08/04/21 「安心と希望の医療確保ビジョン」第7回会議議事録 「安心と希望の医療確保ビジョン」第7回会議 日時 平成20年4月21日(月)    18:00〜 場所 厚生労働省9階省議室 ○ 小野看護職員確保対策官  ただいまより、「安心と希望の医療確保ビジョン」第7回会議を開催いたします。本日はご参集  いただきまして誠にありがとうございます。松浪政務官は、本日都合により欠席いたします。  では、舛添厚生労働大臣、何か一言お願いいたします。 ○ 舛添厚生労働大臣  皆さん、今日はどうもありがとうございます。これまで、薬学というか薬剤というか、薬の話が  なかったものですから、今日は虎の門病院の薬剤部長の林さんに来ていただいております。その  後辻本、野中、矢崎の3委員の先生方にそれぞれのプレゼンテーションをしていただきます。今  日と、もう1回ぐらいでまとめを行いたいので、長期的なビジョンにつながるような話を具体的  に詰めていきたいと思っております。  総理もこの研究会に大変期待しておりまして、おそらく、ここで決まる提言がそのまま政府の提  言になる可能性が非常に高いと思います。そういう意味で、今日は取りまとめに向かって進めた  いと思いますので、どうか、よろしくお願いいたします。 ○ 小野看護職員確保対策官  それでは、まず林先生のご紹介を申し上げたいと思います。  林昌洋先生は、国家公務員共済組合連合会虎の門病院薬剤部長でいらっしゃいます。林先生は、  昭和55年から虎の門病院に薬剤師として勤務し、平成9年からは、薬剤部長に就任しておられま  す。長年、病院に勤務する薬剤師としてチーム医療に積極的に取り組み、最善の薬物療法を提供  できるよう、医師や看護師等と連携して業務に携わっておられます。  本日は、林先生からのヒアリング及び質疑応答を合計で30分程度行い、その後アドバイザリーボ  ードの先生方のプレゼンテーションとさせていただきたいと思います。では林先生、プレゼンテ  ーションをお願いいたします。 ○ 林先生  本日は、医療現場に勤務する薬剤師からの発言の機会を頂戴しまして、少しでも現場的な、お役  に立てる内容をご紹介していきたいと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。  安心で希望の持てる医療ということについて、ここから歩いて10分ぐらいの所にあります虎の門  病院で行われている現実についてご紹介させていただきます。  虎の門病院は、港区虎の門の地にあります急性期病院です。876床ありまして、約460名の医師が  忙しく勤務されている病院です。臨床では、診療や治療と同時に、臨床教育、あるいは次世代の  治療に向かっての臨床研究なども統合して行っている病院です。  今日私が薬剤師の立場からご提案する内容は、すでにご存じの内容ですが、チーム医療により、  質や医療の効率化ができるのではないかという内容です。薬剤師、看護師、PTあるいはクリニカ  ルエンジニアの方たち、こういったそれぞれの専門職が医師を中心として、患者さんを中心に置  いて支えていく医療、これがチーム医療かと思います。こういう専門職が分担することによって、  相互に協力し合ったり、相互にチェックすることができて、お互いの負担が軽くなることも事実  です。  これは虎の門病院薬剤部の組織と業務です。細かいスライドで恐縮ですが、左のほうから調剤、  製剤、補給、情報と、医薬品に関連して以前からあった4領域がございます。そして右の、茶色  く囲った四角の中、これが院外処方発行後に、より患者さんに近い所で勤務をする薬剤師のセク  ション、虎の門病院では病棟薬剤科と呼んでおりますSatellite Pharmacy(衛星薬局)で、セン  ターの大きな薬局に対して、ベッドサイドにある薬局です。薬剤師と医師や患者さんとの距離が  近いという特徴があります。  薬剤師は薬の専門職ということは言うまでもないわけであります。その薬は、物としての品質等  の医薬品の側面、そして、安全で有効に患者さんが使うための適正使用情報を含む側面、この2  つの側面で成り立っています。伝統的な薬剤師の業務と申しますと、ここに書きましたような、  物を志向した流通管理、供給管理、品質管理、そして調整、調剤といったところが中心になって  いました。これに対して先ほどのようなベッドサイドのサテライト薬局を中心とした患者志向の  業務になってきますと、直接患者さんと面談をして、薬に関して問題になっていること、より有  効な治療計画、あるいはより副作用を避けられるような治療計画を薬剤師からチームの中で提案  していくことが多くなってきています。薬剤師のチーム医療の中での貢献というのが副作用の回  避だとか、より有効で安全な処方設計の支援という部分になってくるのではないかというのが当  院の現状です。  チーム医療の推進に関して、医薬品の適正使用サイクルというものを念頭に図を書いてみました。  的確な診断、そして最適な処方、これを医師がされることはもちろんです。そして調剤、服薬支  援は薬剤師の役割です。看護師さんあるいは患者さんご自身が正確な使用をされて、その成果が  果たして有効か、安全かというところを再評価して処方にフィードバックしていく、これは従前  から言われている内容であります。  この、医師がされている7個中、4個の部分に対して薬剤師も一緒に参加できるのではないかと  いうことが、最近では取り組まれています。例えば適切な処方、最適な処方に関しては、体内動  態などを勘案して処方設計をサポートすることもできますし、副作用に関しては、ベッドサイド  で私たちが患者さんと直接面談して、下痢だとか嘔気だとか、いろいろな症状を含めて、あるい  は骨髄抑制なども検査値を含めてチェックしていくことができます。そして、それは上段の「処  方提案」に結び付いて、医師の負担軽減にもつながっていくところかと思われます。その内容を、  最近問題点が多いと言われている持参薬のチェック、あるいは、がんの化学療法、そして感染症  に対する抗菌化学療法という3つの分野で簡単にご紹介します。  患者さんが入院してこられるときには、自分の病院の薬というよりは、よその病院の薬、あるい  は街の薬局で購入された薬を含めて、この写真のように、ごっちゃに持ってみえるケースも少な  くありません。入院と同時に、薬剤師が患者さんに当日面談します。もちろん、医師や看護師の  皆さんもそれぞれの専門性で面談されます。その持参薬の中に入院後の問題点、例えばカテーテ  ル検査をするときの抗凝血薬、あるいは造影剤による薬物相互作用に問題があると判断すると、  薬剤師が計画書に記載します。そうすると、医師はその内容を確認しながら、入院期間中の安全  な薬物療法を承認するという格好、あるいは修正・承認するという格好で速やかに指示すること  が可能になっています。  薬剤師は前日に患者さんのデータ等を予習しておきまして、当日は入院と同時に患者さんと会っ  て、紹介状の内容や、お薬手帳など調剤薬局からのデータも含めて確認をして、入院期間中の服  薬書の案みたいなものを作成するイメージです。そして、医師の皆さんがそれを承認するわけで  す。自分の病院の中にある薬でも先生方には手間がかかるのですが、病院で採用していない他院  の薬まで含めて薬剤師がサポートしていく業務が今、定着してきています。  この図のように実際には「持参薬あり」の方が9割以上ございます。中には医療用医薬品ばかり  ではなくて、街の薬局で買ったものや健康食品なども含まれていて、これらの薬物との相互作用  も決して軽視できない状況にあります。  薬学的な処方支援というのは、このように、入院してこられた患者さんの腎機能と合わせて見る  と薬が過量ではないか、このままいくと副作用の発現もかなりの確率であるぞ、という場合には  服薬計画書案でそのことを問題点としてお伝えします。また、先ほど申しましたような、手術前  の抗血小板薬のような問題点についても書いていきます。このようなことで、薬剤師がサポート  していることでの医療安全や安心へつながる部分も少なからず現場に定着しているというところ  です。  最近、お薬手帳を使って入院時、退院時に私たちと調剤薬局の皆さんとの連携が強化されるよう  な方向に来ています。この図のように院内での薬剤師と医師の皆さんとの連携、そして、保険薬  局の皆さんと各地域のかかりつけ医師の皆さんとの連携が、在宅の支援にも同じような形で進ん  できているかと思われます。  次に少し視点を変えて、がんの化学療法、最も危険な殺細胞的な抗がん剤、それも1種類だけで  は有効性が届かないので複数を合わせたもの、これを「レジメン」とか「プロトコール」と呼び  ますが、そういった領域でチーム医療がどんな形になっているかをご紹介します。左側が消化器  外科の回診風景です。右側は、がん専門薬剤師が最近認定されていまして、専門薬剤師の資格を  取った2名の薬剤師とともに、がんチームを形成している薬剤師の写真です。  左上にありますように、通例、医師が注射オーダーをします。ここで、抗がん剤は専用のレジメ  ンオーダーシステムで投与量や組み合わせに安全面のガードがかかっています。もちろん、この  レジメンは院内のレジメン審査委員会でOKが出たもののみを、薬剤部が事務局になって登録して  安全を図っているわけですが、今日のお話の焦点はここではありません。また下のほうにありま  すように、こうした注射抗がん剤の処方は薬剤部局ですべて調剤され、ミキシングされて無菌的  に調製されて病棟に上がってくるわけですが、今日の焦点はここの部分でもなくて、横にご覧く  ださい。  従来は、医師がオーダーをすると、看護師の皆さんが指示受けをされていましたが、今は、看護  師と同時に病棟薬剤師が指示受けをするようなスタイルになっています。そこで患者さんへの面  談と投与前の説明や質疑への応答、そしてサポートというようなことが薬剤師によって行われま  す。医師のオーダーに関して、当日の患者さんの顔色や検査値などを見ながら薬剤師が処方の修  正提案をしたりする局面も出てきています。このことによって、患者さん自身が勇気を持って治  療に臨めるような形でがんの化学療法が、患者参加型で展開することができるようになってきて  います。  これはその説明に用いる書類の一部です。シリアスな内容も入っていたり、やや難解な内容も入  っていますが、イラストを入れたりして極力患者さんの理解をサポートするようにしています。  右側のスケジュールですが、最初に副作用防止でリンゲル液(生理食塩液)などを点滴している  段階でも、前回ひどい吐き気の経験のある方は、嘔気を催してしまうような心因性嘔吐というこ  ともあります。スケジュールを明確化することによって患者さんの安心、そして、ご自身もチェ  ックできる医療安全が進んでいると言えます。  これは癌治療学会で、当院の医師と薬剤師で共同研究したものを薬剤師から発表したスライドで  す。右上のように、こういった患者さんへのサポートは、説明だけでなくて不安感の解消にもつ  ながって、3分の2以上の患者さんで不安が減少しているというスライドです。もともと、がんと  診断されることも非常に不安ですし、それに対する副作用の強い治療をするということも不安で  す。そんな中、3分の2の患者さんで不安が軽減してきているということが確認できることも、一  つの貢献かと考えております。  薬剤師は、患者さんへの面談や説明にとどまらず、処方設計支援をしています。もし副作用が患  者さんに発現している場合にはそれを軽減化する、あるいは遷延化させない提案をしています。  これは5か月間全病棟で、注射や抗がん剤を薬剤師が指導しないと注射薬を打たない、という院  内の体制になった後にどのような問題点がチェックされたかということを示したものです。1,32  1件の患者さんたちに薬剤師が関わって108例、116件の処方提案を医師にしています。これは、処  方提案のうち、医師が「なるほど」と言って受け入れてくださった件数です。忙しい先生方とと  もに、薬剤師も薬の視点からご提案をすることがさまざまな診療科で具体的なアウトカムにつな  がっています。  内容は、リスクマネージメント的な10数パーセントを除いた84%は、やはり処方提案になってい  ます。これは患者さん自身の副作用を軽減することが主でありまして、その他相互作用や前投薬  への工夫などに関する提案なども含まれています。  次に抗菌薬の処方支援チームをご紹介いたします。抗菌薬の処方支援チームは、当院では感染症  部の医師のグループと薬剤部の感染症専門薬剤師のグループが院内でプロトコールづくりなどを  して、さらに現場の処方医と薬剤師のコンビネーションで成り立っています。例えば多剤耐性ブ  ドウ球菌のように、難治性で治療が難しい。さらに、耐性菌問題への院内対策は重要だというよ  うな抗生物質については、院内の感染対策チームや感染対策委員会でプロトコールを作成し、そ  のプロトコールに基づいて院内の治療が行われる状況になってきています。このプロトコールで、  医師は初回の推奨される治療量が規定されていまして、その後、腎機能に合わせた体内動態が設  計しやすいように、その後の血中濃度の上がりにあわせた採血ポイントも具体的に定義していま  す。  そうすると、次に薬剤師に声がかかって、感染対策チームとの連携、あるいは病棟薬剤師と処方  医との処方設計の協議が始まります。ここで薬剤師は、体内動態のシミュレーションに基づいて  One-compartment Modelという予測式がありますので、それでコンピューターを用いて予測を立  てて、先生方と一緒にピーク(薬の最高濃度)を有効な領域に、そして薬の濃度が下がった1日  の時点を腎臓や肝臓に負担がない濃度に下げられるように処方を作ります。それを医師が患者さ  んの難治度と、どのぐらい難しい部位の感染症かということを勘案し、最終的に承認するという  形で治療が進んでいきます。こういった治療は、感染症領域で、医師が診断と薬を決めて“per  Pharmacy”とオーダーされるとそのままオーダーが決まって承認されていくという米国のスタイ  ルと非常に似ています。  これはバンコマイシンの虎の門病院の投与プロトコールです。これは米国の「Moelleringのノモ  グラム」という有名な式を中心に考えて、虎の門病院で更に日本人バージョンに改善したもので  す。初期投与量、推奨される血中濃度の測定点、また、血中濃度の調節に関する医師と薬剤師の  協議の部分を定義しています。