08/08/08 第1回今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会議事録 第1回 今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会          日時 平成20年8月8日(金)             13:00〜          場所 厚生労働省職業安定局第1会議室(14階) ○ 濱口大臣官房付 定刻になりましたので、ただいまから「第1回今後の労働関係法制度をめぐる 教育の在り方に関する研究会」を開催します。委員の皆様におかれましてはご多忙中にもかかわらず、 ご出席いただきありがとうございます。本来、議事の進行は座長にお願いするところですが、座長を 選出いただくまでの間、私が議事の進行をさせていただきます。よろしくお願いいたします。なお、 本日は両角委員がご欠席との連絡をいだいています。開催に当たり、荒井政策評価審議官よりご挨拶 申し上げます。 ○ 荒井政策評価審議官 ただいまご紹介いただきました、担当審議官の荒井です。本日は大変お忙 しい中を「今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会」にお集まりいただき、あり がとうございます。政策統括官は所用のために、代わって私からご挨拶を申し上げます。   近年、非正規労働者が労働者全体の3分の1を超えつつあることはご案内のとおりであります。 また、労働組合の組織率は20%をかなり下回っている状況です。そのことは労働者自身、自分の力 で自分の権利を守らなければいけないという方々が増加していることを意味するのかなと思ってい ます。また、労働契約の個別化や企業の経営哲学の変化などにより、労働法制に関する知識がさらに 必要になる労働者の数も増えてくるのかなと思っています。  そういう中で、労働関係法制など、社会に出た際に必要となる法制度の基礎知識、特に労働者の権 利に関する知識が十分に理解されていないのではないかという指摘もあります。そのような観点から、 労働をめぐる権利・義務に関する知識について、教育や情報提供などの枠組みを再度議論していくこ とが急務かというように現在考えているところです。このような労働法制に関する教育の必要性につ いては、経済財政諮問会議の労働市場改革専門調査会や国民生活審議会などの場でも指摘されている ところです。  以上のような状況を踏まえ、このたび有識者や関係の皆様方にお集まりいただき、本研究会を開催 することとなりました。本研究会ではまず、実態調査やヒアリングなどで実態把握を行いながら、学 校教育、労働、使用者団体、地域のNPO、都道府県労働局、地方公共団体などが今後果たしていく べき機能、役割などについて総合的に検討していただき、労働関係法制に関する実効ある教育の在り 方についての検討をいただきたいと考えています。  皆様方におかれましては是非とも闊達なご議論をいただきまして、研究会としての実りある成果が いただけますよう、どうぞよろしくお願いいたします。簡単ではありますが、私からの御挨拶とさせ ていただきます。 ○ 濱口大臣官房付 議事に入ります前に、まず委員の皆様方のご紹介をさせていただきたいと思い ます。資料1の別紙、上から3枚目が委員名簿となっています。50音順に名前をご紹介しますので、 各委員の皆様から一言ご挨拶をいただければと思います。まず、法政大学キャリアデザイン学部准教 授、上西充子委員です。 ○ 上西委員 上西です、よろしくお願いいたします。私は大学で「職業選択論」という授業を持っ ています。これから就職をするという若い人たち、大学生が単に就職だけではない、その先の働き方 をどう考えていったらいいかということをやっています。  その中で、ここで問題になっているような、働き方についてどうやって理解を深めていくかという のは非常に課題だと思っています。労働法的な話も少しはやっているのですが、自分も専門ではなく なかなか難しいと思いながら、でも大切なことだと思ってやっています。よろしくお願いします。 ○ 濱口大臣官房付 ありがとうございました。続いて、新日本製鐵株式会社人事・労政部労政・福 利厚生グループリーダー、佐藤一郎委員です。 ○ 佐藤(一)委員 新日本製鐵からまいりました佐藤です。どうぞよろしくお願いいたします。い まここに書いていますように、私自身は労働組合との窓口と福利厚生をやっています。仕事自体、人 事のキャリアは10数年ございまして、採用からひとわたりのことをやっています。学校側、大学側 でどうお考えになるか、受け止める企業側でどうお考えになるかについて、多少実務的な話が中心に なろうかと思いますが、意見を申し上げられるかなと思っています。  一方、教育ということで言うと、私も2児の父でございます。自分の子供がこういうことを知って いるのかという観点で考えてみると、より現実的な問題かなと思っています。いろいろな観点で意見 を言わせていただければ大変ありがたいと思っています。よろしくお願いいたします。 ○ 濱口大臣官房付 ありがとうございました。続いて、東京大学社会科学研究所教授、佐藤博樹委 員です。 ○ 佐藤(博)委員 佐藤博樹です。専門は人事管理です。最近、今回の研究会のテーマになる内容 でいくつか調査をやってきて、必要性を感じていましたので参加いたしました。よろしくお願いいた します。 ○ 濱口大臣官房付 ありがとうございました。続いて、労働政策研究・研修機構人材育成部門研究 員、原ひろみ委員です。 ○ 原委員 原です、よろしくお願いいたします。私は労働経済学を専門に研究しています。このテ ーマについても佐藤先生と一緒に調査に参加させていただいていて、その関係で今回お呼びいただい たのだと思っています。少しでもお役に立てればと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたし ます。 ○ 濱口大臣官房付 ありがとうございました。続いて、日本郵政グループ労働組合中央執行委員・ 労働政策局次長、増田喜三郎委員です。 ○ 増田委員 増田です。日本郵政グループ労働組合、略称JP労組というように言っています。民営 化して10カ月ぐらい、組合ができて9カ月ぐらいの組合です。連合の労働法制や労働条件、さまざ まな委員会とか会合に出席している関係で、この研究会に参加することになっています。どうかよろ しくお願いします。 ○ 濱口大臣官房付 ありがとうございました。委員としてはもうおひと方、明治学院大学法学部教 授、両角道代委員にお願いしています。所用のため、本日はご欠席との連絡をいただいています。  続いて、オブザーバーとして、文部科学省初等中等教育局教育課程課より、安野教育課程調査官に ご出席いただく予定です。ただ、先ほどご連絡があり、急用で本日はまだいらしておりません。同じ くオブザーバーとして、厚生労働省職業安定局雇用開発課若年者雇用対策室より、大隈室長にご出席 いただいています。よろしくお願いします。 ○ 大隈室長 若年者雇用対策室長の大隈でございます、よろしくお願いいたします。 ○ 濱口大臣官房付 最後に、事務局出席者の紹介をいたします。先ほどご挨拶申し上げた荒井政策 評価審議官です。労働政策担当参事官の生田です。私は大臣官房付の濱口です。政策企画官の鯨井で す。室長補佐の田中です。以上でございます。  まず、本研究会の開催要綱についてご説明いたします。2枚目、資料1をお開きください。本研究 会の運営については、この開催要綱に沿って進めることとしていきたいと考えています。趣旨、検討 事項、構成、運営等について、ここに書いてあるとおりでございます。  1点、4「運営」の(1)についてご説明申し上げたいと思います。ここにありますように、本研究 会は、原則として公開とする。ただし、特段の事情がある場合には、座長の判断により、非公開とす ることができるというようにしています。具体的には、原則としてこの会議自体、議事録、および資 料は公開することとする。ただし、個人情報を保護する必要がある場合など、特段の事情がある場合 には座長の判断により、非公開とすることができることとしたいと思います。それでは、本会議の開 催要綱に即して、今後の会議を進めさせていただきますが、よろしゅうございましょうか。                 (異議なし) ○ 濱口大臣官房付 開催要綱3の(3)にあります、「研究会の座長は互選により決定する」という 規定に基づき、委員の皆様方において座長の選出をお願いしたいと存じます。お諮りしますが、いか がでしょうか。 ○ 原委員 佐藤博樹委員が適任だと思いますので推薦させていただきます。 ○ 濱口大臣官房付 ただいま、原委員から、佐藤博樹委員を座長にというご推薦がありました。い かがでしょうか。                 (異議なし) ○ 濱口大臣官房付 よろしければ、佐藤委員にお願いしたいと思います。恐縮ですが、今後の議事 運営について、佐藤座長にお願いいたします。 ○ 佐藤座長 ご指名ですので、研究会の進行係として座長を務めさせていただければと思います。 時間も限られていますので、早速議事に入ります。まず、検討事項について、事務局からご説明をお 願いします。 ○ 田中室長補佐 まず、資料2をご覧ください。開催の趣旨については、先ほど審議官からご挨拶 させていただいたところであり、開催要綱に記載のとおりであります。こうした労働法関係制度にお ける教育の重要性については、いくつかの報告書で指摘されていますので、それをまとめた資料です。  