08/06/27 第3回労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会議事録 労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会(第3回)議事録 1.日時  平成20年6月27日(金)13:30〜15:30 2.場所  厚生労働省省議室(合同庁舎5号館9階) 3.議題   (1)各国の制度に関するヒアリング   (2)その他 4.資料   資料1.EUにおける「合理的配慮」等について    資料2.アメリカにおける「合理的配慮」について ○座長  ただ今から第3回の労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関す る研究会を開催いたします。本日は松井委員がご欠席です。岩村委員はまだいらしてい ませんが、そのうちいらっしゃると思います。まず、委員の交代がありましたので、ご 紹介いたします。これまでお務めいただいた輪島委員に替わりまして、日本経済団体連 合会の労政第1本部雇用管理グループ長の田中恒行委員に今回からご参加をいただきま す。 ○田中委員  田中と申します。今回から参加させていただきます。よろしくお願いします。 ○座長  それでは、本日の議題ですが、前回に続きまして各国の制度に関するヒアリングを行 いたいと思います。今日はお二人の方にいらしていただいています。まず、埼玉県立大 学保健医療福祉学部教授の朝日雅也さんです。朝日さんには、EUについてのお話しを いただきます。もうひと方は、内閣府障害者施策担当上席政策調査員の長谷川珠子さん です。長谷川さんからはアメリカの制度についてお伺いしたいと思います。まず、本日 の議事に入る前に事務局から報告がありますのでお願いします。 ○事務局  事務局から1点ご報告させていただきます。この通常国会におきまして、障害者雇用 促進法の一部改正法案を提出しておりましたが、5月29日衆議院本会議で趣旨説明、質 疑を行いまして、30日から衆議院の厚生労働委員会で審議が始まったところでございま すが、可決までには至らずということで、今月19日に継続審議とされたところでござい ます。今後、臨時国会において改めて審議されることになると思いますけれども、皆様 方関係者のご理解とご協力もいただきながら、できるだけ早く成立するように私どもと しても最大限努めていきたいと考えております。以上でございます。 ○座長  このことについて何かご質問がございますか。よろしいですか。それでは、先ほど申 しましたように、ヒアリングに入りたいと思います。前回はドイツとフランスのヒアリ ングをいたしましたので、今日は先ほど申しましたように、EUとアメリカにおける合 理的配慮についてのお話しをしていただければと思います。  それでは、まず、EUについて、朝日さんからご説明をいただきますが、朝日さんの 時間の関係がございまして、2時35分には退室をされるということですので、ご説明を いただいて質問をいただきますが、2時35分にはきちっと切らせていただきますので、 よろしくお願いします。それではよろしくお願いします。 ○朝日  では、改めましてご紹介いただきました埼玉県立大学の朝日と申します。どうぞよろ しくお願いいたします。お手元の方に、「EUにおける取り組みと障害者権利条約」と いうテーマで資料を用意させていただきました。はじめにお詫びですが、この資料を取 りまとめるに当たりまして、私の方でお約束の時間を守れなかったために、点訳の作業 ができませんで、一部概要でしか事前にお届けできなかったことを深くお詫びしたいと 思います。そのため、できるだけレジメに沿ってではございますけれども、分かりやす くお話しをさせていただきたいと思っております。  今回、EUにおける取り組みということでお話しをいただいたところでありますが、 先ほど座長の方からもご紹介がありましたように、やはりEUに加盟しているドイツや フランスについては既に前のこちらの方の研究会でご議論いただいているということが 一つと、それから、EUの加盟国全体一つひとつをご紹介するというのは、時間的にも、 また私の守備範囲からしても全く無理でございますので、後ほどご紹介をいたします、 まさに一般枠組み指令即ちフレームワークの部分をEUという塊の中でご紹介しながら、 特に合理的配慮が国連の障害者権利条約に先んじてEUで取り扱われてきたということ でございますので、この辺りを振り返りながら、これからこの研究会でも我が国の障害 者権利条約への雇用・労働分野での適用を考える上でのヒントをご提供できればと思っ ておりますので、進め方、また内容などについて、ご了解いただければと思います。  最初に、何故私がこのEUを担当させていただくかということになりますけれども、 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構障害者職業センターの方で2カ年にわたりまし て、障害者雇用に係る合理的配慮に関する研究、及びその前年度にEU諸国における障 害者差別禁止法制の展開と障害者雇用施策の動向ということで、連続して研究会を立ち 上げていただきました。私は特にEUのそれぞれの諸国に詳しいということではないん ですけれども、委員会の座長として取りまとめをさせていただいた関係で、今日は特に この3月に、ご覧いただける方はこちらに高障機構さんの「障害者雇用に係る合理的配 慮に関する研究〜EU諸国及び米国の動向〜」ということで、まさに今日のこのテーマ にもぴったりなんですけれども、こちらの成果を中心にご紹介をさせていただきたいと 思っています。  この研究委員会においては、実はEUについて精力的にまとめていただいたのは田園 調布学園大学准教授でいらっしゃいます引馬知子さんでございまして、私はその取りま とめ役ということで、この報告書も引馬さんがご執筆いただいておりますので、私なり に今日のテーマ設定ということで切り口を示しますけれども、そこで情報提供させてい ただく内容はこの引馬さんのご執筆によるところが大きいということをご紹介しておき たいと思います。  では、早速でございますけれども、EUの障害者雇用への取り組みということで、20 00年に発出されましたEU雇用均等一般枠組み指令というのがその出発点になります。 もちろん、障害者の問題だけではなく、雇用と労働において平等的な取り扱いを実現す ることがEU諸国の発展に繋がるということで、早い段階からこの枠組み指令が出され たということになるわけです。実際には、2000年の11月17日ということになりますけれ ども、EU構成国における平等取り扱い原則の実現のために、障害などを理由とする雇 用・労働における差別を解消するための一般的な枠組みを設定することを目的にしてい ます。一般的なフレームワークを示すことによって、構成国において、それぞれの国内 法制度をこの指令に従うように変更を求めていくというスキームが描かれたということ になります。  ところで、この指令というのは、条約ではございませんが、形式及び方法は加盟国の 権限のある機関に委ねられる。達すべき結果が命じられた加盟国は、同指令を保障する ために必要な措置をとることが求められる。こういう仕組みをとっているわけでござい ます。このEUの雇用均等一般枠組み指令の特徴として、1ページに3つほど書かせて いただいておりますが、まず第1番は、先ほどの説明とも重複いたしますが、全ての雇 用分野の職業訓練や職業へのアクセス、昇進、再訓練、解雇や賃金を含む雇用条件や労 働条件において、障害、宗教、信条、年齢、あるいは性的志向の事由によって、直接的 及び間接的な差別を禁止をするというものでございます。この結果、間接差別、それか ら直接差別、さらにハラスメントという形で、差別の概念がここで明確にされたという 経緯をもっております。  それから、2番目としまして、一定の範囲内での均等原則へ例外を設けたり、あるい はポジティブアクション、積極的差別是正措置と言われています。また、英語でも、ア ファーマティブアクションといわれるようなこともございます。これを容認をしていく。 例えば、軍隊への雇用であるとか、そういったところについては、例外的にこの差別禁 止を適用しないということもあり得るということです。  それから、後ほど出てきます、例えば割り当て雇用制度などのアファーマティブアク ションについても、それは差別ということではなくて、1つの例外的な方法だというこ とで容認をしていくということが確認をされております。そして、今日の中心的な話題 になります合理的配慮の規定もここで明確にされました。さらに、均等原則の権利が侵 害された場合に、個人の司法的あるいは行政的な手続きを執り行うことで、その是正を 図っていくような権利を認めていく。こういうような特徴をもっています。  ただ、国連の障害者権利条約において障害という定義がなされなかったのと同じよう に、EUの雇用均等一般枠組み指令でも障害とは何かということは、この指令上は定義 されておりません。各国でそれを判断をしていくということになりますけれども、もち ろん大きな流れとして、国際生活機能分類、ICFに代表されるような個人の機能障害 の既決ということではなくて、環境との関係の中で、障害が発生し、それはまた職業場 面でも同じように考えていくという方向は見いだすことができるかと思います。  では、次のページでございますが、ここから少し細かくなりますけれども、合理的配 慮について見ていきたいと思います。一般枠組み指令第5条の中で合理的配慮が次のよ うに規定されています。少々長いのですが、重要な部分でありますので読ませていただ きます。  障害のある人については、平等取り扱いの原則の遵守を保障するため、合理的配慮を 行わなければならない。このことは、使用者が特定の状況において必要な場合には、障 害のある個人が雇用にアクセスし、職務を遂行し、若しくは昇進すること、または訓練 を受けることを可能にするための適切な措置をとることを意味する。ただし、このよう な措置が使用者に不釣り合いな負担を課す場合は、この限りではない。この負担は関係 加盟国の障害者政策の枠内に存する措置により十分に改善される場合には、不釣り合い ではないものとする。