資料1

フランスにおける「合理的配慮」について

東京大学大学院  永野仁美

1.「合理的配慮」の概要

(1) 背景

フランスでは、1990年7月12日の法律により、障害及び健康状態を理由とする差別禁止原則が制定された。しかし、同法の定める差別禁止原則は、雇用及び労働における平等取扱の一般的枠組みを設定する2000/78/EC指令の要請を完全には満たしていなかった。そのため、障害者施策全般を大改正した2005年法の中で、新たに「合理的配慮(amenagement raisonnable)」という概念が導入されることとなった(2000/78/EC指令の国内法化)1 。EC指令の仏語版では、amenagement raisonnableという用語が使用されたが、国内法化にあたり、コンセイユ・デタの決定によって「適切な措置(mesures appropriees)」という言葉が使用されることとなった。

(2) 制度の概要

A 差別禁止原則

障害に関する差別禁止原則は、雇用における差別禁止原則を定める一般規定(労働法典L.122-45条)で定められている。

同条が禁止するのは、健康状態や障害を理由2とする、募集手続や企業での研修・職業訓練からの排除、懲戒、解雇、そして、報酬・職業訓練・再就職・配属・職業資格・職階・昇進・異動・契約更新における直接的又は間接的な差別的取扱いである。

なお、健康状態や障害を理由とする採用の拒否、懲戒、解雇、及び、健康状態や障害に依拠する条件を募集や研修・職業訓練の申込みに付することは、刑罰の対象となる(刑法典225-1条・225-2条)。「採用拒否」は、労働法典では救済されない(労働法典が禁止するのは「募集手続きからの排除」)が、刑法典により罰則が加えられる。

差別禁止原則の適用に関して企業規模を限定する規定はなく、すべての使用者に適用される。

B 差別概念の修正   

1 Projet de loi pour l’egalite des droits et des chances,la participation et la citoyennete des personnes handicapees,No183 Senat,Article 9.

2障害の種類や程度についての限定はない。

上記の一般規定に対し、障害を理由とする差別には、特別規定が置かれている(労働法典L.122-45-4条)。

まず、労働医によって確認された労働不適性(inaptitude)に基づく取扱いの差異は、客観的かつ適切で必要なものである限り、差別にはあたらないとされる(労働法典L.122-45-4条1項) 3。この医学的不適性に基づく採用の拒否や解雇の場合は、刑法典225-2条の適用もない(刑法典225-3条)。

次に、平等取扱いを促進するために障害者に対してなされる「適切な措置」も、差別には該当しないとされる(労働法典L.122-45-4条2項)。逆に、「適切な措置」の拒否は差別を構成しうるとされ(同L.323-9-1条3項)、使用者は、過度の負担が生じる場合を除き、具体的な状況に応じて障害者に資格に応じた雇用又は職業訓練が提供されるよう「適切な措置」を講ずることとされている(同L.323-9-1条1項)。

C.「適切な措置」の対象者

「適切な措置」の対象となる者は、雇用義務制度の対象となる労働者の一部で、具体的には以下の者である(労働法典L.323-9-1条1項):

−障害者権利自立委員会により障害認定を受けた労働者 4

−10%以上の恒久的労働不能(incapacite)を引き起こした労災・職業病の被害者で、一般制度又はその他の義務的制度から年金を受給している者;

−障害により労働・稼得能力が3分の2以上減少していることを条件として障害年金(pension d’invalidite)を受給している者;

−障害軍人年金の受給者である旧軍人又はそれに類する者;

−ボランティア消防士の社会的保護に関する1991年12月31日の法律(no91-1389)で定められた条件により支給される障害年金又は障害手当の受給者;

−障害者手帳の保有者;

−成人障害者手当(AAH)の受給者。

2.「合理的配慮」の具体的内容

(1)「適切な措置」の具体的内容   

3例えば、障害のみを理由とする解雇は無効であるが、他の適法な理由による解雇は可能である。労働法典の定める「解決策の探求」(同じポストでの雇用維持、他のポストでの雇用維持、企業内の他の事業所や他のグループ企業への配置)を行い、手続きが十分に果たされていれば、企業内のすべてのポストに対する不適性を理由とする解雇は可能である。 http://www.agefiph.fr/index.php?nav1=common&nav2=faq&id=430

4 労働法典L.323-10条は、身体的、知的あるいは精神的機能、感覚器官の機能の悪化により雇用を獲得し維持する可能性が現実に減退しているすべての者は、本節の意味での障害労働者に当たる、と定義している。