まず1頁目、いちばん上にあるのが「人生85年ビジョン懇談会」、舛添大臣が有識者の方々を参 集して開催したものであります。中段よりやや下のところ、下線を引いてあるところですが、「労働 関係法制など社会に出た際に必要となる法制度の基礎知識を付与する教育や情報提供についても、社 会人の基礎づくりといった観点から一層の取組が期待される」とされています。  次にその下、「国民生活審議会総合企画部会」の報告です。(3)、1頁の下からつながっているので すが、「消費者・生活者が、社会の仕組みの中で適切な役割を担えるように、生涯にわたった消費者 市民教育を進めていくことも重要である」とした上で、「例えば、『働く』という観点からは、我が国 における労働関係法令遵守水準の低さの大きな原因の一つとして、学校教育段階で働くことの意味を はじめ働くことに関する的確な教育が行われていないということが指摘されるところであり、働くこ との権利と義務など働くことに関する教育の充実を通じて若年者の職業意識の形成が重要であると 考えられる」とされています。  下のほうですが、また「内閣府、厚生労働省、経済産業省、文部科学省等関係省庁の連携の下に、 学校教育段階から社会に出てからの教育を含め、働くことの意味や労働関係法令、働くことの権利と 義務など働くことに関する教育の充実等のための取組を進めることが必要である」とされています。  続きまして3頁目、「雇用政策基本方針」です。これは雇用対策法施行規則に基づく厚生労働大臣 告示です。この中でも、「在学中のキャリア教育が十分でなく」ということが盛り込まれています。 また、中ほど、「雇用政策研究会」、当省の職業安定局長が参集した会議で、先ほどの雇用政策基本方 針策定の際、参考とされているものです。この中でも、「就業形態の多様化や労働契約の個別化が進 む中で、労働関係法制度をめぐる知識、特に労働者の権利に関する知識に不十分な状況がみられるこ とから、労働関係法制に関する知識を付与する教育や情報提供の在り方について検討する」とされて います。最後にいちばん下、「経済財政諮問会議」の労働市場改革専門調査会の第1次報告です。こ こでも下線のように、「労働を巡る権利や義務に関する正しい知識を教える学校教育の充実が図られ、 そうしたなかで、就職・転職時における職業選択もよりスムーズに行われるようになる」とされてい るところです。  次に資料3をご覧ください。労働者の権利理解の状況に関する既存の調査報告から、主な結果を抜 き出して事務局でまとめた資料であります。先行研究については、この後、原委員からもその趣旨や 問題意識についてご説明いただくこととしています。  1頁、1.「労働者における理解の状況」についてです。まず表1-(1)、NHK放送文化研究所が5年 に1度実施している意識調査の結果ですが、憲法に定められた団結権についての国民の理解を聞いて います。1973年から2003年の30年の間、権利を理解している人の比率が約39%から約20%にま で低下していることが見て取れます。次に、同じ頁の下の図、表1-(2)です。これは国民全体の法知 識の状況を見たものです。最低賃金や残業手当、年次有給休暇、団結権の認知状況について質問した ものです。左に「合計点」とありますのは、それぞれの権利について知っている場合に1点として、 その合計点を平均したものであります。これを見てみると、まず有業者と無業者を比べると、有業者 のほうが点数が高くなっています。有業者の中で見てみると、民間企業雇用者は官公庁の雇用者や、 有業者の中でも雇用者以外の者と比べて低い点数となっています。  2頁目、表が2つ並んでいます。表1-(3)と表1-(4)は、連合総研が2003年と2007年に行った調査 の結果です。労働者を対象に、それぞれの権利を知っているかどうかを聞いたものです。それぞれの 調査で実は数字に幅がありますけれども、例えば残業手当の認知状況について見てみると、2003年 調査では39.9%、2007年調査では下の表ですが53.9%となっています。また、2007年調査の育児 休業についての認知状況を見てみると45.8%というように、全般的に労働者の基本的な権利につい ての理解度、認知度は高くない状況が見られるところです。  3頁目、表1-(5)というのはいま見た表1-(4)、2007年の連合総研調査をもとに、雇用形態別に認知 状況を整理したものであります。これを見てみると、まず権利によって認知状況にばらつきが大きい。 網掛けをしていますけれども、パート・アルバイトという形態で働く方々については、いずれの権利 についても正社員や契約社員、派遣社員に比べて認知度が低いという状況が見て取れるところです。  次に4頁です。表1-(6)と(7)、これも連合総研の調査をもとに、権利認知度得点ごとに人数の分布 を見たものであります。権利認知度得点というのは先ほどの表と同様、「知っている」と回答した権 利の数を合計して点数化したものでございます。2003年調査も2007年調査も、やや中央部分に得 点のところに人が集まってはいるものの、全体的に0点ないし1点から6点、満点のところまで幅 広く分布しています。労働者の中でも、権利の認知度のばらつきが相当大きいのではないかというこ とが確認できるものであります。  5頁目、今度は属性別に権利の認知度得点を見たものです。まず、男女別に見てみると、2003年 調査では男性が2.62、女性が2.34、2007年調査でも男性3.93、女性3.30と男性のほうが相対的に 高くなっています。また、勤め先の労働組合の有無別で、勤め先に労働組合があるもののほうが2003 年調査で2.72、ない場合に2.49と、労働組合があるもののほうが高い点数となっています。同様に 学歴別で見てみると、大学・大学院卒者がより高く、職種別では管理職とホワイトカラーのほうがブ ルーカラーよりもより高い点数となっています。  今度は6頁をご覧ください。6頁からは高校生の理解状況を見たものです。高校卒業前の生徒に対 するアンケート調査の結果をまとめたものでございます。まず、表2-(1)、左の4つの設問文に対し ます回答の分布が表になっています。それぞれ、網掛けをしてあるところが正解をした人の数の割合 ということになっています。これによると、高校生の権利の理解状況は、理解度の高いほうから「残 業手当」が81.1%、「最低賃金」が64.4%、「アルバイトの有給休暇」については40.6%、「アルバ イトの労働組合」は12.3%の順となっています。  また、質問が異なりますので、単純に比較はできないのですが、右下に括弧で先ほどの労働者にお ける最低賃金や残業手当の認知状況の表を載せています。例えば、最低賃金や残業手当の認知状況の 数字を見比べてみると、必ずしも高校生の理解度のほうが低いというわけではない結果が見て取れる ところです。  7頁、図(1)というのは男女別、学科別の状況をグラフにしたものです。これによると男女別では男 子のほうが、学科別では普通科および工業科の生徒が相対的に理解度が高くなっています。下の図(2) のいちばん左のグラフですけれども、卒業後進路別に見てみると、進学者と比べ、就職者のほうが権 利の理解度が低くなっています。また、就職者の中でも、理解度の高いほうから「正社員・内定」、 「正社員・未内定」、「フリーター、未定」という順になっています。  図2の真ん中のグラフ、これは正社員・内定の者について就職先の企業規模別に見たものでありま す。大企業が最も高くなっていまして、中企業、小企業と順に低くなっていきます。また、同じくい ちばん右、図(2)のいちばん右のグラフは就職先の満足度別に見たものです。差はとても小さいので、 統計的な有意性はまた別なのかもしれません。就職先への不満が高まるにつれ、やや理解度が低くな っているという傾向が見られます。  最後に8頁、図(3)です。学力が権利の理解度に与えている影響を見たグラフであります。グラフの 右に注を付けていますけれども、4年制大学への進学率で高校をランク分けし、理解度得点を見たも のです。高校のランクが高いほど、権利の理解度が高いという傾向が見られます。また、図(3)の右の 図は学内の成績で見たものです。こちらを見ましても、学内成績が高いほど権利の理解度が高くなっ ているという結果が出ています。図(4)、下の図ですが、これはアルバイト経験の有無で比較したもの です。これを見ると、権利の理解度にはほとんど差がないというグラフになっています。下の図(5)、 右側を見ていただくと、高校のランクとアルバイト経験というものが強く相関していますので、アル バイト経験によって権利の理解度が向上していたとしても、その向上分が学力の影響によって相殺さ れているという可能性も否定できないところですので留意が必要です。以上です。 ○ 佐藤座長 ありがとうございました。質問はまとめて、原委員の報告の後といたします。続いて 原委員から、先ほどのデータとも重なるわけですけれども、それぞれの先行研究という形で論文の問 題意識、残された課題みたいなことを整理していただいています。それについてご説明いただければ と思います。 ○ 原委員 資料4をご覧ください。「労働者の権利理解に関する先行研究のサーベイ」ということで 資料を挙げています。下半分のスライドの2枚目、今日の報告の内容なのですが、法律で定められて いる「労働者の権利に関する理解」について、最近の研究論文をサーベイして今日の議論の叩き台に したいと思っています。  今日ご紹介する論文のリストはいちばん最後に載せてあります。大量観察データの分析結果に基づ いた研究論文を主に紹介しています。