資料4

ナノマテリアルについて1

1.定義

ナノマテリアルの安全性等に関する、関係行政機関等から発出されている報告書においては、「少なくとも一次元が100nmより小さい」ことをもってナノマテリアルとしていることが一般的であるが、ナノマテリアルを明確に定義していない機関もある。

※1nm(ナノメートル):10億分の1m(メートル)

ナノマテリアルのうち、一次元が100nmより小さく残る二次元への広がりを有するものは薄膜、二次元が100nmより小さく残る一次元への広がりを有する場合は棒状、三次元とも100nmより小さい場合は粒状の形状をとることとなる。

ナノマテリアルが持つ、バルク材料に比べて異なる特性として、表面積の増加と量子効果の発現があげられる2

表面積の増加については、材料が小さくなるにつれて表面に露出する原子の割合が増大する。従って、ナノマテリアルでは、大きい粒子に比べて、単位質量当りの表面積がはるかに大きくなる。例えば、粒子の成長と触媒化学反応は表面での現象であるので、同等の量を用いたときの化学反応の効率は、ナノ粒子の方がより大きい粒子に比べて有利となる。

量子効果3は、粒子のサイズがナノ領域になったときに物性を支配しはじめるものであり、粒子がナノ領域のより小さいサイズになるほど、光学的・電気的・磁気的性質への量子効果が大きい。量子ドット等は、この性質を利用した材料である。

これらの特性は、反応性・材料強度・電気的性質などの物性を変化あるいは増大させることにつながる。

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1…H19年度厚生労働省「ナノマテリアル安全対策調査業務」((株)東レリサーチセンター/(株)東レ経営研究所)における調査内容より作成。

2…参考資料:ナノ粒子の有害性評価とリスク対策、技術情報協会(2007年);カーボンナノチューブ―期待される材料開発―シーエムシー(2001年)。

3…物質の諸特性(電気的、光学的、磁気的 等の性質)の多くは、その物質中の電子の挙動を反映したものである。電子は「量子(粒子性と波動性を併せ持つ)」の一種であり、原子・分子の大きさの狭い空間(nmサイズの領域)におかれた場合には波動性を顕著に発現することが知られている。ナノマテリアル中の電子はnmサイズの狭い空間に存在する。そのため、ナノマテリアルは、同じ組成のマクロな物質とは異なる特性を示す可能性を有する。

2.ナノマテリアルの用途・生産量について

(1)調査の概要

ア.ナノマテリアルの定義
マテリアルの粒子径(構造の一辺)が1〜100nmのものとした。

イ.調査の対象

経済協力開発機構(OECD)工業ナノ材料作業部会において代表的ナノマテリアルとして検討されている物質及び調査展開上抽出された7種類合計21種類のナノマテリアル物質を対象とした。

(1)フラーレン
(2)SWCNT
(3)MWCNT
(4)銀
(5)鉄
(6)カーボンブラック
(7)酸化チタン
(8)アルミナ
(9)酸化セリウム
(10)酸化亜鉛
(11)シリカ
(12)ポリスチレン
(13)デンドリマー
(14)ナノクレイ
(15)カーボンナノファイバー
(16)顔料微粒子
(17)アクリル微粒子
(18)リポソーム
(19)白金ナノコロイド
(20)量子ドット
(21)ニッケル

ウ.製品領域(ナノマテリアルの用途領域)

一般消費財若しくは耐久消費財とし、製品領域として以下の8領域とした。

用途
医薬品 DDS、医薬品助剤 等
食品・食品パッケージ 健康食品、飲料
化粧品 化粧品・トイレタリー用品
繊維 衣料品加工
家庭用品・雑貨・スポーツ ラケット、抗菌雑貨
家電・電気電子製品 携帯用リチウム電池、フィルター、半導体キャリア
塗料・インク 光触媒、自動車用塗料、導電ペースト、トナー、インクジェットインク
その他

(注)国内で生産或いは商品企画されたものを対象とし、輸入品は除外した。

エ.調査方法

・ナノマテリアルメーカー及び関連団体へのヒアリング調査

・関連文献及びホームページ情報の収集分析

※ ナノマテリアルは先端技術に属するものが多く、ヒアリング対象としたメーカーおよび関係各企業・団体にとって、機密性の高い領域・明確な情報整理がなされていない領域を多く含んでいる。従って、生産数量・ナノマテリアルの物性情報等はヒアリング調査結果及び、周辺情報から(株)東レリサーチセンター/(株)東レ経営研究所(以下、TRC/TBRと表記)が独自に推定したものであり、特定の団体や企業の見解を示したものではない。