こういったことによって、極めて難治な患者さんに多くの手を割  かれる先生方の投与設計の部分が支援されていることが分かるかと思います。  これがまとめのスライドになります。最近では、薬剤師が患者面談をして病棟、ICUあるいはオペ  室、いろいろな場所に勤務しています。そして、その薬剤師が、患者さんに薬物療法に関する問  題点があると、医師に処方提案する形でチーム医療の質が更に向上するような取組みになってお  ります。また、何でもかんでもということではなく、こうした適正使用が特に重要となる医薬品  に関しては、院内で必要なプロトコールが出来ていて、そこに専門性を持った薬剤師がいて、体  内動態、薬理学、薬剤学などの知識を駆使して処方設計を提案しているという現状であります。  こういった院内のチームは「薬−薬連携」という、病院の薬剤師と保険薬局の皆さんとの連携を  含めて開局、在宅の領域にもいま広がりつつあると感じています。  さらに、先生方の負担を軽減して質を高めるとすると、院内で副作用モニタリングや処方設計を  していますと、先生方に「この辺で採血しましょう」とか、「手術で忙しいけど、戻ってきたら  検査のオーダーを入力してください」などとお願いすることがしばしばあります。お忙しい先生  方を見ていると、もし院内でプロトコール化している場合に、専門性を持った薬剤師が検査オー  ダーをして医師の負担を軽減するといったような方策も考慮していくと相互に楽になっていくの  かなと。また、患者さんにもより良い医療が提供できるのかなと感じております。以上、ご清聴  ありがとうございました。 ○ 小野看護職員確保対策官  ありがとうございました。それでは林先生の質疑に入らせていただきます。先生方、よろしくお  願いいたします。 ○ 野中委員  院内で医師や薬剤師等の多職種と連携すると、いろいろなことができるということだと思います。  本当は、このような連携はあるべきことと思うのですが、何がきっかけでこのような連携ができ  るようになったのかを伺いたい。  私は地域の診療所医師ですが、病院から患者さんが紹介され、今後の治療方針等を病院医師から  いろいろ情報を頂きます。しかし、薬の情報に関して、病院内の薬剤師から私たちの調剤を担当  している薬局に対しての情報提供が具体的に姿として見えない。在宅医療の面では、いま先生が  言われたような部分がこれからは大事と思いますし、患者さんも、実は、薬に関しては医師より  も薬局で聞きたいと思っている筈です。地域の保険薬局との連携についてはどういうことが具体  的に行われているか、その2点について教えていただけたらと思います。 ○ 林先生  まず、きっかけの1つは、院内で比較的早い時期からこういうプランがありました。私が病院に  勤務してもうすぐ30年になるのですが、私が入局して2年目の年に、UCLAに行ってこられて戻ら  れた先生が病院長をされていらっしゃって、そのときに「病棟に薬剤師がいるのは医師にとって  ずっと楽だぞ」という話が持ち上がりました。私は大学を出て2年目だったのですが、センター  薬局のチーフをしていた段階で、急遽病棟に行きました。そのときはまだ今の薬学教育六年制と  ちょっと違うので、それから2年間、医師の皆さんにものすごく教えていただいたり、自分でも  勉強しました。そんな中で、自分自身は、ベッドサイドでの薬剤師の業務というのは本当に患者  さんの役に立つという実感があるのだと感じました。そして、私が薬剤部長になった後、それま  で細々と兼務しながら病棟に伺っていた状況なのですが、ちょうど院外処方発行ということもあ  りまして、調剤室に勤務していた薬剤師はもう2分の1から3分の1ぐらいに、2,000枚の処方が100  枚ぐらい、治験薬とか特殊な薬だけになりましたので、院長先生とご相談して、その分をみんな  病棟のほうで患者さんのお世話をするようにというサジェスチョンをいただきまして、それまで  培ってきたノウハウがそこでグンと花が咲いた、当院で展開できるようになったというところだ  と思います。  また、1人の患者さんを救ったという経験を医師の皆さんと共有できた一例一例が積み重なって  いくと、医師の皆さんからも非常に信頼していただいて、誰々さん、次は、この抗生物質はどう  しようかと声をかけていただくようになりました。そうして定着していく、つまり化学療法学会  で症例の解析を発表して、日本人の投与設計に必要なパラメーターを院内で解析していくという  ふうになってくると、医師と薬剤師は一緒にいなくてはという雰囲気が醸し出されてきました。  もしかすると、院外処方せんの発行だとか、薬剤管理指導料という保険点数が付いていることも、  経営層からは視点に入っているのかなという気はしています。  保険薬局の皆さんのことなのですが、保険薬局でも、ものすごく勉強されている先生方がたくさ  んいて、一緒に勉強会をやったりもしているのですが、1ついちばん大変だろうなと感じている  のは、私たちのように、先生方と一緒に治療ストラテジーを共有するラウンドを毎週毎週持って  いるという所は少ないように思います。それから、患者さんの病名が基本的に処方せんには書い  てないわけなので、処方内容から病名を推察して治療提案をするというのは、ちょっとご苦労が  あるかなと思います。いま患者さんから許していただける場合には、ご自身のお薬手帳に、腎機  能だとかに関する処方設計に必要な主要な検査値、あるいは、これから問題になる病名をここに  お書きしておきましょうかということで、「そのほうがいいんですよね」と患者さんが言ってく  れる場合にはお書きして、薬剤師から薬剤師に伝えています。いまは医師の紹介状のようなもの  を薬剤師が書ける仕組みにはなっていないので、お薬手帳を介して、患者さんご自身の情報とし  て、行った先の薬局で是非見せて、ご自身の治療設計に活かしてもらってくださいというふうに  していますが、患者さん自身の個別化医療に役立つ情報が調剤薬局の皆さんにもあるといいのに  な、ということを病院の立場で私は感じています。きっと保険薬局の皆さんが苦労されている点  はもっとほかにもあると思いますが。 ○矢崎委員  大変先進的な取組みをされているのに感心いたしました。私どもとしては、メディカルスタッフ  の方々にチーム医療と、さらに踏み込んでスキルミックスで病院の機能強化を図っていくという  ことを目指したいと思うのですが、看護師や助産師の裁量権などについては、先進国で相当機能  している例があるのですが、私の知る限りでは、薬剤師の役割というのは外国でもそれほど踏み  込んだ議論がない。本当かどうか分かりませんが。日本における薬剤師の方々のアクティブな行  動が1つの見本になるのではないかと思いますが、もしもう一歩進んで、病院の機能強化を更に  確かめ、かつ、患者サービスで医療に貢献するというような取組みがもし可能とすれば、どうい  うことが可能だと先生はお考えになられますでしょうか。 ○ 林先生   広く世界的な、あるいは国内全部の施設を知っているわけではないので、うまい発想がご提案で  きるかどうか、十分ではないのですが。1つには海外でも、特に米国などでは、薬剤師が処方権  を持っているような州もあると聞いています。日本ではまだまだ、六年制になったとはいえ、私  たちは処方提案をしながら、決して診断をするわけではありませんので、体内動態学や薬理学と  かという部分から先生方と一緒に処方設計を支援するというのが今の時点ではいいのかなと考え  ております。  後半の、更にどんなことができるかというお話ですが、1つは、医薬品の承認というのは大変難  しい作業だと思います。これは国民全体を集合体として、グループとしてこれが有効だというこ  とを認めていく作業だと思うのですが、まさに個別化医療というのがいま求められていて、承認  された薬の体内血中濃度を見ても、10倍ぐらいばらつきがあります。これを見て取って、入院か  ら外来まで継続して、一人ひとりに合わせた治療を設計していく。もちろん、適応症と用法・用  量の範囲内で使うというのが基本にはなるわけですが、お一人おひとりに関しては、高齢者だと  か、腎機能障害患者で適切に調節するようにという指示は出ていますが、目の前の方をどうお世  話するのかということに関しては、いまのチーム医療を入院から外来にも発展させるぐらいのコ  ンセプトで今後やっていけたらいいと思います。というのは、アメリカでも、病院薬剤師会とい  うのはHealth-System Pharmacistsに変わりまして、入院から退院後までシームレスなケアで医  師の先生方あるいは患者さんをサポートする機能を持つというコンセプトに、ここ10年前ぐらい  から変わってきていますので、私たちも、まず入院患者さんに最善のサービスを。虎の門病院も、  決して有り余る人材をというわけではなくて、みんなで工夫しながらやり繰りをしていますので、  その中で更に工夫ができたら、退院後の患者さんのアフターケアもしていきたいと考えています。  欧米では、そのことが再入院率の低下といったことにもつながるという論文が薬剤師からもたく  さん出てきていますので、日本でも、そういうところまでこぎ着けられたらいいなと感じていま  す。 ○ 矢崎委員  例えば、我が国でなかなか治験が進まないという課題がありますが、そのときに薬剤師の方々が  果たす役割もまた、あるのではないかと思いますが。 ○ 林先生  ありがとうございます。当院も治験に関連した拠点病院にご指定いただいていまして、現在CRCと  して、それから治験事務局あるいはローカルデータマネージャーとして薬剤師が活動しています。  もちろん、ここでも看護師の皆さんや検査技師の皆さんとチームを組んで、今20名弱のチームで  治験に取り組んでおります。次世代の医療を日本で、近隣諸国や世界に遅れずに何とか提供した  いというのは薬剤師の願いでもあります。その意味で、治験はまだ分からない副作用も、人種差  等も含めて、これから出てくる可能性も視野に入れながら患者さんのケアをしていくということ  になると思います。プロトコール・コンプライアンス、クオリティーが高いというだけではなく  て、患者さんをお守りしながら、被験者の皆さんをお守りしながら、良い治験を早いスピードで  展開していくためには薬剤師も積極的に関与していくべきだと思いますし、治験におけるチーム  の推進もいま院内で図っているところです。  特に、薬剤師の中には製薬企業に勤めている同級生もいますので、「どうですか」などと話をす  ると、国際治験を担当している友達の薬剤師が説明に来てくれたりしています。治験を担当され  る先生方からも「面白い話が聞けたよ」というような話をいただくこともあって、治験も含めて、  いろいろな意味で貢献していきたいと考えています。 ○ 辻本委員  患者にとって、薬剤師さんという方は病院の中でもいちばん顔の見えない存在であるということ  がなかなか解決できていないというのが実感です。いまのお話の中で、チーム医療ということは  もちろん患者も望むことなのですが、チーム医療をなさっていく中で何が難しいかということを  お尋ねしたいと思うのです。例えば350点業務の服薬指導も、医師の指示の下ということでしか来  てくださらない。本当に患者が薬のことを不安に思って聞きたいというときにお顔が見えない、  という声が私たちのところにも届いています。  それから、先ほどの林さんのお話の中で、これは言葉の綾かもしれませんが、抗がん剤の処方提  案をしたり提言をしたりとかいったときに「医師が受け入れてくださる」とおっしゃったのです。  患者は、それを非常に微妙に感じ取ります。目の前でそういう薬剤師さんの態度からうかがい知  ることは、「ああ、ドクターの下に位置する人なんだ」と。チーム医療にリーダーは必要でも、  ヒエラルキーがあってはいけないと私は思うのですけれども、その辺りが少しも変わっていない  なということが相談者のお声から届いてまいります。そういった意味で、そこに何が必要なのか、  何が難しいのか、チーム医療を阻む問題点をまずお尋ねしたいということが1点です。  あとは簡単にお答えいただければいいのですが、虎の門のような病院であれば、ミキシングとい  うことがたぶん完璧に行われていると思うのですが、数年前に私は、薬剤師会の会長さんに、日  本全体の病院の中でミキシングをクリーンな所で、しかも薬剤師さんがきちっとやっていらっし  ゃる病院はどれぐらいかというのを質問したことがございます。そのときに、悲しいかな、せい  ぜい10%ですという、びっくりするような数値を教えていただいて、それがこの2、3年でどれぐ  らい改善されているのか。もし数字をお持ちであれば、その辺りを教えていただきたいと思いま  す。2点お願いいたします。 ○ 林先生  まず最初のご意見、ご指摘のところなのですが、うちの病院で、院長と事務長と私で病棟薬剤業  務を大々的に展開するときにキーワードにしたことが1つあります。それは院長から言われたの  ですが、「林さん、薬剤師が面談しないで帰る患者さんをつくらないでね」ということです。  もう1つ言われたのが、軽い患者さんに会うよりも、とにかく重い症状の患者さん、つまり先ほ  どの抗がん剤で治療される患者さんは100%薬剤師がサポートする。重症の患者さんほど薬物療  法は困難です。また、相互作用もシャープに出てきます。そこのところこそ薬剤師がやってくだ  さい、という2つのことを宿題としていただきまして、そのことは、私自身もずっと考えていた  ことですので、「そうしましょう」ということでこういったことが実現しています。  それから、医師の皆さんが受け入れてくれるとか、その辺なのですが。私自身のこの会での発言  内容として適切かどうかというのは適宜補正していただいていいと思うのですが、私は多くの専  門医の皆さんをとても尊敬しています。循環器の先生についても、がんの化学療法の先生につい  ても尊敬しています。皆さん、ものすごく見識が深いです。その深い先生たちに自分が発言する  機会があるというのは幸せなことだと思います。また、その提案をその専門家が受け入れてくれ  るというのは、薬剤師にとって「治療の組立てとしては薬学的な思考が合っていたのだ、患者さ  んの為になったんだ」というのはとてもやりがいのあることです。私が尊敬する多くの医師の皆  さんと一緒に仕事をしてきている中で、尊敬している部分から「受け入れていただいた」という  ような表現になっているかもしれません。しかし、実際はもう少しフラットな感覚で若い先生と  若い中堅薬剤師が普通に会話しているのが今の日常だと思います。これは私が歩んできた自分の  薬剤師人生の中で体にある程度染みついている言葉かもしれません。