「適切な措置」として、労働法典は、以下のものを挙げる。

1つめは、労働環境を適応(adaptation)させることである。これには、機械や設備を障害者が使用可能なものにすること、作業場所や就労場所の整備(障害労働者に必要な個別の介助や設備を含む)、作業場所へのアクセスの保障が含まれる(労働法典L.323-9-1条2項)。これらにかかる費用は、助成(aide)(後述)の対象となる。

次に、労働条件への配慮として、労働時間の調整がある。障害労働者は、その要求に応じて、個別に労働時間を調整してもらうことができる。この調整は、障害者を介護する家族や近親者にも同様に認められる(労働法典L.212-4-1-1条)。

なお、フランスには、「適切な措置」の具体的内容を定めるデクレ等は存在しない。「適切な措置」の内容は、何か決まった形があるものではなく、障害者ごとに個別に検討されるべきという考え方が背後にあるためである5。しかしながら、事例の蓄積は、なされつつある(例えば、フランス障害者評議会(CFHE)が2006年11月にまとめたDynamiser l’emploi des personnes handicapees 《Mesures appropriees》des ouvertures europeennes。資料参照)。
参考:この他、雇用義務の対象者については、解雇予告期間を2倍にする配慮が法によりなされている。同規定の適用により、解雇予告期間が3ヶ月以上となることはないとされているが、労働法規、労使協約・協定、あるいは、慣行により、3ヶ月以上の解雇予告期間が定められている場合には、3ヶ月を超えることも可能(労働法典L.323-7条)。

(2)過度の負担か否かの判断

使用者は、「過度の負担」が生じる場合に限り、「適切な措置」を講じることを拒否することができる。フランスでは、「過度の負担」が生じるか否かの判断において、使用者が負担する費用の全部又は一部を補填する様々の助成(aide)6 が考慮される(労働法典L.323-9-1条)。したがって、こうした助成を考慮してもなお、適切な措置の費用が、企業の負担能力を超えている場合にのみ、「過度の負担」が生じているとされる。この助成には、例えば、適切な措置として法が挙げる機械や設備の適応、労働ポストの調整、障害労働者が必要とする個別の設備や支援、労働の場へのアクセス等に関連するものがある。

なお、助成の原資は、主として雇用義務制度における納付金であるが、助成は、雇用義務を負わない企業(従業員数20名未満)に対しても提供される。助

                    

5 Dynamiser l’emploi des personnes handicapees 《Mesures appropriees》des ouvertures europeennes,CFHE,Novembre 2006,p.18.

6 この助成は、主としてAgefiphによってなされる。

成は、企業の法的形態や企業規模等に関わらず提供される 7

(*)「過度の負担」か否かの判定において考慮すべき要素を具体的に挙げたものは、見つけることができなかった。フランスの場合、企業の負担が「過度」か否かよりも、企業の負担に対し如何に「助成」するかに主眼が置かれている。

参考:Agefiphによる助成

−移動に対する助成;移動に際する障害を補うことで障害者の職業的参入を容易にする。

−職業訓練に対する助成;障害者が、仕事を行うために必要な知識や能力を獲得できるようにする。

−雇用維持に対する助成;障害が生じた 又は悪化した被用者及び障害自営業者の雇用を維持する。

雇用に対する助成 ;重度障害被用者の雇用により生じる費用について企業を助成する。2006年1月1日以降、従来の障害労働者所得保障制度に代替。→障害労働者に対する最低賃金保障

−技術的・人的援助;個別の技術的・人的援助によって、障害者が職業を行う上での障害を補うことができるようにする。

−雇用政策実施に対する助成;企業が、障害労働者の雇用を人的資源の管理の中に組み込み、活動計画を遂行するのを助成する。

−参入手当;永続性のある雇用で障害者を採用するよう企業に奨励する。

−職業能力取得契約に対する助成;障害者が、職業能力取得契約で企業にアクセスすることを容易にする。

−見習いに対する助成;若年障害者(30歳未満)の見習いの企業へのアクセスを容易にする。

−職業能力評価に対する助成;障害者の能力を判定し、職業計画の検討を可能にする。

−チューターに対する助成;障害被用者のポストへの溶け込み、あるいは、職業訓練中の研修への従事を準備、保障するために、企業内外のチューターの力を借りる。

−労働の場のアクセシビリティ確保のための助成;ポストや労働に際し使用する諸手段を改善、あるいは、被用者又はチームの労働編成を調整することで、障害者の状況を補う。

3.実効性確保(権利救済)措置・手続

「適切な措置」の拒否は、障害を理由とする差別にあたり、訴えの対象となる 8

(1)私法上の効果

労働法典L.122-45条に違反する措置又は行為、すなわち、健康状態や障害を理由とする、募集手続や企業での研修・職業訓練からの排除、懲戒、解雇、そして、報酬・職業訓練・再就職・配属・職業資格・職階・昇進・異動・契約更新における直接的又は間接的な差別的取扱いは、すべて無効とされる。したが