こういう形で、合理的配慮という考え方が示されました。  実は、指令には各条文の前に、前文ということで説明がされておりまして、この合理 的配慮に関係するものが3つございます。前文の17ということになりますが、この指 令は対象となる職若しくは直接的に関連する訓練の実施において、必須である職務を遂 行する資格や能力に欠き、不適任である個人の場合には、合理的提供の義務を犯さない ということでありまして、アンダーラインを引かせていただきましたが、資格や能力に 欠き、不適任である場合には、合理的提供の義務を犯さないということでありますので、 これは後ほどアメリカのお話しでADAが出てくると思いますけれども、特定の仕事が できないという中で、そこに合理的配慮を仮に求めたとしても、それは義務を犯すもの ではないというような前文が掲げられています。  それから、もう1つ、適切な措置即ち職場が障害に順応する効果的で実践的な措置が 提供されるべきであるということが、前文の20というところで示されています。これ には、例えば、建物や設備、労働時間の形態、業務の分配の適用や調整、あるいは訓練 や差別撤廃のための資源の提供などがあるということで、合理的配慮の具体的なイメー ジを描いていただくために有効かと思います。  それから、前文の21ということで、その不釣り合いな負担ということになりますけ れども、どういうふうに判断するのだろうかということで、必然的に生じる財政的及び その他の費用、組織、若しくは事業の規模と資本、加えて公的資金若しくはその他支援 を得る可能性を考慮すべきであるということで、こういった条件を導入した上で、不釣 り合いな負担を課すかどうかということを合理的配慮の1つの尺度にしているというこ とになるわけでございます。  さて、この合理的配慮についてなんですけれども、これからEUの雇用均等一般枠組 み指令における合理的配慮の特徴を5つほど示しておきたいと思いますが、これは先ほ どご紹介したように前年度の研究の成果としてまとめられている部分でございます。ま ず、EUは就労や職業への参加を障害のある人の機会の均等を保障する1つのキーとい うか、方向性として捉えているということが分かると思います。特に、働く意欲のある 障害のある人々への就労の保障と、機会の均等を促す法、施策を実施して、職務遂行の 条件を整える合理的配慮という部分に大きな期待が寄せられているという特徴がありま す。  それから、2番目が、配慮によって特定の職務を遂行できる、ここではあえて有資格 者と書きましたが、資格や能力がないという状態にはない人であります。こういった有 資格者であれば、当該の障害のある人自身が合理的配慮の権利を請求して、就業や就労 の継続訓練あるいは昇進などを可能とする効果的な配慮が、使用者によって不釣り合い な負担とならない範囲で提供されなければならないということを示しているということ です。  この合理的配慮という考え方の導入は、それまでEUの中で割り当て雇用であるとか、 あるいは税の控除であるとか、障害者への特別な訓練等々、そういった保障的な施策に は見られなかった障害のある人たちの主観的権利を形成し得るということが特徴として 挙げられています。即ち、従来は全体の大きな枠組みとして、あるいはプログラムとし て障害のある人の雇用を促進していこうという政策がとられていたわけですけれども、 そこに個々に主観的な、だから自分がこういう合理的な配慮が必要であるということを 提示できるような、そういう権利を形成していくということが大きな特徴としてあげら れたということです。言ってみれば、従来の権利を規定する社会福祉関連の法制度と新 たな均等立法というものは、相反するものではなくて、互いを補完し合うという認識に 到達しているのではないかというふうに考えられたわけです。ここは、後ほど今後の展 望のところで更にお話ししてまいりたいと思います。  それから、このEUにおける合理的配慮の3番目の特徴でございますが、合理的配慮 の請求者及び受け手としての障害のある人の家族や介護、支援者への適用が検討される ようになったということです。当初、合理的配慮は障害のある人に提供する義務として 解釈をされまして、障害者の家族とか介助者、あるいは支援者への合理的配慮と、それ を否定することによって差別されることからの保護というものが想定されておりません でした。しかしながら、これは言われてみればそうだとお考えいただけると思うのです が、障害のある人の家族などには当然障害のある家族メンバーが差別に直面することに よって、家族もまたその差別のリスクを受ける。そういうような状況があり得るという ことです。例えば、そういった考え方の議論の末に、フランスでは障害のある労働者を 援助する家族はその人に同伴をして、同行していくことを容易にするためにフレックス タイム制を家族が利用することができるというように、合理的配慮を障害のある本人だ けではなくて、その周囲の方々も含めた要求として出せるようになりつつあるという側 面があります。  それから、4番目でございますが、合理的配慮が正当化されずに拒否される場合、そ れが障害による差別か否かについては、雇用均等一般枠組み指令の中では、この時点で 明確には言及されておりませんでした。その点、国連障害者の権利条約は合理的配慮を 否定することもまた差別に当たるということが明確に謳われたのは、既にご承知の通り だと思います。ただ、これは後ほどまたご紹介いたしますけれども、EU加盟諸国にお いても多様な見解と対比が見られているというのが実状のようでございます。ただ、合 理的配慮を否定するということが差別ということですね。ちょっと言葉が足りませんで した。しかし、合理的配慮を否定することが差別であるというEUの考え方は、国連の 障害者権利条約の制定におけるEUの組織、積極的な参与によって、国連の障害者権利 条約が非差別と均等とを適切に保障して、この枠組み指令を始めとするEUのこれまで の法政策や行動などに一貫性をもたせたという意味で、EUが積極的にこの合理的配慮 の否定を差別であるというふうにみなす方向性というのは確かに確認できるものと考え られたわけでございます。  それから、最後、合理的配慮に関する5番目ということになりますけれども、EUに おける合理的配慮は就労分野だけを対象としております。その領域の狭さは課題になっ ておりまして、当然障害者権利条約では、例えば教育であるとか、他分野においても広 範な権利保障を謳っているわけでございます。今後、EU諸国においても障害者権利条 約の批准に向かって更に国内法を整備していく中で、このEU全体としての取り組みが 求められているのではないかというふうに考えることができるのではないかと思います。 これが、一般枠組み指令の中で提出された合理的配慮の特徴ということでまとめさせて いただきました。  その次に、一般枠組み指令が権利条約等に与えた影響ということで、権利条約に与え た影響は先ほど合理的配慮の否定を差別とするという文脈でお話しをいたしましたが、 ここではもう少し、EUの構成国というところに視点を絞って、その影響について紹介 をしていきたいと思います。  一般枠組み指令は実は2003年に制定されたわけですけれども、2003年12月2日ま でに、またその後新規加盟を予定している国については、2004年までに講じることを求 めておりました。しかしながら、障害と年齢についての差別に関連する部分は、なかな かこのEU諸国でも順当に進まなかったということが考えられまして、措置の期限を3 年間延長して、2006年までとして欲しいというような申し出があり、それを実施するこ とになったという経過をもっています。資料では、例えば、デンマークが1年延長した り、フランスと英国が3年の延長を申し出たり、また、2004年7月の段階ですけれども、 措置を講じなかった国として、オーストラリア、ドイツ、フィンランド、ギリシア、ル クセンブルグなどがあげられて、最終的には制裁金を求められた国も発生したというぐ らい、なかなか他の差別の要件に比べると、障害の部分というのは各国もそれなりの苦 労をして、対応をしてきたということが、この事実から読みとれるわけでございます。 しかも、加盟国がその一般枠組み指令の内容をいかに国内で施行して、他の関連分野の 法政策と結びつけるかについては、自由裁量が残されております。結果として、EU加 盟国間におけるそのいろいろな取り組みの違いというか、あるいは、必ずしも同じよう な取り組みで行われているわけではないということが次の資料で示されています。  こちらについては、出典として掲げている資料を、やはり引馬さんが翻訳をされたわ けでありますが、例えば、指令を大方模写した差別禁止法を制定したキプロス、ギリシ ア、イタリアなどがある反面、更に指令よりも広範な事由を含む差別禁止法として、オ ーストリア、ベルギー、フィインランド等々が国内法への適用を実施したというふうに 報告されています。逆に、現時点では雇用法のみへの移行ということで、リストニア、 チェコ、マルタ、ポーランドなどもあがっておりますし、同じく事由について、差別の 禁止の理由として、複数の事由と1つの事由を対象とした差別禁止法を組み合わせて制 定したデンマーク、オランダ、スウェーデン、1つの事由の差別禁止法を複数設定した 英国等々、いろいろな取り組みがここで見られて、いわゆる雇用一般枠組み指令導入あ るいは移行する上で、多様性が見られたということが示されています。  こういう形で、なかなかEU全体として一筋縄ではないということをご理解いただけ たと思いますけれども、ここでちょっと視点を変えまして、あえてこのEUの取り組み 全体として、それまでヨーロッパ社会が実施してきた障害者の特に雇用・労働における 取り組みについて、枠組み指令の取り組みが始まったことで、どんなような変化が生じ たのかというのを3番目にまとめておきました。言葉としては、必ずしもこなれていな い部分があると思いますけれども、福祉モデルと市民権モデルの共存というふうにこの 研究会ではまとめさせていただきました。