恐縮です。  ミキシングのことですが、これは薬剤師の当然の義務という感覚は多くの病院に定着していると  思います。私はいま正確な数字を持っていないのですが、去年の夏にも、病院薬剤師の業務をど  うするのだということがあって調査したかと思います。それで10人以上薬剤師が居る病院とか。  病院の中には2人薬剤師しかいないとか、1人しか薬剤師がいないという小さな病院もあります。  病院の規模ごとに1人の薬剤師、2人の薬剤師、10人の薬剤師。どこまでできるかということの確  認のデータを、病院薬剤師会は持っていると思います。私がそういうデータをチラッと見た記憶  では、少なくとも300床以上とか、100床以上とか、ある程度施設規模に見合って薬剤師がいる施  設では8割か9割、薬剤師が混合調製までの注射調剤業務を担当していると思います。ものすご  く人数が少ない所で、あるいは療養病院のように必ずしも注射の積極的な治療よりは内服治療が  優先されるような病院では、そういうのをやっていますよという回答にはなっていない、という  のがここ数年の劇的な変化ではないかと私は見ています。 ○舛添厚生労働大臣  1点よろしいですか。スキルミックスの話をしているのは、医師不足というようなことがあった  ときに、助産師さんや看護師さんが、お医者さんが今やっている仕事の一部を代替してくれれば、  その分だけ医師の時間が取れるわけです。いまの林部長の話を聞いていると、非常に重篤だから  病棟にいて医者と協力して抗がん剤をやるということなのですが、逆に、コメディカルに助けて  もらって医師の負担を減らすという観点から一般的に言うと、例えば、初診のときは医者がきち  んと診て、薬の処方もやる。そして改善してきたときに、もう一遍医者が診なくて、もうそこま  で改善しているのなら、例えば3種類薬を飲んでいたけれど、今日からは2種類でいいですよと  いうようなことをやれれば、再診のときにお医者さんが診なくていいわけです。そういうことは、  医師の立場から言うと「診断もしないで、けしからん」ということになるのだろうけれども、私  が思っていたのは改善に向かっている、どちらかというと軽症の患者さんについては医師が出る  までもない。しかも再診、再々診したがっているのだけれども、その必要もなくて、あとは薬の  量を減らしなさいと。そういう形を頭に描いていたので、若干私のイメージと違ったのです。も  ちろん、これはこれで大変意義があると思うのですが、その点はどうお考えですか。 ○ 林先生  私どもは急性期病院ですので、平均在院日数が2週間ちょっとぐらいのところですので、いま舛  添大臣からご質問いただいたところに全面的に回答できる部分と、そうでない部分とありますが。  病棟では大体入院後7日置きに定期処方といったような形で処方の更新が行われて、処方と調剤  が行われます。ここでは、薬剤師はその患者さんの入院後の経過が分かっているので、手術をし  てしまえば抗がん剤を1回オフにする。あるいは、降圧剤が同じく継続さていても、「実は、ベ  ッドサイドで患者さんが最近立ちくらみをよく訴える。それはもしかしたら、入院して、ものす  ごく正確に一生懸命飲んでくれているせいかもしれないのですが、降圧剤の処方を変更して半量  に減らしたらどうでしょうか」というようなことを、現状で薬剤師が処方の下書きをしています。  そして先生方に入力をしていただいています。いま入力をサポートするスペシャリストを養成す  るという話もあると思うのですが、場合によったら、そういうところを医師の承認でやってもい  いですよと言っていただけるようなことがあれば、これはいつでもできるような病院が多いと思  います。  外来を考えると、うちの病院では受診希望の患者さんが多いせいもあって、90日処方、60日処方、  30日処方というのが25%ずつぐらいあります。大多数の方は3か月ぐらい飲んでいます。これは  私の想像なのですが、調剤薬局に行って全部90日分もらってしまうのかなというとかならずしも  そうではない気がしています。例えば下剤だとか、患者さんが少し調整していい薬もあるのだろ  うと思います。そんなときには、その分については後で薬局に行って「これは飲まないでも済ん  でますよ、いいですよ」と言う。いま分割調剤とかいうことはあるのだと思うのですが、そうい  うところで調節しておいて、それを調剤薬局の薬剤師の皆さんが処方医の先生方にフィードバッ  クする。先生方も、何が何錠余っていますとかと患者さんから細々と言われて、忙しい診療の中、  その投与日数を補正して合わせるのは大変だと聞いています。院内で、保険薬局で、処方の調節  ということに関して、治療が安定化してきたところで薬剤師から処方管理のご提案をできている  という現実はあると思います。 ○ 西川副大臣  私もこの前、助産師さんや看護師さんをお呼びしたので、薬剤関係からないなと思っていたので  すが、今日来ていただけて、これでバランスがとれたと思います。ありがとうございました。大  変良いお話、非常に前向きなお話を聞かせていただきました。  この前アメリカの薬科大を出た若い薬剤師の方とちょっとお話をしたのですが、アメリカでは注  射まで薬剤師がやっているとおっしゃるのです。その辺のお話を聞いて、びっくりしたのですが、  薬剤師の皆様ができる範囲というのですか、いまのスキルミックスの話も加えて、この辺が適当  なのではないでしょうかとか、その辺のところをちょっとお聞かせいただきたいのです。  もう1つは地域の医療。やはり、これから地域医療のほうに厚生労働省もかなり力を入れていき  ますが、その中で、地域の薬剤師さんや薬局が健康支援センターみたいな形できちんとフォロー  する。先生のお立場ではちょっと分野が違うのかもしれませんが、その辺のご意見を伺わせてい  ただきたいのです。 ○ 林先生  本日は、がん化学療法や抗菌薬療法とか、そんなことを例にしましたが、実際に、輸液に関して、  院内ではNST(Nutrition Support Team、輸液栄養療法チーム)といチーム医療が動いています。  この中では医師、薬剤師、栄養師、そして看護師の皆さんが一緒にチームを組みながら、経管栄  養だと、どちらかというと栄養士さん、TPNと言って、中心静脈から入れるような輸液に関しては  薬剤師からサポートするような処方提案をできるように事前にチェックして、チームがラウンド  するときに提案をするようにしています。ですので、主治医と病棟薬剤師の関連で、こういう処  方はどうでしょうかとご提案することプラス、診療科横断的なチーム医療の中でも、薬剤師が必  ず入っていて輸液の処方設計を行う。以前はセンター薬局で、この処方はこういうふうにしたほ  うがいいのではないでしょうかと疑義照会をしていたのですが、もう出前をしているという感覚  で、まさに現場のベッドサイドのチームで薬剤師が処方をサポートしているという状況だと思い  ます。  これについては、専門薬剤師制度もありますので、薬科大学を出た後、全員が出きるかと言われ  ると、そういう経験あるいは研鑽を積んできた薬剤師と、そうでなくて内服薬中心に仕事をして  きた薬剤師もいます。病院薬剤師全員がどの分野もということではないのですが、院内である程  度そういう枠組みが出来ていて、そういう専門性を持った薬剤師もいま認定されてきていますの  で、そういう環境ですので注射に関しても要請に応じて十分日本でも可能になってきているのか  なと感じています。  保険薬局の皆さんのことなのですが、私も、同級生で薬局長をしている薬剤師が何人かいるので  すが、在宅の患者さんを訪問してみると、「そこは薬の知識が役に立つ宝の宝庫だよ」などと言  って帰ってきた話を同窓会のときなどに聞かされします。薬剤師が薬のある所にいるという、そ  のこと自体が薬剤師的な発想で在宅の皆さんを救うことにも役に立っているのかなと、同期や知  り合いの保険薬局の薬剤師と話していて感じています。そんな形で、ご質問の趣旨に沿っている  でしょうか。 ○ 小野看護職員確保対策官  林先生、どうもありがとうございました。次に委員の先生方からのプレゼンに入りますが、その  前に、前回の会議で宿題として頂戴した資料につきまして、事務局より若干説明いたします。そ  の後プレゼンをお願いいたしますが、プレゼンの資料の説明は、先生方のプレゼンが終わった後、  議論の時間に一緒にお願いできればと思います。 ○ 栗山医事課長  前回の会議におきまして、一昨年の需給検討会の報告以降の動き等についてのお尋ねがございま  した。これについて、資料5に基づいて説明いたします。  1頁は、平成18年12月の医歯薬調査において明らかになった医師の数です。平成18年において、  医療施設に従事する医師数は26万3,540人で、これまでの医師の増加と傾向は同じです。真ん中か  ら下のほうに病院、診療所における医師数がございますが、これも病院、診療所の割合において  大きな変化はございませんでした。診療科別については、小児科と産婦人科の医師数についての  問題提起がなされております。小児科医師数については増加、産婦人科医師数は減少しておりま  すが、これについては後ほど説明いたします。次頁に、いままでの傾向が変わっていないという  ことがグラフで示されております。  3頁をご覧ください。特に最近女性の医師が増加しておりまして、その就業動向について、いろ  いろ問題提起がされております。これは産婦人科医について日本産婦人科学会が、勤務年数の経  過によってどういう就業形態になっているかを調べた調査です。左が男性、右が女性です。濃い  青と薄い青、その右側の青い点々になっている所が「診療所・分娩有」という所、左が主に分娩  を取り扱う医療機関に勤務する医師数を示していると取っていただいていいと思います。男性の  場合は、一貫して8割以上がそういう医療機関に勤務していますが、女性の場合、特に9年目、  10年目の減少が著しくて50%以下の就業となっているという状況です。  次をめくってください。産婦人科の医師数が減少しているということがこのグラフからもお分か  りいただけると思います。平成16年に大きな減少がありましたが、平成18年度の調査においても  引き続き大きな減少となっています。  これは産婦人科医師数です。特に分娩取り扱い施設を見ますと、これは別の調査ですが、病院、  診療所とともに、この取り扱い施設が大きく減少しているということがご覧いただけると思いま  す。  5頁。小児科医師数は増えておりますが、夜間の外来等で負担が増えているという指摘がござい  ます。これは救急自動車による搬送人員で取ったデータですが、医師数は増えているが、搬送人  員もかなり大きな増加を見ており、1人当たりの搬送人員で見ても増加傾向にあるということが  このデータでご覧いただけるかと思います。  6頁は、同じ県内においても、医療圏によって、県庁所在地など人口の多い都市において医師が  多いという傾向が全国各地にあるわけです。これは医療圏の変化なので、16年との比較は必ずし  もできないわけです。一部県内での格差が広がっている所もございますが、大きな変化はないと  考えております。  7頁。需給検討会においては、2022年に医師の供給が需要を上回るということを出しましたが、  これはその後、緊急医師確保対策を出しましたので、それによってその動向がどのように変化す  るかを図示したものです。グラフでは、更なる対策を講じて更に医学部定員等を増やした場合に  どのようになるかということも示してあります。ただしこれについては、そのグラフの右のほう  に書いてありますように、医療関係者の役割分担と連携、地域の医療機関の役割分担と連携等が  進むことによって需給にいろいろな変化を及ぼすことになります。  最後の頁です。医療関係者の役割分担につきましては、昨年末に「医師及び医療関係者と事務職  員との間での役割分担の推進について」という通知を発出しておりますが、この中で、事務職員  ・看護補助者等に対しては書類の記載の代行等の役割分担、また正常分娩、妊産婦健診等におけ  る助産師の活用、訪問看護等における薬剤量、投与量の調整等、看護師との役割分担について、  こういった工夫が可能ではないかということをお示ししたわけです。以上、最近の動向について  簡単に説明させていただきました。 ○ 小野看護職員確保対策官  ありがとうございました。続きましてアドバイザリーボードの先生方のプレゼンテーションに入  ります。発表は五十音順とさせていただいて辻本先生から、よろしくお願いいたします。 ○ 辻本委員  今日のお話の流れということで、この4点でお話をさせていただきます。  COMLについては、ご了解をいただいてお手元に資料を配っていただきましたので後から見ておい  てください。私どもが最も大切にしてきた合言葉は「賢い患者になりましょう」です。実は、18  年前にCOMLを立ち上げたときには、この合言葉そのものにお医者さんたちから随分お叱りのお電  話をいただきました。これ以上扱いにくい患者が増えてもらっては困るから、君たちのような活  動は必要ない、というお電話が1本や2本ではなかったのですが、今では医師の方たちの支持を  いただくような合言葉になっています。  私たちが提言する賢い患者の5つの提言をここにお示ししました。実は、私自身も乳がんの患者  で、6年前、フルコースの治療を受けておりますが、電話相談を受けていて、患者さんの自覚と  いうのでしょうか、病気が自分の持ち物である、そのことをなかなか持ちにくい人がいらっしゃ  るということを今も感じています。そういった意味で、第1番に挙げておりますのが「病気は自  分の持ち物である」という自覚です。  そして2番、3番においては、インフォームドコンセントの時代の中で、患者が主体的な医療参  加を求められるときの背景として、例えばがんの一般教養などは今、患者が是非とも持たなけれ  ばならない、病とともに生きるために必要な5項目の1つと考えています。  5番目の「ひとりで悩まないで」ということで、私たちの電話相談の活動で多少の役割を努めさ  せていただいているわけです。  私どもが何をやっているかということを、ここで大まかに見ていただこうと思います。SPという  のはSimulated Patient。医学部などの授業で模擬患者ということで患者役になるということで、  すでに950回。医学部のOSCEという医療面接のテストなどにも参加しております。  それから病院探検隊。