資料1−3

医療情報ネットワーク基盤検討会
処方せんの電子化の検討に関する作業班 総括

1. 検討の経緯

○ 平成16 年9 月30 日の医療情報ネットワーク基盤検討会最終報告「今後の医療情報ネットワーク基盤のあり方について」において、制度運用上の課題を克服する必要があり「現時点においては、処方せん自体を電子的に作成して制度運用することはできない」としたところ

○ しかしながら、上記最終報告では「将来的に処方せんの電子的作成と制度運用が可能な環境を整備していくことが望ましい」とされており、技術的・制度的な環境整備により電子化を目指す方向性が示されたところ

2. 検討の進め方

○ 一次的には処方情報の電子化で達成されうる目的も存在するが、情報と実体が乖離する場合の運用の困難さに鑑みれば処方せんの電子化と切り離して議論すべきでない。

○ 二次的には調剤情報を電子化して処方医に返すことを容易にし、そのような仕組みを構築していく動機となることが期待される。

○ 加えて患者をユニークに識別出来うる基盤が成立すれば、「処方され、調剤され交付された薬剤を服薬した情報」を患者の同意のもと収集することも可能となることが期待される。

○ 服薬情報の収集までが可能になれば、患者自身の生涯にわたる健康管理にきわめて有用であるばかりでなく、臨床研究、治験の質を向上させるとともに効率化に役立ち、医学研究、公衆衛生が進歩し、新薬開発の発展にも寄与することが期待される。

○ 服薬情報までもが確実に得られる市場となれば、国際治験も飛躍的に増えることが期待され、製薬分野における国際競争力も向上する可能性も期待される。

○ 他方、医薬品流通分野においてバーコード等を用いたトレーサビリティの向上により、製造から患者の手に渡るまでを確実に把握できることとなれば、医薬品による健康被害等の把握、医薬品の回収等作業の迅速化、効率化が期待され、患者安全の観点からも、経済的効率化の観点からも、我が国の医薬品行政に計り知れないメリットをもたらす。

○ すなわち処方せんの電子化をきっかけに、医療情報分野全体の電子化を総合的に進めていくことは可能であり、そのことにこそ重要な意味があると位置づけられる。

○ これらの理念に基づき検討を進めるが、まずは紙媒体で運用されている現行の処方せんの在り方を検証し、電子化された際のメリット、デメリットを社会全体、医療機関、薬局、患者のそれぞれの視点から検討に着手した。

○ 紙による運用が前提となっている現行の制度、規制が電子化を阻害することにはなるが、本来こういった規制が「国民の安全」と「世界最高水準の医療サービスアクセスの平等性」を担保するものであることに鑑み、それを覆してでも電子化することを自己目的化しないことを前提として議論を開始した。

3. 処方せん電子化実現に向けて検討すべき点

○ 患者等が利用する物理媒体等を含めて、患者等自らのコントロールによる薬剤情報の蓄積、閲覧等の活用方策と、認証や安全でコスト負担の軽減された、網羅的なネットワーク基盤その他の環境構築

○ 記述様式やメッセージ交換方式等の標準化、後発医薬品を念頭に置いた一般名による記載を考慮したマスタの開発と全ての医療機関、薬局において標準化されたマスタを利用する環境の整備

○ 全体最適に鑑みたコスト負担や制度面での担保も踏まえた、電子化した処方せんの運用スキーム

4.結論

○ 現状において実現するには検討すべき点も多くあるため困難であるが、想定される課題は、コスト−ベネフィットにも鑑みて実現しようとする際には、いずれも解決不可能なものではなく、処方せん電子化に向けての障壁とはなり得るものではない。

○ 全体最適化の観点からは、医療機関等へのネットワーク基盤整備に関係する医療の情報化の取組は、処方せんの電子化への対応を考慮しつつ進めることが有意義である。

○ 課題として掲げた各項目は、必ずしも一度に全てを解決しなければならないということではなく、環境の変化、準備の進捗状況等も踏まえながら、電子化の段階的進展もありえる。

