学校で開かれていなくて。 ○佐藤座長 学校に来るわけではないのですね。 ○吉田教諭 そうなのです。たぶん人数が多かったりすると、大きな会場で地域の高校 生を集めてとなるのですが、生徒をそこまで連れて行くことがなかなかできない。自分 にすごく自信がある生徒はどんどんどこにでも行けると思うのですけれども、自分自身 にあまり自信がなかったりする生徒たちにとっては、就職活動というのはすごく大きな ハードルなのです。こういう外部の他の高校生もみんな一緒になる所にわざわざ足を運 んで、こういうプログラムを受けるということに対して前向きになれる若者自体が、ち ょっと少ないのかなということです。うちの学校からこれに参加した生徒は、たぶん案 内とかいただいたり、「今度ここでやりますよ。」というのをいただいたりしていると思 いますが、あまりいないのではないかと思います。いま私は進路指導部ではないので最 近の状況はわからないのですが、以前、進路支援のところにいたときには、「こういうの がありますよ。」というのが来たけれども、あまり参加する行動にはつながらなかったよ うに思います。  ですから、このプログラムに入っているようなことは、学校内で3年次になると放課 後に設定をして、進路説明会を1回目、2回目、3回目と行い、求人票の見方も入って きますし、実際の自己PRを考えさせたり、マナーのレッスンをしたり模擬面接をした りということを学校内でずっとやっていくのです。毎回、毎回つかまえてと言うと変で すけれども。 ○佐藤座長 学校に行くわけではないのですね。 ○田中補佐 補足説明させていただくと、今回ご紹介いただいた高校は、就職希望者と 進学希望者が混在しているとのことです。先ほどご説明した就職ガイダンスは、生徒さ ん全員に行うものではなく、就職を希望されている、ある程度進路が明確になっている 方を対象として実施しています。例えば生徒のほとんどが就職する高校であれば、そこ に出かけて行くことは効率性の点からあると思いますが、そうでない場合は何校か集め て行う方が効率的にできる、といったことだろうと思います。 ○佐藤座長 就職する人が多いと、出かけて行くメニューもあることはあるのですね。 ○田中補佐 就職の支援というよりは、職業意識啓発という観点から、例えばキャリア 探索プログラムということで、地域の働いている人に学校に行ってもらったり、ハロー ワークの職員が学校に行くという取組みを、現在、中学校、高校でやっているのですが、 いまご紹介したのはあくまでも就職希望者に対して、どういうふうに活動していけばい いかを教えるというものです。ここ最近ですが、フリーターと正社員の違いとか、労働 関係法制について盛り込んできたためご紹介させていただきました。 ○佐藤座長 先ほどコミュニケーション能力があるというところで新日鐵さんのような、 ああいうふうに行っていただければいいと思いますけれども、高校とかだったらどうで すか。どういうふうに行う可能性があるか、その辺のところはいかがですか。 ○吉田教諭 通常の例えば「総合的な学習の時間」だと、できるだけグループで話し合 う時間を多く取ったりしています。また、中央大学と連携授業などもしているのですが、 高校を卒業して働いている人たちのケーススタディを持って来ていただいて、そのケー スをプレゼンテーションしていただいた後にみんなで話し合う。そういう中で友達同士 でいろいろな話をしますが、アルバイトや働いているときの話は、そんなにする機会が なかったりしますから、そこで結構話題が出て、「お前のところ、待遇が悪いんじゃない か。」とか、そういう働くことについてのコミュニケーションを広げていくような仕掛け というのは、できるだけ作るようにしています。 ○佐藤委員 言われたようなアルバイトの経験を、学生同士で話し合って指摘し合った りするというのは非常にいいことだと思います。そういうのが、ひょっとしたらこれは 自分たちを救ってくれるものがあるのではないかという気づきになって、興味を持った り法律を勉強したりする。進学する子は関係ないと、たぶんその子たちはそう思うので しょうけれども、本当は関係ないということはなくて、そこは積極的に参加するのはな かなか難しいと思いますが、そこはすごくいい取組みだと思いました。  もう1つは、クラブ活動というのはなかなか難しいのでしょうか。昔みたいな上下関 係ではなくて、もっと柔らかいものでもいいのですが、人が集まるのはいいなと素直に 思えるようなものとして、クラブなどは今はあまり盛んではないのでしょうか。 ○吉田教諭 部活動の加入率というのは学校でかなり差があって、たぶん本校は低いほ うです。それでもだんだん活発にしてきて、できるだけ力を入れるようにしているので すが、すぐ帰ってバイトという子たちもいます。バイトをしていない子に理由を聞くと、 部活とかを優先させたいからということで、そこは時間の使い方でどちらを取るかとい うふうに、たぶん生徒たちの中ではなっているのかなと思います。 ○中田校長 部活動はやりたいけれども、アルバイトをしなければいけないからやめて しまう子も多いですね。 ○佐藤座長 きちっとしたデータはないのですが、いま大学生もゼミに入っている学生 が少ないし、クラブ、サークルも減っているのです。大学で人とコミュニケーションす る機会は昔より減っているのではないかと思います。 ○上西委員 コミュニケーションの範囲が、先ほどの調査結果で親や友達とは話をする けれどというのがあって、親や友達だと「しようがないよね。」という話に、たぶんなっ てしまうのだろうなと思います。そうでなく、ちょっと離れた所でもう少し大局的な見 方ができたり、専門的なアドバイスができたりする人と、いかにつながるかが大切です。 吉田先生の実感からすると、学校に来てくれて、その人の顔が見えないと相談に至らな いということですけれども、でも現実にそれは難しいということであれば、学校から地 域のハローワークに出向いて、ハローワークで話を伺う。あるいは労働相談センターみ たいな所に出向いて、現実、こういう問題を、こういうふうに解決していますという話 を聞く機会を1回でも設けていると、そこにハローワークがあったなということが記憶 に残るのかなと思います。 ○吉田教諭 そうですね。全員にいきなりというのはなかなか厳しいので、是非、その プログラムは、2年生の総合あたりで講座を選択した子たちを、そういうふうに外のセ ンターに連れて行くとか、ハローワークに連れて行くということはしてみたいと思って いるので、また考えさせていただきたいと思います。ただ、さきほどからのお話の中で 1点だけ思うのは、アルバイトについて本校は、望ましい、望ましくないという議論以 前に、アルバイトをせざるを得ない生徒たちが多いので、当然のこととして受け止めて いますけれども、学校によってはアルバイトの実態を把握するのが難しい学校はたくさ んあると思います。つまり許可制にしていたりして、許可されていないという生徒たち は、素直には答えないでしょうから、その辺、本当に高校生のアルバイトの扱いという のは学校によって非常に微妙な部分があります。本校は、アルバイトを行ってもいいよ ということですし、行った上で、その問題をできるだけ引っ張り上げていこうと動いて いますが、そういう学校は少ないと思います。 ○佐藤座長 全体的には、高校だと許可制の所が多いと考えたらいいですか。 ○吉田教諭 許可制が多いと思います。長期休業中は許可するけれどもとか、そういう 条件が学校によっていろいろあると思います。 ○佐藤座長 原則、学業中心ですよという考え方で、アルバイトは基本的にはしないほ うがいいということなのでしょうか。 ○吉田教諭 今までの流れとしては、そうだと思います。 ○佐藤座長 ただ、実態としては相当していますよね。 ○吉田教諭 そうですね。ですから研究者の方と話をしていると、アルバイトを調査し たいけれどなかなか難しいとか、学校が許可してくれないので調査に入れないという、 そこが非常に微妙なところの課題かなと思います。 ○佐藤座長 高校生がハローワークを見学するとかは可能なのですか。 ○田平室長補佐 あまり大勢だとか、あまり目立った形でというのは難しいのかもしれ ませんけど、事前に言っておけば、ある程度対応はできるのではないかと思います。 ○田中補佐 職業意識形成支援事業のメニューとしてハローワーク見学ツアーというの があります。現場では、進路指導の先生や教育委員会、ハローワークとの連携関係の中 で、ハローワークが提供する職業意識形成支援のプログラムをどのようにキャリア教育 の中に組み込んでいくかをご相談しながら進めていると思います。学校の場合、進路指 導の計画というのは年の初めに決まってしまうので、途中で急に組み込むのはなかなか 難しいと聞いたことがありますが、早めにハローワークと学校との間で相談するなどし て、希望される生徒さんにハローワークを見学していただくことは可能だと思いますし、 実際に受け入れているケースもあります。  