これは、いわば医療機能評価機構の患者版ということで、すでに全国61カ  所の病院を毎回10人ほどで訪ねて、1日かけて、患者として感じたことなどを、現場の改善のヒ  ントとして役立ててほしいということで提言し、後日詳細なリポートを提出しております。  そして、患者自身が自らのコミュニケーション能力を高めるために、患者のためのコミュニケー  ション講座、これも49回を重ねています。  COMLの活動をスタートしてからずっと続けているのが患者塾。月に一度、いま大体30人、多いと  きは50人ぐらいの参加があり、専門家のレクチャーを受けた後、参加者が主役として語り合うと  いう場づくりを展開してまいりました。  先ほど少し触れました電話相談が活動の柱なのですが、18年間で4万3,000人を超える、顔の見え  ない関係の中でのお声を聞いているNPO法人です。  電話相談の基本姿勢をスライドにお示ししておりますので、後から見ていただければいいのです  が、答えを出す立場と役割ではなく一緒に考える。電話をしてきた人が問題解決の主人公になる  ために背中に回って支える、という理念で対応させていただいております。  ここ数年、トラブルになる相談が目につき始めています。自分の思うような対応をしてくれない  と怒鳴る、なじる、キレる、そういうお声もあるものですから、トラブルにならないためにとい  うことで、電話相談のスタッフと毎月のように照らし合わせをしているのですが、逆に言えば、  私たちが電話相談の患者さんから、コミュニケーションということがどうあるべきかを教えてい  ただいているということも感じています。  この冊子は1998年に、当時の厚生省の仕事、科研から生み出された『医者にかかる10箇条』で、  お手元に配らせていただいております。1年間の研究の後の発行で、厚生省から手を離れた以後、  COMLの責任で、葉書大の小さな手帳で10項目を分かりやすくイラストで表し、普及しているので  すが、現在22万冊という数をいただいております。特に、半分以上は医療現場の方たちに、患者  さんに理解してもらいたいということで普及に関わっていただいているようです。  立場と役割が全く違う患者と医療者、その間をつなぐ掛橋の活動、それが私たちが18年間続けて  きた活動のスタンスです。  つぎに患者さんの意識の変化ということに少し触れていきます。このグラフは1年間にどれぐら  いの数の電話相談が届いたかという単純な推移です。1995年の小さい山は阪神大震災の問合せで  すから、無かったことにはできないのですが、そこを抜いて見ていただいても、急激な右肩上が  り。そして多少の迷いがあってピークを超えて、いま電話相談の数が少しずつ減ってきている傾  向にあることが見てとれます。  数そのものは減っているのですが、かかってくる相談の質に変化があって、1本の電話に大変な  エネルギーがかかるようになっています。平均40分、長い場合は1時間あるいは1時間半以上の  ものが、とみに最近増えてきているのですが、患者の漠然とした不信感が下向きになった今こそ、  医療者と患者の信頼関係の再構築のチャンスだと見ております。  さて、患者さんの意識の移り変わりをこのグラフで見ているのですが、その背景として何が影響  しているのか。諸説あるとは思いますが、私は、メディアの功罪ということで、あえて日経、朝  日、読売、毎日、いわゆる四大紙が過去1年間に医療事故をどれだけ報道してきたかという日経  テレコンのデータをお示しします。90年私どもがスタートした年は4紙合わせてわずか87件、以  後10年ぐらいは横這状況ですが、医療安全元年とも言われている99年を境に、一気に報道も増え  てきている。このグラフからもいろいろ申し上げたいのですが、先ほどのCOMLの電話相談の数の  グラフを重ね合わせて見て、びっくりすると同時に安堵いたしました。阪神大震災の時の相談を  抜いてご覧いただきたいのですが、要は患者・国民が漠然とした不信感を一体何によって身に付  けてしまったかということが、このグラフの中から見えてくるような気がします。安堵した意味  は、医療現場で医療者がきちんと患者が向き合うことの中で、改善できる問題。つまり、危機は  チャンスという思いで、このグラフをお示ししました。  相談の数の推移のグラフから、患者さんの意識の変化として3つのこと、まずは“権利意識”が  95年ぐらいからどんどん高まりを見せ、97年には“コスト意識”の高まりを見せ始めています。  窓口負担がサラリーマンは1割から2割になった年、2002年にはその2割が3割になった。私ど  もへの電話相談に領収書を片手にということで、医療費を「取られている」という概念から、内  訳を確認なさるお電話が目につくようになったときでもあります。そして99年からは医療事故・  医療ミスの報道が過熱し、患者の“医療不信”がとどまるところを知らない勢いで増えていった  わけです。  そのころからです。COMLには医療側からの疲弊感というのでしょうか、現場の悲鳴に近いご相談  が届くようになってきて、患者側からも医療者側からもこの危機の内情を教えていただく立場に  もありました。そして、今や「医療崩壊元年」ということで、幸いにも電話相談の数は下向きに  なっているところを見ていただいて、改めて今こそ関係改善のチャンスであることを確認してい  ただきたいと思います。  2007年、2006年の2年間を比較した相談件数の内容です。左の項目を見ていただくと、患者家族  が医療と向き合うときに、どういったことを胸にとどめているかということが、見て取っていた  だけると思うのですが、このグラフからもいろいろ申し上げたいのですが、1点だけ。トップス  リーは変わらず、すべて医師への苦情です。私どもは途中で声を差し挟まないで最後まで話を聴  くという電話対応を心がけているつもりですが、あまりに誤解していらっしゃる方には、思わず  途中で声をかけます。「すべて医師に期待しても、すべて医師がかなえてくれるわけではない」、  チームの大切さを一生懸命語らせていただいているのですが、なかなか患者家族は何もかも医師  に期待するというところから意識を変えていただくことが難しいということを感じています。  患者さんの思いを後にお話しますが、私どもが18年間電話相談で学んできたことがもう1つあり  ます。人の価値観はどういう時代背景でどういう教育を受けてきたかということで育まれる要素  が多いと思います。単純にということで4分割、例えば高齢者の方がCOMLに電話をして、COMLの  対応に何をお求めになるかという観点で区分しています。いちばん困った患者さんが、実は私も  団塊の世代ですので、自戒を込めて申し上げますが、50〜60歳代がキレる、なじる、怒鳴るとい  う現象が非常に顕著です。がん好発年齢、生活習慣病罹患年齢、さらに言えば80歳以上の親を見  る家族ということで、層の厚い相談の世代なのですが、この世代はやはり自分のことは自分で決  めたい。そして、権利は叫ぶのですが、義務の意識が薄い。さらに言えば頭の上は新しいことが  教育で植え込まれていますが、親から教えられた価値観は非常に古いという二重構造。そして二  言目には正義を振りかざす困った世代、そういうお声が届いています。理屈もおっしゃるので、  勢い時間もかかるということを医療現場の方に申し上げています。当面この世代が多く医療現場  に出現するであろうことを思うアドバイスとして、ただ1つこの世代で救いがあるのは、行動変  容願望が非常に強い。一生懸命に頑張るのは私たちの人生のキーワードであったように、メディ  アが描く自己決定能力を持った主体的医療参加のできる患者になりたいという気持が、電話相談  から非常に強く浮かんでくる世代。その行動変容願望を支えるものこそが「情報の共有とコミュ  ニケーション」、協働する医療を構築する中で信頼関係を取り戻していくチャンスと考える所以  でもあります。  患者さんの意識がどんどん変わってきているその背景に一体何があるのか。社会のこと、医療の  ことが少しずつ見え始めてきていることと、自分の気持を伝える言葉を持つようになっています。  そして、一部には自分さえよければいいと、周りが見えないという声もある一方、若い世代の中  には医療のコンビニ化という現象も生まれてきています。これが豊かな時代の反映なのか、人が  人として成長する過渡期なのか、それは答えが見出せてはいませんが、情報が増えれば選択肢が  増える。増えれば迷いも増えます。その迷う先の医療が不透明であるだけに不安や不満がつのっ  ていることもうかがえます。  そうした患者・家族の医療への期待が大きい分、攻撃的になってしまっているというようなこと  を見ると、ヨチヨチ歩きから始まった患者さんの意識の変化は現在は思春期・反抗期と、私はあ  えてこんな言葉を使わせていただいています。私たち患者が目指すゴールは、成熟した判断能力  を持った、つまり自立した患者、もっと別な言葉で表現するなら、医療の限界・不確実性を引き  受けて、なお主体的に医療参加する。そういう高い高いハードルを越えながら、ゴールに向かっ  ていかなければいけないわけですが、1人で頑張れるわけではありません。それだけに医療現場  で向き合う医療者が背中に回ってどう支えてくれるかによって、ここが随分変わってくるのでは  ないかということを考えています。  医療現場からはいろいろな声が上がってきています。たとえば医師不足、疲弊感、立ち去り型サ  ボタージュ、聖職意識の低下など、言ってみれば患者もわがままになりましたが、医療者も本音  をおっしゃる時代になりました。「やってられないよ」という医師の声を聞くと、やはり時代の  反映なのかなと思います。最近では医師たちの非鳴を聞くと、医療現場における「傲慢と卑屈の  ねじれ現象」を起こしているのかなと感じます。「患者・医療者関係の再構築」をキーワードに、  さらに活動を展開しているところです。  さて、患者さんが基本的に望むニーズは安全であってほしい。そして、安心したい、納得したい  という点に集約されます。厚労省の会議では安全・安心というキーワードは、もう耳にタコがで  きるほど繰り返され聞かされていますが、私どもはやはり賢く選択するためにも、納得する作業  が非常に大事だということを電話相談から学びました。そのために何が必要か。インフォームド  ・コンセントに基づく情報の共有と、どう向き合うかというコミュニケーションで、協働する人  間関係をどう作っていくかが今後の課題ととらえています。  やはり患者さん、家族の電話からは、医療が、あるいは看護が人と人の間で行われる行為、営み  であるだけに、「この人に出会えてよかった」という願いがどなたからも見えてきます。  そういう意味では、両者のそれぞれの責務が横並びになるようなインフォームド・コンセント、  医療が流れる間、どこを切り取っても金太郎飴のように両者の責務が並ぶ、そんな関係を作って  いきたい。  そのために、例えば患者の私たちが求められることが何であるか。先ほど来、何度も申し上げま  すが、医療の限界と不確実性を引き受けて、医療は完璧ではない、正解はないということを受け  入れていかなければいけない。そして受診行動の見直し、医療者とのコミュニケーション、さら  に言えば「賢い」妥協と諦めということが自らの納得になるならば、ここに主体的にかかわって  いく必要があるということ。そしてもう1つは、多くのご相談を聞いていると、父も母も、そし  てもちろん自分も死なないと思っていらっしゃる方が実に多いということ。そういった意味では  この死生観のテーマを社会化していくことが非常に必要だということも感じています。  患者が学ぶこととして取りあえず3つ挙げています。1961年に国民皆保険が整備されて以来、患  者は与えられ、施される医療に、「お任せ」の受け身で参加してきました。ところが、1995年に  突然『厚生白書』のまえがきに「医療サービス」というキーワードが登場して、そこから患者の  権利意識が急激に高まりを見せています。その後、日本医療機能評価機構の受審ということで、  アメニティなど病院の環境が非常にきれいになってくるという効用はあったのですが、その間、  患者はサービス受給者・利用者として何の学習もなければ、それらしい情報もありませんでした。  地域の医療は地域の人々が支えるという、患者中心、患者が医療の主人公という言葉をそのまま  に言わせていただくなら、患者が意識を変えていかなければいけない、国民皆保険を守る担い手  であるということを、私たちがどれだけ引き受けていくかということが、いま大きく問われてい  ることを感じます。自助・共助ということももちろん、つながりの安心を地域の中で作っていく  こと。患者教育・支援ということでは情報リテラシー、私どもが大阪医療センターに4年前に患  者情報室を作らせていただいていますが、患者が一生懸命に学ぶ場があることでサロン化してき  ています。  さらには、相談機能を地域の中で充足させていく。そのために何が必要かといえば、地域活動の  支援を私は是非ともお取り上げいただきたい。NPO活動もボランティア活動もそうです。そこに  は人・もの・金がやはり必要なのですが、ただボランティアということで先般、国民会議のサー  ビス保障分科会で団塊の世代をボランティアにという期待が随分語られました。しかし、先ほど  も少し困った世代ということで触れましたが、この世代は破壊と攻撃はするのですが、建設と継  続が非常に苦手な世代で、企業論理をボランティア活動にも持ち込むということで、受け入れる  私たちも疲れてしまうことがしばしばあります。そういったところを支援、育成することが、逆  に言えば地域の患者さんたちの協働参画意識を高めることにも自ずとつながっていくことではな  いかと思います。兵庫県立柏原病院の小児科を守るお母さんたちの活動、さらに言えば私たちの  患者塾や病院探険隊のような活動が地域の中でそれぞれに展開されてほしい。その中から、「お  せっかい」が生まれてくると思います。おなかの大きくなった女性に、ちゃんと健診しているか  と尋ねるおせっかい、いまは数回は無料で健診してもらえるんだよと支援をするおせっかい。あ  るいは孤独死などというような問題にも地域のおせっかいが非常に大切になってくる、ひいては  それが医療費削減にまでつながると私は考えています。さらに言えば、学校教育の現場に患者さ  ん、あるいは遺族体験を語るというようなことも、是非とも組み込んでいただきたいと思ってい  ます。  そして医療への願いということで、喫緊の課題はもちろん医師不足ですが、先ほど林さんのお話  にもありましたように、当面をどうするか、それはチーム医療、役割分担、言ってみれば医師本  来の業務に専念できる医療体制づくりしかないと思います。