                    

7 http://www.agefiph.fr/index.php?nav1=common&nav2=faq&id=463

8 差別に関する訴訟の提起に引き続いてなされた被用者の解雇は、解雇が、現実かつ重大な理由をもたず、実際のところ、訴訟活動を理由として使用者がとった措置である場合には、無効となる(労働法典L.122-45-2条)。

って、例えば、解雇無効を求めて労働裁判所へ提起することが可能である9。また、差別により生じた損害について、損害賠償請求を行うこともできる。

なお、民事訴訟の場合には、差別被害者の側の立証責任の軽減が定められている(2001年11月16日の法律10によって導入)。この立証責任の軽減により、原告(被差別者)側は、直接差別あるいは間接差別の存在を推認させる事実を提示すれば良く、被告側が、当該措置は差別とは関係のない客観的な事実により正当化されることを立証しなければならない。

(2)刑法上の効果

次に、差別行為のうち、健康状態や障害を理由とする採用の拒否、懲戒、解雇、及び、健康状態や障害に依拠する条件を募集や研修・職業訓練の申込みに付することは、3年の拘禁刑(emprisonnement)及び45,000ユーロの罰金の対象となる(刑法典225-1条・225-2条)。法人が処罰の対象となる場合には、個人に対する罰金の5倍の罰金、差別が行われた職業的・社会的活動の禁止、司法観察の実施、事業所の閉鎖、公取引からの排除等の罰則が科せられる(刑法典225-4条)。

すべての差別的行為が、刑罰の対象となるわけではなく、刑法典に定めのないものについては、民事訴訟での救済のみとなる(例えば、職階、異動、契約更新などにおける直接・間接差別)。

刑事訴訟の場合には、他の刑法違反と同様に、有罪判決が確定するまでの無罪推定11や証拠の自由の原則12等の証拠に関する法のルールが適用される。民事訴訟法における差別被害者のための立証責任の軽減は、刑事裁判では適用されず、立証責任は、検事の側にある。立証に際しては、差別の事実の存在と差別の意思の存在とを同時に証明しなければならないが、差別の意思の証明は、裁判官を納得させる状況証拠の集まりを示せば良い。

(3)行政機関等による救済手続

裁判所への提訴の他に、権利救済機関であるHALDE(高等差別禁止平等機関)への提訴も可能である。同機関は、2004年12月30日の法律(no2004-1486)

                    

9 解雇無効の場合、被用者は、当初の条件で復職する(解雇無効の原則)。しかし、もっともな理由により復職を望まない被用者には、解約保証金、不法な解雇により生じた全損害に対する賠償金(少なくとも給与の前6か月分(労働法典L.122-14-4条))を受け取る権利が認められる。L.122-9条の定める解雇手当も当然に支払われる。

10立証責任の軽減は、1997年12月15日のEC指令(97/80/CE)(性を理由とする差別)及び2000年11月27日のEC指令(2000/78/CE)(信条、宗教、障害、年齢、性的指向に関する差別)を国内法化した2001年11月16日の法律(Loi no2001-1066 du novembre 2001 relative a la lutte contre les discriminations,JOno267 du 17 novembre 2001,p.18311)により導入された。

11 刑事訴訟法前文III。

12 証拠の自由(刑事訴訟法典427条):刑事裁判官の前で、差別は、あらゆる方法で立証されうる。

13によって創設された独立行政機関であり、法律やフランスが批准した国際条約で禁止されたすべての直接・間接差別について、裁定を下す権限を有している。

差別被害者なら誰でもHALDEへの提訴ができ、国会議員や欧州議会フランス代表を介した提訴も可能である。また、設立後5年以上の差別問題に携わる非営利組織も、被害者の合意を得て被害者と共同でHALDEに提訴することができる。さらに、被害者の反対がないことを条件として、HALDEが職権で差別事件を扱うことも可能とされている。