たぶん、労働法の先生方もいろいろ書いていらっしゃって、私 もエッセイとか読んだことがあります。ただ、なかなか研究論文を探すことができなかったので、ま た両角委員がご出席のときにでも教えていただければと思っています。  以下の資料で「法知識」という用語が出てきます。これは「現実の法についての当人の自覚的認識」 という定義で用いています。まず、時代背景ですが、なぜ権利理解に注目が集まっているのか。労働 者の多様な就業形態の拡大、新しい労働法制の施行、個別契約に基づく働き方の拡大など、労働者の 職業生活に影響を及ぼす環境変化が90年代以降起こってきています。さらに(2)、労働条件の維持・ 向上のための組織である労働組合の推定組織率が低下してきている。つまり、労働者自身が労働法制 を正確に理解し、自分自身で自己の労働者の権利を守っていく必要性が高まっているのではないか、 という考えが芽生えてきたことによるかと思います。  次の頁は事務局の先ほどの資料と同じものになりますが、NHK放送文化研究所が行っている国民 の権利についての知識の理解度の経年的な推移を見ています。憲法で「国民の権利」と決められてい るもの3つの項目について調査していますが、人間らしい暮らしをするという生存権については高い 水準で推移してきている。しかし、団結権はほかの権利と比べて早いスピードで低下してきていると いうことで、団結権以外の労働者の権利全般についての理解が低下しているのではないかという疑問 が生じてきます。  4頁、スライドの4枚目、先行研究、最近こうした研究がここ2、3年、出てきているわけです。 どういう問題意識のもとに書かれたかというと、戦後、日本では憲法による労働三権の保障、労働組 合法や基準法の制定をはじめとした労働法制が拡充してきて、労働者はさまざまな権利を享受してき ています。ただ、法律で権利が定められているだけで、労働者の権利が実際に守られるかという疑問 があります。実際には必ずしもそうではないのではないか。  まずは労働者自身が自分の権利について理解して、その上で労働市場で権利を行使できなかったり、 不利な扱いを受けたときにそれが違法であることに気づく。その上で、権利を行使する手段を知って いてアクセスできて、かつその手段を活用できるということが必要なのではないか。こうした3つの 問題意識に基づいて研究がなされています。  以下では主な先行研究の結果をご紹介したいと思います。大きく分けて3つにグループ分けできる と思います。1つ目に、労働者の権利を理解しているのは誰か、法知識の所在ということです。スラ イドの6枚目をご覧ください。労働者の権利理解が意識に影響を与えるのか、これが2番目のグル ープになると思います。スライドの11頁、労働者の権利についての知識をどこで身に付けたか、法 知識の入手経路、この3つに大きく分けることができるかと思います。  スライドの5頁目に戻ります。労働者の権利を誰が理解しているのか。この点についてはかなり明 らかになってきているかと思います。個人属性によって規定される、年齢が高い人、高学歴の人、そ してホワイトカラーで働いている人、勤務先の規模が大きいところ、大規模企業で働いている人たち、 そういった人たちで権利を理解している人が多い。  あと、職場に労働組合がある、ないということは、先ほどの事務局の単純集計のご紹介からは「あ る」ということだったのですが、組合の有無というのは多変量解析をかけると関係がなくなってしま うということです。  ここから何が言えるかというと、一般に低学歴とか中小企業で働いているなど、一般に不利な労働 条件のもとで働いている可能性の高い人ほど、こうしたことを理解していないと考えられます。高校 生に関する調査、先ほどもご紹介がありました佐藤座長と高橋さんが行われたものですが、卒業後の 進路がフリーターであったり未定である人ほど理解をしていなくて、現在不利な労働条件で働いてい る人、将来的に不利な労働条件になるかもしれない、そういう人ほど知らない可能性が高くて、本当 に知識を必要としている人と知っている人の間で、知識のミスマッチがあるのかなというところです。  組合の有無についてなのですが、労働組合の方にお伺いすると大体、新入社員が入ってきたり、新 しい組合員の方が入ってくると、集合教育でこうした労働者の権利についての教育を行うということ でした。たとえ、そのときに組合員が教えていたとしても、その後、労働者の中に知識として残って いない可能性がうかがえるという結果になっています。  スライドの6頁目、2つ目のグループになります。労働者の権利理解、つまり「知っている」とい うことが意識や考え方に影響を与えるのかという研究です。「知っている」ということがすぐさま、 行動に結びつくというのも難しいと思うのですが、意識や考え方にはどうも影響を与えているようで す。例えば、こういったことを知っていることが組合の必要性、組合支持を高めている。社会保障の 必要性という意識を高めている。あと、有給休暇に対する法知識が休日・休暇に対する満足度を高め ているということです。  これだけではわかりにくいと思いますので、具体例としていちばん上の論文をご紹介したいと思い ます。スライドの7頁目、仮説の設定です。権利理解と組合支持の間に関係があるのか。ある労働者 が労働者の権利を理解しているとします。その権利の行使が必要な場合、労働者はその権利を実現し たいと考えるでしょう。でも、権利を行使しようと思っても、現実には自分だけの力では権利を行使 するのが難しい、そういったことが少なくありません。こうした場合、権利行使を実現するために、 集団的交渉手段としての組合を必要だと考えるのではないかという仮説を立てています。この仮説を 検証するために用いたデータが、連合総研が実施した雇用者に対するアンケート調査となります。こ の調査は組合員も非組合員も含む調査になっています。  次の頁、分析の基本的なフレームワークです。変数の設定は、組合の支持と権利の理解度が主たる ものとなります。組合支持の変数は「あなたは労働組合を必要だと思いますか」という設問に対して、 「ないほうがよい」「あってもなくてもよい」「どちらかといえばあったほうがよい」「是非必要だ」、 必要性を強く感じている人ほど大きな値を取るという変数を設定しています。権利の理解度の変数で すが、これは先ほどの事務局の表1-(3)と表1-(6)に対応しています。6つの権利についての知識、これ を知っているかどうか。6つ羅列してあって、6つとも知っていれば6点、1つも知らなければ0点、 3つ知っていれば3点というように点数化したものです。こうした権利の理解度、(2)の変数が(1)の組 合支持という変数に影響を与えているか、計量的手法を用いて検証していくということを行っていま す。  その分析の結果が(4)となります。権利の理解度がそのまま、組合の必要性に直結するかという のはなかなか納得できないかと思います。もちろん組合の必要性を規定する要因、それ以外の要因を 聞いているのではないかと思われるのが自然だと思います。非組合員であっても、勤め先に組合があ れば労働組合の必要性を強く感じるでしょう。あと企業規模、勤務先の規模によって違ってくるかも しれない。正社員であるか、非正社員であるか、働き方によって違うかもしれない。年齢であったり、 普段の仕事で不安を感じているとか、次にも載せていますが、組合に対して組合効果があると、組合 をプラスに評価している人は組合の必要性を感じているでしょうし、マイナスのイメージを持ってい る人ではなかなかそうしたものを感じづらい。  その他に考えられる要因をすべて排除した上で、純粋に権利の理解度が組合支持に影響を与えてい るかどうか、という分析の結果がスライド9の図2になります。ここで数字の大きさは意味を持っ ていません、0か0以外かということが意味を持ちます。0以外の数値を持っている変数というのは、 この変数であるときに組合支持が強くなる。0のときは、この変数が組合支持とは関係がないという 読み方をします。  権利の理解度、いちばん左端のものを見ていただくと0.079ということで、統計的に有意に、こう いったことを知っていると労働組合支持を強く行うようになるということが明らかになっています。 もし、労働者が働くことの権利を知らなければ、そもそも現在の労働条件が好ましいかどうかも判断 できない。さらに、権利を侵害されるような状況に直面しても、状況を回避する手段、アクセスの仕 方がわからないだけではなくて、そもそも状況回避のための手段にアクセスしようとも思わない。逆 に、権利について理解していれば実現したいと思う。でも1人の力、独力では実現が難しいとき、集 団での交渉を労働者が求めるようになる。そうしたことがこの結果に現れているのではないかと思い ます。  1枚飛ばしてスライドの11枚目、3番目のグループ、労働者の権利についての知識をどこで身に 付けたか、法知識の入手経路ということになります。これは高校生に対する調査の結果をご紹介した いと思います。どういった人たちが知っていたか。アルバイトをしていた高校生、家族との会話を頻 繁にしていた、テレビ・ビデオの視聴をしていた、通っている高校での仕事や職業生活についての具 体的な話、生徒自身に体験させる就職指導を行っている高校であること。こういった高校に通ってい る人たちが労働者の権利をより良く知っているということです。つまり、アルバイトをしていたり、 就職指導によって職場を体験する、具体的な話を聞く、そうしたことによって権利知識を身に付けて いる可能性がある。あと、家族との会話であったり、テレビ・ビデオといったマスメディアからとい ったことも考えられるということです。  