福祉モデルというのは、どちらかというと、 先ほどお話しをした全体のプログラムを形成することで、障害者の就労の場を確保して くるという方向できたわけでありますけれども、それに対して、障害者の権利を擁護す る市民権的モデルというか、あるいは権利擁護モデルというか、一つひとつの働く権利 あるいは合理的配慮の要求といったものを軸にするモデルが展開をし始めたということ です。そして、それらは、決して相互に否定し合うことではなくて、共存する方向性が 展望できるのではないかということです。そうなりますと、後ほど更にお話しをいたし ますけれども、割り当て雇用と、それから差別禁止との関係、先般ご報告がありました フランスやあるいはドイツは割り当て雇用制度をもっているわけですけれども、そこと 差別禁止との関係、また、積極的差別是正措置と合理的配慮の関係などについての検討 が更に求められるということになると思います。  合理的配慮と、それからポジティブアクション、積極的差別是正措置については、E Uの中では、明確かつ意識的に分けて捉えるようになったというふうに整理してござい ますが、これは先ほどお話しした通りでございます。即ち、合理的配慮は個々人の特定 の状況に対して個別に実施をしていく手段でございます。それに対して、ポジティブア クションというのは、障害による不利益を一般化して、集団として扱い、あるいはプロ グラムとして提供し、かつ均等な取り扱いの例外に位置づけられるわけであります。割 り当て雇用によって特定の障害のある方の就労をする機会を特別に設けたとしても、そ れは均等な取り扱いの例外であるというふうに考えられます。更に、合理的配慮の提供 は主として個々の事業主、使用者に直接的に課されるわけですが、ポジティブアクショ ンというのは主として加盟国政府、即ち制度や支援の仕組みを通して課されるというこ とになりますので、この辺りも明確に違いとして意識されるようになったということで す。  ところが、先ほどお話ししましたように、枠組み指令の各国の差別禁止への取り組み への違いというものに差があるというお話しをいたしましたけれども、合理的配慮に対 する対応についても実際にはEU加盟国それぞれで多様でございます。一応、今日はこ の報告書の中から特に6つほどご紹介をしていきたいと思うわけですけれども、例えば、 エストニア、イタリア、ポーランドなどでは、合理的配慮について規定をしていないそ うであります。それから、2番目として、差別や合理的配慮という言葉を使ってまいり ましたけれども、こういった用語の採用や使用についても各国で考え方の違いが現れて います。例えば、少数ですが、合理的配慮を定めている法律を差別禁止法と呼ぶ国もあ ります。例えば、英国やスウェーデンでございます。しかしながら、アイルランドやオ ランダなどでは、均等法という名称が用いられています。例えば、オランダでは差別と いう言葉に代わって区別を認めています。よく日本でも、差別と区別は違うなどという 議論がありますけれども、差別という用語を用いる代わりに、「区別を認める」という ような言い方を、この用語に用いているということでございます。  それから、合理的配慮自体も、これもフランス、ドイツ、あるいは英国などでそれぞ れ違っておりまして、皆様方もお聞き及びだと思いますけれども、合理的配慮という代 わりに、合理的調整、合理的配慮の英語名がリーズナブルアコモデーションに対して、 合理的調整となりますと、リーズナブルアジャストメントというような言い方で、やは り各国での合理的配慮に相当する用語もまちまちであるということで、使用される用語 もそれぞれの加盟国の状況やこれまでの発展過程にリンクしていることが、ここからも 示されるということになると思います。  それから、3番目は、先ほどちょっとご紹介いたしましたように、合理的配慮の請求 者の範囲も、加盟国毎に相違があるというふうに報告をされております。例えば、さっ きご紹介したように、フランスなどでは障害のある人ということで特定をしておりませ ん。ドイツのように、特に重度の障害のある人に請求者として合理的配慮の請求者を求 めていることもあります。それから、例えば、合理的配慮というのは必ずしも雇用され てからではなくて、雇用される前の段階での採用などに当たっても検討されるべきこと でありますけれども、しかしながら、EUの中では既に雇用されている人への合理的配 慮の法的義務が強いハンガリーのような例があげられております。ということで、合理 的配慮の請求者についても、その範囲に各国毎での違いがあるということでございます。  それから、4番目として、不釣り合いな負担とならないための制限というのも非常に 違いがあるようでございまして、例えば、アイルランドでは不釣り合いな負担といわな いで、通常の費用、ノーマルコストという言葉が使われています。そういった制限の表 現は非常に多様であるということであるわけでございます。  それから、5番目として、合理的配慮の否定と差別の関係についても、各国毎に必ず しも明瞭ではないということです。これは、先ほど一般枠組み指令が合理的配慮の否定 を差別とはしていないということでご紹介したところでございますが、例えば、ドイツ やキプロスなどでは、その否定と差別の関係が不明瞭とされているようでございまして、 また、差別であると規定する場合でも、間接差別であるというふうに規定する国と、直 接差別の概念に結びつけるという国など、やはりこちらについても統一した見解が示さ れていないということでございます。更に、ポジティブアクションとの関係などについ ても、明確に分けている場合、あるいは区別が曖昧な場合など、やはり各国によって合 理的配慮の取り扱いについては違いがあるんだということでございます。  そうなりますと、ここからも、今後の課題に結びついていくわけですけれども、EU という1つのまとめだけではなくて、やはり各国のそれぞれのそれまでの経過というこ とが、合理的配慮を考えていく上で、実質的には非常に大きな影響を与えているのでは ないかということがいえると思います。  ちょっと時間が超過しそうなので、最後に急いであと2つ項目だけお話しして終了さ せていただきますが、もう1つはがらっと観点を変えて、保護雇用と障害者権利条約、 あるいは差別禁止との関係でございます。ご存知の方も多いかも知れませんが、障害者 の権利条約の制定の課程の中でも、いわゆる一般の労働市場ではないシェルタードワー クショップまたは保護雇用といった代替的な雇用形態の扱いのことが随分議論されたと ころでございます。もちろん、そういった、現にそういう代替的な雇用形態の中で働い ている障害のある方、そこに向かおうという障害のある方について、合理的な配慮がな されたり、あるいは差別から解放されていくということが大事なわけですけれども、代 替雇用そのものを取り込むことについては、例えば一般雇用への強化が進められている 中で、保護雇用そのものが問題ではないかという議論が権利条約の制定過程の中でもさ れたわけです。もちろん、多様な形態という中で含まれているというふうに解釈できる と思いますけれども、改めて代替的雇用についてどうこうせよということは権利条約で も書いていないということは、皆さんもご承知のことだと思います。何故ここで保護雇 用のことを申し上げるかというと、EU諸国では一般雇用の移行を全体として進めてお りますけれども、保護雇用施策も併せて採用していくという歴史的な、あるいは実質的 な現状施策として保護雇用が展開をしております。そういうことを考えると、先ほど、 福祉モデルと市民権モデル、あるいは福祉モデルと権利擁護モデルというようなお話し をいたしましたが、どうやらそういった多様性も踏まえて考えますと、この保護雇用施 策についても、この市民権モデルと共存していくような方向性というのが現実的な対応 としてこれからも続いていくのではないかと思います。  ただ、ご承知のように、保護雇用全体については、各国政府の取り扱いもだんだん厳 しくなってきているわけでありまして、例えばスウェーデンのサムハルというところは 毎年5%に当たる一般雇用への移行を政府から求められて、それがまた、その達成状況 が次の財政支出の検討の材料になっていくという中で、その保護雇用というものも埋没 することなく、全体の議論の中で検討されるべきではないかと考えております。  最後、今後の展望は、これらの研究活動を通して、若干、朝日の勝手な思いもありま すけれども、やはりEUの取り組みは、今後の我が国の障害者雇用施策、特に雇用促進 法と雇用差別禁止との関係であるとか、各種助成措置と合理的配慮との関係を検討して いく上で多くの示唆を与えてくれるものと考えております。どういうような方策になろ うと、基本的にはアファーマティブアクションやあるいは積極的な助成措置によって、 量的な確保を求めながら、どうしてもそこで後回しにされがちであった質の部分につい て、この人権モデルである差別禁止や合理的配慮という枠組みの中で、質の問題への転 換が迫られてくると考えております。ただ、個人としては、差別禁止アプローチと割り 当て雇用アプローチが現実的に日本の障害者雇用あるいは就労の全体像を考えた時に、 直ちに相反するということではなくて、EUの取り組みを参考にしながらいかに効果的 に両立させていくかということが、現実的には問われているのではないかと考えており ます。以上、ちょっと長くなりましたけれども、私からの報告は終了させていただきま す。ご清聴ありがとうございました。 ○座長  ありがとうございました。それでは、ご質問、ご意見をお願いいたします。どうぞ。 ○今井委員  今井と申します。  2ページの上の第5条の合理的配慮ですが、これは言葉の使い方の問題だと思うので すが、4行目に、「可能にするための適切な措置」とございますけれども、これはフラ ンスにおける合理的調整というのと同義と解釈していいでしょうか。 ○朝日  ここは、それぞれの各国の用語の背景とも非常に密接に関係しますので、一概に同義 かどうかということはいえないと思います。ただ、これを日本語に訳す時の問題となり ますと、例えば、配慮ということは、前提として配慮しなくてもいいんだけれども配慮 して欲しいというようなニュアンスが非常に強いですし、調整というのは、当然そこに 組み入れられるものとして、より権利制が強いというか、必然性が強いという、そうい う意味合いがあります。