HALDEは、調査権限を有しており、事情聴取や資料の調査、また、一定の場合には、現場確認を行うことができる。そして、こうした調査をもとに、調停の斡旋や和解案の提示14を行い、勧告を作成する。

この他、HALDEは、国民への情報提供、法的手続き関する助言、さらには、差別立証の支援を行い、良き慣行・実践を特定し、普及させることも使命としている。

発足以来、HALDEへの提訴は、増え続けており、平均すると、1日に15件の申立がある。出自に関するものが28%、障害・健康状態に関するものが21%、年齢に関するものが6%である。また、分野別に見ると、雇用に関するものが50%と最も多く、公的サービスが21%、財・サービスへのアクセスが14%、住宅が6%と続く。差別は、とりわけ、採用、職業的参入、キャリア展開においてみられる15

(4)その他

その他、以下にあげる組織等も、差別が問題となった場合にそれぞれの形で介入できる。

a.労働基準監督官

まず、労働基準監督官は、労働法典L.122-45条や刑法典225-2条に違反する差別を証明しうる事実の確認に有用とされる資料や情報をすべて提示させることができる(労働法典L.611-9条3項)。

b.非営利組織

次に、病者又は障害者の擁護・支援を行うことを目指す、設立後5年以上の非営利組織は、刑法典225-2条違反について、被害者又はその法定 代理人の合

                    

13 同法は、2006年3月31日の法律(機会の平等のための法律)による修正を受けている。

14 2006年3月31日の法律により、HALDEは、公訴が未だ行われていない場合に、和解金の支払いを提案することも可能となった。

15 http://www.halde.fr/saisir-16/pourquoi-saisir-31/pourquoi-saisir-34.html

意があれば、私訴原告人16に認められた権利を行使することができる(刑事訴訟法典2-8条:1990年法により挿入)。

また、労働法典L.122-45条違反については、差別対策に従事する設立後5年を経た非営利組織が、L.122-45条及びL.122-45-4条違反については、障害分野で活動する設立後5年を経た非営利組織が、志願者又は労働者の書面による合意を得て、彼らのために訴権を行使することができる。志願者及び労働者は、何時でも非営利組織が行う訴訟に参加することができ、また、訴訟を取り下げることもできる(労働法典L.122-45-1条2項、労働法典L.122-45-5条:2005年法により挿入)。

c.職業組合

さらに、全国レベル又は企業レベルの代表的職業組合も、雇用・研修・職業訓練への志願者、企業内の被用者のために、L.122-45条に関する争いについて訴権を行使することができる。当事者が、書面で通知を受けており、15日以内に反対の意を示さなければ、当事者の委任は必要ない。当事者は、常に、職業組織が起こした訴訟に参加することができる(労働法典L.122-45-1条1項)。

d.従業員代表

最後に、従業員代表は、雇用・報酬・職業訓練・再就職・配属・職業資格・職階・昇進・異動・契約更新・懲戒・解雇における差別が確認された場合、使用者にその事実を訴える(saisir)ことができる。この場合、使用者又はその代表は、ただちに、従業員代表とともに調査を行い、改善のために必要な措置をとらなければならない(労働法典L.422-1-1条)。

                    

16 犯罪の被害者としての資格において、加害者に対して、犯罪によって生じた損害の賠償を求める訴権が、公訴と同時に同一の裁判所において行使される場合に、その当事者に与えられる呼称。山口俊夫編『フランス法辞典』東京大学出版会(2002年)419頁。


資料:「適切な措置」が問題となった事例

1.2005年報告書(HALDE)

(1)労働条件の調整と《適切な措置》
(Deliberation n° 2005-34 du 26 septembre 2005)

Bernardは、フランス選手権のファイナリストであったほどのスポーツマンである。彼は、身体・スポーツ科学の修士号を持ち、救急法の資格も有していた。それゆえ、彼は、身体・スポーツ教育の教員試験に登録することを望んだ。

Bernardには、中度の聴覚障害があり、そのために潜水することができなかった。COTOREP(CDA:障害者権利自立委員会の前身)は、彼に、カテゴリーBの障害労働者資格を承認した。それゆえ、彼は、障害者に認められた嘱託による採用にもアクセスすることができた。

しかしながら、彼は、法令の適用により、障害を理由として、水難救助証明書を獲得することができなかった。これは、身体・スポーツ教育の試験を受けるにあたり予め必要とされるものである。