以上、3つのグループについてご紹介いたしました。12枚目のスライド、3つの先行研究グループ を受け、いま現在残された調査研究課題は何か、私見ですがまとめてみました。  法知識の入手経路についての調査が不十分かなと思っています。いまご紹介したように、高校生に ついての調査しかなされていないという現状です。知っている人はいつ、どこで、誰から、どのよう にしてその知識を得たのか。知っている人が知っている理由が明らかになれば、裏返しで知らない人 が知らない理由も明らかになるのではないかと思っています。  個人の背景要因、バックグラウンドについての調査がほとんどなされておりません。家族属性、両 親といったものが大事になってくると思います。あと家庭環境、現在であったり、小さいとき、15 歳当時ぐらいからだと思うのですが、小さいころの経験、親から子への知識の世代間移転みたいなこ とを考える必要があるかなと思っています。ご紹介した雇用者についての調査がかなり進んでいるこ ともありますので、それ以外の人たちについての調査、今後労働市場に入ってくることが予想される 人たち、中学生だったり高校生といった人たちに対する調査が必要かなと考えています。以上です。 ○ 佐藤座長 ありがとうございました。それでは研究会の趣旨、ご説明いただいた原委員のデータ についてまずご質問を伺っていきたいと思います。研究会の趣旨について、何かご意見やご質問はあ りますか。  全体として、権利の認知度が下がってきているのではないかということでした。そういう中で特に 働き方が多様化してきている。従来、厚生労働省としては企業、使用者の方にいろいろな法律を理解 していただいて、きちんと守っていただくことによって、労働者の権利を確保するというようなこと を主に行ってきたわけです。もちろん、労働組合も労働組合としてそういう取組みを行ってきたわけ です。基準法などもちろんそうですが、労働者全体にかかわる点、例えば今回パート労働法が改正さ れました。これについて、パートとして働かない人は知らなくてもいいというわけではありません。 ただ、育児・介護休業法は、子供を持たないという人にとっては知らなくてもいいわけです。他方、 子供がいらっしゃる方は勤務先に育児休業の規定がなくても、育児休業法を知っていれば育児休業の 取得を求めることができるわけです。そういう意味では、1人1人、知っておいたほうがいい権利も 違ってきているということが結構大事である。そういうこともあって、今回のようなテーマが出てき たのだろうと思います。  検討会の趣旨については、以上でよろしいですか。  それでは、データについてまずご質問なり、もうちょっと説明してほしいということがあれば伺い ます。その後、今回の研究会でどういうことをやるべきかとか、ご関心について伺うこととしたいと 思います。まず、データの読み方は、いかがでしょうか。時系列データがなかなか取れなくて、NHK の団結権だけでした。例えば、最賃について理解度は10年前と比べてどうかというと、残念ながら このデータがないのです。団結権が落ちてきている。たぶん、ほかのものも落ちてきているのではな いか。これは推測でしかないわけです。ただ、現時点での就業形態別の違いがあるとすれば、例えば パート、アルバイトの方は絶対量として増えています。そうすると、平均すると落ちている可能性は あるのではないか。そのような推測でしかないかなと思います。 ○ 増田委員 厚生労働省のデータの7頁、「就職先企業規模」で、大企業から順に権利意識が高いと 言ったときに、中小企業より公務員のほうが低いというデータになっているわけです。公務員と言っ た場合、私ももともと公務員、いまは民間人です。ただ、この場合、自治体もしくは教職の人が圧倒 的に数が多いとしたら。 ○ 佐藤座長 高校生ですから教職はないと思います。 ○ 増田委員 高校生ですから自治体ですか。なるほど。そうしたら、ほとんど地方自治体というこ とですか。 ○ 佐藤座長 はい、そのほうが多いと思います。 ○ 増田委員 一応、地方行政に携わっている人の意識が非常に低い、というデータが出ていると見 たらいいわけですか。 ○ 佐藤座長 これは私が行った調査なのですが、高校3年生を調べています。ですから、内定が出 ている段階ですよね。公務員といったものをどこまで正確に捉えているかなかなか難しくて、関連の 特殊法人のようなものも含めて考えているかもわかりませんが、一応パブリック・セクターに自分は 勤めた、あるいは内定しているというように答えた高校生の理解度だということです。 ○ 増田委員 なるほど。 ○ 佐藤座長 いま、勤めている人が低いかどうかは別です。いま働いている人で言うともっと上で す。資料のどこになりますか。 ○ 濱口大臣官房付 1頁の(2)です。 ○ 佐藤座長 1頁のところを見ると、理解度が高い。これはいろいろな学歴の人がいて、官公庁の人 のほうが民間企業より高いという結果です。  先ほどの説明では、組合員の方が単純集計で見ると高いのですが、多変量を掛けてしまうと規模、 学歴をコントロールしていくという効果がないということです。たぶん、労働組合に入ると、新入組 合員教育で話すと思います。これは後で伺ったほうがいいのかもしれませんが、うちの会社、組合は こういう協約を獲得していますという話をされると思います。でも、それはたぶん、特に大手になれ ばなるほど基準を上回っている。たぶん、法律のミニマムはあまり教えていないのかもしれない。例 えば、組合を作る権利などたぶん言わないでしょう。組合員なのですから。あるいは割増率も、25% というよりは、うちは3割ですという話、育児休業も1歳ではなくて、うちは2歳まで取れますと いう話になるのかもしれない。自分の会社の協約については教えても、最低基準は教えていないのか なという気もしないでもない。これは後で伺えればと思います。 ○ 佐藤(一)委員 我々も新入社員教育のとき、組合のことを会社が教えるわけにいかない。ここ に書いてある法律のものは大体、法定のものより少し良いものが多いですから、そもそも法律がどう なっているというのはそういう部門に配属になる人間はそういう教え方を当然しますけれども、そう でなければそういうようにならない。 ○ 佐藤座長 そうですよね、たぶん。 ○ 佐藤(一)委員 そのように思います。 ○ 上西委員 「高校生の認知状況」というデータがありますが、高校で教えているかどうかという 調査というのはなかなかないのでしょうか。団結権とか。 ○ 佐藤座長 今回の調査は、高校ごとにどのような就職指導をしているかどうかを具体的に聞いて います。具体的に労働に関わる権利を教えているかどうかについては、残念ながら聞いていなかった と思いますが。 ○ 原委員 聞いていたのですが、有意な結果が出ていません。 ○ 佐藤座長 そのことよりも、例えば社会人の人を呼んで話してもらうとか、そういうことのほう が効くような結果が出ています。 ○ 上西委員 認知度にですか。 ○ 佐藤座長 はい。先ほどの原委員の報告、スライドの11に説明変数の職業体験学習、これは本人 ではなくて学校に聞いています。その学生が通っている学校の指導の内容を挙げていて、それを説明 変数に入れている。その結果、労働に関わる権利を教えているかどうかよりも、スライド11にある ようなものが出てきたということです。 ○ 原委員 そのほうが強く。 ○ 佐藤座長 単純集計を見ればどれぐらいの学校がやっているかはわかると思います。データにつ いてはよろしいですか。  それでは、今日は1回目ということですので、この研究会で最後どのようなアウトプットを出すか について、具体的に何をやれというわけではないにしても、最終的にはまず現状理解、どういう認知 度で、なぜ理解が進んでいないのか、どうしたら進められるかを割合広めにまとめればいいという、 アウトプット・イメージなのですが、どうでしょうか。 ○ 濱口大臣官房付 もちろん、実態調査をしますので、その調査結果を踏まえて、開催要綱に書い てあるとおりですが、学校教育、労使やNPO、あるいは労働行政や地方公共団体、いろいろな主体 が、それぞれどのようなことをしていくべきか、という課題を提言いただければと考えています。 ○ 佐藤座長 そのようなものがここでのアウトプットのイメージで、それを踏まえてそれぞれが次 の段階を考えていただく。文部科学省にも入っていただいていますので、考えていただければありが たいと思います。  1回目ですので、上西委員から名簿の順に、こういうことをやったほうがいいのではないかとか、 こういうように考えているということから、まず伺えればと思います。 ○ 上西委員 いろいろありますけれども、まず、労働関係法制度をめぐる教育の在り方ということ で、中に「キャリア教育」という言葉が一言出てきました。キャリア教育をやろうという話は文部科 学省も厚生労働省も言っているかと思いますし、現場にも浸透している。ならば、生徒が知っている か、労働者が知っているかだけではなくて、キャリア教育でやるべきことの中にこういう労働関係法 制度的なものが入ってきて、実際やっているのかどうかもきちんと押えるべきかと思います。おそら く、必要だと思ってやっているところはかなり少ないのではないかと思います。実際にやられている ことは、自分の将来を考えよう、進路を真面目に考えよう、そのときに社会人基礎力のように、社会 ではこのような力が求められる、あるいはフリーターになるとこんなに不利だよ、と。だから、より 良い進路を選び取らなければいけないという話に大体なっているのではないかと思います。  