ただ、フランスの方は多分そういうふうにフランス語から訳さ れている日本の研究者の方は、そこをかなり強調されて、調整というふうに訳されてい ると思います。ここも相当研究会の中でも議論はあったんですけれども、非常に日本語 に訳すとなると、権利条約の訳質がかなり難しいというか、それが何を意味するかとい うところで議論があるのと同じように、難しいと思いますので、とりあえずここでは合 理的配慮と訳しながら、調整というような用語を用いた方がより適切な背景をもつ国や、 あるいは制度もあるというような理解をしていただくとよろしいかと思います。あまり、 厳密な答えになっておりませんけれども、そのぐらいに幅広く検討していかないと、そ この国の文脈では本質を見失うことがあるということだと思います。 ○今井委員  ありがとうございます。 ○朝日  私からですみません。EUの全体像としてお話しをしたので、なかなかどこをという ことで、皆さんもご質問も出しにくいのかなと思いますけれども、冒頭お話ししたよう に、EUとしての1つの、これはEUのような仕組みをもたない、例えば我が国からす ると、国連の権利条約もあり、ILOの条約や勧告もあり、日本の基本法もあり、しか し、そこのEU社会をなす指令というものの存在、それに適用させるために、もちろん 国際的な基準、スタンダードも視野に入れながら、しかしEUとしての取り組みを進め ていくというのがある種、非常に不思議に映る部分もあると思います。でも、EUとい う1つのEUコミュニティーがもっている障害などを理由とした差別の禁止という1つ の方向性という意味では、先ほど言いましたように、実際の国内法制度に落とし込むと、 大分違いや柔軟性や、あるいは取り組みの軽重に差があるようなイメージをもちますけ れども、そういうような1つの方向性、まさに枠組みを提供してくれるというふうに考 えていただくとよろしいのではないかと思っています。 ○今井委員  もう1度、同じページの前文17のところです。これも訳語の問題なのかも知れませ んが、「職務を遂行する資格や能力」とありますが、資格は免許に近いような資格と理 解すれば分かるのですが、もう1つの能力というと、非常に日本語では意味が広くて、 障害イコール能力がないということと結びつきやすいので、これはどう理解したらいい のでしょうか。 ○朝日  確かに訳語の問題があるかと思います。後でアメリカのお話しにも出てくるかと思い ますけれども、いわゆる有資格のといった時に、免許をもっているというよりは、その 職種が求めるものに一応何というんでしょうか。ここは非常に議論があると思うんです ね。先ほど、ICFの考え方もご紹介したので、仕事ができないというのは本人の責任 や本人の機能障害、能力障害に帰するものではなくて、環境との調整如何では仕事がで きるというところまで全部検討した上での資格や能力に欠くということなのか。職務が 要求するレベルというのは、これは環境が変われば、変わるかも知れないという思いは ありながらも、やはり一定の多くの人たちが理解する要求水準というのがあると思うん ですね。ここで、資格、能力というのは、その一定の多くの人たちが了承するであろう 要求水準に欠くかどうかということでありますので、全ての努力をせずに、環境との調 整をしないで決めつけるということではないと思いますけれども、一定の仕事をする上 での必要なものというのは、この中で読みとっていくというふうに考えられると思いま す。確かに能力という表現をしてしまうと、もう能力なしというふうに決めつけてしま うような、逆のイメージがございますので、そこはご指摘の通りだと思います。 ○座長  はい。どうぞ。 ○長谷川  すみません。質問させていただきます。同じところの前文の17のところなんですけ れども、EU指令の場合は、合理的配慮を提供する義務というのは障害者本人がいわゆ る 有資格者であるqualifiedな人だけだということなんでしょうか。質問の趣旨は、A DAではたとえ職務の本質的なところができないとしても、合理的配慮を提供すれば、 それが本質的な機能を遂行できるようになるということでも、合理的配慮義務が使用者 に発生しているので、そことの違いがどうなっているのかと思いましてご質問させてい ただきます。よろしくお願いします。 ○朝日  ここは前文の20にも関係する適切な措置ということで、建物あるいは労働時間、業 務の分配、調整ということの提供がありますので、当然そこの合理的配慮のところは、 先ほど言いましたように、各国での取り扱いについては違いがあるとはいいながら、こ こでは基本的にはADAと同じような考え方で進められているというふうに受けとめて よろしいかと思います。 ○大久保委員  育成会の大久保ですけれども、保護雇用から一般雇用というか、一般就労へというと ころで、スウェーデン、イギリスでは積極的に進めているということですが、例えば、 その場合の背景として、それらの国の、例えば、別途賃金保障とか、企業に対する支援 策、つまり、そういったもので他の国に比べて違いがあるのかどうか。そこはいかがで しょうか。 ○朝日  他の国というのは、EUのその他の国ということですか。 ○大久保委員  そうです。そんなに積極的でないところに比べて、積極的な国が、どうなのか。 ○朝日  ここは保護雇用施策に対するやはり歴史的な取り組みの違いではないかと思うのです ね。そこで、例えば、スウェーデンでいえば、とにかく一般雇用施策でやるというのが 大前提であって、それが難しい場合には保護雇用で、しかし、個々の労働者についてみ れば、百パーセント一般企業で就労している障害者と全く同等かというと、そうではな い部分もあると思いますけれども、政策の組立としては、やはり雇用一般労働施策があ って、その上で、賃金補填をしても、そこに繋げていくような施策がある。ですから、 保護雇用そのものはもちろんそこで完結していいわけですけれども、更にそこから一般 雇用への移行を目指させていくということにおいて、やはりそこの前提となる雇用施策 の考え方に、あまり積極的でない国と比べて、差があるのではないかと思います。即ち、 一般の枠組みの中でそれを労働施策として、保護雇用の中で、障害のある従業員を取り 扱っていこうというところにおいての、やっぱり差異ではないかなと思います。 ○座長  よろしいですか。 ○大久保委員  今、保護雇用というのは労働施策として位置づけているということですね。 ○朝日  そうです。 ○大久保委員  先ほどの福祉モデルと市民権モデルという言い方と、私は今、いわゆる保護雇用と一 般就労、こういう同じような並べ方でちょっと考えたんですけれども、そうではなく、 どちらかというと、いわゆる雇用施策の中で保護雇用と一般就労という考え方でという か、そういう形で捉えるということですか。 ○朝日  そういう意味です。 ○座長  どうぞ。 ○川崎委員  精神の家族会の川崎と申します。この3ページの、やはり家族もこの合理的配慮の請 求者、受け手になるというところは、ちょっと今までには聞いていなくて、感想として は、家族としては大変にこれからの方向性としてはいいと思うのですけれども、実際問 題として、これを積極的に施行するような方向性にあるのか。ちょっとそこをお伺いし たいと思います。 ○朝日  そうですね。そこまで明確なデータとしては持ち得ていないんですけれども、ただ、 先ほどのフランスの例というのは必ずしも請求者の範囲が障害のあるご本人だけではな くて、家族を含めた展開、要するに拡大の方向がちょっと見受けられるということなの で、ただ、それを全体のものとして追随するかどうかというのはデータとしてはないで すし、そう簡単にはいかないのではないかと思っています。 ○座長  他にございますでしょうか。どうぞ。 ○今井委員  もう1度すみません。2ページの前文20のところの、例えばのところですが、前の 方は物理的なこと、後半がどちらかというと、少しソフト的な時間的なことです。私は 自閉症とか発達障害の方を少し念頭に置いて考えると、そういう職務に就く段階の準備 だけではなくて、日々起こることに対する人的サポートがどうしても必要で、職場にお ける補助的な人がどうしても必要だと思うのですがそういう人的支援も概念としては入 っていると理解していいのでしょうか。 ○朝日  人的な資源について、例えばということで例示はされておりませんけれども、私はこ の中では概念時には入っていると思います。ただ、それは実際にそこまでを含んだ合理 的配慮としてそれぞれの実状に即した時に、どこまでそれを合理的配慮とするか。例え ば、これは分かりませんけれども、非常に生産性が低い方が人的な配慮で、人的な支援 をつけることによって、100の仕事ができるようになったといった時に、でも、その支 援をした人が80%だと、果たしてそれが合理的配慮となるのかどうかということはま た議論されてくるのではないかと思います。概念的にはまさにハードだけでなく、ソフ ト面も含めて検討していく必要もあるし、それを含んだものだと考えています。 ○座長  他にどうでしょうか。よろしいですか。私の方から1つお伺いしたいなと思ったのは、 2ページ目の前文の17なんですが、日本では一般的には職種とか、職業とか、仕事と か、その概念があまりはっきりしないので、EU辺りはどう考えているのかなと思って お聞きします。対象となる職と書いて、必須である職務と書いてあるんですね。この辺 はどんなことをイメージして、職と職務というのを使い分けているのかですね。 ○朝日  ここは原文から申し上げると、職務についてはポストという言葉を使っていますね。 それで、ちょっと日本語の訳と十分に検討されたかどうかということはあると思うので すが、厳密なものとして言うべきか、あるいはその範囲をできるだけ広くとっておいて、 検討していくというふうにしていくか。ちょっとここはやはり解釈の問題にも関わって くる内容かなと思います。厳密な、明解な回答ができなくて申し訳ないんですけれども、 そのような原文上の取り扱いになっております。 ○座長  これでいくと、例えばそのポストがあって、その中にいろんな職務があって、どれか がコアなんですよね。それを必須といっているわけですね。