第2章 ネットワークによる臓器あっせん業務の状況の検証結果

1.初動体制並びに家族への脳死判定等の説明および承諾

本人は、2〜3日前から後頭部痛があり、平成18年3月11日、頭痛が増強し、意識レベルの低下を認めたため、救急車を要請した。11:57、当該施設に搬送された。CT撮影にて、くも膜下出血(Grade4)と診断され、ICUに入室した。

3月12日、脳動脈瘤コイリング、脳室ドレナージを施行した。

3月24日、意識レベルは GCS3、瞳孔散大、対光反射消失し、CT撮影にて脳腫脹、中心性脳ヘルニアを認めた。12:00頃、主治医が家族に対し脳死状態である旨の説明を行ったところ、18:00、家族から意思表示カードが提示された。18:24、家族の希望により、病院がネットワーク中日本支部に問い合わせの連絡を行った。19:10、都道府県コーディネーター1名が病院に到着し、院内体制等を確認した。その後、ネットワークのコーディネーター1名が病院に到着し、21:20より約30分間、家族に面談。臓器提供に関する一般的な情報提供を行った。22:08、臨床的に脳死と診断。家族がコーディネーターの話を聞く意思があると申し出られ、23:45、病院はネットワーク中日本支部に連絡した。

ネットワークのコーディネーター1名と都道府県コーディネーター1名が医学的情報を収集し一次評価(ドナーになることができるかどうかの観点からコーディネーターが行うドナーの入院後の検査結果等に基づく評価)等を行うとともに、3月25日0:25、家族(患者の夫、長男、夫の弟、義母、従兄弟夫婦)に1時間面談を行い、脳死判定及び臓器提供の手順と内容、家族に求められる手続等につき文書を用いて説明し、家族構成等を確認した。家族の総意のとりまとめに時間を要する様子が見られたため、家族間であらためて話し合っていただくこととした。

約11時間後の同日12:45に患者の夫が家族を代表して脳死判定承諾書、および臓器摘出承諾書に署名捺印された。コーディネーターは承諾が家族の総意であることを確認し、両文書を受理した。家族は、本人の意思を尊重し、役に立つのならば提供したいと話された。

【評価】

○ コーディネーターは、家族への臓器提供に関する説明依頼を病院から受けた後、院内体制等の確認や一次評価等を適切に行ったと判断できる。

○ 家族への説明等について、コーディネーターは、脳死判定及び臓器提供の手順と内容、家族に求められる手続等を記載した文書を手渡してその内容を十分に説明し、検討のために家族間で話し合う時間を設けるなどの配慮ある対応をしており、家族は十分に考慮の機会を持って、承諾書に署名されたと判断できる。

2.ドナーの医学的検査およびレシピエントの選択等

3月25日17:56に、心臓、肺、肝臓、小腸のレシピエント候補者の選定を開始した。膵臓と腎臓についてはHLAの検査後、同日22:26よりレシピエント候補者の選定を開始した。

法的脳死判定が終了した後、3月26日1:22より心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓のレシピエント候補者の意思確認を開始した。

心臓については、第1候補者は、ドナーとの体重差等を考慮し、医学的理由により移植実施施設側が心臓の移植を辞退。第2候補者は、意思確認前日に脳死移植を受けていたため意思確認を行わず。第3候補者の移植実施施設側が心臓の移植を受諾し、移植が実施された。

肺については、第1候補者は、候補者の容態から判断して、移植実施施設側が両肺の移植を辞退。第2候補者は、医学的理由により移植実施施設側が両肺の移植を辞退。第3候補者は、気持ちの整理ができていないとの理由で移植実施施設側が両肺の移植を辞退。第4候補者(片肺移植の第1候補者)は、候補者の容態から判断して、移植実施施設側が片肺の移植を辞退。第5候補者は、ドナーとの体格差等を考慮し、医学的理由により移植実施施設側が両肺の移植を辞退。第6候補者の移植実施施設側が両肺の移植を受諾し、移植が実施された。