(2)調査結果の概要

ア.用途別ナノマテリアル別概要

用途別には化粧品と家電・電気電子製品に多くの種類のナノマテリアルの使用実績がある。素材別には、銀+無機微粒子、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、ナノクレイが多くの用途分野で利用の実績を持っている。

図表1 用途別ナノマテリアル別展開状況
  医薬品等 食品・
パッケージ
化粧品 繊維 家庭用品・スポーツ 家電・電気電子製品 塗料・
インク
その他
紙加工
〇の
素材
別計
の素
材別
素材
別合
フラーレン         2 2 4
SWCNT               1 1 2
MWCNT         2 2 4
        〇△   △触媒 1 3 4
銀+無機     6 - 6
              1 - 1
カーボンブラック         〇△ △高品質タイヤ 3 2 5
酸化チタン     〇△ 6 1 7
アルミナ           〇△   1 2 3
酸化セリウム             1 1 2
酸化亜鉛     5 1 6
シリカ   7 - 7
ポリスチレン         〇△   3 1 4
デンドリマー         2 3 5
ナノクレイ     〇農薬 6 1 7
カーボンナノファイバー           △風力発電 2 2 4
顔料微粒子               1 - 1
アクリル微粒子           3 1 4
リポソーム           2 1 3
白金ナノコロイド         〇触媒 3 1 4
量子ドット           〇研究用試薬 1 2 3
ニッケル               1 - 1
〇の用途別計 4 4 12 4 5 15 10  
△の用途別計 5 2 2 1 0 10 4
用途別合計 9 6 14 5 5 25 14

※調査結果を基にTRC/TBR作成

※〇:現状の用途、△:将来可能性のある用途、〇△:将来用途分野が拡がる領域

イ.主要ナノマテリアルの使用量と粒子径(全体俯瞰図)

図表2 主要ナノマテリアルの使用量と粒子径

(参考)関係諸機関の報告書におけるナノマテリアルの取り扱い

○The Royal Society & The Royal Academy of Engineering, UK: Nanoscience and Nanotechnologies: opportunities and uncertainties (July 2004)

(仮訳)
少なくとも一次元の大きさが100nmよりも小さく製造された材料。一次元がナノスケール(他の二次元へ広がりを有する)の材料は薄膜・塗膜である。二次元がナノスケール(残る一次元へ広がりを有する)の材料はナノワイヤ・ナノチューブである。三次元がナノスケールのものは粒子である。ナノメートルサイズの粒から構成されるナノ結晶材料もナノマテリアルである。

(原文)
Although a broad definition, we categorise nanomaterials as those which have structured components with at least one dimension less than100nm. Materials that have one dimension in the nanoscale (and are extended in the other two dimensions) are layers, such as a thin films or surface coatings. Some of the features on computer chips come in this category. Materials that are nanoscale in two dimensions (and extended in one dimension) include nanowires and nanotubes. Materials that are nanoscale in three dimensions are particles, for example precipitates, colloids and quantum dots (tiny particles of semiconductor materials). Nanocrystalline materials, made up of nanometre-sized grains, also fall into this category. Some of these materials have been available for some time; others are genuinely new.

○DEPARTMENT OF HEALTH AND HUMAN SERVICES Centers for Disease Control and Prevention National Institute for Occupational Safety and Health, Approaches to Safe Nanotechnology:An Information Exchange with NIOSH(July 2006),p3〜p4

(仮訳)
少なくとも一次元の大きさが1〜100nmの範囲の構造を含む研究及び技術の開発であり、多くの場合は原子/分子の精度を有する。 ナノ粒子は1〜100nmの直径を有する粒子である。ナノ粒子は、(ナノエアロゾルとして)気体中に浮遊していたり、(コロイドまたはナノヒドロゾルとして)液体中に分散していたり、(ナノ複合材料として)母材中に埋め込まれたりする。 「粒径」の厳密な定義は、直径の測定法だけでなく粒子の形にも依存する。

(原文)
Research and technology development involving structures with at least one dimension in the range of 1 to 100 nanometers (nm), frequently with atomic/molecular precision. Nanoparticles are particles having a diameter between 1 and 100 nm. Nanoparticles may be suspended in a gas (as an nanoaerosol), suspended in a liquid (as a colloid or nano-hydrosol),or embedded in a matrix (as a nanocomposite). The precise definition of “particle diameter” depends on particle shape as well as how the diameter is measured.

○D.Willcocks: Summary of call for information on the use of Nanomaterials, NICNAS Information Sheet, Australian Government (January 2007).