そうすると、それはできる けど、それ以外はできないというケースは何かあり得ますね。まあ、いいです。何だか よく分からなくなってきましたから。だから、厳密に考えると、確かに難しいなという ことはありますね。  それでは、他にないようでしたら、朝日さんのヒアリングはこれで終わりに致します。 朝日さんどうもありがとうございました。 ○朝日  どうもありがとうございました。 ○座長  続きまして、長谷川さんからご説明をいただきたいと思います。 ○長谷川  長谷川珠子と申します。どうぞよろしくお願いします。今日の報告では、アメリカの 障害者差別禁止法である「障害をもつアメリカ人法」についてお話しさせていただきま す。Americans with Disabilities Act の頭文字をとって、通称ADAと呼ばれている 法律について、特にその中の合理的配慮を中心に報告させていただきたいと思います。 報告はお配りしてある資料の「アメリカにおける『合理的配慮』について」に沿う形で 行いたいと思います。  アメリカは1990年に障害を理由とする差別を包括的に禁止する障害者差別禁止法を制 定しました。以下、これをADAと呼ばせていただきますが、このADAは雇用、公共 サービス、公共交通、民間事業体による公共性のある施設・サービス、及び通信機器の 分野において、障害を理由とする差別を禁止しています。今日の報告では、このうちの 雇用の部分について検討したいと思います。  このADAは障害を理由とする雇用差別を禁止するという、その点だけを見ても1990 年というその当時にあっては大変画期的な法律だったといえますけれども、その点だけ ではなく、障害者に対して合理的な配慮をするよう使用者に義務づけ、それを行わない ことが差別になるという考え方を明確に採り入れた点というのがやはりADAの最大の 特徴だといえると思います。  この合理的配慮をしないことが差別になるという考え方が、一番最初に、おそらく世 界で最初にだと思いますけれども、用いられたのは宗教差別の場面でした。アメリカで は1964年に制定された公民権法第7編がありまして、この公民権法第7編は市民権法第 7編というふうにも呼ばれるようですけれども、今日は公民権法第7編と呼ばせていた だきます。この法律は、人種、皮膚の色、宗教、性または出身国を理由とする雇用差別 を禁止しています。同法の制定後、この中の宗教差別について、労働者の宗教上の戒律 ・慣行が、使用者側の方針・基準と衝突する場合にどのように対処すべきかが問題とな りました。そこで、同法は1972年に改正され、使用者は従業員の宗教上の戒律や慣 行に対して、合理的配慮をするよう義務づけました。これが、差別禁止の観点で合理的 配慮という概念が用いられた最初だといえます。この宗教上の戒律・慣行への合理的配 慮というのは、具体例でいいますと、一番当時問題になっていたのが安息日(Sabbath) でした。安息日に労働のできない宗教を信仰している人に対して、サバスに勤務日が重 ならないよう労働のスケジュールを調整するよう使用者に求めたというのが代表的な例 としてあげられます。この宗教差別における合理的配慮の概念がADAにももちろん影 響を与えていますけれども、ただし合理的配慮義務の範囲や程度については、ADAの 方が宗教差別の場合よりも相当に広く重いものだということも考えられています。実際、 裁判所もそういうふうにコメントしておりますし、ADAの立法過程でもそういう議論が なされています。  では、次に、ADAの基本的な枠組みを説明したいと思います。資料は2ページ目の 下の(2)以下の部分になります。ADAは15人以上の従業員を雇用する民間の事業主を 規制対象としています。この民間の使用者の他、州の政府、雇用斡旋機関、労働団体及 び労使合同委員会などもこの規制対象となっています。また、ADAの保護の対象とい うのは、障害をもち、かつその当該職務に対して適格性を有する人です。適格性を有す る人はqualified individual と言い、qualifiedな人であって、そのような適格性を有 する障害者に対して使用者は障害を理由として雇用差別するということが禁止されてお ります。  このうちの障害と適格性という言葉について、もう少し説明を加えつつADAの構造 をまとめますと、資料の3ページ目の真ん中にありますような構造になるかと思います。 読み上げますと、まず、障害をもつ人についてですが、この障害をもつ人というのはど ういうものかというと、1つあるいはそれ以上の主要な生活活動を実質的に制限する身 体的あるいは精神的な損傷をもつ人をいいます。次に適格性を有する人というのは、職 務の本質的機能の遂行を合理的配慮が提供されたならば、あるいはそれが提供されなく てもできる人に対し、ここで「ただし」とありますけれども、その合理的配慮をするこ とが使用者にとって過度の負担 undue hardship となる場合には、その合理的配慮の提 供義務が使用者から免れるわけですけれども、そういった適格性を有する人に対し障害 を理由として差別してはならないというものです。ADAの構造というものはこのよう になっています。  この障害にどういった人が入るかといいますと、先ほど言いましたように、現時点に おいて主要な生活活動を実質的に制限するような身体的または精神的損傷、そういった ものがあることだけではなく、過去にそのような損傷の経歴があること、および、その ような損傷は実際にはないにも拘わらず、そのような損傷をもつとみなされている、そ ういったこともそれぞれ障害に含まれるとされています。アメリカでは日本のように障 害というものを認定する制度はなく、また、ADAが採用している障害の定義は、先ほ ど言いましたように極めて柔軟なものとなっています。そのために、どのような状態が 障害に当たるのかといったことを巡って、現在でも議論が続いています。しかしながら、 今は合理的配慮を中心に検討したいと思いますので、障害の範囲についてはこれ以上は 立ち入らないことにいたします。  では、次に職務への適格性をどのように判断するのかということを説明したいと思い ます。資料は4ページ目の(iii)のところになります。障害者は、先ほどの定義による 障害をもつ人であれば誰でもADAの保護対象となるわけではありません。ADAは障 害をもち、かつ、当該職務に対する適格性を有する人、そういった人をその保護の対象 としています。先ほどのEUのご報告では、有資格の人というふうな訳語が使われてい たと思いますけれども、この報告では適格性をもつ人と訳していますが、言いたいこと、 その内容というのは変わらないと思っています。  繰り返しになりますが、ADAは障害をもち、かつ、当該職務に対する適格性を有す る人を保護対象としていますけれども、この適格性を有する人というのは、合理的配慮 がなされたならば、あるいは、合理的配慮がされなくても、職務の本質的機能を遂行で きる人を意味します。従って、合理的配慮をされてもなお当該職務の本質的機能を遂行 できない人は、ADAの保護の対象とはなりません。ADAは職務(job)には、本質的 な職務と周辺的な職務、そういったものがあるけれども、そのうちの周辺的な職務を遂 行できないことはこの適格性の判断には影響しないと考えています。  次に、5ページ目の(3)に移りたいと思います。皆さんご存知と思いますけれども、ア メリカには日本の割当雇用制度のような制度はありません。アメリカは障害を理由とす る雇用差別を禁止することによって、障害者の雇用の促進を図ろうとしています。そし て、単に差別を禁止するのではなく、障害者が職務遂行上必要とする場合には、合理的 な配慮をするよう使用者に義務づけるといったアプローチを採っています。では、AD Aの差別の規定の方法、規定の仕方について、もう少し詳しく説明したいと思います。 ADAの差別禁止の規定は応募手続き、採用、昇進、解雇、報酬、職業訓練及びその他 の雇用上の規定、条件、特権に及びます。つまり、使用者は雇用の全局面において適格 性を有する障害者に対し障害を理由とした差別をすることは許されません。ADAは意 図的な差別、つまり直接的な差別だけではなく、障害に対し、差別的な効果をもつ基準 や管理方法を用いるといった間接差別についても禁止しています。障害者を実際に排除 したり、排除する傾向のある職務基準を用いることは、それが職務に関連し、かつ業務 上の必要性に合致していない限り許されません。職務基準や試験の方法が障害者にとっ て不利な効果をもつ場合には、合理的な配慮をすることにより、その不利な効果を取り 除くことが求められます。  そして、合理的配慮との関係では、次のような差別禁止規定が置かれています。合理 的配慮の提供が当該使用者にとって過度の負担となることを証明することなく、応募者 または従業員である、適格性を有する障害者の、既既知の身体的または精神的制限に対 して、合理的配慮を行わないことは差別になります。また、合理的配慮をしなければな らないという理由で、そのような応募者または従業員に雇用機会を与えないことも差別 となります。そして、先ほども少し触れたかと思いますけれども、この合理的配慮義務 というのは、現に雇用されている従業員だけでなく、採用過程における応募者等に対し ても適用されます。そして、先ほどのEUの報告の中にもありました障害者の家族に関 してですが、ADAにも家族などに関する規定が置かれています。それによりますと、 従業員あるいは応募者のその関係者が障害者であるということを理由として、従業員や 応募者から平等な雇用機会を奪うことも差別となると規定されています。関係者と言い ましたけれども、この関係者には広い意味が込められているようでして、家族だけでは なく、その人が付き合っている友人ですとか、もっと広い意味で、家族だけではなく、 もっとその人の周りにいる人たち、その人たちの中に障害者がいることを理由として平 等な雇用機会を与えないことも差別となると考えられています。  では、合理的配慮とは具体的にどのようなものかということについて、ADAの条文、 雇用機会均等委員会、いわゆるEEOCのガイドライン、そして裁判例を参考に説明し たいと思います。資料は6ページに入ります。