肝臓については、第1候補者、第2候補者は、本人に移植の意思がなく移植実施施設側が肝臓の移植を辞退。第3候補者は、本人と連絡がとれず、移植実施施設側が肝臓の移植を辞退。第4候補者の移植実施施設側が肝臓の移植を受諾し、移植が実施された。

膵臓については、第1候補者は、候補者の容態から判断して、移植実施施設側が膵臓の移植を辞退。第2候補者は、連絡時既に死去していた。第3候補者は、本人と連絡がとれず、移植実施施設側が膵臓・腎臓の同時移植を辞退。第4候補者の移植実施施設側が膵臓・腎臓の同時移植を受諾し、移植が実施された。

右腎臓については、第1候補者の移植実施施設側が腎臓の移植を受諾し、移植が実施された。

小腸については、登録患者不在のため、移植が見送られた。

また、感染症検査等については、ネットワーク本部において適宜検査を検査施設に依頼し、特に問題はないことが確認された。

【評価】

○ ドナーの提供臓器や全身状態の医学的検査等及びレシピエントの選択手続は適正に行われたと評価できる。

3.脳死判定終了後の家族への説明、摘出手術の支援等

3月26日0:24に脳死判定を終了し、主治医は脳死判定の結果を家族に説明した。その後、コーディネーターは、情報公開の内容等について説明し、家族の同意を得た。

また、コーディネーターから家族に対して、小腸については登録患者不在にて移植が見送られることとなった旨を報告した。

【評価】

○ 法的脳死判定終了後の家族への説明等は妥当であったと評価できる。

4.臓器の搬送

3月26日にコーディネーターによる臓器搬送の準備が開始され、参考資料2のとおり搬送が行われた。

【評価】

○ 臓器の搬送は適正に行われたと評価できる。

5.臓器摘出後の家族への支援

臓器摘出手術終了後、コーディネーターは手術が終了した旨を家族に報告し、病院関係者等とともにご遺体をお見送りした。

3月27日(臓器提供の翌日)、コーディネーターが家族へ電話し、レシピエントの移植手術がすべて終了したことを報告した。

3月29日、コーディネーター1名が葬儀に参列した。

3月31日、コーディネーター2名と病院関係者がご自宅を訪問し、腎臓バンクとライオンズクラブからの感謝状を手渡すとともに、レシピエントの経過報告を行った。家族は、故人は交友関係が広く、沢山の方が通夜と告別式に参列されたことや、生前、臓器提供に関する報道を見ながら、自分が脳死になったら臓器提供してほしいと故人が話されていたことなどを語られた。

4月26日、コーディネーターが家族へ、厚生労働大臣からの感謝状を持参し、レシピエントの経過報告を行った。

6月1日、コーディネーターが家族へ、腎臓移植を受けられたレシピエントからのサンクスレターを持参し、レシピエントの経過報告を行った。家族は、臓器提供したことに対し、周囲の方から良いことをしたと励まされていると話された。

8月30日、コーディネーターが家族へ、肝臓移植を受けられたレシピエント、および肺移植を受けられたレシピエントからのサンクスレターを持参し、レシピエントの経過報告を行った。家族は、毎日仕事に行っており、さみしいという話はしないことや、お墓を立てて毎日墓参りに行っていることなどを話された。

9月23日、コーディネーターが家族へ、心臓移植を受けられたレシピエントからのサンクスレターを持参し、レシピエントの経過報告を行った。

12月7日、コーディネーターが家族へ、膵腎同時移植を受けられたレシピエントからのサンクスレターを持参し、レシピエントの経過報告を行った。

コーディネーターは、上記の連絡、報告以外に、その後もレシピエントの近況報告をするなど、適宜報告や対応を行っている。

【評価】

○ コーディネーターによるご遺体のお見送り、家族への報告やサンクスレターの送付等は適切に行われたと認められる。


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