担当省は、Bernardに、試験への登録はできないことを通知した。

そこで、Bernardは、障害者に認められた嘱託による採用を選択しようとしたが、大学区本部は、同じ法の適用により、それを認めなった。Bernardは、再度、担当省に訴えたが、返答は明確であった:《行政としては、身体・スポーツ教育の教員が、自らの責任の下に置かれた生徒を救助できることを確認しなければならない。この資格は、免除の対象とはなりえない》。

HALDEは、身体・スポーツ教育の教員は、一般的には水泳を教えないこと、仮に教える場合にも、同僚が代理するか、助手が伴えば十分であることを指摘した。重要なのは、2005年2月11日の法律の観点から、過度の負担を生じさせない《適切な措置》を講じることである。

Bernardに対する拒否は、身体・スポーツ教育の試験への登録には水難救助証明書が必要であることを定めている2004年6月17日のデクレの規定に基づくものである。そこで、HALDEは、国民教育省に対し、2005年2月11日の法律と両立しうるよう、当該デクレの修正を求める勧告を行った。

(2)適応したポストの探求
(Deliberation n° 2005-76 du 14 novembre 2005)

Jean-Pierreは、指揮・監督者助手の倉庫係として雇用された。2年後、労災により、彼は、足を怪我した。労働医は、労働不適性を言い渡すことはしなかったが、倉庫係に義務付けられている安全靴の着用を禁じた。

Jean-Pierreは、電気機器メンテナンスの長期職業訓練を受け、グループ内異動を受け入れる用意ができていた。しかし、職業訓練後に彼に提示された唯一のポストは、経験を必要とする情報技術のポストであった。ポストは、Jean-Pierreの持つ資格を超えるものであったので、採用担当者は、彼との面接を有益とは考えなかった。彼の適性は、当該ポストにはまったく対応していなかったからである。Jean-Pierreは、解雇のための事前面談に呼ばれた。

渡された文書から、Jean-Pierreの使用者は、再配置の請求を様々なグループ企業に行っただけで、空きポストの正確な確認を要請していなかったことが判明した。

HALDEは、使用者は被用者の能力に応じた雇用の提案を行っていない、当該被用者を再配置することが明らかに不可能であったことを証明できていないと判断した。

そこで、HALDEは、使用者に対し、解雇手続きを停止するよう要請を行った。

(3)疾病休暇
(deliberation n° 2005-87 du 19 decembre 2005)

HALDEは、12ヶ月間で20日間の疾病休暇をとった被用者、あるいは、6回以上疾病休暇をとった被用者を個別の賃上げから排除する規則を定めている就業規則について、申立を受けた。

HALDEは、この規定は、健康状態を理由とする差別を禁止する労働法典L.122-45条に違反すると判断し、使用者に対し、この措置を終了させるよう要請した。

進行性の疾病は、時に、重大で、休まざるを得ない治療を必要とする。疾病も、それに伴う治療も、多かれ少なかれ、欠勤や通常より軽い勤務の原因となる。それゆえ、進行性の疾病を持つ者は、多くの場合、COTOREPにより障害労働者認定を与えられている。

使用者の中には、格下げ、別コースの用意、責任の免除などにより、病者の疲れの増大を緩和させようとする者もいる。しかし、中には、それが、ハラスメントに該当する場合もある。健康状態を考慮したポストの要請は、主観的な評価のもとに、解雇の基礎ともなりうる。

使用者は、被用者に不利益な決定を行うに際して、多かれ少なかれ、その疾病に関する知識を考慮に入れることがある。そして、多くの場合、将来起こりうる疾病の進行から想定されるリスクに応じて決定を行っている。HALDEは、各個人の状況について、実際の健康状態に基づいた注意深い検討を行うことを要請する。進行のリスクを無視できないならば、進行は必ずしも起こるとは限らないという事実、将来治療法の改善が起こりうるかもしれないという事実も無視できない。いずれにせよ、使用者は、障害の場合と同様、被用者の雇用を維持できるよう、あるいは、必要ならば適切な職業訓練の後に他の雇用へと再配置できるよう、解決策を探求しなければならない。

2.2006年報告書(HALDE)

(1)障害と両立しうるポストの不提案
(Deliberation n° 2006-101 du 22 mai 2006)

Monsieur S.は、2003年2月まで、図書館で働いていた。この日より、彼は、いかなるポストも与えられていない。Monsieur S.は、1990年におきた労災以降、13%の部分的恒久的労働不能を認定されており、重い物の取扱いや左腕を繰返し動かす行為を避ける労働ポストの調整を必要としていた。