昔で言う職業講話ですが、ハローワークの職員が出かけて行って、この地域はどうい う仕事があって、どういう求人があってというお話をしたり、先ほど言った正社員と派 遣社員の違いとか、就職活動を具体的にどのように進めていくか、求人票の見方などを お教えするプログラムも用意していますから、そこは学校からハローワークにご相談い ただいたり、ハローワークから学校にも積極的に働きかけていきたいと思います。 ○田平室長補佐 いま、職業講話という話がありましたけど、どちらかというと就職に 関する意識啓発といった場面で、学校に出て行くことは多いのだと思います。それ以外 で、実際にどういう法律制度があるか、年休の話や最賃の話などは、あまり行えていな いのかもしれません。そういうことを話すことについては、労働局としても、業務との 関係はあると思いますけれども、対応することはできるのかなと思いますので、学校の ほうでも是非活用していただければという気がします。 ○田中補佐 ハローワーク体験ツアーですが、去年1年間で数は少ないですけれども、 778校、8,000人超の生徒さんに参加いただいています。 ○中田校長 学校にとっては外部資源ということで、いろいろな資源の活用ということ を、これから行っていくのは必要だと思いますが、生徒と接している実感としては、い きなり外に行って話を聞いて、「ああ、そうか」というのも必要な部分はありますが、そ れだけでは十分ではないだろうという考え方があります。日常、担任の教員に相談でき ることと、そうでもないところの中間的なものが学校に何かあって、その方を通じてハ ローワークとつながるとか、真ん中にもう1つあればいいと思います。その辺は文部科 学省との連携の仕方はあると思いますが、その辺があると相当違うだろうなという気が します。そこは実感的にそう思います。 ○佐藤座長 あと増田さんから先生方への教育という話がありました。どこで行うかは 別ですが、専門によってはこういうことはあまり知らないという先生がいますよね。そ うすると教員もある面では労働者ですから、どこかでそういうのを勉強したらという趣 旨のご提案でしたか。 ○増田委員 驚いたことは、日教組では、ほとんど労働法制を知らない、就業規則はな い、36協定もないということです。また、教える先生方がハローワークに行ったことが ないし、就職難の影響を受けたことがないのです。教える先生方が労働体験として困っ たことがないので、子供を介して見るしかないわけです。そうすると、高校で言うラン クによって、高卒で働く人が圧倒的に多い高校と、そうでない高校で先生方の労働関係 法制度に関する知識等が全然違うのです。そうすると、同じ給料であっても、進学校の 先生ほうが楽だという感覚になり、「こんな学校は私には向かない」ということで異動を 希望することになってしまうのではないか。結局、悪循環がずっと続いているのです。 ○佐藤座長 確かに公立高校の先生方は、ワークルールが違うわけですね。 ○吉田教諭 残業という概念もないのです。 ○佐藤座長 それは、確かにそうですね。 ○吉田教諭 勉強しないと教えられない、かなり勉強する必要があると思います。 ○中田校長 私の学校では、残業というのは、土日も働かないと回っていかないという 場面もある状況ですから、労働問題というのは大きいものがあります。 ○佐藤座長 そろそろ時間ですが、いかがですか。今日は論点という話も出ましたが、 大事な点は出していただいていますので、よろしいですか。それでは今日の議事として はここまでにさせていただいて、あと事務局から連絡事項をお願いします。 ○田平室長補佐 中田校長、吉田先生、ありがとうございました。次回の研究会につき ましては1月14日(水)の16時から予定しています。次回の研究会では、研究会報告 書の骨格を提示できればと考えています。そのご議論をしていただければと思います。 場所等も含めて詳細につきましては追ってご連絡させていただきたいと思います。本日 の議事録につきましては後日、各委員の皆様にご確認をいただいた上で、当省ホームペ ージで公表させていただきたいと考えています。 ○佐藤座長 中田さん、吉田さん、お忙しいところ貴重なお話、ありがとうございまし た。これで本日の第4回研究会を終わらせていただきます。ありがとうございました。 (照会先) 厚生労働省政策統括官付労働政策担当参事官室企画第二係(内線7992)