糖尿病等の生活習慣病対策の推進について
(中間取りまとめ)

平成19年12月27日
糖尿病等の生活習慣病対策
の推進に関する検討会

1.糖尿病等の生活習慣病の現状

○食生活、運動習慣等の生活習慣の変化や、高齢化の進展に伴い、糖尿病等の生活習慣病が増加してきている。例えば、厚生労働省「糖尿病実態調査」(平成14年度)によると、糖尿病が強く疑われる者は約740万人であり、過去5年間に約50万人増加しているとともに、糖尿病の可能性が否定できない者は約880万人であり、過去5年間で約200万人増加している。

○厚生労働省「人口動態統計」(平成17年)によると、心疾患を原因とする死亡数は年間約17万人で、死亡数全体の15.9%(死亡順位の第2位)を占めており、このうち、急性心筋梗塞による死亡数は約4.5万人で、心疾患死亡数全体の約26.1%を占めている。また、脳卒中を原因とする死亡数は年間約13万人で、死亡数全体の11.8%(死亡順位の第3位)を占めている。

○糖尿病は、高血圧症、脂質異常症等とともに、脳卒中、急性心筋梗塞等の重篤な疾病の重要な危険因子である。さらに、糖尿病の合併症である糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害の発症は、患者の生活の質(QOL)を低下させるとともに、生命予後を大きく左右することなどから、特に、糖尿病は、今後の生活習慣病対策における重要な課題となっている。

○以上のとおり、我が国において、糖尿病等の生活習慣病対策は重要な課題である。糖尿病等の生活習慣病は、適切な生活習慣や治療により、その発症や重症化を防止することが可能であり、小児期を含め、予防及び診断・治療を適切に行うことが重要であるとともに、適度な運動習慣、適切な食習慣等について、国民一人一人が主体的に取り組むことが重要である。地方公共団体や関係機関は、その実践を支援し、国レベルではこれらの取組を全体として支援する仕組みを設けることが必要である。

2.生活習慣病対策の現状及び課題

○糖尿病等の生活習慣病における予防対策については、昭和53年からの第一次、昭和63年からの第二次国民健康づくり対策に続き、平成12年からの「健康日本21」においても取り組んできたところである。平成18年に関係法律の改正が行われ、平成20年4月より施行される医療制度改革においても、改革の大きな柱の一つとされ、2015年までに、糖尿病等の生活習慣病を25%減少させるとの目標を掲げ、医療保険者に糖尿病等の生活習慣病に着目した健診・保健指導(特定健診・保健指導)を義務づけるなど、予防対策の充実・強化を図ることとしている。

○また、糖尿病等の医療体制については、国民の健康の保持を図るために特に広範かつ継 続的な医療の提供が必要と認められる疾病として、がん、脳卒中、急性心筋梗塞及び糖尿病の4疾病が定められ、当該4疾病の治療又は予防に関する事項が医療計画に記載されることとなった。

○さらに、適切な生活習慣等により、予防や重症化の防止が可能であるにもかかわらず、生活習慣病の有病者・予備群が増加していることから、平成19年4月に取りまとめられた「新健康フロンティア戦略」においては、今後、生活習慣病対策を一層推進していくために、糖尿病について、個人の特徴に応じた予防・治療(テーラーメイド予防・治療)の研究開発及び普及を行うことの重要性とともに、その中核機関づくりが求められている。

○がん対策については、従来から、国立がんセンターが、「研究」、「人材育成」、「情報発信」等について、我が国における中核機関として、一定の役割を果たしてきたところであり、糖尿病やその合併症を含め、生活習慣病対策においても、国レベルでの中核機関を設け、都道府県等の専門医療機関と効率的に連携しつつ、地域における生活習慣病対策をこれら国レベルの中核機関が支援するという体制の構築が必要である。

3.糖尿病等の生活習慣病対策を推進するための方向性

(1)各地域における糖尿病等の生活習慣病対策の推進方策

○生活習慣病の予防や医療に関しては、都道府県、市町村、医療保険者が、健康増進計画、 医療費適正化計画、特定健康診査等実施計画を策定するとともに、当該計画に基づき、ポピュレーションアプローチ(例:健康づくりの環境整備)及びハイリスクアプローチ(例:特定健診・保健指導)に基づく対策を実施する。また、都道府県が、糖尿病、脳卒中、急性心筋梗塞等の治療又は予防に関する事項を記載した医療計画を策定し、疾病ごとの医療連携体制を構築する。