HALDEは、3年にわたり、配属のない職員に、その障害と明らかに両立し得ない2つのポストしか提案しなかった公的セクターの使用者は、障害労働者が、その資格に対応した雇用につき、それを維持できるよう適切な措置を講ずることを使用者に課す公務員の権利と義務に関する法律の規定を遵守していないと判断した。こうした態度は、組合差別として申立人に対する個別措置が無効とされ、また、申立人が出自と関係するモラル・ハラスメントの告発を行った後に続くものであり、報復的措置と考えられうる。そこで、HALDEは、使用者に対し、3ヶ月以内にこの状況を終了させることを要求した。

(2)疾病休暇明けの適切な措置
(Deliberation n° 2006-214 du 9 octobre 2006)

視覚障害を有する申立人は、2005年6月7日、COTOREPにより障害率90%の認定を受けた。

申立人は、1997年10月1日以降、料理人として私立中学校で働いていたが、当該中学校の学食業は、民間企業に譲渡されることとなった。それゆえ、申立人の労働契約は、2004年1月1日以降、現企業に移転されることとなった。

使用者の変更以降、申立人は1人で働くよう言われ、従前の支援は受けられなくなった。申立人は、職務の遂行ができない旨伝えたが、上司は、そのポストに対して調整を行うことは不可能であり、提案できる他のポストもないことを納得させた。 2004年1月26日から5月28日の疾病休暇及び夏休み(7・8月)を経て、申立人は、2004年10月4日、労働医を受診し、復職の再検討をしてもらうこととなった。しかし、申立人は復職できなかった。

使用者は、HALDEによる予審を経て、あらゆる必要な行動をとり、再配置と労働ポストの適応の観点から、被用者の期待を考慮に入れることを約束した。そこで、HALDEは、当該使用者の取組みを確認するようHALDE所長に依頼すると同時に、使用者に対し、労働法典L.323-9-1条の定める適切な措置の実施について再検討するよう要請した。

(3)適切な措置の不在
(Deliberation n° 2006-226 du 23 octobre 2006)

Monsieur D.は、1991年から1994年にかけて疾病休暇をとった後、1995年以降も、使用者による労働契約の停止が継続していることに関して、HALDEに訴えた。この状態は、11年に及んでいる。Monsieur D.は、1994年及び1995年に、復職を要請する封書を送ったが、使用者はその受取りの事実を否定している。2005年、使用者は、障害係争裁判所(TCI)所長により、申立人の再度争う意思について通知を受けた。所長は、使用者に対し、パートタイム労働での再開を検討するよう提案し、さらに、労働医への受診についても提案した(契約停止状態を終わらせるには、労働医の診断を受けなければならない)が、使用者は、率先した行動は何もとらなかった。

2005年2月11日の法律により創設された労働法典L.323-9-1条は、使用者は、障害者がその雇用を維持できるよう適切な措置をとらなければならないことを定めている。適切な措置の拒否は、同条2項の適用により差別となる。使用者は、労働医受診の要請をしないことで、2005年2月11日の法律の施行以降使用者に課せられた適切な措置を講じる義務をおろそかにした。こうした使用者の不作為は、障害を理由とする差別を構成する。

そこで、HALDEは、使用者に対し、労働医への診断を要請することで、Monsieur D.が復職できるよう適切な措置を講じるよう勧告した。また、本決議の通知から3ヶ月以内に、Monsieur D.が企業内のすべてのポストに対し不適性である場合を除き、その資格に応じた雇用を維持できるよう適切な手段を講じるよう要請した。

(4)調整(amenagement)及び再配置の不在
(deliberation n° 2006-229 du 06 novembre 2006)

申立人は、2001年9月に障害労働者認定を受けた後、使用者(P市)により、強制的に休職処分とされた。医療委員会は、現行法の存在にもかかわらず、提訴されなかった。

申立人は、いかなる再配置(reclassement)の対象にもされなかったが、それは出自を理由とする差別であると主張した。予審では、こうした差別の存在は、証明できなかった。しかし、市長は、申立人のポストを調整することも、適応したポストに再配置することをしなかった。これらは、2000年11月27日のEC指令(2000/78/CE)や1983年7月13日の法律(no83-634)6条の6の定める義務である。こうした調整や再配置の不在は、障害を理由とする差別を構成する。

そこで、HALDEは、市長に対し、検討したポストへの申立人の現実の再配置が不可能であれば、申立人が、その能力と資格に応じた雇用を与えられるよう適切な措置を実施し、6ヶ月以内に、その報告を行うよう要請した。

