07/11/30 生活扶助基準に関する検討会(第5回)議事要旨 生活扶助基準に関する検討会(第5回)議事要旨 1 日時   平成19年11月30日(金) 9:00〜10:42 2 場所   東海大学校友会館富士の間 3 出席者  (1) 委員(敬称略、五十音順、◎は座長)      岡部  卓(首都大学東京都市教養学部教授)      菊池 馨実(早稲田大学法学学術院教授)      駒村 康平(慶應義塾大学経済学部教授)      根本 嘉昭(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部教授)     ◎樋口 美雄(慶應義塾大学商学部教授)  (2) 行政      中村社会・援護局長、木内大臣官房審議官、藤木社会・援護局総務課長、     伊奈川社会・援護局保護課長他 4 議事(○:委員の発言、●:事務局の発言) ○ 本日は、本検討会の報告の取りまとめに向けた議論をしていきたい。   先月19日に第1回が開催され、その後、計4回にわたって議論・検証を行ってきた。 これまでの議論を踏まえ、事務局において報告書の案を作成してもらっている。   それでは、まず事務局から報告書(案)の読み上げをお願いしたい。  (事務局より資料読み上げ) ○ それでは、ただいまの報告書(案)について、御質問を含め、御意見をいただきた い。どなたからでも、御自由にどうぞ。   そうしたら、私から1つ。   これまで事務局とも打ち合わせして色々と検討してきたが、5ページの「消費実態 との比較による評価・検証」の中の3つ目の項目であるが、「生活扶助基準額は、これ まで第1・十分位の消費水準と比較することが適当とされてきたが」そしてア、イが あり、「今回、これを変更する理由は特段ないと考える。」となっているが、私の意見 を少し反映させてもらい、その後に「なお、過去の給付水準との比較も重要であると の指摘があった。」という文章を入れさせていただいた。これについて御意見をお伺い したい。 ○ そのような御意見を出していただいてありがたいということが1つと、脚注6につ いて、同じような趣旨かとも思うが、比較する対象として第1・十分位をなぜ取った か。これは前回までも申し上げてきていることだが、第3・五分位は一応平均値と考 えられるが、3人世帯の場合では第1・十分位の消費水準が平均値の7割に達してい るということを前提として比較する意味があるだろうと。前回の報告書の中でもそれ を前提として考えられてきたわけだが、今回、単身世帯については平均値の5割程度 である。   したがって、単身世帯について第1・十分位と比較することについては、本当にそ れが適切であるかどうかということについては、もう少し配慮が必要ではないか。幸 い、「留意する必要があるとの指摘があった」という形で、一応記載されているが、更 にそこを踏まえて、先ほど言われたように「過去の給付水準との比較も重要である」 と追加していただいたということでは、更にこの脚注の意味もより鮮明になるのでは ないかという意味でありがたいと思っている。 ○ 今の委員の御発言の趣旨がこの脚注から読み取れるかどうか。   ここは客観的に5割ということが書いてあるだけで、御発言の趣旨が分かるような 文面になっていないのではないか。 ○ 留意の中身がどの程度か分からないが、いずれにしてもそこに注意をして、これか らの検証、作業を進めてほしいという意味に取っていただければという意味で、ここ が妥協点ではないかと思った。 ○ 念のため確認であるが、この「過去の給付水準との比較」というのは、どういう意 味合いなのか、一度お伺いしたい。 ○ 経済学でいうところの相対所得仮説ということを考えたときに、他の人との相対的 な所得が重要であるのと同時に、過去の本人の所得との比較も重要だと。   要するに、習慣形成仮説ということから考えて、最低生存費は上昇しており、これ までの給付水準から引き下げる場合については、受給者の痛手も大きく、慎重でなけ ればならないということを含めて考えたということである。 ○ 「過去の」というのは、その本人の過去ということか。 ○ 給付水準ということである。 ○ そういった意味合いであれば、よろしいかと思う。この「過去」というのは、色々 な取り方があり、少し気になったので。 ○ そうすると「これまでの給付水準」の方が。   お二人の御意見は、いかがか。 ○ これで結構だと思う。 ○ 私もその趣旨には賛成する。法的にも具体的に既存の給付水準を引き下げるという 場合には、その受給権の権利性というか、その性格との関係であるが、当然に無条件 に引き下げられるとは考えられないので、そういう趣旨も込めてこういった文言が入 ることは賛成したいと思う。 ○ 最初か、2回目のときに、事務局から名目給付額の下方硬直性という話があったと 記憶している。この点について、経済学で考えるとどういうことかと考えたときに、 やはりこれは入れた方がいいのではないかということであって、ただ、ここの文面だ と、「指摘があった」となっている。ここをどういう扱いにすればいいのかということ については、例えば、「なお、これまでの給付水準との比較も考慮する必要がある」と はっきり書くというのも1つあるかと思うが、「意見もある」という程度で留めた方が いいのか。 ○ もし、それがこの検討会の全員の合意であるというのであれば、まさに今、言われ たような表現にしていただければと思うし、更にこの脚注の方も、この点についても この検討会としての合意があるのであれば、「留意する必要があるとの指摘があった」 というふうな少数意見という取り扱いではなくて、合意としてそうだと表記していた だければ、なお意味が強くなるのではないかと思う。 ○ これまでの議論からすると、指摘というよりも、一定の合意を見ていたのではない か。「必要がある」という記述の方がいいのではないかと考える。 ○ いかがか。 ○ それで結構である。 ○ よろしいか。 ○ 結構である。 ○ 事務局はどうか。 ● はい。 ○ まず本文の方は、「特段ないと考える。なお、これまでの給付水準との比較も考慮す る必要がある」というふうな文面に変えたいと思う。   脚注の6のところは、先ほど委員の御発言の趣旨が伝わるように、少し修文した方 がいいのではないかと思う。今のままでは、その背景がなかなか読み取れない。先ほ ど御指摘のあったように、第1・十分位のところについて、これまでは第3・五分位 の7割に達していた。だから、第1・十分位と比較することについて合意してきた。 この単身世帯については、それが5割に下がってしまうというところに留意する必要 があるということだろうと思うが、そういう文章に変えたらどうかと思うが。 ○ それで結構かと思うが、括弧書きの中も残すということでよろしいか。 ○ そうすると、どういう文章にすればよろしいか。「消費水準は、第3・五分位の7割 に達している」あるいは「夫婦子1人世帯の第1・十分位の消費水準は、第3・五分 位の7割に達していることから、これが採用され適当であると考えられてきた」とい うことでよろしいか。 ● 脚注であるし、「指摘があった」というところを「必要である」と直していただいた ので、それから議事録も公開されているので、ここで留めていただければと事務局と しては思う。その点、御考慮願いたい。 ○ ただ心配なのは、議事録は議事録であって、皆の目には触れるし、見ようと思えば 見られるが、やはり報告書だけがひとり歩きし、議事録は読まれないのではないかと いう懸念がある。やはりこの点は、報告書の本文に入れるべきだと考える。 ● 私どもの認識している限りで申し上げると、この第1・十分位という議論に関して は、今まで過去の社会福祉審議会あるいは社会保障審議会の前回の専門委員会でも議 論され、「適当」とされてきているが、この7割か、あるいは5割かということに関し ては、公式の文書として審議会の報告の中で、具体的に書かれているものはないので はないかと思う。   確かに議論の中では、7割といった議論があったかもしれないが、この7割になる のか5割になるのかというのは、それぞれの世帯の類型の所得であるとか、あるいは 消費の分布、そのばらつき具合であるとかによって変わってくるので、必ずしも固定 的にとらえるのがいいのかどうかといった点もあると認識している。   そういう点で、今回の場合も7割に達している。あるいは単身であれば5割、第1・ 五分位で見ると6割。これは現時点の客観的な事実ではあるけれども、これを固定的 に考えるのがいいのかどうかということに関しても議論があると思う。できれば、そ こまでの分析は今回できていないので、事実として達していることに留意をする。先 生方がおっしゃられたような趣旨で理解をしているので、文章としては「留意する必 要がある。」で留めていただきたい。御指摘のところは削っていただいて、「留意する 必要がある。」としていただけると、我々としても今の作業で至らないところもあっ たかもしれないが、これぐらいならいいのではないかと思っている。 ○ 要は、この6の脚注が何を意味するのかということが分かると、脚注としての価値 が出てくるのだろうと思う。事実はこうだと述べているだけだが、なぜこの脚注をつ けたのかということの意味合いが。 ○ 本文の「今回、これを変更する理由は特段ないと考える」。ここは文章として、はっ きりと押さえておいた方がいいと思う。問題は、6を本文中に入れるかどうかという ところで、入れるとすればどう入れれば収まりがいいのか考えているのだが、まず「一 方」というのではなくて、ここは「ただし」ということ。もしこのままにするとして も、少なくとも「一方」を削る。この点については、極めて押さえておかなければな らない事項であり、脚注にするにしても強く書いておくべきではないかと思う。   これは本文に入れた方がいいとは思うが、本文に入れるとすれば、文章全体の流れ から見るとなかなか適当な場所が見当たらない。 ○ こういう文案では如何か。脚注に置くということで、「一方」ではなくて「ただし」 という言葉を使って、「ただし、夫婦子1人世帯の第1・十分位の消費水準は、第3・ 五分位の7割に達していることから、これを基準にしてきた面もあるが、単身世帯に ついては、その割合が5割にとどまっている点に留意する必要がある。」。   ただ、これが事実かどうかというのは、重要なポイントなので。 ● 今までの審議会の中では、基準というまでの位置付けはされていなかったのではな いかと思う。これを考慮とか、何かもう少し議論の中で、そういう議論をしてきたと いうことではないかと認識している。 ○ これまでは夫婦子1人いわゆる3人世帯を比較の対象としてきており、それ以外の 世帯については初めてということもあるので、例えば、「ただし、これまで比較の対象 としてきた夫婦子1人世帯の消費水準は、7割に達しているが」というふうな感じに しておけば、それは間違いないことであるし、相当程度意味はつながるのではないか と思う。 ○ では、そのようにしたいと思うが、よろしいか。   ほかには。 ○ 内容のことではないが、3ページの「(3)報告書の位置づけ等」の3つ目の項目の 箇所。   「本報告書の評価・検証の結果を参考とされるよう期待するものである」という表 現があるが、「参考」をどのように解釈したらいいのかというのが1点。   