医師不足の問題で数を増やすことは、  育つまでに10年かかることを思えば、やはりチーム医療の促進を是非ともお願いしたいと思いま  す。  チーム医療のつなぎ役の配置が促進に大きくかかわることを、すでに取り組まれている数々の現  場から学んでいるところです。そして、特に患者に最も身近で、病院の中でも層の厚い人材とし  てのナースの役割、あるいは認識を高めていただくこと、質を高めていただくことも提案させて  いただきたいことの1つです。さらには、先般、地域医療の中でも浮上した総合科の確立、家庭  医、総合医の育成の問題、そして地域の医療ネットワーク。そのためには国民の生命にかかわる  分野を競争原理に託しては絶対にならないと私は思います。財源投入を是非とも舛添大臣によろ  しくお願いしたいということをもって、少し延びてしまいましたが終わります。ありがとうござ  いました。 ○ 小野看護職員確保対策官  ありがとうございました。それでは引き続き、野中先生お願いいたします。 ○ 野中委員  辻本さんとは昔から今お話された『賢い患者さんのお医者さん選び』という小冊子を通じて、連  携しており、懐かしく思います。今日はどう様なお話をしようかと考えましたが、自分の体験か  ら学んだことをお話ししようと思います。  透析医療はご承知のように、慢性腎不全の患者に対して週3回の透析治療をするということです  が、私が透析医療にかかわった昭和48年の頃より、以前は救命行為だった透析医療が、救命だけ  ではなく、社会に復帰できる、生命が永らえることができることが認識されてきました。たぶん  矢崎先生の時代には、どういう患者に対して透析治療をすべきかどうか、現場で語られたと聞い  たことがあります。私はそういう不幸な検討をしなくてよかったと思います。  その透析医療から救命ということも学びましたが、患者の社会復帰ということを考えることがで  きたのが、私にとってはその後の医療活動によかったと思っています。その治療を踏まえて患者  の人生、生活を支えることの意味が体験できました。そして、患者に適切な人生、生活を支える  ことができるのだという面から医療連携を考えることができた。もう1つ、先ほど辻本さんが言  われましたが、患者自らの行動変容をどうやって支えるかを理解しないと、医療は国民にとって  の医療ではなくて、医療提供者にとっての医療になってしまうと思います。  つまり、治す医療だけに固執して、治す医療がどんどん狭まってくると、医療従事者のための医  療になってくる。今回の様々なヒアリングを聞いていても、いわゆる病気を抱えた人に対してど  う支えるかという視点よりも、医療の現場で各々の職種の活動の話しか聞こえてこないのが、私  は非常に残念でした。国民にとって医療は治すことも当然大事なことですが、支えることもより  大事と思います。その支える視点を医療に加味するからこそ、医療が国民にとって大事なものな  のです。わが国の国民皆保険制度は社会が支え合える、あるいは互いに思いやるという気持の制  度として、世界に冠たる制度と思っています。しかし、この国の医療制度がそういう視点で捉え  られていないということが非常に残念と思います。  突然、この生活習慣病のイメージ図を持ってきましたが、これも厚労省のスライドです。この図  の中のレベル3、4、5がいままで医療が対象としていました。今回、特定健診がこの4月から始ま  りましたが、大事なことは2番目にあるレベル1の不健康な生活習慣です。この不健康な生活習慣  を患者自らが自分の将来を考えて、それを変えていくかどうかに、本来の医療の意味があると考  えます。つまり従来からの予防の視点ではなくて、患者自身が行動変容することに対して、どの  ように医療が関わるのか重要です。私の腎臓病の治療の経験からも、医師だけではこの事を実現  できるわけではありません。多職種の協力や連携が必要です。  これからの特定健診で大事なことは、医師が患者の不健康な生活習慣を見つけると同時に、地域  の栄養士、保健師、薬局の人等の多職種が絡んで、その人の人生についてアドバイスする事にこ  そ意義があるわけです。例えば健康食品の活用についても、栄養士、薬剤師の大きな役割がある  わけですが、その役割がどうも見えてこないのが現実です。私の診療所でも栄養士は必要ですが、  残念ながら実際には配置できていません。地域に栄養士がどこにいるか見えない。多職種の連携  こそが、地域の人々の人生を支える。そのことを、是非認識いただきたいと思います。有資格者  がどうやって資格を活用するかが問題であって、資格があるからできるという事では全くないと  思います。  従来は図の左端にありますように転倒して大腿骨を骨折すると、初めて医療が関わってきました。  しかし、何故転倒したのかを考えれば下肢の運動機能が低下したためです。すなわち例えば奥さ  んが亡くなったことによって、食欲の低下になり、あるいは外出しなくなる。その結果、下肢の  運動機能が低下する。その下肢の運動機能の低下した者を骨折する前に見つけることが、実は大  きな意味がある。その方々を早く見つけて、社会参加を通じて生活機能全般の維持を図るという  視点が大切であり、その流れを作ることが重要です。このような視点はまだまだ医療には不十分  で、それこそ治す医療ではなくて支える医療と思います。病院の先生たちには転倒した大腿骨骨  折を十分に治していただきたいと思いますが、地域の医師はむしろ患者の生活機能の把握をし、  そして生活機能の低下している人に社会参加を促進することによって患者が病気にならない状況  を作る。これが実は予防であって、そういう視点で予防が語られていないと現場で感じています。  患者の社会参加が大事です。  そこで医師と患者との関係が大事です。医師には、病気に対する診断と治療が最も大事ですが、  同様に生活機能を把握して、その患者の生活機能の改善も望まれています。  そこで厚労省と一緒に考えたのが、この基本チェックリストで1から25項目あります。これらの  項目を診療所の現場で、患者との会話を通じて確認する。従来の医療の現場では治すことだけに  着目していて、支える視点が抜けていました。  この図は後期高齢者の外来診療のイメージとして厚労省から提案されたものです。中段にある診  察行為が当然大事です。定期的な通常の診察は当然として検査等を年に2回やるか、年3回やる  か、あるいは患者の急性期の状態によって大きく異なります。さらに、加えて総合的に患者を診  るという、生活機能も含めて診る視点での診察が提案されています。従来の現場の作業にはこの  ような診察が不足していました。今回は後期高齢者の診療において、これらを新たに提案できた  ことがよかったと思います。従来の診察に加えて生活機能を評価することによって、いろいろな  課題が克服できると思います。専門的な治療が必要な場合には他の専門医療機関に紹介する。こ  のような行動は病診連携として従来から行われていました。  そして、さらに生活をサポートする必要がある時には、地域包括支援センターへ紹介します。こ  の地域包括支援センターは厚労省が約2年前から各市町村に設置しています。その地域包括支援  センターを活用する視点も、支える医療にとって大事な話です。これは病院の先生方にとっても、  退院調整の時点でも地域包括支援センターを活用する道があるわけですが、そのことがあまり知  られていないのは、患者の治療だけに着目していて、患者の生活を支える視点がまだまだ欠けて  いるからではないか思っています。  患者と医師との会話がきちんとできていれば、そして生活機能のハイリスクの人が退院して地域  包括支援センターにきちんと相談ができる。そこには認知症の問題でも、退院時の連携という課  題も扱います。地域住民のさまざまな生活をサポートする視点が現場にはあるのですが、なかな  かこれが活用されていない現状があります。  支える医療においても医療連携は大事です。患者が診療所に通院していて、そこで心筋梗塞、脳  卒中などを発症して入院し、治療を受ける。我が国の病院医療の水準は、医師の頑張りもあり世  界に冠たる水準と思っています。しかし、厚労省から在院日数の短縮が提案されて以後、診療所  で患者や家族と話していると聞こえてくるのは、「病院から出て行けと言われました」あるいは  「病院から追い出されました」という言葉です。つまり病院が治療に専念していることは先ほど  の林先生の話でも非常に効果が上がっていることと思いますが、つまり治療の内容は素晴らしい  けれども、患者が医療を継続して受けながらも地域にどうやって戻っていくか、そのときの作業  が不適切なのです。  なぜ不適切なのか、病院は確かにこのスライドの上の項目すなわち生活を脅かしている原因を除  去・緩和するということは真面目に取り組んでいます。しかし、退院後の健康と生活の安定につ  いて、十分検討されてないのが現実と思います。退院後、予想される問題を検討し、十分な援助  計画を作成し、退院に結び付けることは病院の本来の業務と思います。現状で言えば、病院が病  院での治療は終わりました。あとは現場で、在宅医療でやってくださいと私たちの診療所に送ら  れてくるわけです。そのときにどういう課題があるかをきちんと提示してくださるからこそ、私  たちは治療ができるわけです。つまり退院調整が必要だということです。  つまり、入院から退院に向かって医師は治療において頑張っているわけですが、先ほどの林先生  の言った院内の職種が、各々の資格を活用しながら患者の生活を作るかというところに、もっと  視点を持たなければ、患者は安心して退院できないと思うのです。医療の継続は先ほどの林先生  の話の様にきちんと継続できると思います。しかし、我々にとっては医療の継続かもしれないけ  れども、患者にとっては治療を継続しながら家や施設で生活も継続するわけですから、その生活  に対してどのような問題点が克服すべき課題であるか、まだまだ現状の退院調整では適切に実施  されていない。このことが日本の医療の大きな課題と思っています。  つまり、入院時に医師は治療方針を決定します。さらに院内には看護師、薬剤師、栄養士とさま  ざまな人たちが存在しており、その人々がケアカンファレンスにて退院調節をして退院するわけ  です。この様な流れがチーム医療として語られてはいますが、現状ではこのような多職種による  カンファランスが開催されていない。その積み重ねこそが患者は安心して退院できるのというこ  とを、是非認識いただく必要があると思います。  この図も今回、後期高齢者に対する診療のイメージとして厚労省が提示したものです。医療にお  いて治療のみならず患者の生活機能に着目する。例えばこの患者のように嚥下障害に問題、服薬  支援が必要、そして栄養管理が必要という課題がある。それらの課題を退院時ケアカンファレン  スによって、問題点をみんなで共有しそして解決方法を検討する。このような流れが示されてい  ます。  退院前ケアカンファランスにて検討して、それらの課題や解決プランを具体的に現場に提供する  からこそ、患者は安心して退院できるのです。これらの作業こそ、やはり医療のおける生活を支  えることです。医療や介護における様々な資格を持った人たちが、自らの資格を活用して患者の  治療だけでなく、生活を支えるという視点が、医療にはもっと必要と思います。  つまり、そうやって病院から治療方針そしてケアプランの原案が地域の医師をはじめとする現場  に提示される。そして、現場では訪問看護師や介護支援専門員、薬局の薬剤師、栄養士などと一  緒にケアカンファレンスすなわちサービス担当者会議において、実際に実行できるケアプランを  作成する。その結果、患者は医療行為を必要としても住み慣れた地域で生活できるわけです。こ  の様な工程がきちんと実施されることが、実際に大事なのです。病院本来の役割を考えれば、在  院日数を減らすことだけを評価するのではなく、むしろ患者が地域で安心して生活できるという  ところに、本来の意義を認識すべきと思うのです。医師の守備範囲を拡大するか縮小するかとい  う話は非常に大きな問題と思います。そしてその問題にはいろいろな責任の問題も絡みます。そ  のため、その問題を検討する前に愚直に担当者会議あるいはケアカンファレンス等をきちんと実  施して各々の職種の役割や行動を共有していくことこそが、日本の医療に求められているのです。  医療連携は、いままで病院と診療所とが医療を継続する事して語られているわけですが、本来の  切れ目のない医療連携とは地域での患者の生活を医療連携にて守ることです。そのためまず医療  機関において多職種が連携によって退院調整をして、患者の生活を守るケアプランが地域に流さ  れる。つまりどんな医療行為を必要としても患者の生活が支え合えるかをきちんと検討する、私  はそれが本来の医療の大事なことであり、それらの作業が実施されていないから、そのため現場  が忙しすぎるという羽目になっている。それらの作業を実施すれば、看護師の役割も明確になる。  看護師が日本の医療の中で期待されているわりには、看護師本来の業務がなされていない。この  理由には、医師側の問題もあると思いますが、実は「療養上の世話」という看護師の本来の業務  があるわけですが、なかなかその役割を発揮できないというところにあると思います。先ほど林  先生が言われた薬剤師、あるいは院内の栄養士たちが協力して、きちんとそういうケアプランを  作るという視点が欠けていることが、大きな問題と思います。  従来の患者の機能障害そのものを治すことにより能力低下や社会的不利を改善するという考え方  も大事なのですが、これからは残っている心身機能や日常生活の活動、あるいは社会参加にそれ  ぞれに働きかけて、利用者本人の生活を支えていく視点こそが病院にとって大事な話です。そう  いう活動こそ、医療が活用される話を、医療の提供者、あるいは介護の提供者がみんなで共有し  患者の生活を実現するからこそ、医療が国民に受け入れられると思います。  本来、地域医療は患者の生活を支える医療であり、その中には専門医の役割、かかりつけ医の役  割、その専門医とかかりつけ医が協働診療することが大事です。これは医師の場合の話ですが、  薬剤師の場合は病院の薬剤師と地域の薬剤師、看護師の場合は病院看護師と訪問看護師、ヘルパ  ー、OT・PTなどさまざまな職種の場合も同様であり、それらの職種が協働するからこそ、患者の  生活を支える事ができるわけです。やはりそういう視点に医療をもっと変えなければいけないと  思います。  