(5)試験間の休憩時間
(deliberation n° 2006-287 du 11 decembre 2006)

身体障害を有するEmmanuel M.は、労務管理者試験に不合格であったのは、障害を持たない受験者よりも休憩時間が短かったせいであると考え、HALDEに提訴した。試験時間が30分追加された結果として、彼の休憩時間は、他の受験者よりも30分短くなってしまった。2005年法により修正された2004年1月11日の法律27条は、障害を持つ受験者のために、《身体的状況と両立しうる条件で答案を作成できるよう、連続する試験の間に十分な休憩時間》を与えるよう定めている。HALDEは、Emmanuel M.が享受した休憩時間は、他の受験者の2時間に対し1時間30分で、十分なものであったと考えた。

それゆえ、HALDEは、健康な受験者に認められた休憩時間とまったく同じ休憩時間を障害を持つ受験者に保障しなかった事実は、2000年11月27日のEC指令及び2004年1月11日の法律27条の意味における差別には必ずしも該当しないと結論付けた。

(6)裁判所へのアクセスに対する障害を持つ弁護士の困難に関する決議
(deliberation n° 2006-301 du 11 decembre 2006)

HALDEは、車椅子にのった障害を持つ弁護士の申立を受けた。その内容は、裁判所のアクセッシビリティの未整備を理由として、その職業の遂行上被っている困難に関してであった。

2000年11月27日のEC指令3条は、同EC指令が、非被用者の就業活動にも適用されることを定めている。

HALDEは、国は申立人の直接の使用者ではないが、申立人が司法に携わっていることから、結果として、申立人の職業活動の遂行は、車椅子の者の裁判所へのアクセッシビリティと関わりがあることになると考える。ゆえに、司法省は、仮のものでも合理的な改修(amenagement)を行うか、あるいは、申立人の職業の場へのアクセスを可能にする適切な措置をとることを行わなければならない。

3.Dynamiser l’emploi des personnes handicapees 《Mesures appropriees》des ouvertures
europeennes(フランス障害者評議会:CFHE)

(1)ポスト閉鎖に伴う再配置

Monsieur A.D.は、進行性の神経疾患に罹患しており、企業内での移動や頻繁な昇降に困難を有している。彼は、自動車メーカーのための塗料製造会社(従業員数670人)で生産ポストに就いていた。彼のポストがなくなることとなり、企業は、地方のCap EmploiとAgefiphに対し、Monsieur A.D.の再配置問題について要請を出した。全当事者の合意により、能力評価が企業の出資で行われ、再配置は《支払いサービス》における行政ポストに決まった。

複数の面において、同時に、様々の手段がとられた:

−個人に対しては《社会保険等の支払い・届出》に関する職業訓練(1,650ユーロ);
−事務所近くの駐車スペースの改修、火災の際に避難するための手動車椅子の獲得;
−事務所の改善(19型のパソコン、高さを調整できるデスク)、部屋や書類保管所の改修、電動車椅子の購入(17,438ユーロ)。

Agefiphが、以上の予算の55%(10,717ユーロ)を負担し、企業が45%(8,875ユーロ)を負担した。

(2)採用プロセスにおける適切な措置

Mme B.F.は、難聴者である。面接に先立ち、彼女は、彼女の状況について知らされた使用者から、面接の方法を明確にする封書を受け取った(場所、時間、目的)。聴覚の問題について知らされていた使用者は、Mme B.F.が、読唇することで難聴を補い、実はそうではないのに理解しているような印象、あるいは、質問をまったく理解できていないかのような印象を与える危険があることを知っていた。

採用面接にあたり、使用者は、志願者を正面に座らせ、口の前に手を置くことなくきちんとした口調で明確に話し、質問が正確に理解されていることをきちんと確認した。このルールを守ることで、面接官は、他の志願者に適用される基準と同じ基準でMme B.F.を評価することができた。

(難聴の程度に応じて、手話通訳者が要請される可能性もある)。

(3)職務の遂行のための措置・改修

Mme J.K.は、会計士レベルIIIの資格を持ち、個人で車も持っていた。この若い女性は、公道での事故により車椅子に乗ることとなった。希望するポストを職人地域にある中小企業で見つけることができた。企業の建物はワン・フロアーで、オフィスへの入り口の扉の幅は80センチであった。