2点目は、この検討会の報告と毎年行われている年次改定の関係について、説明い ただきたい。 ● 「参考」という言葉については、むしろ先生方の御議論をお願いしたいと思う。   後の方の御質問については、生活保護基準はこの報告書でも書かれているように、 昭和59年からいわゆる水準均衡方式で改定してきており、実際の保護基準は、経済状 況などによって改定を見送った年もあるけれども、基本は毎年の予算編成過程の中で 具体的に政府として決めてきた。   したがって、この検討会の有無にかかわらず、平成20年度の保護基準は今度の予 算編成の中で決めなければならない。そこで、報告書をまとめていただいたならば、 その報告書の評価・検証結果も踏まえさせていただいて、20年度の予算編成に反映 されるよう努力していきたいと思っている。   もう一点、付け加えなければならないのは、前回の専門委員会で5年に一度検証す る必要があると指摘され、この検証はこの検討会が初めて、言わば5年に一度定期的 に検証していく方式の第1回目であって、そういう意味では前例がないが、私どもは この検証はルール化していきたいと思っているので、例えばまた平成24年に同じよ うな検証が行われることになる。そういう5年に一度の検証をルール化するというこ とになると、5年に一度の基準設定は検証結果に基づいて決定をする。そういう形で 保護基準が見直される。   その間の4年間は一定の方式で、例えば平成20年度に保護基準が決定されたとする と、今度は21年、22年、23年、24年と水準均衡方式の下で、毎年毎年基準を設定し ていき、そうやって4年間伸ばしていった水準が、5年後の検証作業によって実態と 乖離していないか。経済状況が変わって、例えば地域の格差が拡大していないか。あ るいは年齢層によって消費の状況は変わっていないか。あるいは、今回の検証等を踏 まえて、20年版の保護基準の体系をつくったとして、それがよかったかどうかという ことを24年に検証することになろうかと思う。   結論から言うと、20年の生活保護基準の設定は、これは初めての経験であるので、 可能であればこの検証結果を踏まえた見直しをさせていただきたいと思っている。例 えば、就労インセンティブをもっと働かせるような改定という点についても、先生方 に御議論していただいたので、可能であれば、勤労控除という名称も含めて、何らか の改善ができないか。そういうことを報告書としてまとめていただければ、それを踏 まえて、チャレンジしてみたい。それが20年の生活保護基準の改定になると考えて いる。 ○ これは要するに、全国消費実態が5年に一度しか出ないので、こういう作業は5年 に一度しかできない。ところが、給付水準については年々改定されているということ で、今年この見直した結果を来年のものにそのまま反映させるのか。それとも、これ から5年間、要するに5年間検証できないわけであるから、その間にならしていくと いう方向でやっていくのかというのは、これは我々の問題ではなく、恐らく政治マタ ーの問題も含めて政策当局で考えてもらうことになってくるのだと思う。   例えば5年に一度というと、どうしても5年目に大きく段差ができる。4年目まで 少しずつ直してきてやってきたが、5年目はこうであった。だから、5年目に全部を 合わせるということになると、時系列的なスムージングが欠けてしまい、ある年は極 端に基準が変わるのではないかということは懸念材料だと思うので、そこは政策当局 で考えていただきたいと、一応意見だけ申し上げる。   もう一つのご質問の「参考」という言葉は、実は私が使った言葉でもある。私が責 任を負わなければいけない面があるのだが、どういう意味で使ったかというと、この 4ページの基本的な考え方を見ると、この水準自身がどう決められるのかということ については、様々な要因が考えられ、そして総合的に判断されていくものであるとい うことを書いている。   したがって、この検討会の作業というのは、5年に一度の消費実態調査が出たこと によって、いくつかの基準対象との比較を行っているにすぎないということである。   本来であれば、時系列的な動きであるとか、あるいは家計調査の話もあり、更には 諸々の所得格差の問題であるとか、そういった問題もあるが、そこまでは検証してお らず、この検討会の検証は、あくまでも1つの判断材料であるという意味で、「尊重 する」という言葉の代わりに、「参考」程度という言葉を使わせてもらった。これに ついて、御意見を伺いたい。 ● 是非今の点は、先生方に御議論いただきたい。   前段の御指摘のあった問題であるが、確かにこの定期的な見直しをするということ の第1回目、これが本当に第1回目である。そういった意味では、昭和59年以来、い ろいろ途中経過はあるが、水準均衡方式で、基本的には一定の方式で伸ばしてきて、 今回初めて検証が行われたが、そのタイムスパンが二十数年間あることになる。   今後、5年に一度が大事だと考えているのは、そういう二十数年間ということでは なくて、5年ごとに定点観測することにより、私どもの希望とすれば、次回以降は大 きな段差が生じるような事態にならないのではないか。またそういうことを期待して、 前回の専門委員会でも、少なくとも5年に一度は検証するということを御指摘いただ いたと思っている。勿論、具体的な基準設定に当たっては、スムーズにいくというこ とを配慮しなければならないというのは御指摘のとおりだと思っている。 ○ まず、今の水準を決めるのは我々の役割ではないので、それはあくまでも意見にす ぎないということで、何かあれば。 ○ 基準の設定は厚生労働省の専管であるということを前提に、「参考」というのは、別 の言い方をすると、どの程度の拘束力があると我々は考えればいいのか。