だけど、その中で現実にフリーターになる人もいるというときに、「フリーターになっちゃったか ら、私はもうしょうがないんだ」と、かえって自分を駄目にしてしまうこともあるし、あるいはフリ ーターになってしまったからこういう扱いをされても仕様がないんだというように、そこで状況を改 善しようとはならない恐れもある。  また、実際に就職活動をするときにもハローワークの職員の方が来て、求人票の見方ぐらいは教え てくれることもあるようです。しかし、その求人票の中でどこに注目して見たらいいのか。例えば労 働組合の有無、あるいは休日や交通費、社会保障関係のところ、それは何を意味していて、こういう ところで見分けなさい、というようなことをきちんと教えられているのかというと、なかなかそこま でではないのだと思います。そうすると、どうしても若い人は初任給といったところを見てしまいま すので、初任給の高いところ、家から近いところと選んでしまう可能性もある。  大学でもなかなかそこは教えていないです。私も当初、あまりそこまで意識が働かなかった。やは り、いまの企業はこういう力を求めているとか、正社員にならないとこれだけ不利だという話をして いました。もちろん、その中で、正社員としての働き方の中で、例えば育児休業制度がある、あるい は長時間労働がいま問題になっている。派遣は三者関係で非常に難しい雇用関係だ、そういう話は私 などもしてきました。けれども、彼らが現実に職場に入ったときに、例えばサービス残業のような問 題にすぐ直面するわけです。サービス残業に直面したときにどうすればいいかということはなかなか、 「そういう所は避けたほうがいいよね」ぐらいのことしか言えないという現状がありました。  また、例えばフリーターの方々のための支援の施設がいまいろいろあります。ジョブ・カフェやヤ ング・ジョブ・スポットというような公的な施設のセミナーであっても、そこで何をやっているのか というと、たぶん、いまこういう力が求められている、自分の能力を伸ばそうということが中心であ って、良い企業をどうやって見分けるか、就職先はいろいろあるようだけれども、その中にはまとも な所とまともでない所があって、それをどうやって見分けていったらいいかみたいなことはなかなか 教えられていないのではないか。そもそも、それをセミナーの内容として入れなければいけないとい う発想がないのではないか。そうすると、いま企業が求めていることを一生懸命やりましょうという だけだと、どういう理不尽なことがあっても、それに対して対抗できる力というのは身に付かないわ けです。そういう問題があるように思います。  もう1つ、ここで「労働に関する知識」という問われ方をしています。知識があるだけではたぶん 駄目なのだろうなと思います。例えば、大学生はサービス残業が違法だと知っているのです。知って いるのですが、自分の会社で実際にサービス残業があったというときに、どうしたらいいかわからな いのです。当たり前のようにあってしまうから、もう仕方ないなと思って我慢するか辞めるかという ように、個人の問題として捉えてしまう。そこで連帯して動くという発想はたぶんないのです。連帯 して動く、自分たちで職場を良くしていくという発想で実際に動けるためには、たぶん知識だけでは 駄目だろう。ならば、そのためにどういう事が必要なのかということも考えていかなくてはいけない だろうと思います。とりあえず以上です。 ○ 佐藤座長 ありがとうございました、非常に大事な点がありました。たぶん、事務局も考えられ ていると思います。例えば、高校でのキャリア教育の中で、今回のテーマになるようなことがどう扱 われているか。大学もそうですが、就職部なりキャリア指導みたいなことはきちんと押えておく必要 がある。もし、行われているとすればなぜ知らないかということになると思います。行われていない から知らないということかもわかりません。行われていなければ、どういうやり方をしたほうがいい のか。行われていて理解されていないというのはやり方が悪いのかもわかりません。そこは1つ議論 するところだろうと思います。  もう1つ、権利等で理解といったときにどこまで議論するか。ただ、こういう事がありますという ことを知っているだけでいいのか、あるいはそれが守られてどういう対応策なり、アクションがあり 得るのかということまで知っておくことまで含めて議論するのか。例えば、失業したら雇用保険があ りますというだけで、ハローワークに行くということを知っているかどうかということもあると思い ます。そこは少し広めに考えたほうがいいと思います。  厚生労働省で高校へのキャリア教育で委託事業を行っていますが、その内容をご紹介いただけませ んか。 ○ 大隈室長 高校生に対して就職ガイダンス事業というものをやっています。民間業者に委託して いるのですが、平成19年度は全国で約800回行いました。1回に複数の高校を集めることもあるの で、学校の数で言うと1,500校、生徒の数で言うと38,000人に行っています。中身については、最 近の労働市場の動向とか、進路をきちんと考えましょう、社会人基礎力的なこと、最近は、フリータ ーと正社員では生涯賃金がこれだけ違うということも含めて行っています。  先ほど、やはり労働法に関する知識も大事だとか、いざ、困ったときにどこの行政の窓口に行けば 助けてもらえるのか、という情報が薄いのではないかというお話がありました。  そのガイダンスは大体1日コースで、履歴書の書き方や進路の考え方が中心なのですが、労働法と 就職活動の進め方をまとめて1単元、25分程度を標準カリキュラムに組み込んでいます。  ですから、現場で講師の方が労働法について深く突っ込んで話されたり、あるいはどちらかという と履歴書の書き方に重きを置かれるかもしれない。ただ、いずれにしてもテキストの中で、労働法に ついて、雇用形態で正社員や請負、派遣があるということと、労働基準法で賃金、勤務時間、休日な どはこういう決まりになっていますという基本的なことが書いてある。仮に時間内に丁寧に説明でき なくても、あとで必ず読んでくださいというような指導をしてもらうようにしています。平成19年 度あたりから少しそういうカリキュラムを入れてやっているところです。生徒に伝えなければいけな いことがたくさんありますので、これにどのぐらいウエイトを割いてやれという指示を出すかという ところが多少ありますが、そのような感じで進めています。 ○ 佐藤座長 授業の基本的な項目のスペックはたぶん厚生労働省が作るわけですが、その中にはも ともと入っていたわけですか。 ○ 大隈室長 入れるようにしたということです。 ○ 佐藤座長 ただ、実際、学校で実施するときの時間配分のウエイトがいろいろ変わっている可能 性があるわけですか。 ○ 大隈室長 一応、労働法と就職活動で25分というスペックにはなっています。 ○ 佐藤座長 それはやらなければいけないようになっているのですか。 ○ 大隈室長 はい。 ○ 佐藤座長 そのような事があるようです。その辺、行っていてどのような効果があるかどうかは また議論していければと思います。それでは佐藤(一)委員、このテーマにかかわって、どのような ことが課題だとか、こういうことをやったほうがいいということがあればご自由に伺えればと思いま す。 ○ 佐藤(一)委員 若干、企業の立場を含めての発言になってしまうかもしれません。そもそも、 権利が先に出ると、どうしても義務と権利のバランス、もっと企業的に言うと、強い人材をどうやっ て作るのかみたいなことがテーマになっていて、権利をいくら教えてもその人が義務を果たしたり強 い人材でなければ、最終的には会社も立ちゆかなくなるわけですから、そこをどうするのか。そのよ うなことを常に考えている中で、事前に資料に目を通して、働くというキーワードでこの問題を捉え ていかないと、権利をどう教えましょうかと言ったところで、それは自分のキャリアのイメージと結 びつかないので、どうしても頭の中でバラバラになって残ってしまうのではないかと思うのです。バ ラバラに残ると、結局自分が何かをやりたいときにアクションを起こすところにつながらない。もっ と平たい言葉で言えば、自活する力やそういうところにつながる大きな輪の中で、この趣旨にも書い てありますが、広くいろいろな諸団体等、行政の皆さんが果たしていくこと、あるいは我々が果たし ていくことの役割について提言するというのは、全くそのとおりで、何かピンポイントでものを考え るということではないのではないかと思っております。それがいちばん基本的なところです。  もう1つは、資料3の「高校生の理解状況」のところで、すごいデータがあるのだなと思って見 たのですが、学力別とか成績別とか、正直に言うとかなり衝撃的なデータでした。結局この問題だけ ではなくて、何事にも意識の高い人はちゃんとわかっているということを言っている部分があるのか なという印象を持ちました。そうなりますと、逆に絞って話をすると、いわゆるセーフティネットと してどのようにこの問題を捉えていくのかの問題なのかなという気もしています。どうして理解して いただけないのかというと、これは極めて直感的な話なのですが、本人たちが非常に難しく捉えてい るとか、わかりにくいとか、ハローワークに行ってどういうことを教えていただけるのか、困ったら どこに行けばいいのか、いわゆるワンストップ化みたいなものがあれば、まずそこに行って相談をす るとか、そのようにものを考えていく。育児休業の話が出ていましたが、母子手帳をもらう、あるい はお母さん教室みたいなことを区役所等にやっていただいていますが、そういう所に行ったときに、 働いているお母さんはこのような権利があるのですよ、と一言言っていただくだけでも全然違う。