○これらの計画に基づき、医師、保健師、管理栄養士等の医療関係者をはじめ、都道府県 や市町村の職員等の様々な職種や機関が生活習慣病対策を担うこととなる。このため、生活習慣病対策を各地域において推進するに当たり、地方公共団体は、医療機関、医師会、看護協会、栄養士会等の医療に関わる団体はもとより、幅広い関係団体との連携を十分に図ることが重要である。

○特に、糖尿病の診断・治療については、各地域の専門機関で完結するものではなく、初期診療を行う医療機関から専門的な診療を行う医療機関まで、数多くの医療機関における対応が不可欠である。このため、都道府県には、多くの都道府県において既に組織されている糖尿病対策推進会議(医師会、糖尿病学会、糖尿病協会等が、糖尿病の発症予防、標準的な治療等を目指して共同で設立した会議)を活用することが推奨される。さらに、学校、職場における対策等が非常に重要であり、各地域において対策を推進する上では、関係する機関と連携を図ることが必要である。

○また、各地域において、効果的・効率的に生活習慣病対策を実施するためには、医療関係者等の生活習慣病対策の担い手に対して、効果的な予防方法や診断・治療方法に関する研修を実施することが重要である。

(2)各地域・各機関における糖尿病等の生活習慣病対策への支援の在り方

(1)支援体制

○糖尿病等の生活習慣病対策は、糖尿病、高血圧症、脂質異常症の予防や診断・治療だけでなく、合併症としての急性心筋梗塞、脳卒中等の予防や診断・治療まで、幅広い対策を含むものである。

○国立高度専門医療センターのうち、国立国際医療センターは糖尿病に係る研究・診療に中心的に取り組んでおり、国立循環器病センターは、脳卒中、急性心筋梗塞に係る研究・診療に取り組んでいる。各地域における生活習慣病対策を支援するためには、これらの国立高度専門医療センターが、生活習慣病の予防に関する研究等を行っている独立行政法人国立健康・栄養研究所や、生活習慣病対策に携わる職員等に対する研修や疫学研究を行っている国立保健医療科学院と密接な連携を確保しつつ全体として、我が国の糖尿病等の生活習慣病対策の中核としての役割を担うことが適当である。

○また、生活習慣病対策には、小児期からの対策も重要であることから、これらの機関は、国立成育医療センターとも連携を図るとともに、小児の食事指導等の生活習慣病対策は、家族を含め実施することが必須であり、国立成育医療センターがその固有の機能を果たしていくうえでも、大人を対象とした各分野における専門機関との連携は必要である。

○国は、これら国レベルの機関が相互に連携を図るとともに、都道府県、地域の専門医療機関等とネットワークを構築して、「情報発信」、「予防方法、診断・治療方法の研究開発」、「人材育成」の機能を発揮できるよう支援し、そのことを通じて各地域において、個人の特徴に応じた予防・治療(テーラーメイド予防・治療)などの先駆的な予防方法、診断・治療方法や、標準的な予防方法、診断・治療方法の普及・均てん化が図れるような体制としていくことが望まれる。

○その際、これらの糖尿病等の生活習慣病対策の中枢機関が、それぞれの分野における研究を自ら行うとともに、国内外の様々な研究成果や臨床データを収集・分析することも重要である。

○さらに、都道府県、市町村等は、糖尿病等の生活習慣病の有病者・予備群数等の減少率等により、糖尿病等の生活習慣病対策の推進方策の有効性を評価することが重要であり、国ではこうした地方公共団体の取組を支援するとともに、国全体としての評価を行うことが必要である。

(2)情報発信

○現在、生活習慣病の予防や診断・治療に関して、様々な媒体からの情報が氾濫している。生活習慣病の予防や診断・治療を行う上では、個々人において、適切な生活習慣を身につけることが重要であり、そのためには、正確な情報を分かりやすく提供する必要がある。

○一方、全ての地域において、予防や診断・治療の質を均てん化していくためには、保健指導実施機関や医療機関に対して、先駆的な予防方法、診断・治療方法や、標準的な予防方法、診断・治療方法を幅広く公開し、いつでも、だれでもこれらの情報を入手できるようにすべきである。