(仮訳)
少なくとも一次元の大きさが100nmよりも小さく製造された材料。

(原文)
NICNAS used the broad definition for nanomaterials as those materials that have been specifically engineered to have at least one dimension less than 100nm.

○U.S. Environmental Protection Agency, Nanotechnology White Paper EPA 100/B-07/001 (February 2007), p5

(仮訳)
この文書においては、ナノテクノロジーを「(三次元のうちの)どの次元かが約1nmから100nmの長さ尺度を用いる原子・分子・高分子レベルの研究および技術開発;微小サイズに基づく新奇な性質・機能を有する構造・装置・システムの創製と使用;原子スケールで物質を制御あるいは操作する能力」と定義する。この定義は、国家ナノテクノロジーイニシアティブ(NNI)で用いられるナノテクノロジーの定義に部分的に基づいたものである。

(原文)
For the purpose of this document, nanotechnology is defined as: research and technology development at the atomic, molecular, or macromolecular levels using a length scale of approximately one to one hundred nanometers in any dimension; the creation and use of structures, devices and systems that have novel properties and functions because of their small size; and the ability to control or manipulate matter on an atomic scale. This definition is based on part on the definition of nanotechnology used by the National Nanotechnology Initiative (NNI).

○“PRELIMINARY OPINION ON SAFETY OF NANOMATERIALS IN COSMETIC PRODUCTS”, Scientific Committee on Consumer Products (SCCP), Approved by the SCCP for public consultation, 12th plenary of 19 June 2007.

(仮訳)
ナノ粒子:少なくとも1つの次元でナノ領域(100nm未満)の大きさにある粒子。 ナノマテリアル:1次元以上の外形寸法あるいは内部構造がナノ領域にあり、ナノ領域の寸法を有しない同じ組成の材料と比べて新奇な性質を有する材料である。

(原文)
A nanoparticle is a particle with one or more dimensions at the nanoscale (at least one dimension <100nm). A nanomaterial is a material with one or more external dimensions, or an internal structure, on the nanoscale, which could exhibit novel characteristics compared to the same material without nanoscale features.

○Nanotechnology; A Report of the U.S. Food and Drug Administration Nanotechnology Task Force, Commissioner of Food and Drugs, July 25, 2007, p6〜7

(仮訳)
米国食品医薬品庁(FDA)ナノテクノロジー作業部会(the U.S. Food and Drug Administration Nanotechnology Task Force)は、「ナノスケール材料」・「ナノテクノロジー」あるいはその業務範囲を定義する関連用語に関する厳密な定義を採用していない。 該作業部会は、FDAは材料サイズの潜在的な重要性とナノサイエンスの発展状況を考慮した規制の検討を継続すべきであると考えている。 また、「ナノテクノロジー」・「ナノスケール材料」あるいは関連する用語や概念についての単一の定義がある状況においては有意義な指針を与えたとしても、別の状況においては、その定義が狭すぎるあるいは広すぎることになるかもしれない。 したがって、作業部会は、法規制のための用語に関する公的で確定した定義を採用することを現時点では提言しない。

(原文)
The Task Force has not adopted a precise definition for "nanoscale materials", "nanotechnology", or related terms to define the scope of its work. The Task Force believes FDA should continue to pursue regulatory approaches that take into account the potential importance of material size and the evolving state of the science. Moreover, while one definition for "nanotechnology," "nanoscale material," or a related term or concept may offer meaningful guidance in one context, that definition may be too narrow or broad to be of use in another. Accordingly, the Task Force does not recommend attempting to adopt formal, fixed definitions for such terms for regulatory purposes at this time.

(参考2)ナノマテリアルの概要(TRC/TBR調べ)

○フラーレン

フラーレン(fullerene)は炭素クラスターの総称であり、C60が代表的な物質である。炭素原子60個からなり、20面体(サッカーボール型)構造をとっている。炭素原子が70個、76個、78個、96個、240個なども見つかっている。C60の場合直径は0.7nm〜1.0nm。電子を受け取り易く、高い導電性を有するほか、樹脂と組み合わせることでバドミントンやテニスのラケットなどの強度を高め軽量化が実現できることから当該分野では利用実績が拡大している。また、DNAを切断する細胞毒性を利用したがん細胞の攻撃、或いは活性酸素除去機能を期待して化粧品などへの応用など様々な特徴を有しており多様な研究が進んでいる。

○単層カーボンナノチューブ

単層カーボンナノチューブ(Single Wall Carbon nanotube:SWCNT)は炭素による六員環ネットワークが単層の同軸管状になった物質である。平面のグラファイトを丸めて筒状にした構造である。多様な性質が次々に確認されており、利用価値の拡大を目指し研究開発が進められている。