ま さしくいろいろな境界を越えての相互の情報のやり取りをして、できるだけわかりやすく伝えていく ことが必要で、何かの形でこういう研究会を通して伝えていければと思います。 ○ 佐藤座長 基本的にはみんな労働法の研究者になるわけではないので、全部知っているというの は無理です。そうすると、基本的なことを知っていて、あとは知らなくても応用でそのことにたどり 着けるようなコーナーをどう作っていくかが大事な気もします。先ほどの母子手帳も、厚生省と労働 省が合併したときから母子手帳に書くようになって、それは非常にいいことなのですが、そのような 形でいろいろ情報提供の仕方も考えることが大事かと思います。  働くことをきちんと教えるというのはそのとおりですが、上西委員が言われたように、働くことを 教えるキャリア教育を重視したのはいいけれど、そこで教えなければいけないことが抜けていたので はないかということで、それを組み込んだ形でのキャリア教育をしていこうということだと思います ので、働くことを踏まえながら教えていくことが大事だと思います。 ○ 増田委員 労働組合という立場からこの委員会に参加していると、この10年間ぐらいは、この趣 旨にも書いてあるように大きく労働現場が変わったのです。非正規化は、この10年間ぐらいでどの 企業においても劇的に進んだのです。非正規化と派遣労働者、それと会社法の関係で言う分社化、あ るいは営業部分だけを譲渡するといったことが、ある意味で規制緩和と同時並行で進み、働き方も大 きく変わった。そういう中でのこの委員会であると言ったときに、先ほど提起された労働組合が、仮 説としてですが、有るほうが意識が高くなっているのか、なっていないのか、よくわからない世界な のです。というのは、劇的に変わっていっている中で、労働組合もついていけていない部分があって、 本工的あるいは企業内主義的な労働組合が日本の労働組合の基本型だったわけです。非正規化や派遣 化といった労働市場の流動化に対して、労働組合が遅れているわけです。まだ正規労働者中心であり、 企業内主義的な傾向が強いというところが、結果として現状の労働組合があったとしても、一部の高 学歴な労働者の多い層の労働組合というイメージが強くて、社会のために労働組合の育成や活動が広 がったほうが、このような権利意識も高くなるというように一致していないことがあって、これは労 働組合としては十分に受け止めざるを得ない内容なのです。  一方で、私どもとしては、労働組合があって、その中で連帯感や団結、さらなるいろいろな協同行 動がそこにあって、そのような社会的意識の醸成につながる労働組合が育成されるほうがいいという 立場に立っているので、その辺りがこの委員会の中でどう関われるのかが課題となると思っておりま す。 ○ 上西委員 先ほど母子手帳の話が出ましたが、東京都が「ポケット労働法」というものを作って います。私はこれを見て、すごくわかりやすくていいなと思いました。厚生労働省のホームページを 見ると、労働法関係はすごく難しくて、条文がそのまま書いてあったり、どう読み解いたらいいのか わからないものが多いのですが、これはかなり噛み砕いて書いてあります。このようなわかりやすい 形で、困ったときに、例えば自分が退職したいときや育児休業を取りたいときに、見て手がかりにな るもの、ここには後ろに相談窓口もいろいろ書いてあるのですが、このようなものがもう少し認知さ れて、誰でも手が届くといいなと思います。東京都のほうに、例えばジョブ・カフェに置いたり、就 業支援の窓口に置いたり、高校に配ったりできないのですかという話をしたら、なかなか予算が・・・ とおっしゃいました。PDFでも東京都産業労働局の「TOKYOはたらくネット」というホームペー ジからたどれるのですが、いちばん最初のメニューにはないのです。統計・資料の所をたどっていく とあるという感じで、折角いいものを作っていても、それを表に出すということになっていない。し かし、妊娠したら母子手帳がもらえるし、大学で就職活動をするときには大学のキャリアセンターか ら就職活動ハンドブックがもらえるのに対して、誰もが働くのに、なぜこういうものが誰もに配布さ れないのだろうというのが問題意識としてあって、いろいろ例外規定があるからこの話のとおりでは ないですよという複雑な問題もあるみたいですが、基本的にこうですよというのが誰でも調べればわ かる、相談窓口に行かなくてもわかる、相談窓口に行くのは大変なことなので、相談窓口に行く前に、 これがおかしいのかどうかを確かめることができるような、わかりやすいものがあることは、すごく 大切だと思うのです。 ○ 佐藤座長 たぶん、労働局も作っていますね。 ○ 濱口大臣官房付 ただ、どうしてもそれぞれに担当がありまして、かつ、その担当については正 確性を期すると。その都度わかりやすく作ってはいるのですが、東京都のように包括的に、かつレベ ルを下げて作るのは難しいところがあるのだろうと思います。 ○佐藤座長 いま、中学も高校も生徒がいろいろ調べて報告することがあるから、厚生労働省のホー ムページも中学生や高校生が調べられるようなページ、そういう人向けの提供ページがあってもいい のかもしれないですね。 ○ 佐藤(一)委員 面白い例なのですが、私どもの組合も同じようなハンドブックを作っています が、就業規則や賃金規則を社員が一生懸命読んでいるという事実は全くなくて、当然説明はしていま すが、組合が作るハンドブックを読むのです。ときどき我々も読むのですが、そちらのほうがよほど わかりやすいのです。伝えることの難しさと大事さの意味において、非常にいい例だと思っていて、 どうしても専門家が作ると完璧を競おうとしますので、かえって皆さんの役に立たないものを作って しまうのですが、一歩下がってみると、伝えることの大事さを前面に出すと非常にうまく回っていく 部分があるのではないかなというのが、私どもの企業の中でもあります。 ○ 荒井政策評価審議官 いまの話を聞いて、少し関係ある議論をご紹介します。最近私どもは「厚 生労働白書」を作って、その中で社会保障が今後も重要な役割を果すためには、国民によくご理解い ただかなければいけないという観点から、医療は除きましたが、それ以外で雇用も含めて、わかりや すく文章を作って国民に提供したのです。その際に、中高生にもわかるようなものにもう1回作り替 えて出したらいいだろうという話をしたのですが、そんなことは難しくてできませんという話があり ました。それはなぜかというと、大まかな話はできるかもしれませんが、正確に伝えるとなると難し いものがあると。特に、都道府県労働局でどのような情報提供をしているかというと、総括的なもの よりはむしろ個別の問題にターゲットを絞って、例えば、最低賃金なら最低賃金に絞って情報提供を しています。包括的な形ですべてを網羅したものもないわけではないのですが、なかなか難しいと感 じています。  もう1つは、労働基準法関係や労働組合法関係の問題について安定所でもいろいろ聞かれることが あるのですが、その際、安定所ではできるだけ責任を持って答える努力をしているところです。しか し、最終的な権限がないにも関わらず、中途半端な答え方をしてしまうと、それを具体的に処理する 担当の所に行くときには、これはこういう結論だろうという前提の下に話をしに行くとトラブルが生 じてしまうこともあるので、大まかな話はできるにしても、そこから一歩踏み込んで、最終的な回答 としての話をすることは難しい場合があります。どう改善できるかを考えていかなければならないと 思います。 ○ 佐藤座長 今回、働いている人に直接どう理解してもらうかということと、いろいろな機会にア クセスしやすい仕組みをどう作るかということで、それは少し違うかなという気持がしていて、労働 者自身に知っておいてもらうというときに、そんなたくさんのことは無理です。せいぜい10個、本 当に基本の基本だけ。あとは、こういうことがあるのだということを知っていることが大事で、それ ぞれに直面したときに得られるようにしておくということだと思うので、今回両方やるのか片方やる のかは最後のアウトプットのイメージで考えたほうがいいと思うのです。いろいろアクセスしやすい といったときに、いままで事業主向けのイメージがあったから、割合難しく提供してもわかってもら えたのだと思いますが、働く人たちをもう少し前面に出して考えることも大事かもしれません。 ○ 荒井政策評価審議官 先ほど、労働局だけの話をしましたが、県にも労働問題を担当する部署が あります。そういった所では、具体的にこの問題はこのように解決すべきですという個別の説明をす るようなものは、それほど多くないかもしれませんが、こういう問題が起きたときにはどこに行けば いいか、例えば、このような問題が起きたときは監督署に行ってくださいとか、こういう問題が生じ たときは都道府県労働委員会に行ってくださいとか、こういう問題が生じたときは安定所に行ってく ださいという形で、どこに行ったらいいかについての情報は比較的簡単に入手できる状況になってい る感じがします。 ○ 上西委員 制度そのものをわかりやすく説明するのは難しいと思うのです。しかし、こういうケ ースだったら労働基準法違反ですよとか、そういう説明ならできるかもしれないと思います。FAQ で「突然やめろと言われました」といったときに、それはこのようにおかしいから、これだけの権利 は要求できるのですよというものだったら、できるのではないかと思うのです。