この図は台東区で中核的な病院を作ったときに、区民の皆さん方に適切な医療を提供するために  はまずかかりつけ医を持ってくださいとの趣旨で作成した図です。かかりつけ医がまず診察して  必要であれば病院にきちんと紹介しますというパンフレットです。しかし、区民の皆さん方から  は「大学病院等病院になぜ直接行ってはいけないのですか」という反論が非常に多かったことを  覚えています。私はやはりこの様な流れは制度ではなくて、市民自らが適切な医療を受けるため  には、あるいは日本の国民皆保険制度を維持するためにはこのような受診行動が必要という考え  方になることが大切と考えます。それこそ国民同士の互いの思いやりと思っています。この視点  が大事と思います。今後、国も保険者もこういう部分を制度ではなくて、国民が理解できるよう  な形として働きかけていただきたいと思います。  先ほど辻本さんの話にも不信という話がありましたが、なぜ不安が不満になって不信になるか。  これは病気を抱えることは本来すごく不安なのです。その患者の不安を共有しない医療機関、あ  るいは医療従事者に遭遇すれば患者は当然不満になります。つい先週、透析クリニックで患者が、  スタッフに対してカッターナイフで切り付けたという事件がありました。患者にもいろいろな問  題もありましょうが、それはまさに患者の不安を共有していなかったのではないでしょうか。特  に医療従事者にとって大事なのは、患者とともに考え、ともに歩んで、ともに闘うことなのです。  東京の大学病院のさまざまな理念をいろいろ調べましたが、患者の尊厳、あるいは「患者様」と  いう言葉は使用されていました。しかし、病院にいちばん求められていることは病気をやむなく  抱えた患者に対して、一緒に闘いましょうという姿勢を、もっと表現すべきだと思うのです。つ  まり、医療は患者との協働作業なのです。それが「患者様」という言葉では協働作業にはならな  いと思います。つまり、患者と一緒に闘いましょうという姿勢を、もっと医療機関が提案すべき  で、それが不安から安心につながることだと思います。辻本さんから先ほどいろいろ解説してい  ただきましたかが、私は医療提供者としてはこういう視点が最も大事と思います。  私は地域医療において一般診療や在宅医療を行ってきました。そこでいちばん大事なことは患者  にとって住み慣れた地域が、いかに大事かということを痛感しました。自分を理解してくれる、  あるいは自分らしさを発揮できる、そして馴染みの地域、その住み慣れた地域は病気を抱えて諦  めた気持を、改めて頑張って地域に戻ろうという気持を作ってくれます。当然医療も大事なので  すが、患者に勇気を与えるのは、実は住み慣れた地域なのです。その住み慣れた地域を如何に私  たちが認識するか。その中に安心と希望の医療があると思っています。  医療の目的は、病気を治すことだけではなくて、人間としての尊厳が尊重され、住み慣れた地域  で最愛の家族と地域の人々に囲まれながら、安心していつまでも暮らすことを、医学を通じて支  援することが医療の目的です。医学ではないのです。そこに医療の目的をあらためて理解するこ  とが大事と思うのです。  つまり、資格の話ではなくて、むしろ資格を活用して医療の目的をどうやって実現するか大事と  考えます。そのことを理解しなければ、どんなに資格を持っても医療の目的を達成することはで  きないと思います。つまり、総合的に診る医師も大事と思いますが、実はいま求められているの  は総合的に診る体制と考えます。つまり総合的に診る体制をどう作るかということです。いろい  ろな医師の研修にも関ってきましたが、研修をやればやるほど、研修は何のために開催するのか  疑問に思うことがあります。自分以外の専門家や看護師など多職種と連携するといろいろなこと  が実現できることを学ぶのが研修の目的の筈です。ところがこの方向を間違えると、研修を受け  ると自分で何でもできるとなってしまう。本来目的とすべきことは地域完結型なのにもかかわら  ず、自己完結に陥ってしまう。いまの専門医や総合医との議論はどうも地域完結から自己完結に  陥ってしまうのではないかと危うく思っています。最終的には医療はまちづくりだと思っていま  す。そのまちづくりの中でどうやって医療を提供するか。これは国も考えることですが、これか  らの時代は市町村がもっと自らの住民の医療体制を作るべきだと思います。特に救急体制はもっ  と市町村が現場の医療機関や患者に対して説明することも大事だと思いますが、住民の生活を守  るために救急体制を作ることの視点が、これからは市町村には大事と思います。そのためには市  町村が国から財源をいただいて作っていく、すなわち財源を投入することが今求められていると  思います。 ○小野看護職員確保対策官  ありがとうございました。それでは続きまして矢崎先生、よろしくお願いいたします。 ○矢崎委員  それではお配りしたレジュメとパワーポイントの図表でお話したいと思います。まず、お断りか、  言い訳かもしれませんが、これはあくまで窮地に立たされているところの手術や救急、あるいは  がんの治療といった命のセーフテイネットを担っている病院の側から、私見を交じえて、むしろ  議論の叩き台にしていただければという意味でお話しますので、お許しいただきたいと思います。  これは事務局から提出された資料ですが、平成18年の医師需給の検討会の報告です。ご案内のよ  うに昭和36年に国民皆保険が導入され、国民の医療ニーズが急激に増加しました。国はそれを鑑  み、6年後に昭和42年から医師数を増やすということで、医学部の定員を増やし、10年がかりで  定員が約4,000名弱から8,000名に倍増したわけです。そして20年ぐらい経ったときに、その増加  した医療ニーズが頭打ちになるのではないかということで、医師の定員の10%削減という方針を  出したところですが、定員が増えた後の削減は極めて難しくて、-5%弱で、いま7,600人余の卒  業生が国家試験を通った医師が誕生しているわけです。  しかし、10数年前に医療ニーズが頭打ちになるというような予測だったのですが、10数年前に、  後で述べるいろいろな要因によって医療ニーズが急激に増加したために、そのギャップが埋まら  ず、絶対数はこのように不足しています。  将来、どうなるかという予測ははなはだ困難で、今回起こったいろいろな要因がないとすれば、  おそらく将来、医師は過剰になるだろうということです。  2番目の、それではこのような医師不足の危機を来した背景についてはどうかということですが、  これは長谷川先生の出されたデータです。高齢化で今後、入院患者数がどんどん増えていくので  はないか。病院の医師数は増えないのではないかということで、入院医療の医師不足が深刻にな  る。しかし、外来患者はこれからはそんなに増えないだろう。病院の医師が診療所を開設するな  どして、診療所の医師は今後増えていくだろう。そうすると、入院医療の赤字の部分をどう対応  するかです。  先ほどからお話にありますように、このような医師不足を来した主な原因は、国民の医療への意  識変化です。これは国民皆保険が導入され、老人、小児、あるいは組合本人が無料になる。医療  費が増加したけれども、経済成長で吸収されて患者は医師に医療はすべてお任せというパターナ  リズムできました。  ところが高齢化と医療技術の進歩により、医療費が増加する。それが経済成長で吸収されないた  めに患者負担に直接反映するということで、国民の医療への意識が変化しました。  すなわち医師にお任せから患者側の価値観、信頼感、あるいは満足感、あるいは納得、理解の下  で医療を行ってほしいという、治療目標の量から質への転換が起こってきました。  これが2番目の医療の量から質への転換です。そうすると、患者は確かな医療を受けたいという  ことで、プライマリケア、あるいは救急、専門医療、患者は最初から専門医療を求める病院に殺  到しているわけです。診療所の先生方は多くはお1人で開業されておられますので、時間外診療  の対応はなかなか難しく、国民側からも診療所の中が見えないということで、病院に患者が殺到  しているのが現状です。  これは国際的な病院の医師の生産性の指標、年間に病院医師が何人退院させたかということです。  ご覧のように日本ではいちばん低いわけです。プロットしますと外来患者数との間で逆相関があ  ります。日本の病院は外来をたくさん診すぎているために、医師は入院医療に専念できずに疲弊  してしまっていることが現状にあります。  そうすると、外来診療をやめればいいのではないかということですが、ご覧のように40%が外来  診療に財源を保っていて、入院医療がほとんど黒字を生まない。病院経営は外来診療で成り立っ  ているという点が多々あります。しかも、病院の外来診療の点数は非常に低い。診療所のように  いろいろな加算が付かない。包括で極めて点数が低く抑えられているにもかかわらず、そこで収  益を上げるということは、たくさんの患者を診ざるを得ない。それが病院医師の生産性の低下に  つながっている大きな原因ではないかと思います。  一方、先ほどから議論があります患者と医師の関係です。近代医学は何をもたらしたか。医学の  進歩によって高い専門性に基づいた高度先進医療が発達し、完成度の高い治療法が確立された。  その結果、治療効果への絶対的な期待が起こってきたということで、医療を受けた、医師に診て  もらったというよりは、それでどうなったのという医療の成果主義、アウトカムが重要であると  いうとで、本来の医療の原点が医療のあり方、医師のあり方の原点が失われてしまってるのでは  ないかという、これが近代医療のもたらしたものではないかと思います。  私が若いころに都立大の唄先生の言葉で感激したのですが、今日は大変僭越ですが、これをいま  読み返しても非常に切実に感ずるところですので、読ませていただきます。  「病人はいつも、そのかけがえのないいのちとからだを医師にあずけ、やり直しのきかない医療  を医師に託している。そして、医学は大きく進歩したといっても、あくまで不完全な知識の体系  であり、医療にはしばしば予期しない医療事故がおこる。そして医師はこの不完全な医学のもと  で、世間にたいし、ひろく病人への献身を誓ったものであることを忘れないでほしい。医療をう  ける患者はいつも泣く覚悟を要する。泣かねばならぬ危険を覚悟で医療を求めざるを得ない。こ  れは医療の悲しい宿命である。しかしこのことは患者に悲しみを忍ばしめるだけのものではない。  医師は医療のこわさを銘記し、患者が泣き叫ぶ以外に救いがない運命のなかで医療に託していく  ことを是非知ってほしい。医師は患者がからだを傷つけられ、あるいは家族を失って泣くことも  忍ばせるだけの誠実さ、真剣さで医療を行ってほしい」。こういうことが医の原点ではないかと  思います。  3番目の、それでは今後の病院のあり方です。1番目は病床の有効活用と合理化です。国民皆保  険制度が導入される時点では、国民当たりのベッド数は、アメリカと日本ではほぼ同じでした。  アメリカは病院を急性期対応にして病床数を減らしていきましたが、先ほど野中先生からのいわ  ゆる「支え」の部分のケアをどこでやっているかというと、ナーシングホームとかケアハウスで  それを支えてきたということがあります。ところが、日本の医療はどうであったか。これはベッ  ド数を治療の目的、医療型のベッドでそれをカバーしているために、どんどんベッド数が多くな  って、高齢者がここに支えの部分が急性期対応の病床に入院するということがあって、医療費を  大きく圧迫して、社会的入院が大きな課題になったわけです。  我が国はこの表に示すようにそういう支えの介護型の施設が極めて少ない。したがって、先ほど  の青い部分を医療費削減で急性期病院から出て行ってもらうというと、先ほど野中先生がおっし  ゃった難民が生じてくる。こういうことはやはり避けながらどうしたらいいかということで、1  つの提案です。  在宅医療が従来は在宅、あるいは老人病院で高齢者の患者は過ごして、医師が診て、病状が悪化  すれば急性期の病院に入れる。しかし、急性期の病院に行きますと、もう患者はみな平等で、高  齢者だろうが若い人だろうがみんな同じで、非常に侵襲的な治療を行いますので、高齢者に合っ  た治療ができない。結局は不幸の転帰をとったり、病院を退院できない状況が続く。今後は先ほ  ど示したような支えというか、介護型の施設を作って、その中でいま比較的丈夫なときから、活  動できるときから入っていただいて、病気になってその施設の中で動かずにそこでケアができる  ようなシステムが、今後は必要ではないか。  アメリカでは往年のハリウッドスター、最近ではチャールトン・ヘストンとかのスターが自宅、  あるいは介護施設で亡くなっているのです。日本のようにすべて急性期の病院で亡くなるという  ことは、やはり国民の死に対する考え方とか、社会通念が違うことによるかもしれません。  (2)です。病院を入院に特化した生産性の向上ということですが、これはまず第一に、手術や救急  を中心とした診療を支援する部分に、これは本当に経営的には赤字の部分なのです。いま高齢者  医療ということで、高齢者に相当財源が注入されていますが、現役世代の参加や救急に対する医  療が、別立てでないと不公平だと思いますので、是非その点を診療報酬の抜本的見直しで、是非  財源的にもサポートしていただきたい。これを診療報酬の付け換えでは、とても改革はできない。  難しいかもしれませんが、是非よろしくお願いしたいと思います。  病院の立場から診療所の先生方に是非お願いですが、やはり病院と診療所が連携をよくして、と  もかく病院に押し寄せる波を、うまく切り分けていただきたい。それで在宅医療、プライマリケ  アの波を、どうぞ総合診療医、あるいは体制づくりで何とか守っていっていただきたい。あるい  は救急や専門医療への波も、病院の先生方に何とか支えていただきたい。診療所の先生方に支え  ていただきたいということです。  これはもう勝手な私どもから診療所の先生方の役割分担で、診療所は地域から信頼され、患者か  らは選ばれる診療所になっていただきたい。いまは違うということではないのですが、お願いで  す。地域の総合医の考え方というダブルトラックがあって、1つは野中先生の言われるような総  合診療医という幅広い診療能力を有して、在宅医療を含めた慢性疾患一般に相談機能も重視した  かかりつけ医と、もう1つは幅広く、かつ高度な診療能力を専門的な分野として確立できるよう  な総合医をこれから育成する必要があるのではないか。  