○ しかしその際も、安全を確保することは当然ながら、我が国の医療保険制度の根幹である「患者による医療機関・薬局の自由な選択(フリーアクセス)」を損なわない運用の確保が必要であるとともに、時代を経ても陳腐化しない、また部分最適化とならないような特段の配慮が必要である。


平成19年10月26日

処方せんの電子化の検討に関する作業班設置の趣旨

【背景・経緯】

1.「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」(平成16年法律第149号。いわゆる「e-文書法」)により、民間事業者等が作成・保存することを義務付けられている文書・帳票類の電磁化(電子的・磁気的)を、一部の例外を除いて一括して認めることとなった。

民間事業者に文書の保存を義務付けている法律は多岐にわたり、電磁的記録を文書と認めるもの、紙媒体での保存でなければならないものなど個別の法律によって要件や内容が異なっていた。e-文書法はこれらを1つ1つ改正するのではなく一括して電子保存を認めるもので、251の法律が実質的に改正された。

これに基づき厚生労働省においても「厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令」(平成17年厚生労働省令第44号)により、その対象文書を明らかにした。

ただし、調剤を行うために患者等に交付する処方せん(以下「院外処方せん」という。)については、「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律等の施行等について(平成17年3月31日医政発第0331009号、薬食発第0331020号、保発第0331005号)」により、以下のとおりの取扱いとなった。

【同通知(抄)】

(4)処方せんの取扱い

平成15年6月に医政局長の私的検討会として設置された「医療情報ネットワーク基盤検討会」の最終報告「今後の医療情報ネットワーク基盤のあり方について」(平成16年9月30日。以下「報告書」という。)において、薬局(病院(診療所)に置かれる調剤所は除く。)で調剤を行うために患者等に交付する処方せん(以下「院外処方せん」という。)については、電磁的記録による作成及び交付における必要な要件を満たす環境が整っていないとし、法施行後も容認することはできないとされたことを踏まえ、法の適用対象外とされたこと。ただし、医師等から紙媒体で交付された院外処方せんを薬局でスキャナにより電子化して保存することについては、(3)の要件のもとに認められるものであること。
なお、院内における処方せん(病院(診療所)に置かれる調剤所に対する指示書を含む。)の保存については、院外処方せん同様、(3)の要件のもとにスキャナにより電子化して保存することについて認められるものであること。なお、院内における処方せんについては、患者等に交付しない場合に限り、電子的な作成についても容認されるものであること。


2.処方せんの電子化をめぐる議論の経緯

「今後の医療情報ネットワーク基盤のあり方について(医療情報ネットワーク基盤検討会最終報告:平成16年9月30日)」において、以下のように提言されている。

I.(略)

II.(略)

III.医療に係る文書の電子化

(略)

現在までに電子的な交付、運用、保存等が認められていない文書について、電子化することにより医療の質的向上、効率化、利便性の向上等の効果が期待され、かつ、わが国の医療制度運用の実情等に照らし合わせて、電子化による負の影響が克服可能なものについては、個々の文書について必要な要件を明らかにしつつ電子化を進めるべきである。

(中略)

院外処方せん(以下、処方せん)は、医療関係者にとどまらず、国民生活にもなじみが深い利用頻度の高い書類の一つであるが、医薬品の安全性確保など医薬分業の目的を達成するため、法令上の作成・交付者(医師又は歯科医師)、交付を受ける者(患者またはその看護に当たる者、以下、患者等)、調剤者及び保存義務者(薬局又は病院)が異なる等の制度運用上の特性があり、また、医師又は歯科医師の記名押印又は署名が必要なため、現在、電子的作成が認められていない。

麻薬、向精神薬等を含め薬剤の調剤の根拠となる処方せんの取り扱いは、国民の健康に直接的な影響を及ぼすものであることから、処方せんの電子化については、交付者である医師又は歯科医師(注3)、処方せんにより調剤を行う薬剤師(注4)の国家資格の認証機能を含む電子署名の実施を前提とすべきである。それに加えて、別紙「法的に保存が義務づけられている医療関係の書類の電子的保存について」で示された制度運用上の各課題をすべて克服し(注5)(注6)(注7)(注8)、薬剤師が処方医に対して処方内容に係る疑義照会を行う場合に円滑に実施できること(注9)、薬局において調剤済み処方せんに薬剤師の署名または記名押印を行い(注10)保存すること等を可能とする必要があるため、現時点においては、処方せん自体を電子的に作成して制度運用することはできない。