『人が壊れてゆく職 場』という本を読んだのですが、労働法の弁護士がいろいろな実際の労働問題にどうやって自分が関 わって解決してきたかという話なのですが、こういうケースなら闘っても十分に勝てるのだと、これ は当然法に照らし合わせれば当然不当なものなのだというケースも含めて紹介されています。このよ うなものを読むと、これはちゃんと申し立てれば通ることなのだとわかると思いますので、制度だけ ではなく、実際にその制度を使えるのだという具体例を入れていくのも1つかなと思います。 ○ 生田労働政策担当参事官 何点かお話したいと思います。今私どもの方でも、労働関係について 十分情報発信していないのではないかと反省をしており、2つ大きな取組みをしているのです。1つ がホームページ改革で、舛添大臣も厚生労働省のホームページは非常にわかりにくいとおっしゃって いて、いまトップページだけは若干見やすくなっていますが、そこから後がまだ出来ていないので、 これからの作業になります。   今のお話にあったような労働関係法令についても、労働者の方が問題意識を持って見たときに、 おおむねこのようなルールがあるのだと即座にわからない作りになっていて、条文がいっぱい書いて あるのですが、それでは全然わからないのです。働く人にわかりやすいページ作りをしていくことが 大事だと思っておりますので、その際にQ&A方式など工夫をして、「明日からクビだ」と言われた ときにどうするか、といった感じでページを作っていくということもあるので、この場でご議論いた だいて、こんな作り方がいいのではないかとご提言をいただければありがたいと思っています。   もう1つは相談窓口のワンストップ化ということで、都道府県労働局ごとに総合労働相談コーナ ーがあるのですが、そこの機能をもっと高めたらどうかと思っています。これについては、働く方あ るいは企業の方がご相談に見えたときに、自分で説明できることは説明しますが、そうでない部分に ついてはきちんと担当のほうに窓口も紹介して、つなぐことができるようにしようと思っております。 総合労働相談コーナーがあること自体を、先ほどのホームページを通じて知っていただくなり、学校 教育の場や職場で教えていただくことで、だいぶ感じが違ってくるのではないかと思っております。 その総合労働相談コーナー改革もこれからですので、こんな感じで運営すれば非常に利便性が高いの ではないかといったことについてもご議論いただければありがたいと思います。 ○ 佐藤座長 先ほど上西委員から、高校段階のキャリア教育やガイダンスでどのようなことをして いるかを調べたらどうかというお話がありましたが、今回議論する上でどのような調査を予定してい るか、ヒアリングを予定しているかのお話があると思いますが、こういうことを調べたほうが研究会 の議論で役に立つのではないかということがあれば、伺ってもいいかと思います。例えばいろいろな 窓口の相談事例、こういうことを知っていれば済むようなものの相談があるかどうか、いろいろな相 談や事件から知っておけばここまで来なくても済んだみたいなことを、逆に我々が類推すればこうい うことを知っておいてもらうことが大事ではないかとわかると思うので、キャリア教育については調 べたほうがいいかと思いますが、そのようなことがあればそれも伺いたいのです。先ほど、原委員か ら調査するときの入手経路というお話もありましたが。しかし、現状情報提供の仕組みがどうなって いるかを調べるのはなかなか難しいと思いますが、キャリア教育の高校段階のことについては聞いて もいいかと思います。 ○ 濱口大臣官房付 いま佐藤座長からご指摘がありましたが、いろいろな労働相談の窓口は労働局 でもやっておりますし、都道府県でやっている所もあります。これもややエピソード的になりますが、 こんなことは知っていれば問題にならなかったのに、知らないので問題として起こってきているとい う相談を担当された方のコメントもありますので、これはどちらかというと調査票というよりも、こ んなことがありましたという形でお話を伺う、この場にお招きしてお話を伺うということもあります し、我々事務局が行って伺ってきて報告するやり方もあると思いますが、そのようなやり方が情報を 引き出すのにいちばんいいのかなと思っております。 ○ 佐藤座長 では、こういうことをやると有益ではないかとか、そのようなことがあれば、それも 含めてご意見を伺えればと思います。 ○ 佐藤(一)委員 問題を解決しようと思うと、とどのつまりは労使の関係、いわゆる集団的な労 使ではなくて、一対一の個人と管理者であったり経営者であったり、その関係の中でものが決まって いって、そういうルールが本来あったとしてもそれが無視されることが最大の問題なので、知ってい ればそこまでならなかったということであったとしても、現実問題が解決しないではないかという頭 が働いてしまうので、頭の構成としてはそこは1回切って、それはそれ、これはこれという理解をす るというぐらいの感じでもよろしいのでしょうか。完全に解決しようと思うと、何だかんだと言って 事業主にいろいろやらなくてはいけないではないかと、本人も大事だけれど、事業主もやらなくては いけないという頭になってくるのですが、今回は事業主云々は最後にはそれは当然だということであ って。 ○ 佐藤座長 全体の枠組みは、当然事業主にも理解していただくことも大事ですし、もう1つは現 場の管理職のようなものをどうするかも微妙なところなのです。これはもちろんやらなくていいとい う意味ではなく、今も行っているわけですが、少しのスパンで見ると働いている人たちがやや手薄に なっていて、他方で行うべきことが増えてきている。キャリア教育を行ってきたけれど、少し抜けて いるのではないかということ、あるいは行ってきたけれどもう少し工夫する必要性が高くなってきた のではないかというのが、今回の趣旨だと思うのです。 ○ 佐藤(一)委員 それはそこにフォーカスするということでよろしいのですね。 ○ 佐藤座長 ただ、管理職をどうするかというのは確かにあるのです。現場の管理職が知らないと いう問題も、実は難しいところですが、今回どうするかということはありますね。 ○ 濱口大臣官房付 委員の先生方にご議論いただいたように、管理職は経営側であるとともに、自 ら労働者でもあるという、いろいろな視点がありますので、その点についてもご議論いただきたいと 思います。。 ○ 佐藤座長 そこを知っていることが、本当は大事なのです。 ○ 生田労働政策担当参事官 我々の問題意識として、働く人に基本的なことを知っていただくこと が大事だという意識が中心にあるのですが、企業の経営者が必ずしも労働法を知っているわけではな いという問題点の指摘もよく受けます。大企業の経営者の方々は大体ご存じだと信じていますが、中 小企業の経営者の方にどのように伝えていくかといったこともご議論いただくことは、全然問題ない と思っておりますし、最終的に報告書に載せていただくことも、我々としてはありがたいと思ってお りますので、この場で整理していただければと思います。 ○ 佐藤座長 それは調査の範囲の問題もあるわけですね。例えば、調査ですと経営者まで入れるか とか、現場の管理職まで入れるかということにも多少なってくるので。 ○ 濱口大臣官房付 どちらかというと、特に中小企業の経営者の方を対象に入れるとしたときに、 聞き方が、相手が労働者ですと、「こういうことを知っていますか」と、知っているとしたら「どこ から聞きましたか」と聞けるのですが、経営者に「知っていますか」と聞くこと自体が、的確に答え ていただけるかという問題もあります。議論の対象としては何ら区切ろうという趣旨ではありません。 ○ 上西委員 同じように聞くのは難しいかもしれませんが、高校の先生に、何をやっているかだけ ではなくて、自分たちがどこまで知っているか。高校卒業生がすべてを知っていなくてもいいけれど、 高校卒業生が、このように困っているのだ、と先生に相談できる関係があって、先生が「こういう労 働相談センターがあるから行ってごらん」とつなげてあげる、あるいは「転職のときにハローワーク で仕事を探せるよ」とつなげてあげられれば、高校生自体がそれほど詳しいことを知らなくてもいい わけです。そういう意味では、高校の先生は非常に重要だと思います。ただ、高校の先生がどこまで こういう問題をご存じか、ご存じかというのを調べるのは難しいかとは思いますが、1つの論点かと 思います。 ○ 佐藤座長 先々週、東大の社会科学研究所で高校の先生を50人ぐらい集めて、これが目的ではな いのですが、大学でこんな研究をしていますよという話をする会があったのですが、私はワーク・ラ イフ・バランスの話をする中で、社長はここにあるような有給休暇や残業をもらいますと、実はこの ぐらいしか知らないのだという話をしたら、社会科の先生が「教えているのに」とびっくりしていま した。労働基準法があることは知っているのですが、どういう意味があるかまで教えているのかとい うと、あまり行っていないのではないかと。言葉は知っているけれど、中身が何なのかまでは、社会 科の中ではやっていないのかもしれません。だから、先生方には「そんなに知らないのですか」と言 う方が多かったです。もっと知っていると思っていたという感じで。 ○ 上西委員 その部分を、進路指導のときにハローワークの講師の方が来て直接教えるだけではな くて、ハローワークなどの労働行政関係の人から高校の先生に向けての研修みたいなものをすること もあり得るのではないかと思うのです。 ○ 大隈室長 ハローワークの職員が講師となって、高校に出向いてキャリア探索プログラムをやっ ているのですが、そのときに高校の先生が一緒に聞いている場合と一緒に聞いていない場合があるの です。