総合科、これは学会で認定するのか、厚労省が認定するのかは全然わかりませんが、私はやはり  プレホスピタルトリアージを行って、しかも病院の中で活躍できるような先生を育成する必要が  あるのではないかと。  1つのポイントは、病院で専門医として活躍された方が、ある年齢になるととても耐えられない  ので一般診療をやりたいと。そうすると、いままでは病院からポンと離れて診療所を開設するの  で、これをやはり一人診療所というのを避けて、そういう診療所は専門医が何人か集まって共同  で運営するようなものでないと、一人診療所というのはいまの時代はとてもニーズに合わない。  これは最近流行のメディカルモールと違いまして、メディカルモールというのは内科、歯科、眼  科、耳鼻科という科の違う人たちが集まるので、これは要するに内科系統なら内科系統で、腎臓  とか循環器とかそういう専門医が診療所を開くときに共同で事業を展開する。そしてその医師た  ちは、トップレベルの腕を落とさないために病院の中で活躍するという体系を、是非行政的にも  支援していただきたいということがあります。  次に医師業務の分化です。(3)は、病院医師が診療の広範な業務を担わされているので、自分のス  キルアップの時間がほとんどない。図に示しましたように、例えば手術ですと手術はベテラン医  師が行って、若手の医師は下働きで終わっている。これを何とか優秀な看護師さんとか臨床工学  士の皆さんが支えて、若手医師がどんどん手術に一緒になってスキルアップできるようなシステ  ムができれば、若い医師は病院で辛いけれど、給料が安くても頑張ろうという気持が起こるので  はないかというように思うわけです。  米国における上級看護師というのはいくつかありまして、例えば相当裁量権の大きなクリニカル  ・ナース・スペシャリスト、あるいは在宅医療で活躍しているナース・プラクショナーがありま  す。それから、正常出産は全部自分で1人で、会陰切開から縫合まで全部やる助産師、あるいは  麻酔までできるものがあります。  最後のスライドは、先日私どもが、実際に米国でERはどうなっているかと。ボストンの病院と、  下は世田谷にある東京医療センターの現状です。示しましたように、ほぼ同じぐらいのERのベッ  ドがあるのですが、米国の場合には、ほとんどの医療行為はナースがやっています。しかも6名  のクラークがいるわけです。ですから、非常に円滑に業務が行われる。注意してほしいのは、清  掃する作業員が常駐しているのです。ER、救急に行きますと非常に物が乱雑でガーゼは落ちてい  る、器具は落ちている、ひどい場合には注射器も落ちているというような、本当に危ない状況な  のですが、アメリカでは常にそれを清掃員がきれいにして、清潔に保っている。ここがERの雰囲  気で、テレビで見て活躍している人は、ほとんどレジデントではなくナースである。  日本は全部レジデントがやって、ナースは2名しかいない。1名は手術室配置だから、たった1  名ですから全然対応できない。クラークもゼロですし、ましてや清掃員などは全然いないわけで、  このように非常にアメリカでは患者サービスも素晴らしいし、こういうシステムで、いろいろな  コメディカル。これはおそらくそれだけの財政的なサポートがあるということではないかと思い  ます。  レジュメの最後の「医師需給の考え方とその対策」ですが、喫緊の課題として5点挙げました。  これはやはり医師業務の分化による生産性と患者サービスの向上ということで、メディカルスタ  ッフによるスキルミックスの推進でありまして、これは是非医師法、あるいは保助看法の見直し  を含めて検討していただければと思います。また、これに耐え得るだけの医療安全を確保する教  育やシステムが必要だと思います。これからは女性医師が30%を超えるような状況になりますの  で、日本特有のM字カーブの解消と復職の促進をする。  先ほど申し上げましたが、退職で、せっかく能力を発揮した病院の専門医を活用しないと、これ  を病院からポンと外れて一人診療所を開業するというのは、本当に医療資源の無駄遣いではない  かと。できれば研修をして、総合科医として活用し、病診連携の強化を図るのが1つの方策では  ないか。医療リスク・医療訴訟への対応で、いま厚労省には一生懸命これをやっていただいてい  るので、今後も努力していただきたい。  最後には、入院診療に特化した財政支援が必要です。これは国民の理解と納得が必要であります。  それが単に医療費の中にボンと投げ込むのではなくて、しっかりした効果が現れる。質の向上の  保障とその効果を評価するモニタリングシステムの確立がなければ、その理解が得られないので  はないか。  「中長期的な対策」については、先ほどスキルミックスをさらに促進するための医師法や保助看  法の見直しをお願いしたい。それから、いま議論の中心になっている医学部定員増とメディカル  スクール構想の捉え方ですが、これは喫緊の課題が医師不足で、これから定員を倍増しても効果  が出るのは10〜20年後で、そのときに本当にいまの状態があるかどうかというのは難しいので、  これは良き臨床医育成のモデルケースとして慎重に検討する必要がありますし、これは教育環境  がアメリカに比べて劣悪な状態ですので、もう少し医学部の教育の定員を増やさない限り、この  状況はただ医学部の定員を増やすだけでは対応は効果あるものにはならないので、これは慎重に  検討してほしい。以上です。 ○ 小野看護職員確保対策官  先ほど事務局からの説明の資料の中で、6頁目に落丁がありましたので、いま配付します。失礼  いたしました。  それでは、西川副大臣はお時間がおありということなので、先にご発言をお願いいたします。 ○ 西川副大臣  大臣、申し訳ありません。お三方から大変中身の濃い、良いお話をいただきました。辻本委員か  らの最終的に国民皆保険の担い手は国民、患者自身だという、その視点は本当に私もこれから大  いに発信していかなければいけないことだと思っています。特に地域支援、地域医療支援は、ま  さに地域づくりだと。これは野中委員のお話とも相通じるもので、皆様が期せずしてお三方が最  終的におっしゃっていることが、割合同じ所に行くような気がしました。ありがとうございまし  た。その中で2、3質問させていただきたいと思います。  みんなで考える、みんなで支える医療の連携ということで、1つは関係職種で医療関係の介護か  ら看護師や栄養士、薬剤師がすべて連携するということと、もう1つは地域連携の2つに分かれ  ると思うのです。  野中委員は、地域連携の中でまさに地域づくり、そして市町村の役割を言っておられました。北  九州市では病院と医師会とが仲が良くて、医師会がかなりそこにきっちり入ってきているのです。  そういう中で、本当に地域差があります。厚生労働省が何か平均モデル的なものを作ると必ず齟  齬が出てきて、大きな所と田舎とかなり違うと。その地域性ということを考えなければいけない  ということで、まさに市町村レベルできちんと作っていくことは大事だと思います。その辺のと  ころに割合お医者様自身が医師会、あるいは病院自体が主体となって入っていただくと、結局あ  とから文句がいろいろ出ないと。そういうことが大事なような気がします。その辺のお答えをい  ただきたいです。  それから、総合的評価はとても大事だと思うのですが、実はそのことは今回矢崎委員も言ってお  られましたが、最後のいわば病院と地域の診療所との役割の中で、今回高齢者医療制度の中に総  合機能評価を入れましたが、それにしてはこれは中途半端な点数だと、そういうお叱りをずいぶ  ん地元からいただきましたので、その辺のところをちょっとご意見をいただきたいです。  研修制度についてですが、先ほど大臣がスキルミックスのところで徒弟制度みたいなものがある  からなかなかというお話があったのですが、実は地域のお医者様からの意見で多いのが、研修制  度はこういうことになって、これがすべて偏在化のいちばんの原因であり、崩壊させた大きな要  因であることは事実だと。むしろ昔のように大学の医局にきちんと持たせて徒弟制度を守ること  が、実はきっちりそれができるのだという意見もいただきました。その辺のところについてそれ  ぞれ野中委員、矢崎委員にお答えをいただけたらと思います。  私がここで申し上げたいことの最大の課題は、先ほどの医療費の問題です。結局医療制度だけに  もちろん国民にどれだけのご負担をいただくかということの中で、医療費だけではなくて、当然  社会保障全体の中で、どうそれだけの費用を入れていくかということだと思います。これは政府  全体のまとめではありませんので、厚生労働省として堂々と消費税という形で、きちんとした医  療、社会保障制度への国民の負担へのお願いということをしっかり明記したらどうでしょうかと  いう私の提案を、一言申し上げさせていただきます。すみません、どうしても時間がありません  ので、委員の皆様のお答えを後ほど聞かせていただきますので、これで失礼させていただきます。  ありがとうございます。 ○ 野中委員  そのことに関しては、ちょっとあとで聞いていただきますが、地域の医療連携がいろいろ課題が  あることはまだまだ温度差があるということですが、いままでの連携が、どうも病気になった入  口ばかりを考えて、それでそこに医師会がきちんと絡むとうまくいくわけですが、医師会が絡ま  ないというのは、実は入口で病院と診療所が患者さんの争奪戦を行うというような状況になると、  医療連携がうまくできない。そこに医師会がどう絡むかと。  もう1つは、先ほどから何回も言いましたが、実は入口論だけではなくて出口論というのが本当  は大事だと。それが退院という部分の中で、受皿として地区医師会が、病院がきちんと治療した  患者さんをどうやって私たちが受けるかと。  先ほど矢崎委員も言われましたが、まさにこれからは1人で診療所をやる時代ではなくて、私は  複数の医者がグループ診療という形で同じ科の人たちがやるべきだと思いますが、それができる  までの間は、むしろ地区医師会がそうやって地域の24時間、365日をどうやって活用するか。そ  れを医師会がきちんと提案できるところに本当は意味があると思っています。  総合的な評価は私は大事だと思いますが、今回診療報酬で非常に点数を高くしていただいたので  すが、実は総合退院支援がきちんと動くためにはどこが必要かといったら、病院がそのことを私  たちに対して、これからこういう人たちが退院するから、あとは頼むよということを働きかけな  いと、実は始まらないのです。今回は2,000点という点数を付けていただきましたから、私は広  がると思います。いままでは点数が低いし、退院支援ということに対する理解がないので、病院  が地域の医者や看護師たちに対して、あるいはケアマネジャーに対して働きかけをするという視  点がなかったことが、大きな問題だと。今回は、それを評価していただいたのでいいと思います。  研修医の話は、いろいろな問題があると思います。大学病院が、私も研修医のときにそうだった  のですが、もっと2年間の研修の中でどういう医者を育てるかというビジョンを本当は持つべき  だと思うのです。そのビジョンがなくて、ただ単に下働きとして人が来たという視点にずっとあ  ぐらをかいていたことが問題だと思います。現場で研修医にいろいろ聞きますと、実際には自分  がどういう医者になれるかどうかということを指標にしながら、地域の研修病院を選んでいます。  ですから、大学病院がきちんとどういう2年間、あるいは後期も含めて5年間の中でどういう医  者を目指すのかどうかということを、きちんと大学としてものを考えるという話が大事だと思い  ます。最終的には、病気を抱えるということは国民にとってどういうことなのかということを、  病気を抱えていない人が、介護保険制度でお互いに助け合うのだということをもう一回きちんと  考えること自体が大事だと。保険料を払う人たちが主体だということを、辻本委員と同じように、  私も本当に思っています。以上です。                 (西川副大臣退室) ○ 矢崎委員  私は、医師研修制度の導入が今回来たした諸悪の根源だということを、大学の先生やいろいろな  方々からお聞きします。しかしいま野中委員が言われたように、国民がはっきりしたカリキュラ  ムがなくて、そのまま専門医療に進んでしまうと。そうすると、病気しか見ないで患者さんを見  ない。それを総合的な視点から見れる医師を育てようということで、今回の専門性に限らず、他  の科を見て勉強しましょうというのが、どういう医師を育成するのかという基本理念なのです。  これはもう私は譲れないと思うのです。  今回の状況はこの制度も大きなインパクトになりましたが、大学の独法化とかいろいろなことが  あるのですが、1つ考えますと、マッチング制度で急に市場経済を入れたと。本来は良いプログ  ラムに入って、要するに良い医師を育てるということでプログラムの競争ということで入ったの  ですが、ここが競争原理で、いままでとは全然違う制度になったので、ある程度研修医の偏在と  いうのが起こり得た。だけどこの原因は、例えばこの間、むつ総合病院の小川先生が話されまし  たが、弘前大学は研修医が9人しかいないのに、何で鉄道も走っていない青森からバスで4時間  ぐらいかかるむつ市に研修医が15人集まっているかというと、そこはもう病院が、自分たちがど  う次の医師を育てるかという理念の下で一生懸命努力されている。そこは給料も高いということ  は決してありませんし、アメニティが高いということもないのに、そのように集まってくる。で  すから、医師が来ないというのは競争原理が突然入ったので、そういうしっかりした対応を準備  不足でなっている。制度のせいにしないで、是非自分たちでしっかりした、いまどういう医師を  育てるかという理念を明確にして大学も努力していただかないと、なかなか医師研修制度を廃止  して元に戻るかというと、決してそうではないと思います。どうもありがとうございました。 ○小野看護職員確保対策官  大臣、いかがでしょうか。 ○舛添厚生労働大臣  矢崎委員に事務局配付資料の7頁をご覧いただいて、要するにこれは現段階では28万人の医師の  ニーズに対して26万人しかいないと、2万人のギャップがありますね。それで緊急医師対策で、  今年は395人定員増をしました。それをプロットしてずっといきますと、10年後には需給バラン  スが、ということなのですが、これは毎年395を増やすということでいった場合ですかね。 ○矢崎委員  これは395を増やした状態を継続した場合ということです。 ○舛添厚生労働大臣  継続した場合ですね。