○複層カーボンナノチューブ

複層カーボンナノチューブ(Multi Wall Carbon nanotube:MWCNT)は炭素による六員環ネットワークが複層の同軸管状になった物質である。直径は10〜100nm程度。現状では高い導電性を生かして半導体工場で使われる半導体やシリコンウエハの搬送用の容器に静電防止のため使われ、実績を伸ばしている。

○銀/銀+無機微粒子

銀/銀+無機微粒子は、銀の抗菌効果を活用した抗菌剤として日用品、キッチン回りの商品、食品密封容器等で利用が拡大している。無機微粒子の無機とは有機(炭素、水素、酸素、窒素などからなる)に対する言葉で、熱に強い、硬い、腐食され難いなどの機械的特性に優れるほか、透明、電気を通す、電気を蓄える、絶縁体であるなどの機能も有している。ここでいう無機微粒子とは、こうした特徴を持つ素材を100nm以下に微粒子化し銀を担持させたものであり、例えばシリカ、アルミナ、酸化チタン、ゼオライト等が使われている。

○カーボンブラック

10万〜10億個の炭素原子からなるほぼ球形の単位粒子が互いに融合しカーボンブラックの凝集体を形成している。油やガスを不完全燃焼することで、製造されており、生産されたカーボンブラック全てがナノ微粒子である。導電性、着色性などをゴムや樹脂に与えるため、様々な用途で広く使用されている。

○酸化チタン

酸化チタン(TiO2)はダイヤモンドより高い屈折率、可視光を吸収しない、化学的安定性に優れるなどの特徴があり、白色顔料や紫外線吸収剤として、塗料・化粧品などの原料に広く使われている。酸化チタンには結晶構造としてアナターゼ型、ルチル型、ブルカイト型の3種類の結晶形態があるが、工業的に利用されているのはルチル型とアナターゼ型である。ルチル型が最も安定的であり、アナターゼ型は過熱によりルチル型に転移する。酸化チタンはナノ微粒子化することで、紫外線遮蔽効果を発揮するため特に化粧品分野では日焼け止め商品を中心に広く使用されている。また、光触媒機能(太陽光のみでセルフクリーニング、空気清浄、水質浄化、抗菌・防かびの機能を持つ)により、各種塗料への需要拡大が期待されている。

○アルミナ

アルミナ(Al2O3)は水酸化アルミニウムを焼成することによって得られる白色結晶粉末。化学的安定性や機械的強度の高さ、電機絶縁抵抗が大きい等の多様な特性を持っており、陶磁器・機械部品・電子部品等のセラミックス材料、研削・研磨材ならびに耐火物原料などの分野で利用されている。ナノマテリアルとしては、電子材料として各種電子部品への利用が今後期待されている。

○酸化セリウム

酸化セリウム(CeO2)は高い酸素貯蔵能、高い紫外線遮蔽効果などの優れた機能を有している。現在は研磨剤としての用途が大きい。特に半導体関連の研磨剤としてナノ微粒子の利用がある。

○酸化亜鉛

酸化亜鉛(ZnO)は、工業的には金属亜鉛を気化して空気で燃焼させて製造する。粒径0.1μmと細かい粉末状である。水に不溶で導電性、圧電性がある。粒子が細かいため白色顔料として重要である。その他医薬品・化粧品などの原料となる。酸化亜鉛のナノ微粒子は酸化チタンと同じく紫外線遮蔽効果があり、酸化チタンと比較して透明性にも優れるため化粧品用途には日焼け止め商品を中心に酸化チタンと組み合わせて利用されている。また、電子材料としての利用も期待されている。

○シリカ(二酸化ケイ素:SiO2)

乾式シリカは、樹脂の補強、塗料などの増粘(垂れ防止)、半導体ウェーハの研磨といったさまざまな用途・製品に使われている。特に大きな用途はシリコーンゴムへの添加用途であり、シリコーンは化学的に安定し温度変化に強い性質から、自動車産業ではエンジンルームなど過酷な環境下のパッキング類などで利用されている。また電子情報産業でも被覆保護材料や携帯電話の文字板など、電気絶縁性や耐久性を活かして各種電子部品に用いられている。乾式シリカは全てのグレードの粒径が100nm以下であるため、乾式シリカ市場そのものがナノ市場規模であると言える。シリカ微粒子はそのほか塗料、インキ、化粧品、農薬などにも利用されており、その範囲は広い。