まず、ADAの条文の中で、合理的配慮 がどのように定められているかといいますと、まず、従業員が使用する既存の施設を障 害者が容易に利用でき、かつ、使用できるようにすること。また、職務の再編成、パー トタイム化、または勤務スケジュールの変更、空席の職位への配置転換、機器や装置の 購入・変更、試験、訓練材料、方針の適切な調整・変更、資格をもつ労働者または通訳 の提供及び障害者への他の類似の配慮というふうに定められています。  ADAは条文の中に、このように合理的配慮の例をいくつか挙げていますが、EEO Cは合理的配慮についてのガイドラインを作成し、内容のさらなる明確化に努めていま す。このEEOCというのは、雇用機会均等委員会と呼ばれまして、1964年に公民権法 第7編が制定された時に、一連の雇用差別禁止法が適切に実施されることを目的として 設立された機関です。公民権法第7編の他、雇用における年齢差別禁止法、同一賃金法、 そしてADAについて施行規則、ガイドライン等を作成しています。また、後でお話し しますように、このEEOCは雇用差別についての苦情窓口となり、雇用差別に対して の保護、救済機関としても大きな役割を果たしています。なお、裁判所は、このEEO Cが作成する施行規則ですとかガイドラインに書かれている内容に必ずしも拘束されま せん。しかしながら、実務の問題としては、そのEEOCの定める内容というのが使用 者に与える影響は極めて大きいといわれています。  このEEOCの施行規則によりますと、合理的配慮という用語は以下の3つの意味を もつと解されています。まず、1つ目が、応募や採用プロセスにおける調整や変更です。 これは、募集・採用段階において障害者が適格性を有するポジションへのアクセスを可 能とする措置を意味します。2つ目が、労働環境や仕事のやり方、状況についての調整・ 変更です。これは、適格性を有する障害者がその職務の本質的機能を遂行できるように する措置のことを意味します。3つ目が、障害をもつ従業員が障害をもたない従業員と 同等の利益及び得点を享受することを可能にするような変更・調整というふうになって います。このように、ADAの中の合理的配慮というのは、募集・採用段階に関するも の、そして従業員の労働環境や仕事の方法に関するもの、さらに障害をもたない人との 同等の立場を確保するためのものというふうに、3つの類型に分けることができると考 えられています。  EEOCのガイドラインに示されている個々の具体的な合理的配慮について、お配り してあります資料の7ページから8ページにわたってざっと羅列してありますけれども、 その中のいくつかをピックアップしながら紹介したいと思います。まず、施設や情報へ のアクセシビリティーを確保することが求められます。その義務というのは、従業員が 実際に仕事をする区域だけではなく、休憩室や食堂といった非就業区域にも及びます。  次に、職務の再編成とは、障害者が本質的機能を遂行できるように職務の内容を変更 すること及び障害者が遂行できない周辺的な職務を取り除くことを指します。周辺的な 職務を他の従業員に分配して、他の従業員にやらせるということは合理的配慮となりま すが、本質的な職務を免除することですとか、新しく障害者のために職位を設けるとい うことは、合理的配慮とはいえないとされています。勤務地の変更も、それが職務に関 するものである限り、合理的配慮として要求されます。最近では、テレワーク、在宅勤 務が合理的配慮に含まれるかどうかということがアメリカでも問題となっているようで すけれども、EEOCは基本的にこのテレワークは合理的配慮に含まれ得るという解釈 をしています。  次のページにいきまして、現在その人が就いている職位、ポジションにおいて、障害 をもつ従業員に合理的配慮をできない場合、または、その現に就いているポジションに おいて合理的配慮をしてもなお職務の本質的機能を遂行することができない場合には、 その従業員が適格性を有している他の空いている職位への配置転換を検討することが求 められます。その配置転換先というのは、賃金や身分等に関して同等の職位であること が望ましいとされますが、もし同等な職位には空席がないといった場合、低い等級の職 位への配置転換をすることも合理的配慮として認められます。低い等級の職位へ配置転 換された場合、従前の高い賃金を維持する必要はないと考えられています。この配置転 換というのは、あくまで空席の職位がある場合に検討される必要があるものであって、 そのために新しく職位を設けたり、あるいは既に働いている従業員がいるのに、その人 を他に追いやってまで空席を設ける必要というのはないとされています。  これらの合理的配慮の他、試験や訓練材料を調整・変更することや朗読者や通訳者な ど援助者を配置することも合理的配慮と考えられます。これに対して、車椅子ですとか 義足あるいは眼鏡など、職場で必要となる範囲を越えて個人的な利益のために使用者が 合理的配慮をする必要はありません。  この合理的配慮の義務に対する抗弁として、使用者には過度の負担の主張が認められ ています。つまり、そのような配慮をすることが使用者にとって過度の負担となるとい うことを使用者が証明できる場合には、合理的配慮の義務を免れることができるという ものです。この過度の負担かどうかという判断材料というのは、著しい困難または支出 や出費、そういったものを必要とするかどうかで判断されますが、さらに具体的には、 配慮の性質、配慮のコスト、そして使用者の規模ですとか使用者の財政状況、事業の性 質、あるいは被用者の数など、他にもありますが、そういった点を材料とし、過度の負 担かどうかとが判断されます。  では、次に合理的配慮に関する裁判例を見ていきたいと思います。資料は9ページに 入ります。まず、アクセシビリティーへの配慮について、次のような裁判例があります。 車椅子を利用している原告がランチルームにある手洗い用のシンクの高さが車椅子では 利用できないということで、それを低くするよう使用者に求めたという事件がありまし た。裁判所は、ランチルームにはそうした車椅子に使えるシンクはないけれども、トイ レには車椅子で利用可能なシンクがあるということ、および、そのランチルームのシン クを低くするためには、ある程度のコストがかかってしまうこと、という2点を考慮し た結果、そのような合理的配慮は過度の負担になると判断し、原告の訴えを退けました。  また、労働スケジュールの変更に関する裁判例としては、例えば障害者の治療などの ために合理的な期間の無給休暇を認めることはほとんどの場合、過度の負担とはならな いとする裁判例がある一方で、18カ月の休暇の期間を超えて合理的配慮としてさらに休 暇を認めるよう求めた原告に対して、そのような措置というのは、使用者にとって過度 の負担になるというふうに判断をした裁判例があります。  先ほどEEOCのガイドラインにも出てきましたが、テレワークが合理的配慮になる かどうかについては、裁判例は意見が分かれています。意見が分かれる理由というのは、 職務の本質がどのようなものかといったことで判断が分かれているようです。その人の 仕事が上司などから指揮命令を受けながらチームで仕事を行うような場合には、テレワ ークは合理的な配慮とは認められないという傾向があります。配転などに関しては、同 等の職位に空席があり、かつ他の配慮が不適切な場合、障害をもつ従業員を優先的にそ の職位に配置するべきであるとした裁判例があります。ただし、障害をもつ従業員より もその職位に対して高い適格性をもっている人が他にいる場合、その人を差し置いてま で障害をもつ従業員を配置する必要はないといった裁判例も見られています。以上、ざ っとですけれども、合理的配慮についての具体的な内容をお示ししました。  では、次に、実効性確保の措置や手続きについて簡単に説明させていただきます。ア メリカでは雇用差別禁止法に基づいて救済を求める場合、まずEEOCでの手続きを経 る必要があります。雇用差別の被害者はまずEEOCに苦情の申立をして、そこでの解 決を試みる、それが第一番目にしなければならないことです。そして、EEOCでは解決に 至らなかった場合、次に、裁判所に提訴をするということが認められます。お配りして ある資料では逆になっていますけれども、アメリカでの通常の順番通り、まずEEOC での手続きについて見たいと思います。資料は13ページの下半分のところになります。  雇用差別の被害者はまずEEOCに申立をするわけですけれども、その申立期限とい うのは、差別行為のあった日から原則として180日以内と定められています。申立を する際には、その申立人の名前、差別をした人と企業の名前、差別行為についての概要、 そして、どういった種類の差別か、つまり、アメリカでは、様々な事由による差別が禁 止されていますので、どういった種類の差別なのかということを書きます。さらに、差 別が行われた日時や場所といったものを記載します。申し立てを受けたEEOCは申立 人が訴えている相手側、これは主に使用者になると思いますが、その相手方に通知を行 い、申し立て内容について調査を行います。調査の結果、ADA違反であるということ を信じるに足る合理的な根拠がある場合、EEOCは協議や調整あるいは説得というこ とを通じて差別的な行為をなくすよう努めます。ここでは、あくまでも自主的な解決と いうものを促すという役割をEEOCは果たします。この一連の手続きによっては差別 が解決されない場合、EEOCは自ら原告となって訴訟を提起することができます。E EOCへの申し立て後、180日間はそのEEOCがその事件についての排他的な管轄 権をもちますが、その180日が経過し、かつEEOCが原告とならない場合は、EE OCが差別の被害者に訴権付与通知というものを送達します。差別の被害者はこの訴権 付与通知というものを受け取ることによって、それをもって裁判所への提訴が可能とな ります。なお、資料には書いてありませんけれども、ADAに関するEEOCへの申し 立て件数というものを調べますと、大体年間1万5千件から1万8千件となっています。 1997年から2007年まで11年のデータの平均で見ますと、年間1万5千件から1万8千 件の申し立てが行われますけれども、その中で和解する割合というのは大体8%ぐらい です。