○このため、我が国における糖尿病等の生活習慣病対策の中核機関である国立保健医療科学院、国立循環器病センター、国立国際医療センター、独立行政法人国立健康・栄養研究所は、それぞれの役割に応じて、ホームページや都道府県等を介して、情報を発信していくことが求められる。その際、糖尿病については、糖尿病対策推進会議と連携して情報を発信することが有効であると考えられる。

(3)予防方法、診断・治療方法の研究開発

○生活習慣病の予防方法、診断・治療方法の開発を効果的・効率的に行うためには、様々な情報を収集・分析する必要があるとともに、標準的な予防方法、診断・治療方法を確立していくため、糖尿病等の生活習慣病対策の中核機関は、関係する学会と密接に連携を図る必要がある。

○また、予防方法のさらなる研究開発のためには、平成20年4月から医療保険者において実施されることとなる特定健診・保健指導のデータを収集・分析することが効果的である。この際、個人情報の保護に十分配慮することが必要である。一方、特定保健指導対象者の性別、年齢、健康に対する考え方、職場環境等に応じて、効果的な予防方法は異なるものと考えられるため、対象者の特性に応じて様々な介入方法による効果を比較できるよう、医療保険者と協力の下、特定健診・保健指導のデータを収集・分析することが望まれる。その際、特定保健指導に関する電子情報は、指導の回数、時間等に限られているため、効果的な予防方法の開発に係る研究を行う上では、具体的な特定保健指導の内容についての情報など、必要な情報が効率的に入手できるよう医療保険者と連携を図る必要がある。

○また、生活習慣病の発症には、遺伝的要因、食環境、生活環境、睡眠等に関連した様々な危険因子が関与しているため、こうした危険因子の寄与の程度についての基礎研究、臨床研究、疫学研究の推進やその研究結果をもとに小児期からの対応も含めて生活習慣病の予防方法を確立することが重要である。

○生活習慣病の本態解明や、診断・治療法の開発においては、糖尿病については国立国際医療センターが、脳卒中、急性心筋梗塞については国立循環器病センターが中心となるが、「国立高度専門医療センターの今後のあり方についての有識者会議報告書」等で指摘されるように、各センターは、施設全体の研究機能を高めるとともに、基礎研究の成果を臨床の実用化へつなげられるよう、臨床研究及びトランスレーショナルリサーチの強化を図る必要があり、研究機能を強化していく上では、公的研究資金のみならず、民間等外部資金の積極的受け入れが求められる。その際、研究資金の活用に係るルールの整備と相なった対応が必要となる。

○あわせて、各センターは複数の研究機関が共同で実施する大規模な研究(特に多施設共同臨床研究)を推進し、その成果を収集・分析することが重要である。

○さらに、「疾病又は事業ごとの医療体制構築に係る指針」において、「医療の質について客観的な評価を行うために、患者の症例登録等を行うことが今後必要である。」とされていることや、糖尿病に関しては、日本糖尿病対策推進会議において、様々な症例のデータが収集されていることを踏まえ、糖尿病等の生活習慣病対策の中核機関がこれらの症例登録のデータ(病態、治療方法等)を集約・分析することは、糖尿病、脳卒中、急性心筋梗塞等の診断・治療方法の研究開発を効果的に進めていくうえで重要である。その際、個人情報の保護に十分配慮することが必要である。

(4)人材育成(研修)

○生活習慣病の予防、診断・治療に携わる医療関係者や、都道府県及び市町村の職員、医療保険者等に対する研修(人材育成)は重要であり、国立保健医療科学院等では、これまでも都道府県等の専門職員等に対して様々な研修を行ってきている。

○今後、生活習慣病対策をより一層推進していくためには、糖尿病等の生活習慣病対策の中核機関において、生活習慣病対策の専門家の中でも特にリーダーとなり得る者に対する研修を行い、このような研修の受講者が、各地域に戻って都道府県、糖尿病対策推進会議等と連携し、それぞれの地域において、生活習慣病の予防や診断・治療に実際に携わる者に対して研修を行うという体制を構築することが重要である。その際、肥満や生活習慣病が悪化する要因の一つとして心理的ストレスを考慮することが必要な場合もあるため、単に食事指導や運動療法を試みるだけではなく、心理面にも配慮した指導ができる人材を育成することが必要である。


(照会先)

健康局総務課生活習慣病対策室
内線2971,2974



ポンチ絵

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