第2章 ネットワークによる臓器あっせん業務の状況の検証結果

1.初動体制並びに家族への脳死判定等の説明および承諾

平成18年3月9日、本人(40代の女性)が強い頭痛を認め、近くの病院へ救急搬送された。CT撮影にて、くも膜下出血と診断され、他院に転院された。

3月10日、MRI及びMRA検査を施行。脳動脈瘤を認め、16:50、当該施設に搬送され、17:30、ICUに入室した。ICU入室時、意識レベルは清明であった。

3月12日、舌根沈下のため気管内挿管を行い、人工呼吸器による補助呼吸を開始した。3月18日4:00頃、意識レベルがJCS300まで低下し、瞳孔散大、対光反射及び角膜反射も消失した。

3月22日21:40、主治医が家族に対し脳死の状態が疑われるため、翌23日に脳波を測定する旨の説明を行ったところ、家族から意思表示カードが提示された。

3月24日12:52、臨床的に脳死と診断。12:55、家族がコーディネーターの話を聞く意思があると申し出られため、病院からネットワーク西日本支部に連絡があった。13:00、ネットワークのコーディネーター3名と都道府県コーディネーター1名が病院に到着し、院内体制等を確認するとともに、医学的情報を収集し一次評価(ドナーになることができるかどうかの観点からコーディネーターが行うドナーの入院後の検査結果等に基づく評価)等を行った。

同日14:17、ネットワークのコーディネーター2名が家族(患者の兄、義姉)に約1時間面談を行い、脳死判定及び臓器提供の手順と内容、家族に求められる手続等につき文書を用いて説明し、家族構成等を確認した。

家族は、病気に苦しむ人々の役に立ちたい、社会に貢献したいという本人の思いを知っているので、最期の希望を叶えてやりたいと話され、承諾の意思は固まっている様子で、臓器提供を承諾された。

同日14:59、患者の兄が家族を代表して脳死判定承諾書、および臓器摘出承諾書に署名捺印された。コーディネーターは承諾が家族の総意であることを確認し、両文書を受理した。

【評価】

○ コーディネーターは、家族への臓器提供に関する説明依頼を病院から受けた後、院内体制等の確認や一次評価等を適切に行ったと判断できる。

○ 家族への説明等について、コーディネーターは、脳死判定及び臓器提供の手順と内容、家族に求められる手続等を記載した文書を手渡してその内容を十分に説明したと判断できる。

○ 家族は約1時間の説明後に臓器提供を承諾されたが、本人の意思を叶えたいとの強い意志がうかがわれることから、十分に考慮の機会を持って、承諾書に署名されたと判断できる。

2.ドナーの医学的検査およびレシピエントの選択等

3月24日16:47に、心臓、肺、肝臓のレシピエント候補者の選定を開始。膵臓についてはHLAの検査後、同日22:51よりレシピエント候補者の選定を開始した。

法的脳死判定が終了した後、3月25日5:20より心臓、肺、肝臓、膵臓のレシピエント候補者の意思確認を開始した。

心臓については、第1候補者は、ドナーとの体重差を考慮し心臓の移植を辞退。第2候補者の移植実施施設側が心臓の移植を受諾し、移植が実施された。

肺については、第1候補者は、候補者の容態およびドナーの医学的理由により移植実施施設側が両肺の移植を辞退。第2候補者は、ドナーの医学的理由により移植実施施設側が両肺の移植を辞退。片肺移植の第1候補者は、候補者の容態およびドナーの医学的理由により移植実施施設側が片肺の移植を辞退。最終的に、ドナーの医学的理由により移植の適応なしと判断し、両肺の移植が見送られることとなった。

肝臓については、第1候補者は、ドナーの医学的理由により移植実施施設側が肝臓の移植を辞退。第2候補者は、ドナーの医学的理由および候補者の医学的緊急度を考慮し、移植実施施設側が肝臓の移植を辞退。第3候補者は、ドナーの医学的理由により移植実施施設側が肝臓の移植を辞退。最終的に、ドナーの医学的理由により移植の適応なしと判断し、肝臓の移植が見送られることとなった。

膵臓については、第1候補者、第2候補者の移植実施施設側が膵臓の移植を受諾し、第1候補者に膵臓の移植が実施された。

また、感染症検査等については、ネットワーク本部において適宜検査を検査施設に依頼し、特に問題はないことが確認された。

【評価】

○ ドナーの提供臓器や全身状態の医学的検査等及びレシピエントの選択手続は適正に行われたと評価できる。

3.脳死判定終了後の家族への説明、摘出手術の支援等

3月25日4:25に脳死判定を終了し、主治医は脳死判定の結果を家族に説明した。その後、コーディネーターは、情報公開の内容等について説明し、家族の同意を得た。

また、コーディネーターから家族に対して、両肺および肝臓については、医学的理由にて移植が見送られることとなった旨を報告した。

【評価】

○ 法的脳死判定終了後の家族への説明等は妥当であったと評価できる。

4.臓器の搬送

3月25日にコーディネーターによる臓器搬送の準備が開始され、参考資料2のとおり搬送が行われた。

【評価】

○ 臓器の搬送は適正に行われたと評価できる。

5.臓器摘出後の家族への支援

臓器摘出手術終了後、コーディネーターは手術が終了した旨を家族に報告し、病院関係者等とともにご遺体をお見送りした。

3月26日(臓器提供の翌日)、コーディネーターが家族へ電話し、移植手術がすべて終了したことを報告した。

3月27日、コーディネーター2名が葬儀に参列した。

4月14日、コーディネーターが家族へ電話し、厚生労働大臣からの感謝状の受け取りについて家族の意向を尋ねた。仏壇のある実家に届けるので送ってほしいと希望され、レシピエントの経過報告の手紙とともに送付した。

6月23日、コーディネーターが家族へ電話し、レシピエントの移植3ヶ月後の経過を報告した。家族は、こうして2人の体の中で頑張っていることを聞くと、まだ本人が生きているような気がすると話された。

10月2日、コーディネーターが家族へ電話し、レシピエントの移植6ヶ月後の経過を報告した。家族はレシピエントの経過が良いことを喜ばれ、家族は皆元気に頑張っていると話された。

コーディネーターは、上記の連絡、報告以外に、その後もレシピエントの近況報告をするなど、適宜報告や対応を行っている。

【評価】

○ コーディネーターによるご遺体のお見送り、家族への報告等は適切に行われたと認められる。

○ コーディネーターは家族の気持ちに即した配慮ある対応を行っていることがうかがわれ、その努力を評価したい。


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