5年に一度 検証する方式を支持する、要するに「5年ルールを守りましょう」ということの「参 考」という意味なのか。 ○ この中身というよりも評価方法ということか。 ○ 要するに形式的な話であるが。 ○ 5年に一度の評価についてこの検討会で行ったが、それを今後も続けていくという メッセージがこの「参考」という言葉に織り込まれているのかという御質問だと思う が、それでよろしいか。 ○ 結構である。 ○ そのことも含めて。 ● 先ほども申し上げたように、私どもは当然、前回の専門委員会で御指摘があった「5 年に一度、データが得られたら検証」ということを重く受け止めて、それで先生方に 御足労願って今回検証しているわけであり、生活保護行政としては、是非5年に一度 検証するということをルール化し、それに拘束されたいと思っている。   したがって、もし20年度、これを参考にしてある基準を決めたとして、また勿論毎 年毎年の経済状況を反映させてその基準を従来と同じように毎年毎年予算の設定をす るときに、5年に1回しか変えないなどとは思っていないし、その間に狂乱物価でも あれば、年に何回も変えなければならない。そういうことを望んでいるわけではない が、そういうこともあり得る。   そこのところは、まさに5年に一度というのを固定的に考えるわけではないが、た だ検証作業というのは、生活保護は本当に社会保障制度の一番の基本であり、基準点 のようなものであるので、その基準について客観的に得られるデータによって検証し ていくということは必要だと思う。今回が初回で、是非5年後もやる。また10年後 もやる。そういう形で竹に節目がつくように、5年ごとに生活保護行政の節目で基準 というものについては検証していく。   勿論、全国消費実態調査以外に検証材料があれば、5年後の検証は更に進んだ形に なるだろうし、そういう点についてはまた先生方の御指導もいただきたい。今回に限 らず考えている次第である。 ○ ただ、この決定は、これもまた我々ではなくて、1ページの3つ目の項目にはっき り書かれている。   社会保障審議会福祉部会に設けられた生活保護制度の在り方に関する専門委員会 がとりまとめた報告書で、全国消費実態等を基に5年に一度の頻度で検証を行う必要 があるということを決定している。これに従って今回やっているのであり、これは「5 年後にやる」ということではなくて、「5年ごとにやる」と書いてあるので、その後 も継続されていくという、これは、今回我々がこの報告書の中で縛るわけではない。 ○ 5年に一度検証をしていただくことは、非常にありがたいことだと思っている。   その上で、今回10月、11月と非常に精力的に貴重なデータを出していただき、そ れで検討させていただいたが、この検討内容的には、やはり2か月という期間で集中 的に審議するというのは、委員もそうであるが、物理的に非常に厳しい状況になるこ とから、もう少しスパンを長めに取ってやっていただくということも、これは今後の ことであるが是非お願いしたい。 ○ これは要望ということで、よろしくお願いしたい。 ○ 総括的な意見でもよろしいか。 ○ どうぞ。 ○ 1つは、要望になるかもしれないが、やはり生活保護基準というのは、そのときど きの社会経済状況、あるいは生活保護行政と財務当局との関係、あるいは国民一般と 受給者との関係とか、いろんな意味でのバランスの上に成立しているのだと思う。こ こでは社会通念という言い方もされているが、そういうふうな中で、先人たちがまさ に知恵を出し合って汗をかきながらつくってきた、その成果として現在の基準がある のだと思う。   だから、国民の最低生活を保障し、自立の助長を確保するために、生活保護の8つ の扶助が、全体として、総体として、制度を形作っているということは言うまでもな いことだと思う。   したがって、いわゆるその骨格をなしている柱の部分というのは、勿論個々に検証 していくことも大事であるが、1つのところだけを検証して、まさに木だけを見て森 全体を見ないということになると、これは非常に問題があるのではないか。   いわゆる骨格以外のもの、語弊があるかもしれないが、例えば老齢加算のように、 場合によっては政治的な配慮の下につくられた部分とか、あるいは消費税が導入され たときなどに低所得者対策としてつくられた一時的な手当的なものとか、いわゆるプ ラスαの部分はともかくとして、骨格の部分については、例えば生活扶助という部分 だけではなく、1つの部分を見直すときには、やはり制度の全体を、総体として見な がら見直していくという姿勢が、今後とも必要になるのではないかと思う。   いずれにしても、この生活保護制度は国民にとっては安心を、社会にとっては安定 を保障するもので、いろんな意味でコモンセンスの上に成立しているものだと思うの で、国民の合意を得られるような仕組みや、考え方がとても大事だろうと思う。今回 の検証というものも、合意を形成するための1つの試みとしてあるのであって、それ で合意が得られるのであればそれでいい。   合意を得るための材料というのは、色々なものがあり得るだろうと思うが、その意 味で、この全消の結果をこのような形で検証することに国民の合意が得られるという 趣旨であれば、それはそれでとてもいいことだと思う。更に、検証には透明性が非常 に必要だと思うが、その意味で、今回の検討会が公開であること、恐らくこれだけ基 準の内容について公開されるのは初めてだと思うが、この公開性を今後とも続けてい ただくことは、とても大事なことではないかと思う。   