使用者、Mme.J.K.、労働医の間で、この雇用の実現に必要とされる改修や措置について検討した後、車椅子での移動を容易にするためにオフィス内の家具の配置を換えること、入り口の扉を幅90センチのものに取り替えること、高さの低い整理棚を設置することが決定された。他方で、駐車スペースも確保され、労働時間のわずかな調整(午前・午後の途中での20分の休み)も、必要不可欠な衛生管理を満足に行うことができるよう認められた。

金銭的な助成が、Agefiphに申請され、認められた。

Mme J.K.は、全員の満足のもと、4年以上そこで勤務している。

(4)職務の遂行のための措置・調整

Mlle V.は、感情障害を伴う軽度の知的障害を持っている。彼女は、十分な理解力と適応能力を持っているが、仕事のペースは、著しく遅い。彼女の職業計画は、クリーニングとアイロンであった。

以下の措置が、雇用に際して実行され、うちいくつかは現在も続いている:
−同僚への情報提供;
−Mlle V.への職業訓練:労働のリズム、職務に関連する危険、研修で取得した職業態度の深化。本人の取得能力の遅さを考慮して、いくつかの項目は繰り返された;
−薬品の色分け(複雑な包装に関する指示);
−非常に複雑な仕事、順番のある仕事については《写真》を貼る;
−労働時間、休憩時間、ミーティング時間の掲示;
−休憩時間と食事時間の調整(キッチンの使い方、バランスの取れた食事)。

Mlle V.は、無期契約で雇用されている。

(5)新技術の利用

Mme M.A.(35歳)は、工場を依頼人とする技術アシスタントのポストについている。彼女は、そこで、高い能力とモチベーションを示していた。数ヶ月前から、彼女は、精神的な問題を示すようになり、電話でのやり取りやクライアントとの打ち合わせにおいて、不安による発作(パニック障害)が生じるようになった。Mme M.A.は、職場へ来ることができなくなった。彼女は、チームによる治療を受け、《障害労働者》として認定された。企業とともに、このチームは、Mme M.A.が仕事に復帰できるよう働いた。

解決策は、以下のような手段を通じて見出されることとなった:

−Mme M.A.が、依頼人と電話でのコンタクトや直接のコンタクトをとらなくて済むような労働編成;
−情報処理ポストやインターネットによる連絡の整備、パソコンを通して文書でやり取りされるQ&A。

Mme M.A.は、もはやストレスを感じておらず、むしろ、問題を処理する時間を与えられていると感じている。

(6)労働時間の調整

N.C.は、電気ケーブルの組立工で、運動機能に障害を持っている。泌尿障害を伴い、2時間おきに約15分の排泄時間が必要である。N.C.と使用者は、パートタイムでの就労(3分の2の労働時間)を選択し、N.C.が、同僚が出勤した後に出勤し、早く退社できるようにした。N.C.は、週に4日働き、駐車スペースも彼のために確保されている。N.C.は、朝は9時45分に出勤し、トイレへ行き、10時10分に席について12時30分まで働く。午後は、13時30分に仕事を開始し、17時35分まで働く。途中、25分の休憩がある(他の人は10分)。

(7)職場環境の整備

Monsieur R.C.とその妻は、300個の蜂の巣から蜂蜜を採取することを生業としている。彼らは、市場で蜂蜜を販売している。Monsieur R.C.(52歳)は、背中を痛め、腰の手術をした。それにより、彼は、荷物を運ぶことができなくなった。ところで、彼の仕事には、蜂蜜の台(30キロ)や蜂の巣、200リットルの樽を一輪手押車で牧草地の中を数百メートル移動させることが含まれている。

そこで、環境の整備として、17,645ユーロをかけて、4輪車(quad)、牧草地の中荷物を運ぶ幌付トレーラー、樽の昇降台、蜂蜜用ポンプを購入した。

Agefiphが予算の70%(12,345ユーロ)を、農業社会共済(MSA)が30%(5,300ユーロ)を負担した。Monsieur R.C.本人には、これほどの費用を負担することはできなかった。

(8)人的支援

難聴者であるMonsieur A.F.は、大企業でエンジニアとして働いている。彼は、会議において、発言しなければならないこととなった。口頭での表現に問題はないが、会議出席者からの質問や議論途中での他の参加者の発言は、難聴のために聞くことができない。そこで、彼は、《文字通訳》サービスを要請した。パソコンに打ち込むことで、リアル・タイムに文書を表示するサービスである。これにより、Monsieur A.F.は、パソコンの画面で報告終了後の質問を読むことが可能となった。こうして、Monsieur A.F.は、議論を活性化し、質問に答えることができた。


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