○ポリスチレン

構造式-[C(C6H5)HCH2]n-:ポリスチレンは5大汎用樹脂の一つで成形しやすく電気的特性(絶縁性)に優れるため、家電製品(TV筐体、エアコン外装、CDケース等)OA機器、食品包装、玩具日用品に広く利用されている。ポリスチレンのナノ微粒子は、その屈折率を利用したディスプレイの反射防止光拡散用途や化粧品(ファンデーション等の滑らかさの付与等)への利用がある。

○デンドリマー

デンドリマーとは、構造が正確にコントロールされた樹枝状高分子或いは超分岐高分子とも呼ばれる高分子材料の一つで球状の形態を取る。一般の高分子と比べて構造制御が容易で、これらの構成要素の様々な組み合わせから異なる形およびサイズの化合物を作ることが出来る。バイオ・マテリアルサイエンスの両分野での応用が期待されている。ドラッグデリバリー、遺伝子導入、触媒作用、エネルギー・光捕獲、光活性、分子量およびサイズの標準物質、ナノスケール科学・テクノロジー等の分野で注目されている。国内では紙の表面へのコーティングや化粧品関係に一部利用が始まったところである。

○ナノクレイ

「モンモリロナイト」(鉱物名)を主成分とする「ベントナイト」(一般名)の純度及び粒子径(サブミクロン)を高めたものが「ナノクレイ」(一般名)と呼ばれている。主たる素材は「モンモリロナイト:MMT」である。MMT自体の大きさは、厚さ1nm、長さ100nmのりん片形である。MMTはスメクタイトと呼ばれる鉱物のグループに属しており、似た性能を持つ鉱物として、ハイデライト、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイトなどがあるが、市販されている製品はその殆どがMMTである。また、一般に「ベントナイト」は、粒子径(二次粒子)が2ミクロン以下のものと規格が定められており、平均粒径はサブミクロンである。ナノクレイはナノ化することで農薬の沈降防止や塗料、化粧品、医薬品、食品添加物、触媒等広く利用されている。また今後は樹脂へ添加することで新たな機能が期待できるナノ複合材料としても期待されている。

○カーボンナノファイバー

カーボンナノファイバーは、繊維径がナノメートル単位の繊維である。この繊維状炭素物質は、炭素原子で構成された複数の六方網平面が繊維長手方向において積層して形成されており、カーボンナノチューブとは異なる構造をもつ。この繊維状炭素物質は、水素ガスやメタンガスを吸着させる吸着材料、また電界放出材料として、注目を集めている。現在は携帯電話等で利用されているリチウム二次電池の電極材料として利用が拡大している。

○顔料微粒子

顔料とは着色に用いる粉末で水や油に不溶なものの総称である。顔料粒子の大きさは数nmのものから数mmに至るまで幅広く存在している。顔料にはその成分から無機顔料と有機顔料の2種類に分類できる。現在ナノ化された顔料はインクジェット用のインクや液晶の製造工程で使われるカラーレジスト用途などに利用がある。

○アクリル微粒子

主としてアクリル酸(CH2=CH-COOH)やメタクリル酸(CH2=C(CH3)-COOH)の誘導体を主成分とする樹脂の総称である。透明性と強靭性に特徴があり、微粒子化することで塗料やインキの分野で利用される。現在ナノ微粒子は流通していないが、化粧品に使われていたポリスチレン樹脂が安全性の懸念から減少していることを受け、アクリルのナノ微粒子化による利用の拡大が見込まれるほか、インクジェット用途などにも展開が期待されている。

○リポソーム

リポソームとは、脂質二分子膜が球状の殻になった構造をもつ。大きさは製造方法や条件に依存するが、直径20〜100nm程度である。生体膜の基本構造を持っており、ドラックデリバリーシステムやバイオセンサー等への応用が研究開発されている。

○量子ドット

量子ドット(quantum dots)とは半導体微細加工によって人工的に作られた「人工原子」を二個結合することによって得られる人工的な分子である。半導体において結晶成長や微細加工により数nm〜20nmの粒状構造を作ると電子はその領域に閉じ込められ、量子ドット分子では、デジタル的な「0」「1」だけでなく、「0」と「1」の確率情報を表現できる量子情報(量子ビット)を持つと考えられ、超高速計算が可能な量子コンピューターへの応用が期待される。蛍光色素としての量子ドットは、ほぼたんぱく質と同じサイズの半導体物質であることから、その光学的特性より生体組織・細胞などの標識として長期間の安定が保たれ時間制限検出を必要とする実験に有効である。マテリアルとしてはセレンやカドミウムが利用されている。現在の量子ドットの国内販売は研究用試薬に限られる。


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