退席してお任せになってしまうケースもあるので、その辺りは現場の熱心さというか、温度差 があると聞いております。 ○ 佐藤座長 現場を理解する上で、どのようなことについて、お話を伺ったり調べているかという こともありましたので、実態調査の実施方法等について、資料5と6についてご説明をお願いしま す。 ○ 田中室長補佐 資料5をご覧ください。今後の全体のスケジュールですが、本日第1回を開催し ていただき、この後はおおむね月1回のペースで開催していきたいと考えております。すでにご議論 いただいているところですが、右側に「委託調査」と書いてあります。これについては、資料6をご 覧ください。  すでにいろいろご意見をいただいていて、前後してしまう所も多いのですが、実態調査を実施した いと思っております。先ほどの原委員からのご報告にもありましたし、既存の調査はいろいろありま すが、入手経路についてや、先ほどご指摘のあったバックグラウンドの問題、雇用者以外の調査が必 要ではないかとか、権利の認知状況に加えて、ここに3つ加えてありますが、さらに加えて調査する 事項があるのではないかということで、この辺りをより突っ込んで把握するための調査を実施し、研 究会における検討の資料としたいと考えております。  実施方法については、民間の調査会社に委託し、郵送やWebによるモニター調査を実施すること を想定しておりますが、調査対象については、1つの提案として高校生から30代ぐらいを想定して はどうかと書いてありますが、ここはご意見をいただければと考えております。  資料5に戻ります。調査は実施しますが、結果が出るまでには若干時間もかかりますので、その間 は先ほども出てきましたが、相談をしている人のヒアリングや聞いてきた結果をご報告することや、 地域で取り組まれていること、NPOなどで取組まれていることもありますので、そういった方をお 招きしてお話を伺い、ヒアリングなどを行いながら進めていければと考えております。そうしたヒア リングや実態調査の結果を踏まえ、来年1月ごろに研究会としての報告を取りまとめていただければ と考えております。 ○ 佐藤座長 ご意見を伺ってもう出していただいていますが、こんな所のヒアリングをしたらどう か。アンケートのほうは、一応このような設計ですが、これは基本的には働いている人すべてという よりも、相対的に問題が多く表れている若い人たちに絞って行おうということです。  先ほどの話ですが、考えてみれば、国民全体とか経営者みたいなものは、JILPTの調査を見れば わかるのですね。経営者の数は少ないけれど、上のほうの管理職の人には聞いていますね。ですから、 既存の調査で40歳以上などをもう少しカバーするようにして、この調査ではもう少しテーマを広げ ながら、特定数に絞ってやろうという提案だとご理解いただければと思います。ですから、既存調査 の再分析はもちろん行うことを想定して、その中で従来わからなくて調査で明らかにすべきことを入 れ込んだ、新しい調査という考えでご意見を伺えればと思います。  ヒアリングは、相談窓口とか、NPOで高校の出前で権利意識だけ教えている団体もあって、何十 校か行っている実績がある所もあるようなので、そういう所を呼んでみてはどうかと相談をしていま す。熱心にキャリア教育をやっている高校があれば聞いてもいいと思います。 ○ 濱口大臣官房付 1つは、いま佐藤座長がおっしゃったNPOを受け入れている高校は、少なくと も先生のほうにそのような問題意識が若干あるのかなと思います。あるいは、先ほど上西委員からい ただいた雑誌の論文で、高校の先生でこういった問題に強い関心をお持ちの方もいらっしゃるようで すので、場合によってはそのような方のご意見を聞くこともあり得るかなと思っております。 ○ 佐藤座長 来ていただけるかどうかということもありますので、少し広目にご意見を伺って、組 合では連合とか産別とか、こういう教育をしなさいというスタンダードはあるのですか。 ○ 増田委員 ほとんどの産別ではあると思いますが、連合は連合で1つの連合アカデミーみたいな 軸を持って、一方で社会教育的な部分をやっているのと、大学で寄付講座をやったり、これは一会長 の意思ですが、地方連合の会長は自分の出身高校に行って、労働組合の必要性について講演会をやる といったことは歴代やられているのですが、あまり目立ちませんね。それぞれの産別で言うと、教育 プロジェクトのようなものは必ずあって、新規採用者教育の部分と組合の役員になるような候補生の 部分といった組立ては、歴代しています。しているけれど、それが時代にマッチングしているかどう か、それから、風化していっているという状況もなきにしもあらずかなと思っていますが、そのよう な取組みは基本的にはどの組合もやっていると思います。ただ、高校の先生は日教組や高教組という 組織がありつつ、日教組でいうと小学生時代から働くことの意味や労働者の権利ということは、教研 の題材としてはあると思います。 ○ 佐藤座長 調査については、いかがですか。これは予算規模の範囲内でということに当然なると 思いますので、ほかの調査で上の年齢層や管理職の再分析は原委員にお願いすることにしつつ、今回 の調査は30歳台ぐらいでいかがでしょうか。 ○ 上西委員 先ほど、団結権というのも言葉としてしか入っていないではないかという話があった ので、認知状況を聞くときの難しさもあるかなと思います。団結権という言葉を知っていますかと言 ったら、試験のときに覚えるためにみたいに知っていると思うのです。しかし、言葉として知ってい るということと、例えば、自分が就職した会社で、うちは育児休業制度はないよと言われたときに、 それは権利としてあるから何とかできないかと考えていけることというのは、すごく距離感があると 思うのです。学生の就職活動を見ていても、制度が整って実績のある所を選ぼうという意識はあるの です。しかし、いい所を選ぼうであって、何か問題があったときに、それを自分たちで変えていこう という発想はないのです。言葉として知っているではなくて、それが実際に自分たちで実現できるの だという意識があるかどうか。例えば、グッドウィルのデータ装備費などは問題で、ああいうものを 何で取られるのだと文句だけを持っているのか、実際に取り返せるのだと考えられるか、の違いです。 実際に取り返せるのだということも、新聞を読まない人はわかっているのか、その辺りの問題もあり ます。でも、いろいろな事例で実際にいまでも組合が機能している場合もあることがどのぐらい認知 されているかとか、現場で職場の状況を改善していくことができるのだという意識がどこまであるか とかも、うまく聞けたらいいと思います。 ○ 佐藤座長 ご紹介いただいた調査は、別に「団結権」という言葉だけで聞いているわけではない のです。NHKの調査も憲法で定める権利はどれが当たりますかと、労働組合を作ることという言い 方になっているのですが、それでもこのように、2分の1というのは労働組合の組織率の低下とほぼ 同じぐらいではないかというぐらいの落ち方なのですが、確かに非常に難しいのです。もう1つは、 テストをされていると思われないようにする工夫も大事で、こういう類の調査は難しいことは難しい のですが、それは工夫しながらやれればと思います。 ○ 佐藤(一)委員 そういう意味では、今の団結権の問題は、団結することができるのであって、 しなければいけないということではないわけです。それに対して、ほかの項目は「しなければならな い」となっていて、少しトーンが違う問題だと思うのです。しなければいけない問題の解決は両方か らできるのですが、そういう問題を解決するために団結する道もあれば、個別に解決する道もあれば、 先ほどおっしゃったように、やめる道もあります。やめることは悪いことではないわけで、そこで自 分のキャリアを形成することは意味がないというのも自由ですから、そこの問題は違うトーンでもの を聞いたり、問題を解決するために団結する、あるいは労働組合を使いますか、使いませんか、そう いうことを知っていますかみたいな、少し違う形で扱ったほうがいいかなと思います。 ○ 佐藤座長 大事な点だと思います。まだ時間がありますが、今日は研究会の第1回ですので、研 究会の趣旨をご理解いただいて、現状をどこまでわかっていて、どの辺りに課題があるのかをご理解 いただいて、2回目以降の進め方についてご了解いただければ、本日の会合のやるべきことは大体で きたかと思います。よろしいですか。今日のご意見を踏まえながら、ヒアリングをどこにお願いする かなど、必要があれば皆さんとご相談するということで、委託調査についてはスペックを決めて、た ぶん入札になると思いますのでそのように進めて、調査項目については2回目でご意見を伺う機会が ありますので、そのような形で進めるということでよろしいでしょうか。  それでは、次回はヒアリングと調査項目の検討になると思いますが、日程調整等今後の進め方につ いてはいかがでしょうか。 ○ 濱口大臣官房付 次回は、ヒアリングとなりますが、ヒアリング対象者と本日ご欠席の委員もい らっしゃいますので、改めて私どものほうで日程調整させていただければと思います。 ○ 佐藤座長 そうすると、それぞれ関係者の方の日程が合う9月ごろに2回目を調整しますので、 お忙しいとは思いますが、大事な研究会だと思いますので、是非ご出席いただければと思います。 ○ 田中室長補佐 議事録については、後日ご発言内容をご確認いただいてからホームページ上で公 開したいと思いますので、よろしくお願いします。       照会先:政策統括官付労働政策担当参事官室企画第二係(7723)