本日もある有力なマスコミから、いわゆる基準の削減を前提とするということで、 今回のこの検討会の性格のようなものが報道されていたが、決してそうではないとい うことが、本日のこの報告書の冒頭に、純粋に客観的な立場でこの検討がなされてい るということが改めて書かれているということも、とてもいい記述をしていただいた と思う。総括的になるが、感想を述べさせていただいた。 ○ 最後にお一人ずつ感想をお求めするので、またそのときよろしくお願いしたい。 ○ また総括から若干。 ○ どうぞ。 ○ 事前に指摘し漏れた部分と、また少し表現が変わっている部分があるので、かなり 形式な部分が多いが、3点。   これは御提案というか、1ページの最初の項目の1行目で「健康で文化的な最低限 度の生活」とあるが、この前、生活保護法だけの話ではなくて、憲法25条から直接出 てきている制度でもあるので、「憲法25条1項で保障された健康で文化的な最低限度 の生活」という文言を、要するに、憲法上も密接な関わりを持った制度であるという 一言を入れていただくことが可能かどうかということが1点。   次に、これは意味の確認であるが、10ページの「勤労意欲に関する議論の整理」 の2つ目の項目の最後の行で「勤労控除により給付額が引き上がる」とあるが、保護 支給額自体が増えていくというのではないのではないか。「全体として手元に残る額 が」ということだと思うので、表現がやや誤解を招きかねないのではないかという印 象を持った。ここは表現を変えられた方がいいかもしれない。 ● 「勤労控除により手元に残る金額が引き上がる」と直せばよろしいか。 ○ そういうふうな表現の方が誤解を招かないのではないかと思う。   その次の3つ目の項目で、これは「てにをは」の話であるが。 ● ただ、ここは、勤労控除が増えることによって、要するに収入認定される額が減り、 その分給付額が上がるという意味の記述である。 ● 事務局としては、勿論手元に残る額も結果的に増えるけれども、給付額自体も増え るという趣旨で、ここは書かせていただいた。 ○ では、結構である。 ○ 給付額でよろしいか。 ○ はい。 ○ では元に戻って。 ○ その次の3つ目の項目であるが、これは文章が1つになっているが「また」の前段 と後段では別の議論になっているので、「脱却しにくくなる側面がある。他方」といっ た書き方の方がよろしいのではないかと思う。   もう一点よろしいか。 ○ はい、どうぞ。 ○ 8ページの(エ)の3つ目の項目の3行目。「また、要保護者の保護の基準という点 では」というのは、この「要保護者」というところに力点がある。要保護者という個 人というか。そういう意味合いだととらえてよろしいか。 ● まさに先生に御議論いただいた保護の基準の設定のところに関連しているので、そ ういうことである。 ○ それはそうだと思っているが、これを読んだ一般の方は、果たしてそういう文脈で とらえるだろうかと若干思ったもので、この表現でもいいが、「保護の基礎的単位とし ての要保護者に係る」、あるいは「要保護者についての保護基準」。正確に言うとそう いう意味合いになるのか。 ● 正確にはそうだろうと思うが、例えば「要保護者の保護の基準の設定」といった言 葉を補うと、法律の条文のイメージが沸くのではないかと思うのだが。「基準の設定」 とかでよろしければ。 ○ よろしいか。 ○ はい。 ○ では、そのとおりに。 ○ 本文についてのコメントではないが、先ほどもお話しがあったように、5年に一度 検証を行うということについては、今回が初めてだった。これは確認というか、議事 に残しておくべきだろうと思ったので確認させてもらいたい。   今回分析をした結果がこの資料に入っているわけだが、分析のやり方については、 今回はこういう形で行ったが、幾つかの仮定もこの中には入っている。これは研究者 の責任でもある。まだ研究の知見がはっきりしない部分もあるので、今後、5年に一 度このデータを使って検証を行う際には、より学問的な調査の蓄積を踏まえて、より 精緻な検証を行っていく必要があると思う。   例えば、貯蓄の扱いについては、ある一定の過程で所得分けをしており、貯蓄をど のように考えるべきなのかということは、我々の研究の中でも、遺産の問題などはっ きりしない部分もあり、今回こういう方法を取ったのは現時点では仕方がないと思う が、今回この方法で検証したからといって、今後もずっとこの方法で検証していくの ではなく、これは学問的な意味でも、今後、より研究の蓄積を踏まえて、より精緻化 された形で見ておいた方がいいということである。 ○ この報告書の後のプロセスについてであるが、これまでは社会保障審議会に部会な り専門委員会なりが設置されて、そこでいろんな議論をし、最終決定というプロセス を踏んできたと思う。今回、それはどうなるのか。要は、審議会であれば、まさに任 命されてそれなりの守秘義務であるとかそういったものが課された上で検討する。   我々は今まで守秘義務を守っているが、その上で、権限というのはもしかしたら与 えられていないのではないか。「検討する」ということについては与えられているが、 このところは、この後どうなっていくのか。今までのプロセスを変える、5年に一度 の検証が初めて導入されたというのは分かるが、審議会の審議などが今後必要になる と考えるが、そのところはどう考えているのか。 ● 先ほども申し上げたように、生活保護基準については、これまでエンゲル方式や、 水準均衡方式といった方式を政府として考えながら、その方式に従って生活保護の水 準、基準を毎年毎年予算編成の過程で決めてきた。それは1年間の経済変動に対応す るという側面もあったが、そうしてきた。   