有効な措置がとられたことによる取り下げが5%ぐらいとなっています。この和 解件数ですけれども、ここ10年の間で年々増加する傾向にあるのが読みとれます。平 均では8%ですけれども、年々の数字を見ますと、97年ぐらいだと4%ぐらいだったの が今では10%を超える人たちが和解をしているというふうになっています。あとは、 加害者が不明で、あるいは住所が特定できなくて通知ができないなど、事務的な理由に よって打ち切りとなるのは25%程となります。あとは、差別があったことについて、 合理的な根拠がないとなる結果というのが55%に及んでいて、私の個人的な感想では、 こんなに半数以上が合理的な根拠がないと結論づけられているのかというふうに感じま した。これに対して、合理的根拠があると結論づけられているのは平均6%程度となっ ていますが、理由は分かりませんが、年度によって数値に大きなばらつきがありました。  では、次に司法上の救済について説明したいと思います。資料は戻って11ページに なります。EEOCから訴権付与通知というものを受け取った差別の被害者は原則とし てその通知が送達された日から90日以内に提訴しなければなりません。訴訟の当事者 となった者は、金銭的な損害賠償を求めている場合に限り陪審による審理を受けること が許されています。裁判所での救済というのは、被害者の被った身体、財産、その他の 損失を填補するために支払われる保障的損害賠償や、違反者に積極的な悪意などがあっ た場合に支払いが請求される懲罰的損害賠償、あるいは採用命令というのも認められま すし、復職とかバックペイ、そういったものも認められています。  司法上の救済についてはざっと見ましたが、最後に合理的配慮に関する企業内におけ る取り組みというのを見たいと思います。行ったり来たりで申し訳ないのですが、資料 は14ページ、最後のページになります。今まで合理的配慮について説明してきました が、合理的配慮といいましても、その内容が一義的に定まるわけではありません。障害 の程度や障害の状態というのは個人毎に異なります。また、同様に職務の内容というの も会社毎に違いますし、一緒の会社でもその就いているポジションによって多様という ことがいえます。ですから、具体的な場面においてどのような合理的配慮が適切なのか ということを決めるのは、実際は非常に困難な作業になるといえます。そして、仕事の 内容も多様ですけれども、その仕事の内容について情報をもっているのは主に使用者と いうことがいえます。これに対して、障害がどういった程度なのかですとか、発揮でき る能力はどういったものかということについて最も知り得る立場にあるのは、本人であ る障害者ということがいえます。そこで、先ほどからも出てきていますEEOCは使用 者と障害者が相互に情報を交換し、それを共有することが重要であるというふうに考え、 適切な合理的配慮の実施のためのインフォーマルな相互関与プロセスというものを積極 的に採り入れるよう使用者や障害者に呼び掛けています。  このプロセスがどういったものかということを簡単に説明しますと、まず、その職務 の本質的機能が何であるかということが決定されます。その次に、その機能を遂行する 上で妨げとなっている障壁、具体的にはこの特定の任務がバリアとなっているとか、労 働環境のこの部分がバリアとなっているとか、そういった障壁となっているものを検討 します。次に、その障壁を取り除くことができるような配慮がないかどうかを確認し、 もしそれが複数可能性があるという場合には、有効性や機会の平等の観点から評価し、 実際に提供する合理的配慮を決定します。もちろん、使用者と障害者だけでは具体的な 適切な配慮が決定できないといった場合には、EEOCを始めいろいろなそういう情報 提供機関がありますので、そちらの援助を求めることももちろんできます。このような インフォーマルな相互関与プロセスというものを誠実に行わなかったからといって、裁 判になった時に負けてしまうというわけでは必ずしもないようですけれども、実際の問 題としては、使用者は裁判に不利になるということがないよう誠実にそのようなプロセ スに対応するということが多いといわれています。  最後ですけれども、最後4のその他のところに書いてありますように、ADAの制定 以降、障害者の雇用が促進されたかどうかということに関して、プラスの効果は得られ ていないというのが統一的な見解といえます。プラスの効果が得られていないというだ けではなくて、障害者の雇用率が低下したというふうな調査結果も見られています。し かし、このような障害者の雇用率の低下がADAの制定によるものなのかどうか。それ とも、障害者給付など他の要因によるものなのかどうかということは、必ずしも現在も 明らかとなっていませんので、この辺りはもう少し長い目で見ていかなければならない かと思っております。長くなりましてすみませんが、どうもありがとうございました。 ○座長  ありがとうございました。それでは、ご質問、ご意見をお願いします。その前に、事 務局からどうぞ。 ○事務局  事務局ですが、一点補足ですけれども、長谷川さんは現在内閣府の上席政策調査員と いう形で勤務していらっしゃいますけれども、このペーパー自体は上席政策調査員とし て作成していただいたというものではなくて、前回のフランスやドイツと同じように、 3月頃に内部で我々事務局が論点整理を図る際にいろいろ研究していただいたものです。 当時、日本学術振興会の特別研究員ということで研究していただいたレポートであると いうことで、念のための補足的な注釈でございます。以上です。 ○座長  それでは、笹川さんどうぞ。 ○笹川委員  ADAができた当初、私ども障害者は大変期待もし、また感激もいたしました。特に 視覚障害者の立場から申しますと、やはり就労の問題が一番大きな問題で、果たしてア メリカの視覚障害者の就労がどう変わっていくかということを期待したわけです。今お 話しがあったように、雇用率が下がるような結果になっています。特に視覚障害者の場 合の雇用が非常に悪いというふうに向こうの盲人団体から聞いております。そこで質問 なんですが、適格性の判断というのは、これがどこでなされるのか。公的な機関なのか、 企業自体なのか。それから、ADAは必ずしも障害者全てを対象としたものではないと いう話ですけれども、それでは、その適格性のない障害者は一体就労ということについ てどういう取り扱いがなされるのか。アメリカでも当然労働権というのはあるわけです けれども、適性がないというだけで切り捨ててしまうのか。その辺はアメリカはどうな っているんでしょうか。 ○長谷川  ご質問ありがとうございます。まず1点目の質問ですけれども、適格性があるかどう かの判断は使用者が行うことになっています。ですから、もしその判断に不満がある場 合は、EEOCに申し立てるしか救済の道はないかと思いますけれども、もちろん裁判 になった場合には、証拠が必要になってきます。アメリカは日本のような働きか他と違 って、job、その職務というのが随分特定されているということでして、求人広告を出す 場合に、何とかという職務があった場合に、その職務がやらなければならないことをそ こに記載する必要があります。その記載していることを障害をもつ人ができていたにも 拘わらず採用されなかったという場合になれば、では使用者はどうして採用しなかった のかということを、使用者側で立証しなければなりません。ですから、採用の段階では 対応できないかも知れませんが、その後の裁判になった時には、必ずしも障害者だけが 不利な思いをするわけではありません。それを使用者もよく分かっているということは いえると思います。  2つ目の適格性がない障害者がどうするかということですけれども、日本ですと重度 障害者が障害者の雇用率でダブルカウントされたりしており、そのようなことによる効 果が出て、重度障害者の雇用率というのはそんなに低くないと聞いておりますが、アメ リカでは重度障害者の雇用率というのは低いことになっていまして、ADAから漏れた 場合というのは、ADAではもちろん保護されないんですけれども、アメリカでもジョ ブコーチと呼ばれるものがあります。特に知的障害者を対象としていると思いますけれ ども、ジョブコーチというのがADAとはまた別に、別の予算から出て、就労を助けて いくというか、就労を促していくという制度がありますので、全くADAで保護されな いからといって、その人たちがはたらく道がないのかというと、そうではないというふ うになっていると思います。 ○座長  よろしいですか。どうぞ。 ○大久保委員  その他、その他とその他が続きますが、最後のその他ですが、これはADAそのもの が、雇用分野はともかくとして、他の部分では様々な影響を与えたということはいえる かと思いますけれども、雇用の部分についてはあまり影響が見られなかったのではない かという感想というか、最後の締めがそういう感じで書かれていました。知的障害分野 については今おっしゃったように、援護就労とか、いわゆるサポーティドエンプロイメ ントとか、そういう制度の中で結構積極的に一般就労の仕組みがあるということだと思 います。こういうふうな雇用促進効果があまり見られなかったという辺りは、何か分析 をすることができますか。 ○長谷川  私の分析ではありませんが、アメリカの論文で分析されているものはいくつかありま す。雇用率が低下したというのは、私の感想ではなく、明らかに出ているデータとして 雇用率が下がったというものになっています。しかしながら、雇用率が下がったという データのとり方も、アメリカでは随分難しくて、それはどうしてかといいますと、日本 のように障害者手帳を渡して、あなたは障害者ですということが誰の目から見ても明ら かにはなっていません。ADAは先ほども言いましたように、こういう障害の定義をも っています。あなたはその障害の定義に入りますかという質問から入ります。そして、 自分で、自分は障害者だと思えば障害者で、そして、ADAの制定以前と制定後で、雇 用されていたとか、途中で解雇されたかというような質問に答えていくという形で、雇 用率が上がったか、下がったかというようなことをペーパーとして出してくるそうなん です。