そうしますと、要するに10年後の姿がこうなるということであれば、つま  り全く単純な数学というか、頭数だけ数えた場合に、要するにこのグラフをご覧になりながら、  どれぐらい増やしていけばいいのか。単純な数の問題ではないと先ほどおっしゃったのですが、  いまはしかし医師不足だと。具体的な量的な対策としては、何をやればいいと思われますか。 ○ 矢崎委員  先ほど申し上げましたように、ギャップが埋まらなかったわけです。国民皆保険の導入のときに  急に8,000人にしましたが、ずっと埋まらなかった。しかし国民から医師不足という声はそんな  に大きくならなかったわけで、これは先ほど申しましたが、10数年前にいろいろな医療に対する  国民の目が厳しくなって、それで医師不足のギャップが大きくクローズアップされたというとこ  ろがある。現状は、このように絶対的に不足しているのです。私が申し上げたいのは、医師の定  員をもし倍にしても、これは10年ぐらいかかるわけです。さらにその医師が育って一人前になる  のは15年、だから25年ぐらいかかるわけです。そのときはどうかというと、今度のように大きな  医療ニーズが国民皆保険の導入と、それから10数年前から始まった高齢化と医療の高度先進化に  よって、医者あるいは専門家によって医者がたくさん必要になったと。そういう状況でニーズが  そのままありますが、これがさらにもう一段また増えることがなければ、この将来係数です。  そうしますと、要するにクロスするところがわずかに1、2年ぐらい10%を増やしても1年ぐらい  短縮するだけで、喫緊に充足することは起こらない。そうしますと、その後はどんどん実勢と乖  離してしまうということがあります。一度増やした定員はなかなか削減できない。アクセルを踏  んでもブレーキは仕掛けることができないので、私は定員数をどのぐらい増やしたというよりは、  増やすということによって、この絶対数の解消はできないのではないかと。ですから先ほど申し  上げましたように、医療ニーズが赤字になっているのは、1つは高齢者の入院医療のニーズが増  えていて、これを削減できない。そうかといって、いま入院している患者さんを在宅医療に移行  するにもなかなか難しいという点があるので、私はこのギャップの部分の大きな部分は、関連職  種のスキルミックスで埋めてもらいたい。  開業医の診療所の先生方に頑張っていただいて、病院、病診連携を活用して、入院患者さんをフ  ォローアップする。いままでどんどん救急から入院医療に移行する患者さんを何とか整理するた  めの高度な機能を持った診療所の開設とか、そういう今あるスタッフで何とか解決する方法をま  ず見つけるのが先決ではないかと思います。即ち医学部定員増というのは、目の前にある大きな  仕事を片付けなくては、といってストレスがいっぱいたまっているところに、極端に言うと精神  安定剤を処方するようなもので、仕事を何とか整理するというのが第一ではないかということで、  これはなかなか実施するのは難しいかもしれません。  また、いろいろな財政的な支援も必要かと思いますが、このギャップを埋めるにはまずそこを考  えないと、このグラフでご覧のように、大臣のご質問のどれぐらい増やしたら現状が改善するか  というのは、解のない方程式を解くような部分でもあるのかと思います。 ○ 舛添厚生労働大臣  ただ、いま現存する医療資源の効率的な再活用というような形でこの1つを埋めるにしろ、例え  ばそれと並行して、今年395に増やしましたね。10〜20年後にしか効果はないかもしれませんが、  それは精神安定剤以上の意味はありませんか。 ○ 矢崎委員  精神安定剤というと語弊がありますが、申し訳ない。でも現状でいま疲弊した病院で、どんどん  医師が立ち去っていくのを何とか救うには、業務の改善とリスクの回避をお願いしたい。  ただ、大臣がおっしゃることは、誠にそうだと思います。例えば戦争中ガダルカナルで立てこも  っている軍隊があるとしますね。それを病院の医師だとする。そうすると、本土から増援の兵員  と物資が来るよということになって、そこにいる兵士たちは頑張ってやろうと。ところが、もう  後続が来ないよ、断たれるよというと、やはりみんな士気が衰えてしまうと。私は精神安定剤と  言いましたが、やはりそういう効果はあると思います。いま頑張れば後輩たちが入ってきて、支  えてくれるかもしれない。だけど現実の医師のギャップを埋めるには即効性がないので、大臣の  おっしゃる例えば10%定員を増やすということで、後続の若い医師があとから続々来るよという  元気づけの意味には、効果があるかもしれないと思います。 ○ 野中委員  それは1つの現場で、本当に忙しく急性期の医療の現場で頑張っている先生たちの、ある面で切  実な問題だと思うし、医療の世界も介護の世界も、実は頑張れば頑張るほどその人たちは燃え尽  きてしまっている現状です。逆に言えば、楽をしようという仲間もいるので、そういう人たちと  そういうことはなかなかできないと思うのですが、ここはどうもこの何年間は専門性ということ  にかこつけて、本来医師としての患者さんを総合的に診る役割をしない開業医もいたような形態  という部分の中で、現場で生命を預かる先進の専門の医師たちが、どんどん追い詰められたよう  な部分がある。だからそこは月並な言葉ですが、連携や病院の役割、診療所の役割を、もう一回  きちんと提案することによって、ある程度解決策とすることが直近に、歩みは遅いかもしれませ  んが、それに期待しないと、ただ単に医者を年間500名ぐらい多くするということだけでは、私  は解決できないと思います。いまのままでやっていけばどんどん専門性が、昔の医者が働いてい  た医療の技術とは全然違いますが、昔5人でやっていたものが専門性だという理由の中でどんど  ん1人でやるようになれば、結局5分の1の医者がいるわけですから、そういう構造を何とか変  えるという話の中に、そこを総合医という部分の中で矢崎委員は言われるのかなと思いますが、  医者というのはもともと根底には患者さんを総合的に診るという部分はある面では当り前の話で  あって、そこの原点に戻るという話をきちんとしていかないから、かえって医師の数が少なくな  ってくるのだろうと私は思っていますが、これがすぐに効果的に大臣が解決するとして、なるか  というとまた違うと思います。 ○ 舛添厚生労働大臣  辻本さん、何かありますか。 ○ 辻本委員  専門家のご意見のほかにということで申し上げれば、いまお話したように、医師が逃げ出してい  る背景には、患者さんが意識を変えてしまったということが1つ大きく関わっていると思います。  地域の中でできることを患者も参加してやっていくということで、「支える」というキーワード  が今日は出ていますが、地域の人々が地域の医療を支える担い手としてできることがあると思い  ます。そこのところを是非とも患者・国民にお示しいただき、財政的にも支えていただきたいと  思っています。 ○ 舛添厚生労働大臣  林先生、何かありますか。 ○ 林先生  同じ病院で働いていて、医師の皆さんが時間とか労働力に対するプレッシャーというだけではな  くて、患者さんからの責任に応えようとか、そういう部分でものすごく重くなってきている。そ  れは医療の不確実性を受け入れてもらえないということも含めてなのですが、そこを例えば説明  責任をより多くの医療職で果たしていったり、より多くの医療職それぞれの専門家が医師をサポ  ートするチームの体制は、必要なのだろうと思います。  それと同時に矢崎委員もおっしゃっていた、私の病院でもそうですが、患者さんを紹介してくれ  る5施設との連携だけではなく、急性期が終わったあとの患者さんの続きを診ていただける連携  施設との強化ということが非常に重要になってきていて、いま活発に取り組みが行われています  ので、それを積極的にやっていくことが病院と診療所がうまくつながっていくし、医師の皆さん  の役割分担になるのだろうと思います。ですので、ちょっと先ほど来の議論に集約されてしまう  かもしれませんが、その職種間の専門性の助け合いという部分と、病院をうまく使っていただい  て、病院の前からの連携と、急性期を乗り切った後の連携という部分が非常にうまく流れる仕組  みづくり。また最近は薬も非常にややこしくなってきて抗体医薬品を自己注射されるような時代  になってきますので、在宅の自己注射をサポートできる薬剤師の活用と医療連携ということまで  含めて、医療の高度化を支えられる、たぶん内科のいろいろな先生方のチームみたいな診療所と  いうお話も、本当にごもっともな話だなと思って伺っていました。 ○ 舛添厚生労働大臣  もう時間もだいぶ経ちましたが、そのとりまとめに至る方向で若干宿題というか、ちょっと私か  ら皆さん方に問題提起をしておきたいのは、例えば国会での議論をすると、「お医者さんは不足  していますか、していませんか」。私は「不足しています」と、こう答えています。そうすると、  昔の閣議決定を取り消してくれということになって、7,000とか8,000とかいう数字になるわけで  す。そうすると、例えば年間のお医者さんの養成数というのはどれだけあればいいのかという先  ほどの数字の話に、ある意味で帰着する面があるわけですね。しかし大体そういう議論をするこ  とは、もうそもそも不毛であると。10年後増えているか減っているかは、需要と供給のバランス  だから重要となっているかもわからないと。  さは然りながら、何らかの数値目標的なものが医師の数について設定できるのかどうなのか。そ  れはつまり医療を受ける側から見ると「産婦人科が足りませんね」と。小児科は増えているとい  うことですが、地域の声だと「足りませんね」ということになって、それはどう解決するのです  かというのは1つは数字で示せるかどうかということです。  もう1つは、いまのスキルミックスを含めて、現存資源をどのように活用するかという細かいメ  ニューを作る必要があると思うのです。要するに、数値目標的な議論がもう無理というか、それ  をやるのは不毛であるという結論を出すのかどうなのか。そうではないとすれば、もし不毛とい  うか、先ほどの精神安定剤ではないのですが、とすれば、それに代わるものとしてこれだけの2  万というギャップがあるわけです。  例えば矢崎委員、全く数字で極端に言うと、スキルミックスで5,000人分これでカバーできます  よと。それから、病院と診療の連携で5,000人分カバーいたしましょうと。やはり現実に政治の  言葉として言うときには、それがないと駄目なのです。だからちょうど私がもともとやっていた  安全保障と同じことなので、軍隊はどれぐらいいればいいのですか、日本の防衛力、国防力はど  れぐらいあればいいのでしょうかと。それは敵の兵力によりけりでしょうというけれど、大体あ  る程度の数値、中規模というのは、いちばん最初にやったのは基盤的防衛力構想というのを持っ  てきて、そこからやっていったわけです。論理的に見ればそれは意味がないかもしれませんが、  要するに予算をそこに付けて1つの達成目標としてやるという具体的な解決策のときには、ある  程度、有効性はあるわけです。  例えば10年後、15年後を目指してこういう姿にしたい。それから、短期的に5年後を目指してこ  うする。いまから2、3年後をこうすると。短、中、長期とした場合に、それぞれこういう政策と  してメニューを掲げる。そのことによって、例えばいまの2万人のギャップがどのように埋まり  ますかと。しかし、それにかかる経費はどれぐらいかかるのですかというのが具体的にならない  と、提言の形に、つまり世の中を動かす形のシナリオにならないのです。ですから政治の言葉と  していうと、まさにそういう支援を動員するために、数値目標を持ってきたほうがいい可能性は  あるのです。それは私のほうで政治的な判断をするのですが、ただ本当に難しいのは、この表の  ままいくのかどうなのかは全くわかりません。これからの医療技術の発達もあるだろうし、国民  のニーズもあるでしょうし、報道にもよりけりでしょうから。ですから、そういう問題意識を持  っております。  そして、おそらくある程度そういうことをきちんと書き込んだ形でないと、抽象的で提案型にな  らない。つまり先ほどの財源ということであって、2,200億円のマイナスシーリングの問題にし  ても、斯く斯くしかじかですからこれだけのお金を使います、という形での予算の設定になる。  いまは新型インフルエンザと闘いますと。そうすると、プレパンデミックワクチンを接種します  というような話をやります。1億人全部に接種すると、大体600億円かかります。では、600億円  予算を取ってきましょうかと、こういう話になるわけなので、そうすると予算積算の根拠という  のはある程度何か出ないかということなので、スキルミックスの話は、極端にいうとただなので  す。訓練の経費はかかるかもしれませんが、医師法を変えるとか法律を変えることによって、例  えば先ほどの虎の門病院の例のようなことでやると、ある意味でコストはかからないかもしれな  い。できればそれのほうが本当はいいのでしょうが、いろいろな意味で具体的な形の政策提案型  にすると、いま言ったようにいろいろな壁にぶち当たるのです。  だからそういう意味で、タームでいうと5年から7年ぐらいのタームと10年から15年ぐらいのタ  ームの3つぐらいに分けて、それぞれどういう政策提言をするか。そしてその中で数値目標を入  れられるものがあるとすればどういうことであるか。そこから先は我が省で予算の積算はやりま  すが、できればそういうことはある程度具体的にして、8月の概算要求に持っていって、少し国  民に夢と希望と安心を与えて、そこまでやる気であるならば、私たちの医療は将来安全だなとい  うことを与えたいなと思っているものですから、大変難しいのです。  私はずっと考えていて、どうしようかと思って、いまいろいろないいご提案をいただいているの  ですが、政治の言葉にどのように直すかということをちょっと考えておりますので、事務局を通  じてで結構ですので、いろいろご提案をいただければと思います。私からは以上です。 ○ 小野看護職員確保対策官  ありがとうございました。それでは、本日の会議はこのくらいにしたいと思います。次回日程に  つきましては、追って事務局よりご連絡申し上げます。どうもありがとうございました。 ○ 舛添厚生労働大臣  どうも長い時間ありがとうございました。 (紹介先)  厚生労働省医政局総務課  松淵、加藤(憲) (代)03−5253−1111(内線2516、2517)