全消のデータを基に検証し、基準を決定するということは、とにかく政府としても 初めての方法であるので、その検証を政府だけで行うのではなくて、公開した形で、 また、有識者の先生方に御参加いただき、検討・検証していただいたというのが、今 回の位置づけである。   今回いただいた検証結果を踏まえて、行政内部としては、厚生労働大臣以下に報告 をして、予算編成作業にも向かうとともに、これから政府内でもこの扱いについて相 談していきたいと思っている。この先は、私どもの責任でやらせていただきたい。そ れが1点。   2つ目は、この5年に一度の検証は、今回初めてのことであり、言わば通例、ルー ルが全くなかったということで、先生方には、そういった意味で大変重いお仕事をや っていただいている。   次回の検証については、当然、今回の検証よりももっと、期間もこれから5年間あ るわけであり、準備もできると思う。同じ全国消費実態調査を使うにしても、今回御 指摘いただいた足りない点や、データについて、次回に特別集計するときには、そう いったデータも取れるような特別集計をするとか、同じ材料を使っても2回目の検証 はできると思うし、より次の検証に当たってどういう体制でやっていけばいいのかと いうことも、もっと幅広に、前広に作業できると思う。今回は初めてのことなので、 先生方に、時間的な面も含めて、大変御負担をかけたけれども、次回の検証はそうい うような形でやっていくことになると思う。   また、審議会との関係については、今回の検証は、本当に客観的なデータ検証であ り、そこの点は前回の専門委員会でそういうルールも提言されているので、それを踏 まえて、言わば専門的、客観的な立場から検証していただいたと考えている。   まさに生活保護制度全体を見直す、例えば8つある扶助を大幅に変えるとか、例え ば医療扶助を医療保険制度の方に委ねるとか、そういう大幅な制度改正をするとか、 あるいは生活保護等の国と地方の関係を見直すというような場合には、それぞれ事柄 に応じて国民健康保険の保険者であるという意味で市町村や知事会や、あるいは保護 の実施機関である市長会などとの調整も必要になると思うし、制度改正になれば社会 福祉審議会、社会保障審議会の中の福祉部会にも御相談していくことになろうかと思 うが、今回は基準の検証のお話であり、私どもはこの検討会にお願いしたという経過 である。 ○ 我々もできる限り、今まで個人的に蓄積したまさにアカデミックな視点から、この 検証に参加させていただいたが、少なくとも国民の代表かということになると、果た してそうだろうかという疑念を持つ。   労働の分野であれば、審議会の場合には、あくまでも国民の代表としてその場で審 議をし、多くの場合は大臣から諮問を受け、答申をするという形を取るわけであるが、 生活保護の分野は初めてなので、今回、これは社会保障審議会の方にはどのような形 で諮られていくのか。 ● 私どもは予算編成作業で決められたことが、言わば国民的な統制という意味では、 予算の審議ということでまさに国会で御審議していただいていると認識している。   例えば、労働法制の場合は3者構成で行われるとか、医療費の場合は診療側と支払 い側と中立側とあって行われるという、そういう言わば交渉モデルで意思決定をして いる部分もあろうかと思う。   生活保護の給付費の基準の設定については、厚生労働大臣の責任において行うもの であり、それを国民的に問うということは、政府として、予算編成作業を通じて、国 会にかけて、国会の審議の中で毎年統制を受けているという考え方でやっている。毎 年の保護基準もそういう形である。そういう形で私どもは考えている。 ○ その点、我々は広い意味での政策まで考慮に入れてこういう検証を望んでいるわけ ではなくて、あくまでも消費実態との比較というところで今回はそこに限定してやっ ているということであるので、先ほどの「参考」というのも、そういう限定付きのも のであることを明確にしておくためにも、明記したいと思う。 ○ まずは、これでいいかどうかを締めないといけないが。   細かい点で申し上げると、8ページの一番下の行が、他のところでは「評価・検証」 という順番になっているが、ここは「検証・評価」となっている。本当は「検証・評 価」ではないかとも思っていたが、これはどちらかに統一した方が。 ● 他が「評価・検証」なので、「評価・検証」でよろしければ。 ○ 統一していただいて。 ● では、8ページのところは「評価・検証」にさせていただきたい。 ○ これで修文も含めて、もしかしたら何か後で言葉の上でおかしいものが出てくるか もしれないが、それはまだペンディングとして残すという余地だけは残して、本検討 会の報告書にしたいと考えるが、よろしいか。  (「はい」と声あり) ○ では、そのようにさせていただきたい。   それでは、最後に委員の皆様から一言ずつ、順次お願いしたい。 ○ 生活扶助基準の検証を5年に一度ということで、私は生活保護の在り方に関する検 討委員会の委員でもあったので、こういう形で実行されたということは非常に喜ばし いことだと考えている。   その上で、水準均衡方式を基本的に支持して、その検証を行ったが、これは、マー ケットバスケット方式のような、要するに絶対的な貧困を計る尺度から、相対的な貧 困を計る水準均衡方式に移行することによって、水準の大幅な引き上げが行われた。 それを支持するということである。   マーケットバスケット方式は栄養所要量がベースになっているため、社会的、文化 的費用が十分でなく、非常に低い水準になっていたという点に限界があり、それを見 直すということで水準均衡方式に移行したということは、積極的に評価してもいいと 思う。   