ですので、そのようなデータのとり方というのは、必ずしも正確ではないような 気がします。それを前提として、雇用率が下がったというデータを見ていく必要がある のですけれども、この雇用率の低下がADAの制定の影響によるものだという主張もも ちろんあります。特にその中では、合理的配慮の規定が使用者に余分なコストを課すも のになってしまうので、障害者を雇用すると、とんでもなく高いようなコストがかかっ てしまうかも知れないという恐れから、障害者を雇うことを控える行動に出ているので はないかというような分析もあります。あとは、ADAの影響によるものではなくて、 ADAは1990年に制定されて91年から施行されているんですが、ちょっと情報を完全に 覚えているわけではありませんので、もし間違っていたらご容赦願いたいんですけれど も、アメリカでも1989年ぐらいに障害者給付金制度というものが改正されたそうで、そ れまですごく支給要件が厳しかったものが、ある程度緩和されたということがあったそ うです。そこで、給付金で生活できるのであれば働かなくてもいいのではないかという ふうに考えた障害者がいた可能性があるというような指摘もあります。なので、障害者 給付金の影響で雇用率が下がったのではないかという論者もいますし、どっちが原因か というのは、アメリカでも明らかにはなっていないようなところもあります。 ○座長  今の件で、雇用率が下がったということでいろんな意見がありますということだった んですけれども、その前にとにかく積極的な効果は見られていないということについて は広く合意があると書いてあるんですが、これは本当に合意があるわけですか。 ○長谷川  雇用率が下がってもないけど、上がってもないよねというのは統一されていて、でも、 下がっていると完全に言い切っている研究者も少なからずいます。 ○座長  他にいかがでしょうか。どうぞ。 ○大久保委員  データがあればということですけれども、救済申し立てから裁判所に行く例が年間約 1万5千から1万8千あるといいますが、この1万5千から1万8千件というのは、こ れは全てにわたるもの、つまり宗教から人種からではないですか。これは障害の分野で ですか。障害の分野で1万5千から1万8千ですか。 ○長谷川  これはADAに関するものだけです。 ○大久保委員  障害の分野ですね。 ○長谷川  はい。 ○大久保委員  そのうちのいわゆる8%が和解というか、あと5%が雇い主側が何らかの対応を図っ たということになるんですかね。 ○座長  どうですか。これはEEOCのですね。 ○長谷川  はい、EEOCの申し立てです。裁判ではありません。 ○大久保委員  裁判ではないんですか。EEOC段階での和解ということですか。分かりました。こ れから実際司法手続きとか、裁判の方に行く場合もあるということなんですね。すると、 裁判に行った場合のいわゆる勝敗というか、その辺はどうなんですか。 ○長谷川  申し訳ないんですが、フォローできておりません。 ○座長  どうぞ。 ○今井委員  採用のところが私の聞きたいところです。私の読み間違いかも知れませんが、前にい ただいていた資料で、裁判事例を見ると、採用において差別かどうかということを何で 証明するのか。雇用した後だと差別は分かりやすいけれども、例えば、採用段階でAさ んとBさんと二人が応募しました。ポストは一人です。雇用側が優先的に障害者を雇わ なければいけないということはないわけですね。それで、障害でないAさんの方がより 適格性があるとにらんで採用したことは、何ら制限は受けないということですよね。 ○座長  まだ働いていないんですから、できるかできないか、適格性はどうやって判断するの かということがありますね。まだ働いていないんですからね。 ○今井委員  そうですね。難しいですね、労働契約は私人対私人の契約行為だから、それにいちい ちそこまで介入されないはずだというのが一般的な自由契約のアメリカの考え方ではな いかと、一般的には私は思いますけれどね。 ○長谷川  日本では採用差別は性差別しか禁止されておりませんが、人種や宗教、労働基準法3 条に書いてあるものは採用差別には含まれないと解釈されていますが、三菱樹脂事件な どで有名だと思いますが、それに対して、アメリカでは、建て前上はということが正し いかわかりませんが、法令上は差別は採用段階から及びます。 ○今井委員  もちろんです。それは分かっています。何をもって差別というかというところの判断 というのは、例えば、電話がとれない人がいる。電話が不得意だしといった時に、いや それは困りますと、雇用側はやっぱり言ってしまいますからね。 ○座長  ついでに、その点に関連して、それで企業側が採用しなかった場合で、障害者の方が 訴えた時の立証責任はどちら側にあるんですか。あなたは適格性はないですというのを、 適格性ありというふうに障害者が立証するんですか。それとも使用者側が立証しなけれ ばいけないですか。どっちですか。 ○長谷川  今日の報告では、立証の部分についてはちょっと省略させていただいたんですけれど も、立証ルールにつきましては、原告側の労働者と被告側の使用者側に分配するという 形が採られていまして、第一段階は労働者側が差別があった、自分が差別されたという ことを証明しなければならないんですが、その証明の程度は低いもので、表面的に見た 時に、何となく差別されていますよねというぐらいでよくて、次に、そこができたら、 二番目に使用者側に証明責任が転換されまして、そこで使用者側が差別的ではないとい う理由を証明しなければならないとなっています。結構、使用者側の証明責任は重いと 思います。 ○今井委員  その場合、採用1人枠に対して3人応募してきたとします。その中でベターな人。み んな有資格だと思う。適格性もあると思う。しかし、A君を選んだ。何故B君を選ばな かったかということまで説明する必要はないんでしょ。 ○長谷川  はい。 ○今井委員  そうですよね。 ○長谷川  はい。 ○座長  いいえ。私の理解では、そのBさんが障害者だって訴えたら、会社には立証責任はあ るんじゃないですか。 ○今井委員  そうですね。資格はあるんだけれども、どっちを採りたい人だということは、雇用側 に主張してはならないということはないでしょ。雇用側は5人のうち誰を採りたいとい うことは主張できるわけでしょ。 ○長谷川  Aさんの方が適格性が高かったということを証明できれば。 ○今井委員  個々の面接官がみんな見てそうだったと。 ○長谷川  でも、その証明の程度が分からないですけど、それがすごく主観的な理由とかだけだ と証明程度は弱いと思います。でも、もっと客観的なデータがあるとか、経験が多いと か、何かそういう数字として出てきていれば、明らかに証明はできると思います。 ○今井委員  なるほどね。 ○川崎委員  精神障害者の就労についてなんですけれども、やはり精神は中途障害といわれまして、 思春期に発症いたしまして、かなり能力があった人もこの障害によって能力を発揮でき ない状態にいるということで、しかし、今、社会復帰できていまして、こういう就労の 場がありました場合に、実際問題、就職の場面に行った時に、彼は大変いい状態であっ た。精神はすごく波があるといわれますけれども、とってもいい状態で、非常に適格性 があったと認められたとしますね。しかし、やはり雇用されてから、いろいろな状況で 状態が悪くなって、適格性が発揮できないというようなケースもあるのではないかと思 うのです。そういう場合の合理的配慮というのは、何か具体的にアメリカでなされてい る例とかあるんでしょうか。 ○長谷川  そうですね。適切な回答ではないかと思いますけれども、精神障害者に対する合理的 配慮の代表例というのは、長時間勤務が大変な人に対しては時間をもっと短くするとか、 どうしても朝が弱いから、それなら始業時間を一般より遅くするとか、そういったこと が合理的配慮として採られていますので、そういったものであればなされると思います が、配慮してもなお適格性がないと判断されてしまえば、それは解雇とされても仕方が ない。アメリカは日本のように権利乱用とか公序良俗違反という考え方はなくて、エン プロイメントアットウィルという随意的雇用契約の原則が適用されています。それとい うのは、使用者というのは従業員をいつでも、どういった理由によっても、たとえ理由 がなくても解雇してもよいというような原則が一般的に妥当とされています。ただし、 その理由が障害とか人種とか、そういった禁止されている差別事由である場合は許され ないというふうな規定のされ方になっています。構造がやはり日本とは随分違うかと思 います。 ○川崎委員  分かりました。 ○座長  ご質問があるかと思いますが、そろそろ時間になりましたので、長谷川さんの話は終 わりにさせていただきたいと思います。ありがとうございました。 ○長谷川  どうもありがとうございました。 ○座長  それでは、次回の議事とか日程について事務局からお話ししていただけますか。 ○事務局  事務局でございます。次回以降の議事ですが、研究会では障害者の関係団体あるい はその他の関係団体、関係者からこの労働雇用分野での権利条約の対応の在り方につい て、どのように考えておられるか。あるいは、今後検討を進めていく上でどのような点 を重視し、どのような点を見ながら検討していくべきか。といったようなことについて、 現時点でのご意見あるいはご提言をいただくということで、順次ヒアリングというもの を行っていきたいと考えております。ただ、その具体的なヒアリングを行う団体であり ますとか日程等につきましては、今後事務局の方で調整をさせていただければと考えて おります。更に、次回の日程や場所については未定でございます。現在、日程調整表を お配りさせていただいて調整しておりますが、まだ未定でございます。決まり次第速や かに後日改めてご連絡をいたしたいと思っております。 ○座長  最後ですが、今日の議事録は公開ということでよろしゅうございますか。(「異議な し。」)それでは公開ということにさせていただきます。それでは今日は終わります。 ありがとうございます。 (照会先)   厚生労働省 職業安定局 高齢・障害者雇用対策部    障害者雇用対策課 雇用促進係    電話 03-5253-1111(内線5855)