しかしながら、当面、患者等の要望を踏まえて、処方せんに記載されている情報を関係者が電子的に共有すること等を進めながら、医療機関と薬局等が幅広くネットワーク化された状況の実現を図っていくことで、将来的に処方せんの電子的作成と制度運用が可能な環境を整備していくことが望ましい。例えば、患者等が薬局に処方せんを持参する際に、バーコードや電子タグ等の情報媒体を活用することにより、誤処方又は誤調剤を防止し、トレーサビリティを向上できる等の医療安全推進の視点を重視しながら、電子的な情報共有を進めていくことが考えられる。

(後略)

(注3) 医師法第22条及び歯科医師法21条

(注4) 薬剤師法第23条

(注5) 医師法第20条及び歯科医師法第20条

(注6) 薬剤師法第25条の2

(注7) 保険医療機関及び保険医療養担当規則第2条の5

(注8) 保険医療機関及び保険医療養担当規則第19条の3

(注9) 薬剤師法24条

(注10) 薬剤師法26条

【検討事項】

・現下、IT新改革戦略評価専門調査会およびその下部に位置する医療評価委員会からレセプトのオンライン化により全ての医療機関・薬局を結ぶネットワーク基盤が整備された段階(平成23年度当初)では、患者による処方せんの内容の確認、薬局の自由選択性を担保した形で処方せんの電子化の実現が可能となるため、現時点から積極的に検討を行うべきである、という提言を受けている。
(第16回医療情報ネットワーク基盤検討会資料4)

・レセプトのオンライン化により全ての医療機関・薬局を結ぶネットワーク基盤が整備されていることが、議論の前提になるとはいえ、「今後の医療情報ネットワーク基盤のあり方について(医療情報ネットワーク基盤検討会最終報告)」下線部にあるとおり、当該文書について必要な要件を明らかにしつつ電子化を進めるべきであり、そのための議論を尽くさぬまま現下の規制を緩和することは困難。

・議論に当たっては、医療機関側からの視点のみならず、薬局、患者といった関係者それぞれの視点によるメリット・デメリットについても明らかにしつつ、現時点における論点を整理することとしたい。なお当該前提においても実施が困難との結論に至る場合にあっては、その理由についても明示することは、将来の実現に向けた課題抽出につながることとなり、有益なことと認識している。

【本作業班の概要】

・本作業班では処方せんの電子化について集中的に議論し、平成19年度内に一定の結論を得る。

・本作業班の班長には、東京工業大学統合研究院ソリューション研究機構特任教授 喜多紘一委員に、ご就任いただくことを提案する。

・11月より原則月2回開催。

・各回とも検討課題の抽出を行い、作業班員が次回までにそれに対応し得る資料等を準備し、検討を行うこととする。


「医療情報ネットワーク基盤検討会」
処方せんの電子化の検討に関する作業班
班   員
(平成19年11月現在)

(五十音順:敬称略)

※ ○は班長

班 員
  所 属 ・ 職 名

岡田  康   保健医療福祉情報システム工業会
喜多 紘一   東京工業大学統合研究院ソリューション研究機構特任教授
河野 行満   日本薬剤師会業務部医薬・保険課 課長補佐
児島 純司   洛和会ヘルスケアシステム洛和会本部
篠田 英範   保健医療福祉情報システム工業会運営幹事
西田慎一郎   日本画像医療システム工業会
野津  勤   日本画像医療システム工業会医用画像システム部会セキュリティ委員会副委員長
樋口 範雄   東京大学法学部教授
茗原 秀幸   保健医療福祉情報システム工業会セキュリティ委員会委員長
矢野 一博   日本医師会総合政策研究機構主任研究員
  山本 隆一   東京大学大学院情報学環・学際情報学府准教授
吉村  仁   日本画像医療システム工業会医用画像システム部会長

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