これはある意味では、不平等のアプローチであり、所得の分布がどうなっているか ということを尺度化していき、そこで一定層は貧困層として規定しようという考え方 であるが、「不平等」と「貧困」というのは意味が違う。「不平等」の中で社会的、文 化的に容認できないものを「貧困」とするならば、絶対的な尺度、もっと言うと社会 規範に則った基準、これは社会通念とイコールかどうか分からないが、そういう観点 の欠如が水準均衡方式の1つの限界でもあるということで、今後の算定方式の中では、 そういう相対化した問題と、もう一つは絶対化した視点というものが、この生活保護 の、とりわけ生活扶助基準にとっては必要であるということを、初回から今回の最後 まで言い続けてきた。   そういう考え方は、この検討会報告書の4ページの「(2)生活扶助基準の水準」 の「基本的な考え方」のところで、私の考え方も少し入れていただいて、かつ、それ に対する評価についても、水準均衡方式を維持していくことのポイント付けも入れて いただいた。   しかしながら、これはあくまでもかつての基準の算定方式に基づいた議論であって、 理論生計費と言われているマーケットバスケット方式の修正版は考えられないのか、 あるいは水準均衡方式において、絶対的貧困という概念を尺度化することはできない のかどうかということは、今後、生活扶助基準を検討するときの問題提起とさせてい ただきたい。   生活保護制度というのは、国民生活の根底をなす基幹のものを決める尺度でもあり、 生活保護基準というのはある意味では社会保障の中で最も大事な制度だと考えてい る。   そういう位置付けを、より政府の中で明確に位置づけていただくために、5年に一 度いろんな角度から検討すると同時に、生活保護について検討する場というものを常 設で設けていただきたいというのが私の希望である。中央社会福祉審議会の中の生活 保護の分科会、その中である程度基準の問題であるとか、運用の問題であるとか、い ろいろ論議する場があった。保険と扶助とで一体化して国民生活を守るということに なったときに、やはり扶助も底支えしているということを、組織的にも明確に置くべ きではないかというのが私の考え方なので、保険は非常に大事な制度だけれども、や はり扶助についても、是非常設のものを置いていただきたい。これはあくまでも要望 という形でお話しさせていただいた。   水準均衡方式においては、特に相対的貧困の問題が出てきたのは、1960年代に、 例えばアメリカやイギリスのワーキングプアの問題が前提になって、旧来の方式、ロ ントリーのような絶対的・生理的(生物学的)貧困では、ワーキングプアの問題はカ バーできない。それを要するに相対化してとらえようという考え方が背景にあって、 この相対的貧困というのは言われてきたかと思う。   そういう意味でいくと、水準均衡方式もワーキングプアをカバーする、あるいはワ ーキングプアではない人たちもカバーするような制度的な組み立てということも考 えていかなければいけないのではないかと思っている。   勉強させていただき、有意な、かつ、事務局から丁寧な指示を出していただき、私 にとっては非常によい時間を過ごすことができた。ここに御礼を申し上げたい。 ○ この検討会の性格というか、自分の立ち位置や、正当性ということをずっと考えな がらやってきた部分がある。私としては、今回のデータの検証という範囲内で、自分 の勉強したことの中で何か発言できることがあればと思って、そういうスタンスでや ってきたつもりである。生活保護全体の在り方、あるいは社会保障全体の在り方につ いては、思う部分もあるが、あくまで今回のテーマとの関係で発言させていただいた。   今後、この報告書の扱いがどうなるのか先ほども議論があったが、それはそれとし て、研究者としての立場から申し上げると、今までこういった客観的なデータがない 中で、この保護基準の改定が行われてきたという部分があり、そういう意味では、非 常に画期的な、今回このデータの提示であり、また今回の検討会であったと思ってい る。   私も法学研究者としては、個別の紛争事案や裁判事案との関係で、これは健康で文 化的な最低限度の生活水準に達しているとか達していないという議論は割としやす いが、全体として憲法で書いている基準というのは、具体的に何なのかという議論は、 正直なところ少なくとも私はしてこなかった、できなかったので、そういった意味で は、厚生労働省側としても、今後検証をより充実させていただきたいと思うが、我々 研究者も今回お出しいただいたものをベースにして色々と議論していければと思う。 そういった意味でも、そのベースになるものを御提示いただいたという意味では、非 常に有意義だったのではないかと思っている。   最後に、生活保護というのはやはり社会保障制度の要であり、いろんな制度とも関 係してくる。ただ、これまでの私の経験からも、なかなか全体を議論する場がなく、 そういう意味で社会保障制度審議会がなくなったという意味は非常に大きいと感じ ている。社会保障審議会はあるけれども、何らかの形で恒常的に、大局的見地から生 活保護も含めた社会保障の在り方を議論できる場があればいいという思いはある。今 回の検討会とは関係ない話であるが、今回やらせていただいて、なおさらそう思った 次第である。   いろいろ勉強させていただいた。 ○ 委員としての立場と、研究者としての見方と、2つお話しさせていただきたいと思 う。   1つは、3ページにあるように生活保護の生活保扶助基準というのは、戦後、高度 経済成長期、安定経済成長期という、そのときの経済状況に合わせて適宜検証されて きたが、今回初めて少子高齢化社会で、低成長期における水準の評価が行われ、そこ に参加できたことは、非常に勉強になったと思う。   また、非常に国民全体に関わるテーマであるので、非常に慎重にかなり精神的にも 気を配って議論をしたつもりである。今後も、この少子高齢化社会、低成長期という のは続くだろうと思うので、この第1・十分位の基準が持つ意味、これがどの程度の 水準なのかということを客観的かつ慎重に、今後も検証していく必要があろうと思う。   研究者として、この生活扶助の制度は今回議論したけれども、他の扶助との整合性 や控除、あるいは自立支援制度との整合性、最低賃金との整合性、あるいは年金も含 めて社会保障全体から見て、この制度は整合性があって、価値のある制度であるとい うことになるよう、政府には所得保証政策の不断の見直しを期待している。 ○ 先ほど先走って感想を二、三申し上げたので、それを最後の感想ということに。   ただ、あと1点だけ。   確認的なことであるが、やはり生活保護制度というのはとても大事な、本当に大事 な仕組みでもあるので、やはり健全な常識というか、ここでいう社会通念、コモンセ ンスというのはとても大事だと思う。   そのコモンセンスを、健全な常識を培う上にも、やはり透明性というか、国民の合 意をいかに得るのか。そしてそれはこの基準の設定だけではなくて、もう一つ、今後 の生活保護制度の運用の面においても、とても大事な部分があるだろうと思う。   最近、マスコミにいろいろな話題が出てきているが、やはり運用における健全な常 識性を確保する上からも、国民全体に見守っていただくような仕組みの中でいろいろ な適正化を図っていくということはとても大事だと思う。その第一歩としても、今回、 こういうふうな形で多くの方々に関心を持たれながら、公開の場で検討が行われたと いうことは、とてもいいことだと思っている。   私自身も、常に色々な意味で注目された中で検討・発言を行ってきた。それについ ては、私自身の度胸を試すいい参考になった。 ○ それでは、私からも一言申し上げたい。個人的感想ということで、締めくくらせて いただきたいと思う。   今回の検討会のミッションが何であったかということを考えると、報告書の1ペー ジ目にも書いてあるように、全国消費実態調査が5年に一度調査され発表される。そ のマイクロデータが利用可能になったということを受けて、客観的に現在の制度につ いて検討するというようなことがあったと思う。   これまでの審議会においても、水準均衡方式がとられ、また生活扶助基準額とい うのは、第1・十分位の消費水準との比較ということで、今回も主にこの方式によっ て検討がなされてきた。   これまでの議論も踏まえて、あるいは事務局における大変な作業もあって、1つの 目的であった透明性を持って、客観的に分析を行っていくということについては、ほ ぼ達成したのではないかと考えている。   しかし、報告書にも織り込んでいただいたが、個人的には、相対的評価というのは、 やはり一般国民の消費支出との相対評価という、いわゆる水準均衡方式というものも あるが、同時に本人の過去の水準、給付水準との相対的な評価というのもある。   経済学をやっている者にとっては、特に消費理論のところでは、こういったものは 非常に重要である。相対所得仮説というと何を意味するのかといったら、今の2つの 考え方があるのだということをずっと研究してきたし、特に過去の所得に応じて、消 費に対する習慣といったものが形成されていく。そうなると、同じ給付額であっても、 それは従来から下げられた給付額であるのか、それとも上がってきた給付額であるの かということによって、実は消費の必要性、すなわち最低生活費というものも大きく 左右されるということが議論になり、実証されてきた。   したがって、例えば給付額を引き下げるというようなことになった場合に、やはり 当人にとっての痛手というのは相当なものであろうということが考えられるので、こ の点については、やはり慎重に検討していくことが必要ではないか思っている。   本来、生活保護基準というのは、個人的には我々の今回の報告というものも1つの 参考資料として見ていただきたいと思うが、やはり政策的に、総合的に決定されるべ きものだろうと考えている。   今朝の新聞でも、一部には、検討会は給付水準の引き下げを容認したというような 表現で報じられているところもあるが、別にこれは容認するも何もなく、我々はあく までも客観的に現状がどうなっているかということを検証しているのであって、比較 基準の取り方によって結論も変わり、また本文中にも「これまでの給付水準との比較 も考慮する必要がある」と明記されたところであり、基準の決定については、それは 政策、あるいは行政当局がするものだと考えている。その点については再度確認させ ていただきたい。   繰り返しとなるが、生活保護基準は、政策全体との関連、これは他省庁との関係と いうものも含めた上で、また、成長力底上げについても現在議論されているところで あり、あるいは格差の議論も政策マターとして上がってきているわけであるから、そ ういったことまで含めて、総合的、政治的に判断されていくべきものだと思っている。 この点については、私どもがこの検討会で判断するわけではなくて、行政当局で御判 断いただきたいと思っているので、よろしくお願いしたい。   いずれにしても、この検討会に課された私どものミッションについては、十分検討 を尽くしたと思っているので、私からも御礼を事務局に対して申し上げたい。  (事務局より御礼のあいさつ) ○ それでは、以上をもって「生活扶助基準に関する検討会」を終了させていただきた い。 (了) 【照会先】 〔生活扶助基準に関する検討会事務局〕   厚生労働省社会・援護局保護課   TEL 03-5253-1111(内線2827)